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みんなの相対論 – Relativity for the rest of us

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みんなの相対論 – Relativity for the rest of us
高校生のための現代物理学講座 2004 (4-5, Aug): 相対論 100 年ー現代の宇宙観 I
みんなの相対論 – Relativity for the rest of us
Kuni MASAI
Department of Physics, Tokyo Metropolitan University
私たちの宇宙はビッグバンから始まって膨張を続けていると考えられている.その歴史
の中でさまざまなスケールの構造が形成され,今日見られるような銀河や銀河団,またそ
れらを構成する物質がつくられたと考えられている.このような宇宙や天体の起源,また
4つの力の理解に大きな役割を果たしたのが,20 世紀初頭に登場した相対論と量子論,そ
して場の理論である.相対論・量子論が誕生してほぼ 100 年.現代物理学の大きな柱となっ
ているこの2つの理論,とくに相対論の考え方を説明しながら,現代の宇宙物理学が解き
明かしてきた宇宙の姿やブラックホールなどの特異な天体について紹介したい.
テキスト I では,相対論の考え方から始まって,現代物理学が扱う時間・空間について
高校程度の数学をもとに説明していく.また,よく知られたニュートンの運動法則が相対
論的にどのように記述されるのか考える.内容は 1 相対論の考え方,2 ローレンツ変換,
3 ミンコフスキー時空,4 時空とメトリックテンソル,5 相対論的力学 で,特殊相対論と
呼ばれる平坦な時空に限った相対論である.
1
相対論の考え方
街に出回っている相対論の入門書の中には誤った記述も見られるし,縮んで見えるとか
時間が遅れるとかいう,日常的な感覚からのずれや奇妙さを無意味に強調して取り上げた
ものも少なくない.相対論は何も奇抜なアイデアを元にしているわけではない.古典電磁
気学の問題を解決すべく必然的に生まれた理論と言ってよい.マックスウェルによって統
一的に確立された電磁気学の方程式は,光が電磁波と呼ばれる横波であることを自然に説
明してくれる.しかしまた,真空中の電磁波の速度は
c= √
1
ϵ0 µ0
となって誘電率 ϵ0 と透磁率 µ0 だけで決まり,光を放出する物体の速度によらず一定の
有限の値であることを示していた.そのことを頭に置いて,電磁波つまり光が伝わる話か
ら見ていこう.
光も波であるが,音波のような波とは異なり媒質を必要としない,つまり真空中を伝わ
る.また,いろいろな実験結果は,そして古典電磁気学も,真空中の光速 がいつも一定で
あり光を放出する物体の運動状態によらないことを示している.誤解のないように付け加
えておくと,周波数は放射物体の運動状態に依存して変わる(ドップラー効果)が速度は
一定なのである.これは何を意味するのだろうか.
ある系(K 系とする)で,光の波を
µ
y = A sin 2πν t −
x
c
¶
という式で表そう.y 軸方向に振幅 A をもち,x 軸の正の向きに速度 c で伝わる周波数
ν の横波を表している.K 系に対して相対速度 v で x 軸の正の向きに等速直線運動して
1
いる系を考え,それを K’ 系としよう.K’ 系では x′ = x − vt, y ′ = y と座標変換されるか
ら,この波は
µ
y ′ = A sin 2πν t −
x′ + vt
c
¶
µ
= A sin 2πν 1 −
v
c
¶µ
t−
x′
c−v
¶
という式で表されることになる.さて,物理法則がどの系でも同じ形にかけることを期待
するのは,自然科学における基本的な立場である.そうでなければ,考えている系が何か
に対して静止しているのか運動しているのかを絶対的に見極めなければならなくなる.し
かし,地球上に生活しているわれわれにとっての静止系というのは太陽から見れば公転運
動している系であるし,宇宙スケールで見た静止系として,地球上のわれわれの生活が当
てはまるのかなんて決めようがないことである.
K’ 系に暮らしている人にとっても光の波が同じように見えるということは,波の式が
µ
y ′ = A′ sin 2πν ′ t′ −
x′
c′
¶
の形になっていることを意味する.これと先ほど座標変換した式とを比べてみると,A′ = A′ ,
ν ′ = ν(1 − v/c), c′ = c − v という関係になっていることが分かる.一つ目の関係は波の振
幅が等しいこと,2つ目はドップラー効果で周波数が変化することを表しているだけで,
何れも波が伝わるという動きを表す関係ではない.3つ目の関係が波の伝わる速さについ
てのものである.ところが,実験結果や古典電磁気学は c′ = c を結論しているのだから,
これは困ったことになってしまう.いや,実はもう一つ,当たり前と「仮定」していた関
係 t′ = t がある.ただしこれを否定すると,K 系と K’ 系では時間の進み方が違うことに
なってしまうのだが.
