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食中毒、とくに自然毒を原因とする事例の傾向
食中毒、とくに自然毒を原因とする事例の傾向 鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六 食品の安全性を巡る全国的パニックはこの間起きておらず、安全性の取組み が向上してきた成果だと考えられる。そのことは、食中毒事故の減少を統計に よって確認することで確かめられる。1981 年の事故数約 1,100 件、患者数約 3 万人、死者数 13 人が、サルモネラ、大腸菌 O157、BSE などを経て、2014 年 には、それぞれ、事故数約 1,000 件、患者数約 1.9 万人、死者数 2 人へと減っ ている。 食中毒事故の推移 しかし、手放しで喜べるのか? 食中毒事故の実際の発生状況を眺めてみる と、もっと減らせるのに、その努力をしていないと思われる。とくに、家庭に おける自然毒食中毒の現状をみると、どうしてこんなことを続けているのか? と首をかしげてしまう。 自然毒食中毒の概要 2008 年の原因物質別患者数は、細菌が 2,620 名(死亡 4 名)、ノロウイルス が 123 名(死亡 0 名)、自然毒が 147 名(死亡 5 名)であった。この時の患者 数を 100 としてその後の推移を示すと、ノロウイルスは 2 倍以上で推移してい -1- るが、細菌は 17%、自然毒は 54%に減少し、2014 年には、それぞれ、293 名、 440 名、79 名となった。食品事業者の衛生管理向上によって細菌性食中毒は大 幅に減少したが、家庭で多発する自然毒食中毒の減少はそこまで大幅ではない ことが気掛かりである。同様に、学校で多発するノロウイルスは、この間死亡 例はないものの、ヒト・ヒト伝播もすることから、制御に苦しんでいる。 1998 年の患者数を基準とした増減 食中毒による死亡数は、1998 年に 9 名(細菌 4 名、自然毒 5 名)だったが、 2002 年 18 名(細菌 1 名、自然毒 7 名)、2011 年 11 名(細菌 10 名、自然毒 1 名)、2012 年 11 名(細菌 8 名、自然毒 3 名)と 10 名を超えた。 -2- 1998 年以降の食中毒による死亡数の推移 2011 年の死亡は、飲食店 6 名(ユッケの大腸菌 O157;5 名、自然毒 1 名)、 家庭 3 名(サルモネラ)、老人ホーム(大腸菌 O157)と製造所(大腸菌 O157) 各 1 名であった。2012 年の死亡は、製造所各 8 名(白菜漬物の大腸菌 O157;8 名)、家庭 3 名家庭(トリカブト 2 名、アオブダイ)だった。いずれも食品事業 者の細菌汚染事故が大きく影響した。他方、自然毒による死亡は、患者数が細 菌性食中毒より大幅に少ないにも関わらず、死亡数は逆に多く、2008 年から 2014 年に細菌性食中毒の 47 名よりも 8 名多い 55 名だった。食中毒予防の重点 対象として、家庭における自然毒食中毒予防を取り上げる必要がある。 自然毒食中毒の内訳(2012~2015 年) 年 総件数 2012 動物性 植物性 件数 患者数 死亡数 件数 患者数 死亡数 97 27 49 2 70 218 1 2013 71 21 33 0 50 152 1 2014 79 31 53 1 48 235 1 2015 93 36 66 2 45 173 2 平均 85 28.8 50.3 1.3 53.3 194.5 1.3 自然毒食中毒は、フグなどの動物性と、キノコなどの植物性に大別されてい るが、植物性が件数では約 2 倍、患者数では約 4 倍になる。致命率は、動物性 食中毒で 2.5%、植物性では 0.6%となるが、1998 年から 2014 年の細菌性食中 毒の患者数 18,095 名中 47 名の死亡、致命率 0.26 と比べて極めて高い。長い歴 史を掛けて人類が品種改良を重ね、育成してきた作物や家畜とは異なり、野生 の植物や動物は猛毒を持っていることがあることを十分に理解しなければなら ない。 「ナチュラルだから安心」は逆であり、人間が管理して有毒でない品種を 作り上げて育てているからこそ安全であることを理解しなければならない。農 薬や食品添加物を恐れる方が多いが、自然毒はその数百万倍も強毒であること を理解しなければならない。 動物性および植物性食中毒患者数の月別発生状況をみると、動物性はフグ料 理が美味しくなる冬場にやや多いが、実際の発生はフグ専門店で発生すること は少なく、釣り人が持ち帰ったフグを自宅で調理して中毒を起こす場合が多い ので、釣りが盛んな季節に発生している。他方、植物性は、秋のキノコ狩りに よる事例が大半で、春から夏の山菜狩りシーズンでも多くなっている。折角の レジャーが不幸を招かないように、フグやキノコは勿論、見知らぬ魚や野草は 家に持ち帰らないことが重要である。決して、 「ナチュラルだから安心」と思い -3- 込んではいけない。 動物性および植物性食中毒患者数の月別比較(2012~2015 年の平均) 動物性食中毒の概要 動物性食中毒は年間を通して散発しているが、発生数が多かったか、死亡例 が出た月を重点的に、厚労省の食中毒発生事例を各年毎に取りまとめる。 動物性食中毒患者数(死亡)の月別比較(2012~2015 年) 月 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 平均 1 3 2 2 7 3.5 2 2 4 14 13(1) 8.3 3 7(1) 0 5 4(1) 4.0 4 2 5 6 2 3.8 5 1 2 0 5 2.0 6 1 5 4 3 3.3 7 7 1 8 5 5.3 8 3 3 2 7 3.8 9 1 1 2(1) 9 3.3 10 10 2 2 5 4.8 11 5 9 1 6 5.3 12 7 0 5 0 3.0 計 49(1) 34 51(1) 66(2) 50.0(4) 2015 年における動物性食中毒 36 件中 28 件はフグ中毒であり、その内 21 件は家庭で発生したが、これまでと同じ傾向で(厚労省、フグによる食中毒発 -4- 生状況) 、日本における食中毒死亡者の過半数を占めている。ナシフグやドクサ バフグなどの全ての臓器が有毒なものから、ヒガンフグやコモンフグなどの筋 肉は有毒でないとされているもの、トラフグなどの筋肉、皮、精巣が食用可と されているものなど、フグの種類によって毒(テトロドトキシン)の分布と濃 度は異なっている(厚労省、フグ毒)。肝臓は全ての種類が有毒であり、トラフ グは最高級とされているが、肝臓を食べると死亡することもある(堺市:トラ フグの食中毒)。さらに、フグ毒は餌が含んでいる毒を濃縮したものであり、漁 獲場所や季節によって毒力が違っている。