Comments
Description
Transcript
高大接続改革を追う - Kei-Net
特 集 高大接続改革を追う 中間まとめ(案)と 大学入学希望者学力評価テストで 問われる思考力・判断力・表現力とは 昨年 12 月に中央教育審議会から「新しい時代 会議の中間まとめ(案)について報告する(第5 にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教 回までの内容に基づく)。Part 2として、「大学 育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革につ 入学希望者を対象に、これからの大学教育を受け いて」が答申され、今年1月には「高大接続改革 るために必要な能力について把握することを主た 実行プラン」が文部科学省から公表された。3月 る目的とし、十分な知識・技能の習得を前提に、 には高大接続システム改革会議が発足し、高大接 思考力・判断力・表現力を中心に評価する」と書 続改革を実現するために、高等学校基礎学力テス かれている大学入学希望者学力評価テストについ ト(仮称)および大学入学希望者学力評価テスト て、河合塾で検討した思考力・判断力・表現力に ( 仮称、以下仮称を省略 ) の在り方、個別選抜の 関する問題を紹介する。 改革の推進方策、 高校生や高校の多様な学習活動・ なお、この問題は7月上旬までに公表された情 学習成果の評価の在り方について検討を開始し、 報で作ったものである。今後、広く高校の先生方 具体的な方策をまとめることとなっている。年内 からのご意見をいただきながら、問題の方向性・ に最終のまとめが提出される予定だが、それに先 内容・在り方などを検討していきたいと考えてい 立ち、8月下旬に中間まとめが公表される予定だ。 る。 本特集では、Part1 で高大接続システム改革 1 高大接続システム改革会議の中間まとめ(案)……………………………p3 Part 2 思考力・判断力・表現力等を評価する問題とは……………………………p9 Part C ONTENTS 2 Kawaijuku Guideline 2015.9 「思考力・判断力・表現力」とは何か 「教科型問題」 「合教科・科目型」「総合型」の問題 特集 高大接続改革を追う 中間まとめ(案) 1 Part 高大接続システム改革会議の中間まとめ(案) 高大接続改革の全体像と背景 体的策定・公表、カリキュラム・マネジメントの確立が ポイントである。それとともに、アクティブ・ラーニン まず、高大接続改革の全体像を簡単に整理する。今回 グへの質的転換をめざしている。 の改革は、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の なぜ、三者を一体的に行うのか。7・8月号で掲載し 一体的な改革である<図表1>。それぞれについて2つ た下村文部科学大臣へのインタビューにもあったように、 ずつポイントを挙げる。 いまの小学生や中学生が大人になる頃は、先を見通すこ 高等学校教育改革のポイントの1つ目は、学習指導要 とが難しい社会になり、現在とは社会や職業が大きく変 領の抜本的見直しとアクティブ・ラーニングの充実であ わっている可能性がある。近代の工業化社会、人口が増 る。次期学習指導要領については、教育課程企画特別部 加し、経済も成長していた時代は、高校、大学へ進学す 会での議論が始まっており、この夏をめどに論点整理を る過程で、主として知識・技能を確実に習得したかを問い、 公表する予定だ。2つ目は、高校教育の質の確保・向上 それに基づき選抜する仕組みでよかったかもしれない。 を図り、生徒の学習改善に役立てるため「高等学校基礎 しかし、少子高齢化社会、成熟した社会においては、い 学力テスト」を導入することである。 ろいろな能力を持った子供たち一人ひとりを成長させる 大学入学者選抜改革としては、1つは各大学の個別選 ような学校教育が必要であり、子供たちが自分の夢や目 抜はアドミッション・ポリシー(入学者受入方針)にお 標を実現させるために学び、努力した積み重ねを大学入 いて明確化し、多面的な選抜方法にすること。もう1つは、 学者選抜で評価し、さらに大学教育を通じて多様な能力 思考力・判断力・表現力を中心に評価する「大学入学希 を育み、社会に送り出していく仕組みに変えていかなけ 望者学力評価テスト」の導入である。 ればならないという考えがベースにある。 大学教育改革としては、先に述べたアドミッション・ 高等学校教育改革と大学入学者選抜の改革については、 ポリシーのほか、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・ 一方が変わらないともう一方も変わらないという話が度々 実施方針) 、ディプロマ・ポリシー(学位授与方針)の一 出てきており、そうならば、一緒に変えようということだ。 <図表1>初等中等教育から大学教育までの一貫した接続イメージ (文部科学省 第5回高大接続システム改革会議) Kawaijuku Guideline 2015.9 3 <図表2>高校教育の質の確保・向上に向けた全体的な取り組みについて(検討・たたき台) (文部科学省 第5回高大接続システム改革会議) からの大学教育を受けるために必要な能力について把握 高等学校教育改革 することが主な目的である。 全体像と高等学校基礎学力テストの位置づけ 高等学校教育改革については高等学校基礎学力テスト 高等学校基礎学力テストの概要 だけが注目されがちであるが、高大接続システム改革会 以下は第5回の中間まとめ(案)等をもとに高等学校 議の議論を見ると、<図表2>のようにテストは高等学 基礎学力テストの概要についてまとめたものである。 校教育の質の確保・向上に向けた取り組みの1つである。 