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‧ 國 立 政 治 大 學 ‧

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‧ 國 立 政 治 大 學 ‧
國立政治大學日本語文學系
碩士論文
指導教授:蘇文郎
立
政 治 大
‧ 國
學
‧
「(Y ヲ Z)トスル」構文の研究
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
n
U
v
研究生:李郁玲 撰
中華民國一○ニ年七月
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
n
U
v
要旨
本論文は、
「( Y ヲ Z)ト ス ル 」構 文 に お け る「 ト ス ル 」の 機 能 、
「 Y」
と 「 Z 」 の 関 係 、「 ト ス ル 」 の 多 義 性 お よ び 「 ト シ テ 」 へ の 文 法 化 の
過程を明らかにすることを目的とする。
「( Y ヲ Z )ト ス ル 」構 文 形 式 に お い て は 、「 ス ル 」が「 Y ヲ Z ト ス
ル 」と い う 形 態 的 に 他 動 詞 性 の も の と 、
「 ~ ト ス ル 」の よ う な 自 動 詞
性のものがある。本論文はこの 2 類に分けて考察する。
本論文は 5 章から構成されている。序章と第 1 章は研究動機及び
先 行 研 究 と 問 題 点 で あ る 。第 2 章 で は 、
「 Y ヲ Z ト ス ル 」に お け る「 変
化 」 と 「 認 定 」 の 意 味 的 連 続 性 、「 ト 」 の 機 能 と 「 Z」 に 現 れ る 名 詞
政 治 大
の 制 約 に つ い て 論 述 す る 。 第 3 章 で は 、「 ~ ト ス ル 」 が 「 ト イ ウ 」、
立
「 と 考 え る 」、「 と 主 張 す る 」「 と 思 う 」 に 置 き 換 え る 現 象 、「 と さ れ
‧ 國
學
る 」、
「 と さ れ て い る 」形 式 の 用 法 を 記 述 す る こ と を 通 し て 「
、( Y ヲ Z)
ト ス ル 」の 多 義 構 造 を 解 明 す る 。第 4 章 で は 、機 能 動 詞 と し て の「 ト
‧
ス ル 」は 文 法 化 へ の 変 化 す る 過 程 を 探 究 す る 。第 5 章 は 結 論 で あ る 。
「Y ヲ Z トスル」構文であるが、「スル」が表す意味の違いによ
y
Nat
sit
っ て 、「 ト 」の 機 能 、「 Y」と「 Z」の 関 係 及 び「 Z」に 現 れ る 名 詞 も
n
al
er
io
違っていることが明らかになった。さらに、他の動詞との置き換え
i
n
U
v
る 場 合 を 探 究 し て 、 「( Y ヲ Z) ト ス ル 」 に 違 っ た 意 味 の 用 法 制 限 と
多義構造を解明した。
Ch
engchi
キーワード:スル、トスル、Y ヲ Z トスル、機能動詞、多義性、文
法化
摘要
本 論 文 主 要 探 討 下 列 四 點:
「( Y wo Z)tosuru 」句 法 結 構 中「 tosuru」
的 用 法 、「 Y」 和 「 Z 」 之 間 的 相 互 關 係 、「 tosuru 」 所 表 達 的 多 種 意 思
以 及 變 成 「 tosite」 之 文 法 化 的 過 程 。
「( Y wo Z) tosuru」 的 句 法 結 構 中 又 可 分 為 他 動 詞 型 態 「 Y wo Z
tosuru」以 及 自 動 詞 型 態「 ~ tosuru」兩 種 用 法。本 論 文 亦 以 這 兩 種 類
型分開探討。
本論文共分五章。序章和第一章是本論文研究動機以及相關文獻
探 討 。 第 二 章 以「 Y wo Z tosuru」句 法 結 構 為 主 , 探 討 其「 tosuru」在
表 達「 變 化 」和「 認 定 」之 間 意 思 上 的 連 續 性 、「 to」所 表 達 的 意 思 和
政 治 大
用 法 、 以 及 「 Z」 所 出 現 的 名 詞 限 制 。 第 三 章 則 是 以 「 ~ tosuru 」 句 法
立
結 構 為 主,藉 由 與「 toiu 」
、
「 tokanngaeru 」
、
「 tosyutyousuru」
、
「 toomou 」
‧ 國
學
等 動 詞 的 互 換 情 形 , 以 及 在 「 tosareru 」、「 tosareteiru 」 表 現 的 用 法 來
探 討 其 多 義 性。第 四 章 則 以 機 能 動 詞「 tosuru」為 主,記 述 其 變 為「 tosite」
‧
之文法化的過程。第五章為結論。
本 論 文 發 現 , 雖 然 同 為 「 Y wo Z tosuru」 句 法 結 構 , 但 因 「 suru」
y
Nat
sit
所 表 達 的 意 思 不 同 , 則 「 to」 所 表 達 的 意 思 和 用 法 、 其 前 接 名 詞 「 Y」
n
al
er
io
和 「 Z」 的 關 係 以 及 「 Z」 中 所 出 現 的 名 詞 也 有 所 不 同 。 並 且 藉 由 與 其
i
n
C
he
之間不同用法的限制,及其所
表 達 意 思 分i布U
ngch 。
v
他 動 詞 的 互 換 情 形 , 區 分 出 「( Y wo Z) tosuru」 句 法 結 構 中 各 種 意 思
關鍵字:スル、トスル、Y ヲ Z トスル、機能動詞、多義性、文法化
謝辭
「 在 人 這 是 不 能 的 , 在 神 凡 事 都 能 」 (馬 太 福 音 19:26)
考上政大研究所,完成課堂上每次驚悚的發表、寫完每學期令人
爆肝的期末報告、到驚嚇指數百分百的北京發表論文、直到現在完成
碩士論文,我都深深的經歷這句聖經的經節。
回 想 一 路 四 年 來 所 經 過 的 , 首 先 就 要 感 謝 這 位 偉 大 的 創 造 者 --獨 一 無 二 的 真 神 ---主 耶 穌。如 果 不 是 主 一 路 的 引 領,我 早 已 放 棄 論 文
的寫作並且休學了;如果不是主所賜的智慧,我不可能完成這麼艱鉅
的論文題目,寫出這樣的論文內容。撰寫論文的過程,猶如攀登喜馬
拉雅山,需要耐力、體力、意志力。稀薄的空氣隨時要將我吞噬在密
政 治 大
密麻麻的黑暗文字中;過少的食物使我的血糖降低,腦袋不清,思慮
立
渾沌。原本健步如飛的我,開始踏著沉重的步伐,是肩上背的重擔太
‧ 國
學
重,抑或是自己的重擔所致,我看不到山的頂點。然而,神卻帶領我
走 過 這 死 蔭 的 幽 谷,祂 的 竿,祂 的 杖,都 引 領 我 前 行。「 在 人 這 是 不 能
‧
的,在 神 凡 事 都 能 」,過 程 中, 我 焦 慮 過 ,也 大 哭 過,但 在 禱 告 中, 主
卻時時告訴我這句話,叫我不倚靠自己的能力,而完 全倚靠神。甚至
y
Nat
sit
在最後的關頭,在我就要到達山的頂點卻沒有食物可支撐下去時,神
n
al
er
io
竟從天降下嗎哪,適時的給我一份關鍵的參考文獻,才使我得以完成
i
n
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論文,攻占峰頂。因此,這篇論文真的是主給的,在此我也將它獻給
主。
Ch
engchi
特 別 感 謝 我 的 指 導 老 師,蘇 文 郎 老 師。謝 謝 老 師 一 路 的 細 心 指 導 ,
才能有今天的我。老師就好像爸爸一樣在我身邊默默的守護我,適時
的 給 我 最 正 確 的 方 向 , 使 我 不 致 迷 失 走 迂 迴 的 道 路 。 謝 謝 老 師 2012
年 11 月 給 我 機 會 能 去 北 京 發 表 論 文 , 使 我 學 習 到 了 許 多 ; 更 謝 謝 老
師 沒 有 放 棄 過 我,一 直 微 笑 著 對 我 說:
「 加 油 ! 好 好 努 力 ! 」使 我 更 有
勇氣走下去。感謝東吳大學王世和老師和本校的吉田妙子老師,在論
文口試時不吝提供許多寶貴的意見,才能使得本篇論文更蓁至完善。
感謝王淑琴老師,一路上給了我許多論文寫作的建議。 在此向這四位
老師致上我最深的謝意。
感謝研究所的同學學長姐,感謝月餅學長和張猷定學長,給我許
多專業上的指導,每次和學長討論的過程都激盪出許多的論文靈感,
得到很多幫助,對我去北京發表的論文內容也多加指導,才有今天的
成果;感謝杜宜津學姐,因為有學姐的鼓勵和陪伴,還有送我的論文
以及話語,才有今天的論文,我們都是屬神的人,未來,也要一起努
力在這世上發光發熱;感謝張惠茹學姐,學姐開朗活潑的個性總是使
易 緊 張 的 我 能 夠 放 鬆 ; 謝 謝 阿 賢 學 長 , momo 學 姐 , 佳 蓁 , や め て ,
安奇,心怡,小安,小花助教,謝謝你們一路上的支持鼓勵與幫忙。
特別感謝廖紋緻學姐,黑白的研究所生活還好有你,都變成彩色
的 啦 ! 謝 謝 你 送 我 的 一 大 堆 參 考 文 獻,謝 謝 你 幫 我 在 老 師 面 前 說 好 話,
謝謝你一路陪著我看我成長到結婚,雖然我不能嫁給強哥了,但是還
是最愛你,哈哈!
立
政 治 大
感 謝 台 北 市 召 會 42 會 所 與 竹 北 市 召 會 的 大 家 , 謝 謝 你 們 的 關 心
‧ 國
學
鼓勵與不斷的代禱,我才能寫完 這篇論文,也才能讓這本論文榮耀神
自己。滿滿的感謝,言語訴說不盡。謝謝我的家人,不斷默默的支持
‧
我關心著我;謝謝竹北市博愛國小的同事恬媛老師,奕琦老師,筱宇
Nat
sit
陪伴和鼓勵,才使得我有力氣完成這最後的部份。
y
老師,秀雯老師,亦文老師,志勤老師,最後這半年也因著有你們的
n
al
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io
最後,感謝我的先生。從來沒有想過我會先結婚,然後婚後的第
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三天口試,就好像主第三天復活一樣,一切都是新生的起頭。謝謝你
Ch
engchi
包容我的一切,有你,才有這本論文。
願主祝福每一位,祝福在看這本論文的你。
目次
序 章 .................................................................................................. 0
1.
研 究 動 機 及 び 目 的 ............................................................... 1
第 1章
先 行 研 究 と 問 題 点 .............................................................. 5
1.1
菊 池 (2009) ......................................................................... 5
1.2
菊 池 (1998) ......................................................................... 6
1.3
金 子 (1990) ......................................................................... 7
1.4
研 究 範 囲 及 び そ の 対 象 ...................................................... 8
1.5
研 究 方 法 ........................................................................... 9
第 2章
政 治 大
「 Y ヲ Z ト ス立
ル 」 構 文 に つ い て ....................................... 11
‧ 國
學
2.1 は じ め に ............................................................................ 11
2.2「 Y ヲ Z ト ス ル 」 に お け る 「 変 化 」 と 「 認 定 」 の 意 味 的 連 続
2.2.1
‧
性 ....................................................................................... 15
「 変 化 」 と 「 認 定 」 に つ い て ............................... 15
Nat
sit
y
2.2.2 「 認 定 」の 思 考 過 程:
「頭の中で変化過程の抽象化」
al
er
io
.............................................................................. 17
v
i
n
2.3「 Y ヲ Z ト ス ル 」 C
構文
に お け る 格 助U
詞 「 ト 」 の 機 能 ......... 21
he
ngchi
「 変 化 」 か ら 「 認 定 」 へ の 意 味 変 化 の 抽 象 化 ...... 19
2.3.1
先 行 研 究 と 問 題 点 ................................................. 21
2.3.2
「 Z ト 」 と 「 Z ダ ト 」 両 方 取 る 場 合 の 「 ト 」 の 機 能 26
2.3.3
「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 の み を 取 る 場 合 .................. 27
n
2.2.3
2.3.3.1
変化を表す「Y ヲ Z トスル」の「ト」の機能
.................................................................. 27
2.3.3.2
「スル」が機能動詞である場合の「ト」の果
た す 機 能 .................................................... 29
2.3.3.3 「 ス ル 」が 変 化 と 機 能 動 詞 以 外 の 場 合 の「 ト 」
の 機 能 ....................................................... 31
2.3.4
まとめ
................................................. 32
2.4「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に お け る「 Z」に 現 れ る 名 詞 の 制 約 に つ
い て ................................................................................... 32
2.4.1
先 行 研 究 お よ び 問 題 点 .......................................... 32
2.4.2
「 Y」 と 「 Z」 の 関 係 に つ い て ................................ 34
「 値 - 値 」に 属 す「 変 化 」、
「 仮 定 」と「 認 定 」
2.4.2.1
.................................................................. 36
「 役 割 - 値 」 ―決 定 を 表 す 「 Y ヲ Z ト ス ル 」
2.4.2.2
.................................................................. 37
「値-役割」である機能動詞を表す「Y ヲ Z
2.4.2.3
ト ス ル 」 構 文 ............................................. 38
2.4.3
學
3.1
立
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 の 多 義 性 ............................................. 41
‧ 國
第 3章
政 治 大
ま と め :「 Z」 の 性 質 及 び そ の 特 徴 ........................ 39
は じ め に ......................................................................... 41
3.2「 ~ ト ス ル 」 が 「 ト イ ウ 」、「 と 考 え る 」、「 と 主 張 す る 」「 と
‧
思 う 」 に 置 き 換 え る 現 象 ................................................... 43
y
sit
思 考 動 詞 「 ~ と 思 う 」「 ~ と 考 え る 」 に 置 き 換 え ら
io
er
3.2.2
「 ~ ト イ ウ 」 に 置 き 換 え ら れ る 場 合 ..................... 43
Nat
3.2.1
れ る 場 合 ................................................................ 49
al
n
v
i
n
「 ~ 仮 定C
す る 」 に 置 き 換 え る 場 合 ........................ 54
hengchi U
3.2.3
3.3「 ト ス ル 」が「 と さ れ る 」、「 と さ れ て い る 」形 式 に 変 わ っ た
場 合 ................................................................................... 55
3.3.1 主 語 の 省 略
................................................. 55
3.3.2「 ~ ト ス ル 」 と 「 と さ れ る 」、「 と さ れ て い る 」 ...... 57
3.4 「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 の 多 義 構 造 .......................................... 58
3.4.1「 Y ヲ Z ト ス ル 」
................................................. 58
3.4.1.1 基 本 義 ―変 化 ................................................. 58
3.4.1.2
派 生 義 ―変 化 か ら 抽 象 化 し た 認 知 へ の 認 定 、
決 定 、 仮 定 ................................................ 59
3.4.1.3
文 法 化 し た 機 能 動 詞 ................................... 59
3.4.2
自 動 詞 性 的 な 「 ~ ト ス ル 」 ................................... 60
派 生 義 ―「 と 思 う 」「 と 考 え る 」「 仮 定 す る 」
3.4.2.1
を 意 味 し て い る ......................................... 60
3.4.2.2 文 法 化 し た 引 用 機 能 の「 ト イ ウ 」に 等 し い も の
.................................................................. 60
派 生 義 ―「 と さ れ る 」「 と さ れ て い る 」 ..... 61
3.4.2.3
3.5
お わ り に ......................................................................... 61
第 4 章 「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 か ら 「 ~ ト シ テ 」 へ の 文 法 化 .......... 63
4.1
は じ め に ......................................................................... 63
政 治 大
4.3「 Y ヲ Z ト ス ル 」 に 見 ら れ る 文 法 化 の 連 続 性 ―「 ス ル 」 が 機
立
能 動 詞 で あ る 場 合 を 中 心 に ― ............................................ 65
鈴 木 (2007)―複 合 助 詞 「 ト シ テ 」 ................... 63
學
‧ 國
4.2 先 行 研 究
4.4 お わ り に ............................................................................ 71
結 論 ................................................................................. 73
‧
第 5章
結 論 ................................................................................ 73
5.2
今 後 の 課 題 ...................................................................... 78
al
er
io
sit
y
Nat
5.1
v
n
参 考 文 献 ......................................................................................... 79
Ch
engchi
i
n
U
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
n
U
v
序章
研究動機及び目的
1.
本 研 究 は 「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 構 文 を 研 究 対 象 と す る 。
(1) 加 藤 総 務 課 長 か ら 「 委 員 会 を 少 数 と す る こ と で 委 員 の 責 任 を 増
し 、よ り 慎 重 審 議 に 努 め た い 」と の 理 由 で あ る 旨 の 答 弁 を し た 。
(第 1 回 阿 賀 町 入 札 監 視 委 員 会 会 議 録 /
http://www.town.aga.niigata.jp/gyousei/bid/img /gijiroku01.pdf )
(2) 私 は 恩 師 の 生 き 方 を 手 本 と し て い る 。 (日 本 語 文 型 辞 典 1998)
(3) 新 聞 の 連 載 に さ き だ つ 予 告 に よ れ ば 、 数 種 の 短 編 を 書 き つ ぎ 、
政 治 大
それをあわせて総題を『心』とする予定だったという。
立
(新 潮 100 冊 )
‧ 國
學
(4) ま た 、 平 面 R 、 x = 0 、 y = 0 、 z = 0 に 囲 ま れ て 構 成 さ れ
る閉曲面を S とする。このとき、次の面積分を求めよ。
‧
(http://homepage3.nifty.com/rikei -index01/ouyoukaiseki/hassankeisan.
y
Nat
html)
io
sit
(1)~ (4)の 例 に 示 さ れ る よ う に「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 で は 、
「スル」
n
al
er
の 機 能 に よ っ て 、 そ れ ぞ れ 「 変 化 」、「 認 定 」、「 決 定 」、「 仮 定 」 と 違
i
n
U
v
った意味が表されている。同じ形式 でありながら表される意味が違
Ch
engchi
う 。『 日 本 語 文 型 辞 典 』 (1998) で も 、「 ~ ト ス ル 」 は 上 掲 し た 意 味 を
表すとしている。なお、この四つの意味の間に、それぞれ密接な関
係 が 存 在 す る 。ま た 、文 脈 に よ っ て 、
「 ス ル 」が 表 す 意 味 が 変 わ る 例
も た く さ ん 観 察 で き る 。上 述 し た 例 文 に 、
「 ス ル 」は 、二 つ 以 上 の 意
味解釈ができる場合がある。例えば、
(5)
「 委 員 会 を 少 数 と す る 」 (変 化 )(決 定 )(仮 定 )
(6)
「 閉 曲 面 を S と す る 」 (仮 定 )(認 定 )(決 定 )
(7)
「 総 題 を 『 心 』 と す る 」 (決 定 )(変 化 )
しかし、このように同じ文型でいくつもの解釈ができる理由は い
1
まだに解明されていない。
「 変 化 」、
「 認 定 」、
「 決 定 」、
「 仮 定 」の 間 に 、
きっと何らかの繋りがあると思われる。
そ の 一 方 、「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 構 文 に お い て 、「 変 化 」、「 認 定 」、「 決
定 」、「 仮 定 」 な ど と 解 釈 で き な い 例 も よ く 見 ら れ る 。
(8) ア メ リ カ に 比 べ ヨ ー ロ ッ パ で は 、 鉄 道 を は じ め と す る 交 通 機 関
が発達していたから、日常の暮らしに、何が何でも自動車が必
要という状況ではなかったのである。
(BCCWJ/ デ ザ イ ン 「こ と 」始 め :: ホ ン ダ に 学 ぶ )
(9) 先 ほ ど 7 時 32 分 頃 宮 城 県 沖 を 震 源 と す る 地 震 が 発 生 し ま し た 。
(http://news5656.com/510.html)
政 治 大
(10) だ が 、 そ れ を 認 め た く な い と す る 日 本 人 も 多 い 。
立
(迷 走 日 本 の 原 点 )
‧ 國
學
(11) 名 古 屋 、 東 京 の 二 本 社 制 を 推 進 し た わ け で 、 祖 業 以 来 の 名 古 屋
に重点を置くべきだとする次郎左衛門会長と対立した。
業)
‧
(BCCWJ/ ト ッ プ ・ マ ネ ジ メ ン ト の 経 営 史 :: 経 営 者 企 業 と 家 族 企
y
Nat
sit
同 じ 形 式 で あ る が 、上 述 し た (1) ~ (4)の「 ~ ト ス ル 」の 意 味 と 違 っ
n
al
er
io
て い る 例 (8)(9) は 、 実 質 的 意 味 が 含 ま れ な い た め 、 (1) ~ (4)と 同 一 視
i
n
U
v
し て は い け な い 。 村 木 (1991) で は 、 例 文 (8)の よ う な 「 ~ ト ス ル 」 は
Ch
engchi
機能動詞と認め、機能動詞を「実質的な意味を名詞にあずけて、み
ずからはもっぱら文法的な機能をはたす動詞」と定義している。こ
の 場 合 、「 ス ル 」 は 機 能 動 詞 と し て 、 実 質 的 な 意 味 が 薄 く 、「 変 化 」
「 認 定 」 な ど を 表 す 「 ス ル 」 と 違 う し 、「 Z」 に 入 る も の も あ る 程 度
の 限 定 が 見 ら れ る 。 例 え ば 、「 Y を 必 要 と す る 」、「 Y を 中 心 と す る 」
「 Y を 目 標 と す る 」 な ど の よ う な も の で あ る 。 で は 、「 Z」 の 表 す 内
容によって「スル」の使い分けに何の違いをもたらすのか という疑
問が湧いてくる。
そ の 一 方 、例 (9)に 関 す る 用 法 は 機 能 動 詞 と 解 釈 で き な い と 思 わ れ
る 。 (9)で は 、「 ~ ト ス ル 」 は た だ 「 み ず か ら は も っ ぱ ら 文 法 的 な 機
能をはたす動詞」だけで、何ら意志性もないという意味が見て取れ
2
る。この点について、もっと深く探究する必要がある。
ま た 、 (10) 、 (11)に つ い て 、『 明 鏡 国 語 辞 典 』 (2002)で は 、「 ~ と 仮
定する」及び「~という、~と考える、~と主張するなどの意の婉
曲的な言い方、~と判断してそういう見解や意見をもつ」という 二
つ の 意 味 が あ る と 説 明 し て い る 。後 者 の よ う な 表 現 は (12)の よ う に 、
「『 言 う 』
『考える』
『 主 張 す る 』な ど に 比 べ て 、形 式 的 、抽 象 的 な 言
い方としてマスコミなどに好まれるが、意味が曖昧になりやすい」
と記述されている。
(12) 気 象 庁 で は 津 波 の 心 配 は な い と し て い ま す 。
(『 明 鏡 国 語 辞 典 』 2002)
政 治 大
な お 、 例 (10)~ (12)で は 、「 ~ ト ス ル 」 の 多 義 性 が 観 察 で き る 。 例
立
(10)は「 と い う 、と 思 う 、と 考 え る 、と 主 張 す る 」に 置 き 換 え ら れ 、
‧ 國
學
(11)は 「 と い う 、 と 考 え る 、 と 主 張 す る 」 に 換 え ら れ る 。 本 研 究 で
はその置き換えられる場合にどういうような意味用法の特徴が見ら
‧
れるかを考察することにする。
