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第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき
第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき 第 1 節 蚕の一生 さなぎ 越年 蚕は完全変態(卵→幼虫→蛹→成 虫)をする昆虫で卵で冬を越す。春 人工孵化 になって桑の葉が伸び始める頃に ふ か 孵化 11~14 日 ぎ さ ん 孵化した幼虫は小さく黒いので蟻蚕 と呼ばれる。25 日位桑を食べ,この 掃立て 9~12 日 休眠卵 み ん 間に 4 回の眠(脱皮)を行って繭を 3~4 日 作り始める。およそ 2 日で繭は作ら 非休眠卵 れ,さらに 2~3 日して繭の中で脱 2眠 3齢 虫(蛾)となり,朝早く明るくなる は夕方から夜の間に500 粒位の卵を 1眠 2齢 2~3 日 皮して蛹となる。蛹は約 10 日で成 頃に繭から出てきて交尾する。雌蛾 1齢 3~4 日 卵 羽化 3眠 4齢 10~15 日 5~6 日 産み,その後,何も食べずに数日し 4眠 5齢 て死ぬ。 6~8 日 蚕の中には,春に孵化した幼虫が 成虫となり産卵し,卵のまま越年し て翌春に孵化するもの(1 化性) ,春 に孵化したものが成虫となって産卵 熟蚕 蛹化 4~5 日 吐糸 3‐1 図 蚕 の 生 活 環 し,この卵が 2 週間位して再び孵化し発育して成虫となり,これが産卵して冬を越すもの (2 化性) ,また,年に 3 回またはそれ以上生活環を繰り返すもの(多化性)がある。 第 2 節 蚕の形態と成長 第 1. 外 形 幼虫の体は細長い円筒形をしており,頭部と胸部・腹部に区別される。前端の頭部は灰 褐色の堅いキチン板に包まれ,これに続く胸部と腹部はキチン外皮で覆われている。体は 13 の体節からなり,前端の頭部に続く次の 3 体節の部分を胸部,それ以降の 10 体節を腹 第 2 節 蚕の形態と成長 57 部という。胸部には 3 対 眼状紋 半月紋 星状紋 尾角 の胸脚があり,腹部には 4 対の腹脚と 1 対の尾脚 1 個の尾角がある。また, Ⅰ 頭部 があり,第 8 腹節背面に Ⅱ 第 1 胸節と第 1 腹節から Ⅲ 1 3 2 4 6 5 7 9 8 10 胸脚 気門 腹脚 尾脚 3‐2 図 幼虫の外形(横山) 第 8 腹節の体側には計 9 Ⅰ~Ⅲ.胸部体節 1~10.腹部体節 対の気門がある。体の内 部の大半を占めるのは消化管で口から肛門までの 1 本の太い管となっている。 第 2. 皮 膚 皮膚は外皮(表皮)と真皮細胞からなる。外皮はさらに外層(エピクチクラ) ,中層(エ クソクチクラ) ,内層(エンドクチクラ)の 3 層に分けられる。外皮は主としてキチンと タンパク質からなり,外皮の最外部には薄いろう質がある。体節と体節との間は薄くひだ 状になっていて,この部分を体節間膜といい,体が伸縮するのに都合よくできている。斑 紋を表している部分には色素があり, 色素は外皮の外層部と真皮細胞の中に存在している。 第 3. 気 門 気門は呼吸器の開口部にあって,前記の 9 対のほかに,第 1 胸節と第 2 胸節との境に 1 対の退化気門がある。気門は楕円形の黒いキチン環で縁どられ,この左右の内側から出て ふるい いる黄褐色のキチン棒によって篩状になっており,その中央に小裂孔を開いている。 第 4. 頭 部 頭部は黒褐色で堅いキチンの頭蓋でかこま れ,キチン質の表面には多数の毛が生えてい る。頭蓋の側面には黒褐色をした 6 対の単眼 頭楯 上唇 大顋 単眼 があり,この腹側には 2 本の感覚毛を持つ触 角があって,触覚及び嗅覚をつかさどる。頭 だ い さ い 触角 粒状体 小顋髭 しょうさい 蓋の腹面には上唇・大顋・小顋及び下唇から なる口器があり,大顋は黒色の堅いキチン質 き ょ し からできた鋸歯で桑葉を噛み切る。小顋には 小顋髭と粒状体があり,この部分には感覚毛 下唇 小顋 下唇肢 吐糸管 3‐3 図 幼虫の頭部 58 第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき と感覚突起があって味覚をつかさどる。下唇の中央部に吐糸管が突き出しており,その両 か し ん し 側には 2 節からなる下唇肢がある。