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Title ビタミンD2散の安定化に関する研究( Abstract_要旨 )
Title Author(s) Citation Issue Date URL ビタミンD2散の安定化に関する研究( Abstract_要旨 ) 高橋, 哲也 Kyoto University (京都大学) 1969-05-23 http://hdl.handle.net/2433/213168 Right Type Textversion Thesis or Dissertation none Kyoto University 【107 】 高 氏) 也) 橋 哲 たか はし てつ や 学 位 の 種 類 薬 学 博 士 学 位 記 番 号 0号 論 薬 博 第 7 学位授与の 日付 昭 和 4 4年 5 月 23 日 学位授与の要件 学 位 規 則 第 5 条 第 2項 該 当 学位 論文題 目 ビタミン D2 散 の安定化 に関す る研究 論文調査 委 員 (主 教 査) 授 掛見善一 郎 教 授 宇 野 豊 三 教 授 岡田寿太郎 ノ 論 文 内 容 の ビタ ミン D 2 (以下 D 2 と略) を含む複合 ビタ ミン剤や D 2錠剤等の剤形で用 い られ る場合 が多いが, D2 要 カ 旨 ルシウム剤な どは, 一般 に散剤, 類粒剤, は変化 しやすい化合物で あるか ら, このよ うな製剤におけ る安定性 にはかな りの問題があるものと思 われ る。 しか し D2 は構造類似のその分解生成物, あるいは ビ タ ミンA などと共存す る場合, D 2 を精度よ く分離定量す ることがむずか しいため, 製剤 中の D 2 の安定性 に関す る研究 は従来 ほとん ど行 なわれていない。 著者 は製剤 中 D 2 の定量法を考案 し, 市販の総合 ビタ ミン剤類の D 2 安定度を しらべ, かな りの含量低 下を示す もののあることを知 ったので, 製剤学 的な立場か ら粉末性製剤 における D 2 の安定性 におよぼす 要因を明 らかに し, さらにその安定化をはか ることを 目的 として本研究を行 な った。 D 2 を散剤 とす る場 令, 希釈に用 いる賦 形剤の種類 によ って D 2 の安定度にはかな りの差があ り, リン酸水素 カルシウムや タ s o c a l c i f e r o l やi s o t a c hys t e r o l ル クなどで希釈す ると D2 の分解 は きわめて速 く, その際酸化分解 のほかにi な ど- の異性化が, かな りの度合で生起 してい ることがわか った。 著者は この異性化現象が, 岡体表面ゐ 酸触媒作用 に起 因す るす るものと考 え, まずD2 およびその異性体類の分離定量化を確立 して, 配合薬剤の 表 面酸性 と D 2 の異性化の関係を定量的に しらべ, 固体表面の酸強度および酸壷 と異性 化速度 との関連, 異性化速度 におよぼす温度, 温度等諸要因の影響を知 るとともに, 異性化の経路, 機構を明 らかに し, ま た安定剤によ る異性化の防止について も検討 した。 〔Ⅰ〕 賦形剤の表面酸性 と D2 の異性化 一般 に粉末製剤のよ うな不均一一 系においては, 薬品の安定性 におよぼす要因が多いので, 分解反応の動 力学的な取 り扱いはむずか しい。 著者は同体の表両酸による D 。 異性化反応の動力学的な解析を容易にす るため, まず嫌気的条件下にお いて, 適 当な濃度の D 2 ヘキサ ン溶液に賦形剤を懸濁 し, これ らとの接触による D 2 の異性化を しらべた 。 s o t a c hys t e r o lへの異性化であ り, 異性化 その結果 このよ うな溶液中における D2 の変化は, お もに i -3 0 2- の初速度は賦 形剤表面 の酸 強度 ( pKa ) および酸 量に文配 され ることを認 めた。 異性 化反応 のみか け活性 化エネルギーは約 25 Kc almol e 1 で ある。 つ ぎに D 2 を月 武形剤で希釈 した散剤 について, ア ンプル中に減圧 ( l潤 mH g ) 下封入 しな るべ く空気を 除 いた条件, および開封 し空気 と接触 させ た条件 (相対湿度 酸 アル ミニ ウム ( pKa5. 6--3. 0 ) , 1% 以下) で安定 度を し らべ ると, 合成 ケイ リン酸水素 カ ル シウム ( pKa0. 8- 1. 5 ), タル ク ( pKa≦1 . 5 ), 疏 酸 カル シウム ( pKa2. 0-3. 3)な どのよ うに表面酸性 の強い賦 形剤で希釈 した場合 は, 減圧 下において も D2 の分解 が著 し く, ( D25 0 mg/ ダ) これは異性化 によ るもので あることがわか った。 