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ピークオイル論と中東産油国の石油政策

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ピークオイル論と中東産油国の石油政策
ピークオイル論と中東産油国の石油政策
東京国際大学
教授
はじめに
国際関係学部
武
石
礼
司
ルという単位であるが,そのドラム缶を1日当
2
0
0
0年代に入った頃から,世界的に石油生産
たり,日本だけでも3
0
0万本以上消費していると
量のピークが来るのではないかとのピークオイ
いう,まさに想像を絶する多量の石油供給が続
ルを巡る議論が盛んに行われるようになった。
いている。世界全体ではなんと毎日8,
4
0
0万本に
当時,石油は探せばまだまだどんどん生産可能
なる。これだけの量が日々間違いなく続々と供
だと主張する論者がいた一方,すでにピークが
給されているということだけでもある種の「脅
来ており今後は生産量は減退するのみだという
威」であり,そうした事実を理解した上で,
ピー
悲観論を主張する者まで,いろいろな主張が出
クオイルに関する冷静な議論をする必要がある
された。
と言える。
現在では,在来型の原油の生産量の増大には
石油の供給側としては,中東諸国を始めとし
限界があり,いずれはピークオイルを迎えるこ
た産油国が存在しており,こうした生産の担い
とは間違いないとの認識が広まっていて,1
0年
手としての多くの国営石油会社が,世界各国に
前と比べると,世界の景気の後退もあり,落ち
対する供給の責任を果たしてくれている。巨大
着いた議論が行われるようになってきている。
な規模を持つ石油の供給システムは,巨額の投
いずれ供給量が減り始めると言われていて,そ
資が必要で,しかも維持管理にも多大のコスト
れなのになぜ落ち着いた議論が可能かという
がかかる。これら供給システムは,短期間では
と,それは現在供給され消費されている量があ
簡単には変更されず,長い時間をかけて次第に
まりにも多く,その生産・輸送・販売を担うシ
変わっていくものだという前提に立ち,生産国
ステムも巨大で,短期間では誰も,そして何も,
側と消費国側との関係を考えていく必要があ
変えられない状況にあるからだと言うことがで
る。
きる。例えば,現在世界全体では1
0億台もの自
ただし,仮に世界中の国が,現在の中国およ
動車が走っており,その殆どがガソリン車か軽
びインドと同じように石油エネルギー消費量を
油車で,毎日石油製品を消費している。
増大し続けると,残念ながら世界の石油消費量
日本の原油輸入量だけでも膨大で,2
0
0
9年で
は急増してしまい,供給側の増産が追いつかな
3
6
5万バレル/日であり,国内の石油消費量は燃
くなる可能性があることも事実である。
料油のみの合計(潤滑油・輸出分等を除く)で
どのくらいのタイムスパンで,需給の関係は
。
3
1
9万バレル/日であった(石油連盟データ)
変化し得るのか,また短期間で変化しないこと
1
5
9リットルが入ったドラム缶1本分が1バレ
がらは何かについて理解し,中東産油国の石油
3
6
中東協力センターニュース
2
0
1
0・1
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1
生産量の維持と増大に向けた取り組みの状況を
を多額の資金を投下して実施しても,現状の1.
