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地域ケア会議運営マニュアル - 一般財団法人 長寿社会開発センター
平成24 年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業 地域ケア会議運営マニュアル作成事業 地域ケア会議運営マニュアル 平成25(2013)年3月 一般財団法人 長寿社会開発センター は じ め に 少子高齢化が進む中、医療および介護ニーズの増大や孤立等に対応することが喫 緊の課題となっています。そして、そのひとつの対応策として、住まい、生活支援、 医療、介護、予防といったケアを一体的に提供できる地域の体制である地域包括ケ アシステムの構築が推進されています。それと同時に、地域の高齢者が尊厳を保持 してその人らしい主体的な生活を継続できるように、高齢者の方々によるニーズに 応じた多様な社会資源の適切な活用を支援する自立支援に資する包括的・継続的ケ アマネジメントの有効な活用も期待されています。 このような高齢者個人に対する支援の充実とともに、それを支える社会基盤の整 備を行うのに有効な手段のひとつが地域ケア会議です。これは、介護保険制度の開 始前から、在宅介護支援センター等によって地域の実情に合わせて取り組まれてき たこれまでの実績から明らかになったといえます。そこで、平成 24 年3月、「地域 包括支援センターの設置運営について」において、包括的 ・ 継続的ケアマネジメン ト支援業務と多職種協働による地域包括支援ネットワーク構築において地域ケア会 議が位置づけられました。 本マニュアルでは、地域ケア会議の目的や機能等を正確に理解していただいたう えで、地域の実情に合わせて、自助・互助・共助・公助を組み合わせた地域のケア 体制の整備を推進すべく、地域ケア会議を有効に構築および運営していただけるよ うに、地域ケア会議を展開してきた市町村や地域包括支援センター等で活動してい る委員の実践をもとにまとめています。地域住民が安心して生活を継続できる地域 をつくっていくために、地域ケア会議を有効に活用していただければと思います。 地域ケア会議の開催主体である市町村や地域包括支援センターはもとより、地域 ケア会議に参加する方々の手引きとして、本マニュアルを役立てていただければ幸 いです。 平成 25 年 3 月 地域ケア会議マニュアル作成委員会 1 目次 地域ケア会議運営マニュアル はじめに… ………………………………………………………………………………………… 1 目 次… ………………………………………………………………………………………… 2 本書の構成… ……………………………………………………………………………………… 4 本マニュアルの活用方法… ……………………………………………………………………… 6 第1章 地域ケア会議の意義…………………………………………………………………… 9 第1節 地域包括ケアシステムの構築に向けて… ………………………………………… 11 1.地域包括ケアシステムについて… …………………………………………………… 11 2.地域包括ケアシステムが必要な背景… ……………………………………………… 12 3.地域包括ケアシステムを構築するには… …………………………………………… 14 第2節 地域支援事業と地域ケア会議の位置づけ… ……………………………………… 17 1.地域支援事業の目的… ………………………………………………………………… 17 2.地域支援事業の構成… ………………………………………………………………… 18 3.地域ケア会議が明文化された背景… ………………………………………………… 18 4.地域ケア会議の位置づけ… …………………………………………………………… 19 第3節 地域ケア会議の役割… ……………………………………………………………… 21 1.地域ケア会議の定義… ………………………………………………………………… 21 2.地域ケア会議の目的・機能等… ……………………………………………………… 21 (1)地域ケア会議の目的… ……………………………………………………………… 21 (2)地域ケア会議の機能… ……………………………………………………………… 23 (3)地域ケア会議の名称… ……………………………………………………………… 26 第4節 地域ケア会議とその他の会議との相違点… ……………………………………… 27 1.サービス担当者会議との相違点… …………………………………………………… 27 2.事例検討会との相違点… ……………………………………………………………… 28 3.高齢者虐待対応の「個別ケース会議」との相違点…………………………………… 28 4.地域包括支援センター運営協議会との相違点… …………………………………… 30 5.研修会との相違点… …………………………………………………………………… 30 6.その他の会議との相違点… …………………………………………………………… 30 第2章 地域ケア会議の構築・運営…………………………………………………………… 31 第1節 地域ケア会議の設置・構築………………………………………………………… 33 1.地域ケア会議の設置主体……………………………………………………………… 33 2.地域ケア会議構成例…………………………………………………………………… 33 〈日常生活圏域と市町村の範囲が同じ場合〉………………………………………… 34 〈日常生活圏域と市町村の範囲が異なる場合〉……………………………………… 36 3.地域ケア会議の設置および構築……………………………………………………… 38 (1)地域ケア会議設置の前段階… ……………………………………………………… 38 (2)地域ケア会議の設置… ……………………………………………………………… 38 (3)地域ケア会議の構築… ……………………………………………………………… 39 (4)地域ケア会議の設置および構築における留意点… ……………………………… 40 第2節 地域ケア会議の運営………………………………………………………………… 42 1.個別ケースの検討を行う地域ケア会議……………………………………………… 42 (1)ケースの選定の流れ… ……………………………………………………………… 42 (2)地域ケア会議で検討するケース… ………………………………………………… 44 (3)個人情報の保護について… ………………………………………………………… 47 (4)開催日程と頻度… …………………………………………………………………… 48 (5)会議参加者… ………………………………………………………………………… 50 (6)事前資料… …………………………………………………………………………… 51 (7)会議の流れ… ………………………………………………………………………… 52 (8)終了後の運び… ……………………………………………………………………… 58 (9)個別ケースの検討を行う地域ケア会議の注意点… ……………………………… 60 2.地域課題の検討を行う地域ケア会議………………………………………………… 60 第3節 地域ケア会議構築及び運営例……………………………………………………… 63 1.地域ケア会議の構築例………………………………………………………………… 63 2.地域ケア会議の運営例………………………………………………………………… 67 第3章 地域ケア会議の実践例………………………………………………………………… 75 (掲載順序:市町村の人口順) 1 大磯町地域包括支援センター(神奈川県)【委託】………………………………………… 78 2 北杜市地域包括支援センター(山梨県)【直営】…………………………………………… 86 3 銚子市地域包括支援センター(千葉県)【直営】…………………………………………… 97 4 和光市地域包括支援センター(埼玉県)【委託】………………………………………… 103 5 富士宮市地域包括支援センター(静岡県)【直営】……………………………………… 119 6 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター(東京都)【委託】………………………… 135 7 金沢市地域包括支援センターとびうめ(石川県)【委託】……………………………… 150 8 新潟市地域包括支援センター阿賀北(新潟県)【委託】………………………………… 162 《参考資料》 ○地域包括支援センターの設置運営について……………………………………………… 181 (平成18年10月18日厚生労働省老健局振興課長ほか連名通知、最終改正:平成25年3月29日) ○「地域ケア会議」に関するQ&A… ………………………………………………………… 197 (平成25 年2月 14 日厚生労働省老健局振興課事務連絡) 地域ケア会議運営マニュアル作成委員会 委員名簿 本書の構成 本マニュアルは、介護保険制度の運営に従事する市町村(保険者)、地域包括支援センター 職員および地域包括支援センターの受託法人の方々に読み込んでいただくとともに、地域ケ ア会議に参加する介護支援専門員や事業者の方々にも適宜ご参照いただくことにより、地域 ケア会議の目的や機能に関する共通理解を得ていただき、高齢者が安心して住み続けられる 地域の実現に向けて、地域ケア会議を構築および運営するための手引書となることを意識し て作成しています。 〈第1章 地域ケア会議の意義〉 地域ケア会議の意義として、必要とされている背景をとりまとめ、法令上での定 義や位置づけをまとめています。また、その有する機能や役割、目標についての詳 細を示すとともに、地域において従来から取り組まれている様々な会議との相違点 について説明しています。 〈第2章 地域ケア会議の構築・運営〉 地域ケア会議を実践するにあたっての、設置・構築から開催、また改善といった、 地域ケア会議の運営上の基本的な事項をまとめています。 また、地域おける様々な実情に合わせた地域ケア会議の構築・運営を可能にする ため、画一的な方法論に限ることなく、地域ケア会議の運営に係る様々な視点を盛 り込んでいます。 〈第3章 地域ケア会議の実践例〉 地域ケア会議を効果的に実施している先行実践例を 8 例取り上げています。 それぞれの実践例は、様々な構築 ・ 運営形態となる「地域の実情に合わせた地域 ケア会議」を示すため、市区町村規模・地域包括支援センターの運営形態・地域ケ ア会議の構成の違いごとに取り上げ、掲載しています。 《参考資料》 厚生労働省老健局より平成 25 年3月 29 日に発出された、『地域包括支援センター の設置運営について』、および平成 25 年 2 月 14 日に発出された『「地域ケア会議」に 関するQ&A』を本マニュアルの巻末に掲載しています。 「地域ケア会議」に関するQ&Aは、地域ケア会議の具体的な解釈について取りま とめたものです。 「地域ケア会議」に関するQ&Aの理解をより深めるため、それぞれの問いに該当 するページを参照してください。 「地域ケア会議」に関するQ&A 問1 参照ページ 今般、「地域ケア会議」を通知に位置づけた背景は (P18 ~ 19) 何か。 問2 「地域ケア会議」にはどのような目的と機能がある (P21 ~ 26) のか。 問3 「地域ケア会議」で行う個別ケースの検討と「サービ (P27 ~ 28) ス担当者会議」、「事例検討会」の違いは何か。 問4 個別ケースの支援内容の検討はどのように行うか。 (P42 ~ 60) 問5 地域づくり ・ 資源開発、政策形成を行うために「地 (P60 ~ 62) 域ケア会議」ではどのような検討を行うのか。 問6 「地域ケア会議」の開催によってどのような効果が (P21 ~ 26) 得られるか。 問7 個別ケースの検討は行わなくてもよいか。 (P21 ~ 23) 問8 「地域包括支援センター運営協議会」を「地域ケア会 (P30) 議」に置き換えてもよいか。 本マニュアルの活用方法 地域ケア会議とは 1 地域包括ケアシステムがなぜ必要なのか知りたい P11 ~ 16 2 地域ケア会議がどのように位置づけられているか知りたい P17 ~ 20 3 地域ケア会議の目的とは何か知りたい P21 ~ 23 4 地域ケア会議の有する機能について知りたい P23 ~ 26 5 地域ケア会議の名称について知りたい P26 地域ケア会議とその他の様々な会議との目的や機能等の違い 6 サービス担当者会議や事例検討会と地域ケア会議の違いについて知り たい P27 ~ 28 7 高齢者虐待対応の場合の「個別ケース会議」と個別ケースの検討を行う 地域ケア会議の違いについて知りたい P28 ~ 29 8 地域包括支援センターの運営協議会と地域ケア会議の違いについて知 りたい P30 9 地域で開催されている研修会や、その他様々な会議と地域ケア会議の違 いについて知りたい P30 地域ケア会議を設置・構築していく際の手法や視点 10 地域ケア会議を設置 ・ 構築する際の市町村(保険者)と地域包括支援セ ンターの役割や責任について知りたい P40 ~ 41 11 地域ケア会議の構成例について知りたい P33 ~ 37 12 地域ケア会議を設置する前に行っておくべきことについて知りたい P38 13 地域ケア会議をどのように設置したらよいか知りたい P38 ~ 39 14 地域ケア会議をどのように構築したらよいか知りたい P39 ~ 41 地域ケア会議を設置・構築していく際の手法や視点 15 個別ケースの検討を行う地域ケア会議において、どの機関により・どの ようなケースを選定するのか知りたい P42 ~ 47 16 個別ケースを取り扱う際の個人情報の取り扱いについて知りたい P47 ~ 48 17 個別ケースの検討を行う地域ケア会議を開催する際の日程や頻度につ いて、また、選定・招集する参加者について知りたい P48 ~ 51 18 個別ケースの検討を行う地域ケア会議で主催者や司会進行役が行うこ とについて知りたい P52 ~ 55 19 個別ケースの検討における、留意点や視点について知りたい P55 ~ 58 20 個別ケースの検討を行う地域ケア会議が終了した後に行うことや、留意 するべき点について知りたい P58 ~ 60 21 個別ケースの検討を行う地域ケア会議を行うにあたり、注意すべき点を 知りたい P60 22 地域課題の検討を行う地域ケア会議を開催するうえでの留意点につい て知りたい P60 ~ 62 23 地域課題の検討を行う地域ケア会議において選定・招集する参加者につ いて知りたい P61~ 62 地域ケア会議の設置段階から、その運営に至る一連の例 24 地域ケア会議の設置及び構築について、一連の流れを知り、理解を深め たい P63 ~ 67 25 個別ケースの検討から地域課題の解決までの一連の流れで、地域ケア会 議の運営について理解を深めたい P67 ~ 74 地域ケア会議の具体例 26 地域ケア会議に取り組んでいる自治体の実践例を知りたい P75 ~ 177 第 1 章 地域ケア会議の意義 節 地域包括ケアシステムの構築に向けて 地域包括ケアシステムについて 高齢化が進展し、認知症高齢者や一人暮らし高齢者が増加するなか、支援や介護を必要と する高齢者が住み慣れた地域で尊厳ある生活を可能な限り継続できる体制の整備が必要に なっています。これが「地域包括ケアシステム」です。具体的には、高齢者のニーズに応じて、 介護サービス、予防サービス、医療サービス、見守り等の生活支援サービス、住まいを適切 に組み合わせて提供し、地域社会全体として、24 時間 365 日を通じた対応が可能なシステム だといえます。これらのサービスは公的サービスのみならず、地域住民やボランティア等の インフォーマルな社会資源も含まれ、それぞれの機能をふまえた有機的連動が求められてい ます。 (1)地域包括ケアの5つの視点による取り組み 地域包括ケアを実現するためには、次の5つの視点での取り組みが包括的(利用者のニー ズに応じた①~⑤の適切な組み合わせによるサービス提供)かつ継続的(入院、退院、在宅 復帰を通じて切れ目ないサービス提供)に行われることが必須です。 ①医療との連携強化 ・24時間対応の在宅医療、訪問看護やリハビリテーションの充実強化 ・ ②介護サービスの充実強化 ・24時間対応の定期巡回・随時対応サービスなどの在宅サービスの強化 ・ ③予防の推進 ・できる限り要介護状態とならないための予防の取り組みや自立支援に資する介護の推進 ・ ④見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護など ・一人暮らし、 ・ 高齢夫婦のみ世帯の増加、認知症の増加を踏まえ、様々な生活支援(見守り、 配食などの生活支援や財産管理などの権利擁護サービス)サービスを推進 ⑤高齢期になっても住み続けることのできる高齢者住まいの整備 ・一定の基準を満たした有料老人ホームと高齢者専用賃貸住宅を、サービス付高齢者住宅 ・ として高齢者住まい法に位置づけ 11 地域ケア会議の意義 1 1 第1章 第 2 地域包括ケアシステムが必要な背景 地域包括ケアシステムが求められる主な理由として、以下の①~⑤があげられます。これ らの社会的背景を踏まえ、各市町村では、地域の特性や社会資源等の実態を把握したうえで、 どのように地域包括ケアシステムを構築するかを構想し、政策化し、実現していくことが求 められています。 ①少子高齢化 我が国の総人口は 2012(平成 24)年 10 月 1 日現在、約 1 億 2,750 万人で、65 歳以上の高齢 者人口は過去最高の 3,083 万人(高齢化率 24.2%)となっています。高齢者人口は「団塊の世 代」が 65 歳以上となる 2015(平成 27)年には 3,395 万人にのぼり、「団塊の世代」が 75 歳以 上となる 2025(平成 37)年には 3,657 万人に達した後、2042(平成 54)年に 3,878 万人でピー クを迎え、その後減少に転じると推計されています。2012(平成 24)年に高齢者 1 人に対 して生産年齢人口(15 歳~ 64 歳)が 2.6 人であったのが、2054 年には、1.3 人の生産年齢人 口で1人の高齢者を支えることになると予測されています。 高齢者人口の推計 高齢者一人に対しての 単位(万人) 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 3083 3395 3657 3878 単位(人) 生産年齢人口の比率 3 2.5 2 1.5 2.6 2.3 1.9 1.4 1 1.3 0.5 2012年 2015年 2025年 2042年 参考資料: 「日本の将来推計人口」 (平成 24 年 1 月推計) 国立社会保障・人口問題研究所 0 参考資料:「日本の将来推計人口」(平成 24 年 1 月推計) 国立社会保障・人口問題研究所 ②要介護(支援)認定者の増加 高齢者の増加に伴い、要介護(支援)認定者数も 2000(平成 12)年からの 10 年間で 123% も増加しています。そして、2025(平成 37)年には 755 万人(2009 年から 61%の増加)にな ると推計されています。 ③単独世帯の増加 65歳以上の高齢者のいる世帯についてみると、2011(平成23)年現在、世帯数は約1,942 万世帯で、全世帯(4,668 万世帯)の 41.6%を占めています。世帯の内訳は、「単独世帯」が 470万世帯(24.2%)、 「夫婦のみの世帯」が 582 万世帯(30.0%)、 「親と未婚の子のみの世帯」 12 第1節●地域包括ケアシステムの構築に向けて が 374 万世帯(19.3%)、「三世代世帯」が 300 万世帯(15.4%)となっており、高齢者のいる 第1章 世帯の半数以上が「単独」または「夫婦のみ」となっています。世帯主年齢が 65 歳以上の一 般世帯の総数は、2010(平成 22)年の 1,620 万世帯から、2035(平成 47)年 2,021 万世帯へと 増加し、なかでも世帯主が後期高齢者である「単独世帯」が 2010(平成 22)年の 269 万世帯 地域ケア会議の意義 から、2035(平成 47)年には 466 万世帯と 1.73 倍増加することが推計されています。 世帯構造別にみた 65 歳以上の者のいる世帯数の構成割合 三世代世帯 15.4% その他 11.2% 単独世帯 24.2% 親と未婚の子 のみ世帯 19.3% 注:1)岩手県、宮城県及び福島県を除いたものである 2)「親と未婚の子のみの世帯」とは、「夫婦と未婚の子のみの 世帯」 「ひとり親と未婚の子のみの世帯」をいう。 夫婦のみの世帯 30.0% 参考資料:平成 23 年「国民生活基礎調査」 厚生労働省 世帯主が後期高齢者である「単独世帯」の推移 単位(万世帯) 1.73 倍の増加 資料:「高齢社会白書」平成 23 年度版 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」(平成 25 年 1 月推計) 13 ④認知症高齢者数の増加 「認知症高齢者の日常生活自立度」でランクⅡ以上の高齢者は、2002(平成 14)年に 65 歳 以上人口の 6.3%であった割合が、2010(平成 22)年現在で 9.5%に、2025(平成 37)年には 12.8%にまで増えると予測されています。 認知症高齢者数の推計と高齢者人口 500 12.8% 450 11.3% 400 9.5% 350 10.2% 470 300 410 6.3% 250 200 345 280 150 100 149 50 0 2002年 2010年 2015年 2020年 2025年 資料:「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者数について 厚生労働省(平成24年8月24日) ⑤介護の担い手の不足 高齢者の割合が増加するのに対して、生産年齢(15 ~ 64 歳)人口は減少していきます。 2007 年と比べ、2025 年には生産年齢人口の約 15%が減少すると推計されています。また、 2010 年と比べ、2060 年には 45.9%も減少すると推計されているのです。それにもかかわ らず、介護ニーズ試算によると「要介護4あるいは5」の要介護高齢者は 2025 年に 187 万 人となり、介護職員の数は 2012 年の 149 万から、2025 年には 237 ~ 249 万人が必要とされ、 59 ~ 67%の増加が必要だと試算されています。このような試算から、介護の担い手が不 足する可能性が非常に高いことが予想されます。 3 地域包括ケアシステムを構築するには 地域包括ケアは、地域住民が住み慣れた地域で安心して尊厳あるその人らしい生活を継続 することができるように、介護保険制度による公的サービスのみならず、その他のフォーマ ルやインフォーマルの多様な社会資源を本人が活用できるようにするため、包括的および継 続的に支援することです。 地域包括ケアシステムは「自助 ・ 互助 ・ 共助 ・ 公助」それぞれの関係者の参加によって形 成されるため、全国一律のものではなく、地域ごとの地域特性や住民特性等の実情に応じた システムとなります。地域包括支援センターとその設置主体である市町村には、高齢者が住 14 第1節●地域包括ケアシステムの構築に向けて み慣れた地域で安心して過ごせるよう、自助・互助・共助・公助の適切なコーディネート、 第1章 および資源やサービス等の開発により、包括的・継続的な支援を行い、地域包括ケアを実現 していくことが求められています。 地域ケア会議の意義 (1)市町村(保険者)の役割 市町村(保険者)には、介護保険制度の運営責任者としての役割と、地域包括支援センター の設置主体としての役割があります。 ①介護保険制度の運営責任者 介護保険法第3条の規定により、市町村(特別区含む)は介護保険給付を行う保険者と して位置づけられており、保険給付を行うにあたっては、同法第2条において配慮すべき 事項が掲げられており、ここに市町村の保険者としての責務が凝縮されています。 また、同法第5条第 3 項では、高齢者が地域において自立した生活を営むことを可能と するための施策についての市町村(地方公共団体)の責務が示されています。 (参考)介護保険法第2条 (介護保険) 第二条 介護保険は、被保険者の要介護状態又は要支援状態(以下「要介護状態等」という。)に関し、 必要な保険給付を行うものとする。 2 前項の保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われるとともに、医療と の連携に十分配慮して行われなければならない。 3 第一項の保険給付は、被保険者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、被保険者の選 択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者又は施設から、総合的か つ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならない。 4 第一項の保険給付の内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限 り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮さ れなければならない。 (参考)介護保険法第5条第 3 項 (国及び地方公共団体の責務) 第五条 3 国及び地方公共団体は、被保険者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立 した日常生活を営むことができるよう、保険給付に係る保健医療サービス及び福祉サービスに関す る施策、要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止のための施策 並びに地域における自立した日常生活の支援のための施策を、医療及び居住に関する施策との有機 的な連携を図りつつ包括的に推進するよう努めなければならない。 ②市町村(保険者)と地域包括支援センター 地域包括支援センターは、「地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要 な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを 15 目的とする施設」(介護保険法第 115 条の 46)です。被保険者に対する配慮すべき事項の実 現を目指すために、そのサブシステムとして設けられたのが地域包括支援センターだとい えます。すなわち、地域支援事業を活用して保険者機能を強化することにより、介護保険 制度の理念として掲げられている「尊厳の保持」に寄与しようとするものです。 市町村はこうした地域包括支援センターの役割や、委託の場合は行政との関係を明確に したうえで、介護保険事業計画・高齢者保健福祉計画等のなかでも地域包括支援センター を明確に位置づけ、効果的な活用を図ることが求められます。そして、地域包括ケアを推 進し、被保険者への配慮事項を実現していく責務があります。 (参考)介護保険法第 115 条の 46 (地域包括支援センター) 1 地域包括支援センターは、前条第一項第二号から第五号 までに掲げる事業(以下「包括的支援事業」 ※ という。)その他厚生労働省令で定める事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定 のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援するこ とを目的とする施設とする。 2 市町村は、地域包括支援センターを設置することができる。 3 次条第一項の委託を受けた者は、包括的支援事業その他第一項の厚生労働省令で定める事業を実 施するため、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、厚生労働省令で定める事項を市町 村長に届け出て、地域包括支援センターを設置することができる。 4 地域包括支援センターの設置者は、包括的支援事業を実施するために必要なものとして厚生労働 省令で定める基準を遵守しなければならない。 5 地域包括支援センターの設置者は、包括的支援事業の効果的な実施のために、介護サービス事業者、 医療機関、民生委員法(昭和二十三年法律第百九十八号)に定める民生委員、高齢者の日常生活の支 援に関する活動に携わるボランティアその他の関係者との連携に努めなければならない。 6 地域包括支援センターの設置者(設置者が法人である場合にあっては、その役員)若しくはその職 員又はこれらの職にあった者は、正当な理由なしに、その業務に関して知り得た秘密を漏らしては ならない。 7 第六十九条の十四の規定は、地域包括支援センターについて準用する。この場合において、同条 の規定に関し必要な技術的読替えは、政令で定める。 8 前各項に規定するもののほか、地域包括支援センターに関し必要な事項は、政令で定める。 ※:「前条第一項第二号から第五号」は次ページ参照 16 第1節●地域包括ケアシステムの構築に向けて 節 地域支援事業と地域ケア会議の位置づけ 地域支援事業の目的 地域支援事業は、被保険者が要介護状態又は要支援状態となることを予防するとともに、 要介護状態等となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営む ことができるように支援することを目的としています。(介護保険法第 115 条の 45) (参考)介護保険法第 115 条の 45 (地域支援事業) 第百十五条の四十五 市町村は、被保険者が要介護状態等となることを予防するとともに、要介護状 態等となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよ う支援するため、地域支援事業として、次に掲げる事業を行うものとする。 一 被保険者(第一号被保険者に限る。)の要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若 しくは悪化の防止のため必要な事業(介護予防サービス事業及び地域密着型介護予防サービス事業 を除く。) 二 被保険者が要介護状態等となることを予防するため、その心身の状況、その置かれている環境そ の他の状況に応じて、その選択に基づき、前号に掲げる事業その他の適切な事業が包括的かつ効率 的に提供されるよう必要な援助を行う事業 三 被保険者の心身の状況、その居宅における生活の実態その他の必要な実情の把握、保健医療、公 衆衛生、社会福祉その他の関連施策に関する総合的な情報の提供、関係機関との連絡調整その他の 被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るための総合的な支援を行う事業 四 被保険者に対する虐待の防止及びその早期発見のための事業その他の被保険者の権利擁護のため 必要な援助を行う事業 五 保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による被保険者の居宅サービス計画及び施設 サービス計画の検証、その心身の状況、介護給付等対象サービスの利用状況その他の状況に関する 定期的な協議その他の取組を通じ、当該被保険者が地域において自立した日常生活を営むことがで きるよう、包括的かつ継続的な支援を行う事業 2 市町村は、被保険者の要介護状態等となることの予防又は要支援状態の軽減若しくは悪化の防止 及び地域における自立した日常生活の支援のための施策を総合的かつ一体的に行うため、厚生労働 省令で定める基準に従って、地域支援事業として、次に掲げる事業を行うことができる。この場合 においては、市町村は次に掲げる事業の全てにつき一括して行わなければならない。 一 居宅要支援被保険者に対して、介護予防サービス又は地域密着型介護予防サービスのうち市町村 が定めるもの(指定介護予防サービス若しくは特例介護予防サービス費に係る介護予防サービス又 は指定地域密着型介護予防サービス若しくは特例地域密着型介護予防サービス費に係る地域密着型 介護予防サービス(以下この号において「特定指定介護予防サービス等」という。)を受けている居宅 要支援被保険者については、当該特定指定介護予防サービス等と同じ種類の介護予防サービス又は 地域密着型介護予防サービスを除く。)を行う事業 二 被保険者(第一号被保険者及び要支援者である第二号被保険者に限る。)の地域における自立した 日常生活の支援のための事業であって、前項第一号に掲げる事業及び前号に掲げる事業と一体的に 行われる場合に効果があると認められるものとして厚生労働省令で定めるもの 17 地域ケア会議の意義 1 2 第1章 第 三 居宅要支援被保険者(指定介護予防支援又は特例介護予防サービス計画費に係る介護予防支援を 受けている者を除く。)の要介護状態となることの予防又は要支援状態の軽減若しくは悪化の防止の ため、その心身の状況、その置かれている環境その他の状況に応じて、その選択に基づき、前二号 に掲げる事業その他の適切な事業が包括的かつ効率的に提供されるよう必要な援助を行う事業 3 市町村は、第一項各号及び前項各号に掲げる事業のほか、地域支援事業として、次に掲げる事業 を行うことができる。 一 介護給付等に要する費用の適正化のための事業 二 介護方法の指導その他の要介護被保険者を現に介護する者の支援のため必要な事業 三 その他介護保険事業の運営の安定化及び被保険者の地域における自立した日常生活の支援のため 必要な事業 4 地域支援事業は、当該市町村における介護予防に関する事業の実施状況、介護保険の運営の状況 その他の状況を勘案して政令で定める額の範囲内で行うものとする。 5 市町村は、地域支援事業の利用者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、利用料を請求す ることができる。 6 厚生労働大臣は、第一項第一号の規定により市町村が行う事業及び介護予防 ・ 日常生活支援総合 事業(同号及び同項第二号並びに第二項各号に掲げる事業をいう。以下同じ。)に関して、その適切 かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。 7 前各項に規定するもののほか、地域支援事業の実施に関し必要な事項は、政令で定める。 2 地域支援事業の構成 地域支援事業は、1)介護予防事業(又は介護予防 ・ 日常生活支援総合事業)、2)包括的 支援事業、3)任意事業により構成されています。 3 地域ケア会議が明文化された背景 国は 2011(平成 23)年6月の改正介護保険法第 115 条の 46 第 5 項の規定に、関係者との連 携努力義務を明記しました。そしてそれを具現化し、多職種協働のもと、フォーマルのみな らずインフォーマルな資源やサービスも活用しながら、個別ケースの支援内容の検討を行い、 その積み重ねを通し関係者の課題解決能力の向上や地域包括支援ネットワークを構築するた めの有効な手法として、地域ケア会議を位置づけました。 すなわち、地域ケア会議は①高齢者個人に対する支援の充実と、②それを支える社会基盤 の整備とを同時に推進し、「地域包括ケアシステム」を実現させるための重要な一手法とし て期待されています。 このため今般、地域ケア会議を、①専門多職種の協働のもと、公的サービスのみならず他 の社会資源も積極的に活用しながら、高齢者個人の課題分析と在宅生活の限界点を上げるた めの支援の充実に向けた検討を行い、これらの個別ケースの検討の積み重ねを通じて、高齢 者の自立支援に資するケアマネジメントを地域全体に普及することにより、地域で高齢者を 支えるネットワークを強化するとともに、②高齢者の自立を支援するための具体的な地域課 題やニーズを行政に吸い上げ、社会基盤整備につなげる一つの手法として、通知に位置づけ 18 第2節●地域支援事業と地域ケア会議の位置付け ました。 第1章 なお、通知に位置づけられた地域ケア会議は、従来から取り組まれている様々な会議を否 定するものではなく、同様の目的を持って実施されている会議と置き換えて開催することも できます。 地域ケア会議の意義 (参考)介護保険法第 115 条の 46 第 5 項 5 地域包括支援センターの設置者は、包括的支援事業の効果的な実施のために、介護サービス事業 者、医療機関、民生委員法(昭和二十三年法律第百九十八号)に定める民生委員、高齢者の日常生活 の支援に関する活動に携わるボランティアその他の関係者との連携に努めなければならない。 4 地域ケア会議の位置づけ 地域包括支援センターは、地域住民の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援する ため、 ①介護予防ケアマネジメント業務(法第 115 条の 45 第 1 項第 2 号) ②総合相談支援業務(法第 115 条の 45 第 1 項第 3 号) ③権利擁護業務(法第 115 条の 45 第1 項第 4 号) ④包括的・継続的ケアマネジメント支援業務(法第 115 条の 45 第 1 項第 5 号) の4つの業務で構成される包括的支援事業等を地域において一体的に実施する役割を担うこ とによって、地域包括ケアを支える中核拠点として、設置されています。また、包括的支援 事業を効果的に実施するための環境整備として、多職種協働による地域包括支援ネットワー クの構築が求められています。そして、その構築の1つの手法として、地域ケア会議が位置 づけられています。 (参考)地域支援事業実施要綱(「地域支援事業の実施について」(平成 18 年 6 月 9 日 厚生 労働省老健局長通知、最終改正:平成 24 年 4 月 6 日) 第2 事業内容 2 包括的支援事業 (1)~(4)省略 (5) 包括的支援事業の実施に際しての留意事項 (1)~(4)までに掲げる事業(編注 : 包括的支援事業の4業務)を効果的に実施するためには、 介護サービスに限らず、地域の保健・福祉・医療サービスやボランティア活動、インフォーマルサー ビスなど様々な社会的資源が有機的に連携することができる環境整備を行うことが重要である。こ のため、こうした連携体制を支える共通的基盤として多職種協働による「地域包括支援ネットワー ク」を構築することが必要である。 地域包括支援ネットワークの構築のための一つの手法として、例えば、地域包括支援センター (または市町村)が、行政職員、地域包括支援センター職員、介護支援専門員、介護サービス事業者、 医療関係者、民生委員等を参集した「地域ケア会議」を設置・運営すること等が考えられる 19 「地域包括支援センターの設置運営について」(課長連名通知)において、自立支援に資す るケアマネジメントの支援等の包括的・継続的ケアマネジメント支援業務を行うための手法 であるとともに、多職種協働による地域包括支援ネットワークの構築のための1つの手法と して、地域ケア会議が位置づけられています。 (参考) 「地域包括支援センターの設置運営について」(平成 18 年 10 月 18 日厚生労働省老 健局振興課長ほか連名通知、最終改正:平成 25 年 3 月 29 日) 4 事業内容 (1)包括的支援事業 ④包括的・継続的ケアマネジメント支援業務について 包括的 ・ 継続的ケアマネジメント支援業務は、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることがで きるよう、介護支援専門員、主治医、地域の関係機関等の連携、在宅と施設の連携など、地域にお いて、多職種相互の協働等により連携するとともに、介護予防ケアマネジメント、指定介護予防支 援及び介護給付におけるケアマネジメントとの相互の連携を図ることにより、個々の高齢者の状況 や変化に応じた包括的・継続的なケアマネジメントを実現するため、地域における連携・協働の体 制づくりや個々の介護支援専門員に対する支援等を行うものである(法第115条の45第1項第5号)。 業務の内容としては、後述する「地域ケア会議」等を通じた自立支援に資するケアマネジメントの 支援、包括的・継続的なケア体制の構築、地域における介護支援専門員のネットワークの構築・活用、 介護支援専門員に対する日常的個別指導 ・ 相談、地域の介護支援専門員が抱える支援困難事例等へ の指導・助言を行うものである。 4 事業内容 (2)多職種協働による地域包括支援ネットワークの構築 包括的支援事業を効果的に実施するためには、介護サービスに限らず、地域の保健・福祉・医療サー ビスやボランティア活動、インフォーマルサービスなどの様々な社会的資源が有機的に連携するこ とができる環境整備を行うことが重要である。(法第 115 条の 46 第5項)このため、こうした連携体 制を支える共通的基盤として多職種協働による「地域包括支援ネットワーク」を構築することが必要 である。 法第5条第3項に掲げる地域における包括的な支援体制を推進するためには、このような地域包 括支援ネットワークを通じて、高齢者個人に対する支援の充実を図るとともに、それを支える社会 基盤の整備を図る必要がある。そのための一つの手法として、「行政職員をはじめ、地域の関係者 から構成される会議体」(以下「地域ケア会議」という。)を、センター(又は市町村)が主催し、設置・ 運営することが考えられる。 20 第2節●地域支援事業と地域ケア会議の位置付け 節 地域ケア会議の役割 地域ケア会議の意義 1 3 第1章 第 地域ケア会議の定義 地域ケア会議は、地域包括支援センターまたは市町村が主催し、設置 ・ 運営する「行政職 員をはじめ、地域の関係者から構成される会議体」と定義されています。 そして、地域ケア会議の構成員は、「会議の目的に応じ、行政職員、センタ−職員、介護 支援専門員、介護サービス事業者、保健医療関係者、民生委員、住民組織等の中から、必要 に応じて出席者を調整する」とされています。 多職種協働による地域包括支援ネットワークの構築に当たっては、①センター単位のネッ トワーク、②市町村単位のネットワーク、③市町村の圏域を超えたネットワークなど、地域 の特性に応じたネットワークを構築することにより、地域の関係者との相互のつながりを築 き、日常的に連携が図られるよう留意する必要があります。 2 地域ケア会議の目的・機能等 (1)地域ケア会議の目的 地域ケア会議の目的は、 「地域包括支援センターの設置運営について」で明示されています。 (参考) 「地域包括支援センターの設置運営について」(平成 18 年 10 月 18 日厚生労働省老 健局振興課長ほか連名通知、最終改正:平成 25 年 3 月 29 日) 4 事業内容 (2)多職種協働による地域包括支援ネットワークの構築 ①地域ケア会議の目的 ア 個別ケースの支援内容の検討を通じた、 (ⅰ)地域の介護支援専門員の、法の理念に基づいた高齢者の自立支援に資するケアマネジメントの支援 (ⅱ)高齢者の実態把握や課題解決のための地域包括支援ネットワークの構築 (ⅲ)個別ケースの課題分析等を行うことによる地域課題の把握 イ その他地域の実情に応じて必要と認められる事項 21 (ⅰ)介護支援専門員による 自立支援に資するケア マネジメントの支援 ア) 個別ケースの 支援内容の検討 (ⅱ)地域包括支援ネット ワークの構築 (ⅲ)地域課題の把握 イ) 地域の実情に応じて必要と認められる事項 「ア」に示されるとおり、地域ケア会議は単に個別ケースの支援内容を検討することによっ て個別の課題解決を行うだけでなく、これらを通じ(ⅰ)に示すような介護支援専門員の自 立支援に資するケアマネジメントに関する実践力向上、(ⅱ)の地域包括支援ネットワーク の構築、あるいは、これらのプロセスから支援体制の脆弱さ、社会資源や人材の課題が浮き 彫りになることにより、(ⅲ)に示すような地域課題の把握を行うことを目的としています。 また、このような個別ケースの支援内容の検討を積み重ねることによって、共通する課題 や共通する要因を見いだすことができます。このように把握した地域課題や支援に関する成 功要因、また日常生活圏域ニーズ調査で把握された地域課題などをもとに、その地域に不足 している社会資源の開発、地域課題の解決のために必要な人材の育成、新たな仕組みづくり に向けた政策形成などにつなげていくことが、「イ」に示された地域の実情に応じて必要と 認められる事項だといえます。 このように地域ケア会議は、個別ケースの支援内容の検討による課題解決を出発点として、 介護支援専門員による自立支援に資するケアマネジメントの支援や地域包括支援ネットワー クの構築などを行うことによって、高齢者個人に対する支援の充実を実現するとともに、地 域課題を抽出し、その地域課題を地域づくり・社会資源の開発や施策等の充実によって解決 していくことで、高齢者への支援の土台となる社会基盤の整備を図っていきます。そして、 このような地域包括ケアシステムの整備および地域包括ケアの推進は、地域における尊厳あ るその人らしい主体的な生活の継続を実現することを可能にします。そのため、出発点とな る個別ケースの支援内容の検討は極めて重要であるといえます。 なお、地域ケア会議はひとつの手段であり、かつ地域包括ケアシステムもひとつの体制で あることを再認識し、それぞれを実施や構築することを目的化することなく、すべての活動 は地域の高齢者を始めとする住民が尊厳を保持した生活を地域で継続できることを目指して いることを忘れてはなりません。 22 第3節●地域ケア会議の役割 第1章 地域包括ケアシステム の実現へ 政策形成 社会基盤整備・介護保険事業計画等の 行政計画への位置づけなど 医療機関・薬局 訪問看護ステーション 地域づくり・資源開発の検討 警察署 地域ケア会議の意義 介護支援専門員 在宅医療連携拠点 保健所・保健センター 消防署 地域課題の発見・把握 地域ケア会議 地域ケア会議 (個別ケース検討) (個別ケース検討) NPO 連絡調整 民生委員 住民組織 A地域包括支援センター B地域包括支援センター 圏域ごとの地域ケア会議 圏域ごとの地域ケア会議 民間企業等 ボランティア 社会福祉協議会 地域包括支援ネットワーク 介護サービス施設・事業者 市町村レベルの地域ケア会議 (2)地域ケア会議の機能 地域ケア会議は主に5つの機能を有します。個別ケースの支援内容の検討を通じて、主に 個別課題解決機能、地域包括支援ネットワーク構築機能、地域課題発見機能が発揮されます。 また、地域の実情に応じて必要と認められるものとして、地域づくり・資源開発機能や政策 形成機能が発揮されると考えられます。これらの機能は相互に関係し合い、循環しています。 各機能の有機的な相互連関(相互補完)を実現 できるよう、市町村の実情に応じて、参加者や設 地域ケア会議の持つ機能 置範囲の異なる地域ケア会議やその他の会議を組 み合わせることが、市町村には求められます。 平成 25 年 2 月 14 日に発出された『「地域ケア会議」に 関するQ&A』および平成 25 年3月 29 日改正の「地域包 括支援センターの設置運営について」に沿って、「地域 包括支援センター運営マニュアル 2012〜保険者・地域 包括支援センターの協働による地域包括ケアの実現を めざして〜」(一般財団法人 長寿社会開発センター) の記載から一部変更しています。 ①個別課題解決機能 ・個別課題解決機能には二つの意味があります。一つは、個別ケースについて多機関・多 ・ 職種が多角的視点から検討を行うことにより、被保険者(住民)の課題解決を支援する という意味です。もう一つは、そうしたプロセスを通して、地域包括支援センター職員 や介護支援専門員等の実践上の課題解決力向上を図ることで、被保険者への自立支援に 資するケアマネジメント等の支援の質を高めるという意味です。 ・地域ケア会議で取り上げる個別ケースについては、支援に困難を感じているケースや自 ・ 23 立に向けた支援が難しいケース、あるいは地域の課題だと考えられるケースなどが考え られます。 ・こうした個別事例に基づく検討を通して、個人・家族・環境等の課題とその要因を分析 ・ し、個別課題の解決のみならず、次の②地域包括支援ネットワーク構築機能や、③地域 課題発見機能、④地域づくり・資源開発機能、⑤政策形成機能につながっていきます。 ②地域包括支援ネットワーク構築機能 ・地域包括支援ネットワーク構築機能は、 ・ 地域の関係機関等の相互の連携を高める機能です。 ・個別ケースの検討を通じて、個別課題や地域課題を解決するために必要な関係機関等の ・ 役割が明らかになるとともに、課題解決に向けて関係機関が具体的に連携を行うことに よって、連携が強固かつ実践的なものになり①個別課題解決機能が高まります。 ・同時に、ネットワークの構築が必要だと考えられる機関や人々、および不足している社 ・ 会資源等が明らかになり、③地域課題発見機能、④地域づくり・資源開発機能、⑤政策 形成機能につながっていきます。 ③地域課題発見機能 ・地域課題発見機能は、個別ケースの背後に、同様のニーズを抱えた要援護者やその予備 ・ 群を見出し、かつ関連する事実や課題、地域の現状等を総合的に判断して、解決すべき 地域課題を明らかにする機能です。 ・発見された課題 ・ (たとえば、認知症の独居や虐待等)に対して、どのような解決策 ・ 改 善策が可能かを検討するプロセスのなかで、関係機関の必要な取り組み・役割等が明ら かになります。また、どのような公的サービスやインフォーマルサービス等が必要かを 検討することが、④地域づくり・資源開発機能や⑤政策形成機能につながっていきます。 ・検討した解決策や改善策の実現を妨げる要因が見つかる場合には、そのこと自体も、地 ・ 域の課題として関係者に認識が共有されることになります。 ④地域づくり・資源開発機能 ・地域づくり・資源開発機能は、インフォーマルサービスや地域の見守りネットワークな ・ ど、必要な地域資源を地域で開発していく機能です。 ・地域の実態や特性に応じて状況が異なるため、地域ごとに個別的な地域課題があり、こ ・ れらに応じた個々の解決策が必要になります。地域ケア会議ではその点を踏まえて地域 づくりを行うことになります。また、地域ケア会議を通じて関係者・グループに働きか けをすることで、それぞれの活動内容、役割、得意分野などを活かした地域づくり・資 源開発につながっていきます。 ・地域づくり、資源開発を行うことで、個人に対する支援のネットワークの網の目は細か ・ くなり、それがさらに①個別課題解決機能の向上につながっていきます。 