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学位論文本文
博士論文
水銀耐性菌の merE 遺伝子の機能解析および
水銀浄化への応用
Analysis of merE gene function from mercury resistant bacteria
and application to mercury phytoremediation
平成 25 年度
公衆衛生学教室
曽根 有香
目次
略号
要旨
1
序論
5
本論
11
第I章
Tn21 由来 MerE の機能解析
I-1. 材料および方法
11
11
I-1-① 試薬・材料および機器
11
I-1-② 培地および溶液の調製法
13
I-1-③ 大腸菌におけるプラスミド NR1 上の Tn21 にコードされる
merE 遺伝子産物の同定
15
I-1-④ merE 遺伝子の大腸菌ベクター pKF19k への組換え
16
I-1-⑤ プラスミド pE4 をもつ大腸菌における merE 遺伝子の発現
20
I-1-⑥ プラスミド pE4 をもつ大腸菌における水銀化合物耐性の評価
21
I-1-⑦ プラスミド pE4 をもつ大腸菌における水銀化合物取り込み量の
測定
21
I-1-⑧ MerE による水銀化合物取り込みに対する細胞外 pH の影響
22
I-1-⑨ MerE アミノ酸変異株の作製
23
I-1-⑩ MerE アミノ酸変異株における遺伝子の発現
25
I-1-⑪ MerE アミノ酸変異株における水銀化合物取り込み量の測定
25
I-1-⑫ merT-merP, merT-merP-merE および merP-merE 遺伝子の大腸菌
ベクター pKF19k への組換え
26
I-1-⑬ プラスミド pTP4 あるいは pTPE21 をもつ大腸菌の水銀化合物
に対する機能解析
29
I-1-⑭ プラスミド pPE62 をもつ大腸菌の水銀化合物に対する機能解析
29
I-1-⑮ 統計学的解析
30
I-2. 結果
31
I-2-① Tn21 にコードされる merE 遺伝子産物の同定
31
I-2-② MerE の水銀化合物に対する耐性および取り込み活性
31
I-2-③ MerE アミノ酸変異株における水銀化合物取り込み活性
33
I-2-④ MerE の水銀化合物取り込み活性に対する MerP の影響
I-3. 考察
第 II 章
34
37
MerE を利用したファイトレメディエーション
II-1.材料および方法
57
57
II-1-① 試薬・材料および機器
57
II-1-② 培地および溶液の調製法
58
II-1-③ 水銀トランスポーター遺伝子 merE の植物培養細胞用ベクター
への組換え
60
II-1-④ 組換えプラスミドのシロイヌナズナ培養細胞への形質転換
62
II-1-⑤ シロイヌナズナ培養細胞における MerE タンパク質の観察
63
II-1-⑥ merE のバイナリーベクター pMAT137 への組換え
63
II-1-⑦ 組換えプラスミドのアグロバクテリウムへの形質転換および
シロイヌナズナへのアグロバクテリウムの感染
65
II-1-⑧ トランスジェニック植物 の育成および選抜
66
II-1-⑨ トランスジェニック植物 (T3 世代) における merE 遺伝子の発現
68
II-1-⑩ トランスジェニック植物 (T3 世代) における MerE タンパク質
の観察
70
II-1-⑪ トランスジェニック植物 (T3 世代) における水銀化合物耐性の評価 70
II-1-⑫ トランスジェニック植物 (T3 世代) における水銀化合物蓄積性
の評価
71
II-1-⑬ 統計学的解析
71
II-2. 結果
II-2-① MerE トランスジェニック植物の作出
72
72
II-2-② MerE トランスジェニック植物の水銀化合物に対する耐性
および蓄積性
II-3. 考察
75
77
結論
92
謝辞
94
引用文献
95
略号
本文中において以下の略号を用いた。
APS
bp
C6H5Hg+
CCE
Cd2+
CH3Hg+
ammonium persulfate
base pair (s)
phenyl mercury
crude cell extract
cadmium ion
methyl mercury
DMSO
DNA
EDTA
EGTA
F.W.
GFP
Hg0
Hg2+
HgCl2
dimethyle sulfoxide
deoxyribonucleic acid
ethylenediaminetetraacetic acid
O,O’-Bis(2-aminoethyl) ethyleneglycol-N,N,N’,N’-tetraacetic acid
fresh weight
green fluorescent protein
metallic mercury
mercuric ion
mercuric chloride
kb
kDa
mer
MerA
MerB
MerC
MerD
MerE
MerP
kilobase (s) or 1000 bp
kilodalton
mercury resistant genes
mercury reductase enzyme
organomercurial lyase enzyme
mercury transport protein
promoter-distal end of the operon protein
new protein for mercury transport
periplasmic mercury-binding protein
MerR
MerT
MES
MF
MS
o/p
OD
PCR
RNA
mercury responsive transcriptional regulator protein
mercury transport protein
2-morpholinoethanesulfonic acid, monohydrate
membrane fraction
Murashige and Skoog
operator / promoter
optical density
polymerase chain reaction
ribonucleic acid
RT-PCR reverse transcriptase polymerase chain reaction
SDS
sodium dodecylsulfate
SD 配列
SF
TEMED
TMD
Tris
Shine-Dalgarno 配列
soluble fraction
N, N, N’, N’ –tetramethylethylenediamine
Trans membrane domain
tris (hydroxymethyl) aminoethane
タンパク質を構成する 20 種類のアミノ酸の表記は、以下のように 1 文字または
3 文字で記した。
Alanine
Arginine
Asparagine
Aspartic acid
Cystein
Glutamine
Ala,
Arg,
Asn,
Asp,
Cys,
Gln,
A
R
N
D
C
Q
Glutamic acid
Glycine
Histidine
Isoleucine
Leucine
Lysine
Methionine
Phenylalanine
Proline
Glu,
Gly,
His,
Ile,
Leu,
Lys,
Met,
Phe,
Pro,
E
G
H
I
L
K
M
F
P
Serine
Threonine
Tryptophan
Tyrosine
Valine
Ser,
Thr,
Trp,
Tyr,
Val,
S
T
W
Y
V
要旨
水銀化合物は有用な化学的・物理学的性質を有するため、工業産物や医薬品、農
薬などに利用されてきた。一方で、日本においては工場排水中のメチル水銀
(CH3Hg+) による水俣湾の汚染が起こり、周辺住民に水俣病が発病するなど社会問
題となった。世界ではブラジル、ロシア、中国など 27 カ国以上で水銀による環境
汚染が確認されており、ヒトへの健康被害が懸念される。このような背景から近年、
重金属による低濃度・広範囲の土壌汚染に適した浄化法の一つとして、植物の生理
機能を利用した浄化技術であるファイトレメディエーションが注目されている。
一方、自然界には種々の生物にとって強い毒性を示す水銀化合物に対して耐性を
示す細菌が存在する。その細菌が示す水銀耐性は、plasmid あるいは transposon 上
に存在する機能の異なる複数の水銀耐性遺伝子により構成される水銀耐性オペロ
ン (mer operon) により支配される。Shigella flexneri 由来の NR1 (R100)の transposon
Tn21 上に存在する mer operon は、merR-o/p-merT-merP-merC-merA-merD-merE から
構成される。merR 遺伝子産物の MerR は転写因子であり、通常、 operator/promoter
(o/p) と結合して下流の構造遺伝子の転写を抑制する。無機水銀 (Hg2+) が MerR
と結合すると下流の構造遺伝子の転写が開始される。一方 MerD は上流の構造遺伝
子の転写を終了させる調節因子である。菌体外の Hg2+ は、細胞間隙に存在する水
銀結合因子である MerP に結合した後、水銀トランスポーターである MerT や
MerC に受け渡され、菌体内に取り込まれる。菌体内に取り込まれた Hg2+ はレダ
クターゼである MerA により還元され、金属水銀 (Hg0) となり菌体外に放出され
る。しかしながら、merD の下流に位置する merE 遺伝子の菌体内における発現や
機能については未解明のまま残されていた。
本研究では、MerE の水銀に対する機能解析を行うと共に、ファイトレメディエ
ーションへの応用を試みた。
第一章では merE 遺伝子産物の同定、MerE の菌体内における局在および水銀化
合物に対する機能解析を目的とした。
Tn21 を持つ大腸菌における merC および merE 遺伝子の産物を同定するため、
Hg2+ による発現誘導条件下で大腸菌を培養した。菌体を破砕し遠心分離後、得られ
た粗抽出画分を可溶性画分と膜画分に分画した。抗 MerC あるいは抗 MerE ポリ
クローナル抗体を用いて Western blotting を行なった結果、Hg2+ 存在下、merC お
よび merE 遺伝子産物はそれぞれ粗抽出画分および膜画分において検出された。以
1
上の結果から、Tn21 上の merE は Hg2+ により発現誘導され、菌体内の膜画分に
局在することを初めて明らかにした。
次に、MerE の機能を検討するために水銀応答調節遺伝子 (merR-o/p) の下流に
merE を組換えたプラスミド pE4 を構築し、大腸菌に形質転換した。pE4 を持つ大
腸菌における、merE 遺伝子産物の菌体内における局在について検討した結果、merE
遺伝子産物は粗抽出画分および膜画分において検出された。また、非還元条件下で
MerE は 1 量体あるいは 2 量体として存在した。次に、pKF19k ベクターを形質
転換した大腸菌をコントロールとし、pE4 を持つ大腸菌の CH3Hg+ および Hg2+ に
対する耐性および蓄積性を検討した。その結果、pE4 を持つ大腸菌はコントロール
に比べ、CH3Hg+ および Hg2+ に対する耐性がそれぞれ有意に低下した。pE4 を持
つ大腸菌による CH3Hg+ および Hg2+ の取り込みはコントロールに比べそれぞれ
有意に増加した。以上の結果から、MerE は CH3Hg+ および Hg2+ を取り込む機能
を有し、細胞膜に局在するトランスポーターであることを初めて明らかにした。さ
らに、MerE による CH3Hg+ および Hg2+ 輸送の駆動力を明らかにするため、pH
依存的な細胞内への取り込みについて検討した。その結果、MerE の CH3Hg+ 取り
込みにはプロトン濃度勾配が関与せず、Hg2+ 取り込みに対してはプロトンの対向
輸送であることが示唆された。
次に、MerE の水銀化合物の認識部位を明らかにするため、Hg2+ の結合に関与す
る と さ れ る Cysteine (Cys) お よ び Cd2+ や Ni2+ の 結 合 に 関 与 す る と さ れ る
Histidine (His) に着目した。MerE アミノ酸配列の 28, 30 番目の Cys をそれぞれ
Serine に変異した pEC28S, pEC30S あるいは pEC28:30S、31 番目あるいは 51 番
目 の His を Leucine に 変 異 し た pEH31L, pEH51L あ る い は pEH31:51L を
Site-directed Mutagenesis 法によりそれぞれ作製した。各アミノ酸変異株の遺伝子産
物は膜画分において発現しており MerE 産物と同様の大きさあった。pE4 を持つ大
腸菌(野生株)および各 MerE アミノ酸変異株における CH3Hg+ および Hg2+ 取
り込み量を測定した。pEC28S および pEH31L を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み
量は野生株 とほぼ同 等であった 。一方、 pEC30S, pEC28:30S および pEH51L,
pEH31:51L を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量はそれぞれ野生株に比べ有意に減
少し、コントロールとほぼ同等であった。また、pEH51L を持つ大腸菌の Hg2+ 取
り込み量は野生株とほぼ同等であった。一方、pEC28S, pEC30S, pEC28:30S, pEH31L
および pEH31:51L を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量はそれぞれ野生株に比べ有意
に減少し、コントロールとほぼ同等であった。以上の結果から、CH3Hg+ 輸送には
2
MerE アミノ酸配列上の 30 番目の Cys および 51 番目の His が関与し、Hg2+ 輸
送には 28, 30 番目の Cys および 31 番目の His が関与することが示唆された。
Tn21 の様に mer operon は merE 遺伝子および merT-merP 遺伝子を併せ持つこ
とが多い。MerE は CH3Hg+ および Hg2+ を輸送することが本研究で明らかになり、
MerT-MerP は Hg2+ を輸送し、CH3Hg+ の輸送はしないことが知られている。また、
MerP は細胞間隙に存在する Hg2+ を MerT に受け渡すとされている。しかし、こ
れら MerE、MerT および MerP の大腸菌内における相互作用については不明であ
ったため、MerE の水銀化合物取り込み活性に対する MerT および MerP の影響に
ついて検討した。まず、プラスミド pTP4 (merR-o/p-merT-merP) および pTPE21
(merR-o/p-merT-merP-merE) を作製し、水銀化合物取り込み活性を比較した。pTP4
を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量はコントロールとほぼ同等であったのに対し、
pTPE21 を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量は pTP4 を持つ大腸菌に比べ増加した。
また、pTP4 を持つ大腸菌は共にコントロールに比べ Hg2+ 取り込み量が増加し、
pTPE21 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量は pTP4 を持つ大腸菌に比べさらに増加
した。これらのことから、MerE は主に CH3Hg+ 取り込みを、MerT-MerP は主に
Hg2+ 取り込みを担うと示唆された。次に、merR-o/p と merE の間に merP を挿入
したプラスミド pPE62 (merR-o/p-merP-merE) を構築し、大腸菌に形質転換した。
pE4 を持つ大腸菌および pPE62 を持つ大腸菌における水銀化合物取り込み量を測
定した結果、pE4 を持つ大腸菌と pPE62 を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量に差
異は認められなかった。一方、pPE62 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量は pE4 を
持つ大腸菌に比べ増加した。以上の結果から、MerE による CH3Hg+ 取り込みに
MerP は関与しないが、 Hg2+ 取り込みに MerP が関与することを明らかにした。
第二章では、CH3Hg+ および Hg2+ の浄化の為に MerE トランスジェニック植物
を作出し、ファイトレメディエーションへの応用を試みた。
merE 遺 伝 子 を 植 物 ベ ク タ ー pMAT137 に 組 換 え 、 常 法 に 従 い Arabidopsis
thaliana (シロイヌナズナ)に形質転換し、T1 種子を収穫した。T1 種子をカナマ
イシン培地で選抜したところ、11 株の形質転換体を獲得した。その後、T2 および T3
世代の種子を収穫するとともに、各段階の植物体を用いて、merE 遺伝子のゲノム
への組換えおよび mRNA の発現を調べた。その結果、merE 遺伝子を植物ゲノム
に保持し、mRNA の発現が確認され、野生株と同様の発生・分化・生育を示した
系統を 6 株 (E2, E3, E4, E5, E6, E7) 獲得した。これら 6 株の表現型および mRNA
3
の発現は同等であり、水銀化合物でスクリーニングしたところ E2 株の水銀化合物
取り込み量が最も多くなったことから、以降の検討には E2 株を用いることにした。
E2 株における MerE の局在を確認するため、抗 MerE 抗体を用いて Western
blotting を行なった結果、MerE は膜画分において検出された。また、merE と gfp
を植物培養細胞用ベクターに組換え、シロイヌナズナ培養細胞に形質転換し、MerE
の細胞内局在について検討した結果、シロイヌナズナ培養細胞内において
GFP-MerE は細胞膜および一部細胞質に発現していることを明らかにした。
次に、E2 株の CH3Hg+ および Hg2+ に対する耐性および蓄積性について検討し
た。根の長さと生重量を指標とした耐性評価から、E2 株は野生株に比べ、CH3Hg+
および Hg2+ に対し耐性を示した。また、E2 株は野生株に比べて有意に高い
CH3Hg+ 蓄積量および Hg2+ 蓄積量を示した。以上の結果より、MerE を植物に発
現させることにより、CH3Hg+ および Hg2+ に対する耐性が向上し総水銀蓄積量が
増加したと考えられた。
Tn21 由来の MerE は大腸菌の細胞膜に局在する新規の CH3Hg+ および Hg2+
トランスポーターであることを明らかにした。細菌が有するトランスポーターの中
で MerE が CH3Hg+ 輸送活性を持つ初めての報告である。また、MerE の水銀化合
物輸送活性は 2 量体で行われていると推察された。MerE を介した CH3Hg+ 取り
込みはプロトン濃度勾配が関与せず、Hg2+ 取り込みはプロトンとの対向輸送であ
ることが示唆された。さらに、MerE の水銀化合物認識部位について検討したとこ
ろ、 30 番目の Cys および 51 番目の His は CH3Hg+ の取り込みに、28 および
30 番目の Cys ペアおよび 31 番目の His は Hg2+ の取り込みにそれぞれ関与す
ることが示唆された。MerE の水銀化合物取り込みに対する MerT-MerP の影響に
ついて検討したところ、MerE は主に CH3Hg+ 取り込みを、MerT-MerP は主に Hg2+
取り込みを担うと示唆された。さらに、MerE の水銀化合物取り込みに対する MerP
の影響を検討したところ、CH3Hg+ の取り込みに関与せず、Hg2+ の取り込みに関与
することを初めて明らかにした。MerE トランスジェニック植物において、CH3Hg+
および Hg2+ に対する耐性が上昇し総水銀蓄積量が増加したことから、MerE を利
用したファイトレメディエーションは、CH3Hg+ および Hg2+ の浄化に効果的であ
る可能性が示唆された。本研究により得られた知見が、より効率的な水銀化合物浄
化のためのファイトレメディエーションの開発に繋がると期待される。
4
序論
水銀化合物は有用な化学的・物理学的性質を有するため、工業産物や医薬品、農
薬などに利用されてきた。一方で、日本においては工場排水中のメチル水銀
(CH3Hg+) による水俣湾の汚染が起こり、周辺住民に水俣病が発病するなど社会問
題となった [1-4]。現在でも、水銀化合物による環境汚染は、中国、ブラジル、ロ
シア、タンザニア、東南アジア地域などの世界各地でも金の採掘や工場排水などに
より進行している [5-8]。また、IT 産業の発展、石油・石炭をはじめとする化石燃
料の消費などの社会活動により、微量ながらも持続的に水銀化合物が環境中に排出
され続けている [9, 10]。すなわち、現在我が国や先進国における水銀による汚染問
題は高濃度で局所的な汚染段階から、微量ではあるが長期間にわたる持続的でかつ
広範囲な汚染段階へと移行してきている。その結果、有害な水銀化合物の汚染によ
るヒトへの健康影響が懸念されている (Fig. 1)。この様な背景から、2013 年には「水
銀に関する水俣条約」が採択され、水俣病を経験した日本は水銀汚染を防止する上
で世界を牽引する立場にある。
環境中に排出された水銀化合物は、微量であっても早急に浄化しなければならな
い。汚染土壌からの浄化法として現在よく用いられているのは、汚染土壌を掘削し、
新しく客土をする物理化学的手法である。この方法は短期間に除染できる長所を持
つ反面、多大な費用やエネルギーを要することや運び出した汚染土壌の廃棄処理の
問題などの短所がある [11]。このような状況下、環境中に排出された水銀化合物の
安全かつ有効な浄化方法の早急な開発が待ち望まれている。近年、この物理化学的
手法の欠点を補う技術として、バイオレメディエーションとよばれる生物学的手法
が注目されている [12, 13]。バイオレメディエーションとは、一般に生物の生理機
能を利用して汚染環境を修復する技術である。その中でも、特に植物の生理機能を
用いたファイトレメディエーション技術が注目を集めている [14-17]。この方法は、
比較的低コストで、物理化学的処理では対応が困難な低濃度で広範囲な汚染に対し
て有効であると考えられている。しかしながら、浄化に要する期間が長いという欠
点を持つ。この欠点を克服し、生物機能を利用した水銀浄化技術をより確実なもの
にするためにいくつか工夫を施す必要がある。その工夫点としては、植物の生育が
良く、バイオマスが大きいこと、植物体が十分な水銀耐性を持ち、植物の地上部に
水銀を蓄積・封入できることなどが挙げられる。
5
自然界には種々の生物にとって強い毒性を示す水銀化合物に対して耐性を示す
細 菌 が 存 在 し て い る [18] 。 そ の 細 菌 が 示 す 水 銀 耐 性 は 、 plasmid あ る い は
Transposon 上に存在する機能の異なる複数の水銀耐性遺伝子により構成された、水
銀耐性オペロン (mer operon) により支配されている (Fig. 2) [19-33]。Shigella
flexneri 由来の Tn21 は、薬剤耐性 plasmid として知られる R100 (NR1) 上に存在
する
19.7 kb の
Transposon の 一 種 で あ る 。 Tn21 の mer operon は
merR-o/p-merT-merP-merC-merA-merD-merE から構成されており、Tn21 にコードさ
れた水銀耐性遺伝子の配列および水銀耐性機構の一部は既に報告されている
[34-42]。merR 遺伝子産物の MerR は転写因子であり、通常 operator/promoter (o/p)
と結合して下流の構造遺伝子の転写を抑制する。無機水銀イオン (Hg2+) 存在下に
おいて Hg2+ が MerR の Cys ペアーに結合することにより MerR の立体構造が変
化し、 RNA polymerase が o/p 領域に結合できるようになり、下流の構造遺伝子の
転写が促進される [43-51]。一方 MerD は上流の構造遺伝子の転写を終了させる調
節因子である。 [38, 39, 52, 53]。Tn21 に支配された水銀耐性は次の機序により獲得
されていると考えられている。菌体外の Hg2+ は、細胞間隙に存在する Hg2+ 結合
因子である MerP に結合した後、水銀トランスポーターである MerT や MerC に
受け渡され、菌体内に取り込まれる。菌体内に取り込まれた Hg2+ はレダクターゼ
である MerA により還元され、金属水銀 (Hg0) となり菌体外に放出される (Fig. 3)
[33, 35, 40, 41, 50, 51, 54-71]。一方、Tn21 上の merE 遺伝子は merD 遺伝子の下流
に位置しており、生化学的な機能については未解明であった [42, 72]。この merE 遺
伝子の菌体内における発現、あるいは MerE の水銀耐性への関与は未だ示されてい
ない [51]。そこで著者は、Tn21 における merE 遺伝子産物の同定、MerE 産物の
菌体内における局在および水銀化合物に対する機能解析、さらに MerE をファイト
レメディエーションへ応用することを本研究の目的とした。
なお、本学位申請に用いた論文は以下の通りである。
(1) The MerE protein encoded by transposon Tn21 is a novel, broad mercury transporter in
Escherichia coli.