1目的 全体的な取り組みの柱は3つあり、高等学校基礎学力 ・高校生が身につけるべき基礎学力の確実な育成に向けて、 テストの創設も含む「多面的な評価の推進」 、 「教員の指 高校段階の基礎的な学習の定着度を把握・提示できる仕組 導力向上」 「教育課程の見直し」である。そして、高校に みを設け、生徒の学習意欲の喚起、学習の改善を図るとと おける多様な学習活動のうち、教科・科目や総合的な学 もに、その結果を指導改善等にも生かすことにより、高等 習の時間にかかる部分の評価を行うのが高等学校基礎学 学校教育の質の確保・向上を図ること。 力テストである<図表3>。さらに、高等学校基礎学力 2対象者 テストを核に高等学校教育における PDCA サイクルを構 ・学校単位での参加を基本としつつ、生徒個人の希望に応じ (注1) 築しようという考えである 。 ところで、高等学校基礎学力テストと大学入学希望者 学力評価テストは新たなテストとして一緒に検討されて た受検も可能。 ・ボリュームゾーンとなる平均的な学力層や、学力面で課題 のある層を主な対象。 いるが、学校教育の中での位置づけ・機能は異なってい 3具体的な仕組み る。高等学校基礎学力テストは、生徒の高校段階におけ ①対象教科・科目・出題範囲 る基礎的な学習の達成度を評価し、高校の学習の評価、 ・平成 31 年度導入当初の現行学習指導要領下では、国語、数 学習改善に利用することが主な目的で、副次的な活用方 策として大学入学者選抜における基礎的な学力把握にも 利用できるということだ。一方、大学入学希望者学力評 価テストはその名前が示す通り、大学入学希望者がこれ 学、英語。範囲は、原則として共通必履修科目の「国語総合」 「数学Ⅰ」 「コミュニケーション英語Ⅰ」を上限。 ・次期学習指導要領では、国語、数学、英語の実施状況等を 踏まえて、地理歴史や公民、理科等を追加導入。 (注1)詳細は第5回高大接続システム改革会議の「高等学校基礎学力テスト(仮称)を活用した高校教育における PDCA サイクルの構築(案)」をご参照 ください。 4 Kawaijuku Guideline 2015.9 特集 高大接続改革を追う 中間まとめ(案) <図表3>高等学校における今後の評価の在り方について(検討・たたき台) (文部科学省 第5回高大接続システム改革会議) ・履修した翌年度以降の受検が基本で、選択受検も可。 ・義務教育段階の内容も一部含める。 ・タブレットなどモバイル端末や学校にあるコンピュータを活 用して実施する方法が考えられるが、今後具体的に検討。 ②問題の内容 ・10 段階以上の多段階で本人に結果を提供。 ・基礎的な知識・技能を中心としつつ、思考力・判断力・表 ④実施場所・回数・時期 現力を問う問題もバランスよく出題。 ・実社会のさまざまな事物や事象に結びつけた問題、条件を 導き出す力を問う問題、解答を導く過程等を重視する問題、 解答を導く過程の不適当な点を指摘修正させる問題など、 さまざまな形態の問題を導入。 ③出題・回答・成績提供方式 ・選択式の問題でも正誤式や多肢選択式に加え、多様な解答 方法を導入。例えば、 「連問型」と言われる出題する課題に ・学校単位の受検の場合は、原則、当該高校で実施し、平日 実施も可能。 ・導入当初は2年次および3年次において、夏から秋までを 基本に年間2回実施。在学中に4回。 ・1科目当たりのテスト時間の目安は、おおむね 50 〜 60 分 程度を基本。 ・CBT-IRT が導入された場合は、時期・回数を制限せずに学 校や生徒の都合に合わせて運用可能。 対し、複数の問題を順次出題し解答を求める問題(CBT が ⑤受検料 前提)や「連動型複数選択式」 (P 8参照)と言われる出題 ・1回当たり数千円程度の低廉な価格設定を検討。 する課題に対し、選択した解答の組み合わせに応じて複数 ⑥活用の在り方 の回答が成立する方式など。 ・生徒が主体的に活用するとともに、教員が高校での指導改 ・さらに記述式も導入。導入当初は短文記述式を一部試行実 善に生かすことを基本。 施することを検討。次期学習指導要領の実施に併せて本格 ・国や都道府県等の教育施策の改善にも活用。 的な記述式の問題を導入。 ・副次的な活用方策として、一部の推薦・AO 入試の受検者層 ・英語は、4技能をバランスよく育成することが重要で、4技 能を測ることができるテストを導入。 ・複数回実施のため IRT を導入する方向で今後さらに詳細な 制度設計を行う。 ・問題の難易度を変えたりすることのできる適応型テストへの 拡張が可能な CBT の導入について検討。実現可能性も踏ま えつつ、紙によるテスト実施も念頭に置きつつ検討。 を特に念頭に置きつつ、生徒が基礎学力を提示または大学 等が基礎学力を把握するための方法としても想定。 ・現行の学習指導要領下での実施となる平成 31 〜 34 年度ま では「試行実施期」として、原則、大学入学者選抜や就職 には用いない。平成 35 年度以降の大学入学者選抜で活用す る場合は、原則として3年次の結果を活用。 ここで注目されるのは、 高等学校基礎学力テストは、 「試 Kawaijuku Guideline 2015.9 5 行実施期」である現行学習指導要領下では大学入学者選 るための評価方法として、大学入学希望者学力評価テス 抜には用いず、その間得られた実証的なデータや関係者 ト、自らの考えに基づき論を立てて記述する形式の評価、 の意見等をもとに検証を行い、その結果に基づき必要な 調査書、活動報告書、エッセイ、面接等が例示されている。 措置を講じるとされた点である。 特に、大学入学希望者学力評価テストについては、知 識・技能だけでなく思考力・判断力・表現力を評価する ことになるため、個別大学においては、大学入学希望者 大学教育改革 学力評価テストを多面的・総合的評価の一環として用い て、知識・技能、思考力・判断力・表現力を評価し、個 3つのポリシーの策定を法令上義務付け 別試験では、 「主体性を持って、多様な人々と協働して 大学教育では初等中等教育で能動的学習の方法を身に 学ぶ態度」を多面的・総合的に評価するように求めている。 