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下肢のスポーツ傷害

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下肢のスポーツ傷害
2011.9.26.M2 講義
下肢のスポーツ傷害
福島県立医科大学医学部整形外科
学内講師 沼崎 広法
スポーツ外傷への処置
基本はRICE処置
R=Rest=安静
I=Icing=冷却
C=Compression=圧迫
E=Eleva6on=挙上 2 主な下肢のスポーツ傷害
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膝前十字靱帯損傷(ACL損傷) 膝内側側副靱帯損傷(MCL損傷) 膝蓋骨脱臼(反復性膝蓋骨脱臼) 膝半月板損傷 軟骨損傷 足関節外側靱帯損傷(ねんざ) ジャンパー膝 肉離れ ランナー膝 シンスプリント 下肢疲労骨折 アキレス腱断裂 骨盤の裂離骨折 その他・・・・ スポーツ外傷=「ケガ」
ただ1回の受傷により発症
突き指、捻挫、骨折、脱臼、肉離れなど
スポーツ障害=「故障」
あるスポーツに特有な動作により引き起こされた小
外傷の反復で発症
要するに、使いすぎ オーバーユース
野球肘、テニス肘、ジャンパー膝、疲労骨折など
※スポーツ外傷+スポーツ障害=スポーツ傷害
膝十字靭帯
•  前十字靭帯
(ACL ) anterior cruciate ligament •  後十字靭帯 (PCL ) posterior cruciate ligament 前十字 靭帯損傷 意外と多いケガ
どのくらい(発生頻度)
人口 1/ 1,750人/ 年間
(米国)
福島市:288,632人
→165人/ 年間
前十字じんたい (前十字靭帯)
ひざの中央
十字にクロスしている
:
ひねりの動揺性を抑える
右ひざ
スポーツ活動では大切
膝前十字靱帯(ACL)損傷
(ACL:Anterior Cruciate Ligament)
正常のACL
断裂したACL
・ 主な症状はスポーツ時の膝くずれ感
・ 自然治癒は極めて稀で,スポーツ復帰
には手術が必要になることが多い. 8 ACL損傷の受傷機転
• 外反・外旋損傷(Knee-­‐in Toe-­‐out):50%
• 内反・内旋損傷(Knee-­‐out Toe-­‐in):30%
• 過伸展損傷(Hyperexten6on):20%
(Noyes 1978)
Knee in – toe out
Knee out – toe in
9 典型的な病歴: 17歳女子 左膝関節痛
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高校部活動(3年生)
バスケットボールでケガ
カットイン あるいはジャンプの着地
膝ががくっとなって転倒 立とうとしたが、ガクガクして
立てなかった
•  プチっと音がした
典型的な診察所見
•  膝蓋跳動+ → 関節血症+
•  Lachman テスト陽性
What ? Lachman(ラックマン)テスト
•  ACL損傷の診断は、これでほぼ100%可能 ACL脛骨付着部裂離骨折
•  転位があれば骨接合術を行えばよい
前十字靭帯のMRI 正常例と損傷例
正常例
損傷例
治療:手術(ACL再建術)が多
大腿骨と脛骨に骨トンネルを作り、 関節鏡視下に自家腱を移植する
15 ACL付着部
•  大腿骨:外側顆内
面後方
•  脛骨:顆間隆起の
中央
•  長さ:38mm
•  太さ:11mm 解剖学的位置に再建するこ
とが治療成績の向上に非常
に重要である ・・・部位を関節鏡で確認しな
がら手術する必要がある
移植腱その1:BPTB(骨付き膝蓋腱) Bone-­‐Patellar Tendon-­‐Bone
移植腱その2:ハムストリング腱 HT(ST:半腱様筋腱・GR:薄筋腱)
鵞足 (がそく)
ACL再建術 ー骨付き膝蓋腱(BPTB)による手術ー
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Surgen favarite OP? – 
ゆるい膝にはなりにくい • 
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骨孔内治癒:骨と骨の癒合である 骨と腱のdirect inser6onが温存される – 
スポーツレベルの高い症例やMCL損傷合併例など、特に頑強なタイプの男性には、自信をもっておすすめ
できる。 –  欠点: • 
• 
移植腱採取部の疼痛が残りやすく、跪く動作が困難となりやすい。 HTに比べて、若干S6ff kneeになりやすい。 関節鏡手術の実際:ビデオ供覧
ACL再建術
20 ACL は二重束で成り立つ
•  前内側線維 (AMB) Antero-­‐medial bundle •  後外側線維 (PLB) Postero-­‐lateral bundle ACL 二重束の機能分担
•  膝伸展時には PLB •  膝屈曲時には AMB が緊張する
ACL再建術 ーHTを用いた二重束再建術ー
• 
Pa6ent favorite OP? –  移植腱採取部の疼痛がBTBより圧倒的に少ない –  欠点 •  深屈曲での膝屈曲筋力が低下する –  バレエダンサーや柔道の技などで支障となりうる