重要な概念なので話をちょっと整理しておこう.
(1) 絶対的に静止している系を考えることには無理があって,互いに等速度運動をして
いる全ての慣性系において物理法則は同じ形式にかける.
(2) いかなる慣性系においても真空中の光の速さは一定であって,光源の運動状態には
依存しない.
(2) は実験結果と言ってしまってもよいが,実は,光が真空中でも伝わる事実と深く関係
している.音源の運動状態に依存する音波の場合と比較してみよう.波の伝わる速さを測
定してこれこれの値であるというとき,何に対する速度を測ったことになっているのか考
えてみると,音波の場合は音を伝える媒質に対する相対的な速度を測っているのである.
だから,その媒質に対して運動している音源から出た音波と,媒質に対して静止している
音源から出た音波とでは速度は違ったものになるのである.では,光速を測るというのは
何に対する速度を測ることになるのだろう.媒質を必要としないのだから,媒質に対する
光源の相対運動などという議論はもとからあり得ない.つまり,絶対静止系に対する速度
だとでも言わない限り,光速はどの慣性系でも一定と考えなければならないのである.
こうやって見てくると,(2) は (1) の議論とも関係していることが分かると思う.絶
対静止系という概念が破綻することは既に述べたとおりである.
「いかなる慣性系でも」と
いうことから,いかなる物体も光速を超えて運動することはできないことはすぐに理解
できると思うが,もう一つ重要なことがある.測定されている真空中の光速は,およそ
c = 3 × 1010 cm s−1 である.(3) 光速は可能な最大の速度であるが,光速と云えど有限
なのである.光速が決して無限大ではないということは,すぐ次の章で見るように,とて
も重要なことである.
2
2
ローレンツ変換
波の式の変換で c′ = c とし,その代わり思い切って t′ = t という仮定を捨てて素直に
等置すると t′ − x′ /c = t − x′ /(c − v) という関係が得られる.v が c に比べて十分小さい
とき,この式を近似的に解くと t′ ≅ t − vx/c2 という形で x 座標と結びついていることが
分かる.そこで,これを手がかりに,ある未知の係数 γ1 , γ2 を使って t′ = t という座標
変換の代りに t′ = γ1 (t − vx/c2 ) という変換を,また x′ = x − vt という座標変換の代り
に x′ = γ2 (x − vt) という変換を考えることにしよう.こうして K 系と K’ 系の関係を満
たすように γ1 , γ2 を決めてやると,β = v/c として
γ1 = γ2 = p
1
=γ
1 − β2
とすればよいことが分かる.これらの逆変換が各々 t = γ(t′ +vx′ /c2 ) および x = γ(x′ +vt′ )
となることは容易に確かめられる.K’ 系から見れば,K 系は速度 −v で,つまり x′ 軸の
負の向きに,等速直線運動しているという相対的な関係を表している.
この逆変換を K 系の波の式に代入すると
µ
v
y = A sin 2πνγ 1 −
c
¶µ
x′
t −
c
′
¶
となって,K’ 系での波の式は確かに K 系と同じ形にかけていることが分かる.このとき
ドップラー効果は
µ
¶
v
ν ′ = νγ 1 −
c
となって,古典的(非相対論的)な場合の ν ′ = ν(1 − v/c) から γ 倍だけ修正されている
ことを注意しておく.これは,後で述べる時計の遅れと関係している.
初めの変換をガリレイ変換,また γ を用いた変換をローレンツ変換と呼んでいるが,こ
の2種類の変換則をここでまとめて書いておこう.
ガリレイ変換
x′ = x − vt
y′ = y
ローレンツ変換
x′ = γ(x − vt)
y′ = y µ
¶
v
′
t = γ t − 2x
c
t′ = t
ここでは K’ 系は K 系の x 軸方向に運動しているので,垂直な方向の y 座標には相対運
動の影響が現れていないことに注意しよう.ガリレイ変換は,ニュートン力学の絶対空間
の概念にもとづいている.すぐに分かるように,ガリレイ変換とローレンツ変換は γ → 1
のとき完全に一致する.γ ≅ 1 のときというのは,β = v/c ≪ 1 のとき,v が c に比べて
十分小さいときに他ならない.つまり,光速に近い物体の運動を考えない限り,古典的な
ガリレイ変換で十分なのである.あるいは,もし光速が有限でなく無限大であったら,ど
んなに大きな速度 v に対しても γ ≅ 1 となるから,ガリレイ変換でよかったことになる.