吐糸管からは繭を作るとき繭糸を吐出する。 第 5. 胸 脚 胸脚は胸部の 3 体節に 1 対ずつあって, 1 5 え ん す い 円錐形で 3 小節からできており先端に 1 2 本の鉤爪がある。胸脚は桑を食べるとき 3 先端部 先端部 4 に桑葉を保持するのに用いられる。 5 6 胸脚 第 6. 腹 脚 腹脚 6 3‐4 図 胸脚と腹脚(田中) 腹脚は腹部の第 3~6 腹節に 1 対ずつ あり,円柱状で先端はやや膨大して円盤 1.第 1 小節 2.第 2 小節 3.第 3 小節 状を呈している。その外縁には半環状の 4.感覚突起 5.剛毛 6.鉤爪 黒色キチン帯があり,内縁には大小交互に小鉤爪が腹脚の先端外側に向かって密生してい る。腹脚は歩くためと足場の確保に用いられる。 第 7. 尾 脚 尾脚は腹部の末端節(第 10 7 腹節)にあり,腹脚に似た肉状 突出物であって小鉤爪を持って 1 8 いる。尾脚も桑などの物体につ 3 かまるために用いられる。 第 8. 雌雄の特徴 第 4~5 齢の幼虫になると第 8 及び第 9 腹節の腹面で雌雄を 鑑別できる。すなわち雌には左 右 1 対ずつの乳白色の小点が第 9 2 4 (雌) (雄) 3‐5 図 幼 虫 の 性 徴 1.石渡前腺 2.石渡後腺 3.ヘロルド腺 4.尾脚 7.8.9.腹部体節 8 腹節と第 9 腹節にみられ,前 者を石渡前腺,後者を石渡後腺と呼ぶ。雄には第 8~9 腹節の節間中央部に乳白色の小体 (ヘロルド腺)が認められる。成虫の生殖器の一部はこれらから分化発達して作られる。 第 3 節 蚕の消化器官と栄養摂取 59 第 9. 体色と斑紋 蚕の幼虫は,孵化直後は黒いが,桑を 1 日食べて大きくなると毛振るいといって白っぽ くなってくる。第 4 齢以降には品種固有の体色や斑紋が明らかに現れる。一般に見られる 斑紋は,第 2 胸節の眼状紋,第 2 腹節の半月紋,第 5 腹節の星状紋であって,これらの斑 か た こ ひ め こ 紋を持つ蚕を形蚕といい,斑紋をまったく持たない蚕を姫蚕という。この他突然変異によ っていろいろ変わった斑紋を持つ蚕がいる。 第 3 節 蚕の消化器官と栄養摂取 第 1. 消化器官 幼虫の消化器は体内を縦貫する太い管で,口器内側 こ う こ う の口腔で始まり腹部末端の肛門で終わる。消化器は前 咽腔 腸・中腸及び後腸に大別され,いずれも皮膜細胞層と 食道 が い これを包む筋肉層からなっている。前腸及び後腸は外 は い よ う 胚葉の陥入によってできたもので,皮膜細胞層の内側 にある内膜は,皮膚の表皮と同じように眠ごとに更新 される。中腸は内胚葉より生じたものである。前腸と 中腸,中腸と後腸の接合部の内面には弁膜があり,前 ふ ん も ん べ ん ゆ う も ん べ ん 者を噴門弁,後者を幽門弁といい,食下桑葉が逆流す るのを防ぎ,また流れを調節する(3‐6 図) 。 1. 前 腸 中腸 い ん と う 前腸は口腔・咽頭及び食道に分けら れ,口腔の前面は大顋で後部は狭くなって咽頭に連な る。 だ せ ん 口腔の左右両側に各 1 本の淡黄色の唾腺が開口し, 唾腺からは無色透明の唾液が分泌される。この唾液は 弱アルカリ性ででんぷん分解酵素であるアミラーゼを 小腸 含んでおり,桑葉の消化を助ける。 咽頭は細い管状の器官で 3 対の筋肉が付着しており, この筋肉の伸縮によって食下した桑葉片を食道に送り 込む。 結腸 直腸 3‐6 図 蚕の消化器 食道は後方が広くなってフラスコ状を呈し,食下し た桑葉片が一時蓄えられる。食道の底部と中腸との間に噴門弁がある。 60 2. 中 腸 第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき 中腸は消化管の大半を占 める部分で,第 2 胸節から第 6 腹節の間に 1 位置し,食下した桑の消化・吸収をする重 2 要な部分である。中腸は筋肉層・基底膜・ 皮膜細胞層及び囲食膜からできており,皮 はいじょう 膜細胞層には円筒細胞・盃状細胞・新生細 3 4 胞が存在する(3‐7 図) 。 円筒細胞と盃状細胞の起原は別で,眠か 5 ら次の齢の初期に新生細胞からそれぞれ作 6 られる。円筒細胞は消化酵素を分泌し桑葉 3‐7 図 中腸皮膜細胞 成分の吸収に関係し,盃状細胞は消化液成 1.囲食膜 2.細線縁 3.円筒細胞 分の分泌を行う。 