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ROSEリポジトリいばらき (茨城大学学術情報リポジトリ) Title Author(s) Citation Issue Date URL A 大学生のピアスに関する実態調査 飯嶋, 美里; 生田, 奈咲; 石津, 美阿里; 後藤, 加奈; 仁平, 成 美; 湯原, 裕子; 廣原, 紀恵 茨城大学教育学部紀要(教育科学), 65: 335-347 2016-03-28 http://hdl.handle.net/10109/12885 Rights このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作権者に帰属 します。引用、転載、複製等される場合は、著作権法を遵守してください。 お問合せ先 茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係 http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html 茨城大学教育学部紀要(教育科学)65 号(2016)335 - 347 A 大学生のピアスに関する実態調査 飯嶋美里 *・生田奈咲 *・石津美阿里 *・後藤加奈 *・仁平成美 *・湯原裕子 *・廣原紀恵 ** (2015 年 11 月 18 日受理) Survey of actual about pierced earrings of University students Misato IIJIMA*, Nasa IKUTA*, Miari ISHIZU*, Kana GOTO*, Narumi NIHEI*, Hiroko YUHARA* and Toshie HIROHARA ** (Received November18, 2015) はじめに 近年,雑誌やメディア等によるおしゃれをすることに関しての対象の低年齢化が目立つ。最近で は,おしゃれとして,メイクや染髪の他に,ピアスが浸透している 1)-4)。特に 1980 年代後半には, 雑誌でのピアスに関する記事が増加傾向にある 5)。ポーラ文化研究所 1)が 1979 年以来 3 年ごとに 発行している「おしゃれ白書」において,ピアスのデータを取りはじめた 1991 年以降,ピアスの 着用率は「20-24 歳」が常にトップであり,2000 年には 56% と半数を超えていた。「16-19 歳」に おいては,1991 年では 17% だったものが 2000 年には 33% と倍増している。金子・桜井 2)の報告 を見ても,高校時代および大学入学時にピアスの装着率が高いことがわかる。このように,ピアス などのおしゃれの低年齢化が進む現代において,おしゃれをすることによる障害(おしゃれ障害) の報告 6)7)があり,今後ますます身近な障害となると考えられる。 ピアスは穴を開ける(ピアッシング)際に,適切な方法で行わないと有害な細菌の感染による化 膿や,穴を開ける針を他人と共有することで HIV や肝炎等に感染する危険性がある。また,ピア ス経験者は金属アレルギーを起こしやすいとも言われている 6)。これらの問題は予期せず起こる可 能性がある。その際,正しい知識を身に付けていれば予防または早期対応ができ,深刻な事態を免 れることができると考えられる。そのため,おしゃれをすることの低年齢化が進む現代において, ピアスによるトラブル等に関する情報提供が義務教育や高校教育段階で行われることが望ましい。 しかし,現段階では学校教育において,ピアスの影響やトラブルについて学ぶ機会は少ない。情報 を得る機会が限られることで,健康被害の一つとしてより深刻な問題に発展する恐れがある。この *茨 城 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 ( 〒 310-8512 水 戸 市 文 京 2-1-1;Graduate School of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan). **茨城大学教育学部教育保健教室 ( 〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1;Department of Educational Heath,College of Education, Ibaraki University, Mito 310‐8512 Japan). 