K’ 系のある1点,例えば原点 x′ = γ(x − vt) = 0 での時間は,t′ = γ(t − v 2 t/c2 ) = t/γ
と変換されることを確認しよう.これから,K’ 系での時間間隔 ∆t′ と K 系の時間間隔 ∆t
との間には
∆t
∆t′ =
γ
3
という関係があることが分かる.γ ≥ 1 であるから ∆t′ ≤ ∆t となる.これが,時計の遅
れと言われるものであるが,光速一定の下ではごく自然な結果なのである.さて,周波数
というのは単位時間の振動数のことであるから,ν ′ /ν = ∆t/∆t′ = γ という関係のあるこ
とが分かるだろう.これが,古典的なドップラー効果に比べ,相対論的なドップラー効果
では周波数が γ 倍変化している理由である.
3
ミンコフスキー時空
古典力学では時間を絶対的なものとして特別扱いし,空間座標を時間の函数として物体
の運動を扱ってきた.では,時間と空間がただの変数として同じ立場になったとき,何を
絶対的な基準としてどのように物体の運動を記述すればよいのだろうか.
ここで,いかなる慣性系でも光の速度は一定という (2) の原理を思い出そう.ある微
小時間 ∆t の間に光が進む距離は,どの慣性系でも等しい.そこで,時間軸+空間軸から
成る新しい空間を考えて,その空間での2点間の距離 ∆s を
∆s2 = c2 ∆t2 − (∆x2 + ∆y 2 + ∆z 2 )
と定義しよう.ここでは,2点間の各座標の差を ∆x = x2 − x1 のように表している.( )
の中は,ふつうの3次元空間での距離の2乗になっている.第1項は時間軸に対応してい
て,時間に普遍的な定数 をかけることにより他の空間軸と同等(長さの次元)にしてある.
それにしても,距離の2乗を求めるのに時間と空間座標で符号を変えて足しているのは
なぜだろう.実はこれが,光の速度はどの慣性系でも等しいという基準と関係していて,
光の運動に対してはつねに ∆s2 = 0 となっているのである.このように時間と空間をいっ
しょにした空間を時空と呼び,ここで定義した2点間の距離 ∆s,あるいはもっと一般的
に言えば
ds2 = c2 dt2 − dx2 − dy 2 − dz 2
という距離要素(線素)をもつ空間をミンコフスキー時空と呼ぶ.また,時空における運
動の軌跡のことを世界線という.
この時空は4次元であるが,分かりやすくするため (ct, x) という2次元で考えてみよ
う.このとき ds2 = c2 dt2 − dx2 で,原点を通る光の世界線は ct = ±x という直線にな
る.物体が運動する速度は光速を超えることはないから,その世界線は必ず ct > |x| また
は ct < −|x| の領域にある.この領域内の点は原点と時間の経過によって結ぶことが可能
なので時間的と呼ばれる.時間的領域内の ct > 0 の部分が未来を表し,ct < 0 の部分が
過去を表わす.一方,ct < |x| かつ ct > −|x| の領域は,光速を超える速度がない以上,
領域内の点と原点を時間経過(因果関係)によって結ぶことは不可能で,空間的と呼ばれ
る.もう一つ空間座標を増やして,(ct, x, y) という空間を考えると,光の世界線は原点を
頂点とする円錐を描く.この円錐は光円錐と呼ばれる.光円錐の内側が時間的領域,外側
が空間的領域になることはすぐ分かるだろう.
4
時空とメトリックテンソル
空間の距離という概念を,数学好きの高校生なら理解できる範囲で,もう少し一般的化
しておこう.大学の相対論の講義ではもちろん4元で話を進めるのだが,ここでは簡単の
ため2次元で考える.2点間を結ぶベクトルの成分が (x0 , x1 ) = {xi } のように与えられ
4
ているとき,このベクトルを簡単に xi と表すことにする.ここで,i というのは 0, 1 を
代表しているだけなので,他の文字,例えば j を使って,このベクトルを xj と表しても
かまわない.
2点間の距離というのは,このベクトルの大きさであるから,距離の2乗というのは xi
が自分自身とつくる内積 xi xi に他ならない.ここで xi というのは,ベクトル
xi と対に
µ ¶
a
なって内積をつくるときの,相手に相当している.例えば,
というベクトルが自分
b
µ ¶
a
自身とつくる内積を求めるとき,( a b )
という計算をする.この ( a b ) に当たる
b
ものが xi だと考えればよい.ちょっと難しくなるが,このような空間を双対空間と呼び,
xi は一形式と呼ばれる.なお,2点間の距離つまりベクトルの大きさがローレンツ変換に
対して不変であることはすぐ分かるだろう.座標変換をしたところで,そのベクトルを表
す成分が変わるだけであって,ベクトルそのものが変化するわけではないのだから.