24 第3節●地域ケア会議の役割 ・また地域づくりや資源開発に対して、必要な行政のサポートや関係機関の役割等が明ら ・ 第1章 かになれば、⑤政策形成機能にもつながってきます。 ⑤政策形成機能 地域ケア会議の意義 ・政策形成機能は、狭義には、市町村による地域に必要な施策や事業の立案・実施につな ・ げる機能であり、広義には、都道府県や国への政策の提言までを含む機能です。 ・具体的には、③で発見された地域課題の解決に向けて、優先順位や利用可能な地域資源 ・ 等を検討して、解決のための政策等を立案したり、②ネットワーク構築機能や④地域づ くり・資源開発機能を十分に発揮するための施策等を立案していくことになります。こ れらは、①個別課題解決機能を高めることになります。 ・市町村にとっては、地域に必要だと考えられる住民、NPO、地域包括支援センター、 ・ 介護保険サービス事業者等への支援策を含めたさまざまな取り組み・政策や、中期的目 標に向けた具体的プロセスが、地域ケア会議を通して明らかになってきます。 ・市町村以外の関係機関等にとっても、課題の解決に向けて、自分たちに必要な取り組み ・ (個別課題解決に留まらない取り組み)が明らかになってきます。 ・一方、ある政策や事業を行えば、その地域課題がすべて解決するというわけではないの ・ で、評価を行った上で、さらなる課題の発見や、関係機関の役割の確認など、②~⑤の 機能が再度要請されることになり、各機能は循環することになります。 「地域ケア会議」の5つの機能 機 個別ケースの検討 能 個別課題 解決機能 地域課題の検討 ネットワーク 構築機能 地域づくり・ 資源開発 機能 地域課題 発見機能 ←実務者レベル 地域住民の 安心・安全と QOL向上 代表者レベル→ 具体的内容 ■地域包括支援ネットワークの構築 ■自立支援に資するケアマネジメント の普及と関係者の共通認識 ■住民との情報共有 ■課題の優先度の判断 ■連携・協働の準備と調整 ■潜在ニーズの顕在化 ・サービス資源に関する課題 ・ケア提供者の質に関する課題 ・利用者、住民等の課題 等 ■顕在ニーズ相互の関連づけ ■自立支援に資するケアマネジメントの支援 ■支援困難事例等に関する相談・助言 ※自立支援に資するケアマネジメントとサービス提供の 最適な手法を蓄積 ※参加者の資質向上と関係職種の連携促進 →サービス担当者会議の充実 規模・範囲・構造 個別事例ごとに開催 政策 形成 機能 地域包括 ケアシステムの 実現による ■需要に見合ったサービスの基盤整備 ■事業化、施策化 ■介護保険事業計画等への位置づけ ■国・都道府県への提案 ■有効な課題解決方法の確立と普遍化 ■関係機関の役割分担 ■社会資源の調整 ■新たな資源開発の検討、地域づくり 自助・互助・共助・ 公助を組み合わせ た地域のケア体制 を整備 検討結果が個別支援にフィードバックされる 日常生活圏域ごとに開催 市町村・地域全体で開催 個別事例の課題解決を 蓄積することにより、 地域課題が明らかになり、 普遍化に役立つ 市町村レベルの検討が円滑に進むよう、 圏域内の課題を整理する 地域の関係者の連携を強化するとともに、 住民ニーズとケア資源の現状を共有し、 市町村レベルの対策を協議する ※地域ケア会議の参加者や規模は、検討内容によって異なる。 25 このような地域ケア会議の目的や機能を一度の会議ですべて網羅することは困難です。地 域の実情に応じて、個別ケース検討の地域ケア会議、日常生活圏域ごとの地域ケア会議、市 町村レベルの地域ケア会議等を組み合わせ、全体としてすべての機能を果たすことができる ように整備します。また、住民の生活や関係機関団体との関係性、近隣市町村との課題の共 有などにより、近隣市町村と合同での会議を開催するなど、市町村の枠にとらわれない住民 本位の会議形態を取る視点も持ち、整備を進めていくことも大切です。そして、地域住民が 安心して生活することができる地域づくりを目指して、ひとつの手段である地域ケア会議を 有効に活用していきましょう。 (3)地域ケア会議の名称 会議の目的や機能に応じて地域の関係者等が理解しやすいように、名称を設定することも あり得ます。例えば、①個別課題解決機能、②地域包括支援ネットワーク構築機能、③地域 課題発見機能を主に果たす地域ケア会議を「地域ケア個別会議」とし、④地域づくり ・ 資源 開発機能や⑤政策形成機能を主に果たす地域ケア会議を「地域ケア推進会議」とすることが 考えられます。 また、これまで「地域ケア会議」という名称を使用していなくても、前述の目的や機能を 有する行政職員や地域の関係者等による会議を実施している場合には、あえて「地域ケア会 議」という名称に変更する必要はありません。地域ケア会議の目的や機能を正確に踏まえた うえで、地域の実情に応じて、地域ケア会議の機能等を最も有効に発揮できるように工夫す ることが必要です。 26 第3節●地域ケア会議の役割 4 節 第1章 第 地域ケア会議とその他の会議との相違点 つけて地域づくりを推進していきます。そのために、5 つの機能(個別課題解決機能、地域 包括支援ネットワーク構築機能、地域課題発見機能、地域づくり・資源開発機能、政策形成 機能)が連携し、有機的に構築されることが重要です。 つまり、地域ケア会議とは、個別ケースの検討を始点として、地域づくりを行っていくた めの会議の総称といえます。地域ケア会議は、会議の名称や開催方法等ではなく、先述の5 つの機能が循環して地域づくりを行っていくという目的に合致していることが重要になりま す。地域ケア会議とその他の会議との相違点を理解したうえで、地域包括ケアシステムの構 築に向けて有効に機能するように全体像を見ながら活用していきましょう。 1 サービス担当者会議との相違点 「サービス担当者会議」は、介護支援専門員が主催し、利用者がそのニーズに応じたサー ビスを適切に活用できるように、ケアマネジメントの一環として開催するものです。一方、 個別ケースを検討する地域ケア会議は、市町村または地域包括支援センターが主催し、包括 的支援事業の一環として開催します。検討するケースのサービス担当者に限らず、地域の多 職種の視点から課題の解決に向けた検討がなされます。検討されるケースも要支援や要介護 高齢者に限定されません。また、ご本人や家族が参加することもあれば、されない場合もあ ります。あくまで達成しようとする目的や機能に応じて、地域ケア会議の検討事例や参加者 が判断されます。 サービス担当者会議において、担当介護支援専門員の有するネットワークでは補いきれな い、多職種の視点や連携が必要であるような場合においては、地域ケア会議を活用すること が有効な手段です。そして、地域ケア会議への参加を通して、介護支援専門員の自立支援に 資するケアマネジメント実践力が向上した結果、サービス担当者会議がより充実することが 期待されています。 27 地域ケア会議の意義 地域ケア会議は個別ケースの支援内容の検討を通じて、地域の課題を把握し、解決に結び 地域ケア会議(個別ケース検討) 地域包括支援センターまたは市町村 項目 サービス担当者会議 開催主体 介護支援専門員(契約が前提) ケース当事者への支援内容の検討、地域包括 目 支援ネットワーク構築、自立支援に資するケ アマネジメントの支援、地域課題の把握など 的 利用者の状況等に関する情報共有、サービス 内容の検討および調整など ・「地域支援事業の実施について」 ・ (厚生労働 根 省老健局長通知) ・「地域包括支援センターの設置運営につい ・ て」 (厚生労働省老健局振興課長ほか連名通 知) 拠 「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営 に関する基準」第13条第9号 行政職員、センター職員、介護支援専門員、 参 加 者 居宅サービス計画の原案に位置づけた指定居 介護サービス事業者、保健医療関係者、民生 宅サービス等の担当者、主治医、インフォー 委員、住民組織、本人・家族等 マルサービスの提供者、本人・家族等 サービス担当者会議で解決困難な課題等を多 内 職種で検討 (例) ・支援者が困難を感じているケース ・ ・支援が自立を阻害していると考えられる ・ ケース ・支援が必要だと判断されるがサービスにつ ・ ながっていないケース ・権利擁護が必要なケース ・ ・地域課題に関するケース 等 ・ (詳細はP44 ~ 47 参照) 2 容 ・サービス利用者の状況等に関する情報の担 ・ 当者との共有 ・当該居宅サービス計画原案の内容に関する ・ 専門的見地からの意見聴取 事例検討会との相違点 事例検討会は様々な目的で実施されていますが、援助者の実践力の向上を主目的とする場 合には、研修としての意味合いが強く、地域ケア会議とは異なります。逆に、これまで説明 した地域ケア会議と同じ目的および機能を果たしているものであれば、名称にかかわらず地 域ケア会議として整理することができます。 3 高齢者虐待対応の「個別ケース会議」との相違点 高齢者虐待対応の「個別ケース会議」は、市町村責任において「高齢者虐待防止法」(第 9 条1項、第 16 条)に基づき開催され、高齢者虐待対応の方針検討 ・ 支援計画の策定をするた めに必要なメンバーで構成される会議です。(厚生労働省老健局『市町村 ・ 都道府県におけ る高齢者虐待への対応と養護者支援について』平成 18 年 4 月,p57) そのため、高齢者虐待対応において、「個別ケース会議」の代替として地域ケア会議を開 催することは適切ではありません。また、「個別ケース会議」に限らず、高齢者虐待事例ま たはその疑いがある事例の対応に関する諸会議(コアメンバー会議等)についても、高齢者 虐待防止法に基づく会議として取り扱い、地域ケア会議とは別に位置づける必要があります。 虐待に該当する事例が地域ケア会議での検討事例として持ち込まれた場合には、例え事例 28 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 を持ち込んだ介護支援専門員に虐待事例であるという自覚がなかったとしても、地域ケア会 対応事例として取り組む(事実確認やコアメンバー会議、個別ケース会議を行い対応する等) 第1章 議を主催する市町村や地域包括支援センターが虐待事例に該当していることを説明し、虐待 ことになります。 地域ケア会議の意義 ただし、高齢者虐待防止に資する連携協力体制構築のために、包括的支援事業の権利擁護 業務の一環として、地域ケア会議を活用することはあり得ます。この場合、終結した高齢者 虐待対応の事例を個人が特定されないよう改変した上で会議メンバーで共有し、地域課題の 把握・検討の形をとる等、会議で事例を使う場合には配慮が必要です。 権利擁護業務の一環として、地域ケア会議を活用する場合、以下のような地域課題の把握 及び検討が行われると想定されます。 ①虐待事例の要因分析を通して、その要因が地域に共通する課題になっているかどうか の検討と、その対応の検討 (例:地域住民の認知症への偏見による介護のしにくさや、サービス不足等の生活しづ らさによる虐待の発生等) ②通報 ・ 相談の遅れや関係機関の協力拒否等、高齢者虐待の連携協力体制上の課題の共 有と対応の検討 (例:地域住民や関係機関の高齢者虐待についての理解不足や、個人情報の問題等) ③高齢者虐待防止・対応において緊急分離をする際の課題共有と対応の検討 (例:やむを得ない事由による措置や市町村独自の緊急分離施策の説明と、実際の運用 上の困難等) ④成年後見制度を活用する際の課題共有と対応の検討 (例:訪問して診断書を書いてくれる体制の必要性や後見人候補者の不足、成年後見制 度利用支援事業の課題等) なお、市町村単位における高齢者虐待防止ネットワークの構築については、「高齢者虐待 防止法」(第 16 条)で「連携協力体制の整備」が示されていることから、すでに市町村ごとの 取り組みが行われているところでもあります。この場合、地域包括支援センター主催の地域 ケア会議で、センター圏域ごとの高齢者虐待防止上の課題把握や提言の検討を行い、これら をベースとして市町村単位の高齢者虐待防止ネットワークを構築し、より具体的な連携協力 体制の整備や政策決定を行う等、高齢者虐待防止ネットワークと地域ケア会議について連動 させて考える等の工夫も、考えられるところです。 ここまで説明したように、個々の虐待事例に対応するための個別ケース会議等は地域ケア 会議とは異なるものであり、法令上も運用上も地域ケア会議とは別に開催する必要がありま す。しかし、虐待対応に必要とされる地域のネットワーづくり、虐待対応における地域の問 題・課題の把握やその解決方法の検討などは地域ケア会議によって行うことができます。な お、参加者の便宜を図るため、地域ケア会議の後に(あるいは前に)個別ケース会議を設定し、 必要なメンバーだけが参加して開催するのであれば問題はないでしょう。 29 4 地域包括支援センター運営協議会との相違点 地域包括支援センター運営協議会は、地域包括支援センターの業務に関する評価を行い、 センターの適切、公正かつ中立な運営の確保を目指すことを目的としていますが、「地域包 括支援センターの設置運営について」7−(3)に規定する所掌事務のうち、「(e)その他の地 域包括ケアに関すること」について、地域づくり ・ 資源開発や政策形成等の地域ケア会議の 目的や機能に合致する内容の検討を行う場合には、地域ケア会議に置き換えられます。 5 研修会との相違点 支援者の技能向上を目標として開催される研修会などについて、研修そのものについては 地域ケア会議とは位置づけられません。個別事例の積み重ねを通じて、支援者の資質が地域 課題として取り上げられ、その対策として研修会を開催するといった決定までのプロセスは 地域ケア会議に該当します。つまり、個別事例の積み重ねから地域課題を発見し、その解決 のための手法を検討することまでが地域ケア会議であり、その結果行われる取り組みは地域 ケア会議以外の事業として整理する必要があります。 6 その他の会議との相違点 顔の見える関係づくりのみを目的としたネットワーク会議や懇談会といったものは地域ケ ア会議とは異なります。しかしながら、関係性を構築することのみを目的とせず、個別支援 においての連携強化や、地域の基盤整備を目指すための顔合わせといった、具体的な目標に 向かうなかでの一環として開催される場合は、地域ケア会議として位置づけることも可能と なります。 他の会議において、地域ケア会議と同じ参加者で構成される場合においては、参加者の都 合などを考慮して同日に開催するなどの工夫をすることは考えられます。ただしこの場合に ついては、会議の目的・機能が異なることから、会議を置き換えてしまわないようにする必 要があり、あくまでも別の目的の会議と地域ケア会議を切り離して行うことが前提となりま す。 30 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 第 2 章 地域ケア会議の構築・運営 第 1 節 地域ケア会議の設置・構築 第2章 地域ケア会議の設置・構築については、地域により山間地域から都市部まで、また人口や高 齢化率の違いなど、様々なシチュエーションがあるため、その中で画一的な定義をすることは 困難です。その地域にあるヒト・モノといった地域資源・地域特性を考慮し、地域としての目 標を設定したうえで、その実現へと向かうという目的のもと、通知(「地域包括支援センター 関係を実現できるように、地域ケア会議を設置、そして構築・運営していくことが重要です。 1 地域ケア会議の設置主体 地域ケア会議の設置主体は、地域包括支援センター、または市町村(保険者)となることが、 通知(「地域支援事業の実施について」)に明記されています。市町村は地域の実情に応じた 地域包括ケアシステムを想定したうえで、その実現に向けて有効だと考えられる地域ケア会 議を、地域包括支援センターとともに設置および構築していく必要があります。 (参考)地域支援事業実施要綱(「地域支援事業の実施について」(平成 18 年 6 月 9 日厚生労 働省老健局長通知、最終改正:平成 24 年 4 月 6 日) 第2 事業内容 2 包括的支援事業 (1)~(4)省略 (5)包括的支援事業の実施に際しての留意事項 ―前略― 地域包括支援ネットワークの構築のための一つの手法として、例えば、地域包括支援センター (または市町村)が、行政職員、地域包括支援センター職員、介護支援専門員、介護サービス事業者、 医療関係者、民生委員等を参集した「地域ケア会議」を設置・運営すること等が考えられる 2 地域ケア会議構成例 人口規模や社会資源の状況等により、市町村の判断で地域ケア会議の構成スタイルは異 なってきます。ここでは①日常生活圏域と市町村の範囲が同じ場合と、②日常生活圏域と市 町村の範囲が異なる場合(市町村内に複数の日常生活圏域がある)の地域ケア会議の構成例 を取り上げます。 地域ケア会議を構成していくにあたっては、ここでの例にとらわれることなく、地域の実 情に応じ、どのような構成が適切であるかを検討し、決めていくことが重要です。 33 地域ケア会議の構築・運営 の設置運営について」)に示される地域ケア会議の目的の達成および機能の有機的相互・循環 【日常生活圏域と市町村の範囲が同じ場合】 個別ケースの検討を行う個別レベルと地域課題の検討を行う市町村(日常生活圏域)レベ ル及び市町村を越えたレベルの地域ケア会議で構成されます。 日常生活圏域と市町村の範囲が同じであるため、市町村内(日常生活圏域内)の個別ケー スの検討結果を積み上げることで発見された地域の課題は、そのまま市町村全域の課題であ るといえ、市町村(日常生活圏域)レベルや市町村を越えたレベルの地域ケア会議で解決を 目指します。 少ない会議で多くの地域ケア会議機能を発揮していかなければなりませんが、それは逆に 地域包括支援ネットワーク機能や地域づくり機能等を発揮しやすい環境にいるともいえます。 市町村(日常生活圏域)レベルや市町村を越えたレベルでは、必ず市町村(保険者)が参画す ることが重要です。 全てのレベルにおいて、そのつながりは双方向に作用し合います。個別レベルの積み上げ から発見された地域課題をより広域の会議へと持ち上げていく方向は勿論ですが、日常生活 圏域レベルや市町村レベルで把握および対応を検討した課題に関するケースを個別レベルで 検討するといった方向もあり得ます。 市町村を越えたレベル 地域ケア会議 市町村(日常生活圏域)レベル 地域ケア会議 設置範囲 市町村を越えたレベル 会議目的 地域課題の把握および対応など 有する機能 設置範囲 市町村(日常生活圏域)レベル 会議目的 地域課題の把握および対応など 有する機能 個別レベル 地域ケア会議 34 第1節●地域ケア会議の設置・構築 地域包括支援ネットワーク構築機能、 地域づくり ・ 資源開発機能、政策形 成機能など 地域包括支援ネットワーク構築機能、 地域課題発見機能、地域づくり ・ 資 源開発機能、政策形成機能など 設置範囲 個別レベル 会議目的 個別課題の解決、介護支援専門員に よる自立支援に資するケアマネジメ ン ト の 支 援、 地 域 包 括 支 援 ネ ッ ト ワークの構築、地域課題の把握など 有する機能 個 別 課 題 解 決 機 能、 地 域 包 括 支 援 ネットワーク構築機能、地域課題発 見機能など (個別レベル) 主に個別課題解決機能や地域包括支援ネットワーク構築機能、地域課題発見機能を担うレ ベルとなります。個別ケースの支援内容を検討する中で、個別の課題解決を行うとともに、 そこでの検討を通して担当者レベルでのネットワーク構築を推進させること、そして、個別 ケースの積み上げを行うことによる地域課題の発見を目的とします。高齢者が地域でその人 第2章 らしい生活を継続することを可能とするため、その人が有する課題の解決に向けた検討を行 うことにより、ケアの質を高めるとともに、会議参加者のスキルアップへとつながります。 地域ケア会議の目的を達成する検討を行うために、開催主体である地域包括支援センター や市町村が地域ケア会議が有効だと考えられる適切なケースを選定すること、そして、それ 地域ケア会議の構築・運営 らの検討に適任な参加者を選定することが重要です。 また、日常生活圏域と市町村域が同等である故に、地域包括支援センター職員等が地域の 実情に精通しており、個別課題の検討を進める中で地域課題を把握しやすいという利点もあ ります。このような利点を最大限活かすためには、地域づくりの視点を常に持ち、会議を開 催・運営することが重要です。 (市町村(日常生活圏域)レベル) 把握されている地域課題について、具体的に市町村(保険者)と地域包括支援センターが 協働し、解決へ向けた検討を行うレべルとなります。その後、課題の内容ごとに解決へと向 けたチームまたは事業などを立ち上げていくこととなります。その際には、日常生活圏域で 積み上げられた、個別事例ごとの支援策が有効なヒントとなります。 このレベルでは市町村(保険者)と地域包括支援センターの連携が特に重要となるため、 例えば参加者として誰を招集すれば良いのか、チームや事業を立ち上げた際のお互いの役割 分担をどのように行っていくか、事業等推進のために地域ケア会議をどのように活用するか、 といった様々な点で、きめ細かく調整を図っていくことが大切です。 (市町村を越えたレベル) 交通手段の課題のように、把握されている地域課題が市町村を横断している場合には、同 様の課題を有する近隣の市町村と課題を理解し、対応を検討する必要があります。また、道 路や医療資源の不足、法制度上の課題等の市町村内での課題解決が困難な場合にも、都道府 県や国等に対する政策の提言に向けて検討を行います。 35 【日常生活圏域と市町村の範囲が異なる場合】 個別ケースの検討を行う個別レベルと地域課題の検討を行う日常生活圏域、市町村、市町 村を越えたレベルの地域ケア会議で構成されます。 日常生活圏域と市町村の範囲が異なるため、個別レベルの地域ケア会議から発見された課 題を日常生活圏域レベルの地域ケア会議で集約・整理し、さらにはそれぞれの日常生活圏域 の課題を市町村レベルの地域ケア会議にて集約し、様々な範囲の課題の解決を、段階を経て 目指します。 全てのレベルにおいて、そのつながりは双方向に作用し合います。個別レベルの積み上げ から発見された地域課題をより広域の会議へと持ち上げていく方向は勿論ですが、日常生活 圏域レベルや市町村レベルで把握および対応を検討した課題に関するケースを個別レベルで 検討するといった方向もあり得ます。 設置範囲 市町村を越えたレベル 会議目的 市町村を越えた地域課題の把握およ び対応など 有する機能 市町村を越えたレベル 地域ケア会議 設置範囲 市町村レベル 会議目的 市町村における課題の把握および対 応など 市町村レベル 地域ケア会議 有する機能 日常生活圏域レベル 地域ケア会議 個別レベル 地域ケア会議 第1節●地域ケア会議の設置・構築 地域包括支援ネットワーク構築機能、 地域課題発見機能、地域づくり ・ 資 源開発機能、政策形成機能など 設置範囲 日常生活圏域レベル 会議目的 日常生活圏域における課題の把握お よび対応など 有する機能 36 地域包括支援ネットワーク構築機能、 地域づくり ・ 資源開発機能、政策形 成機能など 地域包括支援ネットワーク構築機能、 地域課題発見機能、地域づくり ・ 資 源開発機能など 設置範囲 個別レベル 会議目的 個別課題の解決、介護支援専門員に よる自立支援に資するケアマネジメ ン ト の 支 援、 地 域 包 括 支 援 ネ ッ ト ワークの構築、地域課題の把握など 有する機能 個 別 課 題 解 決 機 能、 地 域 包 括 支 援 ネットワーク構築機能、地域課題発 見機能など (個別レベル) 主に個別課題解決機能、地域包括支援ネットワーク構築機能、地域課題発見機能を担うレ ベルとなります。個別ケースの支援内容を検討する中で、個別の課題解決を行うとともに、 そこでの検討を通して担当者レベルでのネットワーク構築を推進させること、そして、個別 ケースの積み上げを行うことによる地域課題の発見を目的とします。 第2章 高齢者が地域でその人らしい生活を継続することを可能とするため、その人が有する課題 の解決に向けた検討を行うことにより、ケアの質を高めるとともに、会議参加者のスキルアッ プへとつながります。 地域ケア会議の目的を達成する検討を行うために、開催主体である地域包括支援センター 地域ケア会議の構築・運営 や市町村が地域ケア会議が有効だと考えられる適切なケースを選定すること、そして、それ らの検討に適任な参加者を選定することが重要です。 (日常生活圏域レべル) 日常生活圏域レベルの地域ケア会議は、個別ケースの積み重ねから発見される地域の課題 について整理・解決策の検討を行う会議として位置づけられます。 市町村の日常生活圏域の設置範囲の状況によって、日常生活圏域以外の設置範囲となる場 合は、担当者の担当圏域ごとや、各地域包括支援センターの担当エリアごとになる場合が主 です。ここで検討を行い、更なる検討や対応が必要だと判断されるケースや市町村全体の地 域課題等については、整理を行い、市町村レベルの地域ケア会議へと持ち上げます。 日常生活圏域レベルで構築されるネットワークなどは個別支援の土台(基盤)となり、また、 その圏域内における支援が行いやすくなる・支援を受けやすくなる、という形で双方向に作 用し合うため、安心して生活が送れる地域の実現へと活かされることになります。 (市町村レベル) 日常生活圏域レベルの地域ケア会議により取りまとめられた、政策的な対応が必要となる ような課題や市町村全体の課題について、市町村レベルで検討を行います。このレベルの地 域ケア会議では政策形成や資源開発といった視点での会議が行われます。 日常生活圏域レベルでの地域ケア会議と同じく、市町村レベルで構築されるネットワーク や政策・資源等は全て個別の支援へと活きていくものになります。 (市町村を越えたレベル) 日常生活圏域と市町村の範囲が同じ場合と同様に、交通手段の課題のように、把握されて いる地域課題が市町村を横断している場合には、同様の課題を有する近隣の市町村と課題を 理解し、対応を検討する必要があります。また、道路や医療資源の不足、法制度上の課題等 の市町村内での課題解決が困難な場合にも、都道府県や国等に対する政策の提言に向けて検 討を行います。 37 3 地域ケア会議の設置および構築 (1)地域ケア会議設置の前段階 地域包括ケアに関わる関係者間において、地域の実情や特性、課題などを共有し、目標と する地域像の共有をすることは大変重要です。 ①地域の特性を理解する 地域に合わせた地域ケア会議を構築するにあたり、その地域の特性を整理する必要があ ります。その際、人口や高齢化率、地形、歴史文化、産業構造、地域の協同性や関係性の 強さ、サービス事業所の数、地域包括支援センターの設置数、また直営か委託か、といっ た様々な要素を踏まえて地域特性を理解することが重要です。 ②目指すべき地域像を共有する 高齢者保健福祉計画、介護保険計画や地域福祉計画などで明示している市町村の構想を 再認識することが必要です。これらを踏まえた目指すべき地域像を地域の関係者で共有し ます。 地域ケア会議設置以前に、地域に存在している課題や特徴的な問題、さらに、短・中・ 長期の視点でどのような地域を作っていくのかという目標を共有していることが理想的で すが、これを行うために地域ケア会議を活用することもできます。 (2)地域ケア会議の設置 地域ケア会議を設置するには様々な準備が必要になります。これらの準備がそれぞれの地 域に合った地域包括ケアを推進する地域ケア会議の構築および運用を可能にします。 ①地域ケア会議の目的や機能を共有する 活用できる地域ケア会議を設置するためには、地域ケア会議の目的や機能を十分理解し たうえで、その重要性を市町村や地域包括支援センターはもちろんのこと、地域の関係者 が理解する必要があります。このような理解は、地域ケア会議への参加を通して深まるも のですが、その前にも周知していくことが重要です。 ②地域に合った地域ケア会議の全体構成像を構想する 地域の実情に合った地域ケア会議を設置するには、地域特性を踏まえ目指すべき地域像 を想定したうえで、そこに至るのに最も効果的だと考えられる地域ケア会議の全体構成像 を検討します。例えば、人口が少なく、地域包括支援センターが1か所のみ配置されてい るような市町村において、むやみに多くの会議を設置したとすれば、会議参加者の負担が 大きくなることが予想されます。反対に、都市部において少ない会議数で構築すれば、圏 38 第1節●地域ケア会議の設置・構築 域内の人口が広大になり、会議に求められる機能が発揮しきれないことが考えられます。 前述した地域ケア会議の構成例や後述の「第3章 地域ケア会議の実践例」を参考に、そ れぞれの地域に合った地域ケア会議の構成を考えます。その際、現在開催されている会議 や研修会等を再確認し、地域ケア会議のみならず、関係する会議等を加えて、これまでの 蓄積を活かす方向で地域ケア会議の全体構成像を構想することが重要です。 地域ケア会議の全体構成が決定されたら、個々の地域ケア会議についても検討します。 第2章 ③個々の地域ケア会議の目的等を検討する ここでは、目的とどのような機能を果たす会議にするのかを明確にしたうえで、それを達 地域ケア会議の構築・運営 成するために最も適切だと考えられる主催者、開催頻度、対象範囲、会議参加者、運営方 法などを決定します。これらの決定事項はあくまで暫定であり、実際に運営する中で評価 しながら柔軟に改善していきます。 ④地域ケア会議の設置に関して周知する 地域ケア会議に関係すると考えられるあらゆる組織や人々に、自分たちの地域における 地域ケア会議に関して具体的に周知していきます。例えば当該市町村の地域ケア会議に関 する説明資料等を作成し、市町村全域での周知を行うことなどが市町村(保険者)の役割 だと考えられます。一方で、各圏域ごとの周知活動は地域包括支援センターが行うといっ た役割分担も考えられます。 (3)地域ケア会議の構築 地域ケア会議が設置できたからといって、機能する会議になるわけではありません。地域 づくりを可能にする地域ケア会議にするためには、1回1回の地域ケア会議を評価し改善し ながら、地域ケア会議を育てていかなければなりません。ここでも、個別ケース検討のため の地域ケア会議のようなミクロの視点から地域全体における地域包括ケアシステムといった マクロの視点を持ちながら、地域ケア会議を構築していく必要があります。 ①実現可能な地域ケア会議を開催する どのような地域ケア会議を構成するかによって異なりますが、これまでの実践例を見る と、個別ケースの支援内容を検討する地域ケア会議をまず開催することが多いと思われま す。これまでの会議の開催経験なども踏まえ、実現可能性が高くかつ必要性の高い目的の 地域ケア会議から開催します。 ②開催した地域ケア会議を評価し構築を計画する 地域ケア会議を運営していく中で、一回一回の地域ケア会議の効果や、中期的な効果、 また長期の目線での効果、という視点での評価を行い、地域の目標に向かう取り組みの道 39 筋を確認しながら運営していくことが大変重要となります。そして、地域ケア会議の検討 内容や成果などを地域の関係者や地域住民等にフィードバックすることが、地域ケア会議 の理解を深めるとともに、有効な運営環境を整えて行きます。一度にすべての地域ケア会 議を開催しようと考えず、長期的目標を見据えて、例えばまず個別レベルの地域ケア会議、 これが機能したので圏域レベルの地域ケア会議といったように着実に地域全体の地域ケア 会議を構築していくことが大切です。 ③開催経験をもとに修正しながら地域ケア会議を構築する 地域ケア会議の評価を行った結果、地域の関係者とのネットワークが構築できていない 場合や地域住民が安心して住み続けられる地域づくりへと繋がっていない場合などのよう に、順調な運営が出来ていない場合に限らず、運営は順調だと考えられながらも更なる改 善が必要な場合には、地域の目標へと向かっていく中で、市町村(保険者)と地域包括支 援センターによる協議のもと、地域ケア会議の構築やその内容等について、地域特性を考 慮して判断し、修正を加えていくことが必要です。 (4)地域ケア会議の設置および構築における留意点 ①市町村(保険者)と地域包括支援センターの連携 地域ケア会議を設置、構築、運営していく中で、個別ケースの支援内容の検討に終始す ることなく、地域課題の発見、その解決へとつなげていくためには、市町村(保険者)と 地域包括支援センター(直営・委託共に)が連携を取ることが必要です。 特に委託型の地域包括支援センターの場合、発見された地域課題や地域の実情などの情 報や認識を保険者と共有し、連携強化を図ることが大変重要です。市町村(保険者)と地 域包括支援センターが相互に相談しながら取り組み等について決定していくことが基本の 形となるため、互いに積極的な連携を図ることが不可欠になります。 ②市町村(保険者)の責任 市町村(保険者)には、介護保険制度の運営責任者として、また、地域包括支援センター の設置主体として、設定した地域目標の達成についての責任があります。また、行政機関 そのものである直営型と、委託型の地域包括支援センターでは、行政権限の行使の面につ いて差異が生じるため、地域の長期目標へと向かう中において、その差異により地域包括 支援センターの役割が阻害されることのないよう、市町村(保険者)は連携 ・ バックアッ プを行うことが必要です。 具体的には、前述のように地域の実情に合った地域ケア会議の全体構成像の構想や地域 ケア会議の目的等の周知を行う必要があります。また、行政が管理する情報などを地域包 括支援センターに提供するなどの、地域ケア会議を開催する上で必要な環境を整備するこ とも忘れてはなりません。複数の地域包括支援センターがある市町村においては、それぞ 40 第1節●地域ケア会議の設置・構築 れの地域包括支援センター間の調整を行っていくことも市町村の役割になります。 ③他の会議の活用 地域包括支援センターまたは市町村(保険者)以外が設置運営している会議に、地域ケ ア会議として協議を行いたい参加者が集っている場合、その会議の時間を区切り、地域ケ ます。ただし、その際はあくまで 1 つの会議を切り分けることが重要であり、別の会議を 地域ケア会議と置き換えてしまわないことが必須となります。 第2章 ア会議として活用するなどの工夫を行うことが、参加者の負担軽減の側面から重要となり 他の会議を地域ケア会議として活用するためには、地域ケア会議の設置主体である地域 把握する必要があります。そのうえで、どの会議を地域ケア会議のどの機能として活用す るのかということを明確にすることが求められます。 活用を行う会議の例として、地域包括支援センター運営協議会や、地域に既に存在して いる民生委員協議会、社会福祉協議会等の定例会議があげられます。 41 地域ケア会議の構築・運営 包括支援センター、または市町村(保険者)が、地域に既存する会議の目的と機能を整理・ 第 2 節 地域ケア会議の運営 ここでは、個々の地域ケア会議の運営について説明します。地域に応じて多様な地域ケア 会議が考えられますが、個別ケースの検討を行う地域ケア会議(p42 〜60)と地域課題の検討 を行う地域ケア会議(p60〜p62)についてまとめてあります。ただ、それぞれは独立してい るわけではなく、そもそも個別ケースの支援内容を検討する会議において、「地域」に対す る視点を共通認識として持っていることで、個別課題の解決だけに留まることなく、地域の 課題を発見することにつながっていきます。 また、どのような会議であっても、関わるすべての人が各地域ケア会議の目的に対して共 通認識を持つことが重要になります。常に地域ケア会議の目的を共有し続けながら取り組む ことが、その機能を最大限に発揮する上でのポイントとなります。 1 個別ケースの検討を行う地域ケア会議 地域ケア会議で検討する個別ケースは多様ですが、地域ケア会議が有効だと考えられる主 なケースとして、①支援者が困難を感じているケース、②支援が自立を阻害していると考え られるケース、③支援が必要だと判断されるがサービスにつながっていないケース、④権利 擁護が必要なケース、⑤地域課題に関するケース、などが考えられます。 個別ケースの支援内容の検討を行う地域ケア会議では、このような様々な個別課題の検討 を通じ、a)多職種が個別ケースの支援内容を検討することによって課題解決を支援すると ともに、介護支援専門員の自立支援に資するケアマネジメントの実践力を高める「個別課題 解決機能」、b)地域の関係機関等の相互の連携を高め地域包括支援ネットワークを構築する 「ネットワーク構築機能」、c)個別ケースの課題分析等を積み重ねることによって、地域の 課題を把握する「地域課題発見機能」などを果たすことを目指します。 様々な個別課題の解決を行っていくためには、地域ケア会議の設定に関わらず、ケースの ニーズに応じて、会議の即時開催をする、あるいは、参加者を固定的に考えず柔軟な参加者 選定を行うといった、臨機応変かつきめの細かい対応を行っていくことが重要となります。 (1)ケースの選定の流れ ①地域包括支援センターの業務から選定するケース 高齢者個人に対する支援の質を高めるとともに、それを支える地域づくりを可能にする 方法である地域ケア会議の開催目的を踏まえて、ケースを選定します。ケースの発見にお いては、市町村への相談や苦情、介護保険事業者連絡協議会、介護支援専門員の連絡会等 42 第2節●地域ケア会議の運営 あらゆる機会を活用すべきですが、総合相談等の業務を通じて地域のあらゆるケースに接 する機会が多い地域包括支援センターが適切なケースを発見することが多いと考えられます。 総合相談受付(スクリーニング) 総合相談 支援業務 権利擁護 業務 包括的・ 継続的CM 支援業務 第2章 介護予防 CM業務 地域包括支援センターの業務の一環として地域ケア会議の必要性を判断した場合 地域包括支援センターのすべての業務の入り口となる総合相談において、相談者や支援 を必要としている人の状態や状況を踏まえたスクリーニングを行います(詳しくは、「地 域包括支援センター運営マニュアル」p63 〜)。そして、各業務につなげていくわけですが、 それぞれの業務の一環として、地域ケア会議の必要性を判断した場合に、地域ケア会議を 活用します。 例えば、介護支援専門員からの支援困難事例に関する相談があった場合、支援に関する 情報提供や助言等でサポートすることもありますが、必要に応じて同行訪問をして本人や 家族と面接をして、介護支援専門員をサポートすることもあります。このような包括的 ・ 継続的ケアマネジメント支援業務を通じて、サービス提供者に限らない多職種による支援 の検討や、多様な地域資源の活用のように、サービス担当者会議開催などの支援だけでは 介護支援専門員へのサポートが難しいと判断された場合等、地域ケア会議の開催が適切で あると判断した場合に個別ケース検討を行う地域ケア会議を活用します。その際、会議に ご本人や家族が参加しない場合や地域包括支援センターがご本人のアセスメントを行って いない場合には、地域ケア会議での検討内容は助言等のコンサルテーションとなります。 また、民生委員等の地域住民からの相談や苦情を受け、地域包括支援センターが主体と なってサービス等につながっていない高齢者等の支援を継続する際に、まず働きかけを検 討するための関係者による地域ケア会議を開催することがあります。 なお、権利擁護業務における高齢者虐待やその疑いのあるケースについては、高齢者虐 待防止法にもとづく会議として取り扱うため、地域ケア会議とは別の位置づけになります。 詳細は高齢者虐待対応の「個別ケース会議」との相違点(p28 ~ 29)や権利擁護が必要なケー ス(p45~ 47)を参照してください。 このように、総合相談からそれぞれの業務につながり、各業務の中で地域ケア会議の活用が 適切であると判断したケースを選定することが多いと思いますが、総合相談で情報提供や他機 関等への紹介およびフォローアップ等で終結に至ったケースについても、紹介先機関との連携 や情報提供方法の改善等を検討するために地域ケア会議を活用することも考えられます。 43 地域ケア会議の構築・運営 個別ケースの検討を行う地域ケア会議 ②市町村が選定するケース 市町村が地域課題を認識して、それに関するケースの提供を求める場合もあります。例 えば、在宅医療と介護の連携が地域の課題だと認識されている場合に、医療ニーズの高い 高齢者の在宅生活のケースを地域ケア会議の検討ケースとして選定することもあります。 同様に、地域の統計等から施設入所待機者数の増加が深刻な課題だと把握している場合に、 施設入所待機中の高齢者ケースを選定することもあり得ます。 また、例えば要介護認定の更新時などに、利用者の状態と給付量をもとに地域ケア会議 での検討が必要だと考えられるケースを選定することもできます。いずれにせよ、地域ケ ア会議が有効だと考えられるケースを選定することが不可欠です。 (2)地域ケア会議で検討するケース 個別ケースの検討を行う会議において取り上げる個別ケースは、市町村の方針に基づき、 地域包括支援センターまたは市町村が選定します。地域によって多様なケースが考えられま すが、主に次のような事例が考えられます。 ①支援者が困難を感じているケース 利用者の要因、インフォーマルなソーシャルネットワークの要因、制度等の要因、支援 者の所属組織の要因、関連専門職の要因、地域の要因、そして支援者の要因などによって、 支援者が利用者への支援において困難を感じることは多々あります。このようなケースに ついては、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務の一環として、介護支援専門員から 相談およびサポートの希望があった場合や、総合相談支援業務の一環として関係専門職や 地域住民等から相談や苦情があった場合などに、地域ケア会議での検討の必要性を判断し ます。 なかでも、多様な専門職による多面的な検討が必要な場合、多種多様な地域資源の活用 が必要な場合、インフォーマルな資源開発が必要な場合などに地域ケア会議を活用します。 ②支援が自立を阻害していると考えられるケース 支援者が認識しているかどうかにかかわらず、利用者の尊厳の保持、その人らしく主体 的に生きること等を阻害していると考えられる場合には、地域ケア会議で検討することも 必要になります。 ただし、サービスの提供が過少であることや、反対に過剰であることが原因となり、支 援が自立を阻害しているケースを地域ケア会議の検討ケースとして設定するにあたっては、 その根拠が必要になります。保険者は給付の適正に対する責任を持ち、介護保険法第 23 条に基づいた対応をすることができるため、例えば要介護認定の更新時などに、現在の状 態像と給付量をもとに支援が必要なケースを拾い上げるといったことが行えます。この場 合、地域包括支援センター又は市町村が再アセスメントを行ったうえでプランの適正を判 44 第2節●地域ケア会議の運営 断する必要があり、本人・家族が参加していない場合は、コンサルテーションの域を出な いことを認識しておく必要があります。ただし、委託型の地域包括支援センターでは、潜 在課題をもつケースの拾い上げが困難な場合があるため、保険者と地域包括支援センター における役割の違いを双方が理解し、お互いに共通の目的に基づいた役割分担をしていく ことが重要となります。 第2章 (参考)介護保険法第 23 条 (文書の提出等) 第二十三条 市町村は、保険給付に関して必要があると認めるときは、当該保険給付を受ける者若し 着型サービス(これに相当するサービスを含む。)、居宅介護支援(これに相当するサービスを含む。)、 施設サービス、介護予防サービス(これに相当するサービスを含む。)、地域密着型介護予防サービ ス(これに相当するサービスを含む。)若しくは介護予防支援(これに相当するサービスを含む。)を いう。以下同じ。)を担当する者若しくは保険給付に係る第四十五条第一項に規定する住宅改修を行 う者又はこれらの者であった者(第二十四条の二第一項第一号において「照会等対象者」という。)に 対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を求め、若しくは依頼し、又は当該職員に質問若しく は照会をさせることができる。 ③支援が必要だと判断されるがサービスにつながっていないケース 総合相談の中で、地域住民等からの苦情や相談等で、地域での生活を継続するのに何ら かの支援が必要であると考えられる高齢者等が、適切なサービスにつながっていないこと が明らかになる場合があります。このようなケースは、本人自ら支援を求めていない場合 が多く、支援困難なケースともいえます。主に、支援が難しく多様な専門職による検討が 必要であり、他に検討する会議が設定されていない、近隣住民との連携が不可欠となる等 の理由によって、地域ケア会議で検討すべきケースが多いと考えられます。 このようなケースの情報を早期に把握するためには、日ごろから、地域の住民組織や 様々な職種と関係づくりをしておくことが重要です。こうして構築した地域包括支援ネッ トワークのニーズ発見機能や相談連結機能が活かされます。 ④権利擁護が必要なケース 権利擁護業務では、本人が権利行使できない状況にあり、家族による高齢者の支援が期 待できないケースや、既に権利侵害が発生しているケース等を、早期に発見し対応してい ます。 ①適切な意思決定をできる人が世帯内におらず、生活が危機的状況にある独居の認知症高齢者等 ②地域で孤立し適切な生活ができていない虚弱高齢者等や高齢者のみの世帯 ③他者からの権利侵害が疑われる虐待や悪質商法、消費者被害等 ④支援を自ら拒否し、近隣住民とのトラブル等があり、福祉サービス等の利用ができない場合 ⑤世帯内にアルコール疾患や精神障害等をもつ者が同居する等さまざまな困難を抱え、介護保険サー 45 地域ケア会議の構築・運営 くは当該保険給付に係る居宅サービス等(居宅サービス(これに相当するサービスを含む。)、地域密 ビス利用だけでは解決できない複数の問題を内包している場合や適用できる制度やサービスがない 場合 等 出典:地域包括支援センター運営マニュアル2012(一般財団法人 長寿社会開発センター) このようなケースで発生している権利侵害を未然に予防するための地域での基盤整備、 または円滑に対応するための関係機関の体制整備を行うことなどを目的として、権利擁護 が必要なケースを地域ケア会議で選定することがあります。地域ケア会議において、地域 で発生している権利擁護が必要なケースの共通項の検討等を行うことで、「地域課題発見 機能」や「地域包括支援ネットワーク構築機能」が発揮され、権利擁護が必要なケースの発 生を未然に防ぐと同時に、個別の課題解決の円滑化も図られます。 また、権利擁護が必要なケースは、本人の生命にかかわり、迅速な対応が必要なケース もあるため、権利擁護の全体像を踏まえ、地域ケア会議で検討すべきケースか、高齢者の 尊厳保持、人権の救済・回復、虐待の解消のために法律に基づく対応を優先させるべきケー スか、緊急性を判断した上での選定が必要とされます。 重 大 低 生存権優先 ④生命や生活の危機回避のため、 公的権限や後見人選任による短期間的な介入 ③権利救済・回復・保護のため、高齢者虐待 防止法等権利擁護の法・制度・サービスを 駆使し、援助を図る ②権利侵害防止・予防、権利擁護・ 適切な権利行使のための成年 後見制度等の活用 軽 度 ①普段から、本人意思 尊重のための対人 支援としての 生命に 危険がある 生活の破綻 権利侵害があり 自分では回復できない 適切な権利行使ができず、 権利侵害に遭いやすく、 自分では回復できない アドボカシー 認知症などにより権利主張や行使・ 意思の実現が困難 主体的に自らの権利行使で生活できる 無 自己決定権尊重 高 出典;地域包括支援センター運営マニュアル2012(一般財団法人 長寿社会開発センター) なお、地域ケア会議では、「支援者が困難を感じているケース」「支援が自立を阻害し ていると考えられるケース」「支援が必要だと判断されるがサービスにつながっていない ケース」が検討されることが想定されていることから、介護支援専門員等が「虐待である」 と気づかないままに、以下のような事例を持ち込むことが想定されます。しかし、これら の高齢者虐待事例については、地域ケア会議ではなく、高齢者虐待対応の「個別ケース会議」 で話し合われなければなりません。 46 第2節●地域ケア会議の運営 ①「養護者が、高齢者に必要な医療や介護サービスを拒否している」「介護する意欲はあるが、必要な 介護が足りていない」といった養護者側に虐待の自覚がない放棄・放任の事例 ②「介護者自身に疾病や障害があり、虐待の自覚がないままに暴力や暴言に至ってしまう」という身体 的虐待・心理的虐待の事例 ③「高齢者に年金はあるものの介護者が経済的に困窮しており、サービスを使いたくても使えない」と いう経済的虐待・放棄放任の事例 第2章 ⑤地域課題に関するケース 市町村の課題に応じてケースを選定することもあります。例えば、小規模な居宅介護支 援事業所や経験の浅い介護支援専門員が担当するケース、新規開設事業所のケース、軽度 規模多機能型居宅介護など地域密着型サービスの利用ケース、施設入所待機中のケース、 施設入所者のケース等、市町村として潜在課題が予測される事例に焦点を当てることが考 えられます。また、地域の支え合いや見守り体制の構築が困難なケース、介護支援専門員 が日々感じている地域課題などに焦点を当てることも大切です。 そのほか、地域の人口世帯等の推計、介護保険利用状況、総合相談の分析結果、実態把握調 査結果、包括的・継続的ケアマネジメント支援内容分析結果、地域包括支援ネットワーク構 築における課題等から、地域の課題を予測して、それに関するケースを検討することもあり ます。同時に、地域課題の検討を行う地域ケア会議にて明らかになった課題に関するケー スを検討することも考えられます。この場合、介護支援専門員と地域包括支援センターが 協働して支援したケースの好事例を参考として地域課題の解決に向かうことも重要です。 (3)個人情報の保護について ○地域ケア会議では、個人情報を含んだ個別ケースを扱う場面が数多く存在します。個 人情報に対しては、適切な対応をとる必要がありますが、個人情報を気にするあまり関係 者間での情報共有が満足に図れなくなると、支援内容の検討はもとより、支援が円滑に運 ばなくなることが懸念されます。そのような事態を招かないために、個人情報保護法等を ベースとし、市町村が地域包括支援センターと協力しながら、地域ケア会議における個人 情報の取り扱いについての基本的な方針を定め、周知することが大変重要です。 その際、地域ケア会議に限らず、関係者間での個人情報の扱いに関する意識を高める ことが望まれます。 ○個人情報の取り扱いに関する基本的な方針を取りきめる際は、いわゆる「過剰反応」に ついても考慮し、個人情報保護条例を適切に解釈・運用することが求められます。 