336 茨城大学教育学部紀要(教育科学)65 号(2016) ような現状から,情報発信の場の 1 つとして教育現場が挙げられ,必要に応じてピアス全般につい て指導ができるよう,容易に情報を入手するための体制の整備が必要であると考えられる。本調査 では,大学生のピアスの装着とそれに関する実態を把握し,必要な指導内容や情報提供の検討のた めの基礎的資料を得ることを目的とした。 研究方法 地方の県庁所在地に設立されている A 大学に在学する男女を対象とし,7 つの授業においてそれ ぞれの授業担当者の承諾を得たのち,講義時間中に質問紙を配布・回収し,598 名から回答を得ら れた。そのうち,回答に不備のあるものを除いた 567 名を有効回答として分析を行った(有効回 答率 94.8%)。調査期間は,2015 年 1 月中旬から 2 月中旬である。調査内容は基本的属性,ピアッ シング経験の有無である。その上で,ピアッシング経験者には,開穴数,開穴部位,ピアッシング を行った場所,ピアス穴の手入れ方法,ピアス穴の手入れに関する情報の入手方法,ピアッシング を行った理由,ピアス購入時の基準,身近にピアスを装着している者の有無,ピアッシングによる 身体上のトラブルの経験,トラブル内容,トラブルへの対応方法たずねた。ピアッシング未経験者 には,ピアスへの興味関心,ピアッシングを行わない理由,身近にピアスを装着している者の有無, 今後ピアッシングを行う予定,希望する開穴数,希望する開穴部位,ピアッシングを行いたい場所, 希望する開穴方法,ピアッシングを希望する理由,ピアス穴の手入れに関する情報の入手予定先を たずねた。 なお,分析は統計ソフト SPSS statistics Ver.19 を用い,クロス集計及び χ2 検定を行った。 結果 1 ピアッシング経験者の実態 ピアッシング経験者 78 名のうち,男子は 8 名(10.3%),女子は 70 名(89.7%)であった。ピアッ シング経験者は該当者が少なかったため男女別ではなく全体で分析を行うこととした。(表 1) ピアスの穴を増やす予定の有無をたずねたところ,「はい」と回答した者は 20 名(25.6%),「い 「わからない」と回答した者が 30 名(38.5%)であった(表 いえ」と回答した者は 28 名(35.9%), 2)。これまでに開けたピアス穴の延べ数で最も多かったのは「2 コ」で 46 名(59.0%),次いで「3 コ」が 12 名(15.4%), 「1 コ」が 11 名(14.1%)であった(表 3)。開けた部位を「耳たぶ」 「耳軟骨」 「へそ」等「その他」を含む 10 項目から複数回答可として回答を得たところ,全ての者が「耳たぶ」 に開けていた。次いで「耳軟骨」が 9 名(11.5%)みられた(表 4)。 飯嶋・生田・石津ほか:A 大学生のピアスに関する実態調査 337 ピアス穴を開けた時期を「小学校入学前」「小学校低学年」「小学校中学年」等「その他」を含む 19 項目から複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「大学 1 年生」が 55 名(70.5%), 次いで「大学 2 年生」が 7 名(9.0%)であった(表 5)。高校生時までに開けた者は 14 名(17.9%) であった。またピアス穴を開けた場所を「病院」 「自宅」 「友人の家」等「その他」を含む 7 項目か ら複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「病院」と「自宅」で 35 名(44.9%), 次いで「友人の家」が 8 名(10.3%)であった(表 6)。 また,ピアス穴を開けた方法を「ピアッサー」「安全ピン」「針」「覚えていない」「その他」5 項 目から複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「ピアッサー」で 73 名(93.6%)であっ 「消毒以外の市販薬」 「洗う」 た(表 7)。