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調査リポート - みずほ総合研究所

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調査リポート - みずほ総合研究所
調査リポート
2001 年 5 月 24 日発行 No.8
対日M&A急増の
要因と影響
発行:第一勧業銀行
編集:第一勧銀総合研究所
要旨
1.
日本への直接投資は欧米先進諸国への直接投資に比べ極めて低い水準で推移してきた
が、90 年代後半からは急速な増加に転じており、日本からの対外直接投資との極端な
アンバランスも解消しつつある。これは、対日 M&A の活発化によるところが大きい。
2.
急増する対日 M&A の動向を日本企業側の業種別に見ると、製造業では電機、自動車、
化学、非製造業では金融関連、情報通信関連業種の伸びが著しい。投資国別には欧米企
業によるものが大半である。形態別には、資本参加や買収など株式取得によるものが最
も多い。株式取得の方法には、特定の大株主との相対取引や第三者割当増資の引受け等
友好的な手法が多く活用されているが、最近では TOB による非友好的な M&A も出現
している。株式を取得する場合、経営への関与度や決算における連結範囲との関係で出
資比率が重要になる。大型の資本参加が相次いだ自動車業界では、経営主導が可能とな
る 33.4%を超える割合での出資を行う事例が多く見られた。
3.
対日 M&A 急増の要因のうち、日本企業側に起因する要因としては、①リストラクチャ
リングの活発化による非コア事業や不採算子会社の売却の増加、②企業倒産の増加、③
国内における積極的な買い手企業の不在、④伝統的な企業間関係の変化等が挙げられよ
う。外国企業側の要因としては、従来からある日本市場の魅力に加え、①世界的な企業
再編の進行、②対日投資ビジネスの活発化等がある。その他にも、日本での①外資規制
の撤廃や規制緩和の進展、②株価下落による買収コストの低下、③企業再編関連の法整
備と民事再生法の施行、④会計基準の国際化、⑤M&A アドザイザー業の躍進、⑥ビジ
ネスコストの低下等の要因が考えられる。
4.
M&A により経営の支配権を獲得した外国企業は、買収した日本企業に経営者を派遣し
て収益性を追求する欧米流の経営スタイルの導入を進めることが多い。外資の傘下に入
ることで、経営陣の刷新、リストラの断行、組織改革等、大胆な経営改革が迅速に進め
られるほか、親会社との共同購入による部材コストの引き下げ、資本増強による財務体
質の強化、親会社の信用力による資金調達コストの引き下げ等、様々な競争力強化策が
可能になる。
5.
強い競争力を持つ外資系企業の日本への市場参入・勢力拡大は、他の日本企業に危機感
をもたらし業界再編を触発する。また、外資系企業が持ち込む新しいビジネスモデルが、
日本の産業界に大きなインパクトを与える。さらに、救済余力のない日本企業に代わっ
て外国企業や投資ファンドが破綻企業再生の担い手となる等、対日 M&A の拡大が日本
の産業界に及ぼす影響は極めて大きい。経済のグローバル化の流れから、対日 M&A の
拡大はもはや不可逆的と考えられる。日本企業は、外国企業の進出を奇貨として、外資
系企業の経営スタイルやビジネスモデルの優れた部分は積極的に取り入れ、グローバル
なレベルでの競争力の強化を図っていくべきであろう。
(2001 年 5 月 21 日
産業・経営調査部
山根俊彦)
目次
1. はじめに ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1
2. 急増する対日直接投資 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1
3. 対日 M & A の動向 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4
(1) 業種別・国別の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
(2) 対日 M&A の分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
(3) 株式取得の形態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
(4) 株式取得と出資比率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
4. 対日 M & A 急増の要因分析 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 1
(1) 日本企業(売り手側)の要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
a. リストラクチャリングの活発化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
b. 企業倒産の増加 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
c. 国内に積極的な買い手が不在・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
d. 伝統的な企業間関係の変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
11
13
15
16
(2) 外国企業(買い手側)の要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
a. 世界的再編の進展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
b. 対日投資ビジネスの活発化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
(3) その他の要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
a. 規制緩和の進展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
b. 株価下落による買収コストの低下 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
c. 法制度の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
d. 会計基準の国際化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
e. M&A アドバイザーの躍進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
f. ビジネス環境の改善 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
20
21
21
22
22
23
5. 日本の産業界へのインパクト ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 4
(1) 欧米流経営スタイルの導入と競争力の強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
(2) 業界再編の触発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
6. おわりに ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 28
1. はじめに
従来、日本市場は外国企業の進出に対して閉鎖的で、特に外国企業による日本企業への
M&A は日本固有の経営風土や国民性、制度的障害等から極めて困難とされてきた。しかし
ここ数年、そうした通念が崩れるとともに対日 M&A が急増し、日本経済における外国企業
の存在感が増してきている。そこで本稿では、急増する対日 M&A の動向調査と要因分析を
行い、日本の産業界に及ぼす影響について考察を加える。
2. 急増する対日直接投資
日本の対内直接投資は、欧米先進国の水準と比較すると極端に低い。日銀の国際収支統計
により日米欧 5 か国間で 99 年の実績を比較すると( 図表 1)、日本の対内直接投資額は 127
億ドルであるが、これは 2,825 億ドルの米国と比べて桁違いに小さく、日本を除く 4 か国中
で最小のフランスの 409 億ドルと比べても 1/3 以下に過ぎない。対名目 GDP 比率で見ても、
英国の 5.7%を筆頭に他国も 2∼3%の水準であるのに対し、日本ではわずか 0.3%に留まっ
ている。なお、対外と対内直接投資額を比べると、米国が大幅な流入超過(対内>対外)で
あるのに対し、日欧では流出超過(対内<対外)となっており、日欧の資金が米国に流れ込
む構図になっている。
国際比較では低水準にとどまっている日本の対内直接投資(以下、対日直接投資)である
が、その推移を見るとそれでも近年急速に増加していることがわかる。財務省の直接投資統
計1によれば( 図表 2)、90 年代半ば過ぎまで、対日直接投資は 1 兆円以下で推移していた。
ところが 90 年代末近くなってから急激に増加し始め、98 年度に 1.3 兆円と初めて 1 兆円の
大台を突破、99 年度には 2.4 兆円と更に大きく増加した。2000 年度に入っても 2000 年 4
∼2001 年 1 月で既に前年度投資額を超え 2.8 兆円に達するなど増勢が継続している。この
結果、従来 1/10 前後に過ぎなかった対外直接投資額との比率も、99 年度には 1/3 にまで上
昇、2000 年度に入ってからはさらに格差が縮小している。
次に、対日直接投資額を業種別及び地域・国別に分解して見る(図表 3、図表 4)。大口
投資の有無により項目別の構成比が毎年大きく変動するため特徴を捉えにくいが、業種別に
は非製造業への投資割合が製造業を上回る傾向があると言え、99 年度は投資額の約 60%が
非製造業に対するものであった。個別業種で見ると、製造業では機械、非製造業では金融・
保険業、商事・貿易業、サービス業等のシェアが大きく、99 年度は機械と通信業が著しく
伸長した。地域・国別には、北米並びに欧州からの投資が大半で 99 年度には全体の 3/4 を
占めている。欧州の中ではオランダのシェアが大きい2が、99 年度はフランスからの投資が
1
2
日銀の国際収支統計が新規投資と投資回収のネットで捉えているのに対し、財務省の直接投資統計は報
告・届出ベースで新規案件のみ集計している等の相違点がある。
