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Duran 全体 - 統計物理学 研究室

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Duran 全体 - 統計物理学 研究室
粉粒体の物理学
砂と粉と粒子の世界への誘い
ジャック・デュラン 著
奥村 剛、中西 秀 共訳
平成 13 年 12 月 14 日
i
本書に寄せて
粉粒体の物理には輝かしい伝統がある。ルイ 16 世時代のクーロン、19 世紀
のファラデーとレイノルズ、そしてバグノルドという卓越した英国人も忘れ
てはならない。バグノルドはローレンスのように砂漠の砂に心を奪われた。
しかし、彼はそれ以上に砂を支配する法則を理解しようと努めたのだった。
これらの偉大な先駆者がいたにもかかわらず、そして彼らの弛まぬ努力に
もかかわらず、粉粒体の力学は、大部分が未だ理解されずにある。全く初等
的な疑問であってもはっきりとした答えがまだないこともしばしばである。
例えば、建設中のアパートの床に砂山をつくったとしよう。この堆積の重さ
はどのように分布しているのだろうか?それは、その砂山がどのように積ま
れたかによっているのか?
この類いの質問はさまざまの職業分野で重要である。サイロに小麦を貯蔵
している大規模農業に始まり、Guyon と Le Troadec が「この奇妙な石のメ
リーゴーランド」と表現した、
「土星のリング」を調べたいと思っている宇宙
探検家に至るまで、多くの例がある。
今、私が触れた2人の著者は、最近 “le Sac de billes (小石の袋)”、(Odile
Jacob, 1994) という本を書いた。この本は、こうした問題に対する生き生き
とした入門書であると同時に、多孔性物質のような少し変わった対象に対す
る入門書でもある。しかし、彼らの後を受けて、もう少し精密な、科学を学
ぶ学生に適した教科書が必要である。ジャック・デュランは、長年にわたり、
学部最終年の学生たちに粉粒体の話をしてきた。そして、いくつかの重要な
法則を浮き彫りにすることに成功してきた。例えば、摩擦があるときには、
釣合い状態がいくつもあることを生き生きと示した。彼は、簡単な実験から
始めて重要な事実を描き出した。もっとも、
「ほとんど簡単」とでも言い直し
たほうがいいかもしれない。粉粒体はしばしば我々を出し抜くからだ。私の
本書に寄せて
ii
ように単純な理論家はすぐに、1キロの砂、1つの漏斗、何本かのチューブ、
そしてガラス容器さえあれば、ほとんど何でもできると思ってしまう。実際
には、いくつもの些細な実験的注意点を見落としたために、結果が変わって
しまったり、とんでもない結果が得られたりするものだ。粉粒体の物理には
お金はかからないが、入念な注意が要求されるのである。また、危険とも無
縁ではない。何もないように見える工場の一室が恐るべき爆発を引き起こす
こともあるのだ。
粉粒体という、ほとんど全てがこれから理解されるであろう分野で、フラ
ンスの物理学者や力学研究者の活発な様子を眺めるのは、私にとって大変嬉
しいことだ。10 年足らず前から、パリ、リヨン、レンヌにおいて創造性あふ
れる研究グループが現れた。なかでも、ピエール=マリー・キュリー大学の
ジャック・デュランのグループは特筆に価する。私は、個人的に、この本の
構想中の各章の草稿段階から、この本を読む機会に恵まれた。これを通じて
私は多くのことを学んだ。かつて私たちは、砂に興味を持った若い人々にバ
グノルドの本を読むことを薦めてきた。しかしこれからは、まず始めにデュ
ランの本を読むべきである。
私には、日本では広く一般の人々が、この本を待ち望んでいるように思え
る。科学的な観点からはもちろんのことだが、文化的な観点からもそう思う
のである。というのは、昔、久保亮五氏が組織された物理の夏の学校のこと
を懐かしく覚えているのだが、この学校は大磯という太平洋の砂浜の前で開
催された。その砂浜に、私は、
「大磯駅」という題の渓斎英泉の古典版画で再
会した。また、私は安部公房の「砂の女」を読み、これを映画で見たことも
ある。このようなことから、私は日本の人達が、我々物理学徒のように、砂
の神秘性と不安定性に敏感なことを知っているのである。
2001 年 12 月
ピエール・ジル・ドジャン
iii
序
「物体は、別々に動くいくつかの小さな部分に分
かれている場合には液体であり、全ての部分が接
触している場合には固体である。」
ルネ・デカルト、哲学の原理(1644–1647 )
上に引用した文をデカルトが書いた時には、恐らく粉粒体は彼の念頭にはな
かったであろう。しかし、ある意味でそうであってもおかしくはない。粉粒
体は通常の液体の性質を持ってはいない、というよりも全く異なるが、確か
に「別々に動くいくつかの小さな部分に分かれ」てはいる。そして、デカル
トが心に描いていたような固体性を持っているわけではないが、
「全ての部分
が接触している」。
この粉粒体の持つ多面性こそが、ごく最近に至るまで、その性質に対する
我々の理解が進まなかった原因である。粉粒体は、自然に広く存在している
ばかりか、多くの人間活動にも深く関係しているにも関わらず、この有り様
なのである。しかし、ようやく物理学のさまざまな分野での最近の発展に促
されて、以前の世代の科学者やエンジニア達から引き継いできた概念が、批
判的に再検討されている。その結果、粉粒体についても、過去 10 年間その
研究に打ち込む数多くのグループが世界中に誕生した。それらは、実験観察、
数値シミュレーション、新しい概念、そして理論模型といったいろいろな形
で、多くの成果を上げてきた。
このような多くの新しい成果を前にして、この分野に新しく参入しようと
する人は少し圧倒されてしまうかもしれない。更に困ったことに、この成長し
つつある分野では、未だ用語にさえ統一されていない。私がこのことに気づ
いたのは、液体物理の上級コースを教えるために題材を集めていた時であっ
序
iv
た。この教科書の目的は、読者がこの新しく刺激的な研究分野により容易に
参加できるようにすることである。主に教材として意図し、大学の学部学生
や、この分野に参入しようとしている研究者、そして粉粒体を扱う加工技術
に興味を持つ若い技術者の要求に答えるようにしたつもりである。更に広く、
ある程度の理論的素養のある人すべてを対象としている。つまり、極めて単
純な実験から出発して、そこから如何にして概念や理論を築いてゆけるかに
興味のある人、そして、しばしば予想外で直観に反した振る舞いをするこの
媒質をどう理解できるかを学びたい人、こういった人すべてにこの本を読ん
でほしい。私の目標は、統一された言葉を用いて本を書き、その本を読めば
粉粒体の物理の基礎が習得でき、更に、最近の発展を理解するための素養が
得られる、そんな本を書くことであった。
この新しい分野の現状を見ると、どんな進歩も実験によるところが大きい。
かつてアンリ・ポアンカレ(Henri Poincaré)は、「大分以前から、もう実験
など必要ないとか、二三の簡単な仮定の下に世界を構成できるなどと、みん
な思うようになってしまった」と嘆いている。彼の嘆きは、粉粒体の物理学
に特によく当てはまる。この本の底流にあるのはこの問題意識である。この
精神に従って、本書には、実験装置の記述や、できる限り制御された条件の
下での実験結果の説明を数多く含めた。これらを示すことによって、概念や
モデル、あるいは憶測の域を出ていないとも思える考え方の背景を理解でき
るだろう。このやり方の限界は心に留めておく必要があるが、この方針はこ
の分野が未だその揺籃期にあるという特質から来ることでもある。その意味
で、この本で議論する概念や結果は「現時点で」知られているものである。
つまりこの本自身、この分野についての我々の理解が発展してゆく過程にお
ける、ある不完全な断面でしかなく、それはこれからも大きな変更が加えら
れるであろう。
無味乾燥な事実の寄せ集めにならないように一冊の本を書くには、取り上
げる問題を選択するのに多少なりとも恣意的にならざるをえない。その選択
の責任は著者のみにある。たとえ私自身が将来後悔しなければならないとし
ても、多くの成果の中からあるものを除かざるを得ないことは、一度や二度
ではなかった。その理由は単に、それが私の説明の流れにうまく乗らないと
いうことであったり、私の専門分野から離れ過ぎてしまうなどということで
v
あった。その仕事があまりに簡単にしか説明されなかったり、全く触れるこ
とができなかった人達には、御容赦いただきたい。決して私がその研究に否
定的な判断をしているわけではない。私の選択基準は、教育的見地と、問題
に対する私自身の論理の流れに合うかどうかということだけであった。その
判断はしばしば困難で、苦痛を伴うほどであった。
序文を終えるにあったって、私の研究グループの同僚と友人(Eric Clément,
Jean Rajchenbach, Touria Mazozi) に感謝したい。また、国立科学研究セン
ター (CNRS) および欧州 HCM(Human Capital and Mobilty) ネットワーク
に属する不均一および複雑物質の物理学研究グループのメンバーにも謝辞を
述べたい。彼らは、多くの専門的な題材を提供してくれたばかりではなく、
本書に溢れんばかりの情熱をも吹き込んでくれた。彼らのおかげでこの本は
読んで楽しいものになったであろう。奥村剛氏と中西秀氏には、フランス語
と英語の両方の原稿を丁寧に読んでコメントしてくれたことに感謝する。彼
らは、原本の精神を生かしつつ、数多くの改良と記述を明解にするを提案し
てくれたうえで、両方の版からの翻訳を見事にやり遂げてくれた。
最後に、Pierre-Gilles de Gennes 氏と Etienne Guyon 氏の両人には、本書
で議論した研究の初期の段階で決定的な寄与をしていただいたことを、深い
感謝をもって記しておく。この二人から、本書を書くにあたって不断の援助
と励ましを受けることができたのは、私にとってはこの上もない好運であり、
また、本書は彼らの仕事に多くを負っている。
Jacques Duran
フランス、パリにて
vii
目次
本書に寄せて
i
序
iii
第 1 章 イントロダクション
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
問題を定義する大きさの程度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
経済的影響と工業的問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1.2.1 粉粒体の工業的加工
1.2.2 流れの問題 . . . . .
1.2.3 偏析の問題 . . . . .
粉粒体物質と地球物理学 . .
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. 4
. 13
. 15
. 18
簡単な歴史的概観 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
必読書と文献 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
第 2 章 相互作用する粉粒体
2.1
2.2
2.3
2.4
1
1
3
25
1つの粒子とその環境 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
2つの粒子の相互作用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
2.2.1 固体間摩擦の法則 . . .
2.2.2 弾性球の衝突と変形 . .
粉粒体の上を流れる一つの粒子
いくつかの粒子の相互作用 . . .
2.4.1
2.4.2
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36
45
60
65
粉粒体の摩擦の法則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65
Bagnold 数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 66
目次
viii
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
3.1
3.1.1
3.1.2
3.2
69
粉粒体の山の静的な性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 70
第1原理:摩擦の役割 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 70
応力・歪関係式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82
3.1.3 第2原理:Reynolds の膨張 . .
