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小型武器問題
国立民族博物館 UNOPS UN Photo/Pemaca Sudhakaran UNOPS 外務省 武器貿易条約の誕生 Arms Trade Treaty ~通常兵器の 国 際 貿 易 を 規 制 す る ~ 条約の成立経緯 通常兵器とは,一般に大量破壊兵器以外の武器のことをいいます。例えば, UN Photo/Devra Berkowitz 地雷,戦車,軍艦,戦闘機,大砲,ミサイルから拳銃などの小型武器まで多岐 にわたります。 通常兵器の不正な取引が各国の安全保障,社会,経済及び人道状況に悪影響 をもたらすことから,1990年代後半から,特に非政府団体や有識者等によっ て,通常兵器の移転の規制に関する高い水準の国際的な基準を規定する必要性 が指摘されてきました。 2006年に,日本,アルゼンチン,英国,ケニア,オーストラリア,コスタ リカ,フィンランドが共同で提出した国連総会決議に基づいて,国連で「武器 武器貿易条約(ATT)が,国連で採択(2013年4月2日) 貿易条約」(ATT)を作成するためのプロセスが開始されました。 その後,3回の政府専門家会合,2回の作業部会,4回の準備委員会を経て,2012年7月の国連会議と2013年3月の最 終国連会議で交渉が行われました。最終国連会議では一部の国の反対によりコンセンサスが成立しませんでしたが,ATTの 条約案が同年4月2日に国連総会において賛成多数で採択されました。 我が国の貢献 日本は,従来から,幅広い国が参加する実効的な武器取引を規制するための条約の必要性を国 際社会に訴えてきました。国際社会全体による通常兵器の貿易の管理が強化されれば,国際社会 の平和と安定に寄与するとの観点から,条約の作成に主導的な役割を果たしました。 いずれの国連会議においても,日本政府代表団は,原共同提案国及び,また,副議長国として 積極的に交渉に参加し,他の推進国やNGOとも連携しつつ様々な提案を行い,条約案の作成に 大きく貢献しました。 最終国連会議では,仲介(ブローカリング)に関する規定についての交渉の調整役を務めた り,重要な論点について関係国間の見解の相違を埋めるための調整を行いました。 2013年6月3日,ニューヨークの国連本部における条約の署名式において,軍縮会議日本政府 代表部の天野大使(当時)が署名を行いました。また,2014年5月9日,我が国は,アジア太平 署名を行う天野大使 洋で最初にこの条約を締結しました。 条約採択後の取組と条約の発効 日本は,主要な武器取引国を含む幅広い国が この条約に参加することにより,武器取引の規 制のための実効性が確保されることを重視して います。 ATTが早期に発効することを目指し,各国の 署名・締結を促進させる政治的な機運を高める ために,2013年9月25日に,ニューヨークの 国連本部において,日本を含む原共同提案国に よりATTハイレベル会合が開催されました。日 本からは,岸田外務大臣が出席し,ATTを早期 に締結する決意を表明し,また,幅広い国,特 に主要な武器取引国の締結が重要であることなどを訴えました。 ATTハイレベル会合で演説を行う岸田外務大臣 2014年12月24日に条約上の定める要件を満たし,ATTが発効しました(2015年2月現在,署名国は130か国,締約国 1 は63か国。)。 武器貿易条約(Arms Trade Treaty)と は ? 条約の目的 国際的及び地域的な平和と安全への寄与のため,通常兵器の国際貿易を規制するための可能な最高水準の 共通の国際的基準の確立,その不正な取引の防止などを目的としています。 何を規制するの? 戦車,装甲戦闘車両,大口径火砲システム,戦闘用航空機,攻撃ヘリコプター,軍艦,ミサイル及びその 発射装置,小型武器及び軽兵器。弾薬類(通常兵器により発射され,打ち上げられ,又は投射されるもの) や部品・構成品(通常兵器を組み立てる能力を提供する方法で行われる場合)には輸出規制が適用される。 