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044 - 中四国エイズセンター
Medical Postgraduates Vol. 41 No. 4 2003 H I V/A I D S 情 報 ファイル #044 76(317) 翻 訳 [総説] 抗レトロウイルス薬に対する有害反応における性差** Ighovwerha Ofotokun,*M.D., Claire Pomeroy,*M.D. 要 旨:最近,HIV臨床試験における女性参加者の数と,HIV感染に及ぼす性差の影響を扱っ た研究の数が増加している。幾つかの研究の所見は,抗レトロウイルス薬に対する有害反応の頻 度と重篤度において潜在的性差を指摘している。本論文は,ある種のヌクレオシドおよび非ヌク レオシド逆転写酵素阻害薬とプロテアーゼ阻害薬に対する有害反応における潜在的性差の発現率 と特性に関して入手可能なデータを検討している。性差が報告されている有害反応には,乳酸ア シドーシス,発疹,肝酵素上昇,異脂質血症,およびインスリン抵抗性が含まれている。薬物有 害事象におけるこれらの性差の理由は不明であるが,肥満指数(BMI)および脂肪組成,薬物代 謝に及ぼすホルモン効果,あるいは種々の酵素濃度に及ぼすゲノムの構造差の影響などが含まれ るかも知れない。これらの差は,なお一層の研究に値するものである。 Key words : HIV-1感染症,抗レトロウイルス療法,HIV薬物耐性,副作用,性差 緒 言 と特性に及ぼす性差の影響についてはほとんど分 からなかった。 女性におけるHIV感染の発現率は増加しつつあ 臨床試験におけるヒト被験者の参加に関する るが1),HIV感染と合併症の治療に対する介入を 1994年の米国国立衛生研究所(NIH)の方針変更 評価する臨床試験における女性の比率は,歴史的 以来,より多くの女性がHIVに関連した研究に参 に見てHIVまたはAIDS患者母集団における女性 加するようになっている5)。ACTG基金研究に参 の比率よりも低かった。したがって,抗レトロウ 加した女性の比率は,1987年の5.6%から1996年 イルス薬の有効性とそれらの使用に関連した有害 の16.9%に増加している6)。現在の見積もりでは, 反応に関する知識は,男性被験者が大部分を占め ACTG臨床試験参加者の約20%が女性である 7)。 る研究から導かれたものであった2,3)。大規模多 しかしながら,これらの試験における女性の比率 施設臨床試験における女性参加者を検討すると, は,アメリカ合衆国において女性に発生した 1987年から1990年までの11,909名のAIDS臨床試 AIDS報告症例の比率(25%)に依然として後れ 験グループ(ACTG)のわずか6.7%が女性であ をとっている8)。さらに,幾つかの多施設試験は, ったことが見出される4)。初期のHIV臨床試験に もっぱらHIV感染またはそのリスクにある女性を おける女性被験者が相対的に少数であった結果と 参加させている。その例には,HIV血清反応陽性 して,HIV感染の自然史と薬物有害作用の発現率 女性患者2,066名とHIV血清反応陰性女性患者575 Ofotokun, Ighovwerha, M.D.: Sex differences in adverse reactions to antiretroviral drugs. * Division of Infectious Diseases, Department of Internal Medicine, University of Kentucky Chandler Medical Center, Lexington, KY 40536, U.S.A. ** 当論文は,International AIDS Society-USA (IAS-USA)が発行する機関誌に掲載された論文を本誌掲載に際して内容を改 訂したものである。IAS-USAの承諾を得て,翻訳のうえ転載した。Ofotokun I, et al.: Sex differences in adverse reactions to antiretroviral drugs. Topics in HIV Medicine 2003;11(2):55-59. 