つけた多様な入学者の力をさらに向上させるための、実 それを支える仕組みとして、アドミッション・オフィ 効性のある教育方法の確立が求められている。 スの整備・強化、アドミッション・オフィサーなど専門 その方策の1つが、ディプロマ・ポリシー、カリキュ 人材の育成・配置など、各大学の入学者選抜実施体制の ラム・ポリシー、アドミッション・ポリシーについて、 充実・強化が不可欠であるとしている。 一体的に策定し公表することを法令上義務付けることで もう1つ重要なのが、多面的・総合的評価に関する選 ある。国は3つのポリシーについてガイドラインを策定 抜手法や評価方法の開発である。この点について、国は する予定だが、それぞれの中身を詳しく定めるわけでは 大学と協力しながら開発に取り組むとともに、多様な財 ない。各大学がどの程度まで具体化するのか、注目する 政支援を行い、各大学の入学者選抜の改革を促す予定だ。 必要があるだろう。 ところで個別選抜に関係することとして注目されてい さらに3つのポリシーに基づいて、大学教育において たのが、高大接続改革答申で、一般入試、推薦入試、 体系的なカリキュラム編成や、能動的学修への転換、学 AO 入試の区分を廃止し、新たなルールを構築すると提 修成果の把握・評価を実効化することが重要だ。そのた 言されていた点である。この点について具体的な言及は めに教学マネジメントの重要性が指摘されている。 なく、個別大学が共通の新ルールによる入学者選抜改革 認証評価制度改革も行い、3つのポリシーがガイドラ に着手できるよう、関係者間で具体的な検討を進めるこ インを踏まえた適切なものになっているか、各ポリシー と、新たなルールについて各大学に十分な余裕を持って 間の整合性や一体性があるか、学生を選抜する方法がア 予告する必要があると述べるにとどまっている。 ドミッション・ポリシーに基づいた具体的な方法になっ ているかをチェックできるように改正する予定だ。 大学入学希望者学力評価テストの概要 以下は、第5回の中間まとめ(案)等をもとに大学入 大学入学者選抜改革 学希望者学力評価テストの概要についてまとめたもので ある。 個別大学における入学者選抜改革の促進 1基本的な考え方 中間まとめ(案)では、これまでの大学入学者選抜が、 ①目的・対象者 知識の暗記・再生や暗記した解法パターンの単なる適用 ・大学入学希望者を対象に、大学教育を受けるために必要な の評価に偏りがちであったこと、思考力等を問う問題で 能力について把握することを主たる目的とし、十分な知識・ あっても答が1つあるいは複数個に限られていたことが問 技能が習得されていることを前提に、思考力・判断力・表 題であると指摘している。そして、こうした入学者選抜が 現力を中心に評価。 高校における能動的学習の推進の妨げにもなっていた。 (注2) 今後の各大学の入学者選抜の方法を、 「学力の3要素」 ②思考力・判断力・表現力を構成する能力の明確化とそ れを踏まえた作問 を多面的・総合的に評価するものへと転換することが必 ・大学入学段階で求められる思考力・判断力・表現力を構成 要であるとし、その出発点として先に述べたアドミッシ する能力概念の枠組みについて整理し、それらの能力のう ョン・ポリシーの明確化を求めるとしている。 ち、特に自ら問題を発見し、答のない問題に答を見出して 学力の3要素を大学入学者選抜において適切に評価す いくために必要な諸能力を重視し、その諸能力を評価する (注2)中間まとめ(案)で示されている学力の3要素は、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」 。 6 Kawaijuku Guideline 2015.9 特集 高大接続改革を追う 中間まとめ(案) 作問を各教科・科目について行う。現在、作業グループでは、 深い内容を比較検討する問題、多数の正解があり得る問題、 国語、数学、物理、世界史、英語について具体的な作問の 複数の段階にわたる判断を要する問題、他の教科・科目や 在り方を検討中。 社会との関わりを意識した内容を取り入れた問題などを導 2具体的な制度設計の考え方 ①対象教科・科目 入。 ・選択式でより深い思考力を問う問題の例としては、 「連動型 (次期学習指導要領下、平成 36 年度〜) 複数選択問題(仮称) 」 (P 8参照)などの導入を考慮して検 ・次期学習指導要領の趣旨を十分に踏まえ、特に思考力・判 討。 断力・表現力を構成する諸能力をより適切に評価できるも のとする。 ・地理歴史、公民については知識・技能の判定機能に加え、 ・記述式問題は平成 32 〜 35 年度(現行学習指導要領下)で は短文記述式問題の導入、平成 36 年度以降の次期学習指 導要領下では、より文字数の多い記述式問題を導入。ただし、 次期学習指導要領では、例えば歴史系科目においては歴史 記述式問題の導入にあたっては、テスト日程の検討、コン 的思考力等を含め、思考力・判断力・表現力を構成する諸 ピュータによる採点支援体制の導入や多数の採点者の確保、 能力の判定機能を強化。 採点基準の作成・研修といった解決すべき課題を列挙。 ・次期学習指導要領での導入が検討されている「数学と理科 の知識や技能を総合的に活用して主体的な探究活動を行う 新たな選択科目」に対応する科目を実施。 ・数学、理科は、知識・技能の判定機能に加え、思考力・判 断力・表現力を構成する諸能力の判定機能を強化。 ・国語は、知識・技能の判定機能に加え、例えば言語を手掛 ③ CBT の導入 ・平成 36 年度から始まると想定される次期学習指導要領下の テストから CBT を実施。 ・平成 32 〜 35 年度は、高等学校基礎学力テストの検討状況 や実績を踏まえつつ、CBT の試行に取り組む。 ④結果の表示の在り方等 かりとしながら、限られた情報のもとで物事を筋道立てて ・多段階による表示提供のほか、パーセンタイル値(注3)に基 考え、的確に判断し、相手を想定して表現するなど、思考力・ づき算出されたデータ、標準化得点、出題分野ごとの正答 判断力・表現力を構成する諸能力の判定機能を強化。 