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グ ル タ チ オ ン の 腸 管 吸 収
一8 食物 学会誌 ・第43号 グ ル タ チ オ ン の 腸 管 吸 収 食 品成分 の非栄 養 的機 能 に関 連 して 中 Intestinal 川 absorption 夫 of glutathione, bio-availability of Kazuo Lは 一 relating non-nutrients to the in foods NAKAGAWA 表1 植物性 食 品中の グルタ チオ ン含量 種 類 じめ に 含 有 量 グ ル タ チ オ ン(y-glutamyl-cysteinyl・glycine, GSH) は,動 物 だ けで な く植 物 や 細 菌 に も含 有 され,細 胞内 非 蛋 白性 チ オ ー ル の大 部 分 を 占 め て い る 。 細 胞 内 に豊 富 に 存 在 す る グ ル タ チ オ ンの生 理 的役 割 は 実 に多 彩 で ホウ レンソ ウ 0.51mmol/kg キ ャ ベ ツ O.47mmol/kg シ ロ ナ O.30mmol/kg O.2」.mmol/kg セ ブ リ ス O.27mrnol/kg あ る が1-4),動 物 組 織 に お け る 細 胞 内 酸 化 還 元 状 態 の カ パ 制 御 や グル タ チ オ ンs一 トラ ンス フ ェ ラ ーゼ の 媒 介 に ナ よ る体 外 異 物 の 解 毒 代 謝 へ の 関 与 は,毒 性 学 的 な 観 点 カ ボ チ ャ O.40mmol/kg か らみ て 重 要 な機 能 と考 え られ る 。 植 物 に お い て も除 ト マ ト O.94mrnol/kg 草 剤 な どの 農 薬 代 謝 に そ の 役 割 の 一 端 を求 め る研 究 が ク レ ソ ン O.22mmol/kg あ る5'6)。 カ リフ ラ ワー ク廿 エ 豆 一 表1に は,野 菜 類 な ど の 植 物 中 の グ ル タ チ オ ン含 有 量 を示 した7-9)。動 物 組 織 に く らべ る と低 い が,比 較 的 高 濃 度 に グル タ チ オ ンを 含 む 食 品 が あ る こ と が わ か る 。 エ ン 動 して い る グル タ チ オ ン関連 機 能 に 直 接 組 入 れ られ て シ 義 あ る い は機 能 を考 え る上 で 重 要 と思 わ れ,こ れに関 O.31mmol/kg メ ジ 小 麦(胚 芽) 小 文献 O.30mmol/kg ド ウ 枝 豆 エノ キタ ケ を 検 討 す る こ と は,食 品 中 グ ル タ チ オ ンオ ンの 存 在 意 O.20mmol/kg サ ヤ エ ン ドウ しか し食 晶 中 に含 ま れ る グ ル タ チ オ ンが,人 体 内 で 作 い る保 証 は な い 。 従 って 体 内 外 の接 点 とな る腸 管 吸 収 O.30mmol/kg 麦 >0.2mM O.28mmol/kg O.43mmol/kg O.25mmol/kg >0.2mM 7∼9)よ 粉 8.0,9.6mg% り引 用 。 す る論 文 を紹 介 す る 。 最 終 的 に ど の よ う な機 構 で 体 内 へ 輸 送 さ れ て い くか 不 II.ペ プ チ ドの 腸 管 吸 収 グ ル タ チ オ ン(以 下,GSHと 明 の 点 も多 い 。 小 腸 絨 毛 の 吸 収 上 皮 細 胞 の 腸 管 腔 側 に 略 す 。)の 腸 管 吸 収 に つ い て 述 べ る 前 に,一 般 的 な ジーま た は ト リーペ プ チ ド の腸 管 吸 収 を 概 観 して お く。 食 品 中 の蛋 白質 は消 化 液 中 の 加 水 分 解 酵 素 の働 きで 順 次 小 さ な ペ プ チ ドや ア ミノ 酸 に分 解 され て い くが, 衛生 学第1研 究 室 は い くつ か の ア ミノ 酸 輸 送 系 が あ り,腸 管 内 に あ る ア ミノ酸 は,こ れ らの輸 送 系 で 体 内 に 運 び 込 ま れ る こ と に は 疑 い は な い 。 