そのため、フグ専門店では調理師免 許だけでなく、その土地のフグについて熟知している必要があり、フグ調理師 免許は都道府県が発行することになっている(厚労省、フグの取扱いに係る監 視指導の強化)。それでも 2015 年には 6 件のフグ中毒が飲食店で発生しており、 2 月の 2 件 8 名はその月の患者数を押し上げた。したがって、素人の釣り人がフ グの安全性を判断することは無理であり、釣り人は釣ったフグを持ち帰っては いけない。 2015 年の動物性食中毒一覧(厚労省:食中毒事例一覧から抜粋) 発生月日 病因物質 発生地 施設 摂食者 患者 死者 1月9日 フグ 広島県 家庭 2 2 0 1 月 11 日 フグ 兵庫県 家庭 3 1 0 1 月 22 日 トラフグ 兵庫県 家庭 4 4 0 2 月 15 日 フグ 福岡県 飲食店 11 3 0 2 月 16 日 アオブダイ 宮崎県 家庭 1 1 1 2 月 25 日 フグ 島根県 家庭 1 1 0 2 月 27 日 トラフグ 和歌山 飲食店 5 5 0 2 月 27 日 フグ 岡山県 飲食店 4 3 0 3月7日 フグ 岡崎市 家庭 6 1 0 3月8日 フグ 兵庫県 家庭 3 1 0 3 月 28 日 フグ 島根県 家庭 2 1 0 3 月 28 日 フグ 福岡県 不明 3 1 1 4 月 26 日 コモンフグ 広島県 家庭 2 2 0 5 月 10 日 ホタテガイ 栃木県 販売店 9 4 0 5 月 18 日 魚 沖縄県 家庭 1 1 0 6 月 10 日 フグ 佐賀県 飲食店 1 1 0 6 月 21 日 フグ 広島県 飲食店 2 2 0 7 月 10 日 フグ 愛媛県 家庭 1 1 0 -5- 7 月 16 日 魚 沖縄県 家庭 5 3 0 7 月 25 日 フグ 徳島県 家庭 2 1 0 8月1日 バラフエダイ 沖縄県 家庭 3 3 0 8月6日 魚 沖縄県 家庭 5 2 0 8 月 15 日 フグ 広島県 家庭 5 2 0 9 月 21 日 フグ 沖縄県 飲食店 2 2 0 9 月 21 日 魚 沖縄県 家庭 6 6 0 9 月 28 日 マフグ 北海道 家庭 1 1 0 10 月 15 日 フグ 岡山県 家庭 1 1 0 10 月 19 日 フグ 広島県 家庭 2 2 0 10 月 22 日 フグ 広島県 家庭 1 1 0 10 月 27 日 コモンフグ 山口県 家庭 1 1 0 11 月 2 日 フグ 鳥取県 家庭 1 1 0 11 月 2 日 フグ 鹿児島 家庭 1 1 0 11 月 6 日 フグ 熊本県 家庭 3 1 0 11 月 6 日 キンシバイ(巻貝) 長崎県 家庭 1 1 0 11 月 14 日 フグ 香川県 家庭 2 1 0 11 月 24 日 フグ 岡山県 家庭 不明 1 0 103 66 2 計 フグ:36 件中 28 件(内家庭 21 件) (つづく 2016/2/28) 2014 年もフグ中毒が大半であることに変わりはない。 2 月に 14 名の発生があったが、その内 9 名は岐阜県でのイシナギ食べたこ とによる。イシナギを含む大型魚の肝臓には大量のビタミン A が含まれており、 ビタミン A 過剰症になる。急性ビタミン A 過剰症は、腹痛、悪心、嘔吐、めま い、過敏症などが出現した後、全身の皮膚落屑がみられる。慢性過剰症は、65 歳 以上の骨粗しょう症になるリスクを高め、妊婦に催奇形性作用をもたらすとさ れる(食品安全委員会)。重要な栄養素であっても、過剰摂取すると健康障害を 引き起こすことに注意する必要がある。 7 月に 8 名と多かったのは、沖縄県でのバラハタによる 5 名が重なったため である。8 月のイッテンフエダイを含め、これらのシガテラ毒魚は、普通の海域 では無毒であるが、サンゴ礁の微生物が産生する毒素が食物連鎖によって濃縮 され、それを餌とすることで毒化する。普通の海域の無毒のものと見分けがつ かないので、該当する海域で採れたものは食べてはならない(厚労省、シガテ ラ毒)。毒成分(シガトキシン)は加熱調理しても毒性は失われず、毒成分は煮 汁等に移行する。 「シガテラ」の呼称は、カリブ海で採れた「シガ」と呼ばれる -6- 巻貝による中毒の研究で毒成分が発見されたことに由来し、サンゴ礁の餌を食 べる魚介類は有毒化する可能性がある。 2014 年の動物性食中毒一覧 発生月日 発生地 原因食品 施設 摂食者 患者 死者 1月3日 沖縄県 フグ 飲食店 1 1 0 1 月 20 日 長崎県 フグ 家庭 1 1 0 2月3日 長崎県 ヒガンフグ 家庭 2 2 0 2 月 12 日 岩手県 フグ 家庭 1 1 0 2 月 18 日 岐阜県 イシナギ 販売店 19 9 0 2 月 18 日 熊本県 フグ 家庭 1 1 0 2 月 25 日 兵庫県 トラフグ 販売店 1 1 0 3月1日 山口県 マフグ 販売店 3 2 0 3 月 13 日 大分県 マフグ 販売店 1 1 0 3 月 20 日 熊本県 フグ 家庭 1 1 0 3 月 30 日 広島県 フグ 家庭 2 1 0 4 月 12 日 愛媛県 フグ 飲食店 2 2 0 4 月 13 日 千葉県 フグ 家庭 7 2 0 4 月 27 日 鳥取県 フグ 家庭 2 2 0 6月1日 兵庫県 フグ 家庭 2 2 0 7月2日 福岡県 フグ 家庭 2 1 0 7 月 13 日 広島県 フグ 家庭 2 1 0 7 月 20 日 沖縄県 バラハタ 家庭 11 5 0 7 月 31 日 福島県 フグ 家庭 1 1 0 8 月 24 日 沖縄県 イッテンフエダイ 家庭 2 2 0 8 月 30 日 沖縄県 イッテンフエダイ 家庭 4 4 0 9 月 22 日 沖縄県 フグ 家庭 1 1 0 9 月 24 日 兵庫県 フグ 家庭 1 1 1 10 月 28 日 広島県 フグ 家庭 1 1 0 10 月 30 日 大分県 フグ 飲食店 2 1 0 11 月 19 日 広島県 コモンフグ 家庭 1 1 0 12 月 1 日 新潟県 フグ 家庭 1 1 0 12 月 7 日 熊本県 フグ 家庭 3 1 0 12 月 10 日 徳島県 ショウサイフグ 家庭 1 1 0 12 月 16 日 富山県 クサフグ 販売店 1 1 0 -7- 12 月 21 日 計 大分県 シッポウフグ 家庭 フグ:31 件中 27 件(内家庭 19 件) 1 1 0 81 53 1 2013 年 11 月に 9 名と多くなっているが、フグ中毒 4 件に熊本県でのクエに よる 2 名が重なったためである。クエやアオブダイは有毒なバリトキシンを持 つことがある。パリトキシンはイソギンチャクの一種が産生する猛毒で、それ を食べることによって有毒化するので、西日本一帯で中毒事例が報告されてい る。 