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運動負荷のバイオメカニクス的考察: スクワット運動における運動様式の

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運動負荷のバイオメカニクス的考察: スクワット運動における運動様式の
Hirosaki University Repository for Academic Resources
Title
Author(s)
運動負荷のバイオメカニクス的考察 : スクワット運
動における運動様式の違いと負荷の関係
遠沢, 和加
Citation
Issue Date
URL
2013-03-22
http://hdl.handle.net/10129/5138
Rights
Text version
author
http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/
運動負荷のバイオメカニクス的考察
-
スクワット運動における運動様式の違いと負荷の関係
Biomechanics Study
on Mechanical Effective Value of Mass Load
in the Squat Movement
国立大学法人
弘前大学大学院
教科教育専攻
保健体育専修
11-GP-217
遠
沢
教育学研究科
和
加
Enzawa Waka
-
目次
Ⅰ
緒言
P1
Ⅱ
方法
P3
Ⅱ ー1 被験 者
P3
Ⅱ ー2 スク ワ ット 運動 の 運動 様 式
P3
Ⅱ ー3 運動 負 荷の 算出
P4
結果
P9
Ⅲ ー1 スク ワ ット 運動 に おけ る 質量 負 荷が 身 体に 与 える 力 学的 効 果
P9
Ⅲ
Ⅲ ー2 フル ・スク ワ ット 運 動と ハ ーフ ・スク ワ ット 運 動の 比 較
P13
Ⅲ ー3 ジャ ン プ・ス クワ ッ トの 運 動負 荷
P17
Ⅲ ー4 股関 節 スク ワッ ト と膝 関 節ス ク ワッ ト の比 較
P20
Ⅲ ー5 ジャ ン プ& スト ッ プ動 作 の運 動 負荷
P23
考察
P26
Ⅳ ー1 スク ワ ット 運動 に おけ る 質量 負 荷が 身 体に 及 ぼす 力 学的 効 果
P26
Ⅳ ー2 フル ・スク ワ ット 運 動と ハ ーフ ・スク ワ ット 運 動の 比 較
P27
Ⅳ ー3 ジャ ン プ・ス クワ ッ トの 運 動負 荷 につ いて
P27
Ⅳ ー4 股関 節 スク ワッ ト と膝 関 節ス ク ワッ ト の比 較
P28
Ⅳ ー5 ジャ ン プ& スト ッ プ運 動 につ い て
P28
Ⅴ
まとめ
P29
Ⅵ
参 考 文献
P31
Ⅳ
Ⅰ
緒
言
下半身の基本運動として位置づけられるスクワット運動は、トレーニングの目的によっ
て 様 々 な やり 方 ( 運 動 様式 ) が あ る。 下 肢 筋 群の 「 力 」 の 向上 を 目 指 すの か 、「 パワ ー」
の向上を目指すのかによってバーベル等の重量を変える
14 ) 17 )
ことはもちろん、「股関節ス
クワット」や「膝関節スクワット」と称されるように、意図的に運動姿勢を変えることに
よって異なる部位の筋を鍛えることも可能である
3)
。また、同じ負荷重量であってもジャ
ンプ動作を伴うことでより大きな伸展パワーを誘発することもできるし
6)
、片足でスクワ
ッ ト 運 動 を 行 え ば 、 両 足 ス ク ワ ッ ト と は 異な る レ ジ スタ ン ス ・ト レ ー ニ ング と し て 応用 で
きる
21 )
。
スクワット運動に関する先行研究をみると、バーベル等の負荷重量と身体が受ける実質
的な運動負荷(力学的負荷量)の関係については、島野ら
19 )
が、ハーフ・スクワット運動
を対象に、下肢筋群の筋電図測定を併用しながら、バーベル重量を漸次増加させたときの
股関節トルクと膝関節トルクを調べ、運動中に発揮される最大トルクは、バーベル最大挙
上 重量の 80 %付 近で出現すること、そ して、負荷重量の増加 と股関節まわりの筋活動量
には高い相関関係があることを報告している。
同様な視点から永松ら
17 )
も、膝関節 120 度(クオーター・スクワット)からのスクワッ
ト運動をスミスマシーンを使って行わせ、身体が受ける実質的な負荷量を測定している。
これを最大値でみると、反動動作をつけた場合で被験者の体重を含めた負荷重量の 3.5 ~
4.5 倍、つけない場合で 1.5 ~ 3.5 倍とかなり大きな値になることが示されている。
また、佐々木
18 )
や 新野ら
20 )
は、スクワット運動における足底部の荷重位置と下肢筋群
の緊張配分の関係を調べているが、これらの研究は、見方を変えればスクワット運動にお
ける姿勢の影響について考察したものと言える。つまり、重心を後方踵寄りにおく、ある
いは佐々木の研究のように踵に荷重しやすい補助具を使えば、スクワット運動の下降局面
で膝が前方に出やすくなり、結果的に動きのかたちは「膝関節スクワット」の姿勢となる。
これが、実験結果で示された「膝関節伸展筋に大きな緊張がみられた」理由の一つと考え
られる。
同じく、姿勢の影響を調べた研究の中には、宮田らの「スタンスの違いがスクワット動
作時の筋活動に及ぼす影響」
16 )
についての報告がある。この研究では、スタンスの違いと
下肢筋群の活動量との間に統計的有意差は見い出せなかったが、大内転筋については、ス
-1-
タンスが広がるにつれ、% EMG が上昇する傾向がみられている。
一 方 、 ス ク ワ ッ ト ・ジ ャ ン プ に 関 する 先 行 研 究 をみ る と 、 下肢 の 運 動 機能 そ の も のを 知
る 手 段 と し て ス ク ワ ッ ト ・ジ ャ ン プ を扱 っ て き た もの が 多 い 。分 析 の 対 象と し た 運 動事 例
