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京大東アジアセンターニュースレター 第411号
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京大東アジアセンターニュースレター (2012), 411
2012-03-26
http://hdl.handle.net/2433/154613
Right
Type
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Others
publisher
Kyoto University
京大東アジアセンターニュースレター
京都大学経済学研究科東アジア経済研究センター
第 411 号
2012 年 3 月 26 日
目次
========================================================================
○ 退任のご挨拶
○ 中国経済研究会のお知らせ
○ 読後雑感 : 2012年 第9回
○ チャイナ・インサイドウオッチ : 2012年 3月
○ 【中国経済最新統計】
退任のご挨拶
東アジア経済研究センター長 劉徳強
初春の候、益々ご清栄のこととお慶びを申し上げます。
さて、この度、私は任期満了に伴いまして、3月31日をもちましてセンター長を退任することになりました。在任中、
八木元研究科長や田中研究科長をはじめとする経済学研究科の教職員の方々、また、本センター運営委員の先生
方、そして、森瀬会長や大森副会長をはじめとする本センター協力会の方々から多大なるご指導とご協力をいただき
ましたことに深く御礼を申し上げます。
私が上海センター長に就任する前の2008年に、大学の予算削減の影響を受けて、本センターへの総長裁量経費
が中断されたため、本センターの活動は協力会の資金に大きく依存することになりました。しかし、同年に生じた世界
的な金融危機の影響により、多くの協力会法人会員及び個人会員の方々が退会されたため、本センターはまさに存
亡の危機に直面することになりました。こうした中で、大森副会長の懸命なご努力により、会員の退会を最小限に食い
止められたこと、また、森瀬会長や小島理事、宇野理事のご尽力により、本センターの活動は何とか従来通り展開す
ることができるようになりました。このように、本センターが今日まで存続できたのは、協力会の方々のお力によるところ
が極めて大きく、ここで改めて感謝の意を表したいと思います。皆さんのご厚意やご期待に応えるために、本センター
は運営委員の先生方のご協力の下で、活動の合理化や経費削減を徹底的に行いながら、会員サービスの充実を図
ってきました。ただし、様々な制約により、会員の皆様に対してサービスを十分提供できなかったのが心残りですので、
今後の改善に期待したいと思います。
最後に私事ですが、今年4月から従来の経済学研究科での教育研究活動に加え、地球環境学堂での教育研究
活動も担当することになりました。今後も引き続き中国経済、とりわけ中国の持続可能な発展について研究していきま
すので、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。また、2008年7月以降担当してきたニュースレターの編集も
今月をもって他の方と交替することになりますが、引き続きニュースレターをご愛読いただければ幸いです。どうぞよろ
しくお願い申し上げます。
以上
************************************************************************************************
「中国経済研究会」のお知らせ
2012年度第1回(通算第25回)の中国経済研究会は下記の要領で開催することになりましたので、大勢の方のご参
加をお待ちしております。
記
時 間: 2012年4月17日(火) 16:30-18:00
場 所: 京都大学吉田キャンパス・法経済学部東館・地下1階みずほホール
報告者: 範雲涛(亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科教授)
1
テーマ:「中国 WTO 加盟十周年の総検証:グローバル化とコンプライアンスの相乗効果」
講師略歴:
1963 年、上海市生まれ。84 年、上海復旦大学外国語学部日本文学科卒業。85 年、文部省招聘国費留学生と
して京都大学法学部に留学。92 年、同大学大学院博士課程修了。その後、助手を経て同大学法学部より法学
博士号を取得。東京あさひ法律事務所、ベーカー&マッケンジー東京青山法律事務所に国際弁護士として勤
務後、上海に帰国し、日系企業の「駆け込み寺」となる。現在、亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究
科教授、上海対外貿易学院 WTO 研究教育学院客員教授などを務める傍ら、上海朝陽総合法律事務所パート
ナー弁護士。日中関係や日中経済論、国際ビジネス法務について、理論と現場の両方に精通した第一人者と
して知られる。著書に、
『中国ビジネスの法務戦略』
(日本評論社)、
『やっぱり危ない! 中国ビジネスの罠』
(講談社)などがある。
注:本研究会は原則として授業期間中の毎月第3火曜日に行います。2012年度における開催(予定)日は以下の通りです。
前期:4月17日(火)、 5月15日(火)、 6月19日(火)、7月17日(火)
後期:10月16日(火)、11月20日(火)、12月18日(火)、1月15日(火)
(この件に関するお問い合わせは劉徳強([email protected])までお願いします。なお、研究会終了後、有志による懇親会が予定さ
れています。)
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読後雑感 : 2012年 第9回
19.MAR.12
中小企業家同友会上海倶楽部代表
東アジアセンター外部研究員(協力会理事)
