...

Untitled - 科学技術振興機構

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

Untitled - 科学技術振興機構
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
Executive Summary
2000 年以降、各国における研究開発投資が増大する中で、ナノテクノロジー・
材料分野の技術は急速に発展し、
「フードナノテクノロジー」や「ナノフード」といっ
た言葉が近年欧米で生み出されている。欧米諸国では、政府機関や産業界、大学、
一般消費者を含めたシンポジウム等が頻繁に開催され、フードナノテクノ研究の方
向性や、安全性・社会受容についての積極的な対話が始まっており、科学技術の発
展を見据え、今後どのような取り組みが必要であるかについての議論が重ねられて
いる。既に欧州では FP6 および 7 の枠組みにおいて研究プロジェクトを推進し、
米国は農務省主導のもとで研究開発を推進している。一方、日本では、大学等公的
機関や産業界で安全性評価を含めた研究開発が部分的に進められているが、欧米ほ
どの取り組みにはなっていない状況である。我が国は現在、食料自給率は 39%、
農産物については 28%と、いずれも低下する状況にある中、世界的な食料価格高
騰の流れに晒されている。また、食料輸入が増大する中、中国からの冷凍食品輸入
に際しての毒物混入事件は、食の安全に関する新たな問題を投げかけている。
このような背景にあって本検討会では、日本の低い食料自給率を補う食品産業は
あるのかどうか、ナノテクノロジーは食品産業に貢献できる可能性があるのかどう
かについて、
安全性に関する取り組みを含めた日本の研究開発の方向性を議論した。
食品の科学と工学を「ナノテクノロジー」という軸で見たときに、我が国の研究
開発・技術の現状を把握し、個々にどのような技術課題が存在するかを俯瞰するこ
とを、検討会の一つの目的とした。その結果、食品産業の各工程におけるフードナ
ノテクノロジーの研究開発課題は、具体的に以下に整理された。
材料・加工技術:
・食素材のナノ構造体形成技術(界面制御、乳化剤開発)
・食素材の熱・物質移動制御技術
・高濃度・高安定性エマルション作成技術
・固体発酵、培養技術
・食素材別の最適な微細加工技術
・食素材物質の液中高分解能計測技術
製品・機能性:
・脂溶性物質の放出速度制御、包含性能向上と析出防止
・脂溶性物質の生化学的安定性向上
・栄養成分の体内デリバリー技術、生体吸収性制御技術
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
流通・保存:
目 次
・センサ技術(味覚、匂い、腐食、有害成分等の検知技術)
Executive Summary
・ナノタグ(トレーサビリティー技術・システム開発)
・包装材料技術開発(バリア性能向上、酸素吸収包材開発、バイオマス包材開発)
[1]
「フードナノテクノロジー」検討会
1.1 主催者挨拶
田中一宜(JST-CRDS)………………… 1
安全性:
1.2 趣旨説明
・粒子径や分布の測定法開発、毒性評価技術
永野智己(JST-CRDS)…………………
3
・体内動態解析(動態モデル、味覚調節・消化吸収調節)
・安全性/有効性の科学的根拠証明、クリニカル検証
・環境中での加工物質の存在状態(分散状態)推定
・情報提供のインフラ整備、社会・倫理的影響の調査、研究開発の意思決定に関
[2] セッション 1. フードナノテクノロジー
コーディネータ 中嶋光敏(筑波大)
2.1 食品とナノテクノロジー
中嶋光敏(筑波大)……………………… 5
2.2 フードナノテクの国際状況、巨大多国籍企業と日本
わる市民参加の方策検討
佐藤清隆(広島大)……………………
これからの食品産業における、ナノテク・材料技術の有効な活用法を議論した。
12
2.3 日本の取り組み、農水省プロジェクト研究
その結果、微細加工技術や微粒子化技術を用いることによって、より少ない量で高
大谷敏郎(農水省)……………………
21
南部宏暢(太陽化学)…………………
25
い栄養価を得る技術の開発や、そのために必要となる素材評価法の確立が重要視さ
2.4 食べるナノテクノロジー
れた。さらに、長期保存や輸送の観点で重要となる、包装材の高いバリア性能や、
2.5 ナノテクを利用した機能性食品の研究開発
センサ技術による味や匂い、有害成分の検出技術などの発展が期待される。
31
三田浩三(DNP)……………………… 39
須賀哲也(味の素)……………………
ナノテクに限らず、先端技術を食品に利用又は応用する際のパブリックアクセプ
2.6 パッケージによる食品の品質保持
2.7 食品の測定 味覚センサと匂いセンサ
タンスについては、一般社会への情報提供の仕組みの整備及び運用方法の充実、情
2.8 食の安全・安心とナノテク社会受容、消費者の視点
都甲 潔(九州大)……………………
中野栄子(日経 BP) …………………
報提供人材の育成、社会・倫理的影響の調査の必要性が課題として挙げられた。欧
46
54
米では、研究開発にかかわる意思決定に市民の関与・参加を求めていく「アップス
トリームエンゲージメント」が試みられている。これはいわゆる参加型の技術評価
の手法のひとつである。市民との対話を支援する手法を使いながら、どういう技術
や社会を作りたいかを協力して明らかにしていくことが、今後我が国においても重
[3] セッション 2. 全体討論
3.1 論点1.「低い食料自給率を補う食品産業はあるか、ナノテクは食品産業に
どれだけ貢献できるのか、貢献するための課題と戦略」
要な検討事項となる。食品産業には、ナノテクノロジーへの期待とニーズが存在す
る。今後は、医学分野を含めた、ナノテク研究者との連携や、社会科学的な面でも
コメンテータ:稲熊隆博(カゴメ)……………
58
3.2 論点2.「安全、安心、パブリック・アクセプタンスへ向けた課題と方策」
市民との対話を考えながら、この分野における研究開発の取り組みをオールジャパ
コメンテータ:山口富子(国際基督大)………
62
ンで検討していくことが重要であろう。
[4] ま と め ………………………………………………………………………… 64
Appendix(検討会の開催日時・場所、プログラム、参加者の構成) ……………… 66
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 1
[1]
1.1 主催者挨拶
田中一宜(科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー)
科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)は、JST のファンディ
域のオールジャパンの戦略立案をすることを使命とし、2003 年 7 月に設置された。
ナノテクノロジー・材料分野担当グループ(田中 Gr.)では、当該分野の戦略立案の
ため、分野全体を俯瞰して重要な研究領域・分野あるいは方法を切り出し、戦略プロ
ポーザルとして提案して、関係省庁や総合科学技術会議に対して発信している(図
1-1)。
⎇ⓥ㐿⊒ᚢ⇛䈱┙᩺
⎇ⓥ⠪䉮䊚䊠䊆䊁䉞
[3]
2.
ᚢ⇛
䊒䊨䊘䊷䉱䊦
ᶏᄖ䈱⎇ⓥ㐿⊒⁁ᴫ䈫Ყセ䋨G-TeC䋪╬䋩
䋪 Global Technology Comparison
㊀ⷐ⎇ⓥ㐿⊒㗔ၞ䊶⺖㗴䉕♽⛔⊛䈮᛽಴
[4]
ま
と
め
⑼ቇᛛⴚ䈱
ၮ⋚䈱లታ䈫
䊐䊨䊮䊁䉞䉝䈱
᜛ᄢ
㊀ὐ⊛䈮ផㅴ䈜䈼䈐⎇ⓥ㐿⊒㗔ၞ䊶⺖㗴䉕ឭ᩺
1.
全体討論
⑼ቇᛛⴚ᡽╷┙᩺⠪
ஜᐽ䈪ᔟㆡ䈭↢ᵴ䋯቟ో䈪቟ᔃ䈭␠ળ䋯
ቇ⠌䈜䉎␠ળ䋯ᵴജ䈫┹੎ജ䈱䈅䉎࿖䋯
ᜬ⛯น⢻䈭⚻ᷣ⊒ዷ䋯ዅᢘ䈘䉏䉎࿖䋯
⑼ቇᛛⴚ䊥䊷䉻䊷䉲䉾䊒䈪䉝䉳䉝䈫౒↢
[2]
セッ シ ョ ン
⎇ⓥ㐿⊒ᚢ⇛䉶䊮䉺䊷 Center for Research and Development Strategy 䋨CRDS䋩
セッ
ション
フードナノテクノロジー
ングエージェンシーとしての機能強化や、我が国が重点的に推進すべき研究開発領
␠ળ䊎䉳䊢䊮
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
[1] 「フードナノテクノロジー」検討会
⎇ⓥ㐿⊒㗔ၞ䉕ୄ⍑⊛䈮⌑䉄
䇸⎇ⓥ㐿⊒㗔ၞୄ⍑࿑䋨䊙䉾䊒䋩䇹䉕૞ᚑ
図 1-1 JST 研究開発戦略センターにおける研究開発戦略の立案過程
と競争力のある国」「持続可能な経済発展」「尊敬される国」「科学技術リーダーシッ
プでアジアと共生」といった社会ビジョンをもっている。これらに合致する戦略的な
提案を行うことが当センターの重要な使命となる。調査・分析にもとづき、社会的ニー
ズと国家政策の接点に立ち提案していく点が特徴となる。
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
当センターでは、「健康で快適な生活」「安全で安心な社会」「学習する社会」「活力
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 3
2 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
重要研究開発領域や課題を系統的に抽出し、海外の状況を調査し、各種ワークショッ
プを開催するなどして、戦略プロポーザルに仕上げていく。文部科学省への提案だけ
でなく、総合科学技術会議への直接提案なども行っている。
(図 1-2)
1.2 趣旨説明
[1]
永野智己(科学技術振興機構 研究開発戦略センター アソシエイトフェロー)
本検討会は、2007 年度に JST-CRDS のナノテク・材料グループにおいて開催し
㩷㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
ナノテク・材料グループでは、研究開発領域を俯瞰するための俯瞰図を作っている。
た「ナノテク・材料分野俯瞰ワークショップ」において、ナノテク・材料技術による
「食品の第二次、第三次機能の増強」や、「食の安全・安心の確保、トレーサビリティ
欧米では 2002 年以降、「フードナノテクノロジー」や「ナノフード」といった言
葉が生み出され、関連シンポジウムが頻繁に開催されるなど、フードナノテクノロジー
の研究開発の方向性や安全性、社会受容に関する対話が始まっている。既に欧州では
FP6 および 7(The Seventh Framework Programme)の枠組み内で研究プロジェ
クトが推進され、米国では農務省主導のもとで研究プロジェクトが推進されている。
また、産業界では多国籍企業やベンチャー企業がコンソーシアムを形成し、積極的な
セッ
ション
フードナノテクノロジー
技術」などが今後の重要課題であろうとの意見が挙がったことに端を発している。
[2]
1.
研究開発に取り組んでいる。
に進められているが、欧米ほどの取り組みにはなっていない状況である。
日本の食料自給率(2006 年)は、カロリーベースで 39 %、農産物については
28%であり、近年低下している。低い自給率を補う食品産業はあるのかどうか、ナ
みを含めた日本の研究開発の課題と方向性を議論する必要がある。また、先端技術が
利用されることによって生み出される新たな加工食品や食素材、製造システムや新技
㩷
術の展開においては、消費者の視点、健康と安全、環境への配慮が極めて重要な点と
なる。
JST-CRDS のナノテク・材料グループでは、フードナノテクノロジーを「食品及
図 1-2 ナノテクノロジー・材料分野研究開発俯瞰図
び飲料のサプライチェーンにおける各工程(生産・製造、加工、保存、輸送、消費、
今回の検討会は、ナノテクノロジー・材料技術がどのようなかたちで将来貢献し得
廃棄)において利用・応用又は新規に開発されるナノテクノロジー」と定義した上で、
るか、技術の可能性や戦略的見地からの位置づけを俯瞰的に検討する目的がある。ナ
調査・検討を進めてきた。フードナノテクノロジーの研究開発概念を示す。(図 1-3)
[4]
ま
と
め
㩷
2.