•  2ルートでの手術となりやや煩雑 •  ゆるみが出やすい心配の種が、BTBよりもある –  骨孔内治癒:骨と腱の癒合(sharpy fiberによる)、骨と腱のindirect inser6onとなる。バンジージャンプ効果 ACL再建術
-メディカルリハビリテーション-
保護期(~6W)
•  荷重歩行訓練
•  関節可動域訓練
トレーニング期(6W~3M)
•  筋力増強
•  基本動作の習得
•  水中歩行・ランニング
24 ACL再建術
-アスレチックリハビリテーション-
復帰前期(3~6M)
•  ダッシュ・ジャンプ・ストップ
•  サイド・クロスオーバーステップ
•  競技特有の動作の習得
競技復帰期(6M~)
•  段階的な競技復帰
(個人練習→対人プレーへ)
25 ACL再建術
•  治療成績 –  90%が良好な結果を得られる –  5%に再断裂
内側 じんたい の ケガ
内側側副靭帯損傷 MCL損傷 Medial Collateral ligament
ひざが内側に入った時
:
軽症から重症まで
程度はさまざま
軽症ならば,
気づかれずに治ってしまうことも
MCL断裂
左膝内側側副靭帯損傷
大腿骨側付着部での損傷
外反ストレステスト
内側 側副靭帯損傷
ほとんどが保存療法
•  ヒンジ付きサポーター
•  シリンダーキャスト
手術は一部を除いて不要
膝関節の構成 骨
•  大腿骨
関節
膝蓋大腿関節
•  膝蓋骨
脛骨大腿関節
•  脛骨 膝蓋大腿関節
膝蓋骨脱臼 お皿の骨が、外側にはずれる! ⇒内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)が断裂する MPFL: Medial Patello-­‐Femoral Ligament
膝蓋骨脱臼でみられる骨挫傷
正常
大腿骨外側顆 膝蓋骨中央~内側
膝蓋骨脱臼は、「くせ」になることが多い
初回脱臼:中学~高校生 特に女子
↓
30-50%が反復性膝蓋骨脱臼に移行する
不意にはずれる
はずれそうでこわい(脱臼不安感)
時に痛み
反復性膝蓋骨脱臼の典型的病歴 16歳女子 左膝の不安定感
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2年前におさらをはずした
体育の授業で
跳び箱の時にカクッとなった
ふだんは痛みはない
反復性膝蓋骨脱臼 典型的診察所見
•  膝蓋骨の異常可動性+
全身関節弛緩性+
•  Apprehension テスト 陽性
•  Q角 25度
反復性膝蓋骨脱臼
-膝蓋骨異常可動性-
Ⅰ゜
Ⅱ゜
Ⅲ゜
関節弛緩性の評価
① ⑤ ② ⑥ ③ ⑦ ④ ①手関節,腕が前腕の掌側につく
②膝が10度以上反張する
③お辞儀をさせて掌が床につく
④肘が15度以上伸展する
⑤背中で指を組むことができる
⑥足首が45度以上背屈できる
⑦股関節が180度以上開く
4項目以上で
全身関節弛緩あり
40 反復性膝蓋骨脱臼
-Apprehension テスト-
典型的な場合,触らせてもらえない
反復性膝蓋骨脱臼
-Q角 -
正常:15度以内
→ 外側へ脱臼するベクトル
左反復性膝蓋骨脱臼
-術前CT像-
膝蓋骨
外側偏位
外方傾斜
大腿骨滑車面
浅い関節面
反復性膝蓋骨脱臼の原因
• 
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浅い大腿骨滑車 長い膝蓋腱 外側軟部組織の過緊張 内側軟部組織のゆるみ –  特に、MPFL(内側膝蓋大腿靱帯)のゆるみ • 
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大きなQ角 関節弛緩性 外反膝 etc
MPFL(内側膝蓋大腿靱帯)
•  Medial PatelloFemoral Ligament •  膝蓋骨脱臼に対する一
次制御機構 •  膝蓋骨脱臼時には必ず
断裂する
MPFL再建術 (ハムストリング腱を用いた方法)
術前
術後
膝半月板損傷
・半月板に加わる剪断力が原因
・症状の特徴はcatching(引っ掛かり),locking(嵌屯 ) giving way(ひざ崩れ)
・MRIが診断に有用
48 はんげつばん(半月板)の構造
右ひざを
上からみたところ
後
外側
内側
前
•  アルファベット
“C” の形状
•  なんこつ(軟骨)の一種
内側半月板損傷
• 多くは中後節移行部での
損傷
• 中高年の変性断裂が多い
• ACL損傷に合併する場合
はバケツ柄断裂が多い
外側半月板損傷
• 単独損傷は少ない
• 円板状半月板損傷が多い
• 前十字靭帯損傷に合併す
る場合は後角の縦断裂が
多い
円板状半月板損傷�
易損傷性、小児期から発症、両側性90% 治療 : 鏡視下半月板切除�
半月板損傷の徒手検査方法
McMurray (マクマーレー)テスト
半月板損傷の徒手検査方法
触診(圧痛,弾発現象)
McMurray test:膝最大屈曲から
痛みの誘発 Apley test:腹臥位で膝屈曲90°と
下腿を外旋または内旋させながら, し圧迫や下腿に回旋を加えた際に
関節裂隙に触知されるclickの有無 痛みが誘発されることを確かめる. を確かめる. Bragard test :関節裂隙の圧痛が Watson-Jones test:膝を過伸展
膝屈曲・下腿外旋で増強し,膝伸
展・下腿内旋で現弱する現象を陽
性とする.