ピアス穴の手入れの仕方を「消毒以外の病院で処方された薬」 等「その他」を含む 7 項目から複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「アルコー ル等による消毒」で 32 名(41.0%),次いで「洗う」が 26 名(33.3%)であった。「特にしていなかった」 「イ と回答した者が 11 名(14.1%)いた(表 8)。さらに手入れに関する情報の入手先について「病院」 ンターネット」 「ピアッサーの説明書」等「その他」を含む 13 項目から複数回答可として回答を得 たところ,最も多かったのは「インターネット」で 31 名(39.7%),次いで「病院」が 29 名(37.2%), 338 茨城大学教育学部紀要(教育科学)65 号(2016) 「友人」19 名(24.4%), 「ピアッサーの説明書」17 名(21.8%), 「家族」15 名(19.2%)と続いた(表 9)。 ピアス穴を開けた理由において「友人に勧められ て」 「知人に勧められて」 「家族に勧められて」等「そ の他」を含む 19 項目から複数回答可として回答を 得たところ, 「おしゃれをしたかったから」が 49 名 (62.8%)と最も多く,次いで「何となく」が 23 名 (29.5%)であった。さらに「入学又は卒業の節目」, 「友人が開けたから」と続いた。また, 「知人が開け たから」 「自信をつけたかった」 「反抗心」を選択し た者はみられなかった(表 10)。 ピアス購入の際に,何を基準にピアスを選んでい るかを「価格」 「デザイン」 「素材」等「その他」を 含む 7 項目から複数回答可として回答を得たとこ ろ,最も多かったのは「デザイン」で 65 名(83.3%), 次いで「価格」が 32 名(41.0%),「素材」が 26 名 (33.3%)であった(表 11)。 次に,ピアスを装着している者が身近にいるかどうかたず ねたところ,「はい」と回答した者は 68 名(87.2%),「いい え」は 6 名(7.7%),「分からない」は 4 名(5.1%)で,高 い頻度でピアス装着している者が身近にいた(表 12)。ピア スを装着している者が身近にいたと回答した 68 名について, ピアス穴を開けていた者について「父」 「母」 「祖父母」等「そ の他」を含む 8 項目から複数回答可として回答を得たところ, 最も多かったのは「友人」で 58 名(85.3%)であった。次 飯嶋・生田・石津ほか:A 大学生のピアスに関する実態調査 339 いで「母」が 22 名(32.4%),「兄弟姉妹」が 21 名(30.9%)と続いた(表 13)。ピアッシングに 「ない」は 46 名(55.4%) よる身体上のトラブルの有無をたずねたところ, 「ある」は 32 名(38.6%), であった(表 14)。さらに身体上のトラブルがあったと回答した 32 名について,トラブルの詳細 を「金属アレルギー」「膿」「腫れ」等「その他」を含む 10 項目から複数回答可として回答を得た ところ,最も多かったのは「膿」で 20 名(62.5%),次いで「腫れ」が 17 名(53.1%)であった。 他に「痒み」が 14 名(43.8%),「しこり」「赤み」がそれぞれ 11 名(34.4%)であった(表 15)。 またトラブルへの対処方法を「病院で処方された薬」「消毒薬以外の市販薬」「洗う」等「その他」 を含む 7 項目から複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「洗う」で 17 名(53.1%) であった。「特にしていなかった」も 4 名(12.5%)みられた(表 16)。 次に,「ピアッシングを行った場所」と 「身体上のトラブルの経験の有無」を検討 した(表 17)。「病院」でピアッシングを 行った 35 名のうち,トラブルを経験し た者は 10 名(28.6%)であった。「自宅」 でピアッシングを行った 35 名のうち,ト ラブルを経験した者は 17 名(48.6%)で あった。 