5
冷静に分析して,消費国側としての対応策を練
倍程度までは埋蔵量が増えるとしても,これを
るとともに,中東産油国との協力関係の強化を
現状の2倍に増やすことはかなり厳しい。現在,
図っていくことが今こそ必要となっている。
世界の石油埋蔵量の7
7%を占めている OPEC
において,新たな探査・探鉱の可能性が減って
中東諸国の石油・ガス生産の現状
きていることは,将来の石油供給量がどのくら
膨大な量の石油を日々供給し続けている中東
いまで増大可能かに関する議論の精度も上がっ
の主要産油国にとり,
その本音は,OPEC の生産
てくることを意味する。
枠にとらわれて厳しく生産量を決められること
こうなってくると,あとは毎年どれだけの生
はできれば避けたいというところにある。2
0
1
0
産が行われるかという「生産量に関する生産者
年現在,OPEC 各国の生産目標が設定されてい
の判断」が重要となってくる。
るものの,その遵守率は多くの加盟国において
例えば,北海等で仮に1億バレルの確認可採
毎月1
0
0%をかなり大きく下回っている。目安と
埋蔵量が発見された場合,3万バレル/日の生
なる生産目標量は設定されているものの,それ
産を1
0年間続ければほぼ生産し尽くすと計算で
は守らなくても大目に見てもらえるという状況
6
5日×1
0年)
。その場合
きる(3万バレル/日×3
は,OPEC の多くの国にとって居心地がよい状
にも,欧米の石油企業であれば,可能であれば
態であると言える。ただし,サウジアラビアの
5万バレル/日の生産が可能かどうか,さらに生
みが例外的存在で,OPEC の盟主として自己犠
産量を増やせないか,増やして早期に投下資金
牲をも厭わないという行動が見られる。
を回収しようと試みるのが一般的である。
現在,世界の石油需要が着実に増加している
一方,中東産油国では,話の規模が大きくな
ことは明らかであるが,OPEC 各国の本音は,多
り,1
0
0億バレルの確認可採埋蔵量で1
0
0万バレ
額の資金を投下して大規模な生産設備の拡張を
0
0億バレルで5
0
0万バレル/日
ル/日の生産量,5
自分の国が行うことは,本当はしたくないとい
という生産量が目安となっていると産油国の
うところにある。バレル当たり7
0ドル,8
0ドル
データから推計できる。つまり,一般的に言っ
という石油価格が維持されている現状は,各国
て,1億バレルの埋蔵量(確認可採)につき1
とも財政収入が豊富である。さらに石油輸出量
万バレル/日程度の生産量が設定される場合が
を増やすために,生産量を増大させようとする
多い。
と,生産井を掘り,パイプラインを敷設し,原
これは,生産量を抑制し,自国の貴重な資源
油と随伴ガスの分離施設を作り,ガス利用のた
であり収入源である石油埋蔵量を温存させ,自
めの設備を増設し,石油の出荷設備も増設し,
分達の子供や孫の世代にまで繁栄を続けようと
というように多額の投資が必要となる。一度増
考えての産油国の政策的な選択である。もちろ
設 し た 設 備 は で き る だ け 稼 動 さ せ た い が,
ん技術的には,1
0
0億バレルの油田から3
0
0万バ
OPEC の生産目標が設定される中では,減産を
0年程度で生産し尽くす北
レル/日を生産し,1
強いられる場面も将来必ず出てくるに違いな
海と同じような生産計画を立て,採算を合わせ
い。
ることは可能であるが,中東産油国ではそのよ
うにはしていない。
また,自国の石油埋蔵量がどの程度あるかは
ほぼ目処がついてきており,回収量を増大させ
今や中東諸国においてすら,自国内で石油を
る「埋蔵量成長」のための様々な新技術の導入
探査して大規模油田を発見し,石油埋蔵量を急
3
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中東協力センターニュース
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1
拡大させる可能性が低くなってしまっており,
強が5
0
0億ドルを投じて既に行われたところで
この状況では,生産量を増やし,輸出量を急増
あり,2
0
1
0年現在では1,
2
5
0万バレル/日が達成
させ,自国の石油の生産可能年数(可採年数)
されている。重質油を埋蔵しているマニファ油
をどんどん短くしてしまおうとの決断がなされ
田の生産能力増強に取り組むとともに,ガワー
る可能性はほぼなくなっている。
ル油田からリヤド寄りに位置する内陸のクライ
ス油田の生産能力の整備・増強も実施してい
このように中東の主要産油国が考えていると
る。
いうことは,世界的に石油需要が今後もしばら
くは増え続けるという状況があるにもかかわら
同国の1,
2
5
0万バレル/日の石油生産能力は,