全体討論
ノテクノロジーが食品産業に貢献できる可能性を検討したい。安全性に関する取り組
[3]
セッ シ ョ ン
一方、日本では、大学等公的機関や産業界で安全性評価を含めた研究開発が部分的
ノテクノロジー分野の技術的側面や出口だけでなく、分野を推進するための共通基本
課題を盛りこみ、セットで提案していくことが重要と考えている。
Appendix
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
4 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 5
[1]
コーディネータ 中嶋光敏(筑波大学 大学院生命環境科学研究科 教授)
2.1 食品とナノテクノロジー
中嶋光敏(筑波大学 大学院生命環境科学研究科 教授)
フラーレンやカーボンナノチューブの発見などがあるが、食品の分野において特別の成果
があるわけではない。ナノテクノロジーの一般的な定義は「概ね 1 ∼ 100 ナノメートル
の範囲で、そのサイズのために新しい性質や機能を持つ材料や装置、システム」と認識し
ている。一方、食品・バイオ分野におけるナノテクノロジーの定義は「数ナノメートル∼
数マイクロメートルの範囲で対象物や装置の物理構造を制御することで機能性・利用性を
高めたシステムであって、マイクロエンジニアリングも含むもの」と認識している。
図 1-3 フードナノテクノロジーの研究開発概念
Acid、デオキシリボ核酸)マイクロアレイや、マイクロチップ電気泳動装置、またマイ
クロリアクターなどの開発が挙げられる。また、血液レオロジー測定装置が菊池らにより
実用化された。中嶋らはこの装置を応用し、液滴分散系を作ることのできるマイクロチャ
ネル乳液化技術を開発した。同技術は通常の機械的撹拌乳化に比べて、マイルドな方法で
貫通孔型の二層構造が液滴作成に有利である点を見出している。(図 2-1)
㩷
㩷
1.
[3]
2.
全体討論
あり、酸化されやすい脂質系にも応用可能と考えている。装置の設計改良を続け、非対称
[2]
セッ シ ョ ン
㩷
ナノテクノロジーの電子工学分野以外での応用としては、DNA(DeoxyriboNucleic
セッ
ション
フードナノテクノロジー
ナノテクノロジーにはトップダウンとボトムアップの方向性がある。画期的成果には
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
[2] セッション 1. フードナノテクノロジー
ま
と
め
[4]
㩷
Appendix
1
㩷
図 2-1 マイクロチャネル(MC)乳化技術
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
1
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 7
6 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
Fluid Dynamics)が、マイクロ空間の流
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
数値流体力学(CFD、Computational
㩷
[1]
体挙動の解析には有効である。現在、深さ 320 ナノメートルのナノスケールチャネ
ルを用いた分散層/連続層エマルションの作製などを行っている。
(図 2-2)
セッ
ション
フードナノテクノロジー
[2]
1.
図 2-3 食品加工技術とナノテクノロジー
2
2.
全体討論
㩷
図 2-2 長方形貫通型 MC 乳化の CFD 解析
㩷
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
食品加工技術とナノテクノロジーという観点では、乳化、分散、混合などの技術が
ある。また、粉砕、成形、分離、分級、抽出関連の技術もある。マイクロノズル技術
ま
と
め
[4]
を用いたマイクロカプセルの製造なども行われている。殺菌、加熱制御技術は、マイ
クロ熱交換機やマイクロ・ナノバブルに用いられている。
(図 2-3)
ナノテクノロジーを活用した食品品質保持・安全技術も課題である。例えば青果物・
魚類等の鮮度保持では、ガス置換包装やマイクロミストなどが関連してくる。食品包
装や容器には、ナノ構造制御フィルムの開発や、耐熱性、抗菌性などが求められる。
食品の味覚センサーや、におい・香りセンサーの開発も重要課題である。さらに食品
安全技術では、微生物汚染の迅速検査や食中毒菌、抗原の検出などが求められている。
(図 2-4)
Appendix
ナノテクノロジーを活用した食品機能評価・発現システムという観点からは、特定
保健用食品や健康食品、サプリメントの製造時の機能性・安全性の評価システム構築
が求められる。また胃・小腸・大腸のモデル構築も課題としてある。食品の体内動態(食
㩷
品加工)解析や食品構造の設計と吸収性制御についても検討課題である。
(図 2-5)
㩷
㩷
図 2-4 ナノテクノロジーを活用した食品保持・安全技術
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
2
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
㩷
8 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 9
㩷
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
㩷
[1]
㩷
セッ
ション
フードナノテクノロジー
[2]
1.
㩷
㩷
図 2-5 ナノテクノロジーを活用した食品機能評価・発現システム
図 2-6 トップダウン乳化:界面活性濃度の影響
㩷
㩷
㩷
後者ではドラッグデリバリーや機能性食品送達システムのような形となる。
㩷
2.
全体討論
マイクロ・ナノ粒子の調整法には、トップダウン型とボトムアップ型の両方がある。
3
㩷
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
ダウンサイジング効果に関連して、ギブズ・トムソン式やケルビン式を用いた、ナ
ノ粒子の融点と溶解度の算出が挙げられるものの、現状ではほとんどデータがない状
況である。
(図 2-6、7、8)
ま
と
め
[4]
トリラウリンの結晶化・融解挙動では、β’の結晶化が 19℃であり、70 ナノメー
トルまでのナノ粒子のαの結晶化が− 7.5℃となる。構造も異なっており興味深い。
ナノ食品の市場は年々、拡大を遂げている。
フードナノテクノロジー全体の課題としては、食品研究者とナノテク研究者の連携
やニーズとシーズの出会いがとりわけ重要である。また、日本の食料自給率は低下傾
向にある。ナノテクノロジーが貢献する可能性のある領域はあるだろう。
(図 2-9)
㩷
4
図 2-7 脂肪酸 / ポリグリセリン脂肪酸エステルによるナノ集合体の形成 ボトムアップ
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
4
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
㩷
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 11
10 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
㩷
[1]
・ナノ寸法化による結晶構造の変化
㩷
バイオ物質は、サイズをナノ化すると様々な結晶構造をとる。小さくなると不安
定化する。
・ナノ食品の市場希望予測
ナノ食品の市場予測を Helmut
Kaiser Consultancy が行っている。このよ
うな調査におけるナノ食品の定義は「ナノテクノロジーやツールが、食品の生産
されている。少しでも該当するものはカウントされるのであろう。欧州連合(EU、
European Union)では、2006 年に 4 億 1000 万ドルの市場規模としている。
2012 年には 58 億ドルの市場規模が予想されており、その内訳は食品加工が
13 億 300 万ドル、食品素材が 14 億 7500 万ドルなどである。
セッ
ション
フードナノテクノロジー
(栽培や培養)、製造・加工、または包装のいずれかの工程で使用されたもの」と
[2]
1.
セッ シ ョ ン
[3]
㩷
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
●質疑・討論 図 2-8 ダウンサイジングの効果の一例:ナノ粒子の融点と溶解度
㩷
㩷
全体討論
2.
㩷
㩷
ま
と
め
[4]
Appendix
㩷
㩷
5
図 2-9 フードナノテクノロジー開発
㩷
㩷
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
5
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
12 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 13
㩷
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
2.2 フードナノテクの国際状況、巨大多国籍企業と日本
[1]
佐藤清隆(広島大学 大学院生物圏科学研究科 教授)
食品におけるナノテク技術を考える上で基礎となる事実として、食べものが栄養素
となって体に吸収される時は、消化過程における生化学反応と物理化学反応を経て
nm サイズとなることである。したがって、ナノテクノロジーは食品にとって必然で
セッ
ション
フードナノテクノロジー
あり偶然ではない。
[2]
世界的傾向としては、グローバル化が食品業界でも普及してきている。例えば、世
界のアイスクリーム市場は、主要 2 社で 55%を占有している。また、健康志向の高
まりも指摘できる。世界の消費者は、薬に頼るより食べて健康になる方向に向かって
1.
いる。本物を食べたいという純正志向も強い。また最近は、食料と環境やエネルギー
の問題が直結してきている。高価格時代が到来したため、食料戦略も重要になる。食
品加工技術の分野でわが国が世界の先進を走ることは、国民の健康な生活を担保する
うえで喫緊の課題である。
(図 2-10)
図 2-11 世界の食品産業における研究開発の要素
なる。それに、便利さやおいしさを技術で担保するといった点も課題となる。
㩷
㩷
㩷㩷
消化管はマイクロ・ナノリアクターと捉えることができる。舌で味覚のセンシング
接な相互関係もある。
2.
全体討論
を行ったあと、効率的な消化・吸収が行われる。排泄までの過程が全自動であり、ま
6
た小腸の上皮細胞では免疫が働いて、吸収する物質の選択が行われている。脳との密
セッ シ ョ ン
[3]
日本の展望を考える上で、安全性の他に、研究開発の最重要課題は栄養・健康面と
消化管における信号伝達系統においては、生体膜表面に接触する物質はナノメート
ル寸法であるという共通点がある。つまり栄養素は最終的にはナノメートル寸法とな
的に小腸で吸収されるときナノメートル寸法の単糖となる。同様のことは、蛋白質が
もととなるアミノ酸ペプチドや、脂肪がもととなる脂肪酸などでもいえる。これらの
三大栄養素は、トップダウン(機械的破砕)とボトムアップ(ミセル形成)により、
[4]
ま
と
め
る。例えばでんぷんは、食べる際は数マイクロメートル以上の大きさであるが、最終
マイクロ・ナノ分散化されて吸収される。あらかじめマイクロ・ナノ分散化した栄養
素とそれに結合させた生理活性物質を食品中に配合させることで、食品の栄養価値を
高めるといった発想が浮上してくる。(図 2-12、13、14、15、16)
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
㩷
図 2-10 食品産業の世界的なトレンド
㩷
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
14 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 15
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
[1]
㩷
セッ
ション
フードナノテクノロジー
[2]
1.
図 2-12 消化管:究極のマイクロ・ナノリアクター
㩷
図 2-14 小腸上皮細胞における主な吸収機構
㩷
㩷
2.
全体討論
㩷
㩷
セッ シ ョ ン
[3]
㩷
ま
と
め
[4]
㩷
㩷
7
図 2-13 小腸と舌における吸収とセンシング
㩷
図 2-15 食品の体内動態とマイクロ・ナノ分散系
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
8
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
㩷
Appendix
㩷
16 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 17
㩷
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
[2]
1.
図 2-16 脂溶性の栄養物質とナノ粒子
㩷
㩷
㩷㩷 㩷
図 2-17 食品ナノテク加工への期待
食品ナノテクノロジーの情勢として、食品技術者協会(IFT、Institute
of Food
防止のための技術が求められる。また保存・流通過程においても劣化防止は重要であ
Technologists)がサテライト会議を開催した。また、同協会のジャーナル『Journal
る。味覚や風味の調整も大事である。特定部位での吸収の調整もある。
of Food Science』は 2008 年 3 月から「ナノスケール」というセクションを始め
これらの食品加工におけるナノテクノロジーを総合的に考えると、例えば外部刺激
ることになっている。
の防御として酵素による分解や酸化、
水による分解などを挙げることができる。また、
ネスレなどの企業では、50 人程度のナノテクノロジー関連の博士研究者がいる。
消化・吸収の調整手段として、エマルジョン表面に消化不可能な物質にコーティング
また、フードナノテクノロジー関連のベンチャー企業の多さも目立つ。(図 2-18)
9
2.