ムラサキイガイはムール貝、カラス貝とも呼ばれ、岸壁に定着しているのを 採取して食べることも多いが、麻痺性貝毒、下痢性貝毒などを蓄積することが あり、大阪市は注意を呼び掛けている。この毒を産生するプランクトンが発生 すると、ホタテやアサリの養殖場では出荷制限が掛けられるが、自然に生育し ている二枚貝への注意喚起は余り行われない。ツブガイとも呼ばれるヒメエゾ ボラなどの巻貝も、唾液腺毒(テトラミン)を蓄積して有毒化することがあり、 出荷制限が行われているので、市場に出回ることはない(出荷自主規制: 北海 道、青森県、岩手県、宮城県、茨城県、愛知県)。一般市民は、赤潮や青潮など のプランクトンが異常発生した時は、魚介類を採って食べてはいけないことを 理解しなければならない。 2013 年の動物性食中毒一覧 発生月日 発生地 原因食品 施設 摂食者 患者 死者 1 月 22 日 広島県 トラフグ 飲食店 3 2 0 2月6日 長崎県 フグ 家庭 2 1 0 2 月 23 日 大阪府 フグ 飲食店 4 1 0 2 月 27 日 三重県 フグ 家庭 1 1 0 4月2日 広島県 フグ 家庭 1 1 0 4 月 27 日 茨城県 フグ 家庭 1 1 0 4 月 27 日 広島県 フグ 販売店 2 1 0 4 月 29 日 大阪府 ムラサキイガイ 採取場所 3 2 0 5月9日 鳥取県 フグ 家庭 1 1 0 5 月 11 日 石川県 フグ 家庭 1 1 0 6 月 16 日 沖縄県 魚料理 その他 6 5 0 7 月 24 日 福島県 フグ 家庭 1 1 0 8月9日 岩手県 ふぐ 家庭 1 1 0 8 月 27 日 青森県 ヒメエゾボラ 家庭 2 2 0 9 月 21 日 宮城県 ヒメエゾボラ 家庭 3 1 0 -8- 10 月 2 日 佐賀県 フグ 飲食店 2 2 0 11 月 11 日 熊本県 コモンフグ 家庭 1 1 0 11 月 14 日 広島県 コモンフグ 家庭 3 3 0 11 月 26 日 鳥取県 フグ 家庭 1 1 0 11 月 26 日 徳島県 ハコフグ 家庭 3 2 0 11 月 26 日 熊本県 クエ(魚) その他 3 2 0 45 33 0 計 フグ:21 件中 16 件(内家庭 12 件) 2012 年 3 月に 7 名(死亡 1 名)、7 月に 7 名、10 月に 9 名と多くなってい るが、前者は長崎県でのアオブダイによる 3 名(死亡 1 名)がフグ中毒に重な り、後者は鹿児島県でのバラフエダイによる 7 名が重なったためである。バラ フエダイはサンゴ礁で餌を食べてシガテラ毒を持つことがある。 2012 年の動物性食中毒一覧 発生月日 発生場所 原因食品 施設 摂食者 患者 死者 1 月 11 日 愛媛県 フグ 家庭 1 1 0 1 月 14 日 沖縄県 食事 家庭 4 2 0 2月9日 愛知県 フグ 家庭 2 2 0 3 月 20 日 長崎県 アオブダイ 家庭 6 3 1 3 月 22 日 鳥取県 フグ 販売店 2 1 0 3 月 23 日 福岡県 フグ 販売店 2 2 0 3 月 28 日 北海道 ツブ 家庭 2 1 0 4 月 14 日 広島県 フグ 家庭 1 1 0 4 月 15 日 兵庫県 フグ 家庭 1 1 0 5 月 27 日 沖縄県 食事 家庭 1 1 0 6 月 11 日 大阪府 ヒガンフグ 家庭 1 1 0 7月8日 沖縄県 魚の塩煮 家庭 2 2 0 7月9日 沖縄県 食事 家庭 3 3 0 7 月 16 日 鳥取県 エゾボラモドキ 家庭 4 2 0 8 月 27 日 沖縄県 魚の味噌汁 家庭 12 3 0 9月9日 福岡県 魚の煮物 家庭 1 1 0 10 月 14 日 香川県 フグ 家庭 1 1 0 10 月 28 日 鹿児島県 バラフエダイ 家庭 9 7 0 10 月 30 日 愛知県 マフグ 家庭 2 2 0 11 月 18 日 大分県 ヒガンフグ 家庭 1 1 0 -9- 11 月 19 日 大阪府 白バイ貝 家庭 1 1 0 11 月 19 日 山口県 コモンフグ 家庭 2 1 0 11 月 28 日 滋賀県 バイ貝 家庭 2 2 0 12 月 2 日 岡山県 フグ 家庭 1 1 0 12 月 14 日 大分県 シマフグ 家庭 1 1 0 12 月 16 日 福岡県 クサフグ 家庭 5 2 0 12 月 17 日 沖縄県 蟹汁 家庭 3 3 0 73 49 1 計 フグ:27 件中 14 件(内家庭 12 件) いずれの年もフグ中毒が多く、2012 年 27 件中 14 件(内家庭 12 件)、2013 年 21 件中 16 件(内家庭 12 件)、2014 年 31 件中 27 件(内家庭 19 件)、2015 年 36 件中 28 件(内家庭 21 件)だった。釣り人がフグを自宅に持ち帰らないこ とで、フグ中毒の大半を防ぐことができる。また、販売店で丸ごとのフグが陳 列されていることがあり、これも止めるべきである。フグの肝臓は有毒部位で あり、天然や養殖に関わらずその販売や提供は食品衛生法に基づき認められて いない(厚労省)以上、丸ごとのフグの販売は違法である。また、フグ調理師 の免許がないか、免許保持者が不在の時に客に提供することも違法である(フ グの取扱いに係る監視指導の強化について)。これらのことを徹底することによ って、食中毒による死亡を半数以下に減らすことができる。 (つづく 2016/3/2) 植物性食中毒の概要 植物性食中毒はキノコによるものが圧倒的に多く秋に集中するが、春から夏 の山菜取りでも事故が多発している。有毒種と食べられる種を見分ける能力は、 野生動物が有毒植物を食べないことから考えると、狩猟採取時代の古代人と比 べて現代人は退化していると思われる。特徴的な花が咲いている時期を除いて、 形、手触り、匂い、味などから有毒種を見分けることは、現代人には不可能で ある。食用とされているオニユリ、コオニユリ、ヤマユリ、カノコユリなどの 球根は「ユリ根」として食用で販売されているが、西洋ユリ グロリオサの球 根を食べて 2007 年に静岡県で 1 名死亡、2006 年に高知県で 1 名死亡している。 観賞用に栽培していたヤマノイモと間違えたとされているが、球根は全く異な る形をしている。ユリ科に属する園芸植物には、イヌサフランなど有毒種が多 い。 「ジャガイモの芽や緑になった皮は食べてはいけない」という常識がなくな っており、学校での中毒事故が後を絶たない(厚労省、自然毒のリスクプロフ ァイル) 。2015 年 1 月に奈良県の学校でジャガイモによる 31 名の患者が記録さ れたが、9 月にも岡山県の学校で発生している。2014 年~2012 年も各 3 件のジ - 10 - ャガイモによる中毒が発生し、その内 3 件は学校で起きた。授業で栽培したも のを食べることは「食育教育」として褒められることだが、教師に常識がない ために事故が起きた。