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障害者差別解消法の制定“その意義と課題“
SSKA頸損 No.110 2013 年 8 月 3 日発行 障害者差別解消法の制定“その意義と課題“ 㻌DPI日本会議 議長 全国頸損連絡会 相談役 三澤 了 「この店は車いすの入店はお断りします。 」 「障害のある人にはアパートをお貸しすることは できません。 」 「込み合う場所への電動車いすの入場は禁止します。 」等々、障害があるという 理由で様々な場所や場面でいろいろな形で差別されたり、障害のない人とは大きく異なる不等 な扱いをされて悔しい思いをされた経験を、みなさん一度や二度はお持ちのことと思います。 私たち障害者は長年にわたって差別され、排除され、障害を持たない人とは異なる扱いを受け 続けてきました。 「差別なんて受けたことがないよ」という人がいるかもしれません。しかし、 ちょっと気を付けて自分の周りを見渡せば、 「障害があるのだから仕方がない」とか「障害者 だから我慢しろ」というような扱いを受け続けている人がまだまだ数多く見受けられるのでは ないでしょうか。私たちは差別のない社会で、障害を持たない人と同等の権利を有し、自由に 生きたい、暮らしたいと願い続けてきました。 1990 年にアメリカで障害者差別禁止法(ADA)が制定されました。全米の障害者が力を 一つにして当事者主体で作らせたということを聞き、大きく勇気づけられました。日本でも障 害者差別禁止法(差別禁止法)をつくろうという動きはこの時から始まりました。ADAを詳 細に学び、私たちが考える差別禁止法の素案を考え、各方面の人と話をしました。しかしどこ へ行っても跳ね返されました。 「差別禁止などは日本の法律にはなじまない」とか、 「法律で差 別禁止を謳った例がない」など、何度も何度も跳ね返され続けてきました。 2006 年 12 月に国連で障害者権利条約(以下、権利条約)が制定されて、より一層差別禁止 法の必要性が高まってきました。2009 年に政権交代があり、新たな政権の下で権利条約の批 准のために開始された障害者制度改革のロードマップから、障害者差別禁止法を 2013 年の通 常国会提出するということになり、2011 年 9 月に内閣府障害者制度改革推進会議のもとに新 たに差別禁止部会が設置されました。障害者政策委員会下での 4 回の部会を含む計 25 回の部 会での議論を経て、同年 9 月に「障害者政策委員会差別禁止部会意見」 (以下、 「部会意見」 ) を取りまとめたのです。その後、2012 年 12 月にふたたび政権交代が起きました。当初差別禁 止法の行く末が不透明でしたが、2013 年 3 月に自民党、公明党のワーキングチームが「障害 を理由とする差別の禁止に関する立法措置に係るおもな論点と基本的な考え方について 与 党 WT 取りまとめ」をまとめ、その後民主党との協議などを経て、4 月の時点でバージョンア ップされ「障害者差別解消法」 (差別解消法)という名称となり、法案要綱、骨子、法案が示 されました。そして、4 月 26 日に差別解消法が閣議決定され、5 月 31 日衆議院通過、6 月 19 日参議院通過で法律として成立しました。 それではこの障害者差別解消法とはどのような法律なのでしょうか。この法律は、本則 6 つ の章 26 条、附則 9 条からなります。本則は、第一章「総則」 、第二章「障害を理由とする差別 の解消の推進に関する基本方針」 、第三章「行政機関等及び事業者における障害を理由とする -10- SSKA頸損 No.110 2013 年 8 月 3 日発行 差別を解消するための措置」 、第四章「障害を理由とする差別を解消する支援措置」 、第五章「雑 則」 、第六章「罰則」という構成です。この法律は、障害者基本法(基本法)の理念に則り、 基本法第 4 条の「差別の禁止」規定を具体化するものとして位置づけられており、法の目的な らびに趣旨に記載されています。基本法第 4 条には、 「何人も障害者に対して、障害を理由と して差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。 」とあります。 「差別禁 止の義務付け」の基本的考え方として、作為による差別にかかる「差別的扱い」と「不作為に よる差別にかかる「合理的配慮の不提供」をあげています。 「間接差別」の扱いについては、 今回は規定せず、具体的な相談事例や裁判例の集積等を踏まえた上で対応すると述べています。 合理的配慮の欠如は差別であると明確に規定した法律ですが、合理的配慮の不提供の意味に ついては、 「個々の障害者に対し、社会的障壁の除去を必要とする旨の<意思の表明>があっ た場合に個別に行われるものとする。 