(13) だ が 、 そ れ を 認 め た く な い [ と い う / と 思 う / と 考 え る / と 主
y
Nat
sit
張 す る ] 日 本 人 も 多 い 。 (例 文 10 の 再 掲 )
n
al
er
io
(14) 名 古 屋 、 東 京 の 二 本 社 制 を 推 進 し た わ け で 、 祖 業 以 来 の 名 古 屋
i
n
U
v
に重点を置くべきだ[という/と考える/と主張する]次郎左
Ch
engchi
衛 門 会 長 と 対 立 し た 。 (例 文 11 の 再 掲 )
な お 、 そ れ ら の 疑 問 を 抱 き な が ら 、 本 研 究 で は 「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」
構文を考察対象とし、この構文における「スル」の意味・機能を解
明 し 、「 Z」 の 内 容 と 機 能 動 詞 と し て の 「 ス ル 」 と の 繋 が り を 観 察 す
る こ と を 試 み た い 。こ の 考 察 に よ っ て 、一 般 化 の 規 則 を 見 出 し 、
「 (Y
ヲ Z)ト ス ル 」 構 文 の 意 味 解 釈 に 少 し で も 役 に 立 て ば と 思 う 。
3
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
4
i
n
U
v
第 1章
1.1
先行研究と問題点
菊 池 (2009)
菊 池 (2009) で は 、 文 を 受 け る 「 ~ ト ス ル 」 に つ い て 、 例 (1)~ (3)に
示されているように、これらの文に現れる「~トスル」は、すべて
発話された内容を表しているため、発話を 表す動詞に変えても、過
去 形 に 改 め て も 許 容 度 は 下 が ら な い と 述 べ 、そ し て 、
「 ~ ト ス ル 」を
用いて何らかの発話や表現内容を示すには、すでに行なわれたもの
に限られるので、近い将来に行われることが予想される発話なら、
政 治 大
「スル」を用いられなく、具体的な発話動詞が用いられると指摘し
立
ている。
‧ 國
學
(1) 鳩 山 首 相 は 、 米 軍 基 地 移 転 問 題 に つ い て 「 ア メ リ カ 側 と 協 議 し
‧
た い 」 と し て い る 。 →話 し て い る ( 話 し た )
(2) 政 府 は 、 公 約 の 達 成 の た め に は 赤 字 国 債 の 発 行 も 「 や む を え な
Nat
sit
y
い 」 と し て い る 。 →述 べ て い る ( 述 べ た )
al
er
io
(3) 日 中 韓 三 国 の 首 脳 は 、 北 朝 鮮 の 非 核 化 を 目 指 す と し た ( →述 べ
n
た)共同宣言を発表した。
Ch
engchi
i
n
U
v
(菊 池 2009:29)
し か し 、 (1)~ (3)の 「 と し て い る / と し た 」 は 、「 と 話 し て い る /
と述べている」などの発話を表す動詞に変えた後、もとの文とはニ
ュ ア ン ス が 変 わ っ て し ま う の で あ る 。 こ の 点 に つ い て 、 菊 池 (2009)
ではあまり詳しく説明されていない。
前 述 し た 『 明 鏡 国 語 辞 典 』 (2002) で は 、 こ の よ う な 「 ~ ト ス ル 」
の形式は動詞を使う文より婉曲な表現であると記述しているが、発
話された内容だけではなく、
「 ~ ト 考 え る 」、
「 ~ ト 主 張 す る 」、
「~ト
判 断 す る 」 な ど の 意 味 も 表 し て い る 。 そ れ ゆ え 、 菊 池 (2009) か ら 提
出した文を受ける「~トスル」はすべて発話された内容を表してい
るという説明は明らかに不十分である。
5
したがって、次のような例に対して、有効な説明にならない こと
が 分 か る 。例 (4)(5) は 例 (1)(2) と 同 じ よ う に 、文 末 に 置 い て 、
「トスル」
を用いて何らかの発話や表現内容を示しているが、テイル形や過去
形( と し て い る 、と し た )で は な く 、ス ル 形( と す る )が 使 わ れ る 。
こ の 場 合 、ど う 解 釈 す れ ば 良 い の で あ ろ う か 。(4)と (5)の 主 体 は 第 三
者 な の で 、 動 詞 「 ~ ト 考 え る 」、「 ~ ト 思 う 」 の ス ル 形 に 変 え た ら 、
非 文 に な る 。こ の よ う に 、
「 ~ ト ス ル 」は 動 詞 と の 交 替 現 象 及 び 意 味
の違いはさらに構文的な特徴から検討することが必要である。
(4) つ ま り 野 沢 氏 は 、
『 生 と 死 の 二 極 対 立 の 同 体 概 念 を 否 定 し 、生 が
政 治 大
本質であって死はその生の中の一時点で、死は生の系列に含まれ
立
る』とする。
‧ 國
學
( BCCWJ/ 宇 宙 の 意 思 :: 人 は 、 何 処 よ り 来 り て 、 何 処 へ 去 る か )
(5) フ ァ ー ン ズ は 、 ノ ー マ ン が 外 交 官 に 対 す る 執 着 を も う 少 し あ っ
Nat
y
とする。
‧
さりと捨てることができたなら、悲劇は避 けられたのではないか、
n
al
er
io
1909-1957)
sit
( BCCWJ / 外 交 官 E ・ H ・ ノ ー マ ン :: そ の 栄 光 と 屈 辱 の 日 々
1.2
菊 池 (1998)
Ch
engchi
i
n
U
v
菊 池 (1998) で は 、
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」に 現 れ る 格 助 詞「 ト 」の 本 質 に
ついて、
「 認 定 の ト 」と「 引 用 の ト 」と い う 二 つ の 意 味 に 分 け ら れ て
い る 。「 認 定 の ト 」 に は 、「 あ る も の を 別 の も の と 同 一 視 す る 、 あ る
ものを別のものと認定する」という意味が含まれる。これ に対し、
「引用のト」は「話者の思考や判断の内容を提示する」と 述べてい
る 。 (7)の 「 ~ ト ス ル 」 は「 ~ 仮 定 す る / ~ 定 め る / ~ 考 え る 」 と 交
換 で き る の で 、「 認 定 の ト 」と さ れ て い る 。 (9)も 同 じ よ う に 、「 ~ ト
思 う 」、「 ~ ト 考 え る 」 と 書 き 換 え ら れ る 。
(6) a、 b を 実 数 と す る 。 以 下 の 問 い に 答 え よ 。
(7) a、 b を 実 数 と { 仮 定 す る / 定 め る / 考 え る }。
6
(8) 契 約 更 改 に 臨 ん だ 鈴 木 選 手 は 、球 団 の 2 億 円 の 提 示 の 不 服{ * に
/と}した。
(9) 契 約 更 改 に 臨 ん だ 鈴 木 選 手 は 、球 団 の 2 億 円 の 提 示 の 不 服 と{ 思
っ た / 考 え た }。
(菊 池 1998:38-39)
「 考 え る 」は (7)と (9)に 両 方 と も 用 い ら れ る 。こ の 現 象 に つ い て は 、
菊 池 (1998) で は 詳 し い 説 明 が 見 ら れ な い が 、
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」と 動 詞
「 ~ ト 考 え る 」、「 ~ ト 思 う 」 の 交 替 現 象 に つ い て は も っ と 深 く 探 究
する必要があると思われる。
1.3
金 子 (1990)
立
政 治 大
金 子 (1990) で は 、「 N 1 ヲ N 2 ニ シ テ 」と い う 構 文 を 後 置 詞 化 1 と 位 置
‧ 國
學
づ け て 、い く つ か の 例 文 を 上 げ 、
「 ス ル 」の 機 能 、ほ か の 動 詞 に 置 換
す る 現 象 、「 N 1 ヲ N 2 ニ シ テ 」 の 「 ニ シ テ 」 は 「 ト シ テ 」 に 互 換 す る
‧
状 況 な ど が 記 述 さ れ て い る 。中 に は 、
「 を 中 心 に し て 」に つ い て の 分
析 で あ る 。 金 子 (1990) で は 「 中 心 」 を 13 の 例 を 挙 げ て 、「 連 体 修 飾
y
Nat
n
al
er
io
中 心 に 」 で あ る 。」 と 主 張 し て い る 。
sit
節 と な る 例 (10)(11) を 除 い て は 、
「 す る 」は 生 起 し て い な い 、全 部「 を
i
n
U
v
(10) 空 て い 旅 団 や F15 戦 闘 機 隊 の ほ か 空 母 三 隻 を 中 心 と す る 海 上 兵
Ch
力も配備されつつある。
engchi
(11) 米 、英 両 軍 を 中 心 と す る 多 国 籍 軍 は 必 要 な ら 武 力 衝 突 も 覚 悟 で 、
今のところ最後にノ後されたイラクへの出入り口アカバ湾を含
め、海上封鎖の徹底化を図ろうとしている。
(金 子 1990:26)
だ が 、 筆 者 の 考 察 2 で は 、 (10)(11)の よ う に 「 ~ を 中 心 と す る 」 形
は 861 例 が 出 て き て 、 文 末 に 置 く 場 合 も あ る し 、 連 体 修 飾 節 と な る
1
高 橋 (1983) に よ る と 、「 後 置 詞 化 」 と は 、 動 詞 が 本 来 の 機 能 を や め 、 本 来 の 意
味 を か え る と 、動 詞 的 な カ テ ゴ リ ー を 失 っ て 、語 形 変 化 が 退 化 す る と い う こ と
である。
2
考 察 し た コ ー パ ス は BCCWJ「 現 代 日 本 語 書 き 言 葉 均 衡 コ ー パ ス 」( 検 索 エ ン ジ
ン : ひ ま わ り ) で あ る 。 BCCWJ の デ モ 版 を 使 用 し た 。 な お 、 用 例 は デ モ 版 が 配
布 さ れ た 2011 年 に 収 集 し た も の で あ る 。
7
例も数多く見られる。確かに、連体修飾節 として使う「~を中心と
す る 」を 除 い て は 、
「 中 心 」は「 ス ル 」と 共 起 し て い る 場 合 が 少 な い
が 、 (12)(13) の よ う に 共 起 す る 場 合 も あ る 。 こ の 点 で は 、 金 子 (1990)
の考察した結果である「生起していない」とは明らかに違う。その
上、数多くの連体修飾節となる場合もたくさんあることを無視して
はいけない。
(12) 東 日 本 の 森 林 植 生 は 、 冬 に は 葉 が 落 ち る 落 葉 広 葉 樹 、 す な わ ち
ナラやブナを中心とする。温暖な西日本は照葉樹を主とする。
( BCCWJ/ 日 本 古 代 史 と 遺 跡 の 謎 ・ 総 解 説 :: 古 代 ミ ス テ リ ア
ス・ジャパンの扉を開く鍵)
政 治 大
(13) 効 率 を 増 す た め 、 技 師 に ソ 連 の 専 門 家 を 任 用 し て よ い 。 実 際 の
立
任務は、自動車および重機械の製作 を中心とする。
‧ 國
研究範囲及びその対象
明)
‧
1.4
學
( BCCWJ/ 中 ソ 関 係 史 の 研 究 :: 1945-1950 石 井
本 研 究 で は 、「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 構 文 を 研 究 し 、 主 と し て 以 下 の 三
y
Nat
n
al
er
io
[1]
sit
つの点について考察していく。
i
n
U
v
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 に お け る 「 X が Y を Z と す る 」 構 文 の 「 ト ス
ル」の機能を解明する。
Ch
engchi
こ の 構 文 に お け る 、「 ト ス ル 」は 実 質 的 意 味 を 表 す「 変 化 」、「 認
定 」、「 決 定 」と「 仮 定 」の 四 つ の 意 味 の 互 い の 関 係 を 再 定 義 し て 、
その間に存在する意味的な連続性を説明する 。また、「トスル」は
実質的意味がない機能動詞としての特徴も考察する。
[2]
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 の 多 義 性 を 考 察 す る 。
(14)の よ う な 例 に 現 れ る 「 ~ ト ス ル 」 は 、 「 と い う 、 と 考 え る 、
と思う、と判断する、と主張する、と仮定する」に置き換えられる
場合の特徴、制限などを考察し、一般化の規則を見出す。
8
(14) だ が 、 そ れ を 認 め た く な い と す る 日 本 人 も 多 い 。
( BCCWJ/ 迷 走 日 本 の 原 点 )
[3]
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 の 文 法 化 を 探 究 す る 。
動詞「~トスル」から複合助詞「~トシテ」への文法化の過程、
機能動詞としての「トスル」は文法化への変化する過程などを探究
する。
1.5
研究方法
ま ず 、「 青 空 文 庫 」、「 新 潮 100 冊 」、「 中 納 言 」KOTONOHA「 現 代 日
政 治 大
本 語 書 き 言 葉 均 衡 コ ー パ ス 」 な ど の コ ー パ ス を 利 用 し 、「 (Y ヲ Z)ト
立
スル」の用例を集める。そこで得た資料をさらに形態上の違いによ
‧ 國
學
っ て 分 析 し 、「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 を 中 心 と し て 2 節 で 挙 げ た 考 察 す る
点 を 他 の 動 詞 と の 交 替 現 象 及 び 特 徴 を 確 認 し て い く 。ま た 、
「~トス
‧
ル」から複合助詞「~トシテ」への文法化の現象を考察し、その文
法化の程度及び意味特徴などについて も考えてみたいと思う。
n
er
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9
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立
政 治 大
‧
‧ 國
學
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10
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第 2章
「Y ヲ Z トスル」構文について
2.1 は じ め に
日 本 語 の 「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 3は 「 ス ル 」 の 意 味 用 法 に よ っ て 、
実質的な意味を持つ一般的な動詞に似ている実質動詞と実質的な意
味を持たない機能動詞という二つの用法に分けられる。実質動詞に
は、
「 ス ル 」は「 変 化 」、
「 認 定 」、「 決 定 」、
「 仮 定 」な ど い ろ い ろ な 意
味を表す。同じ形式であるとはいえ、表される意味が違う。以下、
具体例をあげながら説明していきたい。
學
①「変化」
‧ 國
〈1〉
政 治 大
実質動詞としての用法
立
まずは、変化を表す「Y ヲ Z トスル」構文の典型的な例を見てみ
‧
よ う 。 奥 津 (2007) に よ る と 、「 ス ル 」 は 自 動 詞 「「 な る 」 が 表 現 す る
変 化 を 引 き 起 こ す 」と い う 意 味 の 変 化 他 動 詞 で あ る 。奥 津 (2007) は 、
Nat
sit
y
こ れ を「[ 変 化 ]使 役 」と 表 示 し て い る 。例 (1)(2) の 示 す よ う に 、「 ス
al
er
io
ル 」は 変 化 の 意 味 を 持 ち 、
「 Z」は 変 化 し た 結 果 で あ る 。格 助 詞「 ト 」
v
n
は 変 化 し た 結 果 が 示 さ れ る 。こ の 場 合 、
「 ト 」は「 ニ 」に 換 え る こ と
が可能である。
3
Ch
engchi
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n
U
「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 に は 「 結 婚 を 彼 と す る 」、「 テ ニ ス を 友 達 と す る 」 の よ う
な 文 が あ る 。 し か し 、 こ の 場 合 、「 と 」 は 「 ~ と す る 」 構 文 に 属 さ な く 、 岩 淵
(2000) で 指 摘 す る よ う に 、 前 に つ い た 名 詞 「 彼 」 が 「 結 婚 を す る 」 動 作 の 相
手 で あ る と い う 意 味 役 割 を 担 っ て い る ( 岩 淵 2 000:49) 。 こ の よ う に 、「 結 婚 を
彼とする」は「彼と結婚をする/彼と結婚する」という意味であり、同じ形
式 と は い え 、上 述 の 例 文 と は 全 然 違 う 意 味 が 見 ら れ る 。C の「 テ ニ ス を 友 達 と
す る 」 と 同 様 に 、「 友 達 と 」 は 動 詞 「 ス ル 」 の 前 に 置 か れ て 、「 家 族 、 愛 人 や
他 の 人 で は な く 、『 友 達 』 と テ ニ ス を す る 」 と い う こ と を 話 者 が 伝 え た が っ て
い る 意 図 が 現 れ る 。 そ こ で 、 A~ C の よ う な 例 文 は 本 稿 の 考 察 範 囲 か ら 除 外 す
る。
(A)「 も し も 希 望 通 り の 結 婚 を 彼 と す る の が 難 し い と し た ら 、 ト ピ 主 さ ん は
どうしたいですか?」
(http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2011/0814/434612.htm)
(B)「 結 婚 を 彼 と す る 。」
→ 「 彼 と 結 婚 を す る 。」
(C)「 テ ニ ス を 友 達 と す る 。」 → 「 友 達 と テ ニ ス を す る 。」
11
(1) 加 藤 総 務 課 長 か ら「 委 員 会 を 少 数 と す る こ と で 委 員 の 責 任 を 増 し 、
より慎重審議に努めたい」との理由である旨の答弁をした。
(例 文 再 掲 )
(2) 平 成 19 年 に お け る 従 事 者 数 の 目 標 は 、 本 活 性 化 計 画 に 基 づ く 事
業 推 進 に よ り 減 少 傾 向 を く い 止 め 、現 状( 平 成 12 年 )水 準( 7,155
人 ) を 維 持 ・ 確 保 す る こ と と し 、 平 成 19 年 に お け る 付 加 価 値 生
産 性 の 目 標 を 1,096 万 円 / 人 と す る 。
( http://www. pr ef. ehim e. jp/050keiz air oudou/030chuushouki gy/0000292203052
7/3_mokuhyou. pdf )
政 治 大
そ し て 、 (3)~ (5)の 例 文 に お い て は「 Y」と い う も の ご と を「 Z」と
立
②「認定」
いうものに当てられ、あるいは何らかの身分・資格を位置づけ るの
‧ 國
學
で、認定の意味を表す。
(3) 私 は 恩 師 の 生 き 方 を 手 本 と し て い る 。 (例 文 再 掲 )
‧
(4) と こ ろ で 写 真 を 趣 味 と す る 者 、写 真 を 職 業 と す る 者 な ら「 肖 像 権 」
( http://www. jps. gr . jp/repor t/pdf/127_30 -31. pdf )
al
er
io
sit
y
Nat
という言葉を一度は聞いたことがあるであろう。
n
(5) ふ る く は 徐 福 の 移 住 伝 説 と 関 係 さ せ て 、夷 州 を 日 本 と す る 考 え が
Ch
あ っ た 。 (BCCWJ/ 食 文 化 新 鮮 市 場 )
engchi
i
n
U
v
③「決定」
(6)(7)の 「 ス ル 」 は 「 決 定 す る 」 と い う 意 味 を 表 す 。「 認 定 」 と は
よ く 似 て い る が 、「 認 定 」 よ り 意 志 性 が 強 く 、 決 定 し た 事 柄 を 表 す 。
(6) 本 件 は 、発 明 の 名 称 を「 鍋 」と す る 特 許 第 4562094 号 の 特 許 権 を
有 す る 原 告 が 、被 告 製 品 の 製 造 販 売 等 を す る 被 告 ら に 対 し 、以 下
の 請 求 を す る 事 案 で あ る 。 (判 決 書 /
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130226114146.pdf )
(7) 新 聞 の 連 載 に さ き だ つ 予 告 に よ れ ば 、数 種 の 短 編 を 書 き つ ぎ 、そ
れ を あ わ せ て 総 題 を 『 心 』 と す る 予 定 だ っ た と い う 。 (例 文 再 掲 )
12
④「仮定」
最 後 は「 仮 定 」と い う 場 合 で あ る 。「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に 属 す る
と い う 限 定 が あ る の で 、「 と す る な ら 」「 と す る と 」「 と す れ ば 」「 と
し た ら 」な ど 条 件 文 を 除 外 し て 、(8)(9) の よ う な 用 例 だ け が こ の タ イ
プに入ることになる。
(8) x、 y、 z を 実 数 と す る と き 、 次 の 問 い に 答 え よ 。
(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1043778
815)
(9) ま た 、 平 面 R 、 x = 0 、 y = 0 、 z = 0 に 囲 ま れ て 構 成 さ れ
る閉曲面を S とする。このとき、次の面積分を求めよ。
政 治 大
立
(例 文 再 掲 )
上 に あ げ た (1)~ (9)か ら 、 そ れ ぞ れ 下 線 部 の 形 式 が 同 じ で あ る が 、
‧ 國
學
意 味 的 に は 異 な っ て い る こ と が 分 か る 。し か し 、こ の よ う な「 ス ル 」
は、二つ以上の意味解釈ができる。例えば、上の例文に下線部が単
‧
独 で 現 れ る 場 合 な ら 、「 ス ル 」 が 表 す 意 味 が 変 わ る 例 も あ る 。 (2) の
「 平 成 19 年 に お け る 付 加 価 値 生 産 性 の 目 標 を 1,096 万 円 / 人 と す
y
Nat
n
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Ch
engchi
er
io
どの例のように二つ以上の解釈ができる。
sit
る 」、(4)の「 写 真 を 職 業 と す る 者 」、(7)の「 総 題 を『 心 』と す る 」な
i
n
U
v
(10) 「 平 成 19 年 に お け る 付 加 価 値 生 産 性 の 目 標 を 1,096 万 円 / 人 と
す る 」 (変 化 )(決 定 )(仮 定 )
(11) 「 写 真 を 職 業 と す る 者 」 (認 定 )(決 定 )(変 化 )
(12) 「 総 題 を 『 心 』 と す る 」 (決 定 )(変 化 )
( 10~ 12 は 例 文 再 掲 )
しかし、このように同じ文型で多数の解釈ができる理由は今のと
こ ろ ま だ 分 か ら な い が 、「 変 化 」、「 認 定 」、「 決 定 」、「 仮 定 」 の 間 に 、
何らかの繋がりがあるに違いない。
〈2〉機能動詞としての用法
「Y ヲ Z トスル」構文は上述した意味用法以外にもう一つの用法
13
が 見 ら れ る 。 そ れ は 機 能 動 詞 と し て の 場 合 で あ る 。 村 木 (1991)に で
は、機能動詞を「実質的な意味を名詞にあずけて、みずからはもっ
ぱら文法的な機能をはたす動詞」と定義している。本研究は村木の
機 能 動 詞 の 定 義 に 従 い 、(13)~ (16) で 使 わ れ る「 ス ル 」を 機 能 動 詞 と
呼ぶことにする。
(13) 広 島 市 を 中 心 と す る 周 辺 の 市 町 村 の 国 民 学 校 は 、 戸 坂 国 民 学 校
と 同 じ く 緊 急 収 容 所 に 当 て ら れ て 、ど こ も 超 満 員 に な っ て い た ら
しい。だから遠隔の地に広く散らす必要があるわけだ。
(新 潮 100 冊 )
政 治 大
(14) ア メ リ カ に 比 べ ヨ ー ロ ッ パ で は 、 鉄 道 を は じ め と す る 交 通 機 関
立
が 発 達 し て い た か ら 、日 常 の 暮 ら し に 、何 が 何 で も 自 動 車 が 必 要
‧ 國
學
と い う 状 況 で は な か っ た の で あ る 。 (例 文 再 掲 )
(15) 政 府 管 掌 健 康 保 険 は 、 主 に 中 小 企 業 の 被 用 者 を 対 象 と す る 健 康
‧
保 険 で あ り 、給 付 面 で は 被 保 険 者 本 人 に 9 割( 但 し 、6 1 年 4 月
以 降 ,国 会 で 承 認 を 受 け ,厚 生 大 臣 の 告 示 す る 日 の 翌 日 か ら 8 割 )、
y
Nat
(BCCWJ/ 経 済 白 書 :: 昭 和 60 年 版 )
n
al
er
io
sit
家族に入院8割・外来7割の保険給付を行う。
i
n
U
(16) 生 命 は ど う し て 死 を 目 標 と す る の だ ろ う 。
Ch
e n(日
g c経hビiジ ネ ス
v
on line
2011/2/3)
(1)~ (16)は 統 語 上 で は い ず れ も 「 Y ヲ Z ト ス ル 」 形 態 を も つ の が
観 察 で き る 。 だ が 「 Z」 の 違 い に よ り 、「 ス ル 」 の 表 す 意 味 も 違 っ て
い る 。(1)~ (9)と 比 べ て 、機 能 動 詞 と し た( 13~ 16)の 場 合 、「 Z」は
ある程度の制約が見られるため、意味的にも、形態的にもすべての
例を同一視することができない。
本章では、主として「Y ヲ Z トスル」という構文形式を考察し、
先行研究の分類に踏まえ、この構文における「スル」の使い分けと
意味の連続性の解明を試みたいと考える。さらに「 Y ヲ Z トスル」
構 文 の「 Z」の 内 容 と「 ス ル 」と の 繋 が り を 考 察 し 比 較 す る こ と に よ
っ て 、一 般 化 の 規 則 を 見 出 し 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 の 意 味 用 法 の 特
14
徴を整理したいと思う。
2.2「 Y ヲ Z ト ス ル 」 に お け る 「 変 化 」 と 「 認 定 」 の 意 味 的
連続性
2.2.1「 変 化 」 と 「 認 定 」 に つ い て
奥 津 (2007) に よ る と 、「 変 化 と い う の は 、「 Y」〈 主 体 〉 の 始 め の 状
態 〈 始 発 〉 か ら 、 変 化 の 終 わ り の 状 態 「 Z」〈 結 果 〉 ま で の 過 程 」 と
い う 。 始 発 と 結 果 (Z)が 違 う 。 一 方 、「 認 定 」 と は 、「 Y」 と い う も の
ご と を「 Z」と い う も の に 当 て ら れ 、あ る い は 何 ら か の 身 分・資 格 を
位 置 づ け る と い う 意 味 も 規 定 で き る 。両 者 の 大 き な 差 は 、
「 変 化 」に
政 治 大
は 始 発 の 状 態 が あ る の に 対 し て 、「 認 定 」 に は そ れ が な い 。 つ ま り 、
立
変化はその変化する過程を持っているが、認定はそのような 過程を
‧ 國
學
持たないということである。
(17) 変 化 : 奥 津 (2007)
‧
n
al
er
io
sit
y
Nat
変化
• 始発の状態
結果(Z)
• 主体(Y)を始発の状態から結果(Z)とする
Ch
i
n
U
v
e n(gそcのh変i 化 す る 過 程 を 持 っ て い る )
(18) そ し て 、 A 方 向 の 信 号 を 青 と し 、 他 方 向 ( B , C 方 向 ) の 信 号
をすべて赤とする。
(http://www.j-tokkyo.com/2001/G08G/JP2001 -291188.shtml)
(19) ま ず 、 全 方 向 信 号 を 赤 と す る( S 5 1 )。そ し て 、工 事 車 両 1 5
に 、 出 入 り 許 可 信 号 を 通 知 す る ( S 5 2 )。
(http://www.j-tokkyo.com/2001/G08G/JP2001 -291188.shtml)
(20) こ れ は 「 竪 琴 」 あ る い は 芸 術 を 、 善 と 幸 福 へ の 道 と す る 強 い 信
念 が な く て は で き な い こ と な の で 、こ の 物 語 が ひ と つ の 思 想 小 説
だ と さ き に 言 っ た の は 、 こ の 意 味 で す 。 (新 潮 100 冊 )
15