は、いわゆる「垂直跳」だが、原
6)
や阿江ら
1)
の研究がこれに当たる。スクワット運動に
ジャンプ動作が入る場合と入らない場合では、当然のことながら身体が受ける運動負荷は
異なることが考えられる。しかし、どちらがどれだけ大きいか、負荷の定量的な比較をし
たものは見当たらない。
ス ク ワ ット 運 動 を 力 学的 視 点 で 捉え れ ば 、「 重心 の 上 下動 を 伴 う 運 動」 と 言 い 換え るこ
と が で き る 。 重 心 の 上 下 動 が 生 じ れ ば 、 そ こ に は 必 ず 「 加 重 」、「 抜 重 」 の 様 相 が 時 系 列
で出現する。このため、スクワット運動では、上下動のスピード変化に伴って身体が受け
る 運 動 負 荷 は 常 に 変 わ る こ と に な る 。 こ の よ う な 上 下 動 の 動 き( =ス ク ワッ ト 動 作 )は あ
らゆる運動場面で必然的に現れるものであり、そのかたちも様々なバリエーションがある。
それ故に、スクワット運動に関するこれまでの研究は、多様なアプローチの仕方があった
と考える。
本研究では、まずスクワット運動における質量負荷が動的状態で示す力学的実効値につ
い て 再 考 する と 共 に 、 運動 様 式 の 異な る 「 フ ル・ス ク ワッ ト 」 と 「ハ ー フ・スク ワッ ト」、
「ジャンプ・スクワット」と「ノン・ジャンプ・スクワット」、そして、
「股関節スクワット」
と「膝関節スクワット」の運動負荷の違いを鉛直荷重、パワー、下肢関節トルクの 3 点か
ら比較し、スクワット運動における運動様式の違いと負荷の関係を明らかにすることを目
的としている。また、下肢筋群のパワーアップトレーニングとして提唱された「ジャンプ
&ストップ」運動
15 )
の有効性についても力学的視点から考察を加えたい。
-2-
Ⅱ
方
法
Ⅱ -1. 被験者
本研究の被験者は、女子大学生 3 名である。うち 2 名は日常的にバーベル・スクワット
をトレーニング手段として行っている被験者(投擲競技者)で、もう 1 名は、この 2 名の
被験者に比べ、スクワット運動のトレーニング経験の少ない被験者(短距離競技者)であ
る。この人選の理由は、2 名の投擲競技者のデータからは、日頃トレーニングを行ってい
る者のスクワット運動における運動様式の違いと負荷の関係を探るためであり、実践経験
の少ない短距離競技者のデータは、一般人に様々なかたちのスクワット運動を課した場合
の比較データとして使うためである。
被験者の身体特性並びにスクワット運動におけるバーベル最大挙上重量を表 1 に示す。
表 1:被験者の身体特性
Ⅱ -2. スクワット 運動の運動様式
本 研究 で分 析の 対 象と した スク ワ ット 運動 は 、大 別す ると 、バ ーベル 負荷無 しの「 Non
Barbell Squat」とバーベル負荷有りの「Barbell Squat」 である。 このうち Non Barbell Squat
については、以下の通り、7 種の運動様式で行わせた。
(1)Half Squat:膝関節が約 90 度まで沈み込むスクワット運動。
(2)Full Squat:大腿部のラインが床と平行になるまで沈み込むパラレル・スクワットと殿
部が踵に付くまで沈み込むフル・ボトム・スクワットの中間位置まで沈み込むスクワ
ット運動。
(3)Half Jump Squat: Half Squat に ジャンプ動作を入れたスクワット運動。
-3-
(4)Full Jump Squat: Full Squat に ジャンプ動作を入れたスクワット運動。
(5)Hip Joint Squat: 殿部を後方に引きながら膝関節が前に出ない姿勢で行うスクワット
運動。
(6)Knee Joint Squat: 膝関節をできるだけ前に押し出して行うスクワット運動。
(7)Jump & Stop:ジャンプ・スクワットと基本的には同じ運動様式であるが、着地後の
膝の緩衝動作を極力使わず、膝関節が 90 度付近で下降運動をストップさせる。
また、Barbell Squat に ついては、被験者のバーベル最大挙上重量の 1/3・1/2・2/3 の負荷を
課したときのスクワット運動を上述した Half Squat と Full Squat で 行わせ、Jump Squat につ
いては、被験者の体重にプラスアルファーした負荷の影響をみるために、バーベル最大挙
上重量の 1/3 の負荷条件下でも行った。なお、本研究で被験者に課したスクワット運動は、
すべての運動様式で 10RM(Ten Repetition Movements) の条件で行い、スクワット運動 1
サイクルに要する時間の規定はしていない。
本研究で扱うスクワット運動の運動様式一覧を表 2 に示す。(
使う略称である。
表 2:スクワット運動の運動様式一覧
-4-
)内の表記は本文中で
Ⅱ -3. 運動負荷の 算出
Ⅱ-3-1.スクワット運動における鉛直荷重
運動負荷の力学的効果を力(F)の面から見ると、質量に対する重力(mg)と慣性力(ma)
の合力が実際には作用する。従って、スクワット運動において運動の負荷が力学的に示す
実際の抵抗力、すなわち力学的負荷量 F は、
F = ma + mg
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
としてあらわされる。
Non Barbell Squat の 場合、質量 m は被験者の体質量で、Barbell Squat ではバーベル質量が
これに含まれる。本研究では、映画分析の手法を用いて重心の鉛直変位を求め、これをも
とに運動中の鉛直荷重を算出し、これを力学的負荷量とした。
Ⅱ-3-2.映画分析
図 1:映画分析の手順
ス ク ワ ット 運 動 の ビ デオ 撮 影 は 、被 験者 の側 方 12m の 位 置か ら 60fps( Jump Squat は