囲食膜は皮膜細胞層の内側に,少し離れ 4.盃状細胞 5.環状筋 6.縦走筋 ている薄い層状をした膜で,食物を包んで 皮膜細胞層に直接食物が触れるのを防ぐほかに生体防御も担っている。囲食膜は中腸前部 から分泌されて形成される。幼虫が脱皮する際,刹離し糞とともに体外に排出される。 なお,中腸はその前部と後部とでは組織構造が多少異なっており,生理機能にも差が見 られる。 3. 後 腸 後腸は小腸・結腸・直腸からなる。小腸は中腸と連なっており,後方は しだいに細くなって漏斗状をしている。後端は結腸と連なり,この境界部の左右両端には 排泄器であるマルピギー管が開口する。 結腸は前方の小腸,後方の直腸と連なる部分がくびれており,結腸の中央部もくびれて いるのでひょうたん形をしていて,容易に区別することができる。 直腸は結腸に続き,肛門で終わる普通球形をした部分で,その表面には縦に走る 6 条の 発達した筋肉を持っている。直腸は二重膜構造をしており,皮膜細胞層の外側には二重膜 と呼ぶ薄膜があって,皮膜細胞層を包んでいる。直腸前端部の左右には各 3 本のマルピギ ー管が二重膜を貫通して皮膜細胞層との間に入り,複雑に屈曲してそれぞれが盲管で終わ っている。マルピギー管は排泄作用を担っている。 中腸管内の食桑片は,小腸を通って結腸で圧縮され,さらに直腸で筋肉の働きによって 六角の柱状に固められ,糞として肛門から体外に排出される。 第 3 節 蚕の消化器官と栄養摂取 61 第 2. 栄養の摂取 食物中の水分・ビタミ 3‐1 表 酵 ン・無機塩類などは,その まま中腸の皮膜細胞で吸収 消化液中に存在する主な酵素 素 の タンパク質分解酵素 されるが,タンパク質・脂 質・炭水化物(多糖類)は, 消化管内で化学的に分解さ 脂肪分解酵素 炭水化物分解酵素 れた後に吸収される。この 働きは中腸管内の消化液に 酸化酵素 よってなされる。 種 類 存在の有無 ト リ プ シ ン + ペ ン - ペ プ チ タ ー ゼ + リ ゼ + ア ミ ラ ー ゼ + サ ッ カ ラ ー ゼ - マ ル タ ー ゼ - オ キ シ ダ ー ゼ + パーオキシダ ーゼ + プ パ シ ー 消化液は,中腸の皮膜細胞から分泌される粘ちょうな黄色あるいは黄緑色の強アルカリ 性(pH9.0~11.0)の液体で,強い殺菌性を持っている。また,3‐1 表に示すようなタン パク質・脂質・炭水化物を分解する消化酵素と,数種の酸化酵素を含んでいる。 消化液中のアミラーゼ作用力は蚕品種によって差があり,一般に熱帯種では強いが,欧 州種ではほとんど作用が認められない。 食物中のタンパク質はトリプシンによって簡単なペプチドと一部アミノ酸に分解され, 脂肪はリパーゼによって脂肪酸とグリセリンに分解される。また,でんぷん・糊精はアミ ラーゼによって麦芽糖に,麦芽糖はマルターゼによって一部ブドウ糖に分解される。蚕に おいては,この程度の分解で中腸皮膜細胞に吸収され,高等動物とは異なっている。 一方,中腸皮膜細胞の中には強い活性を持つペプチターゼ・サッカラーゼ・マルターゼ などが存在しており,中腸細胞に吸収されたペプチド・麦芽糖・ショ糖などは,中腸細胞 中の酵素の作用によってそれぞれ最小単位であるアミノ酸,単糖類(ブドウ糖・果糖など) に分解され,その後蚕体に利用される。 1 頭の蚕は上蔟するまでに約 20g の桑を食べるが,その約 85%は第 5 齢期に食べる。食 べた桑の葉は乾物にして稚蚕では約 50%,壮蚕では約 35%が消化吸収される。この消化 乾物量の約 25%が絹物質になるから,食べた桑の葉の乾物量に対しては,その約 10%が 絹物質に変わることとなる。絹物質はその大部分がタンパク質であるが,桑葉乾物中には その約 30%に達する粗タンパク質が含まれている。 1. 摂 食 第 1~2 齢の蚕は桑の葉を裏面から葉肉を掘りすくうようにして食べる が,3 齢以降の大きい蚕は,胸脚で桑の葉を保持しながら葉縁から食べる。1 回の食桑時 間は約 15 分間位で 1 日に 20~30 回も休んでは食べ,食べては休み,いわゆる蚕食する。 食べた桑が排出されるまでの時間は稚蚕(1~3 齢)は短く,壮蚕(4~5 齢)は長く,約 1 62 第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき ~4 時間を要する。 第 4 節 蚕の絹糸腺と吐糸営繭 第 1. 