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リスク回避は続くのか? カナダのファンダメンタルズは?

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リスク回避は続くのか? カナダのファンダメンタルズは?
2013 年 8 月 30 日(金)発行 No.044
リスク回避は続くのか? カナダのファンダメンタルズは?
~今週号のポイント~
●アウトルック:リスク回避は続くのか?
リスク回避が強まると、経常赤字国の通貨は売られやすい。目先の注目は、シリア情勢。過去の米国の
武力行使の事例をみると、「有事のドル買い」と言えそうな動きも。ただ、同じタイミングで米株価が上昇して
おり、むしろ「材料出尽くし」の買戻しだった可能性がありそう。
9 月 17-18 日の FOMC に向けて、雇用統計等の経済指標が一層重要に。QE 縮小観測が積極的なド
ル買いにつながるかは、景気・雇用の改善を評価して株価と金利が同時に上昇するかにかかっていそう。
------------------------------
●トピックス:中期「有望通貨!?」カナダドルのファンダメンタルズ
8 月 16 日号で、中期的に投資リターンが期待できる通貨の一つとして選択したカナダドルについて、ファ
ンダメンタルズを簡単にチェックした。
・カナダ経済は米国経済との結び付きが強く、米景気回復の恩恵を受けそう
・BOC(カナダ中銀)は、2010 年以降、政策金利を 1%で据え置いており、「次の一手」は利上げを示唆
・BOC は、家計債務をリスク要因と認識しているが、家計債務は既に頭打ちの兆候がみられる
・経常収支、財政収支とも、リーマンショック後に赤字に転落したが、IMF によれば徐々に改善の見通し
------------------------------
●注目イベント&経済指標
8 月の米雇用統計(6 日)で、市場予想は、非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+18.0 万人、失業率
が 7.4%。新規失業保険申請件数は減少傾向が続いており、NFP は上振れする可能性も。8 月の ISM 製造
業景況指数(3 日)、ベージュブック(4 日)なども、QE 縮小判断の材料となりそう。
米国以外の経済指標では、中国の 8 月の製造業 PMI(1 日)、ユーロ圏の 8 月の製造業 PMI(2 日)、豪
州の 4-6 月期の GDP(4 日)、などに注目。
3 日の RBA(豪州準備銀行)、5 日の日銀、ECB、BOE(英国中銀)、それぞれの会合では「据え置き」と
なりそう。追加緩和の可能性が示唆されるか。
5-6 日の G20(ロシア)では、新興国問題を含む世界経済情勢に加えて、シリア問題が討議されるかも。
7 日、豪州で総選挙、2020 年夏季オリンピック開催地が決定。
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アウトルック:リスク回避は続くのか?
●来週の相場材料(9/2~9/6):米雇用統計、RBA、ECB、シリア空爆?
FRB の QE(資産購入)縮小観測が根強いことに加えて、シリア情勢が緊迫度を増したことで、金融市場で
はリスク回避のムードが強まりました。足下では、経常赤字の大きい(=資本流入の大きい)新興国の通貨
ほど売られ易い状況です。
バーナンキ FRB 議長が議会証言で QE 縮小の可能性に言及した 5 月 22 日から、8 月 28 日までの主要
通貨の対ドルでの騰落率をみると、経常赤字(対 GDP 比)の大きい国の通貨の下落率が総じて大きくなって
います(表 1)。
この間、主要通貨の騰落率と経常収支の相
関係数1は 0.36 なので、通貨の変動の 4 割近く
が経常収支で説明できることになります。今年
初めから 5 月 22 日までの両者の相関係数は
0.09 だったので、5 月 22 日以前は通貨変動と
経常収支の間に相関はほとんどありませんでし
た。
目先の注目は、米国がシリアに対して軍事介
入した場合に、金融市場のリスク回避が一段と
強まるかどうかでしょう。
近年の米国の武力行使の事例をみると、99
年 3 月の NATO 軍によるユーゴスラビア空爆開
始、2001 年 10 月のアフガン開戦、2003 年 3
月のイラク開戦、いずれの場合も直後にドルが
上昇しています。
「有事のドル買い」と言えなくもなさそうですが、
いずれも NY ダウの上昇を伴っているため、リス
ク回避の強まりというよりは、材料出尽くし(この
場合は「sell the rumor, buy the fact」)のドル・
株買戻しの意味合いが強かったようです。
シリアへの軍事介入は、実施されるとしても長
期化する可能性は低そうなので(ユーゴ空爆で
も 2 か月半続きました)、材料としては短命かも
しれません。ただ、中東の地政学的リスクという
表1:主要通貨の騰落率と経常収支
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
通貨(国・地域)
スイス フラン
日本円
チェコ コルナ
ユーロ
デンマーク クローネ
英ポンド
スウェーデン クローナ
イスラエル シェケル
ポーランド ズロチ
中国元
香港ドル
ハンガリー フォリント
韓国ウォン
台湾ドル
シンガポール ドル
カナダドル