「友人の家」でピアッシングを行っ た 8 名のうち,トラブルを経験した者は 4 名(50.0%)であった。「学校」でピアッシングを行った 4 名のうち,トラブルを経験した者は 3 名(75.0%)であった。「覚えていない」と回答した 1 名と「その他」と回答した 3 名は,全員が 340 茨城大学教育学部紀要(教育科学)65 号(2016) トラブルを経験していた。 2 ピアッシング未経験者の実態 ピアッシング未経験者は男女別で分析を行った。 ピアス穴を開けた経験がない者は 489 名(男子 245 名(50.1%),女子 233 名(47.6%),性別不 「ある」 明 11 名(2.2%))であった(表 1)。489 名にピアスへの興味関心の有無をたずねたところ, 177 名(36.2%),「ない」312 名(63.8%)であった(表 18)。ピアッシングを行わない理由につい て「身体に傷をつけたくないから」「親が反対しているから」「校則で禁止されていたから」等「そ の他」を含む 20 項目から複数回答可として回答を得た。最も多かったのは「痛そうだから」が 239 名(48.9%),次いで「身体を傷つけたくないから」が 191 名(39.1%)であった(表 19)。 次にピアスを装着している者が身近にいるかどうかたずねたところ,「いる」と回答した者は 355 名(72.6%), 「いない」は 95 名(19.4%)で,装着している者が身近にいる者が多かった。「分 からない」は 39 名(8.0%)であった(表 20)。ピアスを装着している者が身近にいると回答した 355 名について,誰がピアスを装着しているか「父」「母」「祖父母」等「その他」を含む 8 項目か ら複数回答可として回答を得た。最も多かったのは「友人」で 316 名(89.0%)であった。次いで 「母」が 73 名(20.6%),「親戚」が 56 名(15.8%)と続いた(表 21)。 飯嶋・生田・石津ほか:A 大学生のピアスに関する実態調査 341 次にピアス穴を開ける予定の 有無をたずねたところ,「ある」 32 名(6.5%),「 な い 」388 名 (79.3%),「 分 か ら な い 」69 名 (14.1%) で あ っ た( 表 22)。 ピ アス穴を開ける予定があると回 答した 32 名に対して,希望する 開穴数をたずねたところ,「2 コ」 とした者は 17 名(63.0%)であっ た(表 23)。また,希望する開穴 部位を「耳たぶ」「耳軟骨」「へ そ」等「その他」を含む 10 項目 から複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「耳たぶ」で 29 名(90.6%)であっ 「自宅」 「友人の家」等「そ た(表 24)。さらに,ピアッシングをどこで行いたいかについて「病院」 の他」を含む 7 項目から複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「病院」で 26 名 「安全ピン」 「針」 「覚えていない」 「そ (81.3%)であった(表 25)。希望する開穴方法を「ピアッサー」 の他」5 項目から複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「ピアッサー」で 22 名 (68.8%)であった。「安全ピン」を選択した者はみられなかった(表 26)。開穴を希望する理由を「友 人に勧められて」「知人に勧められて」「家族に勧められて」等「その他」を含む 19 項目から複数 回答可として回答を得た。最も多かったのは「おしゃれをしたいから」で 24 名(75.0%)であった。 「ストレス発散のため」 「精 次いで, 「何となく」が 10 名(31.3%)であった。「自信をつけたいから」 神的な支え(お守り)」「反抗心」「運勢を変えるため」「宗教上の理由で」を選択した者はみられな かった(表 27)。 342 茨城大学教育学部紀要(教育科学)65 号(2016) 手入れに関する情報の入手先について「病院」「インターネット」「ピアッサーの説明書」等「そ の他」を含む 13 項目から複数回答可として回答を得たところ,最も多かったのは「インターネット」 で 21 名(65.6%),次いで「友人」で 16 名(50.0%),「病院」が 15 名(46.9%)であった。