絹糸腺の形態 絹糸腺は繭糸の材料である絹タンパク質を生成す 吐糸部 る重要な幼虫器官であって,消化管の腹面に位置す フィリッピ腺 る 1 対の屈曲した透明の管で後端は第 7 腹節の小腸 前部糸腺 の下側で左右向かい合って盲管となっている。前端 た部分を除き,前部・中部・後部に分けられる(3 中部糸腺 唇の吐糸管に開口する。絹糸腺は左右 1 本に合一し 後部糸腺 は頭部に入った所で左右が合一して 1 本となり,下 ‐8 図) 。 1. 前部糸腺 ほとんど屈曲しない一様な太さ をした細い管で,この部分には気管が分布していな い。前部糸腺の前端部の左右両糸腺の合一する部分 3‐8 図 絹 糸 腺 の両側に, ぶどう状のフィリッピ腺が 1 個ずつあり, 絹糸腺に開口している。フィリッピ腺から吐糸に関 係する 1 種の粘液が分泌される。 2. 中部糸腺 最も太い S 字状に屈曲した部分 で,前・中・後の 3 区に分けられる。 3. 後部糸腺 ほとんど全体が一様な太さの管 で,若い齢では曲がりが少ないが,齢の進むにつれ て不規則に屈曲するようになり,特に 5 齢の中期よ り著しい。 絹糸腺は前部・中部・後部を通じ,管壁は外側よ り固有膜(外膜) ,腺細胞及び内膜の 3 層からなり, せ ん こ う 管内の隙間を腺腔という。腺細胞の核は 1 齢では棒 状であるが,2 齢期以降からしだいに不定形となり, 樹枝状核 3‐9 図 絹糸腺細胞(5 齢) 5 齢になると複雑な樹枝状となる。なお,腺細胞の 数は幼虫全期間を通じて一定で,1 本の絹糸腺あたり約 600 個の細胞からできている(3 ‐9 図) 。 第 4 節 蚕の絹糸腺と吐糸営繭 63 第 2.繭糸生成 1. 絹糸腺の成長 蟻蚕の絹 3‐2 表 フィブロインとセリシンのアミノ酸組成 (g/100g) (小松) 糸腺は極めて小さいが,4 齢から アミノ酸の種類 フィブロイン セリシン ン 42.8 8.8 ニ ン 32.4 4.0 シ ン 0.7 0.9 イ ソ ロ イ シ ン 0.9 0.6 バ ン 3.0 3.1 急に発育し,特に 5 齢中期から繭 グ リ シ を作り始める熟蚕にかけて著しく ア ラ 肥大伸長して長大となり,体腔の ロ イ 大部分を占めるようになる。これ リ は個々の絹糸腺細胞の肥大成長に ア ル ギ ニ ン 0.9 4.2 よるもので,蟻蚕の絹糸腺重が ヒ ス チ ジ ン 0.3 1.4 ン 0.5 5.5 ア ス パ ラ ギ ン 酸 1.9 16.8 グ ル タ ミ ン 酸 1.7 10.1 セ ン 14.7 30.1 ン 1.2 8.5 フェニールアラ ニン 1.2 0.6 チ ロ シ ン 11.8 4.9 を用いて繭糸を生産する。繭糸の プ ロ リ ン 0.6 0.5 材料となる絹タンパク質は 75~ シ ス チ ン 0.1 0.3 ト リ プ ト フ ァ ン 0.5 0.5 ハイドロオキシプロリン 0.6 0.2 0.2 0.1 0.01 ㎎であるのに対し,熟蚕の最 大時の重さは約 1,600 ㎎となり, 実に 16 万倍の大きさとなる。 2. 繭糸の生成 蚕の幼虫時 代に摂取したタンパク質の約半量 80%のフィブロインと 20~25% のセリシンからなり,他にわずか リ ス メ ジ リ レ チ オ オ ニ ニ ン のろう物質と無機成分を含んでい る。フィブロインは後部糸腺から分泌されて中部糸腺に一時たくわえられ,この外側が中 部糸腺から分泌されるセリシンによって包まれる。前部糸腺は分泌を行わない。 一般に白繭を作る蚕の絹糸腺は,無色透明或いは淡い乳白色であるが,黄繭・緑繭・紅 繭などの着色繭を作る蚕の絹糸腺は,それぞれ特色ある色を呈している。黄繭と紅繭の色 素は桑葉中のカロチノイド系の色素に由来し,緑繭・笹繭の色素は桑葉中のフラボン系と 消化管細胞及び血液内で合成されるフラボン系の色素に由来する。これらの色素による絹 糸腺の着色は絹糸腺の中部或いは後部によって 4 齢期以降に起り,特に 5 齢期で著しい。 これは絹糸腺細胞の透過性が変わるために起こるものである。白繭種ではほとんど着色が 起こらないのは,白繭種の蚕の消化管がカロチノイド系色素を血液中に透過させない場合 と, 血液中にこの色素が透過されても絹糸腺内に入ることができない場合とがある。 また, フラボン系色素については,この色素が絹糸腺内に透過できないか,或いは合成能力を欠 くために血液中に形成されないためである。