全体討論
食品加工では様々な段階でナノテクノロジーが必要とされる。製造工程では、劣化
セッ シ ョ ン
[3]
㩷
[4]
ま
と
め
を施し、肥満抑制効果を高める技術がある。
一方で、ナノ粒子は小さいため、中になるべく有用物質を溶かし込めるよう、可溶
化量を増やさなければならない。
また材料には分解性などの毒性があってはならない。
滅菌工程ではナノ粒子構造が安定に維持されることが必要である。また製造コストの
適正さも課題になる。食品分野におけるナノテクノロジーの制約条件は比較的厳しい
といえよう。
(図 2-17)
Appendix
㩷
㩷
㩷㩷
9
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 19
18 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
㩷
㩷
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
[2]
1.
㩷
図 2-18 食品ナノテクノロジーの情勢
図 2-19 食品ナノ分散系の構造と機能性の例
㩷
食品ナノ分散系の構造と機能性の例として、ネスレの最新の研究である脂質の自己
作り、熱条件を利用してフレーバーを作成する技術である。現段階ではペットフード
雑系のなかでナノテクノロジーの果たす役割を基礎研究の面で持続させてほしい。食
を用いているが、人間の食品にも応用が可能となる。
(図 2-19)
品科学とハイテクとの関係性を構築することにより、複雑な問題にも解を見出してい
2.
全体討論
組織化によるナノ分散系を利用したフレーバー調節を紹介する。自己組織化構造体を
日本の現状を述べる。公的な研究資金で行うべきことは、民間では達成することの
10
困難なナノテク加工の基礎的な技術基盤の確立である。食品は複雑系であるので、複
㩷
セッ シ ョ ン
[3]
㩷
けるであろう。(図 2-20、21)
・ナノセンサー
「ナノセンサー」や「ナノトレーサー」という言葉において使われる「ナノ」は、
感知される物質の寸法または受容する部分がナノメートルスケールで設計されたも
ま
と
め
[4]
● 質疑・討論 のであると認識している。
Appendix
㩷
㩷
10
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 21
20 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
大谷敏郎(農林水産省 農林水産技術会議事務局 研究開発企画官)
農林水産省では、ナノテクロジー関連のプロジェクトを実施している。取り組みの
歴史と、今年からの取り組みである「食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開
発」、また今後の取り組みについて紹介したい。
材料技術の開発」という研究プロジェクトを行ってきた。貫通型マイクロチャンネル
によるエマルジョン作製技術、マイクロ空間細胞培養チップ開発、マイクロ流路チッ
プによる体外受精システムの構築、ナノバイオマシンによるナノ配向ファイバー生産
技術の開発、昆虫生体分子利用ナノセンサーのための基盤技術開発、培養基材表面構
造が神経幹細胞の分化・増殖に及ぼす影響などに関する研究成果をあげている。(図
2-22)
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
2002 年から 2006 年にかけて「生物機能の革新的利用のためのナノテクノロジー・
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
2.3 日本の取り組み、農水省のプロジェクト研究
[2]
1.
このプロジェクト以外にも例えば「安全・安心な畜産物生産技術の開発」研究のう
図 2-20 日本の現状:まだ始まったばかりである
㩷
畜用のドラッグデリバリーシステムに関しての検討を進めている。ヒト用のドラッ
㩷
クデリバリーシステムに比べ、実際の動物に投与可能な点が研究上の利点である。ま
㩷
た「SMP ダイレクトゲノム解析法の開発」では、走査型プローブ顕微鏡(SMP、
2006 年の研究プロジェクト終了時、わかりやすく、成果の分かり易いナノテクノ
ロジー研究を政府内から求められ、次のプロジェクトではナノ食品素材開発に重点を
2.
全体討論
Scanning Probe Microscope)を用いてゲノム解析をする基礎的開発も行っている。
㩷
[3]
セッ シ ョ ン
ち「減投薬を可能とするドラッグデリバリーシステムの利用技術の開発」では、家
置くことにした。そこで、これまでの研究テーマを整理、取捨選択し、さらに新しい
項目を追加して、2007 年度からは「食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開
技術の開発と生体影響評価」と「食品素材のナノスケール計測・評価術の開発と新機
能解明」に課題を大別することができる。前者では、対象物を便宜的に固体系、液体
系、気体系に分類して各研究を進めている。さらに開発技術として、粒子を作る技術、
[4]
ま
と
め
発」として取り組んでいる。本プロジェクトは、「食品素材のナノスケール加工基盤
作った粒子を評価する技術、安全性を評価する技術、また特性評価の技術に別けるこ
とができる。
例えば固体系に関しては、米、小麦、大豆、水産物を対象にして、100 マイクロメー
トルの粒径を 5 年間で 100 ナノメートルまで縮小化する研究開発目標を掲げている。
いる。また、気体系では 100 ナノメートル程度のバブルの高精度安定製造技術の確
㩷
㩷
立を目指している。
㩷
これらの食品分野におけるナノテクノロジーの応用に関する検証のための 22 課題
図 2-21 目標達成に重要な研究領域・研究課題
㩷
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
㩷
を、独立行政法人 4 団体、大学 6 校、企業 1 社、県研究所 2 団体が取り組んでいる。
11
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
また液体系では、10 ナノメートル程度のエマルションを作製することを目標として
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 23
22 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
㩷
例えば、
「ナノスケール加工の臼式製粉技術による穀類等の低温超微粉砕化技術の開
[1]
発」では、抹茶臼をモデルにして、ナノメートル寸法で加工できる臼を作り、冷却し
て粒径 100 ナノメートル程度の粒子を作る計画をしている。また、
「ナノスケールチャ
ネルの製作と微細空間特性の解明」では、大型 NC アレイ基板を用いた食品乳化シス
テムの開発などのような、
大型化製造法技術の開発が主内容となる。また「マイクロ・
ナノバブル水の高精度製造・評価技術の開発」では、食品に実際に用いるのに適した
作製方法を比較評価し、最終的には食品産業に適したものを選択するための技術開発
セッ
ション
フードナノテクノロジー
である。
[2]
「ナノ食品素材の物理化学特性の解明」では、できた素材そのものを評価する方法
を研究している。また「ナノ食品成分の免疫学的安全性の解析」として、免疫学的な
安全性の解析を推進している。
1.
「ナノ構造化食品の保存と品質特性」では、マイクロ・ナノ化した粒子により作製
した米粉パンなどの加工品の評価研究を進めている。
(図 2-23)
図 2-23 食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開発
12
次に、ナノスケール食品素材の安全性検討について紹介したい。
6 月 に 行 わ れ た 英 国 の 中 央 科 学 実 験 局(CSL、Central Science
Laboratory)と食品安全・応用栄養学統合研究所(JIFSAN、Joint Institute for
Food Safety and Applied Nutrition)の合同シンポジウムが「Nanotechnology
in Foods and Cosmetics」の主題のもとに開催された。本会議は、食品ナノテクノ
欧州や米国では、リスクアセスメントの必要性が強く認識されており、危害要因の
特定、危害要因の特性解明、暴露量評価、リスク特性評価、など、多くの具体的な課
題が指摘された。例えば、既存の評価方法が適用できるか、ナノ粒子の定義が不明確
[4]
ま
と
め
ロジーの安全性に関する初めての専門的な国際会議と思われる。
2.
全体討論
2007 年
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
などの問題の他、ナノ粒子の特性解明では様々な手法があり、1 個の粒子径を計測す
㩷
る場合でも、計測法によって様々な結果が出てしまう問題がある。また、無機材料の
図 2-22 「生物機能の革新的利用のためのナノテクノロジー・材料技術の開発」
安全性評価と比べて、バイオ・有機材料の安全性、特に食経験のある素材から作られ
たナノ加工材料の評価の必要性や、皮膚・細胞へ入り込むしくみについても重要な研
響を含めて重要であるし、これまでにない新しいナノ食品の明確な定義も必要となる。
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
究課題である。さらに、食素材を微粒子化したときの、サイズの効果の検証は、悪影
24 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 25
かりの段階であるといえる。農業・食品分野での研究例はほとんど未着手であり、日
米欧も無機材料の安全性研究が先行している。食品のナノ粒子において、研究手法や
2.4 食べるナノテクノロジー ∼ 界面制御技術を用いた安全なナノマテリアルの構築∼
南部宏暢(太陽化学 インターフェイスソリューション事業部 執行役員)
定義も含め、最初に科学的に妥当なデータを示すことでわが国の優位性を確保するこ
とができよう。
太陽化学は食品素材を開発してきた企業である。カップ麺や缶コーヒー等のいわゆ
る“ナショナルフード”には、当社の技術が様々な形で入っている。太陽化学は、モ
ノアシルグリセロールを国内で初めて合成から販売まで行ったという食品用界面活性
・食品の安全性評価
剤(食品乳化剤)の先駆けとしての企業アイデンティティがある。
食品におけるナノテクノロジーの安全性に関する研究は、ほぼ未着手の状態であ
食品乳化剤は、極端に言えば「食べる石鹸」のようなものである。しかしながら、
る。現在、農林水産省においても課題設定をしている段階である。2007 年 6 月
食品向けであり、安全性が確保されている。人間の食や消化吸収という行為は、既に
の欧州の合同シンポジウムでも、リスクアセスメントが必要であるという大きな方
ナノテクノロジー領域であり、よい部分や工業化可能な部分をいかに抽出するかが要
向性は示されているが、個々の方法論についてはそれぞれ主張が出されたのみであ
点となる。例えば、鉄分の吸収に関しては健康上の問題点も指摘されていたが、解決
る。
策として水に溶けないピロリン酸第二鉄にナノテクノロジーを用いて、サンアクティ
ブ Fe という製品を開発した。界面活性剤で粒子の表面に二重膜構造の吸着分子膜層
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
● 質疑・討論 「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
結論として、ナノテクノロジーの安全性に関する研究は、日米欧ともに始まったば
[2]
1.
を作らせる。粒子を細かくする際には摩擦による静電気が発生するが、分子皮膜の構
い状態となる。すると水中でも高比重のピロリン酸第二鉄が沈まない状況を作ること
ができる。凝集を重ねても、粒径の平均が 100 ∼ 200 ナノメートルのものを設計す
ると、ストークスの沈降速度定理に従い、水中で長期間安定的に分散させることが可
さらにこの粒子は、油の分子膜であるため胃酸には耐えるが、膵臓の膵液から出る
リパーゼやホスフォリパーゼの酵素分解により膜が破壊されるように設計されている
2.
全体討論
能となる。
[3]
セッ シ ョ ン
築により静電気を封じ込めることができる。この繰り返しにより、極めて凝集しにく
ので、身体に負荷の少ない状態で鉄イオンが腸壁内で徐放されることになる。
商品を販売するために当社独自の安全評価を行い、さらにスイス連邦工科大学
当社の技術を用いてナノ物質として設計すると、ピロリン酸鉄であっても医薬品と
しての硫酸鉄と同様の効果を発揮することが確かめられた。2003 年にモロッコで開
催された世界保健機構(WHO、World
Health Organization)総会でこの成果を発
表し、高い評価を受けた。(図 2-24、25)
[4]
ま
と
め
チューリッヒ校での医学的データも取得している。
Appendix
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 29
28 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
㩷
[1]
分は化学、二次微分は物理学、三次微分は数学に喩えることができる。ナノテクノロ
ジーは三次微分の先あたりで論じられるべきものであり、産業化のためには“積分”
が必要となる。積分するためのフィードバック系統を構築することができれば、技術
は集約してくるのではないか。(図 2-29)
経済産業省から、エネルギー使用合理化技術開発費補助事業「省エネルギー型化学
技術創成研究開発」の助成を受けている。規則性ナノ空孔内にプラチナなどのナノ粒
セッ
ション
フードナノテクノロジー
子やナノ細線を創製する技術を開発している。このナノチャンネルの中で創製したプ
[2]
ラチナ触媒は常温起動が可能である。組み合わせ方で興味深い新規ハイブリッド材料
を実現することができる。フードナノテクノロジーにもフィードバックして、新規の
㩷
価値観を創出したい。
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
食品の世界は生物学・医学の世界であると言いたい。それを制御するための一次微
1.