「養護 教諭・看護師」「一般教諭」から情報を得ている者は皆無だった(表 28)。 次に,男女別に「ピアッシングを行わない理由」を検討し,χ2 検定を行った。「周囲の目が気 「ださいと思うから」 「男性らしくないと思う」 (p<0.01), になるから」 「特に理由はない」 (p<0.001), 飯嶋・生田・石津ほか:A 大学生のピアスに関する実態調査 343 「反社会的なことだと思うから」「就職活動に不利だと 思う」「きっかけがないから」(p<0.05)は,女性より も男性の方が有意に多かった。「皮膚トラブルになり 「ピ そうだから」「ケアが大変そうだから」(p<0.001), アスに関する怖い噂を聞いたから」「痛そうだから」 (p<0.01)においては,男性よりも女性の方が有意に 多かった(表 29)。 考察 ① ピアッシング経験者の実態 本調査におけるピアッシング経験者は 1 割を超える程度であり,そのうちの 7 割以上が大学生に なってからであった。本調査対象のピアッシング経験者の割合は金 4),大久保ら 8),大石 9)の報 告と比較すると低い傾向にあった。これらの報告の調査対象者が都内のファッション系の学校に通 う者がほとんどであることが影響していると思われる。ピアス穴を開けた理由は, 「おしゃれのため」 であり3)4),ファッション系の学校に在籍する者たちは,よりおしゃれには興味関心があると思わ 344 茨城大学教育学部紀要(教育科学)65 号(2016) れる。また,宇野 3)は地方の学生と社会人を対象とした調査をしているが,装着率は 4 割弱であっ た。それと比較しても装着率は低い。本調査対象者のピアッシング経験者がピアス穴を開けた理由 は宇野ら 3),金 4)と同様に「おしゃれをしたかったから」(62.8%)が最も多く,ピアス購入の際 には約 8 割の者が「デザイン」を重視していた。これらのことから,ピアッシング経験者はピアス をおしゃれの一部として認識していると推察された。 ピアッシングを行った場所は,「病院」と「自宅」がともに 44.9% でその二つの占める割合が高 「病 かった。「病院」で開けた者のうち,身体上のトラブルを経験した者は 3 割弱であったのに対し, 院」以外の場所では約半数の者がトラブルを経験していた。「病院」以外の場所でのピアッシング は専門医の問診や事前の処置,ピアッシング後のケアの仕方等の指導を受けられないことから,身 体上のトラブルのリスクが高くなったと思われる。また,トラブルを経験した者のうち,トラブル への対処として「特にしていなかった」と回答した者は 4 名(12.5%)であった。知識があり,対 処が必要ないと判断している場合もあれば,知識がないために特になにもしない場合も考えられる。 トラブルを軽視せず,正しい情報から適切な対応ができるようにすべきである。トラブルの内容も 「膿」「腫れ」でありその症状は炎症を起こしている。感染症として深刻な状態に進む可能性も考え られるため適正な対応ができる能力は必要である。また,開穴方法等によっては,自傷的な意味を もつこと 8)9),自傷行為経験者は喫煙・飲酒,ピアス経験が多い 10)ことも報告されており,自傷 行為とピアッシングとの関連については注意が必要だろう。ピアッシングの部位は,ほとんどの者 が耳たぶと耳軟骨であり,一般的な部位であろう。身体加工であるボディピアス(へそ,鼻,舌の 部位)は,1 割にもみたなかった。ピアス穴も最も多いのが 2 個であり左右の耳 1 個ずつのようで、 常識的と思われる。ピアス穴を開けるならば適切な方法,医療機関での指導を受け,開穴後の処置 の仕方など知ることが必要である。 ② ピアッシング未経験者の実態とピアッシングを行わない理由 ピアッシング未経験者は,調査対象者の 8 割以上を占め,ピアスに関する興味関心がある者は女 性では約半数で男性は 1 割強だった。ピアスを開けない理由について,最も多かったのは「痛そ うだから」,次いで「身体に傷をつけたくないから」であった。自身の身体に傷をつけることに抵 抗を感じ,自身の身体を大切にする健康観が伺えた。