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第5章 抵当権の登記2
第5章 第1節 抵当権の登記2 抵当権の移転登記 抵当権の被担保債権が譲渡、代位弁済、相続または合併等によって移転すると、 随伴性によって抵当権も移転する。このような場合は、抵当権の移転登記をする ことになる。 抵当権の移転登記は、原則として抵当権の取得者が登記権利者、抵当権の登記 名義人が登記義務者となって共同申請する。 抵当権移転登記の登録免許税は、被担保債権の債権額を課税標準とし、これに 相続・合併の場合は1,000分の1、債権譲渡・代位弁済等の場合は1,000分の2の 税率を乗じて算定する(登録免許税法別表1.1.(6))。 第2節 1 抵当権の変更・更正の登記 抵当権の変更登記 登記されている抵当権の内容について変更があった場合に、その変更された内 容を登記するのが抵当権の変更登記である。変更の内容は、たとえば被担保債権 の債権額の増減、債務者の変更、利息や損害金の利率の変更等である。変更され た内容は、変更登記をしなければ、これを第三者に対抗できない。 抵当権の変更登記は、変更により登記簿上、直接利益を受ける者を登記権利者、 直接不利益を受ける者を登記義務者とする共同申請により行う。 抵当権の変更登記の登録免許税は、原則として不動産1個につき1,000円であ る(登録免許税法別表1.1.(11))。ただし、債権額の増額の場合には、増加部分の 債権金額についての抵当権設定登記とみなされるので、増加額に1,000分の4の 税率を乗じて算定する(登録免許税法12条1項)。 2 抵当権の更正登記 抵当権の登記事項について錯誤または遺漏があった場合に、それを是正するの が抵当権の更正登記である。更正の内容は、たとえば被担保債権の債権額や債務 者の表示が錯誤によって誤っていたり、登記原因を遺漏した場合等である。更正 された内容は、更正登記をしなければ、これを第三者に対抗できない。 抵当権の更正登記は、更正により登記簿上、直接利益を受ける者を登記権利者、 直接不利益を受ける者を登記義務者とする共同申請により行う。債務者の表示の 誤り、登記原因の遺漏については、抵当権者が登記権利者、抵当権設定者が登記 義務者となる。 抵当権の変更登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円である(登録免許 税法別表1.1.(11))。 -1- 3 抵当権の変更・更正の登記に関する先例 ● 無権利者甲の名義で抵当権設定登記がされている場合に、真の抵当権者乙のために「真正 な登記名義の回復」を登記原因として甲および乙との共同申請により抵当権移転の登記を申請 することはできない(S40.7.13民甲1857号)。 ● 抵当権登記事項中債務者の表示の変更の登記を債権者代位により抵当権者が単独で申請す ることはできない(S36.8.30民三717号)。 ● 表示行為の錯誤により甲を債務者とすべきところ乙を債務者とした抵当権設定契約書に基 づき抵当権設定登記申請書を作成し、その登記を受けた後、登記原因を錯誤とし、甲を債務者 とする抵当権の更正登記申請は受理して差し支えない(S37.7.26民甲2074号)。 ● 債務引受による抵当権変更登記の申請にあたり、登記義務者である債務引受人物件所有者 は細則第42条{登記義務者の印鑑証明書の提出}の規定の趣旨に鑑み、印鑑証明書の提出を要し ない(S30.5.30民甲1123号)。 ● 外国法人が日本支店によって本邦所在の不動産を取得した場合、登記申請書に記載する法 人の住所は、本店の所在地のほか、便宜日本における営業所(支店)の所在地を併記する(S41. 5.13民三191号)。 ● 共同相続人の1人のみが抵当権付債務を引き受けた場合、その引受が遺産分割の協議によ り債権者の承認を得て当該債務を引き受けたのであれば、当該1人のみの債務の承継(相続)に よる抵当権の変更登記をすべきであり、遺産分割の協議によることなく別途債務を引き受けた のであれば、相続により債務者を共同相続人全員とする抵当権の変更の登記をした上で、当該 債務引受による抵当権の変更登記をなすべきである(S33.5.10民甲964号)。 ● 甲、乙共有の不動産につき、甲の持分について抵当権設定の登記がなされた後、甲が乙の 持分所有権を取得し、単独所有となったので、その抵当権の効力を不動産全部に及ぼす変更の 付記登記の申請があった場合、この抵当権変更の登記の原因は、甲が乙から取得した持分につ いての抵当権設定契約であるから、この場合の登録税は、現に登記されている債権額を担保す るためのこの持分についての抵当権の取得として、登録免許税法第2条第1項第10号および第 16条の2により徴収すべきである(S31.4.9民758号)。 ● 所有権(または共有持分)の一部を目的とする抵当権は成立しないものと解されるので、そ の設定等登記は受理されない(S35.6.1民甲1340号)。 ● 甲、乙共有不動産につき、甲の持分について抵当権の登記があり、甲が乙の持分を取得し、 単有所有権となったことによりその抵当権を不動産の全部に及ぼす抵当権の変更登記の登録免 許税は、登録免許税法13条2項により徴収すべきである(S43.1.11民三39号)。 ● 共有者の1人が自己の持分に対し抵当権設定の登記をしたが、その不動産を分筆して共有 物分割により設定者の取得した不動産について、その全部に抵当権の効力を及ぼすには、抵当 権変更の付記登記(登記上利害の関係を有する第三者の登記があり、その者の承諾書またはこ れに対抗することができる裁判の謄本を添付することができないときは主登記)をなすべきで ある(S28.4.6.民甲556号)。 ● 元本債権のみを被担保債権とする抵当権を、約定利息債権を被担保債権として追加しよう とする抵当権の変更登記の申請は、受理してさしつかえない(S41.12.1民甲3323号)。 ● 金銭消費貸借予約契約に基づき貸付金を交付する場合において、当該予約契約を変更し、 貸付金額の増額を行うときには、登記した債権額の変更登記を行うことができる(S42.11.7民 甲3142号)。 ● 甲乙両名の共有地につき甲の持分に対して抵当権設定登記をした後、甲が乙の持分を取得 して単独所有者となり、乙の持分であった部分(抵当権設定のない部分)について増加担保とし てこの抵当権を及ぼすには、抵当権の変更の登記をするべきである(S9.4.2民事局長電報回 答) -2- ● 前の抵当権の被担保債権の利息を元金に繰り入れ、その変更登記を嘱託する場合等、抵当 権者が登記権利者として登記を嘱託する場合においては、当該登記の嘱託書に添付すべき登記 原因証書に、先に登記を受けた抵当権に関する不動産の表示その他登記事項を表示してあると きは、前の抵当権登記の登記済証は提出する必要がない(S25.12.14民甲3206号)。 ● 現に効力を有する既往の抵当権登記で被担保債権の発生原因及びその日付の記載がないも のについて抵当権等のあらたな登記の申請をする場合には、必ずその前提として遺漏による更 正登記を申請すべきである。この更正登記は抵当権者及び抵当権設定者の共同申請によるべき であり、登記原因を証する書面が存在しないものとして申請書の副本を添付すべきである(S3 1.3.14民甲504号)。 第3節 1 抵当権の処分の登記 抵当権の処分の登記 抵当権の処分とは、転抵当、抵当権の譲渡・放棄、抵当権の順位の譲渡・放棄、 抵当権の順位の変更をいう(民法375条1項,2項,373条2項,3項)。 民法は、これらの処分を認めることにより抵当権者の投下資本の流動化を図り (転抵当)、また、抵当権によって把握された担保価値の交換または流用による債 権者間の利害の調整を行っているのである(抵当権の譲渡・放棄、抵当権の順位 の譲渡・放棄、抵当権の順位の変更)。 これらの抵当権の処分に対応して、転抵当の登記、抵当権の譲渡・放棄の登記、 抵当権の順位の譲渡・放棄の登記、抵当権の順位の変更の登記があり、これらを 抵当権の処分の登記という。 2 転抵当の登記 転抵当とは、抵当権を他の債権の担保とすることをいう(民法375条1項)。こ れは、原抵当権からみれば転抵当権の制限を受けるという意味で抵当権の内容の 変更であり、転抵当権からみれば抵当権の設定ということになる。 転抵当権の設定も物権変動の1つであり、これを第三者に対抗するには登記を 必要とする(民法177条)。転抵当の転抵当も実体法上可能であると解され、その 登記も可能である(S30.5.31民甲1029号)。 転抵当権設定の登記は、原抵当権に対する付記登記によって行う(民法375条2 項)。