小島正憲
1.「龍のかぎ爪 康生 上・下」
2.「神の子 洪秀全」
3.「チャイナ・ナイン」
4.「中国人の正体」
1.「龍のかぎ爪 康生 上・下」 ジョン・バイロン、ロバート・パック共著 岩波書店 12月16日
帯の言葉 上 : 「中国共産主義の暗黒面を象徴する“悪の天才”康生の評伝」
下 : 「現代中国の暴力の根源“抑圧と管理”のシステム-創設者の実像」
私の心は、この本を読み進めて行くうちに、次第に陰鬱な気持ちに包まれていった。この本には、若いころ憧れて
いた中国革命の英雄たちの康生との暗闘を詳細に描いており、私の中にわずかに残っていた英雄たちへの幻想を、
次々と打ち砕いて行ったからである。それでも私は我慢して、これを最後まで読み通した。そしてこの希代の奸雄の康
生が、死んだときには共産党の副主席として毛沢東、周恩来に次ぐ序列第3位にまで上り詰めていたにもかかわらず、
現代中国で、毛沢東、朱徳、周恩来、鄧小平らのように、英雄として讃えられてはいないことに、いささかの安堵感を
覚えた。
この本の原著は、20年前に出版されている。その中で著者が書いていることは、現在にも十分通用する。著者は、
「権力欲につき動かされた康生は、自分の野心以外には関心を持たなかった。このような男がここまで高く出世したと
いうことは、やはり時代の産物である。康生の才能は、戦争、革命、クーデター、貧困、火災の溢れる時代に開花した
のだ。しかし歴史上に刻まれた康生のイメージは、単に混乱に乗じて高い地位を射止めた裏切り者、倫理を持たない
者というにとどまらない。康生の“成功”は、運だけでなくはなく別の能力、すなわち中国社会の裏の力を操る術を心
得ていたことに帰結する」と書いている。
さらに、「康生と現在の中国の指導者との違いは、単に程度の問題に過ぎない。鄧小平たちは権力欲において康
生よりも穏やかであり、建設的でもある。康生の見せた残虐性や裏切りへの衝動を、抑制する努力をしている。しかし
結局は、彼らも古代中国の方法に捕らわれたマルクス主義的指導者なのであって、康生と同根である。彼らのいう社
会主義とは、中央集権的独裁的な皇帝権力への欲望を切り捨てられない、近代の代用品に過ぎず、彼らを中央集権
的な絶対権力への欲望から解放することはないのだ。プロパガンダというカーテンの向こうで、彼らは“快適な生活”を
楽しんでいる。人民は入れない特権的な店で買い物をし、リムジンに乗るときは窓に黒い隠し布を貼り、贅沢な自宅
は高い壁で守られている」、「中国のエリート主義、それは追従をこととする従者を従えた卓越した指導者を好み、そ
の指導者は己の夢や欲望のために国民の利益を犠牲にし、民主的形態を狡猾な大衆搾取に劣化させてしまう。この
ような中国のエリート主義の全ては変化していない。暴君と混乱とを生む種が、中国文化の土壌のごく表層に眠って
いる」と、書いている。
しかも著者は、それは中国に限ったことではなく、「万国共通の悪夢」と言い切り、そしてその言葉で、この本を締め
くくっている。「もっとも過去の亡霊に屈してしまう危険は、中国だけのことではない。全ての社会が歴史の墓場である
集合的記憶の亡霊に取り憑かれている。原始的なもの、野蛮なもの、悪魔的なものへと回帰する誘惑には、あらゆる
2
場所のあらゆる人々が警戒を怠ってはならない。平和と繁栄の時代には、全体主義の誘惑に抗することは易しい。だ
がひとたび後退や災害が起こると、あらゆる文化に存在しているニヒリズムというセイレン(美しい歌声で船乗りを誘惑
し、船を難破させた美女・ギリシャ神話)の歌が、魅力的に聞こえてしまうのだ。そうした背景に照らしてみると、康生と
はわれわれが記憶の中から消そうと永遠に戦っている(すくなくとも折り合いをつけようとしている)万国共通の悪夢そ
のものなのではなかろうか」
これは、「失われた20年」で意気消沈し、大災害に見舞われている現代日本人が、まさに拳々服膺すべき文章だと
考える。今こそ日本人は、「傑出したリーダーを待望する」のではなく、国民すべてが「リーダーの回り持ち」を行うぐら
いの決意で、「万国共通の悪夢」を振り払い、国難を乗り切らなければならないと考える。
2.「神の子 洪秀全」 ジョナサン・D・スペンス著 佐藤公彦著 慶應義塾大学出版会 12月26日
副題 : 「その太平天国の建設と滅亡」
帯の言葉 : 「プロテスタンティズムと中国の出会いが、一人の男に上帝を幻視させた。
かれの千年王国の追求は、厖大な人々を死へと導く。 太平天国研究の決定版」
この本は、邦訳本という制限もあるのか、いささか冗漫で読みづらかった。しかもこの本は、学術書でもなく、小説で
もない。この500ページに及ぶ大著を、小さな活字を追って読みこなしていくことは、私には辛い作業であった。途中
でなんども挫折しかけたが、1か月ほどを費やして、やっと最後まで辿り着くことができた。そのような次第なので、十分
に咀嚼できておらす、この読後雑感は私の独断と偏見の嫌いが強いものとなっていると思う。それでも著者の佐藤公
彦氏の貴重な努力の結果を、ぜひ読者各位にお知らせしたいと思い、あえてここに書かせていただく。まず私の目に
入ってきた佐藤氏の主張を示し、その後に私の雑感を記す。
洪秀全は1837年、科挙の試験に落第、意気消沈し病に伏し、死を覚悟したとき幻夢を見て、自らを上帝(神)の子
供と自覚するようになった。その後、梁発の「観世良言」という書に出会い、洪秀全は夢で見た父である神が主エホバ
であり、兄がイエスで、自分が第2子であると信じるに至った。そして「洪秀全はこのように書を読み、文章を書き、書物
を教えながら、手厚く受け入れてくれるかれの客家の親戚の家から家へと移動しながら、原罪、贖罪と救い、悔い改
め、などのかれの教えを広めた。かれは何度も何度も、かれの夢とその夢の持っている意味について話をした」。そし
て馮雲山という同志を得て、遊説活動に入る。1848年、紫荊山地域で、洪秀全の教えを受けていた楊秀清(客家の
炭焼き)と蕭朝貴(客家の農民)が、憑依状態となり、神の声として、洪秀全を神の子であると承認した。なお馮雲山と
蕭朝貴はその後戦死。
