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米国での抜本的な税制改正の動向と今後の行

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米国での抜本的な税制改正の動向と今後の行
国際税務研究会 「国際税務」 2012 年 9 月号掲載
「米国での抜本的な税制改正の動向と今後の行方(下)」
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース
パートナー/税理士 加藤 雅規
シニアマネージャー/米国公認会計士 村岡 欣潤
3 現在までの動向
税法の簡素化等の提案は過去の大統領選挙でも大きく取り上げられてきましたが,今回の動向は単純に税法の簡素化
だけに留まらず,ホワイトハウスや立法プロセスに関わる主要機関も積極的に関わり,これまでにない規模で動いていま
す。この抜本的な税制改正への動きは,オバマ大統領の要請により結成された特別委員会である National Commission
on Fiscal Responsibility による「ゼロ・プラン」が発表された 2010 年 12 月から顕著に見られるようになりました。「ゼロ・プ
ラン」は 2020 年までに4兆ドルの財政赤字を削減する計画が含まれた報告書ですが,その中には抜本的な税制改正の
提案も含まれています。2011 年1月の一般教書演説ではオバマ大統領が当時発表されていた日本の税率引下げ法案
を引き合いに出し,米国の法人税率が先進国で最も高くなってしまうことに懸念を表明し,米国の税率引下げに関する
重要性に言及しました。一方,2011 年4月には下院予算委員会議長である共和党のポール・ライアン議員が法人税率
引下げ提案を含む「House Budget Resolution」を発表し,また同時期に,共和党と民主党の共同による法案「Tax
Fairness and Simplification Act (S. 727)」がロン・ワイデン議員とダン・コーツ議員から提出され,オバマ大統領も独自の
財政赤字削減案「Deficit Reduction Framework」を 2011 年4月に発表しました。その他,同年4月に米国両議会税制委
員会が根本的な税制システムの見直しのためのラウンドテーブルを開催し,同年5月には下院税制委員会により日本を
含む各国の国外所得免税制度の理解を深める聴聞会が行われ,米国での同制度の導入の可能性について論議されま
した。
米国債格下げにも繋がった 2011 年8月の国債発行限度額の引上げ協議では,限度額の引上げ同意の条件として特
別委員会(Super Committee)が設置され,同年 11 月 23 日までに赤字削減の財源を特定するよう説示されていました。
この財源確保協議では,抜本的な税制改正のロードマップも議論されるであろうと予測されていましたが,特別委員会が
提案書提出期限の直前に決裂し,抜本的な税制改正のロードマップはおろか,赤字削減に対する具体的な同意に達
することさえできませんでした。この出来事は抜本的な税制改正の促進の障害となりましたが,一方で,特別委員会のメ
ンバーの一人でもあった現下院税制委員会(House Ways and Means Committee)の議長であるデイブ・キャンプ議員は,
新たな税制改正案を 2011 年 10 月 26 日に公表しました。この税制改正案は,国際税制改正の「Discussion Draft」とい
う位置づけで,これまで発表された改正案の中で最も具体的な内容を含んでいます(詳細は後述)。この改正案の発表
は抜本的な税制改正の勢いを維持する大きな出来事であったと言えます。
2012 年2月 22 日にはオバマ政権は,財務省と共同で抜本的な税制改正の最新提案書である法人税制改正のフレー
ムワーク,「The President's Framework for Business Tax Reform」を発表しました。この中でオバマ大統領は,法人税率
の引下げ以外にも,国内経済活性化案(国内製造と研究開発の促進)と米国多国籍企業に対する所得の海外移転防
止策(外国子会社に対するミニマム税の導入)を提案しています(詳細は後述)。2012 年3月にポール・ライアン議員が
発表した 2013 年度の「House Budget Resolution」には,引き続き 25%へ法人税率を引き下げる提案が含まれています。
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このように,行政のトップであるホワイトハウスと立法プロセスに関わる国会議員が相次いで法案や提案書を発表し,ま
た,税制委員会からも積極的な検討も行われており,抜本的な税制改正のお膳立ては整っていると思われます。今年の
大統領選挙の結果により実現の可能性が更に明確になると予測されます。
図表2 主な税制改正提案の概要
4 予測される米国の抜本的な税制改正の提案