オランダに設立した持株会社を経由した投資が多い。オランダでは、①持株会社には受取配当金に対す
る法人税が免除される資本参加免税制度、②投資企業が税務当局と事前に税務裁定を結ぶことができる
アドバンス・タックス・ルーリング制度(ATR)、③広範囲にわたる租税条約ネットワーク等、持株会
社に対する税制面の優遇措置が充実しているためである(2001 年版ジェトロ貿易白書)。
1
激増した。一方、アジアからの投資は同地域の経済の急成長とともに一時シェアを伸ばした
が、通貨危機の影響で 98 年度以降は 1 ケタ台に低迷している。
また、投資形態別でみると、株式取得の形態が大きく伸びている(図表 5)。
図表1 対内直接投資額の国際比較(99 年)
日本
対内直接投資額
対外直接投資額
名目GDP
対内直接投資額/名目GDP
対内/対外直接投資額
米国
(百万ドル)
12,741
(百万ドル)
22,743
(百万ドル) 4,346,804
(%)
0.3
(倍)
0.56
英国
ドイツ
(注)直接投資は国際収支ベースで、新規投資から投資回収分を差し引いたネットの数値。
(資料)日本銀行「国際比較統計」
図表2 日本の内外直接投資額の推移
(兆円)
10
100
9
内外投資比率(右軸)
8
90
80
7
70
対外直接投資額
6
60
5
50
4
40
対日直接投資額
3
30
2
20
1
10
0
0
89年度 90
91
92
93
94
95
96
97
98
99 2000
(注)1.報告・届出ベース。新規実行分を集計したもの。
2.内外投資比率は、対外直接投資額を 100 とした場合の対日直接投資の値。
3.2000 年度は 2000 年 4 月から 2001 年 1 月までの数値。
(資料)財務省「対外及び対内直接投資状況」
2
フランス
282,511
82,298
52,232
40,910
152,160 198,673
98,843 104,748
9,299,200 1,442,006 2,112,007 1,431,434
3.0
5.7
2.5
2.9
1.86
0.41
0.53
0.39
図表3 業種別対日直接投資額
(億円、%)
95年度
金額
構成比
1,412
182
1,095
135
2,284
1,001
679
53
491
16
44
3,697
製造業計
機械
化学
その他
非製造業計
金融・保険業
商事・貿易業
通信業
サービス業
不動産業
その他
合計
96年度
金額
構成比
38.2
4.9
29.6
3.7
61.8
27.1
18.4
1.4
13.3
0.4
1.2
100.0
3,111
1,558
695
858
4,595
273
1,664
21
2,360
265
12
7,707
97年度
金額
構成比
40.4
20.2
9.0
11.1
59.6
3.5
21.6
0.3
30.6
3.4
0.2
100.0
2,674
1,452
740
482
4,108
1,616
996
33
888
482
93
6,782
39.4
21.4
10.9
7.1
60.6
23.8
14.7
0.5
13.1
7.1
1.4
100.0
98年度
金額
構成比
3,126
2,129
397
600
10,278
4,569
1,759
168
3,181
416
185
13,404
23.3
15.9
3.0
4.5
76.7
34.1
13.1
1.3
23.7
3.1
1.4
100.0
99年度
金額
構成比
9,797
8,652
603
542
14,196
5,115
3,485
3,300
2,058
168
70
23,993
40.8
36.1
2.5
2.3
59.2
21.3
14.5
13.8
8.6
0.7
0.3
100.0
(資料)財務省「対外及び対内直接投資状況」
図表4 地域・国別対日直接投資額
(億円、%)
95年度
金額
北米計
アメリカ
中南米計
アジア計
欧州計
フランス
オランダ
英国
ドイツ
その他
日本
合計
96年度
構成比
1,786
1,772
141
247
1,274
113
535
114
168
16
233
3,697
48.3
47.9
3.8
6.7
34.5
3.1
14.5
3.1
4.5
0.4
6.3
100.0
金額
97年度
構成比
2,445
2,390
656
1,372
2,202
105
804
405
477
32
1,000
7,707
金額
31.7
31.0
8.5
17.8
28.6
1.4
10.4
5.3
6.2
0.4
13.0
100.0
98年度
構成比
1,521
1,518
591
742
3,078
93
1,463
446
552
7
843
6,782
22.4
22.4
8.7
10.9
45.4
1.4
21.6
6.6
8.1
0.1
12.4
100.0
金額
99年度
構成比
8,095
8,078
343
211
3,023
168
1,280
370
335
3
1,729
13,404
60.4
60.3
2.6
1.6
22.6
1.3
9.5
2.8
2.5
0.0
12.9
100.0
金額
構成比
4,173
2,487
2,895
1,100
14,137
7,457
4,712
898
467
73
1,615
23,993
17.4
10.4
12.1
4.6
58.9
31.1
19.6
3.7
1.9
0.3
6.7
100.0
(注)1.日本からの対日直接投資とは、外資系企業によるもの。
2.99 年度フランスからの投資が急拡大したのは、ルノーによる日産自動車への資本参加(5,907 億
円)の影響が大きい。また、99 年度のオランダ持株会社経由の大口案件として、米 AT&T と英 BT
による日本テレコムへの資本参加、米ニュー・LTCB・パートナーズによる旧長銀への出資、カナダ
のマニュライフによる旧第百生命への出資等がある。
(資料)財務省「対外及び対内直接投資状況」
図表5 形態別対日直接投資額
95年度
金額
構成比
株式・持分の取得
貸付
合計
2,055
1,642
3,697
55.6
44.4
100.0
96年度
金額
構成比
5,476
2,231
7,707
71.1
28.9
100.0
(資料)財務省「対外及び対内直接投資状況」
3
97年度
金額
構成比
6,011
771
6,782
88.6
11.4
100.0
98年度
金額
構成比
8,147
5,257
13,404
60.8
39.2
100.0
(億円、%)
99年度
金額
構成比
21,366
2,626
23,992
89.1
10.9
100.0
3. 対日 M&A の動向
対日直接投資は大きく分けて、既存の日本企業あるいはその一部を M&A により買収する
方法と、新たに法人を設立し工場やオフィスを開設して活動を開始する新設投資
(greenfield investment)がある。本稿では近年の対日直接投資急増において大きな役割
を果たしており、売り手として日本企業の関わりも深い対日 M&A を主な分析対象とする3。
( 1 ) 業種別・国別の動向
日本企業と外国企業間での M&A 件数の推移を見ると4、90 年に一度ピークを付けた後減
少に転じた。そして、93 年に底を打った後、再び増加に転じ現在に至っている( 図表 6)。
特に 2000 年の増加幅は大きく、既往ピークである 90 年の件数を超えた。90 年の山と最近
の傾向とを比較すると、前者の特徴は対外 M&A(内−外)主導だったことで、この時期は
バブル経済の最盛期に当り、
図表6 日本のクロスボーダーM&A 件数の推移
豊富な資金力を背景に日本
企業による外国企業の買収
(件)
600
が盛んであったことを反映
している。これに対し、最
500
近の特徴は対外 M&A だけ
でなく対日 M&A(外−内)
400
も増加している点である。
このように近年急増して
いる対日 M&A を更に
300
日
本企業側の業種別で見ると
200
(図表 7)、年により変動が
あるものの、製造業と非製
内ー外
100
造業のシェアはほぼ拮抗し
ている。製造業では、以前
から比較的件数が多かった
「電機」、「化学」、「医
薬品」、「機械」等に加え、
最近では世界的な再編が進
3
4
外ー内
0
89年
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
2000
(注)「外−内」「内―外」とも、日本企業の海外現地法人と外国企業間の M&A
を含む。
(資料)レコフ「marr」
統計では、対日直接投資の中での新設投資と M&A 投資の内訳は示されていない。図表 5は対日直接投
資額を形態別に分解したものだが、M&A 投資は「株式・持分の取得」に分類される一方、新設投資は
「株式・持分の取得」と「貸付」の両方にまたがる。90 年代後半にかけて「株式・持分の取得」の割合
が高まっているが、個別事例の状況等から見て M&A 投資の寄与が大きいと推定される。
M&Aに関する公式統計は存在しないため、ここではレコフ(M&A 仲介会社)の統計を用いて説明す
るが、この統計は新聞等で公表された情報を集計したものであり、全ての M&A を網羅しているわけで
はない点に注意を要する。また、金額ベースの統計は、金額非公開の案件が多いこともあって参考値と
してのみ公表されている。2000 年の M&A のうち取引金額が判明したのは全体のほぼ半数に過ぎず、外
−内 10,661 億円、内−外 33,721 億円となっている。
4
行中の自動車・自動車部品業を含む「輸送用機械」が急増している。非製造業では、従来か
ら海外メーカー等による日本市場への販路確保の動きを反映して「商業」の件数が多かった
が、最近では規制緩和の進む金融関連業種や「通信・放送」が件数を増やしている。2000
年には、インターネットや電子商取引等の IT ベンチャーに対する外資の出資が急増した「ソ
フト・情報」の件数増加が際立っている。
次に、投資企業の国籍別に見ると(図表 8)、米国企業によるものが圧倒的に多く、特に
98 年以降は総件数の過半数を超えている。欧州企業は 3 割程度のシェアを占めているが、
中でもドイツ、英国、フランス等の件数が多い。アジア企業は、通貨危機の影響で 98 年に
減少に転じたが、その後の景気回復に伴って韓国、香港、ASEAN 諸国を中心に再び増加し
始めている。
図表7 (日本企業側)業種別対日 M&A 件数の推移
95年
96年
97年
98年
製造業
12
17
28
食品
2
1
化学
2
1
4
医薬品
3
5
4
非鉄・金属製品
1
2
機械
3
1
1
電機
3
4
10
輸送用機械
1
1
その他
1
2
5
非製造業
20
14
23
商業
7
7
10
銀行
生保・損保
証券
2
その他金融
1
2