Kiyono M,Sone Y,Nakamura R,Pan-Hou H,Sakabe K
FEBS lett
583:1127-1131
2009
6
(2) Roles played by MerE and MerT in the transport of inorganic and organic mercury
compounds in gram-negative bacteria.
Sone Y,Pan-Hou H,Nakamura R,Sakabe K,Kiyono M
J Health Sci
56:123-127
2010
(3) Increase methylmercury accumulation in Arabidopsis thaliana expressing bacterial
broad-spectrum mercury transporter MerE.
Sone Y,Nakamura R,Pan-Hou H,Sato MH,Itoh T,Kiyono M
AMB express
3:52
2013
(4) Role of MerC, MerE, MerF, MerT, and/or MerP in resistance to mercurials and the
transport of mercurials in Escherichia coli.
Sone Y,Nakamura R,Pan-Hou H,Itoh T,Kiyono M
Biol Pharm Bull
36:1835-1841 2013
(5) Mercurial-resistance determinants in Pseudomonas strain K-62 plasmid pMR68.
Sone Y,Mochizuki Y,Koizawa K,Nakamura R,Pan-Hou H,Itoh T,Kiyono M
AMB express
3:41
2013
7
Fig. 1 Population at risk from mercury contamination.
(UNEP Global Mercury Assessment 2013
“Mercury: Time to act” http://www.unep.org/)
8
merG
merB1
merR
merB2
pMR26
merR
merT merP
merA
merD
Tn21
merR
merT merP
merA
merD merE
merA
merD merE
merC
pCT14
merR
merT merP
merF
Tn501
merR
merT merP
merA
merD merE
pDU1358
merR
merT merP
merA
merD merE
merB
merR,
merD:
水銀応答調節遺伝子
レダクターゼ遺伝子
merR,
merD:
mercury-responsive merA:
regulatory
gene
merT,
merC,
merF:
水銀輸送遺伝子
merB:protein
リアーゼ遺伝子
merT,
merC,
merF:
mercury transport
gene
merP:
水銀結合遺伝子
merP:
mercuric ion-binding proteinmerG:
gene 酢酸フェニル水銀耐性遺伝子
merA: mercury reductase gene
merB: organomercurial lyase gene
merG: phenylmercury resistant gene
Fig. 2 Diversity of mer operons. Sequenced mer operons from
Gram-negative bacteria.
9
Tn21
Tn21
merR
merR
MerP
2+
Hg
Hg2+
MerA
Cytoplasm
merD
merD
merE
Hg2+
MerT
MerC
MerT
Hg2+
merA
merC
merA
Hg2+ Hg2+
Hg2+
MerP
merT merP
merT merPo/p merC
o/p
MerC
Hg2+
0
HgMerA
Cytoplasm
Hg0
Hg0
Periplasm
Periplasm
Hg0
merR, merD: mercury-responsive regulatory gene
merT, merC: mercury transport protein gene
merP: mercuric ion-binding protein gene
merA: mercury reductase gene
Fig. 3 Model of a typical Gram-negative mercury resistance
(mer) operon.
10
m
本論
I Tn21 由来 MerE の機能解析
I-1 材料および方法
I-1-①
試薬・材料および機器
各種制限酵素は New England Biolabs, TaKaRa, および Roche より購入した。Quick
Ligation Kit は New England Biolabs より購入した。TaKaRa Ex TaqTM と PyrobestTM
DNA Polymerase は TaKaRa より購入した。GoTaq® Master Mix は PROMEGA より
購入した。QIAquick® PCR Purification Kit と QIAprep® Spin Miniprep Kit は QIAGEN
(Tokyo, JAPAN)より購入した。Big Dye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit 及び
Hi-DiTM -Formamide 緩衝液は、Applied Biosystems より購入した。Western blotting 用
分子量マーカーは、BIO-RAD より購入した。Western Blotting におけるブロッキン
グには nacalai tesque より購入した Bloking One を用いた。ECL 検出試薬としては、
GE healthcare より購入した Western blotting detection reagents 1, 2 を用いた。Protease
Inhibitor Cocktail Set IV は、Merck Calbiochem より購入した。現像試薬 (GBX) は、
Kodak より購入した。その他実験に用いた試薬類は、和光純薬工業および nacalai
tesque より購入した。液体シンチレーションカウンター用カクテルには桑和貿易株
式会社より購入したエコシンチ-H を用いた。放射性塩化メチル水銀 (14CH3HgCl 2
mL; 比活性 2.11 GBq/mmol) は、GE healthcare (Amersham) に委託合成した。Point
mutation 操作には、Mutan® Super Express Km (TaKaRa) を用いた。
大腸菌 R100-1+/JE5525 株は福井大学医学部 犬塚學シニアフェローより御恵贈戴
いた。大腸菌 ECOS Competent E.coli XL-1 Blue は、ニッポンジーンより購入した。
各種プライマーの合成は OPERON に委託した。his6 tag 付き merE 遺伝子をカイコ
に形質転換し、タンパク質を大量発現させ (片倉工業に委託)、得られた His6 Tag 付
き MerE タンパク質を精製した [93]。anti MerE antibody の作製は OPERON に委託
した。anti MerC antibody および anti MerP antibody は、過去に当研究室の清野らに
より作製したものを使用した [93, 94]。二次抗体 (anti rabbit IgG, HRP linked
antibody) は Sigma Aldrich より購入した。発現ベクター pKF19k は TaKaRa より
11
購 入 し た 。 Pseudomonas K-62 由 来 の プ ラ ス ミ ド pMR26 は 、 mer operon
(merR-o/p-merT-merp-merA-merG-merB1) を持つプラスミドである。大腸菌 MV1184
コンピタントセルは、TaKaRa より購入した。
PCR Thermal cycler は i Cycler (BIO-RAD) および RoboCycler GRADIENT 96
(STRATAGENE) を用いた。遺伝子撮影装置は GelDoc-ItTM Imaging System (UVP) を
用 い た 。 遺 伝 子 配 列 の 解 析 に は ABI PRISM 310 Genetic Analyzer (Applied
Biosystems) を用いた。吸光度測定には、V-530 UV/VIS Spectrophotometer (JASCO) を
用いた。試薬の計量には PB3002-S Delta Range® (METTLER TOLEDO)を用いた。集
菌 操 作 で の 遠 心 に は AvantiTM 30 Centrifuge (BECKMAN), HIGH SPEED
REFRIGERATED MICRO CENTRIFUGE MX-200 (TOMY) および小型微量遠心機
HF-120 (TOMY) を用いた。サンプルの加温には DOUBLE ALUMI BATH ALB-301
(IWAKI) を用いた。懸濁には Micro Mixer E-36 (TAITEC) および VORTEX-GENIE 2
(Scientific Industries) を用いた。大腸菌の培養には Incubator IC-402 (Yamato), Bio
Shaker BR-23UM, BR-40LF (TAITEC) および UNI THERMO SHAKER NTS-1300
(EYELA)を用いた。大腸菌の培地プレートへの塗布には、Bac’n Roll Beads (ニッポ
ンジーン) を用いた。細胞の超音波粉砕には、SONIFIER 250 (BRANSON) を用いた。
超遠心用チューブは 3 PC チューブ (日立工機株式会社) を、超遠心機は CS100GX
(日立工機株式会社)を、ロータは S100AT4 アングルロータ (日立工機株式会社) を
使用した。ポリアクリルアミドゲル電気泳動槽には AE-6530 (ATTO) を、泳動装置
は Power PacTM HC (BIO-RAD) を、転写装置は PowerStation 1000XP AE-8750
(ATTO) および Trans-Blot transfer cell (BIO-RAD)を用いた。PVDF 膜 (Hybond-P)
は 、 Amersham Biosciences よ り 購 入 し た 。 X 線 フ ィ ル ム は
Lumi-Film
Chemiluminescent Detection Film (Roche) を用いた。現像試薬は GBX (Kodak) を用
いた。耐性評価における金属溶液添加用ろ紙は、直径 16 mm の AA Discs (Whatman)
を用いた。阻止円の直径の計測にはノギス DIGIPA PRO SC-15S (Mitutoyo) を用い
た。pH メーターは、pH METER D-51 (HORIBA) を用いた。サンプルの灰化には
DOUBLE ALUMI BATH ALB-301 (IWAKI) お よ び
MICRO COMPUTER
CONTROLLER (ISUZU) を用いた。0.45 µm ガラスフィルターは、GF/B glass
microfiber filter (Whatman) を用いた。液体シンチレーションカウンターは、Perkin
Elmer 社の A310001 型を用いた。無機水銀測定器は、平沼産業株式会社の HG-310 形
水銀測定装置を用いた。
12
I-1-②
1.
培地および溶液の調整法
agarose 電 気 泳 動 用 緩 衝 液
(pH 8.0) は CH3COOH 1.14 mL 、
Tris(hydroxymethyl)aminomethane 4.84 g および EDTA‧2Na 0.372 g を精製水に溶
解させ、全量を 1 L とした。
2. 0.8% agarose gel は UltraPure TM Agarose (Invitrogen) 1.04 g を agarose 電気泳動
用緩衝液 (pH 8.0) 130 mL に加えて加熱して溶解し、固化させた。
3.
LB 培地は LB BROTH Base (Invitrogen) 20 g を精製水に溶解し、1 L とした後、
この溶液をオートクレーブで滅菌した。
4.
kanamycin 含 有 LB 寒 天 培 地 は 、 LB 培 地 1 L に BactoTM Agar (Becton
Dickinson and company) 15 g を加えてオートクレーブで滅菌した後、kanamycin
の終濃度が 25 µg/mL になるように加えて固化させた。
5. kanamycin 含有 LB 培地は、LB 培地 1 L をオートクレーブで滅菌した後、終
濃度が 25 µg/mL になるよう kanamycin を加えて調整した。
6. 80% glycerol 溶液は、glycerol 80 mL に精製水を加えて全量 100 mL とした後、
オートクレーブで滅菌して用いた。
7. SOB 培地は、LB BROTH BASE (Invitrogen) 20 g、2 M KCl 1.25 mL を精製水に
溶解し、990 mL とした後、オートクレーブ滅菌した。この溶液にあらかじめ
濾過滅菌した 1 M MgSO4 10 mL を添加した。
8. SOC 培地は、SOB 培地 1 L に濾過滅菌した 2 M glucose 10 mL を加えて調製
した。
9. EDTA 溶液は EDTA・2Na 18.6 g を精製水に溶解し、pH 7.5 となるように調製
した後、精製水を加え全量 1 L とした。
10. 誘導用無機水銀溶液は、HgCl2 (MW=271) 2.71 mg を精製水 10 mL に溶解し、1
mM HgCl2 を調製した。
11. 4×サンプル緩衝液は 1 M Tris-HCl (pH 6.8) 12.5 mL、SDS 4 g、sucrose 10 g、
bromophenol blue 4 mg および β-メルカプトエタノール 10 mL に精製水を加え
て全量を 50 mL とした。
12. 2×サンプル緩衝液は 1 M Tris-HCl (pH 6.8) 6.25 mL、SDS 2 g、sucrose 5 g、
bromophenol blue 2 mg および β-メルカプトエタノール 5 mL に精製水を加え
て全量を 50 mL とした。
13
13. SDS ポリアクリルアミドゲル (14%) の調整は以下の操作により行った。分離
用ゲル溶液は精製水 0.15 mL、30% ポリアクリルアミド 3.5 mL、0.75 M
Tris-HCl (pH 8.8) 3.75 mL、10% SDS 150 µL を混和した後、15 分間脱気した。
これに APS を加え、TEMED 5 µL を添加し、ガラスプレートの約 7 分目まで
流し込み、精製水を重層し、ゲルを固化させた。次に、濃縮用ゲルは精製水 1.5
mL、30% ポリアクリルアミド 0.38 mL、0.25 M Tris-HCl (pH 6.8) 1.87 mL、10%
SDS 37 µL を混和した後、 APS を加え、TEMED 3 µL を添加し、これを固化
した分離用ゲルの上に重層し、コームを差し込み、固化させた。
14. 10 × Running Buffer は、Tris(hydroxymethyl)aminomethane 30.3 g、Glycine 144 g、
SDS 10 g に精製水を加えて 1 L とした。これを用時精製水で 10 倍希釈して 1
× Running Buffer として使用した。
15. 10 × 転写 Buffer は、Tris(hydroxymethyl)aminomethane 30 g、glycine 144 g を精製
水に溶解し、精製水を加えて 1 L とした。これを用時精製水および methanol で
10 倍希釈して 1 × 転写 Buffer として使用した。
16. 10 × Tween-PBS は、NaCl 80 g、KCl 2 g、NaHPO4・12H2O 29 g、KH2PO4 2 g 及び
Tween-20 10 g に精製水を加えて 1 L とした。これを用時精製水で 10 倍希釈
して 1 × Tween-PBS として使用した。
17. クロラムフェニコール溶液は、chloramphenicol 1 g を 70% ethanol に溶解し、全
量 40 mL とした。
18. 耐性評価用のメチル水銀溶液は、CH3HgCl (MW=251.08) 30.12 mg を dimethyl
sulfoxide (DMSO) 10 mL に溶解し、120 nmol/10 µL の溶液を作製し、これを希
釈して、10, 15, 20, 25, 30 nmol/10 µL の各濃度を調製した。同様に無機水銀溶液
も、HgCl2 (MW=271) 162.9 mg を精製水 10 mL に溶解し、600 nmol/10 µL の溶
液を作製し、これを希釈し各濃度を調製した。
19. 取り込み評価用のメチル水銀溶液は、放射性の 5 mM 14CH3HgCl (比活性:2.11
GBq/mmol) 8.3 µL と非放射性の 2.5 mM CH3HgCl 991.7 µL を混合し、2.5 mM
放射性塩化メチル水銀溶液を調製した。さらにこれを精製水で 10 倍に希釈し、
250 µM 放射性塩化メチル水銀溶液を作製した。
20. 取り込み評価用の無機水銀溶液は、5 mM HgCl2 1 mL を精製水 9 mL に溶解し、
500 µM の溶液を調製した。
14
I-1-③
大腸菌におけるプラスミド R100 上の Tn21 にコードされる
merE 遺伝子産物の同定
I-1-③-1
大腸菌における MerE タンパク質の発現と抽出分離
R100-1+ をもつ大腸菌 JE5525 株を LB 培地で対数増殖後期まで 37 ℃で一晩
振盪培養した。この培養液 6 mL を新しい LB 培地 100 mL (-) および 5 µM HgCl2
を添加した LB 培地 100 mL (+) に植菌し、37 ℃で振盪培養した。吸光度が
OD600=0.8~1.2 になるまで培養し、4 ℃で 5,600 rpm、15 分間遠心分離して集菌し
た。上清を除去した後、菌体を 50 mM Tris-HCl (pH 8.0)、0.15 M NaCl、1 mM EDTA、
10% glycerol の緩衝液で洗浄し、遠心集菌した菌体を同緩衝液 1.2 mL で再懸濁し
た。回収された菌体は、2 mM benzamidine、80 µM phenylmethyldulfonylfluoride、0.25
µg/mL leupeptin 存在条件下で超音波処理によって細胞を粉砕し、ホモジネート溶液
とした。ホモジネート溶液中の未粉砕細胞を低速遠心で除去した上清 (粗抽出画分)
を 104,000×g、30 分間超遠心分離し、上清 (可溶性画分) と沈殿物 (膜画分) に分
離した。沈殿物を 1% triton X-100 が添加された前述緩衝液 1.2 mL で懸濁し、膜
画分を可溶化した。粗抽出画分、可溶性画分および膜画分は各々 (-) と (+) の両
サンプルを調製した。
I-1-③-2
Western blotting による MerE タンパク質の検出
I-1-③-1 で得られた総抽出画分、可溶性画分、膜画分それぞれに 2×サンプル
緩衝液を等量加え、95 ℃で 5 分間加熱した。ポジティブコントロールは、カイコ
にて大量発現させ、精製した His6 Tag 付き MerE タンパク質を用いた [93]。各サ
ンプル溶液 5 µL を 14% SDS ポリアクリルアミドゲルで分離後、ゲル上のタンパ
ク質を 1×転写緩衝液存在下で、PVDF 膜に転写した。転写後の膜を T-PBS 溶液で
5 分間、3 回洗浄した後、Blocking One で 1 時間ブロッキングした。反応後、ブ
ロッキングした膜を T-PBS 溶液で 5 分間、3 回洗浄し、一次抗体として 3000 倍
希釈した anti MerE antibody を用いて、膜と 1 時間反応させた。反応後、一次抗体
を回収し、T-PBS 溶液で 5 分間、3 回洗浄した。次に、二次抗体として anti rabbit
IgG, HRP linked antibody を用いて膜と 1 時間反応させた。反応後、二次抗体を回収
し、T-PBS 溶液で 5 分間、3 回洗浄した。得られた膜に、Western blotting detection
15
reagents 1, 2 を加え、ECL 検出機で検出した。また、merE 遺伝子と同様に Tn21
上の水銀耐性遺伝子の一種である merC 遺伝子の産物同定も同時に行った。抗体と
して anti MerC antibody を用い、ポジティブコントロールとして His6 tag 付き精製
MerC タンパク質を用いた。
I-1-④
merE 遺伝子の大腸菌ベクター pKF19k への組換え
Fig. I-2 に示すように、プラスミド pMR26 上の水銀調節遺伝子 (merR-o/p) を組
換えたプラスミド pR2 を作製し、プラスミド R100 (NR1) 由来の merE 遺伝子を
組換えたプラスミド pE4 を構築した。その後、大腸菌 XL1-Blue に形質転換した。
I-1-④-1 大腸菌 XL1-Blue Competent Cells の作製
LB 寒天培地に大腸菌 XL1-Blue を 37 ℃で一晩画線培養した。SOB 培地 100
mL に得られたシングルコロニーを 6 個植菌し、吸光度が 0.4 ~ 0.8 OD600 にな
るまで 18 ℃で 40 ~ 50 時間振盪培養した。この培養瓶を 10 分間氷冷した後、
4 ℃で 5,600 rpm、15 分間遠心分離し、上清を除去した。菌体に予冷した 1/3 容
量の Transformation Buffer を加え懸濁した後、10 分間氷冷した。次に 4 ℃で 5,600
rpm、15 分間遠心分離し、上清を除去した。菌体に 1/12.5 容量の Transformation
Buffer を加え懸濁した後、Dimethyl sulfoxide (DMSO) を終濃度が 7%になるように
添加し、10 分間氷冷した。この菌懸濁液をエッペンドルフチューブに 0.5 ~ 1 mL
ずつ分注し、液体窒素で凍らせた後、-80 ℃で凍結保存した。
I-1-④-2
PCR 法による merR-o/p 遺伝子および merE 遺伝子の増幅
merR-o/p はプラスミド pMR26 を鋳型に、以下に記載したプライマーの内、
U-Pst-merR と L-Kpn-promoter、merE はプラスミド R100 を鋳型に U-Kpn-merE
