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海外動向
〔テキスタイル市況〕
今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか
― 世界織物工業の各国の現状と今後の変化のポイント ―
小山 英之(こやま ひでゆき)
特別研究員
1970 年社団法人福井県繊維協会入会。1992 年調査部長を経て、2005 年同協会退職。その
間、1992 年に繊維工業審議会臨時委員、1997 年繊維産業審議会専門委員として繊維ビジョ
ンの策定に参加。2006 年 2 月から東レ経営研究所特別研究員。
要 点
1 世界同時不況によって、今年の世界織物生産は世界経済成長率がゼロ成長なら 10 ∼ 15 %の減産
に見舞われる可能性が高い。今回の世界織物不況は、今年下半期に大底段階に入ると予想され、底
這い状態が長期化し、第二次世界大戦後の最も深刻な不況に陥るであろう。
2 今次不況は、金融バブルの崩壊に端を発し、各国共に金融機関の貸出し抑制が強まり、キャシュフ
ローが世界織物企業のサバイバルを決する大きな要因になりつつある。不況期の倒産は大底からや
や回復に向かう時が最も危険であり、来年の上半期が大きな試練の時期になるであろう。
3 大増設を続けてきた中国織物工業は、今回の大不況で大きな転機を迎え、高付加価値化による成熟
段階に入ると思われる。他方、有杼織機大国のインドは、織物企業の債務が少ないことから不況の
抵抗力が強く、今回の不況を契機に革新織機の導入を強化し、高度成長が始まると予想される。
はじめに
世界経済は、100 年に 1 度と言われる未曾有の金
企業に注文が集中するなど、グローバルな規模での
企業間の優勝劣敗が明確化するであろう。
融危機が起こり、昨年秋以降、各国政府の懸命な金
世界テキスタイル工業は、これまで大不況に見
融・財政対策にもかかわらず、個人消費の減少、失
舞われる度に、大きな構造変革を遂げてきており、
業の急増、企業倒産の増加等、実体経済が直下型に
本稿ではデータが比較的そろっている世界織物工
悪化している。世界 GDP の 64 %を占める米国、
業を中心に、各国の設備・生産の現状と今後の変
EU、日本の先進国経済は、米国が昨年第 3 四半期、
化の方向について検討してみたい。
EU と日本が昨年第 2 四半期から連続マイナス成長
を余儀なくされ、BRICs 経済も厳しい減速が進行、
アジア、東欧、中南米、アフリカの多額債務国の経
済危機が一段と強まっている。
1.世界同時不況と今年の繊維需要の見通し
世界各国の消費者心理は、昨年秋以降、急速に冷
え込みを強めている。米国発の自動車、家電、住宅
繊維産業も消費減退の深刻な影響を受けて世界同
の需要減は、瞬く間に世界全域に広がり、産業資
時不況に陥り、各国のテキスタイル工業は収益の悪
材・インテリア繊維の減産が深刻になっている。ま
化を余儀なくされ、厳しいサバイバルの戦いが激化
た、衣料品も月を追うごとに需要不振が強まってお
している。今回の不況は、周知の通り長期化が避け
り、先進国の衣料品消費の減少によってアジア、東
られない未曾有の大不況であり、今後、競争力の弱
欧の縫製基地は、輸出減少を余儀なくされている。
い企業、財務内容の脆弱な企業の規模縮小、倒産、
今年の世界繊維需要は、どのような減少を示すのか
廃業が進み、コスト競争力、品質力、開発力のある
心配されるところであるが、過去の不況時における
14
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか
世界繊維需要の減少のデータを参考に、今年の需要
1 %未満の低率となっている。なお、日本化学繊維
動向を予測すると次の通りである。
協会の推定調査によると、2008 年の世界繊維生産
第二次世界大戦後の世界繊維需要量の推移(図表
量は、世界景気の減速、綿花の作付面積の減少、干
1)は、戦後復興もあって 1940 年代後半には年平均
ばつによる羊毛の減産もあって、前年比 5 %のマイ
10.8 %の高い伸びを示し、1950 年代は 4.9 %、1960
ナスになった模様である。
年代 3.6 %、1970 年代 3.7 %、1980 年代 2.7 %、
さて、今年の世界 GDP 成長率であるが、IMF が
1 月 28 日に 0.5 %(昨年 3.4 %)に減少すると発表
目覚ましい需要増加と世界の人口増加によって
している。これは購買力平価 GDP で加重平均した
4.9 %の増加率になっている。周知の通り、世界経
数値であり、市場為替レートを用いた加重平均では、
済は GDP 成長率が 3 %を下回ると不況になると言
マイナス成長になるとしている。先進国の米国は
われ、世界経済の不況によって繊維需要量が前年比
▲ 1.6 %(昨年 1.1 %)、ユーロ圏▲ 2.0 %(昨年
マイナスになったのは、過去 60 年間に 9 回(1956
1.0 %)
、日本▲ 2.6 %(昨年▲ 0.3 %)
、世界経済の
∼ 57 年は 1 回と計算)経験している。繊維需要量
牽引役の中国は 6.7 %(昨年 9.0 %)、インド 5.1 %
の減少率が最も高かったのは、1975 年の第 1 次オ
(昨年 7.3 %)、ロシア▲ 0.7 %(昨年 6.2 %)と減
イルショック不況(GDP 成長率ゼロ)の 11.2 %減
速するとしており、過去のデータによると、今年の
であり、第 2 位は 1982 年の第 2 次オイルショク不
繊維需要量は前年比 1 割以上の減少になると推定さ
況(GDP 成長率 1.1 %)の 4.8 %減である。また、
れる。ただし、中国、インド、アセアン、中南米等
7 回の不況(GDP 成長率約 2 %)は、減少率が
の新興国の GDP 成長率が IMF の予想を上回る減少
↑
↑
1990 年代 2.1 %と次第に低下、2000 年代は中国の
図表 1
第二次世界大戦後の世界繊維需要量の推移
単位:千トン
年
1946年
1947年
1948年
1949年
1950年
1951年
1952年
1953年
1954年
1955年
1956年
1957年
1958年
1959年
1960年
数量
6,519
7,462
8,662
9,478
9,404
11,395
11,609
12,295
12,354
13,331
13,281
13,252
13,849
14,847
14,916
前年比
3.0%
14.5%
16.1%
9.4%
−0.8%
21.2%
1.9%
5.9%
0.5%
7.9%
−0.4%
−0.1%
4.5%
7.2%
0.5%
年
1961年
1962年
1963年
1964年
1965年
1966年
1967年
1968年
1969年
1970年
1971年
1972年
1973年
1974年
1975年
数量
14,852
15,911
16,839
17,739
18,521
18,115
18,333
20,734
20,935
21,561
23,679
25,104
26,494
26,641
23,653
前年比
−0.4%
7.1%
5.8%
5.3%
4.4%
−2.2%