付記登記であることを除けば、その内容は抵当権の設定登記と同様であり、 申請書の記載事項も一般の抵当権設定登記申請の場合に準じる(法119条の3,117 条)。 転抵当権設定の登記の登録免許税は、不動産1個について1,000円である(登録 免許税法別表1.1.(11))。 -3- 3 抵当権の譲渡・放棄の登記 抵当権の譲渡とは、抵当権者が、同じ債務者に対する無担保債権者のために、 抵当権をその被担保債権と分離して譲渡し、その限度で自分が無担保債権者とな ることをいう(民法375条1項)。 抵当権の放棄とは、抵当権者が無担保債権者の利益のために、その優先弁済権 の利益を放棄することをいう(同法同条同項)。放棄を受けた債権者は、本来は放 棄した抵当権者が受けるべき優先配当金について、放棄した抵当権者と同順位で 配当を受けることになる。 抵当権の譲渡・放棄の登記は、原抵当権に対する付記登記として行う(同法同 条2項)。この付記登記は、抵当権の譲渡・放棄をした者を登記義務者とし、抵 当権の譲渡・放棄を受けた者を登記権利者として、共同申請により行う。 登記申請書には、いかなる無担保債権のために譲渡・放棄が行われたかを明ら かにするため、その受益債権の内容(債権額等)を記載することを要し、またそれ が登記される。 抵当権の譲渡・放棄の登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円である (登録免許税法別表1.1.(11))。 4 抵当権の順位の譲渡・放棄の登記 抵当権の順位の譲渡とは、先順位の抵当権者が、後順位の抵当権者のために自 己の抵当権の優先権を譲渡し、当事者間では順位の入れ替えがあったと同じ優先 順位にすることをいう(民法375条1項)。 抵当権の順位の放棄とは、先順位の抵当権者が、後順位の抵当権者のために自 己の抵当権の優先権を放棄することをいう(同法同条同項)。順位の放棄により両 者は同順位となり、債権額に応じて分配することになる。 抵当権の順位の譲渡・放棄の登記は、付記登記によって行う(同法同条2項)。 この付記登記は、順位の譲渡・放棄をした者を登記義務者、順位の譲渡・放棄を 受けた者を登記権利者として共同申請により行う。 この付記登記をしたときは、譲受側抵当権の順位番号の左側に、その付記登記 の順位番号を記載し、両者の関係を公示上明らかにすることとしている(細則58 条の2)。 抵当権の順位の譲渡・放棄の登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円 である(登録免許税法別表1.1.(11))。 5 抵当権の順位の変更の登記 抵当権の順位の変更とは、複数の抵当権の間で、その優先弁済権の順位を絶対 的に入れ替えて、その順序に従って競売代金から優先弁済を受けられるようにす ることである。抵当権の順位の変更には、各抵当権者全員の合意と、利害関係人 の承諾が必要である(民法373条2項)。 抵当権の順位の変更の登記は、各抵当権の登記名義人全員が登記済証を添付し て合同申請する。 抵当権の順位の変更の登記の登録免許税は、抵当権1件につき1,000円である (登録免許税法別表1.1.(6の3))。 -4- 6 抵当権の処分の登記に関する先例 ● 同一担保物件上に設定登記してある第1順位の抵当権者がA(債務者B、抵当権設定者C)、 第2順位の抵当権者がD(債務者E、抵当権設定者C)である場合(ただし、Eは事業協同組合、 Bはその構成員であり、DのEに対する債権はBに対する転貸資金である。したがって、第2 順位抵当権の被担保債権の実質的債務者はB)、AD間の順位の譲渡およびその付記登記をす ることができる(S33.11.11民甲855号)。 ● 自己の転抵当権を、さらに自己の債務の担保に供する登記申請は受理される(S30.5.31民 甲1029号)。 ● 抵当権の譲渡、同放棄の登記は、付記登記によるべきである(S28.12.15民甲2362号)。 ● 1度順位変更の登記なされた抵当権について、変更後の順位をさらに変更する場合には別 個の順位の登記によってする(S46.10.4民甲3230号)。 ● 同一順位の抵当権者の一方が他方の利益のために後順位の抵当権者になることができ、こ の場合の登記原因は順位譲渡でさしつかえない。