ある空間で,ベクトル xi からその対となる xi をつくる操作を
xi = ηij xj
のように表すと,xi が自分自身 xi とつくる内積とは ηij xi xj = xi xi のことである.ここ
で出てきた
ηij = êi · êj
のことを,この空間のメトリックテンソルという.ここで,êi や êj は空間を定義している
基底ベクトルで,ηij の各成分が基底ベクトルの内積で与えられることを示している.ベ
クトルを成分 xi で表すということは,きちんとこのベクトルをかけば,⃗
x = xi êi という
i
j
ことである.したがって,その内積が ηij x x のようにかけることはすぐ確かめられるだ
ろう.メトリックはふつう計量と訳されているが,平たく言えば,その空間の定規みたい
なものである.
さて,ミンコフスキー時空に対応させるには
x0 = ct
と考えればよいわけであるが,ミンコフスキー時空では内積,つまり距離の2乗は xi xi =
x0 x0 − x1 x1 = (x0 )2 − (x1 )2 であって,単純に各成分の2乗和にはなっていない.つまり
一般的には,ある空間でベクトルの成分から距離あるいは内積をつくるには,その決まり
を明らかにしないといけないのである.空間のこのような基準を与えるものがメトリック
テンソルで,2次元ミンコフスキー時空の場合,その成分は
ηij =
µ
1 0
0 −1
¶
と表され,第 0 成分から順に 1, −1 という定数をかけて各成分の2乗を足し合わせなさい
ということを示している.
ふだん,こんなめんどうなことを考えずにベクトルの内積や距離を求めているのは,ふ
¶
µ
1 0
つうの2次元ユークリッド空間でのメトリックが
となっているからである.こ
0 1
れは,例えば xy 直交座標系での基底ベクトルについて
êx · êx = êy · êy = 1
êx · êy = êy · êx = 0
5
となることからすぐに分かるだろう.ミンコフスキー時空も平坦な空間で,ユークリッド
空間の一種であるが,距離の定義が異なる空間になっているのである.なお,ミンコフス
キー時空のメトリックテンソルを
ηij =
µ
−1 0
0 1
¶
のように,時間成分を −1,空間成分を全て 1 に定義してもかまわない.ベクトルの内積
の符号が変わるが,光の世界線は ds2 = 0 であり,相対論の物理に何ら本質的な違いは生
じない.
相対論の本のなかには,x0 = ict のように表して(ここでの i は虚数)虚時間を導入す
るものも少なくない.空間のメトリックという概念を導入しないで済まそうということな
のかも知れないが,相対論では時間が虚になると説明するのはもちろん間違っている.相
対論の概念は虚時間と何の関係もない.上の話から解るように,虚時間でなくて虚空間に
なるようなメトリックを選んでもかまわないのである.
メトリックテンソルは,ηij というように,成分を代表する指標 i と j を2つ持つので
2階のテンソルと呼ばれる.ベクトルは,xi のように,指標を1つ持つから1階のテン
ソルである.xi xi は指標が2つあるが,同じ文字の指標が上下にあるので,上の内積の話
から分かるように,成分をもたない大きさだけの数になる.このような指標を持たない量
をスカラーという.ベクトルの成分として用いた x0 や x1 などは,成分を代表する指標
を持っているわけではなく,ある特定の値を表しているだけなのでスカラーである.した
がって,x0 = x0 であることに注意しよう.2階のテンソルを上のように成分にかくと,
何だ行列のことかと思うかも知れないが,行列であれば何でも2階のテンソルというわけ
ではないことを注意しておく.
空間座標を増やして,{xi } = (x0 , x1 , x2 , x3 ) という4元ベクトルを考えると,ミンコフ
スキー時空で,このベクトルが自分自身とつくる内積は
xi xi = x0 x0 − x1 x1 − x2 x2 − x3 x3
である.x2 とか x3 というのは2乗とか3乗ではなく,y 座標や z 座標の成分を表して
いる.混同するのを避けるため,以下では,4元ベクトルを xi = (x0 , x) のように,一つ
のスカラー x0 と,空間成分をまとめて3次元ベクトル x でかくことにしよう.こうすれ
ば,4元ベクトルの内積は
xi xi = x0 x0 − x · x
と表すことができて,x · x = x1 x1 + x2 x2 + x3 x3 はふつうの3次元ユークリッド空間で
の内積である.