1.2%
13.1%
1.0%
3.0%
9.8%
6.0%
5.5%
0.6%
−11.2%
(注)天然繊維は工場消費量、化合繊は原糸メーカー生産量。
年
1976年
1977年
1978年
1979年
1980年
1981年
1982年
1983年
1984年
1985年
1986年
1987年
1988年
1989年
1990年
数量
25,826
27,808
27,835
29,683
29,372
31,010
29,508
30,761
31,857
33,743
35,874
36,643
37,674
38,401
38,270
前年比
9.2%
7.7%
0.1%
6.6%
−1.1%
5.6%
−4.8%
4.3%
3.6%
5.9%
6.3%
2.1%
2.8%
1.9%
−0.3%
年
1991年
1992年
1993年
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
数量
38,110
38,989
39,162
40,336
40,897
42,562
45,323
45,564
47,197
49,746
50,132
52,694
54,722
58,112
61,885
64,530
69,076
前年比
−0.4%
2.3%
0.4%
3.0%
1.4%
4.1%
6.5%
0.5%
3.6%
5.4%
0.8%
5.1%
3.9%
6.2%
6.5%
4.3%
7.1%
出所:日本化学繊維協会「繊維ハンドブック」∼原資料:「Fiber Organon」
を示し、世界経済が大きく落ち込むような事態にな
の糸段階のデータが整備されているものの、川中の
ると、世界繊維需要量は 15 %以上の過去最大の減
テキスタイル段階のデータについては一部の織物し
少率に見舞われることも予想される。
か統計が無く、残念ながらニット、レース、細幅資
材等の世界全体の正確な実態はほとんど分からな
2.世界織物工業の概況と今次不況の見通し
(1)世界繊維生産のマクロ情勢 い。入手可能なデータを用いて、糸及び織物の世界
生産量のポイントを整理すると次の通りである。
今回の世界繊維同時不況をマクロ的に判断するに
(A)世界繊維生産量(糸ベース)は、図表 2 に示
は、世界の繊維生産の地図を頭の中で整理すること
すごとく 2006 年の実績が 6,354 万トン、その
が必要である。しかし、世界繊維生産統計は、川上
うち 3 分の 2 が短繊維(4,231 万トン)、3 分
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
15
海外動向
の 1 が長繊維(2,122 万トン)である。繊維別
物用が 4 ∼ 5 割、ニット・レース・その他が
生産量は、合成繊維(3,487 万トン)が全体の
5 ∼ 6 割弱と推定される。合繊短繊維につい
55 %を占め、そのうち合繊長繊維が 2,062 万
ては、統計が無いので状況が分からない。
トン、同 32.4 %、合繊短繊維 1,422 万トン、
(E)綿織物の生産量は、国際綿花諮問委員会の調
同 22.4 %である。綿糸は、2,470 万トン、
査によると図表 3 の通りで、2007 年が 1,436
シェア 38.9 %、レーヨンは 263 万トン、同
万トン、トップは中国で 417 万トン(シェア
3.4 %、毛は 123 万トン、同 1.9 %である。
29.1 %)、2 位がパキスタンで 320 万トン(同
(B)世界繊維生産量は 2000 から 2006 年の 6 年間
2 2 . 3 % )、 3 位 が イ ン ド で 2 1 3 万 ト ン ( 同
に 28.7 %増加、同期間に綿糸は 26.9 %増、合
14.9 %)、この 3 カ国で世界の 66.3 %を生産
繊短繊維 24.2 %増、合繊長繊維 39.6 %増加し
している。
ている。綿糸は中国、インド、パキスタンの
また、合繊長繊維織物の 2007 年の生産量
3 カ国、合成繊維は中国、インドの 2 カ国の
(図表 4)は、東レ経営研究所の調査によると
増産が顕著であり、その他の国は微増及び停
388 億 3,000 万㎡と推定され、第 1 位が中国の
滞、もしくは減産を余儀なくされている。特
236 億㎡(シェア 60.8 %)、2 位がインドの 41
に中国の増産は目覚ましく、同期間に合繊短
億㎡(同 10.6 %)、3 位が台湾の 23 億㎡、4 位
繊維が 171.7 %増、合繊長繊維が 218.2 %増、
が韓国の 21 億 7,000 万㎡である。この 4 カ国
綿糸 81.5 %増と急増、2007 年も合繊短繊維が
前年比 12.3 %増、合繊長繊維が前年比 18.0 %
で世界の 82.8 %を占めている。
(F)以上のように、中国は世界繊維産業の中で圧
増加している。
倒的なシェアを誇っており、今後の中国の対
(C)中国とインドの世界における生産シェアは、
抗馬として注目されるインドは、現状では中
綿糸が中国 51.2 %、インド 10.2 %、合繊短繊
国に大きく水を開けられている。したがって、
維が中国 54.8 %、インド 6.5 %、合繊長繊維
今回の世界繊維同時不況は、中国繊維産業の
が中国 58.6 %、インド 6.6 %であり、中国は
出方一つにかかっていると言えよう。今後の
世界の過半を占め、インドは 1 割以下のシェ
マクロ情勢のポイントは、世界繊維需要の落
アで、両国の間には大きな格差がある。
ち込みの動向と中国の生産・輸出動向を注視
(D)工程別の糸投入量は、生産データから判断す
し、それに絡む主要生産国の情報をキャッチ
ると綿糸が織物用に約 6 割、ニット・レー
し、国際市況、国際競争状況を的確に見通す
ス・その他に約 4 割であり、合繊長繊維は織
ことが必要である。
図表 2
世界繊維生産量の推移
単位:千トン
短
繊
維
長
繊
維
区 分
世 界 計
短繊維計
合繊短繊維計
(中 国)
(インド)
(その他)
レーヨン短繊維計
綿糸 計
(中 国)
(インド)
(その他)
毛
計
長繊維計
合繊長繊維計
(中 国)
(インド)
(その他)
レーヨン長繊維計
絹 計
2000年(A) 2001年
49,367
51,237
33,997
35,681
11,448
11,275
2,612
2,985
666
653
8,170
7,637
1,712
1,589
19,457
21,500
6,973
7,609
2,215
2,216
10,380
10,329
1,380
1,317
15,370
15,556
14,771
14,967
3,547
4,338
903
917
10,321
9,712
503
494
96
95
2002年
50,796
34,279
12,059
3,591
665
7,803
1,660
19,292
8,500
2,189
10,299
1,268
16,517
15,956
5,259
1,024
9,673
464
97
2003年
53,764
36,303
12,594
4,207
715
7,672
1,768
20,714
9,836
2,091
10,364
1,227