なお、後順位の他の抵当権者がいる場合でも、 その者の承諾は要しない(S28.11.6民甲1940号)。 ● 同一抵当権を目的とする数個の転抵当権間の順位を同順位とする順位変更の登記申請は、 受理してさしつかえない(S58.5.11民三2984号)。 -5- 第4節 1 抵当権の抹消登記 抵当権の抹消の登記 抵当権は、物権共通の消滅原因および担保物権共通の消滅原因によって消滅す る他、代価弁済(民法377条)、抵当権消滅請求(同法378条)等によって消滅する。 抵当権の消滅が被担保債権の消滅による場合(付従性)は、抵当権は絶対的に消 滅するから対抗問題は生じず、登記なくしてその消滅を第三者に対抗することが できる。これに対し、抵当権者が放棄した場合のように、抵当権だけが消滅した 場合は登記をしなければ第三者に対抗することができない。たとえば、抵当権に よって担保されている債権が転々譲渡されている間に、そのうちの1人が抵当権 を放棄したとしても、抵当権の抹消登記がなされないと、債権の譲受人は抵当権 を取得することになる。 抵当権の登記の抹消登記は、抵当不動産の所有者と当該抵当権者との共同申請 によるのが原則である(法26条1項)。この場合、登記権利者は当該抵当不動産の 所有権登記名義人であり、登記義務者は当該抵当権の登記名義人である。 抵当権の抹消登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円である。ただし、 20個以上の場合は2万円である(登録免許税法別表1.1.(12))。 なお、抵当証券が発行されている場合、抵当権が消滅したときは抵当証券もそ の効力を失う。したがって証券を回収しなければならず、また抵当権抹消登記の 申請の真正を推認するためには、抵当証券が必要である。そこで抵当権抹消登記 申請書には、抹消について利害の関係を有する抵当証券の所持人または裏書人の 承諾書またはこれらの者に対抗することができる裁判の謄本を添付しなければな らず(法146条1項前段)、かつ、抵当証券を添付提出しなければならない(146条 2項)。 2 抵当権の抹消の登記に関する先例 ● 相続または会社合併による抵当権移転の登記未了の場合、相続または会社合併後の弁済に かかる抵当権の消滅でも、相続または会社合併による抵当権の承継の登記をした上で、抵当権 抹消の登記を申請しなければならない(S32.12.27民甲2440号)。 ● 質権又は抵当権の設定登記後にその目的である不動産の所有権が第三者に移転した場合、 その抵当権等の抹消登記の登記権利者は現在の不動産の所有者である(T8.7.26民事2788号)。 ● 混同により抵当権が消滅したにもかかわらず、その抹消を遺漏したまま、第三者へ所有権 移転の登記をした場合には、当該抵当権の抹消登記は、現在の所有権の登記名義人と抵当権の 登記名義人との共同申請によってなされるべきである(S30.2.4民甲226号)。 ● 後順位抵当権のため順位譲渡の登記がなされている先順位抵当権の登記の抹消を申請する 場合、後順位抵当権者は、その登記の抹消につき、登記上利害の関係を有する第三者に該当す る(先順位の抵当権が税債権に優先し、後順位の抵当権が税債権に劣後する場合がありうるの であって、このような場合には後順位抵当権者は順位譲渡の利益を有する)(S37.8.1民甲2206 号)。 ● 抵当権又は質権の登記権利者の登記簿上の住所に変更があっても、当該抵当権等を抹消す るにあたっては、住所変更を証する書面の添付があれば、抵当権者又は質権者の登記名義人表 示変更登記の付記登記を要せず、直ちに抹消登記を申請できる(S28.12.17民甲2407号)。 -6- 第5節 共同担保の登記に関する先例 ● 同一債権を担保するために数個の不動産の上に抵当権を設定し(共同抵当)、その共同担保 物件中の一部の物件についてのみの抵当権設定登記の申請は、受理してさしつかえない(S30. 4.30民甲835号)。 ● 共同担保目録にした不動産の表示を、申請書にすべき不動産の表示に援用することはでき ない(S40.11.17民甲2866号) ● 複数の登記所の管轄に属する数個の不動産を共同担保として抵当権を設定し、各登記所に 登記を申請する場合の共同担保目録については、各登記所にそれぞれ、すべての不動産を記載 した目録を1通提出すればよい(S44.8.16民甲1657号)。 -7-