洪秀全の教えは次第に広まり、地域の伝統信仰や社会組織の破壊を伴うようになり、従来の支配層から疎まれるよ
うなる。逆に今までそれらの支配層から排除されてきた集団は、洪秀全の率いる信仰集団と行動を共にするようなる。
匪賊も参入し、支配層と武器を持って戦うことが多くなっていく。このとき水軍を率いる匪賊も太平軍に参加してきた。
洪秀全たちが「清朝帝国との緊張状態から、いつ公然たる対決に転じたのか、その正確な時期を確定するのはきわ
めて難しい。しかし明らかに1850年中にかれらの間の互いの挑発は確実に高まっていき、戦争は避けられなくなっ
ていった」。「1851年の8月中旬になって、洪秀全と太平軍のリーダーたちは、一つの難しい決定を行った。紫荊山
は、かれらの運動の創始と発展において神聖な役割を果たしてきたのだけれども、いまは、かれらはそこを脱出しなけ
ればならなかった。この脱出を成功させるためには極度の機密ときわめて綿密な計画とが求められた」。「かれの信奉
者たちに、この集団決定を説明しなければならないのは洪秀全だった」。だが洪秀全の説明でもこの脱出の行く先、
つまり「“地上の天国”がどこにあるのかについては、何の言及もなかった」。
「洪秀全はまだかれらの最終目的地がどこであるかを公表していなかったから、太平軍はかれらの集団を強化しよ
うとつとめるとともに、軍事的訓練と道徳的訓練を引き続き継続した。新たな軍事行動の大要の中で、永安城内あるい
は軍営の中においても、行軍中と同じように、男女各営がともに遵守しなければならない軍隊行動の規範が簡明なか
たちで頒布された」。
「さらに当地の民衆の支持を強めるために、太平軍は、この都市と郷村の市場が、太平軍到来以前に機能していた
のと同じように機能するように努めた。現地の人々から手に入れたすべての品物には、流通価格で対価の金銭が支
払われることを保証しようとした。もっと豊かな地主紳士たちが慌てて逃げ出して、太平軍に忠誠を誓うのを免れようと
した場合などは、太平軍はかなり大きな部隊を派遣して、逃亡した者の家を襲い、彼らの食料倉や家畜、塩、食用
油、果てはかれらの衣服まですべて没収した」。
「永安やその周辺の村の人々が同村のものを率いて太平軍に服従を約束しにやってきたり、“妖魔の清朝軍”の動
きや士気について報告したり、あるいは銀銭や食糧を献上したり、軍需品の輸送をして太平軍を助けたりした時に
は、かれらには特別な報奨が与えられた。しかし、この寛大さに厳格さを加えるために、もし清の妖魔の軍に補給品を
与えたりした者や、太平軍に対抗する武装団練に参加した者、あるいは戦乱に乗じて女性を強姦したり、掠奪や住民
を殺害した者は、ただちにその場で処刑することが約束された」。
太平軍のリーダーたちは行軍途中で、「金持ちはおれらに銭を借りている。まあまあの者は、満足して寝ていろ。貧
窮の者は俺たちについて来い。牛を租りて貧しい田を耕すより貧乏よりもはるかにいいぞ」という歌謡を流行らせた。
その結果、湖南省では約5万人の新兵を補充することができた。
3
「1853年2月10日、太平軍は不意に、大量の金銀財宝と数万人の新たな男女の追随者をつれて、武昌を離れた
のである。かれらは武昌の近くの河川や湖で少なくとも2000隻以上の船を手に入れ、これらの船の船員水夫たちを
彼らの部隊に吸収した。作戦がこのひどく早いペースで続いている間、太平軍は、かれらのために働いているこれら
の船夫たちに対しては、彼らが自軍に課していた性的分離政策を緩和した。これは速度のためだった。速さこそがす
べてだった。水の流れも速かった。太平軍のリーダーたちはまだ、地上の天国がどこにあるのかについて公に語って
いなかった。しかしかれらの信奉者たちが感じ取っていたのと同じように、かれらには、旅の次の舞台は南京という都
市になっていた」。
「上帝の次男で、イエスのすぐ下の弟としての洪秀全は、明らかに“四男”としての楊秀清にある種の優越感を持っ
ていた。しかし蕭朝貴がだいぶ前に死に、そしてイエスの声が止まってしまうと、上帝の代理人と“勧慰師”・“聖神風”
という二重資格の楊の主張は、楊にキリスト教の三位一体構造のうちの二つの地位を与えることになった。その一方
で、洪秀全は上帝自身に匹敵するようないかなる力も一貫して、意識的に否定し続けていた」。
一般に太平天国は洪秀全の独占的かつ精神的産物のように考えられているが、この本を読む限り、洪秀全のカリ
スマ性の確立は最初から、楊秀清(客家の炭焼き)と蕭朝貴(客家の農民)の憑依状態の結果のご託宣に依るところ
が大きく、南京占領後の仲間割れの芽は、すでに布教初期から包含されていたと考えられる。夢で上帝と会ったとい
う洪秀全と、上帝と直接会話できるという楊秀清とでは、むしろ後者に分があったというべきかもしれない。
太平天国軍は、その領地を拡大するために、根拠地である紫荊山地域から、“進軍”したのではなく、清朝軍など
に攻め立てられ、脱出したのである。しかも行く先の当てもなく。この点では、毛沢東の労農紅軍の長征とまったく同じ
である。さらに軍紀が厳格なことも同じである。むしろ太平天国軍の方が、男と女の兵営を完全に別にしたり、たとえ夫
婦であっても同衾を許さなかった点などは、はるかに厳しい。また途中で多くの新兵を補充できたことも同様。行軍途
中での人民への対応など、ある意味では労農紅軍の「三代規律八項注意」などは、この経験から学んだものとも考え
られる。もっとも太平天国軍もまた、この規律は中国の古典から学んだものだという。
太平天国軍は、桂林から長沙、武漢を経て、南京に辿り着き、そこに「天国」を設けることに成功した。この点は長
征のように闇雲に逃亡したのではなく、河川を上手く利用し、水軍を活用したところに大きな戦略的特徴がある。太平
天国の南京占領は、このように理解すれば納得が行く。その後の北伐での陸戦では、成績が芳しくないこともこの視
点から見れば当然である。
3.「中国人の正体」 石平著 宝島社 2月21日
副題 : 「中華思想から暴く中国の真の姿!」
帯の言葉 : 「なぜ行列に割り込むのか? なぜコピー商品を作るのか? なぜ約束を守らないのか?