どういう行為を規制するの? 規制される行為:輸出,輸入,通過,積替え,仲介。 締約国は,どんな義務を負うの? 実 施 条約の実施のために,通常兵器の管理リストを含む国内的な管理制度を整備する 移転の禁止 国連安保理決議や自国が当事国である国際協定に基づく義務等に違反する場合には通常兵器の 移転を許可しない 輸 出 評 価 通常兵器が平和及び安全に寄与,又はこれらを損なう可能性,国際人道法・国際人権法の重大 な違反等の目的のために使用される可能性について評価する。否定的な結果を生ずる著しい危 険性がある場合は,移転を許可しない 報 告 管理リストや通常兵器の輸出入に係る情報 武器移転を管理 す る た め の 途 上 国 へ の 支 援 途上国は,武器移転を適切に管理するための国内制度の整備と強化のための支援を必要としています。日 本は,アジア輸出管理セミナーや不正な小型武器取引防止のための研修,小型武器等の密輸防止のための税 関取り締まりの強化を含む税関支援などの様々な事業を通じた支援をしています。 2 毎年 50万人 の命を奪う 「事実上の大量破壊兵器」 ※ ※国連発表 紛争国に大量に投入され,放置・蓄積される小型兵器。 その行き先は犯罪・テロ組織,そして一般市民にも…。 1990 年代,アフリカ諸国では内戦により何十万,何百万という人々が殺され,アジアや中南米などその他の世界各 地でも多くの人が犠牲になりました。こうした紛争で使われたのが,自動小銃などの小型武器です。小型武器は実際に 使われ,多くの人命を奪っていることから「事実上の大量破壊兵器」と呼ばれています。小型武器による甚大な被害は, 今なお世界各地で続いています。 写真提供:UN Photo/Martine Perret 小型武器の問題点 8億丁以上※ 小型武器は,国境を越えて容易に 移動します。ある紛争で使われた小 型武器が,まったく別の国の紛争で 使われることも珍しくありません。 さらに,紛争の被害に遭った国は, 政府が所有する武器の管理,必要の ない武器の回収・処分をきちんと行 えないために,小型武器問題への取 組が難しくなっています。 ※国連の「軍縮:基本ガイド」 (2012)より 3 コラム 小型武器は児童兵を増加させる 安く手に入り,容易に使える小型武器は,子 どもでも扱うことができます。そのため,世 界各地の紛争では,小型武器を持った子どもが 児童兵として直接戦闘に参加し,深刻な問題と なっています。 国連児童基金 (UNICEF)による と児童兵は世界中で 約25万人にのぼる と言われています。 児童兵増加の問題に はさまざまな原因が ありますが,小型武 器が広く使われるよ うになったこともそ 写真提供:Terra Renaissance の一つです。 日本の貢献:小型武器問題の 解 決 に 向 け て 国 連 に お け る 議 論 を 主 導 他国に先駆けて問題への取組を提唱 ●1995年,ガリ国連事務総長は,平和への課題(追補)で小型武器などの「ミクロ軍縮」の必要性を訴えました。 ●その要請にいち早く応じたのが,日本。95年以降,日本は,小型武器決議の提出を通じて,国連における小型武 器問題への取組に道筋をつけました。同決議により,小型武器政府専門家パネルや小型武器政府専門家グループ が設置されたほか,国連小型武器会議の開催が決定されました。 ●2001年,国連小型武器会議では,小型武器非合法取引の防止,除去,撲滅に向けた「行動計画」が採択されました。 日本の代表が国連における議論を主導(肩書きは当時のもの) ―日本(堂之脇光朗外務省参与(当時))は,政府専門家パネル及び政府専門家グループの議長に加えて,国連 小型武器会議の副議長を歴任しました。 ―2003年国連小型武器中間会合では,猪口邦子軍縮代表部大使(当時)が議長を務め,小型武器問題に対する 国際社会の積極的な取組への機運を高めました。 ―2012年に開催された第2回国連小型武器行動計画履行検討会議では,日本(石垣友明国連代表部参事官(当時) ) が調整役を務め,2018年の第3回履行検討会議までの作業スケジュールに関する合意のとりまとめに貢献しました。 