と L-Eco-merE の組み合わせで PCR を行いそれぞれの遺伝子を増幅させた。鋳型
DNA 1 µL、PCR reaction buffer 5 µL、2.5 mM dNTP 混合液 4 µL、100 µM upper
primer および lower primer 各 1 µL、Ex TaqTM 1 µL、PyrobestTM DNA Polymerase 0.1
µL に精製水 37 µL を加え、全量を 50 µL とした。95 ℃にて 180 秒加温し、95 ℃
16
にて 30 秒、次いで 57 ℃にて 30 秒、72 ℃にて 30 秒のサイクルを 40 回繰り返
し反応させ、これを PCR 溶液とした。
merR-o/p : U-Pst-merR
: 5´AACTGCAGCTAAGCTGTGGAAGCCCCTG3´
L-Kpn-promoter : 5´GGGGTACCACGTTGGCCCTTTTGAATTT3´
: U-Kpn-merE
: 5´GGGGTACCATGAACGCCCCTGACAAACT3´
L-Eco-merE
: 5´CGGAATTCTCATGATCCGCCCCGGAAGGC3´
merE
I-1-④-3
Agarose gel 電気泳動による遺伝子の検出
得られた PCR 溶液のうち 3 µL を 0.8% agarose gel を支持体とした agarose gel
電気泳動法を用いて分離分析した。泳動後、agarose gel を Ethidium Bromide 溶液
に浸し、紫外線照射下で検出した。
I-1-④-4 増幅遺伝子の精製
QIAquick® PCR Purification Kit (QIAGEN) を使用した。PCR 溶液に 5 倍容量の
PB 緩衝液を加え、軽く撹拌した。この溶液をエッペンドルフチューブにセットさ
れた QIAquick® Spin column に移し、4 ℃で 13,000 rpm、30 秒間遠心分離した。
濾液を除去し、PE 緩衝液 750 µL を加え、4 ℃で 13,000 rpm、30 秒間遠心分離し
た。次に、column を新しいチューブにセットし、EB 緩衝液 80 µL を加え 1 分間
室温に放置した後、4 ℃で 13,000 rpm、30 秒間遠心分離した。得られた濾液を DNA
試料溶液とした。
I-1-④-5 遺伝子フラグメントの調整
I-1-④-4 に従い精製した DNA 試料溶液を制限酵素で消化した。merR-o/p に
ついては Pst I と Kpn I を添加し、37 ℃で一晩消化させた。merE については、
Kpn I を添加し、37 ℃で一晩消化させた後、EcoR I を添加し、37 ℃で一晩消化さ
せた。それぞれの反応溶液に 1/10 容量の 3 M Sodium acetate (pH 5.2)、3 倍容量の
100% ethanol を加え、-80 ℃に 15 分間放置した。次に、4 ℃で 15,000 rpm、20 分
間遠心分離し、得られた DNA 沈殿を 70% ethanol で洗浄後、常温で風乾した。こ
の DNA 沈殿を精製水 30 µL で溶解し、遺伝子フラグメントとした。
17
I-1-④-6 ベクターの調整
大腸菌ベクター pKF19k については制限酵素 Pst I および Kpn I を添加し、
37 ℃で 2 時間消化した。プラスミド pR2 は制限酵素 Kpn I を添加し、37 ℃で 2
時間消化した後、EcoR I を添加し、37 ℃で 2 時間消化した。以下は、I-1-④-
5 と同様の方法でベクター溶液を調製した。
I-1-④-7 ライゲーション
merR-o/p 遺伝子フラグメントと pKF19k ベクターを 9:2 のモル比になるよう
に混和した。また、merE 遺伝子フラグメントと pR2 ベクターでは 7:4 のモル比に
なるように混和した。次に、Quick Ligation Kit (New England Biolabs) を用いて室温
で 15 分間反応させ、各遺伝子フラグメントと各ベクターをそれぞれ連結させた。
I-1-④-8 形質転換
大腸菌 XL1-Blue competent cell 250 µL に、I-1-④-7 で作製したライゲーショ
ン溶液 20 µL を加えて軽く撹拌した後、30 分間氷冷した。次に、42 ℃で 50 秒
間保温後、5 分間氷冷した。さらに SOC 培地を加えて 37 ℃で 50 分間振盪培養
した。この培養液を kanamycin 含有 LB 寒天培地に塗布し、37 ℃で一晩培養し、
コロニーを得た。
I-1-④-9 ダイレクト PCR による目的 plasmid を保持した大腸菌の選択
I-1-④-8 で得られた大腸菌のコロニーを鋳型とし、以下に記載したプライマー
を組み合わせて用いることにより、ベクターへ挿入された遺伝子フラグメントの向
きを確認した。プライマーは、M13 Primer RV-N と M13-20、M13 Primer RV-N と
merR-o/p 遺伝子フラグメントの増幅に用いた L-Kpn-promoter、または merE 遺伝
子フラグメントの増幅に用いた U-Kpn-merE と L-161-pKF19k の 組み合わせで増
幅した。反応溶液の組成は、GoTaq® Master mix (×2) 10 µL、100 µM upper primer お
よび lower primer 各 0.1 µL、精製水 9.8 µL を加え、全量を 20 µL とした。この
溶液に、爪楊枝に付けたコロニーを懸濁させた後、94 ℃にて 30 秒加温し、94 ℃
18
にて 60 秒、次いで 55 ℃にて 60 秒、72 ℃にて 90 秒のサイクルを 30 回繰り
返し反応させた。得られた PCR 試料溶液 10 µL を agarose gel 電気泳動法を用い
て検出した。作製したプライマーは以下の通りである。大腸菌ベクター pKF19k の
遺伝子の塩基配列もとに M13 Primer RV-N、M13-20 および L161-pKF19k を作製し
た。
M13 Primer RV-N
:
5´
TGTGGAATTGTGAGCGG3´
M13-20
:
5´
L-161-pKF19k
:
5´
GTAAAACGACGGCCAGT3´
CTCTTCGCTATTACGCCAGC3´
I-1-④-10 組換え大腸菌からのプラスミド抽出および挿入遺伝子の検出
I-1-④-9 で確認された大腸菌クローンについて菌を増殖させ、QIAprep Spin
Miniprep Kit (QIAGEN) を使用し、以下の方法で大腸菌からプラスミドを抽出した。
I-1-④-8 で得られたコロニーを kanamycin 含有 LB 培地 5 mL に植菌し、
37 ℃で一晩振盪培養した。培養後、菌液をチューブに分注し、4 ℃で 13,000 rpm、
2 分間遠心分離して集菌した。上清を除去し、得られた菌体に QIAprep® Spin
Miniprep Kit の P1 緩衝液 250 µL を加えて、懸濁した。この懸濁液に P2 緩衝液
250 µL を加えて転倒混和し、次に N3 緩衝液 350 µL を加えて転倒混和した後、
4 ℃で 15,000 rpm、10 分間遠心分離した。QIAprep Spin column に上清を移し、4 ℃
で 13,000 rpm、1 分間遠心分離した。濾液を除去し、PB 緩衝液 500 µL を加え
column に DNA を吸着させ、4 ℃で 13,000 rpm、1 分間遠心分離した。濾液を除
去し、PE 緩衝液 750 µL を加え、4 ℃で 13,000 rpm、1 分間遠心することにより
除タンパク質作業を行った。次に、column を新しいチューブにセットし、EB 緩衝
液 50 µL を加え、1 分間室温に放置した後、4 ℃で 13,000 rpm、1 分間遠心分離
した。得られた濾液を DNA 試料溶液とし、agarose gel 電気泳動法を用いて遺伝子
を検出した。次に、この DNA 試料溶液を以下の制限酵素の組み合わせで切断した
後、反応生成物を agarose gel 電気泳動法を用いて分離分析した。プラスミド pR2
については Pst I と Kpn I、プラスミド pE4 については Kpn I と EcoR I、および
Pst I と EcoR I を用いて切断を行った。
19
I-1-④-11
組換えプラスミドの塩基配列の確認
I-1-④-10 で得られた DNA 試料溶液を 1 µL、1.6 µM primer 2 µL、Big Dye 8
µL に精製水 9 µL を加え、全量を 20 µL とし PCR 法に従い遺伝子を増幅させた。
96 ℃にて 90 秒加温し、96 ℃にて 30 秒、次いで 50 ℃にて 15 秒、60 ℃にて 4
分のサイクルを 25 回繰り返し反応させ、これを PCR 溶液とした。エッペンドル
フチューブに PCR 溶液を移し、3 mM sodium acetate 2 µL、100% ethanol 50 µL を
加え、氷上に 10 分間放置した。次に、4 ℃で 15,000 rpm、20 分間遠心分離し、
70% ethanol 250 µL を加えて洗浄した後、4 ℃で 15,000 rpm、5 分間遠心分離し、
DNA 沈殿を常温で風乾した。この DNA 沈殿を Hi-DiTM-Formamide 緩衝液 25 µL
で溶解し、95 ℃に 2 分間放置し、続けて氷上に 2 分間放置し、反応溶液とした。
遺伝子配列の解析は ABI PRISM 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystems) を用い
て行った。シークエンスにおける PCR に用いたプライマーは以下の通りである。
プラスミド pR2 については、M13 primer RV-N、M13-20 および L161-pKF19k を
用いた。プラスミド pE4 については、L161-pKF19k を用いた。
I-1-④-12 形質転換獲得大腸菌株の保存
I-1-④-8 で得られた大腸菌コロニーの中で、 I-1-④-9 から I-1-④-11
において遺伝子の導入が成功していることが確認されたものを kanamycin 含有
LB 培地 5 mL に植菌し、37 ℃で一晩振盪培養した。得られた菌液のうち、700 µL
を 80% glycerol 300 µL と混合した後、-80 ℃で保存した。
I-1-⑤
プラスミド pE4 をもつ大腸菌における merE 遺伝子の発現
I-1-⑤-1
大腸菌における MerE タンパク質の抽出および分離
I-1-③-1 と同様の方法でプラスミド pE4 を形質転換した大腸菌(XL1-Blue)
における MerE タンパク質の抽出および分離を行った。ネガティブコントロールと
して、pKF19k を形質転換した大腸菌からのタンパク質抽出および分離も行った。
20
I-1-⑤-2
Western blotting による MerE タンパク質の検出
I-1-③-2 と同様の方法で、I-1-⑤-1 で得られた各画分における MerE タ
ンパク質の検出を行った。I-1-⑤-1 で得られた総抽出画分、可溶性画分、膜画
分それぞれに 2×サンプル緩衝液を等量加え、95 ℃で 5 分間加熱した。ポジティブ
コントロールとしては、組換えカイコより精製した His6 Tag 付き MerE タンパク
質を用いた [93]。全て 5 µM HgCl2 で誘導をかけたサンプルを調製した。
I-1-⑥
プラスミド pE4 をもつ大腸菌における水銀化合物耐性の評価
組換えプラスミドを形質転換した大腸菌 XL1-Blue を kanamycin 含有 LB 培地
で対数増殖後期まで 37 ℃で一晩振盪培養した。この菌液約 0.5 mL を kanamycin
含有 LB 培地 10 mL に植菌し、これに 1 µM HgCl2 を添加し、対数増殖中期まで
37 ℃で振盪培養した。細胞数が 1 × 108 cells になる培養液量を計算した後、LB 寒
天プレートに均一に塗布した。プレートの中央に直径 6 mm のペーパーディスク
(Whatman AA Discs) を置き、そこに種々の濃度の CH3HgCl あるいは HgCl2 をそ
れぞれ滴下した。37 ℃で一晩平板培養した後、生じた阻止円の直径 (ペーパーディ
スクの直径 6 mm を差し引いた値) を測定することにより耐性を評価した。
I-1-⑦
プラスミド pE4 をもつ大腸菌における水銀化合物取り込み量の測定
I-1-⑦-1
14
CH3HgCl を用いたメチル水銀取り込み量の測定
組換えプラスミドを形質転換した大腸菌 XL1-Blue を kanamycin 含有 LB 培地
で対数増殖後期まで 37 ℃で一晩振盪培養した。この菌液約 1 mL を新しい
kanamycin 含有 LB 培地 20 mL に植菌し、これに 0.5 µM HgCl2 を添加し、対数増
殖中期まで 37 ℃で振盪培養した。吸光度が OD600=0.8~1.2 になるまで培養し、4 ℃
で 5,600 rpm、15 分間遠心分離して集菌した後、100 µg/mL chroramphenicol および
100 µM EDTA・2Na を含む LB 培地を OD600=1.0 となるように加え、pH 7.0 とな
るよう再懸濁した。次に、この菌液 500 µL に 250 µM
21
14
CH3HgCl (比活性 42.2
MBq/mmol) を 10 µL 添加して、37 ℃で 0~2 分間反応させた後、0.45 µm ガラス
フィルター (Whatman GF/B) にて急速吸引濾過し、フィルターを約 5 mL の 100
µg/mL chroramphenicol および 100 µM EDTA・2Na を含む LB 培地で 3 回洗浄後、
フィルターに残存する放射活性を液体シンチレーションカウンターにて測定した。
I-1-⑦-2 還元気化原子吸光光度法による HgCl2 取り込み量の測定
組換えプラスミドを形質転換した大腸菌 XL1-Blue を kanamycin 含有 LB 培
地で対数増殖後期まで 37 ℃で一晩振盪培養した。この培養液の一部を新しい
kanamycin 含有 LB 培地 20 mL に植菌し、これに 0.5 µM HgCl2 を添加した後、
37 ℃で振盪培養した。吸光度が OD600=0.8~1.2 になるまで培養し、4 ℃で 5,600
rpm、15 分間遠心分離して集菌した後、100 µg/mL chroramphenicol および 100 µM
EDTA・2Na を含む LB 培地を OD600=1.0 となるように加え、pH 7.0 となるよう
再懸濁した。次に、この菌液に 500 µL に 500 µM HgCl2 を 10 µL 添加して、37 ℃
で 0~60 分間反応させた。反応液を 4 ℃で 13,000 rpm、2 分間遠心分離して上清
を除き、新しい 100 µg/mL chroramphenicol および 100 µM EDTA・2Na を含む LB
培地を 500 µL 加えて懸濁させた後攪拌し、4 ℃で 13,000 rpm、2 分間遠心分離し
て、洗浄する操作を 3 回繰り返した。回収した菌体を LB 培地 500 µL で再懸濁
し、一部を灰化用試験管に移して、濃硝酸を 1 mL 加え、90 ℃で 60 分間湿式灰
化し、HG-310 形水銀測定器 (平沼産業) を用いて菌体内に取り込まれた Hg2+ 量を
測定した。
I-1-⑧
MerE による水銀化合物取り込みに対する細胞外 pH の影響
I-1-⑦-1 と同様に、組換えプラスミドをもつ大腸菌におけるメチル水銀ある
いは無機水銀取り込み量を測定した。遠心集菌した後の再懸濁用 LB 培地の pH
を 5.0、6.0、7.0、8.0、9.0 に振り分け、5 種類の LB 培地を作製した。各 pH の
再懸濁液 500 µL に対して 250 µM 14CH3HgCl を 10 µL 添加し、37 ℃で 2 分間反
応させメチル水銀取り込み量を測定した。また、500 µM HgCl2 を 10 µL 添加し、
37 ℃で 30 分間反応させ、無機水銀取り込み量を測定した。
22
I-1-⑨
MerE アミノ酸変異株の作製
Fig. I-7 および I-8 に示すように、プラスミド pE4 上の merE 遺伝子の特定の
塩基を変異させたプラスミド pEC28S、pEC30S、pEC28:30S、pEH31L、pEH51L お
よび pEH31:51L を構築し、大腸菌 MV1184 に形質転換した。pEC28S、pEC30S、
pEC28:30S は、merE 遺伝子の 2 ヶ所の TGC {Cysteine (Cys) をコードする塩基配
列} を AGC {Serine (Ser) をコードする塩基配列} に変異させ、アミノ酸配列の N
末端から数えて 28 番目と 30 番目の Cys を 1 ヶ所または 2 ヶ所 Ser に変異させ
た組換えプラスミドである。一方、pEH31L、pEH51L および pEH31:51L は、それ
ぞれ CAT {Histidine (His) をコードする塩基配列} を CTT {Leucine (Leu) をコード
する塩基配列} に変異させ、アミノ酸配列の N 末端から数えて 31 番目と 51 番
目の His を 1 ヶ所または 2 ヶ所
Leu に変異させた組換えプラスミドである。
I-1-⑨-1 変異導入プライマーの作製
merE 遺伝子の塩基配列もとに以下の変異導入プライマーを作製した。
5PmerE-C28S
:
5´
5PmerE-C30S
:
5´
5PmerE-C28S-C30S :
5´
5PmerE-H31L
:
5´
5PmerE-H51L
:
5´
I-1-⑨-2
TGGCCGTGTTGACCAGCCCCTGCCATCTGCC3´
TGGCCGTGTTGACCTGCCCCAGCCATCTGCC3´
TGGCCGTGTTGACCAGCCCCAGCCATCTGCC3´
TGCCCCTGCCTTCTGCCGATTC3´
TCCTTGGCGAGCTTTGGGGTGTTG3´
ODA-LA PCR 法による merE 遺伝子への変異導入
プ ラ ス ミ ド pE4 を 鋳 型 に I - 1 - ⑨ - 1 に 記 載 し た プ ラ イ マ ー を 用 い て
site-directed mutagenesis 法 [76] に従い merE 遺伝子にそれぞれ変異を導入した。
31 番目と 51 番目の両方の His に変異を導入する際には、まず 5PmerE-H31L で変異
させた株を作製し、得られたプラスミドに対して 5PmerE-H51L で変異を導入した。
鋳型 DNA 1 µL、Selection primer 1 µL、5 µM Mutagenic primer 各 1 µL、10 × LA PCR
buffer II 5 µL、2.5 mM
dNTP 混合液 8 µL、TaKaRa LA Taq 1 µL に精製水 33.5 µL
を加え、全量を 50 µL とした。94 ℃にて 60 秒、次いで 55 ℃にて 60 秒、72 ℃
にて 180 秒のサイクルを 30 回繰り返し反応させ、これを PCR 溶液とした。
23
I-1-⑨-3
Agarose gel 電気泳動による遺伝子の検出
I-1-④-3 と同様にして検出した。
I-1-⑨-4 変異導入プラスミドの精製
PCR 溶液に 0.5 倍容量の 4 M ammonium acetate、2 倍容量の 100% ethanol を加
え、-20 ℃に 30 分間放置した。次に、4 ℃で 15,000 rpm、20 分間遠心分離し、
得られた DNA 沈殿を 70% ethanol で 3 回洗浄後、常温で風乾した。この DNA 沈
殿を精製水 5 µL で溶解し、プラスミド溶液とした。
I-1-⑨-5 形質転換
大腸菌 MV1184 competent cell 50 µL に、I-1-⑨-4 でプラスミド溶液 1 µL を
加えて軽く撹拌した後、30 分間氷冷した。次に、42 ℃で 45 秒間保温後、SOC 溶
液 300 µL を加え、37 ℃で 50 分間振盪培養した。この培養液を kanamycin 含有
LB 寒天培地に塗布し、37 ℃で一晩培養し、コロニーを得た。
I-1-⑨-6 遺伝子の確認
I-1-④-10 と同様の方法で、I-1-⑨-5 で得られたコロニーからプラスミド
を抽出した。得られた溶液を DNA 試料溶液とし、agarose gel 電気泳動法を用いて
遺伝子を検出した。
I-1-⑨-7 組換えプラスミドの塩基配列の確認
I-1-⑨-6 で得られた DNA 試料溶液は、I-1-④-11 と同様にして塩基配
列を確認した。シークエンス PCR には L161-pKF19k プライマーを使用した。
I-1-⑨-8 形質転換獲得大腸菌株の保存
形質転換した大腸菌の菌液を I-1-④-12 と同様に-80 ℃で保存した。
24
I-1-⑩
MerE アミノ酸変異株における遺伝子産物の発現
I-1-⑩-1
MerE アミノ酸変異株からのタンパク質抽出および分離
I-1-③-1 と同様の方法で MerE アミノ酸変異株 (pEC28S, pEC30S, pEC28:30S,
pEH31L, pEH51L, pEH31:51L) からのタンパク質の抽出および分離を行った。ただ
し、今回の培養では全て 5 µM HgCl2 で誘導をかけたサンプルを調製した。
I-1-⑩-2
Western blotting による MerE タンパク質の検出
I-1-⑤-1 および I-1-⑩-1 で得られた総抽出画分、可溶性画分、膜画分そ
れぞれに 2×サンプル緩衝液を等量加え、95 ℃で 5 分間加熱した。I-1-③-2 と
同 様 の 方 法 で 、 pKF19k, pE4, pEC28S, pEC30S, pEC28:30S, pEH31L, pEH51L,
pEH31:51L をそれぞれもつ大腸菌における MerE タンパク質の検出を行った。ポ
ジティブコントロールとしては、組換えカイコより精製した His6 Tag 付き MerE タ
ンパク質を用いた。
I-1-⑪
MerE アミノ酸変異株における水銀化合物取り込み量の測定
I-1-⑪-1
14
CH3HgCl を用いたメチル水銀取り込み量の測定
I-1-⑦-1 と同様にして行った。反応条件としては、菌液 500 µL に 250 µM
14
CH3HgCl を 10 µL 添加して、37 ℃で 2 分間反応させた。
I-1-⑪-2 還元気化原子吸光光度法による HgCl2 取り込み量の測定
I-1-⑦-2 と同様にして行った。反応条件としては、菌液に 500 µL に 500 µM
HgCl2 を 10 µL 添加して、37 ℃で 30 分間反応させた。
25
I-1-⑫
merT-merP, merT-merP-merE お よ び merP-merE 遺 伝 子 の 大 腸 菌
ベクター pKF19k への組換え
既報より Hg2+ により mer operon を転写発現することが確認されている、プラ
スミド pMR26 上の水銀調節遺伝子 (merR-o/p-merT-merP) を組換えたプラスミド
