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海外動向 〔テキスタイル市況〕 今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか ― 世界織物工業の各国の現状と今後の変化のポイント ― 小山 英之(こやま ひでゆき) 特別研究員 1970 年社団法人福井県繊維協会入会。1992 年調査部長を経て、2005 年同協会退職。その 間、1992 年に繊維工業審議会臨時委員、1997 年繊維産業審議会専門委員として繊維ビジョ ンの策定に参加。2006 年 2 月から東レ経営研究所特別研究員。 要 点 1 世界同時不況によって、今年の世界織物生産は世界経済成長率がゼロ成長なら 10 ∼ 15 %の減産 に見舞われる可能性が高い。今回の世界織物不況は、今年下半期に大底段階に入ると予想され、底 這い状態が長期化し、第二次世界大戦後の最も深刻な不況に陥るであろう。 2 今次不況は、金融バブルの崩壊に端を発し、各国共に金融機関の貸出し抑制が強まり、キャシュフ ローが世界織物企業のサバイバルを決する大きな要因になりつつある。不況期の倒産は大底からや や回復に向かう時が最も危険であり、来年の上半期が大きな試練の時期になるであろう。 3 大増設を続けてきた中国織物工業は、今回の大不況で大きな転機を迎え、高付加価値化による成熟 段階に入ると思われる。他方、有杼織機大国のインドは、織物企業の債務が少ないことから不況の 抵抗力が強く、今回の不況を契機に革新織機の導入を強化し、高度成長が始まると予想される。 はじめに 世界経済は、100 年に 1 度と言われる未曾有の金 企業に注文が集中するなど、グローバルな規模での 企業間の優勝劣敗が明確化するであろう。 融危機が起こり、昨年秋以降、各国政府の懸命な金 世界テキスタイル工業は、これまで大不況に見 融・財政対策にもかかわらず、個人消費の減少、失 舞われる度に、大きな構造変革を遂げてきており、 業の急増、企業倒産の増加等、実体経済が直下型に 本稿ではデータが比較的そろっている世界織物工 悪化している。世界 GDP の 64 %を占める米国、 業を中心に、各国の設備・生産の現状と今後の変 EU、日本の先進国経済は、米国が昨年第 3 四半期、 化の方向について検討してみたい。 EU と日本が昨年第 2 四半期から連続マイナス成長 を余儀なくされ、BRICs 経済も厳しい減速が進行、 アジア、東欧、中南米、アフリカの多額債務国の経 済危機が一段と強まっている。 1.世界同時不況と今年の繊維需要の見通し 世界各国の消費者心理は、昨年秋以降、急速に冷 え込みを強めている。米国発の自動車、家電、住宅 繊維産業も消費減退の深刻な影響を受けて世界同 の需要減は、瞬く間に世界全域に広がり、産業資 時不況に陥り、各国のテキスタイル工業は収益の悪 材・インテリア繊維の減産が深刻になっている。ま 化を余儀なくされ、厳しいサバイバルの戦いが激化 た、衣料品も月を追うごとに需要不振が強まってお している。今回の不況は、周知の通り長期化が避け り、先進国の衣料品消費の減少によってアジア、東 られない未曾有の大不況であり、今後、競争力の弱 欧の縫製基地は、輸出減少を余儀なくされている。 い企業、財務内容の脆弱な企業の規模縮小、倒産、 今年の世界繊維需要は、どのような減少を示すのか 廃業が進み、コスト競争力、品質力、開発力のある 心配されるところであるが、過去の不況時における 14 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか 世界繊維需要の減少のデータを参考に、今年の需要 1 %未満の低率となっている。なお、日本化学繊維 動向を予測すると次の通りである。 協会の推定調査によると、2008 年の世界繊維生産 第二次世界大戦後の世界繊維需要量の推移(図表 量は、世界景気の減速、綿花の作付面積の減少、干 1)は、戦後復興もあって 1940 年代後半には年平均 ばつによる羊毛の減産もあって、前年比 5 %のマイ 10.8 %の高い伸びを示し、1950 年代は 4.9 %、1960 ナスになった模様である。 年代 3.6 %、1970 年代 3.7 %、1980 年代 2.7 %、 さて、今年の世界 GDP 成長率であるが、IMF が 1 月 28 日に 0.5 %(昨年 3.4 %)に減少すると発表 目覚ましい需要増加と世界の人口増加によって している。これは購買力平価 GDP で加重平均した 4.9 %の増加率になっている。周知の通り、世界経 数値であり、市場為替レートを用いた加重平均では、 済は GDP 成長率が 3 %を下回ると不況になると言 マイナス成長になるとしている。先進国の米国は われ、世界経済の不況によって繊維需要量が前年比 ▲ 1.6 %(昨年 1.1 %)、ユーロ圏▲ 2.0 %(昨年 マイナスになったのは、過去 60 年間に 9 回(1956 1.0 %) 、日本▲ 2.6 %(昨年▲ 0.3 %) 、世界経済の ∼ 57 年は 1 回と計算)経験している。繊維需要量 牽引役の中国は 6.7 %(昨年 9.0 %)、インド 5.1 % の減少率が最も高かったのは、1975 年の第 1 次オ (昨年 7.3 %)、ロシア▲ 0.7 %(昨年 6.2 %)と減 イルショック不況(GDP 成長率ゼロ)の 11.2 %減 速するとしており、過去のデータによると、今年の であり、第 2 位は 1982 年の第 2 次オイルショク不 繊維需要量は前年比 1 割以上の減少になると推定さ 況(GDP 成長率 1.1 %)の 4.8 %減である。また、 れる。ただし、中国、インド、アセアン、中南米等 7 回の不況(GDP 成長率約 2 %)は、減少率が の新興国の GDP 成長率が IMF の予想を上回る減少 ↑ ↑ 1990 年代 2.1 %と次第に低下、2000 年代は中国の 図表 1 第二次世界大戦後の世界繊維需要量の推移 単位:千トン 年 1946年 1947年 1948年 1949年 1950年 1951年 1952年 1953年 1954年 1955年 1956年 1957年 1958年 1959年 1960年 数量 6,519 7,462 8,662 9,478 9,404 11,395 11,609 12,295 12,354 13,331 13,281 13,252 13,849 14,847 14,916 前年比 3.0% 14.5% 16.1% 9.4% −0.8% 21.2% 1.9% 5.9% 0.5% 7.9% −0.4% −0.1% 4.5% 7.2% 0.5% 年 1961年 1962年 1963年 1964年 1965年 1966年 1967年 1968年 1969年 1970年 1971年 1972年 1973年 1974年 1975年 数量 14,852 15,911 16,839 17,739 18,521 18,115 18,333 20,734 20,935 21,561 23,679 25,104 26,494 26,641 23,653 前年比 −0.4% 7.1% 5.8% 5.3% 4.4% −2.2% 1.2% 13.1% 1.0% 3.0% 9.8% 6.0% 5.5% 0.6% −11.2% (注)天然繊維は工場消費量、化合繊は原糸メーカー生産量。 