数や誤答数などを大学に提供することを検討。 ・英語は4技能について、例えば情報を的確に理解し、語彙 3実施方法 や文法の遣い方を適切に判断し活用しながら、自分の意見 ①実施回数、実施時期 や考えを相手に適切に伝えるための、思考力・判断力・表 ・年複数回実施を導入するには、複数の問題間の難易度を平 現力を構成する諸能力を評価。民間との連携の在り方も検討。 ・次期学習指導要領における教科「情報」に関する検討と連 動し、対応する科目を実施。 (現行学習指導要領下、平成 32 〜 35 年度) ・思考力・判断力・表現力を構成する諸要素をより適切に評 準化するため IRT 等に基づく仕組みを導入することが必要。 ・年複数回実施の方法や日程等については十分な検討を行う。 ②英語における民間の知見の活用 ・4技能を重視する観点から、民間との具体的な連携の在り 方についてさらに検討。 価できるものとする。 ・地理歴史、公民は、知識・技能の判定機能に加え、例えば 歴史系科目では歴史的思考力等の判定機能を強化。その際、 これからの予定と課題 単なる暗記などによる知識の量や細かな知識の有無により 今後の予定だが、8月下旬までに検討状況を中間的に 判定することがないよう出題を工夫。 整理した案(中間まとめ)が出て、年内をめどに最終報 ・数学、理科、国語については、知識・技能の判定機能に加え、 思考力・判断力・表現力を構成する諸能力の判定機能を強化。 告が提出される予定である。 また、先述のとおり教育課程企画特別部会もこの夏を ・英語は4技能を重視して評価。 めどに論点整理を行う予定である。第 13 回会議(8 月5 ・試験の科目数についてはできるだけ簡素化。 日)では、日本と世界の動きを関連付けて捉え、歴史の ②出題・解答・成績提供方法 考察を促す概念を重視し、 近現代の学習を中心とする「歴 ・多肢選択式の問題に加え、問題に取り組むプロセスにも解 史総合(仮称) 」 、持続可能な社会づくりに必須となる地 答者の判断を要する部分が含まれる問題、記述式問題など 球規模の諸課題や地域課題を解決する力を育む「地理総 を導入。 合(仮称) 」 、 「公共」等について提案された。これまで述 ・多肢選択式の問題については、分野の異なる複数の文章の べたように、高大接続システム改革と次期学習指導要領 (注3)素点をもとに相対的な位置情報を付加したもの。例えば、計測値として 100 個ある場合、5 パーセンタイルであれば小さい数字から数えて 5 番目に 位置し、50 パーセンタイルであれば小さい数字から数えて 50 番目に位置し、95 パーセンタイルであれば小さい方から数えて 95 番目に位置する。 Kawaijuku Guideline 2015.9 7 は深く関連している。教育課程企画特別部会の論点整理 みの導入ができなければ、当面1回とも読めるのではな にも注目しておきたい。 いか。 まだ中間まとめの最終案ではないが、CBT-IRT の導入 なお、両テストとも中間まとめで具体的な作問イメー については、高等学校基礎学力テストでの導入をめざす ジが公表されるのではないかと期待されていた。しかし が、紙によるテストの実施も可能性として残し、推薦・ 高等学校基礎学力テストは本文に「科目ごとのテスト問 AO 入試での利用については、次期学習指導要領下の平 題イメージを早急に提示する」 、大学入学希望者学力評 成 35 年度以降とし、仕組みや選抜資料としての信頼性 価テストは、 「作問イメージの例を可能な限り早く明らか を確立する時間を確保することになった。大学入学希望 にすることとしたい」と注に書かれていることから、中 者学力評価テストについては、大学入学希望者の判定で 間まとめでは作問イメージは公表されないようだ。 あるため、より一層慎重な書き方となっている。早急に 中間まとめ(案)全体として、高大接続改革・次期学 新しいテストを新しい内容・新しい仕組みで導入すると 習指導要領では、十分な知識・技能が前提だとしつつ、 ならなかった点については、高校として一安心ではない 思考力・判断力・表現力が重視されることは間違いない。 だろうか。 まず現行の教科・科目の中でそれぞれの思考力・表現力・ もう1つ気になる複数回実施についてだが、高等学校 判断力を適切に評価するテストを作成し、その際に多様 基礎学力テストでは学年・回数等が書かれたが、大学入 な解答方法を採用するという方向性である。 学希望者学力評価テストについては具体的な言及がない。 ガイドラインでは、10 月号の「高大接続改革を追う」 中間まとめ(案)では「複数回実施の導入には、IRT 等 で中間まとめについて報告する。まだ検討中の事項も多 に基づく仕組みを導入することが必要」と記載があった。 いため、今後も同コーナー等を通じて先生方に情報を提 逆に言えば IRT 等の複数回のテストを平準化できる仕組 供する予定である。 コラム 連動型複数選択問題 選択式だがより深い思考力を問う問題の例として「連動型 パターンを分析して回答する。回答は、 「状況」 「問題」 「解決」 複数選択問題(仮称) 」が提案されている。 などお互いに連動する複数の選択肢群からそれぞれ選択肢を この問題は、問題発見・解決の考え方や事例を含む複数の 選び、その組み合わせが正しく選択できているかを採点する。 文章を読み、そこで語られている考え方・取り組み方の共通 その際、正答となる組み合わせは複数あることになる。 選択肢群 選択肢 【状況/ Context】 (C0)実世界でこれまでの理論では説明できない事象が発見された。 (C1)解決すべきだと感じる社会問題に直面した。 (C2)いつもと異なる研究環境に身を置き、刺激を受けた。 (C3)コンピュータを使える環境にいるので、使ってみたいと思った。 (C4)研究の新しいアイデアを思いついた。 (C5)これまでとは異なる視点の研究を考えている。 (C6)これから取り組む研究テーマを考えている。 (C7)シミュレーションで生成された現象を理解しようとしている。 (C8)結果がわからない複雑な設定の振る舞いを理解したい。 (C9)極端な設定の場合の振る舞いについてはわかっている。 【問題/ Problem】 (P0)一人で考えているだけでは、よりよいものにはならない。 (P1)すでに他の人が行ってきたアプローチでは新しいことは生まれにくい。 (P2)設定が複雑であると、そこで何が起きているのかが理解できない。 (P3)これまで行われてきた方法が正しいとは限らない。 (P4)研究対象そのもののなかで新しい視点を見出すことは難しい。 (P5)シミュレーションでの実験は楽しむことができる。 (P6)単に実行するだけでは、何が起きているのかわからない。 (P7)複雑な現象を解析的に理解するのは難しい。 (P8)結果を可視化しただけでは、理解したことにならない。 (P9)それらは解析しやすいが、現象の本質とはいえない。 【状況】 (C6)-【問題】 (P1)-【解決】 (S2) (C6)これから取り組む研究テーマを考えている。 (P1)すでに他の人が行ってきたアプローチでは新しいことは生まれにくい。 (S2)これまでとは異なる視点で研究に取り組む。 【状況】 (C8)-【問題】 (P7)-【解決】 (S8) (C8)結果がわからない複雑な設定の振る舞いを理解したい。 (P7)複雑な現象を解析的に理解するのは難しい。 (S8)シミュレーションを実行して振る舞いを観察する。 【状況】 (C7)-【問題】 (P6)-【解決】 (S6) (C7)シミュレーションで生成された現象を理解しようとしている。 (P6)単に実行するだけでは、何が起きているのかわからない。 (S6)結果をグラフで可視化し、振る舞いを理解する。 … 【解決/ Solution】 (S0)他の概念との関係を考えてみる。 (S1)なるべく扱いやすく理解可能な設定で実験を始める。 (S2)これまでとは異なる視点で研究に取り組む。 (S3)研究仲間一緒に議論しながら、研究を進める。 (S4)素朴な疑問を大切にし、そこから研究へとつなげる。 (S5)2つの極端な設定の間の中間領域を研究する。 (S6)結果をグラフで可視化し、振る舞いを理解する。 (S7)これまで当たり前とされてきた前提を疑う。 (S8)シミュレーションを実行して振る舞いを観察する。 (S9)なぜそのような振る舞いになったのかを考える。 組み合わせによる回答(複数正答あり) (文部科学省 第5回高大接続システム改革会議) 8 Kawaijuku Guideline 2015.9 特集 高大接続改革を追う 思考力・判断力・表現力等を評価する問題とは Part 2 思考力・判断力・表現力等を評価する問題とは 河合塾では、 「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に関するプロジェクトを立ち上げ、今回の高大接続改革で提 起された重要なテーマである「思考力・判断力・表現力」を評価する問題について議論し、サンプル問題の作成を行っ た。その過程で、そもそも「思考力・判断力・表現力」とは何か、それはどのような問題で測ることができるのか、ど のような内容が適切かなど、議論を重ねてきた。ここでは、「思考力・判断力・表現力」について共通認識を持つため に必要な項目を確認するとともに、 「思考力・判断力・表現力」を評価する問題として、「教科型」「合教科・科目型」 「総 合型」の3つに分けてサンプル問題を提示する。 「思考力・判断力・表現力」とは何か <図表1>新テストで評価すべき能力等のイメージ 論理的な思考の活動 「思考力・判断力・表現力」といっても、 は、高等学校基礎学力テスト(仮称) 、大学 入学希望者学力評価テスト(仮称)で評価す べき能力等(特に思考力・判断力・表現力等 のイメージ)として、<図表1>を提示して いる。 <図表1>は、国立教育政策研究所が平成 23 年度に高校2年生に対して行った「特定 の課題に関する調査(論理的な思考) 」を参 ②必要な情報を抽出し、 分析する ③趣旨や主張を把握し、 評価する ④事象の関係性について 洞察する が重要視されていることに基づき、特定の教 科によらず、高校生の論理的に思考する力の 状況を把握・分析した調査である。具体的に は、論理的に思考する過程での活動について、 ①〜⑥の 6 つの区分を設けて、各活動に係る 出題を行った。これに⑦として「思考の過程 や結論を適切に表現する」を追加して、<図 表1>が示された。 河合塾でもこれら7つの要素をもとに作問 を開始したが、議論がまとまらない状況が続 いた。そこで、そもそも「思考力・判断力・ 多くの資料や条件から推論に必要な情報を抽出し、それに基づいて分析する。 資料は、全体としてどのような内容を述べているのかを的確にとらえ、それについ て評価する。 資料に提示されている事象が、論理的にどのような関係にあるのかを見極める。 ⑤仮説を立て、検証する 前提となる資料から仮説を立て、他の資料などを用いて仮説を検証する。 ⑥議論や論証の構造を 判断する 議論や論争の論点・争点について、前提となる暗黙の了解や根拠、また、推論 の構造などを明らかにするとともに、その適否を判断する。 認知プロセスの分類 (一例) 問題解決 批判的思考 帰納的推論 知識統合 考にして作成された。この調査は、現行の学 習指導要領において思考力・判断力・表現力 資料から読み取ることができる規則や定義等を理解し、それを具体的に適用する。 ⑦思考の過程や結論を 適切に表現する 人によってイメージは異なる。