NZドル
ノルウェー クローネ
コロンビア ペソ
チリ ペソ
ペルー 新ソル
ロシア ルーブル
メキシコ ペソ
アルゼンチン ペソ
南アランド
豪ドル
トルコ リラ
マレーシア リンギ
ブラジル レアル
インドネシア ルピア
インド ルピー
騰落率
6.08
5.65
5.56
3.75
3.66
3.16
2.09
1.49
1.31
0.19
0.07
-0.07
-0.14
-0.61
-0.76
-1.14
-3.45
-3.81
-4.25
-4.70
-4.85
-5.70
-6.72
-6.99
-7.22
-7.82
-9.28
-9.39
-12.60
-13.27
-19.40
経常収支
13.4
1.0
-2.7
1.8
5.3
-3.5
7.1
-0.1
-3.6
2.6
2.3
1.7
3.7
10.5
18.6
-3.7
-5.0
14.2
-3.4
-3.5
-3.6
4.0
-0.8
0.1
-6.3
-3.7
-5.9
6.4
-2.3
-2.8
-5.1
順位は騰落率(5/22-8/28、対米ドル、%)に基づく
経常収支は2012年、対GDP比%
「主要通貨」はBloombergの定義による「拡大主要通貨」
イエローのハイライトは当社取扱い通貨
出所:Bloomberg、IMF資料より筆者作成
1
相関係数は、<-1.0~1.0>の値をとり、<-1.0>は完全な逆相関、<1.0>は完全な正の相関、<0.0>は全く相関がな
いことを示します
2
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点で、足下で上昇傾向にある原油価格の動向には注意する必要がありそうです(近年、原油価格とドル相
場の間にはゆるやかな逆相関があります)。
「シリア」以上に注目されるのが、QE 縮小の有無でしょう。9 月 17-18 日の FOMC に向けて、今後発表さ
れる経済指標がますます重要になるでしょう。最近は、QE 縮小観測が株安を招くケースも多く、ドルが上昇
しづらくなっていますが、景気・雇用の改善が素直に評価されるようになれば、ドルが上昇する公算が高まり
そうです。そのためには、QE 縮小観測によって、「株安・金利高」ではなく、「株高・金利高」になるかが大き
な鍵を握っていそうです。
*************
来週は、雇用統計ウィークであり、中央銀行ウィークでもあります。
8 月の米雇用統計(6 日)で、非農業部門雇用者数(NFP)は、市場予想が前月比+18.0 万人で、7 月
(+16.2 万人)から加速が見込まれていますが、予想通りだと過去 3 か月平均(+18.1 万人)とほぼ同じです。
週間ベースの新規失業保険申請件数は 8 月に減少したので、NFP は市場予想比で上振れする可能性もあ
りそうです。失業率は 7.4%と、前月から横ばいが予想されています。
8 月の ISM 景況指数(「製造業」が 3 日、「非製造業」が 5 日)、ベージュブック=地区連銀経済報告(4
日)なども、QE 縮小判断の材料となりそうです。
米国以外の経済指標では、中国の 8 月の製造業 PMI(政府版が 1 日、HSBC 版の改定値が 2 日)、ユー
ロ圏製造業 PMI(2 日)、豪州の 4-6 月期の GDP(4 日)、などが注目されます。
3 日の RBA(豪州準備銀行)の会合では、「据え置き」との見方が支配的です。ただ、「追加利下げの余
地はある」との姿勢は変わらないでしょう。OIS(翌日物金利スワップ)によれば、「年内利下げ」の予想が 6 割
程度織り込まれています。前回の総裁声明で「為替レートは一段と下落する可能性がある」とした見解に変
化は生じるでしょうか。
5 日には、日銀、ECB、BOE(英国中銀)がそれぞれ政策決定会合を開催します。いずれも「据え置き」が
予想されていますが、RBA ほどではないにせよ、追加緩和の可能性があることを滲ませるかもしれません。
5-6 日の G20(ロシア、サンクトペテルブルグ)では、新興国問題を含む世界経済情勢に加えて、シリア問
題が討議されるかもしれません。7 日には、豪州の総選挙や、2020 年夏季オリンピック開催地の決定など
のイベントがあります。
●8/23-8/29 のレビュー:リスク回避を背景に、日本円>米ドル>その他通貨
8 月 29 日までの 1 週間に、各通貨の騰落率は、円>米ドル>その他通貨の順でした。典型的なリスク
回避の序列といえそうです。インドルピーやブラジルレアルなどの新興国通貨売りが続いていたことに加えて、
イラク政府の化学兵器使用の疑惑に関して、米国や英国などがシリアに対する軍事介入の可能性を強く示
唆したことが背景でした。
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ユーロや英ポンドなどの欧州通貨は、新興国通貨売りの反対側で比較的堅調でしたが、軟調に転じまし
た。4-6 月期 GDP の上方修正や新規失業保険申請件数の減少など、米国の経済指標が好調だったこと
や軍事介入の観測を背景に、ドルが買われたためでした。
豪ドルなどの資源国通貨は、引き続き総じて軟調でした。その中では、米国との経済の結び付きが強いカ
ナダドルが比較的しっかりしていました。
各通貨の騰落率
通貨
対ドル
通貨
(8/22-8/29)
対円
日本円
+0.38%
香港ドル
-0.37%
香港ドル
+0.01%
米ドル
-0.37%
カナダドル
-0.15%