300fps) の カ メラ ス ピ ー ドで 行 っ た 。本 研 究 で は 、撮 影 画 像 の二 次 元 解 析を 経 て 運 動中 の
力学的諸量を求めた。
-5-
分析の手順は、図 1 に示したように、撮影したビデオファイル(MOV ファイル)を QT
Converter により、AVI ファイルに変換し、画像解析ソフト Movias Pro を 使って重心算出の
ための座標値を読み取った。その後、読み取った座標値をあらかじめ演算処理を組み込ん
だ Excel のワーク シートに貼り付け、こ のシート上で力学量の 算出とグラフ作成までの一
連の作業を行った。
Ⅱ-3-3.重心の算出
Non Barbell Squat の 場合は、被験者の体重のみが運動負荷となるので、身体重心の動き
を分析すれば負荷の変様がわかる。これに対し、Barbell Squat では、被験者の体重にバー
ベルの重量が加わるため、身体重心とバーベル重心を合成した動きをみなければ負荷の力
学的効果はわからない。
本研究では、松井の内分質量比
13 )
を用い、側方から撮影した画像から身体重心を求め
る 式を作 成した 。図 2 は 、合成 重心算 出のた めの 座標読 み取り ポイン ト(12 点 )を示し
ている。図中にマークされているポイントは以下の通りである。
P1:頭頂部
P2:乳様突起
P3:胸骨上縁部
P4:肩峰
P5:肘関節中点
P6:橈骨茎状突起
P7:中指根部
P8:大転子
P9:膝関節中点
P10:足関節中点
P11:踵骨底部
BarbellShaft
図 2:合成重心算出のための座標読み取りポイント
-6-
図中の身体重心(X,Y)は、P1 ~ P11 の読み取りポイントの座標から
身体重心(X,Y)= 0.0165 × P1 + 0.0448 × P2 + 0.2471 × P3 + 0.0287 × P4
+ 0.0421 × P5 + 0.0208 × P6 + 0.0085 × P7 + 0.3643 × P8
+ 0.1460 × P9 + 0.0625 × P10 + 0.0188 × P11 ・・・・・・・・・・・・・・・(2)
として求め、身体重心とバーベル重心の合成は(3)、(4)式より行った。
合成重心(X)=(x1 × W1 + x2 × W2)/(W1 + W2) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
合成重心(Y)=(y1 × W1 + y2 × W2)/(W1 + W2)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
上式において、(x1,y1)は身体重心の座標、W1 は被験者の体重、(x2,y2) はバーベル重心
の座標、W2 はバーベル重量である。
Ⅱ-3-4.鉛直荷重・パワー・関節トルクの算出
映画分析の座標データから力学的諸量を求める場合、その過程で微分処理が入るとノイ
ズが増幅される。このため、本研究では、座標読み取りの段階で一度フィルターをかけ、
重心の速度と加速度の計算も、微分する元データを二次曲線に最小二乗近似した式を使っ
て、ノイズ軽減のフィルターがかかるようにした。この一連の平滑化処理には「5 点移動
加重平均法」 22) を使った。
これらの処理をして得られた鉛直荷重 F をもとに、運動中に発揮されるパワー P は、
P=F
× V
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
として求め、下肢関節トルクは、合成重心を起点とする鉛直荷重 F の作用線から各関節ま
での距離(l1・l2・l3)を乗じて、
股関節トルク(T1)= F
×
l1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
膝関節トルク(T2)= F
×
l2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
足関節トルク(T3)= F
×
l3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)
-7-
として求めた。(図 3 参照)
図 3:関節トルクの求め方
-8-
Ⅲ
結
果
Ⅲ -1. スクワット 運動における質量負荷が身体 に与える力学的効果
ここでは、スクワット運動における負荷条件を、被験者の体重のみ、max/3、max/2、2max/3
と漸次増加させたときの力学的効果を「鉛直荷重」と「パワー」の視点からみてみる。分
析の対象としたスクワット運動は「Full Squat 運 動」である。(下記写真 1 を参照)
写真 1:動作分析を行った「スクワット運動 1 サイクル」の動き
な お 、 本 研 究 で は 、 被 験 者 の 体 重 と バ ー ベ ル の 最 大 挙 上 重 量 が 異 な る た め 、 F.S( 体 重
のみ)、max/3-F.S、max/2-F.S、 2max/3-F.S と 負荷条件を変えたときに、被験者間の負荷重量
が違ってくる。このため、運動中の力学的効果については、被験者の体重で除した「体重
比」でみることにした。
Ⅲ-1-1.鉛直荷重(力)の視点から
鉛直荷重については、上述した 4 種の負荷条件で行ったスクワット運動 1 サイクルの最
大値、平均値、力積を求めた。表 3 は、スクワット運動を日常的にトレーニング手段とし
て 行っている 2 名の被験者 (投擲競技者:E.W、 Y.M) と、この 2 名よりはトレーニング
と し て の 実 践 頻 度 の 低 い 短 距 離 競 技 者 ( A.A) の 結 果 で あ る 。 表 か ら も わ か る よ う に 、 投
擲競技者の場合、鉛直荷重の最大値は、バーベルを持たない F.S の負荷条件でも体重の 3.5