しか し,ジ ペ プ チ ドや ト リペ プ チ ド な どの オ リゴ ペ プ チ ド(以 下,ペ プ チ ドと記 す 。)の腸 管 吸 収 と ア ミノ酸 輸 送 系 と の 関 係 は 必 ず し も明確 で は な い 。 ペ プ チ ドの 腸 管 吸 収 お よ び 加 水 分 解 に 関 して は, お よ そ2つ の 考 え 方 に ま と め られ る10)。 昭和6 3 年1 1 月 ( 1 9 8 8 年) とより基礎 1つの考え方は Newey & Smyth11.12) f - 9ー 収機構により吸収されるのであろうか。一般的なペプ 的な概念が出され Matthews13) らにより確立された細 チドの吸収機構に関する報告の数にくらべて, GSH 胞内消化説である。その骨子は,管腔内のペプチドは の吸収を主題とする報告は極めて少ない。時系列的に 粘膜上皮細胞の管腔側形質膜である刷子縁膜に存在す 拾い上げると, L i n d e r ら16) のプタ小腸刷子縁膜を用 る特異的なペプチド輸送系により細胞内に取込まれた いた放射性 GSH取込み実験, Hunjan & E v e r e d17> 後,細胞内のペプチダーゼによりアミノ酸に加水分解 されるというものである。この時起こるペプチド吸収 によるヒトの口腔粘膜からの i nv i v o吸収実験並びに は , Na+依存性,エネノレギー依存性であり,ペプチド Hagen & J o n e s18) の封管型ラット腸管ノレーフ。を用い の濃度勾配に逆らって輸送できる能動輸送形式をとる。 たi ns i t uでの腸間膜静脈還流実験の成績である。 このペプチド輸送系の駆動力は,刷子縁膜の内側に向 う H+ 勾配であることが明らかとなっている 14)。 ラット反転小腸を用いた i nv i t r o 吸収実験,および GSH 吸収機構と他のペプチド吸収機構との異同を 知るためには, GSH が加水分解されずに無変化のま もう 1つの仮説は Ugolev1S) の膜消化説に代表され ま小膜粘膜を透過できるかどうか,透過できるとすれ る考え方で,ペプチドは刷子縁膜表面に依存するペプ チダーゼにより加水分解され,徴繊毛間際に放出され ば GSH輸送はどのような形式で行われているのか, GSH 輸送系の吸収上皮細胞での局在性はどうか等が たアミノ酸は,このペプチダーゼに近接した,ベプチ 明らかにされねばならない。特異的な GSH輸送系が ダーゼとは異なる蛋白分子で構成されたアミノ酸輸送 あるとすれば, GSH の化学構造や細胞内外で起こる 系l とより細胞内に取込まれるというものである。 GSH 代謝の特徴も大きく関与するものと思われる。 ペプチド構造の違いにより吸収機構も異なると考え られ,どちらが本質的なものかは未だ解明されていな い。しかし前者の細胞内消化説は次に述べるいくつか の実験結果を説明するのに都合が良く,妥当性が高い と考えられている。すなわち,ペプチダーゼ活性の分 布をみると刷子縁膜よりも細胞内可溶性分画に活性が 高いとと;フ。ロリン残基を含むペプチドは刷子縁膜の ペプチダーゼ l とより加水分解をうけないものにもかか わらず細胞内に良く吸収されるとと;ペプチドが吸収 されるとき,そのペプチドを構成しているアミノ酸相 互に吸収阻害が起とらないこと;さらには,同じアミ ノ酸組成をもっペプチドとアミノ酸混合物の吸収速度 を比較すると,ペプチドとして与えられたアミノ酸の 方が速く吸収されるととなどである。また,このペプ チド吸収は,ペプチドの濃度が高い場合には濃度に比 例しない飽和現象を示す乙とから担体輸送形式と考え られ,ペプチド相互間に吸収における詰抗阻害が起こ ることもうまく説明することができる。 もっとも,ペプチドの刷子縁膜透過を伴う細胞内消 1 ) GSHの化学構造と代謝系 GSH のペプチドとしての化学構造の特徴は, γー グ ノレタミノレ基をもっ乙とである。この為 GSHの分解は ク 、 、 アミノベプチダーゼの加水分解作用を受け難く, γー ルタミノレトランスペプチダーゼ (GGT)が唯一最初の 分解酵素となる。 GGT の水解作用でグノレタミン酸が はずれたシステイニノレグリシンは, システイニノレグリ シンジペプチダーゼやアミノペプチダーゼによる加水 分解をうける。