以上が抜本的な税制改正の議論が活発となった起因と背景でありますが,ここからは実際にどのような税制改正が行わ
れると予測されるか,現在まで公表された改正案を基に説明します。
(1) 法定税率の引下げ
これまで公表された改正案の全てに法定税率の引下げが,抜本的な税制改正を行う上の大前提として提案されていま
すが,その全てにおいて,OECD 諸国の法人税率の平均である 25%を目安とした引下げを行うと提案されています。具
体的には,オバマ大統領の要請により結成された National Commission on Fiscal Responsibility による「ゼロ・プラン」で
は,法人税率の 28%までの引下げが提案されています。一方,下院予算委員会議長であるポール・ライアン議員が
「House Budget Resolution」を発表し,最高法人税率として 25%を提案しています。オバマ大統領も独自の財政赤字削
減案を 2011 年4月に発表し,同じく最高法人税率として 25%を掲げています。ただし,2012 年2月に発表されたオバマ
大統領の新たな税制改正案では,最高法人税率は 28%に引き下げると提案しています。なお,製造業に対する法人税
率は 25%に引き下げるとしています。2011 年 10 月に発表された下院税制委員会議長のデイブ・キャンプ議員による改
正案でも 25%の最高税率が提案されています。
公表された改正案には全て法定税率の引下げが含まれてはいるのですが,どのように財源を確保するかについては
改正案により詳細が異なります。「ゼロ・プラン」やオバマ大統領の税制改正のフレームワークでは具体的に課税ベース
拡大の対象となる項目が挙げられているのですが,その他の改正案では具体性に欠けているところがあります。例えば,
キャンプ議員の提案では,国際税制に関する提案書で,所得の海外移転に伴う米国課税ベースの縮小を防止するオプ
ションが3つ提案されているのですが(詳細は後述),その提案がどのように法人税率の引下げをサポートするのかにつ
いては説明されておらず,また,国内税制の改正に関してはほとんど触れられていません。
米国両議院税制委員会の計算によると,1%の税率を引き下げると,向こう 10 年間でおよそ1千億ドルの歳入減が見
込まれています。つまり,現在 35%の税率を 10%引き下げるためにはおよそ1兆ドルの財源が必要となります。これまで
に発表された改正案は収支均衡を保つことが前提とされていますが,1兆ドルの費用の財源については触れられておら
ず,現実的に法人税率の引下げを行うのは困難な状況にあると言えます。
なお,米国の法定税率は 40%前後であるものの,さまざまな優遇税制の活用により,多くの米国多国籍企業の実効税
率は 20%台に留まっています。このため,税率の低下によるメリットより,ループホール(抜け穴)の閉鎖や優遇措置の廃
止によるデメリットの方が大きい企業も相当数存在すると見受けられます。法定税率の引下げ案には,主に米国で事業
を行う中小企業が賛同していますが,国外で事業を繰り広げる米国多国籍企業は比較的に消極的であると言えます。な
お,比較的実効税率が高い日系米国現地法人にとって税率の軽減は朗報と言えます。
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図表 2 主な税制改正提案の概要
改正案
Fiscal
Commission の
「ゼロ・プラン」
ライアン議員の
FY13「House
budget
resolution」
ワイデン・コーツ
議員の「Tax
Fairness and
Simplification
Act」
オバマ大統領に
よる「The
President’s
Framework for
Business Tax
Reform」
キャンプ議員によ
る国際税制改正
案
個人所得税
12%、22%、28%の
累進課税制度
10%と 25%の累進
課税制度
15%、25%、35%の
累進課税制度
その他の提案で
最高税率 25%
(2013 年度予算
案では高所得者
には 39.6%)を提
案
未定
法人税
一律 28%
最高税率 25%
一律 24%
最高税率 28%(国
内製造業者は
25%)
最高税率 25%
代替ミニマム税
撤廃
撤廃
撤廃
未定
未定
国内製造所得控
除(内国歳入法
199 条)
撤廃
未定
撤廃
未定
未定
試験研究費税額
控除
5 年間で償却、
現行の試験研究
費税額控除は撤
廃
未定
現行のまま
恒久化を提案
未定
国外所得の取り
扱い
免税(Territorial
System)
免税(Territorial
System)
課税繰り延べを
撤廃。一時的な
免税を提案
全世界所得課税
制度を維持
免税(Territorial
System)
外国税額控除
現行のまま
未定
所得の種類毎で
はなく、国毎に外
国税額控除枠を
設定
未定
一部廃止
(2) 外国所得免税制度の導入
前述の米国経済の空洞化の防止策として提案されているのが外国所得免税度の導入です。これは海外で発生した所