3.1.4 円筒容器:Janssen のモデル . .
粉粒体の堆積物の動力学 . . . . . . . .
3.2.1 鉛直振動の下での球状粒子の列
3.2.2
3.2.3
3.2.4
3.2.5
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85
91
97
98
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誘導容器内の落下における粉粒体堆積の分裂
拡がった粉粒体の表面不安定性 . . . . . . .
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108
111
132
142
摩擦のない球の2次元堆積物
摩擦のある球の2次元堆積物
第 4 章 流れる粉粒体
4.1
151
釣合い状態にある砂山と傾斜角 . . . . . . . . . . . . . . . . . 151
4.2
雪崩のいろいろなモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 161
4.2.1
4.2.2
セル・オートマトン・モデル
4.2.3
雪崩の2変数モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 187
. . . . . . . . . . . . . . 162
雪崩のスティック・スリップモデル . . . . . . . . . . . 175
第 5 章 混合と偏析
197
5.1
はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 197
5.2
5.1.1 大山の円筒ドラム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 198
5.1.2 不均一な堆積の位置エネルギー . . . . . . . . . . . . . 200
振動による偏析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 204
5.3
5.2.1 大きさによる偏析のアーチ効果モデル
5.2.2 振動による偏析に関する実験 . . . . .
せん断による偏析 . . . . . . . . . . . . . . . .
5.3.1 均一な媒体にある1つの粒子 . . . . .
5.3.2
5.4
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205
211
218
219
大きさの異なる2種類の粒子からなる系の偏析 . . . . . 225
大山の3次元ドラムにおける偏析 . . . . . . . . . . . . . . . . 232
5.4.1
実験的観測事実 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 233
ix
5.4.2
Savage のモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 234
第 6 章 数値シミュレーション
6.1
237
はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 237
6.1.1
6.1.2
6.1.3
数値シミュレーションの課題
. . . . . . . . . . . . . . 238
種々のシミュレーション法 . . . . . . . . . . . . . . . . 238
離散的記述から連続的記述への移行 . . . . . . . . . . . 241
6.2
衝突のシミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 243
6.3
6.2.1 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 243
6.2.2 1次元の LRV 法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 243
分子動力学 (MD) シミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . 245
6.4
6.5
6.3.1 弾性力と摩擦力 . . . . . . . .
6.3.2 MD 衝突モデル . . . . . . . .
接触の動力学のシミュレーション . .
モンテカルロ (MC) シミュレーション
6.6
堆積の逐次構成モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 264
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246
250
256
260
参考文献
267
訳者あとがき
273
索引
275
1
第1章
1.1
イントロダクション
問題を定義する大きさの程度
粉粒体の物理は主にマクロスコピックなものを対象にしている。「マクロ」
という語が意味するところは、対象となるものが少なくとも直接目で見える
ものからなっている、ということである。この点で、メソスコピックあるい
はミクロスコピックなものとは対照的である。粉粒体系についてのこの概念
がいくつかの制限となって、ここで扱う粒子の大きさの下限を我々の視覚の
限界の少し上まで押し上げている。そのようなものが対象の物理学では、ほ
とんどの場合、通常の意味での温度の概念は何の役割も果たさない。このこ
とをまず最初に理解することは大切である。そのために、珪酸ガラス
砂の主成分
川
の小さなビーズの運動エネルギー Ek を見積もってみよう。す
ぐに見るように、我々が興味を持っているような乾いた粉粒体物質の物理に
関わりがあるのは、典型的には 100 ミクロン (µm) かそれ以上の大きさのも
のである。典型的な速さ 1 cm/s の程度に対して、Ek = 12 mv2 ≈ 10−12 J と
なる。もし、この運動エネルギーが熱揺らぎから来るものとすると、これは
1011K に相当する!
更に、そのような粒子が、自分自身の直径 d に等しい高さから落ちた時の
位置エネルギーの減少 ∆Ep は、∆Ep = mgd で与えられる(これは、粒子が
互いに接触を保ったまま、通り過ぎる状況に対応している)。この ∆Ep と Ek
は大雑把に言って等しい。
結論として、そのような粉粒体系の集団的な運動は伝統的な Brown 運動で
記述できない。もし、何らかの温度を定義しようと思ったならば、揺らぎを
生成する別のメカニズムが必要である [1, 2]。我々は、その例をいくつもこの
本の中で見出すだろう。ついでながら、先程の例と同じ物質でできた粒子で、
2
第1章
イントロダクション
もし通常の温度の熱揺動 (Ek ≈ kT ) が重要になるとすれば、どのくらいの直
径であるべきか計算してみるのは教訓的だ。結果は 1µm 程度で、これはこ
こで興味のある粒子のうち最も小さいものより更に2桁程度小さい。このこ
とだけでも、通常の熱力学あるいは流体力学変数を用いて粉粒体堆積の性質
をモデル化するのに、深刻な障害となる。いくつかのごく特別な場合を除い
て1 、明らかに、粉粒体系の振る舞いは、個々の粒子の Brown 運動ではなく、
粒子の幾分偏った、そして集団的な変位によって、主に決定されている。
Brown 運動がないという事実が、なぜ粉体系はほとんどいつも混じり合う
傾向と逆の傾向を持つのか、ということを説明する。後で見るように、様々
な粒子の集合を混ぜようとして揺さぶると、偏析 (segregation) する。言い換
えると、粒子の大きさによって分離してしまい、我々の意図とは全く逆の結
果になってしまう。それとは対照的に、液体においては、よく知られている
ように Brown 運動が多くの成分を分子レベルまで混合する重要なメカニズ
ムになっている。つまり、粉粒体の偏析現象は、粒子間距離程度の平均自由
行程を持った熱揺動がないことの、もう一つの証拠と見ることができる。
自然も、また工業現場でも、様々な粉粒体物質を頻繁に用いている。それ
らは極端に多様な、形、大きさ、微視的力学特性、そして化学的特性を持っ
ている。第2章において、大きさによる標準的な分類法に触れる。しかし、
形については取り扱わないし、異なる粒子の分布やそれに関連する測定や同
定法についても議論しない。そのような問題に興味のある読者は、文献を参
照されたい [5, 6]。我々がしようとすることは、このような物質の物理を支配
している基本法則に光をあてることで、その目的のために、簡単でよく性質
の分かった対象に集中する。後で明らかになる理由から、もっぱら、いわゆ
る乾燥粉粒体 (dry granular materials) と呼ばれているものの物理的性質お
よびその振る舞いのみに、注意を集中する。確かに、この本に出てくる多く
の概念は、多少の注意を払えばこれより複雑な物質
ペーストや、泥、あ
るいはその他の混合物で粒子が周りの流体と相互作用するようなもの
に
も適用できる。それはそれとして、我々は研究の対象を限り、理想化された
形(一般に球あるいは円柱)の粒子で、その微視的力学特性がよく理解され
1 一つの例として、鉛直な空気の流れの影響がある。空気流により粒子は浮遊して、古典的
Brown 運動に似たランダムな運動をする [3]。また、高速流の中の粒子のように、互いに頻繁に
衝突する場合にも、熱揺動のようなもので系をモデル化することができる。
1.2. 経済的影響と工業的問題
3
ているものを主に扱うこととしよう。粉粒体が、経済的な観点とより基礎的
な物理学のレベルとの両方において、真にやりがいのある課題を提供してい
ることを読者に確信してもらうために、以下で詳述する基本的な問題ととも
に、粉粒体の実用的な応用についても手短に紹介しておこう。若干異なる意
味ではあるが
しかし、人類にとってかなり重要なことに
様々な程度
の複雑さを持った粉粒体は地球物理で中心的役割を果たす。正直なところ、
地球物理学者はしばしば、これから議論する多くの概念を定義することにか
けて、「伝統的」物理学者の先を行っている。
粉粒体の振る舞いを支配する物理法則は、数桁にわたって異なる大きさの
ものに実際に適用される。粒子の大きさが数百ミクロンの粉体から、極海を
(1000 km にわたって)漂う流氷2 、更に、土星の環(幅 1 cm の氷の粒子が 1
km 程度の厚さの帯に分布している)など、粉粒体の科学の対象の大きさは、
少なくとも 12 桁にわたっている。
このように大きさや特性の異なる様々な粉粒体の集合が、普遍的法則に従っ
ているように見えるその事実が、この分野の基礎的研究を進める大きな動機
になっている。例えば、偏析や間欠的閉塞現象は、粉粒体が関わる多くの工