家庭で料理を手伝うことがなくなったことによって、高 等教育を受けた教師ですら安全性に係る基礎知識が育っていない。 2015 年は、9 月と 10 月以外に、1 月が 35 件と多く、6 月と 9 月に各 1 名 の死亡があった。 植物性食中毒患者数(死亡)の月別比較(2012~2015 年) 月 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 平均 1 3 0 0 35 9.5 2 3 0 0 5 2.0 3 2 4 4 1 2.8 4 6(2) 2 13 4 6.3 5 5 3 15 17 10.0 6 13 5 3(1) 7.0 7 2 24 14 0 13.3 8 0 1 8 2 2.8 9 14 45 36(1) 72(1) 41.8 10 160 56(1) 40 30 71.5 11 8 8 8 4 7.0 12 2 3 93 0 25.5 計 218(2) 151(1) 231(1) 173(2) 194.3(6) キノコ:56 件中 37 件(内家庭 35 件) 植物性食中毒はキノコによるものが圧倒的に多く、2015 年は 56 件中 34 件 を占め、その内 35 件が家庭で発生した。9 月から 10 月に集中していた。種が 特定されていないキノコが 12 件と圧倒的に多く、ツキヨタケが 10 件、クサウ ラベニタケが 6 件、テングタケが 3 件とそれに続き、イッポンシメジ、ドクサ サコ、カキシメジ、カブラアセタケが各 1 件であった。 キノコ種類別にみると、ツキヨタケ 29%、クサウラベニタケ 14%、テング タケ属 6%であり、この 3 種類の毒キノコで全体の約 5 割を占めていると東京都 はまとめている。有毒かどうかの様々な見分け方が伝えられているが、いずれ も根拠がなく、食中毒を増やす役割を果たしている。ツキヨタケは夜間光って いるが、採取する昼間は役に立たない知識であり、食用のシイタケやムキタケ と区別が難しい。クサウラベニタケはシメジ類と似ており、それらの特徴は厚 労省の自然毒のリスクプロファイルにまとめられている。ただし、それらを読 - 11 - み、図鑑を持ってキノコ狩りに行けば、ほぼ確実に見誤って食中毒を起こすだ ろう。素人が図鑑で鑑別できるような際立った差異はない。 キノコ狩りから帰って、知人や近所に分けてはならない。自分が死ぬのはま だしも、無関係の者が食中毒で死亡した事例が過去にあり、悔やんでも悔やみ 切れないことになる。 2015 年の植物性食中毒一覧 発生月日 病因物質 発生地 施設 摂食者 患者 死者 1 月 16 日 チョウセンアサガオ 福島県 家庭 4 4 0 1 月 22 日 ジャガイモ 奈良県 学校 51 31 0 2 月 15 日 チョウセンアサガオ 茨城県 家庭 3 3 0 2 月 24 日 スイセン 岡山県 家庭 2 2 0 3月2日 スイセン 新潟県 家庭 1 1 0 4 月 13 日 スイセン 岡山県 家庭 3 3 0 4 月 16 日 ハシリドコロ 埼玉県 家庭 1 1 0 5月1日 バイケイソウ 埼玉県 家庭 5 5 0 5月1日 ユリ科 東京都 家庭 2 2 0 5月7日 スイセン 福島県 販売店 2 2 0 5 月 10 日 レンゲツツジ 新潟県 家庭 1 1 0 5 月 27 日 バイケイソウ 埼玉県 家庭 7 7 0 6 月 21 日 イヌサフラン 札幌市 家庭 1 1 1 6 月 23 日 イボテングタケ 神奈川 家庭 1 1 0 6 月 27 日 カブラアセタケ 鳥取県 家庭 2 1 0 8 月 22 日 スイセン 北海道 家庭 2 2 0 9月8日 テングタケ 北海道 家庭 2 1 0 9月9日 キノコ 秋田県 家庭 2 2 0 9 月 10 日 ジャガイモ 岡山県 学校 12 10 0 9 月 10 日 クワズイモ 熊本県 家庭 1 1 0 9 月 12 日 キノコ 秋田県 家庭 3 3 0 9 月 12 日 クサウラベニタケ 茨城県 家庭 2 2 0 9 月 13 日 キノコ 秋田県 家庭 1 1 0 9 月 13 日 クサウラベニタケ 山形県 家庭 1 1 0 9 月 14 日 キノコ 岩手県 家庭 4 4 0 9 月 14 日 クサウラベニタケ 岡山県 家庭 4 4 0 - 12 - 9 月 14 日 クワズイモ 福岡県 家庭 1 1 0 9 月 15 日 クサウラベニタケ 山形県 家庭 1 1 0 9 月 15 日 ツキヨタケ 山梨県 家庭 6 6 0 9 月 15 日 クサウラベニタケ 広島県 家庭 4 4 0 9 月 17 日 キノコ 青森県 家庭 1 1 0 9 月 17 日 キノコ 秋田県 家庭 2 2 0 9 月 17 日 イッポンシメジ 石川県 家庭 2 2 0 9 月 19 日 テングタケ 北海道 家庭 2 2 0 9 月 20 日 テングタケ 札幌市 家庭 1 1 0 9 月 22 日 イヌサフラン 山形県 家庭 1 1 1 9 月 23 日 ツキヨタケ さいたま市 家庭 2 2 0 9 月 23 日 ツキヨタケ 岡山県 家庭 5 5 0 9 月 24 日 ツキヨタケ 宇都宮 家庭 5 3 0 9 月 26 日 クサウラベニタケ 新潟県 旅館 8 8 0 9 月 29 日 キノコ 石川県 家庭 2 2 0 9 月 30 日 ツキヨタケ 大分県 家庭 2 2 0 10 月 1 日 ツキヨタケ 兵庫県 家庭 不明 3 0 10 月 2 日 ツキヨタケ 山形県 家庭 2 2 0 10 月 2 日 キノコ 福島県 家庭 1 1 0 10 月 2 日 キノコ 鳥取県 家庭 4 4 0 10 月 3 日 キノコ 福島県 その他 1 1 0 10 月 4 日 キノコ 秋田県 家庭 1 1 0 10 月 4 日 キノコ 群馬県 家庭 2 2 0 10 月 9 日 ドクササコ 山形県 家庭 2 1 0 10 月 9 日 ツキヨタケ 山形県 家庭 5 1 0 10 月 11 日 ツキヨタケ 新潟県 家庭 不明 1 0 10 月 13 日 ミネシメジ 茨城県 家庭 6 5 0 10 月 19 日 ツキヨタケ 長野県 家庭 3 3 0 10 月 19 日 カキシメジ 岐阜県 家庭 6 5 0 11 月 1 日 スイセン 静岡県 家庭 4 4 0 202 173 2 計 キノコ:56 件中 37 件(内家庭 35 件) 2015 年 5 月に 17 名と多かったのは、埼玉県で 2 件 12 名がバイケイソウで 中毒したことによる。芽出し期の姿が山菜として賞味されるオオバギボウシや - 13 - ギョウジャニンニクとよく似ているため、毎年のように誤食して中毒する事例 が発生している。スイセンによる中毒も冬から春に 6 件発生した。葉がニラと、 球根がタマネギと間違えられるという。