文部科学省で 具体的な内容 ①規則、定義、条件等を 理解し適用する ①問題発見、②問題定義、③解法探索、④実行、⑤振り返り ①情報の明確化、②推論の基盤の検討、③推論、④行動決定・問題解決(メタ認知が全ステップに働く) ①事例収集、②仮説形成(事例、目標、知識、期待の制約を受ける) 、 (③一般化) 、④仮説検証(確 証バイアスが最大の制約として働く) ①アイデアを引き出す、②アイデアを付加する、③アイデアを選別・識別する、④振り返ってアイデア を分類・構造化する (文部科学省 第3回高大接続システム改革会議) <図表2>思考力・判断力・表現力に関する分類 第3回高大接続システム改革会議で提示された 「論理的な思考の活動」の番号 <①教科・科目固有の基本的な能力> □与えられた規則、定義、条件、知識等を理解し、それらを正確に運用する力 □事象のあり方や資料の意味・趣旨を、客観的に把握する力 □必要な情報を抽出し、客観的・論理的に分析する力 ① ③ ② <②教科・科目共通の思考力・判断力・表現力> □事象や複数の資料の、関係性について洞察する力 □与えられた知識等を前提に仮説設定や推論を行い、それを検証する力 □事象を一般化する、具体と抽象の次元を結びつける力 □議論や論証の手順・構造を理解し判断する力 □思考の過程や結論を論理的に表現する力 ④ ⑤ ⑥ ⑦ <③上の①②を統合するために必要な力> □与えられた情報・資料や自他の思考を、客観的に批判する力 □他者の立場に立ち、判断する力 表現力」とは何なのかについて、既存の入試 (河合塾) 問題なども分析しながら、本プロジェクトの 中で「思考力・判断力・表現力」を再考し細かく分類し そのほかに「事象を一般化する、具体と抽象の次元を結 直すこととした。 びつける力」「与えられた情報・資料や自他の思考を、 それが<図表2>の 10 項目である。 「思考力・判断力・ 客観的に批判する力」「他者の立場に立ち、判断する力」 表現力」としてひとくくりにするのではなく、 「教科・ の3項目が加わっている。 科目固有の基本的な能力」 「教科・科目共通の思考力・ 以下のサンプル問題では、本プロジェクトが独自に考 判断力・表現力」 「上記2つを統合するために必要な力」 えた「思考力・判断力・表現力」の分類に照らして、そ の3つに大きく分けた。<図表2>のうち7項目は、文部 れぞれの問題の「思考にあたって用いられる力」は、 科学省が示した<図表1>の7つの要素とほぼ同じだが、 10 項目のどれに該当するのかを示している。 Kawaijuku Guideline 2015.9 9 「教科型問題」 現行のセンター試験でも 思考力等を試す問題が 出題されている 教科型問題から考えてみよう。 もちろん、現行の大学入試センタ ー試験(以下、センター試験)で も、思考力等を試す問題は出題さ れている。 その代表例が、2010 年度セン ター試験(本試験)の「英語(筆 記) 」第 5 問である<問題例1>。 2人の Witness(目撃者)の話を 英文で理解し、両者の目撃談を統 合して、事故当時の状況を4つの 図から選択する問題である。この 問題を解く際に求められるのは、 時系列の変化を踏まえて、2つの 視点を統合すると同時に、図解と 英文内容を照らし合わせて、空間 情報を処理する能力である。 また、2011 年度センター試験 (本試験)の「政治・経済」第 1 問でも出題された。この問題はグ ラフを使って基礎的な理解力・分 析力を問うものであり、需要曲線 と供給曲線を素材としている。X 国とY国の間で労働移動の自由化 が行われていない前提のもと、横 軸を労働力、縦軸を賃金とした、 両国の需要曲線、供給曲線が図示 されている。この状況下で、二国 間に労働移動の自由化が起こった 場合、どのような変化が起こるの かを思考させる問題である。当然、 賃金が高いX国に、Y国から労働 者 が 流 入 す る。 そ れ に 伴 っ て、 Dx、Dy の需要曲線は変化しない が、X国の供給曲線(Sx)は右に、 Y 国 の 供 給 曲 線(Sy)は左に変 化するということを判断しなけれ ばならない。数学的にいえば「三 段論法」を正確に使う必要がある 10 Kawaijuku Guideline 2015.9 <問題例1>教科型問題 「交差点における自動車の進路」 (英語) 特集 高大接続改革を追う 思考力・判断力・表現力等を評価する問題とは その場で臨機応変に思考する力 が弱いことが示唆される。 また、文系・理系別の正答率に ついて見ると、「英語」の問題は 42 と 43 番は文系が 1.3%上回っ ているが、残り3つの設問は理系 が文系を上回っている。「政治・ 経済」の問題は、理系が文系を 6.6%上回っていた。 もう1つ地理の問題を紹介す る<問題例2>。この問題からは 河合塾で作問した問題である。地 理 の 問 題 で は、1820 年 か ら (2010 年度 センター試験本試験 第5問) 2010 年までのアメリカの移民数 〔思考にあたって用いられる力〕 ①教科・科目固有の基本的な 能力 ○ と、構成する人種・民族の割合を 与えられた規則、定義、条件、知識等を理解し、それらを正確に運用する力 事象のあり方や資料の意味・趣旨を、客観的に把握する力 ○ ○ ②教科・科目共通の思考力・ 判断力・表現力 ヒストグラムで示している。 (1) 必要な情報を抽出し、客観的・論理的に分析する力 で は 送 り 出 し 国 の 当 時 の 状 況、 事象や複数の資料の、関係性について洞察する力 与えられた知識等を前提に仮説設定や推論を行い、それを検証する力 (2)は受け入れ国であるアメリ 事象を一般化する、具体と抽象の次元を結びつける力 カの当時の状況、(3)はそれぞ 議論や論証の手順・構造を理解し判断する力 思考の過程や結論を論理的に表現する力 ③上の①②を統合するために 必要な力 れの国から移民が主に流入した 与えられた情報・資料や自他の思考を、客観的に批判する力 他者の立場に立ち、判断する力 地域の現在の自然環境と都市の 状況を選択させる連動型の問題 河合塾再現答案による正答率(データ件数 10,509 名) 解答番号 上位層 中位層 下位層 文系-理系 41 92.8% 74.0% 49.9% -4.0% 42 91.4% 71.0% 43.9% 1.3% 43 76.1% 51.2% 33.3% 1.3% 44 88.1% 69.0% 46.2% -2.7% 45 94.1% 74.4% 43.5% -1.7% になっている。