年 1976年 1977年 1978年 1979年 1980年 1981年 1982年 1983年 1984年 1985年 1986年 1987年 1988年 1989年 1990年 数量 25,826 27,808 27,835 29,683 29,372 31,010 29,508 30,761 31,857 33,743 35,874 36,643 37,674 38,401 38,270 前年比 9.2% 7.7% 0.1% 6.6% −1.1% 5.6% −4.8% 4.3% 3.6% 5.9% 6.3% 2.1% 2.8% 1.9% −0.3% 年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 数量 38,110 38,989 39,162 40,336 40,897 42,562 45,323 45,564 47,197 49,746 50,132 52,694 54,722 58,112 61,885 64,530 69,076 前年比 −0.4% 2.3% 0.4% 3.0% 1.4% 4.1% 6.5% 0.5% 3.6% 5.4% 0.8% 5.1% 3.9% 6.2% 6.5% 4.3% 7.1% 出所:日本化学繊維協会「繊維ハンドブック」∼原資料:「Fiber Organon」 を示し、世界経済が大きく落ち込むような事態にな の糸段階のデータが整備されているものの、川中の ると、世界繊維需要量は 15 %以上の過去最大の減 テキスタイル段階のデータについては一部の織物し 少率に見舞われることも予想される。 か統計が無く、残念ながらニット、レース、細幅資 材等の世界全体の正確な実態はほとんど分からな 2.世界織物工業の概況と今次不況の見通し (1)世界繊維生産のマクロ情勢 い。入手可能なデータを用いて、糸及び織物の世界 生産量のポイントを整理すると次の通りである。 今回の世界繊維同時不況をマクロ的に判断するに (A)世界繊維生産量(糸ベース)は、図表 2 に示 は、世界の繊維生産の地図を頭の中で整理すること すごとく 2006 年の実績が 6,354 万トン、その が必要である。しかし、世界繊維生産統計は、川上 うち 3 分の 2 が短繊維(4,231 万トン)、3 分 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 15 海外動向 の 1 が長繊維(2,122 万トン)である。繊維別 物用が 4 ∼ 5 割、ニット・レース・その他が 生産量は、合成繊維(3,487 万トン)が全体の 5 ∼ 6 割弱と推定される。合繊短繊維につい 55 %を占め、そのうち合繊長繊維が 2,062 万 ては、統計が無いので状況が分からない。 トン、同 32.4 %、合繊短繊維 1,422 万トン、 (E)綿織物の生産量は、国際綿花諮問委員会の調 同 22.4 %である。綿糸は、2,470 万トン、 査によると図表 3 の通りで、2007 年が 1,436 シェア 38.9 %、レーヨンは 263 万トン、同 万トン、トップは中国で 417 万トン(シェア 3.4 %、毛は 123 万トン、同 1.9 %である。 29.1 %)、2 位がパキスタンで 320 万トン(同 (B)世界繊維生産量は 2000 から 2006 年の 6 年間 2 2 . 3 % )、 3 位 が イ ン ド で 2 1 3 万 ト ン ( 同 に 28.7 %増加、同期間に綿糸は 26.9 %増、合 14.9 %)、この 3 カ国で世界の 66.3 %を生産 繊短繊維 24.2 %増、合繊長繊維 39.6 %増加し している。 ている。綿糸は中国、インド、パキスタンの また、合繊長繊維織物の 2007 年の生産量 3 カ国、合成繊維は中国、インドの 2 カ国の (図表 4)は、東レ経営研究所の調査によると 増産が顕著であり、その他の国は微増及び停 388 億 3,000 万㎡と推定され、第 1 位が中国の 滞、もしくは減産を余儀なくされている。特 236 億㎡(シェア 60.8 %)、2 位がインドの 41 に中国の増産は目覚ましく、同期間に合繊短 億㎡(同 10.6 %)、3 位が台湾の 23 億㎡、4 位 繊維が 171.7 %増、合繊長繊維が 218.2 %増、 が韓国の 21 億 7,000 万㎡である。この 4 カ国 綿糸 81.5 %増と急増、2007 年も合繊短繊維が 前年比 12.3 %増、合繊長繊維が前年比 18.0 % で世界の 82.8 %を占めている。 (F)以上のように、中国は世界繊維産業の中で圧 増加している。 倒的なシェアを誇っており、今後の中国の対 (C)中国とインドの世界における生産シェアは、 抗馬として注目されるインドは、現状では中 綿糸が中国 51.2 %、インド 10.2 %、合繊短繊 国に大きく水を開けられている。したがって、 維が中国 54.8 %、インド 6.5 %、合繊長繊維 今回の世界繊維同時不況は、中国繊維産業の が中国 58.6 %、インド 6.6 %であり、中国は 出方一つにかかっていると言えよう。今後の 世界の過半を占め、インドは 1 割以下のシェ マクロ情勢のポイントは、世界繊維需要の落 アで、両国の間には大きな格差がある。 ち込みの動向と中国の生産・輸出動向を注視 (D)工程別の糸投入量は、生産データから判断す し、それに絡む主要生産国の情報をキャッチ ると綿糸が織物用に約 6 割、ニット・レー し、国際市況、国際競争状況を的確に見通す ス・その他に約 4 割であり、合繊長繊維は織 ことが必要である。 図表 2 世界繊維生産量の推移 単位:千トン 短 繊 維 長 繊 維 区 分 世 界 計 短繊維計 合繊短繊維計 (中 国) (インド) (その他) レーヨン短繊維計 綿糸 計 (中 国) (インド) (その他) 毛 計 長繊維計 合繊長繊維計 (中 国) (インド) (その他) レーヨン長繊維計 絹 計 2000年(A) 2001年 49,367 51,237 33,997 35,681 11,448 11,275 2,612 2,985 666 653 8,170 7,637 1,712 1,589 19,457 21,500 6,973 7,609 2,215 2,216 10,380 10,329 1,380 1,317 15,370 15,556 14,771 14,967 3,547 4,338 903 917 10,321 9,712 503 494 96 95 2002年 50,796 34,279 12,059 3,591 665 7,803 1,660 19,292 8,500 2,189 10,299 1,268 16,517 15,956 5,259 1,024 9,673 464 97 2003年 53,764 36,303 12,594 4,207 715 7,672 1,768 20,714 9,836 2,091 10,364 1,227 17,461 16,873 