得が米国で課税を受けることなく国内で再投資されるようにする仕組みで,これにより海外に蓄積された米国多国籍企
業の利益を米国に還元させ,経済活性化のために国内投資をしてもらおうという狙いです。日本でも同じような目的で,
2009 年度税制改正により,外国子会社からの配当の益金不算入制度が導入されました。空洞化しつつある国内経済の
活性化という同じ問題を抱えた米国が同じような解決策を模索している状況になっています。また,外国所得免税制度
を導入することにより,必要以上に複雑化した外国税額控除制度を廃止し,税法を簡素化させようとする目的もあります。
なお,オバマ大統領は,外国所得免税制度の導入への懸念を示しており,所得の海外移転が更に加速するという見解
を表しています。
米国版外国所得免税制度の導入の提案は「ゼロ・プラン」に含まれており,更にワイデン議員とコーツ議員の改正案に
も一時的な免除が提案されていますが,これまで発表された改正案の中で最も具体的な内容を含んでいるものは,前述
のキャンプ議員による国際税制に関する改正案です。この改正案は立法権限を有する下院税制委員会議長からの提言
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という点において重要であると言えます。この税制改正案は,国際税制改正の「Discussion Draft」という位置づけで,正
式な法案ではなく,国際税制以外の内容は乏しく,詳細を欠くところもありますが,このドラフトに含まれる具体案が将来
提出される国際税制法案のロードマップになると考えられ,今後の税制改正の動向に大きく影響することが予測されます。
以下はその概要です。
① 下院税制委員会議長による国際税制改正案
この改正案で提案されている外国所得免税制度は日本の外国子会社配当益金不算入制度に非常に似ています。支
配下の外国子会社(Controlled Foreign Corporation,以下 CFC)の株式の 10%以上を一定期間直接または間接的に
保有する米国株主(以下,「10%米国株主」)は,その CFC から受け取る海外源泉配当の 95%相当額が益金不算入と
なります。残りの5%は引下げ後の税率である 25%の税率で法人課税を受けることになります。この法案には法人税率
を 25%に引き下げる提案が含まれているため,配当に対する実効税率は 1.25%(=5% x 25%)となります。配当の
5%は配当に関連する経費相当額とみなされ,その損金算入を否認する代わりに益金不算入額が5%減額されます。ま
た,5%減額という簡便法を適用することにより,複雑な配当関連経費の按分法の設置を回避するという目的もあります。
配当に対する外国税額控除は廃止され,5%に相当する配当についても外国税額控除を受けることはできません。
なお,CFC とは,10%米国株主により議決権または株式時価総額の 50%超が直接または間接的に保有されている外
国法人です。
(a) 保有期間
配当を益金不算入とするためには 10%米国株主が CFC 株式を1年間保有することが要件となります。この要件は,
10%米国株主が配当の支払確定日より 731 日以内に最低 365 日,その CFC 株式を保有することにより満たされます。
ただし,その保有期間中 CFC であり続けること,および継続的に 10%米国株主であることが要件となります。
(b) 外国税額控除
国外所得免税制度を導入するにあたり,配当に対する外国税額控除は廃止されます。配当が益金不算入となるため
所得の二重課税を調整する必要がないという理由です。ただし,前述のとおり課税対象となる5%部分に対しても外国税
額控除は利用できません。
しかし,外国税額控除は全面的に廃止されるのではなく,米国 CFC 税制により合算対象となる所得(Subpart F 所得,
後述)や使用料,利子等に課された外国源泉税に対しては継続して利用できます。なお,外国税控除額における国外
所得の計算は簡素化され,外国源泉所得に直接関わる費用のみが考慮されます。現行法では間接的な費用も国外所
得に配賦する必要があり,その計算はかなり複雑となっています。なお,新制度導入前から存在する繰越外国税額控除
は,導入後も利用できると予測されます。
(c) CFC 税制
米国の CFC 税制は原則として維持され,CFC の受動的活動により発生する所得(Subpart F 所得)は米国に還元され
なくても引き続き米国株主において合算課税の対象となります。これは海外での能動的事業活動から発生する配当の
みを益金不算入とする趣旨のためです。
(d) 孫会社たる CFC からの配当
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CFC がその子会社である CFC(孫会社)から受け取った配当は Subpart F 所得として通常米国親会社で合算課税の
対象となりますが,新制度では,益金不算入対象の配当となります。現行法でも,Look‐through ルールや Same