(17)に 示 さ れ た よ う に 、例 (18) で は 、主 体 (Y)は「 A 方 向 の 信 号 」で
あり、その始発状態は「赤」から「青」になるという変化する過程
が あ る 。(19)も 同 じ で 、主 体 (Y)は「 全 方 向 信 号 」、変 化 す る 過 程 は 逆
に「 青 」か ら「 赤 」ま で で あ る 。さ ら に 、(20) の 主 体 で あ る「「 竪 琴 」
あるいは芸術」は元々「善と幸福への道ではない」ものだと思われ
る 思 い か ら 、「 善 と 幸 福 へ の 道 」 に 変 え る 。
そ の 一 方 、 認 定 は (17) の 「 変 化 」 に あ る 変 化 す る 過 程 が 見 ら れ な
い。
(21) 認 定 :
認定
政 治 大
状態・資格・身分(Z)
立•• 主体
主体(Y)を状態・資格・身分(z)とする
‧ 國
學
‧
(その変化する過程を持たない)
(22) ふ る く は 徐 福 の 移 住 伝 説 と 関 係 さ せ て 、 夷 州 を 日 本 と す る 考 え
y
Nat
sit
が あ っ た 。 (例 文 再 掲 )
n
al
er
io
(23) 魔 法 が 能 力 に 勝 つ に は ど う す れ ば い い か ? 一 つ は 魔 力 量 を 多 く
i
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す る こ と だ ね 。そ う だ な あ 、魔 力 と 能 力 の エ ネ ル ギ ー を リ ン ゴ と
Ch
engchi
す る 。 (笹 倉 / 『 M& A 』 http://ncode.syosetu.com/n7796y/)
(22)の 「 ト ス ル 」 は 、 変 化 過 程 が な い 主 体 で あ る 「 夷 州 」 が 「 日
本」に変わったのではなく、昔は「 夷州」と呼ばれるところは今は
何と言われるという認定の意味である。上述した変化のように「始
発 か ら 結 果 」へ の 変 化 過 程 を 持 た な い 。つ ま り 、
「 夷 州 」に 一 つ の 名
前や身分をつけるという意味用法の構文である。もう一つの例を見
て み よ う 。 (23)に あ る 「 魔 力 と 能 力 の エ ネ ル ギ ー を リ ン ゴ と す る 」
と い う 文 は 、明 ら か に 変 化 の 意 味 が な く 、
「魔力と能力のエネルギー」
がリンゴで表示するという認定の意味を表す構文である。
す な わ ち 、「 Y を Z と す る 」 構 文 は 、 動 詞 「 ス ル 」 は 「 主 体 」 (Y)
16
の「 変 化 す る 過 程 を 持 つ か ど う か 」に よ っ て 、
「 変 化 」や「 認 定 」の
判断が下される。
2.2.2
「 認 定 」 の 思 考 過 程 :「 頭 の 中 で 変 化 過 程 の 抽 象 化 」
認 定 は「 と 思 う 」
「 と 考 え る 」な ど の 認 識 動 詞 に 置 き 換 え ら れ る よ
う に 、 頭 の 中 で 「 Y」 を 「 Z」 の よ う な 資 格 を 位 置 付 け る 。 例 え ば 、
(23)の 「 魔 力 と 能 力 の エ ネ ル ギ ー 」 を ど う い う も の か と い う 思 考 過
程 が 含 意 さ れ て 、い ろ い ろ な 物 事 を 考 え た 後 、
「 リ ン ゴ 」と 認 定 し た 。
この思考過程は、頭の中で変化過程の抽象化とも言える。すなわ
ち、もともと外的に物理的変化は、抽象化して、心理的な変化へ移
政 治 大
っ て し ま う の で あ る 。つ ま り 、
「 魔 力 と 能 力 の エ ネ ル ギ ー 」は も と も
立
と「エネルギー」であるが、話者の主観意識により、この思考過程
‧ 國
學
を 経 て 、(24) と (25)が 示 す よ う に 、話 者 の 頭 の 中 で「 エ ネ ル ギ ー 」を
「 リ ン ゴ 」と い う も の に つ け て 、
「 エ ネ ル ギ ー 」を「 リ ン ゴ 」で 表 示
‧
す る 。す な わ ち 、話 者 の 認 識 に 変 化 が 付 与 さ れ 、
「 エ ネ ル ギ ー 」が「 リ
ンゴ」に変わったということである。
io
n
al
Ch
(25) 話 者 の 変 化 付 与 認 識 :
思考過程
engchi
er
sit
y
Nat
(24) 「 エ ネ ル ギ ー 」
i
n
U
「リンゴ」
v
「エネルギー」
「リンゴ」
頭の中で変化過程の抽象化
(26)
「Y」
思考過程
17
「Z」
話者の変化付与認識 :
「Y」
変化過程の抽象化
「Z」
→「 認 定 」: 思 考 過 程 →頭 の 中 で 変 化 過 程 の 抽 象 化
例 (27)~ (29) も 同 じ で 、「 不 可 能 」、「 枯 れ 木 や 朽 ち 木 、 落 ち 葉 、 腐
っ た 葉 」、
「 物 ま ね 」を 、話 者 や 書 き 手 が 自 分 自 身 の 認 識 ・判 断 な ど 一
連 の 思 考 過 程 を 経 て 、頭 の 中 で「 不 可 能 」が「 可 能 」に 、
「 枯れ木や
朽 ち 木 、落 ち 葉 、腐 っ た 葉 」を「 食 物 」に 、「 物 ま ね 」が「 得 意 」に
政 治 大
変わり、認定するということだ。
立
‧ 國
學
(27) そ の 開 発 者 は 、 不 可 能 を 可 能 と す る 科 学 を 標 榜 し て 、 こ の 社 会
がタブーや倫理によって封じ込めてきた悪夢をやすやすと手中
‧
に す る こ と が 起 こ る 。 (中 納 言 )
(28) 生 き た 植 物 だ け で な く 、 枯 れ 木 や 朽 ち 木 、 落 ち 葉 、 腐 っ た 葉 を
y
Nat
n
al
er
io
も い る 。 (BCCWJ/ 昆 虫 ウ ォ ッ チ ン グ )
sit
食 物 と す る も の( 腐 食 者 )も い る し 、キ ノ コ や コ ケ を 食 べ る も の
i
n
U
v
(29) ア ル フ ィ ー に な り き っ た コ ピ ー バ ン ド や 、 自 作 の ア ル フ ィ ー グ
Ch
engchi
ッ ズ を 持 参 し た 人 、物 ま ね を 得 意 と す る 人 な ど の 個 性 豊 か な フ ァ
ン が 登 場 す る 。 (中 納 言 )
も ち ろ ん 、 こ こ で 「 変 わ る 」、 つ ま り 「 変 化 過 程 」 の 「 変 化 」 は 、
(17)で 指 す「 変 化 」と は す こ し 違 う 。下 に 掲 げ た (30)か ら 分 か る よ う
に 、 主 体 (Y) の 状 態 か ら 見 れ ば 、「 変 化 」 は 、 主 体 の 外 観 あ る い は 自
ら の 成 分 な ど の「 物 理 的 変 化 」と 言 え る の に 対 し て 、
「 認 定 」は 頭 の
中で思考過程を経て、主体を何らかの状態や資格、身分などを帯び
るものに変える。この「変える」は、主体には本質で何の変わりも
なく、話者の主観的認定、心理的変化と言える。例えば、
(28)生 き た 植 物 だ け で な く 、 枯 れ 木 や 朽 ち 木 、 落 ち 葉 、 腐 っ た 葉 を
18
食物とするもの(腐食者)もいるし、キノコやコケを食べるも
のもいる。
に は 、「 枯 れ 木 や 朽 ち 木 、 落 ち 葉 、 腐 っ た 葉 」 は 、 元 々 は 「 木 と 葉 」
であるが、話者にとっては、ただの「木、葉」だけではなく、もと
もと植物と見られる「木、葉」から、話者の心的思考によって、食
物 に 変 わ っ て 、 食 物 と し て 見 る も の (腐 食 も の )も い る と い う よ う な
心理的な変化が見られる。これは、 もともと外的物理的変化は、抽
象化して、心理的な変化へ移ってしまうということである。
(30) 主 体 の 状 態 か ら 見 れ ば 、
政 結治
果 (Z)
大
「 変 化 」: 主 体 (Y)
立
(外的変化)
「 認 定 」: 主 体 (Y)
状 態 ・ 資 格 ・ 身 分 (Z)
‧
(心理的変化)
(外的変化ではない)
sit
y
Nat
n
al
er
「変化」から「認定」への意味変化の抽象化
io
2.2.3
學
‧ 國
(物理的変化)
i
n
U
v
こ の よ う な 「 変 化 」( 物 理 的 変 化 ) と 「 認 定 」( 心 理 的 変 化 ) の 関
Ch
engchi
係 は 日 野 (2001)で 提 出 さ れ た 「 抽 象 化 」 で 解 釈 で き る と 思 う 。 日 野
(2001) に よ る と 、 意 味 変 化 の 一 つ の タ イ プ で あ る 抽 象 化 は 具 体 的 な
意味がなくなり、抽象的な意味が現れる。抽象化については、日野
(2001) に よ っ て 提 示 さ れ た (31)に 示 さ れ て い る よ う に 二 つ の パ タ ン
がある。
(31) 抽 象 化 の ニ つ の パ タ ン
こと
A. も の
空間
時間
質
B. 物 理 的
心理的
(日 野 2001:21)
19
これによれば、
「変化」
( 物 理 的 変 化 )と 本 研 究 で 提 出 し た「 認 定 」
( 心 理 的 変 化 )の 関 係 は 、物 理 的「 変 化 」か ら 心 理 的「 変 化 」
(認知)
へ の 意 味 変 化 の 抽 象 化 で あ る 。 こ の 点 に つ い て 、 本 研 究 で は (31)の
パ タ ン B に 基 づ き 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 の 意 味 変 化 を (32)の よ う に
考える。
(32) 本 研 究 の 考 え :
認知
決定
変化
認定
仮定
物理的
心理的
立
政 治 大
‧ 國
學
(32)が 示 し て い る 如 き 、 変 化 か ら 認 知 へ の 関 係 は 物 理 的 か ら 心 理
的への意味的抽象化ということである。変化と認定、決定、仮定の
‧
間 に は 、(32)の よ う に 繋 が っ て い る 関 係 が 存 在 し て い る と 思 わ れ る 。
つ ま り 、前 節 で 述 べ た と お り 、
「 変 化 」は 外 的 に 物 理 的 変 化 、
「認定」
y
Nat
sit
は話者の心理的変化なので、
「 変 化 」と「 認 定 」の 間 に 、物 理 的 変 化
n
al
er
io
から抽象化して、心理的な変化へ移ってしまうということである。
i
n
U
v
そ れ ゆ え 、 は じ め に 提 出 し た 例 (33)~ (36)は 、 文 脈 に よ っ て 「 Y を Z
Ch
engchi
とする」構文の意味が二つ以上解釈できる場合が見られる。
(33) 「 平 成 19 年 に お け る 付 加 価 値 生 産 性 の 目 標 を 1,096 万 円 / 人 と
す る 」 (変 化 )(決 定 )(仮 定 )
(34) 「 写 真 を 職 業 と す る 者 」 (認 定 )(決 定 )(変 化 )
(35) 「 総 題 を 『 心 』 と す る 」 (決 定 )(変 化 )
(36) 「 不 可 能 を 可 能 と す る 」 (変 化 )(認 定 )
( 33~ 36 は 例 文 再 掲 )
すなわち、この「Y を Z とする」構文において文脈によって変化
と認定、決定、仮定との間に繋がりがあることが説明できる。した
が っ て (33)~ (36)に お い て「 ス ル 」に い く つ も の 解 釈 が で き る 理 由 が
20
明 ら か に な っ た 。そ し て 、こ こ か ら 、
「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に お い て 、
意味的な連続性が見られたわけである 。
なお、認定、決定、仮定との間にもその連続性が見られる。 菊池
(1998) で は 、「 a、b を 実 数 と す る 。以 下 の 問 い に 答 え よ 。」と い う 文
に 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」の 「 ス ル 」 は「 仮 定 す る / 定 め る / 考 え る 」に
置き換えられると指摘されている。その置き換えられる理由は菊池
(1998) で 説 明 さ れ て い な い が 、こ の 現 象 は「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に 意
味的な連続性があることを証明される。
2.3「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 に お け る 格 助 詞 「 ト 」 の 機 能
政 治 大
本節では、
「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 の 意 味 的 特 徴 を 探 究 す る 。ま ず は 、
立
動詞によって、機能が違う可能性のある格助詞「ト」について考察
‧ 國
先行研究と問題点
‧
2.3.1
學
を行いたい。
森 山 (1988) は 「 A ガ B ヲ C ト 思 う 」 に 「 と 」 と い う 引 用 の 格 成 分
y
Nat
sit
が引用成分の中から抽出されたということを指摘している。まず
er
io
(37)を 見 て み よ う 。
n
al
(37) a.
Ch
i
n
U
v
e n g(引c用h型i )
A ガ「B は C ダ」ト思ウ
↓
b.
A ガ B ヲ「C ダ」ト思ウ
(引 用 繰 り 出 し 型 )
↓
c. A ガ B ヲ C ト 思 ウ
(同 定 型 )
( 森 山 1988:80 )
(37)か ら 分 か る よ う に 、 (37c) の 「 ガ 、 ヲ 、 ト 」 型 は 、 (37a) か ら 抽
出 さ れ た も の で あ る 。 森 山 (1988) に よ る と 、 こ の 「 ガ 、 ヲ 、 ト 」 型
は「 同 定 型 」と い う 。し か し 、
「 ト 」の 意 味 は 、引 用 と 言 う べ き か 同
定 の 「 ト 」 と い う べ き か 、 森 山 (1988) で は 、 微 妙 な 境 界 に あ る と 述
べている。
21
そ の 一 方 、 阿 部 (2004)は 「 A ヲ B ト V」 構 文 は 「 A ヲ B ダ ト V」 構
文 と は 異 な る 構 文 で あ る と 主 張 し て い る 。 金 (2011) は こ の 点 に は 賛
同 す る が 、こ の 論 点 に つ い て の 根 拠 を さ ら に 検 討 し て 、
「 ト 」の 機 能
に つ い て 考 察 を 行 っ た 。 金 (2011) の 考 察 し た 結 果 に よ り 、「 A ヲ B ダ
ト V」構 文 の「 ト 」は 引 用 の 機 能 を 果 た し 、
「 A ヲ B ト V」構 文 の「 ト 」
は 同 定 の 機 能 を 果 た す と 論 じ た 。つ ま り 、主 体 の 認 識 の 中 で「 A= B」
と い う「 同 定 関 係 」を 想 定 す る 構 文 に「 同 定 」の「 ト 」の 前 に は「 ダ 」
が現れないという。
(38) 大 阪 で は バ カ を ア ホ と い う 。
政 治 大
(38)´*大 阪 で は バ カ を ア ホ だ と い う 。
立
(39) 花 子 は 太 郎 ヲ タ ッ ち ゃ ん と 呼 ぶ 。
‧ 國
學
(39)´*花 子 は 太 郎 ヲ タ ッ ち ゃ ん だ と 呼 ぶ 。
(40) 私 は こ の 犬 を 二 郎 と 名 付 け た 。
‧
(40)´*私 は こ の 犬 を 二 郎 だ と 名 付 け た 。
( 金 2011:75 )
y
Nat
sit
金 (2011)で は 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 の 「 ト 」 は 同 定 の 機 能 を 果 た
n
al
er
io
すなら、
「 ト 」の 前 に「 ダ 」が 現 れ な い と い う 。だ が 、本 研 究 で 検 討
i
n
U
v
する「Y ヲ Z トスル」構文における「ト」の機能は「同定」である
Ch
engchi
が 、「 Y ヲ Z ダ ト ス ル 」 構 文 に 置 き 換 え ら れ る 場 合 も あ る 。
(41) a.確 か に 、 こ の 物 語 を 傑 作 と す る 人 々 も い る 。
b.確 か に 、 こ の 物 語 を 傑 作 だ と す る 人 々 も い る 。
(BCCWJ/ QED :: ベ イ カ ー 街 の 問 題 )
(42) a.こ の よ う な 状 況 下 で ,新 名 種 夫 は 暗 い 現 実 は「 事 務 所 の 存 在 理
由 を 否 定 す る が 如 き 方 向 に 進 み つ つ あ る 」 と し ,「 原 因 と な る
べき最近建築界の諸傾向」を次の3点 とする。
b.こ の よ う な 状 況 下 で , 新 名 種 夫 は 暗 い 現 実 は 「 事 務 所 の 存 在
理 由 を 否 定 す る が 如 き 方 向 に 進 み つ つ あ る 」と し ,
「原因とな
るべき最近建築界の諸傾向」を次の3点 だと する。
22
(新 名 種 夫 / 『 建 築 事 務 所 は 何 処 へ 行 く 』 )
(43) 「 東 海 の 小 島 」を 函 館 の 大 森 浜 と す る も の 、日 本 だ と す る も の 、
「 蟹 」を 文 学 も し く は 芸 術 と す る も の 、横 に そ れ た 悲 し い 宿 命 と
す る も の 、「 蟹 と た は む る 」 は 、 幻 想 と 自 嘲 を ま じ え た 一 種 の フ
ィ ク シ ョ ン と す る も の 、 な ど な ど 。 (BC CWJ/ 事 故 の て ん ま つ )
例 (41)~ (43) が 示 す よ う に 、
「 ス ル 」と い う 動 詞 は「 Y ヲ Z ト ス ル 」
構 文 と「 Y ヲ Z ダ ト ス ル 」構 文 を 両 方 取 る こ と が 可 能 で あ る 。特 に 、
例 (43)に は「「 東 海 の 小 島 」 を 函 館 の 大 森 浜 と す る も の 」 と「(「 東 海
の 小 島 」を )日 本 だ と す る も の 」が「 Z ト ス ル 」と「 Z ダ ト ス ル 」と
政 治 大
い う 二 つ の 用 法 が 現 れ る 。 確 か に 、「 確 か に 、 こ の 物 語 を 傑 作 だ と
立
す る 人 々 も い る 」文 に は 、
「 ト 」は「 引 用 」の 機 能 を 果 た す が 、森 山
‧ 國
學
(1988) の 論 点 に よ れ ば 、
「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 の 場 合 、
「 確 か に 、こ の
物語を傑作 と する人々もいる」という文の「ト」は「引用」の機能
‧
と「同定」の機能を両方とも果たすことができると思われるが、こ
の場合の「ト」の機能は「同定」なのか「引用」なのかはさらに検
y
Nat
n
al
i
n
U
(44) 「 ト 」 は 「 同 定 」 の 機 能 を 果 た す 場 合 :
Ch
engchi
er
io
sit
討する余地がある。
v
(金 (2011)に し た が う 場 合 )
a.「 こ の 物 語 を 傑 作 と す る 」
→b.
この物語が傑作である
→c.
「 こ の 物 語 = 傑 作 」( 同 定 )
(45) 「 ト 」 は 「 引 用 」 の 機 能 を 果 た す 場 合 :
(森 山 (1988) に し た が う 場 合 )
a.「 こ の 物 語 を 傑 作 と す る 」
→b.
この物語を傑作だとする。
→c.
こ の 物 語 が 傑 作 だ と す る 。( 引 用 )
「 A ヲ B ト V」構 文 と「 A ヲ B ダ ト V」構 文 を 両 方 取 る 動 詞 に つ い
23
て 、 金 (2011) で は 検 討 さ れ た が 、 こ れ ら の 動 詞 は 「 思 う 、 考 え る 、
信じる、判断する、解釈する、意識する、捉える、確信する、思い
込 む 、 勘 違 い 、 誤 解 す る 」 と い う 引 用 動 詞 (内 的 活 動 動 詞 )で 、 動 詞
「 ス ル 」と は 異 な り 、
「 ト 」は 果 た す 機 能 も 同 じ で は な い と 思 わ れ る 。
金 (2011)で 指 摘 さ れ た こ れ ら の 動 詞 は 「 Z ト 」 と 「 Z ダ ト 」 両 方 と も
取 れ る 動 詞 の 場 合 、「 ト 」 は 「 引 用 」 の 機 能 を 果 た す 一 方 、「 Z ト 」
のみ取る動詞の場合、
「 ト 」の 機 能 は「 引 用 で は な い 、同 定 」と い う 。
と こ ろ が 本 研 究 で 検 討 す る「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 の 動 詞「 ス ル 」は 、
先 述 し た と お り 、 (41) ~ (43)の よ う な 場 合 は 「 Z ト 」 と 「 Z ダ ト 」 を
両 方 取 る の に 対 し て 、 (46)~ (50)は そ う で は な い 。
立
政 治 大
(46) a.加 藤 総 務 課 長 か ら「 委 員 会 を 少 数 と す る こ と で 委 員 の 責 任 を 増
‧ 國
學
し 、よ り 慎 重 審 議 に 努 め た い 」と の 理 由 で あ る 旨 の 答 弁 を し た 。
b.*加 藤 総 務 課 長 か ら 「 委 員 会 を 少 数 だ と す る こ と で 委 員 の 責 任
‧
を増し、より慎重審議に努めたい」との理由である旨の答弁
をした。
n
al
er
io
b.*私 は 恩 師 の 生 き 方 を 手 本 だ と し て い る 。
sit
y
Nat
(47) a.私 は 恩 師 の 生 き 方 を 手 本 と し て い る 。
i
n
U
v
(48) a.新 聞 の 連 載 に さ き だ つ 予 告 に よ れ ば 、 数 種 の 短 編 を 書 き つ ぎ 、
Ch
engchi
それをあわせて総題を『心』とする予定だったという。
b.*新 聞 の 連 載 に さ き だ つ 予 告 に よ れ ば 、数 種 の 短 編 を 書 き つ ぎ 、
それをあわせて総題を『心』だとする予定だったという。
(49) a.と こ ろ で 写 真 を 趣 味 と す る 者 、写 真 を 職 業 と す る 者 な ら「 肖 像
権」という言葉を一度は聞いたことがあるであろう。
b.*と こ ろ で 写 真 を 趣 味 だ と す る 者 、 写 真 を 職 業 だ と す る 者 な ら
「肖像権」という言葉を一度は聞いたことがあるであろう。
(50) a.ア メ リ カ に 比 べ ヨ ー ロ ッ パ で は 、鉄 道 を は じ め と す る 交 通 機 関
が 発 達 し て い た か ら 、日 常 の 暮 ら し に 、何 が 何 で も 自 動 車 が 必
要という状況ではなかったのである。
b.*ア メ リ カ に 比 べ ヨ ー ロ ッ パ で は 、 鉄 道 を は じ め だ と す る 交 通
24
機関が発達していたから、日常の暮らしに、何が何でも自動
車が必要という状況ではなかったのである。
(46~ 50 は 例 文 の 再 掲 )
「Y ヲ Z トスル」構文の動詞「スル」は前接する名詞の違いによ
っ て 、表 す 意 味 も 違 う と 思 わ れ る 。
(この点について次節で詳しく説
明 す る 。)そ し て 、前 節 の 考 察 し た 結 果 か ら 、文 脈 に よ り 、動 詞「 ス
ル 」は 違 う 意 味 を し て い る 。そ れ ゆ え 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 の み を
取 る 場 合 が あ り 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 と 「 Y ヲ Z ダ ト ス ル 」 構 文 を
両 方 取 る こ と が で き る 。例 (46) ~ (50)は「 Z ト 」の み 取 る が 、金 (2011)
に し た が え ば 、「 ト 」 は 同 定 の 機 能 を 果 た す が 、 (46)の「 委 員 会 を 少
政 治 大
数 と す る 」 と (50)の 「 鉄 道 を は じ め と す る 」 で は 「 ト 」 は 同 定 の 機
立
能ではない。「委員会=少数」ではなく、「鉄道=はじめ」ではな
‧ 國
學
いので、「同定のト」に属さない。それは、動詞「スル」の表す意
味 が 違 う か ら だ 。 (46) に 「 委 員 会 を 少 数 と す る 」 の 「 ス ル 」 は 変 化
‧
を 表 す 実 質 動 詞 で あ る の に 対 し て 、 (50)の 「 鉄 道 を は じ め と す る 」
に「スル」は機能動詞である。
sit
y
Nat
n
al
er
io
以上述べたことをまとめてみると、「 Y ヲ Z トスル」構文におい
i
n
U
v
て 、動 詞「 ス ル 」の 前 接 す る も の の 形 態 は 二 つ あ る 。一 つ は「 Y ヲ Z
Ch
engchi
ダトスル」に置き換えられる場合であり、もう一つは「Y ヲ Z トス
ル」構文のみを取る場合である。本研究は以下の点について、考察
を試みる。
〈 1〉:「 Z ト 」 と 「 Z ダ ト 」 両 方 取 る 場 合 に 「 ト 」 の 機 能 。
引用か、同定か、あるいは両方とも機能しているか。
〈 2〉:「 Z ト 」 の み 取 る 場 合 に 「 ト 」 の 機 能 。 こ の 部 分 は 動 詞「 ス
ル」の意味により、三つの場合に分けられる。
ア 、「 ス ル 」 は 変 化 を 表 す と き 、「 ト 」 の 機 能 。
イ 、「 ス ル 」 は 機 能 動 詞 で あ る 場 合 、「 ト 」 の 果 た す 機 能 。
ウ 、「 ス ル 」 は 変 化 と 機 能 動 詞 を す る 以 外 の 場 合 、「 ト 」 の
機能。
25
2.3.2
「Z ト」と「Z ダト」両方取る場合の「ト」の機能
本 研 究 で 扱 っ て い る「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 は 金 (2011) で 検 討 し た「 A
ヲ B ト V」構 文 と 阿 部 (2004) の「 A ヲ B ト V」構 文 と は 異 な る と 思 わ
れる。
(51) a、 こ の 物 語 を 傑 作 だ と す る 人 々 も い る 。
b、 こ の 物 語 を 傑 作 と す る 人 々 も い る 。 (例 文 再 掲 )
(51a)に 「 ト 」 が 引 用 の 機 能 を 果 た す の は 森 山 (1988) 、 阿 部 (2004)
と 金 (2011) に よ っ て 認 め ら れ る 。 し か し 、 (51b)に つ い て の 果 た す 機
政 治 大
能 は 学 者 に よ っ て 異 な る 。金 (2011)で は 、こ の よ う な 場 合 、「 こ の 物
立
語 = 傑 作 」と い う 関 係 が あ る の で 、
「 ト 」は 同 定 の 機 能 を 果 た す と 定
‧ 國
學
義 さ れ て い る 。 そ の 一 方 、 森 山 (1988)で は 、 典 型 的 な 引 用 文 「 Y ヲ Z
ダト思う」と「Y ヲ Z ト思う」という文には連続性が見られる。そ
‧
のため、
「 Y ヲ Z ト 思 う 」の 場 合 の「 ト 」は 引 用 の 機 能 を 果 た す の か 、
同 定 の 機 能 を 果 た す の か 境 界 が 微 妙 で あ る と 述 べ て い る 。本 研 究 は 、
y
Nat
sit
森 山 (1988) の 指 摘 に 従 い 、本 研 究 で 考 察 す る「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 は
n
al
er
io
「Y ヲ Z ダトスル」構文との間に連続性が含まれると認める。第 2
i
n
U
v
節で述べたとおり、認定、決定、仮定を表す「Y ヲ Z トスル」構文
Ch
engchi
は変化を表す「Y ヲ Z トスル」構文から抽象化した意味変化のもの
である。つまり、認知を表す「 Y ヲ Z トスル」構文は最初には変化
を表す「Y ヲ Z トスル」構文から変わってきたものである。このよ
うな構文においては、
「 ト 」は 実 際 に「 ダ 」と い う コ ピ ュ ラ の 性 質 を
含 む 可 能 性 が あ る 。な ぜ な ら 、よ く 見 ら れ る 変 化 を 表 す「 な る 」
「す
る」の例文を見れば分かると思う。
(52) 綺 麗 だ →綺 麗 に な っ た 。
(53) 大 人 だ →大 人 に な っ た 。
→大 人 と な っ た 。
(54) 肌 を 綺 麗 に す る 。
(55) 同 じ 綺 麗 な 恋 に 憧 れ る 人 で も 「 何 を も っ て 、 綺 麗 と す る か ? 」
26
と い う 基 準 が 違 い ま す 。 (片 山 恭 一 / 『 世 界 の 中 心 で 、 愛 を さ け
ぶ』)
(56) 子 ど も を 大 人 に す る 3 つ の 方 法 。
( http://fujimuralab.com/blog /2013/04/107.html )
(57) で は 、 子 供 を 大 人 と す る あ と の 半 分 は 何 か ?