業プロセスに広く見られる。という訳で、この章の残りでは、何らかの形で、
対流、偏析、アーチ効果による閉塞などの現象に関わる技術やプロセスにつ
いて、いくつか選んで手短に概観することにする。これらの現象は全て、工
業の現場では日常的に見られるものだ。これらの現象そのものについては、
後の章でより深く調べる。
1.2
経済的影響と工業的問題
今指摘したように、粉粒体物質は我々の文化の中でも重要な位置を占めて
いる。全世界で毎年生産されている様々な種類の粒子やその集合体は膨大な
もので、およそ 100 億トンにも達する。その中でも石炭は全部で約 35 億トン
を占める。セメントとその他通常の建設材料は 10 億トンになるが、これには
更に同じぐらいの砂や砂利を加えることができるだろう。これらは一般に低
2 氷山の運動は、これまで特に港湾施設の近くに於いては、カナダ海軍のいくつかの研究プロ
ジェクトの対象であった。それは結局、粉粒体の物理と密接に関連していることが分かった。
第1章
4
イントロダクション
価格原材料と呼ばれているものである。地球上で産出されている全てのエネ
ルギーの約 10 %が、粉粒体物質と砂利を加工するのに消費されている。結局
のところ、この種の物質は、人間活動の重要性の尺度から見て、水に次ぎ第
2番目に位置付けられるだろう。これから見ても、粉粒体の物理の進歩はど
のようなものであっても、非常に大きな経済的影響をもたらさずにはいない。
粉粒体物質を取り扱うのに用いられている工業技術には、多くの工程が関
わっている。まず最初に、鉱石や砂、砂利などを採取しなければならないが、
それにはしばしば浚渫(しゅんせつ)が用いられる。次に来るのが破砕と粉
砕で、それに引き続き分離工程が来る。これらの工程全ては低付加価値材料
に共通のものである。これら基礎的技術の多くの起源は 19 世紀にもさかのぼ
るが、原材料の価格がしばしば価格全体の 85 %以上になることから、これ
らを改善するのにほとんど努力がなされてこなかったことは容易に理解でき
る3 。砂利などを扱う工業工程のあらゆる段階に、輸送(流動層、ベルトコン
ベヤー)、貯蔵(サイロ)、及び混合(例えばセメントトラック)といった作業
が必要なのにも関わらず、それらはあまり最適化されてはいない。問題には
せいぜい原始的な解決法が与えられてきただけだ。一方、高付加価値材料を
扱う、より特化され発達した分野には、化粧品や製薬業界、特殊化学、及び
食品産業があるが、そこではますます洗練された加工技術が求められている。
1.2.1
粉粒体の工業的加工
建設材料
建設産業(住宅供給、水硬セメント、公共事業など)は毎年人口一人あた
り 7 トンの砂利を消費しており、それは 1994 年に 150 億フラン(30 億ドル)
程度の歳入を生み出している4 。水に次いで、砂利はもっとも多く用いられる
材料である。自然の砂利には、沖積性、火山性、及び堆積性の起源のものが
ある。採石場や水中の鉱床から採掘された後、それらは一連の工程を経るが、
3 アメリカ合衆国政府機関の最近の報告が、粉粒体材料を加工するのに用いられる技術が時
代遅れになっていることを強調している。その報告のタイトルが「粉粒体材料: 無関心の遺物」
(Granular Materials: A Legacy of Neglect) となっているのは、意味深長である。
4 ここで引用した数字は、Lafarge-Coppée (あらゆるタイプの建設材料の世界的生産会社)
によって発表されたものである。
1.2. 経済的影響と工業的問題
5
それには膨大な量の粉粒体の形の物質を扱わなければならない。それらの作
業の中には、短距離の輸送(しばしばパイプ中の強制流による)、スカルピン
グ(scalping: 価値のない微粒子状の残留物の除去。これにより、後の工程で
起こる問題の一部を避けることができる)、粉砕と破砕、それに引き続くふ
るい分け (sifting)、洗浄 (washing)、水流サイクロン分離 (hydrocycloning)、
スライム除去(desliming: 特に砂や砂利の特性をよくするため)などがある。
一連の作業は通常、貯蔵されそれから最終的に利用場所へ輸送されて終る。
これらのほとんどの作業において、流れの障害や、閉塞の発生、偏析などの
厄介な障害となる現象に悩まされるが、これらの全てについて後で詳しく解
析する。
工業的な要求は大変多様で、また用いられている物質は非常に複雑なため、
例えば水硬セメントの調整に用いられる砂利を完全に指定するのにも、15 以
上のパラメタが必要である。それらは、厚さ、清浄さ、破砕の程度、凝集性、
平坦さを表す係数やその他の多くの特徴を記述するものだ5 。この実験的パラ
メタの氾濫は工業の世界の持っている本質的な複雑さの反映であるが、他方、
物理学者はそれらを2つか3つ以下の基本的な微視的力学パラメタに減らそ
うと努力している。恐らくその理由は、せいぜいそれぐらいしか彼らには扱
えないということであろう。物理学が現実世界に追いつくにはまだ長い道の
りがあるようだ。しかし
が
そしてこれは非常に元気づけられる兆候である
実際の工業プロセスを苦しめている厄介な現象(閉塞、アーチ、偏析)
は、我々の理想化された理論的モデルにさえ既に現れているのだ6 。この点に
関して、コンクリート産業と関連したいくつかの問題を、少なくとも手短に
議論しておくことは、教訓的だ。
5 興味深いことに、工業的に用いられている砂利を特徴づけるパラメタの公式のリストには、
物理学者は基本的に重要だと考えているような微視的力学パラメタが一つも入っていない。工業
現場のエンジニアたちは、弾性反発係数や摩擦係数などといったものは気にもとめない。これら
のパラメタの欠落は、現実世界の実際上の問題には、実験室での理想化された環境において必要
と思われるものよりも、より経験的ではあるが、より複雑なパラメタのセットが要求されている
ことを十分に示している。
6 このことは科学的方法の基本的側面に関連する。そこではしばしばもの事が簡単化され過ぎ
ているように見える。物理学者は研究する対象を選ぶのに際して、解析できる程度に十分簡単な
そ
ものを選ばなければならないが、一方、それはシミュレートしようとしている実際の過程
と関連がなくならない程度に複雑でなければならな
れはいつもはるかに複雑なのであるが
い。この本の中でもそのような選択をしなければならない場面に何回か直面する。正しい選択を
するのは難しい作業であるが、大抵は健全な直観に基づいてなされる。
第1章
6
イントロダクション
図 1. 約紀元前 200 年、ペルガのアポロニウスは、様々な大きさの円ででき
る限り平面を敷きつめるために、ここに示すような配置を発明した。この配
置は自己相似の性質を持っている。
奇妙なことだが、砂利がコンクリートの強度とどのように寄与しているか
が再発見されたのは、ごく最近に過ぎない。歴青材料、即ち、高性能コンク
リートの弾性的性質は、主としてその製造過程で用いられた砂利の特性に依っ
ていることが証明されてから、数年しか経っていない。コンクリートは基本
的には砂利とセメントの混合物で、ゆっくりと(十年単位のスケールで)化
学変化してゆくことは、よく知られている。しかしそれは複合材料なので、
成功の鍵は、より脆い結合材の影響を最小化し、成分中ずっと強靭な粒子材
料の影響を最大限に引き出すところにある。実際的な解は超稠密配置に具体
的に示され、それはペルガのアポロニウス(紀元前 約 262 年∼約 190 年)に
よって何世紀も前に考えられた問題に対する自然な解答でもある [7]。それは
図1に示されている7 。
エンジニアは恐らくこのアイデアに啓発されて、高強度コンクリートを調
合する際に、数桁にわたる様々な大きさの砂利を混合物に加えたのだろう。混
合物中の最も細かい成分はサブミクロンの大きさで、シリカフューム (silica
7 この問題の本質をついたアラブの諺がある。その大意は「篭にオレンジを詰め込んだ時、篭
はもういっぱいになったと思うだろう。しかし実際にはそれは隙間だらけで、まだ木の実や更に
豆を詰め込むことだってできる。」ということだ。
1.2. 経済的影響と工業的問題
7
fume) と呼ばれている。それは非常に高価なものであるが、それによって高
さが 1km に及ぶような摩天楼を建造することも技術的に可能にするほど、高
強度のコンクリートを造り出すことができる8 。実際、東京ではそのような建
造物を建設する計画があるそうだ。しかしながら、大きさによる偏析現象が
避け難いことを考えると、そのような粉粒体媒質を稠密に混ぜ合わせようと
したときに、非常に大きな問題に直面するであろうことは想像に難くない。
エンジニアやコンクリートと砂利の専門家たちは、背後にある気の遠くな
るほど複雑な物理には詳しくないかも知れない。しかし彼らは、その豊かな
経験に基づいて困難な技術をものにし、結合材中でそれぞれの粒子が理想的
な場所に収まるような液状結合材を開発してきたことを、ここで述べておく
のは適切であろう。製造コストは非常に高くその応用は、当面の間、極めて
特殊な建造物に限られているかも知れないが、系統的な実験により彼らが正
しい答を見出したことは誰も否定できない。一方、物理学が建設材料の性質
のよりよい理解に貢献できれば、その製造や運搬、混合のコストを大幅に引
き下げられるかも知れないと期待しても、法外なことではない。これらの工
程は流れや偏析の問題と直接関係があり、この問題は 1.2.2 節と 1.2.3 節で取
り上げる。
我々は土質力学 (soil mechanics) の法則をここで扱うことは控えることに
する。これは、主に地球物理学や地質学の分野、あるいは土木工学の分野で
長く取り扱われてきた問題に属する。この分野には、丹念に構成されそれな
りの実績がある無数のモデルが存在する。しかし、例えばほとんどの土質力
学のエンジニアは、粉粒体物質を連続体と見なす傾向があり、それを均質な
固体に適用されるような通常の古典力学の法則(摩擦や応力・歪みの関係、
塑性変形など)に従うものとしてとり扱う。後で見るように、この方法には
深刻な問題を引き起こす場合がある。しかし、実際的な観点からは利点があ
る。即ち、十分な安全係数を取りさえすれば、一般にこれを用いた単純な計
算から道路のような粉粒体物質でできた様々な構造物の振る舞いを予想でき
るのである。
土質力学の関連する現象で日常的に見られるものを一つだけ取り上げるて
おこう。それはせん断による偏析 である。これはほとんどの粉粒体物質に特
8 高強度コンクリートの品質は、しばしば1平米の底面で崩壊せずに立てることができる柱の
高さで表される。この高さの最高値はここ2∼3年で1桁以上高くなった。
第1章
8
イントロダクション
図 2. ブルドーザーで道路の側面の土手に傾斜をつけようとすると、せん断
による偏析が生じる。大きな石の密度は、土手の内部よりも表面でずっと大
きくなる。
