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学校教育学研究, 2000,第12巻, pp.149-153
149
小学校プールの消毒・殺菌とその効果について
笠原恵・吉岡秀文(兵庫教育大学)山野井昭雄(明石市立高丘東小学校)
繁戸克彦(兵庫教育大学大学院・学校教育研究科・自然系コース)
この資料では,小学校プールでの大腸菌の検出と遊離塩素濃度の1日の変化を調査し,プール内の細菌の殺菌効果について考察を行っ
た.またプールの水および水道水での大腸菌の成長曲線を調べるとともに,遊離塩素による大腸菌の殺菌実験の追試を行い,小学校
プールの水の管理方法について検討した。
キーワード:小学校プ-ル,遊離塩素濃度,消毒殺菌効果
笠原恵:兵庫教育大学・自然系教育講座・助手, 〒673-1494兵庫県加東郡社町下久米942-1
E-mail: [email protected]
吉岡秀文:兵庫教育大学・自然系教育講座・助教授, 〒673-1494兵庫県加東郡社町下久米942-1
E-mail: [email protected]
LLJ野井昭雄:明石市立高丘東小学校・教諭, 〒674-0057明石市大久保町高丘312
E-mail: [email protected]
繁戸克彦:兵庫教育大学大学院・学校教育研究科・自然系コース・大学院生, 〒673-1494兵庫県加東郡社町下久米942-1
E-mail: [email protected]、acーjp
On the Effect of Sterilization of the Water in Swimming Pool of Elementary
Schools
Megumi Kasahara, Hidefumi Yoshioka, Katsuhiko Shigeto (Hyogo University of Teacher Education)
Akio Yamanoi (Takaokahigashi Elementary School)
In this paper, we examined the change of free-chlorine concentration in swimming pool of elementary school,
and detected the Escherichia coh as a parameter of pollution in the water. In addition, the growth curve of
Escherichia coli in the water of swimming pool was examined. We discussed about the effect on sterilization of
the bacteria, and considered the way of maintenance of the water in swimming pool.
Key Words: swimming pool, effect on sterilization, concentration of free chlorine
Megumi Kasahara is a Research Assistant of Department of Biology at Hyogo University of Teacher Education,
942-1
Shimokume,
Yashiro,
Kato一gun,
Hyogo
673-1494
Japan.
E-mail:
[email protected]
Hidefumi Yoshioka is a Associate Professor of Department of Biology at Hyogo University of Teacher Education,
942-1 Shimokume, Yashiro, Kat0-gun, Hyogo 673-1494 Japan. E-mail: [email protected]
Akio Yamanoi is a Teacher of Takaokahigashi Elementary School, 3-2 Takaoka, Okubo, Akashi, Hyogo 674-0057
Japan. E-mail: [email protected]
Katsuhiko Shigeto is a Graduate Student of Hyogo University of Teacher Education, 942-1 Shimokume, Yashiro,