6 月に札幌市、9 月に山形県で発生した イヌサフランによる中毒では、2 名とも死亡している。春から夏場に山菜と間違 え、冬には球根をジャガイモやタマネギと間違えるというが、形がずいぶん違 っている。 2014 年は、毒キノコが 48 件中 23 件(内家庭 19 件)を占め、患者数は北 海道の学校で 93 名がジャガイモ中毒になった 12 月が際立って多く、9 月と 10 月以外に、4 月と 5 月、7 月が 10 名を超えた。 9 月にはイヌサフランで 1 名が死亡した。4 月にスノーフレークによる 2 件 の事故が発生し、5 名が発症した。スノーフレークは、外来の園芸植物で、花が スズランに似て、草姿がスイセンに似るのでスズランズイセンという和名がつ いている。葉がニラに似ているため間違えるが、臭いでニラとの区別は容易だ という。趣味の園芸で、庭や畑に作物と園芸植物を一緒に栽培することは間違 いの基であり、様々な種類を植えることは楽しみのためとはいえ、慎むべきで あろう。 10 月にヨウシュヤマゴボウ中毒が発生した。ヨウシュヤマゴボウは北アメ リカ原産ではあるが、帰化植物として国内に広く自生しており、根を食用のモ リアザミと間違える。食用の「ヤマゴボウ」は、アザミの一種モリアザミまた は野菜のゴボウの根であり、在来種のヤマゴボウも有毒である。 2014 年の植物性食中毒一覧 発生月日 発生場所 原因食品 原因施設 摂食者 患者数 死者数 3 月 19 日 島根県 スイセン 家庭 4 4 0 4 月 10 日 愛知県 スノーフレーク 家庭 3 3 0 4 月 12 日 新潟県 ヒメザゼンソウ 家庭 1 1 0 4 月 13 日 茨城県 スイセン 家庭 1 1 0 4 月 13 日 静岡県 バイケイソウ 家庭 2 2 0 4 月 14 日 兵庫県 スイセン 家庭 2 2 0 4 月 15 日 広島県 スノーフレーク 家庭 3 2 0 4 月 24 日 石川県 バイケイソウ 家庭 1 1 0 4 月 29 日 福島県 バイケイソウ 家庭 1 1 0 5月2日 広島県 バイケイソウ 家庭 2 2 0 5月4日 岐阜県 スイセン 家庭 5 5 0 5月7日 山形県 スイセン 家庭 4 4 0 - 14 - 5月8日 島根県 スイセン 家庭 2 2 0 5 月 12 日 青森県 チョウセンアサガオ 家庭 2 2 0 6 月 15 日 富山県 コバイケイソウ 家庭 3 2 0 7月7日 奈良県 ヒョウタン 家庭 1 1 0 7 月 18 日 石川県 ジャガイモ 学校 45 9 0 7 月 18 日 福井県 ジャガイモ 学校 31 4 0 8 月 26 日 長野県 テングタケ 家庭 1 1 0 8 月 29 日 福島県 キノコ 家庭 3 3 0 9月5日 静岡県 イヌサフラン 家庭 1 1 1 9 月 18 日 福島県 キノコ 家庭 3 3 0 9 月 19 日 神奈川県 ツキヨタケ 家庭 3 3 0 9 月 20 日 滋賀県 ツキヨタケ 販売店 16 15 0 9 月 21 日 京都府 ツキヨタケ 家庭 2 2 0 9 月 28 日 富山県 キノコ その他 2 2 0 9 月 28 日 長野県 ツキヨタケ 家庭 2 2 0 9 月 29 日 埼玉県 ツキヨタケ 家庭 8 7 0 9 月 30 日 新潟県 ツキヨタケ 家庭 1 1 0 10 月 2 日 東京都 ヨウシュヤマゴボウ 家庭 1 1 0 10 月 5 日 北海道 テングタケ 家庭 3 3 0 10 月 6 日 北海道 ヒメアジロガサモドキ 家庭 1 1 0 10 月 8 日 北海道 キノコ 家庭 4 4 0 10 月 8 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 5 4 0 10 月 13 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 3 3 0 10 月 16 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 5 4 0 10 月 18 日 山形県 ツキヨタケ 販売店 2 2 0 10 月 19 日 京都府 ツキヨタケ 家庭 8 8 0 10 月 24 日 新潟県 ツキヨタケ 飲食店 8 8 0 10 月 26 日 石川県 ツキヨタケ 家庭 1 1 0 10 月 26 日 福井県 ツキヨタケ 家庭 2 2 0 10 月 30 日 山形県 ハイイロシメジ 家庭 10 1 0 11 月 4 日 愛知県 スイセン 事業場 5 5 0 11 月 7 日 神奈川県 自家栽培植物 家庭 1 1 0 11 月 14 日 茨城県 タマネギモドキ 家庭 1 1 0 11 月 17 日 佐賀県 クワズイモ 家庭 1 1 0 12 月 9 日 富山県 キノコ 事業場 7 4 0 - 15 - 12 月 19 日 計 北海道 ジャガイモ 学校 キノコ:48 件中 23 件(内家庭 19 件) 147 93 0 370 235 1 2013 年は、毒キノコが 50 件中 37 件(内家庭 35 件)を占め、患者数は 7 月が 24 名と多かった。大阪の学校でヒョウタンによる食中毒が発生したためで ある。この事例では、校長の事前制止にもかかわらず、教諭が理科授業中に食 べさせたことで、その日のうちに懲戒免職となったと報じられている。2014 年 7 月に奈良県の家庭でも起きており、干瓢の原料となるユウガオと同じウリ科の 植物であるヒョウタンを食べられると思っている者がいるようだ。「同じ科だ から大丈夫」ではないから、様々な自然毒中毒が発生していることを理解しよ う。3 月にドクゼリの誤食が発生したが、食用となるセリと類似しているものの、 深く切れ込んだ鋸歯をもつことから触ると平滑なセリと区別できる。食用セリ の独特の香りとも異なる。クワズイモの中毒も発生しているが、外形(葉、葉 柄)がサトイモと酷似しているため間違い易い。このような近縁種であっても 有毒と無毒に分かれる。 