これらの透過性は遺伝子に支配されている。 3. 吐糸営繭 体腔の大部分を占めていた消化管は熟蚕においては背側に押しやられ, 64 第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき これに代わって絹糸腺が体内に広がる。絹糸腺内に充満した絹タンパク質は漸次吐糸口に け ん い ん 移り,熟蚕はこれをある 1 点に付着させ,頭胸部を動かし牽引凝固によって絹タンパク質 を繊維化する。1 点の付着-牽引-他点への付着-牽引-すなわち左右への頭振り運動に よって倒 S 字形(∽)または倒8字形(∞)の吐糸を続ける。液状であった絹タンパク質 ま さ つ は,この運動によって生ずる牽引力により内部摩擦を増し,フィブロイン粒子が結び付い て伸長して繭糸を形成する。この際の温度・湿度・気流などは吐糸の速さを規定するばか りでなく,繭糸の繊維化及びセリシンのこう着などに直接または間接に影響し,繭から糸 のほぐれ具合(解じょ)を左右する。 第 5 節 蚕の生殖器と精子・卵子形成 第 1. 幼虫の生殖器 幼虫は栄養成長の時期であるので,生殖器は完全に発達した状態にはならないが,5 齢 期になるとかなり発達する。 1. 雄の生殖器 精巣と導管と からなる。精巣はそらまめ形をして 6 おり,その凹んだ側で背脈管を挟ん で向かい合い,第 5 腹節背面の皮膚 下に位置する。精巣の中は 4 室に分 かれており,5 齢期になると各室に 1 2 4 7 5 8 10 6 7 8 は先端細胞・精原細胞・精母細胞及 び精子束が混じって存在する。導管 は精巣の凹んだ部分から発し,左右 2 本がそれぞれ両体側を通って後走 9 9 3 (雄) (雌) 3‐10 図 蚕の生殖器(雄・雌) し,第 8 腹節後端のヘロルド腺に連 1.精巣 2.導管 3.ヘロルド腺 4.卵巣 なる一様な太さの細管である(3‐ 5.導管 6~9.気門 10.神経 10 図) 。 2. 雌の生殖器 卵巣と導管とからなる。卵巣は三角形をしており,その一辺を向か い合わせて精巣と同じ場所に位置している。卵巣内は 4 室に分かれているが,齢が進むに 従って発達して長く伸び,4 本の卵管となる。導管は卵巣の外側の頂点から発し,左右別々 に体側を通って後走し,第 8 腹節腹面の石渡前腺に連なる(3‐10 図) 。 第 5 節 蚕の生殖器と精子・卵子形成 65 第 2. 精子及び卵子形成 1. 精子形成 各精室の先端にある 1 個の先端細胞を取り囲む精原細胞は,盛んに増 殖した後そのいくつかが集合し,精原細胞のうと呼ばれる皮膜におおわれるようになる。 精原細胞はその中で分裂を続 けるが,5 齢に入ると精母細 ♀ ♂ 原始生殖細胞 胞となり,成長して大きくな る。この 1 個の精母細胞は 2 回の減数分裂を行って,染色 体の半減(n=28)した 4 個の 精子細胞となり,変形してそ 卵原細胞 れぞれが精子となる。精子は 3 回分裂 多数が集まって共同被膜に包 栄養細胞 まれた精子束を形成するが, 精原細胞 6 回分裂 第 1 精母細胞 第 1 卵母細胞 蛹の後期になると共同被膜を 脱して,一部は輸精管にまで 下がる(3‐11 図) 。 2. 卵子形成 第 2 精母細胞 卵管の先 端に 1 個の大形をした先端細 胞があり,この下方に卵原細 第 2 卵母細胞 胞があって盛んに細胞分裂を 有核精子束 行って数を増加する。8 個の 卵原細胞は,いくつかの包卵 細胞とともに一つの集団を作 り,8 個の内 1 個は卵細胞と 卵 精子 3‐11 図 精子及び卵子形成の模式図(大槻) なり,他の 7 個は栄養細胞に なる。4 齢の中頃には卵細胞と栄養細胞は規則的な配列をとるようになり,これと同時に 包卵細胞も規則的に配列して,卵室と栄養室を形成する。5 齢初期になると卵 1 個ずつの くびれが明瞭となり,蛹の初期には卵管は卵巣の外膜を破って腹腔に露出する。卵細胞は 初め半円形であるが,栄養細胞の退化に伴って短円形となり,さらに発育・成長して完成 した卵では円形となる。栄養細胞が退化し,包卵細胞が卵を包むようになると,包卵細胞 か く から卵殻が分泌される(3‐11 図) 。 66 第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき 第 6 節 蚕の内分泌器官と変態 昆虫が孵化してから食物を食べて発育を続け,成虫となるまでの過程を後胚子発生とい う。