通信・放送
4
4
ソフト・情報
4
2
4
サービス
1
1
4
その他
1
0
3
合計
32
31
51
(注)日本企業の海外現地法人と外国企業間の M&A を含む。
(資料)レコフ「marr」
99年
31
1
4
2
3
1
7
7
6
54
12
1
2
5
12
8
5
7
2
85
2000年
72
4
8
2
3
8
17
12
18
57
12
4
3
3
8
8
3
12
4
129
71
4
18
4
2
6
17
10
10
104
17
7
3
5
6
11
38
14
3
175
(単位:件)
95∼2000年
231
12
37
20
11
20
58
31
42
272
65
12
8
15
29
35
56
39
13
503
図表8 投資国別対日 M&A 件数の推移
95年
96年
97年
北米
18
8
23
米国
18
8
22
欧州
7
14
16
フランス
1
1
2
オランダ
2
英国
2
4
3
ドイツ
2
5
9
スイス
1
1
アジア
7
7
12
韓国
3
1
1
台湾
1
3
4
香港
1
3
ASEAN
2
2
2
その他
0
2
0
合計
32
31
51
(注)日本企業の海外現地法人と外国企業間の M&A を含む。
(資料)レコフ「marr」
5
98年
99年
48
47
27
5
3
5
7
4
5
5
0
5
85
73
71
46
12
4
9
14
1
9
2
4
1
2
1
129
(単位:件)
2000年
95∼2000年
105
275
103
269
45
155
4
25
4
13
10
33
15
52
5
12
21
61
3
10
4
21
8
13
4
12
4
12
175
503
( 2 ) 対日 M&A の分類
対日 M&A の具体的な分析に入る前に、M&A の体系について簡単に整理する。M&A と
は、合併(Mergers)及び買収(Acquisitions)の略で、一般的には会社もしくは経営権の
取得を意味するが、本稿ではその対象範囲を図表 9のように定義する。ここで言う買収には、
株式により経営権を取得する(あるいは経営に関与する)株式取得と、企業の事業部門等を
資産、従業員、商権等が一体となった財産として契約により取得する営業譲渡(譲受)とが
ある。株式取得は更に、発行済み株式数に占める取得済み株式数の割合により、完全子会社
化(100%)、子会社化(50%超∼100%未満)、資本参加(50%以下)に分けられる。50%
超の株式取得に限定して買収という用語を用いる場合もあるため、本稿ではこれを「(狭義
の)買収」として区別する。また、株式取得のうち、既に出資している企業に対する発行済
み株式の 50%までの追加取得を出資拡大と言うことがある5。
形態別に対日 M&A 件数を見ると(図表 10)、資本参加や(狭義の)買収等株式取得に
よるものが最も多く全体の 3/4 近くを占め、次いで営業譲渡が 1/4 程度、合併は皆無に近い。
日本企業間の M&A では合併が 10%弱を占めるのとは対照的である。対外 M&A では株式取
得の割合が 90%弱と更に高く、合併は対日 M&A の場合と同様ほとんど見られない。複数
の企業が一体となる合併では異なる企業文化の融合が M&A の成功に欠かせないが、クロス
ボーダーM&A では、使用言語の相違等、企業文化以前の根源的な差異が大きいことが影響
しているのであろう。しかし、同じクロスボーダーM&A でも欧米企業間では、数は少ない
ものの大型合併の事例が発生している6。
図表9 M&A の体系
合併(Mergers)
完全子会社化
M&A
株式取得
子会社化
買収(Acquisitions)
(狭義の)買収
資本参加
(出資拡大を含む)
営業譲渡(譲受)
5
6
株式の追加取得でも、50% 超となるものは(狭義の)買収に含まれる。
UNCTAD(United Nations Conference on Trade and Development)の統計によると、全世界でのク
ロスボーダーM&A のうち合併の占める割合はわずか 2.3% に過ぎない(99 年)。しかし、 98 年の BP
(英国)とアモコ(米国)の合併や、99 年のダイムラー(ドイツ)とクライスラー(米国)の合併等、
件数は少ないものの大型の案件が見られる。
6
図表10 形態別 M&A 件数の割合(2000 年)
株式取得
合併
対日 M&A
資本参加
(狭義の)買収
32.6%
出資拡大
38.3%
26.3%
0.6%
日本企業間
の M&A
営業譲渡
2.3%
8.8%
23.7%
40.8%
23.6%
3.0%
対外 M&A
29.9%
57.9%
1.1%
10.2%
0.8%
(資料)レコフ「marr」
( 3 ) 株式取得の形態
株式取得による M&A は、合併や営業譲渡のような煩雑な手続きは不要で、通常は株主総
会を開催する必要もないため、最も頻繁に活用されている(図表 10)。これには、既発行
済み株式を他の株主から取得する株式買取りの方法と、第三者割当増資の引受けにより新た
な株式を取得する方法とがある(図表 11)。株式買取りは更に、特定の大株主との相対取
引、市場での買い集め、株式公開買付(TOB)に分類される。
特定の大株主との相対取引は、株主である売り手の日本企業と買い手である外国企業のニ
ーズが一致したときに成立し、市場外で行われる。最近では、リストラを進める企業が非コ
ア事業を手掛ける子会社を売却したり、系列取引の解消を進める自動車メーカーが傘下の自
動車部品会社の株式を譲渡する事例が多く見られる(図表 12)。
市場での買い集めは株式公開企業が対象となるが、株式を大量に取得する必要がある(狭
義の)買収の手段としてはあまり適していない。特に株式持ち合い等で浮動株が少ない企業
を対象とする場合は困難で、他の方式による株式取得の際に出資比率を調整する手段として
付随的に用いられる程度である。
TOB とは、証券取引法7に基づいて市場外で不特定多数の相手から株式を取得するもので、
短期間に大量の株式を取得することができる有効な M&A の手法である。買収企業の経営者
7
証券取引法では、有価証券報告書を提出しなければならない会社が発行者である株券等について取引所
外で買い付ける場合には公開買付によることを原則としている。例外として、①買付後の株券所有割合
が「特別関係者」と合わせて 5%以下である買付、②市場外取引で 60 日間で 10 名以下の者からする買
付(ただし買付後の所有割合が「特別関係者」と合わせて 3 分の 1 を超えない場合に限る)、③「特別
関係者」から行う買付、④既に対象企業の株式の 50% 強を自己名義で所有している場合の株券等の買付
(著しく少数の者からの買付に限る)の4ケースがある。「特別関係者」とは、出資関係がある等株式
買付者と一定の関係にある者を言う。
7
の意向に関わらず(あるいは反して)一方的に M&A を仕掛けることが可能であるが、日本
企業間では従来、対象企業の経営者の合意を得た友好的な TOB がほとんどであった。99
年、英国の大手通信会社ケーブル・アンド・ワイアレス( C&W)が国際デジタル通信( IDC)
に仕掛け、NTT に競り勝ったケースが日本で非友好的な TOB が成立した初事例となった。
第三者割当増資の実施には、対象会社における取締役会の決議が必要なほか、定款上株式
に譲渡制限が付されている場合や引受人に有利な価額で発行する場合等には、株主総会にお
ける特別決議が必要になる。すなわち、合併や営業譲渡と同様、対象企業の合意が必要とな
る友好的な M&A の一つである。対象企業にとっては、株式買取りによる M&A と違い、新
たな資金を調達できるメリットがある。資本参加や出資拡大の手法として、幅広く活用され
ている。
図表11 株式取得の分類
特定の大株主との相対取引
株式買取り
市場での買い集め
株式取得
株式公開買付け(TOB)
第三者割当増資の引受け
図表12 株式取得手法別の主な対日 M&A 事例(99 年以降)
株式取得
手法
特定の大
株主との
相対取引
TOB
株式を取得した外国企業
内容
ビステオン・オートモーティブ・
システムズ(米)
ナルデックを買収(100%)、マツダより株式取得。
シエーリング(独)
三井製薬工業を買収(100%)、三井化学より株式取得。
ヴァレオ(仏)
市光工業に資本参加(20.7%)、日産自動車より株式取得。
ジョンソンコントロールズ(米)
池田物産を買収(37.9%→90.2%)。
ケーブル・アンド・ワイアレス(英) 国際デジタル通信を買収(17.7%→97.7%)。
ベーリンガーインゲルハイム(独) エスエス製薬への出資比率を引上げ(19.6%→35.9%)。
第三者割
当増資引
受け
ロバート・ボッシュ(独)
自動車機器への出資比率を引上げ、子会社化(35%→53%)。
ルノー(仏)
日産自動車と日産ディーゼル工業に資本参加( 36.8%、22.5%)。
GM(米)
いすゞ自動車への出資を拡大(37.5%→49.0%)。
BT(英)、AT&T(米)
日本テレコムに資本参加(各 15.0%)。
(資料)新聞報道等より第一勧銀総研作成
8
( 4 ) 株式取得と出資比率
株式取得の方法で対日 M&A を実施する場合、買収する外国企業にとってはどこまで日本
企業の経営に関与するのか、買収される日本企業にとってはどこまで経営の自主性を確保で
きるのかは重要な問題であるが、それには出資比率が深く関係してくる(図表 13)。
まず、資本参加の段階では、連結決算において持分法適用の対象となる 20%が一つの節
目になる。20%未満の資本参加では、提携関係を強化するための象徴的な出資という色彩が
強い。20%以上になると、対象企業の損益が自社の決算に影響を及ぼすことから企業グルー
プの一員としての位置付けが明確になる。特に、対象企業が高収益を計上している場合、出
資比率を 20%以上に引上げ関連会社にするケースが多い。
次の節目は 33.4%のラインである。定款の変更、会社の合併・分割、営業譲渡、第三者
に対する新株の有利発行、取締役・監査役の解任、会社の組織変更等、商法に定められた重
要事項については、株主総会の特別決議が必要とされるが、これは発行済株式数の過半数に
あたる株主の出席とその議決権の 3 分の 2 以上にあたる多数決で成立する。言い換えると、
33.4%以上の株式を保有すれば、上記の重要事項の決議を拒否することが可能になる。最近
増加している日本自動車メーカーに対する欧米大手の資本参加は、このラインを意識した水
準での出資が多く、同時に役員の派遣も行って経営への関与度を強めている。
50%を超えるか否かは、M&A において最も重要な境界線であり、これにより実質的に経
営の支配権を確保する(狭義の)買収と、提携に留まる資本参加が区分される。50%を超え