セッ シ ョ ン
[3]
㩷
図 2-27 ニュートリション・デリバリー・システム
㩷
㩷
全体討論
2.
14
ま
と
め
[4]
図 2-29 次元解析
㩷
㩷
㩷
図 2-28 空孔を制御したメソポーラスシリカへのクロロフィル挿入
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
15
㩷
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 31
30 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
2.5 ナノテクを利用した機能性食品の研究開発
[1]
須賀哲也(味の素 医薬カンパニー 医療用食品事業部 専任部長)
シイタケ由来のβ - グルカンの研究を 27 年続けてきた。
統合医療として代替医療が盛んに行われている。代替医療とは伝統医療や民間療法
といった保険適用外の新治療法である。免疫療法、遺伝子療法、食事・栄養療法など
[2]
域での科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系も含まれ、作用機序は異なる
が最終的には宿主の生体防御反応(免疫力)を改善・維持することで効果を期待する。
一方、食品の機能には、一次機能としての栄養機能、つまり生きていく上で最低限
1.
必要な栄養素やエネルギーの補給、二次機能としての感覚機能、つまり“味”や“香
り”などの感覚の満足、三次機能としての生体調節機能、つまり生体防御、疾病の予
防、疾病の回復などがある。三次機能は、生体が本来の能力(生体防御機能)を高め
㩷
ることであり免疫機能の調節と密接な関係があると考えられる。(図 2-31)
䇯
セッ
ション
フードナノテクノロジー
の医療、また心理療法、音楽療法、温泉療法、ホメオパシーなどの、現代西洋医学領
セッ シ ョ ン
[3]
㩷
図 2-30 経済産業省 エネルギー使用合理化技術開発費補助事業
䇯
「省エネルギー型化学技術創成研究開発」
2.
全体討論
● 質疑・討論 ・微分と積分の比喩
数学をもう一度微分したときに哲学が出てくるものが本当の技術であると考えて
いる。
また、
ナノテクノロジーはある程度、
数理学で見る世界であると理解している。
(産業化のためには)短時間、安価などの様々な積分ベクトルが考えられる。学問
ま
と
め
[4]
上の過程を積み上げた技術は、多くの分野の支援がなければ本来は完成しないとい
うことを述べたい。
・ビタミン E の乳化剤
ビタミン E に関するボトムアップのナノ粒子形成技術では、乳化剤としてグ
リセリンと脂肪酸を原料に食品衛生法の許可範囲内で巨大分子(オリゴマー)化。
ミセルクラスターは独立粒子であり、無限希釈してもその分散安定性は保たれる。
ビタミンEの濃度は 20%までが限界であるが、クラスター化により酸化安定性は
㩷
㩷 持される。食品加工段階では破壊されないが、体内で破壊されるということを考慮
すると、界面活性剤が重要になる。体内で取り込まれると、多くは吸収される。ま
た排泄されても、
下水中の微生物が確実に資化する。クラスターの組成は、
トコフェ
16
ロールの濃度が 20%とすると、乳化剤を 30 ∼ 40%を入れることになる。
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
㩷
図 2-31 食品の三次機能
免疫賦活食品の市場は年間 500 億円以上と大きいが、臨床での有効性が科学的に
証明され、医学論文などで公表されている食品は非常に少ない。がん代替医療に用い
16
られる免疫賦活食品はキノコ由来の健康食品が多く、入院がん患者の 4 人に 1 人が
利用し、平均月に 57,000 円程度負担しているという調査報告がある。(図 2-32)
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
50℃保存で約10か月の虐待試験を行っても80%以上のビタミンEが安定に保
㩷
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 33
32 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
㩷
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
[2]
1.
㩷
図 2-32 免疫賦活食品の市場
図 2-33 担子菌類、食用菌類熱水抽出エキスのマウスに対する抗癌効果
キノコエキスががんに有効という報告は、1968 年に種々のキノコエキスが担癌マウ
2.
全体討論
17
スに対しがん増殖抑制を示すという結果が、国立がんセンター研究所の千原博士らから
報告されたことに始まる。シイタケ由来の有効成分β -1,3- グルカンが単離・精製され、
シイタケのラテン名「Lentinus
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
㩷
edodes」から「Lentinan(レンチナン)」と名づけら
れた。以後 40 年間、世界の研究者によりレンチナンの免疫賦活効果による抗腫瘍効果
や、抗アレルギー効果などが報告されている。レンチナンは、日本では 1985 年に手
ま
と
め
[4]
術不能および再発胃がんに対し、抗がん剤テガフールとの併用で、世界ではじめて生存
期間の延長が証明され、製造承認され、現在でも処方されている抗悪性腫瘍剤(注射剤)
である。レンチナンは抗がん剤と異なり、がん細胞に細胞傷害性を示さず、宿主の免
疫担当細胞に作用することで効果発現させる。患者の全身状態を改善する作用があり、
また副作用も非常に少ない安全性の高い薬剤である。また昨 2007 年の米国の米国臨
床腫瘍学会(ASCO、American
Society of Clinical Oncology)で、臨床研究では
最高レベルとされる種々の無作為化比較試験のメタアナリシスの結果が発表され、抗
がん剤群と比較して「抗がん剤+レンチナン」併用群のほうが、有意に生存期間が長
との併用で、TS-1 単独より生存期間が長くなるというパイロットスタディの結果が報
㩷
告され、現在 1 群 150 例の比較試験が行われている。TS-1 とシスプラチン(CDDP)
との併用の結果との比較でも「TS-1 +レンチナン」併用は生存期間も同等で、TS-1
による副作用はほとんど発現していないという結果だった。
(図 2-33、34)
17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
㩷図 2-34 関与(有効)成分のヒトでの有効性が確認されている
進行胃がんでのレンチナンの延命効果(第Ⅲ臨床試験)
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
㩷
いと証明された。さらに近年胃がんの第一次選択薬として用いられる化学療法剤 TS-1
34 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 35
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
このレンチナンの 40 年に及ぶ医薬品研究を基盤としてレンチナンを含有する機能
[1]
性食品の開発を行い、医療分野において食品面から患者に貢献することを目指し研究
してきた。レンチナンは通常、1 分子ずつ存在するのではなく、水素結合により凝集
体を形成し、粒径約 200 マイクロメートルの巨大分子となっていて、経口摂取して
も腸管から吸収されずに排泄されてしまう。経口摂取で吸収させるためには、少なく
とも 1 マイクロメートル未満に微粒子化分散させる必要がある。そこで高圧ホモゲ
ナイザーを用いて凝集体を微粒子化分散させ、レシチンミセルを利用して安定化させ
セッ
ション
フードナノテクノロジー
る技術を確立した。微粒子化分散させたレンチナンが経口摂取により小腸パイエル板
[2]
より取りこまれることも確認している。また、微粒子化することで経口摂取時に腫瘍
抑制効果があること、がん抗原に対する遅延型過敏反応の増強も確認している。(図
2-35、36、37)
㩷
1.
㩷
㩷
図 2-36 関与成分の物理化学的性状
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
2.
全体討論
㩷
㩷
ま
と
め
[4]
㩷
図 2-35 EBF(Evidence Based Food) の研究開発
㩷
㩷
㩷
㩷
㩷
19
図 2-37 微粒子化レンチナン経口摂取での小腸パイエル板からの吸収
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
19
Appendix
18
36 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 37
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
食品は医薬品とは異なり医師等医療従事者の指導のもと摂取されるのではなく、消
[1]
費者が自己責任において選別して摂取される。三次機能(薬理作用)を期待する食品
を開発する際には、安全であることが大前提となる。一部の健康食品で発がん性や安
全性に問題があることが報道された経緯があるため、微粒子化レンチナン含有食品に
ついて、変異原性のないこと、ラットを用いた反復摂取で毒性のないことを証明し論
文公表している。また、健康人 15 名で 1 日の目安量の 3 倍量を用いて安全性試験
を行い安全であることを確認、論文化している。
セッ
ション
フードナノテクノロジー
免疫賦活食品は、健康人よりはむしろ病者特にがん患者が摂取しているケースが多
[2]
い。がん患者の場合は抗がん剤を投与している患者が多く、患者での安全性・有用性
を検討すべきである。多くの医療機関が参加する臨床試験を計画し実施する必要があ
る。微粒子化レンチナン含有食品では、300 名以上の切除不能および再発がん患者
1.
で安全性・有用性の評価を行った。被験食との因果関係が否定できない有害事象(副
次作用)は 10 例(3.2%)認められたが、重篤なものはなく試験期間中に消失・軽
快したことから安全性に問題はないと判断された。抗がん剤による副作用に関しては
悪化させることはなく、医薬品レンチナンと同様抗がん剤の副作用発現を抑制する結
Of Life)の
有意な改善が認められることから患者に有用な可能性が示唆された。医薬品レンチナ
㩷
㩷
図 2-38 癌患者向け補助食品の選択
ンと同様、患者の栄養状態の改善も示唆された。有効成分がレンチナンであり、経口
摂取で吸収可能であることから、医薬品レンチナン(注射剤)と同様の結果が得られ
2.