Country Exception 等の要件が満たされればこの配当も益金不算入となりますが,今回の改正案では,前述の保有期間
の要件と,10%米国株主の孫会社に対する 10%の株式保有要件が満たされれば益金不算入となります。
(e) 非支配の外国子会社(10/50 Company)
前述のとおり,CFC とは,10%米国株主が議決権または株式時価総額の 50%超を保有する外国法人ですが,もし
10%米国株主の持分が 50%を超えていない場合(非支配の外国子会社),その外国子会社は CFC ではないため,当
該外国子会社から受け取る配当を益金不算入とすることはできません。更に,外国税額控除も利用できないため,当該
外国子会社からの利益は外国と米国で二重に課税されてしまいます。
このような二重課税を排除するため,今回の改正案ではこれらの非支配の外国子会社を CFC として取り扱う選択が認
められています。この選択を行えば,その外国法人の 10%米国株主は配当を益金不算入とすることができます。ただし,
同時に CFC 税制も適用されるため,受動的活動により発生する所得が米国で合算課税の対象となります。この場合,
外国税額控除を利用することはできます。
この選択はグループ単位で行われ,50%以上の持分を通じて繋がる 10%米国株主全てに対してその非支配の外国
子会社は CFC として取り扱われることになります。
(f) 海外支店の取り扱い
米国法人の海外支店の所得は米国法人の所得の一部として課税されますが,今回の改正案では,海外支店は別個
の CFC として取り扱われ,米国本店はその支店の 10%米国株主として取り扱われます。その結果,支店の所得がその
まま本店所得に合算されることはなく,米国本店への支払いで配当とみなされる額は益金不算入となります。ただし,関
連会社間の取引に適用される様々な税制(移転価格,内国歳入法 367 条,CFC 税制等)も同時に適用となり,かなり複
雑な取り扱いとなりそうです。
この提案に関しては不明瞭な点が多々あり,例えば,本店への支払いで配当として取り扱われる額の判定をどのように
行うかについては明確に説明されておらず,また,チェック・ザ・ボックス規定を使ってパススルー扱いを受けている事業
体は,現行法上は支店として取り扱われますが,改正案ではその取り扱いは説明されていません。もし前述のとおり新税
制適用年度以降,海外支店が CFC として取り扱われる場合は,支店の資産が米国法人から CFC へ現物出資されたと
みなされ,367 条により課税取引となる可能性もあり,詳細なガイダンスが事前に求められるところです。
(g) 既存の海外利益の強制益金算入(Mandatory inclusion of undistributed, non‐previously taxed foreign earnings)
国外所得免税制度が導入される以前に海外で蓄積された利益への影響ですが,改正案では,米国で課税を受けてな
い額は強制的に課税所得に算入されるとしています。具体的には,新制度導入の前年度の外国子会社の Subpart F 所
得として認識されます。この強制益金算入規定は CFC のみなならず CFC 選択をしていない非支配の外国子会社にも
適用されます。しかし,同時にその 85%が益金不算入とされるため,残りの 15%のみが現行の法人税率(35%)で課税
を受けることになります。つまり,5.25%(=15% x 35%)の実効税率での課税となります。この規定により発生した税負
担は8年間にわたって分割払いすることが可能です。導入後に配当が行われた場合は導入後に発生した海外利益と同
様に扱われ,その 95%は益金不算入となります。
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(h) CFC 株式の売却
改正案では適格 CFC 株式の譲渡益もその 95%が益金不算入となります。ただし,譲渡損は損金算入できません。適
格 CFC 株式とは,CFC または非支配の外国子会社で CFC の選択をしている法人のうち,70%以上の資産が事業資
産で構成されている法人の株式をいいます。70%以上の事業資産の要件は売却時と売却前3年間に遡り,各四半期末
で充足していなければなりません。
現行の規定では,CFC 株式の売却益は,内国歳入法 1248 条により,CFC の米国で合算課税されていない利益剰余
金(E&P)までみなし配当として取り扱われます。改正案では,CFC 株式が非適格の場合のみ 1248 条が適用されます。
② まとめ
米国を拠点として中南米諸国等の子会社を傘下に持つ日系企業も,これらの海外子会社からの配当が免税になれば
メリットは大きいと思われます。ただし,新制度導入前に海外で蓄積された利益が強制的に課税所得として認識されるた
め,特に海外子会社を傘下に持つ日系米国企業は新制度をタイムリーに分析し,必要に応じてグループ再編を行う等
の対策を事前に検討する必要があると思われます。
(3) 課税ベースの拡大
前述のとおり,今回の抜本的な税制改正は収支均衡を保つことが大前提のため,法定税率の引下げおよび外国所得免