6,248 1,077 9,548 486 102 2004年 60,955 42,971 13,468 5,006 787 7,678 1,988 26,295 10,871 2,248 10,552 1,220 18,584 17,984 7,468 1,117 9,399 485 115 2005年 2006年(B) 2007年 62,150 63,537 *** 42,202 42,314 *** 14,222 14,217 14,531 6,390 7,096 7,966 725 827 947 7,105 6,555 5,618 2,006 2,167 2,456 24,756 24,696 *** 12,145 12,656 *** 2,443 2,517 *** 10,389 10,438 *** 1,218 1,234 1,202 19,948 21,223 23,335 19,339 20,615 22,714 9,708 11,287 13,317 1,124 1,306 1,503 8,529 8,109 7,894 476 463 465 133 145 156 B/A 28.7% 24.5% 24.2% 171.7% 24.2% −19.8% 26.6% 26.9% 81.5% 13.6% 0.6% −10.6% 38.1% 39.6% 218.2% 44.6% −21.4% −8.0% 51.0% (注)綿糸の生産量は、各年の8月から翌年7月までの生産分。毛の生産量は羊毛の洗い上げの生産数量。 出所:日本化学繊維協会「繊維ハンドブック」 ・原資料∼Fiber Organon、ICAC 16 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか 図表 3 世界主要国の綿織物の生産推移 単位:千トン 区分 世界計 中国 インド パキスタン ブラジル トルコ 米国 インドネシア ロシア メキシコ タイ その他 2001年 11,038 2,437 1,761 1,502 663 488 771 408 292 273 318 2,125 2002年 11,654 2,892 1,750 1,746 711 534 713 397 312 280 275 2,044 2003年 11,779 3,181 1,615 1,958 724 543 633 380 321 274 208 1,942 2004年 13,028 3,607 1,744 2,610 811 585 631 379 292 273 201 1,895 2005年 14,011 3,979 2,071 3,090 798 608 524 390 298 269 208 1,776 2006年 14,359 4,173 2,134 3,203 810 613 498 398 298 260 209 1,763 (注)各年の生産量は、8月から翌年7月までの生産分。2006年は推定、2007年は見通し。 出所:日本化学繊維協会「繊維ハンドブック」 ・原資料∼ICAC 図表 4 世界合繊長繊維織物生産推定(2007 年) 単位:100万㎡ 生産国 アジア・中東・大洋州 (中 国) (インド) (日 本) (韓 国) (台 湾) (その他) 西 欧 東 欧 北中米 南 米 ア フリカ 世界合計 生産量 35,460 23,600 4,100 890 2,170 2,300 2,400 1,200 1,000 900 120 150 38,830 (注)米国は、バッキングクロスを除く。 出所:東レ経営研究所 (2)織機台数から見た世界織物工業の構造 3.3 %)、北中米 11 万 3,600 台(同 2.0 %)、南 国際繊維製品製造業者連合会(ITMF)の調査に 米 14 万 1,600 台(同 2.5 %)、アフリカ 8 万 よると、2006 年末の世界織機設置状況は図表 5 の 3,000 台(同 1.4 %)である。ちなみに、日本 通りである。その要点を整理すると、次の通りで は 9 万 1,400 台で、西欧とほぼ同規模になっ ある。 ている。 (A)世界織機設置台数は 576 万台で、そのうち革 (C)国別の織機設置台数のトップは、インドの 新織機は約 125 万台、有杼織機(ハンドルー 229 万台で、2 位は中国の 123 万台、3 位はパ ムは除く)は約 450 万台である。革新織機の キスタン 57 万 6,000 台、4 位はインドネシア 比率は 22 %、有杼織機の比率は 78 %で、織 25 万 3,000 台、5 位はタイの 18 万台であり、 機の生産能力から機種別の織物生産量のシェ 上位 3 カ国の世界シェアは 71.1 %に達してい アを推定すると、革新織機が約 6 割、有杼織 機が約 4 割の比率である。 る。 (D)トップ 3 カ国の織機の詳細を見ると、インド (B)世界織機設置台数の 88 %の 508 万台がアジア の織物別織機設置台数は、綿織機が 158 万 (大洋州を含む)に設置されており、西欧は 9 4,000 台、長繊維織機が 70 万台、毛織機が 万 4,500 台(シェア 1.6 %)、東欧 19 万台(同 7,000 台で、機種別では大部分が有杼織機で占 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 17 海外動向 められ、革新織機は 2 万台強しか設置されて パキスタンは、綿織機 52 万 6,000 台、長繊維 おらず、インドは世界最大の有杼織機大国で 織機 5 万台で、インド同様に大部分が有杼織 ある。中国は、綿織機 101 万台、長繊維織機 機(54 万 8,000 台)であり、革新織機はイン 19 万 7,000 台、毛織機 2 万 4,000 台であり、 ドよりやや多い 2 万 8,000 台が設置されてい 機種別では有杼織機 79 万 5,000 台、革新織機 る。 43 万 5,000 台である。中国は世界最大の革新 (F)世界の織機台数に占めるアジアのシェアは、 総台数の 88 %、革新織機の約 70 %、有杼織 織機で生産、3 割を有杼織機で生産している。 機の約 95 %に達している。 ↑ 織機保有国であり、織物生産量の 7 割を革新 ↑ 図表 5 世界織機設置状況(2006 年) 単位:台 区 分 ア ジ ア 中国 インド パキスタン 日本 韓国 台湾 タイ インドネシア その他 西 欧 イタリア ドイツ フランス その他 東 欧 欧州他(トルコ) 北 中 米 南 米 アフリカ 世 界 合 計 織機台数合計 (A+B+C) 5,081,600 1,231,000 2,291,000 576,000 91,400 36,000 53,300 180,100 253,000 369,800 94,500 32,300 6,300 9,000 46,900 190,100 57,300 113,600 141,600 83,000 5,761,700 計 3,890,800 1,010,000 1,584,000 526,000 29,300 11,000 32,700 130,100 219,000 348,700 45,000 10,800 2,200 3,100 28,900 155,100 48,000 100,200 120,600 80,000 4,439,700 綿織機(A) 革新織機 648,200 370,000 20,000 28,000 12,400 9,000 32,000 68,100 29,000 79,700 38,000 9,500 1,700 2,900 23,900 138,000 28,000 50,600 60,200 15,000 978,000 有杼織機 3,242,600 640,000 1,564,000 498,000 16,900 2,000 700 62,000 190,000 269,000 7,000 1,300 500 200 5,000 17,100 20,000 49,600 60,400 65,000 3,461,700 長繊維織機(B) 計 (WJ織機) 1,141,700 202,650 197,000 129,000 700,000 1,950 50,000 *** 48,700 8,000 24,000 18,500 20,000 20,000 50,000 5,200 34,000 12,000 20,000 8,000 19,500 7,000 4,800 *** 3,100 *** 4,500 *** 7,100 *** 19,300 4,000 3,000 600 10,700 3,000 *** 1,600 1,400 1,700 1,195,600 220,550 毛織機 (C) 47,100 24,000 7,000 *** 13,400 1,000 600 *** *** 1,100 30,000 16,700 1,000 1,400 10,900 15,700 6,300 2,700 21,000 1,600 124,400 (注1) インド、パキスタンの織機台数∼一貫工場と非一貫工場の合計、ハンドルームは含まず。 (注2)韓国の綿織機台数∼紡績業界の台数に織布専業者の台数を加えた推計台数。 (注3)中国のWJ織機設置台数∼12万9,000台のうち6万4,000台は綿の革新織機に含まれている。 (注4) アジアには大洋州を含む。 出所:綿・毛・長繊維織機台数∼ITMF、WJ織機台数∼東レ経営研究所 (3)今次世界織物不況の特徴と今後の見通し が厳しい、(E)今次不況は、1974 年の第 1 次オイ ①今次不況の特徴 ルショック不況と同様に世界経済の不況に伴う消 今回の世界織物不況のポイントは、(A)衣料用、 費不振不況であり、世界経済の回復・消費回復が 産業用、インテリア用等のあらゆる分野で急激な 織物不況脱出の唯一の手掛かりである。(F)第 1 需要縮小が進んでいる、(B)株価・商品相場の下 次オイルショック不況は、1975 年を大底に 1976 年 落によって富裕層が打撃を受け、高額織物の需要 には V 字型回復(OECD の経済成長率 5.2 %)を 不振が顕著で、良質なリーズナブル商品に需要が 見せたが、今回の不況は大底を打ってもその後の 集まり、経済が悪化しているアフリカ、中南米等 回復力が弱いと予想され、世界織物工業は第二次 の低級織物の需要が大きく減少している、(C)原 世界大戦後最悪の不況に見舞われる可能性が高い。 油、綿花等の価格低下によって糸価の市況が軟化 し、そのため織物に対する引合が先安感から萎縮 ②今後の見通し している、(D)合繊織物については 1 ∼ 3 月が例 世界織物不況の今後の動向を予測するには、ま 年端境期であり、需要不振が加重されて各国共に ず景気後退期における織物ビジネスの特徴を理解 厳しい減産を余儀なくされ、綿織物より落ち込み しておくことが必要である。すなわち、景気下降 18 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか が始まると同時に、中間流通業界、川下ユーザー のクリスマス商戦は厳しい消費不振に見舞われた 業界は需要減と価格の先安を考えてリスク回避の こともあって、今年は上半期に予想外の急激な市 織物発注の削減及び在庫調整を早く実施する。他 況悪化が進み、下半期に不況の大底段階に入るも 方、織物工場は一般的に情勢判断が甘く、むしろ のと見られている。ただし、世界経済の今後の見 不況の初期の段階では、設備と従業員を有してい 通しは極めて厳しく、織物不況は底這いもしくは ることから、収益キープのための稼働維持の生産 若干の回復状態が来年の上半期まで継続する可能 を行い、生産調整が大幅に遅れることになる。そ 性が高く、最悪の不況状態がかなり長期化すると のため景気下降が一定期間進むと工場在庫が急増 予想される。 し、織物企業は輸出ドライブ等の激しい売り込み なお、今回の不況は、世界経済が回復に転じれ 競争を展開、国際市況が崩落し、大幅減産を余儀 ば繊維需要がある程度持ち直すという典型的な循 なくされるというパターンを繰り返してきている。 環型不況であり、世界経済動向次第の体力勝負の また、製造段階の金融対策の対応が鈍いことも、 不況である。織物企業のサバイバル対策は、不況 各国共通の特徴になっている。景気下降の初期に の長期化に対応して赤字幅を極力縮小して体力の おいては、目先の受注残があることから楽観的な 消耗を防ぎ、商品開発に総力を挙げて需要を確保 見通しを捨て切れず、不況対策の資金手当てを怠 するしか方法は無い。「耐え難きを耐え、忍び難き り、いざ不況の本番になると金融機関の貸付が厳 を忍び」と言われるが、時々刻々悪化する目先の しくなり、悪戦苦闘する企業が多い。特に今回の 情勢に対して、不必要な先行き不安感や萎縮した 大不況は金融混乱から始まったために、各国金融 考えを持つことは禁物である。やるべき対策を 機関の疲弊が深刻になっており、各国テキスタイ 日々きちんと講じ、企業防衛に全力を傾注すると ル業界はかつてない厳しい金融機関の貸出抑制に 共に、今後の世界繊維産業の構造変化と需要構造 よって資金繰りが悪化し、キャッシュフローが企 の変化を予測しながら、回復期の対策を怠りなく 業存続の可否を決める重要な要素になっている。 準備することが肝要である。以下、今後の世界織 例えば、北陸産地の場合、昨年上半期までは金融 物工業の今後のポイントを、革新織機を中心に展 機関からいつでも容易に借入ができる状態にあっ 望してみたい。 たが、下半期に入ると民間金融機関が一斉に貸出 を抑制し、繊維企業は政府系金融機関に駆けつけ たことは記憶に新しいところである。 3.世界織物工業の今後のポイント (1)世界織物マーケットの構造と中国織物工業の 設備力 以上のように不況の初期においては、中間流通 段階、川下ユーザー業界の織物ビジネスの萎縮が 世界織物マーケットのグレード別の製織状況を 深刻化し、不況が本格化すると織物企業の生産が 大別すると、衣料分野の高級ゾーンの織物と高機 激しく落ち込み、深刻な収益の低下に見舞われ、 能・先端技術織物は先進国の革新織機が生産、ミ 体力の弱い企業は経営が行き詰まり、構造調整が ドル高級ゾーンの織物は先進国及び韓国、台湾等 行われる。更に不況が深刻化して各国の織物業界 の革新織機が生産、中級ゾーンの織物は中国、韓 の減産対応がそろう時期になると、ようやく需給 国、台湾、アセアン、インド等の革新織機と有杼 改善が進み、不況の大底段階が近くなる。