倍で、この値はバーベル重量が増えるに連れ、順次 5.9、8.3、8.1 倍と増加するが、max/2-F.S
の負荷条件で最も大きい値を示した。この傾向は、数値自体は低くなるものの鉛直荷重の
平均値も同じである。ただ、鉛直荷重の平均値では、最大値にみられるほどの負荷条件間
の違いはなく、体重の約 2 ~ 3 倍の範囲に収まっている。
-9-
表 3:スクワット運動における鉛直荷重(最大値・平均値・力積)の体重比
一方、短距離競技者の結果では、負荷重量が最も大きくなる 2max/3-F.S の条件で、鉛直
荷重のピーク値が体重の 8.7 倍と大きな値を示すが、平均値の負荷条件に対応した変化は
投擲競技者と同じである。ただ、F.S と max/3-F.S の軽い負荷条件では、鉛直荷重の最大値
と平均値は投擲競技者より大きく、バーベルを持たない自重のみの負荷となる F.S でも、
最大値で体重の 4.4 倍、平均値で 2.2 倍もの値を示す。
運動中の力積については、いずれの被験者も、質量負荷の増加に伴って直線的に大きく
なっている。この力積の値は「運動量」として捉えることができるので、スクワット運動
における質量負荷と運動量の関係は正の比例関係にあると言える。
表 3 の結果について、投擲競技者 2 名のデータをグラフ化したものが図 4、短距離競技
者のものが図 5 である。
図 4:鉛直荷重からみた質量負荷が身体に与える力学的効果 (被験者:投 擲競技者)
- 10 -
図 5:鉛直荷重からみた質量負荷が身体に与える力学的効果 (被験 者:短距離競技 者)
Ⅲ-1-2.パワーの視点から
次に、スクワット運動における質量負荷を F.S、max/3、max/2、2max/3 と 漸次増加させた
ときの被験者が発揮するパワーについてみてみる。
図 6 は、max/3 のバーベル重量を用いた Full Squat 運 動で被験者が発揮したパワーの変
化 をプロ ットし たもの であ る(Sub.: E.W) 。この 変化 パター ンは、 スクワ ット運動の運
図 6:スクワット運動におけるパワーの変化(Sub.:E.W,運動様式:max/3-F.S)
- 11 -
動の運動様式が変わっても基本的には変わらない。つまり、スクワット運動前半の沈み込
み動作は、筋の伸張性収縮を伴って受動的にパワーを発揮する時期(符号はマイナス)で
あり、後半の伸び上がり動作は、筋の短縮性収縮による能動的なパワー発揮の時期(符号
はプラス)となる。従って、ここでは、次の 5 つのパワー値についてまとめてみた。
1) Pe-Max :沈み 込み動作にお いて受動的に 発揮されたパ ワーの最大値
2) Pe-Mean : 沈み込み動作 において受 動的 に発揮され たパワーの平均 値
3) Pc-Max
: 伸び上がり動作 において能動的 に破棄された パワーの最大 値
4) Pc-Mean : 伸び上がり 動作におい て能動的に発揮 されたパワーの 平均値
5) |P|-Mean : ス クワット動作 1 サイク ルにおいて発揮 されたパワ ーの平均値
図 7 は、鉛直荷重と同様、これら 5 つのパワー値を被験者の体重で除した「体重比」で
示したもので、図中の数値は投擲競技者 2 名(E.W&Y.M) の平均である。また、図 8 は、
短距離競技者 A.A の結果である。
図 7:スクワット運動における質量負荷とパワーの関係 (被 験者:投擲競技 者)
- 12 -
図 8:スクワット運動における質量負荷とパワーの関係 (被験者:短 距離競技者)
図 7、図 8 の結果から、投擲競技者の場合、いずれのパワー値も max/2-F.S の負荷条件
で最も大きく、短距離競技者では、パワーのピーク値(Pe-Max,Pc-Max)は 2max/3-F.S で 、
パ ワ ー の 平 均 値 ( Pe-Mean, Pc-Mean, |P|-Mean) は max/3-F.S の 負 荷 条 件 で 最 も 大 き く な
っている。また、投擲競技者の F.S を除き、すべての負荷条件において、沈み込み動作時
に発揮される受動的パワーが、伸び上がり動作時の能動的パワーの値を上回ってる。
Ⅲ -2. フル・スクワット 運動とハーフ・スクワット運動の比較
フル・スクワット(写真 2)はハーフ・スクワット(写真 3)に比べ、重心の上下動の動
きが大きく、膝を深く曲げるため大きな運動負荷がかかると言われる。そこで、2 名の被
験者(投擲競技者)を対象に、バーベルを用いない Full Squt( F.S)運動と Half Squat( H.J)
運動、max/3 のバーベル重量を課した max/3-F.S 運動と max/3-H.S 運 動について、力学的視
点から負荷の数量的な比較を行った。
まず、運動中の鉛直荷重(力)について、その最大値、平均値、力積で比較すると、F.S
と H.S の関係では、F.S が最大値で 1.7 倍、平均値で 1.3 倍大きく、力積はほぼ同じ値であ
- 13 -
った。また、バーベルを用いた max/3-F.S と max/3-H.S の 比較では、max/3-F.S が 最大値で 2.3
倍、平均値で 1.3 倍大きく、力積は Non Barbell Squat と 同じく顕著な差はなかった。(図 9
参照)
写真 2:フル・スクワット運動 1 サイクルの動き
写真 3:ハーフ・スクワット運動 1 サイクルの動き
図 9:鉛直荷重からみたフル・スクワットとハーフ・スクワット運動の比較
- 14 -
同様に、フル・スクワット運動とハーフ・スクワット運動をパワー値で比較すると、鉛直
荷重よりも大きな差で「フル・スクワット>ハーフ・スクワット」の関係が認められる。そ
の数値的な差は、F.S と H.S の比較では、Pe-Max、Pe-Mean、Pc-Max、Pc-Mean、|P|-Mean で、
