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III 電子メール相談の分析 1 電子メール相談の特徴 2 電子メール相談と
Ⅲ 電子メール相談の分析 1 電子メール相談の特徴 (1) 年度別にみた年間の電子メール相談件数(平成 14∼17 年度) 平成 14∼17 年度の年間電子メール相談件数を図3に示した。 電子メール相談を開始した平成 14 年度は 3954 件で最も多く、これは前述のように、新聞等で大きく報道されたためと考えられる。したがって、平成 15 年 度は 1729 件で前年度に比べて半減しているが、むしろ当時の実質的な電子メール相談の件数を反映している と考えられる。最近の2年間(平成 16、17 年度)は 3100 件程度で推移しており、今後もこの程度の相談件数 が続いていくと考えられる。 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 14年 図3 15年 16年 17年 年度別にみた年間電子メール相談 (2) 月別にみた電子メール相談件数(平成 14∼17 年度) 平成 14∼17 年度に送信されたすべてのメール 11949 件について、月別の平均件数を整理したところ、5 月が 405 件(13.5%)で最も多く、次いで4月が 330 件(11.0%)、6月が 313 件(10.5%)であった(図4)。 これは年度初めに大阪府内の公立小学校、中学校、高等学校の全児童生徒に対して、電子メール相談のア ドレスが記入されたカードを配布しているためと考えられる。さらに、児童生徒は4月に進学・進級し、 新しい学校やクラスでの緊張が高くなり、様々なストレスを受けやすいためであろう。また、4月よりも 5月の相談件数が多いのは、4月中は新しい環境になんとか適応できるように自身で模索したり努力した りして、5月になってから他人に解決策を求めるためと考えられる。夏季休業後の9月以降の相談件数は 少しずつ減少し、2月と3月でやや増加している。 件 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 図4 月別にみた電子メール相談(平成 14∼17 年度の平均) 9 (3) 相談者別にみた電子メール相談(平成 17 年度) 電子メール相談では、児童生徒、保護者及び教職員からの相談を受け付けている。平成 17 年度に送信された 3108 件の電子メール相談を相談者別に分類した(図5)。その結果、児童生徒が 2465 件(79.3%)最も多く、 電子メール相談を積極的に活用していることがわかる。次いで保護者が 529 件(17.0%)で、教職員からの相 談は 114 件(3.7%)であった。 教職員 3.7% 保護者 17.0% 児童生徒 79.3% 図5 相談者別にみた電子メール相談―平成17年度― (4) 相談者ごとの月別の電子メール相談(平成 17 年度) 次に、平成 17 年度に送信された 3108 件の電子メールを月別に分類した(図6)。 児童生徒については、5月 441 件(17.9%)、6月 316 件(12.8%)、7月 266 件(10.8%)、4月 222 件(9.0 %)の順に相談件数が多く、年間に送信される電子メールの約半数が1学期に集中している。 保護者については、5月 67 件(12.7%)と6月 74 件(14.0%)に相談件数が多いものの、おおよそ年間を通 じて相談件数は一定している。 教職員については、3月 23 件(20.2%)と 12 月 21 件(18.4%)の相談件数が多く、これは春季休業中や冬 季休業中などの時間的余裕のある時期に電子メールによる相談を行うためと考えられる。 児童生徒 保護者 教職員 0% 4月 10% 5月 20% 6月 7月 30% 8月 40% 50% 9月 10月 60% 11月 70% 12月 80% 1月 図6 相談者ごとの月別の電子メール相談―平成17年度― 10 90% 2月 3月 100% (5) 曜日別の電子メール相談(平成 17 年度) 平成 17 年度に送信された電子メールを曜日別に分類した結果、児童生徒、保護者、教員ともに、平日(月∼金 曜日)が約 80%を占めた(図7)。 児童生徒から送信された電子メール 2465 件を分類した結果、木曜日 515 件(20.9%)、金曜日 424 件(17.2 %)の順に件数が多く、休日前が多かった。 保護者から送信された電子メール 529 件を分析した結果、金曜日 68 件(12.9%)がやや少ないものの、月∼ 木曜日 461 件(15.1∼19.1%)は顕著な差がみられなかった。 