17,461
16,873
6,248
1,077
9,548
486
102
2004年
60,955
42,971
13,468
5,006
787
7,678
1,988
26,295
10,871
2,248
10,552
1,220
18,584
17,984
7,468
1,117
9,399
485
115
2005年 2006年(B) 2007年
62,150
63,537
***
42,202
42,314
***
14,222
14,217
14,531
6,390
7,096
7,966
725
827
947
7,105
6,555
5,618
2,006
2,167
2,456
24,756
24,696
***
12,145
12,656
***
2,443
2,517
***
10,389
10,438
***
1,218
1,234
1,202
19,948
21,223
23,335
19,339
20,615
22,714
9,708
11,287
13,317
1,124
1,306
1,503
8,529
8,109
7,894
476
463
465
133
145
156
B/A
28.7%
24.5%
24.2%
171.7%
24.2%
−19.8%
26.6%
26.9%
81.5%
13.6%
0.6%
−10.6%
38.1%
39.6%
218.2%
44.6%
−21.4%
−8.0%
51.0%
(注)綿糸の生産量は、各年の8月から翌年7月までの生産分。毛の生産量は羊毛の洗い上げの生産数量。
出所:日本化学繊維協会「繊維ハンドブック」
・原資料∼Fiber Organon、ICAC
16
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか
図表 3
世界主要国の綿織物の生産推移
単位:千トン
区分
世界計
中国
インド
パキスタン
ブラジル
トルコ
米国
インドネシア
ロシア
メキシコ
タイ
その他
2001年
11,038
2,437
1,761
1,502
663
488
771
408
292
273
318
2,125
2002年
11,654
2,892
1,750
1,746
711
534
713
397
312
280
275
2,044
2003年
11,779
3,181
1,615
1,958
724
543
633
380
321
274
208
1,942
2004年
13,028
3,607
1,744
2,610
811
585
631
379
292
273
201
1,895
2005年
14,011
3,979
2,071
3,090
798
608
524
390
298
269
208
1,776
2006年
14,359
4,173
2,134
3,203
810
613
498
398
298
260
209
1,763
(注)各年の生産量は、8月から翌年7月までの生産分。2006年は推定、2007年は見通し。
出所:日本化学繊維協会「繊維ハンドブック」
・原資料∼ICAC
図表 4
世界合繊長繊維織物生産推定(2007 年)
単位:100万㎡
生産国
アジア・中東・大洋州
(中 国)
(インド)
(日 本)
(韓 国)
(台 湾)
(その他)
西
欧
東
欧
北中米
南
米
ア フリカ
世界合計
生産量
35,460
23,600
4,100
890
2,170
2,300
2,400
1,200
1,000
900
120
150
38,830
(注)米国は、バッキングクロスを除く。
出所:東レ経営研究所
(2)織機台数から見た世界織物工業の構造
3.3 %)、北中米 11 万 3,600 台(同 2.0 %)、南
国際繊維製品製造業者連合会(ITMF)の調査に
米 14 万 1,600 台(同 2.5 %)、アフリカ 8 万
よると、2006 年末の世界織機設置状況は図表 5 の
3,000 台(同 1.4 %)である。ちなみに、日本
通りである。その要点を整理すると、次の通りで
は 9 万 1,400 台で、西欧とほぼ同規模になっ
ある。
ている。
(A)世界織機設置台数は 576 万台で、そのうち革
(C)国別の織機設置台数のトップは、インドの
新織機は約 125 万台、有杼織機(ハンドルー
229 万台で、2 位は中国の 123 万台、3 位はパ
ムは除く)は約 450 万台である。革新織機の
キスタン 57 万 6,000 台、4 位はインドネシア
比率は 22 %、有杼織機の比率は 78 %で、織
25 万 3,000 台、5 位はタイの 18 万台であり、
機の生産能力から機種別の織物生産量のシェ
上位 3 カ国の世界シェアは 71.1 %に達してい
アを推定すると、革新織機が約 6 割、有杼織
機が約 4 割の比率である。
る。
(D)トップ 3 カ国の織機の詳細を見ると、インド
(B)世界織機設置台数の 88 %の 508 万台がアジア
の織物別織機設置台数は、綿織機が 158 万
(大洋州を含む)に設置されており、西欧は 9
4,000 台、長繊維織機が 70 万台、毛織機が
万 4,500 台(シェア 1.6 %)、東欧 19 万台(同
7,000 台で、機種別では大部分が有杼織機で占
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
17
海外動向
められ、革新織機は 2 万台強しか設置されて
パキスタンは、綿織機 52 万 6,000 台、長繊維
おらず、インドは世界最大の有杼織機大国で
織機 5 万台で、インド同様に大部分が有杼織
ある。中国は、綿織機 101 万台、長繊維織機
機(54 万 8,000 台)であり、革新織機はイン
19 万 7,000 台、毛織機 2 万 4,000 台であり、
ドよりやや多い 2 万 8,000 台が設置されてい
機種別では有杼織機 79 万 5,000 台、革新織機
る。
43 万 5,000 台である。中国は世界最大の革新
(F)世界の織機台数に占めるアジアのシェアは、
総台数の 88 %、革新織機の約 70 %、有杼織
織機で生産、3 割を有杼織機で生産している。
機の約 95 %に達している。
↑
織機保有国であり、織物生産量の 7 割を革新
↑
図表 5
世界織機設置状況(2006 年)
単位:台
区
分
ア ジ ア
中国
インド
パキスタン
日本
韓国
台湾
タイ
インドネシア
その他
西 欧
イタリア
ドイツ
フランス
その他
東
欧
欧州他(トルコ)
北 中 米
南 米
アフリカ
世 界 合 計
織機台数合計
(A+B+C)
5,081,600
1,231,000
2,291,000
576,000
91,400
36,000
53,300
180,100
253,000
369,800
94,500
32,300
6,300
9,000
46,900
190,100
57,300
113,600
141,600
83,000
5,761,700
計
3,890,800
1,010,000
1,584,000
526,000
29,300
11,000
32,700
130,100
219,000
348,700
45,000