貪欲な中国人の行動原理がわかる! 金、権力、快楽… 13億人の中国人は“利益”で動く」
いつもながらの石平氏の中国人への誹謗、中傷が満載の文庫本である。とりたてて雑感を書くほどでもないが、面
白い文章を、若干、紹介しておく。
石平氏は、中国人の道徳的行為の根本にについて、「中国人はキリスト教的な“罪”の意識からでも、共同体から産
まれる“恥”の意識からでもなく、自己の利益を重視する“利”の意識から道徳倫理を守る」と書いている。たしかに現
代に生きる中国人にその傾向は強い。しかし私はどこの国の人間でも“利”の意識を持っており、その発露の形態や
程度に差があるだけだと考える。
石平氏は、「中国人にとって、人生で考え得る最高の境地のひとつが“大勢の愛人を囲って贅沢三昧をする”という
ことだ。その意味で、愛人を抱える汚職高官は、一般の中国人から非難されると同時に、羨望のまなざしでも見られて
いる」と書いているが、この指摘は「中国人女性」には該当しないものであり、「中国人」を「中国人男性」と書き換える
べきであろう。さらに石平氏は毛沢東について、「彼は共産主義体制下では人民の共有財産であるべき50棟以上の
別荘を私物化し、また、無数の少女を性の玩具とし、ふしだらな生活を送り続けた」と書いているが、これはまったく事
実に反している。私は、中国の最高権力者として君臨した毛沢東が、清廉潔白であったとは思っていないが、歴史的
に見ても、あるいは同時代の多国の権力者と比較しても、段違いに生活は清貧であり、異性関係も正常範囲内であっ
たと考えている。それは上掲の康生や洪秀全たちと比較してもよくわかることである。
石平氏は、「日本には、“人民解放軍が暴走するのではないか”と懸念している人もいるが、党中央が国防予算とい
うアメを与えている限り、人民解放軍が暴走することはない。しかしアメを与えられなくなれば、人民解放軍が勝手にテ
リトリーを拡大して、海外での権益を増やそうとする」と書いている。しかしアメが与えられなくなるということは、中国の
国家財政が疲弊してしまった結果であり、戦費も賄えなくなるということであり、つまり海外への進出はできないというこ
とである。さらに石平氏は、「日本人からすると、中国人は愛国心が強く、だからこそ日本に対しても反日デモなどの過
激な行動をとると思われがちだ。しかし、中国人は基本的に個人主義であり、自分の利益のためならば、最後は生ま
れ育った国も捨てる」と書いている。そのように考えれば、愛国心に欠ける中国人の日本侵略を想定し、日本も軍備を
拡張すべきであるという従来の石平氏の主張は、明らかに矛盾しているのではないか。
4
4.「チャイナ・ナイン」 遠藤誉著 朝日新聞出版 3月30日
副題 : 「中国を動かす9人の男たち」
帯の言葉 : 「あまりに生々しい、権力の全貌。これほどスリリングな中国政治の追跡書があっただろうか?
中国で生まれ育ち、今なお政府高官と太いパイプを持つ著者が明かす完全ノンフィクション」
この本は3/12前後に、店頭に並んだ。この本で遠藤誉氏は、中国を統率する次期リーダーを、大胆に予測、分
析している。当然のことながら、現在進行中の重慶の問題も詳細に書いている。3/15、重慶市共産党書記の薄煕
来が解任された。遠藤氏の予測はほぼ完璧に的中した。さすがに中国共産党の重要幹部に、太いパイプを持つ遠
藤氏の情報の確実性とその眼力には頭が下がる思いである。さらに遠藤氏の、「私にとっては、中華人民共和国を誕
生させるまでのあの革命は、まだ終わっていない。中国が卡子の史実をありのままに認め、毛沢東が革命戦争を起こ
すに当たって約束した“苦しんでいる一般人民のための真の民主と自由”が実現したときに初めて、私にとってのあの
革命は完結するのである。その日まで私は死ぬわけにはいかない。…(略)。私の魂の闘いは、まだピリオドを打って
いない」という怨念にもちかい叫びには、ただただ圧倒されるだけである。遠藤氏は、今年71歳を迎えられた。私も遠
藤氏の、この鬼気迫る情熱に、少しでも近付けるように努力し続けたいと思っている。
遠藤氏は、「いまや中国は独断で動く時代ではなくなっている」と言い、「中国共産党中央委員会政治局常務委員
会を構成している「9人の男たち」が中国という国家を事実上動かしており、「国家の方針は、この“9人”の多数決に依
って議決され、そこで議決されない限り、国家主席や首相といえども、単独行動は許されない。多数決が鉄の掟だ。こ
れを“集団指導体制”と称する」と書いている。私もこれに異論はない。さらに多数決だから、常に結論が出るように常
務委員は奇数に保たれているし、この常務委員に席を巡って、毎回党大会前に熾烈な争いが起きるのであり、今回
の薄煕来の事件もその現れであると書いている。
遠藤氏は次期党大会について、「“先富”を託された江沢民は、“三つの代表”を中国共産党の党規約に書き込む
ことに執念を燃やし、“共富”を託された胡錦濤は“科学的発展観”を同じく党規約に書き込むことに成功している。し
たがって次期政権は、党規約に書き込まれた“科学的発展観”を中国共産党として守らなければならない」と書いてい
る。また「今日の中国は“先富”から“共富”への転換期にあり、“先富”が江沢民によって代表されるとすれば、“共富”
は胡錦濤政権によってなんとか実現しようともがいている過渡期であるということができる。そのモデルがどのような形
になるのか、世界の誰も知らない。中国政府にも実は分からない。すべて人類が体験したことのない、未知への可能
性を模索して進んでいるだけである」とも書いている。
極言すれば、遠藤氏は江沢民の上海閥を悪玉、胡錦濤の団派を善玉のように捉えた上で、「チャイナ・ナインの中
にどんなに激しい党内派閥があったとしても、全員が100%一致していることが一つだけある。それは絶対に社会主
義国家としての中国を崩壊させてはならないという鉄の理念である」と言い切っている。私はこの主張には、賛成でき
ない。中国共産党のチャイナ・ナインには、上掲部分で遠藤氏も指摘しているように、目指すべき国家モデルは分か
っていない。彼らが一致して守ろうとしているのは、未知の「社会主義中国」ではなくて、現状の「中国共産党の支配
体制」であると、私は考える。
遠藤氏は本著で、広東省の烏坎村事件を詳細に分析し、これを「中華人民共和国誕生以来、初めての現象である。
中国政府はこれで知っただろう。スローガンだけでなく、真に民意を重視し、民衆の要求に応えても、社会主義国家
は崩壊しないのだということを」と、きわめて高く評価している。私はこの解決方法は、昨年来の政府の譲歩・妥協政策
の延長線上にあるもので、「初めての現象」などと特記するほどのものではないと考えている。共産党政府は、自分た