した際に痛みの誘発を確かめる. Steinmann test(第2手技):関節 Steinmann test(第1手技):膝屈
裂隙に沿った圧痛を膝屈曲位と伸
展位で比較し,屈曲位で後方に位
置した圧痛が伸展位で前方に移動
することを陽性とする. 曲90°で下腿の内外旋を急に加え
た際に痛みの誘発を確かめる. 診断精度は70-80%
左膝内側半月板傷例
正常例
損傷部:水平方向に高信号域
損傷例
半月板に対する処置
半月板切除術
半月板縫合術
56 膝軟骨損傷
•  靭帯損傷や半月板損傷に伴うことが多い
•  硝子軟骨は再生能力に乏しい •  将来的に変形性膝関節症をきたしうる
57 58 軟骨損傷に対する処置
モザイクプラスティ(骨軟骨柱移植術)
肘の軟骨欠損部
骨軟骨移植後
膝関節非荷重部から採取した骨軟骨柱
軟骨損傷に対する処置
培養軟骨移植術
培養した軟骨細胞
軟骨欠損部
骨膜を縫合
骨膜で被覆
培養した軟骨細胞を欠損部に充填し骨膜で被覆
60 足関節外側靭帯損傷 (足関節捻挫)
・スポーツ外傷の中で最も頻
度の高い外傷
欧米では1日あたり1/10000人の
頻度で発生(Brooks, 1981)
日本では全スポーツ障害の 12%を占める.
61 足関節捻挫の頻度(競技別)
1位
2位
3位
4位
5位
柔道
鎖骨骨折
足関節捻挫
膝捻挫
上腕骨折
手指骨折
サッカー
足関節捻挫
手指骨折
前腕骨折
上腕骨折
足関節骨折
バスケットボール
足関節捻挫
手指骨折
手指捻挫
膝捻挫
前腕骨折
バレーボール
足関節捻挫
手指捻挫
膝捻挫
手指骨折
アキレス腱断裂
テニス
足関節捻挫
下腿肉離れ
アキレス腱断裂
膝捻挫
下腿打撲
バトミントン
足関節捻挫
アキレス腱断裂
膝捻挫
下腿肉離れ
下腿打撲
スキー
膝捻挫
下腿骨骨折
手指骨折
足関節捻挫
鎖骨骨折
’98JBL選手369名(男子178名・女子191名)での調査
捻挫既往歴あり:345名(93.5%)(男子167名・女子178名)
捻挫回数:5回以内:92名(26.7%),6回以上:253名(73.3%)
足関節捻挫の頻度は高く,しかもその殆どが陳旧化 62 足関節外側靱帯損傷 (足関節捻挫)
•  受傷機転 –  多くは足関節の内返し •  診断 –  外果周囲の腫脹・皮下出血 • 
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初期治療 RICE療法 歩行可能 → 弾性包帯固定 歩行不能 → 外固定+松葉
杖
足関節捻挫の治療方針
第1選択は保存療法(装具療法)
・機能的装具(サポーター)を使用
・観血的治療やギプス固定に比べ成績に差がない.
・観血的治療による合併症や,ギプス固定による廃用 性障害などの合併症をきたすことがない.
・万が一不安定性が残存しても(残存率10%程度),靱 帯再建で良好な成績が得られる.