10,800
2,200
3,100
28,900
155,100
48,000
100,200
120,600
80,000
4,439,700
綿織機(A)
革新織機
648,200
370,000
20,000
28,000
12,400
9,000
32,000
68,100
29,000
79,700
38,000
9,500
1,700
2,900
23,900
138,000
28,000
50,600
60,200
15,000
978,000
有杼織機
3,242,600
640,000
1,564,000
498,000
16,900
2,000
700
62,000
190,000
269,000
7,000
1,300
500
200
5,000
17,100
20,000
49,600
60,400
65,000
3,461,700
長繊維織機(B)
計
(WJ織機)
1,141,700
202,650
197,000
129,000
700,000
1,950
50,000
***
48,700
8,000
24,000
18,500
20,000
20,000
50,000
5,200
34,000
12,000
20,000
8,000
19,500
7,000
4,800
***
3,100
***
4,500
***
7,100
***
19,300
4,000
3,000
600
10,700
3,000
***
1,600
1,400
1,700
1,195,600
220,550
毛織機
(C)
47,100
24,000
7,000
***
13,400
1,000
600
***
***
1,100
30,000
16,700
1,000
1,400
10,900
15,700
6,300
2,700
21,000
1,600
124,400
(注1)
インド、パキスタンの織機台数∼一貫工場と非一貫工場の合計、ハンドルームは含まず。
(注2)韓国の綿織機台数∼紡績業界の台数に織布専業者の台数を加えた推計台数。
(注3)中国のWJ織機設置台数∼12万9,000台のうち6万4,000台は綿の革新織機に含まれている。
(注4)
アジアには大洋州を含む。
出所:綿・毛・長繊維織機台数∼ITMF、WJ織機台数∼東レ経営研究所
(3)今次世界織物不況の特徴と今後の見通し
が厳しい、(E)今次不況は、1974 年の第 1 次オイ
①今次不況の特徴
ルショック不況と同様に世界経済の不況に伴う消
今回の世界織物不況のポイントは、(A)衣料用、
費不振不況であり、世界経済の回復・消費回復が
産業用、インテリア用等のあらゆる分野で急激な
織物不況脱出の唯一の手掛かりである。(F)第 1
需要縮小が進んでいる、(B)株価・商品相場の下
次オイルショック不況は、1975 年を大底に 1976 年
落によって富裕層が打撃を受け、高額織物の需要
には V 字型回復(OECD の経済成長率 5.2 %)を
不振が顕著で、良質なリーズナブル商品に需要が
見せたが、今回の不況は大底を打ってもその後の
集まり、経済が悪化しているアフリカ、中南米等
回復力が弱いと予想され、世界織物工業は第二次
の低級織物の需要が大きく減少している、(C)原
世界大戦後最悪の不況に見舞われる可能性が高い。
油、綿花等の価格低下によって糸価の市況が軟化
し、そのため織物に対する引合が先安感から萎縮
②今後の見通し
している、(D)合繊織物については 1 ∼ 3 月が例
世界織物不況の今後の動向を予測するには、ま
年端境期であり、需要不振が加重されて各国共に
ず景気後退期における織物ビジネスの特徴を理解
厳しい減産を余儀なくされ、綿織物より落ち込み
しておくことが必要である。すなわち、景気下降
18
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか
が始まると同時に、中間流通業界、川下ユーザー
のクリスマス商戦は厳しい消費不振に見舞われた
業界は需要減と価格の先安を考えてリスク回避の
こともあって、今年は上半期に予想外の急激な市
織物発注の削減及び在庫調整を早く実施する。他
況悪化が進み、下半期に不況の大底段階に入るも
方、織物工場は一般的に情勢判断が甘く、むしろ
のと見られている。ただし、世界経済の今後の見
不況の初期の段階では、設備と従業員を有してい
通しは極めて厳しく、織物不況は底這いもしくは
ることから、収益キープのための稼働維持の生産
若干の回復状態が来年の上半期まで継続する可能
を行い、生産調整が大幅に遅れることになる。そ
性が高く、最悪の不況状態がかなり長期化すると
のため景気下降が一定期間進むと工場在庫が急増
予想される。
し、織物企業は輸出ドライブ等の激しい売り込み
なお、今回の不況は、世界経済が回復に転じれ
競争を展開、国際市況が崩落し、大幅減産を余儀
ば繊維需要がある程度持ち直すという典型的な循
なくされるというパターンを繰り返してきている。
環型不況であり、世界経済動向次第の体力勝負の
また、製造段階の金融対策の対応が鈍いことも、
不況である。織物企業のサバイバル対策は、不況
各国共通の特徴になっている。景気下降の初期に
の長期化に対応して赤字幅を極力縮小して体力の
おいては、目先の受注残があることから楽観的な
消耗を防ぎ、商品開発に総力を挙げて需要を確保
見通しを捨て切れず、不況対策の資金手当てを怠
するしか方法は無い。「耐え難きを耐え、忍び難き
り、いざ不況の本番になると金融機関の貸付が厳
を忍び」と言われるが、時々刻々悪化する目先の
しくなり、悪戦苦闘する企業が多い。特に今回の
情勢に対して、不必要な先行き不安感や萎縮した
大不況は金融混乱から始まったために、各国金融
考えを持つことは禁物である。やるべき対策を
機関の疲弊が深刻になっており、各国テキスタイ
日々きちんと講じ、企業防衛に全力を傾注すると
ル業界はかつてない厳しい金融機関の貸出抑制に
共に、今後の世界繊維産業の構造変化と需要構造
よって資金繰りが悪化し、キャッシュフローが企
の変化を予測しながら、回復期の対策を怠りなく
業存続の可否を決める重要な要素になっている。
準備することが肝要である。以下、今後の世界織
例えば、北陸産地の場合、昨年上半期までは金融
物工業の今後のポイントを、革新織機を中心に展
機関からいつでも容易に借入ができる状態にあっ
望してみたい。
たが、下半期に入ると民間金融機関が一斉に貸出
を抑制し、繊維企業は政府系金融機関に駆けつけ
たことは記憶に新しいところである。
3.世界織物工業の今後のポイント
(1)世界織物マーケットの構造と中国織物工業の
設備力 以上のように不況の初期においては、中間流通
段階、川下ユーザー業界の織物ビジネスの萎縮が
世界織物マーケットのグレード別の製織状況を
深刻化し、不況が本格化すると織物企業の生産が
大別すると、衣料分野の高級ゾーンの織物と高機
激しく落ち込み、深刻な収益の低下に見舞われ、
能・先端技術織物は先進国の革新織機が生産、ミ
体力の弱い企業は経営が行き詰まり、構造調整が
ドル高級ゾーンの織物は先進国及び韓国、台湾等
行われる。更に不況が深刻化して各国の織物業界
の革新織機が生産、中級ゾーンの織物は中国、韓