Kat0-gun, Hyogo 673-1494 Japan. E-mail: [email protected]
学校教育学研究:, 2000,第12巻
150
lはじめに
Il.調査・実験方法
近年,病原性大腸菌などの細菌がよく問題になってい
る。特に小学校での集団生活・教育活動においては,児
童の抵抗力・免疫力が高くないこともあって,集団感染
の被害が大きくなりがちであるため,社会的な関心が高
い。給食による集団感染で死亡例が出たことがマスメディ
アに大きく取り上げられ,その年の流行語に選ばれるほ
どの社会現象に発展したことも記憶に新しいできごとで
ある。
当然のことながら,給食では,食材の搬入方法・管理,
調理方法の徹底,殺菌設備の強化等,様々な改善が全国
的に行われた。また,集団感染の原因となる,多くの児
童に共通する要素をもっ活動について,衛生管理の点か
らの見直しが行われた。
毎年夏期に,全校児童対象に行われる水泳指導もその
一つである。以前より,プールの消毒は行われていたが,
事件以後,より細かい基準の設定,管理徹底が求められ
るようになった。
ところが,指導にしたがった水質管理をしているにも
かかわらず,管轄機関により行われる水質検査で大腸菌
などの細菌がわずかに検出される場合があり担当者を悩
ませている。細菌すべてが病原性細菌ではないが,厚生
省および文部省のプ-ル水質基準(表1)によると,大
腸菌は不検出となっている。
この資料では,実際のプールでの遊離塩素濃度の変化
と大腸菌の検出を調査し,ごく稀に生じる不可解な現象
が起こりうる可能性について,実験室内で追試し,再検
討を行った。
1.プール水の採取と大腸菌の検出
小学校の25mプールで塩素混入ロから離れている,
流れの少ないコーナーを測定点に選び,表層水を250
mL採敢し,冷蔵庫で保存した。その後遠心分離(3000g
loヵ)により細菌類を沈澱させ,それを大腸菌群用
デゾキシコレート培地(日水製薬株式会社)に広げ, 37
℃12時間培養した。このプレートでは大腸菌は紅色のコ
ロニーを形成し,他の細菌は白色のコロニーを形成する。
培養時間が短いことと,培地に色素が含まれているため,
酵母のような真核生物は検出できない。
2.プール水の遊離塩素濃度の測定
調査した小学校では,塩素系消毒剤としてハイクロン
G額粒剤(日本曹達株式会社)を使用していた。遊離塩
素濃度の測定はプ-ル水10 mLに0-トリジンを2,
3滴(約100 〟L)加え,比色計を用いて測定した。
3.実験室内での遊離塩素濃度の測定
実際小学校で使用されている塩素系消毒剤(-イクロ
ンG) 150n9を蒸留水10mLに溶かしたものを遊離塩
素濃度1%溶液とし,それを希釈することにより0.2
1.0 wの濃度の溶液を作成した。各溶液に0トリジンを10 〟Lを加え,分光光度計により波長435
nmの吸光度を測定し,これを基準に各水の遊離塩素
濃度を換算した。
4.大腸菌の成長曲線
水道水およびプール水における大腸菌の培養は, 500
mLの三角フラスコに100 mLの各水と大腸菌液(拷
養液で一晩培養したものを,蒸留水で洗ったもの) lm
Lを加え, 28℃の振蛍培養機で振塗しながら行った.
表1プール水質基準
厚生省文部省
項目遊泳プール水井基準学校水泳プール水質判定基準
(平成4年) (平成4年)
水素イオン濃度(pH)
5.8-8.6
5.8-8.6
沸度
3度以下
3度以下
1 2mg/L以下
1 2mg!L以下
0.4-1.0mg!L
プール内の対角線の3点以上を選び表面及び中層で
過マンガン酸カリウム消費量
遊離残留盤索
0.4-l.lmg!Lが望ましい
二酸化塩素
0.1-0.4mg!L
亜塩素酸
1.2mg/L以下
大腸菌群
IOOmL中島確数が5を越えないこと
一般細菌数
備考
検出されてはならない
lmL中200コロニー以下
給水原水は飲料水基準に適合することが望ましい
小学校プールの消毒・殺菌とその効果について
プ-ルの水に関しては, 0.22〟mのフィルターでろ過
することにより,その中に含まれている細菌類を除いた。
またこの実験では,遊離塩素濃度が0.1 mg / L以下
になった水道水およびプール水を使用した。 1時間ごと
に100 〟L採取し,分光光度計で波長600 nmの吸光
度を測定することにより成長曲線を作成した。大腸菌は
研究室で保存されていた野生型株W3110を使用した。