2013 年の植物性食中毒一覧 発生月日 発生場所 原因食品 施設 摂食者 患者数 死者数 2 月 13 日 東京都 クワズイモ その他 1 1 0 3 月 31 日 新潟県 ドクゼリ 家庭 9 4 0 4 月 29 日 奈良県 山菜 家庭 6 2 0 5 月 20 日 山形県 トリカブト 家庭 1 1 0 5 月 22 日 新潟県 ゆで野菜 家庭 2 2 0 6月3日 石川県 イヌサフラン 家庭 2 2 0 6 月 11 日 大阪府 ジャガイモ 学校 24 4 0 6 月 23 日 北海道 イヌサフラン 家庭 2 1 0 7月1日 新潟県 野菜の煮浸し 家庭 11 4 0 7月2日 大阪府 ヒョウタン 学校 29 16 0 7 月 18 日 東京都 ジャガイモ 学校 12 4 0 8 月 25 日 神奈川県 ジャガイモ 飲食店 2 1 0 9月8日 広島県 ドクカラカサタケ 家庭 1 1 0 9 月 10 日 北海道 キノコ 家庭 2 2 0 9 月 16 日 群馬県 キノコ 家庭 9 9 0 9 月 22 日 福島県 キノコ 家庭 1 1 0 9 月 23 日 山梨県 ツキヨタケ 家庭 9 9 0 - 16 - 9 月 25 日 長野県 キノコ 家庭 2 2 0 9 月 25 日 岡山県 テングタケ 家庭 1 1 0 9 月 25 日 沖縄県 野草茶 製造所 2 2 0 9 月 27 日 埼玉県 キノコ 家庭 2 2 0 9 月 28 日 国内不明 イボテングタケ 不明 4 3 0 9 月 29 日 新潟県 キノコ その他 8 7 0 9 月 29 日 長野県 キノコ 家庭 3 3 0 9 月 29 日 静岡県 キノコ 家庭 2 1 0 9 月 30 日 北海道 ニセアセタケ 家庭 4 2 0 10 月 3 日 兵庫県 ツキヨタケ 家庭 6 4 0 10 月 5 日 熊本県 キノコ 家庭 1 1 1 10 月 6 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 4 4 0 10 月 6 日 茨城県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 8 日 埼玉県 キノコ 家庭 6 4 0 10 月 9 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 1 1 0 10 月 10 日 富山県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 11 日 神奈川県 家庭 2 2 0 10 月 13 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 3 3 0 10 月 13 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 5 5 0 10 月 13 日 福島県 キノコ 家庭 3 3 0 10 月 13 日 新潟県 キノコ 家庭 3 2 0 10 月 13 日 富山県 キノコ 家庭 1 1 0 10 月 13 日 京都府 ツキヨタケ 家庭 7 7 0 10 月 14 日 新潟県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 18 日 鳥取県 キノコ 家庭 5 5 0 10 月 21 日 鳥取県 キノコ 家庭 1 1 0 10 月 22 日 新潟県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 24 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 5 5 0 11 月 12 日 埼玉県 キノコ 家庭 2 2 0 11 月 14 日 石川県 ツキヨタケ 家庭 2 2 0 11 月 22 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 2 2 0 12 月 5 日 秋田県 キノコ 家庭 2 2 0 12 月 17 日 富山県 ツキヨタケ 家庭 2 1 0 222 152 1 計 ヒョウモンクロシ メジ キノコ:50 件中 37 件(内家庭 35 件) - 17 - (つづく 2016/3/4) 2012 年は、毒キノコが 70 件中 53 件(内家庭 46 件)を占めた。患者数は、 9 月と 10 月のキノコ中毒多発以外に、4 月にトリカブトによる 2 名の死亡があ り、6 月は 10 名を超えた。 トリカブト中毒は 6 月にも発生し、2013 年 5 月にも発生があった。平安時 代の烏帽子に似ている花から開花時期には判るだろうが、芽生え時期の葉は食 用野草のニリンソウと酷似しているので間違ってしまう。古くから毒矢に使用 するなど猛毒で知られており、日本には約 30 種が自生しているという。球根、 葉、茎だけでなく、蜜や花粉も有毒であり、蜂蜜による中毒例が報告されてい ることから、養蜂家はトリカブトが自生している所では蜂蜜を採集しないか開 花期を避けるという。このような猛毒の野草もあることから、 「山菜狩りは命が け」であり、気楽に行うものではない。 チョウセンアサガオは、根をゴボウと、つぼみをオクラと、葉をモロヘイヤ と、種子をゴマと間違えるので、年間を通して中毒が発生し得る。インド原産 だが、江戸時代前期に薬用として導入され広く栽培されたため、現在は栽培さ れていなくても野生化して全国に分布している。 2012 年の植物性食中毒一覧 発生月日 発生地 原因食品 原因施設 摂食者 患者数 死者数 1 月 15 日 島根県 藤の実 家庭 5 3 0 2月3日 不明 ジャガイモ 不明 3 3 0 3 月 19 日 広島県 チョウセンアサガオ 家庭 2 2 0 4月7日 北海道 トリカブト 家庭 3 3 2 4 月 14 日 滋賀県 バイケイソウ 家庭 2 1 0 4 月 26 日 山形県 スイセン 家庭 1 1 0 4 月 27 日 山形県 スイセン 家庭 1 1 0 5 月 20 日 北海道 スイセン 家庭 5 5 0 6月4日 北海道 トリカブト 家庭 2 1 0 6 月 26 日 埼玉県 ジャガイモ 事業場 33 12 0 7 月 15 日 長野県 ヒカゲシビレタケ 家庭 2 2 0 9月4日 岩手県 ジャガイモ 学校 26 13 0 9 月 26 日 北海道 キノコ 家庭 3 1 0 10 月 2 日 富山県 すまし汁等 家庭 2 2 0 10 月 3 日 高知県 飲食店 5 5 0 10 月 5 日 和歌山 キノコ 事業場 2 2 0 10 月 5 日 和歌山 キノコ 事業場 4 3 0 - 18 - 10 月 6 日 福島県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 8 日 山形県 クサウラベニタケ 家庭 1 1 0 10 月 8 日 福島県 キノコ その他 4 4 0 10 月 8 日 福岡県 ツキヨタケ 家庭 4 4 0 10 月 9 日 群馬県 キノコ 家庭 1 1 0 10 月 10 日 福島県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 10 日 茨城県 ツキヨタケ 家庭 2 2 0 10 月 11 日 鳥取県 キノコ 家庭 4 2 0 10 月 13 日 山形県 クサウラベニタケ 家庭 3 3 0 10 月 13 日 茨城県 イボテングタケ 家庭 2 2 0 10 月 14 日 秋田県 キノコ 家庭 9 9 0 10 月 14 日 