の減産対応がそろう時期になると、ようやく需給
国、台湾、アセアン、インド等の革新織機と有杼
改善が進み、不況の大底段階が近くなる。そして
織機が生産、低級上層ゾーンの織物は中国等の途
大底段階に至ると、減産幅がやや縮小する傾向が
上国の革新織機及び有杼織機が生産、低級下層
現れ、織物企業としてはその時が「不況時の好況
ゾーンの織物は途上国の有杼織機が生産している。
対策」の時期であり、自社の得意技術分野の新た
世界織物マーケットは、一般的に玉ねぎ型をして
な研究開発、販路開拓に着手しなければ、景気回
いると言われ、頂点の高級ゾーンは極めて市場規
復の船に乗り遅れることになる。
模が小さく、胴の最も大きな部分は低級上層ゾー
それでは、今回の世界織物業界の動きであるが、
ンであり、革新織機による単品量産型の大規模生
昨年 7 ∼ 9 月に日本の減産が本格化し、秋口から
産で最も利益率が高いのは中級ゾーンの織物であ
西欧の織物業界の減産が強化されたのに対して、
る。
中国の減産対応が遅れ、昨年末から本格化してい
世界織物生産に占める機種別生産シェアは、前
る。織物市況は、昨年秋から需要低迷と綿花等の
述のごとく約 6 割が革新織機による生産、約 4 割
大幅価格ダウンで市況が軟化し、昨年末の欧米日
は有杼織機の生産と推定され、世界織物マーケッ
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
19
海外動向
トの構造から見ても革新織機の保有状況が国際競
製織コストの低減が推進され、製織織物の高品質
争力の要になっている。革新織機は非常に耐久性
化、製織品種の汎用化、織機調整のデジタル化な
に優れ、西欧の織物業界ではレピア・グリッパー
ど一段の技術進歩によって、競争力が格段にアッ
織機を財産として見ている。ウォータージェット
プしている。そのため、1990 年代と 2000 年代の革
(WJ)織機とエアジェット(A J)織機は、回転数
新織機を一応区分し、2000 年代の高性能の革新織
が速く、特に WJ 織機は水を使用することから腐食
機をどのくらい導入しているかが、コスト競争力
等の問題もあるが、オーバーホール等の補修を行
を判断する上で重要なポイントになっている。
うと 30 年以上の長期稼働に耐えられる。しかし、
2000 ∼ 2007 年の 8 年間に導入された革新織機の台
メンテナンスの問題、織機メーカーの部品生産の
数を見ると、世界トータルで 49 万 370 台(1990 ∼
廃止等もあって、現在、世界織物業界で戦力とし
2007 年の導入台数の 5 割)であり、そのうち中国
て稼働している革新織機は、1990 年以降の設備が
の革新織機の導入台数は 32 万 3,965 台、世界導入
大部分を占めている。
台数の実に 66 %を占め、機種別の中国の導入シェ
そこで、1990 ∼ 2007 年の世界革新織機の導入台
アはレピア・グリッパー織機が 54.7 %、WJ 織機
数を調査(図表 6)すると、97 万 8,399 台である。
86.2 %、A J 織機 65.2 %である。ただし、この中国
そのうちレピア・グリッパー織機が 45 万 8,266 台
の導入台数には、西欧・日本産の高性能革新織機
( シ ェ ア 4 6 . 8 % )、 A J 織 機 が 2 7 万 7 6 1 台 ( 同
に加えて、やや性能が落ちる中国産のレピア織機、
27.7 %)、WJ 織機が 24 万 9,372 台(同 25.5 %)で
WJ 織機が含まれている。また、注意しなければな
ある。WJ 織機は、合繊長繊維織物用の専用機であ
らないのは、中国の糸の品質が 2005 年前後から急
り、わずかではあるが綿織物用に使用されている。
速にアップしていることで、糸質の向上によって
レピア・グリッパー織機、A J 織機は、綿織物の製
合繊長繊維織物・合繊交織織物用の革新織機の高
織を主体に毛織物、アセテート・レーヨン織物、
速稼働が促進されており、A J 織機による綿織物の
合繊長繊維の衣料用中肉・厚地織物、産業資材・
高速稼働も進んでいる。中国織物工業は、圧倒的
インテリア資材の製織に用いられている。
な設備力と糸質の向上を背景として、中級下層
さて、革新織機の性能面の問題であるが、1990
年代後半から急速に技術革新が進み、2000 年代に
ゾーン∼低級上層ゾーンの量産定番品分野で強力
なコスト競争力を有するに至っている。
入って高速化技術、超広幅化技術の進歩によって
図表 6
世界革新織機の導入推移
単位:台
区 分
1990年
1991年
1992年
1993年
1994年
(90∼94年計)
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
(95∼99年計)
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
(00∼04年計)
2005年
2006年
2007年
(05∼07年計)
合 計
革新織機計
74,454
55,077
58,945
45,838
44,463
278,777
45,952
41,657
53,616
35,924
32,103
209,252
59,434
43,347
71,090
62,643
65,534
302,048
53,476
66,633
68,213
188,322
978,399
(注)
レピア織機のデータにグリッパー織機を含む。
20
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
WJ織機
11,252
15,628
17,197
9,797
15,813
69,687
10,738
7,513
17,872
8,546
8,382
53,051
22,940
11,026
18,557
14,796
19,132
86,451
9,473
13,930
16,780
40,183
249,372
AJ織機
17,691
13,415
12,077
14,336
10,012
67,531
11,327
10,511
10,987
11,302
8,503
52,630
14,181
12,451
20,943
20,509
16,129
84,213
18,958
22,947
24,482
66,387
270,761
レピア織機等
45,511
26,034
29,671
21,705
18,638
141,559
23,887
23,633
24,757
16,076
15,218
103,571
22,313
19,870
31,590
27,338
30,273
131,384
25,045
29,756
26,951
81,752
458,266
出所:ITMF
今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか
図表 7
世界の WJ 織機の導入推移
日本
1,280
1,346
1,431
349
426
4,832
271
1,011
833
273
201
2,589
321
264
145
170
225
1,125
105
118
315
538
9,084
韓国