蚕は完全変態の昆虫で,卵・幼虫・蛹及び成虫の各期が明らかに区別できる。蚕の変 態は蛹化脱皮及び成虫化脱皮によってなされるが,幼虫時代においても成長のために普通 4 回の脱皮(幼虫脱皮)を行う。脱皮の行われる前には新外皮が旧外皮の内側に形成され, その後旧外皮が脱ぎ捨てられる。この現象は内分泌器官から分泌されるホルモンの働きに よって起こるものである。蚕の脱皮に関与する内分泌器官は脳,アラタ体及び前胸腺であ る。 第 1. 脳 頭部の咽頭の背面に薄紫のひょうたん形をした脳がある。脳の中には大形と小形の 2 種 類の分泌細胞があり,この大形細胞から成虫化(化蛾)などに関与する物質が分泌される。 これを脳ホルモンという(3‐14 図参照) 。脳ホルモンは前胸腺刺激ホルモン(PTTH)と 称され,その構造が解明されている。 第 2. 前胸腺 第 1 胸節の第 1 気門の内側にある 1 対の紐状 唾腺 の器官で,3 本の枝を前・後・腹側に出してい 前胸腺 る。これは多数の細胞によって構成され,幼虫・ 蛹の発育に伴って周期的な分泌活動が見られる。 この分泌物は脱皮ホルモンと呼ばれ蛹化及び成 虫化脱皮に働き,幼虫脱皮にはアラタ体の幼若 ホルモンとともに働く(3‐12 図) 。 筋肉 蚕の内分泌器官としては上記の他に,エノサ イト,周気管腺,食道下腺,食道下神経球など 3‐12 図 蚕の前胸腺 が知られている。食道下神経球からは卵の休眠 を支配する休眠ホルモンが分泌される。 第 3. アラタ体 アラタ体は,頭部と胸部の境界部で消化管の左右腹面近くに存在している 1 対の白色・ 楕円形の小さい器官で,脳から派出する神経と連なっている。アラタ体は幼虫期から蛹期 第 7 節 蚕のその他の器官とその生理 67 を通じて 20 数個の細胞で構成され,この細胞から分泌される物質は幼若ホルモンといわ れ脱皮ホルモンとともに幼虫脱皮に関与する(3‐14 図) 。 第 7 節 蚕のその他の器官とその生理 頭部 第 1.神経系 2 蚕の神経系は中枢(中央) 胸部 神経系・末梢神経系及び交感 3 15 7 8 4 神経系からなっている。 14 5 中枢神経系は 13 対(外観 腹部 は 13 個に見える)の神経球 と,これを連ねる神経索から 3 9 6 7 8 なり,体の腹面正中線を縦走 6 1 4 13 9 している。このうち,第 1 と 14 10 第 2 神経球は頭部内にあり, 11 第 1 神経球を脳,第 2 神経球 5 2 12 を食道下神経球と呼び,他の 神経球より大きい。第 3~11 1 10 11 12 13 3‐13 図 蚕の神経系 3‐14 図 蚕の頭部神経系 神経球は胸部及び第 6 腹節ま 1.脳 1.脳 2.食道下神経球 3.前額神経球 4. での各体節に 1 対ずつあり, 2.食道下神経球 咽腔側神経球 5.アラタ体 6.胃背交感神 第 7 腹節には第 12・13 神経 3~13.各神経球 経 7.上唇神経 8.触角神経 9.視神経 球が接合している。神経索は 14.交感神経 10.下唇神経 11.小あご神経 12.大あご 第 1~5 神経球の間は 2 本が 15.末梢神経 神経 13.側心体神経 14.アラタ体神経 認められるが,それ以降は合 一して 1 本に見える(3‐13 図) 。 末梢神経は中枢神経から派出して,体内の各組織・器官に分布する神経で脳から 3 対, 食道下神経球から 3 対,その他の各神経球から 2 対ずつ出されている。 交感神経系は中枢神経の支配を受けずに独自に働く神経で,頭部交感神経と腹面交感神 経の 2 種がある。頭部交感神経は脳と前額神経球と連絡し,さらにそこから前後に派出さ れて消化管,背脈管に分布するものと,脳と側心体(咽腔側神経球)と連なり,さらにア ラタ体と連なって分枝し,消化管に分布する二つがある。腹面交感神経は,胸腹部の各神 経球の後端中央から出て,次の神経球の中間で左右に 2 分し,気門の内面を通り,さらに 68 第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき 背脈管に分布する(3‐14 図) 。 第 2. 循環系 蚕の循環系は背脈管(心臓)と血 大動脈 1 液に分けられる。