山形県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 15 日 秋田県 クサウラベニタケ 家庭 7 6 0 10 月 15 日 大阪府 キノコ 家庭 1 1 0 10 月 16 日 山形県 クサウラベニタケ 家庭 1 1 0 10 月 16 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 3 3 0 10 月 16 日 新潟県 キノコ 採取場所 6 6 0 10 月 16 日 滋賀県 ツキヨタケ 家庭 2 1 0 10 月 17 日 山形県 クサウラベニタケ 家庭 2 2 0 10 月 17 日 山形県 クサウラベニタケ 家庭 5 3 0 10 月 18 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 5 5 0 10 月 18 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 6 5 0 10 月 19 日 福島県 キノコ 家庭 1 1 0 10 月 20 日 新潟県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 20 日 石川県 ツキヨタケ 家庭 6 5 0 10 月 20 日 福井県 ツキヨタケ 家庭 1 1 0 10 月 21 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 4 4 0 10 月 21 日 茨城県 クサウラベニタケ 家庭 2 2 0 10 月 21 日 新潟県 キノコ 家庭 3 3 0 10 月 21 日 富山県 すき焼き 家庭 3 3 0 10 月 21 日 富山県 ツキヨタケ 家庭 1 1 0 10 月 21 日 石川県 ツキヨタケ 家庭 1 1 0 10 月 22 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 4 4 0 10 月 22 日 山形県 ツキヨタケ 事業場 8 8 0 10 月 22 日 岐阜県 ツキヨタケ 家庭 6 4 0 - 19 - 10 月 22 日 三重県 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 24 日 秋田県 キノコ 飲食店 5 5 0 10 月 24 日 富山県 海鮮鍋 家庭 7 6 0 10 月 24 日 兵庫県 ツキヨタケ 家庭 2 2 0 10 月 24 日 兵庫県 ツキヨタケ 家庭 4 4 0 10 月 27 日 愛知県 ツキヨタケ 家庭 1 1 0 10 月 28 日 青森県 ツキヨタケ 家庭 4 4 0 10 月 28 日 青森県 ツキヨタケ 家庭 1 1 0 10 月 28 日 山形県 ツキヨタケ 家庭 3 3 0 10 月 28 日 長野県 ツキヨタケ 家庭 2 2 0 10 月 29 日 北海道 キノコ 家庭 2 2 0 10 月 29 日 山形県 ドクササコ 家庭 2 2 0 10 月 30 日 長野県 ツキヨタケ 事業場 13 8 0 11 月 1 日 富山県 煮物 家庭 3 3 0 11 月 3 日 群馬県 キノコ 家庭 3 3 0 11 月 5 日 新潟県 きのこ 家庭 2 1 0 11 月 15 日 茨城県 ツキヨタケ 家庭 2 1 0 12 月 7 日 沖縄県 野草茶 製造所 2 2 0 277 218 2 計 キノコ:70 件中 53 件(内家庭 46 件) まとめ 食中毒事故は 2000 年に 2,247 件、患者数 43,307 名、死亡者 4 名だったが、 2014 年には 976 件、患者数 19,355 名、死亡者 2 名へと減少した。この 10 年余 における傾向を家庭と飲食店の総数に占める割合の 4 ヶ年平均で対比してみた。 家庭では件数が 11.1%から 8.7%、患者数は 2.0%から 1.1%へ、死亡者数は 56.3%から 35.7%へと減少した。他方飲食店では、件数は 25.2%から 58.8%、 患者数は 35.7%から 48.1%、死亡者数は 6.3%から 23.8%へと増加した。飲食 店で腸管出血性大腸菌に汚染したユッケを提供して 5 名死亡した事故が大きく 響いている。これからすると、家庭での安全対策が相対的に向上したとも理解 できるが、1 名の死亡当たり患者数は 103 名(237/2.3)となり、飲食店の 7,097 名(10,646/1.5)、全体の 3,511 名(22,118/6.3)を大きく引き離している。家庭 が死亡数に占める割合は 35.7%と依然として大きく、飲食店の 23.8%を引き離 している。しかも、飲食店の数年に 1 度の大事故ではなく、家庭では毎年継続 的に死亡者が出ている。 - 20 - 家庭と飲食店の食中毒発生状況の変化 年 件数 患者数 死亡数 総数 家庭 飲食店 総数 家庭 飲食店 総数 家庭 飲食店 2014 976 79 590 19,355 161 10,264 2 2 0 2013 931 71 549 20,802 169 10,988 1 1 0 2012 1,100 117 614 26,699 332 11,286 11 3 0 2011 1,062 88 640 21,616 285 10,046 11 3 6 平均 1,017 89 598 22,118 237 10,646 6.3 2.3 1.5 % 100 8.7 58.8 100 1.1 48.1 100 35.7 23.8 2003 1,585 144 485 29,355 380 10,871 6 4 0 2002 1,850 183 468 27,629 602 11,874 18 8 1 2001 1,924 205 470 25,732 689 9,792 4 4 0 2000 2,247 311 497 43,307 906 12,448 4 2 1 平均 1,902 211 480 31,506 644 11,246 8.0 4.5 0.5 % 100 11.1 25.2 100 2.0 35.7 100 56.3 6.3 2012 年には製造所で腸管出血性大腸菌に汚染した白菜漬物により 8 名が死亡した。 2011 年には飲食店で腸管出血性大腸菌に汚染したユッケを提供した 5 名が死亡した。 2002 年には栃木県の病院で腸管出血性大腸菌に汚染した昼食により 9 名死亡した。 原因物質別にみると、細菌性食中毒は 2000 年に 1783 件、患者数 32417 名、 死亡者 3 名で、2014 年には 440 件(24.7%)、患者数 7210 名(22.2%)、死亡 者 0 名へと激減した。