国連小型武器政府専門家 パネル,国連小型武器政 府専門家グループの議長 等を歴任した堂之脇光朗 外務省参与(当時) 2003 年国連 小型武 器中 間会合で議長を務めた猪 口邦子軍縮代表部大使(当 時) 国連 小 型 武 器 行動計画とは:小 型 武 器 問 題 へ の ど の よ う な 対 応 が 必 要 か 2001年の国連小型武器会議で採択された「行動計画」は,国連加盟国が小型武器問題に取り組むうえでの行動 指針となっています。その後,行動計画に基づいて国連で作成された文書として,「トレーシング(小型武器の追 跡)国際文書」や「非合法小型武器ブローカリング政府専門家会合報告書」があります。 行動計画の柱: 1 非合法取引規制に関する具体的措置 法制度の整備,輸出入許認可制度の確立,被害国における小 型武器の回収・破壊等を含むDDR(武装解除・動員解除・社会 写真提供:UN Photo/Martine Perret 復帰)の実施等,国家,地域,国際社会全体の各レベルで取り 組むべき措置を規定。 2 履行・国際協力と支援 国家,国際機関,市民社会等の協力,被害国における法制度 整備,法執行等の分野における能力構築への支援等の国際協力 が重要。 4 日本が行う被害国での小型武器対策プロジェクト 小型武器の需要は,地域社会の治安と密接に関わっています。治安に不安があると,住民は自分や家族の安全を 守るために小型武器を手に入れたり,使おうとします。 武器を使った犯罪が多く発生する社会。警察が頼りにならず自分の身は自分で守らなければならない社会。日本 では想像しにくいことですが,このような社会=コミュニティが世界にはたくさん存在します。コミュニティを対 象に,さまざまな視点からの取組が必要です。 代表的プロジェクト ガーナ 支援実績 約 6.2 億円 アフリカ諸国 の平和維持能 力向上と地域 の安定の維持の ため,日本政府 は,アフリカの PKO訓練セン ターへの支援を コフィ・アナン国際平和維持訓練センター(KAIPTC) 実施していま す。ガーナにあるコフィ・アナン国際平和維持訓練セ ンター(KAIPTC)に対しては,小型武器管理研修支 援として2008年から2013年まで,合計約610万ドル (約6.2億円)の支援を実施しました。ECOWAS小 型武器憲章の実現を目的に,回収された小型武器の管 理・取扱い,法整備及びデータ管理,啓蒙活動等にお ける西アフリカ諸国への能力向上支援が行われ,これ までに小型武器の基礎コース,表示及び追跡コース, 専門コース(小型武器,国境管理,海賊と国際犯罪, 共同警備活動,治安部門ガバナンス),政策レベルセ ミナーを通じ,1,176名の訓練が行われました。 コートジボワール 支援実績 約 3.8 億円 写真提供:UNDP コートジボワールでは,長年の不安定な政情により 小型武器が市中に拡散した状況にあります。日本政府 は,2012年に,「小型武器拡散対策支援計画」に関 する書簡の交換をUNDPとの間で行い,小型武器拡 散・流通防止委員会を含む関係政府機関の能力向上, 小型武器の回収促進,武器の逸失・盗難・流用防止対 策を行うための無償資金協力を行うことを表明しまし た。この協力により,コートジボワールにおける平和 の定着及び治安改善の促進が期待されます。 「武器をアートに」展 ~モザンビークにおける平和構築~ 独立戦争と長年の内戦を経験したモザンビークにおいては,内戦終結後も大量の小型武器が民間に残りまし た。現在,これらの武器と農具を交換することで武器回収・武装解除し,さらにその回収した武器を材料に芸 術作品を生み出すというプロジェクト「銃を鍬に」が進められています。2013年7月から11月にかけて,吉 田憲司・国立民族博物館教授が中心となり,「銃を鍬に」のプロジェクトを支援してきた日本のNPO法人 「えひめグローバルネットワーク」の協力も得て,大阪の国立民族学博物館で企画展「武器をアートに」が開 催され,プロジェクトを通じて生み出された作品群が展示されました。