ず,供給量を増やす能力を持つ OPEC はそれほ
クウェートと折半している旧・中立地帯の数値
ど生産量を増やさず,「世界の石油供給量の上
(両国の合計5
5万/日の半分)を含んだ数値であ
限」というものが見えてくるということを意味
る。旧・中立地帯の陸上のワフラ油田の超重質
している。 非 OPEC 諸国からの石油生産量は,
油の生産能力のさらなる増強にも,サウジアラ
将来的には減少に向かうと考えられる一方で,
ビアとクウェートの両国は現在取り組んでい
OPEC が増産を望まない以上,需給は次第に締
る。
同国が余剰生産能力を保有し,世界の石油需
まってくると予測される。こうして石油価格の
給の調整役(スウィングプロデューサー)を担
高止まりが続くことになる。
中東産油国の石油生産の維持あるいは拡大に
っていることにより,他の OPEC 諸国,それに
向けた動向は,実は国ごとに大きな差異がある
日本等の消費国においても供給の安定化が図れ
が,その状況を以下で検討する。
ており,同国が生産能力を維持・拡大してきた
功績は大きい。
サウジアラビア
ただし,石油生産能力を1,
2
5
0万バレル/日に
サウジアラビアでは,現在も,国営石油会社
増強しても,2
0
1
0年現在の石油生産量は8
0
0万
のサウジアラムコ社を通じて,熱心に探査・探
バレル/日を超える程度となっており,というこ
鉱作業が続けられている。その成果としては,
とは4
0
0万バレル/日を超える生産能力が稼動せ
主としてガスの発見が報告されている。また,
ず遊休化していることを意味する。世界の石油
石油についても同国としては小規模であるが毎
需給を調整する役割をサウジアラビアが一手に
年発見されており,自国の埋蔵量を積み増しす
押し付けられているとも感じられる状況となっ
る努力が続けられている。
ており,同国としては,世界に対する供給責任
世界最大の石油生産能力を保有している同国
は充分に満たすことができており,今後は,か
は,既存の生産量を維持することだけでもたい
なり長期に亘り生産設備は維持管理のみに止
へんな努力がなされている。世界最大の油田で
め,精製設備の増強,石油化学部門に資金を重
あるガワール油田は,縦2
0
0km,横5
0km もの広
点的に投下していく計画としている。現状の7
0
大な規模であり,油田の構造は,お皿を伏せた
年を超える石油の可採年数は,サウジアラビア
ように中央部が僅かに隆起した形となってい
としては適正な数値であると考えられ,生産量
る。水平掘りによる生産井(Horizontal Well)は,
を能力いっぱいの1,
2
5
0万バレルという現状の
水位の上昇により瞬く間に生産を停止してしま
1.
5倍にすることは,可採年数7
0年を3分の2の
う可能性を持ち,油井の改修が常に必要となる。
5
0年弱に縮めることを意味しており,5
0年を下
そもそも石油生産能力に関しては,設備の増
回る可採年数となってしまうことは,OPEC の
3
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中東協力センターニュース
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1
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1
盟主のサウジアラビアとしては望ましい選択で
増強と,石油化学プラントの充実が目指されて
あるとは言えない。
いるところである。
クウェート
イラン
クウェートは国内の石油・ガスの新規開発の
広大な国土を持つイランでは,2
0
1
0年現在,
余地が次第に少なくなってきている。北部4油
石油・ガスともに新規発見により埋蔵量の積み
田の開発を目指す「プロジェクト・クウェート」
増しができる余地があると見られており,事実,
と呼ばれる計画は議会の承認が得られずに長年
毎年のように新規発見があったとの報道がなさ
頓挫したままである。代わりに,北部の重質油
れている。1
0億バレル程度の埋蔵量を持つ油田
の開発が2
0
1
0年の段階ではメジャー企業の参入
の発見はまだまだ可能と考えられており,その
も仰いで進められる計画が出されている。その
程度の油田は現在でも発見されている(例えば,
ほか,サウジアラビアの項でふれたように,
旧・
2
0
0
9年のインドの ONGC による Binaloud 油田
中立地帯陸上での増産が目指されている。
の発見)
。イランの確認可採埋蔵量は1,
3
6
7億バ
2
0
1
0年現在,同国の石油生産量は2
3
0万バレ
レルと発表されており,可採年数は8
9年と計算
ル/日程度であり,これは生産能力の9割程度で
できる。
あることを意味しており,適正規模の生産量と