ちの延命のために、ムチを収め、たくさんのアメの放出に踏み切っただけであり、アメの原資が途切れるまでそれを続
けるつもりである。人民の側も、わざわざ政府を打倒しなくても、十分に豊かな果実が貪り食えれば、それで納得する
であろう。その結果は、社会主義中国も先進資本主義各国と同様の借金地獄に落ち込むことになるだけである。
以上
************************************************************************************************
チャイナ・インサイドウオッチ : 2012年 3月
23.MAR.12
中小企業家同友会上海倶楽部代表
東アジアセンター外部研究員(協力会理事)
小島正憲
1.マンション・バブルの現状
①中央政府、地方政府、不動産業者、消費者のにらみ合い状態が続くマンション価格や取引。 一進一退。
・2月の全国100都市の住宅価格、6か月連続で下落。
・2月の広州市の新築住宅販売面積は、前年同月比45%減。
・1~2月の上海市の中古住宅取引面積は、前年同期比69%減。不動産販売面積は14%減。
・1~2月の北京市のオフィスや商業施設の販売面積は、前年同期比40%減。住宅価格は今後、10~20%の下
5
落。
・1~2月の大連市の新築住宅取引件数は前年同期比37%減、中古住宅取引件数は同60%減。
・2月、北京・上海・広州などの不動産取引、大幅回復。様々な要因により落ち込ん
でいた第1線都市の不動産取引件数は2月、大幅な回復を見せた。不動産アナ
リストは、これはデベロッパーによる値下げ、金融緩和政策、消費者の不動産抑
制策の緩和に対する期待などの要因によるものであると解説。
・17都市で、不動産価格抑制策の緩和傾向。
・3/06、財政部の謝旭人部長は、まだ不動産抑制策が不十分だとして、固定資産
税に当たる「不動産税」の対象地域を拡大する意向を示した。現在は上海市と重
慶市で試行中。
②上海市の状態
上海市では、3/15~18の4日間、市内中心部の上海展覧中心で、恒例の不動産展示会:「第14回“上海の春”
不動産展覧会」が開催された。以下はその様子。
・主催者側は、展示業者200社、入場者12万人を見込んでいたが、それぞれ60社、8万人程度にとどまった。しかも
展示業者の1/3は海外物件の紹介業者であった。今までの入場者数は最高で16万人であり、今年は半減。
・物件価格は、ほぼ昨年比20~30%下落。それでも期間中の成約はきわめて少なかった模様。入場者はまだ下落
するという観測で、購入決定する人が少なく、情報収集のみに来た人が多く、現地視察のバス
は物見遊山気分の人たちで結構賑わっていた。
・今回は大手不動産会社が、ほとんど出展せず。中小の不動産会社があの手この手でセールス
を展開しており、戸別案件をプラカードなどで知らせる手口も多かった。
③地方財政の状態。
一般に地方政府財政は、土地売却収入に、その4~7割を依存していると推測されている。し
たがって、このままマンション価格の抑制策が続行されると、間違いなく地方財政は破綻する。たとえば広州市では土
地売却収入は財政の4~5割を占めており、中央政府の価格抑制策の結果、昨年は土地売却収入が4割減の300
億元ほどになった。北京市では今年の土地売却収入を前年比27%減と見積もっており、財政赤字が拡大する。これ
らの結果、地方政府はもちろん従来のようなインフラ整備や社会保障が不可能となり、同時に家電や新エネ車の購入
に際しての補助金の支出もできなくなる。もちろん多額の地方債務は返済不可能となる。
今回の全人代では、地方政府の代表が、「価格抑制策を続行する一方で、関連政策を通じて適度な微調整を行
い、マンションの購入を奨励し、投機・投資を抑制するべきだ」と発言した。すでに昨年下半期から北京、上海、杭州、
重慶、武漢、南京などの17都市では、それぞれの地方政府が中央政府の実施してきた不動産抑制価格政策に対し
て微調整を行い、少しずつ緩和し始めているという。しかしながら地方政府がそれを公然と発表すると、中央政府はた
だちに介入しその措置を撤回させている。たとえば安徽省蕪湖市では普通住宅購入の優遇政策導入発表3日後に、
それを撤回させられており、上海市では住宅購入条件の一部緩和案を発表1週間後に、撤回に追い込まれている。
④温家宝首相発言、「住宅価格抑制策、堅持」。
温家宝首相は3/14、全人代閉幕後の記者会見で、下落傾向が鮮明になっているマンション価格が、地方財政
に圧力を強め景気減速を助長しているとの見解について、「人民の収入に比較して合理的な水準まで下がったとは、
まだとても言えない」と語り、現行の価格抑制策を堅持する方針を表明した。また地方政府が土地の売却で大きな収
入を得ており、これが改革に対する強い抵抗になっているとも語った。
2.商標争議の多発
このところ中国では、商標権にまつわるトラブルが多発しており、中国事業の大きなリスクとなってきている。中でも
米国のアップル社の「i Pad」の商標争議が注目されているが、その他にも頻発しており、2010年の中国での商標権
を巡る案件の裁判所の受理件数は8460件を数えるという。インターネットの普及とともに、外国の企業の情報が即座
に入手できるようになり、同時に商標登録手続きなどが簡単になったため、中国人の個人が中国市場に参入しようと
する企業の製品などの商標を、先持って登録してしまい、実際に外国企業が参入してきたときに高く売りつけるという
動きが顕著になってきている。このような傾向に対して、大手企業の中には、新製品の発売前に、まず中国での商標
登録を済ませておくという戦術を取る会社も出てきたほどである。
私は2003年に、この商標権のリスクの問題を日本企業に大きく提起したが、そのとき私の警告に耳を貸した企業
はきわめて少なかった。当時、中国企業が「青森」という商標を登録して問題になっていた。私は中国の弁護士といっ
しょになってこの問題を勉強し、法規関係にいろいろな落とし穴があることに気が付いた。ことに中国国内市場に販売
するのではなく、製品を委託加工し日本市場で販売する場合にも、もし日本企業のブランドが勝手に中国で商標登
録されていると、輸出差し止めという事態もありうるということを知って、わが社の取引先に、中国市場での商標権の登
録を依頼して回った。その結果、わが社の主要取引先企業は中国人の先手を打って、商標登録を済ませた。したが
ってこれらの企業は現在、大手を振って中国市場に進出している。しかしながら当時、他産業界では、このリスクをい
6
くら説明しても、それを理解し、商標権の登録という行動を起こす企業がほとんどなかった。
今年1月に発刊された「中国ビジネス 技術・ブランドの活かし方」(経済産業調査会)という著書の中でも、かつて