た株式保有は、取締役や監査役の選任等、普通決議事項の決定権を単独で持つことを意味し、
決算上も子会社として完全に本体に連結することになる8。通常の事業運営を支配する経営
権をもつが、それを明確にするため代表権を持つ役員を派遣するケースが多い。子会社化を
目指して TOB を実施する場合や出資比率を引上げる場合には、このラインを超える水準を
目標とする事例が多い。
更に 66.7%を超えると、前述のように他の株主の拒否権を排除して、重要事項を単独で
決議することが可能になる。ほぼ完全な経営支配に近いと言えよう。
株式買取りの究極の形態が株式を 100%取得する完全子会社化である。これは単なる子会
社化と違って、少数株主権(帳簿閲覧権や役員解任請求権等)や単独株主権(株主代表訴訟
等の各種訴権や差し止め権等)を排除でき、完全な経営支配権の確立と言える。実際、子会
社に対する経営支配を更に強化するため、M&A により完全子会社化を図る事例も多い。
逆に、経営の自主性を確保したい日本企業には、外資の出資比率を 50%以下に抑えよう
とする意向がある9。また、従来の筆頭株主との関係維持のため、外資の出資をその出資比
率以下に抑えるケースもある10。
8
ただし、連結対象はこれに限定されない。国際会計基準では、支配力基準と影響力基準が採用されてお
り、50% 以下でも連結対象子会社とされる場合や 20% 以下でも持分法適用関連会社とされる場合がある。
9 99 年に GM がいすゞ自動車への出資拡大を 49.0% とした事例がある。
10 99 年に BT(英)と AT&T(米)が日本テレコムに資本参加した際、15.1% 出資する筆頭株主の JR 東
日本との関係で、それぞれの出資を 15.0%とした事例がある。
9
図表13 出資比率と経営への関与
出資比率の
ライン
100%
経営への関与
度及び連結決
算との関係
完全子会社化
経営権の完全
取得
実例
出資比率
マイクロンテクノロジー(米)が、25%出資していた神戸製鋼所
との半導体メモリー合弁会社 KMT セミコンダクターを完全子会
社化(2000 年)。
100%
ジョンソンコントロールズ(米)が池田物産に TOB 実施したが
90.2% の取得に留まったため、新会社設立による株式移転の手法
で完全子会社化した(2000 年)。役員派遣。
100%
3 分の 2 超
特別決議事項
の議決権
パシフィック・センチュリー・サイバーワークス・ジャパン
(PCCW、香港)がジャレコに対して TOB と第三者割当増資に
より株式取得、代取派遣(2000 年)。
83%
50%超
連結子会社化
普通決議事項
の議決権
BASF(独)が北陸製薬に TOB 実施、代取含む役員派遣( 96 年)。
51.0%
ロバート・ボッシュ(独)がゼクセル(現ボッシュ・オートモー
ティブ・システム)への出資比率を 30.1%から引上げ、役員派遣
(99 年)。
50.1%
東燃に 50.0%、ゼネラル石油に 48.6%出資していたエクソンモー
ビル(米)が、両社の合併に伴い出資比率を引上げ(2000 年)。
50.1%
ルノー(仏)が日産自動車へ資本参加、代取含む役員派遣(99 年)。
36.8%
ベーリンガーインゲルハイム(独)がエスエス製薬への TOB に
より出資比率を 19.6%から引上げ、役員派遣(2000 年)。
35.9%
ダイムラークライスラー(独)が三菱自動車工業へ資本参加、代
取含む役員派遣(2000 年)。
34.0%
フォード(米)がマツダへの出資比率を 25%から引上げ、代取含
む役員派遣(96 年)。
33.4%
GM(米)が富士重工業へ資本参加、執行役員派遣(2000 年)。
21.1%
シティグループが転換社債の株式転換により、日興證券への出資
比率を 9.5%から引上げ(2000 年)。
20.7%
GM(米)がスズキへの出資比率を 9.9%から引上げ(2001 年)。
20.1%
ビステオン・オートモーティブ・システムズ(米)がニチリンに
資本参加(2000 年)。
10.1%
デルファイ・オートモーティブ・システムズ(米)が曙ブレーキ
工業に資本参加(99 年)。
5.9%
ボルボ(スウェーデン)が三菱自動車工業に資本参加(99 年)。
5.0%
3 分の 1 超
20%以上
20%未満
特別決議事項
の拒否権
持分法の適用
提携の象徴と
しての出資
(資料)新聞報道等より第一勧銀総研作成
10
4. 対日 M&A 急増の要因分析
対日 M&A を含む対日直接投資が急増しているのは、本来の日本市場の魅力に加え、従来
投資を阻害していた諸要因が環境変化により改善してきているためである。ここでは、対日
M&A が急増している要因について、売り手である日本企業側の要因と買い手である外国企
業側の要因、制度面や環境面等のその他の要因に分けて分析する。
( 1 ) 日本企業(売り手側)の要因
クロスボーダーM&A による海外進出は、新設投資に比べ、販路の開拓、顧客の獲得、人
材の確保等が容易で、スピーディーな市場参入が可能であるというメリットを持つ。しかし、
これまで日本企業に対する外国企業の M&A が少なかったのは、日本企業は自社が M&A の
対象にされることに抵抗感を持っていること、相手先が外国企業の場合は特にそれが顕著な
ことが大きな要因であると指摘されていた。しかし近年、以下に述べるような環境変化を受
けて、日本企業でも外資による M&A に対する抵抗感が薄れ、むしろ有力な戦略的手段とし
て積極的に活用するようになってきている。
a . リストラクチャリングの活発化
現在、日本企業は経済のグローバル化など激変する事業環境に対応していくため、事業の
選択と集中に本格的に取り組んでいるが、これが供給面から対日 M&A の増加要因になって
いる。日本企業は既存事業からの撤退を経営の失敗と見做して極力避ける傾向があったが、
最近では、不採算子会社の売却や非コア事業の譲渡について、むしろ得意分野に経営資源を
集中するための有力な戦略的手段として肯定的に捉えるようになっている。また、事業の売
却代金を財務リストラや戦略的な投資等に活用できるという利点もある。
具体的な事例を見ると(図表 14)、多角化の一環として新規に進出したが当初期待した
ような成果をなかなか挙げられない事業から撤退したり、あるいは利益を計上していても事
業領域を再編成した結果コアから外れてしまった子会社を売却するといったケースが多い。
また、外国企業と共同で開始した合弁事業から撤退するケースも少なくない。さらに踏み込
んだリストラクチャリングに伴う M&A として、製造部門など事業活動の継続に不可欠な部
門までも外国企業に売却し、アウトソーシングに切り替える事例が現れている。特にソニー
が生産工場を EMS 最大手の米国ソレクトロンに売却・アウトソーシングしたケースは、新
たな生産スタイルとして今後日本の電機メーカーでも拡大する可能性があり、注目される11。
11
EMS(Electronics Manufacturing Service)とは、独自のブランドを持たず複数の企業から電子機
器の製造を受託するサービス事業のこと。製造だけでなく設計や物流、製品修理まで請け負う事業者も
ある。一括受託するため量産効果を高めやすく、メーカーの自社生産よりもコスト競争力が強いのが一
般的である。ソニーは本件の他に 12 の工場を分社化して、自らも EMS 事業を開始する計画を持ってい
る。
11
図表14 リストラクチャリングに伴う主な対日 M&A の事例(99 年以降)
分類
子会社の売却
事業部門の譲渡
合弁解消
アウトソーシング
日本企業
事例
新日本製鉄
半導体製造子会社日鉄セミコンダクタ−(現日本ファウンドリ
ー)の保有全株式(56%)を UMC グループ(台湾)に売却、
半導体事業から撤退(99 年 1 月)。
明電舎
同社米沢工場及び水晶デバイス子会社明電通信工業を希華晶
体科技(台湾)に売却、水晶事業から撤退(2000 年 3 月)。
日本信販
生命保険子会社ニコス生命(現クレディ・スイス生命)をクレ
ディ・スイスグループのウィンタートウル・ライフに売却、生
保事業から撤退(2000 年 3 月)。
コマツ
視覚検査装置事業をコグネックス(米)に売却( 2000 年 3 月)。
三菱化学
フォトレジスト事業をシプレイ(米)に営業譲渡、同事業より
撤退(2000 年 6 月)。
富士レビオ
医薬品部門を UCB(ベルギー)に営業譲渡(2000 年 6 月)。
コマツ
液晶パネル製造装置製造の合弁子会社アプライドコマツテク
ノロジーの株式( 50%)を合弁先アプライドマテリアルズ(米)
に売却(99 年 10 月)。
武田薬品工業
熱可塑性ポリウレタン製造合弁会社武田バーディシェウレタ
ン工業の株式(50%)を合弁先 BASF(独)に売却(2000 年 6
月合意)。
住友重機械工
業
油圧機器製造合弁会社住友イートン機器の保有株式(50%)を
合弁先イートン(米)に売却(2000 年 12 月)。
東芝
半導体製造合弁会社東北セミコンダクタの株式を合弁先モト
ローラ(米)に売却(2000 年末)。
日産自動車
樹脂性燃料タンク生産工程をソルベイ(ベルギー)に営業譲渡、
同時に同業務をソルベイ社へのアウトソーシングに切替え
(2000 年 11 月)。
等速ジョイントドライブシャフト生産工程を GKN(英)に営
業譲渡、同時に同業務を GKN 社へのアウトソーシングに切替
え(2000 年 11 月)。
ソニー
カーエレクトロニクス製品製造子会社ソニー中新田をソレク
トロン(米)に営業譲渡、従業員も移籍。同時に電子機器製造
業務を同社へのアウトソーシングに切替え(2000 年 10 月合
意)。
(資料)新聞報道等から第一勧銀総研作成
12
b . 企業倒産の増加
景気低迷の長期化により企業倒産が高水準で推移しているが、これも供給面からの対日
M&A の増加要因となっている。法的手続きによる倒産処理には、会社更生法等により再建
を目指す再建型と、破産や特別清算により倒産企業を解体・清算する清算型があり、それぞ
れの処理の過程で対日 M&A につながるケースが発生している(図表 15)。
再建型倒産では、スポンサー企業が倒産企業の株式を取得して再建を支援する(スポンサ
ー方式)。通常、倒産企業の既存資本を 100%減資した上で第三者割当増資を引き受けると
いう方法で株式を取得するので、倒産企業を完全子会社として支配下におくことができる。
買収する外国企業からすると、(倒産には至っていない)経営不振企業に対する M&A と違
って、法的手続きにより関係者の利害が調整され、また債務が確定しているので簿外債務や
偶発債務のリスクを回避できるメリットがある。再建型の対日 M&A には、事業会社が対日
進出の一環として買収するタイプと、投資会社等が複数の投資家から資金を集めキャピタル
ゲインを目的とする投資ビジネスとして買収するタイプとがある。後者については、倒産企