(http://tantakaton.exblog.jp/17134348/ )
上 の 例 で 、「 綺 麗 」 は 形 容 動 詞 で 、「 大 人 」 は 名 詞 で あ る 。 形 容 動
詞 も 名 詞 も 、変 化 を 表 す 動 詞「 ス ル 」
「 ナ ル 」と 共 起 し た 場 合 、
「ダ」
は 格 助 詞「 ニ 」や「 ト 」に 変 わ っ た 。こ の「 ニ 」に つ い て 、奥 津 (2007)
では、
「信号が青になる」
「 バ ラ の 花 が き れ い に 咲 い た 」の よ う に〈 結
政 治 大
果〉の二次述語「きれいに」の「に」は「だ」のいわゆる連用形の
立
「に」であったと述べている。すなわち、この「ニ」は「ダ」の連
‧ 國
學
用 形 で あ る と い う こ と だ 。本 研 究 で は 、
「 ト 」も「 ニ 」同 様 で 、
「ダ」
の連用形と捉えてよいと考える 。
「 Y ヲ Z ダ ト ス ル 」構 文 に 置 き 換 え
‧
られる「Y ヲ Z トスル」構文は、変化を表す意味から抽象化して、
認知を表す構文なので、その「ト」は「ニ」と同じように「ダ」の
y
Nat
sit
連 用 形 で あ っ て 、「 ダ ト 」 の 機 能 を 含 む 。 金 (2011) で は 、「 A ヲ B ダ
n
al
er
io
ト V」 構 文 と 「 A ヲ B と V」 構 文 を 両 方 と る 動 詞 の 場 合 に は 「 ダ ト 」
i
n
U
v
と「ト」の否定のスコープの違いが見られないとし ているが、本研
Ch
engchi
究の考察では、この「ト」は「ダト」の機能を持っているので、そ
の違いが見られないのは当然であると思われる 。だが、この場合の
「 ト 」 は 「 ダ ト 」 の 機 能 を 含 む が 、「 引 用 」 と ま で は い え な い 。「 Y
ヲ Z ダ ト ス ル 」構 文 に 置 き 換 え ら れ る の で 、
「 引 用 」と の 連 続 性 が 見
られるといえる。
と い う こ と で 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 は 「 Y ヲ Z ダ ト ス ル 」 構 文 に
置 き 換 え ら れ る 場 合 、「 ト 」 は 「 同 定 」 で あ る が 、「 ダ ト 」 の 機 能 を
果 た し 、「 引 用 」 か ら の 連 続 性 が 含 ま れ る の で あ る 。
2.3.3
2.3.3.1
「Y ヲ Z トスル」構文のみを取る場合
変化を表す「Y ヲ Z トスル」の「ト」の機能
27
「スル」が変化の意味を表す場合、「ト」の前に「ダ」は現れな
いが、その果たす機能は「同定」ではないと思われる。
城 田 (1993) は「 ト 」の 機 能 に つ い て 、「 ト 1 」、「 ト 2 」に 分 け て 、
「 ト 1」 は 連 れ 、 相 手 を 表 し 、 用 言 を 修 飾 す る も の と し て 、 「 ト 2 」
は さ ら に 一 次 機 能 ―文 法 格 ( 述 語 転 化 補 語 表 示 ) と 二 次 機 能 ―副 詞
格(様態を表わして用言を修飾する)として働いていると指摘して
い る 。 本 研 究 で 扱 っ て い る 「 ト 」 は 「 ト 2 」 に 該 当 す る 。 (58)~ (62)
は 城 田 (1993) か ら の 借 例 で あ る 。
(58) 岡 田 が 大 臣 と な っ た 。
(59) 岡 田 を 大 臣 と し た 。
(60) 岡 田 を 大 臣 と 思 う 。
立
政 治 大
(61) 次 の 建 設 計 画 は 市 庁 と 決 ま る 。
‧ 國
學
(62) 先 生 と 見 え る / わ か る 。
(城 田 1993:82)
‧
城 田 (1993) に よ る と 、こ れ ら の 例 の う ち に は「 ダ 」の 省 略 で「 ト 」
は引用のトと考えてよいものがまざるようであるが、
「大臣となった」
y
Nat
sit
とか「名を柿え門と改める」などはそう考えるのにはやはりむりが
n
al
er
io
あるようで、トはニと同義と考えるのが適当だとしている。これに
i
n
U
v
対 し 、 城 田 (1993)は 、「 ト 」 は 文 法 格 の 「 ニ 」と 同 じ く 、 事 実 な い し
Ch
engchi
想定において、
「 甲 は 乙 だ 」の 関 係 が な り た ち 、述 語 転 化 補 語 と い っ
ている。
(63) 水 が 氷 に 変 わ る 。 →今 、 水 は 氷 だ 。
(64) 猫 が 犬 に 見 え る 。 →今 、 猫 は 犬 だ 。
(城 田 1993:77)
以 上 の こ と に し た が っ て 、変 化 を 表 す「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 は「 Y
は Z だ 」 の 関 係 に な り 、 金 (2011)の 「 Y= Z」 で は な い 。
(65) ま ず 、 全 方 向 信 号 を 赤 と す る 。 そ し て 、 工 事 車 両 1 5 に 、 出 入
り 許 可 信 号 を 通 知 す る 。 (例 文 再 掲 )
→全 方 向 信 号 は 赤 だ 。
28
形態的には変化を表す「Y ヲ Z トスル」構文の「ト」は変化を表
す「Y ヲ Z ニスル/ナル」の「ニ」と同じで、両方とも変化の結果
を 意 味 し て い る と 思 わ れ る 。し か し 、動 詞「 ス ル 」
「 ナ ル 」に は 自 動
詞と他動詞の区別があるので、自動詞である「ナル」の前には格助
詞「ト」と「ニ」が現れるのに対して、他動詞「スル」が変化を表
す 場 合 、 た い て い (67)の よ う に 「 ニ 」 が 使 わ れ る が 、「 ト 」が 使 わ れ
る (69)の 場 合 も あ る 。
(66) 大 人 に な っ た 。 →大 人 と な っ た 。
(67) 水 を 氷 に す る 。 →* 水 を 氷 と す る 。
(68) 「 日 本 を 元 気 に す る 産 業 技 術 会 議 」 で は 、 こ れ ま で の 議 論 の 総
政 治 大
括 と し て 、以 下 の 提 言 メ ッ セ ー ジ と 共 に 、提 言 お よ び 産 総 研 行 動
立
計 画 を 2012 年 12 月 13 日 に 発 表 致 し ま し た 。
‧ 國
tml)
學
(http://www.aist -renkeisensya.jp/ind_tech_council /proposal/index.h
‧
(69) ま ず 、 全 方 向 信 号 を 赤 と す る 。 そ し て 、 工 事 車 両 1 5 に 、 出 入
り 許 可 信 号 を 通 知 す る 。 (例 文 再 掲 )
sit
y
Nat
n
al
er
io
同 じ よ う に 、 例 (69)は 「 Y ヲ Z ト V」 構 文 と は い え 、 「 ト 」 は (68)の
i
n
U
v
「ニ」と同じ、「日本=元気」、「全方向信号=赤 」の意味関係で
Ch
engchi
は な い の で 、 同 定 と は い え な い と 思 わ れ る 。 し た が っ て (69)と (68)
の「日本を元気にする」、「全方向信号を赤とする」は「日本は元
気だ」、「全方向信号は赤だ」という意味関係を持っているという
ことだ。そこで、変化を表す「 Y ヲ Z トスル」構文の「ト」は「ダ
ト 」 の 機 能 が 含 ま れ 、 「 Y= Z」 で は な く 、 変 化 し た 結 果 を 意 味 し 、
「Y は Z だ」という意味関係が存在している。
2.3.3.2
「スル」が機能動詞である場合の「ト」の果たす
機能
ス ル は 機 能 動 詞 と し て 、実 質 的 意 味 が 見 ら れ ず 、
「 同 定 」で あ る「 Y
= Z」の 関 係 を 持 っ て い な い 。意 味 変 化 の 抽 象 化 で も な い の で 、
「ト」
29
は「ダト」の機能も含まない。そのため、この場合の「Y ヲ Z トス
ル」構文は「Y ヲ Z ダトスル」構文に置き換えられない。
(70) a.広 島 市 を 中 心 と す る 周 辺 の 市 町 村 の 国 民 学 校 は 、 戸 坂 国 民 学
校 と 同 じ く 緊 急 収 容 所 に 当 て ら れ て 、ど こ も 超 満 員 に な っ て い た
らしい。だから遠隔の地に広く散らす必要があるわけだ。
b.*広 島 市 を 中 心 だ と す る 周 辺 の 市 町 村 の 国 民 学 校 は 、 戸 坂 国 民
学校と同じく緊急収容所に当てられて、どこも超満員になって
いたらしい。だから遠隔の地に広く散らす必要があるわけだ。
(71) a.生 命 は ど う し て 死 を 目 標 と す る の だ ろ う 。
政 治 大
b.*生 命 は ど う し て 死 を 目 標 だ と す る の だ ろ う 。
立
(70~ 71 は 例 文 再 掲 )
‧ 國
學
そして、機能動詞「スル」が「Y ヲ Z トスル」構文で実質意味が
含 ま れ る「 ス ル 」と は 異 な り 、注 目 さ れ る と こ ろ は「 Y」で あ る 。つ
‧
まり、一般的な実質意味が現れる「Y ヲ Z トスル」構文は変化を表
す意味からの抽象化的変化なので、注目される点は変化した結果、
y
Nat
sit
認 定 し た 資 格 や 状 態 な ど を 表 す「 Z」で あ る 。そ の 上 、実 質 意 味 の「 Y
n
al
er
io
ヲ Z トスル」構文は「Y は Z だ」という意味関係が存在している。
i
n
U
v
反 対 に 、機 能 動 詞 と し て の「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 は「 Y は Z だ 」で は
Ch
engchi
な く 、注 目 さ れ る と こ ろ は「 Z」で は な く「 Y」で あ る の で 、「 Y は Z
だ」というより「Y が Z だ」という関係といったほうがいいと思わ
れる。この「ガ」は「排他のガ」といえる。
(72) 広 島 市 を 中 心 と す る 。
→広 島 市 が 中 心 で あ る 。
(73) 死 を 目 標 と す る 。
→死 が 目 標 で あ る 。
寺 村 (1982) で は 、「 A ヲ B ニ シ テ 」 と い う 構 文 が 表 す 意 味 を 少 し 触
れ 、「 X ガ Y ヲ Z ニ ス ル 」 の よ う に 、 Y に 力 を 加 え て Z に 変 化 さ せ る
30
という意味はない、むしろ「A が B で」と言い換えるほうがこの句
の意義に近いと指摘されている。本研究で検討してきた「 Y ヲ Z ト
ス ル 」 構 文 は 「 ス ル 」 が 機 能 動 詞 と し て の 場 合 は 、 寺 村 (1982)の 指
摘しているところにあてはまる。
なお、この場合の「ト」は後接する「スル」とともに、もっぱら
文法的機能を果たすための言語形式として発達したものであるので、
内容的意味を持たない。
2.3.3.3
「スル」が変化と機能動詞以外の場合の「ト」の
機能
政 治 大
典型的な「Y ヲ Z トスル」構文は前節で述べたように、変化する
立
意味を表す「Y ヲ Z トスル」構文から意味的な抽象化して、認知の
‧ 國
學
意 味 を 表 す も の だ 。そ の た め 、
「 ト 」は 変 化 す る 構 文 に「 ニ 」と 同 じ
ように、
「 ダ 」の 連 体 形 と し て 捉 え て よ い と 思 わ れ る 。だ か ら 、
「ト」
‧
と は い え 、「 ダ ト 」 と い う 機 能 を 含 む と 認 め る 。
こ こ で 、 ど の よ う な 条 件 の 下 で 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 は 「 Y ヲ Z
y
Nat
sit
ダ ト ス ル 」構 文 に 置 き 換 え な い の か と い う こ と に つ い て 、本 研 究 は 、
n
al
す る 。 例 (74)~ (75)を 見 て み よ う 。
Ch
engchi
er
io
「スル」の機能と表す意味によ って決まっているということを主張
i
n
U
v
(74) a.そ れ を 職 業 と す る な ら そ の 人 は ニ ー ト で は あ り ま せ ん 。
b.そ れ を 職 業 だ と す る な ら そ の 人 は ニ ー ト で は あ り ま せ ん 。→と
思う
(75) a.外 交 官 の 仕 事 は 国 益 を 増 進 す る こ と で あ り 、外 務 省 職 員 は そ れ
を 職 業 と す る 国 家 公 務 員 で あ る 。 →と 認 め る
b.*外 交 官 の 仕 事 は 国 益 を 増 進 す る こ と で あ り 、 外 務 省 職 員 は そ
れを職業だとする国家公務員である。
上 の 例 に は 、同 様 に「 そ れ を 職 業 と す る 」と い う「 Y ヲ Z ト ス ル 」
で あ る が 、 (74)は 「 Y ヲ Z ダ ト ス ル 」 構 文 も 用 い ら れ る 一 方 、 (75)は
31
用 い ら れ な い 。 そ れ は 、「 ト ス ル 」 が 表 す 意 味 の 違 い で あ る 。 (74)
の 「 ス ル 」 は 「 思 う 」 を 意 味 し て い る の に 対 し て 、 (75)は 「 思 う 」
で は な く 、「 ~ と 認 め る 」 が 表 し て い る 。
金 (2011)で も 、動 詞 の 類 型 に よ っ て 、
「 A ヲ B ト V」構 文 と「 A ヲ B
ダ ト V」構 文 を 両 方 と る 動 詞( 思 う 、信 じ る 、考 え る な ど )、
「A ヲ B
ダ ト V」構 文 の み を と る 動 詞( 感 情 動 詞 )と「 A ヲ B ト V」構 文 の み
を取る動詞(推測する、予想する、決めるなど)という三つのパタ
ー ン が 指 摘 さ れ て い る 。 本 研 究 が 考 察 し た 結 果 も 金 (2011) の と 同 じ
で あ る 。 つ ま り 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に 「 ス ル 」 は 「 思 う 」 を 意 味
し て い る 場 合 、「 Y ヲ Z ダ ト ス ル 」構 文 に 置 き 換 え る 。そ の 一 方 、「 Y
政 治 大
ヲ Z トスル」構文の「スル」は「みる、認める、仮定する、推測す
立
る 、決 め る 」な ど の 意 味 を 表 す 場 合 、「 Y ヲ Z ダ ト ス ル 」 構 文 に 置 き
‧ 國
まとめ
‧
2.3.4
學
換えられない。
以上は「Y ヲ Z トスル」構文における「ト」の果たす機能と表す
y
Nat
sit
意 味 を 検 討 し た 。「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 の「 ス ル 」は 、い ろ い ろ な 意
n
al
er
io
味を表すことができるので、
「 ト 」の 機 能 も そ れ に よ っ て 一 つ だ け で
i
n
U
v
は な い 。 金 (2011) か ら 提 出 さ れ た 「 同 定 」 と 「 引 用 」 の 機 能 を 果 た
Ch
engchi
す 「 ト 」 は 、 こ れ 以 外 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 に 含 ま れ る 「 ダ ト 」 を
含意する「ト」も見られる。そして、変化の結果という意味をも表
し て い る 。 こ の 場 合 、「 Y= Z」 の 関 係 で は な く 、「 Y は Z だ 」 の 関 係
が 見 ら れ る 。 な お 、 機 能 動 詞 の 場 合 、「 Y」 と 「 Z」 の 関 係 は 「 Y が Z
である」というものである。
2.4「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に お け る「 Z」に 現 れ る 名 詞 の 制 約
について
2.4.1
先行研究及び問題点
前 節 か ら 「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 に お け る 「 Y」 と 「 Z」 の 関 係 や 現
32
れるものは動詞「スル」の意味によって解釈の違いが出てくる こと
が 分 か っ た 。 例 え ば 、実 質 的 意 味 を 持 つ「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 は 「 Y
= Z」と 「 Y は Z だ 」と い う 関 係 が 見 ら れ る 。 し か し 、実 質 的 意 味 が
な い 機 能 動 詞 の 場 合 、「 Y」 と 「 Z」 の 関 係 は 「 Y が Z だ 」 に な る 。
(76) と こ ろ で 写 真 を 趣 味 と す る 者 、 写 真 を 職 業 と す る 者 な ら 「 肖 像
権」という言葉を一度は聞いたことがあるであろう。
→「 写 真 = 趣 味 」 / 「 写 真 = 職 業 」 。 (例 文 再 掲 )
(77) ま ず 、 全 方 向 信 号 を 赤 と す る 。 そ し て 、 工 事 車 両 1 5 に 、 出 入
り 許 可 信 号 を 通 知 す る 。 (例 文 再 掲 )
→「 全 方 向 信 号 は 赤 だ 」。
立
政 治 大
(78) 商 店 数 の 減 少 は 、 開 業 、 転 廃 業 の 面 か ら み る と 、 小 規 模 商 店 を
‧ 國
學
中心とする転廃業の多発から生じている。
(BCCWJ/ 中 小 企 業 白 書 :: 昭 和 62 年 版 )
‧
→「 小 規 模 商 店 が 中 心 で あ る 。」
y
Nat
sit
そ れ で は 、本 節 で は 、そ の「 Y」と「 Z」の 関 係 を さ ら に 考 察 し て 、
n
al
er
io
「 Z」に 現 れ る 名 詞 の 意 味 特 徴 を 探 り 、
「 Z」の 違 い に よ り 、動 詞「 ス
i
n
U
v
ル」の振舞いや持つ意味を検討することとする。
Ch
engchi
金 (2012)で は 、「 Y ヲ Z ト V」 構 文 を 「 NP1 ヲ NP2 ト V」 と し て 捉
え 、 NP1 と NP2 の 関 係 は 「 役 割 - 値 」 と 「 値 - 値 」 と い う 二 つ の 解
釈 が あ る こ と を 示 唆 す る 。そ し て 金 (2012)に よ る と 、「 役 割 」は 一 つ
の物事に特定されないものであり、
「 値 」は 特 定 さ れ る 指 示 的 な も の
であるので、
「 役 割 - 値 」と は「 A と い う 役 割 に 値 す る B を 特 定 す る 」
と い う こ と で 、「 値 - 値 」 と は 「 話 者 が す で に 特 定 し て い る A と い
う値 と 、も う 一 つの 値 B を同 一 化 する 」と い うこ と を 指摘 さ れて い
る 。金 (2012) は 、こ の「 役 割 - 値 」、
「 値 - 値 」で 、
「 NP1 ヲ NP 2 ト V」
型 の 名 詞 句 制 約 を 考 察 し た 。そ の 結 果 、
「 NP1 ヲ NP2 ダ ト V」型 の 名
詞 句 は 「 役 割 - 値 」 と し て 自 然 に 解 釈 さ れ る が 、「 NP 1 ヲ NP 2 ト V 」
型 の 名 詞 句 は 「 役 割 - 値 」 と し て 解 釈 さ れ な い 。「 NP 1 ヲ NP 2 ト V 」
33
型 の NP1 は「 値 」と し て の 名 詞 句 を 要 求 す る と 考 え ら れ る 。つ ま り 、
「 NP1 ヲ NP 2 ト V」 型 の 名 詞 句 は 「 値 - 値 」 と し か 解 釈 で き な い と
指摘されている。
ところが、本研究で扱っている「Y ヲ Z トスル」構文はそのよう
な制約が見られない場合がある。
(79) 新 聞 の 連 載 に さ き だ つ 予 告 に よ れ ば 、 数 種 の 短 編 を 書 き つ ぎ 、
それをあわせて総題を『心』とする予定だったという。
(再掲)
金 (2012)で 提 出 さ れ た 「 役 割 」 と 「 値 」 の 定 義 に 従 う と 、 例 (79)
政 治 大
の Y で あ る 「 総 題 」 は 「 役 割 」 に 属 し 、 Z の 「『 心 』」 は 「 値 」 と 認
立
め ら れ る 。つ ま り 、(79)は「 Y ヲ Z ト V」構 文 で あ る が 、
「役割-値」
‧ 國
學
と し て 解 釈 で き る 。こ の 点 に つ い て 、金 (2012) は「 NP1 ヲ NP2 ト V」
型 の NP1 は 「 役 割 」 と し て の 名 詞 句 は 許 さ ず 、「 値 」 と し て の 名 詞
‧
句を要求するという論点に違いが出てくる。 したがって、本研究が
考 察 す る 「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 に お け る 「 Y」 と 「 Z」 の 関 係 、 そ し
y
Nat
sit
て 「 Y」 と 「 Z」 に 現 れ る 名 詞 の 特 徴 に つ い て は さ ら に 検 討 す る 必 要
n
al
er
io
があると思われる。
2.4.2
C
h係
「 Y」 と 「 Z」 の 関
eに
n gつcいhてi
i
n
U
v
ま ず は 、金 (2012)の 考 察 し た 方 法 で あ る「 役 割 - 値 」と「 値 - 値 」
と い う 視 点 か ら 「 Y」 と 「 Z」 の 繋 が り を 見 て み よ う 。
・「 値 - 値 」
(80) x、 y、 z を 実 数 と す る と き 、 次 の 問 い に 答 え よ 。 (仮 定 )
(81) ま た 、平 面 R 、x = 0 、y = 0 、z = 0 に 囲 ま れ て 構 成 さ れ
る 閉 曲 面 を S と す る 。 こ の と き 、 次 の 面 積 分 を 求 め よ 。 (仮 定 )
(82) そ の 開 発 者 は 、 不 可 能 を 可 能 と す る 科 学 を 標 榜 し て 、 こ の 社 会
がタブーや倫理によって封じ込めてきた悪夢をやすやすと手中
に す る こ と が 起 こ る 。 (変 化 )
34
・「 役 割 - 値 」
(83) 新 聞 の 連 載 に さ き だ つ 予 告 に よ れ ば 、 数 種 の 短 編 を 書 き つ ぎ 、
そ れ を あ わ せ て 総 題 を 『 心 』 と す る 予 定 だ っ た と い う 。 (決 定 )
・「 値 - 役 割 」
(84) 私 は 恩 師 の 生 き 方 を 手 本 と し て い る 。 (認 定 )
(85) と こ ろ で 写 真 を 趣 味 と す る 者 、 写 真 を 職 業 と す る 者 な ら 「 肖 像
権 」 と い う 言 葉 を 一 度 は 聞 い た こ と が あ る で あ ろ う 。 (認 定 )
(86) 広 島 市 を 中 心 と す る 周 辺 の 市 町 村 の 国 民 学 校 は 、 戸 坂 国 民 学 校
と 同 じ く 緊 急 収 容 所 に 当 て ら れ て 、ど こ も 超 満 員 に な っ て い た ら
政 治 大
し い 。 だ か ら 遠 隔 の 地 に 広 く 散 ら す 必 要 が あ る わ け だ 。 (機 能 動
立
詞)
‧ 國
學
(87) ア メ リ カ に 比 べ ヨ ー ロ ッ パ で は 、 鉄 道 を は じ め と す る 交 通 機 関
が 発 達 し て い た か ら 、日 常 の 暮 ら し に 、何 が 何 で も 自 動 車 が 必 要
(例 文 再 掲 )
Nat
y
‧
と い う 状 況 で は な か っ た の で あ る 。 (機 能 動 詞 )
sit
例 (80)~ (87)が 示 す よ う に 、
「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 は「 役 割 」と「 値 」
n
al
er
io
で分けられると、
「 値 - 値 」、
「 役 割 - 値 」、
「 値 - 役 割 」と い う 三 つ の
i
n
U
v
形 式 が 見 ら れ る 。「 ス ル 」 が 表 す 意 味 と 対 照 す る と そ の 結 果 は (88)
にまとめられる。
Ch
engchi
(88)
「Y ヲ Z トスル」に
「役割」と「値」
「スル」の意味
によっての分類
変化
「値-値」
認定
「値-値」/
「値-役割」
「 Y」と「 Z」の 関 係
「Y は Z だ」
「 Y= Z」
仮定
「値-値」
「 Y= Z」
決定
「役割-値」
「 Y= Z」
機能動詞
「値-役割」
「Y が Z だ」
35
2.4.2.1
「 値 - 値 」 に 属 す 「 変 化 」、「 仮 定 」 と 「 認 定 」
変化を表す「Y ヲ Z トスル」構文は、確かに「値-値」のように
特定される指示的なものから他の特定される指示的なものに変わる
が 、「 Y= Z」 で は な く 、「 Y は Z だ 」 と い う 関 係 を 持 っ て い る 。 例 え
ば 、(89)の「 A 方 向 の 信 号 」と「 青 」は「 特 定 さ れ る 指 示 的 な も の 」
で あ る が 、「 A 方 向 の 信 号 」 = 「 青 」 で は な く 、「 A 方 向 の 信 号 」 は
「 青 」 で あ る と い う こ と だ 。 (90)の 「 全 方 向 信 号 」 と 「 赤 」、 (91)の
「「 竪 琴 」あ る い は 芸 術 」と「 善 と 幸 福 へ の 道 」も 同 じ で あ る と 考 え
る。
政 治 大
(89) そ し て 、 A 方 向 の 信 号 を 青 と し 、 他 方 向 ( B , C 方 向 ) の 信 号
立
をすべて赤とする。
‧ 國
に 、 出 入 り 許 可 信 号 を 通 知 す る ( S 5 2 )。
學
(90) ま ず 、 全 方 向 信 号 を 赤 と す る( S 5 1 )。そ し て 、工 事 車 両 1 5
‧
(91) こ れ は 「 竪 琴 」 あ る い は 芸 術 を 、 善 と 幸 福 へ の 道 と す る 強 い 信
念 が な く て は で き な い こ と な の で 、こ の 物 語 が ひ と つ の 思 想 小 説
y
Nat
n
er
io
al
sit
だとさきに言ったのは、この意味です。
i
n
U
(例文再掲)
v
こ れ に 対 し て 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に「 ス ル 」が 認 定 と 仮 定 を 意