徴的なものだ。図2に問題の現象を示しているが、これは土木工学者にはよ
く知られたものである。彼らが建設プロジェクトをの指揮をとる時には、必
ずこの現象に取り組まなければならない。
加工産業
一般的にいって、高度技術材料の現代的製造法は粉粒体材料の加工に大き
く依存している。しかし、多くの応用や、輸送、そして技術のいくつかの段
階で粉粒体を扱う様々な加工の一つ一つについて、ここで論評を加えること
はしない。それら全てを網羅するのには一冊の本では足りないだろう。我々
は単に二三の例を選んで、工業で直面する多くの側面を持った問題を取り上
げ、それらとこの本で主張する基礎的な方法との関連を強調することにする。
まず最初に、化学産業の2つの相異なる分野を明確に区別をすることから
1.2. 経済的影響と工業的問題
9
始める。一つは、典型的には大量の粉粒体の形の材料を扱う産業である。そ
こでの問題は、一般的には既に述べたものと似ており、パイプ中の輸送、貯
蔵、あるいは粉体の偏析等である。もう一つは化学あるいは製薬産業であり、
そこでは比較的小量ではあるが高付加価値材料を扱っている。この場合には、
純度や再現性に対する要求は、当然ながら非常に厳しい。その結果、その製
造技術はずっと精巧なものになる。この例で、粉粒体の偏析現象を(最大限
可能な限り)避けるようにデザインされた技術について、後で議論すること
にする。
例:ポリスチレンの抜殻模型による鋳造
ここで議論する技術は、最近フランスの自動車メーカーによってエンジン
ブロックを製造するために用いられた方法で、これを他の方法で作るのは極
めて困難なものである。多くの電子機械工場や製鉄所でも同様な工程を研究
し開発してきた。原理的には、図3に示された方法は極めて簡単で潜在的に
は低価格なものである。残念ながら実際上は、粉粒体の基本的性質からくる
困難に遭遇する。それは振動による対流 (convection by vibration) として知
られているもので、第3章で詳しく調べる。この技術に必要な一連のステッ
プは以下のようである。
• 金属で複製されるべきもののポリスチレンの模型を準備する。
• そのモデルを砂で満たされた容器の中に置く。
• 全体のシステムを、容器の下の台を振動させることにより激しくゆする。
• 最終的には振動により、模型と容器の壁の間の全ての空間に砂が入り込
み、高度に圧密化 (compacted) され鋳型として用いられる。
• ポリスチレンモデルにつながれた開口部を通して、融けた金属を注ぎ
込む。ポリスチレンは瞬間的に蒸発し、その空間に熔融金属が代わって
入り、金属は適切な形に固化する。
原理的には、この手法でほとんど完全なものが得られるべきである。この手
法の利点の一つは、通常の鋳型を用いた時にできる、2つの鋳型を合わせた
第1章
10
イントロダクション
図 3. ポリスチレンの抜殻模型による鋳造の原理。右の図はこの原理の工業
的応用を示す。数個の鋳型が圧密化された砂で満たされた容器の中におかれ
ている。砂に起こる粉粒体の対流現象が鋳造前のポリスチレンの構造に変形
を引き起こし、そのため大量の不良品を生じる。
部分のバリ (burr) ができないところにある。残念ながら、振動を加える過程
で生じる粉粒体の対流が中心部に強い流れを起こし、それがポリスチレンの
模型を変形
時には完全な破壊
してしまうという厄介な傾向がある。
これは深刻な問題で、製品の 90 %に影響を与え、その結果、おびただしい数
の不良品が生じる。
この問題は、粉粒体物質の物理学の典型的なものである。解決法は比較的
容易だ。つまり対流は、ほとんど摩擦の無い容器と粉粒体を用いることによっ
て、大部分消すことができる。しかし、対流が有用な役割も果たしていると
いうことを見落としてはいけない。というのは、対流のおかげで模型のまわ
りの細かい隙間にくまなく粉粒体が詰まるのである。そこでうまくやる秘訣
は、対流の有用な部分は残しつつ厄介で幾分激しい側面を最小化、あるいは
抑制することである。実際解決法は存在する。しかし、それには非常に高価
な工程や材料が必要なので、大量生産には用いることができない。より実際
的には、物理学の教えるところと製造経費との最適な妥協点を探らなければ
ならない。
物理学の基礎的進歩と産業界の要請との間で、微妙なバランスをとる必要
がある。これはその古典的な例になっている。巧妙な解決法を提案するだけ
では十分でないことがよくある。我々は、費用の制約も考慮しなければなら
1.2. 経済的影響と工業的問題
11
ない。特に低付加価値粉粒体の場合には、産業界は技術的な進歩がかなり進
んで始めて費用のかかる新しい工程への投資を決断するものだ。
軽化学薬品合成や製薬産業では、問題は特に多様である。二三の典型的な
例について触れる。
薬学では様々な粉粒体状物質はごく一般的だ。その分野に特徴的な仕様は
広範囲にわたっている。例えば、異なるあるいは相補的な効果を持つ数種類
の成分を混ぜ合わせて、それらができるだけ気持ちのよい香りを持ち更に吸
収され易くすることが、目的であったりする。そのような条件を満たすには、
高度に精密な調合技術が必要だ。
最もよく知られた簡単な例の一つに、アスピリンがある。その基本的成分
(アセチルサリチル酸)は苦く胃に刺激を与える。この製品の特許は今では公
開されているが、好ましくない副作用を最小化しつつ血流への吸収を増強す
るために、永年にわたって数多くの改良が重ねられてきた。原料の粉末結晶
は押し固められ、多糖類でコートされ(味をよくするため)、デンプンと混ぜ
られ(水中ですみやかに分散させるため)、ビタミンCと貼り合わされる(成
分の粉末がうまく混ざり合わない困難を回避するため)。このため、一つの面
は黄色で他の面は白い色をしている。
もう一つのよく知られた例は、タルカム (talcum) などの化粧品の製造で、
これは典型的には粉末や他の粉粒体を適切に混ぜ合わせたものからできてい
る。この工程でもまた、合流する流れによって粉末を混ぜ合わせようとする
と、一時的に管が詰まる。そのようなことが起こると混合物の組成は台無し
になってしまい、特に薬剤の場合などには、製品の安全性に対して壊滅的な
結果を招くことがある。
化粧品や薬剤の粉末は、有機あるいは無機物から来るものであるが、しば
しば高温や低温の(陶器の製造と同様の)焼結や、接着、更に押し出し成形
のような工程さえ経る。このような工程の物理はよく分かっていないし、出
発原材料の熱的・機械的性質がある程度の精度で分かっていることも稀であ
る。詳細はこの本の域を越えるが、多くの応用物理の実験室がこれらの非常
に大きな実際的利益のからむ問題を解くことに奮闘していることを、知って
おくべきだろう。例を挙げると、高速列車の電気モーターのような高性能応
用のための最近の磁石の製造では、大きさが 20 から 50µm の希土類化合物の
12
第1章
イントロダクション
粉の焼結が用いられている。この高技術産業は年間数百トンの高純度粉末材
料を消費している。
粉末あるは一般に小さなサイズの粒子状の物質のもう一つの重要な応用は、
その表面の物理的および化学的性質に関するものだ。特に、体積に対して大
きな表面を持っているので、周囲の気体や液体との相互作用が効果的になる。
このことは粉粒体が化学反応の触媒として用いられる場合に際だった利点と
なる。簡単な計算によりその潜在的な効果を示すことができる。半径 R の一
つの球形の粒子から始めたとしよう。その体積は (4/3)πR 3 で、その表面積
S は 4πR2 である。もし、この一つの粒子を半径 r の N 個の球形粒子に分割
できたとしたら、もちろん N = (R/r)3 である。すると、N 個の小さな粒子
の全表面積は 4N πr 2 = 4N 1/3 πR2 = SN 1/3 になり、これは粒子数の立方根
に比例して増加する。表面積を 1000 倍に増やすには粒子を 30 分割すればよ
く、これを機械的な破砕によって行なうのはたやすい。
農業関連産業
よく知られているように、多くの西側先進国は農産物及び食品の主な生産
国で、それらはしばしばその輸出品の上位を占める。この産業界はその安定
した成長にも関わらず、基本的加工技術、特に、小麦やトウモロコシ、粉ミ
ルク、ココアなどの加工技術に、大して向上をもたらしてこなかった。この
現状を改善するために世界中に多くの研究所が設立されている。エンジニア
達は、あらゆる種類の粉粒体の加工、輸送、そして貯蔵に関わる、いくつか
の未解決の問題への認識を、以前にも増して深めているのだ。
化学産業の場合のように、材料に対する付加価値の程度に応じて、食品の
加工もまた2つのカテゴリーに分類される。低付加価値のカテゴリーの典型
は家畜飼料産業で、そこでは農産物の多量の粒子状原料を扱うのに比較的原
始的な技術が用いられている。平均的な工場は一年間に何十万トンもの様々
な穀類を扱う。その経費のほんの少しの部分(通常は9%程度)が加工用に
とっておかれるのに対して、原材料(多くは農産物)費は83%におよび、輸
送費は8%である。そのような工場のホッパーに無数のあばたのようなへこ
みがあることに気づくことも、稀ではない。それは、アーチ効果によって詰
1.2. 経済的影響と工業的問題
13
まった流れを通すためにハンマーで叩いた跡である。小麦粉のような物質に
は固まって詰まる傾向があるのだ。そのような閉塞は、ジャックハンマーか、
あるいはツルハシででも叩いて日常的に流してやらなければならないのが現
実である。
このような、工場の毎日の作業に影響を与える問題をざっと眺めると、そ
れらはほとんど2つのタイプに分類されることが分かる
アーチ効果によ
る閉塞 と粉粒体の偏析である。
1.2.2
流れの問題
粉粒体流には、工場の現場において無数の問題を引き起こしてしまう特性
がある。砂が詰まった通常の砂時計の砂の流れを観察することによって多く
のことを学ぶことができる [8]。かつて時間を計るのに用いられたような、密
閉された砂時計で起こることとは対照的に、円錐状の漏斗の中の砂の流れは
一般に滑らかではない。経験から知っているように、粉粒体流と周囲の流体
との相互作用により間欠的な事象が生じ、そのため物質の流出が不連続にな
る。工場現場で用いられる大きさのホッパーで粉粒体物質がどのように流れ
落ちるかという問題は、かなり慎重に検討すべき問題であることが分かって
おり、非常に多くの研究がなされてきた。それにもかかわらず、この見かけ
は単純な問題の物理は未だ十分に理解されていない。
穀類(食品工業)や砂利(建設業や公共事業)を扱うようにデザインされ
た工場や実験室では、ほとんどどこでも流れの閉塞に苦しめられており、そ
れは時に壊滅的でさえある。例えば、何十トンもの砂利を流すように設計さ
れた巨大なシュートを用いてトラックや荷船に砂利を積む際には、このよう
な閉塞がいらいらするほど規則的に起こる。図4はこの様子を概念的に示し
ている。この事象の頻度は、開口部の直径と共に、砂利の大きさや力学的性