77(318) Medical Postgraduates Vol. 41 No. 4 2003 表1 性差とヌクレオシド逆転写酵素阻害薬関連毒性に関する臨床試験 母集団 研 究 薬 剤 毒性における性差 Squires et al: START I and II 12) 女性78名, 男性331名 ジドブジンまたは スタブジン(サニルブジン) +ラミブジン/インジナビル 対スタブジン(サニルブジン) /ジダノシン/インジナビル 有害事象の発生率は女性の方が 高い Currier et al: ACTG 170 20) 女性438名, 男性2,029名 ジドブジンまたは ジダノシンまたは ジドブジン/ザルシタビン またはジドブジン /ジダノシン 女性におけるジダノシン含有 レジメンの減量もしくは中止の より高い尤度 Moore et al 21) 女性392名, 男性1,058名 ジドブジン/ジダノシン /ザルシタビン 女性におけるジダノシンによる 有害事象リスクがほぼ 3 倍まで 増大 nRTI含有レジメン 乳酸アシドーシスの症例の83% および致命的症例20件の85%が 女性において発生 Boxwell et al 22) nRTIでの治療後に 乳酸 アシドーシスを発症した 患者60名 (女性50名,男性10名) ACTG:AIDS臨床試験グループを示す; nRTI:ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬; START:チミジン類似体レジメン試験の選択 名を含む女性部局間HIV研究(WIHS)9),HIV血 のある種のnRTI類を含むレジメンに対する耐忍 清反応陽性女性患者863名とHIV血清反応陰性女 性が,男性に較べ,少ないことを指摘している。 性患者430名を含むHIV疫学調査研究10),および ACTG 175試験において,ジドブジンまたはジダ HIV血清反応陽性女性患者2,336名と小児1,887名 ノシンの単独療法が,ジドブジンとザルシタビン, を含む女性小児伝播研究(WITS)11)が含まれる。 またはジドブジンとジダノシンの併用療法と比較 これらの研究の幾つかから得られたデータは,あ された20)。有害作用に起因するジダノシン含有レ る種の抗レトロウイルス薬の忍容性の差を含む, ジメンの減量もしくは中止が,男性よりも,女性 HIV感染とその管理の幾つかの観点における性差 においてより一般的であった。別の研究は, 12∼17) が存在する可能性があることを示唆している 。 CD4+細胞数が500/μL以下の1,450名の被験者に 本論文は,HIV感染の治療に用いられた抗レトロ おけるnRTI療法中の有害事象の発現率を評価し ウイルス薬に対する有害反応における性差の発現 た21)。ジダノシンに関連した有害事象発現のリス 率と特性を総説している。 クは,男性よりも女性でほとんど 3 倍高かった (相対リスク 2.7,P=0.03)。 ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬 乳酸アシドーシスは,nRTI関連ミトコンドリ ア毒性の最も重篤な提示の 1 つである。この合併 ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬(nRTI)は, 症はまれではあるが,関連の死亡率は血中乳酸濃 臨床実践に導入された最初の抗レトロウイルス薬 度が10mmol/Lを超える場合80%に達する場合 であり,高活性抗レトロウイルス療法(HAART) がある22)。この合併症の発生における性差の役割 の基礎となっている。これらの薬剤は,骨髄抑制, が,直接的に研究されたことはないが,米国食品 膵炎,胃腸不耐症,末梢神経障害,ミオパシー, 医薬品局(FDA)からの報告は,女性が男性よ および乳酸アシドーシスを含む,種々の有害作用 りも高い乳酸アシドーシスのリスクにあるかも知 と関連している(表1)。これらの有害作用の多 れ な い こ と を 示 唆 し て い る 2 3 )。 こ の 報 告 は , くは,ミトコンドリア毒性を通じて媒介されてい nRTIでの治療を受けたHIV感染患者における60 ると仮定されている 18,19) 。