と乙ろが GGTは小腸上皮細胞刷子縁 膜の管腔側表面に局在することが判明し,これは他の 腎や肝の上皮細胞での GGT の局在性と一致してい る。システイニノレグリシンジペプチダーゼも細胞外面 l こ局在することから, GSH の分解は細胞外でしか起 り得ないと考えられている。一方,アミノ酸からの GSH生合成はすべて細胞内で進行する。合成系の律 速酵素は, γークツレタミノレシステインシンテターゼであ るが,細胞内のシステイン濃度が低いのでシステイン が実質的な律速因子となっている。このような代謝系 化が唯一のペプチド吸収機構ではなく,アミノ酸まで の特徴を考えると, GSH が細胞内に高濃度に存在す 加水分解されて吸収されるペプチドもあると考えられ ることがよく理解できる。 ている。さらに,アミノ酸輸送系に数種類の輸送担体 2 ) GSH は無変化の形で輸送されるか が存在すると同様に,ペプチド構造の違いに対応する 腸管内の GSHが血流中に入るためには,先ず粘膜 複数のペプチド輸送担体の存在を否定する証拠もない。 上皮細胞の刷子縁膜を透過して細胞内に入った後,血 いずれにしてもペプチドは,最終的にはアミノ酸とし 管側形質膜(側底膜)を透過する必要がある。細胞下 て血流中に入っていく。 で輸送機構を検索するために,刷子縁膜から得られる I II.グルタチオンの腸管吸収機構 トリペプチドである GSHも上に述べたペフ。チド吸 膜小胞がよく用いられるが,他の膜系の混入に気をつ けなければならない。 L i n d e r ら16) の用いた刷子縁膜 小胞は,高い GGT活性やアミノペプチダーゼ活性を - 1 0ー 3号 食物学会誌・第4 示すが,側底膜に局在する Na+,K+.ATPase活性は GSH を細胞から腸管腔内 l と分泌する輸送系があり, 低いので側底膜の混入は少ないと考えられる。との膜 C出た GSH は GGT I とより加水分解された 管腔内 I 小胞と [ S 3 S ] G S H O .1mMをインキュベートした場合, 後,アミノ酸として再吸収されると述べている。刷子 膜小胞から検出きれる放射活性は, 30秒後では 50~ぢが 縁膜上に複数の GSH輸送系があるのか,それとも 1 GSH,20%が GSSGとして回収され, 2 0 分後では2 3 つの輸送系が双方向に働くのか,次の GSH輸送形式 5 ぢが GSH,21~ぢが GSSG とともに今後検討されなければならない。 として回収された。浸透圧 を高くして膜小胞内容積を減少させると,回収される 3 ) GSH輸送の形式 放射活性も減少する乙とから,上の数字は膜に吸着さ o n e s18) は,小腸粘膜での GSH輸送が Hagen & J l取 れた放射活性をあらわすものではなく,膜小胞内ζ GSH 濃度に比例する単純拡散と飽和現象のみられる 込まれたものであると解釈された。すなわち GSHは 担体輸送の両方の形式で行われるととを示す結果を得 GGT I とより加水分解されることなく刷子縁膜を透過 ている。との場合 1mMGSH 以下の低濃度ではほと できるととになる。 んど担体輸送形式で取込まれる。との担体輸送は Na+ Hunjan & Evered の反転小腸を用いた実験m で 依存性であるが,管腔側だけを Na+無添加にした場 は , GSH は代謝されることなく柴膜側にあらわれ, 合には GSH輸送は抑制され,静脈還流液だけを Na+ 乙の GSH輸送は G l y G l y G l y ,G l y G l yまたは G l y - 無添加にすると輸送は促進された。側底膜に存在する Leuなどグリシンをもっペプチド l とより阻害されると Na+,K+-ATPase と刷子縁膜にある GSH輸送系と 報告されている。ただし, Hagen & J o n e s18) が指摘 の関連は不明である o 同じ研究グループ20) は,側底 するように,乙の実験では GSH は Ellman試薬に 膜小胞には血柴側から粘膜細胞内側へ向う Na+ と より定量されているので SH 化合物を詳細に識別す GSH の共輸送系が存在することをみているので,粘 るととは困難であり,測定された SH基が GSHで 膜上皮細胞には,刷子縁膜と側底膜の両極において性 あるのか加水分解産物である Cys-Glyや Cysである 質の異なる複数の GSH輸送系が存在するのかもしれ のか明確でない。 