「過剰反応」とは、社会的な必要性があるにもかかわらず、法の定め以上に個人情報の 提供を控えたり、 運用上作成可能な名簿の作成を取り止めたりするなどの行為を指します。 ○以上のことを踏まえ、市町村または地域包括支援センターが収集した個人情報について、 本人の同意が無くとも、収集した目的の範囲を超えて外部に提供できる場合は、以下の 47 地域ケア会議の構築・運営 者の区分変更ケース、予防プランの委託ケース、障害者自立支援法からの移行ケース、小 3点が存在します。 ①法令の定めがある場合 高齢者虐待に関しては、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場 合は、発見者には通報義務が課されています。また、児童虐待についても同様です。 このような場合には関係機関に対し、必要な個人情報を提供することが不可欠に なります。 ②本人の利益を守ることが優先される場合(緊急時) 本人の生命や財産の危機等に対しては、個人情報の保護よりも、本人の利益を守 ることが優先すると考える必要があります。 「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」の第 8 条第 2 項第 4 号「本人以 外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき」には目的外に利用できる ことが明確に定められています。また、個人情報保護法の第 23 条 1 項第 2 号「人の 生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得るこ とが困難であるとき」には、個人情報取扱事業者は個人情報を第三者に提供してい いとされています。 ③個別の条例による場合 市町村の個人情報保護条例の中に、第三者提供が可能な場合を明示することによ り、収集の目的を超えた利用が可能になります。例えば、災害時の要援護者支援や、 認知症高齢者、一人暮らし高齢者等の支援のために、平時から該当者の名簿を民生 委員等と共有しておくために、条例化等を行うことが考えられます。 ○なお、市町村または地域包括支援センターが当該個人情報を収集する際に、収集の目的 と情報を共有する関係機関について包括的同意を得ている場合は、本人同意に基づき情 報提供することができます。 (4)開催日程と頻度 (会議日程と頻度) ○会議の開催頻度を設定する際は、その会議の機能や目的を整理し、意味のある会議を実 施するための回数設定を行うことが重要です。また、開催頻度や開催の曜日などによる 参加者の会議参加への負担、などについての視点を持つことも、設定をする上で重要です。 〈定例の場合〉 地域ケア会議での支援内容の検討が必要だと考えられるケースが定期的に生じること が想定される場合には、地域ケア会議を定例化をすることが考えられます。 定例化することでのメリットとしては、定期的に会議が行われているため、相談事例 を持ち込みやすい環境になるといったこと、地域包括支援センター職員や地域の事業者 の業務スケジュールを設定しやすいこと、1 度の開催で効率的に個別ケースの困難に対 応できること、等があげられます。 48 第2節●地域ケア会議の運営 〈非定例の場合〉 非定例である随時開催の場合は、開催日程を会議開催ごとに設定する必要があります。 柔軟に対応できるというメリットがありますが、参加者の日程調整に時間や労力等を要 します。 例えば、相談や通報されたケースの中で、緊急度が高い場合は可能な限り即時の開催 第2章 を、入念な事前準備や調査が必要な場合は時間をかけてから開催することが考えられま す。また、その他にも、とにかく事例が見つかったらすぐに開催する、と決めるような 場合もありますし、参加者の選定を先に行い、参加者の予定に合わせて開催日程を調整 することも考えられます。 地域ケア会議の構築・運営 ○会議の開催頻度を定例・非定例、またどのような回数に設定したとしても、緊急的に方 向性を出さなければならない事項が発生した場合は、随時会議を開催できるようなフッ トワークの軽さも必要です。 事 例 コ ラ ム A市では、非定例で地域ケア会議を開催していたが、地域包括支援センターの認知度の向上と共に相 談件数が増加し、それに伴い地域ケア会議にて検討を行うべき事例が増えた。その結果、業務の絶対量 が増加したため、非定例による随時開催の体制のままでは対応が困難となった。それらを受け、課題解 決の効率化を図るため、地域ケア会議を毎週開催に定例化することとした。 地域ケア会議の日程が明確に見えるようになった事で、地域包括支援センターのみならず、参加者、 事例の提出者らもスケジュールを組みやすくなるメリットが得られた。また、定期的に開催されること での効果として、固定参加者らの力量形成が促進され、安定したクオリティでの連携が図られるように なった。 (会議時間) ○会議時間についても、常に「固定した会議時間」とする設定と、「ケース(議題)に応じた 会議時間」を設定する方法を目的に応じ決定する必要があります。 また、会議そのものだけでなく、1 ケースあたりの検討時間においても同様です。 ○例えば、定例開催されている会議においては、毎月□週□曜日 14 ~ 16 時の 2 時間、といっ た形で固定してしまうことで、参加者にとってわかりやすくなりますし、日程調整を行 いやすくなる効果が見込めます。 非定例(随時)開催の会議の場合は、固定した時間(例えば 2 時間や 3 時間)といった設定 も良いですし、または、その日の会議内容により、その都度「今回は 3 時間です」「今回 は1時間です」といった形で変動させることも考えられます。 ○ 1 ケースあたりの検討時間の設定についても同様のことがいえます。1 日の会議で多く のケースの検討を行わなければならない場合は必然的にケースあたりの検討時間は短く なります。また、定例化されている毎回の会議に多くのケースが安定して集まる地域で あれば、会議の開催頻度とともに 1 ケースあたりの検討時間も固定して設定することが 考えられます。反対に、会議での検討ケースが少なければ(もしくは少なく設定すれば)、 1 ケースあたりに費やせる時間は長く取ることができますし、ケース内容によって時間 49 の振り分けなどを行うことも考えられます。 (5)会議参加者 (会議構成員) ○個別ケースの検討を行う地域ケア会議では、次のような会議構成員が考えられます。会 議の目的を達成するのに最も適切だと考えられる参加者を選びます。 ・ケースの当事者や家族 ・ ・主催者 ・ (市町村や地域包括支援センター) ・事例提供者 ・ (会議によって多様) ・介護支援専門員 ・ ・介護サービス事業者 ・ ・保健医療関係者 ・ ・民生委員 ・ ・住民組織など ・ ○通常、地域ケア会議では、次の役割を担う人を決めます。決定方法については、会議の 目的に応じて多様ですが、会議の目的を達成することを前提に決定します。 ・司会進行役 ・ (主催者が担うことがほとんどですが、司会進行の力量を高める等の目的 のためにあえて他の参加者にお願いすることもあり得ます。) ・記録役 ・ (司会進行役と同じ人が担うことも考えられますが、十分な議論の展開を促す ためには、記録役を司会進行役とは別にお願いした方がよいでしょう。) ・事例提供者 ・ (参加者の選定) ○あくまで検討するケースの当事者や家族が主体であることは、決して忘れてはならない ことです。本人の課題認識や意向等を参加者全員で共有しながら、課題への対応をとも に検討し、本人の自己決定にもとづく支援を展開するためには、基本的には本人や家族 が地域ケア会議に参加することが有効であるといえます。しかしながら、例えば支援を 拒否している本人や家族等への働きかけを検討する場合等においては、本人や家族が不 在で検討を行う方が、個別課題解決の観点から有効であるケースも存在します。そのほ かにも、本人や家族の参加による地域ケア会議の事前調整をするなどの目的で、本人や 家族が参加しない場合もあり得ます。 つまり、様々なケースが存在する中で、本人や家族が参加した方が良い場合、参加しな い方が良い場合があることを認識し、個々の地域ケア会議の目的ごとに、その達成のた めに最も適切だと考えられる参加者を選ぶことが不可欠です。 ○参加者を選定する際は、検討の際に様々な領域が重なることから、総合的な検討ができ るよう、多職種を選定することが望まれます。 50 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 そのうえで、ケースの当事者が地域生活を継続するうえで重要となる人物を選定するこ とが必要です。また、地域包括支援ネットワークを構築する上で重要な人物であったり、 地域課題を把握し対応を検討するために重要な人物、またはそうした視点を新たに持っ てもらいたいような人物を選定します。 ○検討の場において、そのケースの内容ごとに求められる知識やスキルは変わります。円 参加者の固定化にこだわる必要はありません。 また、会議の参加者人数も同様に、その会議の目的やケース内容により最適と思われる 第2章 滑かつ質の高い会議を目指すために、ケースごとに的確な参加者選定が望まれるため、 範囲で設定します。 地域ケア会議の構築・運営 ○多職種を選定 ・ 招集することから、保険者(市町村)と地域包括支援センターは、日ご ろからの関係機関との連携強化・構築に働きかけることが重要になります。 例えば、顔の見える関係性構築のための会議などを通じての、地域ケア会議やその地域 の介護保険事業計画についてのメリットや方向性など、共通認識事項の普及活動などを 行うことが重要です。 (参加者の招集) ○開催の主体である地域包括支援センターおよび市町村(保険者)は、外部の法人等に出 席を求めていくことになります。そのため、事前に地域ケア会議に関わる様々な職種に 地域ケア会議の意義や効果を周知し、理解を得て、会議参加に対する抵抗感を取り除く 働きをすることが重要です。そうすることで、会議への参加を促しやすくなるとともに、 会議を実際に開催する中での多職種間連携も図りやすくなります。 ○開催主体としての「本気の姿勢」や「熱意」を示し、それを理解してもらうことが、関係 者の協力を得ていく上では重要となります。例えば、初めて会議の参加を促す職種の場 合は、電話やメールによる連絡ではなく、直接足を運び、地域ケア会議とは何かを説明 するところからはじめ、理解してもらったうえで改めて参加を呼び掛けたりするという ようなことも有効な手段となります。 (6)事前資料 (資料の意義) ○事前資料を作成する際には、①事例提出者の負担を軽減することと②会議参加者全員が 共通認識を持てるような理解しやすい資料であること、の2点に留意する必要があります。 誰もが理解できる資料を作成するには、課題の検討に必要な情報を抽出し、簡潔に記載 することが必要になります。そのために、専門知識を有していない地域住民などの参加 者でも理解しやすい事例提出用の様式を用意することが考えられます。これによって、 事例提出者の準備負担が軽減されるとともに、効率的な情報共有が行えるため、支援や 対応の検討を深めることができます。 51 ○事前資料を用意しないような場合においても、会議の際に「どのようなことから情報を 共有するか」、「どの情報についてはどの程度簡潔に説明するか」といった、伝える内容 と伝え方を事前に事例提供者へ伝えることも有効な手段となります。 ○ケアプラン等が既にあり、かつ会議の参加者が専門職だけで構成されているため、その ままの様式でも十分なケースの理解が得られるような場合、事例提供者の負担軽減の視 点から考えると、新しい資料を別途用意することなく、既にある資料を用いることもあ りえます。 (地域ケア会議で使用される資料) ○地域ケア会議で広く使用されている資料として、「アセスメントシート」「家族図」「エ コマップ 」「時系列整理」などがあります。そのほか、「フェイスシート」「生活機能評 ※ 価表」、課題抽出過程とその優先度を可視化した課題整理表など、ここで取り上げたも のだけでなく様々に存在します。 ○資料の種類は様々ですが、会議の質を向上させ、効率よく検討を行うための資料を選択・ 作成することが重要です。 ○例えば個別ケースの困難要因が、本人の家族や近隣住民などとのネットワークによるも のであれば、それらを視覚的に説明し、全体像の把握を助ける家族図やエコマップを用 いることが有効です。 本人の状態やケースの概要を説明する時間を短縮したい場合は、アセスメントシートな どを活用します。 ○困難事例等の解決を目指す際は、ケース提出者はそのケースの概要のみを説明するので はなく、何に困難を感じているのかについて簡潔に示すと共に、今後の方針案を検討材 料として用意することも大切です。 (7)会議の流れ 地域ケア会議の実際の流れは、目的に応じて異なります。また、参加人数や司会者などと いった会議の構成要素によっても多様です。 最も注意しなければならないことは、実績づくりのためだけに会議は行わないということ です。あくまで能動的に、「地域の目標」の達成を目指し、地域ケア会議を運営していくこ とが大前提となります。 ここでは、ケース選定後の個別ケースの検討を行う地域ケア会議の会議の流れについて、 主催者(司会進行役)が行うべきことを中心に、主催者と事例提供者が異なる場合の一例を 示します。なお、事例提供者は、介護支援専門員や地域包括支援センター職員、事業所職員、 地域住民など、その立場は様々に考えられます。 ※エコマップ:本人と家族や様々な社会資源との関係を円や線などで図式化したもの 52 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 〈個別ケースの検討を行う地域ケア会議の流れ一例〉 (地域ケア会議開催前の準備) *グレーはご本人や家族が参加する場合 事例提供者にご本人が地域ケア会議へ参加 する了解を得てもらう ・ご本人や家族が地域ケア会議の目的や内容を十分理解し ・ たうえで、参加を検討できるようにする 会議の開催を決定する ・会議の目的を明確にする ・ 事例提供者にケース概要説明の準備を依頼 する ・必要に応じて資料への記入等を支援する ・ 事例提供者にケース概要についてご本人の 了解を得てもらう ・ケース概要資料について十分に説明する ・ 事例提供者はご本人や家族と参加者を検討 する ・可能性のある参加者について理解したうえで判断できる ・ ように説明する 参加者を決定し依頼する ・定例開催の場合:随時参加している参加者に加え、必要 に応じて参加者を選定する ・非定例(随時)開催の場合:ケースや会議目的に沿った参 加者を選定する ・記録係を決定し事前に依頼する ・ 個人情報の取り扱いについて確認する ・参加者に対する個人情報の取り扱い説明や、事前に用意 ・ すべき誓約書等を用意する 開催日時を調整する(非定例の場合) ・一度で調整が可能なように工夫する ・ 会場を確保する ・人数に応じた適切な広さを確保する ・ 開催を通知する ・確実な方法で通知する ・ 事例提供者と打ち合わせをする ・必要に応じてご本人や家族ともお会いして、地域ケア会 ・ 議への参加に関する不安を軽減する 配布物を準備する ・机に配布する ・ 会場の準備をする ・話し合いがしやすい距離や机いすの配置などに注意する ・ ・参加者に応じて座席を設定する ・ ・ホワイトボードを準備する ・ 地域ケア会議の構築・運営 留意点 第2章 主催者が行うべきこと (地域ケア会議運営の流れ) 司会進行役が行うべきこと 留意点 ご本人や家族を迎える ・事例提供者に同行してもらう ・ ・会議参加に対する不安を和らげる ・ 参加者を迎える ・参加への感謝を示す ・ ・事例提供者が会議に臨みやすいようにサポートする ・ ・世間話等で話しやすいムードをつくる ・ 開始の挨拶をする ・参加への感謝の意を表す ・ ・主催者の自己紹介をする ・ ・遅刻者への対応を説明する ・ ・欠席者の報告をする ・ 53 司会進行役が行うべきこと 54 留意点 参加者に自己紹介をしてもらう ・ご本人や家族から自己紹介をしてもらう ・ ・自分から話し始めるのに抵抗がある場合には、事例提供 ・ 者から紹介をしてもらう ・自己紹介は簡潔にすませる ・ 会議の目的を確認する ・参加者が方向性を持って会議に臨めるよう、会議目標を ・ 明確に説明する 全体の流れを説明する ・ケース概要報告および共有、問題および背景の明確化、 ・ 目標設定、支援検討、決定事項の確認などのおおまかな 時間と終了予定時間を示す 個人情報保護の確認を行う ・その日の会議で取り扱われる個人情報で、保護すべき事 ・ 項についての確認を行う 配布資料を確認する ・必要に応じて回収する資料について確認する ・ 事例提供者にケース概要を報告してもらう ・必要に応じてご本人や家族から説明してもらう ・ ・簡潔に報告できるように支援する ・ ケース概要を共有する ・アセスメントシートやエコマップ等を活用して、各参加 ・ 者が有する情報や理解を全体で共有する ・ホワイトボードを活用する ・ ケース当事者の課題を明確にする ・ご本人や家族に確認しながら、問題と背景を明確にする ・ ・ホワイトボードに明示する ・ 長期・短期目標を決定する ・ご本人や家族の意向を確認したうえで、目標を決定する ・ ・ホワイトボードに明示する ・ 優先順位を決定する ・ご本人や家族の意向、および問題の緊急性や現実可能性 ・ 等の要因から、どの目標から支援および対応していくの かを検討する ・ホワイトボードに明示する ・ 優先順位の高いものから、支援や対応およ び支援者や対応者を検討する ・ご本人や家族の意向にもとづいて、個人と環境の両方へ ・ の支援や対応を検討する ・誰が何をいつまでに行うのかを明確にする ・ ・会議に参加していない関係者とどのように情報共有する ・ かを明確にする ・ホワイトボードに明示する ・ 会議をコントロールする ・時間を管理する ・ ・発言がない場合に議論を活性化させる ・ ・全員が発言できるように配慮する ・ ・意見の共通点をまとめる ・ ・意見の相違点を整理し、議論できるようにする ・ ・一定方向に意見が集中した場合には他視点の提示を行う ・ ・少数意見を確認する ・ ・会議の目的から議論がずれた場合には軌道修正する ・ モニタリング方法を決定する ・支援や対応の状況や結果等に関して、モニタリングの方 ・ 法を確認する ・必要に応じて次回の地域ケア会議の日程を調整する ・ 決定事項を確認する ・何の目標を達成するために、誰がいつまでにどのように ・ 支援や対応するのかについて再確認する ・ご本人や家族に了解を得る ・ 必要に応じて個人情報保護の確認を行う ・必要に応じて配布資料を回収する ・ 会議を終了する ・会議の成果とねぎらいを述べる ・ 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 (司会進行役の視点) ○司会は、会議をコントロールしながら進行させる役割を担います。 会議を進行させるにあたり重要な視点として、「会議の目的を明確にし、検討を促進さ せる」「多職種協働であるメリットを最大限に生かす」「情報を整理し、参加者の中にブ レなく共有させる」といったものがあります。 第2章 ○会議目的に沿った検討を行うためにも、会議設置を担う地域包括支援センターまたは市 町村(保険者)と、会議を進行させる司会により、会議目的を明確にし、参加者で共有 することが重要となります。 ○多職種参加による会議のメリットを最大限に引き出すため、司会はそのメリットを把握 地域ケア会議の構築・運営 し、それらを引き出す視点を持って会議を進行させます。 多職種参加による会議のメリットの例として、それぞれの専門性や視点から発せられる 情報を共有していく中で、個別ケースのアセスメントがより深くなされると同時に、多 職種による支援チームの形成や、フォーマル・インフォーマルの枠を超えた様々な地域 資源を活用し、つなぎ合わせ、様々なサービスの組み合わせが行われる、といったこと が期待されます。 また、個別ケースに直接関係のない第三者が参加する会議の場合は、ケース当事者と直 接関わりがないことによる、客観的な視点からの意見を求めることができます。 ○ケース概要や課題、目的や提案事項など、様々な情報をその場でまとめ、情報共有を図 りながら会議を進行させる事が重要です。 その際、多職種(専門職だけに限らず、地域住民等も含む)による検討であるため、参 加者の中には共通言語を持たない、などの理由から認識にブレが生じる可能性がありま す。司会はそうした点も考慮し、全ての参加者にブレのない情報共有を促す働きが求め られます。 (ケース概要を共有する) ○事例提出者は会議参加者全員に向け、ケース概要を説明します。 地域ケア会議の参加者は、専門職だけに限らず多領域から招集されているため、ケース 概要を説明する事例提出者はできる限りわかりやすい説明を心がけ、参加者それぞれの 共有度にブレが生じないように留意する必要があります。 また、司会により、そうした説明の手助けをすることもポイントとなります。 ○ケース概要を説明する際は、その内容をしっかりとまとめると同時に、検討をするため に必要な情報はしっかりと説明することが重要です。 情報がまとまっていない場合や、一度で説明しきれず、後々追加説明を繰り返すことに なってしまった場合、不要な時間を多く使ってしまい、検討を行う時間が減ってしまう ばかりか、共有される情報が断片的になってしまうことで、効率的な検討がなされない 可能性が懸念されます。 55 ○事例提供者からケース概要が説明されたら、そのケースに関連する参加者からも検討事 項に関する情報を共有します。これによって、事例提供者からの視点のみならず、ケー スにかかわるそれぞれの立場からの情報の共有が可能になります。 ○情報共有を助けるため、ホワイトボードなどを使い、情報を可視化することは有効な手 段となります。その際、共有された情報を羅列して板書するのではなく、エコマップや 時系列、家族図といった手法を用いて整理することで、参加者の理解や共有をより助け る効果が見込めます。 ○1ケースあたりの会議時間により、ケース概要の共有に割ける時間は異なります。1 ケー スあたり 20 分程の会議時間であれば、説明の時間が短くとも必要な情報が伝わるよう な工夫を、1 ケースあたりの時間が長い場合は、その会議の目的に合わせて広く共有認 識を掘り下げていくこともあります。 説明の時間を短くするための工夫として、事前に、会議に必要と思われる事項のみを抽 出した資料を用意することなどがあげられます。 (課題の明確化と対応の検討) 課題軽減あるいは解決 ○ケースに関して参加者内で共有さ れたら、そのケース当事者の体験 している課題とその背景を明らか 個人のストレングス 環境のストレングス にします。そのうえで、目標であ る課題が軽減あるいは解決した状 課 態や状況を定め、その目標に進ん で行くための支援や対応を検討し ます。その際、ご本人のストレン 題 個人的要因 環境的要因 身体的状態、精神的状態、 ADL、IADL、生活 歴、経済状態 など インフォーマルソーシャ ルネットワーク、居住環 境、地域環境 など グス と家族や地域などのストレングスを活用する視点が重要です。 ※ ○ご本人が体験している課題とその背景を包括的に把握するためには、例えば、次のよう な視点でアセスメントができているかどうかを検討してみます。 1.本人の個人的要因と環境的要因が多面的に理解できているか。 2.次のような課題を中心とした情報の収集ができているか。 ①本人は何を課題だと考えているか ②課題は生活にどのような障害を引き起こしているか ③本人はどのような状態や状況を望んでいるのか ④本人はどのような支援を望んでいるのか ⑤本人と家族の関係性はどうか ⑥本人と知人、友人、近隣住民等との関係性はどうか ⑦家族は課題をどのように認識し、どのような意向を持っているか 3.課題と背景要因(因果関係)を包括的に理解できているか ※ストレングス:人が本来有する強さ(能力、意欲、自信、志向、資源など) 56 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 ○中でも、ご本人のこれまでの生活、現在の生活、これからの生活といった時間軸での視 点が必要になります。また、ご本人がどのようなシステム(家庭、集団、地域など)に 属しているのか、そしてそのシステムとの相互作用はどうなのかについて確認します(視 点⑤⑥⑦など) ○次に、ご本人の課題が軽減あるいは解決された状態や状況である目標を設定します。そ 第2章 の際、最も重要なことは、ご本人の意向に基づいた目標であることです。認知症等でご 本人の意向が確認できない場合であっても、これまでのその人らしい生活やご本人の意 向を最も反映できると考えられる人の意見などをもとに、目標を設定します。 ○その後、課題の緊急性や実現可能性等の要因から優先順位を判断し、優先順位の高い課 地域ケア会議の構築・運営 題から目標に至るための支援や対応方法を検討します。その際には、課題の背景を踏ま えたうえで、例えば次のような視点で検討します。 1.本人の課題が軽減あるいは解決したイメージ(目標)が理解できているか 2.本人のストレングスを把握および活用できているか 3.家族、友人、地域などのストレングスを把握および活用できているか 4.キーパーソンが誰かを判断しているか ○課題の明確化および対応の検討においては、多職種による多角的視点による検討が望ま れます。そのような会議を実現するため、司会による発言の促しや、1 つの事柄について、 多職種それぞれの視点から意見を求めるなどの働きかけが重要になります。 ○解決に向けた検討を行う際は、それぞれの課題に対し、多職種による会議の利点を生か したアプローチを考えることも大切です。たとえば、サービス調整を行うことで解決を 目指す場合や、近隣住民によるネットワークからの解決を目指す場合、法的な側面から の場合もあるでしょうし、医療的な側面から解決を目指すことも考えられます。このよ うな検討や活動が、地域包括支援ネットワークの更なる構築につながっていきます。 ○支援者が困難を感じているケースについては、ケース当事者の課題の明確化のみなら インフォーマルなソーシャル ネットワークの要因 利用者の要因 例)認知症、課題未認識、サービス 拒否、意欲低下、 苦情、 独居、 経済的困難、など 例)家族の疾病や障害、利用者との意向の相違、 非協力、過要求や苦情、など 支援者の所属組織 の要因 制度等の要因 例)要介護認定結果、訪問 介護の利用要件、など 例)利用者の意向との相違、 援助の理念との相違、など 関連専門職の要因 例)サービス提供者や事業所との連携 困難、など 地域の要因 例)過疎、交通手段の限定、利用者の ニーズに合う社会資源の不在、など 援 助 困 難 支援者 57 ず、支援者の援助困難を引き起こしている要因を把握する必要があります。例えば、図 (p57)のようにそれぞれの要因が影響し合って援助困難を引き起こしている可能性が考 えられます。どのような要因が援助困難を引き起こしているのか、そして、それを解決 するにはどのようにその要因をなくせばよいのかについて検討します。 (明確な役割分担) ○支援や対応の検討の際には、明確な役割分担を行う必要性があります。その際、誰がい つまでにどのような支援や対応を行うのかについて明確にすることと、担当者が納得し て役割を担えるようにすることが重要です。 (モニタリング) ○支援や対応の状況や結果等に関して、どのようにモニタリングをするのかを決定します。 ここでも、誰がどのように行うのか、またその情報を誰に集約するのかを明確にすると ともに、必要に応じて地域ケア会議の開催の可能性を共有しておきます。 (決定事項の確認) ○会議終了の際には、検討内容や役割分担等についての再確認を行います。 また、会議内で課題の解決が望めなかった場合や、ポイントが絞り切れなかったという 場合は、再度地域ケア会議にかけ、検討を行うことなどを参加者に確認する、といった ことが重要です。 (8)終了後の運び 〈地域ケア会議終了後のポイント一例〉 主催者が行うべきこと 58 留意点 個人情報の記載された資料を廃棄する ・シュレッダーで廃棄する ・ 記録を作成・管理する ・地域課題や課題に対する有効な支援等を把握するための ・ 情報を含めて記録を作成する ・必要に応じて地域ケア会議での決定事項等を参加者に配 ・ 布する ・記録は個人情報に留意し適切に管理する ・ 事例提供者へのサポート ・地域ケア会議で決定した支援や対応を実施する際に、事 ・ 例提供者のニーズに応じてサポートする モニタリングを行う ・事例提供者が多職種との日常的な連携を図りながらモニ ・ タリングを行う ・必要があれば再度地域ケア会議を開催する ・ フィードバックを行う ・目標に応じたフィードバックを行い、地域の目標へと向 ・ かっていく視点を持ち取り組むこと 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 (記録作成・管理) ○地域ケア会議終了後に、主催者が会議の記録を作成します。ここでは、検討して決定し た事項のみならず、地域課題や高齢者等の課題に対する有効な支援などを把握できるた めの情報を記録として残します。このような記録があって初めて、複数のケース検討の 蓄積による地域課題等の把握が可能になります。 (事例提供者へのサポート) 第2章 会議の記録を作成・管理するにあたり、個人情報の取り扱いには留意する必要があります。 ○市町村や地域包括支援センターは、地域ケア会議で取り上げたケースの事例提供者を、 地域ケア会議の構築・運営 会議終了後もサポートしていくことが大変重要になります。 地域ケア会議で検討して決定した支援や対応を実施する際に、事例提供者のニーズに応 じてサポートを行います。事例提供者の精神的サポート、教育的サポート、支援チーム としてのひとつの役割を担うなど、多様なサポートが考えられます。あくまで、事例提 供者が支援を展開できるように、側面的にサポートしていきます。 介護支援専門員から要請があった場合は、地域包括支援センター又は市町村がケースの 説明に同行する必要があります。 (モニタリング) ○介護保険の適用に関わらず、地域ケア会議で取り上げた事例についてモニタリングを行 います。 モニタリングは、事例提供者がサービス事業者からの報告・連絡、あるいは事業所への 訪問、利用者からの意見聴取・訪問などの手法を通じて定期的に実施します。そのため にも、サービス事業者や利用者との日常的な連絡調整を通じて信頼関係を築き、幅広く 情報を収集できる環境を整えておくことが必要です。そして、地域ケア会議の主催者で ある市町村や地域包括支援センターは、地域ケア会議で検討したケースの経過を事例提 供者から報告を受け、把握および記録します。 また、モニタリングを行っていくなかで、必要に応じて再度地域ケア会議にて検討を行 うなどの判断をします。 (フィードバック) ○一回一回の地域ケア会議の運営の振り返りを行うことは大変重要になります。そうする ことで、地域ケア会議の運営能力を向上させる効果が望めます。その積み重ねにより、 一回の開催で効果的かつ効率的に目的を達成し、かつ多様な機能を発揮できる地域ケア 会議を開催することができるようになります。 ○個々のケースの検討においては、モニタリングによって、サービスにつながったとか、 訪問看護と訪問介護の連携がうまくいくようになったといったような成果を確認するこ 59 とは多くあります。このような成果を地域ケア会議の参加者のみならず、個人情報に留 意しながら地域の関係者にフィードバックすることは重要な意味を持ちます。 そうすることにより、地域ケア会議に限らず、地域への取り組みに対する関係者のモチ ベーションを維持・向上させる効果が期待できると同時に、地域の目標へ向けた保険者・ 地域包括支援センターの姿勢の周知も図れます。 (9)個別ケースの検討を行う地域ケア会議の注意点 ①実践力を高める会議とすること 個別ケースの支援内容を検討する場合、そのケースを担当している介護支援専門員等の 実践をただ単に批判することがあってはなりません。地域ケア会議は利用者等の抱えてい る課題の解決に向けた対応を検討する場です。その検討を通して、介護支援専門員は実践 力を高めることができます。仮に、介護支援専門員本人の要因によって自立支援に資する ケアマネジメントが展開できていないようなケースであっても、介護支援専門員が支援に 困難を感じている、あるいは自立に向けた効果的な支援ができていない要因を把握し、介 護支援専門員本人がそれらに気づき、どのように対応するかを検討・実行・振り返ること によって初めて、介護支援専門員の実践力は向上します。 ②本人不在の地域ケア会議の限界を認識すること 前述のように、目的によっては検討するケースの本人や家族が参加しない地域ケア会議 もありえますが、その会議の限界を認識しておくことが必要です。本人や家族が参加して いない場合で地域ケア会議の参加者が本人や家族に面接をしたことがないような場合には、 本人や家族に関する情報はあくまで介護支援専門員等の支援者を介したものになります。 支援を展開する際には、この状況を踏まえて、検討された支援内容を吟味する必要があり ます。 2 地域課題の検討を行う地域ケア会議 地域課題の検討を行う地域ケア会議では、主に①インフォーマルサービスや地域の見守り ネットワーク等の地域に必要だと考えられる資源を開発する「地域づくり ・ 資源開発機能」 と②地域に必要な取組を明らかにして、施策や政策を立案 ・ 提言していく「政策形成機能」 を果たすことを目指します。 個別ケースの検討を積み重ねる中で、地域に不足している資源やサービス、連携が不十分 な職種や機関、深刻化が予測される地域の課題等が明らかになってきます。これらを関係者 で共有し、地域包括ケアシステムを構築していくための基盤整備に向けて検討します。 一方で、個別ケースの検討から明らかになった地域課題に限らず、地域の代表者や関係者 等が集まって、日頃の経験等に基づき、地域の課題について共有および協議することもあり 60 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 ます。このような地域課題に関する個別のケースを選定し、個別ケースを検討する地域ケア 会議にて検討することもあり得ます。 ○地域課題を解決するための地域ケア会議においては、a)その課題の存在する範囲(エリ ア)に応じた会議を行うこと、b)機能に応じた会議を行うこと、c)具体的な解決策を検 討し実行へと移せる参加者選定が重要になります。 第2章 (課題の存在する範囲に応じた地域ケア会議の開催) ○地域にある様々な地域課題を効率的に解決していくため、地域課題が存在する範囲を把 握する必要があります。例えば、ひとつの日常生活圏域に特有の課題である場合には、 地域ケア会議の構築・運営 その日常生活圏域の地域ケア会議にて検討するのが適切だといえます。仮に、この課題 が市全体で近い将来予測される課題であるならば、市レベルでの地域ケア会議にて検討 することも必要になります。 ○また、地域課題が市町村を横断している場合には、同様の課題を有する近隣の市町村と 連携して地域ケア会議を開催し対応を検討することも必要です。 (機能に応じた地域ケア会議の開催) ○地域課題の検討を行う地域ケア会議の①地域づくり・資源開発機能と②政策形成機能と いった機能に応じて、地域ケア会議の開催を行うことも必要です。 ○日常生活圏域と市町村が異なる場合、日常生活圏域レベルの地域ケア会議は地域づくり・ 資源開発機能を発揮することができますが、政策形成機能を発揮するためにはほとんど の場合、市町村レベルや市町村を越えたレベルの地域ケア会議での検討が必要になりま す。 (参加者選定) ○地域課題の種類は様々にありますが、どのような課題にも必ず原因があります。その原 因や背景を把握・整理したうえで、それに対しての働きかけが行える参加者を選定し会 議を開催することが必要です。 ○例えば、高齢者特性や認知症に対する地域住民の理解不足が、圏域の課題として取り上 げられた場合、その圏域の民生委員や住民組織の代表者、高齢者特性や認知症の症状を 説明できる医師等に参加をお願いし、地域住民の理解不足を解消するための検討を行う ことが考えられます。また、上記参加者に限らず、圏域レベルのネットワークを構築す るために、警察署、消防署、社会福祉協議会などの組織の担当者や代表者レベルを選定 する事も考えられます。 ○検討において公権が必要だと考えられる地域課題については、行政職員の参加が不可欠 になります。市町村レベルの地域ケア会議では、行政職員が主催者となることも多いと 考えられますが、介護保険課といったような単一の課職員に限らず、地域課題を検討す 61 るのに必要だと考えられる課の行政職員の参加が望まれます。 ○地域課題の解決へ向けて必要と思われる参加者が揃っているような会議がその地域にあ る場合、それらの会議と時間を切り分け、地域ケア会議として活用することも、参加者 の負担軽減を考える側面から有効な手段だといえます。 (フィードバック) ○個別ケースの支援内容を検討する地域ケア会議と同様に、地域ケア会議の運営を振り返 ることが大変重要です。その積み重ねにより、一回の開催で効果的かつ効率的に目的を 達成し、かつ多様な機能を発揮できるようになります。 ○地域課題を検討する地域ケア会議では、短期間で成果を確認することが難しい場合が 多々あります。そうであったとしても、対応の経過等を地域の関係者や住民等に周知す ることが必要です。このようなフィードバックによって、地域ケア会議への理解を深め、 参加への意欲を高めるとともに、自分たちでよりよい地域を作っていこうといった意識 を高めることにもつながっていきます。 62 第4節●地域ケア会議とその他の会議との相違点 第 3 節 地域ケア会議構築及び運営例 中で、具体的なイメージを持つための助けとして、構築・運営の一例を紹介します。ここで は、日常生活圏域と市町村が異なる(市町村に複数の日常生活圏域)場合となっていますが、 第2章 この節では、地域ケア会議の立ち上げから、その運営までのポイントを整理します。その 日常生活圏域と市町村が同一である場合でも、会議を「機能」によって整理すれば、読み替 1 地域ケア会議の構築・運営 えが可能な形として構成しています。 地域ケア会議の構築例 地域ケア会議設置の事前準備(市町村・地域包括支援センター) ▶地域ケア会議の全体構成像の決定 ▶地域包括支援センターへの地域ケア会議の運営方針の市町村による提示(委託方針 の一環として) ▶地域ケア会議の構築・運営方法の決定 ・開催単位、実施方法、関係機関との調整、予算等 ・具体的運営方法と役割分担等 ・実施要綱、要領の規定類作成(または改訂) ▶地域ケア会議実施者向けの研修会の開催(事前の演習も含む) 必要に応じて県の応援や補助事業の活用等により、市町村ごとに開催 ▶医師会や社会福祉協議会等の関係機関への周知および調整 ▶居宅介護支援事業所やサービス提供事業所等の関係機関への周知および調整 等 地域ケア会議の設置(市町村・地域包括支援センター) ▶(委託の場合)受託組織内での地域ケア会議に対する認識や位置づけの共有 ▶地域の実情に合わせた会議の増設・開催数の調整等 ▶地域ケア会議を推進していくための取り組み 地域ケア会議を地域に定着・浸透させ、その機能や効果を高めていくことは大変 重要です。地域包括支援センターには様々な取り組みを行い、地域ケア会議の価値 向上、周知・普及を図ることが望まれます。 そのための取り組みの一例として、以下のようなものがあげられます。 63 ― 地域住民に対する地域包括支援センターの認知度を向上 相談や通報をしやすくなる体制が整い、個別ケースの拾い上げや潜在化していた 課題が顕在化しやすくなります。そのための取り組みとして、地域住民に対するパ ンフレット配布やホームページ等の立ち上げやサロン等へ職員が参加する等を通し たPR活動を行うことが考えられます。 ― 関係者との連携強化 地域ケア会議についての理解を促進し、その取り組みに向けて関係者との連携が 強化されることで、地域の課題やサービスの課題等の相談が増えることで地域を把 握しやすくなります。また、連携強化により、地域ケア会議への参加が促進されれ ば、多職種で構成される地域ケア会議の問題解決力も向上します。そのために、介 護支援専門員連絡会などへの出席や地域ケア会議についてのメリット等の周知、医 師会・警察署・民生委員等の他機関が行っている様々な取り組みへ参加することに よって、日常的に情報交換・共有を行えるような関係性の構築を図ります。 ― 関係者のモチベーションの維持・向上 会議が実施されただけでは何も変わりません。会議後も各自が目的達成に向かう モチベーションを維持しなくてはなりませんし、他の目的に向かっていくというモ チベーションも持たなくてはなりません。このモチベーションが保たれるためには、 地域ケア会議における検討だけでなく、会議後の動きや成果を共有することで、成 功体験の共有ができ、モチベーションの向上にもつながります。 また、まだ地域ケア会議に参加していない方や、地域ケア会議に関する理解を持っ ていないために事例を提出することに躊躇しているような方に対し、地域ケア会議 の有効性を浸透させる効果も期待されます。そのため、地域ケア会議を開催した後 には、地域ケア会議の検討の様子や成果等を、個人情報の保護に留意しながら、広 報誌やダイレクトメール等の配布やホームページの掲載などでフィードバックを行 うことは大変有効な手段となります。 〈地域包括支援センター主催の地域ケア会議に対する市町村の参画〉 ▶個別ケースの地域ケア会議へ積極的に参加する ▶個別ケースの地域ケア会議の結果をセンター職員と共有し、そこから導き出される 地域課題等について議論する場を設置する ▶市町村レベルの地域ケア会議のように、市町村が主催した方が地域ケア会議の目的 を効果的に達成できると考えられる会議については、市町村が積極的に主催する 64 第3節●地域ケア会議構築及び運営例 〈Z市における地域ケア会議の立ち上げ時(例)〉 地域ケア会議が行われていないZ市において、年度当初に保険者より地域包括支援センターへ委託方 針の一環として、地域ケア会議の開催が提示された。 保険者と地域包括支援センター間での協議の結果、Z市の実情や、地域包括支援センターの業務量を 考慮し、初年度は個別ケース検討を行う「個別レベルの地域ケア会議」を毎月 1 回開催することとし、そ こから発見される地域課題を集約する場として、「日常生活圏域レベルの地域ケア会議」を年間 1 回開催 第2章 することとした。それに伴い、実施要綱の作成 ・ 予算の確定が保険者により行われた。地域包括支援セ ンターにおいては具体的な開催日程の設定や、進行役の決定、具体的な役割分担等の準備が行われた。 市職員も積極的に個別レベルの地域ケア会議へ出席し、保険者と地域包括支援センター間での地域ケ ア会議の推進について相互に相談をしながら、少しずつ地域ケア会議の構築を続けた。 その結果、Z市の現状等に合う形として、「個別レベルの地域ケア会議」と「日常生活圏域レベルの地 地域ケア会議の構築・運営 域ケア会議」の開催範囲や頻度の見直しが行われ、定着していくこととなった。 地域ケア会議の構築例 地域ケア会議を範囲と機能の視点から図式化したものです。 市町村を越えたレベル 地域ケア会議 市町村レベル 地域ケア会議 政策形成機能 地域づくり・資源開発機能 日常生活圏域レベル 地域ケア会議 地域課題発見機能 ネットワーク構築機能 個別レベル 地域ケア会議 個別課題解決機能 (個別レベルの地域ケア会議の設置) ○地域ケア会議の持つ機能を発揮していくための出 発点は個別課題解決機能になります。そのため、最 初のステップとして個別ケースの支援内容を検討 する機能を有した会議を設置・整備することが標準 的な流れとなります。 ○個別ケース検討を通じて、介護支援専門員による自 立支援に資するケアマネジメント支援、個別ケース に関わる関係者間のネットワークを構築していく その地域に合わせた個別ケースの検 討を行う地域ケア会議を設置する。 視点、また、個別ケースの課題解決に終始すること なく、地域の課題を探っていくという視点を持つこ 65 とが重要です。 ○個別ケースの検討を行う地域ケア会議は、通常、地 域包括支援センター職員の担当する範囲内で設置 されます。設置数や開催頻度については、その地域 の規模や実情等により異なります。 その地域に適した個別ケースの検討を行う会議が 設置されたら、次のステップを目指します。 (日常生活圏域レベルの地域ケア会議の設置) ○個別ケースの検討を行う会議が定着し、個別対応だ けでは解決できない課題が見えてきた場合、それら を集約・整理するための会議が必要となります。 そのために、個別ケースの課題を集約し、日常生活 圏域単位で検討を行う会議体を設置します。 ○日常生活圏域レベルの会議においては、個別ケース ごとの課題を日常生活圏域単位の課題として集約 ・ 日常生活圏域レベルで課題を集約す る仕組みを整える。解決可能なもの はこの段階で解決へと向けた検討を 行う。 整理し、その地区内で解決が可能な課題については 解決へと向けた検討を、さらに広域での対応が必要 な課題については情報の整理を行います。 ○日常生活圏域単位での課題を取り扱う会議となる ため、その参加者は日常生活圏域レベルでの代表者 を選定することが多いと考えられます。 設置数や開催頻度等に関しては、個別ケースの検討 を行う会議と同じく、その地域の規模や実情等によ り異なります。 このレべルで解決に向かえない地域課題や市町村 全体として対応すべき課題が把握された場合等に は、市町村レベルの地域ケア会議を設置する必要が あります。 (市町村レベルの地域ケア会議の設置) 市町村としての課題を集約、解決へ と向けた検討を行う。 ○市町村の代表者レベルの参加者が集まり、市町村全 体として取り組むべき課題や、解決に向け政策提言 等が必要な、市町村レベルの地域課題について、解 決へ向けた検討を行う会議となります。 ○市町村単位の会議設置においては、標準的には市町 66 第3節●地域ケア会議構築及び運営例 村が主催し、 事業化・施策化について検討を行います。 そのため、設置に際しては市町村(保険者)と地域 包括支援センターが情報共有を図り、地域ケア会議 の構築状況や地域の実情等に合わせて、相談を重ね た上で設置することが望まれます。 第2章 〈Z市における地域ケア会議の構築(例)〉 地域包括支援センター職員らによる、地域ケア会議のPR活動などを通じての認知度の向上、関係者と の連携強化などを経て、地域ケア会議がZ市に定着し、運営されていた。個別事例の積み上げから、地 域課題を発見し、日常生活圏域レベルの地域ケア会議において解決を図るという 2 レベル構造は順調に 地域ケア会議の構築・運営 機能していたが、日常生活圏域レベルでは解決が望めない、さらに広範囲にわたる課題が溜まることが しばしば見られた。 そのため、保険者と地域包括支援センター間での協議を重ね、そうした課題に対して取り組む「市町村 レベルの地域ケア会議」を保険者主催のもと、設置することとした。 こうして 3 レベル構造となったZ市の地域ケア会議であるが、全ての事例をこの3レベルで取り扱うわ けではなく、そもそも地域に存在していた民生委員会や自治会などの定例会議とも連携をとり、時には 地域ケア会議として活用することで、フレキシブルに地域の様々な課題を拾い上げ、解決していく機能 を構築していった。 2 地域ケア会議の運営例 地域ケア会議を活用し、個別ケースの積み重ねから地域課題を発見、その解決まで至る道 筋は地域により様々ですが、一例として、前述のZ市における、地域ケア会議の運営例を示 します。 ①個別レベルの地域ケア会議例 介護支援専門員Aさんから地域包括支援センターに相談 約1か月前から担当しているBさん(男性・88歳・要介護1)が、突然主治医Cの訪 問診療を断わるとともに、他のサービスを利用しようとしないため困っている。 ・Bさん:混乱することが多く、理解力の低下が見られる。腰痛のため外出が困難。 ・姪(遠方に居住):一時的に訪れ、要介護認定や主治医Cによる訪問診療を主に担ったが、現在 は遠方のため協力できない。 ・訪問診療:説得をしても病院に行こうとしないBさんの様子を見た姪が、近隣に開業している C医師に状況を説明して訪問診療をお願いし、要介護認定を受けることを可能にし ていた。 数日前に、Bさんが「お金がかかるのに何もしてもらえないから、訪問診療はいら ない」といった主旨のことをC医師に伝えた様子(姪からの情報)。 ・日常生活:食事はBさんが近所のコンビニで総菜等を購入。しかし、重複購入や冷蔵庫での腐 敗が目立つ。金銭管理もあやふやな様子。 ・サービス利用:Bさんがサービス利用を拒否。 ・民生委員:買い物に出かけているBさんの様子から火の不始末などを心配。 包括的・継続的ケアマネジメント支援業務 地域包括支援センター職員が介護支援専門員AさんとBさん宅へ同行訪問 67 介護支援専門員Aさんより、「約1か月前から担当しているBさん(男性 ・ 88 歳 ・ 要介護1)について、突然主治医の訪問診療を断るとともに、他のサービスを利用 しようとしないため困っている。」と地域包括支援センターへ相談が入りました。B さんの状態としては、混乱することが多く、理解力の低下が見られ、なおかつ腰痛 のため外出がほとんどできません。食事は近所のコンビニエンスストア(以下 : コ ンビニ)で惣菜等を購入していますが、重複購入や冷蔵庫内での腐敗が目立ちます。 また金銭管理もあやふやです。 相談を受けた地域包括支援センタ−は、包括的・継続的ケアマネジメント支援業 の一環として、介護支援専門員Aさんとともに、Bさん宅を訪問し、アセスメント を行いました。 ケースの選定:Bさんのケースを地域ケア会議で検討決定 選定理由 ・Bさんがサービス担当者会議の開催を拒否していること ・地域ケア会議への参加の機会がBさんのサービス理解等 を促進すると考えられること Bさんの支援内容の検討 介護支援専門員による自立支援に 資するケアマネジメントの支援 ・介護支援専門員Aさんはひとりケアマネで経験が浅いこと ・C医師はその地域で唯一の在宅医であるとともに、他の開 地域包括支援ネットワークの構築 業医への影響力があること ・民生委員の不安が包括に伝えられていたこと ・約5年間ほどで、ほとんどが高齢者の独居や老夫婦世帯に 地域課題の把握 なる可能性の高い住宅街であること 地域包括支援センターが、介護支援専門員AさんとBさん宅を同行訪問し、今後の支援について 説明した上で、Bさんから地域ケア会議への参加の同意を得た。 