同展は大きな反響があったため,2015 年には,東京においても同じ展示が開催される予定です。 写真提供:吉田憲司 国立民族博物館教授 5 後を絶たない, 対人地雷による死傷者 対人地雷は,埋められた地中で50年~100年は威力を保ち,安価で製造・埋設が簡単な一方,除去に莫大な費用が かかるために,カンボジア,アフガニスタンなどの被埋設国で深刻な問題となっています。2014年10月現在,世界 56か国以上が地雷による影響を受けており,地雷による死傷者は,報告されただけでも年間約3,300人以上にのぼる といわれています( 「2014年地雷モニター報告書」より)。 暴発を防ぐために,全神経を 指先に集中させ,地雷を探す 除去隊員(アフガニスタン) (写真提供:UNOPS) ∼ 75 ∼ 75 300 ∼ 1,000 300 ∼ 1,000 3∼75米ドル 300∼1,000米ドル 300∼1,000米ドル 3∼75米ドル 製 造 製 造 WHO ブレティン 2003「地雷被害者のリハビリテーション-究極の課題」より 著:ニコラス・ウォルシュ及びウェンディ・ウォルシュ 地雷による被害者(アンゴラ) (写真提供:難民を助ける会) 対人地雷とは…近づき,触れるだけで人を著しく傷つける 対人地雷禁止条約によれば, 「対人地雷」とは,「人の存在,接近,又は接触によって爆発す るように設計された地雷」であり,人の「機能を著しく害し,又はこれらの者を殺傷するもの」 を言います。 日本は,対人地雷問 題に関し, 「国際社会全 体での実効的な対人地 雷の禁止」と「被害国 への地雷対策支援の強 化」を中心とした取組 を行っています。 被害者支援 被害者支援 6 対人地雷禁止条約(オタワ条約) 1997年にこの条約が成立して, 対人地雷の廃絶へ大きく踏み出しました。 対人地雷禁止条約第3回検討会議 (2014年モザンビーク,マプト) 日本のオタワ条約締結 日本は,対人地雷禁止条約を1997年12月3日に署名しました。1998 年9月30日には同条約を締結し,同時に,国内においてこの条約を履行担 保するための「対人地雷の製造の禁止及び所持の規制等に関する法律」を 成立させました。この他,廃棄すべき約100万個の貯蔵対人地雷の廃棄を 2003年2月8日に完了し,同日,滋賀県新旭町(現,高島市)において小 泉総理大臣(当時)の参加の下,廃棄完了式典を行いました。 日本は,オタワ条約の実施状況を確認するために開催されるオタワ条約 関連会合(年次締約国会議・5年に1度の検討会議等)の運営面でも貢献し てきております。2013年12月から2014年6月まで,日本は地雷除去の常 オタワ条約に署名する小渕外務大臣(当時)(1997年) 設委員会の共同議長役を務めました。 普遍的かつ実効的な対人地雷の禁止の実現に向けた取組 日本は,できるだけ多くの国がこの条約を締結することが対人地雷問題の解決に資するとの立場から,機会あるごとに 各国政府,特に非締約国の中国,インド,パキスタンなどのアジア太平洋の国々に対して条約の締結を働きかけています (2015年2月現在,締約国は162か国)。 7 日本の対人地雷問題への取組 みんなの手足, そして命を守るために 地雷除去活動 地雷被害者を一人でもなくし,一日も早く被害国から地雷をなくすために,被害国政府の除去機関,国際機関,NGOな どとともに活動しています。 代表的プロジェクト 〈モザンビーク〉 モザンビークでは,1975年の独立から92年の内戦終結に至るまで,多くの地雷が埋 められたといわれており,同国の経済社会発展の大きな妨げとなってきました。モザン ビーク政府は,「国家地雷除去行動計画」を策定し,オタワ条約履行期限の2014年末 (*)までに全国の地雷除去を完了させる計画を立てています。 こうしたモザンビークの取組を支援するため,日 本は,対人地雷除去及び不発弾処理に関するプロ ジェクトの無償資金協力を行ってきました。