それぞれ 2.3 倍、2.4 倍、2 倍、1.7 倍、2 倍と F.S のパワー値が大きい。バーベルを用いた
max/3-F.S と max/3-H.S の 比較でも、Pe-Max ~|P|-Mean の 各パワー値は、2.4 倍、2.2 倍、1.9
倍、1.6 倍、1.9 倍と max/3-F.S が max/3-H.S を上回る。(図 10 参照))
図 10:フル・スクワットとハーフ・スクワット運動のパワー値の比較
次に、フル・スクワット運動とハーフ・スクワット運動の下肢関節トルクの違いについて
もみてみる。関節トルクの値は、その関節まわりの筋活動量の指標となる。従って、スク
ワット運動において、股関節トルク・膝関節トルク・足関節トルクの相対的な比較をすれば、
各関節間の筋活動量の大小が比較できる。
図 11 は、スクワット運動 1 サイクルの中で出現する関節トルクの最大値についてみた
ものである。バーベルを持たない F.S と H.S を比較すると、股関節トルクで 1.6 倍、膝関
節トルクで 1.2 倍、足関節トルクで 1.9 倍フル・スクワットの方が大きい。バーベル重量が
- 15 -
加わる max/3-F.S と max/3-H.S の比較では、股関節トルク、膝関節トルク、足関節トルクで、
それぞれ 1.8 倍、2.5 倍、3.1 倍と、これもフルスクワットの方が大きく、その差は広がる。
ま た、バーベルを持たな い自重だけのスクワッ ト運動では、F.S、H.S と もに膝関節トルク
の 値 が一 番大 きく、 バーベ ルを持 った max/3-F.S、 max/3-H.S で は、ト ルクの 相対的 大きさ
の順位が変わり、股関節トルクが一番大きな値を示す。(図 11 参照)
関節トルクの平均値も最大値と全く同じ傾向を示し、股関節トルク、膝関節トルク、足
関節トルクの値は、いずれも「F.S > H.S」、
「max/3-F.S > max/3-H.S」の関係であり、Non Barbell
Squat では膝関節が、Barbell Squat では股関節が一番大きなトルクを発揮している。(図 12
参照)
ま た 、 フ ル ・ス ク ワ ッ ト と ハ ー フ ・ス ク ワ ッ ト の負 荷 の 違 いを 関 節 ト ルク の 視 点 から み
る と、バ ーベル を用い たス クワッ ト運動(Barbell Squat) では、バーベ ル重量の増加に伴
い、各関節で発揮するトルクの割合が変化してくる。特にこの傾向はハーフ・スクワット
で強く現れ、バーベル重量が増えると股関節トルクの膝関節と足関節トルクに対する比率
が大きくなった。
図 11:下肢 関節トルクの 最大値からみ たフル・ス クワットと ハーフ・ス クワット運動の 比較
- 16 -
図 12:下肢 関節トルクの 平均値からみ たフル・ス クワットと ハーフ・ス クワット運動の 比較
Ⅲ -3. ジャンプ・スクワ ットの運動負荷
本研究では、Full Squat Jump( F.S.J)と Half Squat Jump( H.S.J)の 2 つの運動様式で被験
者 に ジ ャ ンプ ・ス クワ ッ ト を 行わ せ た 。 そ して 、 ジ ャ ンプ ・ス ク ワッ ト の運 動分 析 は、「 着
地」から「離地」までを 1 サイクルとして行った。(写真 4、写真 5 を参照)
写真 4:フル・スクワット・ジャンプ運動 1 サイクルの動き
写真 5:ハーフ・スクワット・ジャンプ運動 1 サイクルの動き
- 17 -
ここでは、Full Squat( F.S)と Full Squat Jump( F.S.J)、Half Squat(H.S)と Half Squat Jump
( H.S.J)と比較対象の 運動様式を統一して、 スクワット運動にジャ ンプ動作が入った場合
の負荷の力学的効果をみてみる。被験者は前節(Ⅲ-2)と同じく投擲競技者 2 名である。
ま ず 、 鉛直 荷 重 の 最 大値 、 平 均 値、 力 積 の デー タ を 比 較 して み る と 、力 積 だ け はフ ル・
ス クワット、ハーフ・スクワットともにジャンプ動作が入る F.S.J、H.S.J が大きいが、最大
値 は 、 逆 に ジ ャ ン プ 動 作 の 入 ら な い 通 常 の ス ク ワ ッ ト 運 動 ( F.S、 H.S) の 方 が 大 き く な っ
ている。平均値については、フル・スクワットで「F.S > F.S.J」、ハーフスクワットで「H.S
< H.S.J」と大小関係が運動様式で逆転している。(図 13 参照)
図 13:鉛直荷重からみたジャンプ・スクワットの運動負荷
次 に 、 パ ワ ー の 値 を 比 較 し て み る と 、 フル ・ス クワ ッ ト 運 動で は 、 ジ ャン プ 動 作 の入 ら
な い 通 常 の ス ク ワ ッ ト 運 動 ( F.S) の 方 が 、 Pe-Max、 Pe-Mean、 Pc-Max、 Pc-Mean、 |P|-Mean
のすべてで値が大きく、逆に、ハーフ・スクワット運動では、ジャンプ動作が入る H.S.J が
すべてのパワー値で大きくなる。(図 14 参照)
また、ジャンプ・スクワットにおける下肢関節のトルク値は、最大値でみると、フル・ス
クワット運動で、股関節トルク、膝関節トルク、足関節トルクの値がすべて F.S > F.S.J と
な り 、 ジ ャ ン プ 動 作 の 入 ら な い ス ク ワ ッ ト運 動 の 方 が大 き い 値 を 示す 。 ハ ー フ・ス クワ ッ
ト運動も股関節トルクと膝関節トルクについては同じ傾向を示すが、足関節トルクだけは、
ジ ャ ン プ動 作 が 入 ると 大 き く な る。( 図 15 参 照 )
- 18 -
こ れ を ト ルク の 平 均 値 でみ る と 、 F.S
> F.S.J の関係は小さくなり、ハーフ・スクワット運動においては、股関節トルクもジャン