pTP4 を作製し、プラスミド R100 (NR1) 由来の merE 遺伝子を組換えたプラスミ
ド pTPE21 を構築した。次に、Fig. I-12 に示すように、プラスミド pR2 にプラス
ミド pTPE21 上の merP-merE 遺伝子を換えたプラスミド pPE62 を構築した。そ
の後、大腸菌 XL1-Blue に形質転換した。
I-1-⑫-1
PCR 法による遺伝子の増幅
merR-o/p-merT-merP はプラスミド pMR26 を鋳型に、以下に記載したプライマー
の 内 、 U-Pst-merR と
L-Xba-merP 、 merE は プ ラ ス ミ ド
R100 を 鋳 型 に
U-XbaSD-merE と L-Eco-merE の組み合わせで PCR を行いそれぞれの遺伝子を増
幅させた。次に、プラスミド pTPE21 を鋳型に以下に記載したプライマーを用いて
I-1-⑦-2 と同様に PCR 法に従い merP-merE 遺伝子を増幅させた。
U-Pst-merR
: 5´AACTGCAGCTAAGCTGTGGAAGCCCCTG3´
L-Xba-merP
: 5´GCTCTAGAGCGATGCTGCCGTTA3´
merR-o/p-merT-merP
U-XbaSD-merE : 5´GCTCTAGATTCGAAAGGACAAGCGCATGAACGCCCCTGACAAACT3´
merE
L-Eco-merE
: 5´CGGAATTCTCATGATCCGCCCCGGAAGGC3´
U-Kpn-merP
: 5´GGGGTACCATGAAGAAACTGTTGCCTC 3´
L-Eco-merE
: 5´GGGGTACCATGAAGAAACTGTTTGCCTC 3´
merP-merE
I-1-⑫-2
Agarose gel 電気泳動による遺伝子の検出
I-1-④-3 と同様にして検出した。
I-1-⑫-3 プラスミドの精製
I-1-④-4 と同様にして精製した。
26
I-1-⑫-4 遺伝子フラグメントの調整
I - 1 - ⑫ - 3 に 従 い 精 製 し た DNA 試 料 溶 液 を 制 限 酵 素 で 消 化 し た 。
merR-o/p-merT-merP については Pst I と Xba I を添加し、37 ℃で一晩消化させた。
merE については、Xba I を添加し、37 ℃で一晩消化させた後、EcoR I を添加し、
37 ℃で一晩消化させた。merP-merE については、Kpn I を添加し、37 ℃で一晩消
化させた後、EcoR I を添加し、37 ℃で一晩消化させた。I-1-④-5 と同様の方
法で遺伝子フラグメントを得た。
I-1-⑫-5 ベクターの調整
大腸菌ベクター pKF19k については制限酵素 Pst I および Xba I を添加し、
37 ℃で 2 時間消化した。プラスミド pTP4 は制限酵素 Xba I を添加し、37 ℃で 2
時間消化した後、EcoR I を添加し、37 ℃で 2 時間消化した。プラスミド pR2 に
ついては制限酵素 Kpn I を添加し、37 ℃で 2 時間消化した後、EcoR I を添加し、
37 ℃で 2 時間消化した。以降は I-1-④-5 と同様の方法でベクター溶液を得た。
I-1-⑫-6 ライゲーション
merR-o/p-merT-merP 遺伝子フラグメントと pKF19k ベクターを 8:3 のモル比に
なるように混和した。また、merE 遺伝子フラグメントと pTP4(ベクター)では 7:4
のモル比になるように混和した。merP-merE 遺伝子フラグメントと pR2 ベクター
を 8:2 のモル比になるように混和した。次に、Quick Ligation Kit (New England
Biolabs) を用いて室温で 15 分間反応させ、各遺伝子フラグメントと各ベクターを
それぞれ連結させた。
I-1-⑫-7 形質転換
大腸菌 XL1-Blue competent cell 250 µL に、I-1-⑫-6 で作製したライゲーショ
ン溶液 20 µL を加えて軽く撹拌した後、I-1-④-8 と同様の方法で形質転換し、
コロニーを得た。
27
I-1-⑫-8 ダイレクト PCR による遺伝子の確認
I-1-⑫-7 で得られた大腸菌のコロニーを鋳型とし、以下に記載したプライマ
ーを組み合わせて用いることにより、ベクターへ挿入された遺伝子フラグメントの
向きを確認した。プライマーはそれぞれ、M13 Primer RV-N と M13-20、M13 Primer
RV-N と merR-o/p 遺伝子フラグメントの増幅に用いた L-Xba-merP、merE 遺伝子
フラグメントの増幅に用いた
U-XbaSD-merE と
L-161-pKF19k ま た は
U-Kpn-merP と M13-20 の組み合わせで増幅した。I-1-④-9 と同様の方法で PCR
を行い、agarose gel 電気泳動法を用いて検出した。
I-1-⑫-9 遺伝子の確認
I-1-④-10 と同様の方法で、I-1-⑫-7 で得られたコロニーからプラスミド
を抽出した。得られた溶液を DNA 試料溶液とし、agarose gel 電気泳動法を用いて
遺伝子を検出した。次に、この DNA 試料溶液を以下の制限酵素の組み合わせで切
断した後、反応生成物を agarose gel 電気泳動法を用いて分離分析した。プラスミ
ド pTP4 については Pst I と Xba I、プラスミド pTPE21 については Xba I と
EcoR I、プラスミド pPE62 については Kpn I と EcoR I を用いて切断を行った。
I-1-⑫-10 組換えプラスミドの塩基配列の確認
I-1-⑫-9 で得られた DNA 試料溶液は、I-1-④-11 と同様にして塩基配列
を確認した。シークエンスにおける PCR に用いたプライマーは、M13 Primer RV-N、
L-Xba-merP、U-Kpn-merP、U-XbaSD-merE、L161-pKF19k および merR 遺伝子配列
をもとに作製した以下のプライマー S241-merR を使用した。
S241-merR
I-1-⑫-11
:
5´
TGTGGAATTGTGAGCGG3´
形質転換獲得大腸菌株の保存
形質転換した大腸菌の菌液を I-1-④-12 と同様に-80 ℃で保存した。
28
I-1-⑬
プラスミド pTP4 および pTPE21 を持つ大腸菌の水銀化合物に対する
機能解析
I-1-⑬-1 水銀化合物に対する耐性評価
プラスミド pTP4 および pTPE21 を持つ大腸菌の CH3HgCl あるいは HgCl2 耐
性評価を阻止円法で行った。方法は I-1-⑥と同様である。
I-1-⑬-2 水銀化合物取り込み量の測定
プラスミド pTP4 および pTPE21 を持つ大腸菌の CH3HgCl あるいは HgCl2 取
り込み量の測定を I-1-⑦と同様の方法で行った。
I-1-⑭
プラスミド pPE62 を持つ大腸菌の水銀化合物に対する機能解析
I-1-⑭-1 プラスミド pPE62 を持つ大腸菌からのタンパク質抽出および分離
I-1-③-1 と同様の方法で、プラスミド pPE62 を持つ大腸菌からタンパク質
の抽出および分離を行った。全て 5 µM HgCl2 で誘導をかけたサンプルを調製した。
I-1-⑭-2
Western blotting によるタンパク質の検出
I-1-⑤-1 および I-1-⑭-1 で得られた総抽出画分、可溶性画分、膜画分そ
れぞれに 2×サンプル緩衝液を等量加え、95 ℃で 5 分間加熱した。I-1-③-2 と
同様の方法で、pKF19k, pE4, pPE62 をそれぞれもつ大腸菌における MerE タンパク
質の検出を行った。同時に、anti MerP antibody を用いて pPE62 をもつ大腸菌にお
ける MerP タンパク質の検出を行った。ポジティブコントロールとして、過去に作
製した精製 MerE および精製 MerP タンパク質を用いた。
29
I-1-⑭-3
MerE による水銀化合物取り込みに対する MerP の影響
プラスミド pPE62 を持つ大腸菌の CH3HgCl 取り込み量の測定を I-1-⑦-1
と同様にして行った。反応条件としては、菌液 500 µL に 250 µM 14CH3HgCl を 10
µL 添加して、37 ℃で 1 分間反応させた。また、pPE62 を持つ大腸菌の HgCl2 取
り込み量の測定を I-1-⑦-2 と同様にして行った。反応条件としては、菌液に
500 µL に 500 µM HgCl2 を 10 µL 添加して、37 ℃で 30 分間反応させた。
I-1-⑮
統計学的解析
有意差検定は、危険率 5% あるいは 1% で Student の T 検定を行った。
30
I-2. 結果
I-2-①
Tn21 にコードされる merE 遺伝子産物の同定
Tn21 を持つ大腸菌 R100-1+/JE5525 株を無機水銀 (Hg2+) 存在下および非存在
下で培養した後に粉砕し、粗抽出画分、可溶性画分および膜画分に分離し、遺伝子
産物について SDS-PAGE および Western blotting 法にて検出した。ポジティブコン
トロールとして His6 Tag 付き精製 MerE あるいは MerC タンパク質を用いた。
Tn21 を持つ大腸菌の粗抽出画分および膜画分において、anti MerE antibody を用い
た検出では 8 kDa のバンドが検出され、anti MerC antibody を用いた検出では 15
kDa のバンドがそれぞれ検出された (Fig. I-1)。これらは merE 遺伝子および merC
遺伝子の塩基配列から翻訳されたアミノ酸の予測分子量とそれぞれ一致した。MerE
あるいは MerC タンパク質はいずれも可溶性画分においては検出されなかった。
Shigella flexneri 由来プラスミド R100 (NR1) 上の Tn21 にコードされた mer
operon は merR-o/p-merT-merP-merC-merA-merD-merE から構成される。遺伝子発現
を調節している MerR は fmol レベルの Hg2+ を感知し、下流の遺伝子の転写を開
始すること [79, 80]、このうち merC 遺伝子は Hg2+ により発現誘導されることが
既に明らかにされている [33, 41, 63]。MerC タンパク質はこれらの既知の報告と同
様に Hg2+ 非存在下では発現せず、Hg2+ 存在下のみで発現した。一方、MerE タン
パク質は Hg2+ 非存在下において微量に発現し、Hg2+ 存在下において発現誘導さ
れていた。以上のことから、プラスミド NR1 上の Tn21 にコードされた merE 遺
伝子産物である MerE が膜タンパク質の一種であり、Hg2+ に応答し大腸菌体内に
おいて転写翻訳されることを明らかにした。
I-2-②
MerE の水銀化合物に対する耐性および取り込み活性
MerE のアミノ酸配列からハイドロパシー解析を行ったところ、MerE は二回膜
貫通型のタンパク質であり、第一膜貫通領域の中間に Cys ペアーを有すると予測
された (Fig. I-7B, C)。細胞質側には正電荷アミノ酸が多いという Positive inside rule
に基づき、MerE の膜貫通の向きを予測した。また、既知の MerT, MerC, MerF は N
末端が細胞質側に存在し内膜に局在するタンパク質であると考えられている。merE
は merT と約 60% の相同性を持つことから、MerE は MerT と同様に N 末端が
31
細胞質側にある内膜タンパク質であると予測された。
MerE の機能を明らかにするため、merR-o/p-merE 遺伝子を組換えたプラスミド
pE4 を持つ大腸菌を用いて水銀化合物に対する耐性および取り込み活性を検討し
た (Fig. I-4~I-6)。merR 遺伝子および merE 遺伝子の大腸菌ベクターへの組換えに
ついては、Fig. I-2 に示した順序で作製した。merR-o/p 遺伝子を大腸菌ベクター
pKF19k に組換えたプラスミド pR2 を構築した。次に、この組換えプラスミド pR2
に merE 遺伝子を組換えたプラスミド pE4 (merR-o/p-merE) を構築した。組換えプ
ラスミドに挿入した各遺伝子の塩基配列が正常であることを確認し、大腸菌
XL1-Blue 株に形質転換した。
組換えプラスミド pE4 を持つ大腸菌における merE 遺伝子産物の局在を検討し
た。Hg2+ 存在下および非存在下で大腸菌を培養した後に粉砕し、粗抽出画分、可
溶性画分および膜画分に分離した。各画分を SDS-PAGE および anti MerE antibody
を用いて Western blotting にて検出したところ、粗抽出画分および膜画分において
8 kDa のバンドが検出され、merE 遺伝子配列から予測した MerE 産物の分子量と
一致した (Fig. I-3A)。pE4 を持つ大腸菌の可溶性画分においては検出されなかった。
また、MerE タンパク質は Hg2+ 非存在下では発現せず、Hg2+ 存在下のみで発現し
ていた。これらのことから、組換えプラスミド pE4 を持つ大腸菌において、merE 遺
伝子が Hg2+ により転写翻訳され、タンパク質として発現していることが示された。
また、MerE が 1 量体あるいは多量体で存在しているのか明らかにするため、pE4
を持つ大腸菌から抽出した膜画分を非還元条件下で SDS-PAGE にて分離し、Western
blotting を行ったところ、MerE はおよそ 2:1 の比率で 1 量体あるいは 2 量体と
して存在した (Fig. I-3B)。
pE4 を持つ大腸菌を用いて水銀化合物に対する耐性評価および取り込み活性の
検討を行った。コントロールには、pKF19k ベクターを形質転換した大腸菌を用い
た。耐性評価は阻止円法を用い、コントロールと比較して阻止円が大きい場合を超
感受性、同等の場合を感受性、小さい場合を耐性と評価した。メチル水銀 (CH3Hg+)
存在下では pE4 を持つ大腸菌の阻止円がコントロールと比較して約 1.2 倍大き
くなり、CH3Hg+ に対して超感受性を示すことが明らかとなった (Fig. I-4A)。Hg2+
存在下では、pE4 を持つ大腸菌の阻止円がコントロールと比較して約 2 倍大きく
なり、Hg2+ に対して超感受性を示すことが明らかとなった (Fig. I-4B)。
次に、pE4 を持つ大腸菌における水銀化合物の経時的取り込み量を測定した。pE4
を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量はコントロールと比較して、約 2 倍有意に増
32
加した (Fig. I-5A)。また、pE4 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量はコントロールと
比較して約 1.4 倍有意に増加した (Fig. I-5B)。merE 遺伝子を組換えたプラスミド
pE4 を持つ大腸菌において CH3Hg+ および Hg2+ の取り込み量がコントロールよ
りもそれぞれ有意に上昇したことから、MerE は CH3Hg+ および Hg2+ を取り込む
トランスポーターであることが示唆された。
MerE を介した水銀化合物取り込みに対する細胞外 pH の影響を検討するため、
CH3Hg+ あるいは Hg2+ を含む反応液の pH を変化させ (5.0~9.0)、各遺伝子組換え
大腸菌の CH3Hg+ および Hg2+ 取り込み量を測定した。 pE4 を持つ大腸菌の
CH3Hg+ 取り込み量は pH 5.0 から pH 7.0 の間では変化は見られなかった (Fig.
I-6A)。pH 7.0 より塩基性の条件下では、CH3Hg+ 取り込み量が増加する傾向が見ら
れた。しかし、pE4 を持つ大腸菌による取り込み量が増加するのと並行して、コン
トロールの CH3Hg+ 取り込み量も増加し、結果として pE4 を持つ大腸菌とコント
ロールの CH3Hg+ 取り込み量の差はほぼ一定であった。pE4 を持つ大腸菌の Hg2+
取り込み量は pH 6.0 から pH 8.0 の間においてはコントロールに比べ増加し、塩基
性に傾くほど上昇した (Fig. I-6B)。一方、pH 5.0 においては pE4 を持つ大腸菌の
Hg2+ 取り込み量がコントロールに比べ減少した。MerE による CH3Hg+ 取り込みに
は pH は影響せず、MerE による Hg2+ 取り込みは pH が高いほど取り込み量が多
く、低いほど取り込み量が少なくなることが示された。
I-2-③
MerE アミノ酸変異株における水銀化合物取り込み活性
I-2-② において MerE は CH3Hg+ および Hg2+ のトランスポーターである
ことが示唆された。本項では、MerE のどのアミノ酸が水銀化合物を特異的に認識
するのかについて検討する為に、プラスミド pE4 上の merE 遺伝子の一部を変異
させた MerE アミノ酸変異株を作製した。本研究では、MerE の CH3Hg+ および
Hg2+ の認識部位を検討するにあたり、Hg2+ の結合に関与するとされる Cysteine
(Cys) および Cd2+ や Ni2+ の結合に関与するとされる Histidine (His) に着目した。
pE4 上の merE 遺伝子を変異させたプラスミド pEC28S、pEC30S、pEC28:30S、
pEH31L、pEH51L および pEH31:51L は ODA-LA PCR 法 (Fig. I-8) に基づき作製
した (Fig. I-7D)。アミノ酸を変異させたことで merE 遺伝子産物の発現や構造、発
現部位などに変化を及ぼす可能性が考えられた為、MerE アミノ酸変異株の遺伝子
産物の発現状況について調べた。Hg2+ 存在下、各アミノ酸変異株を培養した後に
33
粉砕し、粗抽出画分、可溶性画分および膜画分に分離し、SDS-PAGE および Western
blotting にて検出した (Fig. I-9)。全てのアミノ酸変異株の粗抽出画分および膜画分
において 8 kDa のバンドが検出され、MerE 産物と一致した。また、アミノ酸変異
株の遺伝子産物は可溶性画分においては検出されなかった。以上のことから、各
MerE アミノ酸変異株における 遺伝子産物の発現が確認できたため、次に水銀化合
物取り込み量について検討を行った。
CH3Hg+ および Hg2+ 取り込み量の測定には、上記の変異導入プラスミド 6 種の
他に、pE4 あるいは pKF19k (コントロール) をそれぞれ形質転換した大腸菌を用い
た。pE4 を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量はコントロールに比べ約 1.6 倍有意
に増加し、pEH31L を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量は pE4 を持つ大腸菌と同等
であった (Fig. I-10A)。pEC28S を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量は pE4 を持つ
大腸菌に比べ若干減少する傾向が見られたものの、コントロールに比べ約 1.4 倍有
意に増加した。一方、pEC30S、pEC28:30S、pEH51L あるいは pEH31:51L を持つ大
腸菌における CH3Hg+ 取り込み量は pE4 を持つ大腸菌に比べて顕著に減少し、コ
ントロールとほぼ同等となった。pE4 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量はコントロ
ールに比べ約 1.4 倍有意に増加し、pEH51L を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量は
pE4 を持つ大腸菌とほぼ同等であった (Fig. I-10B)。一方、pEC28S、pEC30S、
pEC28:30S、pEH31L あるいは pEH31:51L を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量は pE4
を持つ大腸菌に比べ顕著に減少し、コントロールとほぼ同等となった。このことか
ら、MerE による CH3Hg+ 取り込みには 30 番目の Cys および 51 番目の His が
関与し、Hg2+ 取り込みには 28 および 30 番目の Cys および 31 番目の His が関
与することが示された。
I-2-④
MerE の水銀化合物取り込み活性に対する MerT および MerP の影響
I-2-②において、MerE が CH3Hg+ および Hg2+ を取り込む機能を有すること
が明らかとなったが、水銀耐性菌の mer operon は merE 遺伝子の他に merT-merP
遺伝子を併せ持つことが知られている [51]。既報より pMR26 由来の MerT-MerP
は、Hg2+ およびフェニル水銀 (C6H5Hg+) を取り込み、CH3Hg+ の輸送には関与しな
いことが明らかとなっている [75]。また、MerP は MerT を介した Hg2+ および
C6H5Hg+ の取り込みを促進する一方で、MerC を介した Hg2+ の取り込みには競合
することが知られている [63, 65, 68, 69]。これらのことから、MerE の水銀化合物
34
取り込み活性に対する MerT-MerP の影響について検討を行い、さらに MerE に対
する MerP の影響について個別に検討した。
まず、大腸菌における MerE および MerT-MerP の生理的役割を評価するため、
merR-o/p-merT-merP 遺伝子を pKF19k ベクターに組換えたプラスミド pTP4 を作
製 し 、 pTP4 に
merE 遺 伝 子 を 導 入 し た プ ラ ス ミ ド
pTPE21
(merR-o/p-merT-merP-merE) を作製した (Fig. I-11)。プラスミドに挿入した各遺伝子
の塩基配列が正常であることを確認し、大腸菌 XL1-Blue 株にそれぞれ形質転換し
た。
まず組換えプラスミド pTP4 あるいは pTPE21 を持つ大腸菌の水銀化合物に対
する耐性について検討した。CH3Hg+ 存在下では pTPE21 を持つ大腸菌の阻止円が
pTP4 を持つ大腸菌に比べ増大した (Fig. I-13A)。pTP4 を持つ大腸菌の CH3Hg+ に
対する阻止円は pKF19k を持つ大腸菌(コントロール)と同等であった。一方、
Hg2+ 存在下では pTP4 を持つ大腸菌の阻止円がコントロールに比べ増大した (Fig.
I-13B)。pTPE21 を持つ大腸菌の Hg2+ に対する阻止円はコントロールより増大し
たが、pTP4 を持つ大腸菌と同等であった。次に pTP4 あるいは pTPE21 を持つ大
腸菌の CH3Hg+ および Hg2+ 取り込み量を測定した。pTPE21 を持つ大腸菌の
CH3Hg+ 取り込み量は pTP4 を持つ大腸菌に比べ、約 2 倍顕著に増加した (Fig.