また, モザンビークにおける除去を加速化させるため,日 本製の地雷除去機2台を供与しました。 (*)履行期限は,モザンビークからの申請により, 延長が認められました。 地雷の危険を知る 地雷回避教育 子どもや一般住民,難民・帰還難民を対象に地雷の危険性,地雷除去活動が済んでいない地域への立ち入り禁止といった教 育・啓蒙活動を行っています。 代表的プロジェクト 〈アフガニスタン・スーダン〉 地雷被害を最小限にとどめるために,日本の NGO「難民を助ける会(AAR Japan)」は地雷や 不発弾から身を守るための教育活動を,アフガニス タンとスーダンで行っています(一部日本政府も資 金提供)。講習会では,ポスターや紙芝居のほか, 歌,映画などを使って地雷や不発弾の危険性と正し い対処法を伝えています。イスラム圏におけるジェ ンダーに配慮する観点から,女性の教育員を育成し て女性向けの講習会も行っています。 写真提供:「難民を助ける会」 写真提供:「難民を助ける会」 女性教育員が女性と子どもたちに地雷の恐 ろしさを伝える(アフガニスタン) ポスターや紙芝居などを使って講習会を開催 (スーダン) 未来へ向かって歩き出す 被害者支援 地雷の被害に遭った人に,リハビリテーションや職業訓練を行っています。また,被害者支援に関する被害国の国家戦 略・作業計画の作成に対する支援にも協力しています。 代表的プロジェクト 〈コロンビア〉 地雷被害者の多いコロンビアを対象に,2008年から2012年までの4年間,日本人 の専門家派遣やコロンビア人研修員の日本での受け入れを通じて,コロンビアの医療機 関において,地雷被災に対するリハビリマニュアルが完成し,活用されるようになりま した。また,医師・理学療法士・作業療法士等のリハビリ専門職がチームになって個々 の障害者のリハビリに取り組む体制が強化されまし た。更に,地域社会を対象として地雷被害に遭わな いための啓発活動や,被災した際の応急手当技術指 導が行われ,地方の指導者や消防員などに浸透しま した。あわせて,障害者自身が講師となって,障害 者の社会復帰・社会参加に向けた権利についてセミ 写真提供:JICA ナーを行い,障害当事者のみならず地域社会全体の プロジェクトで作成した「障害者の権利と義務に関 するガイド」を使って対象地域で研修を行う普及員 意識変革にも繋がりました。 写真提供:JICA 岩谷専門家バジェ大学病院視察 8 クラスター弾などの不発弾がもたらす被害を防ぎとめる クラスター弾とはどのようなものか クラスター弾とは,一般的には,多量の クラスター爆弾が開き,子弾が散布される様子を描いた画像 子弾を入れた大型の容器が空中で開かれ て,子弾が広範囲に散布される仕組みの爆 弾及び砲弾のことをいいます。1個の弾薬 の爆発力を分散し,通常の弾薬にはできな いような広範囲に効果を及ぼすことができ る反面,不発弾となる確率が高いとも言わ れています。 提供:Norwegian People’s Aid 様々な形状・種類があるクラスター弾(写真は不発弾) (写真提供:日本地雷処理を支援する会(JMAS(左)),クラスター弾連合 Cluster Bombs In The Olive Grove: ©CMC/Simon Conway(CMC(中) ) ,ジュネー ブ人道的地雷除去センター(GICHD(右)) クラスター弾がもたらす問題 クラスター弾については,その攻撃範囲の広さゆえに一 般市民も含め無差別に被害を及ぼす可能性が高いこと,ま た,不発弾となった子弾が,紛争終結後も,不慮の爆発に よって人を死傷させるだけでなく,避難民の帰還を遅ら せ,土地の再利用を困難にし,復興・開発の妨げとなるこ とが問題となっています。 クラスター弾の爆発被害に遭うと,死亡や手足を失うなど の重傷を負うなど深刻な影響があります。2013年末までに, 31か国において約1万9000人以上の被害者数が報告されて います(「2014年クラスター弾モニター報告書」より)。 