業の資産を切り売りしてさやを稼ぐいわゆるハゲタカファンドではなく、倒産企業を再建し
て価値を高め売却益を得るリカバリー・ファンドと呼ばれるものが中心となっている。なお、
最近では再建型においても、会社更生手続き中の日本リースがリース部門を包括的に GE キ
ャピタルに営業譲渡した事例のように、スポンサー方式と同時に営業譲渡が併用されるケー
スも見られ、迅速な再建手法として注目されている12。
また、昨年 4 月に民事再生法が施行され、新たな再建型倒産処理が可能になった。民事再
生手続きでは、会社更生手続きと比べ再建のスピードが重視されており、資産の劣化が進ま
ない早い段階での営業譲渡が可能となる。米国で頻繁に活用されている連邦倒産法第 11 条
による倒産手続きに類似した制度として、海外の投資家の注目を集めており、今後、民事再
生法による営業譲渡が対日 M&A における位置付けを高めていくと予想される。
清算型倒産処理では、倒産企業の資産が個別に処分されるのが通常であるが、優良な事業
部門や収益性の高い子会社・関連会社、優秀な人材、魅力的な商権、技術等の経営資源を持
っている場合は、M&A を活用して一体として譲渡した方が高値で売却でき債権者への配当
率が高くなるほか、事業が継続されて従業員の雇用確保や取引の継続・維持ができる等有利
な点が多い。清算型倒産処理の過程で営業譲渡が行われる場合も、その相手先として資金
力・リスク負担力のある外国企業が選択されるケースが増加している。
12
リース部門を譲渡した残りの不動産賃貸・管理部門と営業貸付部門は、通常のスポンサー方式で GMAC
が買収した。
13
図表15 倒産処理に伴う対日 M&A
分類
対日事業進
出としての
再建支援
投資ビジネ
スとしての
再建支援
清算におけ
る営業譲受
けや子会社
買収
破綻企業
買収企業
内容
東食
カーギル(米)
日本リース
(現日本アセ
ットマネジメ
ント)
GE キ ャ ピ タ ル
(米)
GMAC(米)
99 年 8 月、残存する不動産事業等について、GM アク
セプタンス・コーポレーションが再建支援を表明。
千代田生命
AIG(米)
2000 年 10 月、千代田生命が更生特例法の適用申請。
アメリカン・インターナショナル・グループが再建ス
ポンサーに決定。
協栄生命
プルデンシャル
(米)
2000 年 10 月、協栄生命が更生特例法の適用申請。プ
ルデンシャルが再建スポンサーに決定。
日本長期信用
銀行(現新生
銀行)
リップルウッド
(米)
98 年 10 月、長銀が金融再生法に基づく特別公的管理
を申請。
2000 年 3 月、リップル社を中心とした投資組合ニュ
ー・LTCB パートナーズが買収。
幸福銀行
アジア・リカバ
リー・ファンド
(米)
99 年 5 月、幸福銀行が金融再生法により経営破綻認
定。
2000 年 10 月、ARF が中心となって組成された日本イ
ンベストメントパートナーズが営業譲渡先に決定。
東京相和銀行
ローンスター
(米)
99 年 6 月、東京相和銀行が金融再生法により経営破綻
認定。
2001 年 1 月、投資ファンドローンスターが営業譲渡先
に決定。
長崎屋
サーベラス(米) 2000 年 2 月、長崎屋が会社更生法の適用申請。同 3
月、再建ファンドのサーベラスグループが再建支援表
明。
クラウン・リ
ーシング
バンカース・ト
ラスト(米)
97 年 4 月、クラウン・リーシングが自己破産を申立て。
同 6 月、同社の海外リース・割賦資産をバンカースに
営業譲渡することで合意。
山一證券
京華証券
(台湾)
97 年 11 月、山一證券が自主廃業を申立て。
97 年 12 月、京華証券が同社の香港現地法人である山
一インターナショナルを買収合意。
ソシエテ・ゼネ
ラル(仏)
98 年 3 月、ソシエテが同社の子会社山一投資顧問を買
大倉商事
97 年 12 月、東食が会社更生法の適用申請。
98 年 10 月、カーギルが再建スポンサーに決定。
98 年 9 月、日本リースが会社更生法の適用申請。
99 年 3 月、同社のリース部門を GEC が営業譲受け。
子会社日本リースオートも買収。
収。
エマソン・エレ 98 年 8 月、大倉商事が自己破産を申立て。同 9 月、エ
コトリック(米) マソン社が同社のプラン計装機器販売子会社大倉イ
ンテックスを買収。
(資料)新聞報道等により第一勧銀総研作成
14
c . 国内に積極的な買い手が不在
国内の同業者に積極的な買い手がいないことが外国企業の進出につながっているケース
がある。典型的なのが生命保険業界である。海外の大手生命保険会社では、従来から膨大な
個人金融資産を持つ日本への進出意欲は強かったが、確固たる顧客基盤を持つ日本の生命保
険会社の壁は厚く、また日本の生命保険会社の大半は相互会社形態で M&A も難しいことも
あって、業容拡大は捗らず業界下位に甘んじていた。よって、90 年代末に日本の中堅以下
の生保が相次いで経営不振に陥った局面を、海外大手生保は日本市場参入の好機と捉え、
続々と経営不振生保・破綻生保のスポンサーに名乗りをあげた(図表 16)。一方、日本の
生命保険会社の多くは、同業他社を買収し規模の拡大を図るインセンティブが外資に比べ乏
しい上に、長引く低金利による逆鞘で体力を消耗し救済余力が少ないことなどから、経営不
振生保・破綻生保への M&A には消極的なスタンスを取っている。
図表16 生保業界の対日 M&A
対象企業
買収企業
内容
日産生命
(現あおば生命)
アルテミス(仏)
経営破綻した日産生命の契約を引き継いだあおば生命を、
アルテミスが生命保険協会より買収(99 年 11 月)。
平和生命
(現エトナヘイワ
生命)
エトナ・インター
ナショナル(米)
創業者一族等との相対取引及び TOB 実施により、エトナが
平和生命の株式の 92.3%を取得(2000 年 2 月)。
東邦生命
GE キャピタル(米) 経営破綻した東邦生命の契約及び関連資産・負債を、GE キ
ャピタルの子会社 GE エジソン生命に包括移転(2000 年 3
月)。
日本団体生命
(現アクサグルー
プライフ生命)
アクサ(仏)
日本団体生命とアクサの日本法人が共同で保険持株会社を
設立、
アクサは持株会社の株式の 95%を取得(2000 年 3 月)
。
ニコス生命
(現クレディ・ス
イス生命)
ウィンタートウ
ル・ライフ(スイ
ス)
クレディ・スイスグループのウィンタートウル・ライフが
日本信販よりニコス生命を買収、完全子会社化(2000 年 3
月)。
第百生命
マニュライフ・フ
ィナンシャル(カ
ナダ)
経営破綻した第百生命の契約移転先が、マニュライフの子
会社マニュライフ・センチュリー生命に内定(2000 年 9 月)
。
千代田生命
(現AIGスター
生命)
AIG(米)
更生特例法適用を申請した千代田生命のスポンサーに、AIG
が内定(2000 年 10 月)。
協栄生命
(現ジブラルタ生
命)
プルデンシャル
(米)
更生特例法適用を申請した協栄生命のスポンサーに、プル
デンシャルが内定(2000 年 10 月)。
(資料)新聞報道等により第一勧銀総研作成
15
d . 伝統的な企業間関係の変化
経営環境の変化に伴い、日本企業の強みと言われてきた系列取引13や、経営の安定性を志
向する株式持合い等、日本独特の企業間の仕組みが変容を遂げつつある。このような動きが
対日 M&A を促進している側面がある。
例えば、自動車業界では、グローバル化でますます激化する競争に生き残るため、部材調
達コストの大幅な削減が各社共通の課題になっている。業績不振によりリストラを進めるメ
ーカーの中には、その競争力の源泉と言われてきた系列部品メーカーとの部品購買システム
の見直しにまで踏み込む企業も現れている。このようなメーカーは、緊密な関係維持のため
に保有していた系列部品会社の株式の引取り先を探しており、自動車部品業界で対日 M&A
を促す一因になっている(図表 17)。
一方、部品メーカーの側も、完成車メーカーが世界的な再編によって少数のグループに集
約されつつあるのに伴い、グローバルな部品供給体制の構築や世界レベルでのコスト競争力
を要求されるようになり、単独での生き残りが難しくなってきている。そうしたメーカーに
は、新たに欧米大手部品メーカーの傘下に入ることで活路を見出そうとするところが多く、
このような部品メーカー側の動きも対日 M&A を増加させている。
さらに、株式持合いについても、90 年代後半になってこれを解消する動きが加速してい
る。株式持合いを直接捉えた統計ではないが所有者別持株比率の推移を見ると( 図表 18)、
持合いの主体である金融機関と事業法人がともに近年シェアを落としており、特に金融機関
の落ち込みが著しい。持合い解消が加速する要因としては、資産の収益性・効率性を重視す
る経営を行う企業や金融機関が増加していること、大企業では市場から直接資金調達するこ
とが容易になり銀行との関係が変化しつつあること、会計基準の変更により持合い株の時価
評価が予定されていること14、等が指摘されている。こうした株式持合いの解消が、さらに
外資による M&A を増加させることも十分考えられる。
また、既存の業界秩序の維持を重視する日本的な経営風土・慣行の変化の影響もある。か
つて伝統的な産業等では、経営不振に陥った企業があれば、監督官庁の要請やメインバンク
の仲介によりあるいは自らの判断で業界大手企業が救済に乗り出すのが一般的であった。ま
た、旧財閥系などの企業グループでは、グループ内の企業の経営危機に際しては協力して救
済策を打ち出すことも少なくなかった。しかし現在では、規制改革や企業間競争の激化・グ
ローバル化等により、こうした業界秩序を守ろうとする力は弱まりつつあり、一面で外国企
業の対日 M&A 増加につながっている。
13
「系列」についての明確な定義はないが、下谷政弘京都大学経済学部教授は「長期継続的な取引をめぐ
って生起する非対称的な企業間の関係、またはその固定的な経路そのもの」と定義している。
14 2001 年 4 月 1 日以降に始まる事業年度から、持合い株を始めとする「その他有価証券」について時価
評価が適用される。但し、時価変動による含み損益の増減は、損益計算書を通さず期間損益には影響を
与えないで、税効果を考慮した上で直接貸借対照表の資本の部に計上される。
16
図表17 系列解体に伴う自動車部品業界の対日 M&A
完成車
メーカー
系列部品
メーカー
買収(出資)した外国企業
出資比
率
時期
池田物産
→
ジョンソンコントロールズ (米)
100%
2000 年 9 月
市光工業
→
ヴァレオ(仏)
20.7%
2000 年 4 月
曙ブレーキ工業
→
デルファイ・オートモーティ
ブ・システムズ(米)
5.9%
99 年 7 月
ヨロズ
→
タワーオートモーティブ(米)