幾つかの研究は,女性 件の乳酸アシドーシス症例の83%が女性で発生し 78(319) Medical Postgraduates Vol. 41 No. 4 2003 表2 性差と非ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬関連毒性に関する臨床試験 母集団 研 究 薬 剤 毒性における性差 Mazhude et al 13) 女性102名, 男性178名 ネビラピン含有レジメン 女性において11.7倍の皮疹リスクの増大; Stevens-Johnson症候群の症例 3 件の内 2 件 は女性に発生 Bersoff-Matcha et al 26) 女性95名, 男性263名 ネビラピン含有レジメン 女性において発疹のリスクが 7 倍に増大; 女性は,ネビラピンを中止する可能性が 3 ∼ 5 倍高い Wong et al 27) 女性 8 名, 男性23名 ネビラピン含有レジメン 女性において,より高い発疹発現率 Bartlett J 28) 女性276名, 男性192名 emtricitabineまたは ラミブジン+スタブジン (サニルブジン)+エファビレンツ またはネビラピン ネビラピン含有レジメン投与中の男性よりも 女性において 2 倍高い肝酵素上昇(grade 4) の発現率 ており,致命的症例20件の85%は女性で発生して る可能性が高かった。 2 番目の研究は,ネビラピ いることを見出した。さらに,脂肪肝または肝脂 ンに対する曝露後のHIV感染患者280名における 肪症は女性の71%,膵炎は29%で発生している。 皮疹の罹患率を調査した13)。女性に対する発疹の 相対リスクは,男性に対するものよりも11.7倍高 非ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬 かった(P=0.006)。Stevens-Johnson症候群を発 症した患者 3 名中 2 名が女性であった。 3 番目の 非ヌクレオシド逆転写酵素阻害薬(NNRTI) 最も最近の研究は,ネビラピンを服用していた中 は,特にプロテアーゼ阻害薬(PI)を控えめにし 国人患者31名を検討した27)。ネビラピン関連の発 たレジメンが必要な場合のHAARTの重要な構成 疹は女性 8 名中 5 名に発現したが(62.5%),男性 要素となっている。NNRTIのネビラピンは,女 は23名中わずか 6 名であった(26%) 。 性にとってとりわけ重要な成分である。この薬剤 その他のNNRTI類関連有害作用は肝炎で,ネ は比較的廉価で投与しやすく,HIV感染の垂直伝 ビラピン服用中の男性よりも女性において発症す 播を顕著に低減することが示されている。したが る可能性が高い合併症である。FTC-302研究にお って,HIV母子感染,特に世界の低所得国での母 いて,南アフリカの患者468名が,スタブジン 子感染を低減するのにとりわけ魅力的な選択肢で (サニルブジン)およびネビラピンまたはエファ ある24)。 ビレンツのいずれかの基礎レジメンに加えて,治 NNRTI類の良く知られた有害作用は,発疹と 験nRTIであるemtricitabineまたはラミブジンの 肝炎である(表2)。Gangarらは,ネビラピンを いずれかのレジメンに無作為に割り付けられた28)。 服用中の女性における発疹が,同じ薬剤を服用中 治療開始後24週目,当研究のネビラピン含有製剤 の男性よりも高い発現頻度を示す傾向があること 投与群の患者における肝酵素上昇(grade 4)の 25) を最初に示唆した 。3 件の補足的研究が,この 発現率は9.4%で,一方,エファビレンツ含有製 性差にさらなる支持を与えた。ネビラピンでの治 剤投与群の患者においては0%であった。ネビラ 療を受けた患者の,最初の多施設後ろ向きコホー ピン含有選択肢においては,肝酵素上昇(grade ト研究は,女性95名中 9 名(9.5%),男性は263 4 )の発現率が男性( 6 %; P=0.05)よりも女性 名中わずか 3 名(1.14%)が重篤な発疹を経験し, (12%)について2倍高かった。肝不全で死亡した 26) 性差は統計的に有意であった(P=0.005) 。女 性は,重篤な発疹について 7 倍大きなリスクを有 し,男性よりも 3 ∼ 5 倍ネビラピン療法を中断す 患者 2 名は女性であった。 