5
相対論的力学
質量 m の粒子の運動をミンコフスキー時空で考えてみよう.K’ 系にあたるものとして,
粒子に固定されて粒子とともに運動する系をを考えるのが便利である.このような系は
ずっと等速直線運動するわけではないが,瞬間的には慣性系と見なすことができる.運動
する粒子に固定された系での時間間隔
dτ =
6
dt
γ
を粒子の固有時間と呼ぶ.固有時間はどの慣性系から見ても同じになるから,これを基準
としてニュートンの法則を書き直すことにすれば,4元運動量ベクトルを
pi = m
dxi
dτ
として,運動方程式はどの慣性系でも
dpi
= Fi
dτ
という同じ形になる.4元運動量 pi = (p0 , p) の成分は
p0 = m
dx0
= γmc
dτ
dx
= γmv
dτ
で,空間成分 p は3元の運動量を表している.γ → 1 のときは p → mv となって古典的
な運動量に一致する.
4元運動量の内積は
p=m
pi pi = p0 p0 − p · p = γ 2 m2 c2
Ã
v2
1− 2
c
!
= m2 c 2
となる.m2 c2 は定数なので
d(pi pi )
dpi
= 2pi
=0
dτ
dτ
したがって常に pi F i = 0 が成り立つ.
pi F i = p0 F 0 − p · F = γmcF 0 − γmv · F = 0
であるから,運動方程式の第 0 成分は
dp0
v·F
= F0 =
dτ
c
となる.ここで v · F は粒子が単位時間にされる仕事であるから,d(cp0 )/dτ は粒子のエ
ネルギー E の単位時間の増分に他ならない.そこで
E = cp0
として pi pi = m2 c2 に代入すると
q
E = c p2 + m2 c2 = γmc2
が得られる.粒子の速度 v が c に比べて十分小さいとき,この式は近似的に
Ã
v2
E = 1− 2
c
!−1/2
1
mc2 ≅ mc2 + mv 2
2
とかける.確かに,第2項に見なれた古典的な運動エネルギーが出てくる.第1項は相対
論によって新たに認識されることになったエネルギーである.つまり,v = 0 であっても
E = mc2 として存在するエネルギーで,
(静止)質量エネルギーと呼ばれる有名な式であ
7
る.なお,4元運動量の第 0 成分がエネルギーに対応していることから分かるように,エ
ネルギーの保存則および運動量の保存則は,相対論では4元運動量の保存として自然に1
つの形にまとめられる.
ところで,運動する物体のエネルギー γmc2 を,静止しているときのエネルギー mc2
と比べて,運動する物体では質量が γ 倍になる,と考えてもよさそうに思うかも知れな
い.実際,そのように書かれている本も目にする.しかし,この考え方は正しくないこと
を注意しておく.一般相対論まで学んで,慣性力と重力の等価性を考えるとき,この解釈
の不自然さに気づくことになるだろう.
ふつうの水素の原子核は質量 mp = 1.6726 × 10−24 g をもつ陽子1個だけから成る
が,重水素と呼ばれる,陽子と中性子各1個から成る原子核をもつ水素がある.中性子
の質量は mn = 1.6749 × 10−24 g であるから,単純に陽子と中性子を合わせた質量は
mp + mn = 3.3475 × 10−24 g であるが,同じ構成である重水素の原子核の質量は md =
3.3436 × 10−24 g で
∆m = (mp + mn ) − md = 3.9 × 10−27 g
だけの質量差がある.これは 相対論によれば
∆E = ∆mc2 = 3.5 × 10−6 erg
に相当し,重水素の原子核において陽子と中性子を結合するエネルギーになっている.
∆m が小さいため,一見すると質量エネルギーなんてたいしたことはないように見える
かも知れないが,例えば 1 g の質量エネルギーがどれくらいの大きさになるか自分で計算
してみるとよい.古典物理の枠内では質量の保存は独立して絶対的なものであったが,相
対論は質量とエネルギーの等価性を明らかにし,質量エネルギーが光子のエネルギーや粒
子の運動エネルギーなど他のエネルギーに転換できることを示した.そして,その愚かな
応用として原子爆弾や水素爆弾がつくられたのである.
最後にもう一つ重要なことに触れておこう.古典的運動量を p = mv として単純に当
てはめると,質量がゼロである光子は運動量を持たないことになる.しかし,コンプトン
散乱など様々な実験事実が示しているように,もちろんこれは正しくない.相対論では,
E = hν, m = 0 の光子の4元運動量の内積が
i
pi p =
µ
hν
c
¶2
− p2 = m2 c2 = 0
であることから,光子は
|p| = hν/c
の運動量をもつことが自然に説明されるのである.ここで,h は量子論でおなじみのプラ
ンク定数である.
8
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