写真提供:CMC/Alison Locke 「レバノンの11歳,Zahra」,「Dtarとその子供達」 クラスター弾の子弾は,鮮やかな色のものや,ボール状の形のものもあり,子供が興味本位で触れてしまい,被害に遭う こともあるそうです。 クラスター弾の国際的な禁止・規制へ ラオス,イラク,コソボ,アフガニスタン,レバノン等で使用されたクラスター弾やその不発弾が,紛争が終結してから も一般市民に大きな被害を与えてきたことから,国際社会において対応の必要性が議論されてきました。 このような状況のもと,2007年2月,ノルウェーの首都オスロにおいて,49か国が参加する国際会議が開催され,ク ラスター弾の使用,生産,移譲及び貯蔵を禁止する国際約束を2008年中に作成するという「オスロ宣言」が発出されまし た。これ以降の国際的な規制のあり方を議論する一連の国際会議は「オスロ・プロセス」と呼ばれ,最終的には2008年5 月にアイルランドで開催されたダブリン会議において,クラスター弾に関する条約が採択されました。 9 クラスター弾に関する条約(Convention on Cluster Munitions) クラスター弾に関する条約とは ● クラスター弾の使用,生産,保有,移譲等を全面的に禁止 ● クラスター弾の貯蔵弾の8年以内の廃棄,自国内に存在するクラスター弾残存物を10年以内に除去 ● 被害者に対する援助 ● 国際的な協力及び援助 日本のクラスター弾条約締結 2008年12月3日に行われたクラスター弾に関する条約(CCM)の署名式に,中 曽根弘文外務大臣(当時)が出席して署名を行いました。その後,日本国内における 条約の履行を確保するための 「クラスター弾の製造の禁止 及び 所持の禁止に関する法 律」を制定し,罰則をもって クラスター弾の製造を禁止, 所持を規制し,2009年7月 に,条約の受諾書を国連に寄 第3回締約国会議において演説を行う天野軍縮代表部大使(当時) (2012年) CCMに署名する中曽根外務大臣(当時)(2008年) 託しました。また,2015年2月9日,条約に基づき実施してきた,我が 国が貯蔵するクラスター弾の廃棄が完了しました。 日本のクラスター弾問題に関する取組 1.条約の普遍化 対人地雷禁止条約と同様に,できるだけ多くの国がこの条約を締結することが,クラスター弾がもたらす問題の解決に資 するとの立場から,機会あるごとに,各国政府,特にアジア太平洋の非締約国の国を中心に条約の締結を働きかけています (2015年2月現在,条約の締約国は89か国・地域)。 2.国際協力と支援 日本は,クラスター弾の不発弾被害が特に大きいラオスやレバノン等の被害国に対して,不発弾の除去・被害者支援・地 雷回避教育等の国際的な協力や援助を実施しています。 代表的プロジェクト 日本のNGO「日本地雷処理を支援する会」(JMAS)は,ラオス南部のアッ タプー県において,住民の安全確保やクラスター弾で汚染された土地の安全化 のため,日本NGO 連携無償資金協力を活用したクラスター弾を含む不発弾処 理活動を実施しています。 探査で発見された不発弾の確認を行うJMAS専門家 10 コラム 地雷・不発弾分野での南南協力 日本・カンボジア・ラオスの事例 インドシナ半島では,ベトナム戦争や内戦から残存する多くの地雷・不発弾が 現在でも残っており,人々の安全な生活を脅かし,開発の妨げとなっています。 カンボジアでは,カンボジア内戦時に400万から600万個の地雷※が埋設された と言われており,終結後20年以上経った現在でも,地雷除去活動が行われていま す。また,カンボジアの隣国のラオスでは,ベトナム戦争中,約200万トンもの 爆弾が投下されたとされており,クラスター弾の不発弾による深刻な被害を抱え ています。 1999年に対人地雷禁止条約(オタワ条約)を締結し,国内に埋設された地雷を除 去する義務を負っているカンボジアと同様に,2009年にクラスター弾に関する条約 を締結したラオスは,自国内にあるクラスター弾の不発弾を除去する義務を負って 写真提供:JICA UXO Lao長官・職員がCMAC研修センター (カンボジア)を視察している様子 います。 