Ch
engchi
味 し て い る 場 合 、同 様 に「 値 - 値 」に 属 す る が 、「 Y」と「 Z」の 関 係
は 「 Y= Z」 で あ る 。
(92) ふ る く は 徐 福 の 移 住 伝 説 と 関 係 さ せ て 、 夷 州 を 日 本 と す る 考 え
があった。
(93) x、 y、 z を 実 数 と す る と き 、 次 の 問 い に 答 え よ 。
(94) ま た 、平 面 R 、x = 0 、y = 0 、z = 0 に 囲 ま れ て 構 成 さ れ
る閉曲面を S とする。このとき、次の面積分を求めよ。
(例 文 再 掲 )
ただし、
「 ス ル 」が 認 定 を 意 味 し て い る 場 合 、以 下 の よ う に「 値 -
役割」の関係が見られる。
(95) と こ ろ で 写 真 を 趣 味 と す る 者 、 写 真 を 職 業 と す る 者 な ら 「 肖 像
36
権」という言葉を一度は聞いたことがあるであろう。
(96) 私 は 恩 師 の 生 き 方 を 手 本 と し て い る 。
そ れ は 、あ る 特 定 さ れ る も の (Y) を 他 の 集 合 範 囲 (z)に 属 さ せ る と い
う 話 者 の 認 定 で あ る こ と だ 。す な わ ち 、
「 写 真 」と い う 特 定 な も の を
「 趣 味 」と い う 集 合 に 入 れ た り 、
「 職 業 」と い う 集 合 に 入 れ た り す る
こ と は 、話 者 に よ っ て 、決 め ら れ た こ と で あ る 。
「 趣 味 」と い う 語 に
は 、「 写 真 」 の も の 以 外 に 、「 水 泳 」、「 ダ ン ス 」 や 「 登 山 」 な ど い ろ
い ろ な も の が あ る の で 、「 値 」 と い う 特 定 さ れ る も の で は な く 、「 役
割 」の よ う に 一 つ の も の に 特 定 さ れ な い も の と い う 。
「 職 業 」も 同 じ
で あ る 。「 Y」 と 「 Z」 の 間 を 、「 Y= Z」 と 考 え る 。 な ぜ な ら 、「 Y」 は
政 治 大
「 Z」の 集 合 範 囲 に お い て 構 成 要 素 の 一 つ な の で 、(97)の よ う に 、
「 Y」
立
は 「 Z」 に 含 ま れ る も の で あ る 。
‧ 國
學
(97) 「 写 真 を 趣 味 と す る 」:
‧
y
n
al
写 真 (Y)
Ch
engchi
sit
io
水泳
er
Nat
ダンス
(構 成 要 素 )
i
n
U
v
趣 味 (z) の 集 合 範 囲
2.4.2.2
「 役 割 - 値 」 ―決 定 を 表 す 「 Y ヲ Z ト ス ル 」
決 定 を 表 す 「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 に お い て は 、「 Y」 が 特 定 さ れ も
せ ず 指 定 さ れ も し な い も の で あ り 、あ る 集 合 範 囲 (Y)に 特 定 さ れ る も
の (Z)を 決 め る と い う も の だ 。 (98)で 「 総 題 」 (Y)は そ の 集 合 範 囲 に 属
し 、「『 心 』」 (z)は そ の 構 成 要 素 で あ る 。 こ の 場 合 、 ま た 「 Y= Z」 で
あ り 、そ の 理 由 は 前 節 で 述 べ た の と 同 じ で 、集 合「 Y」に 対 し て 、そ
の 構 成 要 素 Z を 割 り 当 て る 関 係 で あ る の で 、 (99)の よ う に 、「 Z」 は
37
「 Y」 に 含 ま れ る の だ 。
(98) 新 聞 の 連 載 に さ き だ つ 予 告 に よ れ ば 、 数 種 の 短 編 を 書 き つ ぎ 、
それをあわせて総題を『心』とする予定だったという。
(99) 「 総 題 を 『 心 』 と す る 」:
総 題 (Y) の 集 合 範 囲
感情
立
學
‧ 國
心 (Z)
政 治 大
思い
(構 成 要 素 )
‧
y
Nat
「値-役割」である機能動詞を表す「Y ヲ Z トス
sit
2.4.2.3
n
al
er
io
ル」構文
i
n
U
v
機 能 動 詞 を 表 す 「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 の 「 Z」 で あ る 「 中 心 」、「 は
Ch
engchi
じ め 」、 と 「 目 標 」 は す べ て 特 定 さ れ る も の で は な い の で 、「 役 割 」
に属すと考える。
(100) 2 0 0 0 年 以 降 の 改 革 の 流 れ と し て は 、 内 閣 府 を 中 心 と す る
中央省庁等改革に関わるものと財務省を中心とする公会計制
度 改 革 に 関 わ る も の の 2 つ が あ る 。 (BC CWJ/ 「政 府 会 計 」改 革
の ビ ジ ョ ン と 戦 略 :: 会 計 な き 予 算 、 予 算 な き 会 計 は 虚 妄 )
(101) 両 国 政 府 は 、 自 衛 隊 と 米 軍 と の 間 の 協 力 の あ ら ゆ る 側 面 に お
け る 相 互 運 用 性 の 重 要 性 に 留 意 し 、 次 期 支 援 戦 闘 機 ( F ‐2 )
等の装備に関する日米共同研究開発をはじめとする技術と装
備の分野における相互交流を充実する。
38
(BCCWJ/ 沖 縄 同 時 代 史 )
(102) 計 画 経 済 時 代 の ゆ っ た り と し た 作 業 密 度 を 経 験 し た 従 業 員 が ,
市場経済のなかでも高い効率と品質の実現を目標とする日本
方式を理解するには時間が必要であろう。
(BCCWJ/ 中 東 欧 の 日 本 型 経 営 生 産 シ ス テ ム :: ポ ー ラ ン ド ・ ス ロ バ
キアでの受容)
しかし、ここで提示したいのは、前節で述べた「Y が Z だ」とい
う 「 Y」 と 「 Z」 の 関 係 で あ る も の だ 。 2 . 4. 2. 1 で 認 定 を 表 す 「 ス ル 」
の 場 合 、(100)~ (102)と 同 じ よ う に「 値 - 役 割 」と い う 関 係 が 現 れ る
が 、「 Y が Z だ 」 で は な く 、「 Y= Z」 で あ る 。 そ の 区 別 は 、「 Z」 の 性
政 治 大
質 だ と 思 わ れ る 。 こ こ で 「 Z」 に 現 れ る 「 中 心 」、「 は じ め 」、 と 「 目
立
標 」は 職 業 や 趣 味 な ど の よ う な「 集 合 範 囲 」が 見 ら れ な い 。確 か に 、
‧ 國
學
「 中 心 」の 集 合 範 囲 は「 何 で も で き る 」と 考 え る 人 も い る が 、
「何 で
もできる」というのは「特定的なものではない」ものであろうか。
‧
つ ま り 、こ れ ら の「 Z」は 具 象 的 な も の 、特 定 的 な も の で は な く 、必
要、中心、はじめなど標準や限定の意味を表すものである。それゆ
y
Nat
sit
え 、「 Z」 は 「 Y」 の 所 属 す る 範 囲 で も な く て 、「 Y= Z」 の 関 係 で も な
n
al
er
io
いと考えられる。
2.4.3
i
n
U
C
h質
ま と め :「 Z」 の 性
e及
n gびcそhのi 特 徴
v
以 上 の 考 察 を 通 じ て 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 に お け る 「 Z」 の 性 質
を 明 ら か に し た 。前 節 で の 考 察 し た 結 果 か ら 、
「 Z」は 基 本 的 に ①「 指
定 す る も の 」、②「 指 定 さ れ る も の で は な い が 、構 成 要 素 を 含 む 集 合
範囲であるもの」と③「指定されるものでもなく、集合範囲でもな
い も の 」と い う 三 つ の「 Z」で あ る 。お お ざ っ ぱ に 考 え れ ば 、実 質 的
意 味 を 表 す「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に お け る「 Z」は ① と ② に 当 て は ま
るのに対して、実質意味がない機能動詞である「Y ヲ Z トスル」の
「 Z」 は ③ に 当 て は ま る 。
39
( 一 )「 ス ル 」 が 実 質 動 詞 で あ る 場 合 :「 ① + ② 」
(①「指定するもの」+②「指定されるものではないが、構
成 要 素 を 含 む 集 合 範 囲 で あ る も の 」)
「 Z」 に は 、 任 務 、 道 、 友 、 青 、 な ど の 名 詞 が 現 れ る 。
( ニ )「 ス ル 」 が 機 能 動 詞 で あ る 場 合 :「 ③ 」
( ③ 「 指 定 さ れ る も の で も な く 、 集 合 範 囲 で も な い も の 」)
「 Z」 は 、 中 心 、 始 め な ど 標 準 や 限 定 の 意 味 を 表 す も の で あ る 。
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
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40
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第 3章
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 の 多 義 性
3.1 は じ め に
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」構 文 形 式 に お い て は 、
「 ス ル 」が「 Y ヲ Z ト ス ル 」
という形態的に他動詞性のものと、
「 ~ ト ス ル 」の よ う な 自 動 詞 性 の
ものがある。さらに、後接する名詞を連体修飾する「トスル」の 3
つのタイプに分けられる。
(ⅰ )ス ル が 他 動 詞 性 の も の
政 治 大
(1) ふ る く は 徐 福 の 移 住 伝 説 と 関 係 さ せ て 、夷 州 を 日 本 と す る 考 え が
立
あ っ た 。 (例 文 再 掲 )
‧ 國
學
(2) 5 6 中 業 を 参 考 と し て 引 き 続 き 質 の 高 い 防 衛 力 の 着 実 な 整 備 に
努 め る 。 (新 潮 100 冊 )
‧
(3) 逐 年 の 防 衛 力 整 備 の 基 礎 と す る 業 務 計 画 、予 算 概 算 要 求 等 の 作 成
に資することを目的とした防衛庁の内部参考資料である。
sit
y
Nat
(新 潮 100 冊 )
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io
(4) 契 約 に お い て 期 間 を 定 め て も 更 に 一 方 の 当 事 者 が 解 約 で き る 旨
v
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の 特 約 を 結 ん だ 場 合 に つ い て 、草 案 1 6 5 条 は 特 約 を 有 効 と す る 。
Ch
engchi
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(新 潮 100 冊 )
(5) そ ん な 日 々 の 中 、自 身 も 自 分 の 才 能 の な さ を 実 感 し て 、歌 手 に な
る こ と を 諦 め サ ラ リ ー マ ン と な り 、「 音 楽 」 は 「 趣 味 」 と す る 。
(新 潮 100 冊 )
(ⅱ)スルが自動詞性のもの
a、 文 末 に 現 れ る タ イ プ
(6) 理 由 と し て 、ボ ア ソ ナ ー ド は ,単 な る 改 良 は 土 地 と 一 体 化 し て お
り ,そ れ ゆ え 、土 地 を 毀 損 す る こ と な く し て は 収 去 す る こ と が 困
難であり,また価額を算定することも難しい とする。
(BCCWJ/ 入 門 日 本 近 代 法 制 史 )
(7) 今 、あ る 家 族 が 、成 員 の 生 活 を 保 障 し つ つ 生 命 の 再 生 産 の 機 能 を
41
果たしている、とする。
(BCCWJ/ 所 有 と い う 神 話 :: 市 場 経 済 の 倫 理 学 )
(8) あ る 人 が 自 費 で 某 施 設 の 子 供 た ち に 沢 山 の 本 を 贈 っ た と す る 。
(BCCWJ/ 名 文 を 書 か な い 文 章 講 座 )
(9) 歌 舞 伎 で は 、こ の 場 面 で 、原 作 の 人 形 芝 居 に は な い 演 出 を 工 夫 し
て 新 し い 魅 力 と し た 。 (BCCWJ/ 歌 舞 伎 )
(10) 人 類 が 利 用 す る こ れ ら 生 物 活 動 の 産 物 は 、 究 極 的 に は 太 陽 エ ネ
ル ギ ー に よ っ て 生 産 さ れ て い る 。生 態 系 は 、種 が 多 様 で あ れ ば あ
るほど、その安定性が高いとされている。
(BCCWJ/ 環 境 白 書 :: 平 成 4 年 版 ( 総 説 ) )
立
政 治 大
b、 連 体 修 飾 節 に な る タ イ プ
‧ 國
學
(11) ま ず 、 注 文 す る す し ダ ネ の 順 序 で あ る が 、 「 ギ ョ ク ( 卵 焼 き )
に 始 ま り …」 と す る 人 は 多 い 。 (BCCWJ/ す し の 事 典 )
‧
(12) 日 本 人 は 、 最 新 の 科 学 技 術 で あ っ て も 、 神 の 加 護 の も と で 運 用
しなければならないとする発想を強くもっている。
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(BCCWJ/ 日 本 人 な ら 知 っ て お き た い 神 道 :: 神 道 か ら 日 本 の 歴 史 を
Ch
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読む方法)
v
以上の例文を形態的にまとめると、次の三つのタイプになる。
① X が Y を Z と す る 。 (1、 2、 3、 4、 5)
② X が ~ と す る 。 (6、 7、 8、 9、 10)
③ (X が )~ と す る ~ 。 (11、 12)
以上の例文から、
「 ト ス ル 」は 引 用 的 意 味 を (例 6、7、11、12)表 す
ほ か 、 仮 定 (例 8)や 結 果 (例 9)な ど を 表 し て い る と 思 わ れ る 用 法 が 数
多 く あ る こ と が 分 か っ た 。な お 、
「 ス ル 」が「 サ レ ル 」に 変 え ら れ る
受 動 的 用 法 (例 10)も ず い ぶ ん 見 う け ら れ る 。 タ イ プ ② ③ は タ イ プ ①
「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 と 同 じ だ が 、「 ス ル 」が 表 す 意 味 が 違 う 。 上 述
のタイプ①は前章で検討したので、本章は主として ②と③のタイプ
42
を 考 察 し て 、 そ の 形 態 的 な 違 い や 意 味 上 の 異 同 を 比 較 し て 、「 (Y ヲ
Z)ト ス ル 」 構 文 に お け る 多 義 構 造 を 明 ら か に し よ う と 思 う 。
3.2「 ~ ト ス ル 」 が 「 ト イ ウ 」、「 と 考 え る 」、「 と 主 張 す る 」
「と思う」に置き換える現象
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」の 多 義 構 造 を 解 明 す る た め に 、ま ず「 ~ ト ス ル 」
に つ い て の 定 義 を 見 て み よ う 。『 明 鏡 国 語 辞 典 』 (2002)で は 、「 ~ ト
ス ル 」 は 「 ~ と 仮 定 す る 」 (例 13)及 び 「 ~ と い う 、 ~ と 考 え る 、 ~
と主張するなどの意の婉曲な言い方、~と判断してそういう見解や
政 治 大
意見をもつ」という二つの意味用法の解釈が掲げられている。後者
立
の よ う な 表 現 は (15)の よ う に 、「『 言 う 』『 考 え る 』『 主 張 す る 』 な ど
‧ 國
學
に比べて、形式的、抽象的な言い方としてマスコミなどに好まれる
が、意味が曖昧になりやすい」とも記述している。
‧
(13) か り に 宝 く じ に 当 た っ た と し て み よ う 。
y
Nat
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(14) 即 座 に 協 力 す べ き だ と す る 意 見 が 多 数 を 占 め る 。
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(15) 気 象 庁 で は 津 波 の 心 配 は な い と し て い ま す 。
Ch
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(『 明 鏡 国 語 辞 典 』 2002)
engchi
本 節 で は 、「 ~ ト ス ル 」 の 多 義 性 を 考 察 す る に 当 た っ て 、『 明 鏡 国
語 辞 典 』に 記 さ れ て い る「 と い う 、と 思 う 、と 考 え る 、と 主 張 す る 」
と「~トスル」の置き換え現象を観察する。そしてその置き換えら
れる場合や特徴などを、本研究の考察対象の一つとして行うことと
する。
3.2.1
「~トイウ」に置き換えられる場合
(16) こ れ は 、 す べ て の 出 来 事 を 天 の 意 志 と し て 、 人 び と は 天 意 に 従
って生きるべきだ とする 原始的段階の儒教思想によってつくら
れ た も の で あ る 。( BCCWJ/ 日 本 人 な ら 知 っ て お き た い 神 道
道から日本の歴史を読む方法)
43
神
(17) そ れ と と も に 、 前 に 述 べ た よ う に 、 弥 生 時 代 に 農 耕 地 を つ く っ
て く れ た 祖 先 の 霊 に た い す る 信 仰 が 高 ま っ た 。そ こ か ら 、祖 霊 が
山にあつまって子孫を見守る農耕神となる とする 祖霊信仰が生
ま れ た 。 (BCCWJ/ 日 本 人 な ら 知 っ て お き た い 神 道 :: 神 道 か ら 日
本の歴史を読む方法)
こ れ ら の 例 文 に お い て 、「 ト ス ル 」 は 前 接 す る 節 の 内 容 を 表 わ し 、
「原始的段階の儒教思想」の内容は「すべての出来事を天の意志と
し て 、人 び と は 天 意 に 従 っ て 生 き る べ き だ 」と い う も の で あ り 、
「祖
霊信仰」は「祖霊が山にあつまって子孫を見守る農耕神となる」こ
政 治 大
とを指すという外の関係の連体修飾 である。この点では、引用の内
立
容を表す「トイウ」と機能が同じである。
‧ 國
學
(18) 田 中 さ ん が 結 婚 す る と い う 噂 が 広 ま っ て い る 。
‧
(19) 評 論 家 は 、 景 気 が よ く な る と い う 推 測 を し て い る 。
(『 現 代 日 本 語 文 法 ⑥ 第 11 部 複 文 』 2008)
sit
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そ れ ゆ え 、「 ~ ト ス ル 」 構 文 形 式 に お い て 、「 ~ ト イ ウ 」 の よ う に
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引用的機能を果たす「~トスル」文が「~トイウ」と互いに置き換
えることができる。
Ch
engchi
(20) 即 座 に 協 力 す べ き だ [ と す る / と い う ] 意 見 が 多 数 を 占 め る 。
(『 明 鏡 国 語 辞 典 』 2002)
(21) そ し て 、 同 じ 村 落 の 者 が 互 い に 助 け あ っ て 生 き る べ き だ [ と す
る/という]道徳が重んじられた。
( BCCWJ/ 知 っ て お き た い 日 本 の 神 様 )
(22) こ れ は 文 字 通 り 環 境 を 汚 染 し た 当 事 者 が そ の 防 止 ま た は 制 御 の
ための費用を負担すべきだ[とする/という]考え方で、汚染
の発生源に直接課税するなどして、環境汚染を防ぐために経済
的 イ ン セ ン テ ィ ブ を 与 え る も の で あ る 。( BCCWJ/ 農 業 問 題 の 政
44
治 経 済 学 :: 国 際 化 へ の 対 応 と 処 方 )
(23) こ の よ う な 「 円 の 発 想 」 は 、 古 代 社 会 に 広 く み ら れ る 精 霊 崇 拝
(アニミズム)から生じたものである。これは、世界にはきわ
めて多くの精霊が存在する[とする/という]考え方だ。人間
も、動物や植物も、精霊をもつ。さらに、風、雨などの自然現
象 を 起 こ す 精 霊 も あ る 。( BCCWJ/ 日 本 人 な ら 知 っ て お き た い 神
道
神道から日本の歴史を読む方法)
こ れ に 対 し て 、下 の 例 の よ う な 場 合 、
「ゴールを自分の目標とする」
という内の関係の連体修飾節であり、
「 ト ス ル 」は 引 用 の 機 能 を 果 た
政 治 大
さ な い の で 、「 ト イ ウ 」 に 換 え ら れ な い 。
立
‧ 國
學
(24) す な わ ち 、 今 ど う い う 状 況 に あ る の か を 完 全 に 把 握 し 、 皆 さ ん
が自分の目標 とする ゴールからどれ位離れているかに注目する
‧
こ と で す 。( BCCWJ/ ア メ リ カ 人 を 一 週 間 で そ の 気 に さ せ る ビ ジ
ネスアピール術)
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ところが、それは「~トスル」が連体修飾節になる場合である。
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「~トスル」は文末にくる場合「~トイウ」に置き換えない用例が
少なくない。例えば、
Ch
engchi
(25) 都 道 府 県 別 の 温 泉 地 数 、 源 泉 数 、 ゆ う 出 量 、 宿 泊 利 用 者 数 等 全
国の温泉利用状況を把握し、温泉行政の推進に必要な基礎資料
[ と し た / *と い っ た ]。 (BCCWJ/ 観 光 白 書 :: 平 成 4 年 版 )
の よ う な 例 で は 、 (21) ~ (23)と は 違 っ て 、 (25) は 「 都 道 府 県 別 の 温 泉
地数、源泉数、ゆう出量、宿泊利用者数等全国の温泉利用状況 」=
「 基 礎 資 料 」で あ る が 、
「 と し た 」は 引 用 の 機 能 を 果 た さ ず 、一 連 の
動作(都道府県別の温泉地数、源泉数、ゆう出量、宿泊利用者数等
全 国 の 温 泉 利 用 状 況 を 把 握 す る )を し て か ら 、
「 基 礎 資 料 」と い う も
の を 帰 結 し た 、と い う 結 果 の 機 能 を 果 た す の で あ る 。
「 ト イ ウ 」は 結
果 を 表 さ な い の で 、「 ト ス ル 」 に 置 き 換 え ら れ な い 。
45
しかし、文末にくる「トスル」はすべて「トイウ」に置き換えら
れ な い と も い え な い 。 (26)の よ う に「 ト ス ル 」は 文 末 に 現 れ 、「 と い
っている」と置換できる。
(26) a.気 象 庁 で は 津 波 の 心 配 は な い と し て い ま す 。
b.気 象 庁 で は 津 波 の 心 配 は な い と い っ て い ま す 。
(明 鏡 国 語 辞 典 2002)
「 ~ ト ス ル 」の 用 法 は 、
「 引 用 」の 用 法 だ け で は な く 、情 報 提 供 の
機能もあり、伝聞という用法である「トイウ」に置き換えられる。
政 治 大
「 ~ と し て い る 」 に つ い て 、 金 子 (1994)で は 、
立
‧ 國
學
最 近 報 道 番 組 な ど で 多 用 さ れ て い る「[ Q タ イ / コ ト ]と し て
いる」に至っては、動詞は意味を捨象され、情報[Q タイ/
‧
コト]目当ての表現になっていることを指摘した。この「と
している」は、言うなれば、新聞、テレビなどの伝達メディ
y
Nat
sit
アが常に「今日、社会ではどんなことがあったか」という視
n
al
いるというマークである。
Ch
engchi
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聴者からの問いに情報性の高い内容をもって答えようとして
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(金 子 1994:39)
と 述 べ て い る 。金 子 の 指 摘 と 照 ら し 合 わ せ る と 、こ の「 と し て い る 」
は動詞「という」に比べて、動詞の意味がより薄れて情報提供の機
能を果たすものであることがわかる。
(27)
a.市 長 選 は 連 続 無 投 票 で 樽 本 庄 一 市 長 ( 7 2 ) が 3 選 。 政 党 関 係 者
らによると、昨年の衆院選落選者への立候補打診のほか複数の動
きがあり、樽本市長の去就が注目されている。毎日新聞の取材に
樽 本 市 長 は「( 4 選 へ の )態 度 を ま だ 示 す 段 階 に な い 」と し て い る 。
( 毎 日 新 聞 2013/06/18 )
46
→b.毎 日 新 聞 の 取 材 に 樽 本 市 長 は「( 4 選 へ の )態 度 を ま だ 示 す 段 階
にない」といっている。
また、このような文によく「としている」を使われる理由は前の
内容を提示する一方、
「 と い う 」を 繰 り 返 す 代 わ り に 後 に 現 れ る と こ
ろでは、レトリック的に、違った表現「としている」が使われてい
ると考えられる。
(28) 愛 媛 大 ( 松 山 市 ) 法 文 学 部 4 年 の 熊 谷 龍 臣 さ ん ( 2 1 ) ら の グ
ル ー プ は 昨 年 度 、四 国 電 力 伊 方 原 発( 愛 媛 県 伊 方 町 )と 四 国 の エ
ネ ル ギ ー 政 策 を テ ー マ に 学 生 や 地 元 住 民 の 意 識 調 査 を 実 施 し 、今