aはドイツ、bは イタリア、cはアジア諸国であ る。 例 え ば、 a の ド イ ツ で は、 1850 ~ 60 年に矢印があるので (1)では 1850 年代のドイツの 様子が記述されている文章を選 択 す る。( 2) で は 同 じ く 1850 年代のアメリカの状況、(3)は 問題になっている。 ドイツから主に流入したのはアメリカ中西部なので、ミ 河合塾では、センター試験直後に、高3生・既卒生の シシッピ川の記述がある文章が正解になる。 協力のもと答案を再現し、解答内容を集計・分析してい なお、(1)の設問は、世界史の内容である。それに る。注目されるのは、これらの問題においては、成績上 も関わらず、「合教科・科目型」ではなく、「教科型」の 位層と成績下位層 (注1) の正答率に大きな差がついたこ 問題例として提案したのは、「合教科・科目型」として とである。<問題例1>の英語の問題は概ね上位層の正 の出題の難しさを考えてのことだ。現行の学習指導要領 答率が 88 〜 94%(43 番は 76.1%)に対して、成績下 では、「地理歴史」の必履修科目は「世界史」(A または 位層は 43 〜 50%(43 番は 33.3%)と 40%を超える B を履修)であり、「地理B」の目標には「現代世界の 差がついている。 「政治・経済」の問題も、成績上位層 諸地域を歴史的背景を踏まえて地誌的に考察」とある。 の正答率が 75.7%だったのに対して、下位層は 36.8% そのため、今後、地理においても、世界史の知識を前提 と、センター試験としては差がついているのだ。このデ とした問題は出題されるのではないか、また出題可能な ータから、暗記中心に頼る下位層の生徒は、この問題で のではないかと考え、あえて「教科型」として提案した。 要求されているような「知識等を正確に運用する力」 「必 もちろん、「地理」と「世界史」の「合教科・科目型」 要な情報を抽出し、客観的・論理的に分析する力」など、 として見ることも可能だ。 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 (注1)成績上位層=偏差値 55.0 以上、中位層= 54.9 ~ 45.0、下位層= 44.9 以下としている。 Kawaijuku Guideline 2015.9 11 <問題例2>教科型問題 「アメリカ合衆国の移民と人種・民族分布」(地理) (図版提供 帝国書院) (河合塾) 12 Kawaijuku Guideline 2015.9 特集 高大接続改革を追う 思考力・判断力・表現力等を評価する問題とは 〔思考にあたって用いられる力〕 ①教科・科目固有の基本的な 能力 与えられた規則、定義、条件、知識等を理解し、それらを正確に運用する力 ○ 事象のあり方や資料の意味・趣旨を、客観的に把握する力 ○ 事象や複数の資料の、関係性について洞察する力 必要な情報を抽出し、客観的・論理的に分析する力 与えられた知識等を前提に仮説設定や推論を行い、それを検証する力 ②教科・科目共通の思考力・ 判断力・表現力 事象を一般化する、具体と抽象の次元を結びつける力 議論や論証の手順・構造を理解し判断する力 思考の過程や結論を論理的に表現する力 ③上の①②を統合するために 必要な力 ○ 与えられた情報・資料や自他の思考を、客観的に批判する力 ○ 他者の立場に立ち、判断する力 「合教科・科目型」 「総合型」 思考力や問題解決能力を測る 問題にはなりにくい !? そして、こうした問題点を解決するために、 「作問素材の バラエティを増やす」 「教科本質の思考力を測る問題にす る」などの配慮を行ったり、2の「総合型の試験科目」を 作成しようとすると、非常に難しい問題となるということ がわかった。 「合教科・科目型」 「総合型」とはどのような試験をイメ ージしているのか。第 15 回高大接続特別部会(2014 年 5月)で「合教科・科目型や総合型を導入する場合の構 成例(検討メモ) 」の中で示されたのが、次の5つである。 「パッチワーク型」問題では 「合教科・科目型」の意義は薄い? 1. 共通必履修科目を統合した試験科目を設定 そういった課題も踏まえながら、河合塾で作成したの 2. 総合型の試験科目を設定 が<問題例3>の「DNA とタンパク質」である。ただし、 3. 共通必履修科目の内容を教科型の問題に包含 これは「合教科・科目型」としてはふさわしくない例と 4. 理科、地歴、公民において合科目型の試験科目を設定 しての紹介である。 5. 上記の組み合わせ 問1は、化学と生物の両方で共通に学ぶ用語について 具体的には、1は、高校生全員が必ず履修する「国語 知識を問う問題、問2・4は生物、問3・5は化学の独 総合」 「数学Ⅰ」 「コミュニケーション英語Ⅰ」の3科目を 立した問題になっている。複数の科目の内容を問う問題 統合した試験科目を設定という主旨である。2は、特定の であり、「合教科・科目型」に当たるが、1つの設問に 教科・科目の履修を前提としない総合型の問題により構成 ついて化学と生物の両方の力を組み合わせて解く設問に される試験科目を追加して設定する。3は共通必履修科目 なっていない。「思考にあたって用いられる力」として の一部または全部の内容を教科型の試験科目の中で出題 も「必要な情報を抽出し、客観的・論理的に分析する力」 するということであり、 「物理のリード文を英文で出題」 「地 の1項目にしか該当していない。本プロジェクトでは、 理の問題の中で数学Ⅰレベルの計算力やデータ分析力を このような内容の問題を「パッチワーク型」と呼んでい 必要とする問題」といった例が示されている。