プ動作が入った方が大きくなる。(図 16 参照)
図 14:ジャンプ・スクワット運動で発揮されるパワー
図 15:ジャンプ・スクワット運動で発揮される下肢関節トルクの最大値
- 19 -
図 16:ジャンプ・スクワット運動で発揮される下肢関節トルクの平均値
Ⅲ -4. 股関節スク ワットと膝関節スクワットの 比較
股関節スクワットと膝関節スクワットの違いは、身体を上下動させるときの姿勢が異な
る。股関節スクワットでは、沈み込みの動作で、できるだけ膝が前に出ないよう殿部を後
方に引いた姿勢でスクワット運動を行う。これに対し、膝関節スクワットは、膝を前方に
送り出しながら、殿部をまっすぐ踵に落とすイメージで沈み込み動作を行う。(写真 6 と
写真 7 を参照)
写真 6:股関節スクワット
写真 7:膝関節スクワット
- 20 -
この姿勢制御によって、股関節スクワットでは股関節角度が大きく変化し、膝関節スク
ワットでは膝関節角度が大きく変化する。関節角度が大きく変化する部位は、その関節ま
わりの筋の活動量が増え、結果的に、股関節スクワットでは股関節まわりの筋群に大きな
負荷が加わり、膝関節スクワットでは、膝関節まわりの筋群に大きな負荷が加わることに
なる。
この 2 つのスクワット運動の違いについて、本研究では、トレーニング経験の一番長い
投擲競技者 E.W を被験者として実験を行い、運動中の力学量を比較してみた。
まず、運動負荷の実質的な「力」の値となる鉛直荷重については、股関節スクワット(H.J.S)
と膝関節スクワット(K.J.S)で、最大値、平均値、力積いずれも数値的な差はなく(図 17)、
パワーの値で、膝関節スクワットが股関節スクワットを若干上回っている。(図 18 参照)
股関節スクワットと膝関節スクワットの力学量の違いは、関節トルクで顕著に現れる。
各 関 節 ト ル ク の 最 大 値 を み る と 、 H.J.S で は 股 関 節 ト ル ク が 最 も 大 き く 、 K.J.S で は 膝 関 節
トルクが最も大きくなった。(図 19 参照)
このことはトルクの平均値でみても同じこと
が言えるが、H.J.S では、股関節トルク、膝関節トルク、足関節トルクの順に小さくなり、
足関節トルクの平均値は「0」の値で示している。一方、K.J.S の平均値は、下肢関節すべ
て 0.2 の同じ値であった。(図 20 参照)
図 17:股関節スクワットと膝関節スクワットの鉛直荷重の比較
- 21 -
図 18:股関節スクワットと膝関節スクワットのパワー値の比較
図 19:股関節スクワットと膝関節スクワットの下肢関節トルク(最大値)の比較
- 22 -
図 20:股関節スクワットと膝関節スクワットの下肢関節トルク(平均値)の比較
Ⅲ -5. ジャンプ& ストップ動作の運動負荷
ジャンプ&ストップ動作は、下肢筋群のパワー強化のトレーニング手段として用いられ
る 運 動 で ある 。 同 じ 運 動形 態 で 、 上肢 の パ ワ ー強 化 に は 、「 プッ シ ュ &ス ト ッ プ 」と 呼ば
れる運動がある。ここでは、このジャンプ&ストップ動作の力学的実効値を鉛直荷重とパ
ワーの面からみてみる。比較対象とするスクワット運動は、運動様式の似たバーベルを用
いないハーフ・スクワット(H.S)とハーフ・スクワット・ジャンプ(H.S.J)である。
ジ ャン プ& スト ッ プ動 作は 、基 本 的には H.S.J と 同じ 動きを するが 、着地 後の緩 衝動作
を極力抑え、膝関節角度 90 度付近でからだの沈み込みを一気に静止するところが H.S.J と
は異なる。写真 8 にはジャンプ&ストップ動作の 1 サイクルの動きを示した。
写真 8:ジャンプ&ストップ
- 23 -
以下は、被験者 E.W のジャンプ&ストップ(J&S)、ハーフ・スクワット(H.S)、ハーフ・
スクワット・ジャンプ(H.S.J)について分析した結果である。
まず、鉛直荷重について 3 種のスクワット運動を比較すると、最大値は明らかに J&S が
大きい。データでは力積も一番大きい値を示すが、これは J&S の 1 サイクルに要する時間
が、他の 2 つのスクワット運動より長いためである。これに対し鉛直荷重の平均値は最も
小さい値を示している。(図 21 参照)
同様な比較をパワー値で行うと、J&S では、Pe-Max と Pc-Max の 値が一番大きく、Pe-Mean、
Pc-Mean、|P|-Mean 等の平均値では、H.S、H.S.J と大差はない。つまり、J&S 運動では、受
動 的に発揮されるパワー も能動的に発揮される パワーも、そのピーク値は H.S と H.S.J よ
り大きいと言える。(図 22 参照)
図 21:ジャンプ&ストップ運動における鉛直荷重の最大値・平均値・力積
- 24 -
図 22:ジャンプ&ストップ運動で発揮されるパワー値
- 25 -
Ⅳ
考
察
前節の実験結果を踏まえ、スクワット運動における運動様式の違いと負荷の関係につい
て考察する。
Ⅳー1.スクワット運動における質量負荷が身体に及ぼす力学的効果
通常、レジスタンス・トレーニングでは、個人の最大筋力(Maximum Muscle Strength) や
最 大反復回数(Maximun Repetitions) などを運動処方の基準とし、トレーニングの目的よ
って処方負荷量が決められる。本研究で分析の対象としたスクワット運動では、例えば、
筋力の向上を目的としたトレーニングならば、個人のバーベル最大挙上重量をあらかじめ
調べ、その 2/3 の負荷重量を処方し、筋パワーの向上のためにはバーベル最大挙上重量の
1/3 の負荷重量を処方する。
しかし、スクワット運動における負荷の力学的効果を力の面からみると、質量に対する
重力と慣性力との合力が実際には作用する。また、スクワット運動では、バーベル重量の