質にも依存している。この閉塞の原因はいつも、流出口の近辺でのアーチ形
成である。状況によって、流れは間欠的 (intermittent) になったり、あるい
は極めて安定なアーチができて完全に詰まってしまったりする。
同じ原因により、2つの別の流れを一つの共通の流出口に合流させること
によって、2つの粉粒体物質を再現性よく混ぜ合わせることは極めて難しい。
第1章
14
イントロダクション
図 4. 図 (a) と (b) は、砂時計やホッパーの開口部近くのアーチ形成による
流れの閉塞を示している。図 (c) は最大の安定性を持つアーチ構造(逆さま
になった鎖)を図示している。
このことは、通常乾いた粒子を原材料とする、食品産業や高分子を製造する
化学工場での主要な問題であることが分かっている。閉塞は自然発生するが、
それはある種の膠着 (seizing) メカニズムの結果である9 。この膠着現象によ
るアーチ によって、閉塞された穀物のサイロ中に醗酵によるガスが充満し、
危険な爆発を引き起こしたことさえある。
粉粒体の静的性質にまつわる多くの不確実性を考えると、アーチ形成のメ
カニズムを記述することは全くやる気をくじくほど難しい問題に見えるかも
知れない。にもかかわらず、いくつもの一般的原理を述べることは可能であ
り、それらは役にたつことが後で分かる。アーチは重力によるものであるが、
それは純粋に立体幾何学的理由によって形成され得ることを認識することは
重要である。このことを簡単に理解するには、図4 (b) に示したように、摩
擦の無い球がいくつも、傾いた壁と互いの球の両側に支えられた様子を考え
ればよい。この例では、それぞれの球は2つの接触点で釣り合っており、そ
れをつないだ線は重心の下を通っている。このような配置は2次元系では明
らかに自発的に形成され得るが、現実の3次元で実現するには、互いにその
9 膠着現象は工業現場ではしばしば観察されるが、よく理解されていない。それは、ホッパー
中でのアーチ形成の緩やかな硬化として現れる。しばらく放っておかれて硬くなったサイロ中の
プラグ(plug 、栓)を除くのに、農業産業での労働者がツルハシを用いなければならないのは珍
しくない。このプラグは高い湿度のためであったり(2.1 節参照)、貯蔵の間に粒子を癒着させ
る、あまりよく知られていない物理化学過程の結果であったりする。
1.2. 経済的影響と工業的問題
15
図 5. 直径1 cm の試験管に細かい砂 (100µm) で満たして逆さまにすると、
安定なアーチが簡単に形成される。左の写真は側面からのものだが、右の写
真は斜め下からのもので、アーチが壁に固定されているところを示している。
まわりの球を支え合いながら、ずっと多くの球が協調しなければならないの
で、かなり難しそうに見えるかも知れない。それにもかかわらず、工場や実
験室でそれらは頻繁に見られる。図5に、簡単な実験で実際に観察される例
を示す。
驚くにはあたらないが、乾燥摩擦の現象は、側壁に固定されたアーチを形
成する可能性を非常に大きくする。この場合、側壁を斜めにすることさえ必
要ではない。実際、特にサイロにおいて鉛直側壁に固定されたアーチの例を
いくつも見るだろう(例えば、3.2.4 節)。この効果は、工場において危険な
結果をもたらすことがある。エンジニアは、図6に示したような多くの解決
法を考え出してきた。
1.2.3
偏析の問題
産業現場では膨大な量の粉粒体が毎年加工されている。そして、工程の事
実上全ての段階で生じるのが偏析である。それは最も厄介な現象で、可能な
16
第1章
イントロダクション
図 6. アーチ効果による閉塞を防ぐ、あるいは除くために、工場で用いられ
ている3つの方法:(a) アルキメデスのスクリュー、(b) 凸凹した表面のベ
ルトコンベヤー、(c) 流れを再開させるためにハンマーで閉塞したホッパー
を叩く、工場の労働者。最後の方法は、低付加価値粉粒体を製造している産
業でのやりかたである。
限り均一にすべき混合物の成分を、分離してしまう。これは、例えば乾燥粉
粒材料をできるだけ均一に混合あるいは融合させなければならない高分子工
業のような分野では、永遠の問題である。農業産業では様々な穀類や粒状の
タンパク質を注意深く混ぜ合わせなければならないが、偏析現象はここでも
難問である。家畜飼料など低付加価値材料を扱っている産業では、製品のコ
ストを押し上げてしまうので複雑な技術を用いる余裕はない。多くの場合、
図7に示すような、荒っぽくあまり効果的でない方法に頼っている。
もう一方には極限のこれから議論するように、プラスチックや製薬産業な
どにおいて直面する困難がある。それは、異なる粉粒体物質を完全に混合す
ることが絶対に必要な場合には、どんなに費用のかかるかを教えてくれる。
問題は結局のところ次のようなものだ。2種類の粉粒体物質AとBを等しい
割合でできる限り均一に混ぜ合わされなければならない。均一性の判定基準
は、Aの各粒子は、2つの成分がうまく反応あるいは融合するために、少な
くとも1つのB粒子と接触していなければならない。
単に、その2種類の粒子を等量だけ通常のミキサーに入れて混ぜ合わせて
もだめである。というのは,既に指摘したように、混合物を揺すると2つの成
分は必ず分離する傾向があるからだ。現在のところ工場と実験室で共に好ん
1.2. 経済的影響と工業的問題
17
図 7. 粉粒体偏析を避けるために、工場で用いられている2つの方法。どち
らも原理は同じである。考え方は、混合を促進する装置に材料を強制的に通
すところにある。
で用いられている方法は、費用も手間もかかり、おまけに時間もかかり(魅
力的でないことに)大量生産に使うのが難しいようなものだ。その解決法と
は、均一な混合物を作ることは事実上不可能なので諦めて、A層とB層が互
い違いになっている多層ケーキのようなものを作ることだ。秘訣は、AとB
の粒子からなる2枚のパイ生地のようなものから始めることであった。これ
らの2枚の板を図8 (a) に示すように重ね合わせる。
図8の残りの部分に示されている一連のステップは、
「パイこね法」(pastrymaker technique) と呼ばれている。最初の A/B の生地を一方に2倍の長さ
に引き延ばす。そして、それを2つに切り(図8 (b))、その2つに分かれた
生地を重ね合わせると(図8 (c))、A/B/A/B 構造をしたものが得られる。
このプロセスは、それぞれの層の厚さがAまたはBの大きい方の粒子と大体
同じ程度になるまで繰り返される。N 回の作業の後には、層の数は当然 2N
になっている。このプロセスは非常に手間がかかるばかりではなく、最終的
に得られるものは、本当の3次元的な混合物ではなく、異なる層が重ね合わ
さったものに過ぎない。
ここで述べたプロセスは、図9に示す Kenics 型ミキサーを用いた大量生
産に採用されている。Kenics 型ミキサーを用いると、パイこね法の一連のス
第1章
18
イントロダクション
図 8. 2つの異なる粉粒体物質を混ぜ合わせるための、「パイこね法」の説
明(文献 [115] より)。
テップを自動的にかつ連続的に行なうことができる10 。
混ぜ合わされるペーストあるいは流体は図に示されているAとBから注入
される。このプロセスの速さの上限は、装置の中で起こる乱流現象によって
制限されている。乱流が起こると、混合の質と滑らかさが台無しにされてし
まうからだ。乱流現象は、主に装置の大きさと混ぜ合わされる材料の性質に
よっている。
この方法を実際の工場に導入するためには大きな資本の投資が必要である
のは明らかであるし、難しい加工技術に取り組まなければならないことも明
白だ(ペーストを準備すること自体、大仕事である)。このため、コストを
最小にとどめなければならない低付加価値材料の工場生産量を加工するのに
は、ほとんど用いることができない。粉粒体物質の偏析のメカニズムのより
よい理解は、基礎物理学的観点からだけではなく、経済的理由からも非常に
重要なのである。
1.3
粉粒体物質と地球物理学
「自然には粉粒体があまねく存在する」と改めていうまでもないことであ
る。砂漠には砂は大量に存在し、砂漠は地球表面の陸地の 10 %以上を覆って
10 これと同じ原理で働くミキサーは、人工衛星を軌道に載せるためのブースターに詰める、複
合混合粉末を作るために用いられている。
1.3. 粉粒体物質と地球物理学
19
図 9.Kenics 型ミキサーの最初の2枚の刃(文献 [115] より)。
いる11 。海や湖の岸や古代からの海底は、我々の文明における基本的物質の
ひとつである珪酸塩の砂の、ほとんど尽きない自然の供給源だ。
多くの自然現象が、多かれ少なかれこれから我々が語ろうとしている物理
学と関連する。少なくとも、ほとんどの自然現象が、乾燥粉粒体の振る舞い
を支配している衝突や摩擦などという素過程を含んでいる。もちろん概して
地球物理学は、ここで我々が関心を持つような対象よりもはるかに複雑なも
のを問題にしている。例えば、液体中で浮遊する粒子として動いている砂の
物理は、粉体流動層の領域に入るが、それはこの本で取り組むような問題と
はかなり異なる。
一方、過飽和的(準安定)状態における雪崩現象は第4章で議論する概念
を用いて理解できる(もっともこの点に関しては、専門家が全て同意してい
るわけではない)。モデルはそもそも発見的で、それゆえ原理的には特定の性
質には依らず様々な雪崩現象に適用できるはずではある。しかし、この分野
においては多くの注意が必要である。
同じような意味で、第5章で扱われるせん断による粉粒体の分離現象は、
河川の石や砂の成層沈殿現象と何らかの類似性がある12 。このタイプの成層
11 砂漠や砂漠化の研究は人類に多大な影響を与える学問分野である。粉粒体の物理学のパイオ
ニアの一人である Bagnold が、1冊まるごと砂漠の砂丘についての本を書いているのは、意味
深い [9]。
12 Guy Berthault は、この現象の素晴らしいドキュメンタリー映画を、コロラド大学の研究
に基づいて作った。
20
第1章
イントロダクション
現象は自然において非常に大きなスケール(河川の全長あるいは山の高さ全
体にわたる)で起こっている。これは、どのようにして何世紀にもわたって
河川がその流れを変えるか、どのようにして砂は川の流れをせき止められて
しまうかなどを、少なくとも部分的に説明するし、また、その他の深刻な生
態学的影響を与える自然現象も、ある程度説明する。同様に、強風にさらさ
れた石や険しい斜面を転がり落ちる岩に働く摩擦は、この惑星の表面の侵食
に直接かかわっており、我々の環境の変化に大きな影響を持っている。当然
のことながら,これらの自然現象の全体的な振る舞いを予測できれば、我々
にとって非常に好都合であるだろう。この本で議論する原理は、この野心的
な目標への、大きくはないかも知れないが、一歩を進めるだろう。実際、後
のいくつかの章で扱う事柄は、地球物理学的環境で働いている様々なメカニ