教職員からの電子メール 114 件を分類した結果、火曜日 19 件(16.7%)、水曜日 18 件(15.8%)、木曜日 29 件(25.4%)、金曜日 19 件(16.7%)で全体の4分の3のメールが送信されている。一方、土、日、月曜日が 少なかった。 児童生徒 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日 保護者 教職員 0% 20% 40% 60% 80% 図7 曜日別にみた電子メール相談 − 平成 17 年度 − 11 100% 2 電子メール相談と面接相談・電話相談との比較 (1) 相談方法別にみた相談(平成 17 年度) 「すこやか教育相談」では、電子メール相談の他、電話と面接による相談を行っている。平成 17 年度に受けた すべての相談 8322 件を相談方法別に分類した(図8)。 その結果、電話相談が 3945 件(47.4%)で最も多く、次に電子メール相談が 3108 件(37.4%)を示し、面接 は 1269 件(15.2%)であった。 面接 15.2% メール 37.4% 電話 47.4% 図8 相談方法別にみた相談 − 平成 17 年度 − (2) 相談者別にみた相談方法(平成 17 年度) 次に平成 17 年度に受けた全相談件数を相談者別にみると、児童生徒からの相談 4356 件(52.3%)、保護者 からの相談 3610 件(43.4%)、教職員からの相談 356 件(4.3%)であった。これを相談方法によって分類し た(図9)結果、児童生徒は 2464 件(56.6%)が電子メール相談を活用しており、保護者 529 件(14.7%) や教職員 114 件(32.0%)と比べて、かなり高い割合を示している。 これは、電子メール相談が電話相談や面接相談に比べて、①相談する時間の制約を受けない、②相談機関へ 出向く必要がない、③匿名性が保証されている、④会話をする必要がなく自分の思いを一方的に伝えることが できるなどの電子メール相談の特徴が反映していると考えられる。 一方、保護者は、電子メール相談 529 件(14.7%)よりも、むしろ電話相談 2691 件(74.5%)を活用してい る。また、教職員では電子メール相談 114 件(32.0%)、電話相談 131 件(36.8%)、面接相談 111 件(31.2 %)は同様の比率となっている。 児童生徒 保護者 教職員 0% 10% 20% 30% 40% 50% メール 電話 60% 70% 80% 面接 図9 相談者別にみた相談方法 − 平成 17 年度 − 12 90% 100% 3 児童生徒の特徴 (1) 男女別にみた児童生徒の相談(平成 17 年度) 平成 17 年度に受けた相談のうち、 性別の判明している児童生徒からの相談 3151 件を男女別に分類した (図 10) 。 電子メール相談では、女子 1216 件(78.3%)が男子 337 件(21.7%)に比べて多く、電話相談や面接相談では男 女間の差異はみられなかった。 電子メール 電話 面接 0% 20% 40% 男性 60% 80% 100% 女性 図10 男女別にみた児童生徒の相談 − 平成17年度 − (2) 送信時間別の電子メール相談(平成 17 年度) 次に、平成 17 年度に児童生徒から送信された電子メール 2464 件(他に不明1件)を、送信時間別に分類した (図 11)。その結果、16∼19 時と 22∼0 時までに送信されるメールが多く、これは放課後から帰宅するまでの時 間と夕食後の時間にそれぞれ相当し、児童生徒は自分が自由となる時間を活用して相談を行っていると推察され る。 件 250 200 150 100 50 0 時 0 ∼ 2 3 2 3時 ∼ 2 2 2 2時 ∼ 2 1 2 1時 ∼ 2 0 2 0時 ∼ 1 9 1 9時 ∼ 1 8 1 8時 ∼ 1 7 1 7時 ∼ 1 6 1 6時 ∼ 1 5 1 5時 ∼ 1 4 1 4時 ∼ 1 3 1 3時 ∼ 1 2 1 2時 ∼ 1 1 1 1時 ∼ 10 0時 1 9∼ 時 9 8∼ 時 8 7∼ 時 7 6∼ 時 6 5∼ 時 5 4∼ 時 4 3∼ 時 3 2∼ 時 2 1∼ 時 1 0∼ 図 11 送信時間別にみた児童生徒の電子メール相談 − 平成 17 年度 − 13 (3) 児童生徒の相談内容(平成 17 年度) 平成 17 年度に児童生徒から受けた相談のうち、相談内容の明確な 2824 件を相談方法別に分類した(図 12)。 その結果、まず電子メール相談では、交友関係 783 件(44.7%)の相談が電話相談 109 件(28.5%)や面接相談 4 件(0.6%)に比べて多く、児童生徒は友人関係など、一時的で状況によって左右されやすい問題を解決する際 に電子メール相談を活用している。