㩷
全体討論
たと考えられる。
㩷
[3]
セッ シ ョ ン
果が得られた。さらに被験食単独摂取により生活の質(QOL、Quality
レンチナンは、宿主の免疫担当細胞に作用して効果発現する物質であり、がん種と
いうより宿主の免疫担当細胞のレンチナンに対する感受性により効果発現が左右され
る。様々ながん種において、被験食摂取により QOL が維持・改善される症例群の生
存期間が、QOL が悪化した症例群よりも有意に長いことが報告されている。また被
ま
と
め
[4]
験食を長期間摂取した方が短期間摂取よりも生存期間が有意に長いことも報告されて
いる。被験食をある一定期間摂取して、全身状態が維持・改善される場合は引き続き
摂取するほうが望ましいが、全身状態が悪化してしまう場合は摂取をやめるべきだと
考える。
食品は「効果・効能」を広告宣伝できない。しかしながら消費者は様々な情報の中
から自己責任において選別し摂取すること(インフォームドチョイス)になる。少な
くともその食品の安全性が証明され医学論文等で公表されているものを選別すべき
で、また医療従事者に相談し医療従事者が論文情報等入手し、その患者に適する食品
㩷
れている場合があるが、科学的根拠のないものが多く、患者がこのような情報を信じ
㩷
込み適切な医療行為を受けなくなることは避けなければならない。科学的根拠ある情
㩷
報をどう形で提供するかは重要な問題である。
(図 2-38、39)
㩷
㩷
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
図 2-39 科学的根拠に基づいた機能食品の流れ
20
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
20
Appendix
かどうかを判断してもらうことも必要であろう。健康雑誌などで患者体験談が紹介さ
38 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 39
2.6 パッケージによる食品の品質保持 ∼透明蒸着バリアフィルム∼
・患者の情報入手
患者が正しい情報を入手する点で、医学論文での情報からでは乖離がある。これ
三田浩三(大日本印刷 包装第二研究所 所長)
については、医師から直接患者へ情報発信するということを考えている。営業目的
でない手段を介さなければならない現状があり、問題であるとは認識している。
蒸着加工によるバリアフィルム製作はナノテクノロジーであり、すでに実用化が始
まっている。
包装の定義は、食品衛生法第 4 条にて、「⑤この法律で容器包装とは、食品又は
レンチナンを食事摂取すると 1 か月 270 万円になる。生シイタケエキスから粉
添加物を入れ、又は包んでいる物で、食品又は添加物を授受する場合そのまま引き
末のレンチナンまで精製しているため、薬価換算にするとその程度の額になる。
渡すものをいう」とされている。また日本工業規格(JIS、Japanese
Industrial
Standards)の Z0108 には包装の定義として、「物品の輸送、保管、取引、使用な
どに当たって、その価値及び状態を維持するために、適切な材料、容器などに物品を
レンチナンの口径摂取と静脈注射とでは、パイエル板などとの関係が異なるかど
収納すること及びそれらを施す技術、又は施した状態。これを個装、内装、外装の3
うかということについて、末梢血に入れても、パイエル板から吸収させても、反応
種類に大別する。パッケージングともいう。対応英語(参照)packaging」とある。
する分子は同じである。パイエル板の下の DC やモノサイトもβ - グルカン受容体
食品包装にも、ペットボトルなどの飲料分野から、加工食品分野まであり、包装の
をもっている。末梢血を回るモノサイトもβ - グルカン受容体をもっている。反応
対象は様々である。食品保存の一手法として無菌の技術が利用されている。内容物が
する場所は、マクロファージ上のレクチン 1 や CR3 などの受容体である。
無菌である点、無菌の包材である点、無菌環境下で密封包装する点の三条件が揃って
無菌包装が成り立つ。
・評価の方法
大日本印刷は包材設計指針として、ユニバーサルデザイン、環境対応、パッケージの基本
医薬品としての評価と食品としての評価は制度的に異なるが、ナノフードの場合
機能の三点を掲げている。とりわけ重要な三点目の基本機能に関して話を進める。
(図 2-40)
1.
[3]
2.
全体討論
はどちらの評価をすることになっていくのであろうか。食品の段階では、免疫効果
[2]
セッ シ ョ ン
・レンチナンの静脈注射との比較
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
・レンチナンの価格
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
●質疑・討論 などを証明する方法がなく、ガイドラインも未確立である。微粒子化レンチナン含
有食品については、ガイドラインのある医薬品に準じた形式をとった。食品に関し
てもガイドラインができればと考えている。
ま
と
め
[4]
Appendix
㩷
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
図 2-40 包装の3大機能について
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
40 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 41
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
㩷
包材には、利便性、内容物保護性、販売促進の三点の基本機能がある。最重要とい
[1]
われる機能が内容物保護性である。
食品製造業界では、
加工技術や品質保持技術を日々
開発しており、この開発と連動して包装材料の開発を行っている。例えばレトルト食
品では、耐熱水性のパウチが開発されていなければ、缶詰のままであった。また、土
㩷
産物菓子には脱酸素材とともに安価なガスバリア包材が開発され使われている。食品
加工技術の発展にはかならず包装材料が関連している。
(図 2-41)
㩷
㩷
セッ
ション
フードナノテクノロジー
[2]
1.
㩷
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
㩷
図 2-42 包装の基本機能
㩷
2.
全体討論
㩷
㩷
㩷
㩷
図 2-41 生活者ニーズに対応した包装材開発
ま
と
め
[4]
21
ガスバリア材料は、食品の褐変、酸化、化学反応などを防ぐ基本的な重要機能をもっ
ている。高分子系の塩化ビニリデンやポリビニアルアルコール、エチレン・酢酸ビニ
ル共重合鹸化物などがあり、さらにそれらをポリエステルフィルムなどにコーティン
グする技術がある。最近ではウェットコートの他、ドライコートとよばれる蒸着技術
が出てきている。
(図 2-42、43)
22
㩷
図 2-43 代表的ガスバリア性フィルムの比較
22
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
㩷
42 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 43
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
㩷
ガスバリア技術が多種多様である理由は、時代により要求が様々だからである。現
[1]
在は、透明性が求められており、透明蒸着フィルムが全盛時代を迎えようとしている。
物理蒸着とは、
蒸着源のアルミまたは酸化ケイ素を電子ビームなどで蒸気化し、フィ
ルムに付着させて蒸着膜をつくっていく。通常、プラズマ処理による官能基の付与や
マイクロ波の使用なども行う。ただし、
膜には隙間があり完全なバリアにはならない。
そこで、フィルムを高温状態において、収縮させるといったナノテクを使っている。
一方、化学蒸着としては、化学気相成長(Chemical
Vapor Deposition)を挙げ
セッ
ション
フードナノテクノロジー
ることができる。原料ガスを流してプラズマを用いる。フィルム表面に官能基をつけ
[2]
ながら蒸着膜を作っていく。酸化ケイ素の微結晶が板状にフィルムを覆いつくす形で
蒸着膜が形成される。この技術は大日本印刷のみが持っている技術である。フィルム
は伸縮するが伸びても微結晶が板状に重なり合っているためバリアの機能は低下しな
1.
い。しかしアルミ箔の完全な代替物にはなっておらず、ナノテクノロジーを生かした
バリア性の向上が課題となる。
(図 2-44、45、46、47、48)
㩷
㩷
図 2-45 透明蒸着フィルム
23
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
全体討論
2.
ま
と
め
[4]
㩷
㩷
図 2-44 従来ガスバリア性材料の問題点
Appendix
㩷
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
図 2-46 PVD- シリカ蒸着フィルムのガスバリア性向上技術
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
44 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 45
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
㩷
[1]
● 質疑・討論 ・包材の透明性
アルミを蒸着したり、プラズマ化学気相成長を行ったりすると透明性はなくなる
かという点について。
包材できらきらと見えている部分がアルミ蒸着である。アルミ蒸着は物理蒸着で
しかできない技術である。一方、プラズマ化学気相成長の場合は、膜厚 10 ナノメー
合わせた構成で利用する。蒸着技術は産業分野で取り入れられており、毎分 10 ∼
20 メートルの速度で行われている。大日本印刷では、広幅で数百メートルの速度
で行っている。
セッ
ション
フードナノテクノロジー
トル程度の酸化ケイ素膜を形成するが、これは透明である。実際は三層ほどに貼り
[2]
1.
・課題について
包材技術での課題や問題はどのようなものか。
包材は、包材工場で貼るときに傷を受けたり、食品工場で袋にするときにしわが
㩷
図 2-47 CVD- シリカ蒸着フィルムの膜構造(模式図)
できたりする。また輸送中にも衝撃を受ける。少しの衝撃では蒸着膜が傷つかない、
バリア性が低下しないような技術を目指している。
・環境影響とリサイクルの課題
シリカ蒸着したポリエステルフィルムは環境問題に対して良好である。蒸着の膜
厚は 10 ナノメートル程度の薄厚であるし、ビニリデンの場合に発生する塩素も発
生しない。リサイクルも行いたいが、ナイロンフィルムやポリエチレンフィルムと
2.
全体討論
24
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
貼り合わせをしているため、分離が困難である。
ま
と
め
[4]
Appendix
㩷
㩷
図 2-48 バリア性フィルムのガスバリア性能マップ
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
46 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 47
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
2.7 食品の測定 味覚センサと匂いセンサ
[1]
都甲潔(九州大学 大学院システム情報科学研究院 教授)
味覚、におい、食中毒・ウイルスに対するセンサなどを研究開発してきた。センサ
技術全般の話を述べたい。
味認識装置 TS − 5000Z は 2007 年の 6 月ごろ発売された。仕組みをごく単純に
セッ
ション
フードナノテクノロジー
いうと、人間の舌の生体膜を模して、味の情報を電圧に変換する脂質・高分子膜を用
[2]
いている。
例えばミネラルウォーターでの味覚の結果は「ビター
- ソルティ」の縦軸と「ピュ
ア - ヘビー」の横軸で位置づけされる。ヘビーに近いとミネラル分が多くなるな
1.
どのように、物理化学的な感覚と人間の味としての感覚は必ずしも対応しないが、味
覚センサは人間の感じる味自体をアウトプットすることができる。ビールの味に関し
ては、
酸味(キレ・ドライ感)の縦軸と苦味雑味(モルト感)の横軸で位置づけされる。
様々な化学物質の入った複雑な味をセンサ装置は人間と同様に感じることが可能と
結果、売上げが倍増したという事例もある。また醤油などのラベルに貼ってある「甘
㩷
図 2-50 味覚センサ 味物質検知部位の脂質・高分子膜
㩷
味」
「塩味」
「旨味」などの段階を示す表示が全商品に貼られる時代が来るのではない
㩷
㩷だろうか。(図 2-49、50、51)
㩷
2.
全体討論
㩷
[3]
セッ シ ョ ン
なっている。ある麺つゆ製造業の作ったつゆは味がやや濃いことが判明し、改良した
㩷
ま
と
め
[4]
㩷
㩷
図 2-49 味覚センサと匂いセンサ
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
25
㩷
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
図 2-51 味認識装置による開発面の成功例(めんつゆ)
26
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
26
Appendix
㩷
㩷
㩷
48 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
㩷
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 49
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
㩷
味覚センサは、ボトムアップ型の技術で分子を自己組織化させて、塩味、酸味、う
[1]
ま味、苦味などの機能性をもたせた技術である。この分野においてボトムアップ型に
自己組織化を利用したデバイスを作ったのは初であろう。分子鋳型法でグルコースを
取り囲むことにより構造を作り上げていく。
(図 2-52)
味覚センサは苦味の数値化に関しても活用することができる。舌の表面を電子顕微
鏡で捉えると、苦味の作用で分子構造が変化する様子を見ることがわかる。電圧の出
力変化による人間の苦味制御を、人工的に表現できるようになってきた。現在は携帯
セッ
ション
フードナノテクノロジー
型の味覚センサの開発を目指しており、2 ∼ 3 年後には市場に投入したい。
(図 2-53)
[2]
嗅覚に関しては、複数種の化学物質がにおいを特徴づける場合の感度は 100 万分
の 1(ppm、parts
per million)から 10 億分の 1(ppb、parts per billion)レベ
ルである。また 1 種類の化学物質が匂いとして意味をもつ場合の感度は、1 兆分の 1
1.
(ppt、parts
per trillion)や 10 億分の 1 レベルとなる。
前者(ppm ∼ ppb)の場合はお茶や食べ物などのにおいのセンサとして適用できる。
化学物質の部分的な構造を認識して、結果的にニューラルで処理する機構を同じ機構を、
分子鋳型(モレキュラーインプリンティング)法的な技術を用いて再現した。その結果、
図 2-53 携帯型味覚センサのプロトタイプ(Ver.1.5)
㩷
ことを示すことができる。一方、後者(ppb ∼ ppt)の場合は爆薬や危険物などの感知が
㩷
適用範囲となる。例えばベンズアルデヒド単体のにおいを測るといった場合を想定する。
その結果、1 兆分の 1 レベルにおいても計測することができた。(図 2-54、55、56)
27
㩷
セッ シ ョ ン
[3]
芳香族アルコールの集合は、アルコールの集合と芳香族化合物の集合の中間にあるという
全体討論
2.
ま
と
め
[4]
Appendix
図 2-52 自己組織化脂質膜と4種類の味物質との相互作用
㩷
図 2-54 におい(匂い・臭い)
、香り
㩷
㩷
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
㩷
50 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 51
㩷
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
生活の場で、食の安全・安心のために役立つような、カメラや匂いセンサをもった
㩷[1]
㩷 通信機能付きのロボットの開発なども念頭においている。(図 2-57、58)
セッ
ション
フードナノテクノロジー
[2]
1.