税制度を行うためには課税ベースの拡大が条件となります。日本では欠損金や研究開発費控除の使用を制限する処置
が課税ベース拡大の一部として提案されていましたが,2013 年度予算教書によると,米国では石油会社,金融機関に
関する優遇措置の廃止や課税強化,および米国多国籍企業が行うタックスプランニングに対する処置,特に外国税額
控除や無形資産の海外への移転による所得の海外流失などを防ぐための課税強化が検討されると予測されます。した
がって,在米日系企業に影響するような課税ベースの拡大は少ないと思われ,もし税率が引き下げられた場合,在米日
系企業に対しては有益な影響を及ぼすと思われます。
所得の海外移転に関しては,前述のキャンプ議員による改正案に具体的な課税ベース拡大の提案が含まれています。
もし外国所得免税制度が導入された場合,低税率国への米国多国籍企業による利益の海外移転がますます増加する
ことが懸念されています。特に無形資産の海外移転による米国の課税ベースの縮小が指摘されており,その防止のため
に3つのオプションがキャンプ議員による改正案の中で提案されています。更に,過大な負債により発生する利子の損
金算入を防止するための新たな過少資本税制も提案されており,その内容も含めて説明します。
① Option A ‐ 無形資産から生ずる超過利益に対する課税
最初のオプションは,オバマ政権による 2011 年度と 2012 年度の予算案に含まれていた案を基にしており,国外の
CFC に移転された無形資産に関連して CFC で生じた所得が新たに Subpart F 所得(Foreign Base Company Excess
Intangible Income)として米国で合算課税されるという仕組みです。
合算対象となる所得は,1)対象無形資産の有無,2)超過利益,および3)当該所得が生ずる国の実効税率,の3つの
要素を基に判定されます。
対象無形資産は現行制度と同じく,内国歳入法 936 条(h)(3)〓に基づき判定されます。超過利益は無形資産から生
じた所得で,関連費用の 150%を超える所得を言います。当該所得が生ずる国の実効税率に関しては税率が 10%以
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下の場合は全額合算され,15%以上であれば全額免除されます。10%から 15%までの場合,その一定割合が合算対
象となります。
② Option B ‐ 低税率国で生ずる非事業活動所得に対する課税
二番目のオプションは,事業活動以外から発生する海外所得のうち 10%以下の実効税率で課税を受ける額を新たに
Subpart F 所得として米国で合算課税するという仕組みです。合算課税を回避するには,CFC がその設立国内に事業
拠点を設け,設立国内のマーケットに対する事業の所得とする必要があります。実効税率は米国税法に基づき計算され
た海外所得を基に算定されます。
③ Option C ‐ 外国無形資産関連所得に対する課税と国内無形資産関連所得に対する優遇措置
三番目のオプションは,国外の無形資産より発生する所得を新たに Subpart F 所得として米国で合算課税する一方,
国内の無形資産より発生する所得は 15%の優遇税率で課税するという仕組みです。国外の無形資産より発生する所得
は新たに Foreign Base Company Intangible Income と呼ばれ,資産の売買,消費,処分,または役務提供による所得で
無形資産に帰属する所得と定義されます。Option A と同様に,対象無形資産は原則として内国歳入法 936 条(h)(3)
〓で規定されていますが,どのように無形資産に帰属する所得金額を算出するかについては改正案では触れられてい
ません。
このオプションは他の2つと異なり,所得の海外移転の防止のみならず,国内で発生する無形資産関連所得に対して
優遇措置を設けることにより,米国多国籍企業が無形資産を国内に留めるように促す試みでもあります。欧州などに見ら
れる「Patent Box」のコンセプトを借用したものと見られます。
④ 新規の過少資本税制
過大な負債から発生する利子の損金算入による課税ベースの縮小も問題視されており,これに対する新制度が提案さ
れています。米国には既に,内国歳入法 385 条および 163 条〓に支払利子の損金算入否認規定が存在しますが,新
制度は,負債の経済実体を基に税務上の取り扱いを判断する 385 条よりも,形式基準を基に判断する 163 条〓に近い
制度となっています。なお,新制度で否認された支払利子は 163 条〓における否認額を減額します。つまり,両者は同
時に適用されますが,同じ利子が二重に否認されることはありません。
新制度は,米国株主と CFC が同じ世界ベースの関連グループに属している場合に適用されます。世界ベースの関連
グループとは,議決権および株式時価総額の 50%以上の所有関係で繋がる法人で構成されるグループです。