4は、理科、 るが、これでは「合教科・科目型」としてはあまり望ま 地歴、公民において教科ごとに1つの試験科目に統合し、 しくないと考えている。複数の教科・科目の力を同時に 選択回答とする(例えば、物理、化学、生物、地学の内 問うような問題にすべきであろう。 容を統合した「理科総合(仮称) 」を設定し、2分野以上 では、具体的にどのような形式がありうるのだろうか。 を選択回答)という考え方である。 アメリカの ACT(注2)で参考になる問題が出題されて 河合塾では、これら1つひとつの構成例を検証し、この いる。問題の内容は、5人のバスケットボール選手が等 構成例に従い問題作成を進めた結果、いくつかの課題が 間隔に円形に並んでパスの練習をする。両隣にパスを出 見えてきた。例えば、1、3のタイプの問題は、非常に表 すことはできない、パスをもらった人はその直後にパス 層的な内容で教科知識を断片的に問う問題になり、思考 をした人にボールを戻してはいけないといったルールを 力や問題解決能力を測る問題になりにくいということが言 読み取って、最初にパスを出した選手に何回でボールが える。また、作問の素材や内容に限界がくるのではないか、 返ってくるかを考えさせる問題である。この問題を解く 教科の本質的な思考力を測る問題になりにくいのではない にあたっては、実現可能なパスの方法を、折れ線等を用 かという感想も挙がった。4のタイプの問題は、組み合わ いてモデル化し、実際にシミュレーションすることで正 せのバリエーションが増えるが、実際に作成してみると、 解を導く。シミュレーションの部分では数学的な思考力 教科本質の思考力を測る問題にはなりにくいのではないか。 が問われており、英語と数学の合教科型であると言える。 (注2)ACT, Inc.“PREPARING FOR THE ACT® COLLEGE READINESS ASSESSMENT 2014-2015” Kawaijuku Guideline 2015.9 13 <問題例3>合教科・科目型、総合型問題 「DNA とタンパク質」 (河合塾) 〔思考にあたって用いられる力〕 ①教科・科目固有の基本的な 能力 与えられた規則、定義、条件、知識等を理解し、それらを正確に運用する力 事象のあり方や資料の意味・趣旨を、客観的に把握する力 ○ 必要な情報を抽出し、客観的・論理的に分析する力 事象や複数の資料の、関係性について洞察する力 ②教科・科目共通の思考力・ 判断力・表現力 与えられた知識等を前提に仮説設定や推論を行い、それを検証する力 事象を一般化する、具体と抽象の次元を結びつける力 議論や論証の手順・構造を理解し判断する力 思考の過程や結論を論理的に表現する力 ③上の①②を統合するために 必要な力 与えられた情報・資料や自他の思考を、客観的に批判する力 他者の立場に立ち、判断する力 また、<問題例4>は、河合塾が作成した、英語で考 「他者の視点に立つ力」を測る「総合型」問題 える数学の問題である。人間は多くの場合、言語を用いて 「総合型」の一例として作問したのが、メンタルマップ 思考を進めている。そのため、語順と思考には深い関わり を用いた問題である。メンタルマップは、1996 年度一橋 がある。すると、ヨーロッパで発展してきた数学の問題を 大学で地理として出題され、当時は地理の問題なのかと 解く際には、英語で考えた方がわかりやすいということが 議論を巻き起こした。メンタルマップとは、ある個人の空 起こる。問題文でその具体例を示し、英語で数学の問題 間的な行動の基盤となる生活世界のありようをその個人自 を考えるにはどうすればいいかを示唆した上で、英語の語 身が書いたものであり、そこには当人の生活空間に関する 順のままで考えて命題の真偽を判断させる出題にした。 心理的イメージが反映される。そのため客観的な地図に比 べて、自分がよく行くところ、知っているところを詳しく 書く傾向がある。この問題は、問題文に記述されているメ 14 Kawaijuku Guideline 2015.9 特集 高大接続改革を追う 思考力・判断力・表現力等を評価する問題とは <問題例4>合教科・科目型、総合型問題 「英語で考える数学」 (河合塾) 〔思考にあたって用いられる力〕 ①教科・科目固有の基本的な 能力 ○ 与えられた規則、定義、条件、知識等を理解し、それらを正確に運用する力 事象のあり方や資料の意味・趣旨を、客観的に把握する力 必要な情報を抽出し、客観的・論理的に分析する力 事象や複数の資料の、関係性について洞察する力 与えられた知識等を前提に仮説設定や推論を行い、それを検証する力 ②教科・科目共通の思考力・ 判断力・表現力 事象を一般化する、具体と抽象の次元を結びつける力 議論や論証の手順・構造を理解し判断する力 ○ ③上の①②を統合するために 必要な力 思考の過程や結論を論理的に表現する力 与えられた情報・資料や自他の思考を、客観的に批判する力 他者の立場に立ち、判断する力 ンタルマップの概念を正確に把握し、それに基づいて他 しながら、教科・科目学習においても、 「合教科・科目型」 者の心理傾向を、他者の視点に立って理解し、表現でき 「総合型」問題で評価しようとする思考力・判断力・表現 るかという、教科の枠を超えた思考力を問うものであり、 力は存在している。さらにいえば、個別の教科・科目が本 「他者の立場に立ち、判断する力」を測るべく作成された 来持っている本質的な思考力・判断力・表現力の育成を ものである。 軽視してはいけない。まずは、日々の教科・科目学習にお このように問題を作成する中で、確かに、問題解決能力 いて、その前提となる教科固有の知識や技能をしっかり学 を育成するために、 「合教科・科目型」の出題とその指導 ばせつつ、本質的な思考力・判断力・表現力の育成を図 について考えられるという認識を持つことはできた。しか っていくことが重要である。 Kawaijuku Guideline 2015.9 15