セッ シ ョ ン
[3]
㩷
㩷
図 2-55 匂いセンサの機構
28
㩷
2.
全体討論
図 2-57 目と匂いセンサを持った通信機能付きロボットの構想
㩷
29
ま
と
め
[4]
Appendix
㩷
㩷
㩷
㩷
図 2-56 匂いの識別
図 2-58 バイオ融合エレクトロニクス
㩷
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 53
52 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
・培養細胞の評価装置への利用
・味やにおい検出技術の背景
味蕾細胞を培養するなどして身体の細胞をシリコンチップに再現するといった技
製造ラインが一本しかない食品工場では、多種の商品を同じラインで作る必要
がある。微妙な味やにおいの混入に対しても消費者からの指摘を受ける場合があ
ることから、味やにおいなどを感知・検出する需要が高まった。
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
● 質疑・討論 [1]
術は行われているのか。
培養は、味細胞自体の寿命が 10 日と短いため、難しいだろう。実用的な面では
疑問視しているが、視野に入れること自体は興味深い。20 年前には味は測れない
と考えられていたものが、測れるようになっている。例えば培養細胞の概念にもと
づいて、方法論を構築していくなどすれば、技術としての可能性はあると考えてい
自己組織化膜に関連して、この分子膜は高分子膜と一緒にして力学的安定性を持
る。
セッ
ション
フードナノテクノロジー
・自己組織化
[2]
たせているため、二分子膜の製造法とは異なる。付着した高分子膜があってこそ強
固な自己組織化が起きる。
1.
・味感知におけるたんぱく質の必要性
舌のセンサではたんぱく質が使われている。味は、相互作用の違いにより表現す
ることができる。
化学物質と受容体たんぱく質の相互作用の違いが味の違いとなる。
たんぱく質を用いなくても、同様の相互作用を再現することができれば、味の感知
セッ シ ョ ン
[3]
をすることは可能である。
・甘味の感知
甘味の感知は、他の味に比較して難しい。グルコースやしょ糖は非電解質である
2.
全体討論
ため、電気を持っていないからである。
・味やにおいの複合化
チョコレートのような多数の味の成分を有した食品の、フレーバーの複合化はど
のように感知するのか。
ま
と
め
[4]
味覚センサは一つの膜のみで苦味や酸味を感知している。神経機構的な系統は用い
ていない。ただ、嗅覚センサに関しては実際の人間でも神経機構が用いられているた
め、その思想に従うべきである。嗅覚センサはマルチチャンネルの構造を用いている。
・組み合わせによるにおい
味と同様、においも種類の組みあわせで別のにおいが成立するのかということに
ついて、学会でも論点にはなっているが、結論はまだ出ていない。
Appendix
・脂肪の味の計測
脂肪にも甘味がある。脂肪はエマルジョンとして、受容体に入ろうとすることに
なるが、その場合、味覚センサでの計測はどうなるのか。
脂肪が味を発するしくみに関しては解明されていない。例えば牛乳では脂肪球の
大きさが味の差になっており、味覚センサによる計測自体は可能である。
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
54 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 55
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
2.8 食の安全・安心とナノテク社会受容、消費者の視点
[1]
中野栄子(日経 BP 日経バイオテクノロジージャパン 副編集長)
日経 BP は、
「Food
Science」というウェブサイトを、「食の安全元年」といわれた食品安
(図 2-59)
食品における安全・安心をテー
全基本法が成立した 2003 年の 6 月に立ち上げた。
㩷
マにしてきた。背景には、牛海綿状脳症(BSE、Bovine
㩷
Spongiform Encephalopathy)問
セッ
ション
フードナノテクノロジー
㩷 題における国民の食の安全に対する懐疑があった。また、食品企業や研究所の研究者の間に
㩷 も、消費者が何を考えているかを知るための情報ニーズが高まっていた。
[2]
㩷
1.
㩷
図 2-60 ナノテクノロジー ナノ食品の記事掲載事例
海外においては、ナノテクノロジー研究に対して消費者がいち早く情報を取り入
Food and Drug Administration)に対して環境団体がナノ粒子を用いた日焼け止
めの市場からの回収を求めている。2006 年 11 月にはドイツ連邦リスク評価研究所
2.
全体討論
れようとする風潮が見られる。例えば 2006 年 5 月には米国食品医薬品局(FDA、
[3]
セッ シ ョ ン
㩷
がナノテクノロジーに関する消費者会議を開催している。同研究所は 2007 年 12 月
にナノテクノロジーに関する消費者の意識調査の結果概要を発表している。結果は
30
記事検索サイトで、直近 3 年間に「ナノテク食品」や「フードナノテク」という
海外の情勢に対し、現状では日本の消費者には目立った動きがない。2007 年に
消費者から食品安全委員会「食の安全ダイヤル」に白金ナノコロイドのリスク評価
を求める要求があり、企画専門調査会が「白金ナノコロイド」を食品健康影響評価
の対象候補にリストアップしたといった事例はあるものの、具体的な方策に関して
ノロジー」では 5,777 件だった。
「ナノテクノロジー+食品」では 380 件だったも
は未決定である。また、2006 年 9 月には日本消費者連盟が厚生労働省、経済産業省、
のの「ナノテク食品」という意味合いでの使われ方はなかった。現状ではナノテク食
日本化粧品工業連合会に対しナノテク化粧品の安全性に関する公開質問状を送付し
品に関してはほとんど議論されていないということだ。
ている。
ただし化粧品の分野では美白成分として白金ナノコロイド製品が登場したり、コエ
ンザイム Q10 が抗加齢化に効果があるとして話題になったりしてはいる。また、特
先端技術に関しては「未知のものは怖い」という消費者の拒否反応が常にあった。㩷
ナノテク食品の議論を深めていくためには、その対象が何であるかを明確化しなけれ
定保健用食品の苦味成分を隠すためにβ - シクロデキストリンが使用されたといった
ばならないと考える。また、フードナノテクノロジーの技術を議論するのか、ナノテ
記事は見られた。
しかし、
ナノ食品やフードナノテクノロジーは総じてまだ話題になっ
ク食品の製品自体を議論するのかも明確になっていない。健康影響評価を行うにも、
31
対象の明確化は必要である。
ていないということがいえる。
(図 2-60)
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
言葉が掲載されているかを調べたところ、該当件数は 0 件だった。一方「ナノテク
[4]
ま
と
め
㩷
図 2-59 食の機能と安全を考える専門ウェブサイト Food Science
2008 年 3 月ごろに発表されるだろう。
56 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 57
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
先端技術を用いた食品に対する社会受容(パブリック・アクセプタンス)は難しい。
[1]
例えば、遺伝子組換え食品においては、消費者の DNA に対する知識不足があるし、知
㩷 識があったとしても感情論に陥りがちである。自然の摂理に逆らうべきでないといった
倫理的問題もある。食品添加物にたいしても消費者に量の概念の不足がある。牛海綿状
脳症の問題に対しては国が安全を表明する姿勢に対する不信があった。
(図 2-61、62)
「食品の安全・安心」における安全に関しては、
「質の安全」
「量の安全」
「取引の安全」
の三種類がある。この三つの安全が確保されないと、日本の食品事情は健全に育ってい
セッ
ション
フードナノテクノロジー
かない。これらを解決するのがパブリックアクセプタンスであり、リスクコミュニケー
[2]
ションが非常に大事である。食品におけるナノテクノロジーに関しても、早めにリスク
コミュニケーションを始めなければ、遺伝子組換え食品と同様の結果を招く恐れがある。
私の立場は食の関係者に向けて幅広い情報を発信していくことであり、リスクコミュニ
1.
ケーターとしての一員であるので、これを機会に、取り組んでいきたい。
(図 2-63)
● 質疑・討論 ・対象物の定義
マテリアル」
の定義がはっきりしていない状況である。天然物か天然物ではないか、
㩷
図 2-62 世界から取り残される日本の GMO 研究
㩷
天然物であっても、それをたくさんつくるという場合もあるが、これは人工物なの
か。このような話もあるため、定義や区分が非常に重要である。
[3]
セッ シ ョ ン
対象物の定義に関して、
「エンジニアマテリアル」あるいは「マニュファクチャ
㩷
㩷
2.
全体討論
㩷
㩷
ま
と
め
[4]
㩷
㩷
㩷
㩷
図 2-61 PA 難しい食品先端技術
㩷
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
31
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
図 2-63 日本の食品問題
32
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
32
Appendix
㩷
58 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 59
[1]
・食材、食品の微細構造研究
ナノテクノロジー全般の微細化技術は十分に出揃っている印象がある。食品企業
3.1 論点 1.「低い食料自給率を補う食品産業はあるか、ナノテクは食品
産業にどれだけ貢献できるのか、貢献するための課題と戦略」
では、食品の構造に関して研究する食品組織学を常に意識している。例えば、チー
ズのカゼインタンパクのゲル構造や、ゼリーやプリンのゲル構造などはナノ構造の
範囲に含まれる。食品の微細構造と硬さ、粘性などの物性値と相関を取っていくこ
とは大きな意義がある。しかしながら、一般的に食品はおいしくて価格が手頃で無
ければ売れない。良い食感やおいしさなどを実現するための食品微細構造の研究は
まだ未着手の部分が多い。
食料自給率を考える際に、順不同であるが、何点かの対策をあげられると思う。
長期間かけて研究した微細構造を備えた食品を開発したとしても、別の研究者が
短期間でおいしい食品を開発し、それが爆発的に売れたりしたら、微細構造研究の
食物繊維に関する議論が抜けている。米国では、機能性食物繊維と食物繊維を区分
ポテンシャルが下がってしまう。その点ではよりスピーディーな微細構造の測定、
して考えようとする傾向がある。 食品加工において、食物繊維を、飼料にせず人
評価法の確立が第一に望まれる。例えば前処理、観察、解析等で長時間を要する電
のためになるもの(たとえば、食料)に変えることを考えることも重要ではないだ
子顕微鏡(現在本目的に多く使用されている装置)等による測定を、より簡便な光
ろうか。その際、ナノテクノロジーが役立つ可能性を模索することが一つのポイン
学顕微鏡等の測定装置レベルでスピードアップすることができれば、理論的におい
トとなる。栄養素を「より栄養素化する」点には危惧も出てくるかもしれないが、
しい食品や食感のよい食品を短期間に開発することができるようになることが期待
栄養素でないと言われている食物繊維が、ある意味(満腹感や整腸など)、栄養素と
される。
しての大きな役割をもっていることに着目すべきである。食物繊維をナノレベルに
戦略的には、何か一つヒット商品を開発するべく、プロジェクト形式でメーカー
と物性測定装置メーカー、さらにアカデミアが組んで進める。その結果、ナノテク
ときと、物理的に切る方法では材料の切り口が変化すると考える。そうなれば、廃
開発製品を世の中に出すことによって、食品産業におけるナノテクノロジーが認識
棄も含めて現在の日本人の生活は「1 日 4 食」食べているといわれるが、これを実
され発展していくのではないだろうか。
質「1 日 3 食」に抑えられるようであれば、食料自給率の点でも効果的であるとい
・課題設定の背景
2点目であるが、農産物は年 1 回しか取れないということはない、野菜は年 3 ∼
田中一宜(科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー)
4 回の収穫をすることが可能である。この点も食料自給率の向上につながる。その時
ナノテクノロジーは様々な学術的分野ならびに産業的分野と関連している。最近、
に、肥料や栄養成分などの吸収を考慮することでナノテクノロジーの役割を見出すこ
問題となっているエネルギーや環境に関して、日本のエネルギー自給率が先進国中
とができるのではないだろうか。
で特段に低い。今後どのように改善していくかは重要な課題である。また、水や食
3点目は、食の第二次機能であるおいしさという観点でも、ナノテクを用いること
料の問題が、人口爆発問題とともに議論されはじめている。国内の食料自給率は
によって、少ない調味料でよりおいしく感じることができるかもしれない。余分な塩
39%、農産物に限れば 28%といわれている。低い自給率の中で、日本は先端的な
分を取る必要がなくなるかもしれない。
技術を開発して関連技術を外国に輸出することが、グローバル化のなかで生き残る
4点目は、食品の第三次機能である生体調節である。これまで私は、カロテノイド
手段の一つとして考えられる。
という野菜の色成分が持つヒトへの役割を研究してきた。生野菜を摂取するだけでは
い。野菜ジュース消費量が最大の国は日本である。第三次機能の面でジュースはやは
議論がなされている。現状は、大変大きな問題であると認識している。
食料自給率の向上は容易ではない。一方で、包装や輸送の技術も含め、たとえば
鮮度や安全性などを確保するための技術は大いに考えられるのではないか。また、
を踏まえながら、調理・加工における日本独自の技術をもつ商品を海外展開できるよ
機能性を持たせた食品の開発も有望であろう。日本独自の技術を開発して輸出する
うになれば有利な地位に立てるのではないかと考える。
ような戦略はないだろうか。
CRDS-FY2007-WR-17
[4]
「食」に関しては、日本ではほとんど議論がされてこなかった。一方、欧米では
り大きな利点となる。海外展開にも期待が持てる。安全を前提として吸収という観点
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
2.