地域包括支援センターの3職種で検討した結果、まず、Bさんがサービス担当者 会議の開催を拒否していることと地域ケア会議への参加がBさんのサービス理解等 を促進する機会になると考えられることから、地域ケア会議によるBさんの支援内 容の検討が適切だと考えました。加えて、Aさんがひとりケアマネであり、経験が 浅いことから、このケースの検討を通じて、Aさんによる自立支援に資するケアマ ネジメントの実践力を高めることができること、C医師が地域唯一の在宅医である とともに他の開業医への影響力があること等から、地域包括支援ネットワークの充 実につながること、Bさんの居住地域は近い将来にほとんどの世帯が高齢者独居や 夫婦になる可能性が高いことから、地域課題を具体的に把握できると考えられたこ とから、地域ケア会議の開催を決定しました。 その後、地域包括支援センターが、介護支援専門員AさんとBさん宅を同行訪問し、 今後の支援について説明した上で、Bさんから地域ケア会議への参加の同意を得た。 68 第3節●地域ケア会議構築及び運営例 参加者の選定と連絡:Bさんのケースの地域ケア会議参加者を決定 Bさん、介護支援専門員Aさん、地域包括支援センターが地域ケア会議の参加者に ついて検討する 主催者:地域包括支援センター 第2章 地域ケア会議参加者 ・Bさん ・介護支援専門員Aさん ・C医師 ・民生委員 ・市職員 ・社会福祉協議会 ご本人が地域生活を継続するうえで重要な人物 介護支援専門員の実践力向上において重要な人物 地域包括支援ネットワーク構築において重要な人物 Bさんの支援内容を検討する地域ケア会議への参加者について、Bさん、介護支 援専門員Aさん、地域包括支援センター職員とで検討しました。このような活動か ら、地域ケア会議に対するBさんの意欲が高まっていきました。 参加者の選定にあたっては、ご本人が地域生活を継続するうえで重要な人物、介 護支援専門員の実践力向上において重要な人物、地域包括支援ネットワーク構築に おいて重要な人物、地域課題を把握し今後の検討を行うのに重要な人物は誰かを視 点としました。また、多様な視点から検討できるという点も留意しました。その結 果、地域包括支援センターが主催し、Bさん、介護支援専門員Aさん、C医師、民 生委員、市職員、社会福祉協議会に参加をお願いすることにしました。 地域ケア会議開催準備:介護支援専門員Aさんへの支援 1.地域ケア会議の目的の確認 直接目的:Bさんが自立した地域生活を継続できるように、支援を検討すること 間接目的:介護支援専門員による自立支援に資するケアマネジメント支援 地域包括支援ネットワーク構築 地域課題の把握 2.ケース概要説明の準備支援 ・ケース概要のまとめ ・課題、背景となる要因(個人と環境)、ストレングスの確認など Bさんにケース概要を説明し、地域ケア会議で使用することの了解を得る 地域ケア会議を開催するにあたっては、事例提供者となる介護支援専門員Aさん の負担とならないように、地域ケア会議の開催目的について再確認したうえで、ケー ス概要の資料作成等を地域包括支援センター職員がサポートしました。 そして、介護支援専門員Aさんがケース概要についてBさんに説明し、地域ケア 69 地域ケア会議の構築・運営 地域課題を把握し対応を検討するのに重要な人物 会議で使用することの了解を得ました。 地域ケア会議の開催:Bさんのケース検討の地域ケア会議開催 直接目的:Bさんが自立した地域生活を継続できること 司会進行:地域包括支援センター職員 記 録:市職員 地域ケア会議の流れ 1.自己紹介をする 2.目的を確認する 3.介護支援専門員AさんおよびBさんからケース概要を説明および全体での共有をする 4.Bさんの課題を明確にする 5.Bさんの目標を決定する 6.優先順位の高い課題から対応・支援および担当者を検討する 7.モニタリング方法を検討する 8.決定事項を確認する 9.会議の成果を確認する Bさんの課題解決に向けた検討を行う地域ケア会議では、地域包括支援センター 職員が司会進行を行い、市職員が記録することにしました。 まず、開始の挨拶の後、Bさんと参加者それぞれから自己紹介を簡単にしてもら いました。会議の目的を確認した後に、全体の流れを説明し、個人情報保護につい ても確認しました。 Bさんに確認しながら、介護支援専門員Aさんからケースの概要を説明してもら い、関係者からの情報提供も含め、参加者全員で共有しました。その際、ホワイト ボードにエコマップを記載しました。その後、Bさんに困っていること等を確認し たうえで、課題およびその背景を明確にしていき、ホワイトボードに列挙しました。 Bさんの意向をもとに目標を設定したうえで、Bさんの意向および緊急性や実現可 能性等から課題の優先順位を決定し記載しました。そして、優先順位の高い課題か ら対応や支援を多角的に検討しました。 どのようにしてモニタリングをするのかを検討した後に、ホワイトボードを見な がら、決定事項を確認しました。そして、最後に本会議の成果を共有して終了しま した。 今回の会議成果としては、Bさんと主治医Cさんとの理解が深まった結果、Bさ んの希望に応じて訪問診療を再開したことや訪問介護の試用が決定されたことがあ げられます(Bさんの地域生活の継続)。また、今回の検討を通じて、介護支援専門 員Aさんの力量向上へとつながったこと(介護支援専門員による自立支援に資する ケアマネジメント支援)、C医師による在宅医療の必要性の認識が高まり、開業医 仲間と介護支援専門員等との連携に関する取り組みへの協力を得られたこと(地域 70 第3節●地域ケア会議構築及び運営例 地域ケア会議の成果:Bさんのケース検討による成果 政策形成 機能 地域ケア会議の成果 1.訪問診療の再開が可能 2.訪問介護の試用 地域づくり ・資源開発 機能 3.介護支援専門員Aさんの力量向上と自信 個別課題 解決機能 ネット ワーク 構築機能 第2章 4.民生委員や社会福祉協議会から同様のケースの多さや今後の 更なる増加の可能性が語られ、参加者で課題を共有したこと 5.C医師による在宅医療の必要性認識が高まり、開業医仲間と介 地域課題 発見機能 護支援専門員等との連携に関する取組への協力を得られたこと 介護支援専門員による自立支援に 資するケアマネジメントの支援 地域ケア会議の構築・運営 Bさんの地域生活の継続 地域課題の把握 地域包括支援ネットワークの構築 包括支援ネットワークの構築)が成果といえます。加えて、地域課題として、Bさ んと同様の個別ケースが地域に多く存在していることと、今後更に増加する可能性 について、参加者内で共有がなされました(地域課題の把握)。 つまり、この地域ケア会議では、複数の目的を達成するとともに、個別課題解決 機能、地域包括支援ネットワーク構築機能、地域課題発見機能を果たしたといえます。 ②日常生活圏域レベルの地域ケア会議 地域ケア会議の開催決定:日常生活圏域の課題の明確化 地域ケア会議 地域ケア会議 地域ケア会議 地域ケア会議 (個別ケース検討) (個別ケース検討) (個別ケース検討) (個別ケース検討) 明らかになった日常生活圏域(ア)の課題 ・在宅医が少ないこと ・コンビニを利用する高齢者が増加しているが、コンビニ職員の理解が不足していること ・認知症高齢者に関する理解が不足しているために、必要以上に不安を感じている住民が 多いこと 明らかになった支援方法 ・地域ケア会議を高齢者の意欲向上に活用できること 71 Bさんのケースのように、個別レベルの地域ケア会議を複数回開催していく中で、 日常生活圏域(ア)に共通する課題が見えてきました。これらは、①日常生活圏域 (ア)に在宅医が少ないこと、②地域のコンビニ職員の高齢者に関する理解が不足 していること、③認知症高齢者に関する理解が不足しており、必要以上に不安を感 じている住民が多いことです。 また、課題に限らず、地域ケア会議は高齢者の意欲向上にも活用できることが明 らかになりました。 地域ケア会議の開催:日常生活圏域の課題への対応検討 主催者:地域包括支援センター 目 的:在宅医の不足、コンビニ職員の理解不足、地域住民の理解不足への対応を 検討すること 会議参加者 ・市職員 ・地域包括支援センター ・警察署 ・市医師会代表および在宅医 ・社会福祉協議会代表 ・民生委員会会長 ・自治会会長 ・圏域内のコンビニの各代表 地域包括支援ネットワーク構築において重要な人物 地域づくりを検討するのに重要な人物 複数のケースを検討する中で明らかになった日常生活圏域の課題への対応を検討 すべく、市職員、地域包括支援センター職員、警察署、市医師会代表及び在宅医、 地域ケア会議の開催:日常生活圏域の課題への対応検討 圏域の課題 内 容 対 応 在宅医の不足 ・在宅医療の重要性 が認識不足 ・責任集中の負担 ・地域包括支援センターと医師会共催による在宅 医療の講習会開催 ・開業医と介護支援専門員による合同研修の開催 コンビニ職員の ・若い職員多く、高齢 理解不足 者の特性不明 ・圏域にあるコンビニ店長への高齢者特性をまとめ たパンフレットの配布 ・社会福祉協議会での認知症理解のためのポス 地域住民の理 ・認知症による問題 解不足 行動ばかり認識する ター展示 ことによって不安 ・自治会への認知症理解のためのDVDの配布 政策形成 機能 地域づくり ・資源開発 機能 個別課題 解決機能 地域課題 発見機能 72 第3節●地域ケア会議構築及び運営例 ネット ワーク 構築機能 地域包括支援ネットワークの構築 社会福祉協議会代表、民生委員会会長、自治会会長、圏域内のコンビニの各代表に 参加をお願いし、地域包括支援センター主催で日常生活圏域レベルの地域ケア会議 を開催しました。 本会議では、目的を達成するのに適切だと考えられる人はもちろんのこと、地域 包括支援ネットワーク構築において重要な人物と地域づくりを検討するのに重要な 日常生活圏域(ア)の課題への対応策として、①在宅医の不足に対しては、a)地 域包括支援センターと医師会の共催による在宅医療の講習会の開催、b)開業医と 第2章 人物を視点として、参加者を選びました。 介護支援専門員による合同研修会の開催が確認されました。②コンビニ職員の高齢 地域ケア会議の構築・運営 者に対する理解不足については、圏域内のコンビニの店長へ、高齢者の特性をまと めたパンフレットの配布を行うことを決めました。③地域住民への認知症高齢者に 関する理解不足に対しては、c)社会福祉協議会での認知症理解のためのポスター 展示、d)自治会へ認知症理解を促進するためのDVDの作成 ・ 配布を行うこととし ました。 この会議では、地域包括支援ネットワークの構築はもとより、地域づくり・資源 開発機能を果たしました。 ③市町村レベルの地域ケア会議 地域ケア会議の開催決定:市の課題の明確化 地域ケア会議 地域ケア会議 地域ケア会議 ( 日常生活圏域(ア)単位 ) ( 日常生活圏域(イ)単位 ) ( 日常生活圏域(ウ)単位 ) 明らかになった市の課題 ・将来的に在宅医の不足が深刻になること なかでも、在宅での見取りを担う人材不足の深刻さ 日常生活圏域(ア)での課題として検討された在宅医の不足については、他の(イ) と(ウ)の日常生活圏域でも同様に確認されており、市として対応すべき課題だと 考えられました。そこで、市が市レベルの地域ケア会議を主催し、市全体の課題へ の対応を検討することにしました。 73 地域ケア会議の開催:市の課題への対応検討 主催者:市 目 政策形成 機能 的:在宅医の不足への対応を検討すること 会議参加者 ・市職員(高齢、介護、医療、障害等担当者) ・地域包括支援センター ・市医師会代表および在宅医 ・警察署 ・消防署 ・医療機関 ・医学部大学関係者 ・社会福祉協議会代表 ・民生委員会会長 ・自治会会長 ・医療関係サービス提供NPO 地域づくり ・資源開発 機能 個別課題 解決機能 ネット ワーク 構築機能 地域課題 発見機能 地域包括支援ネットワークの構築 ・在宅医をサポートするシステムの構築 ・在宅医を養成する教育との連携 ・老人福祉計画・介護保険事業計画や保健医療 計画への反映 会議参加者は、市全体の課題について検討 ・ 対策を行うことから、市職員(高 齢、介護、医療、障害等担当者)、地域包括支援センター、市医師会代表及び在宅医、 警察署、消防署、医療機関、医学部大学関係者、社会福祉協議会代表、民生委員会 会長、自治会会長、医療関係サービス提供NPOを選定しました。 在宅医の不足への対策として、在宅医をサポートするシステムの構築や、在宅医 を養成する教育との連携などについて議論がなされ、その重要性から、老人福祉計 画・介護保険事業計画や保健医療計画への反映を行っていくことが決められました。 そして、それらの具体的な内容等については、別途ワーキングチームを編成し、引 き続き検討を行うことにしました。 この地域ケア会議では、地域包括支援ネットワークの構築はもとより、地域づく り・資源開発機能、そして政策形成機能につながっていくものとなりました。 ④市町村を超えたレベルの地域ケア会議 隣のY市においても、将来の在宅医不足が深刻であったこと、またY市には看護 系の専門学校等があったことから、Y市と合同の地域ケア会議を開催することにし ました。その結果、在宅医を増やすという視点のみならず、認定看護師による在宅 医療の可能性等も含めて検討を行うことができました。 74 第3節●地域ケア会議構築及び運営例 第 3 章 地域ケア会議の実践例 1 2 神奈川県大磯町 人 口 : 約 33,489 人 高齢化率 : 27.8% 地域包括支援センター設置数 1か所 委 託 1か所 地域包括支援センター設置数 1か所 直 営 1か所 他 8か所(総合支所×8) 山梨県北杜市 人 口 : 約 49,327 人 高齢化率 : 30.7% そ 3 4 5 千葉県銚子市 人 口 : 約 69,522 人 高齢化率 : 29.9% 地域包括支援センター設置数 1か所 直 営 1か所 地域包括支援センター設置数 4か所 委 託 4か所 地域包括支援センター設置数 1か所 直 営 1か所 チ 8か所 地域包括支援センター設置数 6か所 委 託 6か所 チ 3か所 埼玉県和光市 人 口 : 約 78,000 人 高齢化率 : 14.5% 静岡県富士宮市 人 口 : 約 135,679 人 高齢化率 : 22.6% ブ 6 人 口 : 約 178,280 人 20.8% ブ 人 口 : 約 451,000 人 ラ ン 22.3% 地域包括支援センター設置数 19か所 委 託 19か所 チ 2か所 ブ ラ ン 新潟県新潟市 人 口 : 約 803,719 人 高齢化率 : 76 ン 石川県金沢市 高齢化率 : 8 ラ 東京都立川市 高齢化率 : 7 の 概要 23.9% 地域包括支援センター設置数 27か所 委 27か所 託 大磯町の地域ケア会議は「参加したくなる地域ケア会議」をテーマとして運営されている。その地域ケア会議は、日常 生活圏域と市域が同じ範囲で設定されている大磯町の特色から、1つのみ設置されており、それを中心として地域の様々 な関係者や会議と連携し、地域包括ケアの実現、また地域包括ケアシステムの構築が目指されている。また、大磯町 の範囲を飛び越え、近隣の市町村との合同会議を開くなど、市町村を越えたネットワークづくりにも力を入れている。 北杜市では、地区担当者ごとに 8 つに分かれたそれぞれの圏域の中において、個別ケースの検討を行う「個別ケース地 域ケア会議」が行われ、それを基に、その圏域ごとの課題を集約する「各地区小地域ケア会議」が開催されている。そ して、各圏域の課題を集約し、北杜市として、市域の課題を検討 ・ 解決するため、北杜市地域包括ケア推進会議が設 置されている。これらの 3 つの会議が軸となり、階層的に連携し機能させることで「地域力の向上」に取り組んでいる。 して活用されている。会議の目的やその内容は、目的達成に向かうPDCAプロセスに沿って変化する。また、「高齢者 が暮らしやすい地域づくり」を行う観点から意図的に開催する会議についても、全て地域ケア会議であると位置づけら れ、地域包括支援センターが担うあらゆる業務のなかで必要に応じて設置・開催されている。 富士宮市では、「個別課題発見機能」「個別課題解決機能」「課題共有 ・ 提言機能」の 3 階層に分け、地域包括ケアシス テムを構築している。その中において活用される地域ケア会議は、「個別課題解決機能」における個別ケースの課題解 決を目指した会議と、「課題共有・提言機能」において行われる地域課題解決・共有を目指した会議、政策形成・提言 を目指した「包括ネットワーク会議」、さらには「地域支援を行う中で開催した会議」で地域ケア会議としての機能を含 むもの全て、地域包括ケアシステム構築上の一端を担う形で開催されている。 立川市の地域ケア会議は「個別支援会議」「(圏域単位の)小地域ケア会議」「(市域全体の)地域ケア会議」による3レベ ルでの構成となっている。また、地域ケア会議を軸として、連絡会や研修会をはじめとした、地域にある様々な会議 と連携を図り、様々なレベルでのネットワーク構築に力を入れている。特徴的な点として、個別課題の解決から地域 課題の発見・解決まで一体的に取り扱う体制整備のため、運営協議会と地域ケア会議が連携している点があげられる。 とびうめで行われる地域ケア会議は、 「個を支える地域をつくる」ことを目標とし、個別事例から始まるスモールステップで の地域包括ケアシステムの構築のための一端を担い機能している。その地域ケア会議は「場」としての地域ケア会議と、 「機 能」としての地域ケア会議に分けて整理されている。 「場」としての地域ケア会議では個別ケースの課題解決に向けた検討 が行われ、その積み重ねから発見される地域課題は、 「機能」としての地域ケア会議の起点であるセンター内協議を経て、解 決に必要な機能や規模に応じて、地域に既存する様々な会議の中から適切な会議へと割り振られ、解決が目指されている。 新潟市北区の地域ケア会議は、7 つの部門ごとに、それぞれの同業者が集まり、その部門での困難事例・課題等を検討 する「部門別会議」が出発点となっている。それらでまとめられた課題は「圏域ケア会議」において集約され、解決に向 け必要な機能を有する参加者を「巻き込み」、役割の「ふるい分け」を行う。そして、課題解決に行政の力が必要となる 場合は「北区ケア会議」での検討が行われる。このような形で運営される地域ケア会議を通し、地域特性を考慮した、 その土地ならではの「ご当地スタイルの地域包括ケア」の構築に取り組んでいる。 77 地域ケア会議の実践例 和光市では保険者が地域包括ケアの実現に向けた具体的な方針を明示するとともに、その実現に責任を持ち、保険者主 導のもと様々な取り組みが行われている。基本目標を「地域包括ケアシステムの構築による介護保障と自立支援の確立 を目指して」としており、そのための基本方針として 4 つのテーマを明示している。和光市で開催されているコミュニ ティケア会議は、マクロ的な政策である基本方針の 4テーマと、ミクロ的な支援である個々のケアマネジメントをつな ぐための手法として位置づけられている。 第3章 銚子市には地域福祉の柱として抽出された 5 つの目標テーマがあり、地域ケア会議は、目標を達成するための手段と 1 神奈川県大磯町 大磯町地域包括支援センター 1.大磯町における地域ケア会議の概要 人 口 高 齢 化 率 : 約 33,489人 : 27.8% 地域包括支援センター設置数 1 か所 直 営 0 か所 託 1 か所 ー 0 か所 チ 0 か所 委 サ ブ ブ セ ラ ン タ ン 〈大磯町地域ケア会議機能〉 (平成24年3月現在) (大磯町の特徴) 大磯町は昭和 29 年(1954 年)に旧大磯町と旧国府町が合併し誕生しました。神奈川県の中 央南部に位置し、南は相模湾、北は高麗山や鷹取山をはじめとした大磯地塊の丘陵地帯が ある、東西に細長い町です。北と東は平塚市、西には二宮町と境を接しています。面積は 17.23Km で、国道 1 号と西湘バイパスが町の南部と北部を横断しています。町の 65%を丘陵 2 部が占め、気候は海岸沿いに流れる暖流の影響で温暖となっています。 旧大磯町および旧国府町において、それぞれの地元地域のつながりは強いものとなってい ます。また、山の手の住民を中心として、ボランティア活動等の友愛活動が盛んであったこ と、および町に対するボランティアや住民の力が占める割合が大きい特徴があります。 また、大磯町で活動している介護支援専門員のおよそ 4 分の 1 が主任介護支援専門員であ ることから、ベテランの介護支援専門員が多く存在していることも地域特徴としてあげられ ます。 (人口と高齢化率) 大磯町の人口は横ばいで推移しており、現在は約 33,489 人、高齢化率は大きく上昇を続け ており、現在 27.8%となっています。 今後、人口は減少を続ける一方、高齢化率は上昇を続けると推計されており、平成 25 年には人口は約 30,400 人、高齢化率は 35.3%。平成 35 年には人口が約 27,868 人、高齢化率 38.1%となると推計されています。 (特徴的な地域課題) 大磯町の特徴的な地域課題として、交通網の課題があげられます。 その理由として、東西に細長い地形であり、かつ交通の動脈となる道路が少ないという、 地理的な問題が 1 点目の要因となります。また、公共交通機関等の整備が難しいということ 78 地域ケア会議の実践例/神奈川県大磯町 大磯町地域包括支援センター が2点目の要因も存在しています。 そのため、交通手段が十分に確保されていない地域が発生し、そうした地域においては、 買い物弱者の発生や、高齢者の閉じこもり、といった課題の発生が懸念されています。 さらに、これまで主に山の手の住民によるボランティア活動が盛んな大磯でしたが、その 当時のボランティアの方々が高齢化したこと、また、次世代を担うボランティアの後継不足 といったことに起因し、担い手が減少・不足している点も課題となっています。 (大磯町の地域包括支援センターと地域ケア会議の概要) 大磯町の地域包括支援センターは委託型で1か所設置されています。また、日常生活圏域 ます。 大磯町の地域ケア会議は、1つの会議で、個別ケースの支援内容の検討から地域課題の抽出・ 第3章 は、地域特性や人口規模を踏まえたうえで、町全体を1つの日常生活圏域として設定してい 発見、解決へ向けた検討まで幅広く一体的に取り扱います。また、行政施策等の事前検討や 地域ケア会議の実践例 連絡を行う会議としても活用されています。 そして、地域ケア会議により出された提言や課題の解決法は、地域にある様々な機関や組 織で行われる会議と連携し、保険者へとつなげていくことや、地域住民に浸透させていくこ とになります。 すなわち、大磯町における地域ケア会議は、行政・事業者という垣根を越えた共通の場と して、様々な課題の解決に向けた検討を行う役割だけでなく、様々な取り組みの中における 潤滑剤やギアのような役割をも果たしています。 <大磯町地域ケア会議のイメージ図 <関係機関 医師会 サービス事業所 保健所 警察署 消防署 ボランティア 民生委員 住民組織 等 民生委員会 行政 湘南 ウエスト 精神 分科会 地域ケア会議 個別 カンファレンス 住民説明会 老人会 地域住民 79 (1)大磯町地域ケア会議 (会議概要) 開 催 頻 主 会 議 運 度 定例(毎月第 3 金曜日) 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターの裁量に任されている 会 議 の 目 的 個別ケースの課題整理・解決、地域課題の発見・ 解決、参加者による意見交換 等 会議の持つ機能 個別課題解決機能、地域課題発見機能、ネット ワーク構築機能、地域づくり ・ 資源開発機能、 政策形成機能 見込まれる成果 個別課題解決、地域課題発見、ネットワーク構築、地域づくり ・ 資源開発、政策 形成 対 町全域 象 範 囲 会 議 参 加 者 地域包括支援センター職員、医師会、町福祉課、県保健福祉事務所、居宅介護支 援事業者、その他必要に応じて招集 進 地域包括支援センター職員 行 役 事例選定方法 各事業所を中心として、参加者より随時受付 (大磯町地域ケア会議とは) 主に事例検討を中心に行い、当該事例から派生する諸問題の解決の糸口を探る会議とし ての位置づけとなっています。また、事例検討の場としてのみならず、保険者・被保険者双 方が利用者支援という共通の目標を確認する場としての意味合いも有することから、参加 者の現在の状況を確認し、制度や地域の情報を共有することにより、 「地域住民が常に暮ら しやすい街づくり」を実践する際に有効活用するための礎を築くことも目指されています。 (参加者・司会等) ○地域ケア会議の参加者は、コアとなるメンバーはいるものの、会議委員委嘱という形式 は取らず、事例に関係する者の出席を促す形式で行われます。 主な参加者には、医師会、町福祉課、県保健福祉事務所(保健福祉課、保健予防課)、 居宅介護支援事業者、地域包括支援センターの 3 職種がコアとなりますが、必要に応じて、 警察署や消防署、消費生活担当所管課(神奈川県含)、民生委員、社会福祉協議会、町 外の事業所等を招集することも考えられます。 参加者の総人数は概ね 12 ~ 13 名程度で構成されます。 なお、会議の進行は地域包括支援センター職員が担います。 (事例選定) ○地域ケア会議で取り扱う事例は、基本的に各事業所からの随時受付としています。 そのため、事例提出を強制することはありません。 80 地域ケア会議の実践例/神奈川県大磯町 大磯町地域包括支援センター 事 例 コ ラ ム 〈ゴミ収集の事例から、地域の「ゴミ出し」施策への展開〉 自力ではゴミ出しが行えないAさんのケース ゴミの収集法として、ヘルパーが前日のうちに収集場所へと置いてくる、という形式を取っていたA さんであったが、その地区で不審火による火災が発生したことで、夜間(前日)にゴミを外へと置いてお くことが地区として認められなくなってしまった。 そのため、困難を感じたAさんの担当介護支援専門員より地域包括支援センターへと相談がされ、地 域ケア会議での議題とする運びとなった。 地域ケア会議での検討の内容を受け、地域包括支援センター職員により再整理を行い、その後、地区 民生委員や近隣住民などを含めた担当者会議の場において、支援の応援が依頼された。 その結果、民生委員を媒介として、地域住民が協力体制を敷くインフォーマルチームが形成され、A 第3章 さんをはじめ、同様のケースについてのゴミ出し支援が行われることとなった。 〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰 同地域ケア会議において、Aさんのケースのみならず、地域に同様の事例が多いことが確認され、地 域課題として顕在化が図られた。 そのため、地域ケア会議の席上にて課題提起し、行政施策での対応の是非についての検討、および地 地域ケア会議の実践例 域課題解決におけるメリット等についての整理が行われた。 地域包括支援センターにより、地域ケア会議で整理されたことで明確化された地域課題を行政へと伝 え、かつ課題に対する施策の具体的なイメージや、施策を展開するにあたってのそれぞれの機関の役割 等についても明確化が図られた。 その後、ゴミ出し困難世帯のゴミを個別に収集するモデル事業が始まることとなる。 地域包括支援センターが地域ケア会議を活用し、町民の実態把握のための事例収集を行い行政へと提 出、それらをもとに行政 ・ 地域包括支援センターの協働により、モデル事業対象者の選任や事業実施に おけるフロー等を作成、本格的なモデル事業のスタートへとつながっていった。 モデル事業内において、地域包括支援センターは利用者の利用状況等についてのモニタリングを行い、 地域ケア会議を活用し整理された内容を行政へと伝えるアドボケイト機能を担った。 2 年間のモデル事業を経たのち、制度化され、現在では在宅生活を営むうえでの安心の担保となって いる。 2.大磯町における地域ケア会議運営 (1)大磯町の「参加したくなる地域ケア会議」づくり 大磯町では地域包括ケアを実現する上での重要な一手段として地域ケア会議の運営を 行っています。人口約 33,489 人、かつ面積が 17.23Km という比較的小規模な町村である 2 こと、および地域特性などを考慮し、行政や事業所の垣根を越え、さらに参加者内での上 下関係等を作らない、メリットを感じることのできる「参加したくなる地域ケア会議」の 構築が目指されています。 参加者が主体的に会議へ参加することで、主催者である地域包括支援センターや参加者 間での双方向のやり取りが実現され、その結果としての多職種の主体的な連携構築・関係 性の向上(チームとしての共通言語や共通認識、一体感の獲得)が図られることで、地域 包括ケアの実現、更には「安心して暮らせる地域」をつくることを目指します。 81 (2)地域ケア会議運営上の考え方・具体的手法 (地域ケア会議の場の基盤づくり) ○参加者が「招集されたので参加する」地域ケア会議にすることなく、 「主体的に参加する」 地域ケア会議の実現が、地域ケア会議の目的を達成するためにも重要になります。その ため、地域ケア会議の設置主体である地域包括支援センターが率先して、参加者間での 人間関係の形成、および会議進行の手法などを例示するといった、地域ケア会議の雰囲 気と基盤づくりに取り組んでいます。 ○取り組みの例として、大磯町では、会議開始前の雰囲気づくりの一環として缶ドリンク を活用しています。様々な種類のドリンクを用意し、会議開始前に集まった参加者に 対し「どの飲み物がお好きですか?」「好きなものをどうぞ」というきっかけでコミュニ ケーションを図っています。その際、会議内容に関係のない世間話などを行うことで、 会議だけに捉われない人間関係の形成を促進させています。 ○介護支援専門員が自主的に事例を提出し、主体的に会議に参加できるための基盤づくり が重要となります。そのために、地域包括支援センターの抱える支援困難事例を地域ケ ア会議で検討し、地域包括支援センター職員自らが見本となり示すことから取り組みま した。その結果、介護支援専門員が地域ケア会議に対し、自主的に事例を提出するよう になり、「主体的に参加する」という認識が根付いてきました。 (会議に出席するメリットの創造) ○大磯町地域ケア会議では、支援困難事例を提出した介護支援専門員が、必ず「おみやげ」 (メリット)を持ち帰れるようにすることを心がけています。 その内容としては、課題解決へ向けての様々なバックアップを行うことと、それを通し てスーパーバイズやOJTを行うことで介護支援専門員の資質向上にも働きかけています。 ○大磯町地域ケア会議では、行政施策や要綱、利用者通知文の事前チェック機能として保 険者が地域ケア会議を活用しています。 同時に、行政や事業者という垣根を越えてのアドボケイト(権利を代弁する)機能も、 会議機能として含めているため、立場が関係なく自由な発言ができる場としてのメリッ トが創造されていることが特徴的です。 また、行政だけに限らず、医師会や各事業所の、諸々のインフォメーションを行う情報 共有・拡散の場としても活用しています。 (開催日程・開催時間について) ○大磯町の地域ケア会議は毎月一回で定例化されています。会議を定例化することで、参 加者の毎月の予定を立てやすくすると同時に、参加すべき「仕事」としての認識を高め ることを狙いとしています。 82 地域ケア会議の実践例/神奈川県大磯町 大磯町地域包括支援センター (目的に合わせた参加者選定) ○地域ケア会議の目的を常に参加者間で共有し、円滑かつ効率的に会議を行うことは重要 です。そのためには、同じ目線で、同じ目標に対して、様々な職種からのアプローチが できる会議とするための適切な参加者を招集しつづけることが必要になることから、大 磯町地域包括支援センターでは、参加している各団体との関係性構築に力を入れており、 対象事案に合わせた柔軟な参加者選定を行っています。 ○例えば、医師会からの参加者の場合、地域ケア会議に寄せられる様々なケースを見通し たうえで、医学的な発言が行え、かつ在宅医療への理解がある医師の参加が望まれます。 しかしながら、地域ケア会議出席を担当している医師の異動等の理由により、出席でき 第3章 なくなってしまった場合、地域ケア会議の機能や効果が変わってしまう場合が考えられ ます。 そのため、大磯町地域包括支援センターでは、常に適切な医師に参加してもらい、地域 ケア会議の質を安定させるため、医師会および担当者とコミュニケーションを図り、地 (顔の見える関係性の構築) ○地域ケア会議の参加者である医師会や事業所に対する伝達事項がある際は、たとえ封筒 一通分のものであったとしても、出向いて手渡しすることを心がけています。その際、 同時に地域ケア会議での次の議題の共有や相談を行ったり、運営に関する話をすること で、情報伝達だけでなく、顔の見える関係づくりや、連携を深めていくきっかけとして います。 (課題の解決へ向けた取り組み) ○地域ケア会議を通して発見・整理された地域課題やその対処法は、地域包括支援センター により様々な機関や組織で行われている会議へと伝達されます。その例として、民生委 員会や、老人会・住民説明会といった地区で行われる会議へと地域包括支援センター職 員が出向き、地域ケア会議で整理された情報を伝えることで、その内容を地域活動へと 反映をさせています。 ○個別ケースについての他機関や他の会議との関連性として、個別カンファレンスとの連 携があげられます。実際に支援を行う関係者が集まり開催されるカンファレンスで取り 上げられた課題などを地域ケア会議で協議、その結果をカンファレンスへとフィード バックする、という一連の連携システムを構築しています。 ○地域課題を解決するうえで、行政との連携が欠かせなくなります。そのため、大磯町の 地域ケア会議には毎回行政の担当者が参加し、地域の現状や課題を常に共有する体制を 敷いています。 課題解決へ向け、具体的な事業等が始まる際には、その内容により、行政と地域包括支 83 地域ケア会議の実践例 域ケア会議についての十分な理解をしてもらうために働きかけています。 援センターの協働体制を取ることや、事業の推進のために地域ケア会議を活用する、と いった連携が取られます。 (町単位を飛び越えたネットワークによる取り組み) ○大磯町の隣町である二宮町との合同連絡会として、「湘南ウエスト大磯二宮介護保険事 業者連絡会」(以下 : 湘南ウエスト)があります。この連絡会には大磯 ・ 二宮でサービ スを提供している全ての事業所が参加するもので、参加事業所数は 100 以上となってい ます。事務局は大磯・二宮の両地域包括支援センター(共に委託型)が合同で行っており、 保険者を飛び越えての運営体系となっていることが特徴的です。 大磯町と二宮町それぞれで行われる地域ケア会議を通して、類似した地域課題が発見さ れた際などは、広域的な解決を図るため、湘南ウエストが活用されています。 例えば、地域ケア会議において、地域に必要と思われる研修等が発案され、その内容が 両地域共通の利益をもたらす場合、湘南ウエストにおいて研修の実施についての是非を 尋ねる、または周知・告知といったインフォメーションに活用する、さらには湘南ウエ ストそのものを研修の場とする、といった活用が行われます。 ○精神障害・認知症の分野での取り組みとして、平塚市・大磯町・二宮町の範囲で行われ ている会議として、「平塚市障がい者自立支援協議会地域生活支援部会精神分科会」が あります。この分科会では精神障害、認知症のケースを持ち寄り、その検討を通じて、 それぞれの地域の共通課題の整理を行ったり、困難ケースの解決を地域を越えて図って いくものです。 その背景として、大磯町・二宮町には精神科の病院が無く、入院の必要があるケースの 場合、平塚市の病院を利用することが多いためです。 地域ケア会議において解決が困難であったり、地域の課題として整理された事例等を、 この分科会へと提出し、その解決を図るといった町の単位を越えた課題解決の工夫がさ れています。 (3)地域ケア会議の今後 (地域の方々と地域ケア会議のつながりの強化) ○大磯町の地域ケア会議は、「地域ケア会議を軸として、様々な会議や機関と連携し、課 題を解決していく」スタイルで構築されています。そのため、地域と地域ケア会議の間 における情報発信・収集も、様々な会議や機関と連携することで行なわれています。 今後、より効果的かつ迅速な情報共有を可能にするため、必要に応じてダイレクトに地 域ケア会議と地域の方々をつなげられる体制を構築することを検討しています。現在は、 その形態について、現在の地域ケア会議への参加を促す形で行うのか、新たな会議を新 設するのか、個別ケースのカンファレンス等との連携をより強化することでシステムと して成り立たせていくのか試行錯誤を重ねています。 84 地域ケア会議の実践例/神奈川県大磯町 大磯町地域包括支援センター 事 例 コ ラ ム 〈虐待事例等における施設入所要請ケース〉 ケースを担当する介護支援専門員より、虐待により一刻も早い施設入所が必要であると判断されたケー スが地域ケア会議の議題として提出された。 当該ケースについての地域ケア会議が開催され、参加者による検討を経た結果、介護老人福祉施設へ の入所が必要であると結論づけられた。 そのため、地域ケア会議での検討内容を地域包括支援センターが再整理 ・ 文書化し、施設への「入所 要請に係るお願い」として送付を行った。その内容は、 「入所申請についてのお願い」「対象者の基本属性、 および身辺状況」 「地域ケア会議における検討内容」等が盛り込まれたものであり、地域包括支援センター の名前で施設へと送付される。 それを受けた施設で、その内容についての妥当性が確認され、当該ケースの利用者の施設入所の順番 第3章 が早められることとなった。 この施設入所要請に係る一連の働きかけは、大磯町独自の地域ケア会議機能として継続的に行われて いる。 本取り組みについては、法的根拠や条例等の後ろ立てといったものがないため、強制力を有していない。 本取り組みが成り立つ背景には、地域包括支援センターの日頃からの活動による、地域包括支援センター 地域ケア会議の実践例 と施設の間における関係性 ・ 信頼性があり、その構築が重要である。そのため、大磯町地域包括支援セ ンターでは、諸施設との間における「地域のビジョン」の共有、地域ケア会議における多職種による検討 内容の公平性の担保を徹底している。 85 2 山梨県北杜市 北杜市地域包括支援センター 1.北杜市における地域ケア会議の概要 人 高 口 齢 化 率 : 約 49,327人 : 30.7% 地域包括支援センター設置数 1 か所 直 営 1 か所 託 0 か所 ー 0 か所 チ 0 か所 他 8 か所(総合支所×8) 委 サ ブ そ ブ セ ン ラ タ ン の 〈北杜市地域ケア会議機能〉 (平成24年4月現在) (北杜市と地域包括支援センターについて) 山梨県の北部に、八ヶ岳南麓地域、釜無川流域地域として位置している北杜市は、平成 16 年の 7 町村合併(明野、須玉、高根、長坂、大泉、白州、武川)、さらに平成 18 年の小淵 沢町との合併により誕生した、県内で最も面積の広い市です。 介護事業所や従事する介護支援専門員などの入れ替わりが少ないことや、市町村合併によ り、地域包括支援センターに各業務におけるリーダークラスの力量を持った人材が多く集 まったことなどが北杜市の特徴としてあげられます。 (特徴的な地域課題) 平成 24 年現在北杜市には認知症高齢者が多いという特徴があります。また、市民性とし てボランティア活動が活発でなく、高齢者世帯、老老介護が多いなど、介護力が弱いという 実態も存在します。 町村合併の背景から、圏域ごとの地区特性が色濃く存在しているため、それぞれの地区の、 ヒトやモノ、土地柄などについての特徴から、圏域ごとに異なる課題が発生しますし、また、 そういった地区ごとの課題に対応することが北杜市として求められる働きとなります。 (北杜市の人口と高齢化率) 人口は減少傾向にあり、現在約 49,327 人。高齢化率は上昇傾向であり、現在 30.7%となっ ています。(平成 24 年 4 月現在) また、高齢化率は上昇を続け、平成37年には高齢化率40%を超えることが推計されています。 また、後期高齢者の数が前期高齢者の数を上回り、その後、後期高齢者数は増加を、前期高 齢者は減少していくと推計されています。 86 地域ケア会議の実践例/山梨県北杜市 北杜市地域包括支援センター (北杜市の地域ケア会議と地域包括支援センターの概要) 北杜市で実施されている「地域ケア会議」は、8 地区ごとで開催される「個別ケース地域ケ ア会議」「各地区小地域ケア会議」、北杜市全体規模として開催される「北杜市地域包括ケア 推進会議」の 3 つの会議が軸となり構築されています。これらの会議は、個別の課題を解決 し、そこから見つかる地域の課題を小地域ケア会議で取り上げ、さらに地域包括ケア推進会 議へと上げていくという形で、階層的に連携し、機能しています。それらの会議を統括・運 営する地域包括支援セ ンターは、直営型で1 か所配置されているほ 第3章 か、8 地 区 に 1 か 所 ず つ総合支所(市区町村 役場と同等の権能を有 する出張機関)が配置 地域ケア会議の実践例 されています。 87 (1)個別ケース地域ケア会議 (会議概要) 開 催 頻 度 非定例 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターの地区担当者ごとの裁量 に任されている 会 議 の 目 的 ケース関係者により個別課題解決のための手段 を検討する。またその中で、役割分担や関係性 の構築を行い、さらに地域課題を探る。 会議の持つ機能 個別課題解決機能、地域課題発見機能、ネットワーク構築機能 見込まれる成果 個別課題の解決、地域課題の発見、ネットワーク構築 対 それぞれの地区担当者の担当圏域内における個別ケース 主 会 議 運 象 範 囲 会 議 参 加 者 固定参加者:個別ケース家族、地域包括支援センター職員 会議参加者:郵便局、農協、介護支援専門員、民生委員など、ケースを取り巻く人々。 ケースにより参加者は異なる。 進 地域包括支援センター職員(固定) 行 役 事例選定方法 地域からの通報、介護支援専門員からの相談 (個別ケース地域ケア会議とは) 地域包括支援センターの地区担当者が、それぞれ受け持つ地域の中に生活課題を抱える 個別ケースがあった場合に、ケースに関わる(または今後関わり得る)関係者と会議を持 つことで、ケースの課題を共有し、顔を合わせる機会を作っています。個別ケースの支援 にあたって役割分担をするとともに、個別ケースの中から把握できる地域課題を探ります。 単なる担当者会議ではなく、地域包括ケアを推進するためのファーストステップとして の会議として位置づけられています。 (事前準備・司会等) ○参加者の選定・招集、開催日程調整、関係資料の準備、当日の司会進行等は、基本的に 地域包括支援センター職員が行います。 (開催日程) ○北杜市における個別ケース地域ケア会議は定例化されておらず、必要に応じて随時開催 されます。至急の対応が必要な事例であれば、相談を受けてから数日以内に会議を開催 しますし、会議の内容に広がりを持たせるため、時間をかけた事前準備・調査を基に会 議を開催する場合もあります。 88 地域ケア会議の実践例/山梨県北杜市 北杜市地域包括支援センター (参加者) ○ケースごとに参加者を選定し、主に、本人・家族・親族・近所・地域の世話役・保健福 祉推進委員・消防署団員・駐在所・主治医・介護支援専門員・介護保険事業所担当者・ 関係行政担当者・地域包括の地区担当など、で構成されます。 事 例 コ ラ ム ある男性が地域包括支援センターの支援相談窓口を訪れ、認知症の症状がみられる叔母の80代女性(以 下「女性」)と、その息子で脳性麻痺を患っている 50 代男性(以下「息子」)が二人で暮らしており、家の 中でいざ何か問題が起こった際、自力では助けを呼べない可能性があり、心配であるという相談であった。 その相談を受けた後、地域包括支援センター職員による自宅訪問等を経て、この家族の事例を個別ケー ス地域ケア会議で検討した。 第3章 個別ケース地域ケア会議には、地域包括支援センターにより女性 ・ 息子 ・ 相談者を含む親戚、近所の 理解と見守り等を促進するために重要であると考えられる近隣住民、サービスの利用を考えるに当たり 必要である事業所の関係者、民生委員等が招集された。 会議ではまず相談者により女性と息子の生活の状況、また何が問題か説明がされ、生活の状況や問題 その後、具体的な解決策が話し合われ、これから何を行っていくべきか、また、もし今後さらに状態 が悪化した場合はどのようなサービスを受けるべきか、家族や地域住民はどのような対応をするべきか、 困った時の連絡先の共有、などが決められていく。 初めてケア会議に参加した家族は「会議に当たってどんな心構えで参加すれば良いのか不安であった が、行政の人と一つの家庭のことでこんなにも話ができるとは考えなかった。つながりを持つきっかけ になった」とコメントした。 (2)各地区小地域ケア会議 (会議概要) 開 催 頻 度 非定例 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターの地区担当者ごとの裁量 に任されている 会 議 の 目 的 個別ケース地域ケア会議の事例を地区単位で集 約し、情報の共有・課題の検討を行う。 会議の持つ機能 地域課題発見機能、地域づくり・資源開発機能 見込まれる成果 地域課題の発見、ネットワーク構築、地域づくり・資源開発 対 8 つあるそれぞれの圏域 主 会 議 運 象 範 囲 会 議 参 加 者 地域包括支援センター職員、自治体の介護保険担当部署職員 ・ 高齢者福祉担当部 署職員、自治会・町内会の関係者、民生委員、等 進 地域包括支援センター職員(固定) 行 役 89 地域ケア会議の実践例 点を共有、次に、近隣住民から普段の買い物の様子など、多方面からの情報が共有された。 (各地区小地域ケア会議とは) 個別ケース地域ケア会議を積み重ねることにより浮かび上がる地域課題について、情報 の共有、地域を代表する組織として解決に向け必要な具体策の検討、解決に向け実践して いくうえでの役割の確認、新たなサービスの構築等に関する検討等を行う会議です。 (開催日程) ○各地区小地域ケア会議については、開催場所やベースは各地区の実情に合わせた開催を 行うものとされ、開催は定例化されていません。例えば 8 町それぞれで開催されている 民生委員会、区長会、地域委員会、社協支所長会、地区医師会などに合わせ、その会議 の参加者や、議題として取り上げる地域課題等が適切な場合、地域ケア会議の一角とし て開催されています。 事 例 コ ラ ム 個別ケース地域ケア会議の中で、「地域の中に、自力でのSOS発信が困難であると思われる世帯が多 く存在しているかもしれない」という意見が出たことがきっかけとなり、SOS発信困難世帯の存在が地 域課題として見出された。そして地域包括支援センターがその課題について民生委員へ相談を持ちかけ、 地区小地域ケア会議で検討されることとなった。 地区小地域ケア会議で、具体的に民生委員としてどのような働きかけが可能であるか検討され、地域 での影響力を持つ人物や民生委員、区長、婦人会などの団体で協力し、SOS発信困難世帯のリストアッ プを行うことが決定し、実行された。 リストアップされたデータは、これまでの活動により培われたネットワークを活かし地域の中で共有 され、見守りや声かけといった、実動の中で活かされている。 (3)北杜市地域包括ケア推進会議 (会議概要) 開 催 頻 主 会 90 議 運 度 定例(2 回/年) 催 保険者・地域包括支援センター 営 市単位で運営が統一されている 会 議 の 目 的 市単位の課題に対し、代表者レベルで解決手段 の検討を行う。 会議の持つ機能 地域づくり・資源開発機能、政策形成機能 見込まれる成果 地域課題の発見、ネットワーク構築、地域づくり・資源開発、政策形成 対 北杜市全域(市区町村レベル) 象 範 囲 会 議 参 加 者 地域包括支援センター職員、行政職員、社会福祉協議会、警察署、消防署、民生 委員、NPO、介護支援専門員、介護保険事業者、被保険者、医療機関、区長会等 代表、等 進 介護保険担当部署職員(固定) 行 役 地域ケア会議の実践例/山梨県北杜市 北杜市地域包括支援センター (北杜市地域包括ケア推進会議とは) 個別ケース地域ケア会議・各地区小地域ケア会議で見出された地域課題を中心に、地域 ケア連絡会議(介護保険事業所連絡会議)、介護保険外サービス事業者連絡会、総合事業 担当者会議などを通じて出された、解決困難な問題や、広域的な問題を代表者レベルで検 討する会議です。 地域包括ケアを推進し、高齢者が住み慣れた地域で安心して安全に暮らし続けられる仕 組みや、新たなサービスの構築を図ります。 (参加者) 第3章 ○北杜市地域包括ケア推進会議の参加者は、老人福祉計画・介護保険事業計画の策定委員 候補を含め、各機関の代表者レベルで構成されます。 2.北杜市における地域ケア会議運営 ○北杜市では地域から出た個別課題を関係者とともに検討し(個別ケース小地域ケア会 議)、それを積み重ねていくことで、地域を見据えることができる人材やネットワーク の増強を図り、地域の課題解決能力を向上させていくこと、すなわち「地域の力」を養っ ていくことを、地域ケア会議の獲得目標としています。 顔の見えるネットワークを構築し、地域力の向上へとつなげるには、長期的な目線で個 別事例検討を積み重ねる必要があるため、その効果はすぐに目に見える形としては現れ てこない傾向にあります。 そのため、地域包括支援センターは地域ケア会議に取り組んでいく中で、対外的にもわ かりやすい評価指標として、目に見える具体的成果をあげ、モニタリングをしていくこ とに留意しています。 目指すべき軸となる「地域の力」づくりと、それを推進していく上での根拠となる具体 的成果をもって、北杜市の地域ケア会議は運営されています。 (地域力の向上) ○地域の力として、サービス提供者や介護支援専門員などの介護職に限らず、たとえばケー ス当事者の近所の住民、地域の世話役、民生委員や消防署団といった、その地域に根差 している全ての方が、高齢者がその地域で安心して自立した生活を送っていくための意 識や視点を持ち、相互に協力し合いながら具体的に見守りや声かけといった行動をとれ る力やネットワークの形成を目指しています。 ○地域力が向上することで、地域の持つ課題解決能力や見守り等の予防力、気づきの力な どが備わり、その地域における具体的な地域包括ケアの形が構築されていきます。 91 地域ケア会議の実践例 (1)北杜市が地域ケア会議で目指す「地域の力」 (2)地域ケア会議運営上の考え方 ○地域づくりは効果が長期の目線で取り組む施策であるため、途中経過としての成果が目 に見えて出てこない場合があります。