I-13C)。pTP4 を持つ大腸菌とコントロールの CH3Hg+ 取り込み量に有意な差はな
かった。一方、pTP4 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量はコントロールに比べ、約 2
倍有意に増加した (Fig. I-13D)。pTPE21 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量は pTP4
を持つ大腸菌よりさらに増加した。
MerE による Hg2+ および CH3Hg+ 取り込みに対して MerP が補助的あるいは
競合的に働くのかを明らかにするため次に検討した。pE4 に merP 遺伝子を付加し
たプラスミド pPE62 (merR-o/p-merP-merE) を作製した (Fig. I-12)。プラスミドに挿
入した遺伝子の塩基配列が正常であることを確認し、大腸菌 XL1-Blue 株に形質転
換した。組換えプラスミド pPE62 を持つ大腸菌における merP 遺伝子および
merE 遺伝子の発現状況を調べた。Hg2+ の存在下で培養した後に粉砕し、粗抽出画
分、可溶性画分および膜画分に分離し、各画分を SDS-PAGE および Western blotting
にて検出した。pPE62 を持つ大腸菌の粗抽出画分および膜画分において、Anti MerP
antibody を用いた検出では 9.5 kDa のバンドが検出され、anti MerE antibody を用
いた検出では 8 kDa のバンドがそれぞれ検出された (Fig. I-14)。これらは、merP あ
るいは merE 遺伝子配列から予測した産物の分子量とそれぞれ一致した [70, 71]。
35
また、MerP 産物および MerE 産物は可溶性画分においては検出されなかった。以
上のことから、組換えプラスミド pPE62 を持つ大腸菌において、merP 遺伝子およ
び merE 遺伝子がタンパク質として発現していることが明らかになった。
pPE62 あるいは pE4 を持つ大腸菌の水銀化合物取り込み量を測定した。pE4 を
持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量はコントロールに比べ約 2 倍有意に増加した
(Fig. I-15A)。pPE62 を持つ大腸菌の CH3Hg+ 取り込み量は pE4 を持つ大腸菌とほ
ぼ同等であった。pE4 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量はコントロールに比べ約
1.4 倍有意に増加した (Fig. I-15B)。これに対し、pPE62 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り
込み量は pE4 を持つ大腸菌に比べ約 1.5 倍増加した。
36
I-3. 考察
merE 遺伝子 は transposon Tn21 以外にも Tn501, pPB, pDU1358 等のトランス
ポソンあるいはプラスミドに保存され、それらの相同性は 73-78%と高いことが知
られていた [42]。また、MerE における Cys ペアーは既知の水銀トランスポータ
ーである MerT における Cys ペアーの予測位置とほぼ同じ部分に位置すること
[72]、さらにこの Tn21 由来の merE 遺伝子は水銀トランスポーターとして同定済
みの merT 遺伝子の塩基配列と約 58% の相同性を示すことから、MerE は水銀ト
ランスポーターの一種であると推察されていたが、実験的には証明されていなかっ
た。そこで著者は Tn21 上の merE の機能について検討した。
プラスミド R100 (NR1) 由来の Tn21 を持つ大腸菌における merC および
merE 遺伝子の産物について検討したところ、粗抽出画分および膜画分において
Hg2+ 存在下では merC および merE 遺伝子産物がそれぞれ検出され、Hg2+ 非存在
下では merC 遺伝子産物は検出されず、merE 遺伝子産物は検出された。いずれも、
可溶性画分においては遺伝子産物が検出されなかった。このことから、Tn21 にコ
ードされた merE 遺伝子は転写抑制遺伝子である merD よりも遺伝子配列が下流
に位置していながらも、菌体内で Hg2+ により誘導され発現することが明らかとな
った。Hg2+ 非存在下における、merE 遺伝子と merC 遺伝子の翻訳状況の相違は、
その遺伝子配列の位置の違いによるものと考えられた。すなわち、merC 遺伝子は
転写調節遺伝子である merR の直下に配置していることから、レプレッサーである
MerR により強く転写を制御されていると考えられた。一方、merE 遺伝子は merR
遺伝子から離れた下流に位置することから、merC 遺伝子に比べ MerR による転写
の制御が弱く、微量に発現したと推測された。また、MerE は既知の膜タンパク質
である MerC と同様に膜画分に発現したことから、新規の膜タンパク質であること
が示唆された。Tn21 にコードされた merE 遺伝子が大腸菌において転写、翻訳さ
れ、膜画分において 8 kDa の MerE タンパク質として発現することを本研究で初
めて明らかにした。
次に、組換えプラスミド pE4 (merR-o/p-merE) を作製し、Tn21 由来 merE 遺伝子
の機能について検討した。まず、pE4 をもつ大腸菌における merE 遺伝子産物の発
現および局在について調べたところ、粗抽出画分および膜画分において Hg2+ 存在
下では merE 遺伝子産物が検出され、Hg2+ 非存在下では検出されなかった。いず
れも、可溶性画分においては遺伝子産物が検出されなかった。これらのことから、
37
Tn21 にコードされた merE 遺伝子より pE4 に組換えた merE 遺伝子の方が、
merR 遺伝子による転写制御を受けていると考えられた。組換えプラスミド pE4 を
もつ大腸菌においても、遺伝子産物は膜画分に存在したことから MerE は膜タンパ
ク質であることが示唆された。
pKF19k ベクターを形質転換した大腸菌をコントロールとし、組換えプラスミド
pE4 をもつ大腸菌のメチル水銀 (CH3Hg+) および Hg2+ に対する耐性および取り
込み活性について検討した。pE4 を持つ大腸菌はコントロールに比べ、CH3Hg+ お
よび Hg2+ に対して超感受性を示したことから、CH3Hg+ あるいは Hg2+ による毒
性を強く受けていると示唆された。このことから、MerE は CH3Hg+ および Hg2+
の取り込みに関与すると推察され、次に取り込み量について測定した。pE4 をもつ
大腸菌はコントロールに比べ、CH3Hg+ および Hg2+ 取り込み量がそれぞれ有意に
増加した。これらのことから、MerE は CH3Hg+ および Hg2+ を取り込む機能を有
する膜タンパク質であることが初めて示唆された。
また、pE4 を持つ大腸菌における MerE タンパク質の存在形態について検討し
たところ、非還元条件下における分離では 1 量体あるいは 2 量体として検出され
た。既報より、4 回膜貫通型の MerC タンパク質は 1 量体で Hg2+ 取り込み活性
を有する [73] との知見があることから、2 回膜貫通型の MerE の水銀化合物輸送
活性は 2 量体で行われていると推察された。
さらに、MerE による CH3Hg+ および Hg2+ 輸送の駆動力を明らかにするため、
pH 依存的な細胞内への取り込みについて検討した。その結果、pE4 をもつ大腸菌
とコントロールの CH3Hg+ 取り込み量の差は常に一定であった。一方、各 pH に
おいて pE4 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量は、弱酸性 (pH 5.0) でコントロール
に比べ減少し、弱塩基性 (pH9.0) で増加した。このことから、MerE の CH3Hg+ 取
り込みにはプロトン濃度勾配が関与せず、Hg2+ 取り込みに対してはプロトンとの
対向輸送である可能性が考えられた。プロトン対向輸送の証明のために、阻害剤を
用いて MerE の水銀化合物輸送活性への影響について今後検討する予定である。
MerE の CH3Hg+ 取り込みに関与する駆動力については更なる検討が必要と考え
られた。
次に MerE の CH3Hg+ および Hg2+ の認識部位を明らかにするため、組換えプ
ラスミド pE4 上の merE 遺伝子の特定の塩基を置換し、Cys を Ser に His を Leu
に変異した MerE アミノ酸変異株を 6 種作製した (pEC28S、pEC30S、pEC28:30S、
pEH31L、pEH51L および pEH31:51L)。MerE アミノ酸配列の中で、Cys と His に
38
着目したのは以下の理由による。既知の水銀トランスポーターである MerT および
MerC では、第一膜貫通領域に存在する Cys ペアーのチオール基が Hg2+ を捕捉し、
細胞質内に輸送することが知られている [63-65]。その為、MerE の Cys ペアーも
Hg2+ 認識に関与する部位として働いていると予測された。一方、His は構造中のイ
ミダゾール基が Ni2+ や Cu2+ などの金属イオンと結合する性質を有し、MerC にお
いては Cd2+ の捕捉および細胞質への輸送に関与するとされている [66, 67, 73]。ま
た、亜鉛トランスポーターの Zip8 においては、His, Cys および Glu が Fe2+, Zn2+,
Cd2+, Mn2+ などの 2 価陽イオンの輸送に必須であるとの報告もある [81]。これら
のことから、MerE 分子中の Cys あるいは His をチオール基やイミダゾール基が
欠失した Ser あるいは Leu に変異させた。各アミノ酸変異株の遺伝子産物は、粗
抽出画分および膜画分において MerE 産物と同じ位置に検出され、可溶性画分にお
いては検出されなかった。pE4 を持つ大腸菌における merE 遺伝子産物の結果と一
致していたことから、各アミノ酸変異株の遺伝子産物は膜に発現していると示唆さ
れた。以上のことから、作製した MerE アミノ酸変異株において MerE の発現や構
造に大きな変化はなかったと考えられた。
各変異導入プラスミド、pE4 および pKF19k (コントロール) をそれぞれ形質転換
した大腸菌における、CH3Hg+ および Hg2+ 取り込み量を測定した。MerE アミノ
酸変異株の中で pE4 をもつ大腸菌に比べ、CH3Hg+ 取り込み量が減少しコントロー
ルと同等となったのは、pEC30S、pEC28:30S、pEH51L および pEH31:51L を持つ
大腸菌であり、Hg2+ 取り込み量が減少しコントロールと同等となったのは、pEC28S、
pEC30S、pEC28:30S、pEH31L および pEH31:51L を持つ大腸菌であった (Fig. I-10)。
このことから、MerE による CH3Hg+ 取り込みに関与するアミノ酸は 30 番目の
Cys および 51 番目の His であり、Hg2+ 取り込みに関与するアミノ酸は 28 およ
び 30 番目の Cys および 31 番目の His であることが明らかとなった。過去の報
告から、MerT の Cys ペアーは Hg2+ 輸送に関与するが、C6H5Hg+ の輸送には関
与しないことが分かっている [65]。しかし、MerE の Cys ペアーは Hg2+ の認識に
関与するだけではなく CH3Hg+ の認識においても重要であることが本研究で明ら
かになった。一方、MerE 上の Cys ペアー近傍の 31 番目の His は Hg2+ の認識に、
2 つの膜貫通領域に挟まれたペリプラズム側の 51 番目の His は CH3Hg+ の認識
に重要であると考えられた。
水銀耐性を有する多くのグラム陰性菌は mer オペロン中に merT-merP 遺伝子お
よび merE 遺伝子を併せ持ち、既報より pMR26 由来の MerT および MerP は
39
Hg2+ および C6H5Hg+ を輸送する一方で CH3Hg+ の輸送には関与しないこと、本研
究より MerE は CH3Hg+ および Hg2+ を輸送することが示された。しかし、これら
MerT-MerP および MerE の大腸菌における相互作用については不明であったため、
プラスミド pTP4 (merR-o/p-merT-merP) および pTPE21 (merR-o/p-merT-merP-merE)
を作製し、MerE の有無による水銀化合物に対する耐性および取り込み活性を比較
した。pTPE21 を持つ大腸菌は pTP4 を持つ大腸菌に比べ、CH3Hg+ に対する感受
性が高く、CH3Hg+ 取り込み量が増加した。pTP4 を持つ大腸菌とコントロールの
CH3Hg+ 取り込み量はほぼ同じであったことから、pTPE21 による CH3Hg+ 取り込
みは MerE に起因すると考えられた。さらに、pTPE21 および pTP4 を持つ大腸菌
は共にコントロールに比べ Hg2+ に対し超感受性を示し、Hg2+ 取り込み量が増加し
た。pTPE21 を持つ大腸菌は pTP4 を持つ大腸菌に比べ、より多くの Hg2+ 取り込
み量を示したことから、MerT および MerP 存在下においても MerE は Hg2+ を込
むことが示唆された。また、著者の過去の研究から MerT-MerP による Hg2+ 取り込
み活性は、MerE-MerP による Hg2+ 取り込み活性に比べ約 1.5 倍高かった [94]。
これらのことから、MerT-MerP-MerE が発現した大腸菌において、MerT-MerP は主
に Hg2+ 取り込みを、MerE は主に CH3Hg+ 取り込みを担っていると示唆された。
Tn21 上の MerP は細胞間隙に存在する Hg2+ 結合タンパク質であるが、この
MerP と MerE の 相 互 作 用 に つ い て 次 に 検 討 し た 。 プ ラ ス ミ ド pPE62
(merR-o/p-merP-merE) を構築し、大腸菌に形質転換した。pPE62 をもつ大腸菌にお
いて merP および merE 遺伝子産物は粗抽出画分および膜画分において検出され
たことから、pPE62 を持つ大腸菌において、MerP および MerE タンパク質が発現
していることが明らかになった。MerP タンパク質は N 末端側の一部に膜貫通領域
を持つことから、今回の分離法では MerP タンパク質は不溶性画分である膜画分に
検出されたと考えられる。次に、pPE62、pE4 あるいは pKF19k(コントロール)
を持つ大腸菌を用いて水銀化合物取り込み量を測定したところ、pPE62 を持つ大腸
菌の CH3Hg+ 取り込み量は pE4 をもつ大腸菌とほぼ同等であり、コントロールに
比べ有意に増加した。また、pE4 をもつ大腸菌の Hg2+ 取り込み量がコントロール
に比べ有意に増加したのに対し、pPE62 を持つ大腸菌の Hg2+ 取り込み量は pE4 を
もつ大腸菌よりもさらに増加した。これらのことから、MerE による CH3Hg+ 取り
込みに MerP は関与しないが、MerE による Hg2+ 取り込みに MerP が関与するこ
とが示唆された。細胞間隙に存在する Hg2+ 結合タンパク質として知られる MerP
は、MerT による Hg2+ および C6H5Hg+ の取り込みに寄与することが明らかになっ
40
ていたが[65]、本研究では MerP が MerE による CH3Hg+ 取り込みに関与しない
ことを初めて明らかにした。これらの知見から、MerE をファイトレメディエーシ
ョンへ応用することを考えた場合、MerE は単独で CH3Hg+ および Hg2+ 取り込み効
果が期待できると考えられた。
41
A.
Plasmid
NR1 (R100)
94.5 kb
Kpn I
Pst I
merR
merR
merT merP
merC
o/p
merA
mer genes 4.6 kb
Pst I
merE
o/p
merD merE
lacZ
ori
B.
EcoR I
EcoR I
Kmr am2
Kpn I
Pst I
Kpn I
pKF19k
EcoR I
pKF19k
vector
+
merR CCE
merE
NR1
Tn21
CCE
Tn21
SF SF +MFMF2.3
kb
MM
o/p
Hg(II)
Hg(II)
Hg2+merR
+
ー ++
-ー+ +
- -ー
+merA++- -+
merT merP
merG
Plasmid pE4
merB1
merR
merB2
o/p
o/p
MerC
MerC
MerE
MerE
15 kDa
15 kDa
8 kDa
8 kDa
Plasmid
pMR26
CCE : Crude cell extracts
26 kb
SF : Soluble fractions
MF : Membrane fractions
M : Purified MerC or MerE protein
Fig. I-1 (A) Construction of NR1 (R100) plasmid. (B)
Western blot analyses of the transformant strain
with plasmid NR1 were performed using the antiMerC or anti-MerE polyclonal antibodies.
42
Plasmid
NR1 (R100)
94.5 kb
Kpn I
Pst I
merR
merR
merT merP
merC
merA
mer genes 4.6 kb
o/p
merE
o/p
merD merE
lacZ
ori
Pst I
EcoR I
EcoR I
Kmr am2
Kpn I
Pst I
+
merR
Kpn I
EcoR I
merE
o/p
merR
merT merP
+
pKF19k
vector
2.3 kb
merA
merG
pKF19k
Plasmid pE4
merB1
merR
merB2
o/p
o/p
Plasmid
pMR26
26 kb
Fig. I-2 Schematic representation of the procedures by which the
plasmid pE4 was constructed from plasmids NR1 and
pMR26.
43
merD
A.
Tn21 CCE SF
MF
M
pE4 - CCE
Hg(II)
+ - +SF - MF
+
M
2+
ー
+
ー
+
ー
+
Hg(II)
+
+
+
Hg
MerC
MerE
MerE
15 kDa
8 kDa
8 kDa
B.
1
MF
2
CCE : Crude cell extracts
SF : Soluble fractions
MF : Membrane fractions
M : Pulified MerE protein
Lane 1 : Reducing condition
Lane 2 : Non-reducing condition
Fig. I-3 Western blot analyses of the transformant strain with
recombinant plasmid pE4 were performed using the
anti-MerE polyclonal antibodies (A). Western blot
analyses in reducing/non-reducing conditions
with/without 2-mercaptoethanol for the membrane
fractions (MF) of the transformant strain with plasmid
pE4 (B). Lane M represents the purified MerE (8 kDa).
The arrows and curcles indicate MerE monomer (○)
and dimer (○○).
44
A. CH3Hg+
Inhibition Zone (mm)
20
15
**
**
**
**
*
10
Control
5
pE4
0
0
5
10
15
20
25
30
CH
(I)+ (nmol)
(nmol)
3Hg
CH
3Hg
B. Hg2+
Inhibition Zone (mm)
30
**
20
**
**
**
**
10
Control
pE4
0
0
50
100
150
200
2+ (nmol)
Hg(II)
Hg
(nmol)
Fig. I-4 The bacterial susceptibility to CH3Hg+ (A) or Hg2+ (B).
E. coli XL1-Blue with vector (△) or pE4 (■) was grown, prepared and
assayed (pH 7.0). All values represent the means of triplicate
determinations from three experiments. Values are expressed asmeans
± S.D. The asterisk indicates means that were significantly different
from the control value at the same time point (*P < 0.05, **P < 0.01, ttest).
45
Uptake (nmol / 2 x 109 cells)
A. CH3Hg+
0.8
**
**
0.6
0.4
0.2
Control
pE4
0.0
0
B.
Uptake (nmol / 2 x 10 9 cells)
*
0.5
1
1.5
2
Time (min)
Hg2+
2.0
*
1.5
**
1.0
**
0.5
Control
pE4
0.0
0
20
40
60
Time (min)
Fig. I-5 The bacterial uptake of 14CH3Hg+ (A) or Hg2+ (B).
E. coli XL1-Blue with vector (△) or pE4 (■) was grown, prepared and
assayed. All values represent the means of triplicate determinations from
three experiments. Values are expressed asmeans ± S.D. The asterisk
indicates means that were significantly different from the control value
at the same time point (*P < 0.05, **P < 0.01, t-test).
46
A. CH3Hg+
Uptake (nmol / 2×109 cells)
2.0
Control
*
pE4
1.5
**
1.0
**
0.5
**
**
0.0
5
6
7
8
9
Extracellular pH
B. Hg2+
Uptake (nmol / 2×109 cells)
2.0
**
Control
pE4
1.5
**
**
*
1.0
*
0.5
0.0
5
6
7
8
9
Extracellular pH
Fig. I-6 Effect of pH on bacterial uptake of 14CH3Hg+(A) or
Hg2+ (B).
E. coli XL1-Blue with vector (gray bar) or pE4 (pink bar) was grown, prepared
and assayed. All values represent the means of triplicate determinations from
three experiments. Values are expressed asmeans ± S.D. The asterisk indicates
means that were significantly different from the control value at the same time
point (*P < 0.05, **P < 0.01, t-test).
47
A. pE4
merR
merE
o/p
lacZ
ori
Kmr am2
pKF19k
MNAPDKLPPETRQPVSGYLWGALAVLTCPCHLPILAAVLAGTTAGAFLGEHWGVAALALTGLFVLAVTRLLRAFRGGS
Hydrophobicity
B.
H
C.
H
CC
5
Inner
membrane
Residue Position
1
D.
pE4
pEC28S
pEC30S
pEC28:30S
pEH31L
pEH51L
pEH31:51L
42
pE4
pEC28S
pEC30S
pEC28:30S
pEH31L
pEH51L
pEH31:51L
28
30 31
41
MNAPDKLPPETRQPVSGYLWGALAVLTCPCHLPILAAVLAG
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・S・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・S・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・S・S・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・L・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・L・・・・・・・・・・
1st TMD
51
78
TTAGAFLGEHWGVAALALTGLFVLAVTRLLRAFRGGS
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・L・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・L・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2nd TMD
Fig. I-7. Site-directed mutagenesis of the cysteine and histidine
residues of MerE.
(A) Construction of the plasmids pE4. (B) Sequence and topology
predictions for MerE. (C) Topological alignments of all the amino acids,
which were separated according to their predicted hydrophobic
(membrane-spanning) elements. (D) Amino acid sequences of MerE
and its variants. The putative transmembrane domains estimated using
the SOSUI hydropathy program are underlined. TMD, transmembrane
domain.
48
Fig. I-8 The method of point mutation using pKF19k vector.
(Hashimoto-gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271)
49
1
2
3
4
5
6
7
8
M
CCE
SF
MF
Lane 1 : pKF19k (control)
Lane 2 : pE4
Lane 3 : pEC28S
Lane 4 : pEC30S
Lane 5 : pEC28:30S
Lane 6 : pEH31L
Lane 7 : pEH51L
Lane 8 : pEH31:51L
Fig. I-9 Analysis of the expression of MerE variant proteins
using SDS-PAGE in reducing conditions.
Western blot analyses for the crude cell extracts (CCE), soluble
fractions (SF), and membrane fractions (MF) of the transformant
strain using polyclonal antibodies. Lane M represents the purified
MerE (8 kDa).
50
Uptake (nmol / 2 x 109 cells)
A. CH3Hg(I)
0.6
**
B. Hg(II)
**
*
**
##
##
0.4
*
1
##
##
##
##
##
##
##
**
0.5
0.2
0
0
Fig. I-10 Uptake of CH3Hg+ (A) and Hg2+ (B) by E. coli XL1Blue expressing MerE and its variants.
E. coli XL1-Blue with vector (empty bar), pE4 (black bar), pEC28S,
pEC30S and pEC28:30S (light gray shading), pEH31L, pEH51L and
pEH31:51L (gray shading) were grown, prepared, and assayed. All of the
values represent the means of triplicate determinations from three
experiments. The values are expressed as the means ± standard deviation.
*P < 0.05, **P < 0.01 vs control; #P < 0.05, ##P < 0.01 vs pE4.
51
R
T
P
Xba I
Pst I
Plasmid
NR1 (R100)
94.5 kb
T
R
P
o/p
C
A
D
Plasmid
pTP4
E
o/p
Xba I EcoR I
Pst I
Pst I
Xba I
Pst I
R
T
P
T
P
o/p
R
Xba I EcoR I
and
or
E
A
Xba I
EcoR I
R
T
pKF19k
vector
2.3 kb
and
G
P
E
o/p
Plasmid
pTPE21
B1
R
B2
D
o/p
o/p
Plasmid
pMR26
26.0 kb
Fig. I-11 A schematic representation of the construction of plasmids
pTP4 and pTPE21 from the plasmids NR1 and pMR26.
52
Kpn I
EcoR I
Kpn I
Pst I
merP merE
merR-o/p
Pst I
merR
Kpn I
merP merE
o/p
+
merR
merT merP merE
Plasmid
pR2
o/p
Plasmid
pPE62
Plasmid
pTPE21
Fig. I-12 A schematic representation of the construction of
plasmids pPE62 from the plasmids pTPE21 and pR2.
53
EcoR I
Inhibition Zone (mm)
A. CH3Hg+
30
**
20
**
**
10
**
B. Hg2+
**
30
**
**
**
** **
**
**
20
**
**
10
0
0
0
30
60
0
100
CH3Hg+(nmol)
Uptake (nmol/ 2x109 cells)
**
**
D. Hg2+
C. 14CH3Hg+
0.9
**
200
**
3.0
**
0.6
*
1.0
0.0
**
**
**
0.3
**
**
**
2.0
*
300
Hg2+(nmol)
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
0
Time (min)
20
40
60
Time (min)
Fig. I-13 A bacterial susceptibility to methylmercuric chloride
(A) or ercuric chloride (B), and bacterial uptake of
14CH Hg+ (C) or Hg2+ (D).