日.結果および考察
1.小学校プールにおける遊離塩素濃度の変化と大腸菌
の検出
学校水泳プ-ル水質判定基準によると,遊離残留塩素
濃度が0.4-1.Ong/Lが望ましいとされており,大
腸菌群については検出されないこととなっている。実際
の指導が行われている現場では,それらがどのように変
動しているか調査を行った。 3回調査を行った中の1例
を表2に示した。この日の天気は晴れで,水温が約27-C,
2学年約120人がプールに入った時のデータである。水
泳指導の前日の放課後,その日の朝と水泳指導前に塩素
系消毒剤を投入しているにもかかわらず,遊離塩素濃度
が0.2 mgを越えない時間が存在していたoまた,
表中にはあらわれていないが,塩素系消毒剤を投入する
ことにより,数分後には,遊離塩素濃度が0.7 i叩/ L
程度まではあがることも確認した。もっとも,炎天下で
の水の撹拝が行われる状況では,遊離塩素濃度は急激に
低下し, 2時間の指導後には,遊離塩素濃度が0.1m/L
以下に下がっていた。これを裏付けるように,水泳指導
直後には大腸菌が検出された。水泳指導直後の塩素系消
151
毒剤投入を意図的に省略したこの日の放課後には,大腸
菌はさらに増加していた。大腸菌以外の細菌も水泳指導
後かなり増加していた。この調査から,小学校プールで
は水泳指導後,かなりの細菌が存在していることがうか
がえる.児童は洗体槽で消毒しシャワーを浴びた後,プルに入っているにもかかわらず,消毒・殺菌が十分に行
われていないことと,洗体槽に入らなくてもよい,皮膚
のアレルギー疾患を持つ一部児童の影響だと考えられるo
これらの細菌は,放課後の塩素系消毒剤投入により規定
の遊離塩素濃度に到達させることにより殺菌され翌日の
水泳指導までには死滅していた。
2.遊離塩素濃度の時間的変化
プール水中の遊離塩素濃度は,水質の汚れや水温,天
候などの条件によりかなり変動すると考えられる。そこ
でまず,汚れていない蒸留水を使って,一定水温(28℃)
のもとで,遊離塩素濃度がどのように変化するのか調べ
た。最初1 πg/Lの遊離塩素濃度をもつ溶液を軽く振塗
しながら, 2時間おきに測定した(図1)。蒸留水では
8時間後に遊離塩素濃度が約半分になる。同様にプール
の水で測定したが,最初の測定時間である2時間後には
遊離塩素はほとんど検出されなかった。そこで,もっと
短い時間での遊離塩素濃度の変化を水道水・蒸留水・プー
ル水で比較した。試料は,蒸留水で遊離塩素濃度1 %溶
液を作成し,それを各水で1/10000倍希釈したものを
使用した。各時間ごとに0-トリジンを10 fihを加え,
分光光度計により波長435 nmの吸光度を測定した
(図2)。水道水には遊離塩素が含まれているため,遊離
塩素濃度は蒸留水・プール水に比べて高い値を示してい
表2小学校プールにおける遊離塩素濃度の1日の変化と大腸菌の検出
試料採取時間気温水温pH遊離塩素濃度大腸菌数その他細菌数
(℃)
(℃
(mg/L)
塩素投入前8:05 27.0 27.0 6.2 0.0
0
3
塩素投入直後8:15 27.0 27.0 7.2 0.1
0
0
0
0
塩素投入10:20
水泳指導前10:45 28.5 27.0
7.2
水泳指導後12:30 28.5 27.5
7.2 <0.1
ll
MOO
7.2
0.0
32
MOO
7.0
0.3
放課後18:00 27.0 27.5
0.1
塩素投入18:05
水道水18:00 27.0 25.0
学校教育学研究, 2000,第12巻
(%)埋友軍e増米車ゆ空将りIuiugg可哨潜
n/3uj)増殖樵墳墓期
0.3
時間(hr)
図1蒸留水における遊離塩素濃度の時間的変化(28℃)
るOこの図からわかるように,プール水では,遊離塩素
濃度が測定開始すぐから蒸留水より低くなっている。ま
た,水道水・蒸留水に比べて遊離塩素濃度の低下速度が
速いO水泳指導期間の後半の別の日のプール水を使った
実験では, 5分後にはほとんど遊離塩素濃度が検出でき
なかった。プール水にはアンモニア・尿素などの窒素化
合物や有機物のような目に見えない汚れが含まれている
ため,すぐにそれらと結合して遊離塩素濃度が低下する
からだと考えられる。水泳指導後半のプール水はかなり
いろんな物質を含んでいることがわかる。
0.6
1.5
水lLあたりに加えた塩素系消毒剤の量(mg)
図3同量の塩素系消毒剤を加えた時の遊離塩素濃度の差異
(蒸留水の吸光度を100%とした場合)
このプール水と蒸留水の塩素要求量の違いを示したの