政 治 大
月 1 3 日 に 学 内 で 研 究 成 果 を 発 表 し た 。熊 谷 さ ん は「 エ ネ ル ギ ー
立
政策を考える材料になれば」という。
‧ 國
學
愛 媛 大 生 1 7 5 人 を 対 象 と し た 意 識 調 査 の 結 果 は 、原 発 の 今 後 に
‧
つ い て「 す ぐ 廃 止 」6 % ▽「 段 階 的 に 廃 止 」4 4 % ▽「 分 か ら な
い 」2 3 % −−と な り 、5 割 が 廃 止 を 要 望 。伊 方 原 発 の 再 稼 働 に つ
y
Nat
sit
い て は 「 す べ き で な い 」 3 4 % 、「 す べ き 」 2 5 % と 反 対 派 が 多
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か っ た 。今 後 の エ ネ ル ギ ー は「 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 」を 求 め る 声
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が 7 5 % と 圧 倒 的 で 、「 原 子 力 」 は 6 % 。 熊 谷 さ ん は 「 学 生 の 脱
Ch
engchi
原発を求めていることが確認できた」 としている。
研 究 が 進 む に つ れ て 代 替 エ ネ ル ギ ー 開 発 の 難 し さ や 、地 元 の 雇 用
や 経 済 と い う 課 題 の 大 き さ も 実 感 し 、熊 谷 さ ん は「 エ ネ ル ギ ー 政
策 の 提 言 ま で 踏 み 込 め な か っ た 」 と 振 り 返 る 。「 原 子 力 を 完 全 否
定 す る つ も り は な い が 、2 年 前 の 福 島 第 1 原 発 事 故 で 苦 し ん で い
る 人 が い る 。社 会 が ど う い う エ ネ ル ギ ー を 用 い て い く べ き か 、考
え続けたい」と思っている。
(毎 日 新 聞 2013/6/19)
ただし、上の例に示されているように、新聞でその事件の出来事
や過程など、よく「としている」を文末に使って、情報提供の機能
47
を 果 た す こ と が 分 か っ た が 、 例 (29)は 同 様 に 「 と し て い る 」 を 使 う
が 、「 と い っ て い る 」 に 置 き 換 え ら れ な い 。
(29) 近 藤 容 疑 者 ら は 山 谷 地 区 の マ ー ジ ャ ン 店 を 拠 点 に 口 コ ミ で 客 を
増やしていた。10日で1割を示す「トイチ」の金利で金を貸
し、保護費受給日に返済させていた という。逮捕容疑は201
0年12月〜今年5月、都内の60歳代の無職男性2人に約6
0回計約200万円を貸し付け、法定上限を超える約50万円
の利息を受け取ったとしている。同課によると近藤容疑者は黙
秘 し 、 小 林 容 疑 者 は 認 め て い る と い う 。 (毎 日 新 聞 2013/6/3)
治
政
こ の 例 で は 、「 逮 捕 容 疑 は 」、「 追 送 検 容 疑大
は」という主語があり、
立
「としている」はその述語句が述べた内容を認定するという意味を
‧ 國
學
表すので、
「 と い っ て い る 」に 置 き 換 え ら れ な い と 思 わ れ る 。そ の 一
方 、 こ の 例 に 現 れ る 「 ト イ ウ 」 は 引 用 の 機 能 を 果 た し て 、「 ト ス ル 」
‧
に置き換えられる。
sit
y
Nat
以上のことから、
「 ト ス ル 」は「 ト イ ウ 」と 同 じ よ う に 、引 用 の 内
io
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容を表す場合、互いに置き換えることができるが、認定や帰結の結
果 な ど「 ト イ ウ 」が 表 わ さ な い 場 合 、
「 ト イ ウ 」に 換 え ら れ な い と い
al
n
うことが分かる。
Ch
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「~トスル」が文末にくる場合、形態的な変化、テンス・アスペ
ク ト に よ っ て 、そ の 表 す 意 味 や 使 わ れ る 場 合 も 違 う 。
「 ト ス ル 」が 文
末に現れる場合、ある者の主観意識・認定や思考などその人の意見
を 述 べ る こ と を 表 す (例 30)。こ の 場 合 、
「 ト ス ル 」は「 ト イ ウ 」の み
ならず、
「と思う」
「 と 考 え る 」に も 置 き 換 え ら れ る 。そ れ に 対 し て 、
「としている」はそうではなく、新聞では、前接する内容は情報性
が 高 い 内 容 で 、主 語 が 述 べ た 出 来 事 で あ り 、
「 と い っ て い る 」に 置 き
換 え る こ と が 可 能 で あ る 。ま だ 、文 末 に く る「 ト シ タ 」は「 ト イ ウ 」
の よ う な 引 用 的 機 能 が な く て 、「 ト イ ウ 」 と 置 換 で き な い 。
(30) 著 者 は 、 「 破 局 」 と し て の 未 来 イ メ ー ジ を 社 会 の 構 成 員 が そ の
48
両肩に担いつつ共有することで、破局の回避を窺うしかない と
す る 。 (中 納 言 )
3.2.2
思考動詞「~と思う」「~と考える」に置き換えら
れる場合
従 来 の 研 究 に お い て 、思 考 動 詞 4 で あ る「 ~ と 思 う 」、「 ~ と 考 え
る」について、いろいろな考察が行われた。本節はこれらの研究に
基づいて、「トスル」は「~と思う」、「~と考える」と換えられ
る場合を観察して、その置き換えの制限や条件などを明らかにする
ことが目的である。
政 治 大
う」、「~と考える」
立に 置 き 換 え ら れ る 例 文 で あ る 。
ま ず は 、例 文 を 見 て み よ う 。例 (31)~ (33)は「 ト ス ル 」が「 ~ と 思
‧ 國
學
(31) そ し て 、 そ の 理 由 と し て は ( 3 つ ま で 複 数 回 答 ) 、 子 ど も を 育
‧
て る の に お 金 が か か る[ ト ス ル / と 考 え る / と 思 う ]人 の 割 合 が
高 く 、育 児 に 対 す る 金 銭 面 に お け る 負 担 が 大 き い こ と が 表 わ れ た
y
Nat
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結 果 と な っ て い る 。 (BCCWJ/ 国 民 生 活 白 書 :: 平 成 13 年 度 )
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(32) 日 本 人 か ら の 偏 見 や 差 別 を 感 じ る と い う 外 国 人 の 意 見 に つ い て
al
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C 多 い が 、日 本 でU生 活 す る 以 上 、日 本 の 生
え る / と 思 う ]人 が 最 もh
engchi
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は 、お 互 い の 意 見 を 交 換 し 交 流 を 深 め て い く べ き[ ト ス ル / と 考
活 習 慣 ・ 言 葉 等 を 身 に つ け て ほ し い と い う 意 見 も 多 い 。 (BCCWJ
/ 21 世 紀 の 地 方 自 治 戦 略 )
(33) ま た ,就 職 に お い て ,海 外 生 活 が「 プ ラ ス の 面 で 大 き く 影 響 し ,
ス ム ー ス に 就 職 で き た 」( 2 3 % ),「 プ ラ ス 面 で や や 影 響 し た 」
( 2 8 % )が 半 数 を 占 め ,マ イ ナ ス に 影 響 し た[ ト ス ル / と 考 え
る / と 思 う ]人 は ご く 少 な い 。(BCCWJ/ 国 民 生 活 白 書 :: 昭 和 56
年版)
4
森 山 (1988) の 定 義 で は 、 思 考 動 詞 と は 、「 ~ と 感 じ る 」「 ~ と 思 う 」 な ど の よ
うに、
「 何 に 対 し て 思 考 、感 情 を 向 け る か 」と い う 意 味 を 表 し 、ヲ 格 を 付 加 さ
れ て 、対 象 を 特 に 取 り 上 げ た り し な い 場 合 に 使 わ れ る 。例 え ば 、
「私は彼を卑
却だと思う」のようである。
49
上掲の例文は、連体修飾を受ける被修飾名詞はすべて「人」であ
り、「トスル」は後接した「人」の考え方や思考を表し、前接する
ものの内容を表す。この場合、「トスル」は「と思う」と「と考え
る 」に 置 き 換 え ら れ る 。し か し 、被 修 飾 名 詞 は「 人 」で あ る が 、「 と
考える」に置き換えられない場合もある。
(34) a. 5 こ の お 茶 が お い し い [ ト ス ル / と 思 う / と い う ] 人 が 多 数 を
占める。
b.* 6 こ の お 茶 が お い し い [ と 考 え る ] 人 が 多 数 を 占 め る 。
政 治 大
上 の 例 に 被 修 飾 語 は「 人 」で あ る が 、
「 と 考 え る 」に 置 き 換 え ら れ
立
な い 。 内 田 (2008) に よ る と 、 「 考 え る 」 と 「 思 う 」 は 両 方 と も 「 個
‧ 國
學
人 の 判 断 」で あ る こ と を 強 調 し て 、
「 意 見 」と い う こ と を 表 示 し て い
る 。こ の 場 合 、
「 ~ と 考 え る 」が そ の 思 考 を 始 め る と き 、表 現 者 は 意
‧
識 し て「 考 え る 」こ と を 開 始 す る の に 対 し て 、
「 ~ ト 思 う 」で は 表 現
者は意識して「思う」ことを開始しないところになる、という両者
y
Nat
sit
の 間 に 大 き な 差 が あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 内 田 (2008) の 指 摘 に
n
al
er
io
し た が う と 、(34)の 連 体 修 飾 節 は「 こ の お 茶 が お い し い 」と い う「 意
i
n
U
v
識して「思う」ことを開始しない」もので、話者が自然的な反応で
Ch
engchi
あ り 、「 意 識 し て 「 考 え る 」 こ と を 開 始 す る 」 必 要 が な い の で 、「 考
える」に置き換えられないのは当然である。
次 の (35)~ (37)の 文 に お け る 「 ト ス ル 」 は 「 ト イ ウ 」、「 と 思 う 」、
「と考える」に置き換えるかどうかについて触れておきたい。
(35) 裁 量 権 の 踰 越 ・ 濫 用 論 の 展 開 に よ り 、 今 日 で は 便 宜 裁 量 に つ い
ても裁判所がいっさい審理しない とする 原則(裁量不審理原則)
は 維 持 す る こ と が で き な く な っ た 。 (BC CWJ/ 行 政 法 要 論 )
5
6
(34)は 作 例 で あ る 。
「 *」 は 非 文 を 指 す 記 号 で あ る 。
50
(36) 被 害 者 が 裁 判 で 運 行 供 用 者 責 任 を 追 及 す る 場 合 、 こ の ニ つ の 要
件 を 具 体 的 に 主 張・立 証 し な け れ ば な ら な い か が 問 題 に な り ま す
が 、そ れ は 多 く の 場 合 困 難 で す の で 、被 害 者 は 単 に 抽 象 的 に 運 行
支 配 お よ び 利 益 を 取 得 し て い る 者 で あ る こ と を 主 張・立 証 す れ ば
た り 、こ れ に 対 し 、加 害 者 側 は 泥 棒 運 転 な ど 、現 実 に は 運 行 支 配・
利 益 を 失 っ た こ と を 主 張・立 証 し な い か ぎ り 責 任 を 免 れ な い と す
る 考 え 方 が 有 力 で す 。 (BCCWJ/ 交 通 事 故 の 知 識 と Q& A)
(37) こ の 場 合 民 法 7 0 9 条 に よ る 一 般 の 不 法 行 為 責 任 を 負 う と す る
考 え 方 も あ り ま す が 、や は り 運 行 供 用 者 責 任 の 有 無 の 問 題 と し て
考 え る べ き だ と す る 立 場 も 有 力 で す 。(BCCWJ/ 交 通 事 故 の 知 識 と
Q& A)
立
政 治 大
‧ 國
學
(35)の 「 ト ス ル 」 は た だ 「 ト イ ウ 」 に 置 き 換 え ら れ る だ け で あ る
が 、 (36) と (37) は 「 ト イ ウ 」 だ け で は な く 、「 と 主 張 す る 」 も 換 え ら
‧
れる。
「 と 思 う 」と「 と 考 え る 」は 置 換 す る こ と が で き な い 。そ れ は 、
被修飾名詞が違うためである。
「 原 則 」は 多 く の 人 に よ っ て 決 め ら れ
y
Nat
sit
た も の で あ る の で 、 こ の 文 で は 、 文 脈 か ら 「 と 思 う 原 則 」、「 と 考 え
n
al
er
io
る 原 則 」が 適 当 で は な い と 思 わ れ る 。ま た 、(36)の 被 修 飾 名 詞 は「 考
i
n
U
v
え 方 」 な の で 、「 と 思 う 考 え 方 」「 考 え る 考 え 方 」 が 用 い ら れ れ ば 、
Ch
engchi
許 容 度 が 下 が る 。 (37) の 「 立 場 」 も 同 じ で 、 修 飾 節 に 「 考 え る 」 が
現れて、
「 ト ス ル 」は「 と 考 え る 」に 換 え ら れ た ら 不 適 当 だ と 思 わ れ
る。
そのため、「トスル」は引用の内容を表わす場合、「トイウ」、
「と思う」と「と考える」に置き換えるかどうかは被修飾名詞と修
飾節の内容両方によって決められる。
次 は テ ン ス・形 態 の 違 い の 問 題 に 移 る 。例 文 (38)に あ る「 ト ス ル 」
は 「 ト イ ウ 、 と 考 え る 、 と 主 張 す る 」 と 交 換 で き る が 、 (39)の 「 ト
ス ル 」は「 と 考 え る 」、
「 と 主 張 す る 」に 置 き 換 え ら れ な く 、
「と思う、
と 決 め て い る 」 と 入 れ 替 え る こ と が で き る 。 こ れ に 対 し て 、 例 (40)
は た だ「 ト イ ウ 、と 考 え る 」と い う 二 つ の 動 詞 と 交 換 で き る が 、
「ト
51
スル」の文中の位置によって、テンス・形態が違う可能性もある。
(38) ま た 、 そ の 造 作 が 建 物 の 同 体 的 構 成 部 分 と な っ た 場 合 に は 、 建
物 全 体 の 留 置 を 認 め る べ き で あ る 、と す る 説 も あ る 。(BCCWJ/ 民
法)
→「 と い う / と 考 え る / と 主 張 す る 」
(39) ま ず 、 注 文 す る す し ダ ネ の 順 序 で あ る が 、 「 ギ ョ ク ( 卵 焼 き )
に 始 ま り …」 と す る 人 は 多 い 。 こ れ は 、 卵 焼 き が そ の 職 人 の 腕 前
を 計 る に 最 も よ い 指 標 と さ れ た た め で あ る 。 (例 11 の 再 掲 )
→「 と い う / と 思 う / と 思 っ て い る / と 決 め て い る 」
政 治 大
(40) 例 え ば 、 末 川 博 士 は 、 他 人 の 土 地 を 通 行 ・ 利 用 し て い る 状 態 が
立
道 路 の ご と き に よ っ て 客 観 化 さ れ て い れ ば よ い の だ か ら 、そ の 通
‧ 國
學
路を何人が開設したかは問題とすべきではない、とする。
(BCCWJ/ 民 法 講 義 )
‧
→「 と い う / と 考 え る / と い っ た / と 考 え た / と さ れ る / と し た 」
y
Nat
sit
例 (40)の ル 形 と タ 形 は 基 本 的 に は 現 在 と 過 去 の 対 立 で あ る 。
「トス
n
al
er
io
ル 」 は 文 末 に 現 れ る の で 、「 ル 形 」 だ け で は な く 、「 タ 形 」 も 使 わ れ
i
n
U
v
る 。し か し 、 (39)で は 「 タ 形 」 が 用 い ら れ な く 、「 テ イ ル 形 」 が 使 わ
Ch
engchi
れ る 。「 と 思 っ て い る 」に つ い て 、日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 (2009)に よ
7
る と 、 三 つ の 用 法 が あ る と 指 摘 さ れ て い る 。 中 に は 、 (39)の 「 ~ と
7
①「~ト思っている」は話し手、話し手以外の人の思考を表すものである。
(A){ 僕 / *佐 藤 } は 、 あ の 男 が 犯 人 だ と 思 う 。
(B){ 僕 / 佐 藤 } は 、 あ の 男 が 犯 人 だ と 思 っ て い る 。 (日 本 語 記 述 文 法 研 究 会
2009:185)
② そ の 他 、第 三 者 の 誤 解 (C)、あ る い は 話 し 手 が 自 分 の 話 し た 内 容 が 偽 で あ る こ
と を 知 り つ つ 、 そ の よ う に 見 な し て い る (D)と い う 場 合 も 用 い ら れ る 。
(C)先 生 は 、 私 が 2 年 生 だ と 思 っ て い る 。( 誤 解 )
(D)最 近 ま で あ の 人 は 独 身 だ と 思 っ て い た 。( 誤 解 ) (日 本 語 記 述 文 法 研 究 会
2009:179)
(E)僕 は 、 鈴 木 さ ん は 自 分 の 妹 だ { *と 思 う / と 思 っ て い る }。 そ れ ぐ ら い 、
彼 女 は 身 近 な 存 在 な の だ 。 (日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 2009:185)
③「 ~ ト 思 う 」は 事 柄 を 実 現 す る と い う 判 断 を 下 す 意 味 で あ る の に 対 し 、
「~思
っている」は実際にその事柄が実現するかどうかについて話し手が信念、期待
を持っている意味である。
52
思っている」は話し手、話し手以外の人の思考を表すものである。
こ の 場 合 、 (40)の よ う に 「 タ 形 」 の 「 ~ と 思 っ た 」 を 用 い る こ と が
で き な い 。日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 (2009) で は 、「 ~ と 思 っ た 」は 、用
法が 2 つあり、予想が的中したことと過去のある時点に思ったこと
と い う 用 法 で あ る と さ れ る 。 だ が 、 (39)が 表 す 意 味 は 「 注 文 す る す
し ダ ネ の 順 序 で あ る が 、 『 ギ ョ ク ( 卵 焼 き ) に 始 ま り …』 」 と い う
被修飾名詞である「人」の習慣なので、「タ形」は使ってはいけな
い 。 「 タ 形 」 と 「 テ イ ル 形 」 の 区 別 は 、 工 藤 (1995) で は 、 完 成 相 と
継続相という意味の違いと継起性と同時性という機能の違いが提示
されている。
政 治 大
立 完成相 :継続性を無視して時間的限界付け
・ スル(シタ)
‧ 國
學
てとらえる〈時間的に限界づけられた完成的把握〉
(41) 徳 川 幕 府 は 300 年 の 間 日 本 を 支 配 し た 。
‧
Nat
sit
らえる〈時間的に限界づけられない継続的把握〉
n
er
io
(42) 先 生 が 僕 を に ら ん で た 。
al
Ch
8
y
・ シ テ イ ル( シ テイ タ )継 続 相 :時 間 的限 界 を 無視 し て継 続 的 にと
engchi
i
n
U
v
(工 藤 1995:36)
「 決 め る 」 は 瞬 間 動 詞 な の で 、「 決 め て い る 」 は そ の 継 続 的 な 動
作ではなく、テイルが表す意味の一つである結果残存という。仁田
(2009) で も 、テ イ ル 形 の 意 味 の 分 化 に つ い て 提 出 さ れ た 。
「決めてい
る」は「結果残存」に属すとされている。
8
(F)僕 は い つ か い い 人 に 巡 り 会 え る と 思 っ て い る 。( 信 念 ・ 期 待 )
(日 本 語 記 述 文 法 研 究 会 2009:178)
岩 淵 ( 2001) に よ る と 、 瞬 間 動 詞 は 咲 く 」「 止 ま る 」 な ど の 「 ( 継 続 性 の な い ) 瞬
間的な動き」を表す動詞である。
「 花 が 咲 く (「 咲 く 」 と い う 動 き が 起 こ る )」
→ 「 花 が 咲 い た (「 咲 く 」 と い う 動 き が 終 了 し 、「 花 が 咲 い た 」 状 態 が 成 立 す
る )」
→ 「 花 が 咲 い て い る (「 花 が 咲 い た 」 状 態 が 続 い て い る )」
53
(43) テ イ ル 形 の 意 味 の 分 化
テ
イ
非 ア ス ペ ク ト [単 純 状 態 ]
ル
テ ン ス 的 ア ス ペ ク ト [経 験 ・ 完 了 ]
形
の
アスペクト
複数事象のアスペクト[繰り返し的持続]
意
味
本来的アスペクト
[結果残存]
単一事象のアスペクト
立
政 治 大
[進行]
(仁 田 2009:266)
‧ 國
學
そ れ ゆ え 、「 ト ス ル 」 が 他 の 語 に 置 き 換 え ら れ る 場 合 、「 ト ス ル 」
‧
文中に現れる位置だけではなく、連体修飾節の内容と入れ替えた語
の特性などもテンス・形態の違いに影響を与える。すなわち、 置き
y
Nat
n
al
er
io
ている。
sit
換えられた動詞のテンスやアスペクトは動詞の特性によって異なっ
i
n
U
v
ちなみに、
『 明 鏡 国 語 辞 典 』に よ る と 、
「 主 張 す る 」は 自 分 の 意 見 ・
Ch
engchi
説 を 認 め て も ら え る よ う 、強 く 言 う こ と と 記 さ れ て い る 。そ の た め 、
(39)で は 、 次 の 文 「 こ れ は 、 卵 焼 き が そ の 職 人 の 腕 前 を 計 る に 最 も
よい指標とされたためである」から、連体修飾節「注文するすしダ
ネ の 順 序 で あ る が 、 『 ギ ョ ク ( 卵 焼 き ) に 始 ま り …』 」 は 「 自 分 の
意 見 ・ 説 を 強 く 言 う 」 で は な い の で 、「 主 張 す る 」 が 用 い ら れ な い 。
3.2.3
「~仮定する」に置き換える場合
「~トスル」構文には、仮定の意味を表す用例がたくさん見ら
れる。
(44) ま た た と え ば 母 親 の 愛 情 に つ い て 書 く と す る 。
(BCCWJ/ 名 文 を 書 か な い 文 章 講 座 )
54
(45) 今 仮 に 3 億 円 の 宝 く じ が あ な た に 当 た っ た と し ま す 。 あ な た
は 、 そ れ で 何 を し ま す か 。 (日 本 語 文 型 辞 典 1998)
(46) こ れ は 仮 に 一 人 二 千 円 と し た 場 合 に 二 十 億 で す 、 十 年 二 百 億
で す 。 (BCCWJ/ 国 会 会 議 録 )
「 ト ス ル 」が 仮 定 を 表 す 例 文 は 構 文 的 に は「 た と え ば 」、
「仮に」
な ど 仮 定 の 意 味 の 副 詞 が よ く 付 い て い る 。例 文 (44)と (45)は「 出 来
事を仮定する」意味を表す。このような「トスル」は常に文末に
現 れ る 。 し か し 、 タ 形 の 「 と し た 」 は 文 末 に 現 れ ず 、 (46)の よ う
に 文 中 に 現 れ 、連 体 修 飾 節 に な る 。仮 定 を 意 味 し て い る「 ト ス ル 」
政 治 大
は「 テ イ ル 」形 が 用 い ら れ な い 。「 引 用 」の 機 能 を 果 た さ な い「 ト
立
スル」は「トイウ」に置き換えられない。
‧ 國
學
3.3「 ト ス ル 」 が 「 と さ れ る 」、「 と さ れ て い る 」 形 式 に 変
‧
わった場合
y
Nat
sit
3.3.1 主 語 の 省 略
n
al
(49)は そ の よ う な 主 語 が 現 れ な い 。
Ch
engchi
er
io
下 の 例 に「 野 沢 氏 」と「 フ ァ ー ン ズ 」の よ う に 主 語 が 見 ら れ る が 、
i
n
U
v
(47) つ ま り 野 沢 氏 は 、
『 生 と 死 の 二 極 対 立 の 同 体 概 念 を 否 定 し 、生 が
本 質 で あ っ て 死 は そ の 生 の 中 の 一 時 点 で 、死 は 生 の 系 列 に 含 ま れ
る 』 と す る 。 (BCCWJ/ 宇 宙 の 意 思 )
(48) フ ァ ー ン ズ は 、 ノ ー マ ン が 外 交 官 に 対 す る 執 着 を も う 少 し あ っ
さ り と 捨 て る こ と が で き た な ら 、悲 劇 は 避 け ら れ た の で は な い か 、
と す る 。(BCCWJ/ 外 交 官 E・H・ノ ー マ ン :: そ の 栄 光 と 屈 辱 の 日 々
1909-1957)
(49) 人 類 が 利 用 す る こ れ ら 生 物 活 動 の 産 物 は 、 究 極 的 に は 太 陽 エ ネ
ル ギ ー に よ っ て 生 産 さ れ て い る 。生 態 系 は 、種 が 多 様 で あ れ ば あ
る ほ ど 、 そ の 安 定 性 が 高 い と さ れ て い る 。 (例 10 の 再 掲 )
(47)~ (48)の「 ト ス ル 」は 引 用 の 内 容 を 果 た す 機 能 で あ る の に 対 し
55
て 、(49)は 同 じ で 引 用 の 内 容 を 表 す が 、形 式 的 に は「 と さ れ て い る 」
で 表 示 さ れ て い る 。そ の 区 別 は 主 語 の 有 無 で あ る 。日 本 語 に お い て 、
主 語 が 省 略 さ れ る 場 合 が 多 い 。砂 川 (1990)に よ る と 、第 一 文 9 の 場 合 、
先行詞が「基底の部分で主語の位置」を占めている。連続する文に