ズムの第一原理の記述と見なすこともできる。
乾燥粉粒体の物理学と多くを共有しているもう一つの学問分野は、地震学
である。どのようにして摩擦力は蓄えられ突然開放されるのかは、粉粒体の
基本的性質を理解しようとしている基礎理論家だけではなく、地球物理学者
にも大変興味のあることである。半永久的に接触している粒子の集団的振る
舞いは、地球物理科学の中心課題である。確かに、地球物理学者が普通扱っ
ている相互作用は、我々が意図して注意を限っているようなものに比べて、
はるかに複雑である。彼らは、凝集効果や、接触疲労、侵食、歪み硬化など、
我々がほとんど触れないような現象を心配しなければならない。しかし、第
3章で見るように、地球物理学の基礎にある破壊現象は、初等的な形ではあ
るが、ひどく単純化された物理の中にも確かに現れている。
雪崩と自由流は第4章で扱う。そこで、若干奔放にではあるが、地球物理
学者の仕事を引用する。これには二つの理由がある。まず第一に、いわゆる
スティック・スリップ現象の正確な記述には、摩擦と速度の相互依存性の明確
な理解が必要であるが、それはまた粉粒体の物理学の中心課題でもある。第
二に、いわゆる自己組織臨界 (self-organized critical, SOC) 系のシミュレー
ションが、粉粒体の雪崩と(Gutengerg-Richter 則に代表される)地震の分布
のスケール則の両方を説明するのに、使われてきた。しかし、この方法の正
当性については、どちらの場合についても未だに活発な議論の対象となって
いる。
1.4. 簡単な歴史的概観
1.4
21
簡単な歴史的概観
これまで、粉粒体の物理学に対する研究者の関心は、例えば流体力学に比
べて、はるかにわずかなものであった。それでも、何人かの著名な科学者が
ずっと昔に、この種の固体の振る舞いの魅惑的な側面に驚嘆していたことは
特筆すべきで、またある意味で称賛すべきことだ。
粉粒体流について言及している最初の記録は、古代ローマの有名な詩人で
ありかつ自然哲学者であるルクレティウス(Lucretius、紀元前 98–55 ごろ)
によるものである。紀元前 55 年に彼はこう書いている。「ケシの実は、あた
かも水のようにヒシャクですくうことができる。ヒシャクをケシの実に沈め
ると、それはヒシャクの中に滑らかに流れ込む。」13
ルネサンス期の学者たちは広い興味を持っていた。レオナルド・ダ・ビン
チ(Leonardo da Vinci、1452–1519 )は、乾燥摩擦の法則を示す説得力のあ
る実験を考案した最初の人である。彼とその共同研究者たちは、砂山につい
てのいくつかの核心をついた記述をしている。しかし、クーロン(Charles de
「建築に関連する釣り合いのいくつかの問題に応
Coulomb、1736–1806 ) が、
用される最大と最小の法則についての小論」[11] と題された決定的な論文を
書いたのは、18 世紀の終りになってからであった。この論文はいくつもの点
で興味深く、土の土手の釣り合いや、石の建造物やその他の大建造物の安定
性についての多くの実験観察に基づいている。これにより粉粒体の物理学が
確固とした基礎の上におかれたが、それは今日でさえ異義をさしはさむのが
難しいものだ。例えば、それにより最終的に、固体間の有名なクーロンの乾燥
摩擦の法則に導かれ、更にそれは粉粒体に拡張された。その意味で、クーロ
ンの画期的なこの論文は、全く新しい学問分野の先駆けと見ることができる。
1780 年に、クラドニ(Ernst Chladni、1756–1827 )は、軽い粉末(馬のた
てがみから取られた毛) の振る舞いとより粗く重いもの(例えば、砂)の振
る舞いとの間の多くの興味深い差に気づいた(これは未だに不可解なままで
ある)。第2章で議論するが、彼は、後にクラドニの相補図形として知られる
ようになるものを、観察した。彼の実験は、少し後にエルステッド(Christian
13 ケシの実は、粉粒体の性質を研究するための物質として、最近また盛んに用いられている。
それは水分を含んでいるので、核磁気共鳴 (NMR) を用いて、粒子の集合の集団的振る舞いの
3次元写真をとることができる。これには第3章で触れる。
22
第1章
イントロダクション
Oersted、1777–1851 )によって再現され確認された。彼は、ヒカゲノカズラ
の粉末を用いた。これは極めて微細なもので、他の多くの発見にも用いられ
た14 。サバール(Felix Savart、1791–1841 )は、色々なものに関心を持って
いたが、特に音楽にも興味を持っていた。1827 年に、彼はクラドニの幾何学
図形を用いて、音波の振動数と波長を研究した。
ファラデー(Michael Faraday、1791–1867 )もまた傑出した人物で、流体
力学の不安定性 についての彼の第一の仕事を背景に、どのようにして振動が
砂山を形成するかということに強い興味を持っていた [12] 。この現象は、クラ
ドニの実験に密接に関連があるが、最近まで謎のままであった。問題は、砂
が規則的模様に集まる時に空気の果たす役割を理解することであった。第3
章において、砂山形成と共に、ファラデーによって液体で観察された不安定
性によく似た、粉粒体の不安定性の問題を議論する機会を持つ。
ランキン(William Rankine、1820–1872 )は、1857 年に既に、粉粒体物質
における摩擦の影響の理論的考察を行なっている [13] 。彼は、クーロンの概念
から出発して、多くの原理を確立したが、それらは今日でも完全に正しいと
認められている。彼は、今ではランキンの受働および主働状態(passive and
active states)と呼ばれるものを定義した。これらの概念については、Brown
と Richards の本に明確かつ完全に議論されているが、我々はこれついては触
れない [5]。
サイロに蓄えられたの粉粒体物質の中の釣り合いの力の分布は、何人もの研
究者によって調べられ、その結果は論文として公表されている15 。1884 年に
ロバーツ(I. Roberts)は以下のように書いている。
「側壁が鉛直にたっている
建物において、中に蓄えられた粒子による底面への圧力は、粒子に満たされた
高さが内接円の直径の2倍以上になると、それ以上増加しなくなる」[14] 。二
三年後、ブレーメン出身のドイツのエンジニアのヤンセン(H. Janssen)は、
ある一定の係数で力が壁の方へ向きを変えるというモデルを提案した。彼は
ロバーツの仕事を引用しなかったが、多分それに気づいていなかったためで
あろう。このモデルについては第3章で説明し、更にそれを粉粒体の動力学
14 科学における我々の偉大な先人たちは、その探求心において称賛に値する。彼らの好奇心は
ただ一つの学問分野に限られていることは稀である。
15 この問題は現在も活発に研究されている。粉粒体中に働いている力の様々な不確定性
こ
を考えると、サイロの底に働く力の分布をモデル化する正しい
れについては詳しく議論する
方法については、まだ議論の余地がある。
1.5. 必読書と文献
23
に一般化する。実質的に同じ考え方に基づく仕事がストラット(John Strutt、
1842–1919 )になされ、それは 1906 年に公表されている [16] 。彼はロバーツ
の観察には言及しているが、ヤンセンの仕事には触れていない。彼もまた、
恐らくそれをよく知らなかったためであろう。ストラット(多分 レイリー卿、
Lord Rayleigh 、としてよりよく知られている。1904 年にノーベル物理学賞
授賞)は、この問題と摩擦で棒のまわりにロープを巻き付けた時の状況との、
興味深い類似性を示唆した。
19 世紀の後半までに、レイノルズ(Osborne Reynolds、1842–1912 )は既
に流体力学の分野で頭角を現していた(レイノルズ数)[17] 。彼は、1885 年
ごろに粉粒体の理論にもいくつかの基礎的な貢献をしている。彼が発展させ
たいくつかの概念(特に膨張の概念については第3章で議論する)と彼の傾
いた土手の解析は、現在でも第一級のものである。
この分野の研究にその才能を捧げた科学者やエンジニアの数は、20 世紀に
入り、特に 1950 年代からは順調に増加している。言及に値する一人の研究者
がいる。彼の名はバグノルド(Ralph A. Bagnold)である [18] 。1940 年から
1970 年にかけて、彼は多くの重要な観察を行ない、砂漠の砂の本を書いた。
それは今では古典となっている [9]。その時から、この分野の多くの科学論文
の出版が出てきた。序文にも書いたように、実際、この広がりがこの本を書
くことになった主な動機の一つである。
1.5
必読書と文献
この本の後の部分に進む前に、二三の基本的あるいは概説記事を読んでお
くことをお勧めする。そうすることによって、
「砂山の物理」に関連する問題
を鳥瞰することができる。特に文献 [19–22] は強く推薦する。粉粒体物質の
物理と力学については、Brown と Richards の教科書は最高の文献であると
広く受け入れられているが、全くその通りである [5]。ただ、残念なことに現
在では絶版になっている。Bagnold[9] と Nedderman[23] の教科書も推薦でき
る。様々な問題についてのシンポジウムの会議録の形で出版されている、よ
り最近の仕事もまた有用な資料である [6, 24–27] 。それらから、この本で概説
されたいくつかの問題についてより深い解析が得られるだろう。
24
第1章
イントロダクション
序文に述べたように、この本の目標はできる限り最近の概念と結果を提供す
ることである。このため、我々は読者が基本的概念(例えば、Mohr-Coulomb
モデルや、Rankine 状態、特性曲線法など)に精通していると仮定した。これ
らは Brown と Richards の教科書や Savage の教科書に詳述されている。1980
年代に発展した運動論にはそれだけでこれと同じくらいの本が必要である。
それは、速く運動している比較的希薄な粒子系を扱っているが、そのような
系は、この本が主に扱っているような密度の濃い粉粒体と全く異なる。運動
論に特に興味のある読者は別の基本的文献を参照されたい(特に、[28–30] )
。
25
第2章
2.1
相互作用する粉粒体
1つの粒子とその環境
粉粒体の物理が興味の対象としているのは、現実的な状況であり、それは
多くの場合(空気などの)気体や液体環境におかれた固体粒子の実際の状況
である。粉粒体の性質は、粒子間の相互作用の性格に大きく支配されている
が、環境との相互作用の性格にもよっている。後者の影響が無視できる場合
には、乾燥粉粒体 (dry granular material) 呼ぶことにする。そうでない場合
には、粉粒体がおかれた環境に応じ、様々な性質を備えた複雑なシステムが
問題となる。このような学問領域は、工業的に大変面白く、多孔性物質やペー