日本政府は,1990年代から,カンボジアの地雷対策センター(CMAC)に対 して,無償資金協力を通じた除去機材の提供や,CMACの能力強化を目的と した専門家の派遣などの技術協力など,地雷対策のための支援を実施してきまし た。こうした長年の支援の結果,地雷対策についての知識・経験・能力がCMA Cに蓄積されています。 カンボジアの地雷・不発弾除去に関する豊富な知識・経験を隣国のラオスとも活 用する観点から,JICAは2011年から日本-カンボジア-ラオス間の南南協力を開 始しました。ラオスの首都ビエンチャン,カンボジアの首都プノンペン及び日本の 写真提供:JICA CMACの地雷回避教育の活動をUXO Lao長官・職 員が視察している様子 沖縄県那覇市でのワークショップやシンポジウムを通じて,カンボジアとラオスが 地雷・不発弾対策において直面している共通課題の絞り込みを行い,2012年度から,除去技術・調査・国家基準策定・ 回避教育・情報システム等の優先分野・テーマについて,CMACとラオス不発弾対策プログラム(UXO Lao)の職員が カンボジア及びラオスにおいて知見を共有し,能力を高め合うための南々協力を本格的に実施しています。また,南南協 力の開始とともに,2011年から,日本人の不発弾専門家がUXO Laoに派遣されており,南南協力の促進を含む能力開発 支援を現地で行っています。 地雷・不発弾対策分野において日本が実施している南南協力は,カンボジア-ラオス間のみならず,カンボジア-コ ロンビア,カンボジア-アンゴラ間でも行われています。 (※)カンボジア地雷対策センター(CMAC)調査 外務省軍縮・不拡散ホームページ ● http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hosyo.html 外務省通常兵器分野の軍縮関連ホームページ 写真提供 国立民族博物館 吉田憲司教授 小型武器 ● http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/sw/index.html 国連プロジェクト・ サービス機関(UNOPS) 対人地雷問題 ● http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/mine/index.html UN Photo Library クラスター弾に関する条約 ● http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/cluster/index.html 武器貿易条約 ● http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/att/index.html なるほど軍縮・不拡散 ● http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/naruhodo/index.html 日本の軍縮・不拡散外交(軍縮・不拡散白書) ● http://www.mofa.gp.jp/mofaj/gaiko/hosho_pub.html 外務省 〒 100-8919 東京都千代田区霞が関 2-2-1 TEL:03-3580-3311 ㈹ 編集:総合外交政策局軍縮不拡散・科学部通常兵器室 発行:国内広報室 特定非営利活動法人 テラ・ルネッサンス 国連開発計画(UNDP) 特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR) 独立行政法人国際協力機構(JICA) 特定非営利活動法人 日本地雷処理を支援する会(JMAS) 地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL) クラスター弾連合(CMC) ジュネーブ人道的 地雷除去センター(GICHD) 地雷廃絶国際キャンペーン(ICBL) 2015.3 改定