同じ主語がある場合、主語が省略される。
(50) “女 も 手 に 職 を つ け な け れ ば 生 け な い ” そ れ が 父 の 口 癖 だ っ た 。
そ の 教 え を 忠 実 に 守 っ た の は 、 邦 子 の ほ う 。〔 ∮ 邦 子 は 〕 大 学 の
と き に 英 検 の 一 級 を 取 っ た 。〔 ∮ 邦 子 は 〕 つ い で に ガ イ ド の 資 格
を 取 り 、二 年 ほ ど 航 空 会 社 に 勤 め た が 、今 は フ リ ー の ガ イ ド 兼 通
訳 業 を 営 ん で 、 な か な か 忙 し い 。 (砂 川 1990:17)
政 治 大
立
あるいは、文の内容が先行詞の「状態や属性を描写」するような
‧ 國
學
ものならば、主題の省略可能性が高いとしている。
(51) 友 吉 を 、ゆ う は 顔 だ け は 知 っ て い る 。
〔 ∮ 友 吉 は 〕徳 次 郎 親 方 の
‧
女 房 の 弟 と い う こ と だ 。 (砂 川 1990:18)
y
Nat
sit
ま た 、不 特 定 多 数 の 主 体 を 表 す 主 語 を 省 略 さ れ る の が 普 通 で あ る 。
n
al
er
io
例 (49)は そ の よ う な 類 に 属 さ れ る と 思 わ れ る 。 そ れ は 、 一 連 の 調 査
i
n
U
v
をして得た結果だったので、主語が特定されず省略されたものであ
Ch
る 。 (53)(54) も 同 じ で あ る 。
engchi
(52) 生 態 系 は 、 種 が 多 様 で あ れ ば あ る ほ ど 、 そ の 安 定 性 が 高 い と さ
れ て い る 。 (49 の 再 掲 )
(53) 一 般 に 、 秋 冷 涼 に な り 収 穫 さ れ る 秋 ソ バ の ほ う が 風 味 が よ い と
さ れ て い る 。 (BCCWJ/ ソ バ :: 条 件 に 合 わ せ た つ く り 方 と 加 工 ・
利用)
(54) 通 説 で は タ ガ ー ル 文 化 ( 七 〇 〇 〜 三 〇 〇 B C ) は 銅 の 産 出 が 豊
富 で あ っ た た め 鉄 を 末 期 ま で 使 用 し て お ら ず 、ア ナ ニ ノ 文 化 の 後
期( 四 〇 〇 〜 三 〇 〇 B C )頃 に な っ て ス キ タ イ 式 の 鉄 器( 鉄 短 剣・
9
分裂文の場合。
56
内 反 り 刀 子 な ど )が 用 い ら れ 、そ の た め カ ザ フ ス タ ン 方 面 か ら の
移入物に頼っていたとされている。
(BCCWJ/ シ ル ク ロ ー ド 鉄 物 語 )
こ の よ う に 古 く か ら の 風 俗 や 慣 習 、 法 律 の 条 文 な ど 時 間 10 に 関 係
ない例文においては、主語がよく省略されることがうなずける。
3.3.2「 ~ ト ス ル 」 と 「 と さ れ る 」、「 と さ れ て い る 」
(55) 伝 え る と こ ろ に よ れ ば 、 慈 覚 大 師 円 仁 は 遣 唐 使 と 同 行 し て 唐 の
国 に 渡 り 、聖 域 五 台 山 に 至 っ て 諸 徳 に 会 い 、顕 密 の 法 を 伝 え ら れ
政 治 大
た と い う 。五 台 山 で ひ た す ら 修 行 に は げ ん で い る 時 、夢 の 中 に 一
立
人 の 聖 僧 が 現 わ れ て 告 げ た と さ れ て い る 。 (BCCWJ/ 木 喰 )
‧ 國
學
(56) あ る 特 定 の 支 配 者 か 、 ま た は 支 配 権 を 有 す る 機 関 が 存 在 す る 人
間 共 同 体 す べ て を 総 称 し て い る 。だ か ら た と え ば 、都 市 や 州 は も
‧
ち ろ ん の こ と 、家 長 が 支 配 す る「 家 庭 」も「 政 治 共 同 体 」で あ り 、
そ こ で は「 暴 君 」が 定 義 上 、出 現 し う る こ と に な る 。こ れ に 対 し 、
y
Nat
sit
「 隣 近 所 」の よ う な 場 に は 明 確 な 支 配 機 構 が 存 在 し な い た め 、
「暴
n
al
er
io
君 」 も 存 在 し え な い と さ れ る 。 (BCCWJ/ 反 「暴 君 」の 思 想 史 )
Ch
engchi
i
n
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v
文 (55)の 場 合 の「 ト イ ウ 」に は 引 用 の 意 味 を 表 し 、
「とされている」
も 同 じ よ う に 引 用 の 機 能 を 果 た す が 、 現 れ る 形 式 が 違 う 。 蘇 (2009)
は詳しい記述が行われ、
「 言 う 」と い う 動 詞 の「 発 言 」と い う 意 味 が
「判断」
「 伝 聞 」と い う 意 味 に 拡 張 さ れ る の に 伴 っ て 、も と の 動 詞 が
持っていた実質的な意味が変化するだけでなく、動詞の主体が問題
とされなくなり、ヴォイスといった統語的機能にも変化が生じてい
る こ と を 述 べ て い る 。「 言 う 」「 さ れ る 」 と 言 い 換 え て も 大 き な 意 味
の違いは感じられなくなっている。
「 ト ス ル 」も 同 様 で 、
「とされる」
「とされている」の受身形が可能であるが、こうした文でヴォイス
10
こ こ で 指 す の は 、“ 今 朝 、 パ ン を 食 べ ま し た 。” な ど の よ う に テ ン ス の 違 い が
ない場合である。
57
的 対 立 が 実 質 的 に な く な っ て い る と 思 わ れ る 。 例 え ば 、 (57)~ (59)
に「トスル」は「とされる」に置き換えても、意味の違いが感じら
れない。
(57) こ の よ う な 世 界 観 に 基 づ き 、 リ ベ ラ リ ズ ム 学 派 は 一 般 に 、 リ ア
リズム学派の安全保障概念を過度に軍事中心的であるとして批
判 し 、政 治 や 経 済 な ど の 安 全 保 障 の 非 軍 事 的 側 面 に も 目 を 向 け る
べ き だ [と す る / と さ れ る ]。 (BCCWJ/ 安 全 保 障 学 入 門 )
(58) 法 文 に 要 件 が 明 記 さ れ て い る 場 合 に は 、 そ れ が 「 急 施 を 要 す る
場 合 」と か「 土 地 の 合 理 的 利 用 に 寄 与 す る 」と い っ た 多 義 的 な 不
確 定 概 念 に よ る 場 合 で あ っ て も 、そ の 解 釈 は 法 律 問 題 で あ り 法 規
政 治 大
裁 量 と み る べ き だ [と す る / と さ れ る ]。 (BCCWJ/ 行 政 法 要 論 )
立
(59) そ こ で 現 在 の 学 説 の 大 勢 は 、 法 律 で 許 容 さ れ て い る 裁 量 判 断 の
‧ 國
學
内 容 に 着 目 し 、要 件 の 認 定 で あ れ 処 分 内 容 の 決 定 な い し 処 分 実 行
の 決 断 で あ れ 、そ の 判 断 が 通 常 人 の 共 有 す る 一 般 的 な 価 値 法 則 な
‧
い し 日 常 的 な 経 験 則 に 基 づ い て な さ れ る 場 合 に は 、そ う し た 判 断
(BCCWJ/ 行 政 法 要 論 )
n
al
er
io
sit
Nat
覊 束 裁 量 と 解 す べ き だ [と す る / と さ れ る ]。
y
は、裁判所の判断をもってもっとも公正とみるべきであるから、
C
3.4 「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 のh多
e義
n構
g c造h i
i
n
U
v
以 上 の 考 察 し た こ と を 踏 ま え て 、「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 の 多 義 構 造 を
分析してみたいと思う。
3.4.1「 Y ヲ Z ト ス ル 」
3.4.1.1 基 本 義 ―変 化
「 変 化 」と い う の は あ る も の (Y) を 他 の も の 、状 態 や 資 格 (Z)に 変 わ
るという意味である。
「 Y ヲ Z ト ス ル 」の 表 す 意 味 に は 第 2 章 で 論 証
し た「 変 化 か ら 認 知 へ の 抽 象 化 」が あ る の で 、
「 変 化 」が そ の 基 本 義
と 思 わ れ る 。こ の 場 合 、
「 ト 」は「 ニ 」に 換 え て も 意 味 の 違 い が 見 ら
58
れ な い 11 。
3.4.1.2
派 生 義 ―変 化 か ら 抽 象 化 し た 認 知 へ の 認 定 、決 定 、
仮定
このタイプの「トスル」は変化から抽象化して、認定、決定、仮
定 に 派 生 し た 意 味 で あ る 。人 の 思 考 過 程 が 含 意 さ れ て 、あ る も の (Y)
を 資 格 や 状 態 、 あ る い は 他 の も の (z)に 付 け る 意 味 が 表 さ れ て い る 。
「Y ヲ Z トスル」構文によく使われる意味である。
3.4.1.3
文法化した機能動詞
政 治 大
機能動詞としての「トスル」の用法については第 4 章で詳しく考
立
察するので、ここではごく簡単に触れておきたい。
‧ 國
學
「 ス ル 」が 機 能 動 詞 と し て 使 わ れ る「 Y ヲ Z ト ス ル 」に お け る「 Z」
に 現 れ る 名 詞 は 主 と し て 中 心 、目 標 、は じ め な ど の も の で あ る 。
「ト
‧
スル」はこのタイプにおいて、前に述べた変化、認定、決定と仮定
などのように実質的意味を持たなく、機能語の文法的要素に変わっ
sit
y
Nat
てしまう。
n
al
er
io
(60) 以 下 に 示 す 朝 日 新 聞 の 主 張 は 社 説 の 内 容 を 中 心 と す る 。
Ch
i
n
U
v
(BCCWJ/ 「日 中 友 好 」の ま ぼ ろ し )
engchi
(61) 以 前 か ら 、 こ の よ う な 重 大 事 故 を 防 ぐ た め に 、 交 通 検 問 を は じ
め と す る さ ま ざ ま な 取 締 り が 実 施 さ れ て き ま し た が 、犠 牲 者 の 増
加やモラルの低下から、罰則を強化することになりました。
(BCCWJ/ 泣 き 寝 入 り し な い た め の 交 通 事 故 を め ぐ る 法 律 知 識
相手方と、対等かつ納得のいく示談交渉をするために)
(62) ま た 、 核 不 拡 散 問 題 に つ い て も 、 中 南 米 地 域 に お け る 核 不 拡 散
の実現を目標とするトラテロルコ条約の完全発効を目指して積
極 的 な 動 き を 見 せ て い る 。 (BCCWJ/ 外 交 青 書 :: 平 成 4 年 版 )
11
詳しくは第 2 章をご参照ください。
59
3.4.2
3.4.2.1
自動詞性的な「~トスル」
派 生 義 ―「 と 思 う 」「 と 考 え る 」「 仮 定 す る 」 を 意
味している
「と思う」や「と考える」を表す「~トスル」は認知の範囲に属
し、ある物事に対して判断を下し、あるいは自分の思いを表 明する
という意味が示されているタイプである。
「と思う」
「と考える」
「仮
定 す る 」を 使 わ な い で 、
「 ト ス ル 」構 文 を 使 う こ と に よ っ て 、発 話 の
効力が直接性を軽減するという婉曲的な表現として働くことになる。
マスコミでよく使われるタイプである。
(63) 実 際 、届 い た 商 品 に 問 題 が な け れ ば そ れ で 良 い と す る 人 が 多 い 。
立
政 治 大(BCCWJ/ Yahoo!知 恵 袋 )
(64) だ が 、 そ れ を 認 め た く な い と す る 日 本 人 も 多 い 。
‧ 國
學
(BCCWJ/ 迷 走 日 本 の 原 点 )
(65) そ れ か ら 、 名 誉 を 毀 損 さ れ た と す る 人 の 弁 護 士 が 、 3 0 分 く ら
‧
い 反 対 尋 問 を 行 っ た 。 (BCCWJ/ ピ エ ー ル の 司 法 修 習 ロ ワ イ ヤ ル )
(66) 仮 に 、 あ る 人 が こ の 世 を と て も 愛 し て い る と し ま す 。
y
Nat
er
io
sit
(http://g.blayn.jp/bm/p/bn/list.php?i=emanna2009&no=all&m=555 )
n
a l 用 機 能 の 「 ト イ ウ 」i に
3.4.2.2 文 法 化 し た 引
v 等しいもの
Ch
n
U
engchi
(67) 日 本 人 は 、 最 新 の 科 学 技 術 で あ っ て も 、 神 の 加 護 の も と で 運 用
し な け れ ば な ら な い と す る 発 想 を 強 く も っ て い る 。(BCCWJ/ 日 本
人 な ら 知 っ て お き た い 神 道 :: 神 道 か ら 日 本 の 歴 史 を 読 む 方 法 )
(68) 有 能 な 者 、 富 め る 者 は 指 導 者 と な っ て 、 弱 い 者 の た め に 働 く べ
き だ と す る 発 想 の う え に 、村 落 が 動 い て い た 。こ の よ う な 人 間 関
係は、弥生時代以来のものであった。
(BCCWJ/ 知 っ て お き た い 日 本 の 神 様 )
こ の タ イ プ の「 ト ス ル 」は「 ト イ ウ 」と 同 じ よ う に 、動 詞「 言 う 」
の意味が薄くなって、文法化して引用の機能を果たす特徴が見られ
る。
60
3.4.2.3
派 生 義 ―「 と さ れ る 」「 と さ れ て い る 」
受身態で示されている「トスル」は前述したとおり、 ヴォイス的
対立が実質的になくなっていると思われるが、主語が明確に示され
な い 場 合 、「 と さ れ る 」「 と さ れ て い る 」 が 使 わ れ る 。
(69) 一 般 に 、 秋 冷 涼 に な り 収 穫 さ れ る 秋 ソ バ の ほ う が 風 味 が よ い と
さ れ て い る 。 (例 53 の 再 掲 )
(70) 毎 年 12 月 25 日 の ク リ ス マ ス の 日 は キ リ ス ト の 誕 生 日 と さ れ て
い ま す 。 (http://www.asahi-net.or.jp/~nr8c-ab/rkxmas.htm)
(71) そ ん な 運 命 を ま だ 知 る よ し も な か っ た で あ ろ う そ の 会 食 に 参 加
したメンバーの間で話題に上った一つに為替問題があった とさ
政 治 大
れ る 。 (BCCWJ/ さ よ な ら 円 高 :: 世 紀 末 の マ ネ ー ・ ウ ォ ー ズ )
立
おわりに
‧ 國
學
3.5
以 上 考 察 し た 結 果 を ま と め る と 、 (72)の よ う に な る 。
y
Nat
変化
n
er
io
al
sit
(基 本 義 )
派生義
Ch
派生義
認知
‧
(72)
i
n
U
認知
v
e n g c h i文 法 化
(認定、決定、
仮定)
文法化
機能動詞
( 他 動 詞 性 的 「 ト ス ル 」)
( 自 動 詞 性 的 「 ト ス ル 」)
「 と 思 う 」、「 と 考 え る 」、
引用
「と仮定する」
受身「とされる」
「とされている」
61
「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」構 文 に お け る 意 味 用 法 の 特 徴 は 、変 化 か ら 派 生
した認知、決定などといった実質意味を表している場合と、実質的
意味が含まれず、文法化した機能動詞と引用の機能を果たす場合と
に分けられる。
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
62
i
n
U
v
第 4 章「Y ヲ Z トスル」構文から「~トシテ」への文法化
4.1
はじめに
例 (1)~ (3) の 「 ~ ト シ テ 」 は 複 合 助 詞 12 と し て 捉 え る 学 者 が た く さ
ん い る 。 (塚 本 1991、 馬 1997、 中 畠 ・ 楊 2006、 鈴 木 2007)
(1) 芭 蕉 は 人 生 は 旅 と し て 生 き た 。 (『 日 本 語 文 型 辞 典 』 1998)
(2) 芭 蕉 は 旅 を 人 生 と し 、 人 生 を 旅 と し て 生 き た 人 で し た 。
(http://okaya-shokoji.com/shokoji/houwa/201106.html)
(3) こ れ は 人 生 を 旅 と し て い ま す ね 。
政 治 大
しかし、これは果たして「Y ヲ Z トスル」のテ形なのか。あるい
立
‧ 國
學
は 、 複 合 助 詞 「 ト シ テ 」 へ の 文 法 化 13 の 1 つ の 段 階 な の か 、 明 ら か
にする必要がある。
‧
「 Y ヲ Z ト ス ル 」か ら 複 合 助 詞「 Y ヲ Z ト シ テ 」へ の 文 法 化 現 象 を 記
述 す る こ と に よ っ て 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 の テ 形 と 複 合 助 詞 「 Y ヲ Z ト
Nat
sit
er
io
鈴木
a (2007)―複 合 助 詞 「 トvシ テ 」
n
4.2 先 行 研 究
y
シテ」との違いを解明することになると思われる。
i
l C
n
鈴 木 (2007) で は 、 複 合 助 詞
シテ」について六つのタイプに分
h「e ト
ngchi U
け、説明されている。複合助詞「トシテ」の分析といえるものの、
六つの分類には、
「 A は 、B を C と い う も の と{ 考 え て / 位 置 付 け て }、
…す る 」と い う 「 行 為 ・ 行 動 ・ 態 度 の あ り 方 の 規 定 」 の 用 法 が あ り 、
「 A は B を C と し て …(V)(B= C)」 と 表 記 し て い る 。
(4) 外 国 語 を 道 具 と し て 使 い こ な す 。
12
13
「 ト シ テ 」の よ う な 形 式 は 、複 合 助 詞 、複 合 辞 と も 呼 ば れ て い る 。本 研 究 は 、
砂 川 (1987) に よ る 複 合 助 詞 の 定 義「 複 数 の 語 が 結 び 合 わ さ っ て 、全 体 と し て 1
語 の 助 詞 に 準 ず る 機 能 を 果 た す よ う に な っ た 連 語 の こ と 」に 従 っ て 、
「として」
を複合助詞と呼ぶ。
文 法 化 と は 、 内 容 語 か ら 実 質 語 に 変 わ る こ と と い う 。 典 型 的 に は 、「 意 味 の
漂 白 」 (語 意 )、「 脱 範 疇 化 」 (語 形 )、「 縮 約 」 (語 音 )と い う 三 つ の 要 素 に 分 け
ら れ る 。 山 梨 (1995)に 参 照 。
63
(5) ホ ー ム ス テ ィ の 家 族 は 、 私 を 家 族 の 一 人 と し て 温 か く 迎 え て
くれた。
(6) 日 本 人 は 米 を 主 食 と し て 食 べ て い る 。
(7) 父 は 、 甥 を 通 訳 と し て 海 外 に 同 行 し た 。
(鈴 木 2007:81)
作 者 に よ れ ば 、 上 の 例 は 「 外 国 語 = 道 具 」「 私 = 家 族 の 一 人 」 (B
= C)で あ り 、 (8)の A で あ る 主 体 は 「 外 国 語 」 を 研 究 や 鑑 賞 の 対 象 で
はなく、
「 道 具 」と 位 置 付 け て 用 い る 。(9)も 同 様 に 、A の「 ホ ー ム ス
テ ィ の 家 族 」は「 私 」を お 客 と 考 え る の で は な く 、
「 家 族 の 一 人 」と
位 置 付 け る 。 ま た 、 鈴 木 (2007) も 指 摘 し た の が 、「 …(V)」 と い う 述 語
政 治 大
部 分 に は 、主 体 A の 対 象 B に 対 す る 行 為 ・ 行 動 ・ 態 度 の あ り 方 を 示
立
す、ということである。
‧ 國
學
しかし、このような形式は、「~トスル」のテ形で、後ろに現れ
る動詞述語と接続するのではないかという可能性が考えられる。
‧
(8) 外 国 語 を 道 具 と し て 使 い こ な す 。
y
Nat
sit
→外 国 語 を 道 具 と す る + ( 外 国 語 を ) 使 い こ な す 。
al
n
れた。
er
io
(9) ホ ー ム ス テ ィ の 家 族 は 、 私 を 家 族 の 一 人 と し て 温 か く 迎 え て く
Ch
engchi
i
n
U
v
→ホ ー ム ス テ ィ の 家 族 は 、 私 を 家 族 の 一 人 と し た + ( ホ ー ム ス テ
ィの家族は、私を)温かく迎えてくれた。
(10) 日 本 人 は 米 を 主 食 と し て 食 べ て い る 。
→日 本 人 は 米 を 主 食 と す る + ( 日 本 人 は 米 を ) 食 べ て い る
(11) 父 は 、 甥 を 通 訳 と し て 海 外 に 同 行 し た 。
→父 は 、 甥 を 通 訳 と す る + 父 は 、 甥 を 海 外 に 同 行 し た 。
したがって、このタイプの複合助詞と「~トスル」のテ形につい
て の 区 別 な ど は さ ら に 研 究 す る 必 要 が あ る と 思 わ れ る 。 鈴 木 (2007)
では、文法化の現象を指摘していないが、これは、動詞「スル」か
ら複合助詞「~トシテ」への文法化の過程の 1 つの段階に属するも
64
のであると筆者は思う。
4.3「 Y ヲ Z ト ス ル 」 に 見 ら れ る 文 法 化 の 連 続 性
―「 ス ル 」 が 機 能 動 詞 で あ る 場 合 を 中 心 に ―
機 能 動 詞 14 と し て 使 わ れ る「 Y ヲ Z ト ス ル 」の 場 合 は 、
「 Z」に 現 れ
る名詞はある程度の限定が見られる。
「 本 」、
「 椅 子 」な ど の 具 体 的 な
ものを表す名詞より、
「中心」
「目的」
「 必 要 」な ど 抽 象 的 な 名 詞 が 多
く現れる。
(12) 15
治
政
を 「 Z」 と す を 「 Z」 と し大を「 Z」と し て
立
る
た
865
896
必要
710
70
8
はじめ
677
92
(始 め )
(181)
(26)
(62)
535
424
273
392
al
n
主
Ch
68
y
218
sit
io
対象
522
644
er
目的
Nat
中心
‧
學
‧ 國
「 Z」
n
U
e n g c13h i
34
iv
275
69
理由
55
目標
46
31
57
条件
28
9
38
86
単 位 : (句 )
(13) 文 名 を さ だ め て 以 後 の 創 作 活 動 は 堰 を 切 っ た よ う に め ざ ま し く 、
14
村 木 (1991) に よ る と 、 機 能 動 詞 と い う の は 「 実 質 的 な 意 味 を 名 詞 に あ ず け て 、
みずからはもっぱら文法的な機能をはたす動詞」と述べている。
15
考 察 し た コ ー パ ス は BCCWJ 「 現 代 日 本 語 書 き 言 葉 均 衡 コ ー パ ス 」( 検 索 エ ン
ジ ン : ひ ま わ り ) で あ る 。 BCCWJ の デ モ 版 を 使 用 し た 。 な お 、 用 例 は デ モ 版 が
配 布 さ れ た 2011 年 に 収 集 し た も の で あ る 。
65
歴史小説を主とする短篇をあいついで発表し、批評もおおむね
好 意 的 だ っ た 。 (新 潮 100 冊 )
(14) こ の よ う に 、 我 が 国 の 芸 術 家 を 中 心 と す る 芸 術 創 造 活 動 は 量 的
に 拡 大 を 続 け て い る が 、 一 般 国 民 に つ い て も 、「 文 化 意 識 調 査 」
によれば過去1年間の鑑賞経験については、美術,映画を中心
に 高 く ( 図 Ⅰ ‐1 ‐5 )、 ま た 、 同 じ く 過 去 1 年 間 の 文 化 活 動 へ の
参加については、身近な分野を中心に高いものとなっている。
(BCCWJ/ 我 が 国 の 文 教 施 策 :: 平 成 5 年 度 )
(15) な お 、 病 人 、 妊 産 婦 、 体 力 消 耗 の 激 し い 作 業 の 就 業 者 等 の 食 事
については特別に配慮されているほか、宗教上の理由又は食習
政 治 大
慣の著しい違いにより特別の食事を必要とする被収容者に対し
立
て は 、食 事 内 容 を 変 更 し て い る 。(BCCWJ/ 犯 罪 白 書 平 成 10 年 版 )
‧ 國
學
(12)に 現 れ る 数 字 は コ ー パ ス に 出 て き た 用 例 数 で あ る 。 (12)か ら 、
‧
「 中 心 」「 必 要 」「 は じ め ( 始 め )」「 目 的 」 は こ の 「 Y ヲ Z ト ス ル 」
構文形式に現れるのが数多くあり、
「 ト ス ル 」と の 結 合 が と て も 強 い
y
Nat
sit
と い う こ と が 分 か っ た 。そ の 上 、
「 Z」の 違 い に し た が っ て 、述 語「 ス
n
al
er
io
ル」が用いられる場合も変わる。特に、一番多く使われる名詞「必
i
n
U
v
要」は、述語が「ヲ~トスル」の場合、例文がかなりの数を持って
Ch
engchi
い る が 、述 語 が「 ヲ ~ ト シ テ 」の 場 合 、
「 ヲ ~ ト ス ル 」に 比 べ て 用 例
数 が 急 激 に 減 り 、 た だ 8 例 だ け で あ る 。 こ れ に 対 し て 、「 中 心 」「 目
的「
」 対 象 」な ど の 名 詞 は こ の よ う な 大 き な 差 が 見 ら れ な い 。し か し 、
ほ か の 述 語 形 式 を 調 査 す る と 、 そ の 結 果 は 逆 転 し て 、「 中 心 」「 は じ
め ( 始 め )」「 主 」「 問 題 」「 条 件 」「 理 由 」 は 「 必 要 」「 目 的 」 よ り 用
例数が少ない。
(16)
「 Z」
目的
を 「 Z」 と し て い を 「 Z」 と し て い た を「 Z」と し な い
る
/しなかった
127
16
66
20
必要
90
31
109
対象
59
4
4
目標
24
5
0
条件
8
2
0
中心
6
4
0
理由
3
1
1
主
0
1
0
はじめ
0
0
0
(始 め )
0
0
0
単 位 : (句 )
政 治 大
こ こ で は「 Z」に 一 番 よ く 使 わ れ る「 必 要 」
「中心」
「目的」
「目標」
立
「はじめ/初め」