ストや泥水までも含む大変に広い領域をカバーし、非常に多くの研究の対象
となってきたのは明らかである。この領域は現在広がる一方であるが、その
取り扱いはこの本の目的を越える。この本では、相互作用を最大限に簡素化
した取り扱いを試み、湿った粉粒体に内在する複雑な相互作用は無視するこ
とにする。即ち、以下では、ほとんど乾燥粉粒体のみを考えることにする。
(理想化された)乾燥粉粒体は、常に科学者の興味の対象であったとは言えな
い。しかし、その振る舞いの複雑さ、そこに含まれる問題の多様さ、および
その基本的な性格は、物理や工業分野の研究者を目覚めさせる可能性がある。
ここで注意すべきことは、乾燥粉粒体が、思考実験的にしか実現が難しい
「理論的」なものだということである。なぜなら、相互作用が粒子間や粒子
と容器の壁との単純な摩擦と衝突に還元されているからである。このように
理想化された状況は、固体粒子を真空中におくことによって、実験室でもう
まく実現できると思えるかもしれない。しかし、多くの場合、このようなや
り方では本質的に大きな問題を避けられない。現実には、粉粒体の特徴であ
る衝突や摩擦によるエネルギーの散逸は必然的に表面電荷の出現を伴う。粒
第2章
26
相互作用する粉粒体
図 10.層流領域と乱流領域において流体中を動く球。
子間あるいは粒子と内壁が相互作用するとき表面電荷がもぎとられるのであ
る。真空中においては、このような表面電荷を取り除くことは不可能である。
この表面電荷は、中距離静電相互作用のため、観測される現象の解析をひど
く難しくする。まわりに流体がある場合には、このやっかいな表面電荷が流
れ去る。そのため、そのような流体はほとんどの場合あったほうが望ましく、
不可欠とすらいえる。幸いなことに、いくつかのことに気をつければ流体環
境における多くの実験や工業にみられる例さえも、乾燥粉粒体とみなすこと
ができる。この節の目的は、この本で展開していく方法論が適用できる範囲
を明確にすることである。はじめに教育的目的で、一つの粒子が周りの流体
と相互作用するという簡単な場合を考えることにする。
層流領域における制動
はじめに、粘性 η の流体中を速さ v で動いている、半径 R、体積密度 ρb の
球形粒子を考えよう。まわりの流体は、図 10 の左側に示されているように、
中心粒子の周りにある壁によって仕切られた空間にある。ここで、この粒子
の運動エネルギーと(流体中で生じる)運動に抗する粘性力の仕事による散
逸エネルギーを比較してみよう。
2.1. 1つの粒子とその環境
27
とりあえず Rl というパラメタを導入してみよう(l は層という仏語の頭文
字)。これを、粒子の運動エネルギーと粒子半径と同程度の特徴的長さにわ
たって作用する粘性力のする仕事の比として定義する。このように定義され
たパラメタ Rl によって、粒子の運動エネルギーに対する粘性制動の重要さ
を評価することが可能になる。流体力学によれば、
Rl =
mv2
2 I ηπR2 (∂v/∂x)dx
ただし、分母に現れる積分は粒子を取り囲む隙間 I について行う。ここでは、
Rl のおおまかな大きさが分かればよいので、この積分を正確に評価する必要
はなく、この系の長さのスケールはすべて R だとして評価する。このように
して、分母は 10πηR 2 v のオーダーと見積もれる。一方、分子は (4/3)ρb πR3 v2
と見積ることができる。この大まかな近似によって、
Rl ≈
ρb
Rv
η
(2 – 1)
という関係式を得る。ついでながら、この式はストークスの球の法則を思い
起こせば直接に導くことができる。また、公式 (2-1) はいわゆるレイノルズ
数の表式ととてもよく似ていることにも注意しよう。レイノルズ数とは移流
項と粘性項の比で与えられるから、
Re =
UL
ρ
= UL
ν
η
となる。ただし、U は動いている流体の特徴的速さ、L はこの流体の特徴的
長さである。この式で分かることは、U と L はそれぞれ式 (2-1) の v と R の
役割を果たしているということである。この2つのパラメタの本質的な相違
は、流体中を動く固体粒子の場合に、動いている流体の密度ではなく固体の
体積密度が関わっているという点にある。この点を理解した上で言葉の定義
の拡張をすれば、すでに導入した Rl という数は、今考えている問題のレイノ
ルズ数に他ならない。
この公式 (2-1) を数値的に評価し大きさの程度を見積もることによって、この
3
式が実際に何を意味しているか知ることは有用である。もし体積密度 2.2g/cm
で直径 1mm のケイ酸塩の砂粒が1つ、乾いた空気中で cm/s のオーダーの速
28
第2章
相互作用する粉粒体
さで動いているならば、Rl は 104 のオーダーである。これによって、通常こ
の質量と速さの粒子であれば安心して「乾燥粉粒体」としてモデル化できる。
しかし反対に大きさが 10µ の粉末つまり大きさが 1/100 で密度がずっと軽い
(例えば、lycopode 粉末1 )粒子による粉粒体では、それに応じて Rl が小さ
くなり、たやすく 10 より小さくなってしまう。これは周囲の流体の粘性の影
響がもはや無視できなくなることを意味する。この簡単な計算によって分か
ることは、実験を乾燥粉粒体2 としてモデル化してよいかどうかは慎重に判断
すべきだということである。なぜなら、乾燥粉粒体では周囲の流体とのすべ
ての相互作用を無視してしまうのであるから、たとえ(粒子が動いているた
めに臨界状態にはないとわかっている場合などの)都合のよい実験条件にお
いてさえ注意が必要なのである。同様の考察から、空気よりも 100 倍も粘性
が高い水のような流体中では、状況は非常に危うい。たとえミリ程度の直径
の粒子でも、粘性相互作用はもはや無視できない。
乱流領域での制動
流体中を動いている1粒子の相対速度が十分な値に到達するや否や、動い
ている物体と流体の間にある境界層に不安定性 が現れることは流体力学でよ
く知られている。つまり、層流領域から乱流領域へと変化する。また、この
層領域から乱流域への転移は、乾いた空気中では相対速度が数 cm/s のオー
ダーで生じることも知られている。我々が実現できる粉粒体の流れは典型的
にはこの程度の粒子速度をもつから、したがって、そのような粉粒体の流れ
には状況に応じ、流体粘性に直接関係する「層流タイプの制動」と動いてい
る物体前後の動的圧力差に関係する「乱流タイプの制動」が同様に関わって
くるのである。乱流域においても、層流の場合に導入した論理を適用してみ
よう。
ここでもパラメタ Rt は前と同様に、着目している粒子の運動エネルギー
1 訳注:リコポジウムというシダの一種の種子を細かく砕いたもので、フランスの小学校で
「クント管」の実験によく用いられるそうである。以下でも度々取り上げられるが日本では馴染
みがないので原語で表記することにする。
2 ここで手短に導入した「乾燥粉粒体」という概念は、第3章で最近の2つの実験 [31] の重
要性を理解すると、より明確になるであろう。
2.1. 1つの粒子とその環境
29
と、特徴的長さ(典型的には粒子径の大きさ R の程度)にわたって乱流制動
力 Ft がする仕事の比として定義される。
この場合には、Ft は粒子の射影表面積 S および相対速度 v の2乗に比例す
る。また係数 kt を通じて粒子の形状にも依存するが、その係数の典型的な値
(球の場合)は 0.24 である。したがって、
Ft = kt
ρ0 v2
S
2
ここで ρ0 は流体の密度である。
したがってパラメタ Rt の値は
Rt ≈
1 ρb
kt ρ0
となる。
この式は(乱流条件がよく成立するなら)Rt は速度によらないことを示し
ている。また、周りの流体との相互作用が無視できる系という意味の「乾燥
粉粒体」という概念は、粒子が十分に重ければ適用できることもこの式に示
されている。具体的には、空気のような気体中を流れるケイ酸塩の砂粒は十
分に重いとみなせる3 。 この場合には、Rt は 103 を超えているので、乱流に
よる制動の効果は無視できるのである。これに対し同じ状況であっても液体
中では周りの流体を無視することはできない。この場合には、密度の比が1
の程度であるので流体の制動は主要な役割を果たす。
粉粒体の樹枝状パターン
ここで驚くべき実験結果 [32,26] を紹介しよう。この実験は、いまだに十分
理解されていないが、空気と粉粒体の興味深い相互作用の一例を明確に示し
3 粉粒体の物理においては密度が決定的に重要であるということは、明確に認識されてきてい
る。18 世紀の Chladni による簡単な観測が最初の例である。彼はバイオリンの弓からもぎ取ら
れた細かい馬の毛がバイオリンの共鳴板の上で特別な形に並ぶことに気づいた。そこで彼は、共
鳴板の上に砂粒あるいはとても軽い lycopode の粉末を置くという簡単な実験を行った。このよ
うにして、彼は砂が共鳴板の振動の節に集まる一方、lycopode の粉末が振動の腹に集まること
を観測した。つまり、Chladni の形状として知られる相補的な形状ができる。lycopode の粉末
は周囲の空気の振動に敏感で、反対に砂は共鳴版上で振動が最大になる場所を避けるからであ
る。これは 1830 年に Michael Faraday によって報告されているが、物理学者の観察精神のと
てもよい例である。
30
第2章
相互作用する粉粒体
ている。流体力学でよく知られている実験に、ある流体を別のより粘性の高
い流体に注入するというものがあるが、これと同じ精神で行われたのが、こ
こで紹介する一連の「粉粒体における樹枝状パターン形成」の実験である。
流体の場合によく利用される、次のような放射型 Hele-Shaw セルがこの場合
にも用いられた。
2枚のガラス板の間に、細かい砂をあまり詰め込み過ぎないように注意し
て入れ、薄い層をつくる。上側の板の中心に穴をあけて管を取付けておき、
圧縮空気を粉粒体中に噴射する。圧力が低く空気の流量が少ないときには何
も生じない。粉粒体は通常の多孔性物質のように振る舞うだけである。しか
し、流量を増やしていくと粒子が移動して樹枝状パターンを作っていくのが
見られる。この形は多かれ少なかれフラクタル状であり、非ニュートン流体
の場合に見られるものと似ている。典型的な例が図 11 に示してある。
いまだよく理解されていないこの実験の結果は、様々な問題を提起してい
る。2枚のガラス板の間の狭い空間に詰め込まれているのに、そもそもどの
ようにして砂粒は移動できるのだろうか?しかも後で示すように、粉粒体は
変形するにはまず膨張しなくてはいけないはずなのである。換言すれば、こ
の堆積物は膨張の原理 (principle of dilatancy)(3.1.3 節参照)の意味におい
ていたるところでコンパクトなのであろうか?パターンの大きさを決めてい
るパラメタは何であろうか?粉粒体を粘性流体と同一視できるのだろうか?