3
E. coli XL1-Blue with vector (△), pTP4 (○) and pTPE21 (■) were
grown, prepared and assayed. All values represent the means of
triplicate determinations from three experiments. The values are
expressed as the means ± S.D.. *P < 0.05, **P < 0.01 vs control.
54
1 2 3
anti MerE 8.0 kDa
pE4
anti MerE 8.0 kDa
pPE62
anti MerP 9.5 kDa
1 : Crude cell extracts
2 : Soluble fractions
3 : Membrane fractions
Fig. I-14 Western blot analyses of the transformant strain with
plasmid pE4 and pPE62 were performed using the antiMerE or anti-MerP polyclonal antibodies.
55
B. Hg2+
Uptake (nmol / 2x109 cells)
Uptake (nmol / 2x109 cells)
A. CH3Hg+
0.6
**
**
0.4
0.2
0
Control
pE4
**
1.0
*
0.5
0.0
Control
pPE62
pE4
pPE62
Fig. I-15 Uptake of CH3Hg+ (A) and Hg2+ (B) by E. coli XL1Blue expressing MerE and/or MerP.
E. coli XL1-Blue with vector (empty bar), pE4 (black bar) and pPE62
(gray bar) were grown, prepared and assayed. All values represent the
means of triplicate determinations from three experiments. The values
are expressed as the means ± standard deviation. *P < 0.05, **P < 0.01
vs control.
56
Ⅱ
MerE を利用したファイトレメディエーション
Ⅱ-1
材料および方法
Ⅱ-1-①
試薬・材料及び機器
I-1-① に記載した試薬・材料及び機器を使用した。
バーミキュライトは、刀川平和農園より購入した。Jiffy-7 は、サカタのタネより
購入した。ハイポネックスは、ハイポネックスジャパンより購入した。FTA Kit は、
Whatman より購入した。RNeasy Plant Mini Kit は、QIAGEN (Tokyo, JAPAN) より購
入した。Oligo (dT) 12-18 Primer 及び SuperScriptTMⅡ RNase H-Reverse Transcriptase は、
invitrogen より購入した。滅菌 2 号角シャーレは、栄研化学株式会社より購入した。
サージカルテープ -21N は、ニチバンより購入した。ARASYSTEM は、BM 機器よ
り購入した。灰化用試験管は、遠心沈殿管 (目盛付・キャップ付) を用い、IWAKI よ
り購入した。ミラクロスは、CALBIOCHEM より購入した。川本法に使用する CMC
ゲルや SCMM(GI)などは Leica より購入した。CF488 conjugated goat anti rabbit IgG
antibody は Biotium (CA, USA) より購入した。
プラスミド CaMV35S (S65T) -NOS3’ は、京都府立大学人間環境学部の佐藤雅彦准
教授より御恵贈頂いた。バイナリーベクター pMAT137 は、京都府立大学人間環境
学部の佐藤雅彦准教授より御恵贈頂いた。シロイヌナズナ Arabidopsis thaliana
Columbia は、東京大学大学院理学系研究科の杉山宗隆准教授より御恵贈頂いた。
コンフォーカルレーザースキャニング顕微鏡は、コンフォーカルスキャナー
Model CSU10 (Yokogawa Electric) 付きの蛍光顕微鏡 BX60 (Olympus) または green
HeNe アルゴンレーザー付きの蛍光顕微鏡 Zeiss LSM510 META/ LSM5 を用いた。ト
ランスジェニックシロイヌナズナの育成には、グロースチャンバ MLR-351 (SANYO)
を用いた。ミルサーは、800DG (岩谷産業株式会社) を使用した。根の長さの測定は、
COMCURVE-9Jr (Koizumi Sokki) を用いて行った。凍結ミクロトームは Leica CM1850
(Leica) を使用した。
57
Ⅱ-1-②
培地及び溶液の調製法
I-1-② に記載した方法で培地及び溶液の調製を行った。
1. 水銀化合物含有 GM 培地は、MES 0.5 g、ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類 4.6
g、MS ビタミン液 10 mL を精製水に溶解し、KOH 溶液で pH 5.7 に合わせた。
精製水を加えて 1 L とし、gellan gum 8 g を加えオートクレーブで滅菌した後、各
濃度になるように CH3HgCl あるいは HgCl2 を加えて固化させた。
2. sucrose 含有 MS 培地は、MES 0.5 g、sucrose 10 g、ムラシゲ・スクーグ培地用混
合塩類 4.6 g、MS ビタミン液 10 mL を精製水に溶解し、KOH 溶液で pH 5.7 に
合わせた。精製水を加えて 1 L とし、オートクレーブで滅菌した。
3. 1 M Tris-acetate (pH 7.5) は、Tris(hydroxymethyl)aminomethane 60.57 g を精製水に溶
解し、酢酸で pH 7.5 に合わせた。精製水を加えて 500 mL とし、オートクレーブ
で滅菌した。
4. 0.5 M EDTA・2Na (pH 7.5) は、EDTA・2Na 93.06 g を精製水に溶解し、NaOH 溶液で
pH 7.5 に合わせた。精製水を加えて 500 mL とした。
5. 5 × EDTA buffer は、1 M Tris-acetate (pH 7.5) 62.5 mL、D-sorbitol 56.94 g、EGTA 0.95
g、0.5 M EDTA・2Na (pH 7.5) 5 mL を精製水に溶解し、精製水を加えて 250 mL と
した後、フィルター濾過した。実験で使用する際に、5 × EDTA buffer を滅菌精製
水で 5 倍希釈し、Protease Inhibitor Cocktail Set IV を 1:300 の割合になるように添
加し、1 × EDTA buffer とした。
6. 5 × Resuspension buffer (+EDTA) は、1 M Tris-acetate (pH 7.5) 62.5 mL、sucrose 62.5 g、
0.5 M EDTA・2Na (pH 7.5) 2.5 mL を精製水に溶解し、精製水を加えて 250 mL とし
た後、フィルター濾過した。実験で使用する際に、5 × Resuspension buffer (+EDTA)
を滅菌精製水で 5 倍希釈し、1 × Resuspension buffer (+EDTA) とした。
7. enzyme solution は、1 M manitol 20 mL、100 mM EGTA 2.5 mL、cellulase Y-C 500 mg、
pectolyase Y-23 25 mg を滅菌精製水に溶解し、50 mL になるように調製した。
8. solution A は、1 M mannitol 20 mL、1 M CaCl2 3.5 mL、0.5 M MES (pH 5.7) 0.5 mL を
滅菌精製水に溶解し、50 mL になるように調製した。
9. MaMg は、1 M mannitol 4 mL、1 M MgCl2 150 µL、0.5 M MES 100 µL を滅菌精製
水に溶解し、10 mL になるように調製した。
58
10. DNA uptake solution は、1 M mannitol 4 mL、40% polyethylene glycol 6000 4 g、1 M
Ca(NO3)2 1 mL を常温で転倒混和して滅菌精製水に溶解し、10 mL になるように
調製した。
11. dilution solution は、1 M mannitol 20 mL、1 M CaCl2 6.25 mL、1 M KCl 0.25 mL、1
M glucose 0.25 mL、0.5 M MES 0.15 mL を滅菌精製水に溶解し、50 mL になるよう
に調製した。
12. Transformation Buffer は、CaCl2・2H2O 2.2 g、piperazine-N,N’-bis (2-ethanesulfonic
acid) 3 g 及び KCl 18.6 g を精製水に溶解した後、pH 6.7 に調整した。この溶液に
MnCl2・4H2O 10.9 g を加えて溶解した後、精製水で全量を 1 L とした。メンブラ
ンフィルター (0.45 µm) で濾過滅菌した後用いた。
13. ampicillin 含有 LB 寒天培地は、LB BROTH Base 20 g を精製水に溶解し、1 L と
した後、BactoTM Agar 15 g を加えてオートクレーブで滅菌し、ampicillin の終濃度
が 50 µg/mL になるように加えて固化させた。
14. ampicillin 含有 LB 培地は、LB BROTH Base 20 g を精製水に溶解し、1 L とした
後、オートクレーブで滅菌し、終濃度が 50 µg/mL になるよう ampicillin を加えて
調製した。
15. 殺菌液は、0.1% Tritron X-100 を含む 1% 次亜塩素酸ナトリウム溶液とした。
16. MS ビタミン液は、nicotinic acid 10 mg、thiamin hydrochloride 2 mg、pyridoxine
hydrochloride10 mg、myo-Inositol 2000 mg、glycine 40 mg を精製水に溶解し、200 mL
として調製した。
17. kanamycin 含有 GMA 培地は、MES 0.5 g、ムラシゲ・スクーグ (MS) 培地用混
合塩類
4.6 g、MS ビタミン液 10 mL を精製水に溶解し、KOH 溶液で pH 5.7 に
合わせた。精製水を加えて 1 L とし、agar powder 15 g を加えオートクレーブで滅
菌した後、終濃度が 50 µg/mL になるよう kanamycin を加えて固化させた。
18. TE-1 緩衝液は、0.5 M EDTA (pH 7.5) 60 µL 、0.2 M Tris-HCl (pH 7.8) 15 mL を精
製水に溶解し、300 mL とした後、オートクレーブで滅菌して調製した。
19. 20 × MTSB 溶液は、piperazine-N,N’-bis (2-ethanesulfonic acid) 302.5 g、MgSO4 24.5 g、
EGTA 38 g を精製水に溶解し、KOH 溶液で pH 7.0 に合わせた。精製水を加えて
1 L とし、フィルター濾過した。実験で使用する際に、20 × MTSB 溶液を滅菌精製
水で 20 倍希釈し、MTSB 溶液とした。
59
Ⅱ-1-③
水銀トランスポーター遺伝子 merE の植物培養細胞用ベクターへの組
換え
Fig. II-1 に 示 す よ う に 、 gfp 遺 伝 子 を 有 す る pUC18 系 統 ベ ク タ ー
CaMV35S-(S65T)-NOS3’ にプラスミド pE4 上の merE 遺伝子を組換えたプラスミ
ド pE18 を構築した。その後、大腸菌 XL1-Blue に形質転換した。
Ⅱ-1-③-1
プライマーの作製
プラスミド pE4 の塩基配列をもとに以下のプライマーを合成した。
U-Bgl-merE
: 5´GAAGATCTATGAACGCCCCTGACAAA3´
L-Kpn-merE
: 5´GGGGTACCTCATGATCCGCCCCGGAA3´
Ⅱ-1-③-2
PCR 法による merE 遺伝子の増幅
merE はプラスミド pE4 を鋳型とし、Ⅱ-1-③-1 に記載したプライマー
U-Bgl-merE と L-Kpn-merE を用いて、PCR 法に従い遺伝子を増幅させた。I-1
-④-2 と同様の方法で PCR 溶液を得た。
Ⅱ-1-③-3
Agarose gel 電気泳動法による遺伝子の検出
Ⅰ-1-④-3 と同様の方法で行った。
Ⅱ-1-③-4
遺伝子の精製
Ⅰ-1-④-4 と同様の方法で行った。
Ⅱ-1-③-5
遺伝子フラグメントの調製
II-1-③-6 に従い精製した DNA 試料溶液を制限酵素 Bgl II および Kpn I
を用いて 37 ℃で消化させた。I-1-④-5 と同様に遺伝子フラグメントを調製した。
60
Ⅱ-1-③-6
植物培養細胞用ベクターの調製
プラスミド CaMV35S-(S65T)-NOS3’ は、制限酵素 Bgl II および Kpn I で、37 ℃
で消化させ、I-1-④-6 と同様の方法でベクター溶液を得た。
Ⅱ-1-③-7
ライゲーション
各遺伝子フラグメントとベクターを 5:1 のモル比になるように混和した。以降
は I-1-④-7 と同様の方法で行った。遺伝子フラグメントとベクターが連結して
いることを agarose gel 電気泳動法により確認した。
Ⅱ-1-③-8
大腸菌 XL1-Blue への形質転換
大腸菌 ECOS Competent E.coli XL-1 Blue 50 µL に、Ⅱ-1-③-7 で作製したラ
イゲーション溶液 20 µL を加えて軽く撹拌した後、5 分間氷冷した。次に、42 ℃
で 45 秒間反応させた後軽く撹拌し、ampicillin 含有 LB 寒天培地に塗布し、37 ℃
で一晩培養し、コロニーを得た。
Ⅱ-1-③-9
ダイレクト PCR のためのプライマーの作製
プラスミド CaMV35S (S65T)-NOS3’ 上に存在するプロモーター CaMV35S 遺伝
子の塩基配列をもとに、primer 35S を、ターミネータ Tnos3’ 遺伝子の塩基配列を
もとに、primer Tnos をそれぞれ作製した。
Primer 35S
: 5´GATATCTCCACTGACGTAAGG3´
Primer Tnos
: 5´CCCATCTCATAAATAACGTCATG3´
Ⅱ-1-③-10
ダイレクト PCR 法による遺伝子の確認
Ⅱ-1-③-8 で得られた大腸菌のコロニーのダイレクト PCR において、以下
のプライマーの組み合わせを用いることにより、遺伝子の挿入の有無及び挿入され
た遺伝子の向きの確認を行った。プライマーの組み合わせの例は、Primer 35S 及び
61
Primer Tnos、U-Bgl-merE 及び Primer Tnos である。以降は、I-1-④-9 と同様
の方法で行った。
Ⅱ-1-③-11
遺伝子の確認
Ⅱ-1-③-10 で確認された遺伝子について、以下の方法で大腸菌からプラス
ミドを抽出した。Ⅱ-1-③-8 で得られたコロニーを ampicillin 含有 LB 培地 5
mL に植菌し、37 ℃で一晩振盪培養した。以降は I-1-④-7 と同様の方法でプ
ラスミドの回収を行った。得られた濾液を DNA 溶液とし、agarose gel 電気泳動法
を用いてプラスミドを検出した。次に、この DNA 溶液を制限酵素 Bgl II および
Kpn I で、37 ℃で 1 時間消化させた。反応生成物を agarose gel 電気泳動法を用い
て分離分析した。
Ⅱ-1-③-12
塩基配列の確認のためのプライマーの作製
gfp 遺伝子の 601 番目以降の塩基配列をもとに、gfp-601s を作製した。
gfp-601s
L-78-SYP121
Ⅱ-1-③-13
:
:
5’
TACCTGAGCACCCAGTCCGC3’
5’
3’
CCATCTGAACTCCGTCGCCA
組換えプラスミドの塩基配列の確認
Ⅱ-1-③-11 で得られた DNA 溶液を 2 µL、1.6 µM primer 2 µL、Big Dye 8 µL
に精製水を加え、全量を 20 µL とした。シークエンス PCR および反応溶液の精製
は I-1-④-11 と同様の方法で行った。プライマーは gfp-601s を使用し、遺伝子
配列の解析は ABI PRISM 310 Genetic Analyzer を用いて行った。
Ⅱ-1-④
組換えプラスミドのシロイヌナズナ培養細胞への形質転換
2 g のシロイヌナズナ培養細胞を enzyme solution 25 mL 中で 30 ℃、1 ~ 2 時間
培養し、フィルターろ過した。次に 25 mL の solution A でプロトプラストを 2 回
洗浄した。さらに 1 mL の MaMg で再懸濁し、100 mL のプロトプラスト溶液に、
62
Ⅱ-1-③ に記載した pE18 プラスミド 20 µg および carrier DNA 50 µg を加え、
400 µL の DNA uptake solution を添加した。このプラスミドを氷上で 20 分放置し、
dilution solution 10 mL を加え希釈した。プロトプラストは 0.4 M mannitol 含有 MS
培地 4 mL で再懸濁し、23 ℃で 16 時間穏やかに振盪した。
Ⅱ-1-⑤
シロイヌナズナ培養細胞における MerE タンパク質の観察
GFP 融合タンパク質の発現を観察する前処理として、0.4 M mannitol 及び 200
µM Brefeldin A を含む培地で、細胞を 2 時間培養した。細胞の蛍光観察は、コンフ
ォーカル顕微鏡を用いて行った。
Ⅱ-1-⑥
merE のバイナリーベクター pMAT137 への組換え
Fig. II-2 に示すように、バイナリーベクター pMAT137 にプラスミド pE4 上の
merE 遺伝子を組み換えたプラスミド pMAE2 を作製し、大腸菌に形質転換した。
Ⅱ-1-⑥-1
プライマーの作製
U-Not-merE
: 5´AAGGAAAAAAGCGGCCGCATGAACGCCCCTGACAAACT3´
L-Xba-merE
: 5´GCTCTAGATCATGATCCGCCCCGGAAGG3´
Ⅱ-1-⑥-2
PCR 法による遺伝子の増幅
merE は pE4 を鋳型とし、 II-1-⑥-1 に記載した組み合わせのプライマー
を用いて、I-1-④-2 と同様に PCR 法に従ってそれぞれの遺伝子を増幅させた。
Ⅱ-1-⑥-3
Agarose gel 電気泳動法による遺伝子の検出
I-1-④-3 と同様にして検出した。
63
Ⅱ-1-⑥-4
遺伝子の精製
I-1-④-4 と同様にして精製した。
Ⅱ-1-⑥-5
遺伝子フラグメントの調製
得られた DNA 試料溶液を制限酵素 Not I 及び Xba I で 37 ℃で一晩消化させ、
I-1-④-5 と同様の方法で遺伝子フラグメントを得た。
Ⅱ-1-⑥-6
ベクター pMAT137 の調製
バイナリーベクター pMAT137 は、制限酵素 Not I 及び Xba I で、37 ℃で 4 時
間消化させた。I-1-④-6 と同様の方法でベクター溶液を得た。
Ⅱ-1-⑥-7
ライゲーション
各遺伝子フラグメントとベクターを 5:1 のモル比になるように混和した。以降
は I-1-④-7 と同様の方法で行った。遺伝子フラグメントとベクターが連結して
いることを agarose gel 電気泳動法により確認した。
Ⅱ-1-⑥-8
大腸菌 XL1-Blue への形質転換
I-1-④-1 で作製した大腸菌 XL1-Blue Competent Cells 500 µL に、 II-1-⑥
-7 で作成したライゲーション溶液を加え、30 分間氷冷した。次に、この溶液を
42 ℃で 50 秒間保温後、5 分間氷冷した。さらに、SOC 培地 300 µL を加えて、
37 ℃で 50 分間振盪培養した。この培養液を kanamycin 含有 LB 寒天培地に塗布
し、37 ℃で二晩培養してコロニーを得た。
Ⅱ-1-⑥-9
ダイレクト PCR のためのプライマーの作製
プ ラ ス ミ ド pMAT137 の 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を も と に 、 U-pMAT259 と
L-pMAT582 をそれぞれ作製した。
64
U-pMAT259
:
5’
L-pMAT582
:
5’
Ⅱ-1-⑥-10
ATTTGGAGAGGACGACTGCAGATC 3’
AGATCGCATGACCCTAAAGCAAT
3’
ダイレクト PCR 法による遺伝子の確認
Ⅱ-1-④-9 と同様にして、以下のプライマーの組み合わせを用いることによ
り、遺伝子の挿入の有無及び挿入された遺伝子の向きの確認を行った。プライマー
の組み合わせは、U-pMAT259 及び L-pMAT259、U-Not-merE 及び L-pMAT259 で
ある。
Ⅱ-1-⑥-11
遺伝子の確認
II-1-⑥-10 で確認された遺伝子について、Ⅱ-1-④-10 と同様にして
DNA 溶液を得た。ただし、 II-1-⑥-8 で得られたコロニーの振盪培養には
kanamycin 含有 LB 培地を使用した。この DNA 溶液を DNA 試料溶液とし、
agarose gel 電気泳動法によりプラスミドの検出を行った。次に、この DNA 試料溶
液を制限酵素 Not I 及び Xba I で消化した後、agarose gel 電気泳動法を用いて分離
分析した。
Ⅱ-1-⑥-12
組換えプラスミドの塩基配列の確認
II-1-⑥-11 で得られた DNA 試料溶液について、I-1-④-11 と同様にし
て塩基配列を確認した。プライマーは U-pMAT259, L-pMAT582 および U-Not-merE
を使用した。
Ⅱ-1-⑦
組換えプラスミドのアグロバクテリウムへの形質転換及びシロイヌナ
ズナへのアグロバクテリウムの感染
II-1-⑥-12 で組換えプラスミドの塩基配列が確認されたプラスミドを用い、
インプランタイノベーションズ(株)によるシロイヌナズナ形質転換受託システム
を利用し、merE 組換えたシロイヌナズナの T1 種子をそれぞれ得た。
65
Ⅱ-1-⑧
トランスジェニック植物の育成および選抜
Ⅱ-1-⑧-1
トランスジェニック植物の育成および選抜
II-1-⑦ で得られた T1 種子を無菌操作にて殺菌液に分散させ、10 分置き、
滅菌精製水で 3 回洗浄した。次に、kanamycin 含有 GMA 培地のシャーレに少量
の水とともに種子を蒔いた。サージカルテープで封をし、22 ℃、15,000 ルクス、
16 時間明期条件下発芽させた。種子を蒔いてから 10 ~ 12 日後に、kanamycin 含
有 GMA 培地上で発芽している遺伝子組換え体については ARASYSTEM を用い
て土への植え替えを行った。プラスチックポットの 8 分目までバーミキュライト
を入れ、その上に水で戻した Jiffy-7 を重ね、根や葉への損傷に注意し、遺伝子組
換え体の植え替えを行った。22 ℃、15,000 ルクス、16 時間明期条件下育成した。