他、運動者自身の体重も負荷要素として加わり、その比率も高い。
そこで本研究では、まず、スクワット運動における質量負荷(運動者の体質量+バーベ
ル 質 量 ) を 漸 次 増 加 し た と き の 身 体 が 受 け る 力 学 効 果 に つ い て 、「 力 」 と 「 パ ワ ー 」 の
の視点から分析した。
スクワット運動において、被験者が発揮する「力」と見なすことができる「鉛直荷重」
は、負荷の力学的効果の指標になる最大値、平均値、力積を求めた。このうち力積につい
ては、質量負荷の増加に伴い直線的に増加することがわかった。力積の値は、スクワット
運動における「運動量」として捉えることができる。しかし、本研究ではスクワット運動 1
サイクルの時間を統一していない。このため、すべての負荷条件で運動時間を統一した実
験 を 行 え ば、 力 積 増 加 の傾 き は 変 わる こ と が 考え ら れ る 。 また 、 日 常 的に レ ジ ス タン ス・
トレーニングをしている被験者の場合、鉛直荷重の最大値と平均値は、max/2 のバーベル
重量のときが最も大きく、トレーニング実践頻度の低い被験者とは異なる結果が得られた。
これは、パワーの値についても同じであり、専門的にトレーニングをしている者に対する
運動処方の負荷基準とトレーニング頻度の低い者に対する基準には違いがあることを提起
する結果である。ちなみに、本実験でトレーニングの実践頻度の少ない被験者の場合、鉛
直 荷重は 2max/3、 パ ワーは max/3 の バ ーベル 重量の ときが 最も大きく 、これまでの運動
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処方の理論に合致している。
Ⅳ-2.フル・スクワット運動とハーフ・スクワット運動の比較
フ ル・ス ク ワッ トと ハー フ ・ス クワ ット 運 動を 比較 する と 、鉛 直荷 重、 パ ワー ともに F.S
> H.S の関係が認められ、いずれも最大値において相対的な差が最も広がる。また、スク
ワット運動における質量負荷の増加も F.S > H.S の関係を大にする。
関 節 ト ル ク 面 か ら フ ル・ス ク ワッ ト と ハ ーフ ・ス ク ワッ ト の 違 い をみ る と 、 フル ・スク ワ
ッ ト が ハ ー フ ・ス ク ワ ッ ト に 比 べ 、 股関 節 ト ル ク 、膝 関 節 ト ルク 、 足 関 節ト ル ク 、 いず れ
も F.S > H.S の 関 係 にあ る。 また 、 ハーフ ・スク ワット では、 質量負 荷が増 えると 股関節
ト ル ク の 膝 関 節 ト ル ク と 足 関 節 ト ル ク に 対す る 比 率 が大 き く な る 。こ れ は 、 フル ・スク ワ
ットとハーフ・スクワットの姿勢の違いによるものと思われ、ハーフ・スクワットでは、バ
ー ベ ル 重 量の 増 加 に 伴 って 、「 股 関節 ス ク ワ ット 」 の 運 動姿 勢 に 近 づ くた め だ と 考え る。
Ⅳー3.ジャンプ・スクワットの運動負荷について
ス ク ワ ッ ト 運 動 に ジ ャ ン プ 動 作 が 入 る ジャ ン プ ・ス ク ワ ッ トは 、 通 常 のス ク ワ ッ ト運 動
に比べ、からだを空中に押し上げる跳躍動作と着地時の下肢筋群の伸張性筋収縮があるた
め、大きな負荷がかかると一般的には考えられている。そのため下肢筋群のパワートレー
ニングとしても広く用いられている。ボックス・ジャンプなどはその一例である。しかし、
実験の結果は意外なもので、鉛直荷重と下肢関節トルクは、むしろ、ジャンプ動作を伴わ
な い 通 常 の ス ク ワ ッ ト 運 動 の 方 が 大 き な 値を 示 し 、 パワ ー の 視 点 から 見 て も 、フ ル ・ス ク
ワットの運動では Non Jump Squat > Jump Squat の 関係であり、ハーフ・スクワットの運動
のみ Jump Squat > Non Jump Squat の 関係が認められた。
こ の 理 由 に は 次 の こ と が 考 え ら れ る 。 つま り 、 ジ ャン プ ・スク ワ ッ ト では 、 着 地 時の 衝
撃を和らげるため、運動者が無意識のうちに緩衝動作を入れてしまい、その結果、負荷の
力 学 的 効 果 が 低 く な っ た と 考 え る 。 た だ 、ハ ー フ ・ス ク ワ ッ ト運 動 で は 、一 般 的 な 仮説 を
覆すまでの結果は出ていないので、膝関節の屈曲が少ない、短時間でスクワット動作が完
了 す る 「 ク オ ー タ ー ・ス ク ワ ッ ト 」 など で ジ ャ ン プ運 動 を 行 えば 、 違 っ た結 果 が 得 られ る
可能性はあると考える。
- 27 -
Ⅳー4.股関節スクワットと膝関節スクワットの比較
この 2 つの運動様式の比較では、明瞭な結果が得られた。つまり、股関節スクワットと
膝関節スクワットの間では、鉛直荷重とパワーには差はなく、唯一関節トルクに差がみら
れた。股関節スクワットにおいては、その名の通り、トルクの最大値をみても、平均値を
みても、明らかに股関節トルクの値が膝関節トルクと足関節トルクを上回り、股関節まわ
りの筋活動を誘発することがわかる。一方、膝関節スクワットは、トルクの最大値で膝関
節トルクが有意に大きくなるが、平均値では、各関節トルクの値は横並びで、股関節スク
ワットに比べ、各関節に均等に負荷がかかることがわかった。
Ⅳー5.ジャンプ&ストップ運動について
この運動についても、運動中に発揮されるパワーの最大値は、同じ運動形態のスクワッ
ト運動の中では一番大きな値を示した。ただ、パワーの平均値でみると、比較対象とした
他のスクワット運動との差はない。パワートレーニングとして有効性が、運動中に発揮さ