他方、自然毒食中毒は 2000 年に 113 件、患者数 448 名、 死亡者 1 名で、2014 年には 79 件(69.9%)、患者数 288 名(64.2%)、死亡者 2 名となり、減少幅は細菌性食中毒より小さかった。すなわち、自然毒食中毒の 対策は、細菌性食中毒の対策よりも遅れたことを意味している。 動物性および植物性の食中毒に分けて、この 10 年余における発生状況をま とめ、家庭、学校、飲食店の総数に占める割合を 4 ヶ年平均で対比してみる。 動物性食中毒の年間平均発生件数は、41.8 件から 28.0 件へと、患者数は 76.3 名から 46.8 名へと減少した。家庭が占める割合は、件数(73.6%と 74.1%)お よび患者数(67.5%と 64.2)と大きな変化はなく、依然として大きな割合を占 め続けたが、死亡数は 10 名から 2 名に減少した。飲食店が占める割合は、件数 が 10.8 から 14.3 へと、患者数が 13.4%から 18.2%へと増加した。飲食店の増 加は、その他(各種施設などの事業所、販売所、製造所)の減少と釣り合って いる。学校においては動物性食中毒の発生はなかった。 - 21 - 動物性食中毒 件数 患者数(死亡) 飲食 その 飲食 その 店 他 店 他 0 7 0 20 5(1) 23 0 35(1) 0 4 14 21 14 33 18 0 5 10 2012 22 2 32 23 0 5(1) 4 平均 4.0 3.3 46.8 30.0 0 8.5 8.3 0 14.3 11.6 100 64.2 0 18.2 17.6 37 0 4 5 79 62(2) 0 8 9(1) 44 32 0 5 7 75 54(5) 0 9(1) 12 2001 40 25 0 8 7 76 42(3) 0 21 13 2000 37 29 0 1 7 75 48 0 3 24 平均 41.8 30.8 0 4.5 6.5 76.3 51.5 0 10.3 14.5 % 100 73.6 0 10.8 15.6 100 67.5 0 13.4 19.0 年 総数 家庭 学校 総数 家庭 学校 2015 38 29 2 69 44(1) 2014 31 3 5 53 2013 0 3 4 17 0 3 28.0 20.8 0 % 100 74.1 2003 46 2002 植物性食中毒の発生件数は、65 件から 51.3 件へと、患者数は 287.5 名から 176 名へと減少した。家庭が占める割合は、件数(86.5%と 85.4%)および患者 数(63.7%と 61.4%)と大きな変化はなく、動物性自然毒よりも大きな割合であ った。死亡数も 5 名と 4 名でそれぞれの期間の死亡総数を占めた。飲食店が占 める割合は、件数が 1.5%から 2.0 へと漸増し、患者数は 5.8%から 2.7%へと半 減した。学校が占める割合は、件数(2.7%と 4.9%)、患者数(13.8%と 26.3%) とも倍増していた。学校では多人数による事故となるため、患者数の割合が大 きい。 植物性食中毒 件数 患者数(死亡) 飲食 その 店 他 2 1 39 3 52 44 2012 47 平均 % 年 総数 家庭 学校 2015 58 51 2014 48 2013 飲食 その 店 他 41 5 13 93(1) 106 8 28 152 114(1) 24 1 13 3 139 106 14 5 14 1 4 176.0 108.0 46.25 4.75 17.0 2.0 7.8 100 61.4 26.3 2.7 9.7 総数 家庭 学校 4 178 119(2) 1 5 235 3 1 4 41 2 1 51.3 43.8 2.5 100 85.4 4.9 - 22 - 2003 66 60 1 1 4 229 168(2) 6 41 14 2002 69 64 1 1 3 297 219(1) 6 17 55 2001 49 36 2 1 10 251 140(1) 50 5 56 2000 76 65 3 1 7 373 206(1) 97 4 66 平均 65 56.3 1.8 1.0 6.0 287.5 183.3 39.8 16.8 47.8 % 100 86.5 2.7 1.5 9.2 100 63.7 13.8 5.8 16.6 食中毒による死亡状況 年 総数 家庭 2014 2 2013 細菌性 動物性 植物性 総数 家庭 総数 家庭 総数 家庭 2 0 0 1 1 1 1 1 1 0 0 0 0 1 1 2012 11 3 8 0 1 1 2 2 2011 11 3 10 3 1 0 0 0 2010 0 0 0 0 0 0 0 0 2009 0 0 0 0 0 0 0 0 2008 4 3 1 1 3 2 0 0 2007 7 6 0 0 3 3 4 3 2006 6 4 2 0 1 1 3 3 2005 7 6 1 0 2 2 4 4 2004 5 3 2 1 2 1 1 1 2003 6 4 1 0 3 2 2 2 2002 18 8 11 2 6 5 1 1 2001 4 4 0 0 3 3 1 1 2000 4 2 3 1 0 0 1 1 平均 5.7 3.3 2.6 0.5 1.7 1.4 1.4 1.3 % 100 100 45.3 57.0 100 30.2 20.5 100 24.4 80.8 100 95.2 2012 年には製造所で腸管出血性大腸菌に汚染した白菜漬物により 8 名が死亡した。 2011 年には飲食店で腸管出血性大腸菌に汚染したユッケを提供した 5 名が死亡した。 2002 年には栃木県の病院で腸管出血性大腸菌に汚染した昼食により 9 名死亡した。 2000 年以降の食中毒による死亡状況をまとめると、年平均 5.7 名が死亡し、 細菌性食中毒、動物性食中毒、植物性食中毒によるものがそれぞれ、45.3%、 30.2%、24.4%であった。家庭での死亡数は、細菌性食中毒 0.5 名、動物性食中 - 23 - 毒 1.4 名、植物性食中毒 1.3 名で、それらを合わせて全体に占める割合は 57% に達した。細菌性食中毒、動物性食中毒、植物性食中毒に分けた家庭が全体に 占める割合は、それぞれ、20.5%、80.8%、95.2%であった。すなわち、食中毒 による死亡の過半数以上が家庭で起きており、とくに動物性食中毒と植物性食 中毒の大半は家庭で発生している。すでに見てきた個別事例から、自分で採っ たフグ、キノコ、野草などを食べるのを止めれば、日本で発生する食中毒によ る死亡を半数以下にすることができる。これは不可能なことではなく、消費者 への注意喚起を徹底する、とくに学校教育で植物性食中毒が多発していること を考えると、PTA 活動を通して理解を深めることが重要であろう(その前に、 学校教師に対して保健所の指導が必要である)。 (完 2016/3/7) - 24 -