6,213
7,713
4,550
2,932
9,490
30,898
4,313
1,511
1,219
446
481
7,970
897
347
106
14
56
1,420
59
58
18
135
40,423
単位:台
区 分
世界合計
1990年
11,252
1991年
15,628
1992年
17,197
1993年
9,797
1994年
15,813
(90∼94年)
69,687
1995年
10,738
1996年
7,513
1997年
17,872
1998年
8,546
1999年
8,382
(95∼99年)
53,051
2000年
22,940
2001年
11,026
2002年
18,557
2003年
14,796
2004年
19,132
(00∼04年)
86,451
2005年
9,473
2006年
13,930
2007年
16,780
(05∼07年)
40,183
90∼07年合計 249,372
中国
146
1,011
5,449
3,977
2,188
12,771
2,512
1,628
5,032
3,230
2,542
14,944
18,191
8,114
15,863
13,991
17,877
74,036
8,565
11,406
15,182
35,153
136,904
インド
15
0
0
0
73
88
50
60
60
0
0
170
0
0
0
18
30
48
148
947
116
1,211
1,517
台湾
インドネシア
866
808
1,932
1,475
2,715
1,151
878
488
365
1,837
6,756
5,759
1,157
1,741
484
461
6,217
958
2,888
526
2,881
168
13,627
3,854
1,753
393
1,353
290
1,041
154
42
102
581
0
4,770
939
116
0
127
30
529
102
772
132
25,925
10,684
タイ
マレーシア
703
180
1,056
690
434
604
305
283
234
560
2,732
2,317
25
105
174
1,508
125
2,027
120
0
712
0
1,156
3,640
0
0
20
0
58
0
79
0
175
0
332
0
55
0
186
0
31
30
272
30
4,492
5,987
西欧
587
148
294
95
239
1,363
133
89
84
115
13
434
45
12
17
0
5
79
12
1
1
14
2,258
米国
56
58
302
190
216
822
1
155
304
52
43
555
62
12
14
132
14
234
49
10
50
109
1,720
(注)1990∼91年の西欧はEECとEFTAの計。
その他
398
199
267
300
185
1,349
430
432
1,013
896
1,341
4,112
1,278
614
1,159
248
169
3,468
364
1,047
406
1,817
10,378
出所:ITMF
図表 8
世界の AJ 織機の導入推移
単位:台
区 分
世界合計
1990年
17,691
1991年
13,415
1992年
12,077
1993年
14,336
1994年
10,012
(90∼94年計) 67,531
1995年
11,327
1996年
10,511
1997年
10,987
1998年
11,302
1999年
8,503
(95∼99年計) 52,630
2000年
14,181
2001年
12,451
2002年
20,943
2003年
20,509
2004年
16,129
(00∼04年計) 84,213
2005年
18,958
2006年
22,947
2007年
24,482
(05∼07年計) 66,387
90∼07年合計 270,761
中国
464
663
2,942
5,982
2,009
12,060
3,031
1,882
1,636
768
1,197
8,514
6,309
6,405
16,052
14,228
10,012
53,006
11,917
15,369
17,946
45,232
118,812
(注)1990∼91年の西欧はEECとEFTAの計。
インド
パキスタン
411
300
115
662
690
855
268
989
192
260
1,676
3,066
549
14
472
4
395
40
409
332
169
96
1,994
486
188
667
281
723
91
852
259
1,389
1,108
927
1,927
4,558
2,447
1,588
1,983
1,753
1,812
766
6,242
4,107
11,839
12,217
日本
2,084
2,198
1,029
525
385
6,221
449
816
907
584
348
3,104
313
333
199
226
328
1,399
232
303
265
800
11,524
韓国
1,371
2,043
1,328
1,236
553
6,531
670
573
327
209
1,639
3,418
1,496
293
299
250
205
2,543
113
138
84
335
12,827
台湾
インドネシア
770
2,659
1,007
2,414
331
707
415
616
616
890
3,139
7,286
477
868
857
845
666
549
1,897
247
826
138
4,723
2,647
1,001
498
362
223
222
148
284
294
179
114
2,048
1,277
65
164
103
455
372
748
540
1,367
10,450
12,577
タイ
716
769
585
504
347
2,921
368
51
73
61
112
665
211
254
243
428
107
1,243
141
235
18
394
5,223
米国
2,087
1,402
893
1,398
1,899
7,679
1,459
1,331
2,373
2,479
1,118
8,760
476
738
157
211
99
1,681
116
30
192
338
18,458
西欧
3,426
1,035
874
549
928
6,812
1,039
1,134
975
1,681
1,251
6,080
1,611
1,634
970
698
700
5,613
380
458
595
1,433
19,938
その他
3,403
1,107
1,843
1,854
1,933
10,140
2,403
2,546
3,046
2,635
1,609
12,239
1,411
1,205
1,710
2,242
2,350
8,918
1,795
2,120
1,684
5,599
36,896
出所:ITMF
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