また,「皮膚トラブルになりそうだから」「ケ アが大変そうだから」「身体に傷をつけたくないから」が多く,中でも「皮膚トラブルになりそう だから」「痛そうだから」「ケアが大変そうだから」を選択したのは男性より女性の方が多い傾向が みられた。これは女性の方がスキンケアに対する意識が高いためであると推測される。加えて,耳 につける装飾品として,ノンホールピアス等のイヤリングが増加してきていることがあり,ピアス 穴を開けなくても気軽におしゃれができるようになってきた背景も影響していると考えられる。ピ アッシング経験者は,「おしゃれ」を理由としてあげているが,未経験者の大部分の者は,装飾の ためならあえて痛い思いをするピアッシングを選択しなくても,痛みがなく,手入れが簡便なイヤ リングで十分であることを認識しているのだろう。しかし、今後開穴希望者の女性 27 名の理由は 同様に「おしゃれをしたい」が 8 割をしめやはりピアスはファッションの一つと捉えていると思わ れる。 また,ピアッシングを行わない理由として,男性の方が多かったものは「男性らしくないと思う」 「周囲の目が気になるから」であり,男性がピアスを装着するということは社会的に受け入れられ 飯嶋・生田・石津ほか:A 大学生のピアスに関する実態調査 345 ていないという認識なのであろう。金 4)の報告でも「ピアスは女性的イメージ」とし,ピアッシ ング行為には男女で動機やイメージに差があるとし、男性のピアスはまだ一般的ではないのだろう。 さらに,おしゃれに関する情報や市場が女性向けであること 11)が影響していると思われる。 ③ 開穴する上での注意 ピアッシング経験者のピアス穴の手入れに関する情報の入手先は「インターネット」が約 4 割 と最も多く,次いで「病院」であった。ピアッシング未経験者のピアス穴の手入れに関する情報の 入手先は「インターネット」が約 7 割と最も多く,次いで「友人」が 5 割であった。インターネッ トや友人から得られる情報は必ずしも正しい情報とは限らない上,その手入れの仕方が自身の体質 に合わない可能性があり,トラブルを引き起こすことにも繋がる。ピアッシングによる金属アレル ギーの発症 6)12)や,耳の厚さと軸長が適合していないことによる炎症 6),開穴部位の裂傷などの トラブルがあるとされている。ピアスを装着したことによる,膿や腫脹,痒み,しこり,発赤,熱感, 疼痛などのトラブル 7)12)13)も報告されており,実際にも調査対象者たちもその症状を経験していた。 これらのことから自身の体質に加え,ピアッシング及びピアス装着時それぞれにトラブルがあるこ とをよく理解した上で,皮膚科や形成外科などの専門医から根拠のある情報収集に努める必要性が ある。しかしながら,情報収集のために病院を受診することは一般的ではない。一方,学校ではど うかというと,ピアッシング自体が校則で禁止されていることが多い。それを踏まえると,学校が 積極的に情報発信できる場とはなりにくい。しかし,保健室は学校という公的な空間の中で唯一私 的な事情が持ち込まれる場所 14)であるため,ピアッシングやピアス装着時のトラブルに関する相 談が持ち込まれることも考えられる。すなわち,養護教諭は必要に応じて教師や生徒に情報提供が できるように,専門医等との繋がりをもち,正しい情報を得ておく必要がある。 トラブルへの対処方法として,消毒用エタノールや抗生物質軟膏等の従来からのケアもあったが, 現在ジェル状の消毒剤 12)もあり,同時に,金属アレルギーの予防対策として市販のコーティング 剤があげられている 12)。このように,トラブルへの対処法は多様化しており,消毒用エタノール や抗生物質軟膏だけではなく,自分に合ったより効果的な対処法を選択できるようになってきた。 これらの選択肢を知るきっかけが得られるよう,学校ではピアストラブルの情報提供に加え,トラ ブル対処法の多様化についても触れ,さらに養護教諭は,その具体的な対処法の提案ないし専門医 への受診勧告をできることが望ましい。 ④ ピアッシングを希望する理由 本調査では,ピアスを開けた理由,今後ピアスを希望する理由ともに,「おしゃれ」のためが最 も多かった。ピアッシングした時期は,大学入学後に開けた者が多かった。