私が提起したリスクについて明記しているので、下記に示しておく。
日本国内や先進国相手の製造委託契約の場合、通常、中国側が日本側の商標を付した商品を製造したり、その
まま日本の店頭に出せるように当該商標を付した包材に収納した形態で対日輸出したりすることとなる。しかし、商品
は中国で流通しないので、中国での商標権は本来不要である。ところが、中国ではニセモノといった権利侵害行為が
顕著なので商標権を管理する当局や税関当局が密告などに基づき、疑わしい工場やコンテナを検査する場合があ
る。ここで、第3者が抜け駆け的に中国で同一または類似の商標権を登録していた場合、これら中国当局は権利関係
の適否を確認せざるを得なくなる。当該工場または荷主に対して商標権の権利者からの使用許諾を問い質し、回答
が得られるまで工場の操業や通関が停止させられてしまうことになってしまう。こうした問題がときおり発生することか
ら、工場の操業や対日輸出を安定的にオペレーションしたい場合には、日本側が中国での商標権を取得しておき、
それを中国側に使用許諾しておくことが望ましいという結論になる。
《 代表的な商標権争議など 》
・中国の情報機器メーカー「唯冠科技」は、3/07、米国アップル社のタブレット型多機能携帯端末「i Pad(アイパッ
ド)」が自社の商標権を侵害しているとして、アイパッドの中国内販売の中止を、中国国内の関連業者に向けて公
開書簡で訴えた。なお、アイパッドの商標権を巡っては、現在、両社の間で、広東省の高級人民法院で係争中、1
審判決ではアップル側が敗訴。台湾には「唯冠科技」と同一代表者の「唯冠台湾」があり、アップル社はこの台湾の
会社から、中国におけるアイパッドの商標などを購入したと主張。しかしアイパッドの中国での商標権者は「唯冠科
技」であり、この契約は無効と判断された模様。この争議を巡っては、「唯冠科技」の経営が不振であることもあって、
かなり複雑な様相を呈している。
2/23、上海市の浦東新区人民法院は、「唯冠科技」の販売差し止めの訴えを退け、上海市内でのアイパッドの販
売継続を許可した。
3/04、台湾金融大手・富邦グループ傘下の富邦保険が、深圳市中級人民法院に「唯冠科技」の破産申請。破産
手続きが進行した場合、アイパッド商標権訴訟は停止。
3/07、「唯冠科技」の債権者である中国の大手銀行など、新たにアイパッドの商標権を主張。裁判は継続の方
向。
3/13、「唯冠科技」は、アップルに対してテレビ公開討論を求める。アップルからの賠償金で債務を返済し、破産
回避を目論む。
・米国の元プロバスケットボールのスター選手だったマイケル・ジョーダン氏は、自分の名前を無断で商標登録したと
して、スポーツ用品大手「喬丹体育」(福建省晋江市)を中国の裁判所に訴えた。ジョーダンを中国語で表記すると、
「喬丹」となる。裁判所はこの提訴を受理した。なお、「喬丹体育」の2010年度の売上高は29億1000万元(約370
億7400万円)であり、傘下の店舗数は中国全土に5000店を超えている。
・仏のエルメス・インターナショナルは、類似の商標を中国企業に登録され、不正使用されているとして、中国の裁判
所に登録抹消を求めて訴えていたが、このほど裁判所はエルメスの申し立てを却下した。エルメスの中国語表記は
「愛馬仕」だが、中国広東省の紳士服メーカーが、1995年に「愛瑪仕」を登録し、製品の販売を始めたので、97年
以降、エルメスは繰り返し中国の商標当局に異議を申し立てていた。
・日本の大手居酒屋チェーン「白木屋」・「笑笑」の運営会社のモンテローザは、ほぼ同一名の飲食店が、中国全土で
12店舗、台湾で2店舗確認されたとして、それぞれ現地で商標の差し止めなどを求めて、裁判手続きに入った。同
社はすでに中国で商標権を取得している。
・日本の人気漫画「クレヨンしんちゃん」のデザインと中国語名称「蝋筆小新」が、中国広東省広州市のメガネ会社に
よって商標登録されていたが、3年間、その商標が使用されなかったとして、このほど登録が取り消された。
・ソニーとスウェーデンの通信機器大手エリクソンの合弁携帯電話会社ソニー・エリクソンは、中国名の略称を中国人
の個人が2004年に登録しているため、裁判に訴える予定。
3.河村名古屋市長の南京発言。
河村たかし名古屋市長の発言から、にわかに名古屋市と南京市の関係が緊張してしまい、交流イベントなどが中
止に追い込まれてしまった。両市は1978年の友好都市関係を結び、以来34年間にわたって交流が続けられてきた。
今夏にも中学生のスポーツ交流、南京市での名古屋の観光プロモーションが予定されている。また江蘇省には県内
企業が100社以上進出している。それらへの影響を最小限にするためにも、河村市長の早期の謝罪発言が望まれ
る。
愛知県立大の與那覇潤准教授は、「南京事件そのものがなかったとの考えを支持するプロの歴史学者はいない」
と発言している。また中国の楊伯江国際関係学院教授は、「南京大虐殺は政府レベルの交流では、通常双方共に避
けている問題だ。犠牲者の具体的人数について、ずっと見解が一致しないからだ。現在、政界も学界も民間も、日本
7
人の大部分はすでに南京大虐殺の存在を認めている」、「中日双方ともに、これが原因で中日関係の大局に影響が
生じることは望んでいない」と発言している。私も両教授と同意見である。
2/20の河村発言の後、南京市政府を含む中国側は、従来よりも柔軟な姿勢を示している。ただし21日午後に、
ネット上で反日人士の、南京市政府の弱腰を激しくなじる文言が飛び交うようになり、南京市政府は交流停止を発表
せざるを得ない事態に追い込まれたようである。現在、中国政府は日中の間で、事を荒立てようという姿勢ではない。
それが広東省の汪洋書記のような発言にも現れてきているのである。中国政府は、日中国交正常化40周年の今年、
再び、日本政府や企業との交流を活発にしようと考えている。その気運をぶち壊すような軽率な発言は厳に慎むべき
である。
《 河村発言、その後の経過 》
・2/20、河村たかし名古屋市長は、市役所で中国共産党南京市委員会の訪日代表団に面会。その席上で、「南京
事件というのはなかったのではないか」と発言。
・2/20、中国外務省の洪磊副報道局長は、定例記者会見で、「南京大虐殺には動かぬ証拠がある。歴史の教訓を
くみとり、中日友好関係を健全かつ安定的に発展させるよう希望する」と発言。
・2/21夜、中国江蘇省南京市政府は、「名古屋市との交流を一時停止する」と発表。
・2/22、藤村修官房長官は、定例記者会見で、「地方自治体の間で適切に解決されるべき問題だ」、「旧日本陸軍
の南京入場後、非戦闘員の殺害や掠奪行為があったことは否定できない」と述べた。