21
海外動向
図表 9
世界のレピア・グリッパー織機の導入推移
単位:台
区 分
世界計
中国
1990年
45,511
1,272
1991年
26,034
1,233
1992年
29,671
2,984
1993年
21,705
3,786
1994年
18,638
2,283
(90∼94年計) 141,559 11,558
1995年
23,887
4,138
1996年
23,633
6,895
1997年
24,757 10,308
1998年
16,076
3,940
1999年
15,218
5,287
(95∼99年計) 103,571 30,568
2000年
22,313 10,932
2001年
19,870
9,113
2002年
31,590 19,358
2003年
27,338 16,157
2004年
30,273 20,342
(00∼04年計) 131,384 75,902
2005年
25,045 12,151
2006年
29,756 15,377
2007年
26,951 13,108
(05∼07年計) 81,752 40,636
90∼07年合計 458,266 158,664
インド
229
225
517
642
481
2,094
741
206
274
231
172
1,624
366
380
452
617
1,008
2,823
2,276
2,732
2,066
7,074
13,605
日本
1,891
1,526
1,218
883
480
5,998
667
928
810
472
318
3,195
366
259
47
106
231
1,009
283
125
77
485
10,687
韓国
4,521
1,640
2,883
1,917
2,867
13,828
2,660
1,726
1,260
342
674
6,662
531
151
360
256
93
1,391
187
129
141
457
22,338
台湾
537
642
631
329
526
2,665
640
534
639
508
441
2,762
190
36
123
109
152
610
125
90
174
389
6,426
(注)1990年∼91年の西欧はEECとEFTAの計、
ドイツは西ドイツ、東欧はCOMECON。
(2)世界大不況の到来と今後の世界織物工業の変
化のポイント
米国
1,104
787
1,171
1,068
1,157
5,287
1,116
508
541
671
525
3,361
406
219
128
88
89
930
112
135
110
357
9,935
西 欧 (イタリア)(ドイツ)(フランス) トルコ
7,509
3,268
1,101
775
1,671
3,825
1,507
818
288
384
2,829
1,416
334
317
700
2,558
1,399
463
124
943
4,998
3,058
621
267
481
21,719 10,648
3,337
1,771
4,179
5,990
4,098
486
228
2,002
4,908
2,660
598
357
3,327
5,005
2,251
500
676
1,894
6,126
2,804
680
603
1,220
4,475
2,345
409
360
481
26,504 14,158
2,673
2,224
8,924
4,383
2,456
460
211
1,966
4,301
2,325
461
255
1,153
2,760
1,728
280
78
2,126
2,374
1,165
270
273
3,783
2,647
1,531
369
163
2,071
16,465
9,205
1,840
980 11,099
1,797
1,036
224
72
2,000
1,832
1,131
158
106
2,551
2,164
1,115
284
182
1,734
5,793
3,282
666
360
6,285
70,481 37,293
8,516
5,335 30,487
東 欧
17,150
9,700
11,353
3,698
910
42,811
1,344
489
515
510
335
3,193
289
399
292
274
344
1,598
149
300
199
648
48,250
その他
9,627
6,072
5,385
5,881
4,455
31,420
4,589
4,112
3,511
2,056
2,510
16,778
2,884
3,859
5,944
3,574
3,296
19,557
5,965
6,485
7,178
19,628
87,393
出所:ITMF
を構築し、史上最大の織物の大増産を実施した。
そのため、アセアン地域の織物工業が停滞に追い
世界繊維史をひも解くと、大不況の到来の度に
込まれ、1980 年代をリードしてきた韓台両国織物
世界繊維産業が大きな構造変化を遂げてきたこと
業界の斜陽化が表面化した。他方、インドは有杼
が知られる。例えば、合繊テキスタイルの過去 30
織機と低賃金、そして良質の綿糸の使用によって
年余りの構造変化を見ると、1974 ∼ 1975 年の第 1
中国に対抗し、主力の綿織物は着実に増産、また、
次オイルショック不況で、米国、西欧、日本の全
ポリエステルフィラメントの増設を推進して合繊
盛期に終止符が打たれ、代わって韓国、台湾が台
長繊維織物の増産も進んでいる。パキスタンはイ
頭、1980 ∼ 1982 年の第 2 次オイルショック不況で
ンドと同様に有杼織機、低賃金、良質な綿糸に
は、アセアン、インドの合繊テキスタイル工業の
よって綿織物の増産を進めているが、合繊フィラ
勃興が始まった。そして 1997 ∼ 1998 年のアジア
メントの紡糸プラントが小規模で、合繊長繊維織
金融危機不況では、中国の織物工業が人民元安を
物の生産は少ない。しかし、ここに来て、インド、
背景として、良質低廉な労働力と最新鋭の革新織
パキスタンの両国は、中国の A J 織機の大量増設に
機・染色機の大量導入によって世界最強の競争力
よって、綿織物、ポリエステル綿混織物等の短繊
22
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
今次大不況で、世界繊維産業はどう変わるか
維織物に頭打ち感が見られ、有杼織機と低賃金で
体に生産している。もし仮に中国の生産が前
中国に対抗する戦略は限界になりつつある。
年比横這いで推移するならば、他の国は 2 割
さて、毎年大増設・大増産を行ってきた中国織
の減産を余儀なくされるであろう。
物工業も、周知のごとくここ 1 ∼ 2 年、労務コス
そこで今次不況における中国の織物生産動
トの大幅アップ、人民元の高騰、公害規制のコス
向であるが、中国織物生産統計は正確性に問
ト増等によってコスト競争力にカゲリが見え始め
題があることから、中国海関統計で織物輸出
ている。また、頼みの内需も 1 人当たり織物消費
量の動向を見ると、昨年 8 月がピークで 17 億
量が日本の 6 ∼ 7 割の水準に達して充足感が高ま