79(320) Medical Postgraduates Vol. 41 No. 4 2003 表3 性差とプロテアーゼ阻害薬または高活性抗レトロウイルス療法関連の毒性に関する臨床試験 母集団 研 究 薬 剤 毒性における性差 Muurahainen et al 14) 女性49名, 男性159名 HAART 女性はより多く脂肪蓄積し,男性はより多 く脂肪損失する Currier et al 30) 女性90名, 男性996名 リトナビル+逆転写酵素阻害薬 女性において,悪心,嘔吐,および口腔周囲 の刺痛感はより高率だが,下痢はより低率 Gatti et al 31) 女性35名, 男性52名 リトナビル含有レジメン 女性におけるリトナビル不耐性は男性より も 2 倍以上増加 Gersten et al 32) 女性78名, 男性616名 ネルフィナビル含有レジメン 女性はより多く腹痛および掻痒を来たし, 男性はより多く下痢を来す Lucas et al 33) 女性76名, 男性197名 HAART 女性において,より高率の薬物有害反応 Galli et al 34) 女性673名, 男性1,585名 HAART 形態学的変質は女性において,より一般的 HAART:高活性抗レトロウイルス療法 プロテアーゼ阻害薬 ンの有効性と耐忍性を評価した32)。HIV-1 RNA 血中濃度低下におけるネルフィナビルの有効性 臨床実践に対するPI類の導入は,HIV疾患の管 は,男女に関し同様であった。CD4+細胞数の平 理に大きな変革をもたらした。他の抗レトロウイ 均増加は,男性(84/μL)よりも女性(116/μL) ルス薬との併用でのPI類の使用は,HIV感染に関 で大きかった。男女とも同じ種類の有害作用(腹 連した死亡率と罹患率の実質的低減をもたらして 痛,下痢,掻痒および皮疹)を経験したが,下痢 29) いる 。PI類と関連した主要毒性作用には,胃腸 を除くこれらの有害作用は,女性においてより頻 不耐症,脂肪分布異常,および代謝障害が含まれ 繁に発生した。 ている(表3) 。 数名の研究者は,これら有害反応の幾つかの頻 Lucasらは,PI含有HAARTレジメンの耐忍性 における性差も報告している 3 3 )。この研究は, 度と重篤度における性差を報告している。逆転写 HAARTを受けているHIV感染患者における治療 阻害薬との併用でリトナビルを服用している女性 失敗と薬物有害反応の発現を評価した。血中 90名と男性996名の研究で,Currierらは男性と女 HIV-1抑制に男女間の有意差は認められず,血中 性が同種類の有害作用を経験したことを見出して HIV-1RNA濃度は患者273名の37%で検出不能と いる30)。しかしながら,胃腸副作用の頻度は,男 なった。しかしながら,薬物有害反応の発現率は, 性よりも女性で高かった。悪心,嘔吐,および口 男性(25%)よりも女性(37%)で有意に高かっ 腔周囲のしびれ感または刺痛感は,女性において た(P=0.008)。主要な有害作用は胃腸関連であ より頻繁に発生し,一方下痢は男性においてより った。 一般的であった。男性および女性におけるリトナ 脂肪分布異常と代謝障害は,HAARTでの治療 ビル不耐性に関する別の研究には93名の被験者が を受けたHIV感染患者において頻繁に観察されて 含まれ,内87名は有害事象について評価された31)。 いる。リポジストロフィー症候群と関連した2つ リトナビルは,主として胃腸および神経学的有害 の顕著な臨床像は,末梢脂肪損失と中心脂肪蓄積 作用と関連していた。リトナビル不耐性のリスク である。男性と女性は,体脂肪量とその分布が生 は,男性(52名中14名;27%)よりも女性(35名 来異なるので,リポジストロフィーのこれら 2 つ 中23名;66%)で有意に高かった(P<0.001)。 の臨床症状に性差が起こり得ることが推測されて 3 件の別々の試験の解析は,78名の女性と616 いる。HAART期間中にリポジストロフィーを経 名の男性に投与されたネルフィナビル含有レジメ 験した208名のHIV感染患者の検討は,脂肪蓄積 80(321) Medical Postgraduates Vol. 41 No. 4 2003 (胸部と腹部)が女性においてより一般的で,脂 類似するHIV血清陰性女性における高血圧症の発 肪減少(四肢と臀部)は男性で顕著であることを 現率と罹患率を検討した36)。