れ る 最 大 パワ ー に 依 存 する の か 、 平均 値 に 依 存す る の か 、 ここ で は 判 断で き な い が、「 垂
直 跳 び 」 を 筋 パ ワ ー の 評 価 テ ス ト し て 用 い た 理 由 の 一 つ に 、「 跳 躍 高 と 運 動 中 の ピ ー ク ・
パ ワ ー に 高 い 相 関 が あ る 」 11) と い う こ と を 考 え れ ば 、 J&S も パ ワ ー ト レ ーニ ン グ の 手段 と
して有効性が高いと思われる。
- 28 -
Ⅴ
まとめ
ス ク ワ ット 運 動 を 力 学的 視 点 で 捉え れ ば 、「 重心 の 上 下動 を 伴 う 運 動」 と 言 い 換え るこ
とができる。重心の上下動が生じれば、そこには必ず「加重」と「抜重」の様相が時系列
的に出現する。このため、スクワット運動では、上下動のスピード変化に伴って常に運動
負 荷 が 変 わ る こ と に な る 。 こ の よ う な 上 下 動 の 動 き ( =ス ク ワッ ト 動 作 )は あ ら ゆ る運 動
場面で必然的に現れるものであり、そのかたちも様々なバリエーションがある。それ故に、
スクワット運動に関するこれまでの研究は、多様なアプローチの仕方があった。
本研究では、スクワット運動における質量負荷が動的状態で示す力学的実効値について
再考すると共に、運動様式の異なる「Full Squat」と「Half Squat」、
「Jump Squat」と「Non Jump
Squat」、そして、「Hip Joint Squat」 と「Knee Joint Squat」 の運動負荷の違いを、鉛直荷重・
パワー・関節トルクの 3 つの視点から考察し、スクワット運動における運動様式の違いと
負荷の関係を明らかにすることを目的としている。また、下肢筋群のパワーアップトレー
ニングとして行われている「Jump and Stop」 運動の有効性についても力学的視点から考察
を加えた。
その結果、次のようなことがわかった。
1.スクワット運動における質量負荷が身体に与える力学的効果を鉛直荷重でみると、
運動者自身の体重のみが負荷となる Non Barbell Squat で も、平均値で体重の 2 倍、最大
値では体重の 3.5 ~ 4.5 倍の運動負荷がかかる。
2.これに順次質量負荷を増やしていくと、鉛直荷重の平均値は体重の 2 ~ 3 倍に収ま
るが、最大値では体重の 9 倍近い値が出現する。
3.一方、スクワット運動において発揮されるパワーの変化をみると、沈み込み動作で
受動的に発揮されるパワーの値が、伸び上がり動作で能動的に発揮されるパワーよりも
大きくなる傾向にある。
4.また、質量負荷と最大鉛直荷重、最大パワーの関係をみると、被験者のトレーニン
グ頻度によって違いが出た。トレーニング頻度の高い被験者は、バーベル最大挙上重量
の 1/2 の負荷条件で鉛直荷重、パワーとも最大値が現れ、トレーニング頻度の低い被験
者では、バーベル最大挙上重量の 2/3 の負荷条件で、鉛直荷重の最大値が現れ、パワー
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の最大値は、バーベル最大挙上重量の 1/3 の負荷条件で出現している。
5.これは、一般人に対する運動処方と専門的にトレーニングをしている者に対する運
動処方では、その目的が同じであっても負荷設定の基準が異なることを示唆するもので
ある。
6.Full Squat と Half Squat 運動を比較すると、鉛直荷重、パワーともに F.S
> H.S の関
係が認められ、いずれも最大値において相対的な差は最も広がる。また、スクワット運
動における質量負荷の増加も F.S > H.S の関係を大きくする。
7.関節トルクの面から Full Squat と Half Squat の違いをみると、Full Squat が Half Squat
に比べ、股関節トルク、膝関節トルク、足関節トルク、いずれも F.S > H.S の関係にあ
る。
8.また、Half Squat で は、質量負荷が増えると股関節トルクの膝関節トルクと足関節
トルクに対する比率が大きくなる。これは、Full Squat と Half Squat の 姿勢の違いによる
ものと思われ、Half Squat では、バーベル重量の増加に伴って、「Hip Joint Squat」 の運動
姿勢に近づくためだと思われる。
9.Jump Squat 運動における鉛直荷重と下肢関節トルクは、Non Jump Squat > Jump Squat
の関係にある。パワーについても、フル・スクワットの運動では Non Jump Squat > Jump
Squat の関係であり、ハーフ・スクワットの運動のみ Jump Squat > Non Jump Squat の 関係
が認められた。
10.Hip Joint Squat と Knee Joint Squat で は、鉛直荷重とパワーに差はなく、関節トルク
のみに差がみられた。
11.Hip Joint Squat で は、トルクの最大値も平均値も、股関節トルクの値が膝関節トル
クと足関節トルクを上回り、股関節まわりの筋活動を誘発することがわかる。
12.一方、Knee Joint Squat は、トルクの最大値で膝関節トルクが有意に大きくなるが、
平均値では、各関節トルクの値は横並びで、Hip Joint Squat に比べ、各関節に均等に負
荷がかかることがわかる。
1 3.Jump&Stop 運 動で発揮 されるパワーの最大 値は、同じ運動形態の スクワット運動の
中では一番大きな値を示した。ただ、パワーの平均値でみると、比較対象にした他のス
クワット運動との差はなかった。
- 30 -
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