そのため、目に見える指標として、例えば介護予 防事業に取り組む中での成果として「介護保険料」や「要介護認定率」といったものに対 する意識も大切となります。北杜市では目標となる地域づくりと成果のバランスを図り ながら地域ケア会議が運営されています。 ○具体的成果を示唆するものとして、北杜市における第 5 期介護保険料基準額は 3,833 円 であり、全国平均の 4,972 円と比較して抑えられています。また、北杜市の高齢化率は 上昇傾向にあるものの、要介護認定率は平成 18 年度より横ばい(あるいは低下傾向)と なっており、介護予防の具体的な効果として表れています。 (地域ケア会議運営におけるマネジメントの必要性) ○北杜市では、8 つの地区特性を理解し、それらを統括した上で地域ケア会議の効果と目 標のバランスを考える役割を担う人物をおいています。地区担当者が担当地区の把握を 深められるよう支援し、また、担当者からの地区に関する報告や、より広域な地域の現 状を受け、地域ケア会議を運営する上での方向性をマネジメントしていくことが重要な 役割となっています。 また、地域包括支援センター職員の業務は多岐にわたりますが、北杜市の目標である地 域力の向上に関する取り組みに、少しでも多くの人員を配置できるようなマネジメント を行っています。 (地区の状況に応じた考え方) ○その地区それぞれに対応した施策や方針を打ち出すことが重要となります。北杜市にお いても各地区により異なる特性があるため、それに対応した考え方が持たれています。 例えば、別荘地を多く有する地区は、転入が多いなどの理由から、近隣住民や医師、行 政などとの関係性が希薄になりやすいことという地区特性があります。そのような地区 では、近隣との関係性が強い住宅地などの場合とは異なり、まず小さな関係性から作り 上げていくことが最初のステップとなります。 ○地区により、地域ケア会議に対する理解にも違いが見られる場合があります。 例えば、介護支援専門員の地域ケア会議に対する受容に違いが見られる場合があげられ ます。一度(または数度)地域ケア会議を体験することで、その後、積極的に地域ケア 会議を活用する介護支援専門員が生まれやすい地域がありますし、その一方で、何度か 開催しても地域ケア会議に対する理解を得にくい、積極的に活用していくスタンスにな りづらいという地区も存在します。 後者の地区の場合には、継続的に地域ケア会議への介護支援専門員の参加を呼びかけ、 地域ケア会議の有用性や理解を浸透させていくこととしています。 92 地域ケア会議の実践例/山梨県北杜市 北杜市地域包括支援センター (3)地域ケア会議運営上の具体的手法 ①保険者と地域包括支援センターの連携 ○北杜市では保険者と地域包括支援センターの立場を明確に分けた役割分担を行うことで、 効率的な地域ケア会議の運営を図っています。 例として介護支援専門員との関係において、保険者は介護支援専門員に対し助言や指導 を行う立場として、地域包括支援センターは困りごとがある介護支援専門員をサポート する立場として、それぞれの視点で役割分担し、関わっています。 ②個別ケース地域ケア会議運営上の手法 第3章 (事例の選定・発見方法) ○個別ケース地域ケア会議の議題として選定されるものとして、地域住民や家族などから 通報があったケース、または介護支援専門員が困難を感じ、地域包括支援センターに相 談をしたケースがあります。 地域ケア会議の実践例 またそれに限らず、地域包括支援センターが総合相談支援業務としてスクリーニングを 行っていく中で、地域ケア会議の開催が必要と思われる事例を取り上げます。 ○地域の人の声から困りごとを見つけ出し、地域包括支援センターから声をかける働きも 重要です。その際、雑談の中からも困りごとを拾い上げられるよう、ささいな言葉にも アンテナを張ることに留意しています。 (アセスメントの重要性) ○選定された事例の問題点を解決に導き、個別ケース地域ケア会議による成果を得るため、 地域包括支援センター職員(担当者)はそのケースにおける問題点を把握し、解決に導 くための筋道を立てて、会議に臨みます。 そうした筋道を構築していくには、当該ケースに関わる様々な情報を持ち、それらの関 わりを理解した上で、徹底したアセスメントを行うことが重要です。 ○ケースの当事者に関係のある人物が少ない等の理由で、情報を集めることに対し困難が 生じることも考えられます。そうした場合、担当者は、関わっている介護支援専門員が いるか、家族が近くに住んでいないか、といった情報を収集することから始め、たとえ ば介護支援専門員がいた場合は、事前に打ち合わせを行い、さらに少しでも多くの情報 を収集する努力をします。 ○問題点を整理し、アセスメントを進めていく上で、担当者には地域の理解が求められま す。地域を理解することとは、地域資源として何があるか、その地域にはどのような人 がいるのか、といった地域特性を知識として持っているということです。 また、アセスメントだけに限らずその先に問題点の解決を見据える上で、地域における 顔見知りの関係をいかに構築しているか、事業所との関係性が築けているか、といった、 地域との関わりの強さも重要です。 93 (参加者の選定・招集、会議日程の決定プロセス) ○担当者は会議参加者を選定するにあたり、「本人がその地域で暮らし続けていく上で重 要である人物」という視点で行います。その際、家族などはもとより、医師や介護支援 専門員、事業者、あるいは警察署や消防署といった専門職、さらに近隣住民や地域住民 など、広く「問題を解決するにあたり必要な人物」から選定します。 ○会議日程は、選定した参加者の中で、問題解決における重要度を順番づけし、より重要 度の高い人物から順番に調整を図ります。 例として、認知症による徘徊などの症状で近隣住民が迷惑を感じているが、近隣住民は 本人が認知症だということを知らない、というケースにおいて、近所の方やサービス事 業所の協力を求めることよりも、まずは認知症であることを周囲に理解してもらった方 が良い場合があります。その場合、最優先される参加者は病状を証明・説明できる医師 であり、次にそれを理解してもらうべき家族や近隣住民、その後に普段から見守りをし てくれるかもしれない地域住民や警察署や消防署、という形で重要度を設定し、優先的 に日程調整を行っていきます。 ○各地区小地域ケア会議は、各地区で行われている民生委員会や区長会を活用し、日程や 参加者はそれに合わせる形で開催されています。 このように、地域に既に存在する他の会議を有効活用し、地域づくりを推し進めていく ことは重要です。 ③北杜市の目指すネットワークの構築に向けて (具体的なネットワーク) ○北杜市地域包括支援センターの基本的な考え方として、「1 人の事例を皆で共有し、そ こから様々なことを学び、そして北杜市全体へとつなげていく」というものがあります。 同じ事例を共有することで、問題点や解決へのプロセスだけでなく、事例と向き合う心 構えも共有できるため、関係者同士の結びつきが強い「具体的なネットワーク」が構築 されることを目指しています。 (顔の見えるネットワークを拡大していくための働き) ○「1人の事例」の共有を広げていくため、民生委員会や区長会、地域委員会、社協支所長 会、地区医師会などの会議に、個別ケース地域ケア会議の事例を紹介し、そのケースに 対する関わり方の検討を行っています。 ○地域包括支援センターは、地域ケア会議を通して警察署や消防署といった他の機関との 関係性の構築・目標の共有を図ります。地域ケア会議への参加により異なる機関同士の 顔が見え、具体的な事例を重ねることで目標が共有されていくことで、互いの認識が深 まり、相互連絡・相互協力を取り易くなります。 また、その積み重ねにより、参加する専門職同士のやり取りが熟成されていき、互いの 94 地域ケア会議の実践例/山梨県北杜市 北杜市地域包括支援センター 専門性を認め合い、活用し合えるようになります。 ○初めて地域ケア会議への参加を求める場合や、関係を構築しはじめようとする際は、地 域包括支援センター職員は足を使い、出向くことが意識されています。地域包括支援セ ンターの熱意を伝え、会議への参加や協力を得ることに対する意識と行動を重視してい ます。 例えば警察署などに対し、地域ケア会議への参加を呼びかけるときに、地域ケア会議に 対する認識がないことや、自分の業務外であるという認識を持たれてしまうと、それが 弊害となり、なかなか協力が得られないということがあり得ます。そこで、電話で参加 の呼び掛けをするだけではなく、地域包括支援センター職員が直接訪問し、地域ケア会 理解と協力を得られるよう働きかけます。 第3章 議とは何か、何が理由で協力を求めているのかなどについて説明を行い、課題の共有 ・ (4)北杜市における地域ケア会議の今後 齢者を支えていくことが困難になるため、さらなる地域力の向上につながる体制強化 ・ システムの構築が必要となります。 そのため、地域ケア会議を活用した人材育成とネットワークの強化が重要になります。 (人材の数と質に対する働きかけ) ○関係職員のモチベーションの維持・向上を図るため、地域づくりに取り組む上での指標 となるような、中間目標を具体的に設定すること、また、それを達成していくことが目 指されています。職員の資質向上のためにも、モチベーションの低下を招くことのない 運営が求められていきます。 ○北杜市地域包括支援センターの各地区の担当者には専門職を配置しています。部署異動 等のない職員を配置し、地域理解を深めていくことで、より効果的に今後の北杜市の介 護を担う人材を育成しています。 (ネットワークの拡大・強化に向けた働き) ○今後さらに各地域における「顔の見える具体的なネットワーク」を拡大し、より深めて いく観点から、個別ケース地域ケア会議事例の提供・共有を行う対象を現在の民生委員 会、区長会、地域委員会、社協支所長会、地区医師会などに加え、各地区においてその 地区の問題を検討している「地域委員会」にも拡げていきます。 ○各地区小地域ケア会議においては、より地区ごとの課題を整理・検討するための機能を 明確にするため、これまでの地区ごとの民生委員会や区長会に合わせた開催方法から地 域包括支援センター主導による開催へと移行することが目指されています。 また、地区ごとの課題を集約し、それにより発見される地域課題を解決するための政策 95 地域ケア会議の実践例 ○現在の前期高齢者が後期高齢者となり高齢化率が上昇する時期には、現状の体制では高 形成や地域資源づくりを検討する場として、北杜市地域包括ケア推進会議の位置づけを 明確にすることとしています。(平成 25 年度より年間 3 回の開催を決定) それにより、個別課題から発見される地域課題を北杜市の政策へと上げていくネット ワークを強化することが目指されています。 96 地域ケア会議の実践例/山梨県北杜市 北杜市地域包括支援センター 3 千葉県銚子市 銚子市地域包括支援センター 1.銚子市における地域ケア会議の概要 人 高 口 齢 化 率 : 約 69,522人 : 29.9% 地域包括支援センター設置数 1 か所 直 営 1 か所 託 0 か所 ー 0 か所 チ 0 か所 委 サ ブ ブ セ ン ラ タ ン 〈銚子市地域ケア会議機能〉 第3章 (平成24年11月現在) (銚子市の特徴) 署、消防署などのサービスが市内で完結しているという特徴があります。地域産業として、 漁業・水産加工業・醤油醸造業・農業があり、その半面、製造業・サービス業は少なくなっ ています。 生活圏域は東部・中央・西部の 3 圏域があり、主な職業や世帯構成など,それぞれに異な る地域特性を有しています。漁師の仕事の厳しさから「銚子の川口てんでんしのぎ」(利根 川河口では昔から遭難が多く,嵐が来たら他の船を助けている余裕はなく,てんでに逃げろ という言い伝え)がありますが,地縁や血縁による助け合いが今も残されています。 (人口と高齢化率) 銚子市の人口は緩やかな減少で推移しており、ピークであった昭和 40 年代の 91,000 人強 から、現在は約 69,522 人となっています。 高齢化率は緩やかに上昇を続けており、現在は 29.9%となっています。 将来人口推計としては、平成 37 年には人口は約 53,684 人、高齢化率は 42.7%、平成 47 年 には人口は約 42,264 人、高齢化率は 49.0%と推計されています。 (特徴的な地域課題) 銚子市の地域課題として、認知症高齢者が増加している点があげられます。また、単独世 帯が増えてきていることも懸念材料となっています。 健康指標として、脳血管性疾患、心疾患、悪性新生物等の死亡率が高く健康寿命が短い点 も特徴的です。 定年なく働き続けられる農家 ・ 自営業が多いことなどが起因し、ボランティアやNPO団 体の人員が足りず、また、新たに参加する人員も少ないため、今後の高齢化率の上昇に伴い、 97 地域ケア会議の実践例 銚子市は千葉県の東端に位置し、利根川と海に囲まれています。そのため、保健所や警察 地区によっては支え手が足りなくなる場所が発生する可能性が懸念されています。 (銚子市の地域ケア会議と地域包括支援センターの概要) 銚子市で行われている地域ケア会議は、目的を達成するための手段として活用されており、 これまでの地域福祉活動の蓄積を根拠に、銚子市における地域福祉の柱として抽出された 「援助困難事例検討会」「医療と介護の連携のための基盤づくり」「認知症地域支援体制」「介 護予防ケアマネジメント」「地区活動・コミュニティワーク」の 5 つを目標テーマとして掲げ、 それぞれの中に課題の解決 範囲に応じた地域ケア会議 を適宜設置・運営していま す。 また、地域づくりを行う 視点から意図的に開催する 会議は、全て地域ケア会議 であると位置づけられ、地 域包括支援センターが担う あらゆる業務の中で、必要 に応じて設置・開催されて います。 (銚子市の地域ケア会議例) 銚子市で地域ケア会議として位置づけられ、これまでに行われてきた、または現在行われ ている会議例として以下のようなものがあります。前述の柱となる 5 つのテーマに沿った会 議が多く設置されていますが、実際行われている会議はそのテーマに沿ったものには限りま せん。 ①孤立死防止モデル事業における民生委員・町内会役員との会議 ②認知症ケア推進部会 ③孤独死防止推進部会 ④高齢者虐待防止ネットワーク会議(高齢者・障害者虐待防止ネットワーク) ⑤介護予防事業等検討委員会 ⑥地域ケアサービス部会 ⑦地域ケア実務者会議 ⑧認知症メモリーウォーク実行委員会 ⑨認知症高齢者見守りSOSネットワーク ⑩援助困難事例検討会 ⑪地区民生委員・児童委員連絡協議会定例会への参加 98 地域ケア会議の実践例/千葉県銚子市 銚子市地域包括支援センター ○地域ケア会議は目標(例えば柱としている 5 つのテーマなど)を達成するための手段であ り,会議の目的や内容も課題分析,課題の共有・合意形成,解決策の検討,モニタリン グ,評価などPDCAプロセスに沿って変化します。開催頻度や選定する参加者について、 また、話し合い中心なのか研修会中心なのかといった方法もそれぞれの会議の目的ごと に異なります。 第3章 地域ケア会議の実践例 事 例 コ ラ ム 〈行政課題と地域の実態の両面が一致し、認知症地域支援体制の整備へ動き出した事例〉 認知症地域支援体制づくり推進に関する市町村セルフチェックシートを活用し、銚子市の認知症支援 体制をチェックしたところ、支援体制に対する課題が様々発見された。そのため、これを銚子市におけ る行政課題として取り上げる運びとなった。 実態としても,同時期、市内での認知症による徘徊 ・ 保護が増加を辿っており、認知症高齢者の地域 支援体制づくりが地域の課題であることが浮き彫りとなった。 そのことから、平成 22・23 年に行われた地域包括ケア推進事業へ銚子市として手挙げをし、モデル市 町村として地域包括ケア推進事業へ取り組む運びとなった。その際、介護保険事業運営協議会を「地域 包括ケア推進会議」と位置づけると同時に、銚子市としての地域包括ケア推進事業の柱を認知症ケアと 孤独死防止に設定し、認知症ケアの専門部会として「認知症ケア推進部会」を設置した。 認知症ケア推進部会の事務局は地域包括支援センターが担い、その参加者は医師会、薬剤師会、弁護 士会、司法書士会、介護事業所、介護支援専門員協議会役員、保健推進員、高齢者代表、学識経験者が 選定・召集された。 第 1 回の会議では、認知症高齢者の現状と課題を把握する、という趣旨のもと、様々なデータの収集・ 整理が行われた。そのデータをもとに様々な対策案が検討され、第 2 回の会議において、認知症の疑い がある高齢者に受診を勧め、その後のフォローまでをシステム化するための「物忘れ相談」を地域包括支 援センター内に設置すること、及び「認知症見守りSOSネットワーク」の構築を行うことが認知症ケアの 2 本柱として決定され、その内容について検討が行われた。 その後、 「物忘れ相談」に関しては医師会に説明会を実施、さらに協力を仰ぎ、現在では実稼動している。 「認知症見守りSOSネットワーク」については地域ケア会議を活用し構築を行い、こちらについても現在 は稼動している。 99 2.銚子市における地域ケア会議運営 (1)2つの出発点から取り組む地域づくり 銚子市では「高齢者が暮らしやすい地域づくり」を目標とし、地域ケア会議を活用して 様々な課題に取り組んでいます。 地域ケア会議の開催は、個別事例を積み重ねていく中で、その地域に共通した課題を発 見し、その解決を目指していくケースと、市として抱えている課題や、国や都道府県から 施行された法律や条例、施策といったものを、その地域の環境や考え方、習慣といった地 域特性を考慮したうえで、その地域に適用させていくという行政課題の解決を目指すケー スがあります。 どちらを出発点にするにしても,それぞれがお互いに連動することが重要と考えていま す。 (2)地域ケア会議運営上の考え方・具体的手法 (直営型地域包括支援センターの特徴) ○支援が必要な個人や関係者の情報を把握しやすいだけでなく、課題に対する判断が行政 として素早く行えるうえ、市の職員がそのまま地域包括支援センターの職員であること で、地域住民や関係機関に安心感を持たれる点が特徴となります。 また、行政としての姿勢をストレートに表現した上で、解決策が政策形成に直結しやす い点があげられます。 (課題に対する地域ケア会議のエリア) ○行政課題について取り組む場合と、個別の問題に取り組む場合、また、そのケースにより、 対象とする地域のエリアが変わります。そのため、地域ケア会議を開催する際は、小学 校区域の課題なのか、もしくは町内単位であったり圏域単位の課題であるのかといった 課題の解決に向け、必要とされるエリアを的確に捉えることとしています。 また、地理範囲的なエリアに限らず、関係機関の守備範囲的なエリアまで考慮しています。 ○例えば、認知症高齢者の徘徊事例の場合、当事者一人のサポートネットワークを構築す る場合であれば、町内単位であったり、民生委員の守備範囲となるエリアでの検討を行 う地域ケア会議を開催します。銚子市として認知症高齢者の徘徊に対する支援策を構築 する場合は、市全体の課題として、より広いエリアでの地域ケア会議を開催します。 (地域ケア会議開催に向けた事前準備) ○地域ケア会議を行う上で、最も重要視していることは、課題解決に向けたテーマ設定を 明確に行うことです。設定されたテーマに対し、様々なエリアの中で、関係者を招集し、 会議を行っていきます。 テーマを設定する際は、地域包括支援センター内での合意形成をはじめに行うことをポ 100 地域ケア会議の実践例/千葉県銚子市 銚子市地域包括支援センター イントとしています。 ○地域ケア会議を開催する際、テーマ設定に基づき、重要と思われる組織や関係機関と事 前に打ち合わせを行い、関係者から現状や課題、思いを把握して、会議が効果的に進め られるようにします。 ○例えば、日常的な見守りや、緊急時の迅速な連携のためのネットワークを構築していく 「認知症高齢者見守りSOSネットワーク」づくりのための地域ケア会議を開催する際は、 要となる組織は警察署と消防署であるため、地域包括支援センター職員は事前の打ち合 わせの場を設け、最初の段階での意見の擦り合わせ・合意を図るなど、会議や目的のイ メージを共有します。その後、関係する全ての機関や住民の代表に対し、現状の課題と 第3章 解決に向けた方向性を伝えて回ります。このようなプロセスを踏むことが、明確な指針 を持った会議開催の助けとなっています。 (会議において検討を深めるための工夫) その課題についてどのようなことを考えているのかを文書化して提出してもらいます。 そして、次回の会議開催前に可視化された意見を共有することで、参加者が主体的に参 加でき、会議開催時により効率的に意見を深めていくための助けとしています。 ○解決策を考える段階での地域ケア会議の場合は、少人数グループにしてブレインストー ミング法(集団発想法)による会議を行い、参加者が自由に意見を述べられる工夫を行っ ています。 ○いずれの会議・会議法においても、参加者全員の意見を大切にする視点と、情報の共有 に漏れが生じないよう、地域包括支援センター職員がホワイトボード等に板書をしなが ら進行します。 (関係機関との連携) ○地域包括支援センターの役割を地域にアピール(説明)し、関係機関との連携が取りや すくなるような、また、新たな関係機関が輪に入りやすくなるような体制を構築してい くことが重要であるとしています。 その上で様々な事例の成功体験を共有していくことで、より強固な関係性や連携力が築 かれていきます。そのための成功体験共有の手法として、銚子市地域包括支援センター では、地域ケア会議での検討を通じて行った活動を参加者にフィードバックしています。 (3)地域ケア会議の今後 (地域住民や関係機関との協働の更なる推進) ○現在の銚子市は、テーマを持って事業を推進していくための基礎・基盤は整っていると いえますが、地域資源としてボランティアやNPOといったものが少ない現状があります。 101 地域ケア会議の実践例 ○継続的に開催される会議の場合は、参加者に自分の意見を十分に出していただけるよう、 そのため、銚子の中から銚子を支えていく人を新たに生むような仕掛けづくりを行って いくこととしています。例えば孤独死防止モデル事業から育成した傾聴ボランティアや 認知症サポーターなどを活用することや、広報として、人員が不足している事実、参加 することの意義や利点といった情報を周知していく活動があげられます。 このようにボランティアやNPOのインフォーマルな支え手の不足を解消し、さらに、 現在行っている事業や地域づくりにインフォーマルな地域資源を結びつけていくための 情報を共有しています。 ○上記のようなことも受け、今後さらに地域ケア会議を、高齢者保健・医療・福祉・介護 の課題への取り組みについて、関係機関と共に検討し対策を考える会議として、機能強 化していくことが目指されています。 そうしていくことにより、行政のみでは把握しきれない地域の実態の把握が進むことや、 関係者が増えることにより課題解決策が広がっていくこと、地域住民や関係機関自身で の課題認識につながっていくと期待されています。 102 地域ケア会議の実践例/千葉県銚子市 銚子市地域包括支援センター 4 埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター 1.和光市における地域ケア会議の概要 人 高 口 齢 化 率 : 約 78,000人 : 14.5% 地域包括支援センター設置数 4 か所 直 営 0 か所 託 4 か所 ー 0 か所 チ 0 か所 委 サ ブ ブ セ ラ ン タ ン 〈和光市地域ケア会議機能〉 第3章 (平成23年4月現在) (和光市の特徴) 朝霞市、東側に荒川を挟んで戸田市、南側で東京都と隣接しています。市域は都心から 15 ~20km圏内であり、交通の利便性もあることから、東京の近郊都市として発展してきました。 市の面積は 11.04km とコンパクトですが、介護事業所や医療機関も比較的多く、豊かな 2 自然環境と、生活の利便性に優れた都市環境を有する市です。 (和光市の人口と高齢化率) 和光市は、交通の利便性などから「働き盛りの世代」の人口流入が続いているため、高齢 化率は全国平均からすると低く、現在 14.5%となっています。人口は上昇傾向が続いており、 現在約78,000 人です。(人口・高齢化率ともに平成 23 年 4 月現在) 将来推計としては、人口流入のペースが鈍っているため、人口はゆるやかに上昇を続けま すが、高齢化は進み、平成 27 年には人口 79,870 人、高齢化率 16.9%に、平成 37 年には人口 83,618人、高齢化率 18.3%になることが予想されています。 (特徴的な地域課題) 和光市の特徴的な地域課題として、地形的に坂道が多いということや、中高層住宅に住む 地域住民の高齢化が著しいことなどがあげられます。 毎年行われているスクリーニングニーズ調査の結果を基に、地域課題の種類と量を把握 ・ 整理し、その時の和光市の特徴的な地域課題を抽出しています。 (和光市の介護保険事業計画) 第5期和光市介護保険事業計画(和光市長寿あんしんプラン)の中で、和光市の基本目標は 「地域包括ケアシステムの構築による介護保障と自立支援の確立を目指して」とされており、 103 地域ケア会議の実践例 1970 年、埼玉県で 29 番目の市として誕生した和光市は、埼玉県の南端に位置し、西側に その基本方針は、 ①介護予防及び要介護度の重症化予防の一層の推進 ②在宅介護と在宅医療の連携強化及び施設や病院における入退院時の効果的連携 ③地域密着型サービスの効果的な整備 ④自立支援を基本とした地域包括支援センターによる包括ケアマネジメントの推進 と明記されています。 (地域包括ケアの実現に向けて) 和光市では、保険者が示す地域包括ケア体制の構築に向けた明確な方針(介護保険事業計 画)を実現するため、市内で開催されている様々な会議や取り組みを通じて、その目標を共 有しています。目標の共有ができたうえで地域ケア会議を活用し、個別課題の共有・解決を 重ねていくことで、方針で示された地域包括ケア体制の実現を目指します。 (和光市の地域ケア会議の概要) 和光市では、介護保険事業計画や基盤整備といった「マクロ的な政策」と、ケアマネジメ ントや人材育成といった「ミクロな支援」をつなぐための手法として、地域ケア会議が位置 づけられており、保険者により「コミュニティケア会議」の名称で運営されています。 コミュニティケア会議では、 ①地域包括ケアを念頭に置いた自立支援に資する高齢者(市民)対するケアプラン等の 調整・支援 ②ケアマネジメントの質の向上 ③地域包括支援センター職員、介護支援専門員及びサービス事業者等へのOJTによる専 門性の向上 ④他制度・多職種によるチームケアの編成支援 が目指されており、課題の内容ごとに a)介護予防部会 b)給付適正部会 c)権利擁護・虐 待関係部会 d)地 域 密 着 型 サービス部会 として整理されていま す。 104 地域ケア会議の実践例/埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター (中央コミュニティケア会議) 一次予防事業対象者・二次予防事業対象者・要支援高齢者・要介護高齢者に対する自立支 援ケアマネジメントを中心に、介護予防、困難ケース対応及び権利擁護等を包括的にマネジ メントする、各圏域で行う地域コミュニティケア会議の上部会議と位置づけられています。 主に、ケアプラン等が新規に作成された場合や、その前段として多職種による検討を行う 必要があるケース、モニタリングをしていく中で状態悪化が認められたケースの検討調整 及び地域包括支援センター長等に対するコーディネーター育成となるOJTを行うことも含み、 中央コミュニティケア会議での検討が行われます。 第3章 (地域コミュニティケア会議) 地域コミュニティケア会議では、取り扱う課題の内容や、会議の有する機能としては中央 コミュニティケア会議と同等となりますが、その中でもモニタリング・検証段階の個別ケー スについての検討を行います。 地域ケア会議の実践例 105 (1)コミュニティケア会議 (会議概要) 開 催 頻 主 度 定例(毎週木曜日、一部第3水曜日) 催 保険者 会 議 運 営 保険者 対 象 範 囲 市内全域 会 議 参 加 者 保険者、地域包括支援センター職員、外部助言 者(管理栄養士、歯科衛生士、理学療法士、薬 剤師) 進 長寿あんしん課 行 役 (コミュニティケア会議とは) コミュニティケア会議とは、介護予防部会や給付適正部会、権利擁護 ・ 虐待関係部会、 地域密着型サービス部会の4つの部会にて、個別ケースの課題解決に向けた検討を行う会 議です。 (部会について) コミュニティケア会議で検討を行う個別ケースは、その内容により4つの部会のいずれ かに整理されます。 部会の種類は、①介護予防部会、②給付適正部会、③権利擁護・虐待関係部会、④地域 106 地域ケア会議の実践例/埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター 密着型サービス部会、に分けられますが、それぞれの部会ごとに会議が行われているわけ ではなく、あくまで1つのコミュニティケア会議に集められたそれぞれの課題を部会とし て分けて整理しています。 ①介護予防部会の事例選定 要支援 1・2 及び二次予防対象の予防プランについて、全件議題とします。 ②給付適正部会の事例選定 介護支援専門員による持ち込みに限らず、要介護認定の更新認定時に、その時点の 訪問調査及び医師の意見書情報からの状態像と給付量を担当者がチェックし、支援 が必要なケースを選定します。 第3章 ③権利擁護・虐待関係部会の事例選定 介護支援専門員による持ち込みや、地域住民による通報といったものに限らず、要 介護認定更新時のチェックで選定された支援が必要なケースのうち、権利侵害や虐 待が疑われるケースが選定されます。 地域ケア会議の実践例 ④地域密着型サービス部会 和光市介護保険事業計画の政策方針(システムデザイン)に則り、小規模多機能居 宅介護・認知症専門デイサービス・グループホーム・24 時間巡回型訪問介護のサー ビスを利用する、新規プランを全件選定します。 (中央コミュニティケア会議と地域コミュニティケア会議の開催日程) コミュニティケア会議の開催日程は定例化されており、毎週木曜日(一部水曜日)に、 中央コミュニティケア会議と地域コミュニティケア会議が順番に開催されます。 具体的な開催のローテーションは以下の表の通りです。 水曜日 木曜日 毎月第 1 週 北包括・北第2包括会議 毎月第 2 週 中 毎月第 3 週 南包括会議 央 会 議 中 央 包 括 会 議 毎月第 4 週 中 央 会 議 毎月第 5 週 予 備( 中 央 会 議 ) 107 ~地域包括支援センターの運営委託~ (地域包括支援センター業務運営委託) ○和光市の地域包括支援センターは、「和光市地域包括支援センター設置要綱」(参考資料 1 p116 ~ 118 参照)に基づき、「南」「中央」「北」「北第二」の4か所が設置され、全 ての地域包括支援センターが、要綱の規定により市から運営(業務)を委託されています。 (和光市介護保険運営協議会) ○和光市では、「和光市介護保険条例」の規定に基づき、介護保険事業に係る重要事項に ついての諮問機関として、和光市介護保険運営協議会を設置しています。 同じく条例の規定に基づき、運営協議会の中に、地域包括支援センターの運営に関する 事項を所掌する「地域包括支援センター運営部会」と地域密着型サービスの運営に関す る事項を所掌する「地域密着型サービス運営部会」が置かれています。 参考:和光市介護保険条例(平成 12 年条例第 25 号)第 21 条 (地域包括支援センター運営部会及び地域密着型サービス運営部会の設置) 第 21 条 協議会に、地域包括支援センター運営部会及び地域密着型サービス運営部会を設置する。 ○上記のことから、市が要綱の規定に基づき地域包括支援センターの運営を委託する法人 を選定し、その適否を介護保険運営協議会に諮問し、運営協議会の審査 ・ 承認を経て、 地域包括支援センターの運営委託が決定していく流れとなります。 (保険者と地域包括支援センターの関係性) ○和光市では、地域包括支援センターを「保険者の地域出張所」、「保険者の代理人」と位 置付け、介護保険サービスはもとより、被保険者である健常高齢者から要介護者等の住 まい、生活支援サービス、医療、福祉 ・ 権利擁護などをコミュニティケア会議(地域ケ ア会議)を通じて多職種連携を進め、中心となってコーディネートを実践しています。 ○和光市では、コミュニティケア会議を中心とした地域包括ケアのネットワーク連携を前 提に、各地域包括支援センターに対して、包括的支援事業に関する事業運営方針を明示 しています。 このように、保険者と地域包括支援センターが同じ情報量等を共有する連携をベースと し、サービス事業者や医療機関など、全ての関係者が同じ視点・目標を持ち、地域包括 ケアの実現を目指します。 108 地域ケア会議の実践例/埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター 2.和光市における地域ケア会議運営 (1)「マクロ的な政策」と「ミクロ的な支援」をつなぐための地域ケア会議 和光市では、和光市の方針である介護保険事業計画(マクロ的な政策)と、個々のケア マネジメント(ミクロ的な支援)の間を、具体的な支援の検討や、市の方針の周知等の方 法によりつなぐ、重要な一手法としてコミュニティケア会議を位置づけています。 コミュニティケア会議を中心とした取り組みを続けることで、保険者機能の強化と介護 支援専門員のマネジメント力の向上を実現し、和光市の方針の達成・次期介護保険事業計 画の策定へとつなげていくことを目指しています。 和光市では、高齢者の尊厳とQOLの向上を目的としたケアマネジメントの機能強化を 目指す上で、a)市民への、自立支援の理念をはじめとした介護保険制度の周知、b)介護 第3章 (コミュニティケア会議の具体的な内容) 支援専門員の専門性の向上、c)サービス事業者の専門性の向上、がポイントであるとし ケアを念頭においた自立支援に資する高齢者(市民)に対しするケアプラン等の調整・支援、 ②ケアマネジメントの質の向上に向けた地域包括支援センター職員、介護支援専門員およ びサービス事業者等へのOJTによる専門性の向上、③他制度・多職種によるチームケアの 編成支援を行い、ケアマネジメントの機能強化を目指しています。 (2)地域ケア会議運営上の考え方・具体的手法 ①事前資料 (資料様式統一への取り組み) ○和光市では個別サービス計画書の様式を市内で統一しています。そうすることで、コ ミュニティケア会議において検討を行う際に、ケースごとに様式が変わることなく、効 率的に内容を共有できるほか、課題の分析や支援、モニタリングといった視点が明確に なることで、作成スキルとしての標準化が進むことが効果として期待されます。さらに、 OJTを行う側面からも、統一された様式であるからこそ、統一した評価が可能となります。 (資料概要) ○コミュニティケア会議において検討される各ケースでは、各介護支援専門員が対象者 の状況を、①個人因子(その人の身体機能、認知機能、廃用 ・ 疾病の状況、回復可能性、 性格など)と、②環境因子(家族・近隣住民・知人などの背景、在宅や地域の日常生活動線、 かかりつけ医・民生委員等との関係、生涯生活歴など)、に分けて記載します。 また、介護支援専門員のケースの見立てと対応方針を明らかにし、短期・中期・長期の 目標を生活機能領域ごとに立てるようにすることが大切です。 ○和光市では、ADL ・ IADLの見極め整理票となる、生活行為評価票によりアセスメント 109 地域ケア会議の実践例 ています。そのうえで、コミュニティケア会議では和光市の方針に沿いながら①地域包括 を行い、改善目標を立てています。 具体的には、和光市のアセスメント票に基づき、「×2→×1→△2→△1→○2→ ○1(×は全介助、△は一部介助、○は自立を示す。右にいくほど状態が良い)」の区分 で領域ごとに状態像を評価した上で、「△1→○2」という形で領域ごとの改善目標を 予め記載し、事後には評価を行います。 ○コミュニティケア会議に事例を提出する際は、A4 用紙 1 枚程度のフェイスシートにケー スの要点や支援計画(プラン提出者の考える今後の方針)をまとめることで、検討時間 を短縮(効率化)します。 ②OJTの視点 (ケアプランの質の向上) ○和光市では介護支援専門員に対しケアマネジメントの支援を行っていく中で、アセスメ ント能力・プランニング能力・モニタリング能力などについて、力量形成を図っています。 また、その中で「曖昧さ」を排除し、「明確さ」を追及することが重要となります。 ○例えば、本人が「できない」行為がある場合、「□□ができない」ということが課題では なく、「なぜ」□□ができないのかが課題であるという視点を持ち、「できない原因」を 明確にし、ケアプランへと反映させることを徹底します。 (OJTの効果) ○事前資料等の様式を統一することと、OJTを繰り返していくことの相乗効果として、課 題へと取り組む上での方法や思考が標準化することがあげられます。 例えば、生活行為評価票にADLの自立度を○△×で記入する際に、記入者が初めから 同じ尺度の評価を行うことは困難です。しかし、年間を通して繰り返していくことで、 評価尺度が標準化されます。 ③コミュニティケア会議開催上の視点・留意点 (開催日程の設定) ○和光市では、参加者の毎月の業務スケジュールの画一化の側面や、一度の会議における 課題解決の効率性といった側面から、コミュニティケア会議を定例化しています。コ ミュニティ会議の開催は、毎週木曜日の午前 9:20 から、1 事例につき 20 分、その日の実 施件数にもより変動するが、1 日およそ 3 ~ 4 時間、という形で設定されています。(一部、 第3水曜日午前中にも実施) (事例の選定) ○会議にかけるのは、一次予防、二次予防も含めた予防の全プラン。地域密着型サービス 利用者の全プラン。定期巡回・随時対応型訪問介護看護のプランのほか、権利擁護や虐 110 地域ケア会議の実践例/埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター 待などの処遇困難事例で、市が関係機関の調整を行って、介護支援専門員を支援しなけ ればならないケースも会議にかけられています。 さらに、毎週行われる介護認定審査会の情報も活用します。被保険者の直近の状態像と 給付量を担当者がチェックし、その内容をもとに支援が必要なケースを拾い上げ、コミュ ニティケア会議でケアマネジメント支援すべき事例とします。 介護認定審査会を活用することで、要介護認定時、または更新時に、漏れることなく チェックが行えるだけでなく、今いる人材で、無理なくスクリーニングを行うことがで き、効率的です。 第3章 (参加者の選定・招集) ○コミュニティケア会議の参加者は、固定参加者と外部助言者、事例提出者およびそのチー ム、に分けることができます。 固定参加者は保険者と地域包括支援センター職員で変動はありません。外部助言者とし 地域ケア会議の実践例 て、固定参加する管理栄養士、理学療法士、薬剤師、看護師等がいる他、必要に応じて 他の職種を参加させることもあります。例として、高齢者住宅入居に対し、宅地建物取 引主任に会議での助言を依頼しています。 ○適切な参加者を招集することが、課題の解決へ向けた多職種による「連携」の第一歩で あるという認識を持ち、参加者を選定・招集しています。 (会議の進行) ○和光市におけるコミュニティケア会議は、次表の流れにより行われます。 項 目 (1)プラン作成者よ り概要説明 所要時間 ポイント 約4分 ・現在のこの状態に至った個人因子 ・ ・ 環境因子を簡潔に説明(生 活機能低下の背景を洞察することが重要) ・【更新プランの場合】 ・ 前回の支援計画に対しての評価:⇒目標に 対して達成か未達成か? ⇒未達成の場合はその原因は? ・生活機能評価の解説⇒改善可能なポイントは? ・ ・上記を踏まえて次期プランの説明 ・ (注)参加者は、自らの専門分野を中心に内容をチェックする。た とえば、保健師・看護師は、医療リスクの高い人の生活上の注意 点や、服薬内容に対してサービス内容が妥当かどうかという視点。 社会福祉士は、独居や認知症ケース等に対する権利擁護的な視点。 (2)事業者から評価、 約4分 今後の支援方針 ・居宅介護支援事業者、介護予防通所介護、グループホーム、ケ ・ アハウス、食の自立支援事業者、ゴミの戸別収集事業者、住宅 改修事業者、福祉用具事業者など、利用しているサービス提供 事業者が各立場から発言 (3)全参加者から質 問、意見 約 10 分 ・参加者は、挙手したうえで発言する。 ・ ・司会は、ケースの本質 ・ (課題の本質)やプラン作成 ・ サービス 提供上の留意点などについて、端的に言語化してまとめ、共通 認識にぶれが生じないようにする。 約2分 ・司会は、会議の最後に次回 ・ (通常 3 か月後または 6 か月後)まで のケア(プラン修正含む)の方針を確認する。 (4)まとめ 111 ・介護支援専門員や事業者等が当面行う必要がある課題 ・ (例えば、 医師の意見の確認、専門医の受診、追加訪問調査、家族からの 事情聴取、など)がある場合には、その漏れがないよう、最後 に念押しする。 ○コミュニティケア会議では課題解決の効率化と参加者の負担軽減の視点から、1 事例あ たり 20 分を目安として、短時間での検討が行われます。そのため、ポイントを絞った 議論を行うことが重要です。 (会議終了後) ○コミュニティケア会議を経て、プランの内容に修正が入ったような場合、保険者は責任 を持ち介護支援専門員のフォロー・バックアップを行います。 例えば介護支援専門員が、変更になったプラン内容を利用者ならびにその家族へと説明 に行く際、トラブルの発生が予測される場合や、理解が得られず再度説明する必要が生 じた場合には保険者(職員)が同行し説明を行うなどのサポートを行います。 (司会の役割) ○和光市で行われているコミュニティケア会議では、意図的に緊張感の高い会議が行われ ています。そうした「会議の場の雰囲気」と「会議の展開をどのように変えていくか」と いう視点を持ち、司会が会議をコントロールしていくことが重要です。 ○司会は進行を担い、短時間で端的にケースごとの論点を掘り下げ、今後 3 ~ 6 か月の支 援方針や関係者ごとの課題、中期的な目標(将来像)を明確にします。 また、議事進行だけの役割に留まることなく、自立支援の観点で事例検討を行う際に必 要な視点を提示することや、「なぜこのプランなのか」「課題をどう捉えたか」など、的 確な質問により対象者の気づきを促すことなど、多岐にわたります。 ○会議を進行させる上で、ケースの本質(課題の本質)やプラン作成 ・ サービス提供上の 注意点、専門職として求められる視点などについて、端的に言語化してまとめ、参加者 の共通認識にぶれが生じないよう心がけることが大変重要です。 ○検討が終了する際、司会は次回(通常 3 か月後または 6 か月後)までのケアの方針を確認 します(プラン修正含む)。介護支援専門員やサービス提供事業者等が当面行う必要が ある課題がある場合には、その漏れがないよう、最後に確認をします。 ④地域ケア会議を効果的に推進させていくための取り組み (事業者連絡会の活用) ○事業者連絡会では各種情報の共有や連絡、また研修や、制度改正の周知といった、様々 な連絡事項を行いますが、大きな目的として、「介護保険事業計画による基本的な和光 市の方針について、意志統一」を図ることを重要視しています。その際、コミュニティ 112 地域ケア会議の実践例/埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター ケア会議についての理解を深めてもらえるよう、その意義や効果についても周知を行っ ています。 また、保険者や地域包括支援センターからの発信のみならず、事業者からの意見や提案 などを受ける場としても活用しています。 (個人情報データベースの活用) ○和光市では「健康長寿 100」や「二次予防事業対象者への調査」を通じ、市内の高齢者の 個人データベースを構築してきました。それらの結果から地域課題を吸い上げ、介護保 険事業計画へ反映させることを行ってきました。 ○地域ケア会議への理解を深めてもらうため、長寿あんしん課の職員が市役所内各部署や、 第3章 (コミュニティケア会議の周知) 市内の医師などに、地域ケア会議の意義や効果・必要性といったものを説明しています。 地域ケア会議の実践例 (招集権限の拡大) ○コミュニティケア会議の開催を担当している長寿あんしん課の職員が、他課の職員を招 集するものとしています。これは、庁内の課長会議や部内の課長会議等で協力依頼して いるもので、これにより会議をより円滑に運営を行うことが可能になっています。 ⑤医療機関との連携 ○病院に入院していた高齢者が退院して自宅等に戻る際には、病院の医療連携室(療養や 在宅介護に関して調整を行う部署)との連携により、在宅介護へのスムースな移行を図っ ています。そのため、和光市では、病院(医療連携室)に対しても、介護保険事業計画 に基づく方針を説明・共有していますので、必要に応じてコミュニティケア会議での連 携も図っています。 (3)和光市における地域ケア会議の効果 (介護予防と自立支援型マネジメントの効果) ○和光市では平成 13 年から地域ケア会議を開催し、15 年ごろから介護予防教室等の充実 を図ってきました。そうした介護予防や自立支援型ケアマネジメントを追求してきた効 果として、要介護認定率は低く安定しています。 ○ 5 歳刻みの各年齢別階層においても、認定率は全国平均を下回っています。特に、75 歳 以上においては 5 ~ 8 ポイント以上の低い認定率となっています。 ○これらは、和光市独自の特別給付等の投入による効果や、地域支援事業、自立支援型ケ アマネジメントの推進がもたらした効果であるといえます。 113 (介護予防と自立支援等の効果と認定者推計) ○和光市では、介護保険事業計画の策定時に介護予防の効果を見込み、認定者数の推計値 は、自然体(介護予防を行わない状態)の推計値から介護予防の効果分を減じたものと していますが、第4期の実績認定者数は、介護予防効果を見込んだ認定者数をさらに下 回る結果となっています。その効果が低く安定した保険料の設定に表れています。 和光市の第 5 期介護保険料(標準月額)は4,150円となっており、全国平均の4,972円を下 回っているだけでなく、前期(第 4 期)の全国平均 4,160 円と同水準を維持するものとなっ ています。 ※和光市では市町村特別給付費が保険料に含まれているため、これを保険料月額から 控除すると、実質 3,800 円程度となり、全国平均を更に下回ることとなります。 (OJTの結果による職務満足度の向上) ○コミュニティケア会議を通じて、介護支援専門員のみならず、地域包括支援センター職 員、関係事業者等の資質向上も同時に図られています。その副産物として、和光市内で の介護保険関連事業者における離職率は、他の地域と比べ低いものとなっており、OJT を通じ、職務満足度の向上が図られているといえます。 114 地域ケア会議の実践例/埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター <第 4 期 認定者数の推移(計画と実績の比較) 第3章 <第 5 期 要介護(要支援)認定者数の推計(自然体→予防後)> 地域ケア会議の実践例 (4)和光市における地域ケア会議の今後 (コーディネーターの養成) ○現在、市内で統一されたアセスメント等の様式が用意されていることと、市の明確な方 針があることで、円滑かつ求める効果にブレが生じることなく運営が行われているコ ミュニティケア会議ですが、その効果を最大限引き出すためには、コーディネーターの 資質が大きく関係してきます。今後、さらに効果的なコミュニティケア会議を運営・拡 大していくためにも、コーディネーターの育成をより広めていくことを重要としていま す。 (中央第二地域包括支援センターの設置) ○和光市では現在4か所設置されている地域包括支援センターにて、様々な取り組みを行っ ていますが、中央エリアにおいて、中高層住宅における高齢化の進展と課題を抱える高 齢者が増加していることから、中央地域包括支援センターの業務量が多くなり対応がし きれなくなることが懸念されたため、新たに地域包括支援センターを 1 か所設置するこ ととしています。 115 参考資料1 116 地域ケア会議の実践例/埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター 第3章 地域ケア会議の実践例 117 118 地域ケア会議の実践例/埼玉県和光市 和光市地域包括支援センター 5 静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター 1.富士宮市における地域ケア会議の概要 人 口 高 齢 : 約 135,679人 化 率 : 22.6% 地域包括支援センター設置数 1 か所 直 営 1 か所 託 0 か所 ー 0 か所 チ 8 か所 委 サ ブ ブ セ ラ 〈富士宮市地域ケア会議機能〉 ン タ ン 第3章 (平成24年1月現在) (富士宮市の特徴) なりました。富士山の西南麓に広がっており、地区により大きく気候が異なる点が特徴的で す。 また、要支援 1・2 の平均年齢が 83 歳と高く、地域に長く元気で暮らせる土壌があります。 (人口と高齢化率) 富士宮市の人口は横ばいで推移しており、現在約 134,679 人、高齢化率は 22.6%となって います。今後、人口は下降を辿り、高齢化率は上昇することが予想されており、平成 32 年 には人口は約 119,694 人、高齢化率は 28.3%、平成 47 年には人口約 104,793 人、高齢化率は 32.5%になると推計されています。 ブランチ(地域型支援センター)の担当圏域ごとにも人口や高齢化率には差があり、人口 は少ない圏域で約 7,640 人、多い圏域では 28,551 人となっています。高齢化率は、低い圏域 で20.2%程ですが、多い圏域では 28.2%にのぼります。 (特徴的な地域課題) 圏域ごとに発見される地区特性や課題や、それぞれの圏域のインフォーマルネットワーク の構築状況や地域資源の整備度といった、地区ごとの成長具合にバラツキが見られることが 富士宮市における地域課題といえます。