1000 倍希釈したハイポネックスを一週間に一度与えた。種子を蒔いてから約 1 ヵ
月後に、ゲノム PCR 及び RT-PCR に使用する葉を採取した。ゲノム PCR に用い
る葉については、採取してすぐに FTA Kit のプラントセーバーカードにアプライし
た。種子を蒔いてから約 2 ヶ月後に、T2 種子を得た。
Ⅱ-1-⑧-2
トランスジェニック植物(T1 世代)における merE 遺伝子の確認
(ゲノム PCR)
FTA Kit (Whatman) を使用した。FTA プラントセーバーカードに II-1-⑧-1
で採取した葉をアプライし、室温で約 1 時間乾燥させた。次に、直径 2.0 mm の
ディスク状に打ち抜き、PCR 用チューブに入れ、FTA 精製試薬 200 µL で 3 回洗
浄した。さらに、TE-1 緩衝液 200 µL で 2 回洗浄し、室温で乾燥させた。ディス
クに固定化されているゲノム DNA を鋳型とし、PCR reaction buffer 2 µL、2.5 mM
dNTP 混合液 1.6 µL、10 µM upper primer 及び lower primer 各 1 µL、Ex Taq TM 0.5
µL に精製水を加え、全量を 20 µL とした。プライマーの組み合わせの例は、
U-321NPTⅡ及び L-1109NPTⅡ、U-Not-merE 及び L-Xba-merE である。94 ℃にて
30 秒、次いで 52 ℃または 58 ℃にて 60 秒、72 ℃にて 60 秒のサイクルを 40
回繰り返し反応させ、これを PCR 溶液とした。得られた PCR 試料溶液 10 µL を
agarose gel 電気泳動法により検出した。プラスミド pMAT137 上に存在する
kanamycin 耐性遺伝子 NOS-NPTⅡ 遺伝子の塩基配列をもとに作製したプライマ
66
ーは以下の通りである。
U-321NPTⅡ
:
5’
L-1109NPTⅡ
:
5’
Ⅱ-1-⑧-3
ATTGAACAAGATGGATTGCA 3’
GAAGAACTCGTCAAGAAGGC
3’
トランスジェニック植物(T2 世代)の育成および選抜
II-1-⑧ で得られた T2 種子を播種し、kanamycin 培地で選抜した。種子を蒔
いてから約 1 ヵ月後に、ゲノム PCR 及び RT-PCR に使用する葉を採取した。種
子を播いてから約 2 か月後に T3 種子を得た。
Ⅱ-1-⑧-4
トランスジェニック植物(T2 世代)における merE 遺伝子の確認
II-1-⑧-2 と同様にして、T2 世代のトランスジェニック植物における merE
遺伝子のゲノムへの組換えを確認した。
Ⅱ-1-⑧-5
トランスジェニック植物(T3 世代)の育成および選抜
II-1-⑧-3 で得られた T3 種子を播種し、kanamycin 培地で選抜した。種子
を蒔いてから約 1 ヵ月後に、ゲノム PCR 及び RT-PCR に使用する葉を採取した。
RT-PCR に用いる葉については、1 サンプルあたり 80 ~ 100 mg になるように重
量を測定し、洗浄、風乾した後、液体窒素で凍らせ、-80 ℃で凍結保存した。種子
を播いてから約 2 か月後に T4 種子を得た。
Ⅱ-1-⑧-6
トランスジェニック植物(T3 世代)における merE 遺伝子の確認
II-1-⑧-2 と同様にして、T3 世代のトランスジェニック植物における merE
遺伝子のゲノムへの組換えを確認した。
67
Ⅱ-1-⑨
トランスジェニック植物(T3 世代)における merE 遺伝子の発現
Ⅱ-1-⑨-1
葉の凍結粉砕
II-1-⑧-5 で凍結保存した葉を乳鉢及び乳棒を用い、液体窒素で凍らせなが
ら粉砕した。粉末状になった葉をエッペンドルフチューブに入れ、-80 ℃で凍結保
存した。
Ⅱ-1-⑨-2
total RNA の抽出
RNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN) を使用した。II-1-⑨-1 で得られた粉末状
の凍結組織に β-Mercaptoethanol 4.5 µL を含む RLT 緩衝液 450 µL を添加し、激し
く撹拌した。ライセートを QIAshredder スピンカラムに移し、室温で 15,000、2 分
間遠心分離した。濾液の上清を 100% Ethanol 200 µL を加え、直ちに混和した。次
に、RNeasy スピンカラムに移し、室温で 15,000 rpm、15 秒間遠心分離した。濾液
除去し、RW1 緩衝液 700 µL を加えて、室温で 15,000 rpm、15 秒間遠心分離した。
濾液除去し、RPE 緩衝液 500 µL を加えて、室温で 15,000 rpm、15 秒間遠心分離
した。濾液除去し、RPE 緩衝液 500 µL を加えて、室温で 15,000 rpm、2 分間遠心
分離した。次に、カラムを新しいフチューブにセットし、RNase フリー水 50 µL を
加え、室温で 15,000 rpm、1 分間遠心分離した。得られた濾液を再度カラムに戻し、
室温で 15,000 rpm、1 分間遠心分離した。得られた濾液を total RNA 溶液とし、
-80 ℃で凍結保存した。
Ⅱ-1-⑨-3
RT-PCR 法による目的遺伝子の mRNA の確認
II-1-⑨-2 で得られた total RNA を鋳型とし、逆転写反応を行った。鋳型
total RNA 2.5 µg 及び Oligo (dT) 12-18 Primer 0.5 µL を混ぜ、軽く撹拌し、65 ℃にて
5 分反応させた。First-Strand Buffer 2 µL、10 mM dNTP 混合液 1 µL、0.1 M DTT 1 µL、
SuperScriptTMⅡ RNase H-Reverse Transcriptase 0.5 µL を加えた。42 ℃にて 50 分、
次いで 70 ℃にて 15 分反応させた。得られた反応溶液を cDNA 溶液とし、-80 ℃
で凍結保存した。次に、得られた cDNA を鋳型とし、PCR 反応を行った。反応溶
液の組成は、鋳型 cDNA 1 µL、PCR reaction buffer 5 µL、2.5 mM dNTP 混合液 4 µL、
68
100 µM upper primer 及び lower primer 各 1 µL、Ex Taq TM 0.5 µL に精製水を加えて
全量を 50 µL とした。プライマーの組み合わせの例は、β-ACT-Fd 及び β-ACT-Rv、
U-Not-merE 及び L-Xba-merE である。95 ℃にて 30 秒、次いで 57 ℃にて 30 秒、
72 ℃にて 60 秒のサイクルを 40 回繰り返し反応させた。得られた PCR 試料溶
液 5 µL を agarose gel 電気泳動法により検出した。シロイヌナズナのゲノム上に
存在する β-Actin 遺伝子の塩基配列をもとに作製したプライマーは以下の通りで
ある。
β-ACT-Fd
:
5’
β-ACT-Rv
:
5’
CAACTGGGACGACATGGAGA 3’
GATCCACATCTGCTGGAAGG
3’
Ⅱ-1-⑨-4 タンパク質の抽出
II-1-⑧ で得られた T3 種子 (約 100 個) を無菌操作にて殺菌液に分散させ、
10 分置き、滅菌精製水で 3 回洗浄した。消毒した種子を 300 mL 三角フラスコに
入れた Sucrose 含有 MS 培地 100 mL 中に分散させ、遮光した状態で 4 ℃、2 日
間培養した。その後、暗室に移し、22 ℃、2 週間振盪培養した。得られた植物体
を回収し、ミラクロスで軽く水気を取った後、重量測定を行った。重量 (g) の 1.5
倍量の EDTA buffer (mL) を添加し、ミルサーでよくホモジナイズした後、氷上の 2
mL チューブに分注し、4 ℃、15,000 rpm、10 分間遠心分離した。得られた上清を
Sup-1 とした。その上清を氷上の超遠心用チューブに 3 mL ずつ分注し、4 ℃、
50,000 rpm、30 分間超遠心にかけた。得られた上清を Sup-2 とし、沈殿物を ppt-2
とした。ppt-2 を Resuspension buffer (+EDTA) 300 µL で再懸濁した。ここで得ら
れた Sup-1、Sup-2、ppt-2 懸濁液を用いて Western blotting を行った。
Ⅱ-1-⑨-5 Western blotting
II-1-⑨-4 で得られた Sup-1、Sup-2 または ppt-2 懸濁液それぞれと 4 ×
Sample Buffer を 3 : 1 の割合で混合し、95 ℃で 7 分間反応させた後、支持体であ
る SDS polyacrylamide gel にアプライした。また、ポジティブコントロールとして
は MerE の精製品を用い、上述と同様に処理をした後、1 × Sample Buffer で希釈し、
アプライした。I-1-③-2 と同様の方法で SDS-PAGE から ECL 検出まで行なった。
69
Ⅱ-1-⑩ トランスジェニック植物(T3 世代)における MerE タンパク質の観察
Ⅱ-1-⑩-1 merE トランスジェニック植物の葉の凍結包埋(川本法 [74])
採取した葉を専用包埋剤(CMC ゲル)と共に包埋容器に入れ、包埋容器全体を窒
素で -100 ℃に冷却した pentane 中に沈め、急速凍結した。完全に凍結した後、凍
結包埋ブロックを取り出し、試料ホルダーに強く押し付け接着固定させた。
Ⅱ-1-⑩-2
免疫染色
試料ホルダーを凍結ミクロトームに取り付け、薄切面に粘着フィルムを貼付し、
一定の速度でゆっくりと 20 μm の厚さに薄切した。凍結切片を 100% ethanol に 1
分間浸し、次に 4% paraformaldehyde に 1 分浸し固定した。その後、MTSB で 2 回
洗浄した。MTSB + 0.1% Tween 20 溶液を滴下し 10 分間、MTSB を滴下し 10 分
間放置する操作を 3 回繰り返した。その後、500 倍希釈 anti MerE antibody を滴下
し、4 ℃の条件下一晩暗所で反応させた。一晩放置後、0.1% Tween-20 を含む MTSB
で 3 回洗浄した。250 倍希釈 CF488 conjugated goat anti rabbit IgG antibody を滴下
し、4 ℃の条件下で暗室に 3 時間放置し反応させた。反応後、0.1% Tween-20 を含
む MTSB で 3 回洗浄し、免疫染色した試料を SCMM(GI) で封入処理し、蛍光顕
微鏡で観察した。
Ⅱ-1-⑪ トランスジェニック植物(T3 世代)における水銀化合物耐性の評価
II-1-⑧ で得られた T3 種子を無菌操作にて殺菌液に分散させ、10 分置き、
滅菌精製水で 3 回洗浄した。次に、種々の濃度の CH3HgCl あるいは HgCl2 を含
む GM 培地プレートに種子を 60 粒ずつ蒔いた。サージカルテープで封をし、22 ℃、
15,000 ルクス、16 時間明期条件下、2 週間育成した。その後、生重量を指標とし
て耐性評価を行った。その後、生重量及び根の伸長を指標として耐性評価を行った。
70
Ⅱ-1-⑫
トランスジェニック植物 (T3 世代) における水銀化合物蓄積の評価
II-1-⑧ で得られた T3 種子を無菌操作にて殺菌液に分散させ、10 分置き、
滅菌精製水で 3 回洗浄した。次に、種々の濃度の CH3HgCl あるいは HgCl2 を含
む GM 培地に種子を 60 粒ずつ蒔いた。サージカルテープで封をし、22 ℃、15,000
ルクス、16 時間明期条件下、2 週間育成した。生育した植物体を回収し、洗浄及
び風乾を行い、乾燥試料を灰化用試験管に移して、Nitric Acid を 1 mL 加え、90 ℃
で 2 時間湿式灰化した。そして、HG-310 形水銀測定装置 (平沼産業) を用いて、
還元気化原子吸光光度法によりトランスジェニックシロイヌナズナ内に蓄積した
Hg2+ 量を測定した。
Ⅱ-1-⑬
統計学的解析
有意差検定は、危険率 5% あるいは 1% で Student の T 検定を行った。
71
結果
II-2.
II-2-①
MerE トランスジェニック植物の作出
MerE タンパク質のシロイヌナズナ培養細胞内における局在を検討するために、
Fig. II-1A に示す組換えプラスミドを作製した。蛍光の指標としては、オワンクラ
ゲより抽出された 27 kDa のタンパク質であり、励起光のみで自ら緑色の蛍光を発
する性質を持つ Green fluorescent protein (GFP) を用いた。II-1-③ に記載した鋳
型とプライマーの組合せで、merE 遺伝子を増幅させた。merE 遺伝子を植物培養細
胞用ベクター CaMV35S-(S65T)-NOS3’ の Bgl II および kpn I サイトに組換え、プ
ラスミド pE18 を構築した。植物培養細胞用ベクターに組換えた merE 遺伝子の塩
基配列が正常であることを確認し、プラスミド pE18 をシロイヌナズナ培養細胞に
形質転換した。pE18 を持つシロイヌナズナ培養細胞内における GFP の蛍光観察
を行った結果を Fig. II-1B に示した。MerE に GFP を融合させたときのシロイヌ
ナズナ培養細胞における発現を調べたところ、細胞膜において蛍光が観察された。
また、一部は細胞質において蛍光が検出された。
シロイヌナズナ培養細胞における MerE の発現が確認されたことから、次に
merE 遺伝子をシロイヌナズナに導入し、実際に植物の水銀化合物蓄積性が向上す
るか検証することとした。merE トランスジェニック植物の作出の為、バイナリー
ベクター pMAT137 に merE 遺伝子を組換えたプラスミドを、Fig. II-2 に示した順
序で作製した。まず、遺伝子の増幅は II-1-⑥-1 に記載した鋳型とプライマー
の組合せで行った。次に、merE 遺伝子をバイナリーベクター pMAT137 の Not I お
よび Xba I サイトに組換え、プラスミド pMAE2 を構築した。バイナリーベクタ
ーに組換えた merE 遺伝子の塩基配列が正常であることを確認した。
次に、インプランタイノベーションズ (株) によるシロイヌナズナ形質転換受託
システムを利用し、merE トランスジェニック植物を作製した。すなわち、pMAE2
プラスミドを Agrobacterium tumefaciens (アグロバクテリウム) へ形質転換し、floral
dip 法[77]を用いて アグロバクテリウムを Arabidopsis thaliana (シロイヌナズナ)
に感染させ、遺伝子を導入した。merE 遺伝子を形質転換したシロイヌナズナの第
一世代種子 (T1 種子) を得た。トランスジェニック植物の世代については Fig. II-3
に示した。
得られた T1 種子を消毒し、無菌操作にて kanamycin 含有 GMA 培地に蒔いた。
72
遺伝子が導入された種子のみが kanamycin 選択培地で発芽し、その後大きく成長
することを指標として、遺伝子組換え体を選抜した。Fig. II-4 に示した様に、非組
換え株は kanamycin 含有 GMA 培地上で発芽するが、その後生育が止まった。一
方、遺伝子組換え株は他よりも明らかに大きな地上茎が観察された。merE トラン
スジェニック植物の T1 世代における遺伝子組換え体獲得率は 0.4% (11 株/ 2692
株) であった (Fig. II-3)。得られた遺伝子組換え体 11 株 (E1~11) 全てを土に植え
替え、育成した。11 株の全てにおいて葉が採取でき、11 株中 10 株 (E2~11) の T2
種子を収穫した。E1 株の種子は殆ど得られなかった。次に、これらの遺伝子組換
え株を土に植え替え、22 ℃、15,000 ルクス、16 時間明期条件下育成した。植物体
の葉を用いて、ゲノム PCR により merE トランスジェニック植物の T1 世代におけ
る merE 遺伝子のゲノムへの組換えを確認した (Fig. II-5A)。上段は merE 領域を、
下段は kanamycin 耐性遺伝子である NOS-NPTⅡ 領域を増幅させた結果である。
merE トランスジェニック植物では、11 株全てにおいて merE および NPTⅡ のバ
ンドが検出された。以上の結果より、merE トランスジェニック植物 (E1~11) は T1
世代において merE 遺伝子がゲノムに組換えられていることが明らかとなった。T2
世代に実験を進めるにあたり、10 株 (E2~11) を選抜した。
T1 世代で選抜された 10 株の merE トランスジェニック植物 (E2~11) の T2 種
子(約 50 から 100 個)を消毒し、無菌操作にて kanamycin 含有 GMA 培地に蒔
いた。その結果、merE トランスジェニック植物の T2 世代における遺伝子組換え
体獲得率は T1 世代に比べ上昇し、10 株中 5 株 (E3, E4, E5, E6, E7) は 10% 以上、
4 株 (E2, E8, E9, E11) はそれぞれ 8%、4%、1%、9% であった。一方、E10 株の
遺伝子組換え体獲得率は 0% であった。次に、10 株中 9 株の遺伝子組換え体を土
に植え替え、22 ℃、15,000 ルクス、16 時間明期条件下育成した結果、9 株 (E2
~9, E11) 全てにおいて葉と T3 種子を収穫した。植物体の葉を用いて、ゲノム PCR
により merE トランスジェニック植物の T2 世代における merE 遺伝子のゲノムへ
の組換えを確認した (Fig. II-5B)。merE トランスジェニック植物 (E2~9, E11) は、9
株全てにおいて merE および NPTⅡ のバンドが検出されたことから、T2 世代に
おいても merE 遺伝子がそれぞれゲノムに組換えられていることが確認された。T3
世代に実験を進めるにあたり、葉や T2 種子の採取量が安定していること、遺伝子
がゲノムに組換えられていることを指標に 6 株 (E2~7) を選抜した。これらの選抜
した株の T3 世代における merE 遺伝子の発現について検討した。
merE トランスジェニック植物 (E2~7) の T3 種子 (約 50 から 100 個) を消毒
73
し、無菌操作にて kanamycin 含有 GMA 培地に蒔いた。T3 世代における merE ト
ランスジェニック植物の遺伝子組換え体獲得率は、6 株中 3 株 (E2, E6, E7) は
50% 以上、2 株 (E3, E5) は 15% 以上 50% 未満、1 株 (E4) は 5% となった。次
に、これらの遺伝子組換え体を土に植え替え、22 ℃、15,000 ルクス、16 時間明期
条件下育成した結果、6 株 (E2-7) 全てにおいて葉と T4 種子を獲得した。植物体
の葉を用いて、ゲノム PCR により merE トランスジェニック植物の T3 世代におけ
る merE 遺伝子のゲノムへの組換えを確認した (Fig. II-6A)。merE トランスジェニ
ック植物 (E2~7) は、6 株全てにおいてバンドが検出されたことから、merE 遺伝
子を保持していることが明らかとなった。次に、RT-PCR 法により merE トランス
ジェニック植物の T3 世代における merE 遺伝子の発現を mRNA レベルで確認
した (Fig. II-6B)。それぞれ上段は merE 領域を、下段は内部標準として β-actin 領
域を増幅させた結果である。merE トランスジェニック植物では、6 株 (E2~7) 全
てにおいて merE および β-actin のバンドが検出され、ゲノムに組換えられた
merE 遺伝子が植物体内で mRNA として発現することが明らかになった。以上の
結果より、植物の活性評価に用いる merE トランスジェニック植物を 1 株選抜す
ることにした。野生株と同等の発生・分化・生育を示し、遺伝子組換え体獲得率や
葉および T3 種子の採取量が安定していること、merE 遺伝子がゲノムに組換えら
れ、
mRNA に転写されていることを指標に merE トランスジェニック植物の E2 株
を選抜した。
前述の II-1-⑤での評価により、MerE タンパク質はシロイヌナズナ培養細胞内
の細胞膜および細胞質に発現していた。シロイヌナズナ培養細胞で調べた局在は、
通常シロイヌナズナ植物体においても同一の細胞内局在を示す可能性が高いと考
えられている。しかし、実際に遺伝子組換えを行ったトランスジェニック植物にお
ける細胞内局在を調べることは重要である。そこで、merE トランスジェニック植
物の T3 種子を用いて、MerE タンパク質のシロイヌナズナ植物体における細胞内
局在を調べることにした。まず、川本法により得られた植物の葉の凍結切片を、anti
MerE antibody および anti rabbit IgG, HRP linked antibody を用いて免疫染色した結
果を Fig. II-7 に示した。野生株の切片において、二次抗体由来の蛍光が観察されな
かったのに対し、E2 株の切片においては緑色蛍光が観察された。これらのことか
ら、E2 株のみで MerE が発現していることを明らかにした。本結果からは切片上の
局在部位について断定はできないが、維管束近傍に強い蛍光が認められた。さらに
詳しい発現部位を検討するため、野生株と T3 世代の E2 株からタンパク質を抽出
74
した。anti MerE antibody を用いた Western blotting により MerE タンパク質の検出
を行った (Fig. II-8)。E2 株の粗抽出画分と膜画分において 8 kDa の MerE タンパ
ク質が検出された。一方、可溶性画分においてはバンドが検出されなかった。これ
らのことから、E2 株において merE 遺伝子は MerE タンパク質へ転写・翻訳され
ていることが示された。
II-2-② MerE トランスジェニック植物の水銀化合物に対する耐性および蓄積性
merE トランスジェニック植物の E2 株の T3 種子を用い、水銀化合物に対する
耐性評価および蓄積量の測定を行った。まず、野生株と merE トランスジェニック
植物の CH3Hg+ および Hg2+ に対する耐性について検討した。0.3 µM CH3Hg+ ある
いは 5 µM Hg2+ 存在下および水銀化合物非存在下の植物の生育写真を、Fig. II-9A
に示した。水銀化合物非存在下に比べ、0.3 µM CH3Hg+ あるいは 5 µM Hg2+ 存在下
では野生株の根および葉の生育が著しく阻害された。また、0.3 µM CH3Hg+ 存在下
において、E2 株の根の生育は野生株とほぼ同等であったが、葉の生育は野生株よ
り良好であった。一方 5 µM Hg2+ 存在下において、E2 株の根および葉の生育はと
もに野生株より良好であった。次に、野生株の水銀化合物非存在下における生重量
を 100% とした際の、0.3 µM CH3Hg+ あるいは 5 µM Hg2+ 存在下における植物の
生重量の割合を評価した結果を Fig. II-9B に示した。水銀化合物非存在下に比べ、
0.3 µM CH3Hg+ あるいは 5 µM Hg2+ 存在下では野生株の生重量は著しく減少し
50% 以下になった。また、0.3 µM CH3Hg+ 存在下において E2 株の生重量は野生
株に比べ約 2 倍重かった。一方、5 µM Hg2+ 存在下において E2 株の生重量は野
生株に比べ約 1.5 倍有意に重かった。また、植物の根の伸長を評価した結果を、Fig.