新制度は次の2つのテストによる否認額を比べ,どちらか低い方の額が最終的に否認されます。一つ目のテストは超過
負債額テスト(Relative Leverage Test)と呼ばれ,世界ベースの負債資本比率と米国内の負債資本比率を比べ,米国内
の比率が世界ベースを超える場合,超過負債が認定されるというものです。この場合,超過負債に関連する純支払利子
が超過負債額テストによる利子否認額となります。もう一つのテストは調整所得額テスト(Percentage of Adjusted Taxable
Income Test)と呼ばれ,163 条〓と同様に,課税所得に減価償却等の調整を加えた調整所得額に,一定の割合を乗じ
た額を超える純支払利子額が利子否認額となります。163 条〓ではこの割合は 50%ですが,改正案ではこの割合は明
記されていません。損金算入が否認された利子は翌年度以降に繰り越されますが,その後どのように損金算入が認めら
れるかについては説明されていません。
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⑤ 法人税以外の財源の可能性
前述の提案は法人税の課税ベースの拡大に関するものですが,2010 年度の米国の連邦歳入の内訳をみると,法人
税の占める割合は非常に少なく,2.2 兆ドルの連邦歳入総額のうちの 8.9%に過ぎません。よって,法人税の課税ベース
を拡大しても歳入の増加はそれほど期待できないと言われています。法人税率を下げることによる経済効果とその他の
歳入への相乗効果はあるかと思われますが,収支均衡した抜本的な税制改正を行うには法人税以外からの財源も確保
しなければ実現不可能と思われます。法人税以外の主な財源として VAT の導入とパススルー事業体への課税がありま
す。
(a) VAT 導入
VAT(Value‐Added Tax,付加価値税)は現在 150 ヶ国以上で導入されており,米国は先進国で唯一導入をしていな
い国となっています。米国には州による売上税(Sales Tax)がありますが,厳密にいうと Sales Tax と VAT とは2つの点で
異なります。まず一つ目は,Sales Tax は最終消費者に課税されるのに対して,VAT は原則,Supply Chain(製造,卸売
り,小売)の各段階ごとに課税されます。更に Sales Tax は物品の販売のみに適用されるのに対して,VAT は物品とサー
ビスの提供の双方に適用されます。
OECD 加盟国の VAT 平均税率は 2008 年時点で 17.6%です。したがって,もし米国が VAT 導入をした場合,州売
上税の平均税率の 5.8%を考慮すると,連邦税率が 11.8%であればその他の OECD 加盟国と比較して同等なレベル
にあるといえます。
歳入の方ですが,税率を日本と同じ5%と想定した場合,米国 PwC の予測によると,およそ4兆ドルの歳入が向こう 10
年間で見込まれています。よって,VAT を5%課税するだけで累積赤字の4兆ドルを削減することができます。もし
OECD に合わせて税率を 11.8%にした場合,単純計算ですが,およそ9兆ドル以上の歳入が向こう 10 年間で発生する
と予測することができます。すなわち,累積赤字を削減するだけではなく,法人税率を 10%引き下げてもおつりが出てく
る計算となります。場合によっては法人税をなくすことも可能な程の歳入のポテンシャルがある税制です。
このように,VAT は政府にとっては財源を確保するという観点で,法人税の引下げや国外所得免税制度の導入より簡
単で効率的な方法であると思われますが,やはり一般消費者の反発があると予測され米国での実際の導入は難しいか
と思われます。
(b) パススルー事業体への課税
米国にはパートナーシップ,S Corporation 等,事業体レベルでは税金が発生しないパススルー事業体という事業形態
が存在します。事業体で発生した所得は文字通り出資者にパススルーされて,出資者のレベルで課税されます。パート
ナーシップの場合はパートナーが課税を受けるということになります。一方,法人の場合は原則として二重課税となり,法
人で発生した所得は法人で課税を受け,その後税引後の所得金額が配当として株主に配賦され,株主レベルでも課税
を受けるという仕組みになっています。よって,パススルー課税を選ぶ最大の理由というのは,この二重課税の回避にあ
ります。事実,パススルー事業体の数は年々増加しており,現在約 80%以上の米国事業体がパススルー事業体を選択
しています。一方で,法人の数が徐々に減少しています。
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数は多いとしても,パートナーシップ,S Corporation は法人と比べると規模が小さい,または投資ファンドのようなもの
ばかりではないかと思われるかもしれませんが,多国籍企業と同等な規模を有するパートナーシップ,S Corporation な
ども存在します。そういったパススルー事業体が法人と同じ事業をしているにもかかわらず,法人は二重課税,パススル