7,642 万 m、9 月 17 億 335 万 m、10 月 15 億
り、今回の大不況の襲来で過剰設備が表面化し、
7,612 万 m、11 月 14 億 664 万 m と、10 月以
革新織機による中級下層ゾーン及び低級上層ゾー
降、急速に減少している。中国の織物輸出は
ンを主体とした単品量産戦略の収益悪化が顕著に
例年 8 月がピークで、10 ∼ 12 月は 8 月比 1 割
なるなど、大きな転機を迎えている。今後の中国
ほど減少するが、昨年の 11 月は 8 月比 20.8 %
織物工業の動向次第では、世界織物工業の構造変
の減少になっている。中国の織物輸出比率は
化が始まる可能性が高く、主なポイントをまとめ
約 5 割であり、国内の輸出縫製企業向け織物
ると以下の通りである。
出荷も減っていることから、中国織物業界の
(A)今年の世界全体の GDP は、IMF の調査では
減産対応は昨年末から本格化したと見られる。
ゼロ成長と予測しており、過去の大不況の経
しかし、中国の革新織機の増設は、昨年下半
験から判断すると、今年の世界繊維消費量は
期に入って大幅に減速したものの、それでも
10 ∼ 15 %のマイナスになると予想され、世
昨年の増設によって織物生産能力が約 5 %増
界経済の落ち込みが想定以上の大幅なマイナ
加しており、今後、中国政府の更なる増値税
スになると、繊維需要量が 2 割以上の減少に
の還付率の引き上げや人民元の安値誘導等の
見舞われる可能性がある。ちなみに、業界紙
輸出対策の実施が予想され、中国の輸出ドラ
によると、国際綿花諮問委員会の 08 / 09 年
イブに注意が必要である。
度の世界綿花消費量予測は 2,414 万トン(前
(C)今回の世界織物不況は、今年上半期に直下型
期比 8 %減)、09 / 10 年度は 2,378 万トンと
に落ち込み、下半期に大底段階に入ると予想
しているが、実際はもっと減少すると言われ
され、世界経済の厳しい先行き見通しから判
ている。
断して、前述のように第二次世界大戦後最悪
今年の世界の織物需要は、高級ゾーン、中
の長期底這い状態が来年上半期まで続くこと
級ゾーン、低級ゾーンのいずれのゾーンも需
が心配される。また、今次世界経済不況は、
要減少が進み、用途別でも衣料用、非衣料用
金融バブルの崩壊に端を発しており、金融機
共に需要が減少、第 1 次オイルショック不況
関の貸し渋りが厳しさを増していることから、
以来の八方塞がりの状況を示している。また、
各国織物企業にとってキャッシュフローがサ
各ゾーンにおいて、リーズナブルプライス志
バイバルのポイントになっている。したがっ
向が高まり、コスト競争力、品質力が重要な
て、債務の多い織物企業、金融機関とのパイ
ポイントになっており、今後、各ゾーンにお
プが細い織物企業にとって、景気の底這い状
ける各国間・企業間のサバイバル競争はかつ
態の長期化は経営破綻を招く要因になり、特
て経験したことのない熾烈な状況になろう。
に積極的に革新織機の投資を行っている中国
(B)前回の IT バブル崩壊・高金利不況(2001 年)
織物企業は、厳しい事態を迎えると予想され
の時は、各国の織物業界が一様に減産してい
る。他方、有杼織機中心のインド、パキスタ
る中で、中国のみが増設・増産したが、今回
ンの織物企業は、今回の大不況に対する抵抗
の不況において中国がどのような動向を示す
力が最も強いと思われる。今次不況の特徴は、
かが大きな関心になっている。すなわち、中
財務力、コスト競争力、品質力、商品開発力
国織物業界は世界織物生産量の過半を生産し、
など実力を有する織物企業と、反対に力の無
世界革新織機設置台数の 4 割強を占め、世界
い織物企業の優劣の差が受注面で大きく格差
織物マーケットで最大のボリュームゾーンで
が開き、グローバルな規模での優勝劣敗が進
ある中級下層ゾーン及び低級下層ゾーンを主
むであろう。
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
23
海外動向
(D)世界織物工業は、大不況の到来の度に大きな
織機に転換しないと収益の拡大が望めない局
構造転換を示してきている。今回の大不況を
面を迎えており、一部の主力織物工場におい
契機として、2010 年代前半の世界繊維消費増
て革新織機を導入する動きが出始めている。
加率は、2000 年代の半分に低下すると予想さ
まさにインド織物工業は、新たな発展段階に
れ、中国織物工業の 2000 年代の大増設・大増
入る前夜にある。今後、インド政府の金融面
産の戦略に終止符が打たれる可能性が高い。
の手厚い支援が行われるならば、これが呼び
ただし、綿織物分野では、64 万 8,000 台の有
水となってインド織物工業は一挙に高度成長
杼織機が設置されており、この分野での A J
段階に入る可能性が高くなっている。
織機とレピア・グリッパー織機のビルドと有
(F)日本及び西欧の織物工業は、高度技術、高感
杼織機のスクラップは継続するであろう。中
性、小ロット多品種によってアジア織物工業
国織物工業は、今後、安かろう悪かろうの織
と国際分業を図っており、世界経済及び富裕
物企業が淘汰され、収益回復のため衣料用中
層マーケットの回復待ちとなっている。ただ
級上層ゾーンへ大挙として参入し、機能分野、
し、量的にある程度まとまる衣料用ミドル高
産業資材・インテリア分野の高付加価値化戦
級ゾーン、産業資材・インテリア商品につい
略を強化するであろう。
ては、アジアのトップクラスの織物企業の技
(E)注目のインド織物工業の動向であるが、同国
術アップによって競合が強まり、縮小は避け
は永い綿業の歴史を有する世界最大の有杼織
られないであろう。2010 年代は日欧織物業界
機の保有国である。織物技術の集積が進んで
にとって、ミドル高級ゾーンの高機能・高感
おり、綿織物の有杼織機の技術力は評価が高
性の再強化と、先端技術の開発及び環境ビジ
く、中級上層ゾーンから低級下層ゾーンまで
ネスの拡大が大きなキーワードになっている。
の幅広い商品を製織している。合繊長繊維織
物分野も有杼織機による製織が大部分を占め、
現状では技術力が弱く主にサリー用の低級
向のポイントを大雑把に検討してきたが、切
ゾーンの商品を製織、中国の WJ 織機には勝
り口を変えれば色々な見方が可能であり、ま
てない構造となっている。また、インドは停
た個々の企業においては商品分野ごとのきめ
電の頻発と電圧の不安定性などインフラに問
の細かいグローバルなミクロ分析が必要であ
題があり、1 人当たり国民所得が中国の 5 分
る。今後 2 年間、過去に経験したことのない
の 2 の水準で人件費も安く、1980 年代の中国
厳しい経営を余儀なくされるが、この大不況
の状況に酷似している。中国織物工業の頭打
に萎縮することなく、今から 2010 年代前半を
ち感が出てきた今、インドが有杼織機から革
睨んだ新たな経営戦略に着手されることをお
新織機へ大転換を図るチャンスが到来してい
願いして本稿の結びとする。
ると言えよう。現在、インド織物企業も革新
24
以上、世界織物工業の構造面から今後の動
繊維トレンド 2009 年 3・4 月号
Fly UP