た とえば リン酸水素 カル シウム散 では3 7 0 で 3日以 内に約 5 0 % の D2 が異性化す る。 異性化が速 く, このよ うな散剤では空気存在 の もとで も, D 2 また散剤 中の D2 濃度 が希薄 にな るほ ど の分解 は酸化 よ りも主 として異性 化によ っ て進む ことが明 らかにな った。 これ ら異性 化 によ るによ る D 2 の変化は, 散剤 の保存湿度 が高 いほ ど少 な い が, これは吸湿 に伴 な って 賦 形剤表面 の酸性 が低下 し, 異性化遠合 が減少す るためで あ り, 乳糖散 におけるよ うに D2 の酸化分解 が 主で, 異性化を伴 なわないよ うな場合 は湿度 によ る安定度 の差 は少 なか ったO 〔Ⅱ〕 散剤 中の D 2 異性化生成物 と異性化の経路, 機構 リン酸水素 カル シウムによ る D 6/ 歴 qH H。 ぅ I ca lc ife r o l(I) 2 ) 2 およびその異性体類 の主異性 化経 路 +>/Cl ":3H ' 6-cisJsocalcife C H - / H . ,.,H c C 5. r & oca le is l " iso tac h y s terol if e r o l l b 5・ 6一 一 一 t I ・ anS- Cal ci f erol - 30 3- (" Ⅶ t ac暮 ) ' st ero1 J{, u c = II H 3 R 侮 龍 2-1川-23了H 28 C Il H♂ -0t precal ci f ero1 。 I 21 里 I / C軋 . ・・1 : ・) C o H C′ Il IC.ク > 一般 に表面酸強度が pKa4よ りも強い賦形剤 に D2 を配合 した場合の, 主要な分解反応で ある D2 の異 性化について くわ し くしらべた。 なお D2 (Ⅰ)は BF3, SbC1 3, 塩化 アセチルな どによ り i s o c al c i f e r o l (Ⅱ) を経て i s ot a c hys t e r o l(Ⅳ) へ, また ヨウ素 によ り 5. 6 -t r ams -C a l c i f e r o l(Ⅵ) に異性化 され るこ とは従来知 られている。 著者 は D2- リン酸水素 カル シウム散 などについて分解物を しらべた結果, ⅡやⅣのはかににかな り多 量の不明物質が生成 していることを認 めた。 この物質の構造は, 主 としてその物理化学的な性状によ り, . 1 0 1S e C O e r gO S t at e t r a e ne - ( 1:1 0, 5:6, 7:8,2 2:23 )-3 α-0 1 と推 Ⅱの シス異性体 に相当す る 9 . 6 -c i s -i s o c a l c i f e r ol(Ⅱ) と名づける。 定 した。 以下 この新異性体を 5 つ ぎに D 2 の異性化経路を知 るため, 各種のD 2異性体 を リン酸水素 カル シウム ( pKa3. 3-4. 0 ) に配 合 し, それぞれの異性化について調べ ると図に示す ようにな り, D 2 はⅡを経 たのち終局的にはⅣに変化 す ることが明 らかにな った。 異性化の速 さはⅤ - Ⅰ>Ⅵ -Ⅱ>Ⅶ -Ⅱ≫ Ⅰ-Ⅱ> Ⅱ- Ⅱ> Ⅱ- Ⅳである 。 なおⅥやⅦは変化 しやす く, 乳糖 ( pKa4. 0-4. 8) , デンプン ( pKa4. 8-6. 8 )などのよ うに表面酸性 の弱 い賦 形剤 との接触によ って も異性化がお こるが, 以上のよ うな変化は主 として固体表面の Br 6 ns t e d 型酸が関与 し, プロ トンの着脱によ って二重結合 の移動や シス一一トランス立体異性化などの触媒反応が進 行す るもの と推定 された。 〔Ⅱ〕 D 2の異性化におよぼす ビタ ミン類 などの影響 D 2は複合 ビタ ミン剤 中の一成分 として, しば しば他の ビタ ミン類 と配合 され るが, これ らビタミン類 の なかには酸性の ものが多 く, D2 の異性化を促す ことが予想 された。 著者 は D 2 を各種の ビタ ミンで希釈 した散剤 について, 表面酸性 と D 2 の異性化の関係を しらべた。その 結果 アス コル ビン酸, 葉酸, 塩酸 チア ミン, 塩酸 ピ リドキシンなどの粉末は, 水分を含まない状態 におい て も, それぞれ ある程度の表面酸性を示 し, 合成 ケイ酸 アル ミニ ウムや タル クな どの固体酸 と 同 じ よ う に, D2 の異性化を著 し く促進す る場合 のあることを知 った。 また クエン酸, リン酸な どは油脂や ビタ ミンA, D2な どの酸化防止 に, 抗酸化剤 とともにその s yne r gi s t として用 い られ るもので あるが,散剤 において D2 は これ らの酸 との接 触によ り, 5. 