イランでの探査・探鉱には,インド,中国,
なっている。1,
0
1
5億バレルあるとされるクウ
ロシア,イタリア,フランス等の石油会社が参
ェートの確認可採埋蔵量で計算すると,現在生
加している。ただし,イラン自身は,米国の経
産量を一定程度に絞っていることで,可採年数
済制裁が続いていることもあり,最新技術の獲
は1
0
0年を超えると計算できる。同国としては,
得という点では遅れてしまっている。
子孫に充分な石油資産を残せる状況があること
現状の石油生産能力は4
0
0万バレル/日程度で
0
1
0年
あり,3
6
0万から3
7
0万バレル/日という2
がわかる。
同国は,世界第2位の埋蔵量を誇るブルガン
現在の生産量はかなりフル生産に近いと言え
油田を保有しているが,この「虎の子の油田」
る。古くからの産油国であるイランでは老朽化
からの生産を大事にしつつ,国全体の生産量も
した油田も多く存在しており,ガスを圧入する
抑制しながら,現状の2
0
0万バレル/日程度の生
ことで生産量を何とか確保している「有名な昔
産量から高収入が維持できることが最も望まし
の超巨大油田」も多く存在している。
い。ただし,必要が生じたときには,2
5
0万バレ
注意しなければならないのは,ガス埋蔵量が
ル/日程度までの増産能力は現状で既に備わっ
多いイランでは,ガス生産とともに生産される
ており,さらに2
9
0万バレル/日程度の生産量ま
液体部分である NGL の生産量が多いために,
で増大させる可能性があると予測されている
この NGL を含めると石油生産量は4
7
0万バレ
ル/日程度まで増大可能と考えられており,この
(IEA 等各種の予測記事による)
。
クウェートのガス利用の状況について見る
NGL が加わった値であるかどうかで,数値が大
と,すでに同国のガス消費量は生産量を上回っ
きく異なる(例えば,BP 統計あるいは米国エネ
ており,LNG によるガス輸入が2
0
0
9年から開始
ルギー省発表の石油生産量の数値には NGL が
されている。最初の輸入先は豪州であり,遠く
加わっている)
。
人口が7千万人を超えて多いイランでは,石
サハリンからの LNG 輸入も行われている。
油消費量も多く,しかも,国内向けのガソリン
そのほか,現在,石油精製能力のいっそうの
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1
等の石油製品価格が政府からの補助金支給によ
邦政府との間で,いかに整合性をとって決めて
り低く抑えられていることもあって,石油消費
いくことができるかという点から見ても,石油
量は急増を続けてきた。政府は,多額の補助金
生産能力の増強スケジュールは遅延が不可避と
支出のための財政負担に耐えかねて,次第に石
なっている。
油製品価格の引き上げを開始しているところで
将来,イラクの石油生産量が増えてきたとき
ある。原油および石油製品の輸出量を維持・確
には,サウジアラビアと並んで,イラクが OPEC
保するためにも,国内の石油製品価格の引き上
の生産制限を率先して実施し,石油価格の維持
げによる国内石油消費量の抑制と,石油精製能
に努めることが,当然他の OPEC メンバーから
力の増強と設備の高度化が必要となっている。
期待されることになる。その際に,オイルメジ
天然ガスについては,イランは,トルクメニ
ャーを始めとした諸外国から参入した石油企業
スタンから天然ガスを輸入する一方,ほぼ同量
に,OPEC で生産削減が決まったからといって,
の天然ガスをトルコに向けて輸出している。
それを個々の油田で呑ませることは,民間企業
にとっては死活問題となる。こうして,イラク
イラク
への外国石油企業の参入は(埋蔵量が豊富であ
世界で最も石油の探査・探鉱余地が大きいの
るにもかかわらず)リスクが意外に高いと判断
がイラクであり,現状の埋蔵量(確認可採)の
されてしまう可能性があると言える。
1,
1
5
0億バレルはさらに上積みでき,2,
0
0
0億バ
アラブ首長国連邦(UAE)
レル台に達する可能性もあると言われている。
石油生産量は2
0
1
0年で約2
3
0万バレル/日であ
UAE の 石 油 生 産 量 は2
0
1
0年 現 在2
3
0万 バ レ
り,生産能力は2
5
0万バレル/日程度と見られて
7
0万から
ル/日程度となっており,生産能力は2
いる。今後,2
0
1
8年には6
0
0万バレル/日に増大
5万バ
2
9
0万バレル/日となっている。そのほか3
させるとの政府の計画がある。ただし,実際に
レル/日程度の NGL が生産されている。
同国の大型油田はすでに成熟化の段階に入っ
はそこまでの急拡大は進まず,せいぜい4
0
0万バ
ており,増進回収法(EOR)の導入が進められ