そして 織機が生産、低級上層ゾーンの織物は中国等の途 大底段階に至ると、減産幅がやや縮小する傾向が 上国の革新織機及び有杼織機が生産、低級下層 現れ、織物企業としてはその時が「不況時の好況 ゾーンの織物は途上国の有杼織機が生産している。 対策」の時期であり、自社の得意技術分野の新た 世界織物マーケットは、一般的に玉ねぎ型をして な研究開発、販路開拓に着手しなければ、景気回 いると言われ、頂点の高級ゾーンは極めて市場規 復の船に乗り遅れることになる。 模が小さく、胴の最も大きな部分は低級上層ゾー それでは、今回の世界織物業界の動きであるが、 ンであり、革新織機による単品量産型の大規模生 昨年 7 ∼ 9 月に日本の減産が本格化し、秋口から 産で最も利益率が高いのは中級ゾーンの織物であ 西欧の織物業界の減産が強化されたのに対して、 る。 中国の減産対応が遅れ、昨年末から本格化してい 世界織物生産に占める機種別生産シェアは、前 る。織物市況は、昨年秋から需要低迷と綿花等の 述のごとく約 6 割が革新織機による生産、約 4 割 大幅価格ダウンで市況が軟化し、昨年末の欧米日 は有杼織機の生産と推定され、世界織物マーケッ 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 19 海外動向 トの構造から見ても革新織機の保有状況が国際競 製織コストの低減が推進され、製織織物の高品質 争力の要になっている。革新織機は非常に耐久性 化、製織品種の汎用化、織機調整のデジタル化な に優れ、西欧の織物業界ではレピア・グリッパー ど一段の技術進歩によって、競争力が格段にアッ 織機を財産として見ている。ウォータージェット プしている。そのため、1990 年代と 2000 年代の革 (WJ)織機とエアジェット(A J)織機は、回転数 新織機を一応区分し、2000 年代の高性能の革新織 が速く、特に WJ 織機は水を使用することから腐食 機をどのくらい導入しているかが、コスト競争力 等の問題もあるが、オーバーホール等の補修を行 を判断する上で重要なポイントになっている。 うと 30 年以上の長期稼働に耐えられる。しかし、 2000 ∼ 2007 年の 8 年間に導入された革新織機の台 メンテナンスの問題、織機メーカーの部品生産の 数を見ると、世界トータルで 49 万 370 台(1990 ∼ 廃止等もあって、現在、世界織物業界で戦力とし 2007 年の導入台数の 5 割)であり、そのうち中国 て稼働している革新織機は、1990 年以降の設備が の革新織機の導入台数は 32 万 3,965 台、世界導入 大部分を占めている。 台数の実に 66 %を占め、機種別の中国の導入シェ そこで、1990 ∼ 2007 年の世界革新織機の導入台 アはレピア・グリッパー織機が 54.7 %、WJ 織機 数を調査(図表 6)すると、97 万 8,399 台である。 86.2 %、A J 織機 65.2 %である。ただし、この中国 そのうちレピア・グリッパー織機が 45 万 8,266 台 の導入台数には、西欧・日本産の高性能革新織機 ( シ ェ ア 4 6 . 8 % )、 A J 織 機 が 2 7 万 7 6 1 台 ( 同 に加えて、やや性能が落ちる中国産のレピア織機、 27.7 %)、WJ 織機が 24 万 9,372 台(同 25.5 %)で WJ 織機が含まれている。また、注意しなければな ある。WJ 織機は、合繊長繊維織物用の専用機であ らないのは、中国の糸の品質が 2005 年前後から急 り、わずかではあるが綿織物用に使用されている。 速にアップしていることで、糸質の向上によって レピア・グリッパー織機、A J 織機は、綿織物の製 合繊長繊維織物・合繊交織織物用の革新織機の高 織を主体に毛織物、アセテート・レーヨン織物、 速稼働が促進されており、A J 織機による綿織物の 合繊長繊維の衣料用中肉・厚地織物、産業資材・ 高速稼働も進んでいる。中国織物工業は、圧倒的 インテリア資材の製織に用いられている。 な設備力と糸質の向上を背景として、中級下層 さて、革新織機の性能面の問題であるが、1990 年代後半から急速に技術革新が進み、2000 年代に ゾーン∼低級上層ゾーンの量産定番品分野で強力 なコスト競争力を有するに至っている。 入って高速化技術、超広幅化技術の進歩によって 図表 6 世界革新織機の導入推移 単位:台 区 分 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 (90∼94年計) 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 (95∼99年計) 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 (00∼04年計) 2005年 2006年 2007年 (05∼07年計) 合 計 革新織機計 74,454 55,077 58,945 45,838 44,463 278,777 45,952 41,657 53,616 35,924 32,103 209,252 59,434 43,347 71,090 62,643 65,534 302,048 53,476 66,633 68,213 188,322 978,399 (注) レピア織機のデータにグリッパー織機を含む。 20 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 WJ織機 11,252 15,628 17,197 9,797 15,813 69,687 10,738 7,513 17,872 8,546 8,382 53,051 22,940 11,026 18,557 14,796 19,132 86,451 9,473 13,930 16,780 40,183 249,372 AJ織機 17,691 13,415 12,077 14,336 10,012 67,531 11,327 10,511 10,987 11,302 8,503 52,630 14,181 12,451 20,943 20,509 16,129 84,213 18,958 22,947 24,482 66,387 270,761 レピア織機等 45,511 26,034 29,671 21,705 18,638 141,559 23,887 23,633 24,757 16,076 15,218 103,571 22,313 19,870 31,590 27,338 30,273 131,384 25,045 29,756 26,951 81,752 458,266 出所:ITMF 今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか 図表 7 世界の WJ 織機の導入推移 日本 1,280 1,346 1,431 349 426 4,832 271 1,011 833 273 201 2,589 321 264 145 170 225 1,125 105 118 