高血圧症のベースラ 見出している14)。同様だがさらに大規模な研究は, イン罹患率は,HIV血清陽性女性(14.4%)およ 抗レトロウイルス療法を受けている2,258名の びHIV血清陰性女性(16.2%,P=有意でない) HIV感染患者における性差と形態学的変質の間の と同様であった。しかしながら,年齢,人種,お 34) 関係を検証した 。形態学的変質(脂肪損失また よび肥満指数について調節し,ベースラインで罹 は脂肪蓄積)は,被験者の33.2%で発現したが, 患していた症例を除外した多変量解析は,2年ま 男性よりも女性でより一般的で,修正オッズ比は たはそれ以上のHAART実施後に高血圧症の増加 2.019(P=0.001)であった。 を 明 ら か に し た ( オ ッ ズ 比 1 . 5 4 , P < 0 . 0 5 )。 HAART関連の代謝異常には,高コレステロー HAART治療女性におけるこの高血圧症の増加 ル血症,高グリセリド血症,インスリン耐性,お は,統計的有意性の境界線上にあり,今後の研究 よび 2 型糖尿病も含まれている。HAART関連の で確認される必要がある。それにもかかわらず, 異脂肪血症の発現における性差を検証するようデ HAARTでの治療を受けた女性がより高率で異脂 ザインされた研究において,ネルフィナビル/ジ 肪血症およびインスリン耐性を経験し,より高率 ダノシン/スタブジン(サニルブジン)を 6 カ月 で高血圧症を経験する可能性があるという事実 間服用していた男性27名,女性13名が脂質異常の は,同じ治療法を受けている男性よりも大きな心 35) 検査を受けた 。飽和脂肪,レプチン,および低 疾患のリスクがあるかも知れないことを示唆して 密度リポ蛋白(LDL)コレステロールの血清濃 いる。 度に関しては,両性においてベースライン値から の有意な上昇(P<0.05)が認められ,これらの 抗レトロウイルス毒性における性差に関する 上昇は男性におけるよりも女性において高かっ 機序の仮説 た。空腹時インスリン濃度,およびLDL/HDL 比は,女性患者においてのみ上昇した(P<0.02) 。 抗レトロウイルス薬に対する有害反応におい これとは対照的に,循環E-セレクチン(cE-セレ て,何故性差が存在するのか,明確には知られて クチン)濃度により測定された内皮活性化は,女 いない。男女間の体重及び肥満指数の差が,重要 性におけるよりも男性においてより大きな低下を な役割を演じる可能性がある。一般論として,薬 示した(P<0.02)。結果として,女性は治療後に 物の毒性における性差を説明するために提案され 男性よりも高い中性脂肪およびレプチン濃度を示 たその他の機序も関係している可能性がある37∼39)。 し,さらに当初男性においてより高かった これらの機序には,思春期女性における月経周期 LDL/HDL比およびcE-セレクチン濃度は,もは 中,および閉経期のホルモン変化,および薬物代 や男性対女性の有意差がなかった。この研究にお 謝に及ぼすこれらの変化の影響が含まれる。脂肪 ける患者数は少なかったが,所見はベースライン 組成の性差と薬剤分布に及ぼす影響もまた,男女 における心血管保護が,HAARTにより有利な脂 間に存在するゲノム構成差と,この差が薬物代謝 質プロフィールが失われる可能性があることが幸 に関与する種々の酵素濃度に影響する回路におい いして,女性において順当に享受されることを示 て,その役割を演じる可能性がある40)。 唆している。 HAARTと関連している可能性がある他の有害 結 論 事象は高血圧症で,今後の研究でHAARTが男性 よりも女性においてより不利な脂質プロフィール HIV臨床試験における女性参加者の数と,HIV に帰着する場合,このことはHIV感染女性患者に 感染に及ぼす性差の影響を扱うべくデザインされ とって特別な重要性を持つかも知れない。 た研究の数は増加しつつある。これらの研究の幾 Khalsaらは,WIHSコホート研究で,2,057名の つかの結果は,抗レトロウイルス薬に対する有害 HIV感染女性と感染リスクにある人口統計学的に 反応に性差が存在する可能性を示唆している。