GSH が無変化のままで輸送された ない。 か疑問なしとはしない。また,使用された腸管標本は 有機陰イオン輸送阻害剤であるプロベネシドを用い 上皮細胞以外の粘膜下組織や筋層を含むので,最初管 ても,粘膜細胞の両極で GSH輸送の性質が異なる結 腔側に添加した GSHと援膜側にあらわれた GSHが 果を得ている山。すなわち,プロベネシドは,管腔側 同じものか確実性に欠ける。 乙れら 2つの実験にくらべてより生理的状態に近い に添加した場合には GSH輸送には影響しないが,側 底側に添加した場合には GSH輸送を阻害した。 o n e sの腸間膜還流実験の 条件で行われた Hagen&J L i n d e r らの刷子縁膜小胞でも Na+依存性で GSH 成績18) も GSH が代謝されずに腸管粘膜を透過する 濃度勾配に送らった取込みが起っており Hagen & 事を示唆する。 [H3]GSH を腸管ノレープに注入し,静 J o n e sの成績と矛盾しない。 Hunjan & E v e r e d17) の 脈還流液中にあらわれる放射活性を HPLCで分析す 反転小腸での GSH 輸送形式は, Na+非依存性でエ ると 7 0 ' " " 8 0 %が GSHであった。 GSH分解酵素阻害 ネjレギー非要求性の担体関与の促進拡散である。乙の 剤であるアシビチンや 違いは,既に述べた様に反転腸管では粘膜以外の筋層 GSH 合成酵素阻害剤である プチオニンスノレホキシミンを用いた還流実験でも乙の などの組織の通過も見ている事や,比較的高濃度の 結果が再現されたので,還流液中の [H3]GSHは GSHが用いられた事などによるのかもしれない。 GGT による分解をうけずに吸収されたものであり, 以上のように,小腸粘膜上皮細胞には細胞膜上の局 また,細胞内で再合成されたものでもない。さらに彼 在性や GSH輸送の方向性において異なる輸送系が報 らは胃ゾンデで 90μmolの GSH を投与すると,血 告されている段階で統一された吸収機構はまだ無いが, 集中 GSHは9 0 分後に約 3倍に増加することを観察し 仮想的な GSH輸送を模式図として示した(図 1)。 f こ 。 GSHに特異的な分解酵素である GGTは細胞膜外側 以上 3つの論文の結果はいずれも, GSH が無変化 で腸管粘膜から吸収されることを示唆するものである にだけ存在するので, GSH が何らかの機作で GGT の加水分解作用をすり抜けて細胞内に透過することが が,刷子縁膜上で GSH が如何にして GGT による できれば,粘膜細胞内に分解酵素が無い乙とが却って 加水分解をまぬがれることができるかは不明である。 利となって,無変化で静脈中に入るととが可能となる。 一方,井上19) はウサギ小腸上皮刷子縁膜上には, GGTと GSH輸送系の刷子縁膜上での局在性の解明 昭和6 3 年1 1月 ( 1 9 8 8 年) -11ー 血管側 腸管側 Na+ 一一刷子縁膜 GSH GSH N a + 図 1 小腸粘膜上皮細胞の仮想的な GSH輸送系 口 , γークツレタミノレトランスペプチダーゼ; 0,アミノペプチダーゼ;ム,ジペプチ , + K+-ATPase; タoーゼ; Xn,GSH輸送担体;・,アミノ酸輸送担体; P, Na E,グノレタミン酸; C,システイン; G,グリシン 表 2 人の生理的機能に関連する食品の機能 機能の種類 働 き 1 . 栄 養 機 能 生命維持,健康保持。 I I . 感覚刺激機能 味覚や臭覚などを刺激する;人 の摂食行動につながり,栄養機 能の補助機能ともいえる。また 生体防御機能にも関連する。 皿.生命活動調整 ①神経やホルモンによっておと なわれる生体制御機能の修飾。 機能 ②免疫や異物代謝など生体防御 機能の賦活。 ③高血圧や糖尿病などの疾病の 予防と治療補助。 ④老化の制御。 ⑤腸内細菌叢の制御。 ら吸収されるか否かで評価は違ってくるが,次の例は 毒性学的な立場から見て興味ある研究である。 Lash ら2ω は,ラット小腸粘膜上皮細胞を用いて, 酸化的ストレスに対する GSHの防御効果を検討し b u t y l ている。