315 538 9,084 韓国 6,213 7,713 4,550 2,932 9,490 30,898 4,313 1,511 1,219 446 481 7,970 897 347 106 14 56 1,420 59 58 18 135 40,423 単位:台 区 分 世界合計 1990年 11,252 1991年 15,628 1992年 17,197 1993年 9,797 1994年 15,813 (90∼94年) 69,687 1995年 10,738 1996年 7,513 1997年 17,872 1998年 8,546 1999年 8,382 (95∼99年) 53,051 2000年 22,940 2001年 11,026 2002年 18,557 2003年 14,796 2004年 19,132 (00∼04年) 86,451 2005年 9,473 2006年 13,930 2007年 16,780 (05∼07年) 40,183 90∼07年合計 249,372 中国 146 1,011 5,449 3,977 2,188 12,771 2,512 1,628 5,032 3,230 2,542 14,944 18,191 8,114 15,863 13,991 17,877 74,036 8,565 11,406 15,182 35,153 136,904 インド 15 0 0 0 73 88 50 60 60 0 0 170 0 0 0 18 30 48 148 947 116 1,211 1,517 台湾 インドネシア 866 808 1,932 1,475 2,715 1,151 878 488 365 1,837 6,756 5,759 1,157 1,741 484 461 6,217 958 2,888 526 2,881 168 13,627 3,854 1,753 393 1,353 290 1,041 154 42 102 581 0 4,770 939 116 0 127 30 529 102 772 132 25,925 10,684 タイ マレーシア 703 180 1,056 690 434 604 305 283 234 560 2,732 2,317 25 105 174 1,508 125 2,027 120 0 712 0 1,156 3,640 0 0 20 0 58 0 79 0 175 0 332 0 55 0 186 0 31 30 272 30 4,492 5,987 西欧 587 148 294 95 239 1,363 133 89 84 115 13 434 45 12 17 0 5 79 12 1 1 14 2,258 米国 56 58 302 190 216 822 1 155 304 52 43 555 62 12 14 132 14 234 49 10 50 109 1,720 (注)1990∼91年の西欧はEECとEFTAの計。 その他 398 199 267 300 185 1,349 430 432 1,013 896 1,341 4,112 1,278 614 1,159 248 169 3,468 364 1,047 406 1,817 10,378 出所:ITMF 図表 8 世界の AJ 織機の導入推移 単位:台 区 分 世界合計 1990年 17,691 1991年 13,415 1992年 12,077 1993年 14,336 1994年 10,012 (90∼94年計) 67,531 1995年 11,327 1996年 10,511 1997年 10,987 1998年 11,302 1999年 8,503 (95∼99年計) 52,630 2000年 14,181 2001年 12,451 2002年 20,943 2003年 20,509 2004年 16,129 (00∼04年計) 84,213 2005年 18,958 2006年 22,947 2007年 24,482 (05∼07年計) 66,387 90∼07年合計 270,761 中国 464 663 2,942 5,982 2,009 12,060 3,031 1,882 1,636 768 1,197 8,514 6,309 6,405 16,052 14,228 10,012 53,006 11,917 15,369 17,946 45,232 118,812 (注)1990∼91年の西欧はEECとEFTAの計。 インド パキスタン 411 300 115 662 690 855 268 989 192 260 1,676 3,066 549 14 472 4 395 40 409 332 169 96 1,994 486 188 667 281 723 91 852 259 1,389 1,108 927 1,927 4,558 2,447 1,588 1,983 1,753 1,812 766 6,242 4,107 11,839 12,217 日本 2,084 2,198 1,029 525 385 6,221 449 816 907 584 348 3,104 313 333 199 226 328 1,399 232 303 265 800 11,524 韓国 1,371 2,043 1,328 1,236 553 6,531 670 573 327 209 1,639 3,418 1,496 293 299 250 205 2,543 113 138 84 335 12,827 台湾 インドネシア 770 2,659 1,007 2,414 331 707 415 616 616 890 3,139 7,286 477 868 857 845 666 549 1,897 247 826 138 4,723 2,647 1,001 498 362 223 222 148 284 294 179 114 2,048 1,277 65 164 103 455 372 748 540 1,367 10,450 12,577 タイ 716 769 585 504 347 2,921 368 51 73 61 112 665 211 254 243 428 107 1,243 141 235 18 394 5,223 米国 2,087 1,402 893 1,398 1,899 7,679 1,459 1,331 2,373 2,479 1,118 8,760 476 738 157 211 99 1,681 116 30 192 338 18,458 西欧 3,426 1,035 874 549 928 6,812 1,039 1,134 975 1,681 1,251 6,080 1,611 1,634 970 698 700 5,613 380 458 595 1,433 19,938 その他 3,403 1,107 1,843 1,854 1,933 10,140 2,403 2,546 3,046 2,635 1,609 12,239 1,411 1,205 1,710 2,242 2,350 8,918 1,795 2,120 1,684 5,599 36,896 出所:ITMF 