カナダドル
-0.53%
英ポンド
-0.54%
英ポンド
-0.91%
NZ ドル
-0.77%
NZ ドル
-1.14%
南アランド
-0.77%
南アランド
-1.14%
ユーロ
-0.86%
ユーロ
-1.23%
豪ドル
-0.87%
豪ドル
-1.24%
出所:Bloomberg 終値ベース
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トピックス:中期「有望通貨!?」カナダドルのファンダメンタルズ
●サマリー
・カナダ経済は米国経済との結び付きが強く、米国の景気回復の恩恵を受けそう。中国向け輸出は少ない
roui
・BOC(カナダ中銀)は、2010 年以降、政策金利を 1%で据え置いており、「次の一手」は利上げを示唆
・BOC は、家計債務をリスク要因と認識しているが、家計債務は既に頭打ちの兆候がみられる
・経常収支、財政収支とも、リーマンショック後に赤字に転落したが、IMF によれば徐々に改善する見通し
-----------------------------8 月 16 日号の「米ドル以外の中期的『有望通貨』はこれだ!?」で、1-3 年程度の投資を視野に、「経済成
長」「金利」「安定性」を基準にして、カナダドル、英ポンド、南アランドの 3 通貨を、米ドルに次ぐ第 2 グループ
としました。とりわけ、カナダドルは 3 つの基準でバランスが取れていました。以下では、カナダドルのファンダ
メンタルズを簡単にチェックしておきましょう。
カナダは、主要先進国(G7)のメンバーであるとともに、資源国としての顔を合わせ持っています。エネルギ
ー自給率と食料自給率は、ともに 100%を大きく超えています。
カナダ経済の最大の特徴は、米国経済との結び付きが強いことでしょう(図 1)。米国経済が回復基調を強
めるのであれば、カナダ経済は恩恵を受けるでしょう。輸出の 75%は米国向けであり、その一方で他の資源
国とは異なって、中国向けは 5%程度にとどまっています。
2000 年以降のカナダ経済の平均成長率は+2.1%で、米国(同+1.8%)をやや上回っています。
インフレ率は、米国同様に 1%程度で落ち着いています(底打ちの兆候はあります)。BOC(カナダ中銀)は、
リーマンショック直後に政策金利を 0.25%まで引き下げましたが、2010 年に 1.0%へと引き上げ、その後は
据え置きを続けています(次ページ、図 2)。
5
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BOC の政策決定会合後の声明(7/17 開催分)によれば、2015 年半ばにインフレ率が目標である 2%に
なると予想しており、目標達成に向けて「政策金利の緩やかな正常化(=利上げ)」が予想されるとしていま
した。
OIS(翌日物金利スワップ)に基づくと、市場の予想では、2014 年 4 月までに BOC が利上げする確率は
25%程度になっています。
図2:カナダのインフレ率と政策金利
(%)
7
インフレ率
6
政策金利
5
4
3
2
1
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
インフレ率は消費者物価(食料とエネルギー除く)の前年比
出所:Bloombergより筆者作成
上述の BOC の声明では、家計債務の急激な圧縮の可能性がカナダ経済の潜在的なリスクと指摘されま
した。カナダの金融機関が健全であり、リーマンショックでもあまり打撃を受けなかったことが、かえって住宅
ブームの長期化につながり、家計債務が増大する遠因になっているようです。ただし、カナダ政府が数度に
わたって住宅ローン規制を実施したこともあって、住宅価格の伸びにはやや鈍化の兆しが出ており(図 3)、
また家計債務も減少に転じてきたようです。BOC が懸念する急激なショックではなく、ソフトランディングの可
能性が高まっていると言えそうです。
(前年比%)
図3:カナダの新築住宅価格
(対可処分所得比%)
14
図4:カナダの家計債務
170
12
160
10
8
150
6
140
4
130
2
120
0
-2
110
-4
100
-6
2000
2002
2004
2006
出所:Bloombergより筆者作成
6
2008
2010
2012
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
出所:Bloombergより筆者作成
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2008 年のリーマンショック以降、経常収支は赤字になっており、財政収支も同様にタイミングで赤字化しま
した。ただし、IMF の見通しに基づけば、経常収赤字(GDP 比)は 2012 年をピークに緩やかな縮小が見込ま
れており、財政赤字(同)は既に 2010 年をピークに縮小に転じています。
(対GDP比%)
図5:カナダの経常収支と財政収支
4
3
IMF見通し
2
1
0
-1
-2
-3
財政収支
-4
経常収支
-5
-6
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
2016
2018
出所:IMF資料より筆者作成
(チーフアナリスト 西田明弘)
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