小腸から調製した上皮細胞浮遊液を t h y d r o p e r o x i d e とともにインキュベートすると細胞の 生存率は低下するが, GSH を先に添加しておくと生 存率の低下は著しく改善された。乙の効果は 20μM GSH という低濃度でも有効であった。しかし, GSH 構成アミノ酸のグ、 jレタミン酸, システイン,グリシン を添加した場合には防御効果は認められなかった。ま た,有機アニオン輸送阻害剤のプロベネシドの共存下 では, GSHの防御効果が失なわれたととから, GSH が必要である。 I V . 食品中 GSHの機能 食品を摂取したととによって生体側にあらわれる効 果を食品の機能として位置づけると,食品には生命維 の酸化的ストレスに対する防御効果は, GSH が無変 化で上皮細胞内に取込まれて発揮されるものと思われ る。この結果は,過酸化脂質など酸化的ストレスを引 き起こす化学物質の侵入に対して,経口的に摂取され た GSHが防御物質として作動することを期待させる。 持に直接関係する栄養機能以外にも,様々な機能が存 Lash らは,また,腎尿細管の側底膜でも GSHが 在すると言われている(表 2)。特に第 3の機能一生命 無変化の形で取込まれる実験結果に基づいて,血流中 活動の調整機能が,人の健康保持にとって重要な役割 に入った GSHは腎においても小膜粘膜におけると同 を果すとみられ21らこの機能を備えた新しい形態の食 様の抗酸化ストレス作用が期待できるとしている。 品の開発も意図されている加。 腸内細菌叢は栄養学や毒性学の立場からみて重要な ととろで,食品中 GSHは生体機能に関わってはと、 細胞群でありぬ円ビタミン類の合成や体外異物の解 のような存在意義があるのだろうか。アミノ酸,特に 毒代謝あるいは逆に発癌作用に関与していると考えら システインの供給源としての栄養的機能以外の役割に れている。 Owens & Hartman25) はサルモネラ属の ついて検討してみたい。 GSH が無変化で小腸繊毛か 細菌や大腸菌を用いて,外来の有害物質に対する腸内 白 。 食物学会誌・第43号 細菌の解毒能に GSH が関与することを報告して いる。すなわち, m e t h y l N ' 強い発癌物質である N- イエンティフィク,東京, 1985 4 ) Reed,D.J .& B e a t t y ,P .W. ,i n Revz " ews z ' n i t r o s o g u a n i d i n e による細菌の生育抑制や変 n i t r oNぺn ・ o c h e m z ' c a lTox " z c o l o g y 2 (Hodgson ,E. e ta l ., Bi 異原性が低濃度の GSH 添加により抑制されるとと e d s . ),p .213,E l s e v i e rNorthHolland,NewYork , や,水銀あるいはカドミウムなどによる生育抑制も 1 9 8 0 ・ μMオーダーの GSHで改善されたことが述べられて いる。腸内細菌叢のもつもう 1つの臓器としての役割 ,D .S . &Swanson,H.R.,P h y t o c h e m i s t r y , 5 )F r e a r 1 9 ,2123,1970 について今後解明が進めば,外来異物の腸内細菌叢へ ,T .J .e ta , . l Biochemistry,2 2 .1 0 6 8,1 9 8 3 6 ) Mozer の影響が宿主である人にどのよう効果としてあらわれ 7 ) Kuninori,T . & Matsumoto ,H.,C e r e a lChem., るか,より詳細に理解されるであろう。 消化管は経口的に摂取された外来異物に最初に暴露 4 1,252 ,1964 8 ) Fahey ,R.C . & Newton,G.L . , i nFunctions01 される臓器であるので,このような GSHの毒性軽減 ・ one ( L a r s s o n,A. e ta , . l e d s . ),p.251, G l u t a t h i 作用は,外来異物の解毒に役立つ可能性がある。