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
体内に吸収されない。材料を破砕や加熱して加工調理を施さなければ消化吸収されな
[3]
ま
と
め
う期待をもっている。
1.
全体討論
するときには構造が重要な点になる。生化学的に酵素を用いて切る(小さくする)
[2]
セッ シ ョ ン
まず、1点目として栄養学的に見た場合、たんぱく質やでんぷんに目が向かい、
セッ
ション
フードナノテクノロジー
コメント 1
稲熊隆博(カゴメ 総合研究所 バイオジェニックス研究部 部長)
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
● 討論
[3] セッション 2 全体討論
60 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 61
大きくその部分を削るしかない。なるべく玄米層を残して、糠の匂いがする酸化層のみを
国土の限られた日本において、食料自給率の向上は困難な課題である。食材の質
削り取る技術開発が、農林水産省のナノテクノロジー関連プロジェクトで行われている。
的向上に検討の余地がある。一次機能から、感性を含めた四次機能までを考えるな
かで、どの段階における質的向上をなすべきかが論点になると考える。摂取した食
・ブランド
材がどれだけ体内に利用されるか、その回収率のことを考えなければならないだろ
農作物において、ブランドの影響が強すぎることは問題である。ブランドのない
う。例えば、カルシウムを摂取したとしても生体吸収される率は 20 ∼ 50%程度で
農作物をつくる人々にとっては、自分の仕事に対する正当な評価を与えられないこ
あろう。いかに体外に捨てられている量を減らしていくかを考えていくべきである。
とになりかねない。食品に関して、正当な評価を与えるしくみを確立すべきである。
15 年ほど前は、農業協同組合では農産物に対して商品という意識はまったくな
ある。また、農作物を育成する際、水や肥料の環境にナノテクノロジーを活用すれ
かった。しかし先進的な農協はそれに名前を付けて商品化した。清潔にみせるため
ば、植物の生態濃縮も利用できるため、栄養貯蔵量を増加することができるだろう。
に包材も利用された。それによって、鮮度が良ければ少しの努力でよく売れるよう
動物や植物に、栄養の高い物質を与えれば、日本の農産物の質的向上にもつながる。
になった。しかしその後、輸入野菜が大量に流通して、鮮度保持包装の価値などは
日本の農地に適した食料を増産する国策は前提として存在するので、食料自給率
の向上を諦めてはならない。米国では、企業がフードナノテクノロジーのチームを
下がってしまった。輸入品に対してどのような対抗策を出すかを商品という観点か
ら考えなければならない。
形成して研究開発を行っている。欧米が食品技術をも制覇すれば、日本に危機的な
・野菜
ロジーが使えるのではないだろうか。しかしながら現状では、ナノテクノロジーを
日本のニンジンとタマネギの生産量は世界で 5 本の指にはいる。日本では、世
界第 5 位以内に入る野菜がかなり作られている。コメのみならず野菜などにも技
食品製造業が使う必要性は共通認識とはなっていない。
術開発が活用されることを期待している。生野菜よりも加工した野菜のほうが吸収
のだろうか。農業も食品もナノテクノロジーの最先端分野であるという思想を広く
率は高くなる。吸収はナノ寸法で行われるといわれることから、世界に通用する安
普及させるべきである。今回の検討会を起点に、何らかの行動をとっていかなけれ
全を考慮した吸収性の高い食品をつくることができるのでは。
ばならない。日本人の科学に対する意識が向上すれば、食料自給率も高まってくる
・サプリメント
だろう。教育改革から着手しなければならない。
サプリメントでとる場合と食品でとる場合とでは、吸収に違いがあるといわれて
であるという事情がこの自給率に影響している。畜産も日本の食料自給率の根源的
いる。サプリメントは吸収されにくいものもある。本質は、食べ物で摂取すると考
な部分であるため、ナノテクノロジーが有効に応用されることを期待している。
えるべきである。食事でもって栄養分を吸収する点に、ナノテクによる微細化技術
お米の粉末を食品に含めるといった手法を大量に行う技術は議論されていくことになる。
を適用することができる。
・休耕地の利用
・ナノテクノロジーのテクノロジーへの還元
休耕田などの利用を、バイオ燃料の作物栽培と、食料の作物栽培の両面から考え
ナノテクノロジーは材料分野で発達してきた。その技術が日常的な技術に還元さ
る検討がされている。休耕地を荒地にしないことが重要である。
[3]
2.
[4]
ま
と
め
食料自給率 39%というのはエネルギー換算である。家畜の飼料がほとんど輸入
1.
全体討論
食品の質は本当に大事なのだろうか。
「食」という生物の原点を変革してもよい
[2]
セッ シ ョ ン
状況が訪れる。目に見える形で体によいものを吸収するといった点に、ナノテクノ
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
ナノテクノロジーを単なる代替技術としてではなく、解決技術をして考えるべきで
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
・自給率の向上と食材の質の向上
れてもよい気がする。材料分野の方面から、誰もが利用するような技術への提案が
あれば、日本初の技術がさらに多く出てくるのではないか。
・精米関連技術
・日本の強みと弱み
物は従来、捨てる部分はないはずである。例えば粉砕技術を汎用性のある技術にす
強み:
れば、人間の食品のみでなく家畜の飼料への応用も可能となるだろう。
・乳化剤の界面科学は日本が圧倒的に進んでいる。次いで北米、EU である。
コメの精米の段階で、コメ粒の 50%程度を削り取ってしまっている。糠の層の酸化層
は非常に薄いため、本来であれば少し削りとるだけで十分である。ただし現在の技術では
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
・固体発酵、固体培養技術、醸造技術はトップの技術である。 ・選果機、精米機などの選別技術。選果の種類では日本が世界最大である。非常に
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
精米の際に出される脂質は酸化されていて米油として使いづらい点がある。農産
62 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 63
トラクチャーの整備などが、重要になってくる。
・機能性食品、特に、特定保健用食品の有効性と安全性を評価する仕組みは日本に
しかない特徴である。
欧米では近年、研究開発にかかわる意思決定に市民の関与・参加を求めていく「アッ
プストリーム・エンゲージメント」が試みられている。これはいわゆる参加型の技術評
・包装材料技術は日本企業が世界一である。
価の手法のひとつである。市民との対話を支援する手法を使いながら、どういう技術や
「旨み」という言葉、これは日本の
・日本人の食への思いはひとつの強みである。
社会を作りたいかを明らかにすることが必要であると、英国王立協会などによる報告書
文化が世界へ普及した例である。より深い観点から議論をすることができる。
でも述べられている。日本でもこうしたことを考えていく必要があるのではないか。
まとめるとフードナノテクノロジーに関わる情報提供のためのインフラストラク
・大規模介入試験の実施能力、PA(パブリックアクセプタンス)を進める土壌がまっ
チャーの整備、フードナノテクノロジーの社会・倫理的影響の調査、市民参加の方策
たくない。現状は欧米で試験をしなくてはならない。
を考えるという三点が課題である。
・消費期限を自分自身で判断できないという点は弱みである。本当は食べれるのに
● 討論 廃棄してしまうものがあまりにも多い。
・保存、
包装技術に関する教育の遅れ。日本には包装を研究している大学はない点。
るだけでなく、そのインフラを使いこなすための人材育成もしなければならない。また消
3.2 論点 2.「安全、安心、パブリック・アクセプタンスへ向けた課題と方策」
費者からの質問に対しては、きちんとした対応を取ることが重要となる。2006 年にドイ
はその典型例である。マスメディアに情報を流すような社会的しくみが非常に少なく、ま
た、一般市民は非専門家であるとして議論から除外するような風潮がある。できる限り市
民が参加できる場を作り、顔が見える形で意思疎通をすることが重要ではないだろうか。
る研究をしてきた。
東京大学の科学技術インタープリター養成プログラム卒業者などの活躍が期待される。
産業技術総合研究所では、一般市民参加型のナノテクノロジーに関する討論会を
遺伝子組換え作物に関しては、1990 年代終盤から世界的に社会論争になっていた。
定期的に開催しており、社会受容を重視した研究開発手法に取り組んでいる。
2.
全体討論
科学技術社会学の知識を背景に最近 10 年ほど遺伝子組換え作物の社会受容に関す
[3]
セッ シ ョ ン
ツで起きた「マジックナノ」のリコール問題に対する連邦リスク評価研究所の迅速な対応
コメント 2
山口富子(国際基督教大学 教養学部 国際関係学科 准教授)
[2]
1.