6 -c i s -i s oc a l c i f e r o lを 経て i s o t ac hys t e r o1 - と異性化す ることがわか った。 〔Ⅳ〕 D2異性化の防止 OH, キノ リンなどの塩基, あるいはポ リオキシエチレン 一般 にシ リカ- アル ミナのよ うな固体酸に Na 化合物を添加 して表両酸性を低下す ると, 触媒作用が減少す るといわれてい る。 PEG)や エ タノールア ミン類の添加 による D2 異性化の防止効果を し 著者 はポ リエチレング リコール ( CH。 ・過日 ノ - 30 4- \ t di me t hyl a mi no pr o pyl ) mal e i mi de c o po l yme r( SMI ) の添 3 T. t yr e ne -N-( 3 マレイ ミド誘導体 の共重合体, た と え ば s I C/ ので, ア ミン性高分子化合物 についていろいろ検討 した結果, C H 2- C H CH N - H-N /C I n が強いが, 通常その塩基性や不安定性 のため実用上問題が ある t 5 i C- c H = 異性化防止 に適切で あることを認 めた。 ア ミン類 は一般 に効果 十l 耶"" らべ, 水溶性 ビタ ミンを含む複合 ビタ ミン剤な どには PEGが m 加が異性化防止 に きわめて効果的で あることがわか った。 D 2- タル ク散 ( 1才 中D 25mg, 抗酸化剤 B H A lmg を含む) では, 370 で 5日後 に90% のD 2が異性化 した が, この散剤 に1 % の PEG または SMIを添加す ると,3 0日後 において も D2の損失はそれぞれ20% また は 8%にとどまった。 以上著者は D 2 製剤の安定性 に関 し, 精度の高 い D2 定量法を確立 して, 配合薬剤の固体酸 としての性 質 と D2 異性化 との関係を しらべ, 異性 化の経路, 機構を解 明す るとともに, それ らの異性化を防止す る 方法を明 らかにした。 本研究は医薬品製剤の品質 とその保存 に関 し寄与 し得 た もの と考 える。 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 Cal c i f e r ol( VD2) は不安定 な物質で あるにかかわ らず, その安定性 に関す る研究は従来 ほとん ど行 なわ れていない。 殊に製剤 中の安定性 についての報告は見 当た らない。 高橋は製剤 中の VD2 および異性体 の定量法を確立 し, 粉末製剤 における VD2 の安定性 におよぼす要 因を究 明 しその安定化をはか った。 VD2 を散剤 にす るとき賦形剤の種類 によ り, 安定性 にかな りの差があ り, 通常知 られてい る酸化分解 の 他 に異性化が急速 に進行す ることを認 めた。 これは主 として表面酸性度の強い賦形剤で ある天然 ケイ酸 ア ル ミニウム, リン酸水素 カル シウム, タル ク等を用いた際, VD2 は I s oc al c i f e r olを経て I s ot ac hys t e r oュ に変化す るが, その中間物 として VD2 はまず5 , 6- Ci s i s oc al c i f er olを生 じ, それが東 に I s oc al c i f er olに な ることをつ きとめ, この物質の単離 に成功 した。 VD2の異性化に影響を及ぼす ビタ ミン類 として, アス コル ビン酸 葉酸, 塩化チア ミン, 塩酸 ピ リドキ シン等について検討を加 え, また ビタ ミンA や VD2 の酸化防止 のため, 抗酸化剤 として広 く用 い られて い るクエン酸, リン酸等について詳 し く検討を加 えた結果, 表面酸性度によ り著 し く影響 を受 け, 速かに 異性 化が進行す ることを認めた。 この結果異性化の防止にはア ミン類 の効果が著 しいが通例その ものの塩基性 や不安定のため実用 に供 し 難 く, ア ミン性 の高分子化合物で あるスチ レンマレイ ミド誘導体や ポ リエチ レングコール等が有効で ある ことを発見 した。 これ らの物質 は VD2 のみな らず ビタ ミンAの安定化に も頗 る有効で ある。 VD2 製剤の安定性 に関 し, 精度の高 い定量法を確立 し, 配合薬剤の性質 と異性化の関係, 異性化の経路 および機構 を解明 し, 安定剤による異性化防止の方法を明 らかに した もので, 薬剤学の進展に寄与す ると ころが少な くない。 従 って本論文は薬学博士の学位論文 として価値 あるもの と認め る。 -3 0 5-