17.0%
30.8%
2000 年 9 月
2001 年 2 月
マツダ
ナルデック
→
ビステオン・オートモーティ
ブ・システムズ(米)
100%
99 年 9 月
いすゞ自動車
ゼクセル
→
ロバート・ボッシュ(独)
50.1%
99 年 4 月
日産自動車
(注)池田物産は 2001 年 4 月ジョンソンコントロールズオートモーティブシステムズに社名変更。ゼクセル
は 2000 年 7 月ボッシュ・オートモーティブ・システムに社名変更。
(資料)新聞報道及び各社プレスリリース等により第一勧銀総研作成
図表18 所有者別持株比率の推移
(%)
45
40
金融機関
35
30
個人
25
事業法人等
20
15
外国人
10
5
0
1985 86
投資信託・
年金信託
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98 99 年
(注)金融機関は、長銀・都銀・地銀、信託銀行、生保、損保、その他金融機関の合計
から投資信託と年金信託を除いた数字。
(資料)日本証券取引所協議会「株式分布状況調査」
17
( 2 ) 外国企業(買い手側)の要因
従来から、外資の日本市場への進出意欲は強かった。その要因は業種によって様々である
が大きく分けると、①世界第 2 位の経済規模を背景とした購買力(卸売・小売業)、② 1400
兆円の膨大な個人金融資産(金融関連業)、③高度な技術力の獲得(製造業、IT ベンチャ
ー)、等が考えられる。M&A を活用した対日進出が急拡大している背景には、こうした日
本市場の魅力に加えて、買い手である外国企業側にもいくつかの要因が見られる。
a . 世界的再編の進展
経済のグローバル化に伴い世界的な再編が進行しており、特に自動車、エネルギー、医薬
品、通信、金融等の業界では、欧米の大手企業主導による大型のクロスボーダーM&A が活
発化している。これらの業界では、IT や次世代技術の開発のために巨額な投資負担が見込
まれること、世界的に生産能力過多・供給過剰の状態にあること、国有企業の民営化や規制
緩和が進展していること等の理由により、大型再編が進んでいるものと見られるが、こうし
た世界的再編の影響が日本にも及んできている。例えば、自動車業界では、日米欧の大手 6
社を中心としたグループ化が進んでおり、日本メーカーに対しても M&A が活発に行われて
いる(図表 19)。その他の業種でも、同様の動きが現れ始めている。
図表19 グループ化が進行する世界の自動車メーカー
GM(米)
フォード(米)
ガ
︶
英
ボ
ル
ボ
・
乗
用
車
33.8
51.2
現
代
自
動
車
日
野
自
動
車
ダ
イ
ハ
ツ
工
業
バ
英
シ
BMW(独)
ス
ニ
︶
独
本田技研工業
︵
ス
カ
ニ
ア
︵
︶
︶
コ
34
ラ
ン
ボ
ル
ギ
︶
ェ
チ
100
ア
ウ
デ
ー
︵
ス
ペ
イ
ン
99
ィ ︵
コ
ダ
伊
︶
︶
︶
英
100
セ
ア
ト
プジョー・シトロエン(仏)
︶
ス
︵
︵
ク
マ
ニ
ア
ル
ス
ロ
イ
ス
51
ュ
ロ
︵
100
ダ
チ
ア
ー
51
ボ
ル
ボ
・
ト
ラ
︵ ー
20
ル
韓
︶
米
VW(独)
ッ
韓
︶
ゼ
ル
工
業
︵
サ
ム
ス
ン
自
動
車
ィー
70.1
日
産
デ
10
ク
ラ
イ
ス
ラ
注2
ルノー(仏)
22.5
合併
三
菱
自
動
車
工
業
︶
注1
日
産
自
動
車
34.0
ロ
ス
︶
独
36.8
100
︵
︶
︵
伊
ー ︵
ト
︵
︶
ス
ッ
︵
ブ
100
トヨタ自動車
︶
ア
マ
ツ
ダ
︵
33.4
ジ
ー ︵
100
フ
︶
20
ア
ダ
ム
・
オ
ペ
ル
ー ︵
100
サ
ー
100
富
士
重
工
業
ャ
20.0
ス
ズ
キ
ィ
21.1
い
す
ゞ
自
動
車
ー
49.0
ダイムラー(独)
注3
注4
注5
(注)1.同時にフィアットも GM の株式の 5.6% を持つ。
2.フォードが買収したのはローバーのランド・ローバー部門。
3.日産ディーゼル工業には日産自動車も 22.5% 出資している。
4.ロールス・ロイス車のブランドは BMW が買収した。
5.スカニアにはボルボも 30% 出資している。
6.(ス)はスウェーデン。数字は出資比率。太線矢印は 98 年以降の M&A。二重線は対日 M& A。
(資料)日刊自動車新聞「自動車ハンドブック」等を参考に第一勧銀総研作成
18
b . 対日投資ビジネスの活発化
日本市場への参入を目的として M&A を行う事業会社とは別に、資金運用の手段として日
本企業を買収する外資系投資ファンドの設立が相次いでいる(図表 20)。この投資プロセ
スは、まず、投資会社が複数の投資家から集めた資金で M&A を行い企業の経営権を取得す
る。次に、経営者や役員を派遣して経営に参画し、リストラクチャリングの実施や取引先・
提携先の紹介等により企業価値を高める。そして、最終的に株式上場や他の企業への売却で
利益を得るというのが一般的である。これはプライベート・エクイティ・ファンドと呼ばれ、
米国では年金基金や財団等の機関投資家が運用する先の一つとして定着している。今後日本
企業でも構造改革が進展するとの期待から、前述の企業再建ファンドや、未公開企業やベン
チ ャ ー 企 業 に 投 資 す る フ ァ ン ド 、 大 企 業 の 事 業 部 門 に 対 す る MBO(Management
Buy-out)専門のファンド等、多様な対日投資ファンドが米国を中心に設立されている。
M&A にまで結実した事例はまだ少ないが、今後こうした投資ビジネスが対日 M&A の増加
に寄与していくものと予想される。
図表20 公表されている主な対日投資ファンド
ファンド運営者
投資予定額
主な投資対象/実績
リップルウッド(米)・マリオット(米)
4,000 億円
ホテル/フェニックスリゾート
サーベラスグループ(米)
2,000 億円
経営破綻・経営不振企業
/長崎屋ほか
リップルウッド(米)
1,200 億円
長銀買収専用/長銀
リップルウッド(米)・三菱商事
1,150 億円
重厚長大型企業
/ナイルス部品、日本コロムビア
ゲーリー・ウェント氏(元 GE キャピタル会長)
1,100 億円
製造業、流通業等
ドイツ銀行
1,000 億円
ベンチャー投資、MBO
GE キャピタル(米)・住友商事・大和証券 SBCM
1,000 億円
未公開企業、大企業の事業部門
カーライルグループ(米)
500-750 億円
企業買収とベンチャー投資
575 億円
JP モルガン・チェースグループ(米)
UBS グループ(スイス)
300-500 億円
中堅企業や大企業の子会社等
AIG グループ(米)
300 億円
パシフィック・センチュリー・サイバーワークス(香港)
250 億円
スリーアイ(英)・日本興業銀行
200 億円
MBO の支援/バンテック
インターネット・キャピタル・グループ(米)
200 億円
企業間電子商取引分野
クリムゾンベンチャーズ(米)
年間 70-100
億円
135 億円
ドレスナー・クラインオートベンソン(英)
IT 分野中心
ハイテク分野のベンチャー企業
(注)ナイルス部品:日産自動車系部品メーカー。バンテック:日産自動車の物流子会社。
(資料)日本経済新聞
19
( 3 ) その他の要因
a . 規制緩和の進展
規制緩和推進 3 か年計画等、日本国内での規制緩和の進展が、外資の日本市場への参入を
容易にし、対日 M&A を含む対日直接投資を促進する一要因となっている。ここでいう規制
緩和には、外国企業の出資を直接制限していた規制の撤廃と、競争制限を通じて間接的に外
国企業の市場参入を妨げていた規制の緩和とがある。
前者の代表的事例が通信業における規制緩和で、通信の自由化を進める一連の流れの中で、
「第一種電気通信事業(NTT、KDD(当時)を除く)の外資規制の撤廃」(98 年 2 月)、
「KDD 法の廃止による KDD の完全民営化」(98 年 7 月)、「すべてのケーブルテレビに
関する外資規制及び外国人役員就任規制の撤廃並びに承継規定の整備」(99 年 6 月)等、
直接外資の出資を制限していた規制が相次いで撤廃された。こうした規制緩和もあって、
MCI ワールドコム(現ワールドコム、米)が第一種電気通信事業者の認可を受け日本進出
を果たしたのを始め、ケーブル・アンド・ワイアレス(英)による国際デジタル通信の買収
(99 年 6 月)、AT&T(米)と BT(英)による日本テレコムへの資本参加(99 年 8 月)15
等、大型の対日投資が相次いだ。
後者の事例としては、流通業、電力業、金融業が代表的である。流通業では、中小事業者
の保護を目的としていた大規模小売店舗法(以下、大店法)により大規模店舗の出店は制限
されていたが、89∼90 年の日米構造協議における米政府の要請を契機に規制緩和の方向に
転換し、92 年に大店法の一部改正、2000 年には大規模小売店舗立地法施行に伴って同法は
完全に廃止された。その結果、店舗面積による出店規制は撤廃され、大型店の多店舗展開を
得意とする欧米大手小売業の参入が始まっている。
電力業では、国際的に割高な電力料の引き下げを目指して、自由化が進められている。
95 年に施行された改正電気事業法で卸電気事業参入自由化などの競争原理が導入され、
2000 年に施行された改正電気事業法では小売供給の部分自由化が実現した。こうした規制
緩和を受け、ガスや商社等の他業種企業が新規参入を表明している他、逸早くエネルギー自
由化が進んだ米国の大手エネルギー企業が日本進出を目指す動きが見られる。
金融業では、金融ビッグバンと呼ばれる一連の金融自由化が進められている。98 年 4 月
の改正外為法の施行により対外資本取引、外為業務の完全自由化がスタートしたのを皮切り
に、98 年 12 月の金融システム改革法の施行(銀行等の投信窓販の導入、証券会社の免許制
から原則届出制への移行等)、株式売買委託手数料の完全自由化(99 年 10 月)、証券子会
社の業務制限の撤廃・株式業務の全面解禁(同)、銀行等の保険子会社設立解禁(2000 年
10 月)等、次々と規制緩和が進められた。その結果、銀行・証券・保険等の業態を超えた
競争に進展し、異業種や外資系企業を巻き込んだ大掛かりな再編が進行している。
15
その後、英ボーダフォン・グループが JR 西日本、JR 東海から日本テレコム株を取得、2001 年に入っ
てさらに AT&T、BT が保有する日本テレコム株を買い取ると発表、出資比率 45% の筆頭株主になる見
込み。
20
b . 株価下落による買収コストの低下
日本の株価の下落が買収に要するコストの低下を通じて M&A 増加要因になっていると
見られる。東証一部の時価総額の変化を見ると(年末ベース)、ピーク時の 89 年末の 591
