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妊娠期および幼若期ラットにおける大豆イソフラボン投与の骨形成への影響
妊娠期および幼若期ラットにおける大豆イソフラボン投与の骨形成への影響 人間栄養学研究科 人間栄養学専攻 06-0902 山﨑 千春 【目的】大豆イソフラボンはエストロゲン様作用を持つことが示唆されており、エ ストロゲンが不足している、骨粗鬆症モデル動物において骨量の減少を抑制すること が報告されている。しかし、エストロゲンが充足している妊娠期、乳仔期や離乳後の 大豆イソフラボン投与による骨代謝を検討した研究はほとんど行われていない。 本研究は、胎仔期・乳仔期に母親ラットを介して大豆イソフラボンのひとつである ダイゼインを投与した仔ラット、また胎仔期から成長期までダイゼインを投与した仔 ラットにおいて、ダイゼインの投与時期による骨代謝への影響を明らかにすること、 次に離乳後のラットに対し、ダイゼインまたはダイゼインの代謝産物であるエクオー ルを投与し、骨代謝への影響を比較検討することの 2 点を目的とし実験を行った。 【方法】実験 1:妊娠 3 日目の SD 系ラットをコントロール群(C 群)、胎仔期・乳 仔期ダイゼイン短期投与群(DS 群) 、胎仔期から成長期ダイゼイン長期投与群(DL 群) の 3 群にわけ、各群 6 匹とした。飼料は大豆油をコーン油に代えた AIN-93G を基本組 成とし、コントール飼料、またはダイゼイン飼料(ダイゼイン 0.5g / kg diet)とした。 DS 群は母親の妊娠期・授乳期において母親にダイゼイン飼料を摂取させ、離乳後の仔 はコントロール飼料とした。DL 群は妊娠期から授乳期において母親にダイゼイン飼料 を摂取させ、離乳後の仔にも、生後 78 日まで、ダイゼイン飼料を摂取させた。仔は経 時的に解剖しダイゼインの骨代謝への影響を雌雄に分けて評価した。 実験 2:3 週齢の SD 系雌ラットをコントロール群(C 群)、ダイゼイン群(D 群、ダ イゼイン 8mg / day)、低エクオール群(LE 群、エクオール 4mg / day)、高エクオール 群(HE 群、エクオール 8mg / day)の 4 群にわけ、各群 8 匹とした。飼料は大豆油を コーン油に代えた AIN-93G を基本組成とし、ダイゼイン、エクオールはそれぞれコー ン油に混合した懸濁液を毎日、強制経口投与した。投与 29 日、30 日目に解剖し、ダ イゼインおよびエクオールの骨代謝への影響を評価した。 【結果】実験1:母親ラットは C 群と比較し、ダイゼイン投与による体重、骨代謝 への影響はみられなかった。仔ラットの体重はダイゼイン投与群に対し、ペアフェッ ドで実験を行ったため、すべての期間において群間で差は認められなかった。離乳直 後(生後 22 日目)の仔ラットの大腿骨骨密度は雌雄とも C 群と比較し、DS 群、DL 群が低値を示した。血清オステオカルシン(OC)濃度も雄において同様の結果であっ た。生後 36 日目の仔ラットの大腿骨骨密度は、雌雄とも C 群、DL 群と比較し DS 群 で低値を示した。血清 OC 濃度も同様の結果であった。生後 78 日目の仔ラット大腿骨 骨密度と血清 OC 濃度は、雄において C 群と比較し、DS 群が低値を示した。 実験2:HE 群に対しペアフェッドで実験を行ったため、飼料摂取量の各群差は見ら れなかったが、C 群と比較し、LE 群および HE 群は体重が抑制される傾向を示した。 大腿骨骨密度は C 群と比較し、D 群、LE 群、HE 群で高値を示した。血清 OC 濃度は、 C 群と比較し、D 群、LE 群、HE 群で、有意差はなかったが、高い傾向を示した。さ らに、脛骨石灰化速度では C 群と比較し、LE 群と HE 群で有意に高値を示した。 【考察】胎仔期と母乳を介してのダイゼイン摂取は、仔の骨形成を抑制することが 明らかとなったが、離乳後引き続きダイゼインを摂取することで骨密度が回復するこ とが示された。母親の妊娠中および授乳期のダイゼイン摂取は、母親への影響はみら れなかったが、仔に対し影響が現れることがわかった。母親ラットに比べ、乳仔期の ラットはホルモン感受性が高く、また骨組織の発達が著しい時期である。エストロゲ ン様作用をもつダイゼインは、乳仔期以前では骨形成に対して阻害作用を有するもの と考えられる。そのため、母乳を介してダイゼインを摂取した仔ラットの骨形成が抑 制されたものと推測される。 離乳後のラットでは、ダイゼインのみならずダイゼインの代謝産物であるエクオー ルも、ダイゼイン以上に骨形成に対して強い作用を示すことが明らかとなった。従っ て、ダイゼインの骨代謝への影響の一部は、エクオールによるものと推測される。 大豆食品だけでなく、特定保健用食品などからも大豆イソフラボンを簡単に摂取で きるようになった現在、妊娠期、授乳期および離乳後ダイゼインの過剰摂取による生 体影響に関し、今後更なる詳細な検討が望まれる。