・2/22、中国外務省の洪磊副報道局長は、定例記者会見で、「日本に抗議した」と述べ、その一方で日中国交正常
化40周年を迎え、両国関係の安定と発展を推進したいとの考えを示し、政府として外交問題化させたくない意向を
示唆した。
・2/22、中国共産党広東省の汪洋書記は、訪問中の丹羽宇一郎大使に、「両国政府、特に指導者は冷静に判断し
て問題に対処し、解決を図らなくてはならない」と述べた。また「日本企業の中国進出や経済協力がなければ、中
国の改革・解放もなかった」との認識を語った。
・2/27、3/02からの南京市の柔道施設の開館2周年行事の中止決定。
・2/28、江蘇省政府、省内の職員の愛知県への渡航禁止。
・3/01、上海の日本総領事館、南京市で9日から開催予定の日中共催イベント「南京ジャパンウィーク」延期決定発
表。
・3/01、野田首相、「南京市と名古屋市との関係の中で、早く適切に解決されることを期待する」と、政府として関与
しないことを表明。
・3/06、楊外相は全人代第5回会議の記者会見で、日経記者の質問に、「両国関係に横たわる歴史問題や釣魚島
などの敏感な問題については、日本側にはこうした問題の複雑さと敏感さを十分に理解してほしい。両国の政治基
盤や大局にかかわる問題であるため、日本側は“歴史を鏡とし、未来に向かう”ことを真に実践し、両国関係の大局
から問題を着実に処理するべきだ」と述べた。
・3/07、南京市人民代表大会常務委員会の陳家宝主任は、「河村市長が誤った発言を認めて撤回し謝罪すれば
両市の関係は元のようによくなる」と発言。またこの問題が日中の国レベルの関係悪化に発展するものではないと
の認識も強調した。
・3/15、文教大学湘南キャンパス(神奈川県茅ヶ崎市)国際学部で、映画「南京!南京!」が上映され、終了後には
監督の陸川氏を囲んで、2時間の交流会が行われた。
4.その他の中国情勢。
①最低賃金上昇・人手不足の現状。
・中国政府当局は2011年度、25省・直轄市・自治区で最低賃金が引き上げられ、引き上げ幅は22%に達したと発
表。なお、2010年度は、30省・直轄市・自治区で平均24%引き上げられている。また政府は、今後5年間、年平
均13%のペースで引き上げる方針。
・珠江デルタ地区の製造業の55%は、春節前後に5~30%(平均で10.4%)の賃金を引き上げた。
・広州市の一般ワーカーの月額平均賃金1800~2300元(前年比27~38%アップ)、高級技術工3500~4000元
(9~11%アップ)。
・中国政府当局は、中国全土の農民工の平均月収が、2011年度、2049元(前年比359元アップ)に達したと発表。
・中国民間調査機関によれば、都市部女性の平均月収は約5000元。希望は1万元。
・武漢市民の平均月収希望額は、8000元以上。
・広州市における2012年度、大卒新人の平均初任給は、月収2200~4800元(昨年比10%増)。
・民間調査機関によれば、珠江デルタ地区の人手不足は過去最悪。
・広州市では、同市内の70%の企業が、人材確保が難しいと回答している。
・広東省人力資源・社会保障庁は、繊維・皮革・飲食などの労働集約型産業やサービス業では80万人の人手不足状
態。逆に事務職などを中心に80万人の就業枠が不足すると予測。
8
・中国当局は、2012年度に都市部に流入する新規労働人口は2500万人(そのうち半分は大卒などの若年層)に達
すると予測。同時に沿海部では製造業の人手不足が深刻であり、「労働需給の構造的なミスマッチ」に懸念。
②温州債務危機と裁判。
・温州市では、昨年1年間で、違法金融により少なくとも10人が自殺、200人が逃亡、284人が当局に拘束。昨年後
半から、温州市の公安機関が立件した金融犯罪は105件、金額にして128億元。
・温州市で債権者147人が7000万元の賠償を国家に請求。温州市にあるネズミ講式高利貸し組織「立人集団」の一
部の債権者147人は、2月末、温州市泰順県政府と公安局を相手に、7000万元の支払いを求めて、温州市中級
人民裁判所に起訴状を提出した。破産状態となっている「立人集団」の債務の総金額は45億元、債権者数は700
0人に及ぶと言われている。起訴状ではこのネズミ講に関与している債権者は、上は政府の幹部やその家族、下は
一般農民まで、泰順県の80%以上の家庭がこれに関わっており、総金額を100億元を超えるとしている。
今回の起訴状では、「“立人集団”の責任者は、2010年10月31日に債務返済を不可能と公表したが、その後、①
債務者は速やかに破産手続きに入らなかった、②大口債権者がすみやかに破産を申請しなかった、③現地政府
が破産申請を通じて、すみやかに再建の措置を取らなかった」ことに疑義があるとしており、「それは幾人かの限ら
れた大口債権者に優先的に残余資産を持ち逃げさせる余裕期間を作ったからであり、その証拠がある」と指摘して
いる。
③治安維持費の増加。
・全人代で承認される今年度の国内の治安維持などに充てる公共安全予算は、前年実績比11.5%増の約70176
000万元。国防予算の約6702億元を上回る。
④国債・地方債の発行動向。
・3/13、安住淳財務省は記者会見で、中国国債の購入について、中国当局が上限650億元(約8500億円)の購
入枠を許可したと発表。中国人民銀行の易鋼副総裁は記者会見で、「日本の中国債券市場への投資を歓迎する。
中国も、日本の国債・債券市場に投資する」と発言。
・3/06、中国工商銀行の楊凱生董事長は記者会見で、中央と地方を合わせた全国の政府債務残高が約17兆500
0億元(約226兆円)、国内総生産(GDP)比は43%と発表し、同時にこの債務比率は、日本の180%、ドイツの8
3%をはるかに下回ると発言した。なお内訳は、地方政府残高が10兆7000億元、中央政府が6兆8000億元。
・3/05、中国財務省の賈康財政研究所所長は記者団に対し、「地方政府には10兆7000億元の債務を返済するだ
けの金融資産と銀行と交渉できる能力ある」と発言。
・3/05、中国銀行の肖鋼董事長は記者団に対し、「同行の地方当局関連の不良債権比率は1%に満たない、地方
当局関連で広範囲なデフォルトが起こることはないだろう」と発言。
・2011、12年は、地方政府負債の第1償還がピークとなる期間で、総額4兆6000億元を返済しなければならない。2
016から18年にかけては第2償還ピークの期間を迎える。
・中国政府は、2012年の地方債の発行額を2500億元(約3兆2000億円)と、前年比25%増の方針。
※いずれにしても中国政府は国債・地方債を増額し、インフラ整備や社会保障その他の資金を確保して行く方針で
ある。経済絶好調を誇る中国ならば、せめてまったく借金をしないで、理想の国造りを行って欲しいものである。悪