2番目に、不眠や意欲の低下を訴える神経症的傾向 395 件(22.5%)を示す 相談が多く、電話相談 60 件(15.7%)や面接相談 263(38.2%)でも多くみられることから、問題が継続しやす く慢性的になりやすい場合には、児童生徒は自分に適した相談方法を適宜選択しているようである。 なお、不登校に関する相談は面接相談 228 件(33.1%)が最も多く、電子メール相談 32 件(1.8%)や電話相 談 58 件(15.1%)は少なかった。これは、不登校のように行動面に現れた場合には、カウンセラーと児童生徒 が直接対面する面接相談を活用していることを示している。 図 12 児童生徒の相談内容 − 平成 17 年度 − 14 4 保護者の特徴 (1) 男女別にみた保護者の相談(平成 17 年度) 平成 17 年度に受けた相談のうち、性別の判明している保護者からの相談 3245 件を男女別に分類した(図 13)。 電子メール相談では、電話相談や面接相談と同様の傾向を示し、女性 341 件(90.5%)が男性 36 件(9.5%)に 比べて多かった。 電子メール 電話 面接 0% 20% 40% 男性 60% 80% 100% 女性 図 13 男女別にみた保護者の相談 − 平成 17 年度 − (2) 送信時間別の電子メール相談(平成 17 年度) 次に、平成 17 年度に保護者から送信された電子メール 529 件を、送信時間別に分類した(図 14)。その結果、 9 時から 14 時まで一定の件数があり、その後件数が 19 時まで多く、一度減少した後に 22 時以降に再び増加する。 保護者は児童生徒よりも自分の都合のよい時間に電子メールを送信するとともに、比較的自由な時間がとりやす い 22 時以降にも相談が多く、1日の生活リズムに合わせて相談しているようである。 50 件 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 23 3∼ 1∼ 0∼ 9∼ 4∼ 8∼ 2∼ 7∼ 6∼ 5∼ 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 1 2 2 4時 2時 1時 10 0∼1 1∼1 2∼1 3∼1 4∼1 5∼1 6∼1 7∼1 8∼1 9∼2 0∼2 1∼2 2∼2 ∼0 5時 9時 3時 8時 7時 6時 時 時 8時 0時 7時 9時 6時 4時 3時 5時 2時 1時 3時 1時 2時 図 14 送信時間別にみた保護者の電子メール相談 − 平成 17 年度 − 15 (3) 保護者の相談内容(平成 17 年度) 平成 17 年度の保護者から受けた相談のうち、相談内容の明確な 2893 件を相談方法別に分類した(図 15)。そ の結果、電子メール相談で 1 番多かった項目は、学校・教職員の問題 93 件(21.7%)に関する相談である。電 話相談 382 件(18.1%)や面接相談 0 件(0.0%)に比べて多く、保護者は匿名性の高い電子メール相談を活用 している。第2番目に多かった項目は不登校傾向 85 件(19.9%)であり、電話相談では 255 件(12.1%)で 3 番目、面接相談では 137 件(39.1%)で 1 番に多く、近年の不登校児童生徒の多さを反映していると考えられる。 不登校に関する相談のうち、面接相談が最も多いのは、先にも述べたように、不登校など行動面に現れた場合に は、カウンセラーと保護者が直接対面する面接相談を活用しているためであろう。 なお、電話相談に多くみられた性格・行動 591 件(27.9%)や、面接相談に多くみられた神経症的傾向に関す る相談については、保護者が子どものことで相談する段階では深刻なケースが多いためと考えられる。 図 15 保護者の相談内容 − 平成 17 年度 − 16 5 教職員の特徴 (1) 男女別にみた教職員の相談(平成 17 年度) 平成 17 年度に受けた相談のうち、性別の判明している教職員からの相談 238 件を男女別に分類した(図 16)。 電子メール相談では、女性 26 件(92.9%)が男性 2 件(7.1%)に比べて多かったが、電話相談や面接相談では、 男女比はほぼ同数であった。 電子メール 電話 面接 0% 20% 40% 男性 60% 80% 100% 女性 図 16 男女別にみた教職員の相談 − 平成 17 年度 − (2) 送信時間別の電子メール相談(平成 17 年度) 次に、平成 17 年度に教職員から送信された電子メール 114 件を、送信時間別に分類した(図 17)。 その結果、17 時から徐々に相談件数が増え始めていることから、教職員は日常の業務が終了した比較的自由な 時間に、児童生徒に関する相談を行うようである。