しか RavenP r e s s,NewYork,1 9 8 3 し食品中 GSHの有効性を結論するにはなお多くの例 7,4 2 5,1 9 8 6 9 ) 中川一夫他,食品衛生学雑誌, 2 証を積み重ねる必要がある。 GSH の関与する生体機 1 0 ) 萩原博,代謝, 1 5 , 1227,1978 能は細部にわたって理解されつつあるし,医薬品とし ,H. & Smyth, D.H . .J .P h y s i o , . l1 4 5, 1 1 ) Newey ての GSHの使用経験も多い。そのような物質であっ ても食品中の存在意義となるとその理解に至る路程は 長い。 48,1 9 5 9 ,H. & Smyth,D .H.,J .P h y s i o , . l1 6 4, 1 2 ) Newey 527 ,1962 .お1 .,P h y s ! o l .R e v .,5 5,5 3 7 ,1 9 7 5 1 3 ) Matthews,D V .おわりに 生物は長い進化の過程で,自己に都合の良い物質を 効率よく体内に取込む機構を獲得して来た。細胞内で グノレタチオン 1分子をアミノ酸から合成するためには 2分子の ATPを必要とするので,腸管からクツレタチ オンを無変化の形で取込むことは益があるように思わ れる。しかし体内臓器でもっともグ Jレタチオン濃度の 高い肝臓では,グノレタチオンは無変化のままでは取込 まれない。腸一肝の連闘を考えると,アミノ酸に水解さ れて吸収されても結局ムダはないという収支決算にな るのであろうか。腸管内には食品由来のグノレタチオン 以外に,胆汁とともに分泌されるグノレタチオンがあら われる。それらの再利用という観点、からもクツレタチオ ンの腸管吸収は小さくない意味を持っと考えられ,今 後の研究の進展が期待される。 文 献 & Anderson,M.E.,Ann. Rev. Bioch巴m.5 2, 7 1 1,1 9 8 3 1 )M e i s t e r .A . ta l . ( e d s . ),F u n c t i o n so fG l u t a t h i o n e, 2 ) Larsson,A.e RavenP r e s s ,NewYork,1983 3 ) 木下祝郎,坂本幸哉編,グノレタチオン,講談社サ 1 4 ) Ganapathy ,V .& Leibach,F .H.,Am.J .Physio , . l 2 4 9,G1 5 3,1 9 8 5 ,A .M. e ta , . l Na t u r e,202,8 0 7 ,1964 1 5 ) Ug o l e v 1 6 )L i n d e r,M.e ta , . l Biochem'B i o p h y s .R e s .Comm., 1 2 3, 929 ,1984 ., B i o c h i m . 1 7 ) Hunjan, M.K. & Evered, D.F ,815,184,1985 B i o p h y s .Acta .M. & Jones,D.P .,Am. J .Physio , . l 1 8 ) Hagen,T 2 5 2,G607 ,1987 1 9 ) 井上正康,クツレタチオン(木下祝郎,坂本幸哉編入 p.43,講談社サイエンティフィク,東京, 1985 2 0 ) Lash,L .H.e ta , . lP r o c .Na t l .Acad.S c i .U . S .A . , 8 3, 4 6 4 1,1 9 8 6 8,9,1 9 8 8 2 1 ) 稲葉博,食品衛生研究, 3 2 2 ) 山口迫夫,食料・栄養・健康, 8 ,88,1 9 8 8 2 3 ) 新村喜夫,食品添加物の生化学と安全性, p.41, 地人書館,東京, 1979 ., i nG a s t r o z ' n t e s t z n a l 2 4 ) Pelkonen,K.&Hanninen,0 町 K . & Han凶 配 町 0 ., e d s . ), To x z ' c o l o g y(Rozma p .1 9 3 ,E l s e v i e r ,Amsterdam,1986 . & Hartman ,P .E .,E n v i r o n . 2 5 ) Owens,R.A Mutagen.,8 ,659,1986