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 21 海外動向 図表 9 世界のレピア・グリッパー織機の導入推移 単位:台 区 分 世界計 中国 1990年 45,511 1,272 1991年 26,034 1,233 1992年 29,671 2,984 1993年 21,705 3,786 1994年 18,638 2,283 (90∼94年計) 141,559 11,558 1995年 23,887 4,138 1996年 23,633 6,895 1997年 24,757 10,308 1998年 16,076 3,940 1999年 15,218 5,287 (95∼99年計) 103,571 30,568 2000年 22,313 10,932 2001年 19,870 9,113 2002年 31,590 19,358 2003年 27,338 16,157 2004年 30,273 20,342 (00∼04年計) 131,384 75,902 2005年 25,045 12,151 2006年 29,756 15,377 2007年 26,951 13,108 (05∼07年計) 81,752 40,636 90∼07年合計 458,266 158,664 インド 229 225 517 642 481 2,094 741 206 274 231 172 1,624 366 380 452 617 1,008 2,823 2,276 2,732 2,066 7,074 13,605 日本 1,891 1,526 1,218 883 480 5,998 667 928 810 472 318 3,195 366 259 47 106 231 1,009 283 125 77 485 10,687 韓国 4,521 1,640 2,883 1,917 2,867 13,828 2,660 1,726 1,260 342 674 6,662 531 151 360 256 93 1,391 187 129 141 457 22,338 台湾 537 642 631 329 526 2,665 640 534 639 508 441 2,762 190 36 123 109 152 610 125 90 174 389 6,426 (注)1990年∼91年の西欧はEECとEFTAの計、 ドイツは西ドイツ、東欧はCOMECON。 (2)世界大不況の到来と今後の世界織物工業の変 化のポイント 米国 1,104 787 1,171 1,068 1,157 5,287 1,116 508 541 671 525 3,361 406 219 128 88 89 930 112 135 110 357 9,935 西 欧 (イタリア)(ドイツ)(フランス) トルコ 7,509 3,268 1,101 775 1,671 3,825 1,507 818 288 384 2,829 1,416 334 317 700 2,558 1,399 463 124 943 4,998 3,058 621 267 481 21,719 10,648 3,337 1,771 4,179 5,990 4,098 486 228 2,002 4,908 2,660 598 357 3,327 5,005 2,251 500 676 1,894 6,126 2,804 680 603 1,220 4,475 2,345 409 360 481 26,504 14,158 2,673 2,224 8,924 4,383 2,456 460 211 1,966 4,301 2,325 461 255 1,153 2,760 1,728 280 78 2,126 2,374 1,165 270 273 3,783 2,647 1,531 369 163 2,071 16,465 9,205 1,840 980 11,099 1,797 1,036 224 72 2,000 1,832 1,131 158 106 2,551 2,164 1,115 284 182 1,734 5,793 3,282 666 360 6,285 70,481 37,293 8,516 5,335 30,487 東 欧 17,150 9,700 11,353 3,698 910 42,811 1,344 489 515 510 335 3,193 289 399 292 274 344 1,598 149 300 199 648 48,250 その他 9,627 6,072 5,385 5,881 4,455 31,420 4,589 4,112 3,511 2,056 2,510 16,778 2,884 3,859 5,944 3,574 3,296 19,557 5,965 6,485 7,178 19,628 87,393 出所:ITMF を構築し、史上最大の織物の大増産を実施した。 そのため、アセアン地域の織物工業が停滞に追い 世界繊維史をひも解くと、大不況の到来の度に 込まれ、1980 年代をリードしてきた韓台両国織物 世界繊維産業が大きな構造変化を遂げてきたこと 業界の斜陽化が表面化した。他方、インドは有杼 が知られる。例えば、合繊テキスタイルの過去 30 織機と低賃金、そして良質の綿糸の使用によって 年余りの構造変化を見ると、1974 ∼ 1975 年の第 1 中国に対抗し、主力の綿織物は着実に増産、また、 次オイルショック不況で、米国、西欧、日本の全 ポリエステルフィラメントの増設を推進して合繊 盛期に終止符が打たれ、代わって韓国、台湾が台 長繊維織物の増産も進んでいる。パキスタンはイ 頭、1980 ∼ 1982 年の第 2 次オイルショック不況で ンドと同様に有杼織機、低賃金、良質な綿糸に は、アセアン、インドの合繊テキスタイル工業の よって綿織物の増産を進めているが、合繊フィラ 勃興が始まった。そして 1997 ∼ 1998 年のアジア メントの紡糸プラントが小規模で、合繊長繊維織 金融危機不況では、中国の織物工業が人民元安を 物の生産は少ない。しかし、ここに来て、インド、 背景として、良質低廉な労働力と最新鋭の革新織 パキスタンの両国は、中国の A J 織機の大量増設に 機・染色機の大量導入によって世界最強の競争力 よって、綿織物、ポリエステル綿混織物等の短繊 22 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか 維織物に頭打ち感が見られ、有杼織機と低賃金で 体に生産している。もし仮に中国の生産が前 中国に対抗する戦略は限界になりつつある。 年比横這いで推移するならば、他の国は 2 割 さて、毎年大増設・大増産を行ってきた中国織 の減産を余儀なくされるであろう。 物工業も、周知のごとくここ 1 ∼ 2 年、労務コス そこで今次不況における中国の織物生産動 トの大幅アップ、人民元の高騰、公害規制のコス 向であるが、中国織物生産統計は正確性に問 ト増等によってコスト競争力にカゲリが見え始め 題があることから、中国海関統計で織物輸出 ている。