なお、電子メール相談の総数が 114 件と少なく、今後件数が 増えた段階で、送信時間帯の分布について再検討する必要があると思われる。 18件 16 14 12 10 8 6 4 2 0 0時 ∼ 23 時 23 ∼ 22 時 22 ∼ 21 時 21 ∼ 20 時 20 ∼ 19 時 19 ∼ 18 時 18 ∼ 17 時 17 ∼ 16 時 16 ∼ 15 時 15 ∼ 14 時 14 ∼ 13 時 13 ∼ 12 時 12 ∼ 11 時 11 ∼ 10 時 10 9∼ 9時 8∼ 8時 7∼ 7時 6∼ 6時 5∼ 5時 4∼ 4時 3∼ 3時 2∼ 2時 1∼ 1時 0∼ 図 17 送信時間別にみた教職員の電子メール相談 − 平成 17 年度 − 17 (3) 教職員の相談内容(平成 17 年度) 平成 17 年度に受けた教職員からの相談のうち、相談内容の明確な 259 件を相談方法別に分類した(図 18)。 その結果、電子メール相談では、学校・教職員の問題 85 件(85.9%)に関する相談が多く、電子メール相談が 電話相談 28 件(44.4%)や面接相談 1 件(1.0%)よりも職場の問題を相談しやすいことを示している。これは、 電話相談でも件数が多いことからも、電子メール相談や電話相談は相談機関まで出向く必要がなく、匿名性の高 いことが要因と考えられる。 神経症的傾向に関する相談では、面接相談 45 件(46.4%)が電子メール相談 2 件(2.0%)や電話相談 7 件(11.1 %)より も多かった。さらに不登校傾向に関する相談でも、面接相談 18 件(18.6%)が電子メール相談 0 件(0.0 %)や電話相談 5 件(8.0%)よりも件数が多かったことから、教職員は相談内容によって相談方法を使い分け ていることが伺える。 図 18 教職員の相談内容 − 平成 17 年度 − 18 6 電子メール相談の利点と課題 電子メール相談を分析し、その特徴を述べてきた。電子メール相談は、従来の相談方法(電話相談・面接相談)に 比べて、匿名性が高く、相談する時間の制約を受けない。これは、回答する側にとっても、都合のよい時間にまとめ て返信作業ができるという効率のよさにつながる。また、電話相談のような待機時間が必要ないという特徴もある。 以下に、電子メール相談の利点と課題についてまとめた。 (1) 電子メール相談の利点 ① 自己解決 電子メール相談は、相談者が携帯電話やパソコンを用いて悩みを文章にする作業から始まる。この際に、相談者 は日記を書くように、経過をふりかえってまとめながら、自らの問題点を整理したり、自己を客観的に見つめ直し たりすることができる。心を整理する作業が伴う電子メール相談では、「電子メールを作成する」という行為自体 が自己解決を促進する効果があると考えられる。 ② 心身症の予防効果 学校の教職員やカウンセラーに直接相談する場合には、相談する前に児童生徒は自分で問題を解決しようと一定 期間思い悩むことが多い。その後、抱えている問題を解決できなかったときには、不登校や心身症としての身体症 状や問題行動などが出現することがある。 今回の調査では、児童生徒は友人関係が悪化した初期の段階で電子メール相談を活用していることが示唆され た。したがって電子メール相談には、心身症などのストレス関連障害のら患を予防する効果が期待される。 (2)電子メール相談の課題 ① 非言語的情報の不足 電子メールは文字のみで情報を伝達するため、非言語的な手がかりの乏しいコミュニケーションであり、感情的 な内容に関する情報が伝達されにくいと言われている。非言語的情報(表情、態度、声の大きさなど)が不足して いる電子メール相談では、相談者に微妙なニュアンスが伝わりにくく、相手に誤解される場合がある。相談者に誤 解されないようにするために、定期的に相談員の研修を行ったり、事例検討会の中で、相談員が効果的な言語表現 を学習することが重要となる。 ② 相談レベルを判定する困難さ 送信された電子メールに対して、返信メールを作成するため、相談者の悩みの深さを適切に把握する必要がある。 しかしながら、電子メール相談では、ときには内容が理解できにくい非論理的な文章が送信されてくることがあり、 相談者の悩みの深さを判定することが難しい。この場合には、電子メール相談に熟練したスーパーバイザーの助言 を求めたり、面接相談を紹介したりするなどの方法を活用することも必要である。 (参考文献) ・寺嶋繁典、足利学(2002) 10 代の広場(ホームページ)運営調査研究委託事業 ∼子どもの様々な主張を表現する場の設定∼平成 13 年度調査研究実績報告書 ・佐谷力(2006) メール相談の実際と学校現場での活用について 月刊学校教育相談 pp54-62 19