ー事業体は非課税なのは不公平ではないかという指摘が,この制度導入の起因となっています。
歳入のポテンシャルですが,事業所得で言えばパススルー事業体は法人と引けを取りません。1987 年では総事業所
得の約 70%が法人で発生していたのですが,2007 年では 47.7%まで減少しました。一方,パススルー事業体によって
発生する総事業所得は法人と同等のレベルとなってきています。もしパススルー事業体の所得を法人と同じように事業
体のレベルで課税した場合,法人税からの歳入とほぼ同額の歳入を見込めると予測されます。もちろんその分だけ株主
が課税される個人税からの歳入が減ってしまうので単純に法人税からの歳入が2倍になるとは言えませんが,それなりの
ポテンシャルがあると言えます。
5 これからの動向
このように抜本的な税制改正の議論は活発化してきているものの,現実的に法人税率の引下げを含めた税制改正が行
われるかどうかは未だ不透明です。その理由の一つとして,ねじれ国会が挙げられます。現在議会は共和党が下院を,
民主党が上院をコントロールしており,両党が抜本的な改正に今年中に同意することは難しいと思われます。今年は大
統領選挙が控えていることから,早くても 2013 年になるだろうと予測されています。ただし,昨年の中間選挙で共和党が
躍進したことにより政局は膠着化しており,最終的な税制改正の方向はかなり不透明です。
(1) オバマ大統領とロムニー前マサチューセッツ州知事の税制改正提案
2013 年以降に起こると予測される抜本的な税制改正の内容は今年の大統領選挙の結果次第と予測され,オバマ大統
領と米国大統領選の共和党候補に確定した前マサチューセッツ州知事のミット・ロムニー氏の掲げる税制改正案の内容
が抜本的な税制改正の内容に大きく影響すると思われます。
詳しい説明をする前に,ロムニー氏のバックグラウンドですが,マサチューセッツ州知事になる以前,ロムニー氏は Bain
Capital という投資会社を設立し多額の富を得たと言われています。大統領候補選挙活動時に公表されたロムニー氏の
個人所得申告書によると,2010 年および 2011 年の所得は,それぞれ 2,170 万ドル(約 17.4 億円)および 2,090 万ドル
(約 16.7 億円)と申告されており,ほとんどの所得は税率の低いキャピタルゲインで,実効税率は 13.9%および 15.4%と
かなり低くなっています(蛇足ですが,オバマ大統領の 2010 年および 2011 年の所得は,それぞれ 179 万ドル(約 1.4
億円)および 79 万ドル(約6千3百万円)となっており,実効税率も 26.2%および 20.5%となっています)。2012 年1月
24 日付けのワシントンポストでは,投資会社より得た富を含め,ロムニー氏の総資産を見積もると,1億9千万ドル(約 152
億円)から2億5千万ドル(約 200 億円)程度であろうされ,歴代大統領立候補者の中でも最も裕福な一人であろうと報道
されています。こういった事実から庶民的なオバマ大統領,ウォール街の裕福層出身のロムニー氏というイメージが有権
者の間に出来上がりつつあるようです。
①
オバマ大統領の法人税制フレームワーク
オバマ大統領は就任以来様々な提案を発表してきましたが,ここでは今年2月に発表され,最新提案でもある法人税
制改正のフレームワークを基に説明します。
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まず,「抜け穴(Loophole)」と呼ばれる租税回避行為の防止とその他の優遇措置の廃止によって課税ベースを拡大し,
そこから発生する財源を用いて法人税率を 28%に引き下げるとしています。優遇税制,租税回避行為,税務プランニン
グ等が課税ベースの縮小をもたらしているという見解を示しており,米国経済の成長を妨げるような税制を是正するという
観点から,米国多国籍企業に対する優遇税制を廃止し,課税ベースの見直しを行う提案がフレームワークに含まれてい
ます。一部の産業および納税者に対する優遇措置の廃止として具体的には次の提案が含まれています。
・棚卸資産評価法の一つである LIFO(後入先出法)の撤廃
・石油ガス事業に対する優遇税制の廃止
・保険を通じた租税回避行為の廃止
・ヘッジファンドや非公開投資会社のマネージャーの受け取る報酬に対する増税
・自家用ジェット機に対する減価償却方法の修正
更に,法人税率を引き下げるために次の課税ベース拡大が提案されています。
・加速度償却制度の見直し
・利子の損金算入の制限を通じて貸付と出資の税務上の取り扱いの整合性を確保
・法人課税との整合性を図るためパススルー事業体に対する課税の検討
米国多国籍企業による軽課税国への所得の移転が深刻な問題であると指摘し,外国子会社の所得に対するミニマム
税の導入,海外に事業を移管する際に発生する移転費用の損金算入の否認(逆に国内に事業を移管する場合は移転
費用の税額控除),海外に移転された無形資産から生じた超過利益(Excess Profit)に対する課税,および海外投資関