Kannus P JBJS 1991 64 RICE処置
R (rest)
固定・安静
I (icing)
冷却
C (compression) 圧迫
E (eleva6on) 挙上 RICEの実際
ポイント 受傷1時間以内に開始する 適応期間は受傷24〜72時間
•  アイスパック(氷袋)を患部に当てて包帯で固定 •  20-­‐30分、知覚がなくなるまで冷やす 繰り返す
•  冷却をやめる •  知覚が戻ったら再度冷却する
足関節不安定性
-側方動揺性-
→ 捻挫の繰り返し
ストレスX線による診断
内反ストレス 前方引き出し 足関節テーピング
ステップ
•  アンカー
•  スターアップ
•  ホースシュー
•  フィギュアエイト
•  ヒールロック
テーピングの効果
テーピング(-)
テーピング(+)
骨軟骨損傷を合併する場合も
足関節鏡所見
関節軟骨の欠損
衝突性外骨腫
Impingement exostosis Footballer’s ankle 足関節の底背屈により、衝突現象をきたす
症状がないこともある�
一部の症例では
変形性関節症へ進展
足関節捻挫
• 靭帯不安定性
• 軟骨損傷?
• 解剖学的因子?
変形性関節症
オスグット・シュラッター病
•  小学校高学年~中学校
1年生ぐらい
•  脛骨粗面の突出と圧痛
オスグット・シュラッター病
患側
健側
膝蓋腱付着部の骨端部が膝蓋腱により牽
引されて離開した状態
78 ジャンパー膝
膝伸展機構の障害
• 膝蓋骨上極
• 膝蓋骨下極
→狭義のジャンパー膝
• 膝蓋骨下極の骨端症
→Sinding Larsen Johansson 病
• 脛骨粗面の骨端症→オスグッド病
大腿四頭筋のTightness
Heel Hip Distance
正常では踵はお尻につく.
Tightnessが強いと尻上がり現象が認められる.
81 ジャンパー膝
治療
保存療法
• アイシング
• ストレッチ
大腿四頭筋の
柔軟性低下
ランナー膝
•  腸脛靭帯炎(ランナー膝)
–  膝屈伸による大腿骨外側顆
との炎症
–  O脚、内旋位歩行
–  練習量の軽減、ストレッチ、
アイスマッサージ。
–  手術(延長術)のことも
シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)
・ヒラメ筋の筋収縮による骨膜付着部炎
・脛骨遠位内側部の疼痛が主訴
・急激な運動量の増加や,運動環境の 変化がきっかけとなることが多い.
・治療は休養とヒラメ筋のストレッチ
Walshの分類(1990)
StageⅠ:運動後だけ痛みあり
StageⅡ:運動中に痛みがあるがパフォーマンスに影響なし
StageⅢ:運動中に痛みがあり,パフォーマンスに影響
StageⅣ:安静時にも痛みあり
84 疲労骨折
肋骨
脛骨(疾走型)
脛骨(跳躍型)
中足骨
・骨への反復するストレスが原因
肘頭
・初期診断にはMRIが有用
・基本的に安静で治癒するが,部位によっては難治性85 肉離れ(筋・筋膜損傷)
・ダッシュやジャンプなど筋肉が強力に収縮していると
きに急激な伸展力が作用(遠心性収縮)し,筋の一部
や筋膜が損傷した状態
・急激な伸張がおこる二関節筋に多い.
代表的な二関節筋
・ハムストリングス
(大腿二頭筋,半腱様筋腱,半膜様筋)
・大腿四頭筋
・下腿三頭筋
86 肉離れ(筋・筋膜損傷)の分類と治療
Ⅰ型
Ⅱ型
Ⅲ型
分類
損傷の状態
復帰
Ⅰ型
筋腱移行部とその周辺の
出血のみ.腱膜損傷無し
1~2週
Ⅱ型
筋腱移行部の損傷.特に
腱膜の損傷が明らか
4~12週
Ⅲ型
12週以上
腱または腱付着部の断裂
(手術も考慮)
87 アキレス腱断裂
“後ろからけられた感じ”という自覚症状が多い
アキレス腱断裂
•  特徴 30〜40歳台 •  疾走、ジャンプ •  後ろから蹴られたような感じ •  診断 アキレス腱部の陥凹 •  Thompson test 陽性 •  初期治療 尖足位でギプス •  松葉杖 • 
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患側
治療 ギプス固定6週間(再断裂3~8%) 手術適応 ・早期スポーツ復帰 ・再断裂率の軽減 Thompson test 下腿三頭筋を把握しても 足関節が底屈しない
腸骨棘裂離骨折
•  上前腸骨棘裂離骨折
•  下前腸骨棘裂離骨折
•  成長期(13-17歳)
•  骨がまだやわらかい
時期
•  ボールを蹴ったら
•  全力疾走したら
•  通常1回の外傷
•  まれに疲労骨折
•  保存療法が多い
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