」となっています。例えば知的障害などで、本人が意思 の表明を行うことが困難な場合には、家族や支援者からの意思の表明も含むとしています。こ の合理的配慮については「その実施に伴い負担が過重でない」という基本法の規定に従います が、これを義務付けするのは国と地方公共団体の行政機関や事務・事業となっていて、民間事 業者については努力義務としたうえで、意識啓発・周知を図るとしています。 合理的配慮に関しては「過重な負担のない」という条件付けがあるにも関わらず、民間事業 者を努力義務にしてしまったことは残念なところです。 それでは障害者に対する差別の解消をどのような方法で行うのでしょうか。この法律は基本 法に規定されたすべての法律や事業を対象とする法律なので広範に及ぶのですが、政府はまず、 差別解消推進施策の基本的な方向、行政機関や事業者が行う基本的な事項などを記した基本方 針を閣議決定します。その基本方針を出すにあたっては障害者政策委員会や関係事業者の意見 を聞かなければならないとなっています。基本方針を出す前に政策委員会等の意見を聞かなけ ればならないとしたことは大きな意味を持つことです。 この法律に基づく具体的な対応は事業分野別の指針(ガイドライン)により定めるとなって います。閣議決定された基本方針に基づき、各省庁では所管事業のガイドラインを出すのです が、各省庁が差別事例のガイドラインを示すことだけで差別の解消につながるのだろうかとい う疑問は残ります。この疑問に対しては、法律に違反する行為に関しての損害賠償請求権など の罰則はありませんが、主務大臣による報告徴取、助言、指導、勧告を行うとし、それに従わ なかったときや虚偽の報告を行ったときは過料を課すものとするとなっています。問題がこじ れた場合の備えとしては、新しい紛争解決の機関は設けず、既存の機関の活用を図ることとす るとなっています。部会意見では政府に属さない独立した第三者の紛争解決機関を作るように 求めていたのですが、今回は見送られてしまいました。 障害を理由とする差別には、国や自治体の様々な機関に関連したり、複数の民間セクターが 関係するものが多いので、国と自治体は差別解消支援のために「障害者差別解消支援地域協議 会」を設置することができるとされています。行政から独立した紛争解決機関(例えば人権委 員会のようなもの)とは比べることはできませんが、民間の力も入れて差別解消のための取り 組みをするということなので、当事者の力でこの協議会を全国各地につくらせていく必要があ るでしょう。 -11- SSKA頸損 No.110 2013 年 8 月 3 日発行 この法律は 3 年後の 2016 年から施行されます。3 年後というのはあまりに遅いという気が するのですが、その間に基本方針を定め、各省庁から所管事項にそったガイドラインを出させ、 それを全国に周知するには、これくらいの時間が必要だというのが政府の言い分です。私たち も法律が成立したからといって安心しているわけにはいかず、より現実的な基本方針、そして より効果的なガイドラインを作らせるために、多くの差別事例を収集し、分析するなど具体的 な作業をしていく必要があります。さらにこの法律をより意味のある法律とするためには、全 国各地域で障害の有無で分け隔てられることのない地域社会を創るための差別禁止のための 地域条例を作り上げていく必要があります。この法律につけられた付帯決議では、法律の上乗 せ・横だしをした条例制定を認める文言が記されています。 この法律の成立を受けて障害者権利条約の批准が近いうちに図られるでしょう。権利条約と 差別解消法、二つの重要な手段を私たちは手に入れることになります。しかし問題はこれらの 手段をいかに有効に使っていくことができるかにかかります。それぞれの地域で、それぞれの 団体で権利や差別に関する感度を研ぎ澄まし、誰も排除されたり、異なった扱いをされたりす ることのない社会を作り上げるために力を出し合っていきましょう。 ※ 障害者差別解消法の概要、法律案等は、内閣府HP http://bit.ly/103YEAI からダウン ロードできます。 書籍紹介 障害者権利条約の批准にむけ大きく改 正された障害者基本法の評価できる 点・問題点をわかりやすく解説。国・ 地方の障害者施策の変革にむけた読み 方・使い方を示すとともに、3年後の 見直しの課題にもふれる。 DPI 日本会議編 (株)解放出版社 定価 1200 円+税 ■ テキストデータ(墨字本と同価格)のお申し込みは以下へお願いいたします。 NPO 法人バリアフリー資料リソースセンター(BRC) http://www.best-npo.com/brc/data/ -12- 電話 03-3950-5260