女 81(322) Medical Postgraduates Vol. 41 No. 4 2003 性における抗レトロウイルス薬の毒性における性 害反応の頻度と重篤度を低下させて,女性にとっ 差の固有の性質と大きさをさらに特徴づけるに ての抗レトロウイルス薬の耐忍性を向上させる可 は,より多くの研究が必要とされる。抗レトロウ 能性を持つものである。 イルス毒性における性差の役割の背後にある機序 は,積極的に評価される必要がある。最後に,抗 レトロウイルス薬の治療的薬剤モニタリングの役 割が,さらに明確にされる必要がある。血中薬物 著者らは,当原稿の編集上の校閲に対して,Flo Witte に深謝するものである。 濃度に基づいた個人別用量レジメンは,一部の有 参 考 文 献 1 ) UNAIDS. 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July 8-11, 2001; Buenos Aires, Argentina. 37)Miller, M.A.: Gender-based differences in the toxicity of pharmaceuticals The Food and Drug Administration's perspective. Int J Toxicol. 20:149‐152, 2001. 38)Martin, R.M., Biswas, P.N., Freemantle, S.N., Pearce, G.L., Mann, R.D.: Age and sex distribution of suspected adverse drug reactions to newly marketed drugs in general practice in England: analysis of 48 cohort studies. Br J Clin Pharmacol. 46:505‐511, 1998. 39)Ran, C., Knowles, S.R., Liu, B.A., Shear, N.H.: Gender differences in adverse drug reactions. J Clin Pharmacol. 38:1003‐1009,1998. 40)Harris, R.Z., Benet, L.Z., Schwartz, J.B.: Gender effects in pharmacokinetics and pharmacodynamics. Drugs. 50:222‐239,1995. [本論文のオリジナル論文(英文)のコピーを希望される方は,本誌編集部までご請求ください] 83(324) Medical Postgraduates Vol. 41 No. 4 2003 感染症法に基づくエイズ患者・感染者情報 (厚生労働省「エイズ動向委員会報告」より抜粋) ●2002年 9 月30日∼2002年12月29日までの集計データ 1 .AIDS患者の報告数:2,549件(前回報告より61件増加)[2002年12月29日現在] 2 .HIV感染者の報告数:5,121件(前回報告より139件増加)[2002年12月29日現在] 3 .累積死亡者数*:1,273名(前回報告より 5 名増加) [2002年12月29日現在] ●2002年12月30日∼2003年 3 月30日までの集計データ 1 .AIDS患者の報告数:2,624件(前回報告より75件増加)[2003年 3 月30日現在] 2 .HIV感染者の報告数:5,286件(前回報告より165件増加)[2003年 3 月30日現在] 3 .累積死亡者数*:1,282名(前回報告より 9 名増加)[2003年 3 月30日現在] ●凝固因子製剤による感染者数:1,431名[2001年 5 月31日現在] *累積死亡者数に関しては,「委員会報告」に明示されていないため,前回の集計データより算定した。 これらの統計データの詳細は,国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センターのホームペー ジ http://www.acc.go.jp/mhw/mhw_survey/mhw_survey.htm もしくは,エイズ予防情報センター が提供する「エイズ予防情報ネット」のホームページ http://api-net.jfap.or.jp/ にてご覧頂けます。