しき先進資本主義借金大国と借金額の多寡を競ってみても、それはまったく意味のないことである。
以上
************************************************************************************************
【中国経済最新統計】
①
実 質
GDP
増加率
(%)
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
12 月
2010 年
1月
2月
3月
4月
5月
6月
10.4
11.6
13.0
9.0
9.1
10.7
10.3
11.9
10.3
②
工業付
加価値
増加率
(%)
③
消費財
小売総
額増加
率(%)
④
消費者
物価指
数上昇
率(%)
18.5
12.9
11.0
18.5
15.7
12.9
13.7
16.8
21.6
15.5
17.5
18.4
(20.7)
18.1
17.8
16.5
13.7
(17.9)
18.0
18.5
18.7
18.3
1.8
1.5
4.8
5.9
1.9
1.9
3.3
1.5
2.6
2.4
2.8
3.1
2.9
⑤
都市固
定資産
投資増
加 率
(%)
27.2
24.3
25.8
26.1
31.0
(30.5)
24.5
(26.6)
26.3
25.4
25.4
24.9
⑥
貿易収
支
(億㌦)
⑦
輸 出
増加率
(%)
⑧
輸 入
増加率
(%)
1020
1775
2618
2955
1961
184
1831
142
76
▲72
17
195
200
28.4
27.2
25.7
17.2
▲15.9
17.7
31.3
21.0
45.7
24.2
30.4
48.4
43.9
17.6
19.9
20.8
18.5
▲11.3
55.9
38.7
85.6
44.7
66.4
50.1
48.9
34.6
⑨
外国直
接投資
件数の
増加率
(%)
0.8
▲5.7
▲8.7
▲27.4
▲14.9
9.7
16.9
24.7
2.5
28.1
21.3
29.3
8.3
⑩
外国直
接投資
金額増
加率
(%)
▲0.5
4.5
18.7
23.6
▲16.9
-44.6
17.4
7.8
1.1
12.1
24.7
27.5
39.6
⑪
貨幣供
給量増
加 率
M2(%)
⑫
人民元
貸出残
高増加
率(%)
17.6
15.7
16.7
17.8
27.6
27.6
19.7
26.0
25.5
22.5
21.5
21.0
18.5
9.3
15.7
16.1
15.9
31.7
31.7
19.8
29.3
27.2
21.8
22.0
21.5
18.2
9
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
2011 年
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
2012 年
1月
2月
9.6
9.8
9.2
9.7
9.5
9.1
8.9
13.4
13.9
13.3
13.1
13.3
13.5
17.9
18.4
18.8
18.6
18.7
19.1
3.3
3.5
3.6
4.4
5.1
4.6
22.3
23.9
23.2
23.7
29.1
20.4
287
200
169
271
229
131
38.0
34.3
25.1
22.8
34.9
17.9
23.2
35.5
24.4
25.4
37.9
25.6
12.8
21.2
12.2
8.7
28.1
9.2
29.2
1.4
6.1
7.9
38.2
-13.3
17.6
19.2
19.0
19.3
19.5
19.7
18.4
18.6
18.5
19.3
19.8
19.9
14.9
14.8
13.4
13.3
15.1
14.0
13.5
13.8
13.2
12.4
12.8
19.9
11.6
17.4
17.1
16.9
17.7
17.2
17.0
17.7
17.2
17.3
18.1
4.9
4.9
5.4
5.3
5.5
6.4
6.5
6.2
6.1
5.5
4.2
4.1
23.7
-
31.2
37.2
33.6
11.8
27.7
33.4
27.3
34.1
21.4
5.7
65
-73
1
114
130
223
315
178
145
170
145
165
37.7
2.3
35.8
29.8
19.3
17.9
20.3
24.4
17.0
15.8
13.8
13.3
51.4
19.7
27.4
22.0
28.4
19.0
23.0
30.4
21.1
29.1
22.6
12.1
16.6
-10.9
10.5
8.2
12.1
6.6
2.7
6.4
-3.5
-0.6
-12.9
-15.4
11.4
32.2
32.9
15.2
13.4
2.8
19.8
11.1
7.9
8.7
-9.8
-12.7
17.3
15.7
16.6
15.4
15.1
15.9
14.7
13.6
13.1
16.7
16.2
17.3
16.9
16.2
16.2
15.8
15.4
15.2
15.0
14.8
14.3
14.1
14.0
14.3
4.5
3.2
25.3
-
273
-315
-0.5
18.3
-15.0
40.3
4.6
38.7
10.8
-0.9
16.6
17.8
14.8
15.0
21.3
注:1.①「実質 GDP 増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。
2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1月と 2 月の前年同月比は比較できない場合があるので注意
されたい。また、(
)内の数字は 1 月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。
3. ③「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」、④「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に対応
している。⑤「都市固定資産投資」は全国総投資額の 86%(2007 年)を占めている。⑥―⑧はいずれもモノの貿易であ
る。⑨と⑩は実施ベースである。
出所:①―⑤は国家統計局統計、⑥⑦⑧は海関統計、⑨⑩は商務部統計、⑪⑫は中国人民銀行統計による。
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