兆円から 2000 年末には 4 割減の 353 兆円に低下している。業種別には、建設業、鉄鋼業や
石油・石炭製品等の素材関連業種、卸売業、銀行・証券・保険業、不動産業、運輸業等で
89 年末比半分以下の水準に落ち込んでおり、90 年前後と比較して買収が容易な状態になっ
ている(図表 21)。
図表 21 業種別時価総額の変化
業種
水産・農林業
鉱業
建設業
食料品
繊維製品
パルプ・紙
化学
医薬品
石油・石炭製品
ゴム製品
ガラス・土石製品
鉄鋼
非鉄金属
金属製品
機械
電気機器
輸送用機器
89年末
1,084
1,878
25,917
15,764
10,961
5,448
28,333
13,002
6,217
2,984
9,854
22,957
9,058
4,525
20,374
54,054
32,618
2000年末 比率(%)
業種
328
30.3 精密機器
285
15.2 その他製品
5,905
22.8 卸売業
8,708
55.2 小売業
3,385
30.9 銀行業
1,910
35.1 その他金融業
17,708
62.5 証券業
18,746
144.2 保険業
1,800
28.9 不動産業
1,369
45.9 陸運業
4,211
42.7 海運業
3,499
15.2 空運業
5,211
57.5 倉庫・運輸関連業
1,387
30.7 通信業
9,944
48.8 電気・ガス業
66,048
122.2 サービス業
29,250
89.7
合計
89年末 2000年末
5,542
3,606
8,759
6,919
22,321
9,419
21,146
16,619
139,952 36,573
3,481
7,018
20,172
8,403
12,323
4,789
9,747
3,474
21,731
11,639
5,194
996
6,405
1,543
1,794
487
10,723
29,931
30,957
12,382
5,950 19,291
590,909 352,785
(十億円)
比率(%)
65.1
79.0
42.2
78.6
26.1
201.6
41.7
38.9
35.6
53.6
19.2
24.1
27.1
279.1
40.0
324.2
59.7
(注)1.数値は東証一部。末日ベース。
2.比率は 2000 年末の時価総額を 89 年末の数値で割ったもの。
(資料)東京証券取引所「東証統計月報」
c . 法制度の整備
企業の組織再編を容易にするため、持株会社設立の解禁(97 年独占禁止法改正)、株式
交換・株式移転制度の創設( 99 年商法改正)、会社分割制度の創設( 2000 年商法改正)等、
一連の法制改革が実現し、合わせて税制面でも組織再編成に伴う資産譲渡に対する課税繰延
の実施等の措置が取られる見通しである。こうした法制度・税制の整備が企業のリストラク
チャリングを容易にする結果、今後更なる対日 M&A の増加を促すものと考えられる。また、
倒産法制の整備として民事再生手続きが創設されたことも、経営不振企業に関連する M&A
の活発化につながるであろう。
21
d . 会計基準の国際化
連結決算中心主義への変更と連結キャッシュフロー計算書作成の義務付け、税効果会計の
導入、退職給付会計の導入、金融商品や不動産への時価評価の導入等、日本の会計制度にお
ける国際会計基準との調和を図る一連の会計基準の変更が、対日 M&A の増加要因の一つに
なっている。
対日 M&A の阻害要因の一つとして、日本の会計基準と国際的な会計基準との乖離が日本
企業に対する正確な財務評価・分析を困難にし、外国企業の投資判断を妨げていることが従
来から指摘されていた。実際に M&A を行う場合には、公開情報のみならず、対象会社の視
察、経営者・キーマンとの面接、帳簿閲覧、現物確認等により、詳細な買収監査(デューデ
ィリジェンス)を実施するのが通常であるが、国際的な会計基準に沿った企業財務情報開示
の拡充が M&A に先立つ事前調査を容易にし、日本企業に対する欧米企業の買い意欲増進の
一助になっていると見られる。
また、会計基準の変更が日本企業にリストラを促すことを通じて、結果的に対日 M&A 拡
大に貢献している面もある。2000 年 3 月期決算から実施された連結決算中心主義の会計で
は、企業グループ全体を考えた経営の重要性が高まり、不採算子会社等の整理を迫られる。
同時に実施されたキャッシュフロー計算書の作成義務化は、キャッシュフロー重視の経営を
促し、十分なキャッシュを生んでいない資産や子会社の処分の検討を促す。また、2002 年
3 月期より導入される持合い株への時価評価の導入は、株式持合い政策の見直しを迫ってい
る。
e . M&A アドバイザーの躍進
M&A アドザイザーとは、買収対象企業の探索、交渉、企業評価、契約等、M&A の遂行
過程において企業をサポートする業者のことで、M&A の成功に重要な役割を果たす。欧米
では投資銀行やブティックと呼ばれる M&A 専門業者が活発に M&A アドバイザリー業務を
展開している。従来対日 M&A が低迷している原因の一つとして、M&A 対象企業の選定に
関する情報不足が指摘されていた。しかし現在では、日本市場においてもすぐれた金融技術
やノウハウを持つ外資系インベストメント・バンクの進出に加え、豊富な顧客情報を持つ日
本の銀行や証券会社等も M&A 業務に注力しており、こうした M&A アドバイザーの躍進が
対日 M&A の増加に寄与する部分も大きい(図表 22)。
22
図表22 日本の M&A アドバイザー・ランキング
順位
M&A アドバイザー
金額
案件数
(百万ドル)
1
ゴールドマン・サックス
33,534
22
2
メリルリンチ
30,935
12
3
モルガン・スタンレー・ディーン・ウィ
ッター
19,319
11
4
東京三菱銀行グループ
15,945
32
5
リーマン・ブラザーズ
12,302
5
6
野村證券グループ
11,977
67
7
みずほフィナンシャルグループ
10,498
72
8
日興證券
8,114
89
9
KPMG コーポレートファンナンス
5,423
10
ソロモン・スミス・バーニー
5,191
14
10
(注)日本企業が係わった M&A のランキング。2000 年実績。公表案件ベース
(出所)Thomson Financial Securities Data
f . ビジネス環境の改善
図表23 日本のビジネス環境の変化
その他の要因として、M&A
以外の対日直接投資の増加要因
とも共通するが、外資系企業に
地価・オフィス賃料
とって問題が多いとされてきた
通信料金等インフラ
関連コスト
日本でのビジネス環境が改善し
十分に改善
改善したが不充分
悪化した
税制
てきていることが挙げられる
(図表 23)。具体的には、地価
有能な人材の確保
やオフィス賃料の下落、通信料
外国企業誘致のための
地方公共団体の施策
金の低下、法人税率の引き下げ
16等、日本における事業の運営
コストの低下が顕著である。ま
た、通信技術の発展が、欧米か
資金調達
人件費
法令の運用および手
続きに係る透明性
ら遠い極東に位置するという日
本市場の地理的・時間的制約を
-20
悪化したと回答した企業
-10
0
10
20
30
40
50
60(%)
改善したと回答した企業
克服し、グローバルな経営を可 (注)在日外資系企業 2,765 社を対象に行ったもの。回答企業数 627 社、回
答率 22.7%。
能にしていることもあるだろう。
(出所)日本貿易振興会「対日直接投資に関する外資系企業の意識調査( 2000
年 10 月)」
16
98 年度、99 年度税制改正により、法人課税の実効税率が 49.98% から 40.87% へと国際水準並みに引
下げられた。
23
5. 日本の産業界へのインパクト
買収した日本企業に対し、経営陣の刷新、リストラの断行、組織改革等、大規模な経営改
革を進めている外国企業は少なくない。また業界レベルで見ると、外国企業による日本企業
買収がきっかけとなって、既存の産業構造が大きく揺さぶられている業界もある。以下では、
対日 M&A の活発化がもたらす日本の産業界への影響を見ていく。
( 1 ) 欧米流経営スタイルの導入と競争力の強化
M&A により企業を買収した場合、継続性を重視して従来の経営陣に引続き指揮を取らせ
ることもあるが、通常は経営陣の刷新や経営トップの派遣により改革を断行し、親会社の経
営スタイルを導入する。特に対日M&Aの場合は、出資比率の高低や出資した日本企業の業
績にもよるが、外国人経営者を派遣して大胆な経営改革を実施し、収益性を追求する欧米流
の経営スタイルを導入する例が多い(図表 24)。こうした企業では、従来の経営者の下で
実行が遅れていた改革、すなわち、人員整理を伴うドラスチックなリストラクチャリングの
実施、能力重視の人事制度の導入と優秀な外部人材の登用、大規模な資産売却による有利子
負債の圧縮、迅速な意思決定が可能な組織改革、コーポレート・ガバナンスを意識した経営
機構改革等が実施される。例えば、業績の長期低迷からルノーの出資による支援を受けた日
産自動車の事例では、ルノーから派遣されたカルロス・ゴーン COO(現社長)が、日産リ
バイバル・プラン(図表 25)と命名した再建計画を策定し、それに基づいて系列取引の見
直し、工場閉鎖、人員削減、販売店の整理統合、間接コストの削減、持合い株式の放出、大
規模な資産売却等、歴代の日本人経営者がなかなか踏み切れなかった改革を断行した。
図表24 自動車業界の対日 M&A と役員派遣の事例
日本企業
外国企業
連結純利益(億円)
97/3
98/3
▲68
99/3
マツダ
フォード(米) ▲175
日産自動車
ルノー(仏)
777
三菱自動車
ダイムラー(独)
116 ▲1018
いすゞ自動車
GM(米)
96
60
富士重工業
GM(米)
396
307
337
日産ディーゼル
ルノー(仏)
34
▲13
▲140
スズキ
GM(米)
336
302
244
▲140
387
出資比率
(%)
262 96/5
25→33.4
7
2
5
99/5
0→36.8
6
1
2
3
00/10
0→34.0
5
1
3
1
37.5→49.0
5
0→21.1
2
0→22.5
1
00/3
▲277 ▲6844
57
▲233
62 ▲1042 99/3
313 00/4
▲441
99/5
269 98/11 3.3→10.0
01/1 10.0→20.1
(注)1.ダイムラーはダイムラークライスラーの略。
2.日産ディーゼルの利益は単体の数字。
3.スズキは 2001 年 6 月に GM スミス会長が取締役に就任予定。
(資料)各社有価証券報告書等
24
派遣役員
出資
時期
総数 代取 取締 執行
役
役員
0
5
2
1
図表25 日産リバイバル・プランの主な内容