II-9C に示した。水銀化合物非存在下に比べ 0.3 µM CH3Hg+ あるいは 5 µM Hg2+
存在下では野生株の根の伸長は減少した。0.3 µM CH3Hg+ 存在下において、 E2 株
の根の伸長は野生株とほぼ同等であったが、5 µM Hg2+ 存在下では E2 株の根の伸
長は野生株に比べ約 1.5 倍有意に増長した。これらのことから、merE トランスジ
ェニック植物では、CH3Hg+ および Hg2+ に対する耐性が野生株に比べて上昇する
傾向がみられた。
次に、植物の CH3Hg+ および Hg2+ 蓄積量を還元気化原子吸光光度法により測定
した。Fig. II-10A のグラフの縦軸は、植物 1 個体 あたりの CH3Hg+ あるいは Hg2+
蓄積量を Hg2+ (ng/plant) として表し、Fig. II-10B のグラフの縦軸は生重量 1 mg あ
75
たりの CH3Hg+ あるいは Hg2+ 蓄積量を Hg2+ (ng/mg) として表した。Fig. II-10A
より、E2 株の植物 1 個体あたりの CH3Hg+ 蓄積量は野生株に比べ約 2 倍有意に
増加した。また、E2 株の植物 1 個体あたりの Hg2+ 蓄積量は野生株に比べ約 1.5
倍有意に増加した。一方、Fig. II-10B より生重量 1 mg あたりの CH3Hg+ 蓄積量あ
るいは Hg2+ 蓄積量では E2 株と野生株の間で有意な差は見られなかった。これら
のことから、merE トランスジェニック植物は、野生株に比べて生重量 1 mg あた
りの CH3Hg+ 蓄積量 および Hg2+ 蓄積量に有意差は見られないものの、植物 1 個
体あたりの CH3Hg+ 蓄積量および Hg2+ 蓄積量が野生株に比べて増加することが明
らかになった。
76
II-3.
考察
これまでに、ジョージア大学の Meagher ら [82-87] を筆頭にカリフォルニア大
学の Ruiz ら [88, 89] や台湾の国立中興大学の Huang ら [90] などのグループが
水銀のファイトレメディエーションに適するトランスジェニック植物の創生を試
みてきた。その多くは水銀レダクターゼである MerA や有機水銀分解酵素である
MerB を利用したエンジニアリングであり、土壌中の水銀化合物を植物に吸収させ、
金属水銀として葉から大気中へ拡散させていた。しかし、大気中に放出された金属
水銀は再び他の土壌を汚染する懸念があった。この問題を解決する為に水銀高蓄積
植物の分子育種が必要であると考えた。そこで著者は、水銀回収・蓄積能を付加さ
せた植物の創生により、水銀汚染土壌の浄化および本トランスジェニック植物体か
らの水銀回収・リサイクルが可能であると考えた。モデル植物である Arabidopsis
thaliana (シロイヌナズナ)は全ゲノムが解読されており遺伝子組換えが容易である
だけでなく、1 世代が約 2 ヶ月と生育が早く、密集して生育できるためバイオマ
スが大きく浄化効率が良いと考えられた。また、シロイヌナズナではファイトケラ
チンが非特異的に金属イオンを捕捉するため、Hg2+ 耐性にも関与することが知ら
れている [91, 92]。しかし、CH3Hg+ 耐性や選択的な Hg2+ あるいは CH3Hg+ 輸送
因子は見つかっていない。そこで、細菌由来の CH3Hg+ および Hg2+ トランスポー
ターである MerE をシロイヌナズナに発現させた merE トランスジェニック植物を
作出し、水銀化合物に対する耐性および蓄積性を検討した。
まず、MerE のシロイヌナズナ培養細胞内における局在を検討するために、植物
培養細胞用ベクターに merE 遺伝子を組換えたプラスミド pE18 を構築し、シロイ
ヌナズナ培養細胞内に形質転換した。プラスミド pE18 をもつシロイヌナズナ培養
細胞内における GFP の蛍光観察を行った結果、GFP-MerE の一部は細胞質に、一
部は細胞膜への移行が観察された。これまでに、MerE は細菌内において細胞膜に
存在する膜タンパク質であることが明らかになっていたが、シロイヌナズナ培養細
胞においては細胞膜および一部細胞質に発現することが示唆された。細胞質での詳
細な発現部位は、今後オルガネラマーカー等を用いて共染色することによって検討
する必要がある。また、水銀化合物取り込み機能を有する MerE が細胞膜に発現し
ていたことから、水銀化合物蓄積性を向上させる上で有用であると考えられた。こ
れらの知見から、MerE を用いることで水銀化合物高蓄積植物の作出が実現可能で
あると推測された。
77
次に、merE トランスジェニック植物を作製した。バイナリーベクター pMAT137
に merE 遺伝子を組換えたプラスミドを構築し、アグロバクテリウムを介して植物
に形質転換し、T1 種子を収穫した。kanamycin 培地で遺伝子組換え株と非組換え株
の選抜を行なったところ、11 株の形質転換体を獲得した。merE トランスジェニッ
ク植物の T1 世代における遺伝子組換え体獲得率は 0.4% であった。11 株の全て
において葉の採取ができ、11 株中 10 株(E2~11)で T2 種子の収穫ができた。こ
れら 11 株全てにおいて merE 遺伝子が植物ゲノムに組換えられていることが示さ
れた。その後、T2 および T3 世代の種子を収穫するとともに、merE 遺伝子を植物
ゲノムに保持し、野生株と同様の発生・分化・生育を示した系統を 6 株 (E2~7) 選
抜した。次に T3 種子から育成した植物体を用いて RT-PCR 法により遺伝子の発現
を mRNA レベルで確認したところ、6 株全てにおいて merE 遺伝子が植物内で
mRNA として発現することが明らかになった。これら 6 株を表現型および mRNA
の発現は同等であった。また、6 株を水銀化合物でスクリーニングしたところ、E2
株の水銀化合物取り込み量が最も多くなったことから以降の検討には E2 株を用
いることにした (data not shown)。
トランスジェニック植物体における MerE の細胞内局在を調べるため、植物体の
葉の凍結切片を作製し、免疫染色によりタンパク質発現を調べたところ、E2 株の
切片のみで緑色蛍光が観察され、野生株の切片では観察されなかった。これらのこ
とから、E2 株のみで MerE が発現していることが示された。また、T3 世代の merE
トランスジェニック植物からタンパク質を抽出し Western blotting を行ったところ、
E2 株の粗抽出画分と膜画分において MerE タンパク質が検出された一方、可溶性
画分においては検出されなかった。これらのことから、植物体で MerE タンパク質
は可溶性画分ではなく、細胞膜もしくはいずれかの細胞内小器官の膜に発現してい
る可能性が示唆された。MerE のシロイヌナズナ培養細胞における発現結果を考慮
すると、シロイヌナズナ植物体においては細胞膜および細胞質小器官に存在するこ
とが示唆された。
次に、E2 株の CH3Hg+ および Hg2+ に対する耐性および蓄積性について検討し
た。実験に用いた水銀濃度は総水銀量に換算して、CH3Hg+ 0.06 ppm および Hg2+ 1
ppm とした。本実験で用いた濃度は日本における一般的な水銀汚染土壌の濃度と同
程度である。根の長さと生重量を指標とした耐性評価から、E2 株は野生株に比べ
CH3Hg+ および Hg2+ に対し耐性を示した。また、E2 株は野生株に比べて有意に高
い CH3Hg+ 蓄積量および Hg2+ 蓄積量を示した。この結果から、植物の細胞膜に発
78
現する MerE により CH3Hg+ および Hg2+ は取り込まれ、細胞内に取り込まれた
CH3Hg+ および Hg2+ による毒性を軽減する機構が存在する可能性が示唆された。
これらのことから、CH3Hg+ および Hg2+ に対する耐性を獲得したことによりバイオ
マスが大きくなり、結果として植物体における総水銀蓄積量が増大したと考えられ
る (Fig. II-11)。東北大学の草野らの報告では、Acidithiobacillus ferrooxidans 由来の
水銀トランスポーター遺伝子 merC を形質転換した植物において、MerC が植物細
胞の細胞膜に局在したことにより Hg2+ 蓄積量が増大する一方で、Hg2+ の毒性に
より生育が阻害されることが明らかになっている [78]。この知見から、本研究では
MerE が植物細胞の細胞膜の他に細胞質に発現したことにより、Hg2+ に対する耐性
の向上および蓄積性の増大につながったと考えられる。しかし、水銀耐性に関わる
機序を解明する為には、MerE トランスジェニック植物の細胞分画ごとの水銀蓄積
量を測定することや、植物切片をオルガネラマーカーで共染色するなど MerE の詳
細な細胞内局在を明らかにする必要がある。これらについては今後検討する予定で
ある。実用化を考えた場合、世界各地の様々な条件の土壌でも育ち易く、バイオマ
スが大きい植物が要求される。本研究で作製した merE トランスジェニック植物は
水銀存在下におけるバイオマスが野生株よりも大きくなった。また、MerE は Hg2+
の他に CH3Hg+ を輸送する広域スペクトルのトランスポーターであるため、
CH3Hg+ の浄化にも用いることができる点が本研究の特色である。これらの知見は、
水銀高蓄積植物の作出に成功したことを示唆するものである。さらに本系の特徴は、
水銀を揮発させる MerA を用いていないため、植物体内に水銀を蓄積させ、植物個
体を収穫することで環境中の水銀を回収できるという利点をもつことである。E2
株は 1 個体あたり約 7.5 ng の CH3Hg+ あるいは約 100 ng の Hg2+ を蓄積し、ゲ
ランガム培地において 1 個体あたりの CH3Hg+ 回収率が 0.17%、Hg2+ 回収率が
0.14% であった。本系は、種子の段階から培地中の水銀化合物と常に接触しており、
毒性影響を受けていると考えられる。今後は、土壌に播種し成熟体まで成長させた
場合の回収率について検討する予定である。一方、さらなる水銀浄化効率の向上の
ためには、植物の解毒器官の一つである液胞の膜に MerE を発現させ、細胞質に取
り込まれた水銀を液胞内に輸送・隔離することなどが今後必要だと考えられる。ま
た、同じ水銀トランスポーターの一種である MerC は重金属に対する基質特異性が
低く、コバルト、亜鉛、銅イオンの輸送担体としても機能すること、単量体で機能
を発現することが明らかにされている [73]。これらのことから、MerE は水銀化合
物以外に他の重金属を基質として認識する可能性が示唆された。今後は、MerE の
79
水銀化合物以外の重金属に対する機能も検討する必要があると考えられる。また、
本研究では植物体全体における蓄積量を検討しているが、ファイトレメディエーシ
ョンの目的である土壌浄化および回収について考えると、根から吸収した水銀化合
物を地上部である茎や葉に輸送する必要がある。これらのことから、根からの吸収
効率を上げること、根から葉への輸送を促進することなども改良する必要があると
考えられる。
ファイトレメディエーションは従来の浄化法に比べ、設備投資の必要が無く、汚
染土壌をオンサイトで処理することが可能であり、移動や燃焼回収にかかるコスト
も低い。経済先進国よりも途上国において水銀汚染が深刻であることから、人々が
生きるための基盤となる土壌を守る上で、ファイトレメディエーション技術が求め
られている。微生物由来の遺伝子を植物に導入し発現させることは技術的に困難な
面もあるが、本研究により MerE トランスジェニック植物の作出は達成した。今後
はより実用化に向けた検討を行うことで、ファイトレメディエーションを必要とす
る世界の水銀汚染地域の人々の生活と福祉に大きく貢献できると期待される。
80
B.
A.
pE18
gfp
merE
NOS3’
CaMV35S
promoter
Ap
pUC18
20 µm
Fig. II-1 Construction of gfp-merE fusion plasmid (A)
and cellular localization of GFP-MerE in
suspension-cultured plant cells (B).
GFP-tagged fusion proteins were expressed in suspensioncultured plant cells and viewed by confocal laser scanning
microscopy. GFP fluorescence images are shown for GFPMerE (B).
81
NotⅠ
merE
merR
XbaⅠ
6ab term
o/p
BL
ori
Tandem 35S
promoter
lacZ
NOS-NPTII
Kmr am2
pKF19k
pMAT137
Tet
BR
pE4
Not I
Xba I
PCR
Not I
Xba I
6ab term
Not I
Xba I
Tandem 35S
promoter
+
merE
BL
NOS-NPTII
pMAT137
BR
Tet
merE
6ab term
BL
Tandem 35S
promoter
NOS-NPTII
pMAT137
Tet
BR
pMAE2
Fig. II-2 Construction of recombinant plasmid pMAE2.
82
Arabidopsis thaliana
Kanamycin selection medium
Transformants ratio
(T1 generation)
11 / 2692 lines
(0.4%)
T0
selection
Transformation
T1
selection
merE
6ab term
BL
Tandem 35S
promoter
T2
selection
NOS-NPTII
pMAT137
BR
T3
Tet
Fig. II-3 Selection and generation of transgenic plants.
83
③ day 10-12
② day 5-6
Selection of
transformants
④ day 24-26
Replanted
① day 0
Seeding
⑥ day 60
Harvest
Fig. II-4
Cultivation of transgenic plants.
84
⑤ day 40
(A) T1
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
merE
NPT II
(B) T2
2
3
4
5
6
7
8
9
11
merE
NPT II
Fig. II-5 Characterization of merE in the first (T1) and second
(T2) generations of transgenic plant lines.
Confirmation of the expression of merE in transgenic plants based
on genomic PCR expression analysis. (A)The first generations of
merE transgenic plants (T1) and (B) the second generations of
merE transgenic plants (T2) .
85
A. Genome PCR
E2
E3
E4
E5
E6
E7
E2
E3
E4
E5
E6
E7
merE
NPTⅡ
B. RT-PCR
merE
ACT
Fig. II-6 Characterization of merE in the third generations (T3)
of transgenic plant lines.
Confirmation of the expression of merE (E2, E3, E4, E5, E6,
and E7) in transgenic plants based on genomic PCR
expression analysis (A). Expression analyses of merE (E2,
E3, E4, E5, E6, and E7) in transgenic plants, which were
determined by reverse transcription PCR (B).
86
Wild
E2
Bright
field
100 µm
100 µm
100 µm
100 µm
antiMerE
Fig. II-7 Immunostaining of MerE protein in the
third generations (T3) of transgenic plant
leaves.
87
anti-MerE
CCE
SF
MF
Wild
8 kDa
E2
8 kDa
CCE : Crude cell extracts
SF : Soluble fractions
MF : Membrane fractions
Fig. II-8 Immunoblot of MerE protein in the third
generations (T3) of transgenic plants.
Immunoblot analysis of the crude cell extracts, soluble
fractions, and membrane fractions obtained from wild type
(Wild) and merE (E2) transgenic plants, which were performed
using anti-MerE polyclonal antibodies.
88
A.
C.
Wild
E2
5 µM Hg2+
Wild
E2
0 µM
0.3 µM
CH3Hg+
5 µM
Hg2+
0 µM
0.3 µM
CH3Hg+
5 µM
Hg2+
Root length (mm)
B.
Wild
E2
0.3 µM CH3Hg+
Growth (% of control)
Wild
E2
0 µM
Fig. II-9 Susceptibility of transgenic plants to CH3Hg+ and Hg2+.
Sterilized seeds of wild-type (Wild) and transgenic (E2) plants were
grown on the presence or absence of 5 µM HgCl2 and 0.3 µM
CH3HgCl (A). The total wet weights of plants (B) and root growth (C)
levels of wild and E2 plants were evaluated. The total wet weight of
the wild-type plants in the absence of mercurials was considered as
control (B). The data are expressed as the means  S.E.M. based on
four determinations from three independent experiments. *P < 0.05 vs.
the wild type.
89
Hg Uptake ( ng / plant )
A.
10
CH3Hg+
Wild
E2
Hg2+
*
*
100
5
50
0
0
Hg Uptake ( ng / mg F.W. )
B.
CH3Hg+
Hg2+
75
10
50
5
25
0
0
Fig. II-10 Accumulation of mercury from MS gellan gum
plates containing CH3Hg+ and Hg2+.
The amounts of mercury (A; ng/plant, B; ng/fresh weight) that
accumulated in wild-type plants (Wild) and merE-transgenic
plants (E2). The data are expressed as the means  S.E.M.
based on four determinations from three independent
experiments. *P < 0.05 vs. the wild type.
90
CH3Hg+
Hg2+
MerE
CH3Hg+
Golgi
ER
CH3Hg+
Hg2+
Hg2+
MerE
Vacuole
Plasma Membrane
Fig. II-11
The high mercurials accumulation model in MerE transgenic plants.
91
結論
著者は水銀耐性菌の有する機能未知の merE 遺伝子について、遺伝子産物の同定、
菌体内における局在および水銀化合物に対する機能解析を行うと共に、ファイトレ
メディエーションへの応用を試みた。本研究により得られた知見を以下に要約した。
1.
プラスミド R100 上の Tn21 にコードされた merE 遺伝子産物である MerE
は膜タンパク質の一種であり、Hg2+ に応答して大腸菌内において転写翻訳され
ることを初めて明らかにした。
2.
Tn21 由来の MerE は大腸菌の細胞膜に局在する新規の CH3Hg+ および Hg2+
トランスポーターであることを初めて明らかにした。また、MerE の水銀化合
物輸送活性は 2 量体で行われていると推察された。さらに、MerE を介した
CH3Hg+ 取り込みはプロトン濃度勾配が関与せず、Hg2+ 取り込みはプロトンと
の対向輸送であることが示唆された。
3.
MerE の 30 番目の Cys および 51 番目の His は CH3Hg+ の取り込みに、28
および 30 番目の Cys および 31 番目の His は Hg2+ の取り込みにそれぞれ
関与することが示唆された。
4.
MerE の水銀化合物取り込みに対する MerT-MerP の影響について検討したと
ころ、MerE は主に CH3Hg+ 取り込みを、MerT-MerP は主に Hg2+ 取り込みを
担うと示唆された。さらに、MerE の水銀化合物取り込みに対する MerP の影
響を検討したところ、CH3Hg+ の取り込みに関与せず、Hg2+ の取り込みに関与
することを初めて明らかにした。
5. MerE トランスジェニック植物において、CH3Hg+ および Hg2+ に対する耐性を
付与すると同時に水銀蓄積量が増加したことから、MerE を利用したファイト
レメディエーションは、CH3Hg+ および Hg2+ の浄化に効果的である可能性が
示唆された。
92
細菌が有する種々の水銀トランスポーターの中でも CH3Hg+ 輸送活性を持つも
のはこれまでに報告されておらず、今回の MerE が初めての報告となる。本研究に
より得られた知見が、より効率的な水銀化合物浄化のためのファイトレメディエー
ションの開発に繋がると期待される。
93
謝辞
本研究の遂行にあたり、開始から完了に至るまで懇切なる直接の御指導、御助言、
御支援を賜りました北里大学薬学部公衆衛生学教室
清野正子准教授に深甚なる
感謝の意を表します。
また、本論文の審査にあたりまして主査の労を賜りました、北里大学薬学部微生
物学教室 岡田信彦教授、副査の労を賜りました衛生化学教室
今井浩孝教授、生
化学教室 飯田直幸講師に心より感謝申し上げます。学位申請を推薦して頂き、御
配慮賜りました薬剤学教室
伊藤智夫教授に心より感謝申し上げます。
修士課程より本研究の遂行を快く許可してくださり、多大なる御指導、御助力を
賜りました東海大学医学部
坂部貢教授に深謝いたします。本研究の御指導、御教
示、御討議賜りました共同研究者の摂南大学薬学部 芳生秀光教授に深甚な感謝の
意を捧げます。また、シロイヌナズナ培養細胞を御供与戴き、本研究の遂行にあた
り御指導、御助言を賜りました京都府立大学医学部
佐藤雅彦准教授に心より御礼
申し上げます。本研究の植物の取り扱いなどについて御指導、御助言を賜りました
東京大学農学部 浦口晋平博士に感謝致します。
公衆衛生学教室で共に過ごし、常に親切な御助言、御協力を戴きました中村亮介
助教に謹んで御礼申し上げます。
また、先輩として研究指導および御助言を戴きました同公衆衛生学教室の宮原清
美修士に心より感謝申し上げます。院生として苦楽を共にしてきました同公衆衛生
学教室の岡由美子修士、今津恭平修士、実験の一部に御協力頂きました田中満崇博
士、東條博隆修士、望月優佑修士、菅野麻耶修士、鈴木萌修士、特別実習生として
実験補助をしてくださいました角倉義規学士、小林可納子学士、小井澤敬太学士、
奥野格学士、齋藤真輝学士、中島典子学士、早川絢香学士、鏑木真奈学士、小暮未
恵学士、嶋野佳耶学士、益田理生学士、荒島由佳氏、小倉寛美氏、影山愛帆氏、杉
田早衣子氏、高橋温子氏、廣田香氏、小川朋恵氏、久地岡亨氏、黒田桃子氏、古藤
美波氏、多々良泉希氏、吉岡聖太氏、山名里穂氏ならびに本学公衆衛生学教室の皆
様に深く感謝申し上げます。
最後に、ここまで私を陰ながら支えてくれた家族と応援してくれた友人に心より
感謝致します。
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