高校までは校則等によ り,ピアスに限らず,染髪や化粧などが禁止されている場合が多い。高校卒業後は校則から解放 され,おしゃれに対しての興味・関心を行動に移しやすくなる。その一方で,おしゃれに伴う健 康被害 7)もあることから,高校卒業前の段階で「おしゃれ障害」について学ぶ機会が必要である。 しかし,高校の保健学習においては,日常の生活行動には触れられているが,おしゃれ障害に特化 しての扱いはない 15)。そのため,ピアスを含めたおしゃれによって引き起こされる障害に関する 情報を掲示物やポスター等を活用し,発達段階に応じて児童生徒に発信し,正しい知識を入手でき る体制を整えておく必要がある。 346 茨城大学教育学部紀要(教育科学)65 号(2016) まとめ 大学入学をきっかけにピアッシングを行う者が最も多かった。このことから,大学入学前の学校 教育において,必要に応じて,ピアッシングするには医療機関で実施する,ピアス穴の手入れ方法 や管理等のピアス全般に関する指導ができるように備える必要がある。また,ピアスによる皮膚の トラブル経験者は少なくなく,トラブルへの対処法が提供できる体制を整えておく必要がある。さ らに,トラブルへの対処法は医療の進歩とともに多様化している。個人の体質に合った対処法を選 択できるよう,学校教育の中で発達段階に応じた正しい知識の伝達が必要である。 本調査の限界として,調査対象が A 大学のみであるため,一概に大学生全体の実態とは言い難い。 先行研究に比べピアス装着率が低かった。大学の設置されている環境や条件,地域差などの影響を 受けている可能性も考えられる。今後は地域差なども考慮し,調査対象の幅を広げ,都市部と地方 の大学の比較調査が必要であると考える。その中から,学校における発達段階による適切な指導の 内容を検討していきたい。 引用文献 1)ポーラ文化研究所.2001.「アンケートにみる過去 10 年間のピアス着用率の変化「おしゃれ白書 1991 ~ 2000」より」,1-5 2)金子智栄子・桜井礼子.2004.「女子大生のピアスに対する意識と人生観」『文京学院大学研究紀要』6(1), 111-120. 3)宇野保子・近藤信子・中川早苗.2006.「身体装飾について 第 1 報 ファッション意識との関連」『中国 学園紀要』5,6-16. 4)金愛慶.2006. 「日本の若者におけるピアッシング行為に関する一考察―自傷行為との関連性を中心に―」 『白 梅学園大学・短期大学紀要』42,13-28. 5)雪村まゆみ.2005.「現代日本におけるピアスの普及過程―新聞および雑誌記事のフレーム分析―」『奈良 女子大学社会学論集』12,139-157. 6)高橋知之・高橋眞理子・青木基夫.1997.「ピアスアレルギー」『アレルギーの領域』4(12),43-47 7)神奈川県医師会.2007.「おしゃれによる障害」 8)大久保智生・井筒芽衣・高橋護・鈴木公啓.2012.「青年のピアッシングは自傷行為的な意味をもっている のか―身体装飾としてのピアスに関する研究(3)」『香川大学教育学部研究報告』1(37),15-21. 9)大石さおり.2011.「ピアッシング,コスプレ,自傷行為との自己概念との関連性の検討」『日本家政学会誌』 62(12),59-68 10)山口亜希子・松本俊彦.2005.「女子高校生における自傷行為」『精神医学』47(5),515 - 522. 11)藤田恵子.2014.「学生の嗜好色・嫌悪色の傾向―アンケートによる 2010 年度から 4 年間の推移―」『東京 家政学院大学紀要』54,87-93. 12)高橋知之・高橋眞理子.1992.「ピアッシングによる合併症と対策」『Skin Surgery 創刊号』,65-73. 13)高橋知之・高橋眞理子.1991.「シリコンリングを用いたピアスによる炎症性合併症の治療」 『臨皮』45(12), 1009-1012. 飯嶋・生田・石津ほか:A 大学生のピアスに関する実態調査 347 14)生越達.2006.「校内での協働をはかるために養護教諭に期待すること―「ずらす」存在,「つなぐ」存在 としての養護教諭―」『学校健康相談研究』3(1),26-33. 15)和唐正勝ほか.2015.「現代高等保健体育」,(大修館書店)東京.