「 対 象 」な ど を 取 り 上 げ て 考 察 し て み る 。日 本 語 の
‧ 國
學
動 詞 が 実 質 語 (内 容 語 )か ら 機 能 語 へ 変 化 す る 過 程 は 文 法 化 と い う 。
(日 野 (2001) 、 Hopper & Traugott (2003) 、 砂 川 (2006))。 そ の 変 化 に 伴
‧
って、形態的、統語的、さらに意味的変化が起こる。形態的変化に
ついて、述語性を失うこと、活用、肯定・否定の対立、テンス・ア
y
Nat
sit
スペクトなどの文法カテゴリーを失うことなどは文法化が進んでい
n
al
er
io
る 特 徴 と し て 認 め ら れ る 。「 Y ヲ Z ト ス ル 」 か ら 「 Y ヲ Z ト シ テ 」 へ
i
n
U
v
の 文 法 化 の 現 象 を 観 察 す る た め に 、 砂 川 (1987)、 松 木 (1990)、 塚 本
Ch
engchi
(1991) に 提 出 さ れ た 複 合 助 詞 の 認 定 基 準 に 合 致 し た も の を 抽 出 し て 、
以下の①~⑤を設定し、
「 Y ヲ Z ト ス ル 」に お け る 文 法 化 の 程 度 を 観
察する。
① 文末に来ることができない。
② 否 定 形 「 ヲ ~ ト シ ナ イ 」「 ヲ ~ ト シ ナ カ ッ タ 」 を 使 わ な い 。
③ 動 詞 の 活 用 形 「 ヲ ~ ト シ テ イ ル 」「 ヲ ~ ト シ テ イ タ 」 を 使 わ な
い。
④ 連体修飾節となる。
⑤ 「ヲ~トシテ」という形式が多く使われる。
以 下 は ① ~ ⑤ に 基 づ き 、 上 述 し た 「 Z」 に 六 つ の 名 詞 が 現 れ る 「 Y
67
ヲ Z トスル」構文の文法化した現象を四つのタイプに分け、その考
察 し た 結 果 を 〈 図 1〉 で 示 す 。 ① ~ ⑤ が よ り 多 く 含 ま れ る タ イ プ ほ
ど文法化がより進んでいると考えられる。
〈 図 1〉 16
タイプ
A「 必 要 」
文末に
形式
ヲ~トスル
連体修
くる
Ⅰ
ヲ~トシタ
飾節
++
++
++
++
-
+
++
++
++
++
++
B「 目 標 」
「対象」 +
ヲ~トシテ
文法化程度
低い
「目的」
C「 中 心 」
-
-
++
D「 は じ め / 初
--
--
++
立
め」
政 治 + +大
+
高い
‧ 國
學
* 形 式 Ⅰ :「 ヲ ~ ト シ テ イ ル 」「 ヲ ~ ト シ テ イ タ 」「 ヲ ~ ト シ ナ イ / シ ナ カ ッ タ 」
‧
A: 一 般 動 詞 に 似 て い る タ イ プ :「 ~ を 必 要 と す る 」
このタイプは文末にくる場合が多くて、一般動詞のような否定
y
Nat
sit
形 式 も 少 な く な い 。そ し て 、「 ヲ ~ ト シ テ 」の 形 式 は わ ず か の 例 文
n
al
er
io
し か 見 ら れ な く 、上 述 の ① ~ ⑤ の 条 件 を お お よ そ 満 た さ な い の で 、
文法化の現象は殆ど見られない。
Ch
engchi
i
n
U
v
(17) 政 治 の 仕 組 み も 法 律 も 技 術 も 、習 い た い 人 が 、必 要 と す る 人 間
が、いつでも学べるような高等な教育機関 を必要とする。
(BCCWJ/ 大 逆 説 ! PKO 軍 、 幕 末 争 乱 に 突 入 す )
(18) 警 察 に つ い て は 、数 々 の 失 態 愚 態 の ニ ュ ー ス を 思 い 出 し て い た
だければ多くの説明を必要としない。
(BCCWJ/ 「目 盛 り 」を 変 え ろ 日 本 が 見 え る )
16
「 + + 」 は 「 で き る 」 で 、「 用 例 数 が 極 め て 多 い 」、「 + 」 は 「 で き る 」、「 - 」
は 「 用 例 数 が 非 常 に 少 な い 」、「 - - 」 は 「 で き な い 」 と い う 意 味 で あ る 。 た
と え ば 、 タ イ プ A「 必 要 」 の 「 + + 」 は 「 文 末 に く る こ と が で き て 、 用 例 数
が コ ー パ ス に た く さ ん あ る 」、
「 - 」は「「 を 必 要 と し て 」の 形 式 で コ ー パ ス に
現れる用例数が非常に少ない」という意味である。
68
B: 文 法 化 の 過 程 Ⅰ :「 ~ を 目 的 / 目 標 / 対 象 と す る 」
文末にくる場合が多いが、連体修飾節として用いられる用例文
も 少 な く な い 。特 に 注 目 さ れ る の は 、「 ヲ ~ ト シ テ 」の 形 式 に 用 例
がたくさん見られ、④⑤を満たしていて、文法化への第一段階と
認められる。
(19) 国 際 調 査 は 、請 求 の 範 囲 に 記 載 さ れ た 発 明 に 基 づ い て 、こ れ に
関連のある先行技術の発見を目的とする。
(BCCWJ/ 米 国 特 許 法 逐 条 解 説 )
(20) 恵 我 小 学 校 で は 、戦 時 下 の 食 糧 増 産 を 目 的 と し て 、一 九 三 九 年
から恵我住宅休閑地を借り受け、児童の手で耕作が始められ
た。
立
政 治 大
(BCCWJ/ 大 阪 河 内 の 近 代 :: 東 大 阪 ・ 松 原 ・ 富 田 林 の 変 貌 )
‧ 國
學
(21) あ る 私 立 小 学 校 で は 、少 人 数 ク ラ ス に し て 外 国 人 教 師 が 英 語 で
授 業 を し 、あ る 公 立 小 学 校 で は 子 ど も が 興 味 を 持 ち や す い 劇 で
‧
英 語 を 学 ぶ な ど の 取 り 組 み が さ れ て い ま す 。ネ イ テ ィ ブ ス ピ ー
カーの養成を目標とする学校もあります。
y
Nat
sit
(BCCWJ/ 早 期 教 育 と 脳 )
n
al
er
io
(22) 実 際 、犯 罪 被 害 者 や ト ラ ウ マ を 持 つ 人 を 対 象 と し て い る 治 療 の
i
n
U
v
専 門 家 に 聞 く と 、自 分 一 人 で 持 て る ク ラ イ ア ン ト の 数 に は 限 り
Ch
engchi
がある、ということを多くの人が言います。
(BCCWJ/ ト ラ ウ マ の 心 理 学 )
(23) 同 じ く 1 9 8 8 年 に は 、研 究 者 の 採 用 を 希 望 す る 中 小 企 業 を 対
象として、研究者の雇用支援制度が発足した。
(BCCWJ/ 科 学 技 術 白 書 )
C: 文 法 化 の 過 程 Ⅱ :「 ~ を 中 心 と す る 」
文 末 に く る 用 法 は A、B の タ イ プ よ り ず っ と 少 な い が 、連 体 修 飾
節となる文が数多く見られる。
「 ヲ ~ ト シ テ 」形 式 の 用 例 文 が 多 く
見 ら れ 、「 ト シ テ イ ル 」「 ト シ テ イ タ 」 の よ う な 用 法 も ほ ん の わ ず
かで、動詞の本来の機能が薄くなり、 ②④⑤の特徴を持って、文
69
法 化 へ の 第 二 段 階 と 考 え ら れ る 。 (24)~ (26)で は 、 ま さ に そ の 文 法
化 の 過 程 が は っ き り 見 ら れ る 。(25) の「 ア メ リ カ を 中 心 と す る 」は
「アメリカが中心である」に言い換えても、意味が殆ど変わらな
い。
(24) 効 率 を 増 す た め 、技 師 に ソ 連 の 専 門 家 を 任 用 し て よ い 。実 際 の
任務は、自動車および重機械の製作 を中心とする。
(BCCWJ/ 中 ソ 関 係 史 の 研 究 :: 1945-1950)
(25) 9 3 年 に は 円 高 の 影 響 も あ っ て 減 少 傾 向 で あ っ た 輸 出 も 、こ の
ところアメリカを中心とする世界景気の回復の動きを受けて
一進一退の動きとなっている。
立
治 経済白書
政 (BCCWJ/
大
:: 平 成 6 年 版 )
(26) と く に 、8 2 年 は 、有 数 の 産 油 国 で あ り 、世 界 の 第 2 位 の 債 務
‧ 國
學
国 で あ る メ キ シ コ が 債 務 救 済 を 受 け た こ と を 契 機 に 、エ ク ア ド
ル 、ヴ ェ ネ ズ エ ラ 等 の 産 油 国 か ら も 債 務 救 済 要 請 が 相 次 ぎ 、ま
‧
た 、ブ ラ ジ ル 、ア ル ゼ ン テ ィ ン 等 の 中 南 米 諸 国 を 中 心 と し て 債
io
sit
(BCCWJ/ 通 商 白 書 :: 昭 和 58 年 版 ( 総 論 ) )
n
al
er
Nat
y
務累積問題が顕在化することとなった。
i
n
U
v
D: 文 法 化 の 過 程 Ⅲ :「 ~ を は じ め / 始 め と す る 」
Ch
engchi
文 末 に く る 用 例 17 が コ ー パ ス に は た だ 1 例 の み で 、ほ か に は す べ
て連体修飾節となる文である。
「 ヲ ~ ト シ テ 」形 式 の 用 例 文 が 多 く
見 ら れ 、「 ト シ テ イ ル 」「 ト シ テ イ タ 」 の 用 法 が 見 ら れ な い か ら 、
文法化の形式に似ていると思われるが、文法化への一つの過程と
し て 捉 え て も い い 。こ の タ イ プ に は ① ~ ⑤ の 特 徴 が す べ て 含 ま れ 、
「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に お い て 、文 法 化 が よ り 進 ん で い る も の と 思
わ れ る 。こ の 場 合 、(25)の よ う に「 ~ が ~ で あ る 」形 式 に 置 き 換 え
17
コ ー パ ス に は 「 ト シ テ イ ル 」「 ト シ テ イ タ 」 の 用 法 が 現 れ な い の に 対 し て 、 イ
ン タ ネ ッ ト で は こ の よ う な 例 が 見 ら れ る が 、 多 く は ブ ロ グ 、 Twi tt er 、 Q&A な
ど 会 話 で 使 わ れ る が 、正 式 的 な 文 章 で も 現 れ る 。例:本 学 区 に お け る 教 育 の 起
因 は 、 明 治 6 年 (1873) 、 亥 新 田 地 蔵 堂 ( 現 在 の 満 徳 寺 ) を 仮 校 舎 と し て 、「 博
文 舎 」と 名 付 け 、亥 新 田 緒 川 新 田 両 区 の 生 徒 2 0 名 内 外 を 収 容 し 教 育 を 施 し た
こ と を は じ め と し て い る 。 (ht t p:/ / www. m edia s. ne. jp/~ shin den/ en ka ku.htm )
70
ら れ な い 。日 野 (2001) で は 、文 法 化 を「 よ り 自 立 し た 形 式 が よ り 拘
束された形式になる過程」と形態統語論的に定義されている。砂
川 (2006)で も 、実 質 的 な 意 味 を 持 つ 自 立 語 が 実 質 語 の 性 質 を 失 っ て
いく過程で、形態的な固定化という現象が現れることが指摘され
て い る 。こ れ で 、文 法 化 の 程 度 の 高 い「 Y ヲ Z ト ス ル 」が ほ か の 形
式と置き換えられないという現象を立証できたと思われる。
(27) 魔 女 裁 判 の 記 録 の 上 に 、こ の カ ヴ ン と い う 言 葉 が あ ら わ れ て く
る の は 、お そ ら く 、イ ゾ ベ ル・ガ ウ デ ィ ー の 告 白 を は じ め と す
る 。 (BCCWJ/ オ カ ル テ ィ ズ ム へ の 招 待 :: 西 欧 ”闇 ” の 精 神 史
政 治 大
黒魔術、錬金術から秘密結社まで)
立
(28) こ の よ う に 、中 国 を は じ め と す る ア ジ ア 地 域 で の 生 産 比 率 及 び
‧ 國
學
生 産 拠 点 が 拡 大 す る 中 で 、企 業 は 国 内 工 場 に「 高 度 な 技 能・技
術 を 要 す る 製 造 拠 点 」「 コ ア 技 術 を 生 か し た 開 発 ・ 製 造 拠 点 」
‧
の 役 割 を 期 待 し て お り 、「 将 来 的 に 存 在 意 義 は 少 な い 」 と 考 え
る 企 業 は ほ と ん ど な い 。(BCCWJ/ も の づ く り 白 書 :: 2004 年 版 )
y
Nat
sit
(29) 訓 練 の 対 象 は 、学 生 を は じ め と し て サ ラ リ ー マ ン 、O L 、教 員 、
n
al
er
io
管 理 職 、自 営 業 か ら 家 庭 の 主 婦 ま で 、広 い 範 囲 の 職 業 の 人 に わ
i
n
U
v
たっているが、いずれも読書速度の向上を願う人た ちだ。
Ch
engchi
(BCCWJ/ 速 読 の 科 学 )
4.4 お わ り に
結 論 と し て 、〈 図 1〉に 示 さ れ た よ う に 、「 Z」の 違 い に よ っ て 、述
語「スル」が用いられる場合も変わり、文法化へ進んでいる現象が
見られる。一般動詞に似ている用法もあるし、文法化している過程
を持っている用法も見られる。なお「スル」は主として機能動詞と
し て 使 わ れ て い る が 、 中 に は 文 法 化 の 連 続 性 18 が あ る こ と が 分 か っ
18
砂 川 ( 2006) で 、そ の 変 化 が 段 階 的・連 続 的 な も の で あ り 、文 法 化 の 事 例 に は 中
核的なのもから周辺的なものまで、さまざまなレベルが認められ、それらが
71
た 。 つ ま り 、「 ス ル 」 機 能 動 詞 は 「 Z」 の 表 す 内 容 の 違 い に よ っ て 、
「~トスル」を表す機能も違っていて、文法化への過程の連続性が
見られるわけである。
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
n
U
v
同時に並立的に存在し、重層的な様相を呈している、ということが指摘され
ている。
72
第 5章
5.1
結論
結論
本 研 究 は 「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 構 文 形 式 を 他 動 詞 性 的 な 「 Y ヲ Z ト ス
ル」構文と自動詞性的な「~トスル」構文という二つの種類に分け
て 、 考 察 を 行 っ た 。「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 の 意 味 変 化 、「 Z」の 制 約 及
び「~トスル」構文の意味用法などの特徴を明らかにした。
各章で詳しい分析をして得られた結論をまとめると、以下の通り
である。
政 治 大
「 ト 」の 意 味・機 能 及 び「 Z」の 制 約 と い う 三 つ の も の が 論 述 さ れ た 。
立
第 2 章 で は 、主 に「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に お け る 意 味 的 な 連 続 性 、
‧ 國
學
ま ず 2.2 で「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に お い て 現 れ る「 変 化 」、
「 認 定 」、
「 仮 定 」、
「 決 定 」の 互 い に 存 在 し て い る 関 係 を 解 明 し た 。
「 変 化 」と
‧
「認定」の区別は「その変化する過程を持っているかどうか」とい
うことで判明する。
「 変 化 」に は 始 発 の 状 態 が あ る の で 、そ の 変 化 す
Nat
sit
y
る 過 程 を 持 っ て い る の に 対 し て 、「 認 定 」 に は 始 発 の 状 態 が な く て 、
er
io
そ の 変 化 す る 過 程 を 持 た な い 。し か し 、本 研 究 は 、
「 認 定 」に は 、話
al
v
i
n
過 程 は「 頭 の 中 で 変 化 過 程Cのh抽 象 化 」と い えU
e n g c h i る と敢えて主張したい。
n
者の「頭の中で思考過程がある」ということが含意され、その思考
つまり、それは話者の変化付与認識であると思われる。もともと外
的物理的変化は、抽象化して、心理的な変化へ移ってしまうという
ことである。
「変化」
( 物 理 的 変 化 )と 本 研 究 で 提 出 し た「 認 定 」
(心
理 的 変 化 )の 関 係 は 、物 理 的「 変 化 」か ら 心 理 的「 変 化 」
( 認 知 )へ
の 意 味 変 化 の 抽 象 化 で あ る こ と に な る 。 そ の た め 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」
構文において、意味的な連続性が見られるわけである。
73
〈 図 2〉 変 化 か ら 認 知 へ の 抽 象 化
認知
決定
変化
認定
仮定
物理的
心理的
そ し て 、2.3 で 、
「 ト 」の 意 味・機 能 に つ い て 、本 研 究 は 森 山 (1988)
に し た が っ て 、典 型 的 な 引 用 文「 Y ヲ Z ダ ト 思 う 」と「 Y ヲ Z ト 思 う 」
と い う 文 に は 連 続 性 が あ る と い う こ と を 起 点 と し 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」
政 治 大
構 文 に お け る 「 ト 」 の 機 能 を 解 明 し た 。「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 は 「 Y
立
ヲ Z ダ ト ス ル 」構 文 に 置 き 換 え ら れ る 場 合 、
「 ト 」は「 同 定 」で あ る
‧ 國
學
が 、「 ダ ト 」 の 機 能 を 果 た し 、「 引 用 」 か ら の 連 続 性 が 含 ま れ る の で
あ る 。 な お 、「 Y ヲ Z ト ス ル 」 構 文 に お い て 、「 ス ル 」 は 、 い ろ い ろ
‧
な意味を表すことができるので、
「 ト 」の 機 能 も そ れ に よ っ て 一 つ だ
け で は な い 。「 ス ル 」 は 実 質 的 意 味 を 表 す 場 合 、「 ト 」 は 「 ダ ト 」 の
y
Nat
sit
機 能 が 含 ま れ る の に 対 し て 、機 能 動 詞 と し て の 場 合 に 、
「 ト 」と「 ス
n
al
er
io
ル 」は 一 体 化 し て 、
「 ダ ト 」の 機 能 を 含 ま な い 。認 定 、仮 定 と 決 定 を
i
n
U
v
表 す「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 に お い て「 ト 」は「 Y= Z」で あ る「 同 定 」
Ch
engchi
の 機 能 を 果 た す 一 方 、 変 化 を 表 す「 Y ヲ Z ト ス ル 」構 文 お い て は「 Y
= Z」で は な く 、 変 化 し た 結 果 を 意 味 し 、「 Y は Z だ 」 と い う 意 味 関
係が存在している。そして機能動詞 としての用法には「Y が Z だ」
の関係が現れる。
74
〈 図 3〉「 ト 」 の 意 味 ・ 機 能 と 「 Y と Z」 の 関 係
「ト」の果たす機能
「Y ヲ Z トスル」構文が
「ダト」の機能
「Y ヲ Z ダトスル」構文に
同定
(引用からの連続性が含ま
「 Y と Z」の 関 係
れる)
置き換えられる場合
① 変化
② 機能
置き換えられない
場合
動詞
③ 認定
立
○
「 Y= Z」
×
○
「Y は Z だ」
×
×
「Y が Z だ」
政 治 大
○
○
仮定
「 Y= Z」
學
‧ 國
決定
○
‧
さ ら に 、2. 4 で「 Z」に 現 れ る 名 詞 の 制 約 に つ い て の 考 察 を 行 っ た 。
y
Nat
「 Z」の 性 質 に つ い て 、「 ス ル 」は 実 質 動 詞 で あ る 場 合 、①「 指 定 す
sit
るもの」+②「指定されるものではないが、構成要素を含む集合範
n
al
er
io
囲 で あ る も の 」で あ り 、
「 ス ル 」は 機 能 動 詞 で あ る 場 合 、③「 指 定 さ
i
n
U
v
れるものでもなく、集合範囲でもないもの」という三種類である。
Ch
engchi
( 一 )「 ス ル 」 が 実 質 動 詞 で あ る 場 合 :「 ① + ② 」
(①「指定するもの」+②「指定されるものではないが、構
成 要 素 を 含 む 集 合 範 囲 で あ る も の 」)
「 Z」 に は 、 任 務 、 道 、 友 、 青 、 な ど の 名 詞 が 現 れ る 。
( ニ )「 ス ル 」 が 機 能 動 詞 で あ る 場 合 :「 ③ 」
( ③ 「 指 定 さ れ る も の で も な く 、 集 合 範 囲 で も な い も の 」)
「 Z」は 、必 要 、中 心 、始 め な ど 標 準 や 限 定 の 意 味 を 表 す も の で あ
る。
75
第 3 章 に お い て 、「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 構 文 の 多 義 性 を 分 析 し た 。「 (Y
ヲ Z)ト ス ル 」 の 多 義 性 に つ い て 、「 ~ ト ス ル 」 構 文 は 自 動 詞 性 の も
のである場合、
「 ト ス ル 」は「 ト イ ウ 」、
「 と 思 う 」、
「 と 考 え る 」、
「と
主張する」と「と仮定する」に置き換えられる。
「トスル」は「トイウ」と同じように、引用の内容を表す場合、
互 い に 置 き 換 え る こ と が で き る が 、認 定 や 帰 結 の 結 果 な ど「 ト イ ウ 」
を 表 さ な い 場 合 、「 ト イ ウ 」 に 換 え ら れ な い 。
「~トスル」が文末に来る場合、形態的な変化、テンス・アスペ
クトによって、その表す意味や使われる場合も異なる。
「ル」形の「トスル」はある者の主観意識・認定や思考などその
政 治 大
人 の 意 見 を 述 べ る こ と を 表 す 場 合 、「 ト イ ウ 」 に 換 え ら れ る 。「 タ 」
立
形 の 「 ト シ タ 」 は 引 用 的 機 能 が な く て 、「 ト イ ウ 」 と 置 換 で き な い 。
‧ 國
學
マスコミでよく使われる「としている」は引用の場合「といってい
る 」に 置 き 換 え る こ と が 可 能 で あ る が 、認 定 の 場 合 は 置 換 で き な い 。
‧
そ し て 、「 ト ス ル 」 は 仮 定 を 表 す 場 合 、「 引 用 」 の 機 能 を 果 た さ な く
て 、「 ト イ ウ 」 に 置 き 換 え ら れ な い 。
sit
y
Nat
n
al
er
io
〈 図 4〉「 ~ ト ス ル 」 構 文 が 自 動 詞 性 の も の で あ る 場 合
Ch
「トスル」が表す意味
i
n
U
v
「 ト イ ウ 」に 置 き 換
e n g c h iえ ら れ る か ど う か
引用の内容
○
認定や帰結の結果
×
文末に
くる
場合
ル形(トスル)
○
タ形(とした)
×
トシテイル
引用
○
認定
×
仮定
×
また、「トスル」は引用の内容を表わす場合、「トイウ」、「と
76
思う」と「と考える」に置き換えられるかどうかは被修飾名詞と修
飾節の内容両方によって決まる。置き換えられた動詞のテンスやア
スペクトは動詞の特性によって異なる。
そ の 一 方 、「 ト ス ル 」 は 「 と さ れ る 」「 と さ れ て い る 」 の よ う な
ヴォイス的対立が実質的になくなっている。
な お 、 3.4 節 で 、「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 構 文 に お い て 、 変 化 か ら 派 生 し
た認知、決定などといった実質意味を表している動詞の場合と、実
質的意味が含まれず、文法化した機能動詞と引用の機能を果たす場
合 が あ る こ と を 立 証 し 、「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 の 多 義 構 造 を も 明 ら か に
政 治 大
した。
立
‧ 國
変化
io
n
al
文法化
仮定)
認知
sit
派生義
y
(基 本 義 )
er
Nat
(認定、決定、
文法化
‧
派生義
認知
學
〈 図 5〉「 (Y ヲ Z)ト ス ル 」 の 多 義 構 造
Ch
engchi
i
n
U
v
機能動詞
( 他 動 詞 性 的 「 ト ス ル 」)
( 自 動 詞 性 的 「 ト ス ル 」)
「 と 思 う 」、「 と 考 え る 」、
引用
「と仮定する」
受身「とされる」
「とされている」
77
第 4 章 で は 、「 ~ ト ス ル 」 か ら 「 ~ ト シ テ 」 へ の 文 法 化 に つ い て
論 証 し た 。 機 能 動 詞 の 「 ス ル 」 は 「 Z」 の 表 す 内 容 の 違 い に よ っ て 、
「~トスル」が表す機能も違っていて、文法化への過程の連続性が
見られる。
〈 図 6〉
タイプ
A「 必 要 」
文末に
形式
ヲ~トスル
連体修
くる
Ⅰ
ヲ~トシタ
飾節
++
++
++
++
-
+
++
++
++
++
++
++
++
++
+
B「 目 標 」
「対象」 +
「目的」
立
-
D「 は じ め / 初
--
--
め」
‧ 國
-
文法化の程
度
政 治 大
學
C「 中 心 」
ヲ~トシテ
低い
高い
y
Nat
今後の課題
sit
5.2
‧
* 形 式 Ⅰ :「 ヲ ~ ト シ テ イ ル 」「 ヲ ~ ト シ テ イ タ 」「 ヲ ~ ト シ ナ イ / シ ナ カ ッ タ 」
n
al
er
io
本研究は「~トスル」構文の諸種の 統語構造と意味用法の特徴を
i
n
U
v
考察してきたが、他動詞性的な「Y ヲ Z トスル」と「Y ヲ Z ニスル 」
Ch
engchi
構文の意味用法の違い、例えば、
(1) ( メ ニ ュ ー を 見 て 、 店 員 に ) こ れ に し ま す 。
(2) * こ れ と し ま す 。
のように、
「 ニ 」が 使 え る が 、
「 ト 」が 使 え な い と い っ た「 ニ 」と「 ト 」
の使い分けや、複合助詞としての「として」と「にして」の用法に
ついても、
「 ~ ト ス ル 」構 文 を 体 系 的 に 論 考 す る に は 必 要 で あ る と 思
われるが、このような問題は、今後の課題としたい。
78
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81
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