背脈管は体の背面 10 背脈管 正中線の皮膚直下を縦走する管状器 2 (心臓) 官で, 頭部の脳の下側前方で開口し, 11 3 後端は第 9 腹節の前端で盲管となっ 11 ている。第 2 腹節から第 9 腹節の管 4 扇状筋 壁には,各節に 1 対ずつの扇状筋が 5 弁孔 付着しており,第 2 胸節から末端ま 11 での管壁背面には,血液の流入口で ある 1 対ずつの弁孔がある。また, 6 3‐15 図 蚕の背脈管 7 ここには管腔後方から前方に向かう は く ど う 弁膜があり, 血液の循環を助ける。 背脈管の後部には搏動の 8 自動能があり,この働きによって背脈管は搏動し,血液を 9 後部より前方に送って循環させる(3‐15 図) 。 ね ん 血液は粘ちょうな液体で,血しょうと血球からなり 90 ~95%の水分を含む。血球は 6 種類の血球細胞,すなわち 原白血球,顆粒細胞,小球細胞(及び成虫型小球細胞) ,プ ラズマ細胞,エノシトイドに区別され,その数は蚕品種, 発育の時期によって異なるが,1mm3 中におよそ 3,000~ 3‐16 図 蚕の気管分布 (腹面) 1~9.気門 10.退化気門 11.灰色部 8,000 個ある。血液の色は一般に黄繭種では黄色,白繭種のでは無色または薄い黄色であ るが,これは血しょうの色による。 第 3. 呼吸系 蚕の呼吸系は 9 対の気門と気管からなる。気門の内面には開閉する 2 枚の膜と,これを 動かす 2 種類の筋肉がある。また,気門の内側は膨らんで室を作っている。 中腸の両側には前後に走る左右 1 本ずつの縦走気管がある。各体節には気管の集まりで そ う ある気管叢があり,その部分は気門と連絡している。左右の縦走気管は対をなす気管叢ご とにはしご状に連絡されている。気管は気管叢から分岐するに従い細い管となり,体内の あらゆる器官に分布する。気管は外側より固有膜,皮膜細胞層及び内膜の 3 部からなる。 第 7 節 蚕のその他の器官とその生理 69 ら せ ん 内膜の内面には螺旋状のキチン質からなる黄褐色の螺旋糸(デニディウム)があり,気管 の内腔を一定に保っている。この内膜は脱皮の際に更新される(3‐16 図) 。 蚕においては気門・気管を通して呼吸が行われ,皮膚呼吸はほとんど行われない。 第 4. 排泄器 9 蚕に消化吸収された物質は,貯蔵され,また 1 生活のために利用される。利用された物質は分 解されて,マルピギー管で排泄される。マルピ 7 7 2 9 8 ギー管から排泄される主な物質は尿酸及びしゅ う酸石灰である。 幼虫のマルピギー管は小腸と結腸の境界部に 8 3 6 4 1 対開口し,後端は直腸壁内で盲管で終わる黄 5 色の細い管である。これは開口部の近くで枝分 小腸後端部の 直腸より出る 3 本の かれして左右それぞれ 3 本の計 6 本となり,そ 開口部 マルピギー管 3‐17 図 蚕のマルピギー管 れぞれが中腸壁に沿って上・下行し,結腸付近 で複雑に屈曲した後,直腸壁に入る。なお,開 1.中腸 2.マルピギー管 3.小腸 4.結腸 口部近くのマルピギー管は膨れており,この部 5.直腸 6.ぼうこう 7.背面管 8.側面管 ぼ う こ う 分を膀胱と呼んでいる(3‐17 図) 。 9.腹面管 第 5. 脂肪組織 体内に広く分布する白いへん平柔軟な葉 1 2 状・紐状または帯状の組織で,脂肪体ともい う。これは多数の脂肪細胞の集合体で,細胞 中にタンパク質・脂肪・グリコーゲンなどを 3 4 たくわえ,また代謝に関係する重要な器官で ある。 5 第 6. 筋肉 歩行運動・大顋の食桑運動・消化管のぜん 3‐18 図 筋 肉 の 構 造 動運動・排糞動作・吐糸の際の頭胸部運動な 1.筋しょう 2.筋しょう核 3.筋肉線維 どは筋肉の働きによってなされる。蚕は堅い 4.筋 核 5.筋原形質 キチンを含む皮膚を骨格として体形を保持しており, 筋肉は骨格または体内器官に付着し, 70 第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき その伸縮によって運動する。 蚕の筋肉は,主に筋肉線維が集まった横紋筋である(3‐18 図) 。 第8節 蛹 及 び 蛾 第 1. 蛹 外形は褐色の紡錘形をしており,蛹期間中ほとんど外形には変化が見られない。体は頭 部,3 体節の胸部及び 10 体節の腹部からなる。頭部には発達した触角と目(複眼)が見ら れるようになるが,口器は退化して小さい(3‐19 図) 。 