例えば、独居高齢者が増加している圏域、地域内の 交流が少なく行事等への参加も消極的である圏域、高齢化の進行が早く、地域の高齢者の実 態が把握できていない圏域、地域資源がそもそも少ない圏域、など、その形態や内容は様々 です。 119 地域ケア会議の実践例 静岡県東部の市となる富士宮市は、2010 年 3 月に芝川町と富士宮市が合併し、現在の形と (富士宮市地域包括支援センターと地域ケア会議の概要) 富士宮市では地域包括ケアシステムを 3 段階の機能に分けて整理 ・ 構築しています。それ ぞれの段階は「個別課題発見・抽出機能」「個別課題解決機能」「課題共有・提言機能」であり、 これらが有機的につながり、循環することで地域包括ケアシステムを成しています。 「個別課題発見 ・ 抽出機能」は地域で形成するものであり、社会福祉協議会を中心とし、 事業所や学校、地域活動団体をはじめとしたインフォーマル機関等により形成されます。 「個別課題解決機能」として、個別支援のための専門職 ・ 専門機関 ・ インフォーマル機関 等とのネットワークを形成します。この役割は地域包括支援センターが共助・公助として担 うとしており、地域包括ケアの実現を目指します。 「課題共有・提言機能」として、ここまでで見つかった地域課題を地域へフィードバック・ 共有し、改めて個別・地域課題の整理が行われることとなります。さらに、整理された地域 課題の解決へ向けて、資源開発や政策提言を行っていきます。 その中で、地域包括支援センターが主体となり開催される地域ケア会議は、大きく 3 つの 種類で整理されており、1 つ目は個別ケースの課題解決を目指した地域ケア会議、2 つ目は 個別課題から発見された地域課題を、その地域にフィードバックしながら、解決・共有して いく地域ケア会議、3 つ目は政策形成 ・ 提言までつなげていくための地域ケア会議となって います。 またこれらに限らず、「地域支援を行う中で開催した会議」で地域ケア会議としての機能 (個別課題解決 ・ 地域課題発見 ・ 連絡調整 ・ 地域づくり ・ 政策形成)を含むものは全て、地 域ケア会議として整理しています。 図1 地域包括ケアと地域包括ケアシステムの整理 イメージ図(土屋作成) 生活圏域で地域包括ケアシステムを構築するための3つの機能(イメージ) 市町村地域ケア会議 A圏域 B圏域 C圏域 D圏域 共助 個別事例から見えてきた 課題を地域で共有 課題共有・提言機能 フィードバック 各生活圏域 個別課題解決機能 自立支援型マネジメント 行政への 政策提言 総合相談 個別支援のための専門職・専門機関・ インフォーマル機関等とのネッワーク 個別課題 個別課題発見・抽出機能 120 地域ケア会議の実践例/静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター 住民、事業所等 インフォーマルネットワーク 第3章 地域ケア会議の実践例 すなわち、地域ケア会議は、ありとあらゆる地域の関係者が集まり、解決機能を担うもの として、地域包括ケアを実現する手段として、また、地域包括ケアシステム構築上の一端を 担うものとして成り立っています。 (1)個別課題解決段階 図1 地域包括ケアと地域包括ケアシステムの整理 イメージ図(土屋作成) 生活圏域で地域包括ケアシステムを構築するための3つの機能(イメージ) 市町村地域ケア会議 A圏域 B圏域 C圏域 D圏域 共助 個別事例から見えてきた 課題を地域で共有 課題共有・提言機能 各生活圏域 フィードバック 個別課題解決機能 自立支援型マネジメント 行政への 政策提言 総合相談 個別支援のための専門職・専門機関・ インフォーマル機関等とのネッワーク 個別課題 個別課題発見・抽出機能 住民、事業所等 インフォーマルネットワーク (個別課題解決段階) 個別課題発見・抽出機能を経て、地域から地域包括支援センターまたは地域型支援セン ター(ブランチ)へと上がってきた個別ケースについて、社会資源を組み合わせながら解 決を目指します。地域包括ケアシステムの中においては個別課題解決機能に位置します。 上がってきた事例はまず地域型支援センターで受け止め、アウトリーチとアセスメント 121 を行い、それらによるスクリーニングを経て支援チームを形成する流れとなります。その 際、重層的な課題を抱えるようなケースなどは、地域型支援センターではなく地域包括支 援センターが主管する運びとなります。 (事例の選定) 個別課題発見・抽出機能を経て、地域包括支援センターへと上がってくる事例だけに限 らず、介護支援専門員からの直接の相談や、地域住民からの相談・通報といった総合相談 の中からも事例を選定します。 その中において、専門的・継続的な関与、または急な対応が必要と判断された事例に関 しては地域包括支援センターが主管する運びとし、そうでない事例に関しては地域型支援 センター担当のもと解決へ向け動き出します。 (各関係機関との連絡調整会議) 各行政機関・保健福祉機関・医療機関・フォーマル、インフォーマルな機関等、利用者 の支援に必要と思われる機関を市の責任として招集し、適宜開催される会議となります。 この会議での検討を通して、具体的な支援内容を構築し、その後、支援体制のマネジメ ントと、定期的なモニタリングの実施を行っていきます。 122 地域ケア会議の実践例/静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター 第3章 地域ケア会議の実践例 事 例 コ ラ ム 〈認知症事例を通して地域支援を行ったケース①〉 長男と 2 人暮らしをしているが、日中は独居状態となっている認知症の 83 歳女性が、介護保険を申請 しサービス利用を開始したが、突然のサービス拒否や徘徊などで徐々に支援困難な状態となっていった。 そのため、介護支援専門員が地域包括支援センターへと相談し、地域ケア会議の課題解決機能へと引き 継がれることになった。 家族へのインテークを通し、アセスメントをした上で、個別支援の地域ケア会議が開催された。参加 者は、長男・民生委員・担当介護支援専門員・介護保険事業所・社会福祉協議会・地域型支援センター 職員・地域包括支援センター職員が選定・招集された。 検討を通じ、本ケースの見守り支援を求めるチラシの作成・配布、地域の見守りマップの作成が決定され、 実行された。 また、本ケースに対する見守り支援活動の様々な支援策は、この後、地域ケア会議を通して地域へと フィードバックされ、広がっていくことになる。 123 (2)地域課題解決・共有段階 図1 地域包括ケアと地域包括ケアシステムの整理 イメージ図(土屋作成) 生活圏域で地域包括ケアシステムを構築するための3つの機能(イメージ) 市町村地域ケア会議 A圏域 B圏域 D圏域 共助 個別事例から見えてきた 課題を地域で共有 課題共有・提言機能 地域包括ケア 地域包括ケアシステム C圏域 フィードバック 各生活圏域 個別課題解決機能 自立支援型マネジメント 行政への 政策提言 総合相談 個別支援のための専門職・専門機関・ インフォーマル機関等とのネッワーク 個別課題 個別課題発見・抽出機能 住民、事業所等 インフォーマルネットワーク (地域課題解決・共有段階) 生活圏域における地域住民主体の会議に各種団体や専門職が出向き地域の課題の把握 ・ 共有や、支援を必要とする事例をともに考え検討することを、「共助」を高める地域ケア 会議と位置づけています。 この段階で共有・整理された地域課題は、その内容に応じて地域課題解決型の地域ケア 会議にて解決が目指されることになります。 地域包括ケアシステムの中では課題共有・提言機能に位置しています。 (参加者) 参加者は地区社会福祉協議会の役員(自治会長、民生委員等)、社会福祉協議会、地域 型支援センター、地域密着型事業所、介護保険事業所、事業所、学校、地域包括支援センター、 地域住民代表、医師会等関係機関などから、事例や課題の内容に応じて選定・招集します。 事 例 コ ラ ム 〈認知症事例を通して地域支援を行ったケース②〉 認知症の83 歳女性の見守り支援活動が、制度上のサービスだけでなく、地域住民を含めた関係者すべ ての協力から行われた事例を受け、なぜ本ケースの支援活動がうまくいったのか、地域で振り返りを行っ た。 その中でまとめられた、地域見守りマップの作製法や配布するチラシの様式、重荷にならない程度の 役割分担の内容など、様々な認知症に対する支援策や支援結果は、その後、地域に広められることになる。 さらに、行方不明時の連絡先や対応策を内容とした行方不明マニュアルの作成にも展開していくことと なった。 124 地域ケア会議の実践例/静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター (3)政策形成・提言段階 図1 地域包括ケアと地域包括ケアシステムの整理 イメージ図(土屋作成) 生活圏域で地域包括ケアシステムを構築するための3つの機能(イメージ) 市町村地域ケア会議 A圏域 B圏域 C圏域 D圏域 共助 個別事例から見えてきた 課題を地域で共有 課題共有・提言機能 フィードバック 各生活圏域 個別課題解決機能 自立支援型マネジメント 行政への 政策提言 総合相談 個別支援のための専門職・専門機関・ インフォーマル機関等とのネッワーク 個別課題 住民、事業所等 第3章 個別課題発見・抽出機能 インフォーマルネットワーク (政策形成・提言段階) 地域包括支援センターが主催となり、市域全体の課題解決のために、地域住民代表と行 地域ケア会議の実践例 政、専門機関、各種団体(フォーマル、インフォーマル)が連携 ・ 協働し、課題解決方法 を協議したり、新たな資源の創造や政策提言等を行う段階として位置づけられています。 会議の名称は包括ネットワーク会議となっており、課題共有・提言機能の中に位置して います。現在では、包括ネットワーク会議開催には至っていませんが、開催に向けて模擬 包括ネットワークを開催しその具体化に向けた取り組みを行っています。 (参加者) 各地域ケア会議代表(11 の生活圏域代表)、介護保険事業者代表、障害福祉サービス事 業者代表、社会福祉協議会、医師会、歯科医師会、薬剤師会、司法関係者代表、学識者、 警察署、関係行政機関、地域包括支援センターなどから選定・招集をします。 2.富士宮市における地域ケア会議運営 (1)関係機関・団体等が役割分担をして構築する「地域包括ケアシステム」 富士宮市の目指す地域包括ケアシステムは、地域包括支援センター、保険者、社会福祉 協議会を中心として、地域に存在する多種多様な関係機関・団体等が互いの専門性を理解 し合い、その上で役割分担をし作り上げていくものとなります。 (地域包括ケアシステム) 富士宮市では地域包括ケアシステムを、自助・互助・共助・公助の役割分担により、地 域包括ケアを支える仕組みであると定義しています。具体的には、支援を必要としている 人の地域生活を支えるために、医療や介護のみならず、 民(家族、地域住民やインフォーマル組織) 産(各種事業所) 学(保育園 ・ 幼稚園 ・ ○ 、○ 、○ 官(行政機関) 小中学校・高等学校)、○ 125 の各主体が、それぞれの役割・責任を果たすために多種・多様に亘る機能をバランス良く そろえ、個別支援ネットワークを機能させる仕組みとなります。 (地域包括ケア) 地域包括ケアとは、支援を必要としている人に対して、必要な支援を包括的・継続的に 提供するための地域生活を支えるネットワーク(個別支援ネットワーク)を構築 ・ 活用し、 個別課題解決をしていくことになります。その個別支援ネットワークを主管し、推進させ ていく役割は地域包括支援センターが担います。 (地域ケア会議) 富士宮市では地域ケア会議を設置・運営をすること自体や、その分類をすること自体を 目的にはしておらず、あくまで地域支援を行うものとしての認識が共有されています。す なわち、地域ケア会議は個別支援ネットワークを機能させ、個別・地域課題を問わず、解 決機能を推進させるものであり、地域包括ケアシステムを構築する上での重要な手法とい う位置づけになります。 (2)地域ケア会議運営上の考え方・具体的手法 (地域ケア会議の位置づけ) →P129 参考資料1 ○富士宮市では地域支援を行うための会議で一定の機能を備えているものは地域ケア会議 であるとして、何の機能を担う会議であるかという点を明確にするために、「個別支援 や地域支援を行う中で開催した会議」を実施した際は、地域ケア会議の会議録が作成さ れています。 ○会議録を作成することで、地域ケア会議の開催主体である地域包括支援センターまたは 保険者(市)職員の間に地域ケア会議の機能や役割がしっかりと共有され、その結果と して個別ケースの支援内容の検討を行う会議を開催した場合にも、ただの個別ケース解 決を目的とした会議でなく、地域課題を探る視点・意識がつくことにつなげています。 (事例の選定・発見方法) ○富士宮市地域包括支援センターでは、日ごろから意識的に、地域ケア会議の関係機関 ・ 団体に対し、地域包括ケアやシステムについての理解や、地域包括支援センターの意義、 といったことを伝えると同時に、意識やつながりの強化を図る活動を行っています。 そのような活動を経ることで、地域ケア会議や地域包括支援センターの認知度が上がり、 具体的な相談件数の増加につながっています。 ○相談につながりやすくするため、地域包括支援センターならびに地域型支援センターの 認知度を上げるための取り組みを行った例として、地区社協の総会や地域の様々な活動 に、地域型支援センターの地区担当者が出席し、地域包括支援センターや地域型支援セ 126 地域ケア会議の実践例/静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター ンターの総合相談事業をアピールして回るという活動があります。そのほか、地域で介 護予防教室を開催するといった活動も併せて行っています。 認知度が向上したことも寄与して、平成 18 年度には地域包括支援センターが 2,034 件、 地域型支援センターが 1,724 件、合計で3,758件であった相談件数が、平成23年度には地 域包括支援センターが 3,256 件、地域型支援センターが 13,600 件、合計 16,856 件にまで 上昇しています。 ○個別ケースから地域課題を発見する取り組みの 1 つとして、介護保険事業者連絡協議会 や各専門部会(施設部会や居宅介護支援部会など)へ、地域包括支援センター担当者が 出席しています。それらの部会等で話し合われた事例も、必要に応じて地域ケア会議の 第3章 事例として選定することとしています。 (介護支援専門員との関係性・関わり) ○富士宮市地域包括支援センターは介護支援専門員との日常的な連携が取れるような関係 保健師・主任介護支援専門員の 3 職種による支援を実施するものとしています。 そのため、地域包括支援センターは介護支援専門員を支援する立場を、保険者(介護保 険係)は指導を行う立場として、明確な役割分担を行っています。 ○例えば、認知症で財産管理ができないといったような困難事例であれば、成年後見の申 し立てを地域包括支援センターが行うこともありますし、個別事例の担当者会議に地域 包括支援センター職員が出席し助言をするといった支援も行います。そのほか、地域包 括支援センターの主任介護支援専門員をファシリテーターとした事例検討会を実施する など、介護支援専門員支援の形は様々です。 (個別ケースの支援内容検討にあたっての留意点) →P131 参考資料2 ○個別ケースに対し専門職や民生委員等を招集し、会議を開催する際、その担当者は事前 にアセスメントを行い、支援計画の仮案を作成するなど、具体的な方向性を準備した上 で会議に臨みます。 そうすることで、多職種が一堂に会し検討を行う場において、話がまとまらず、そもそ もの目的とは違う結論が導き出されてしまう事態を防止できるだけでなく、参加者がそ れぞれの立場を理解した上での発言を促せるなどの効果が得られます。 ○支援計画作成のスキル向上を目指し、地域包括支援センター・地域型支援センター職員 は定期的に連絡会等を開催し、アセスメントや支援計画作成のスキルアップを目指した 研修を行っています。 また、地域型支援センターの担当者が、その担当地域で個別に小さなケース会議を開く など、力量形成の場を広く設置しています。 127 地域ケア会議の実践例 性を構築するため、基本的には指導の視点から接することはなく、あくまで社会福祉士・ (3)地域ケア会議の今後 (地域ケア会議・包括ネットワーク会議の設置) ○現在、富士宮市内の指定したモデル地区において、地域包括ケアシステムを構築するこ とを目的として、地域ケア会議を活用・推進しています。 その形としては、その地域の人々が見守り活動などの様々な活動の中から発見された 個別事例を、個別課題解決機能(その入口は地域包括支援センターまたは地域型支援セ ンター)へとつなげ、その中で個別検討を通して解決を目指します。そしてその結果を、 再び地域に戻し、地域の課題解決能力を向上させていく仕組みとなっています。モデル 地区においてそのような地域ケア会議の形が熟成したのち、富士宮市内のすべての地区 での整備を進めることとしています。 ○現在、上記の通り地区単位での地域ケア会議構築まで行われている富士宮市ですが、今後、 基本的な地域ケア会議の整備が全地区で行われたのち、それぞれの地区の代表が集まり、市 単位での政策提言へとつながる機能を有する包括ネットワーク会議を設置することとしています。 (地域型支援センターの増設) ○地域の相談窓口として、その存在のアピールや地域住民からの相談業務を担っている地 域型支援センターですが、その認知度と共に相談件数も増加し、業務内容・量に限界が 生じてきています。 そのため、富士宮市では平成 25 年度より規模の大きな地区を半分に割るなどし、地域 型支援センターを現在の 8 か所から 10 か所へと増やすこととしています。 (社会福祉協議会との連携) ○富士宮市の目指す地域包括ケアシステムを作り上げるため、保険者・地域包括支援セン ター・社会福祉協議会での役割分担の明確化と相互理解が必要となります。 保険者と地域包括支援センター、ならびに委託を受けている地域型支援センターは共助・ 公助としての解決機能を担うものであり、地域の組織化された仕組み作りや、インフォー マルな互助の担い手として、社会福祉協議会の役割は重要です。 それを踏まえ、個別事例を共助・公助の力で解決し、そこから見えた課題を地域にフィード バックし、 地域でもう一度課題整理を行う、 という役割分担を行うことが重要になります。 ○上記のことから、市内に 14 ある地区社協との連携が重要となりますが、地区により取 り組みに対する温度差や足並みにばらつきが見られる、といった問題があるため、徹底 した連携を図るまでは至っていません。そのため、今後とも情報や意識の共有を図るこ とを継続的に行っていきます。 ○社会福祉協議会との具体的な連携構築の 1 例として、保険者から社会福祉協議会への業 務委託をする際、従来の縦割りでの補助事業ではなく、地域福祉推進事業として事業委 託する形へとの再編を行っており、準備ができ次第開始することとしています。 128 地域ケア会議の実践例/静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター 参考資料1 第3章 地域ケア会議の実践例 129 130 地域ケア会議の実践例/静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター 参考資料2 第3章 地域ケア会議の実践例 131 132 地域ケア会議の実践例/静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター 第3章 地域ケア会議の実践例 133 134 地域ケア会議の実践例/静岡県富士宮市 富士宮市地域包括支援センター 6 東京都立川市 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター 1.立川市における地域ケア会議の概要 人 高 口 齢 : 約 178,280人 化 率 : 20.8% 地域包括支援センター設置数 6 か所 直 営 0 か所 託 6 か所 ー 0 か所 チ 3 か所 委 サ ブ ブ セ ラ 〈立川市地域ケア会議機能〉 ン ン タ 第3章 (平成24年4月現在) (立川市の特徴) 地域ケア会議の実践例 立川市は東京都のほぼ中央、西よりで、多摩地域の中心部分に位置しています。市域の南 部には多摩川が東西に流れており、北部には都市農業や武蔵野の雑木林などの緑豊かな地域 と、玉川上水の清流が流れており、市域の地形は平坦です。 立川駅周辺には商業等の機能が集中しており、市域の中央部分には国営昭和記念公園や広 域防災基地、自治大学校等があるほか、国の省庁移転による拠点整備も進められています。 立川駅には東京都の東西を結ぶJR中央線が走っているだけでなく、複数の路線が乗り入 れており、多摩地域の交通の要衝となっています。 (人口と高齢化率) 立川市の人口は緩やかに上昇傾向を続けており、現在は約 178,280 人、高齢化率は大きく 上昇を続けており、現在 20.8%となっています。 今後、人口は横ばいで推移していくものとみられ、高齢化率は上昇を続けると推計されて おり、平成 27 年には人口は約 183,000 人、高齢化率は 22.3%。平成 47 年には人口が約 177,000 人、高齢化率 23.9%となると推計されています。 (立川市の地域包括支援センターと地域ケア会議の概要) 立川市は市内を 6 つの生活圏域に分けており、それぞれに 1 か所ずつ地域包括支援センター が設置されています。また、ブランチとして、福祉相談センターが 3 か所配置されています。 地域包括支援センター・福祉相談センターともに全て委託型となっており、社会福祉協議会 が母体となる立川市南部西ふじみ地域包括支援センターが基幹型地域包括支援センターとし て、ケアネットワーク構築の調整役としての役割を担っています。 立川市の地域ケア会議は、①随時開催される個別ケースレベルの個別支援会議、②各地域 包括支援センター主催で 2 か月に 1 回行われている、担当圏域レベルの小地域ケア会議、③ 135 基幹型地域包括支援センター主催で毎月 1 回行われる、市全域レベルの立川市地域ケア会議、 で構成されています。また、2 か月に 1 回開催されている地域包括支援センター運営協議会 へ地域包括支援センター職員が参加し、活動報告を通して政策形成へと向かう連携体制を構 築しています。 この構築により、個別対応レベル⇔生活圏域レベル(小地域ケア会議)⇔市全域レベル(地 域ケア会議)⇔制度・政策レベル(運営協議会)といった、個別支援課題と地域支援課題を一 体的に、かつ双方向での連携の中で課題解決を目指すことが可能となっています。 (地域包括ケアネットワークの構築) 立川市では、個別レベルから地域レベルに至るそれぞれの課題解決・ネットワーク形成を 行うための一つの手法として、地域ケア会議を活用しています。「地域住民の福利の向上」 という全体の目的を達成するため、立川市では地域ケア会議に限らず、各種研修会や連絡会 といった、地域レベルで実施している様々な会議を組み合わせて、機関間の連携体制の推進、 地域包括ケアネットワークを構築し、地域包括ケア体制を作り上げることを目指しています。 <地域ケア会議の立体構造> 地域ケア会議の立体構造 <地域包括ケアネットワークの構築> 地域包括ケアネットワークの構築 地域包括支援センター 運営協議会 地域包括支援センター業務別会議 地域ケア会議(市全域レベル) 保険者・ 基幹センター レベル サービス事業者別連絡会 介護支援専門員連絡会・研修会 地域ケア会議 地域福祉市民フォーラム 地区民生委員協議会への参加 小地域ケア会議 小地域ケア会議(担当圏域レベル) 小地域ケア会議 小地域ケア会議 小地域ケア会議 小地域ケア会議 小地域ケア会議 個別支援会議(個別ケース地域ケア会議) 地域包括 支援センター レベル 個別支援会議(個別ケースレベル) 136 介護・医療・保健・ 福祉等の各種計画 地域ケア会議の実践例/東京都立川市 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター 地域包括支援センター 運営協議会 地域福祉計画 地域福祉活動計画 5 (1)個別支援会議 (会議概要) 開 催 頻 主 会 議 運 度 非定例(随時開催) 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターの裁量に任されている 会議の持つ機能 個別課題解決機能、地域課題発見機能、ネットワーク構築機能、 見込まれる成果 個別課題解決、地域課題発見、ネットワーク構築、 対 個別レベル 象 範 囲 第3章 会 議 の 目 的 介護支援専門員からの支援困難等の相談事例や、 要介護認定は受けていないが何らかの支援を必 要とする高齢者・介護者への相談支援、介入と 環境調整といった、個別課題の解決。それらの 取り組みを通して見えてくる地域課題の発見 ・ 把握 地域包括支援センター、介護支援専門員、介護サービス機関・団体、高齢福祉課職員、 生活福祉課職員、関係行政機関職員、社会福祉協議会職員、民生委員、地域住民、 ボランティア・NPO 等 進 地域包括支援センター職員 行 役 事例選定方法 総合相談(相談 ・ 通報)、介護支援専門員による相談や持ち込み、生活圏域の民生 委員等の関係者との連携による発見 等 (個別支援会議〈個別ケース地域ケア会議〉とは) 個別支援会議は、介護支援専門員等から寄せられる支援困難事例に関する相談支援や、 要介護認定をまだ受けていないが総合相談支援や環境調整が必要な個別ケースに対応し、 支援を必要としている市民が地域生活を継続していけるように支援していくことを目的と しています。包括的・継続的ケアマネジメント支援、個別ケースの環境調整の実施のほか、 個別支援を通して見えてくる地域全体のニーズ・地域課題を、小地域ケア会議や市域全体 の地域ケア会議に提言していき、担当圏域レベルや市域全体レベルの福祉コミュニティづ くり、地域包括ケアの推進に向けての施策検討と情報・意見交換、社会資源の改善や開発、 地域における各種予防・健康推進への取り組みにつなげる、という機能がなされています。 事 例 コ ラ ム 〈個人と地域を結び付けていく個別支援〉 視力障害のある、要介護 2 の認知症高齢者・Aさんの事例 昔から公営住宅に住んでおり、近隣住民とも顔見知りの関係性はあったが、認知症が進行し徘徊が始 まったことで、火の元の心配が大きくなったため、近隣住民 ・ 自治会より担当介護支援専門員に苦情が 入り、介護支援専門員より地域包括支援センターへ相談が持ち込まれた。 ご本人は訪問医 ・ 訪問介護をはじめ、複数のサービスを利用していたことから、担当の介護支援専門 員のケアマネジメントを支援する目的で本人宅に同行訪問を行い、火の元についての課題を解決するた 137 地域ケア会議の実践例 会 議 参 加 者 め、ガスコンロから電気調理器へ交換を行ったり、自動消火器を取り付け、さらに利用しているサービ スの再調整を行うことで、課題の対応を行った。その後、地域包括支援センター主催により、担当医を はじめとした各サービスの担当者、および自治会役員を招集しての会議を開催してケアチームと地域住 民との顔合わせを行い、Aさんが地域での暮らしを継続していけることを目的とした調整を行った。近 隣住民に安全性の確保ができた旨を説明し、日常生活に関わる必要な情報の共有を行った。 近隣住民がサービス調整により安全性が確保されたことを納得した後、改めてAさん宅で会議を開催 し、Aさんと近隣住民、及びサービス担当者が顔合わせて、今後のAさんの地域での暮らしを確認する 場を持った。その結果、近隣住民に理解を得られただけでなく、ご本人を取り巻く関係者の輪が広がり、 その地域で暮らし続けることが可能となった。 (2)立川市小地域ケア会議 →P147、148、参考資料3、4 (会議概要) 開 催 頻 主 会 議 運 度 定例(隔月開催) 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターの裁量に任されている 会 議 の 目 的 生活圏域内の介護支援専門員を中心とした地域 関係者による、地域課題の検討とネットワーク 構築 会議の持つ機能 個別課題解決機能、地域課題発見機能、ネットワーク構築機能、地域づくり ・ 資 源開発機能 見込まれる成果 個別課題解決、地域課題発見、ネットワーク構築、地域づくり・資源開発 対 圏域レベル(日常生活圏域) 象 範 囲 会 議 参 加 者 地域包括支援センター、福祉相談センター、市内 6エリア内の介護支援専門員、介 護サービス機関 ・ 団体、高齢福祉課職員、健康推進課職員、関係行政機関職員、 社会福祉協議会職員、民生委員、見守りネットワーク相談協力員・機関、ボランティ ア・NPO団体 等 進 地域包括支援センター職員 行 役 (立川市小地域ケア会議とは) 立川市小地域ケア会議は、市内に 6 か所設置されている地域包括支援センターの担当圏 域(日常生活圏域)ごとに開催される会議です。 各日常生活圏域ごとに、介護支援専門員を中心とした関係者を招集し、その圏域ごとの 特性を考慮した地域課題の検討や、その圏域独自の社会資源などを考慮しながらのネット ワーク構築を進めるための会議となります。 (会議内容) ○会議内容は議題により変わりますが、 ・福祉コミュニティづくりにむけた担当圏域の地域課題の検討と課題解決にむけた取り組 ・ みの推進 138 地域ケア会議の実践例/東京都立川市 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター ・地域の関係者間の情報・意見交換と地域包括ケアネットワークの形成 ・ ・地域における各種予防の取り組みの推進 ・ ・個別事例の検討を通した地域課題の把握と解決 ・ ・市内の福祉・介護情報の関係者への周知 ・ ・立川市地域ケア会議で発出された事務連絡等の地域関係者への周知 ・ 等が行われます。 (3)立川市地域ケア会議 →P145、146、参考資料1、2 (会議概要) 催 頻 主 会 議 運 度 定例(毎月第 3 木曜日) 催 基幹型地域包括支援センター 営 地域包括支援センターの裁量に任されている 市域レベルでの関係者が顔を合わせ、互いの状 況を報告・医療連携も含めた地域課題の検討を 行う 会議の持つ機能 個別課題解決機能、地域課題発見機能、ネットワーク構築機能、地域づくり ・ 資 源開発機能、政策形成機能 見込まれる成果 個別課題解決、地域課題発見、ネットワーク構築、地域づくり ・ 資源開発、政策 形成 対 立川市全域 象 範 囲 地域ケア会議の実践例 会 議 の 目 的 第3章 開 会 議 参 加 者 地域包括支援センター・福祉相談センター、高齢福祉課・介護保険課・健康推進課、 保健所、社会福祉協議会、シルバー人材センター、消費者センター、総合病院相談室・ 在宅医療連携センター 進 基幹型地域包括支援センター職員 行 役 (立川市地域ケア会議とは) 立川市地域ケア会議は、市福祉保健部職員、地域包括支援センター職員をはじめとし た市内の地域包括ケアに関する総合相談窓口の関係機関・団体の所属職員が集まり、状 況報告・意見交換をし合い、相談窓口としての共通対応を推進するとともに、地域課題 の把握と市内全域の地域包括ケア推進に関する方策の検討を行う会議です。 (会議内容) ○立川市による事務連絡のほか、各支援センター・関係機関の前月の取り組みの状況報告、 センターが取り組む個別支援事例の課題検討と解決に向けた調整、一般福祉事業・介護 保険施策に関する事業の周知と調整、地域包括ケアに関する情報・意見交換と推進策の 検討などを行います。 ○また、会議冒頭に、地域の新規社会資源紹介の時間を設け、市内外に新規開設した介護・ 医療事業所、NPO、ボランティアグループなどを随時紹介しています。 139 2.立川市における地域ケア会議運営 (1)個と地域を結ぶ、生の声が共有できるネットワーク 立川市では地域包括ケアの目的である「地域住民の福利の向上」を目指し、地域ケア会 議の開催のみではなく、地域のサービス事業所間の連絡会議、各種研修会の開催、社会福 祉協議会の活動と連携した地域の住民活動とのネットワーク構築も含めて、様々なネット ワーク構築の取り組みを網羅して総合的に取り組んでいます。 それらの取り組みを通して、個別課題の解決・集約から地域課題の発見・解決へとつな がる形で整理・活用し、現場の生の声や地域の課題を、センターの実務担当者から行政担 当課の管理職まで、全てのレベルの関係者で共有することができ、関係者が協力して課題 を解決していくことができるネットワーク構築を目指しています。 (2)地域ケア会議運営上の考え方・具体的手法 ①立川市における地域ケア会議の仕組みづくり (立川市における地域ケア会議の構築) ○立川市の地域ケア会議は、介護保険制度開始に合わせて開催されてきた関係機関・団体 による連絡会議が母体となり、立川市全域レベルの地域ケア会議の開催から構築されて きました。 ○その後、各地域包括支援センターの担当圏域レベルの関係者のネットワークを構築し、 より身近な地域課題を検討し解決していくことを目的として、小地域ケア会議が設置さ れました。市内全域の高齢者相談窓口機関の関係者が集まる立川市地域ケア会議には、 参加者数の関係から介護支援専門員やサービス事業者といった参加者は出席できないた め、この小地域ケア会議の場を活用し、立川市地域ケア会議で検討された情報を地域に 浸透させる仕組みを構築しています。 ○個別ケースレベルへの取り組みでは、介護支援専門員や民生委員等の地域関係者からの 個別相談やニーズ発見に対応する形で、個別支援のケア会議を、地域包括支援センター の各種専門職を中心としたチームアプローチにより随時開催して対応しています。 ○立川市ではこれまで、介護支援専門員連絡会、介護サービス事業者連絡会、各種研修会、 センターの 3 職種ごとの業務別連絡会等の仕組みも、地域ケア会議と同時に構築して地 域包括ケアネットワークの構築を目指してきました。地域ケア会議は規模ごとに 3 つの レベルに分けた会議を設定し、そこから様々な地域レベルの連絡会議と連携を取ること で、全体のケアネットワークの仕組みの構築を目指しています。 ○地域包括支援センターの専門職種別の業務連絡会議では、社会福祉士は総合相談支援 ・ 権利擁護業務連絡会、保健師・看護師は介護予防業務連絡会、主任介護支援専門員はケ アマネジメント支援業務連絡会、といった各職種の専門性を活かした、地域包括支援セ ンター業務の共通推進に向けた、行政や社協等の関係機関との連携会議を隔月で設けて います。 140 地域ケア会議の実践例/東京都立川市 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター ○立川市地域包括支援センターでは、個別の事例を集約して、様々なレベルの関係者との 共有を通じたうえで、行政担当者もその個別事例情報を確認していくという、一連のつ ながりを重要であるとしています。 そのため、2 か月に 1 度開催される地域包括支援センター運営協議会に、全地域包括支 援センターの相談件数等の報告とともに、毎月の立川市地域ケア会議でセンター間の状 況報告に活用している具体的な個別事例も含めた活動報告(状況報告書)を提出し、運 営協議会委員である地域の代表者、行政担当者、センター職員らの参加者が、同じ場で 相談事例を通した地域の実情を確認することができる仕組みを構築しています。 ○立川市の地域ケア会議構築の要となる立川市地域ケア会議は、月 1 回の開催頻度と設定 第3章 されています。この頻度に設定していることで、行政、地域包括支援センター、社会福 祉協議会、地域の医療機関、消費生活センター、シルバー人材センター等の地域の相談 窓口レベルでの情報や課題の共有が定期的に行われる効果が得られています。 常に地域の最新情報を得ることで、2 か月に 1 回の頻度で開催される小地域ケア会議に 地域ケア会議の実践例 おいても、担当圏域の関係者に新しい情報を伝えることができるとともに、担当圏域の 新しい情報を把握しながら地域課題を検討し、市域全体の立川市地域ケア会議にフィー ドバックすることや、地域の個別支援の土台となる介護関係者や民生委員等の地域関係 者間のネットワーク構築につなげています。 ②地域ケア会議運営上における留意点 (理念・意識の共有) ○立川市高齢者福祉介護計画の基本理念である「個人を尊重し、人と人がつながり、その 人らしい生活ができるまちづくり」といった立川市として目指す地域像や、各種会議に おける目的・目標を関係者と共有することが重要であるとして、センター職員は、地域 における様々な会議や研修会といった場において、地道に共有したい内容の発信を続け ています。 (状況報告書) →P145、147、149、参考資料1、3、5 ○立川市の地域ケア会議では、地域包括支援センターの様々な活動内容を効率的かつ簡便 に共有していくため、「センター状況報告書」を全地域包括支援センターの共通フォー マットとして使用しています。 センター共通の「状況報告書」を活用することで、センターが受けた相談件数といった 量的数値の把握のみならず、量的な把握が難しいけれども、全体で共有しておきたい個 別事例の相談内容や課題といった地域の質的課題の把握を、地域ケア会議参加者が文字 として可視化することが可能となります。 このような、個別事例の内容や課題を可視化して理解・共有ができる簡便なツールを使 用することで、会議時間が不足して参加者が十分に発言できなかった情報や、関係機関 141 や各相談窓口に対して直接には言葉に出しづらい地域課題や、相談機関間の共通課題を 共有することが可能となっています。 (委託地域包括支援センターと保険者) ○委託型の地域包括支援センターにとって、様々な地域課題に取り組む上で、行政の協力 を得ることは大変重要となります。 立川市の地域包括支援センターでは、行政と協力して地域課題に対応していくために地 域ケア会議での課題や情報共有を重要視しています。地域における個別事例や地域の ネットワーク構築に関する取り組み課題は、地域包括支援センターの取り組み課題でも あり、同時に行政や社協といった関係機関の取り組み課題でもあるからです。①個別事 例への相談支援を通して見えてくる地域の現状や課題を常に共有すること、②地域課題 に対応するネットワーク構築の目標、どのようにネットワークをコーディネートするか という方向性等を共有すること、これらを地域ケア会議等の場を通して保険者や関係機 関との情報共有を行うことによって、互いの協力関係を築いています。 (双方向の地域ケア会議) ○立川市の地域ケア会議や小地域ケア会議においては、行政等からの一方的な情報伝達の 会議にすることがないように、全員が発言できる双方向の会議運営が目指されています。 そのため、会議の段取りと、参加者の発言を引き出す司会のファシリテーション能力が 重要となっています。 (個別支援会議における留意点) ○立川市では、個別支援を目的とした地域ケア会議は、介護支援専門員からの相談や、民 生委員をはじめとした地域住民等からの通報があった相談事例に随時対応して、必要に 応じて開催しています。全ての相談事例に対して開催するのではなく、地域の関係者の ネットワーク構築に基づいた取り組みや、介護支援専門員へのバックアップが必要だと 判断された場合に個別支援会議が開催されます。本人の個別ニーズや生活歴を理解した うえでの総合的な相談支援、介護支援専門員のケアマネジメントのバックアップ、本人 が地域で暮らし続けられることを目指した個別課題の解決が重要であるとして、環境調 整や具体的な課題解決に向けた段取りを組むものであるとしています。 ○個別支援会議において様々な事例を取り扱っていくなかで、解決に向けた諸調整の段階 によっては、本人や介護者が不在で課題検討が行われる必要がある場合もあります。し かし、あくまで本人や介護者の個別課題の解決に向けた段階や必要性に応じた会議開催 であることに留意しています。基本は本人主体の課題解決であるとしています。 142 地域ケア会議の実践例/東京都立川市 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター (事例ごとの緊急性のレベル判断) ○個別支援が必要な事例は、その内容により様々な対応が考えられます。立川市でははじ めに、①情報提供、②地域の社会資源の紹介・つなぎ支援、ケアプランの内容確認、③ 本人宅への同行訪問や面接も含めた専門的・継続的支援、④生命・身体等の危機に対応 する緊急対応・権利擁護、といった総合相談支援の基本である利用者と支援者の双方の 状況と緊急性の適切なレベル判断を行うことを意識しています。事例の状況や緊急性に 応じた介入レベルを使い分けています。 ○①や②のレベルの支援を行っていく際に、本人や家族に面接をしていない場合や、単に 書面上で助言を行う場合があります。そのため、地域包括支援センター職員には、地域 第3章 の社会資源の幅広い知識や、その知識を相手に適切に伝えることなど、専門職としての 技術が必要となります。 ○③や④といった、緊急度の高いケースや、本人や地域住民も含めての包括的な支援が必 要となるケースの際は、様々に解決に向けた段取りを組んでいく中で、本人や家族、地 (事例の積み上げと分析) ○総合相談や個別支援会議の積み重ねの内容は、地域包括支援センター内で地域ケア会議 に報告する「センター状況報告書」をまとめていく段階で集約 ・ 分析が行われます。分 析を行う際は、例えば総合相談支援のケースであれば「相談や通報が何件あって、過去 からの推移でいくと増えている(減っている)」というような量的な分析と、「どこの団 地や住宅地で、どのような内容の課題があった」というような質的な分析に分けて行わ れます。 これらを積み上げ、整理を行うことで発見される地域課題を、小地域ケア会議・地域ケ ア会議へと積み上げていき、地域課題の検討が行われることになります。 ③ネットワークの構築 (ネットワーク構築と個別支援の関係性) ○地域包括ケアネットワークは個別支援を行う上での土台となるものです。そのため、 ネットワークづくりは地域にとって重要な取り組みとなります。 ネットワークが構築・強化されることで、その効果は全て個別支援へと活きていくこと になります。 立川市では、立川市地域ケア会議にて市域全体の高齢者相談窓口関係機関レベルのネッ トワーク構築、小地域ケア会議において担当圏域レベルの関係者のネットワーク構築に 力を入れており、個別支援へ活かす目的を持った互いの関係構築の取り組みにも力を入 れています。 143 地域ケア会議の実践例 域住民、専門職等の関係者をつないでいき、共に課題解決へと向けた取り組みを行います。 (関係者が双方向のやり取りを実現するための取り組み) ○立川市の地域包括支援センターの取り組みにおいては、地域の関係者が主体的に参加し ネットワークを広げていける場を作ることが重要であるとしています。 例えば、介護支援専門員連絡会の幹事会は、6 か所の地域包括支援センターの主任介護 支援専門員 6 名と、市内 6 つの日常生活圏域より選出された居宅介護支援所の介護支援 専門員 6 名により組織されており、意図的に介護支援専門員が主体性を持って取り組め る場としています。それらをつなげる役割を基幹地域包括支援センターが事務局として 担っています。 (専門機関のネットワークと住民主体のネットワーク) ○地域包括支援センターが構築していく専門機関のネットワークは、地域包括ケアを推進 していくために大変重要な土台となりますが、住民主体のネットワークが構築されてい なければ、その機能を充分に活かすことができません。 住民主体のネットワーク構築のためには、地域福祉の推進役である社会福祉協議会をは じめとした様々な地域の関係機関・団体と連携し、取り組んでいくことが大変重要とな ります。 そして、住民主体のネットワーク構築と専門機関のネットワークの構築のみならず、そ の二つのネットワークをさらに結びつけていくコーディネートが必要となります。 (3)地域ケア会議の今後 (介護支援専門員の資質向上) ○地域包括ケアを実現する上で、介護支援専門員の力量形成を行うことは大変重要になり ます。立川市の地域包括支援センターでは、今後の取り組みとして、小地域ケア会議の 場等において介護支援専門員の個別事例検討の場を増やすことも 1 つの案として、更な る介護支援専門員の資質向上に取り組もうとしています。 (ノウハウの積み上げ) ○立川市の地域包括支援センターでは、職員の入れ替わりや、新しく入ってくる人材が多 い介護業界においては、個別事例への対応の積み上げと、関係者間のネットワーク構築 が重要であると考えています。そのため、個別支援会議、小地域ケア会議、地域ケア会 議における地域関係者とのネットワーク構築や、各種連絡会議や研修会の開催を通して、 更に支援のノウハウを積み上げ、地域関係者が全体として支援する力を底上げしていく ことを目指しています。 144 地域ケア会議の実践例/東京都立川市 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター 参考資料1 第3章 地域ケア会議の実践例 145 参考資料2 146 地域ケア会議の実践例/東京都立川市 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター 参考資料3 第3章 地域ケア会議の実践例 ※居宅介護支援事業所提出用 147 参考資料4 平成25年3月度 市内各エリア小地域ケア会議 予定表 南部西ふじみ地域包括支援センター TEL 042-540-0311 日時:平成 25 年 3 月 27 日(水) 15 時00 分~ 17 時 00 分 場所:立川市総合福祉センター 視聴覚室 内容:『小地域ケア会議の意見交換が活かされている事例について』 事前に提出いただいた事例から数事例紹介後、グループでの意見交換 南部東はごろも地域包括支援センター TEL 042-523-5612 日時:平成 25 年 3 月 27 日(水) 13 時30 分~ 15 時 場所:子ども未来センター 201 会議室 (錦町 3-2-26) 内容:『ターミナルケアについて考えよう』 中部たかまつ地域包括支援センター TEL 042-540-2031 日時:平成 25 年 3 月 22 日(金)15 時 30 分~ 17 時 場所:高松地域学習館 第 2 教室 内容:『お互いの事業所をしろう』~たかまつ圏域の課題について・最終章~ 北部東わかば地域包括支援センター TEL 042-538-1221 日時:平成 25 年 3 月 22 日(金) 13 時30 分~ 15 時 場所:新緑クリニック 地域活動室 内容:グループごとに分かれての事例検討会 北部中さいわい地域包括支援センター TEL 042-538-2339 日時:平成 25 年 3 月 13 日(水) 14 時~ 16 時 場所:サービス付き高齢者向け住宅 1階食堂 内容: 民生委員さんとの顔合わせ -1 人暮らしの方の情報共有について・災害時の見守りについて- ※小地域ケア会議終了後、希望者のみサービス付き高齢者向け住宅の見学会を企画しており ます 北部西かみすな地域包括支援センター TEL 042-536-9910 日時:平成 25 年 3 月 26 日(火) 14 時~ 15 時 30 分 場所:西砂学習館 第 1 教室 (立川市西砂町 6-12-10) 内容:『在宅介護サービスの事例検討』 148 地域ケア会議の実践例/東京都立川市 立川市南部西ふじみ地域包括支援センター 総合相談支援・権利擁護業務連絡会状況報告書 参考資料5 平成24年度第1回連絡会 ふじみ地域包括支援 センター 総合相談支援業務 総合相談(来所相談・訪問相談・その他の方法で対応した相談の相談内容と対応の特色) 第3章 地域におけるネットワーク構築 地域ケア会議の実践例 地域における実態把握について(個別把握の状況・新しい地域の社会資源把握の状況) 権利擁護業務 (○成年後見制度、地域福祉権利擁護事業との連携・利用支援、○措置制度の活用、○高齢者 虐待対応、困難事例への対応、○消費者被害のへの対応等の取り組みから、他のセンターに報 告しておきたい事柄をピックアップして記述) ※地域包括支援センター 社会福祉士提出用 149 7 石川県金沢市 金沢市地域包括支援センターとびうめ 1.金沢市における地域ケア会議の概要 人 高 口 齢 : 約 451,000人 化 率 : 地域包括支援センター設置数 直 委 サ ブ ブ セ ン ラ 〈金沢市地域ケア会議機能〉 タ ン 22.3% 19 か所 営 0 か所 託 19 か所 ー 0 か所 チ 2 か所 (平成24年10月現在) (金沢市の特徴) 金沢市は、城下町としての歴史と文化をもつ中核市です。古くは方面委員等が尽力して 善隣思想を背景とした「善隣館」というセツルメントを企画 ・ 運営するなど、住民主体の小 地域活動の土壌がある地域です。善隣思想とは、「助け合いの心で、近隣の人々と心を通わ せ、支えあい、お互いに善き隣人を創っていく」という思想であり、互助の力となるものです。 地域包括支援センターはこのような「地元地域に混ぜていただく」というかたちで実践を重 ねてきています。 (金沢市の人口と高齢化率) 金沢市は約 50 年来合併もなく、総人口は総じてゆるやかな増加傾向が続いており、約 451,000人。高齢化率は上昇傾向であり、現在 22.3%となっています。(平成 24 年 10 月現在) 高齢化率は、上昇を続け、平成 32 年には 27%に達することが推計されています。 なお、金沢市地域包括支援センターとびうめ(以下 :「とびうめ」)の担当圏域(小学校2地 区を一つの生活圏域として担当している)に限定した場合、現在の人口は、約 16,582 人、高 齢化率は、約 30.0%と市全域の中でも高く、将来推計基準を既に超しています。 (特徴的な地域課題) 高齢化率の比較からも見えるように、金沢市内でも生活圏域ごとの背景に違いがあり、固 有の地域課題が存在しています。全市的な取り組みをすすめる一方で、圏域ごとの地域特性 を考慮した重層的な捉え方も必要となっています。 とびうめの担当地区は、兼六園や市役所が範囲内にある旧市街地に位置し、市内でも高学 歴・高キャリアの方が多く住んでいます。地域に長く暮らしている住民が多く、つながりは 強いものの、高齢者世帯率、独居世帯率が年々上昇しており、老老介護、遠距離介護、セル フネグレクトの課題等も多くなっています。 150 地域ケア会議の実践例/石川県金沢市 金沢市地域包括支援センターとびうめ (金沢市の地域包括支援センターの概要) 金沢市の地域包括支援センターは全て委託型として設置されています。