・情報提供のためのインフラ
日本では情報提供のインフラが足りない点が問題である。情報提供のインフラを整備す
一方欧米では包装の研究を大学でおこなっている。
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
弱み:
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
高度な選別が可能になっている。
日本も同様である。この 10 年間での内閣府や三菱総研などによる遺伝子組換え作物
・社会受容に向けたインターネットの利用
をもっているという結果が出ている。遺伝子組換えの事例を振り返ると、社会的な議
社会受容を考える上で、インターネットの発展は非常に重要になってきていると
論がされてから 5 ∼ 10 年後に、市民の技術に対する意識が形成される。
考える。しかし、 インターネット上に情報は多くあるものの、市民がそのホーム
遺伝子組換え作物では、生物多様性影響にかかわる基準や、食品安全面の基準などが
ページまでアクセスして情報を取るまでには至っていないというのが印象である。
存在しても、なおかつ不安であると感じている市民は多い。最近では、遺伝子組換え作物
の栽培規制を定めた、罰則付きのガイドラインや条例を制定している自治体もある。まと
・ナノテクノロジーに対する市民の印象と報道
めると、良いものをつくれば社会が受け入れるだろうという論理ではなく、社会がどのよ
ナノテクノロジーに対する一般市民の印象も、ただ一つのことで急変することが
うな技術を欲しているかを強く意識することが、社会受容につながるのではないか。
食経験の欠如や不十分さから、食品に関しての不安が起きる。ナノ粒子の定義が不
ありうる。その危険性や緊張感は常日頃より抱いている。
新聞社では、科学部の記者と、社会部の記者での記事の書き方が大きく異なる。社
会部の記者は遺伝子組換え作物に対する警鐘を鳴らすような記事を書く傾向にある。
安に感じる材料はフードナノテクの場合にも存在するのではないか。
メディア側の試みとして、バイテク情報普及会がメディアセミナーを定期的に開催す
産業技術総合研究所が 2005 年に行ったアンケートでは、ナノテクノロジーへの
るなどしている。日本では、事実と違う報道がなされても、新聞社自らの、また当事
意識は低いながら期待する人は多いという結果が出たが、しかしナノテクノロジーに
者機関からの間違いの指摘を受けての訂正報道がほとんど見られない。一般的な技術
対しては、強い意識が形成される前の段階にあるため、情報提供のためのインフラス
の情報が誤っていたとしても、学会が反論するといった風潮が日本にはない。
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Appendix
明確であったり、商品・製品の無秩序な氾濫があるということを考えると、市民が不
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
[4]
ま
と
め
に関する意識調査を見ると、消費者は遺伝子組換え作物に非常に否定的な意識や不安
64 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 65
価の手法のひとつである。市民との対話を支援する手法を使いながら、どういう技術
や社会を作りたいかを、協力して明らかにしていくことが、今後我が国においても重
本検討会では、食品の科学と工学を「ナノテクノロジー」という軸で見たときに、
要な検討事項となる。食品産業には、ナノテクノロジーへの期待とニーズが存在する。
我が国の研究開発・技術の現状を把握し、個々にどのような技術課題が存在するかを
今後、医学分野を含めた、ナノテク研究者との連携や、社会科学的な面でも市民との
俯瞰することを一つの目的とした。検討会で様々な知見が出された結果、会の冒頭で
対話を考えながら、この分野における研究開発の取り組みをオールジャパンで検討し
掲げたフードナノテクノロジーの研究開発概念(P4、図 1-3)に対し、下図のよう
ていくことが重要であろう。(図 4-2)
な各課題に整理することができる。
(図 4-1)
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
プストリームエンゲージメント」が試みられている。これはいわゆる参加型の技術評
[4] まとめ
[2]
㩷
1.
セッ シ ョ ン
[3]
全体討論
2.
㩷
㩷
33
図 4-1 フードナノテクノロジー研究開発の各課題
全体討論においては、日本の低い食料自給率を補うための、これからの食品産業の
ま
と
め
[4]
図 4-2 検討会のまとめ
可能性について、ナノテク・材料技術の有効な活用法を議論した。その結果、微細加
工技術、微粒子化技術を用いることによって、より少ない量で高い栄養価を得る技術
開発や、そのために必要となる素材評価法の確立が重要視された。さらに、長期保存
や輸送の観点で重要となる包装材の高いバリア性能や、センサ技術による味や匂い、
Appendix
有害成分の検出技術などの発展が期待された。
また、ナノテクに限らず先端技術を食品に利用又は応用する際の、パブリックアク
セプタンスについても重要な議論があった。一般社会への情報提供の仕組みの整備及
び運用方法の充実、情報提供人材の育成、社会・倫理的影響の調査の必要性が挙げら
れた。欧米では、
研究開発にかかわる意思決定に市民の関与・参加を求めていく「アッ
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
66 │「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)
「フードナノテクノロジー検討会」報告書(平成19年度)│ 67
⴫䋲㩷 ᬌ⸛ળ⊒⴫⠪㪆䉮䊜䊮䊁䊷䉺㩷 ৻ⷩ㩷
᳁ฬ㩷
1.検討会の開催日時・場所
日時:平成 20 年 1 月 30 日(水) 13 時
00 分∼ 18 時 30 分
会場:研究開発戦略センター 2 階大会議室
2.検討会プログラム、参加者の構成について
⴫䋱㩷 ᬌ⸛ળ䊒䊨䉫䊤䊛㩷
䊒䊨䊨䊷䉫㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㪈㪊䋺㪇㪇䌾㪈㪊䋺㪉㪇㩷
ਛ᎑㩷 శᢅ㩷
╳ᵄᄢቇ㩷 ᄢቇ㒮↢๮ⅣႺ⑼ቇ⎇ⓥ⑼㩷 ᢎ᝼㩷
Ⓑᾢ㩷 㓉ඳ㩷
䉦䉯䊜ᩣᑼળ␠㩷 ✚ว⎇ⓥᚲ㩷 䊋䉟䉥䉳䉢䊆䉾䉪䉴⎇ⓥㇱ㩷 ㇱ㐳㩷
ᄢ⼱㩷 ᢅ㇢㩷
ㄘᨋ᳓↥⋭㩷 ㄘᨋ᳓↥ᛛⴚળ⼏੐ോዪ㩷 ⎇ⓥ㐿⊒ડ↹ቭ㩷
૒⮮㩷 ᷡ㓉㩷
ᐢፉᄢቇ㩷 ᄢቇ㒮↢‛࿤⑼ቇ⎇ⓥ⑼㩷 ᢎ᝼㩷
㗇⾐㩷 ື਽㩷
๧䈱⚛ᩣᑼળ␠㩷 ක⮎䉦䊮䊌䊆䊷㩷 ක≮↪㘩ຠ੐ᬺㇱ㩷 ኾછㇱ㐳㩷
ㇺ↲㩷 ẖ㩷
਻Ꮊᄢቇ㩷 ᄢቇ㒮䉲䉴䊁䊛ᖱႎ⑼ቇ⎇ⓥ㒮㩷 ᢎ᝼㩷
ਛ㊁㩷 ᩕሶ㩷
ᩣᑼળ␠ᣣ⚻ 㪙㪧㩷 ᣣ⚻䊋䉟䉥䊁䉪䊉䊨䉳䊷䉳䊞䊌䊮㩷 ೽✬㓸㐳㩷
ධㇱ㩷 ብᥰ㩷
ᄥ㓁ൻቇᩣᑼળ␠㩷 䉟䊮䉺䊷䊐䉢䉟䉴䉸䊥䊠䊷䉲䊢䊮੐ᬺㇱ㩷 ၫⴕᓎຬ㩷
ਃ↰㩷 ᶈਃ㩷
ᄢᣣᧄශ೚ᩣᑼળ␠㩷 ൮ⵝ╙ੑ⎇ⓥᚲ㩷 ᚲ㐳㩷
ጊญ㩷 ንሶ㩷
࿖㓙ၮ〈ᢎᄢቇ㩷 ᢎ㙃ቇㇱ㩷 ࿖㓙㑐ଥቇ⑼㩷 ಎᢎ᝼㩷
ਥ௅⠪᜿ᜦ෸䈶⿰ᣦ⺑᣿㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 ↰ਛ㩷 ৻ቱ㩷 㪆㩷 ᳗㊁㩷 ᥓᏆ
[1]
セッ
ション
フードナノテクノロジー
㩷
表1 検討会プログラム
ᚲዻ䊶ᓎ⡯㩷 䋨䈇䈝䉏䉅ᬌ⸛ળ㐿௅ᒰᤨ䇮ᢘ⒓⇛䋩㩷
「フー
検討会
ドナノテクノロジー」
表2 検討会発表者 / コメンテータ 一覧
Appendix
[2]
1.
䋨㪡㪪㪫㪄㪚㪩㪛㪪䋩
䉶䉾䉲䊢䊮 㪈㪅㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㪈㪊䋺㪉㪇䌾㪈㪍䋺㪈㪌㩷 㩷 㩷
䊐䊷䊄䊅䊉䊁䉪䊉䊨䉳䊷㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 䉮䊷䊂䉞䊈䊷䉺䋺ਛ᎑㩷 శᢅ
㩷 㘩ຠ䈫䊅䊉䊁䉪䊉䊨䉳䊷㩷
㩷 ਛ᎑㩷 శᢅ䋨╳ᵄᄢ䋩㩷
㩷 䊐䊷䊄䊅䊉䊁䉪䈱࿖㓙⁁ᴫ䇮Ꮒᄢᄙ࿖☋ડᬺ䈫ᣣᧄ㩷
㩷 ૒⮮㩷 ᷡ㓉䋨ᐢፉᄢ䋩㩷
㩷 ᣣᧄ䈱ข䉍⚵䉂䇮ㄘ᳓⋭䈱䊒䊨䉳䉢䉪䊃⎇ⓥ㩷
㩷 ᄢ⼱㩷 ᢅ㇢䋨ㄘ᳓⋭䋩㩷
㩷 㘩䈼䉎䊅䊉䊁䉪䊉䊨䉳䊷㩷
㩷 ධㇱ㩷 ብᥰ䋨ᄥ㓁ൻቇ䋩㩷
セッ シ ョ ン
㩷 䊅䊉䊁䉪䉕೑↪䈚䈢ᯏ⢻ᕈ㘩ຠ䈱⎇ⓥ㐿⊒㩷
㩷 㗇⾐㩷 ື਽䋨๧䈱⚛䋩㩷
2.
㩷 䊌䉾䉬䊷䉳䈮䉋䉎㘩ຠ䈱ຠ⾰଻ᜬ㩷
㩷 ਃ↰㩷 ᶈਃ䋨㪛㪥㪧䋩㩷
[3]
㩷
㩷
㘩䈱቟ో䊶቟ᔃ䈫䊅䊉䊁䉪␠ળฃኈ䇮ᶖ⾌⠪䈱ⷞὐ㩷
全体討論
㘩ຠ䈱᷹ቯ㩷 ๧ⷡ䉶䊮䉰䈫൬䈇䉶䊮䉰㩷
㩷 ㇺ↲㩷 ẖ䋨਻Ꮊᄢ䋩㩷
ਛ㊁㩷 ᩕሶ䋨ᣣ⚻ 㪙㪧䋩㩷
䉶䉾䉲䊢䊮 㪉㪅㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㪈㪍䋺㪈㪌䌾㪈㪏䋺㪇㪇㩷
ま
と
め
[4]
ో૕⸛⺰㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 䉮䊷䊂䉞䊈䊷䉺䋺ਛ᎑㩷 శᢅ
⺰ὐ 㪈䋮䇸ૐ䈇㘩ᢱ⥄⛎₸䉕⵬䈉㘩ຠ↥ᬺ䈲䈅䉎䈎䇮䊅䊉䊁䉪䈲㘩ຠ↥ᬺ䈮㩷
䈬䉏䈣䈔⽸₂䈪䈐䉎䈱䈎䇮⽸₂䈜䉎䈢䉄䈱⺖㗴䈫ᚢ⇛䇹㩷
⺰ὐ 㪉䋮䇸቟ో䇮቟ᔃ䇮䊌䊑䊥䉾䉪䊶䉝䉪䉶䊒䉺䊮䉴䈻ะ䈔䈢⺖㗴䈫ᣇ╷䇹㩷
䉮䊜䊮䊁䊷䉺㩷
Ⓑᾢ㓉ඳ䋨䉦䉯䊜䋩㩷
ጊญንሶ䋨࿖㓙ၮ〈ᄢ䋩
䉁䈫䉄㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㪈㪏䋺㪇㪇䌾㪈㪏䋺㪉㪇㩷
䉁䈫䉄㩷
㩷 ᜿ᜦ㩷
䉮䊷䊂䉞䊈䊷䉺㩷
ਛ᎑㩷 శᢅ䋨╳ᵄᄢ䋩㩷
↰ਛ৻ቱ䋨㪡㪪㪫㪄㪚㪩㪛㪪䋩㩷
Appendix
㩷
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
CRDS-FY2007-WR-17
CRDS-FY2007-WR-17
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
Fly UP