6789 腹部 ⅠⅡⅢ 12345 胸部 触角 前翅 気門 7 8 9 10 (雌) (雄) 3‐19 図 蛹の外形(鶴井) Ⅰ~Ⅲ.胸部体節 1~10.腹部体節 は ね 胸部は前・中・後胸からなり,各体節には 1 対の胸脚と中胸及び後胸には 1 対の翅が生 じ,体に固着している。中胸の翅を前翅,後胸の翅を後翅といい,後翅は前翅と重なって 被われているために見ることはできない。 腹部の第 1 体節は小さいが,後方になるに従い大きくなり,第 5・6・7 体節が最も大き く,さらに後方は小さくなる。雌蛹の腹部は太く末端が円形をしており,第 8 腹節の腹面 中央には縦に走る溝がある。一方,雄蛹の腹部は雌よりも細く末端が尖っていて,第 9 腹 節の腹面中央に小点がある。これらの特徴は蛹の雌雄鑑別に用いられる。 蛹の体内では幼虫組織が解離し,新たに成虫組織が形成される,きわめて変化の激しい 時期である。 糸繭生産では蛹は殺され乾燥されるが,種繭生産では蚕種製造上重要な時期であって温 第 8 節 蛹及び蛾 71 度 24℃内外,湿度 80%前後に保護される。 第 2.蛾(成虫) よ う ひ 早朝に蛹皮を破り,次いでアルカリ性の液を口から出して繭層を湿し,繭糸をかき分け り んも う て繭から出てくる。体の頭部・胸部・腹部が明瞭になり,体表は全面白色の鱗毛によりお おわれ,鱗毛が乾き翅も十分に伸びるとまもなく雌雄は交尾する。 頭部の背面両側には,六角形をした多数の個(小)眼によって構成された複眼があり, 赤褐色の半球状をしている。複眼の上方には羽毛状の 1 対の触角があり,触覚及び嗅覚を つかさどる感覚毛が密生している。口器は頭部の腹面にあるが,退化してこん跡の様相を 示している。 胸部は前・中・後胸の 3 節からなるが,前胸は他に比べて非常に小さい。胸部の各部に はほとんど同型の 1 対ずつの胸脚があり, 中胸及び後胸には 1 対ずつの翅がある。 しかし, この翅で飛ぶことはできない。 腹部は雌が 7 節,雄は 8 節からなっている。雌雄 とも腹部の末端には複雑な構造の生殖外器 (交尾器) 精巣 があるが,これは消失した腹部の末端節の変化によ って生じたものである。生殖外器の主なものは,雄 付属腺 では陰茎及びかく握器,雌では産卵管・側唇及び誘 引腺である。 1. 雄の生殖器 精巣・輸精管・貯精のう・射 輸精管 精のう・付属腺・射精管及び陰茎からなる。輸精管 貯精のう は幼虫の導管が変化したもので,貯精のう・付属腺 及び射精管はヘロルド腺から作られたものである。 射精のう 射精管 精巣は腹部第 5 体節の背面に 1 対あり,内部は四つ の精のうに分かれており,この中には精子が充満し 陰茎 ている。貯精のうは精子を貯える所で,精巣中の精 子は輸精管を通ってここに貯えられる。射精は射精 3‐20 図 雄蛾の内部生殖器 のう・射精管を通り,陰茎から行われる (3‐20 図) 。 2. 雌の生殖器 雌蛾の生殖器は卵管・輸卵管・膣・交尾のう・受精のう及び粘液腺 からなる。輸卵管は幼虫の導管に相当し,幼虫の石渡前腺は交尾のう・受精のう及び膣の 前半部を,石渡後腺は粘液腺と膣の後半部に,それぞれ発達して作られたものである。粘 液腺は膣の両側にあり, 粘液物質を貯えており, 産卵のときにこの物質を卵の表面に出し, 72 第 3 章 蚕体の構造と各器官のはたらき 卵が物に付着する役目をする。交尾のうは交尾のときに雄から精液を受け入れる。この精 液はさらに小管を経て受精のうに運ばれ,産卵の際には再び膣まで戻って卵中に入る(3 ‐21 図) 。 卵管 受精のう付属腺 受精のう 粘液腺 輸卵管 直腸 交尾のう 膣 産卵管 3‐21 図 雌蛾の内部生殖器 3. 交尾及び受精 雌蛾の腹部末端にある誘引腺から性フェロモン(ボンビコール) が発散されると,雄蛾は触角によって これを感じて雌蛾の位置を知り,雌蛾 に向かって激しく翅を振るわせながら 移動して交尾する(3‐22 図) 。 交尾後 20~30 分以内に第 1 回の射 精があり,第 2 回の射精はそれから 60 ~90 分以内に行われる。受精すなわち 卵子と精子の合一は,蚕では交尾と同 時には起こらず,産卵後 1~2 時間後 に行われる。 発蛾した日の夕刻から翌朝までに産 卵し,そのまま何も食べないで数日の 後には死ぬ。 3‐22 図 交尾(左:雌,右:雄)