レル/日程度までに止まるとの予測がある。
なお,もしイラクがひたすら増産に努めたと
ている。確認可採埋蔵量の9
7
8億バレルを生産量
すると,埋蔵量の今後の増大を見込むと1,
0
0
0万
で除すると可採年数は1
0
0年を超えると計算で
から2,
0
0
0万バレル/日程度まで生産能力を増大
きる。
するポテンシャルがあるとの見方も存在する。
アブダビ首長国では,UAE の生産量の大部分
ただし,本レポートで既に分析したように,そ
である2
2
0万バレル/日を生産している。ドバイ
こまで,イラク政府が生産量を増やす決断をす
およびその他の首長国の生産量の合計が1
0万バ
ることはまず考えられないと言える。
レル/日程度となっている。
イラクの石油生産能力の拡大がゆっくりとし
カタール
か進まないと考えられているのは,既存の生
産・輸送設備がすべて老朽化しており,まずそ
カタールの石油埋蔵量は2
6
8億バレルあり,
の再建に多大の費用がかかることを理由として
2
0
1
0年現在の石油生産量は8
0万バレル/日程度
あげることができる。しかも,今後,外国石油
となっており,可採年数は5
5年に達している。
企業の参入をどこまで認めるか,クルド地域で
石油生産能力は現在1
0
0万バレル/日程度となっ
の探査・探鉱・開発・生産の問題を,イラク連
ている。ただし,同国の油田は成熟度を増して
4
0
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2
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きており,多くの増進回収法(EOR)プロジェ
年数は皆,欧米等の他の地域と比べると長目で
クトが実施されて生産量が維持されている状況
あり,欧米の石油会社のように投下資金を一刻
にある。
も早く回収しようと増産に走ることはしていな
カタールはロシア,イランに次ぐ世界第3位
い。石油(そしてガス)の埋蔵量は,産油国に
のガス埋蔵量を持ち,LNG の輸出量は世界第1
とっての宝物として,大事に子々孫々まで繁栄
位である。石油生産能力の外数になる NGL の
の礎となるべく少しずつ使っていくのがこれら
生産量も,世界最大のガス田であるノースフ
諸国の方針である。
ィールドからのガス生産量が増えるにつれて増
原油価格の高止まりにより膨大な石油輸出収
えており,5
0万バレル/日程度に達している。
入が入ってきている産油国であるが,経済成長
率を引き上げ,成長を持続させることは容易で
ピークオイル論と中東産油国
はない。油価が上昇してある年に GDP が急上昇
OPEC 加盟国の石油生産量の目標値は,OPEC
しても,その収入が国内で循環し,経済活動が
内での横並びも意識されつつ,政策的に決定さ
活発化するという乗数効果を生み,翌年以降も
れている面があると言える。
発展が発展を呼ぶことは,国内経済の基盤が弱
産油国において石油生産量を上回って埋蔵量
いためになかなか難しい。欧米諸国の金融危機
の積み増しができていると,可採年数は減らな
が即座に波及し,経済が自律的な回復をするこ
いが,生産量と同じだけ埋蔵量の積み増しを行
とが難しいために,ゆっくりとしか景気は戻っ
うことは,探査・探鉱・開発・生産が進むにつ
ていかない。しかも,油価が高止まりしてしま
れて年々難しくなっていく。可採年数は減少を
うと,対前年比での経済成長率は次第に低下し
始めてしまい,生産量も最大値を過ぎて減少に
ていく傾向すら生じる。様々なプロジェクトが
向かい,こうしてピークオイル点を通過してし
計画され,実施に移されており,国民も消費に
まう。
走っているものの,中東産油国にはオイルブー
長年生産を続けてきたイランでは1
9
7
4年に
ムが一段落したあとの静けさすら感じられると
6
0
0万バレル/日という最大の生産量を記録した
いうのが現状である。社会の安定化は,ピーク
あと,生産量が減少に向かい,1
9
8
1年には1
3
2万
オイルを先延ばしする資源温存政策の帰結であ
バレル/日に止まる。これはイラン革命の発生,
るとも言えるが,「足るを知った」
あとの国の施
イラクとの戦争により,生産活動が停止せざる
策のあり方が問われているとも言える状況にあ
を得なかったことによる。その後,現在の4
0
0万
る。世界への貢献度の向上を目指す余裕を持つ
バレル/日弱という生産量まで戻してきている。
中東産油国からは,もう一段の発展に向けた新
生産量の2つのピークが生じた例と言える。
たなイニシアティブが発揮されることが期待さ
既に見たように,中東 OPEC 諸国の石油可採
れると言えるだろう。
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