連の利子の損金算入の繰延べも検討されています。
一方で,米国内の製造と研究開発を促進するため,製造業に対する法人税率を 25%に引き下げ,高度生産システム
(Advanced Manufacturing)から発生した所得に対しては国内製造所得控除(Section 199)における所得控除率を
10.7%に引き上げるとしています。更に,過去の予算教書にも含まれていた試験研究費控除制度の恒久化,および代
替簡易税額控除(Alternative Simplified Credit)の控除割合の 17%への引き上げを行うとしています。再生可能エネル
ギー投資に対する税額控除の恒久化も提案されています。
中小企業に対する優遇措置と税制の簡素化も提案され,具体的には 100%特別減価償却制度を中小企業について
は恒久化し,1億ドルまでの設備投資を取得年度に一括して損金算入ができるようにする提案,新規事業の立上費用の
損金算入可能額を1万ドル以内に増加する提案,および,健康保険料に対する税額控除の適用範囲を従業員 25 人以
下の企業から 50 人以下に引き上げる提案が含まれています。
② ロムニー氏の税制政策
共和党の大統領候補者選挙中にロムニー氏は税制政策を明確に打ち出さず,共和党候補者に確定した後になってよ
うやく税制政策の詳しい内容を公表しました。公表された「Believe in America ‐ Mitt Romney's Plan for Jobs and
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Economic Growth」に含まれる税務政策によると,個人と法人を含む大きな減税政策を行うと提案しています。個人税は
ブッシュ減税を全ての所得層に対して恒久化し,更に 20 万ドル以下の所得層に対してキャピタルゲイン,配当所得およ
び利子を免税にするとしています。オバマ大統領は,前述のフレームワーク以外の提案で,25 万ドル以下の所得層に
対してのみブッシュ減税を提案,それ以上の所得層に対してはブッシュ減税の失効により増税,1億ドル以上の所得層
に対しては更に税率を引き上げるとしています。ロムニー氏は冒頭で触れた「ゼロ・プラン」に含まれる税率の全体的な
引下げおよび課税ベースの拡大提案は討論する上で良い出発点であるとして,当該提案を全面的に支持しています。
相続税も廃止すると提案し,オバマ大統領が施行した医療保険制度の廃止も公言しており,その中に含まれる 3.8%の
純投資額に対する新規の税金も廃止すると予測されます。
法人税に関してはオバマ大統領と同じく税率の引下げを提案しており,ロムニー氏は 25%まで引き下げると提案して
います。しかし,オバマ大統領と異なり外国所得免税制度を支持しており,1兆ドルの海外所得が米国へ再投資されるだ
ろうと予測しています。
このように大規模な減税政策を打ち出しているロムニー氏ですが,この減税政策に対する財源確保の具体案は明確に
されていません。メディアとのインタビューでは,住宅ローンから発生する利子の損金不算入や州および地方税の損金
不算入などが課税ベース拡大の検討項目として挙げられていますが,オバマ大統領の提案と比べて内容に乏しく,ロム
ニー氏の税務政策は現在のところあまり現実味のないものにも見えます。
(2) まとめ
法人税率の引下げと経済活性化のための優遇措置の維持と拡大に関しては,オバマ大統領とロムニー氏の双方が同意
をしています。大きな違いは税率引下げに必要な財源を確保する方法です。従来,中低所得者が支持する民主党のオ
バマ大統領が,高所得者と租税回避行為を行う多国籍企業に対する増税を提案しているのに対し,高所得者が支持す
る共和党のロムニー氏は,増税には原則として反対し,税率引下げによる経済効果からの歳入,そして政府の支出を減
らすことにより税制改正の財源を確保することを思案しています。
現実的には両方のアプローチ(増税と政府支出)を考慮する必要があるとみられ,どちらが大統領になったとしても政
党を越えるような政策を求められると予測されます。更に,日本の消費税の様な VAT(付加価値税)の導入,パススルー
事業体への課税など,これまでとは異なる考え方も必要となり,抜本的な税制改正を現実のものとするために,次期大統
領は厳しい選択を強いられると予測されます。
最後に,今日では,双方が依然として高税率国であり,産業の空洞化といった同様の問題を抱え,似た環境に置かれ
た日米が,各々の税制改正の法案,改正内容を比較分析することは,双方の将来の税制改正の方向性を予想するにあ
たり参考に資するものかもしれません。例えば,日本では,2012 年度税制改正において,米国の 163〓項と似ている過
大支払利子税制が創設される一方,米国では,日本が先行した税率の引下げ,外国子会社配当益金不算入制度導入
の税制改正が予想されます。
以上
PwC
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