また、頼みの内需も 1 人当たり織物消費 量の動向を見ると、昨年 8 月がピークで 17 億 量が日本の 6 ∼ 7 割の水準に達して充足感が高ま 7,642 万 m、9 月 17 億 335 万 m、10 月 15 億 り、今回の大不況の襲来で過剰設備が表面化し、 7,612 万 m、11 月 14 億 664 万 m と、10 月以 革新織機による中級下層ゾーン及び低級上層ゾー 降、急速に減少している。中国の織物輸出は ンを主体とした単品量産戦略の収益悪化が顕著に 例年 8 月がピークで、10 ∼ 12 月は 8 月比 1 割 なるなど、大きな転機を迎えている。今後の中国 ほど減少するが、昨年の 11 月は 8 月比 20.8 % 織物工業の動向次第では、世界織物工業の構造変 の減少になっている。中国の織物輸出比率は 化が始まる可能性が高く、主なポイントをまとめ 約 5 割であり、国内の輸出縫製企業向け織物 ると以下の通りである。 出荷も減っていることから、中国織物業界の (A)今年の世界全体の GDP は、IMF の調査では 減産対応は昨年末から本格化したと見られる。 ゼロ成長と予測しており、過去の大不況の経 しかし、中国の革新織機の増設は、昨年下半 験から判断すると、今年の世界繊維消費量は 期に入って大幅に減速したものの、それでも 10 ∼ 15 %のマイナスになると予想され、世 昨年の増設によって織物生産能力が約 5 %増 界経済の落ち込みが想定以上の大幅なマイナ 加しており、今後、中国政府の更なる増値税 スになると、繊維需要量が 2 割以上の減少に の還付率の引き上げや人民元の安値誘導等の 見舞われる可能性がある。ちなみに、業界紙 輸出対策の実施が予想され、中国の輸出ドラ によると、国際綿花諮問委員会の 08 / 09 年 イブに注意が必要である。 度の世界綿花消費量予測は 2,414 万トン(前 (C)今回の世界織物不況は、今年上半期に直下型 期比 8 %減)、09 / 10 年度は 2,378 万トンと に落ち込み、下半期に大底段階に入ると予想 しているが、実際はもっと減少すると言われ され、世界経済の厳しい先行き見通しから判 ている。 断して、前述のように第二次世界大戦後最悪 今年の世界の織物需要は、高級ゾーン、中 の長期底這い状態が来年上半期まで続くこと 級ゾーン、低級ゾーンのいずれのゾーンも需 が心配される。また、今次世界経済不況は、 要減少が進み、用途別でも衣料用、非衣料用 金融バブルの崩壊に端を発しており、金融機 共に需要が減少、第 1 次オイルショック不況 関の貸し渋りが厳しさを増していることから、 以来の八方塞がりの状況を示している。また、 各国織物企業にとってキャッシュフローがサ 各ゾーンにおいて、リーズナブルプライス志 バイバルのポイントになっている。したがっ 向が高まり、コスト競争力、品質力が重要な て、債務の多い織物企業、金融機関とのパイ ポイントになっており、今後、各ゾーンにお プが細い織物企業にとって、景気の底這い状 ける各国間・企業間のサバイバル競争はかつ 態の長期化は経営破綻を招く要因になり、特 て経験したことのない熾烈な状況になろう。 に積極的に革新織機の投資を行っている中国 (B)前回の IT バブル崩壊・高金利不況(2001 年) 織物企業は、厳しい事態を迎えると予想され の時は、各国の織物業界が一様に減産してい る。他方、有杼織機中心のインド、パキスタ る中で、中国のみが増設・増産したが、今回 ンの織物企業は、今回の大不況に対する抵抗 の不況において中国がどのような動向を示す 力が最も強いと思われる。今次不況の特徴は、 かが大きな関心になっている。すなわち、中 財務力、コスト競争力、品質力、商品開発力 国織物業界は世界織物生産量の過半を生産し、 など実力を有する織物企業と、反対に力の無 世界革新織機設置台数の 4 割強を占め、世界 い織物企業の優劣の差が受注面で大きく格差 織物マーケットで最大のボリュームゾーンで が開き、グローバルな規模での優勝劣敗が進 ある中級下層ゾーン及び低級下層ゾーンを主 むであろう。 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号 23 海外動向 (D)世界織物工業は、大不況の到来の度に大きな 織機に転換しないと収益の拡大が望めない局 構造転換を示してきている。今回の大不況を 面を迎えており、一部の主力織物工場におい 契機として、2010 年代前半の世界繊維消費増 て革新織機を導入する動きが出始めている。 加率は、2000 年代の半分に低下すると予想さ まさにインド織物工業は、新たな発展段階に れ、中国織物工業の 2000 年代の大増設・大増 入る前夜にある。今後、インド政府の金融面 産の戦略に終止符が打たれる可能性が高い。 の手厚い支援が行われるならば、これが呼び ただし、綿織物分野では、64 万 8,000 台の有 水となってインド織物工業は一挙に高度成長 杼織機が設置されており、この分野での A J 段階に入る可能性が高くなっている。 織機とレピア・グリッパー織機のビルドと有 (F)日本及び西欧の織物工業は、高度技術、高感 杼織機のスクラップは継続するであろう。中 性、小ロット多品種によってアジア織物工業 国織物工業は、今後、安かろう悪かろうの織 と国際分業を図っており、世界経済及び富裕 物企業が淘汰され、収益回復のため衣料用中 層マーケットの回復待ちとなっている。ただ 級上層ゾーンへ大挙として参入し、機能分野、 し、量的にある程度まとまる衣料用ミドル高 産業資材・インテリア分野の高付加価値化戦 級ゾーン、産業資材・インテリア商品につい 略を強化するであろう。 ては、アジアのトップクラスの織物企業の技 (E)注目のインド織物工業の動向であるが、同国 術アップによって競合が強まり、縮小は避け は永い綿業の歴史を有する世界最大の有杼織 られないであろう。2010 年代は日欧織物業界 機の保有国である。織物技術の集積が進んで にとって、ミドル高級ゾーンの高機能・高感 おり、綿織物の有杼織機の技術力は評価が高 性の再強化と、先端技術の開発及び環境ビジ く、中級上層ゾーンから低級下層ゾーンまで ネスの拡大が大きなキーワードになっている。 の幅広い商品を製織している。合繊長繊維織 物分野も有杼織機による製織が大部分を占め、 現状では技術力が弱く主にサリー用の低級 向のポイントを大雑把に検討してきたが、切 ゾーンの商品を製織、中国の WJ 織機には勝 り口を変えれば色々な見方が可能であり、ま てない構造となっている。また、インドは停 た個々の企業においては商品分野ごとのきめ 電の頻発と電圧の不安定性などインフラに問 の細かいグローバルなミクロ分析が必要であ 題があり、1 人当たり国民所得が中国の 5 分 る。今後 2 年間、過去に経験したことのない の 2 の水準で人件費も安く、1980 年代の中国 厳しい経営を余儀なくされるが、この大不況 の状況に酷似している。中国織物工業の頭打 に萎縮することなく、今から 2010 年代前半を ち感が出てきた今、インドが有杼織機から革 睨んだ新たな経営戦略に着手されることをお 新織機へ大転換を図るチャンスが到来してい 願いして本稿の結びとする。 ると言えよう。現在、インド織物企業も革新 24 以上、世界織物工業の構造面から今後の動 繊維トレンド 2009 年 3・4 月号