<事業の発展>コスト削減の原資を商品開発に充て新商品の投入、自動車関連事業の発展を図る。
・2000∼02 年度の 3 年間にグローバルで合計 22 種の新型車を投入
・連結設備投資額を 25%増加(連結売上高比 5%)
<購買>購買の集中化、グローバル化及び取引先の半減により調達コストの削減を図る。
・総コストの 60%を占める購買コストを 2000∼02 年度の 3 年間で 20%削減。
<製造>最適な生産効率及びグローバルでのコスト競争力を実現する為、国内の過剰生産能力を削減する。
<製造>最適
・5 工場での車両及びパワートレインの生産中止
・上記以外の工場における生産性・稼働率の向上
<研究開発>企業競争力の核となる研究開発分野の絞り込みとルノーとの開発分業体制の構築により、資源
の効率化・重点化を図る。
<販売・一般管理費>グローバルオペレーションの効率を高めるため非効率部分の削減、組織改正、人員削
減を行う。
・一般管理費 20%削減
・欧州販売マーケティング機能の見直し
・国内営業、研究開発部門の組織改正
・北米オペレーションの合理化
・グローバルで 21,000 人の人員削減
<財務コスト>ノンコア資産の売却により、自動車事業への集中と有利子負債削減を進める。
・保有株式の売却
・在庫の 30%削減
(注)1.ダイムラーはダイムラークライスラーの略。
・ノンコアビジネス資産の売却
2.日産ディーゼルの利益は単体の数字。
<組織と意思決定プロセス>プラン実行に向け、組織のグローバル化と意思決定の効率化を図る。
3.スズキは 2001 年 6 月に GM スミス会長が取締役に就任予定。
・欧米では枢要な意思決定機関としてマネジメントコミッティを設置
(資料)各社有価証券報告書等
・グローバルな戦略立案機能の強化と実行段階におlける各地域への権限委譲
(出所)日産自動車ホームページ
この外にも、外資系親会社との共同購入による部材調達コストの引き下げ(図表 26)、
生産拠点の相互活用による効率的でグローバルな生産体制の構築、親会社の海外販売網を活
用した顧客基盤の拡大やブランド力による販売の強化、資本増強による財務体質の強化、親
会社の信用力を背景にした資金調達コストの引き下げ等様々な競争力の強化策が、外資の傘
下で期待できよう。
もちろん、外資による企業改革はこうしたプラス面だけではなく、同時に従来の経営者や
従業員にとって、権限の縮小・剥奪や、待遇悪化・雇用の喪失等の痛みを伴うものである。
また、外国企業に傘下入りした企業全てが必ずしも上記のような体質強化に成功するわけで
はない。しかし、少なくとも体質改善のための材料は揃うことになるわけで、中には競争力
の大幅な強化を成し遂げ、いわゆる勝ち組みに転じる企業も出現するだろう。このことは、
当事者企業だけでなくその競争相手にも大きな刺激を与え、結果的により多くの日本企業に
改革を促すものと考えられる。
25
図表26 自動車業界における提携先外資との共同調達
日本メーカー
内容
日産自動車
2001 年、資本提携先のルノーと部品・資材共同購入のための新会社を折半出資
で設立。初年度は、タイヤ、エアバッグ、窓ガラス等 3 分野 17 品目の部品・資
材とパソコンや航空券などを対象とし、全体の 30%を新会社からの調達に切り
替える。将来的には共同購入比率を 70%にまで引き上げる計画。
マツダ
2000 年に米国で発売したSUV「トリビュート」の部品・資材の調達で、資本
提携先のフォードと共同。
富士重工業
資本提携先のGMと、シート、ブレーキ部品、タイヤ、鋼板等を対象に共同購入
の協議を開始。
三菱自動車
資本提携先のダイムラークライスラーと、2002 年発売予定の共同開発車「Zカ
ー」向けに部品・資材を共同調達する予定。
(資料)新聞報道等により第一勧銀総研作成
( 2 ) 業界再編の触発
対日 M&A による外国企業の日本市場参入・勢力拡大が、他の日本企業を刺激し業界再編
につながる場合がある。特に国内企業に比べ、参入する外国企業の規模が格段に大きく、競
争力があり、信用力も高いような場合、日本の産業界には大きな脅威となり、生き残りを目
指して国内企業同士の M&A が誘発されることが予想される。実際、消費者金融業界では、
GE キャピタルとシティグループという 2 つの格付けの高い世界的な巨大金融グループが、
日本の中堅業者に対して積極的に M&A を行い次々に傘下に収めており、業績が好調である
にも関わらず日本の上位企業に緊張感をもたらしている。更に、銀行等異業種からの新規参
入も活発化していることもあって、業界大手を巻き込んだ大規模な業界再編が進行中である
(図表 27)。
図表27 消費者金融業界における業界再編
最近の M&A 事例
社名
98 年
99 年
2000 年
プロミス
シンコウ(
買収)
(
業界 3 位)
リッチ(買収)
東和商事(資本参加)
アイフル
(
業界 4 位)
AFCC グループ
(
業界 5 位)
日本ベネフィット(買収)
ディックファイナンス(買収)
日専(
買収)
ハッピークレジット(買収)
スカイ(
買収)
信和(
買収)
ユニマットライフ(
買収)
千代田トラスト(買収)
買収)
GE キャピタルグルー コーエークレジット(
レイク(
買収)
プ(業界 6 位)
(注)1.AFCC:アソシエイツ・ファースト・キャピタル・コーポレーション。79 年、日本法人アイク設立。2000
年、シティグループに買収された。
2.業界 1 位は武富士、2 位はアコム。
(資料)新聞報道等により第一勧銀総研作成
26
外国企業が持ち込んだ新しいビジネスモデルが、日本の産業界に大きなインパクトをもた
らし業界再編の引き金になる場合もある。例えば外資と提携した自動車メーカーが導入し始
めた、過去の取引実績に拘泥せず大胆に進める部材購買の集中化とグローバル化という新し
いビジネスモデルが、業界他社や電機業界等にまで波及し始めている(図表 28)。この影
響は、下請の自動車部品業界の再編にとどまらず、自動車メーカーに資材を納入する鉄鋼業
界 17や塗料業界18にまで及んでいる。一方、ユーザーの調達先絞り込みに対応してコスト削
減を進めるために鉄鋼メーカーが取引先商社の選別を進めており、この動きが総合商社の再
編にまで影響を及ぼしている19。
また、リスクを引き受ける余力が乏しい日本企業や安定志向の強い国内資金に替わって、
体力ある外国企業やリスク・テイク能力の高い投資ファンド等が破綻企業のスポンサーにな
るケースが増え始めている。こうした動きも、企業再生の活性化を通じて業界再編の促進に
貢献していると言えよう。
図表28 部品・資材調達先の絞り込み事例
企業
部品・資材
絞り込みの内容
マツダ
メッキ鋼板
6 社調達から新日本製鉄、住友金属工業の 2 社に絞り込み
いすゞ自動車
メッキ鋼板
5 社調達から新日鉄、NKK、川崎製鉄の 3 社に絞り込み
日産自動車
鋼板
5 社調達から新日鉄、川製、NKK、神戸製鋼所の 4 社に絞り込み、
同時に上位メーカーに傾斜発注
塗料
一工場につき 1 社調達に絞り込み
鋼板
塗料
オイル
5 社調達から住友金属工業 1 社に絞り込み
4 社調達から関西ペイント 1 社に絞り込み
4 社調達から出光興産 1 社に絞り込み
日産ディーゼル
下塗り塗料、損害保険、事務機器についても 1 社発注を検討中
トヨタ自動車
鋼材
上位メーカーに傾斜発注
スズキ
鋼材
現状の 4 社調達から集約する方針
松下電器産業
ポリスチレン
ABS樹脂
ポリプロピレン
鋼板 3 品種
6 社調達から東洋スチレン等 2 社に絞り込み
12 社調達から電気化学工業、東レ等 3 社に絞り込み
12 社調達から住友化学工業等 3 社に絞り込み
8 社調達から新日鉄、住金、川鉄、神戸製鋼所の 4 社に絞り込み
三菱電機
鋼材
6 社調達から新日鉄、川鉄、NKK、住金の 4 社に絞り込み
(資料)新聞報道等により第一勧銀総研作成
17
18
2001 年 4 月、業界 2 位の NKK と同 3 位の川崎製鉄が経営統合で合意した。一方、自動車業界の世界
的再編に伴い、鉄鋼メーカーにはグローバルな供給体制が求められるようになり、新日鉄とユジノール
(仏)、浦項総合製鉄(韓)の包括提携、NKK とティッセン・クルップ(独)の提携(交渉中)、ユジ
ノールとアルベット(ルクセンブルク)、アセラリア(スペイン)の合併等、鉄鋼業界でも国境を超え
た大型再編が進んでいる。
2001 年 10 月、業界第 3 位の大日本塗料と中堅の田辺化学工業が合併予定。
19川上の鉄鋼メーカーと川下の自動車メーカーの巨大化が、仲介業者である総合商社に中抜きの危機感を
もたらし、トーメンの鉄鋼事業の豊田通商への譲渡、丸紅と伊藤忠の鉄鋼部門の統合、三菱商事と日商
岩井の鉄鋼部門の統合を促す一因となった。
27
6. おわりに
対日 M&A が急拡大しているのは、何と言っても外国企業にとって日本市場の魅力が大き
いからであり、市場参入を阻害していた諸要因が排除されつつある現在、こうした流れをせ
き止めるのはもはや困難である。むしろ、日本企業は、外資系企業の経営スタイルやビジネ
スモデルの優れた部分は積極的に取り入れ、経営力の強化を図っていくべきであろう。これ
に対応できない企業はグローバルな競争から脱落しかねない。
一方、政府や公的機関には、こうした企業の自由な経営改革や事業再編を妨げている諸制
度の改善、具体的には、企業財務情報開示の拡充、連結納税制度の導入、企業年金制度の整
備、司法手続の簡素化、行政における透明性の確保等、一層の環境整備が求められるところ
である。
以上
【参考文献】
・通商産業省「外資系企業の動向」
・総務庁「規制緩和白書」
・経済企画庁「対日 M&A の活性化をめざして」、96 年
・日本貿易振興会「ジェトロ投資白書」
・日本貿易振興会「対日アクセス実態調査報告書」、2000 年
・UNCTAD,“World Investment Report 2000”
・『急増する対日直接投資』、「ジェトロセンサー」2000 年 2 月号
・高橋良子・大山剛『近年の対内直接投資増加の背景』、「日本銀行調査月報」2000 年 8
月号
・小方尚子『急増する対日直接投資が日本経済に与える影響』、「さくら銀行経済情報」
2000 年 9 月
・益田安良『外資参入の経済活性化効果に対する疑問』、「富士総研論集」2001 年Ⅰ号
・下谷政弘「日本の系列と企業グループ」有斐閣、93 年
・越純一郎編「プライベート・エクイティ」日本経済新聞社、2000 年
・森綜合法律事務所編「事業再編ハンドブック」中央経済社、2000 年
・藤原総一郎著「図解・企業再生と M&A」東洋経済新報社、2000 年
・鈴木義行編著「M&A 実務ハンドブック」中央経済社、2000 年
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