地域福祉の基本 単位である地区社会福祉協議会(概ね小学校区)をグループ化し、生活圏域を組んでいます。 委託先の 3 分の 2 が医療法人であるという特色があります。とびうめも精神科病院を母体と した委託型地域包括支援センターです。 3課委託(長寿福祉課 ・ 介護保険課 ・ 健康総務課)の元で業務を行い、基幹型機能として 3つの福祉健康センターが業務の橋渡しを担っています。複数部局が絡むことで、月報作成 等の実務作業が増えるという面もありますが、一方で、縦割りとなりがちな行政の機能を地 域包括支援センターで束ねて地域で展開できるというメリットもみられます。 金沢市 ・ とびうめでは、地域ケア会議を「場としての」地域ケア会議と、「機能としての」 第3章 (金沢市「とびうめ」の地域ケア会議概要) 地域ケア会議とで整理をして試行しています。 ここでの」リアルな地域課題を共有する場として位置づけられています。フォーマルな支援 者だけではなく、本人や家族、近隣住民をはじめとしたインフォーマルな人たちが、立場を 超えて協働する場としてデザインしており、オーダーメイド方式で、個の地域包括ケアを創 りだすことを目指しています。これは「個を地域で支える」という地域包括支援センターと しての究極的な目的とも合致します。 「機能としての」地域ケア会議は、上記を含む様々な既存の会議に付加された地域ケア会 議機能の総称を意味しています。個別事例から浮かび上がる地域の課題を、地域包括支援セ ンター内協議から一つひとつ丁寧に共有と合意形成を経て、機能別会議に振り分けを行い検 個を支える地域をつくる 金沢市地域 包括支援セ ンター連絡 会 編み掛けは、 「機能としての」 地域ケア会議を 意味する。課題 ごとに振り分け ていく 金沢市 介護保 険運営 協議会 スモールステップ方式 地域包括ケアシステム 運営 懇談会 (圏域内) 地域の人財と共 に、「場としての」 地域ケア会議を もつことで、両ベ クトルが生まれ る。 地域 ケア会議 課題共有、合意 形成を積み重ね ながらひとつず つステップを踏 んでいく START 金沢市 地域福 祉計画 策定会 議 センター 内協議 オーダーメイド方式 個の地域包括ケア 個別 事例 個を地域で支える 参考:「地域福祉援助をつかむ」有斐閣、2012 岩間伸之・原田正樹 著 151 地域ケア会議の実践例 「場としての」地域ケア会議は、総合相談・支援業務の延長線上にある個別支援を深め、 「今、 討していきます。「個を支える地域をつくる」ため、個別事例から始まるスモールステップ での地域包括ケアシステムの構築を目指すものとなっています。 (1)地域ケア会議 (会議概要) 開 催 頻 度 非定例 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターごとの裁量に任されてい る 会 議 の 目 的 事例検討をとおし、個別支援を深め、「今、こ こでの」リアルな地域課題を共有する 会議の持つ機能 個別課題解決機能、地域課題発見機能、ネット ワーク構築調整機能、地域づくり・資源開発機 能 見込まれる成果 個別事例の再アセスメント、課題解決プロセスの共有を通し、フォーマル ・ イン フォーマルの連携と協働によるオーダーメイドの支援ネットワークが構築される。 事例から見える地域課題の発見と今後の取り組みへの契機となる。 対 担当圏域内 主 会 議 運 象 範 囲 会 議 参 加 者 固定参加者:地域包括支援センター職員 会議参加者:ケースにより参加者は異なる。本人、家族、近隣住民、民生委員、 町ぐるみ福祉活動推進員、大家、介護支援専門員、事業者、行政、 警察署、司法関係者、医療関係者、商店など。 進 地域包括支援センター職員(固定) 行 役 事例選定方法 地域のさまざまなところから寄せられる総合相談支援の中より、センター内協議 という方法で選定される。 (地域ケア会議とは) 地域ケア会議は、総合相談支援業務の延長線上にある個別支援を深め、「今、ここでの」 リアルな地域課題を共有する “場” として位置づけられています。本人の暮らしを支えると いうことを軸に、フォーマル・インフォーマルの枠を超え、オーダーメイドの支援ネット ワークを構築していくことを目的とし、直面している実際の課題(事例)にかかわりをも つ人や機関が一堂に会し、協働で事例検討を行います。 一つの事例を見ることで地域の課題が見えてくるというプロセスを重視するため、事例 検討会では、参加者である地域の人や機関と共に、本人の側から事例を捉えなおすという 再アセスメント機能を重視しています。立場も背景も異なる多彩な参加者が集まるため、 あえて決められた書式での事前準備を求めず、個人情報保護などの一定のルールの下で自 由に交わされる意見は、センター職員が進行や板書で可視化していくなど共通理解を形成 するための工夫をこらしています。 152 地域ケア会議の実践例/石川県金沢市 金沢市地域包括支援センターとびうめ (事前準備・司会等) ○書面による事前準備を必要としません。当日は、ホワイトボードを 2 枚準備し、板書、 司会進行をセンター職員で担当します。 (参加者) ○ケースごとに必要性や状況に応じて選定されます。 ○地域ケア会議は「地域の人や機関が立場を超えて、地域で生起したニーズを地域の力や ネットワークで解決していくこと」を目指し、参加の必要がある人は、個人情報などの 一定のルールのもとで誰でも召集することとしています。 ○地域ケア会議の開催が必要であると判断された場合は、可能な限り即時開催をします。 第3章 (開催日程) そのため、とびうめにおいて地域ケア会議は定例化されておりません。 地域ケア会議の実践例 事 例 コ ラ ム 〈地域ケア会議を通し、認知症の一人暮らしのAさんを地域でどのように支えるか〉 (地域ケア会議開催まで) 一人暮らしのAさんのもの忘れが心配されているとの地区担当民生委員より相談が入った。地域包括 支援センターと担当介護支援専門員にて同行訪問をするが、本人は、 「ヘルパーにそうじは支援を受けて いるが、なんでも自分でできるし心配なことはない」と言う。 そこで、まずは課題を認識しはじめた周りの人たちで、地域ケア会議を開催し、現状を見てみること とした。 (地域ケア会議当日) 家族、地区担当民生委員、担当介護支援専門員、ヘルパーなどに参加いただき、地域ケア会議を開催し、 現状や経過を整理した。どのような客観的事実があり、主観的には、だれが何を心配し、本人の側から どう見えているのかなどを話し合った上で、課題を抽出した。アセスメントでは、Aさんは、孫やかか りつけ医を信頼しており、その関係が行動のきっかけとなることも確認できた。 特に急ぐべき課題として、①消費者被害のリスク、②なじみの電気屋からの年金額以上の買い物、③ 認知症の診断の 3 点があった。 役割分担をし、地域の見守り体制づくりや商店への理解のうながしを行った。認知症の専門医受診に ついては、アセスメントをもとに、本人が信頼しているかかりつけ医に協力していただき、 「先生の顔を たてて」 「孫のために」 「大事な家に住み続けるために」という本人のモチベーションにつながるキーワー ドで働きかけをおこなうこととした。 (その後) 認知症と診断をうけたAさんだが、地域での一人暮らしをつづけている。フォーマル ・ インフォーマ ルの支援者も顔がみえる関係となり、地域ぐるみで消費者被害のリスクなど見守っている。 また、Aさんの事例をはじめとして、認知症の一人暮らしの人を地域でどう支えるかという共通の地 域課題の認識にもつながってきている。 153 (2)地域包括支援センター内協議 (会議概要) 開 催 頻 度 定例(毎朝 30 分程度、他週1回1時間程度) 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターごとの裁量に任されてい る 会 議 の 目 的 センター内多職種での個別課題及び地域課題の 共有と合意形成。それぞれの課題を各会議につ なぐためのスクリーニング。 会議の持つ機能 個別課題解決機能、地域課題発見機能 見込まれる成果 多職種協働による個別課題及び地域課題のブラッシュアップ。総合相談支援業務 から適切な地域ケア会議機能へつなぐ 対 担当圏域内 主 会 議 運 象 範 囲 会 議 参 加 者 地域包括支援センター職員 進 地域包括支援センター職員(固定) 行 役 事例選定方法 総合相談支援業務の中のすべての事例 (地域包括支援センター内協議) センター内協議をすべての「機能としての」地域ケア会議の起点として位置づけていま す。センターに寄せられるすべての総合相談支援事例は、地域包括ケアのための原石とい えますが、多忙な日常業務の中においては、その意味も看過されてしまいがちです。そこ で、センター内の多職種協働で、取り組むべき個別課題及び地域課題を抽出し、ブラッシュ アップしていく仕組みとして、会議を位置づけ意識化しています。 センター内協議では、個別事例の中の地域課題の種を「場としての」地域ケア会議につ なげ、また個別事例の積み重ねにより発見される地域課題を、地域に既存するどの「機能 としての」地域ケア会議にて検討を行うことが適切かを決定します。課題の内容ごとに、 会議に求められる規模(エリア)、その会議の持つ機能、開催時期などを考慮し、適切な 会議へと振り分けが行われます。 154 地域ケア会議の実践例/石川県金沢市 金沢市地域包括支援センターとびうめ (3)運営懇談会 (会議概要) 開 催 頻 定例(2 回/年) 催 地域包括支援センター 営 市レベルで運営規定、委嘱委員属性などを統一 している 会 議 の 目 的 生活圏域に生起している地域課題の共有と今後 の取り組みに向けての合意形成を、地域での代 表者レベルでおこなう 会議の持つ機能 地域課題発見機能、ネットワーク構築機能、地域づくり・資源開発機能 見込まれる成果 実事例を根拠とした生活圏域ニーズの共有。生活圏域内の各機関での取り組みに ついての意見交換のほか、この場で解決できない圏域を超えた課題については他 会議へと送致 対 各地域包括支援センター圏域(生活圏域ごと) 主 会 議 運 象 範 囲 第3章 度 地区民生委員協議会、地区社会福祉協議会、地区町会連合会、地区婦人会、医師会、 歯科医師会等、各機関の地区単位の代表者。行政主幹課担当者、健康福祉センター 保健師 進 運営協議会会長(地区社会福祉協議会会長) 行 役 (運営懇談会とは) 地域包括支援センターの業務分析と意見交換をとおして、生活圏域に生起している地域 155 地域ケア会議の実践例 会 議 参 加 者 課題の共有と今後の取り組みの合意形成を、地域での代表者レベルで行う会議として位置 づけられています。 市全域を対象とした運営協議会に対し、運営懇談会は、生活圏域に密接した形で、各委 託型地域包括支援センターごとに設置されており、参加者も地域福祉の担い手として日常 的に協働している各機関の地区単位の代表者と行政実務担当者とで構成されます。 運営懇談会では、日常的に積み重ねられた総合相談支援事例の統計データを分析し、併 せて地域ケア会議事例について報告します。地域の中で、どのような実事例があり、どう いった傾向や取り組みがみられるのかを意見交換することで、リアリティをもって生活圏 域ニーズを共有していきます。生活圏域内の各機関で取り組めることについての意見交換 のほか、この場で解決できない圏域を超えた課題については他会議へと送致していきます。 (4)地域包括支援センター連絡会 (会議概要) 開 催 頻 主 度 定例・非定例 (年1回の総会の他、各部会活動は随時) 催 保険者と委託型地域包括支援センターの共催 営 行政担当各課と委託型地域包括支援センター代 表者にて共同 会 議 の 目 的 生活圏域ごとに把握されてきた様々な課題を共 有し、より広域な取り組みや政策形成の可能性 へと広げていく 会議の持つ機能 ネットワーク構築機能、地域づくり・資源開発機能、政策形成機能 見込まれる成果 生活圏域ごとの地域課題を市全体として集約していく。地域包括支援センターと 保険者が連携と協働をおこなうことで、現場と乖離しない具体的な業務改善や政 策提言へとつながる。 対 市レベル 会 議 運 象 範 囲 会 議 参 加 者 全委託型地域包括支援センター及び委託元行政各課 進 地域包括支援センター代表者 行 役 (地域包括支援センター連絡会とは) 金沢市内に 19 か所設置されている地域包括支援センター同士の意見交換をとおして、 生活圏域ごとに把握されてきた様々な課題を共有し、より広域な取り組みや政策形成の可 能性へと広げていくことを目的としています。事務局は保険者の中の委託元主幹課である 長寿福祉課に配置されており、行政・地域包括支援センターによる共同組織となっていま す。また、各地域包括支援センター長会議として活用されることが可能です。市全域のも のとして集約された課題は、地域包括支援センター連絡会としての方針・対策としてまと め、市長・行政各課へと提言されます。 地域包括支援センター連絡会は、目的ごとに小会議を設けるなどし、現場と乖離しない 156 地域ケア会議の実践例/石川県金沢市 金沢市地域包括支援センターとびうめ 具体的な業務改善や政策提言を「仕組みとして」行っていくものとして現在もあり方を模 索しています。 事 例 コ ラ ム 〈全地域包括支援センターで「要望と提案」を集計し、市長へ提言〉 それぞれの地域包括支援センターが把握している地域課題やセンター運営課題を、連絡会としてアン ケート調査し、KJ法にてボトムアップ分析を行いました。その結果、まとめられた15の提言を市長 へ提出し、現在も検討を重ねています。 【政策反映された例】 第3章 ・センターの名称変更や共通リーフレットの作成 ・センター業務の施策・政策反映の一環としての福祉関係計画への参画 ・認知症徘徊・見守りネットワークの強化と緊急連絡先票の活用 地域ケア会議の実践例 2.金沢市・とびうめにおける地域ケア会議運営 (1)個別事例からはじめるスモールステップ地域包括ケアシステムの構築 金沢市 ・ とびうめでは、「個別事例にはじめ、個別事例にかえる」ことを基本姿勢とし ています。地域で生起したニーズを、地域の力やネットワークで解決していく仕組みを私 たちの目指す地域包括ケアシステムと捉え、そのための手段として地域ケア会議を活用し ています。軸においている個別事例検討においては、地域の人や機関と共にアセスメント を深めることで、気づきや学びを深め、そこから見えてくる地域課題に対しては、解決に 向け必要な機能別会議等につなげ、丁寧な合意形成を行いながら取り組んでいます。 (オーダーメイドの支援ネットワーク) ○とびうめでは地域ケア会議において、「本人の暮らしを支える事を軸として、フォーマ ル ・ インフォーマルの枠を超えたオーダーメイドの支援ネットワーク」を構築すること を目標に据えています。 (「今、ここでの」地域課題の共有) ○個別事例を深めることは、「今、ここでの」リアルな地域課題を共有する場ともなり、 ある人のニーズ(課題)は、私たちの地域のニーズ(課題)という視角がうまれます。また、 一つの成功事例を経験した参加者は、次にはこの地域の支援者として、あるいは代弁者 としての役割や機能を見いだせることにつながります。 (スモールステップで行う合意形成) ○個別事例の積み重ねから見えてきた地域課題については、地域包括支援センター内協議 を起点に、その課題ごとに最適な機能別会議へと振り分けを行い解決を志向した検討を 157 重ねていきます。その中でスモールステップの合意形成(一段一段の共有)を丁寧に行 うことを心がけています。 (2)地域ケア会議運営上の考え方 (地域ケア会議の 2 本柱での体系) ○金沢市 ・ とびうめでは、運営上の考え方として、地域ケア会議を「場としての」地域ケ ア会議と、「機能としての」地域ケア会議の 2 本柱で整理しています。地域ケア会議は、 地域包括ケアの実現にむけての手段であると捉えると、一つの会議ですべての取り組み をおこなうことには限界があることに気がついたためです。新しく総合的な会議を立ち 上げることも考えてはみましたが、参加者にも負担を強いることとなり、現実的ではあ りませんでした。そこで、既にある会議に地域ケア会議の機能を付加し、それを体系化 することで、総合性を担保していくこととしました。 (個別事例検討「場としての」地域ケア会議がすべての鍵) ○個別事例のアセスメントを強化していくことにより、その事例に対する認識が深まるだ けでなく、地域に対するアセスメント能力が強化されます。そして積み重ねを行ってい くことで地域の課題が発見されていくものであると考えています。 このような視点を持ちながら、「立場を超えて、同じ場で話せるもの」として、時に本 人や家族、近隣住民までを含む多職種による地域ケア会議を運営しています。 ○個別事例の検討を行う地域ケア会議は、落とし所や計画案などの事前資料をあえて準備 せず、「固定観念を取り除いた状態で、関係者が一緒になり再アセスメントを行う」と いう視点にて行われます。 共に個人と地域のあり方を見つめ直す過程において、会議参加者が自分の役割や立ち位 置に自発的に気づき、支援者としての主体性が高まることが見込まれます。 (3)地域ケア会議運営上の具体的手法 (個別事例を検討する際の具体的手法) ○とびうめの地域ケア会議では、多職種(専門職に限らず、地域住民等も含む)の中にお いて、共通言語をもたないことを前提に共通認識を育てる工夫が図られています。会議 開催時には事前資料は準備せず、そのかわりホワイトボードを 2 枚用意し、参加者から の情報や意見をジェノグラムやエコマップ、時系列といった形に可視化しながら会議を 進行させます。その際、進行や板書は地域包括支援センター職員が担当します。 ○参加者より発言された意見や情報は、「誰が」「いつ」「何を」という点が明確にされ、 ホワイトボードに板書されます。また司会を担当する地域包括支援センター職員は明確 な情報を引き出すためのかじ取りやサポート、質問等を行います。 ○司会担当者は、参加者より情報を引き出す働きをすることと同時に、こまめにそれらの 158 地域ケア会議の実践例/石川県金沢市 金沢市地域包括支援センターとびうめ 情報についてまとめ、参加者の理解を助ける働きを行います。例えば、それぞれの思い の推移であったり、ある一定の人物との関わりであったり、カテゴリを細かく分けてま とめ、頭の中で整理をつけやすくすることに努めます。 ○共有された情報をもとに、何がその事例において問題点であるのか、というポイントを まとめます。司会者の進行により、それらのポイントについて、どのような対策が有効 であるか、現状行えることは何か、といったことが話し合われ、具体的な行動計画があ げられていきます。 ○決められた行動リストについて、「いつ ・ 誰が」を明確にした上で参加者への役割分担 が行われます。アセスメントを協働したことにより、多くの参加者が自分の役割や立ち 第3章 位置に気づいているため、司会によって振りわけられるわけではなく、自発的な役割の 引き受けが見られていきます。 ○一つの事例検討を終えると、余韻を噛みしめるかのように、地域の関係者と一緒にホワ イトボードを囲みながら、そこで話し合われたことの振り返りをおこなうことが自然の 地域ケア会議の実践例 流れとして行われます。そこから、個別事例からみえる地域課題についての気づきにつ ながることも多くあります。 ○地域ケア会議の進行についての一例として、次表のような流れで行われます。 時間 行った内容 約5分 参加者の自己紹介 会議目的の共有 個人情報取り扱いルール確 認 参加者を表記 事例アセスメント 基本情報(医療・介護など) 司会進行の質問を引き金に、 家族構成や生活歴 全員発言による情報の共有 これまでの経過 人や地域との関係性 本人の側からの思い、何が みえているのか 誰からみて、何がおきてい るかを角度を変えてみる 課題解決パターン、力や強 みは何か ジェノグラムで家族関係を 表記 そこから、エコマップを作 成し、人や地域との関係性 をコメントとして加えてい く 当事者年表を作成する形で、 情報を可視化 課題の抽出と優先順位の確 認 課題を整理 アセスメントに色付けしな がら、課題を表記 課題についての解決方法を 検討 課題解決にむけての取り組 みの検討 課題ごとに実行リストを作 成 役割分担 誰がどのタイミングで、何 を行うことが適切か検討 誰が何をいつまでに担当す るのかを表記 まとめ 事例検討のまとめと要約を とおして共有されたものを 確認 ホワイトボードを指差しな がら、会議を要約 事例の振り返りと見えてき た地域課題の確認 ホワイトボードで事例の全 体像の確認 約 30分 約 20分 約5分 会議終了後 (事例の振り返りと地域課題 の抽出) 詳 細 ホワイトボード 159 (地域課題の解決へ向けての具体的手法) ○地域課題を解決していくにあたり、適切な設置範囲・参加者での会議が必要です。金沢 市・とびうめでは、まだ発展段階ではありますが、「機能としての」地域ケア会議として、 既存の会議を活用し、地域課題解決へとスモールステップでの取り組みを試行していま す。 ○その際、気をつけていることは、参加者がお互いの立場や要望を主張しあうことで終始 しないよう、併せてお互いのできることや強みなども提案できる建設的な雰囲気を作り 出すことです。合意形成は、協働する関係性を土台として成立すると考えています。 ○一例を紹介します。地域包括支援センター連絡会では、それぞれの生活圏域ごとの課題 を整理し、地域課題として市長や行政各課にむけて届けるツールとして「提言書」を作 成しましたが、そのときにも、次ページの例のとおり各委託型地域包括支援センターの 要望と提案をセットにしてまとめています。その結果、センターの名称変更や市地域福 祉計画策定会議への参画など、具体的な政策形成につながる取り組みが生まれてきまし た。 要望アンケート 現状と課題 (困っていることなど) (例)センターがあ まり周知されてお らず、地域への啓 発活動がもっと必 要と感じる。 センター名 とびうめ 要望と提案 包括で できそうなこと 民児協の定例会に 毎月出席していく。 パンフレットを もって実態把握に 積極的にでる。 行政にサポート してほしいこと センターの活動が 一目で分かるよう な共通パンフレッ トなどを作成して ほしい。 市民が親しみやす い よ う に、 セ ン ターの名称を短 縮 ・ 変更してほし い。 分野(複数回答可) ■総合相談・支援 □介護予防 □権利擁護 □包括的 ・ 継続的 ケアマネジメン ト ■ネットワーク □業務体制 レベル ■市 □県 □国 (4)地域ケア会議の今後 (地域包括支援センターの体系化の確立) 金沢市・とびうめで行っている地域包括ケア会議の体系化は、まだ試行段階です。保険 者には、地域包括ケアシステムを構築する責務があるのと同時に、委託型地域包括支援セ ンターには、実感として捉えている地域課題を届けていく使命があると考えます。そのた めの有効な手段としての地域ケア会議の活用については、お互いにとってメリットがある ものであり、協働で仕組みとして構築していきたいところです。 (保険者と地域包括支援センターの関係) 地域包括支援センターと保険者の連携を強化していくことが重要です。しかし、行政担 160 地域ケア会議の実践例/石川県金沢市 金沢市地域包括支援センターとびうめ 当者の異動等により、これまでに構築・共有してきた情報や連携がリセットされてしまう ことが懸念されています。 そのため、そのような人事的な入れ替わりなどが起こった際にも、保険者と地域包括支 援センターの連携が揺らぐことのないシステムの構築が目指されています。 (地域包括支援センター連絡会の機能強化) 現在 19 か所配置されている地域包括支援センターですが、地域特性の違いから、温度 差や足並みのばらつきが見られることが課題となっています。その課題に取り組む仕組み として、地域包括支援センター連絡会の機能強化が求められています。 第3章 連絡会は、発展途上段階ではありますが、地域ケア会議としての政策形成機能や資源開 発機能をもちあわせており、保険者と地域包括支援センター同士の連携システムとしての 可能性は大きいものととらえられています。市長への提言などの成功実績を一つづつ積み 重ねながら、現場発信の地域包括ケアシステムづくりに取り組む姿勢を大切にしていきた 地域ケア会議の実践例 いです。 161 8 新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 1.新潟市北区における地域ケア会議の概要 人 高 口 齢 : 約 803,719人 化 率 : 地域包括支援センター設置数 直 委 サ ブ ブ セ ラ 〈新潟市地域ケア会議機能〉 ン タ ン 23.9% 27 か所 営 0 か所 託 27 か所 ー 0 か所 チ 0 か所 (平成24年5月現在) (新潟市北区の特徴) 新潟市は 2007 年に区制を導入し、8 つの区で構成される市となりました。地域包括支援セ ンター阿賀北がある北区は旧新潟市と旧豊栄市の合併により構成されています。旧新潟市エ リアは比較的高齢化率が高く、独居・二人暮らし世帯が多くなっており、旧豊栄市エリアは 新潟市のベッドタウン的な位置であることから、若い世代が多いという特徴があります。 (人口と高齢化率) 新潟市の人口の増減は横ばいで推移しており、現在約803,719人、高齢化率は23.9%となっ ています。今後人口は下降を辿り、高齢化率は上昇をすることが予想されており、平成 37 年には人口約 760,000 人、高齢化率 30.4%になると推計されています。 また、北区だけに限定した場合、人口は現在約 77,331 人、高齢化率は 23.4%となっていま す。北区に限定した場合も、市の将来推計と同様、平成 37 年には人口は約 70,890 人と減少し、 高齢化率は 31.9%と上昇することが推計されています。 なお、新潟市地域包括支援センター阿賀北の担当圏域に限定した場合、現在の人口は約 27,602人、高齢化率は 24.6%となっています。 (特徴的な地域課題) 北区は旧新潟市圏域と旧豊栄市圏域の合併による成り立ちから、それぞれの圏域における 高齢化率が違いますし、主産業も異なり、新潟中央部への交通網等の充足度も異なります。 そのため、同一区内ではあるものの、発見される圏域レベルでの課題については大きな違い が発生することが懸念されます。 (新潟市の地域包括支援センターの概要) 新潟市の地域包括支援センターは全て委託型で、8 つの区にそれぞれに 3 ~ 4 か所ずつ設置 162 地域ケア会議の実践例/新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 されており、合計 27 か所設置されています。 北区には旧新潟市北地区を担当する地域包括支援センター阿賀北と、旧豊栄市を担当する 地域包括支援センターくずつか・地域包括支援センター上土地亀の3か所が設置されています。 保険者から地域包括支援センターへ対する運営上の指導等は年2~3回の業務説明会、毎 年度業務評価、市民に新潟市のホームページで結果公表があるほかは、比較的自由な地域性 を考慮した運営が可能となっています。新しい取り組みや会議等を行う際は、保険者に起案 を提出し了解を得る形をとっています。 (新潟市北区での地域ケア会議概要) 第3章 北区の地域包括支援センターでは、個別事例の裏に潜む地域課題を抽出し、どのように区 や市へと共有して解決へと導いていくかという点に主眼を置いた地域ケア会議が構築されて います。 地域課題を抽出し解決へと向かう地域ケア会議は、区範囲の事例を 7 つの部門別に検討す 議」・ 圏域ケア会議により集約され、解決に行政の力が必要となる課題の検討を行う「北区 ケア会議」により 3 層構造で構築されています。 また、必要に応じて民生委員や介護支援専門員等から寄せられた検討が必要な事例につい ては、上記地域ケア会議とは別に、随時、関係者を招集し、個別ケア会議を開催しています。 北区(高齢)ケア会議 北区(障害) 自立支援協議会 個別ケア会議 地域包括支援センター くずつか 圏域ケア会議 地域包括支援センター阿賀北 圏域ケア会議 訪問系部門会議 事務局:阿賀北 入所系部門会議 事務局:阿賀北 地域密着部門会議 事務局:上土地亀 通所系部門会議 事務局:くずつか 短期入所部門会議 事務局:くずつか 地域包括支援センター 上土地亀 圏域ケア会議 阿賀北圏域ケアマネ 部門会議 豊栄圏域ケアマネ 部門会議 入所系施設長会議 事務局:阿賀北 163 地域ケア会議の実践例 る「部門別会議」・ 部門別会議から上がってきた地域の課題について検討を行う「圏域ケア会 (1)個別ケア会議 (会議概要) 開 催 頻 度 非定例 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターごとの裁量に任されてい る 会 議 の 目 的 個別の困難事例について、具体的なケース検討 を行う。 会議の持つ機能 個別課題解決機能 見込まれる成果 個別課題解決 対 個別ケース 主 会 議 運 象 範 囲 会 議 参 加 者 ケースに関わる関係者。専門職に限らず、地域住民等も招集。 進 地域包括支援センター職員 行 役 事例選定方法 地域からの通報、介護支援専門員からの相談、圏域ケア会議での議題からの抽出、 その他ありとあらゆる所より選定 (個別ケア会議とは) ケースに関わる関係者による会議で解決に向く課題について取り上げる会議として位置 づけられています。役割分担をしながら、多職種による協働の形を模索することを通し、 個別課題の解決という成功体験を積み上げることが目指されています。 (2)部門別会議 (会議概要) 開 催 頻 度 定例(2 回/年) 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターごとの裁量に任されてい る 会 議 の 目 的 部門ごとに同業者が集まり、その部門での困難 事例・地域課題等について検討を行う 会議の持つ機能 個別課題解決機能、地域課題発見機能 見込まれる成果 個別課題解決、地域課題発見 対 区レベル 主 会 議 運 象 範 囲 会 議 参 加 者 地域包括支援センター職員、部門ごとの同業者 進 会議の参加者の中から選定 行 役 事例選定方法 164 事例提供シートを配布する募集方式 地域ケア会議の実践例/新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 (部門別会議とは) その部門ごとの同業者が集まり、個別ケースおよび地域課題について検討を行う会議と して位置づけられています。 同じ地域で働く同業者が集まり、ひとつの事例についての意見を十分に練ることで、各 部門としての意見として圏域ケア会議へと課題をあげていくことが目的です。 (部門と担当事務局) ○訪問系・入所系・短期入所・通所系・地域密着・ケアマネ・入所系施設長、の 7 つの部 門に分かれ会議が開かれています。 います。また、一つ一つの部門会議の設置範囲は北区レベルで設定されています。 例えば、平成 24 年度に地域包括支援センター阿賀北が事務局を担っている部門別会議 第3章 ○各部門別会議の事務局は、北区の 3 か所の地域包括支援センターで分担して設置されて として、入所系施設長会議・訪問系部門会議・入所系部門会議・阿賀北圏域ケアマネ部 くずつか・上土地亀の圏域も含まれます。すなわち、地域包括支援センター阿賀北の担 当圏域にある短期入所部門や地域密着部門の関係者は、地域包括支援センターくずつか・ 上土地亀に事務局が設置されている部門別会議へと召集されます。 (事例の選定・開催日程・参加者の招集方法) ○地域包括支援センターが事務局として部門別会議の開催日程を決定します。また、開 催の 1 か月半前程度の時期に、関係者へ出席確認とともに事例提出シートを送付します。 (→P172、173、参考資料1、2) ○司会進行を担うのは、その部門別会議に集まった参加者の中より選出します。部門によ り選出方法は異なりますが、例として、参加者の中での持ち回りで選出されるケースが あります。 地域包括支援センター職員が司会進行を行うことはありませんが、会議に同席し、検討 の流れの中において、方向性づけを行います。 事 例 コ ラ ム 〈感染症の方が病院から在宅へと戻った際、受け入れを行うサービス事業所がその地域にないケース①〉 介護支援専門員部門会議において、MRSAや多剤耐性緑膿菌といった感染症の患者が、病院から在宅 へと戻る際に受け入れ態勢が整っているデイサービスやショートステイサービスがその地域にないこと が、個別ケースを通して問題であると問題発起がされた。 この問題について、地域包括支援センターにより短期入所部門 ・ 通所部門 ・ 訪問系部門会議へとケー スの橋渡しが行われ、介護支援専門員部門会議も併せ4部門の部門会議で同一ケースについての検討が 行われた。 それぞれの部門別会議でまとめられた意見は、圏域ケア会議へとあげられることとなる。 165 地域ケア会議の実践例 門会議があります。それらの会議の参加者や事例の召集範囲は、地域包括支援センター (3)圏域ケア会議 (会議概要) 開 催 頻 主 会 議 運 度 定例(2 回/年)部門別会議開催の翌月に連動し て開催 催 地域包括支援センター 営 地域包括支援センターごとの裁量に任されてい る 会 議 の 目 的 部門別会議でまとめられた地域課題について、 各部門の代表者レベルでの検討を行う。 会議の持つ機能 地域課題発見機能、ネットワーク構築機能、地域づくり・資源開発機能 見込まれる成果 地域課題発見、ネットワーク構築、地域づくり・資源開発 対 担当圏域レベル 象 範 囲 会 議 参 加 者 各部門の代表者、民生委員、コミュニティ協議会福祉部、社会福祉協議会、医師、など。 また、各部門の関係者からのオープン参加も可能。 進 地域包括支援センター職員 行 役 (圏域ケア会議とは) その地域(圏域)において、どのようなケースやニーズが存在していて、解決できてい ないのかという課題を整理し、報告を通してそれを「知る」「学ぶ」会議です。そして、そ れらの課題の解決方法について「考え」、解決に至るためにはどのような機能が必要かと いったことを踏まえ解決の主体を決め、そこへ「ふるい分け」ます。多職種による会議で あるため、様々な関係者を「巻き込み」解決を目指しますが、そのケースが行政の力も必 要とする場合は、北区ケア会議へ「持ち上げる」機能を発揮します。 部門会議で専門職が持ち上げてきた地域課題に対して、各部門の代表者で向き合う会議 として位置づけられています。 (開催日程・参加者の招集方法) ○事務局である地域包括支援センターが開催日程を決定し、各関係者へと案内を送付しま す。参加は申込制をとっており、地域包括支援センターから指定して招集をかけること は行われません。また、当日の司会進行は地域包括支援センターの社会福祉士が行います。 (議題となる地域課題の集約) ○北区 3 か所の地域包括支援センターで開催されている部門別会議で検討がされた個別 ケースは、各地域包括支援センターごとに行われるそれぞれの圏域ケア会議へ、ケース ごとの住所地により振り分けられます。例えば、地域包括支援センターくずつかの担当 する短期入所部門会議で検討がされた阿賀北圏域の個別ケースは、地域包括支援セン ター阿賀北主催の圏域ケア会議へと振り分けが行われます。 166 地域ケア会議の実践例/新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 事 例 コ ラ ム 〈感染症の方が病院から在宅へと戻った際、受け入れを行うサービス事業所がその地域にないケース②〉 介護支援専門員部門 ・ 短期入所部門 ・ 通所部門それぞれの会議で検討がされ、圏域ケア会議へとそれ ぞれの視点でまとめられた課題があがり、具体的な解決策の検討が行われた。 検討の中で、感染症に関する正しい知識があれば受け入れは可能であることが共有され、そのような 知識が地域の事業所に広まっていないということが課題としてまとめられた。その解決策として、参加 者の一人である医療機関代表の医師を中心として「受け入れマニュアル」を作成することが提案 ・ 承認さ れ、また圏域ケア会議での意見として北区ケア会議へと報告することとした。 〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰 〈ケアマネ部門会議から課題提起があった65歳になり障害者施策から介護保険に移行するケース〉 第3章 本来であれば 3 か月前から移行でき、移行の準備を行なうことができるはずだが、65 歳になる 1 週間 前に介護保険の介護支援専門員につながり、その1ヵ月後、徘徊、死亡する事故があった。 本事例をきっかけとして、ご遺族にも快く了解を戴いた上で、障害者施策からの移行、引継ぎ、連携 のあり方について、自立支援協議会事務局担当との連携の下、障害者施策に携わる従事者と介護保険サー ビス関係者が一堂に会し、公開事例検討会をグループワークも交えて行なうことを通し、顔の見える関 今後も、難病、その他、異なる障害種別を取り上げ、継続的に両者の連携をスムーズにする事例検討 会の開催を検討している。 〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰 〈訪問系部門会議から課題提起され、床ずれがかなり悪化してから訪問看護につながった事例〉 介護支援専門員の医療系サービスの導入時期のタイミングについて、医療的知識の不足が懸念された。 介護支援専門員のみならず、同事例には訪問介護による入浴介助、通所介護による入浴介助のサービス も利用されていた。介護支援専門員を経由しながらも、福祉系サービスに従事する看護職同士の連携に ついても課題が残った。 本事例を圏域ケア会議にて検討し、床ずれに関する医療的な最新の知識を関係者で共有する必要があ るとの結論となり、北区における基幹病院である豊栄病院の皮膚排泄ケア認定看護師を講師に依頼し、 訪問看護ステーションより実践報告を交え、医療系サービスにつなぐタイミングについて検討する研修 会を開催する運びとなった。 167 地域ケア会議の実践例 係を作り、新潟市北区における障害・高齢関係者の連携の形を模索する試みを平成24年度開始した。 (4)北区(高齢)ケア会議 (会議概要) 開 催 頻 主 会 議 運 度 年 2 回(圏域ケア会議が開かれた翌月に連動し て開催) 催 北区役所 営 各区役所に任されている 会 議 の 目 的 圏域ケア会議でとらえた地域の課題の報告、な らびにその中でも行政の力が必要となる課題を 中心に解決策の検討を行う。 会議の持つ機能 地域づくり・資源開発機能、政策形成機能 見込まれる成果 地域づくり・資源開発、政策形成 対 区レベル 象 範 囲 会 議 参 加 者 北区3 地域包括支援センター代表、医師会代表、大学、介護支援専門員代表、施設 代表、などによる委嘱型 進 北区健康福祉課高齢介護係長(地域包括支援センター統括担当) 行 役 (北区ケア会議とは) 圏域ケア会議で整理され、溜められた地域の課題を報告し、その中でも特に「行政の力 を必要とする」地域の課題について、具体的に解決策を検討していく会議であると位置づ けられています。北区に 3 か所ある地域包括支援センターの情報や認識の共有を、保険者 や各代表者レベルを交えて行う場としても機能します。 (開催日程・参加者の招集方法) ○開催や日程調整など、運営を行う事務局は区役所地域包括支援センター統括職員が担当 します。また、会議当日の司会進行の役割も担います。 ○参加者については、区役所により毎年度の始めに委員を決める委嘱型であり、固定され ています。 事 例 コ ラ ム 〈感染症の方が病院から在宅へと戻った際、受け入れを行うサービス事業所がその地域にないケース③〉 部門会議 ・ 圏域ケア会議を通してまとめられた、感染症の受け入れについての地域課題は北区ケア会 議へと提出される。当該事例が地域包括支援センター職員により北区ケア会議の場で報告され、検討の 末承認が得られた。 その後、具体的な対策へと向かうため、地域包括支援センター主催により「受け入れマニュアル」の作 成会議が開催され、全 6 回の会議を経て平成 25 年 3 月に完成した。来年度はこの「受け入れマニュアル」 を使ってサービス事業所を対象に新潟市北地域在宅医療介護支援ネットワーク主催で研修会を開く予定 となっている。 168 地域ケア会議の実践例/新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 2.新潟市北区における地域ケア会議運営 (1)地域ケア会議を通して構築を目指す「ご当地スタイルの地域包括ケア」 新潟市北区の地域包括支援センターでは、地域特性を考慮した、その土地ならではの「地 域包括ケア」を構築するうえでの重要な手段として地域ケア会議を活用しています。 地域ケア会議の運営を続けていく中で、地域独自の協働の形を作り上げるための下地と なる仲間同志のつながりを強化すること、また、個別ケア会議で役割分担を行いながら協 働の形を模索していくことで仲間としての成功体験を積み重ねることが、地域包括ケアを 実現していく上で重要であるとしています。 第3章 (地域ケア会議を行う上でのキーワード) ○新潟市北区の地域包括支援センターは、地域ケア会議を運営 ・ 開催する上で 3 つのキー ワードを掲げています。 ①個別課題を地域の課題へ 地域ケア会議の実践例 ⇒ 課題解決型思考の地域を作り上げる ②ネットワーク強化とお互いの命題の共有 ⇒ 協働の在り方を研究し、強化していく ③事例を通して地域包括ケアに向かう関係者の準備 ⇒ 官・民・専門職、それぞれの立場で何ができるか、圏域ケア会議をきっ かけとして、お互いに考え、行動をする (2)地域ケア会議運営上の考え方・具体的手法 (北区3地域包括支援センターによる運営の統一) ○新潟市では地域ケア会議の運営は、それぞれの地域包括支援センターの裁量に任され行 われています。それによる、地域包括支援センターごとのやり方の違いから足並みの乱 れが生じることを防ぐために、また、より効率的な運営を可能にする観点から、北区の 3地域包括支援センターにおいては、運営方法を統一しています。 例えば、あらかじめ相談を重ねたうえで、部門別会議・圏域ケア会議の持つ機能や役割 は同じものとして設置運営されています。運営方法が統一されていることから、部門別 会議の事務局の分担も可能となっています。 (事例が出やすくなるための工夫) →P172、173、参考資料1、2 ○地域包括支援センターは部門別会議の参加者招集段階において、事例の提出を行いやす くするため、専用のシートを 2 種類配布します。 1つ目は個別ケースを通して考えられる、地域に足りない資源やサービスなどを「あっ たら良いな」という形で表記するもので、1枚のシートに1件のケースを記入します。 シート項目としては、ケース当事者の基本属性、現在のサービス利用状況、本人や家族 169 の満たせていないニーズ、それらを受けて現状提示している代替案、記入者が感じてい る地域に足りない資源やサービス、備考という項目になっています。 2つ目は、それらの「地域に足りない資源やサービス」が多数考えられる、感じている記 入者向けとなっており、項目は解決が困難なニーズ、それに対する対応、地域に足りな い資源やサービスの 3 つで構成されています。 ○事例提出シートに関する工夫として、記入の手間を軽減し、記入者の事例提出に対する モチベーションを落とさないために、A4 サイズ 1 枚程度に収まる簡素な構成で作られ ています。 (個人情報保護の意識) ○北区の 3 地域包括支援センターでは、個人情報保護の観点から、地域ケア会議で個別ケー スを取り扱う際は、個人が特定されないようケース当事者の氏名を仮名、またはイニシャ ルで表記することとしています。 また圏域ケア会議において、プライバシーに関わる個別ケースの相談が唐突に持ち込ま れることがありますが、その際は別途その個別ケースの関係者を招集した個別ケア会議 を開催することを確約した上で相談を打ち切り、圏域ケア会議の中で個別情報が漏れる ことのないよう配慮しています。 (関係者のモチベーション維持) →P174 参考資料3 ○地域包括支援センター阿賀北での取り組みとして、地域ケア会議参加者のモチベーショ ンを維持・向上させることを狙いとした「阿賀北ねっと」 (広報紙)の作成・配布があります。 圏域ケア会議で話し合われた内容が、その後どのように実行に移され、どのような展開 になっているか、進捗状況を報告し、次の圏域ケア会議開催まで間延びしてしまわない ように発行しています。このことにより、会議参加者が発言した意見が地域づくりへと 反映され、参画意識が高まるよう地域づくりへのプロセスの共有を目指しています。 ○内容としては、 ・地域ケア会議での議題に対する地域包括支援センターとしての活動の現状報告 ・検討の中で出た発言や提案が、その後どのような効果を出したか ・地区別に行っているグループワーク等の内容 といったものを、会議の非参加者が見ても、会議内容が理解できるようまとめています。 (3)地域ケア会議の今後 (会議の質および会議参加者の担保) ○個別ケア会議や圏域ケア会議において、警察署や消防署、医師や民生委員といった多機 関・多職種の参加が見込めるかどうかは、強制的な召集は行っていないため、相手の意 170 地域ケア会議の実践例/新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 志次第となっています。そのため、例えば同じ圏域ケア会議でも、地域包括支援センター ごとに参加者の職種は異なっています。 また、現状の参加者の出席(参加)が必ずしも担保されているわけではないため、今後、 医師会の役員の交代等による参加者の入れ替わりが起こった際、会議の持つ機能が人的 要因により変わってしまう可能性が懸念されます。 今後、地域ケア会議の機能を果たすため、また、より効果を発揮していくためには安定 して必要な会議参加者を確保し、会議の質を担保していくことが重要です。 (個人情報保護を徹底していくために) 例えば、当該ケースに関係するが守秘義務が課せられていない地域住民の参加を必要と する個別ケア会議において見守り支援策等を検討する際、個人情報保護について困難が 第3章 ○個人情報の保護について、きめ細かい配慮を行っている北区での地域ケア会議ですが、 生じています。専門職に限らず、関係する地域住民等にも守秘義務を課す等の手法の構 (地域課題を解決していくために) ○圏域ケア会議の場で検討された地域の課題の共有ならびに「行政の力が必要となる地域 課題」の解決のために設置運営されている北区ケア会議ですが、新潟市の定める設置要 綱としての視点から見ると、8 つの区においてそれぞれ開催されることになっています が、実際に開催しているのは北区を含め、2 区だけとなっています。 また、全市的な課題を解決する場も、平成 24 年度現在、開催されていない現状にあります。 今後、市においてケア会議で集約された市単位の課題を施策に結びつけるための体制整 備が検討される予定であることから,行政との連携を深めるとともに,圏域ケア会議の 充実に引き続き取り組んでいきたいと考えています。 171 地域ケア会議の実践例 築、更なる個人情報の保護に対する体制を築き上げることが課題となっています。 参考資料1 172 地域ケア会議の実践例/新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 参考資料2 第3章 地域ケア会議の実践例 173 参考資料3 174 地域ケア会議の実践例/新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 第3章 地域ケア会議の実践例 175 176 地域ケア会議の実践例/新潟県新潟市 新潟市地域包括支援センター阿賀北 第3章 地域ケア会議の実践例 177 参考資料 老高発0329第5号 老振発0329第8号 老老発0329第2号 平成25年3月29日 各都道府県介護保険主管部(局)長 殿 厚生労働省老健局高齢者支援課長 振 興 課 長 参考資料 老人保健課長 (公印省略) 「地域包括支援センターの設置運営について」の一部改正について 標記については、「地域包括支援センターの設置運営について」(平成18年 10月18日老計発第1018001号・老振発第1018001号・老老発 第1018001号)の通知により実施されているところであるが、今般、通 知の一部が別添新旧対照表のとおり改正され、平成25年4月1日から適用す ることとしたので通知する。 ついては、管内市町村に対して周知徹底を図るとともに、その取り扱いに当 たっては遺漏のなきよう特段の御配慮をお願いするなど、御協力を賜りたい。 181 【改正後全文】 老計発第1 0 1 8 0 0 1 号 老振発第1 0 1 8 0 0 1 号 老老発第1 0 1 8 0 0 1 号 平成18年10月18日 一部改正:平 成 2 5 年 3 月 2 9 日 都道府県 各指定都市介護保険主管部(局)長殿 中 核 市 厚生労働省老健局計画課長 振興課長 老人保健課長 地域包括支援センターの設置運営について 地域包括支援センターの設置運営については、これまでも各種会議などにおいてお示 ししてきたところであるが、今般、地域包括支援センターの設置運営について、下記の とおり取りまとめたところであるので、御了知の上、管内各市町村及び地域包括支援セ ンター等に周知を図るとともに、その運用の参考にされたい。 なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の技術的助言 に該当するものである。 記 1 目的 地域包括支援センター(以下「センター」という。)は、地域住民の心身の健康の保持 及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域住民の保健医療の向上及び 福祉の増進を包括的に支援することを目的として、包括的支援事業等を地域において一 体的に実施する役割を担う中核的機関として設置されるものである(介護保険法(平成 9年法律第 123 号。以下「法」という。)第 115 条の 46 第1項)。 2 設置主体 1 182 参考資料 センターは、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が設置できることとされている。ま た、法第 115 条の 46 第1項に規定する包括的支援事業の実施の委託を受けた者も包括的 支援事業等を実施するためにセンターを設置できることとされている。 