が図3である。これは蒸留水とプール水に,同量の塩素
系消毒剤を加えて, 3分後に測定したときのものである。
蒸留水の遊離塩素濃度を100%としたときのときの相対
値を示している。プール水は蒸留水に比べて塩素要求量
が高いことがわかる。これらの結果は,プール水の容量
<"&O)増米車票元りjuiugg寸叫貞
に対して計算された塩素系消毒剤を投入しても,規定の
遊離塩素濃度にならないこと, 2時間の水泳指導の内に
遊離塩素濃度が急激に低下する現象を裏付けている。
3.大腸菌の殺菌に必要な遊離塩素濃度
大腸菌の殺菌にどれくらいの遊離塩素濃度が必要か検
討した0.0, 0.2, 0.4, l.Oms/Lの各濃度の蒸留水に
大腸菌(菌体数約103)を加え, 30秒と1分経過したとこ
ろで培地に広げ殺菌効果を調べた。その結果0.0π9/L
以外の塩素濃度ではすべて大腸菌は死滅していた。使用
した大腸菌は研究室で保存されていたものであるので野
外で検出される菌より少し弱い可能性があるが,規定最
低濃度の0.4i叩/Lの濃度は, 30秒で大腸菌を死滅させ
るに十分な能力をもつことが碓認された。
4.水道水・プール水における大腸菌の成長曲線
大腸菌は最適栄養条件であれば, 30分に1回の速度で
分裂を続ける。しかし,水道水やプール水には栄養分は
ほとんど含まれていない。そこでいったんプール水に入っ
た大腸菌は分裂増殖することが可能であるかどうか疑問
0.5
時間(min)
図2水道水・蒸留水・プール水における遊離塩素濃度の変化
に思い調査を行った。図4に大腸菌の成長曲線を示した。
この図から,水道水およびプール水では少ししか大腸菌
は増殖しないことがわかる。また,水道水に比べてプー
ル水の方が大腸菌が増殖しやすいこともうかがえる。最
終的には水中の栄養分がなくなるため大腸菌の増殖は止
まるOこれらのことは遊郡塩素がほとんどないプールに
小学校プールの消毒・殺菌とその効果について
g糾C。cJrH ooo
oooooooo
(-?IO)増ポ感空亙り︼UIUQ09叫潜
30
時間(hr)
図4水道水・プール水における大腸菌の成長曲線(28℃)
水道水およびプール水は遊離塩素濃度0.l釈g/L以下のも
のを使用
大腸菌が入ると,栄養分があるあいだはわずかながら増
殖しつづけると考えられる。表2の水泳指導後の大腸菌
数に比べて放課後の数が増えていることからも推察でき
る。
IV.おわりに
質は低下し,塩素系消毒剤の効果は下がり,消毒剤の投
入頻度を増していく必要がでてくることになるが,水泳
指導の実際を考えるとある程度の限界がある。水質を維
持し,消毒効果を長引かせるためには,一見無駄に見え
ても,ある程度の消毒効果を期待できる水道水(遊離塩
素濃度0.3im/L)を注ぎ,オーバ-フロ-による水の
入れ替えにより水質を維持する,汚れの激しい場合には
すべての水を抜いて入れなおす等の対策が必要であると
考える。
一度プ-ルに入った細菌類は遊離塩素濃度が低いと殺
菌されず,少しずつ増加するため,できるだけ細菌を持
ち込まないことも重要なことである。プール指導の際に
は,洗体槽でよく消毒して細菌を持ち込まないよう注意
するとともに,早朝・放課後のプールに訪れるハトなど
の動物による細菌類の持ち込みにも対策が必要であるo
水泳の授業や夏休みの地区プール解放に参加している
児童の様子に触れるまでもなく,多くの児童が楽しみに
しているプールである。だれもが安心して水に親しめる
ような,衛生的なシステムの確立が望まれる。プール施
設の改善含め,より効果的な対策を検討する必要がある
と思われる。
V.参考文献
これまでの実験結果から,汚れたプールの水では規定
量の塩素系消毒剤を投入しても,水中の有機物等により
すぐ消費されてしまうため,頻繁に水質検査を行い,規
定の遊離塩素濃度を維持し続ける必要があることがわかっ
た.しかし,現在のプールの水のろ過方法では物理的処
理しかできておらず,プールに含まれる有機物質の除去
にはなっていないように思われる。水泳指導期間,入れ
替えることがないプールの水は指導時間を重ねる度に水
153
日本化学会:新実験化学講座9 「分析化学I」,丸善,東京24
6-247, 1980
日本水泳連盟:水泳医学百科,南江堂,東京177-183, 1987
武藤芳照:水泳の医学,ブックハウスHD,東京55-68,
1986
(1999.7.29受稿, 1999.8.31受理)
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