包括的支援事業の委託を受けることができる者は、包括的支援事業を適切、公正、中 立かつ効率的に実施することができる法人であって、老人介護支援センター(在宅介護 支援センター)の設置者、地方自治法に基づく一部事務組合又は広域連合を組織する市 町村、医療法人、社会福祉法人、包括的支援事業を実施することを目的として設置され た公益法人又はNPO法人その他市町村が適当と認めるものとされている(介護保険法 施行規則(平成 11 年厚生省令第 36 号。以下「施行規則」という。 )第 140 条の 67) 。 3 市町村の責務 (1) 設置 市町村は、法第 115 条の 46 第1項の目的を達成するため、センターにおいて適正に 参考資料 事業を実施することができるよう、その体制の整備に努めるものとする。 (2) 役割 センターを市町村が設置する場合と包括的支援事業の実施の委託を市町村から受け た者が設置する場合のいずれの場合においても、市町村は、その設置の責任主体とし て、センターの運営について適切に関与しなければならない。 センターに対する具体的な市町村の関与のあり方については、地域の実情を踏まえ て市町村において判断されることとなる。例えば、センターの体制整備、センターの 設置・変更・廃止やセンター業務の法人への委託の可否及び方針の決定、毎年度の事 業計画や収支予算、収支決算などセンターの運営に関する事項の確認などについては、 センター設置の責任主体として確実に行わなければならない。 その際、市町村が事務局となって設置される地域包括支援センター運営協議会(以 下「運営協議会」という。)の議を経なければならない。また、設置の可否やセンター の担当圏域設定などの最終的な決定は、市町村が行うものである。 (3) センターで行う事業の実施方針 市町村は、包括的支援事業をセンターに委託する場合は、委託先に対して、当該包 括的支援事業の実施に係る方針を示さなければならない(法第 115 条の 47 第1項)。 方針の内容については、例えば、以下の①から⑦までに掲げるような内容が考えられ るが、具体的な方針については、地域の実情に応じて、各市町村が定めることとする。 ただし、⑤「市町村との連携方針」については、総合相談支援や権利擁護事業等に おいて、市町村とセンターとが、どのように役割と責任を分担し連携するかといった 具体的な内容を定めることが望ましい。 2 183 また、市町村が直営でセンターを運営する場合も、同趣旨の運営方針を定めること が望ましい。 ① 市町村の地域包括ケアシステムの構築方針 ② 区域ごとのニーズに応じて重点的に行うべき業務の方針 ③ 介護事業者・医療機関・民生委員・ボランティア等の関係者とのネットワーク (地域社会との連携及び専門職との連携)構築の方針 ④ 介護支援専門員に対する支援・指導の実施方針 ⑤ 市町村との連携方針 ⑥ 公正・中立性確保のための方針 ⑦ その他地域の実情に応じて、運営協議会が必要であると判断した方針 (4) 設置区域 センターの設置に係る具体的な担当圏域設定に当たっては、市町村の人口規模、業 務量、運営財源や専門職の人材確保の状況、地域における保健福祉圏域(生活圏域) との整合性に配慮し、最も効果的・効率的に業務が行えるよう、市町村の判断により 担当圏域を設定するものとする。 4 事業内容 (1) 包括的支援事業 センターは、1の目的に沿って、地域住民の保健医療の向上及び福祉の増進を包括 的に支援するため、 ① 介護予防ケアマネジメント業務(法第 115 条の 45 第1項第2号) ② 総合相談支援業務(法第 115 条の 45 第1項第3号) ③ 権利擁護業務(法第 115 条の 45 第1項第4号) ④ 包括的・継続的ケアマネジメント支援業務(法第 115 条の 45 第1項第5号) の4つの業務を地域において一体的に実施する役割を担う中核的拠点として、設置さ れるものである。これらの4つの業務の実施に当たっては、それぞれの業務の有する 機能の連携が重要であることから、包括的支援事業の実施を委託する場合には、すべ ての業務(介護予防・日常生活支援総合事業(以下この通知において「総合事業」と いう。)を実施する場合は、二次予防事業対象者向けのケアマネジメント事業を含む。) を一括して委託しなければならない(法第 115 条の 47 第2項)。 ただし、センターが包括的支援事業の4つの業務に一体的に取り組むことを前提と して、地域の住民の利便を考慮し、地域の住民に身近なところで相談を受け付け、セ ンターにつなぐための窓口(ブランチ)を設けることは可能であり、この場合、セン ターの運営費の一部を協力費としてブランチに支出することは可能である。 3 184 参考資料 ① 介護予防ケアマネジメント業務について 介護予防ケアマネジメント業務は、二次予防事業対象者(主として要介護状態等 となるおそれの高い状態にあると認められる 65 歳以上の者をいう。以下同じ。)が 要介護状態等になることを予防するため、その心身の状況等に応じて、対象者自ら の選択に基づき、介護予防事業その他の適切な事業が包括的かつ効率的に実施され るよう必要な援助を行うものである(法第 115 条の 45 第1項第2号) 。 業務の内容としては、二次予防事業対象者の把握に関する事業(法第 115 条の 45 第1項及び施行規則第 140 条の 64)において、市町村が把握・選定した二次予防事 業対象者についての介護予防ケアプランを必要に応じて作成し、地域支援事業にお ける介護予防事業等が包括的かつ効率的に実施されるよう、必要な援助を行うもの である。 ② 総合相談支援業務について 参考資料 総合相談支援業務は、地域の高齢者が住み慣れた地域で安心してその人らしい生 活を継続していくことができるよう、どのような支援が必要かを把握し、地域にお ける適切な保健・医療・福祉サービス、機関又は制度の利用につなげる等の支援を 行うものである(法第 115 条の 45 第1項第3号) 。 業務の内容としては、初期段階での相談対応及び継続的・専門的な相談支援、そ の実施に当たって必要となるネットワークの構築、地域の高齢者の状況の実態の把 握を行うものである。 ③ 権利擁護業務について 権利擁護業務は、地域の住民や民生委員、介護支援専門員などの支援だけでは十 分に問題が解決できない、適切なサービス等につながる方法が見つからない等の困 難な状況にある高齢者が、地域において、安心して尊厳のある生活を行うことがで きるよう、専門的・継続的な視点からの支援を行うものである(法第 115 条の 45 第 1項第4号) 。 業務の内容としては、成年後見制度の活用促進、老人福祉施設等への措置の支援、 高齢者虐待への対応、困難事例への対応、消費者被害の防止に関する諸制度を活用 し、高齢者の生活の維持を図るものである。 ④ 包括的・継続的ケアマネジメント支援業務について 包括的・継続的ケアマネジメント支援業務は、高齢者が住み慣れた地域で暮らし 続けることができるよう、介護支援専門員、主治医、地域の関係機関等の連携、在 宅と施設の連携など、地域において、多職種相互の協働等により連携するとともに、 介護予防ケアマネジメント、指定介護予防支援及び介護給付におけるケアマネジメ 4 185 ントとの相互の連携を図ることにより、個々の高齢者の状況や変化に応じた包括 的・継続的なケアマネジメントを実現するため、地域における連携・協働の体制づ くりや個々の介護支援専門員に対する支援等を行うものである(法第 115 条の 45 第 1項第5号) 。 業務の内容としては、後述する「地域ケア会議」等を通じた自立支援に資するケ アマネジメントの支援、包括的・継続的なケア体制の構築、地域における介護支援 専門員のネットワークの構築・活用、介護支援専門員に対する日常的個別指導・相 談、地域の介護支援専門員が抱える支援困難事例等への指導・助言を行うものであ る。 (2) 多職種協働による地域包括支援ネットワークの構築 包括的支援事業を効果的に実施するためには、介護サービスに限らず、地域の保健・ 福祉・医療サービスやボランティア活動、インフォーマルサービスなどの様々な社会 的資源が有機的に連携することができる環境整備を行うことが重要である。 (法第11 5条の46第5項)このため、こうした連携体制を支える共通的基盤として多職種協 働による「地域包括支援ネットワーク」を構築することが必要である。 法第5条第3項に掲げる地域における包括的な支援体制を推進するためには、この ような地域包括支援ネットワークを通じて、高齢者個人に対する支援の充実を図ると ともに、それを支える社会基盤の整備を図る必要がある。そのための一つの手法とし て、「行政職員をはじめ、地域の関係者から構成される会議体」(以下「地域ケア会 議」という。)を、センター(又は市町村)が主催し、設置・運営することが考えら れる。 ① 地域ケア会議の目的 ア 個別ケースの支援内容の検討を通じた、 (ⅰ) 地域の介護支援専門員の、法の理念に基づいた高齢者の自立支援に資する ケアマネジメントの支援 (ⅱ) 高齢者の実態把握や課題解決のための地域包括支援ネットワークの構築 (ⅲ) 個別ケースの課題分析等を行うことによる地域課題の把握 イ ② その他地域の実情に応じて必要と認められる事項 地域ケア会議の機能 ア 個別課題の解決 多職種が協働して個別ケースの支援内容を検討することによって、高齢者の課 題解決を支援するとともに、介護支援専門員の自立支援に資するケアマネジメン トの実践力を高める機能 イ 地域包括支援ネットワークの構築 高齢者の実態把握や課題解決を図るため、地域の関係機関等の相互の連携を高 5 186 参考資料 め地域包括支援ネットワークを構築する機能 ウ 地域課題の発見 個別ケースの課題分析等を積み重ねることにより、地域に共通した課題を浮き 彫りにする機能 エ 地域づくり・資源開発 インフォーマルサービスや地域の見守りネットワークなど、地域で必要な資源 を開発する機能 オ 政策の形成 地域に必要な取組を明らかにし、政策を立案・提言していく機能 なお、オについて市町村は、センターの提言を受け、日常生活圏域ニーズ調査結果 等に基づき資源を開発し、次期介護保険事業計画に位置づける等の対応を図ることが 望ましい。 ③ 地域ケア会議の主催者及び名称 参考資料 上記②のアからウについては主にセンター主催による「地域ケア個別会議」、エ 及びオについては検討内容によってセンターまたは市町村主催による「地域ケア推 進会議」と称するなど、会議の目的・機能に応じて設定することが考えられる。 なお、各市町村において、すでに上記②の機能を有する会議を実施している場合、 会議の名称変更を強いるものではない。 ④ 地域ケア会議の構成員 会議の目的に応じ、行政職員、センター職員、介護支援専門員、介護サービス事 業者、保健医療関係者、民生委員、住民組織等の中から、必要に応じて出席者を調 整する。 なお、地域の実情に応じて上記②のアからウの場合は実務者、エ及びオの場合は 地域包括支援ネットワークを支える職種・機関の代表者レベルによる開催が考えら れる。 ⑤ 地域ケア会議の留意点 地域ケア会議は、個人で解決できない課題等を多職種で解決し、そのノウハウの 蓄積や課題の共有によって、地域づくり・資源開発、政策形成等につなげ、さらに それらの取組が個人の支援を充実させていくという一連のつながりで実施するとと もに、特に始点となる個別ケースの支援内容の検討は極めて重要であるので、セン ター(又は市町村)が主体となって取組むことが求められる。 また、多職種協働による地域包括支援ネットワークの構築に当たっては、①セン ター単位のネットワーク、②市町村単位のネットワーク、③市町村の圏域を超えた ネットワークなど、地域の特性に応じたネットワークを構築することにより、地域 の関係者との相互のつながりを築き、日常的に連携が図られるよう留意する必要が ある。 6 187 特に、医療と介護の連携に基づく地域包括ケアの構築のためには、在宅 医療の 関係者との緊密な連携を図ることが望ましい。 なお、市町村は、要援護者の支援に必要な個人情報を、個人情報の保護 にも十分留意しつつ、支援関係者間で共有する仕組みや運用につい の観点 て、センター と連携して構築することが望ましい。 (3) 指定介護予防支援について 指定介護予防支援は、介護保険における予防給付の対象となる要支援者が介護予防 サービス等の適切な利用等を行うことができるよう、その心身の状況、その置かれて いる環境等を勘案し、介護予防サービス計画を作成するとともに、当該介護予防サー ビス計画に基づく指定介護予防サービス等の提供が確保されるよう、介護予防サービ ス事業者等の関係機関との連絡調整などを行うものである。 この指定介護予防支援の業務は、センターが行う業務とされており、法第 115 条の 22 の規定に基づき、市町村の指定を受ける必要がある。これは、市町村が直営するセ ンターであっても、同様である。 また、業務の実施に当たっては、指定介護予防支援等の事業の人員及び運営並びに 指定介護予防支援等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準(平成 18 年厚生労働省令第 37 号。以下「指定介護予防支援基準」という。)を遵守するもの とする。 (4) その他 センターは、 (1)から(3)までに掲げる業務を実施するほか、介護予防事業(総合 事業を行う市町村においては、総合事業)のうち、①二次予防事業対象者の把握に関 する事業、②介護予防に関する普及啓発を行う事業、③介護予防に関する活動を行う ボランティア等の人材の育成並びに介護予防に資する地域活動組織の育成及び支援を 行う事業及び④介護予防に関する事業に係る評価を行う事業、並びに総合事業を行う 市町村においては、総合事業のうち⑤ケアマネジメント事業、並びに法第 115 条の 45 第3項に規定する任意事業(法第 115 条の 46 第1項及び施行規則第 140 条の 64)の委 託を受けることができることとされている。 事業の内容としては、次のとおりである。 ① 二次予防事業対象者の把握に関する事業とは、市町村に住所を有する 65 歳以上の 者に対し、基本チェックリスト配布・回収の実施等により、二次予防事業の対象者 に関する情報収集を行い、二次予防事業対象者の決定を行うものである(二次予防 事業対象者の把握事業) 。 ② 介護予防に関する普及啓発を行う事業とは、介護予防に資する基本的な知識を普 7 188 参考資料 及啓発するためのパンフレット等の作成及び配布、有識者等による講演会や相談会 等の開催など、市町村が効果があると認める事業を適宜実施するものである(介護 予防普及啓発事業)。 ③ 介護予防に関する活動を行うボランティア等の人材の育成並びに介護予防に資す る地域活動を行う組織の育成及び支援を行う事業とは、介護予防に関するボランテ ィア等の人材を育成するための研修や介護予防に資する地域活動組織の育成及び支 援など、市町村が地域における介護予防に資する活動の支援として効果があると認 める事業を適宜実施するものである(地域介護予防活動支援事業)。 ④ 介護予防に関する事業に係る評価を行う事業とは、二次予防事業(総合事業を実 施する場合は、要支援・二次予防事業)及び一次予防事業それぞれの事業に対する 評価を行う事業であり、介護保険事業計画において定める目標値の達成状況等の検 参考資料 証を通じ、各施策の事業評価を行うものである(二次予防事業評価事業(総合事業 を実施する場合は、要支援・二次予防事業評価事業)及び一次予防事業評価事業の 一部)。 ⑤ ケアマネジメント事業とは、要支援者(指定介護予防支援又は特例介護予防サー ビス計画費に係る介護予防支援を受けている者を除く。)及び二次予防事業対象者に 対して、介護予防及び日常生活支援を目的として、その心身の状況、その置かれて いる環境その他の状況に応じて、その選択に基づき、予防サービス事業、生活支援 サービス事業その他の適切な事業が包括的かつ効率的に提供されるよう必要な援助 を行うものである。 ⑥ 任意事業とは、介護給付等費用適正化事業、家族介護支援事業その他介護保険事 業の安定化や被保険者の地域における自立した日常生活の支援を行うため、必要な 事業を実施するものである。 5 事業の留意点 包括的支援事業等の実施に当たっては、 「地域支援事業の実施について」 (平成 18 年6 月9日付け老発第 0609001 号厚生労働省老健局長通知)に基づき、行うものとする。 また、介護予防ケアマネジメント事業及び指定介護予防支援は、制度としては、別の ものであるが、その実施に当たっては、共通の考え方に基づき、一体的に行われるもの とする。 いずれの事業の実施に当たっても、保健師、社会福祉士及び主任介護支援専門員(こ れらに準ずる者を含む。 )等がそれぞれの専門性を活かしつつ、以下の点に留意しながら、 8 189 十分に連携を図るものとする。 (1) 指定介護予防支援業務の委託について 指定介護予防支援事業者たるセンターは、指定介護予防支援業務のうち一部を指定 居宅介護支援事業者に委託することができるものとされている。この委託に当たって は、次の点に留意の上、行うこととする。 ① 公正・中立性を確保する観点から、委託について運営協議会の議を経る必要があ ること。 ② 指定介護予防支援事業者が業務の一部を委託する場合においても、指定介護予防 支援基準第 30 条に規定するアセスメント業務や介護予防サービス計画の作成業務等 が一体的に行われるよう配慮しなければならないこと。 ③ 業務を受託する指定居宅介護支援事業者は、都道府県知事が実施する介護予防支 援に関する研修を受講する等必要な知識及び能力を有する介護支援専門員が従事す る事業者である必要があること。 ④ 指定介護予防支援に係る責任主体は、指定介護予防支援事業者たるセンターであ り、委託を行った場合であっても、委託先の指定居宅介護支援事業者が介護予防サ ービス計画の原案を作成する場合には、当該計画が適切に作成されているか、内容 が妥当か等について確認を行うこと、また、委託先の指定居宅介護支援事業者が評 価を行った場合には、当該評価の内容について確認を行い、当該評価を踏まえ今後 の指定介護予防支援の方針等を決定すること。 ⑤ 委託料については、介護予防サービス計画費、指定居宅介護支援事務所への委託 範囲を勘案して、業務量に見合った適切な額を、センターが指定居宅介護支援事業 所との契約において設定すること ⑥ 指定介護予防支援を委託するにあたっては、正当な理由なしに特定の指定居宅介 護支援事業者に偏らないこと。 ⑦ 指定介護予防支援を委託するにあたっては、委託先の指定居宅介護支援事業所の 業務に支障の無い範囲で委託すること (2) 要支援者向けのケアマネジメント事業の委託について 総合事業を実施する市町村は、ケアマネジメント事業を市町村から委託を受けたセ ンターの設置者が、要支援者向けのケアマネジメント事業の一部を指定居宅介護支援 事業者に委託する場合においては、(1)に掲げる①~⑦について、必要に応じて参酌す ることが望ましい。 (3) その他 センターは、必ずしも 24 時間体制を採る必要はないが、緊急時の対応等の場合も想 定し、センターの職員に対して速やかに連絡が取れるような体制を整備しておくこと 9 190 参考資料 が必要である。 また、センターは、要介護者に対する指定居宅介護支援事業所の紹介を行う際には、 正当な理由なしに特定の指定居宅介護支援事業所に偏らないよう、公平・中立性の確 保に努める必要がある。 6 職員の配置等 (1) センターの人員 センターには、包括的支援事業を適切に実施するため、原則として①保健師、②社 会福祉士、③主任介護支援専門員を置くこととする(施行規則第 140 条の 66 第1項第 2号)。 しかしながら、三職種の確保が困難である等の事情により、この人員によりがたい 場合には、これらに準ずる者として、以下に掲げる者を配置することもできることと されている。 参考資料 ① 保健師に準ずる者として、地域ケア、地域保健等に関する経験のある看護師。な お、この経験のある看護師には准看護師は含まないものとする。 ② 社会福祉士に準ずる者として、福祉事務所の現業員等の業務経験が5年以上又は 介護支援専門員の業務経験が3年以上あり、かつ、高齢者の保健福祉に関する相談 援助業務に3年以上従事した経験を有する者 ③ 主任介護支援専門員に準ずる者として、 「ケアマネジメントリーダー活動等支援事 業の実施及び推進について」 (平成 14 年4月 24 日付け老発第 0424003 号厚生労働省 老健局長通知)に基づくケアマネジメントリーダー研修を修了し、介護支援専門員 としての実務経験を有し、かつ、介護支援専門員の相談対応や地域の介護支援専門 員への支援等に関する知識及び能力を有している者 (2) センターの職員の員数 専らセンターの行う業務に従事する職員として、一のセンターが担当する区域にお ける第一号被保険者の数がおおむね 3000 人以上 6000 人未満ごとに置くべき員数は、 保健師、社会福祉士及び主任介護支援専門員(これらに準ずる者を含む。)それぞれ各 1人とされている(施行規則第 140 条の 66 第1項第2号) 。 ただし、次に掲げる場合には、センターの担当する区域における第一号被保険者の 数に応じ、以下の表のとおりとすることができる(施行規則第 140 条の 66 第1項3号)。 ① 第一号被保険者の数がおおむね 3000 人未満の市町村に設置する場合 ② 市町村合併があった市町村又は一部事務組合若しくは広域連合で、原則の基準で はセンターの運営に支障があると運営協議会において認められた場合 ③ 人口規模にかかわらず、地理的条件その他の事情を勘案して、特定の生活圏域に 一のセンターの設置が必要であると運営協議会において認められた場合 10 191 第一号被保険者の数 配置すべき人員 おおむね 1000 人未満 保健師等・社会福祉士等・主任介護支援専門員等 のうち1人又は2人 おおむね 1000 人以上 保健師等・社会福祉士等・主任介護支援専門員等 2000 人未満 のうち2人(うち1人は専らその職務に従事する 常勤の職員とする。) おおむね 2000 人以上 専らその職務に従事する常勤の保健師等を1人 3000 人未満 及び専らその職務に従事する常勤の社会福祉士 等・主任介護支援専門員等のいずれか1人 センターの業務における責任体制を明確にし、また、専門職員の資質を担保する観 点からは、常勤の職員を確保することが必要であり、各市町村においては、直営のセ ンターにおいては、常勤職員を確保するとともに、委託を行う場合には、常職員を確 保できる事業者を選定するものとする。 ただし、センターの規模等に応じ、各職種ごとに専門職員を複数配置する場合には、 一部の専門職員は非常勤でも可能である。また、常勤職員を配置することが著しく困 難な場合にあっては、適切な業務遂行を確保できるかどうかについて運営議会の判断 を得た上で、経過的に、センター職員の一部を常勤換算方法により必要人員数確保す ることでも足りるものとする。 なお、専門3職種以外の職員(センター長、事務員など)を配置することについて は、包括的支援事業の業務内容や委託料の額等を勘案した上で、市町村が地域の実情 に応じて判断することとして差し支えない。 (3) 指定介護予防支援事業者の配置基準 指定介護予防支援基準において、指定介護予防支援事業者は、指定介護予防支援事 業所ごとに保健師その他介護予防支援に関する知識を有する職員(以下「担当職員」 という。)を、事業が円滑に実施できるよう、1人以上の必要数を配置しなければなら ないとされている(指定介護予防支援基準第2条)。 この担当職員は、次のいずれかの要件を満たすものであって、都道府県が実施する 介護予防支援に関する研修を受講する等必要な知識及び能力を有する者を充てる必要 がある。 ① 保健師 ② 介護支援専門員 ③ 社会福祉士 ④ 経験ある看護師 ⑤ 高齢者保健福祉に関する相談業務等に3年以上従事した社会福祉主事 そのほか必要な人員については、指定介護予防支援基準において規定されている。 11 192 参考資料 (4) 兼務関係について センターにおける各業務を適切に実施するために、センター以外の業務との兼務は 基本的には認められず、センターの業務に専従していることが必要である。ただし、 以下の場合には、兼務することとしても差し支えない。 ① 小規模市町村や専門職員を複数配置する場合には、適切な事務遂行を確保できる と判断できるのであれば、センター業務以外の業務を行うことは差し支えない。 ② 介護予防支援の事業については、センターが指定介護予防支援事業者としての指 定を受けて行う業務とされている。したがって、センターの職員と指定介護予防支 援事業所の職員とは、(1)から(3)までの各要件を満たすものであれば、兼務して差 し支えないものである。また、利用者の給付管理に係る業務等の事務的な業務に従 事する者は、人員の基準の対象外であるため、兼務して差し支えない。 参考資料 また、指定介護予防支援事業所の管理者は、専らその職務に従事する常勤の者でな ければならないとされているが、指定介護予防支援の業務及びセンターの業務に従事 する場合には、兼務することとしても差し支えない。 (5) センター職員の連携について センターの職員は、センターにおける各業務を適切に実施するため、組織マネジメン トを通じて、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員の三職種をはじめとするセンタ ーの職員全員が、地域の課題に対する共通認識を持ち、目的を共有化し、連携及び協力 して業務を実施しなければならない。 7 地域包括支援センター運営協議会 センターは、市町村が設置した運営協議会の意見を踏まえて、適切、公正かつ中立な 運営を確保することとされている(施行規則第 140 条の 66 第4号)。 運営協議会の目的は、センターにおける各業務の評価等を行うことで、センターの適 切、公正かつ中立な運営の確保を目指すことである。そのため、センターに年度毎の事 業計画を立てさせ、業務の遂行状況を評価し、次年度の事業に反映させる等、PDCA サイクルを確立させるために、センターから事業計画書等を提出させて評価する必要が ある。 センターの設置・変更・廃止などに関する決定は、市町村が行うものであり、運営協 議会は市町村の適切な意思決定に関与するものである。このため、利用者や被保険者の 意見を反映させることができるよう、構成員を選定する必要がある。 (1) 設置基準 12 193 原則として、市町村ごとに1つの運営協議会を設置する。なお、複数のセンターを 設置する市町村であっても、運営協議会については、1つ設置することで差し支えな いが、地域の実情に応じて、例えばセンター毎に設置することも考えられる。また、 複数の市町村により共同でセンターを設置運営する場合にあっては、運営協議会につ いても共同で設置することができる。 (2) 構成員等 運営協議会の構成員については、次に掲げるところを標準とし、センターの公正・ 中立性を確保する観点から、地域の実情に応じて市町村長(特別区の区長を含む。)が 選定する。なお、構成員は非常勤とし、再任することができる。 ① 介護サービス及び介護予防サービスに関する事業者及び職能団体(医師、歯科医 師、看護師、介護支援専門員、機能訓練指導員等) ② 介護サービス及び介護予防サービスの利用者、介護保険の被保険者(第1号及び 第2号) ③ 介護保険以外の地域の社会的資源や地域における権利擁護、相談事業等を担う関 係者 ④ 前各号に掲げる者のほか、地域ケアに関する学識経験者 また、運営協議会には会長を置くこととし、会長は、構成員の互選により選任する。 なお、運営協議会には、在宅介護支援センター等の福祉関係団体が参画することが 望ましい。 (3) 所掌事務 運営協議会は、次に掲げる事項を所掌する。 (a) センターの設置等に関する次に掲げる事項の承認に関すること ① センターの担当する圏域の設定 ② センターの設置、変更及び廃止並びにセンターの業務の委託先法人の選定又は センターの業務の委託先法人の変更 ③ センターの業務の委託先法人の予防給付に係る事業の実施 ④ センターが指定介護予防支援の業務の一部を委託できる指定居宅介護支援事業 所の選定 ⑤ その他運営協議会がセンターの公正・中立性を確保する観点から必要であると 判断した事項 (b) センターの行う業務に係る方針に関すること 運営協議会は、本通知3(3)により、市町村が示すこととされているセンター が行う業務に係る方針が適切かどうか、市町村に対して意見を述べるものとする。 13 194 参考資料 (c) センターの運営に関すること ① 運営協議会は、毎年度、センターより次に掲げる書類の提出を受けるものとす る。 ② ア 当該年度の事業計画書及び収支予算書 イ 前年度の事業報告書及び収支決算書 ウ その他運営協議会が必要と認める書類 運営協議会は、上記(b)の方針に基づいて、事業が適切に実施されているかど うか、必要な基準を作成した上で、定期的に又は必要な時に、事業内容等を評価 するものとする。その際には、①イの事業報告書によるほか、次に掲げる点を勘 案するものとする。 ア センターが作成する介護予防サービス計画において、正当な理由なく特定の 事業者が提供するサービスに偏っていないか 参考資料 イ センターにおける介護予防サービス計画の作成の過程において、特定の事業 者が提供するサービスの利用を不当に誘因していないか ウ 要介護者への指定居宅介護支援事業所の紹介を公正・中立に行っているか エ 介護予防支援の委託先が、正当な理由なく特定の指定居宅介護支援事業所に 偏っていないか オ 介護予防支援を指定居宅介護支援事業所に委託するにあたり、委託先の業務 に支障のない範囲で委託しているか カ 事業計画の進捗状況はどうか キ 地域連携の仕組みづくりが適切に実施されているか ク 介護支援専門員への支援が適切に実施されているか ケ 高齢者虐待対応や権利擁護対応について、市町村と連携して適切な対応が取 れているか コ 市町村はセンターに対して適切な支援を実施しているか サ その他運営協議会が地域の実情に応じて必要と判断した事項 なお、総合事業を実施する市町村において、要支援者介護予防ケアマネジメン ト事業を市町村から委託を受けたセンターの設置者が要支援者介護予防ケアマネ ジメント事業の一部を指定居宅介護支援事業所に委託する場合は、運営協議会に おいて、必要に応じて上記エ、オを参酌して評価することが望ましい。 (d) センターの職員の確保に関すること 運営協議会は、センターの職員を確保するため、必要に応じ、運営協議会の構成 員や、地域の関係団体等の間での調整を行う。 14 195 (e) その他の地域包括ケアに関すること 運営協議会は、地域における介護保険以外のサービス等との連携体制の構築、地 域包括支援ネットワークを支える地域の社会的資源の開発その他の地域包括ケアに 関する事項であって運営協議会が必要と判断した事項を行う。 また、4(2)に規定する地域ケア会議の目的・機能に合致し、地域づくり、資源 開発、政策形成等にかかる検討を行う場合は、地域ケア会議とみなして差し支えな い。 (4) 事務局 運営協議会の事務局は、市町村に置く。 (5) その他 市町村は、運営協議会の設置の準備のため、地域包括支援センター運営協議会準備 委員会(以下「準備委員会」という。)を設置することができる。準備委員会が、運営 協議会の設置要綱を決定することで、運営協議会を設立する。 また、準備委員会は、既存の介護保険事業計画作成委員会、各市町村における審議 会等の既存組織を活用することとしても差し支えない。 8 地域包括支援センターの構造及び設備 センターの構造については、特別な施設基準はないが、業務を行う上で支障がないよ う、各業務を行う場所は一体であることが望ましい。 ただし、職員配置上の問題等により、センターの業務と指定介護予防支援に関する業 務を一体に行う場所を設けることが困難である場合には、当面分離することもやむを得 ないが、その場合には、以下の点に留意することが必要である。 ① 相互に連絡・調整を密に行い、センターとしての業務の組織的・一体的な実施に 支障がないものであること ② 9 可能な限り速やかに、一体的に実施できる場所を確保すること その他 センターの業務を適切に実施していくためには、地域住民にもセンターの存在を周知 することが重要であることから、地域住民に対して広報誌等を通じて周知を図るものと する。 15 196 参考資料 事 務 連 絡 平成年2月日 各都道府県介護保険担当課(室)御中 厚生労働省老健局振興課 参考資料 「地域ケア会議」に関するQ&Aの送付について 介護保険行政の推進につきましては、日頃からご協力をいただき厚く御礼申し上げ ます。 地域包括支援センター等において設置・運営される「地域ケア会議」については、 「地域包括支援センターの設置運営について」(平成年月日老計発第 号・老振発第号・老老発第号課長連名通知、平成年3月日付一 部改正)において位置づけたところですが、今般、その具体的な解釈について、別紙 のとおり取りまとめましたので、管内市(区)町村、関係団体、関係機関等に周知い ただきますようよろしくお願いいたします。 (参考資料) ・ 「地域ケア会議」の5つの機能 ・ 「地域ケア会議」を活用した個別課題解決から地域包括ケアシステム実現までのイメージ (照会先) 厚生労働省老健局振興課 地域包括ケア推進係 電話 (内線 ,) 197 198 参考資料 別紙 「地域ケア会議」に関するQ&A 問1 今般、 「地域ケア会議」を通知に位置づけた背景は何か。 (答) 団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年へ向けて、高齢者が尊厳を保ちながら、住み慣 れた地域で自立した生活をおくることができるよう、国は、医療、介護、予防、住まい及 び生活支援サービスが、日常生活の場で切れ目なく提供できる地域での体制(地域包括ケ アシステム)づくりを推進しています。 これを実現するためには、①高齢者個人に対する支援の充実と、②それを支える社会基 盤の整備とを同時にすすめる必要があります。 参考資料 このため、今般、①専門多職種の協働のもと、公的サービスのみならず他の社会資源も 積極的に活用しながら、高齢者個人の課題分析と在宅生活の限界点を上げるための支援の 充実に向けた検討を行い、これらの個別ケースの検討の積み重ねを通じて、高齢者の自立 支援に資するケアマネジメントを地域全体に普及することにより、地域で高齢者を支える ネットワークを強化するとともに、②高齢者の自立を支援するための具体的な地域課題や ニーズを行政に吸い上げ、社会基盤整備につなげる一つの手法として、地域ケア会議を通 知に位置づけたところです。 各地域においては、市町村の方針や従来の活動の流れを汲んで、様々な取組が行われて きましたが、その目的や手法が多様であることから、今回このように整理したところです。 現在行われている取組が、後述する目的に合致しているか、また、どの機能に該当する かを確認のうえ、地域包括ケアシステムの実現につながるよう、充実強化していくことが 求められます。 問2 「地域ケア会議」にはどのような目的と機能があるのか。 (答) 地域ケア会議の目的については、課長通知の中で「ア 個別ケースの支援内容の検討に よるもの」と「イ 地域の実情に応じて必要と認められるもの」に大別しています。 前者については、課長通知のⅰ~ⅲで既に示していますが、後者については、例えば、 個別ケースの検討による課題解決を積み重ねることによって明らかになった共通の要因や 地域課題及び日常生活圏域ニーズ調査で把握された地域課題を基に、地域づくりや新たな 資源開発、政策形成等につなげるものを取り扱うことが考えられます。 これらを踏まえて地域ケア会議の有する機能を整理すると、個別ケースの支援内容の検 討によるものについては、 199 ① 多職種が協働して個別ケースの支援内容を検討することによって、高齢者の課題 解決を支援するとともに、介護支援専門員の自立支援に資するケアマネジメントの 実践力を高める「個別課題解決機能」 それを通じた ② 高齢者の実態把握や課題解決を図るため、地域の関係機関等の相互の連携を高め 地域包括支援ネットワークを構築する「ネットワーク構築機能」 ③ 個別ケースの課題分析等を積み重ねることにより、地域に共通した課題を浮き 彫 りにする「地域課題発見機能」 が主なものとして挙げられます。 また、地域の実情に応じて必要と認められるものとしては、 ④ インフォーマルサービスや地域の見守りネットワークなど、地域で必要な資源 を開発する「地域づくり・資源開発機能」 ⑤ 地域に必要な取組を明らかにし、政策を立案・提言していく「政策形成機能」 などが考えられます。 これらの目的・機能は、一度の会議ですべてを網羅することは困難であるため、課題や 目的に応じて、開催方法や実施回数、参加者等を検討する必要があります。地域の実情に 応じて既存の会議を活用しながら、丌足している部分を強化していくことが重要です。 特に、個別ケースの検討による①~③は重点的な取組が求められます。 また、会議の主催者及び名称については、実施主体の判断によりますが、その機能に着 目し、①から③については主に地域包括支援センター主催による「地域ケア個別会議」、④ 及び⑤については検討内容によって地域包括支援センターまたは市町村主催による「地域 ケア推進会議」と称するなど、会議の機能に応じて設定することが考えられます。 いずれが主催する場合も、ひとりひとりの高齢者が尊厳を保ちながら、住み慣れた地域 で自立した生活を送ることができるよう支援することを目指しています。 会議の設置・運営に当たっては、上記のような地域ケア会議の全体像(目的・機能)を 十分に理解した上で、開催目的を明確にして実施することが求められます。 問3 「地域ケア会議」で行う個別ケースの検討と「サービス担当者会議」、 「事例検討会」 の違いは何か。 (答) 「サービス担当者会議」は、介護支援専門員の主催により、ケアマネジメントの一環と して開催するものです。効果的かつ実現可能な質の高い居宅サービス計画とするため、利 用者の状況等に関する情報を各サービス担当者等と共有するとともに、専門的な見地から 意見を求め、具体的サービスの内容の検討、調整を図るものであり、その位置づけは地域 ケア会議とは異なります。 なお、サービス担当者会議においては、保健・医療職やインフォーマルサービス、住民 組織等の協力者の参加が少ないという実態があります。 200 参考資料 一方、 「地域ケア会議」で行う個別ケースの検討は、地域包括支援センター又は市町村の 主催により、包括的支援事業の一環として、幅広い地域の多職種の視点により、それぞれ の専門性に基づくアセスメントやケア方針の検討がなされる場です。この検討を通じて、 高齢者に対する包括的ケアと自立支援に資するケアマネジメントの実践力を高め、保健・ 医療職やインフォーマルサービス等を含めた地域包括支援ネットワークの構築、地域課題 の把握等を行います。 また、これらの積み重ねにより、介護支援専門員のケアマネジメント能力が向上し、そ の結果、サービス担当者会議が充実することが期待されます。 なお、 「事例検討会」は、援助者の実践力向上を図ることを目的とした場合、研修として の意味合いが強く、ここでいう「地域ケア会議」とは異なります。 問4 個別ケースの支援内容の検討はどのように行うか。 参考資料 (答) 個別ケースの検討に取り上げる事例は、市町村の方針に基づき、地域包括支援センター 又は市町村が選定します。包括的・継続的ケアマネジメント支援業務の一環として支援困 難事例の相談・支援から事例を取り上げる場合、総合相談支援業務等の一環として住民や 関係機関等からの相談事例を取り上げる場合、各市町村の課題に応じて関係者に事例の提 供を求める場合等が考えられます。 支援困難事例の場合は、主に介護支援専門員が抱える困難事例等、総合相談支援事例の 場合は、地域住民や医療機関等の関係機関による支援要請事例等に対し、地域包括支援セ ンターの三職種をはじめとした多職種による課題分析を行い、必要に応じて多様な機関と の連携や役割分担を行い、サービス利用者や地域住民のQOL向上と自立支援に資するケ アマネジメントの支援を検討します。 また、市町村の課題に応じて事例提供を求める場合は、たとえば小規模な居宅介護支援 事業所、経験の浅い介護支援専門員が担当する事例、新規開設事業所の事例、軽度者の区 分変更事例、予防プランの委託事例、障害者自立支援法からの移行事例、小規模多機能型 居宅介護など地域密着型サービスの利用事例、施設入所待機中の事例、施設入所者の事例 等、市町村として潜在課題が予測される事例に焦点を当てることが考えられます。 いずれの会議も、出席者への追及の場ではなく、よりよいケアマネジメントが行われる よう多職種が支援チームとなって検討する場であり、サービス利用者や地域住民のQOL と地域のケアの質の向上が目的です。したがって、主催者側は意見を述べるだけではなく、 必要に応じて、その後のモニタリングや支援内容に対する事後フォローを行うことが求め られ、プランを変更することとなった際は、利用者等への説明や他機関との調整について、 介護支援専門員をバックアップすることが重要です。 201 問5 地域づくり・資源開発、政策形成を行うために「地域ケア会議」ではどのような検討 を行うのか。 (答) 「地域ケア会議」において個別ケースの課題を解決していく中で、地域に丌足している 資源やサービス、連携が丌十分な職種・機関、新たに取り組むべき課題等が明らかになっ てくるため、これらを関係者で共有し、社会基盤の整備についての検討を行うことが考え られます。 これらの地域課題は、日常生活圏域内の調整で解決可能な課題から、市町村全域での検 討が必要な課題もあるため、それぞれのレベルの課題を地域包括支援センターと市町村職 員が共有し、地域で必要な資源の開発を検討して政策に反映させていきます。 この場合、案件によっては地域における関係者の代表者レベルによる開催が必要なケー スも考えられます。 なお、会議内容の具体例は以下のとおりです。 ① 地域づくり・資源開発等の例 ・公的サービスだけでは支えきれない課題(ゴミ出し、見守り等)がある場合、住民 組織やボランティアとの協働などについて検討 ・特定の機関(医療機関、施設等)との連携が進まない場合、関係者で好事例を共有 し改善方法を検討 ・特定の介護支援専門員やサービス事業者の課題(自立支援の理解丌足、サービス過 剰、サービス過少等)の解決のため、職能団体や事業者団体のネットワーク化によ る解決方法を検討 ② 政策形成等の例 ・圏域内で解決困難な課題(買い物弱者の移動手段、孤立死防止に関する企業との連 携等)について、市町村での事業化・施策化の必要性について提言 ・地域ケア会議で見出した地域で実践されている有効な解決策を、地域全体に普及す ることについて提言 以上のような取組により、以下に示すような政策形成につなげていくことが重要です。 ・市町村は、地域包括支援センターの提言を受け、日常生活圏域ニーズ調査など計画策 定に関する調査結果とあわせ、地域のニーズ量に基づき資源を開発し、次期介護保 険事業計画に位置づけ ・市町村内で解決困難な課題(医療資源の丌足、道路・交通、法制度上の課題等)に ついて、広域的な検討の場及び国・都道府県等に対して政策を提言し、提言を受け た国・都道府県等は適切に対応 202 参考資料 問6 「地域ケア会議」の開催によってどのような効果が得られるか。 (答) 地域ケア会議は、個人で解決できない課題を多職種協働で解決し、そのノウハウの蓄積 や課題の共有によって、地域づくり・資源開発、政策形成等につなげ、さらにそれらの取 組が個人の支援を充実させていくという一連のつながりがあります。 その効果を具体的に挙げると、サービス利用者や家族にとっては、より良いケアマネジ メントが提供されることとなるため、サービス利用者の自立支援やQOLの向上につなが ります。 また、介護支援専門員と事業者にとっては、他の専門分野の知識を得る機会になり、他 機関との役割分担やサポートによって負担が軽減します。さらに、支援チームが課題解決 の経験を積み重ねることによって、類似事例においても自主的な実践が可能となり、早期 対応が重度化を防止することにもなります。 こうした取組は、地域ケア会議に参加した関係者のスキルアップや事業者間での質の管 理にも役立ち、保険者にとっては、適正な介護給付の維持と地域包括ケアシステムの構築 果があります。 このように、 「地域ケア会議」の実践は、地域包括ケアシステムの構築・発展に有効な機 能であり、サービス利用者は勿論のこと、支援者、市町村及び地域住民にとっても様々な 効果をもたらすものであると言えます。 問7㻌 個別ケースの検討は行わなくてもよいか。㻌 (答) 地域包括ケアシステムづくりのためには、①高齢者個人に対する支援の充実と、②それ を支える社会基盤の整備とを同時にすすめる必要があります。 地域ケア会議における個別ケースの検討は、自立支援に資するケアマネジメントの実現、 サービス利用者の QOL の向上、関係者の OJT 等の効果が期待されるところであり、これ らの積み重ねにより、地域における個別支援の最適な手法が蓄積されます。また、これら の事例の課題分析等を行うことで、社会基盤の整備に資するニーズや地域課題を把握する ことができます。 したがって、地域包括ケアシステムづくりのために、地域ケア会議において個別ケース の検討を行うことは大変重要な取組であると言えます。 203 参考資料 につながり、地域住民にとっては、住み慣れた地域で安心して生活を継続できるという効 問8 「地域包括支援センター運営協議会」を「地域ケア会議」に置き換えてもよいか。 (答) 地域包括支援センター運営協議会は、地域包括支援センターの業務に関する評価を行い、 センターの適切、公正かつ中立な運営の確保を目指すこと目的としていますが、運営要綱 7-(3)に規定する所掌事務のうち、 「(e)その他地域包括ケアに関すること」について、 地域づくり・資源開発、政策形成等の地域ケア会議の目的・機能に合致する内容の検討を 行う場合は、地域ケア会議に置き換えて差し支えありません。 204 参考資料 能 具体的内容 規模・範囲・構造 205 ネットワーク 構築機能 ■国・都道府県への提案 ■介護保険事業計画等への位置づけ ■事業化、施策化 ■需要に見合ったサービスの基盤整備 市町村レベルの検討が円滑に進むよう、 圏域内の課題を整理する 日常生活圏域ごとに開催 地域の関係者の連携を強化するとともに、 住民ニーズとケア資源の現状を共有し、 市町村レベルの対策を協議する 市町村・地域全体で開催 検討結果が個別支援にフィードバックされる ■新たな資源開発の検討、地域づくり ■社会資源の調整 ■関係機関の役割分担 政策 形成 機能 代表者レベル→ 地域づくり・ 資源開発 機能 ■有効な課題解決方法の確立と普遍化 ※地域ケア会議の参加者や規模は、検討内容によって異なる。 個別事例の課題解決を 蓄積することにより、 地域課題が明らかになり、 普遍化に役立つ 個別事例ごとに開催 地域課題 発見機能 地域課題の検討 ■潜在ニーズの顕在化 ・サービス資源に関する課題 ・ケア提供者の質に関する課題 ・利用者、住民等の課題 等 ■顕在ニーズ相互の関連づけ ■自立支援に資するケアマネジメントの支援 ■支援困難事例等に関する相談・助言 ※自立支援に資するケアマネジメントとサービス提供の 最適な手法を蓄積 ※参加者の資質向上と関係職種の連携促進 →サービス担当者会議の充実 ■地域包括支援ネットワークの構築 ■自立支援に資するケアマネジメント の普及と関係者の共通認識 ■住民との情報共有 ■課題の優先度の判断 ■連携・協働の準備と調整 ←実務者レベル 個別課題 解決機能 個別ケースの検討 「地域ケア会議」の5つの機能 参考資料 機 自助・互助・共助・ 公助を組み合わせ た地域のケア体制 を整備 地域住民の 安心・安全と QOL向上 地域包括 ケアシステムの 実現による 206 参考資料 ボランティア 民生委員 住民組織 警察署 社会福祉協議会 市町村レベルの地域ケア会議 民間企業等 NPO 消防署 医療機関・薬局 訪問看護ステーション 介護サービス施設・事業者 圏域ごとの地域ケア会議 圏域ごとの地域ケア会議 地域包括支援ネットワーク 地域ケア会議 (個別ケース検討) B地域包括支援センター 連絡調整 地域課題の発見・把握 地域づくり・資源開発の検討 介護支援専門員 A地域包括支援センター (個別ケース検討) 地域ケア会議 在宅医療連携拠点 保健所・保健センター 社会基盤整備・介護保険事業計画等の 行政計画への位置づけなど 政策形成 地域包括ケアシステム の実現へ ○地域包括支援センター(又は市町村)は、多職種協働による個別ケースのケアマネジメント支援のための実務者レベルの地域ケア会議を開催 するとともに、必要に応じて、そこで蓄積された最適な手法や地域課題を関係者と共有するための地域ケア会議を開催する。 ○市町村は、地域包括支援センター等で把握された有効な支援方法を普遍化し、地域課題を解決していくために、代表者レベルの地域ケア 会議を開催する。ここでは、需要に見合ったサービス資源の開発を行うとともに、保健・医療・福祉等の専門機関や住民組織・民間企業 等によるネットワークを連結させて、地域包括ケアの社会基盤整備を行う。 ○市町村は、これらを社会資源として介護保険事業計画に位置づけ、PDCAサイクルによって地域包括ケアシステムの実現へとつなげる。 「地域ケア会議」を活用した個別課題解決から地域包括ケアシステム実現までのイメージ 地域ケア会議運営マニュアル作成委員会 委員名簿 【 委員長を除き、五十音順・敬称略 】 ●委員長 髙良 麻子 (東京学芸大学教育学部人間社会科学課程 准教授) ●委 員 江田 佳子 (佐々町地域包括支援センター 係長) 大口 達也 (立教大学大学院コミュニティ福祉学科研究科 博士課程) 唐木 美代子 (北杜市役所 市民部 介護支援課長) 木内 健太郎 (大磯町地域包括支援センター 統括管理者) 土屋 幸己 (富士宮市地域包括支援センター センター長) 東内 京一 (和光市役所 保健福祉部長) 中澤 伸 (社会福祉法人いきいき福祉会 理事) 平野 雅則 (青梅市役所 健康福祉部 高齢介護課長) 南平 直宏 (公益社団法人日本看護協会 事業開発部 チーフマネージャー) 山本 繁樹 (立川市南部西ふじみ地域包括支援センター センター長) この事業は平成 24 年度老人保健事業推進費等補助金(老人保 健健康増進等事業)により実施したものです。 地域ケア会議運営マニュアル 一般財団法人 長寿社会開発センター 平成 25(2013)年 3 月 (無断転載を禁ず)