要するに、この実験はこれからこの本のなかで繰り返し湧き上がってくる多
くの疑問を提起するのである。
湿気、静電相互作用などのその他の摂動
研究所や工場における日常の経験から示唆されるように、これまで議論し
てきた制動効果とは別のいくつかの摂動は、状況を複雑にし、これまで考え
てきた意味での「乾燥粉粒体」としてのモデル化を難しくする。例えば、大
気中の湿気 (humidity) のために、多少不安定な粒子の集合体ができることが
ある。我々が日頃の経験から知っているように、濡れた砂はかなり凝集力が
ある一方で、乾いた砂はたやすくボロボロと崩れてしまう。またこれも直感
的に明らかだが、粒子が小さいほどより(いま議論している意味で)その他
2.1. 1つの粒子とその環境
31
図 11. 詰め込まれた粉粒体に空気を噴射していったときの樹枝状パターン
の成長の様子。左側が注入間もないときの様子。右側は形状がよく成長した
段階のもので直径は約 10cm である(文献 [26] より)。
の摂動の影響を受けやすい。なぜなら、粒子が小さくなると、毛管現象によ
る力(表面張力)が相対的に大きくなり、粒子が大きいときにその振る舞い
を主に決めている重力と同程度の大きさになってくるからである。ここでも、
系統的に単純化して考えると、2つの球形粒子が水の薄い層によってくっつ
いたままでいられるためには、どのくらい粒子が小さくなければならないか
見積もることができる。この問題は図 12 で説明されている。
2つの湿った球の接触を保っている毛管現象による力を計算することは決
して簡単ではない。Laplace-Young の式を解くことに関連した困難を避ける
ために、いくつかの方法が提案されてきている。最も簡単な方法は「滑車法」
(pulley method) として知られている。なぜなら、この方法ではメニスカス
(meniscus, 湾曲面)の輪郭を2つの粒子に接する(一枚の)平面上にある滑
車の形で近似するからである。ただし、この「滑車」の内半径は r1 で滑車の
外半径は r2 である [33] 。この方法によると毛細管力は
r2
Fc = πγlv r2 1 +
r1
の形で与えられる。ただし、γlv は空気−液体境界での表面張力である。こ
こで、下にある球形粒子の重さが毛管現象による力にちょうど等しいときに、
第2章
32
相互作用する粉粒体
図 12. 液体がつくる表面張力によるメニスカスによって接触を保つ球(文
献 [115] より)。
液体部分の半径が粒子径の何分の一か、つまり r2 ≈ αR であると仮定し、さ
らに r2 /r1 が 5 の程度だとしてみよう。この一連の近似によって、オーダー
としては正しい結果
R≈
4αγlv
gρb
3
が得られる。この式によると、ガラス球 (ρb = 2.2 g/cm ) と液体状態の水
(γlv = 73 ×10−3 N/m) の場合には、α = 1 とすれば直径が 1mm までの玉は
くっついたままでいられることになる。もう少し控えめな量の水 α = 0.01 の
場合には、粒子径が 100µm を超えると、くっついたままでいられなくなる。
この概算から明らかなように、乾燥粉粒体の実験を行う際には湿度を制御す
る必要がある。したがって、空気中で(粒子径が 100µm 以下の)粉末を扱う
工業的プロセスは、(表面張力が重要になるので) 本書で示す物理には従いそ
うにないと結論してよいであろう。
静電的相互作用を簡単なモデルで組み入れることはいっそう難しい。主な
理由は、相対運動をしている粒子の表面上に生じる電荷を定量化することが、
2.1. 1つの粒子とその環境
33
図 13. プラスチック管壁面との静電気的相互作用により宙に浮いている小
さな鉄球。
近似的にさえ難しいからである。そこで以下のように、簡単な実験を基に、
経験的にこの表面電荷を見積もることにしよう。直径 1.5mm の鉄球をいくつ
かプラスチック管に落とし(図 13)、管とその中身を激しく振り、テープル
に垂直に置き直してみよう。すると、いくつかの玉が管の壁面にくっついた
ままになっていることに気づくであろう。これらの玉は不安定な釣り合いを
保っており、すべての玉が互いに静電気的に作用しあっていることから見て、
明らかに各々の位置は隣の玉の位置に陽に依存している。
各鉄球の重さが分かっていて、しかもその重さが静電的反発力と相殺して
いると仮定すれば、各球が 3 × 10−9 C の程度の電荷を持ち、これが 300µC/kg
あるいは表面電荷にして 4 × 10−8 C/cm に相当することが容易に計算でき
2
る。これらの数字は工業的に通常観測される値に一致しているようである。
経験的に、有機性物質は鉱物に比べはるかに(100 分の 1 くらい)電荷を帯
第2章
34
相互作用する粉粒体
びにくく、また帯電量は表面の物理的・化学的性質に依存することが分かっ
ている。さらに、前にも触れたとおり、湿気はこの種の摂動を小さくするが、
その実際の機構は完全には分かっていない。最後に、このような表面電荷の
存在が工業設備での危険の温床となっていることにも触れておく。即ち、
(と
うもろこしなどの)乾いた穀物を大量に貯蔵してある工場では、この種の電
荷が引き金となって、有機物分解でサイロに生じたガスの爆発が起こり得る
のである。実験室においてこのような危険性を防ぐための標準的方法は、帯
電しやすい表面を抗静電気スプレーでコートすることである。残念ながら、
この解決法は工業的尺度でみると全く現実的でない。
粉粒体の分類といくつかの定義
粉粒体の分野で、従来から使われてきた用語に慣れることは有用である。
以下の定義はこの分野で定評のある Brown と Richards の文献 [5] から引用し
たものである。
• 粉粒体 (granular material) とは、分離してはいるがほとんどの時間触
れ合っている固体要素から構成される。この定義により、特に流動層
(fluidized bed) や懸濁液 (suspension) などの粒子がゆるく結びついた
物質は除外される。固体含有率 (fractional solid content) として知られ
るパラメタは、粉粒体を構成している固体材料自身の体積密度に対す
る実際の粉粒体の体積密度の比として定義される。
• 粉末 (powder) とは、直径 100µm 以下の粒子で構成された粉粒体である。
さらに、10 から 100µm の粉粒粉末 (granular powders)、1 から 10µm
の微細粉末 (superfine powders)、および 0.1 から 1µm の極微細粉末
(hyperfine powders) とに分けることも広く行われてきた。
• 粉粒固体 (granular solid) とは、大きさが 100 から 3000µm の粒子から
構成される。
• 破砕固体 (broken solid) とは、多くの粒子が 3mm 以上の粉粒体である。
普通コンクリートを作るために使われている土砂などの集合体はこの
範疇に属する。
2.2. 2つの粒子の相互作用
35
これらの定義と、これまでの議論から明らかなのは、乾燥粉粒体の物理は現
実には粉粒固体と破砕固体に限られるということである。粉末、懸濁液や流
動層など、周りの流体との相互作用が顕著な系は除外される。
2.2
2つの粒子の相互作用
乾燥粉粒体の系全体としての性質が構成要素の力学的性質に強く依存して
いることが認識されたのは最近のことである。外界からの刺激によっていろ
いろな振る舞い(圧密緩和、振動誘起による流動化、アーチングによる閉塞、
様々なタイプの流れなどがあり、これらについては後で全て検討する)が生
じ得るのだが、これらは、多くの場合、粒子同士や粒子と容器壁面との微視
的レベルの力学的相互作用の性質やその重要性に遡ることができる。別の言
い方をすれば、局所的なエネルギー散逸の仕方が、粉粒体の振る舞い方を根
本的に決定づけるのである。そうは言っても、相対運動をしている固体間相
互作用の物理は、これらの現象の詳細な記述に重要であるはずにもかかわら
ず、完全に理解されているというには程遠いということを認識しておく必要
がある。
このことは、これから固体間の相互作用の記述を試みていく中で、繰り返
し障害となる。最も顕著な例は、粉粒体の現実的コンピュータシミュレーショ
ン法を発展させる際にあらわれる(第6章参照)。コンピューターは N 体問
題を扱うのに理想的な道具かもしれないが、あとで痛感させられるように、
適切な相互作用を記述する正しい方程式を入力してやる必要があることには
変わりがないのである。
これから取り上げる問題は、よく粉粒体で起こるような、2つの物体が突
然あるいはゆっくりと接触するときに何が起こるかということである。ここ
では、現在も研究途上にある複雑な理論の詳細に直ちに立ち入ることは避け
る。むしろ意図的に、簡単であるが極めて有益なモデルに限って議論を進め
る。こうすることは、固体間の摩擦と衝突という2つの特に重要な過程につ
いての理解の助けとなるであろう。
第2章
36
相互作用する粉粒体
図 14. Leonardo da Vinci の牽引実験。3つの円板 P1 、P2 、P3 を始動さ
せるのに必要な張力 T は、どちらの場合でも等しい。
2.2.1
固体間摩擦の法則
互いに接した2つの固体の静的および動的な性質を支配する巨視的な法則
は、純粋に実験的に基礎づけられたものである。これらの法則は極めて簡単
であるが、驚くほど長い間の検証に耐えてきた。つまり、本質的に極めて複
雑な現象を説明するにもかかわらず、ほとんど 5 世紀にわたって実質的に修
正を加えられることもなく生き延びてきた。16 世紀に Leonarde da Vince が
最初に気づいたとされるのは次のことである:ある固体を別の固体上で滑り
始めさせようとするときに必要な接線方向の力は、接している表面積に比例
するのではなく、2つの物質が押し合っている力に比例する。この性質は 17
世紀に Guillaume d’Amontons が再発見したが、当初この法則を疑ったフラ
ンス科学アカデミー会員達の要望により La Hire が独立に確認した。1750 年
には、Leonhard Euler(1707-1783) が静止摩擦 と動摩擦 という概念を導入し
た。これらの全ての性質は、3つの基本法則にまとめられる。面白いことに、
これらの法則の信頼できる説明が微視的レベルの相互作用からなされたのは、
20 世紀後半になってからである [34] 。
固体間摩擦の3基本法則
図 14 に描かれた古典的な実験から次の3つの結論が導かれる。
• 系を始動させるのに必要な張力は個々の構成物の総重量に比例してい
る。つまり、
T =µ
Pi = µP
i
2.2. 2つの粒子の相互作用
37
が成立する。
• この張力 T は、接している固体間の表面積にはよらない。つまり、ブロッ
クはどの面を下にして置いているかによらず同じ力 T で動き始める。
• 固体がはじめに静止しているときの静止摩擦力 と、固体がすでに動い
ていて一定速度で動きつづけているときの動摩擦力 を区別する必要が
ある。これらは異なった摩擦係数で特徴づけられ、静止摩擦に対して
は µs 、動摩擦に対しては µd と表す。Euler は µd ≤ µs であることを示
した。
これらの3法則はひとりの人間により発見されたわけではないが、この3つ
をセットとして Coulomb(クーロン)の法則と呼ぶ習慣がある4 。この理由
は、彼がこれらの法則を使って粉粒体の研究を行い、その論文が有名で最も
よく引用されるものの一つだからである [11] 。そこで、我々もこの習慣に従
うことにする。
次に進む前に注意しておきたいことは、これらの摩擦係数が接触している
物質の性質に驚くほど無関係であるということである。たとえば、摩擦係数
µ のおよその値は金属同士では 1、石同士では 0.7、そして紙同士では 0.4 な
のである。この驚くべき事実はこれから議論するモデルによって説明される。
微視的レベルの説明
普通の金属表面を顕微鏡で見ると、図 15 に示したように、凸凹した構造的
特長が明らかになる。ここで重要なことは、このような微視的な突起の尺度
から摩擦の物理を議論することが、Coulomb の第二法則で十分に正当化され
るということである。なぜなら、この法則によれば固体を始動させるのに必
要な張力が土台と接した表面積によらないのであるから、摩擦の法則は突起
の数には依存しないからである5 。
4 訳注:Coulomb-Euler の法則と呼ぶことも多く、この本でもこの後、この呼び方を繰り返
し使っている。
5 訳注:摩擦が突起の数に拠らない—(比例しない)ということは、面積の違う同じ質量の固
体 A と B が同じ台に接する際に、突起の(微視的)変形の度合いが(平均的に見ても)A と B
で異なっていることを示唆しており、突起の大きさの微視的レベルからの議論が必要となること
が予想される。
第2章
38
相互作用する粉粒体
図 15.磨かれた金属標本の表面を拡大したときの概略図。
この表面の凸凹は大変小さく、1ミクロン程度である。そのため、弱い圧
力下においても、その変形の程度はフックの法則が成立する弾性領域をはる
かに越えている(2.2.2 節のオーダーの議論を参照のこと)6 。このことは、接
している突起同志は、(図 16 に示してあるような平均接触面に対して)垂直
な荷重力 N を相殺するまで一定の圧力 p で変形することを示唆する(変形し
面積を広げることで支える)。
A を(実際の)接触面積とすれば、平衡状態では関係式 N = pA が成立す
る。接触面を(ずらして)引き離すのに十分な接方向の力を T とする。この
ようなせん断に抗する物体の能力を定数 s で特徴づけ、T = sA と定義しよ
う。このような観点に立つと、先に定義した静摩擦係数 µs は、接触しあって
いる物質の物理定数にしか依存しないことになる。その値は
µs =
T
s
= .
N
p
で与えられる。偶然ではあるが,これらの定数 s と p は、多くの表面でだい
たい同じ比を保ちながら変化する7 。特に、金属は
0.6 ≤
s
≤ 1.2
p
6 このことは、2つの固体間が(突起同士で)接している実際の面積は、
「見かけ」の面積の
百分の一や千分の一であり得ることを考えれば明らかである。重さが少数の接触点に分配されれ
ば、弾性限界を容易に超え得る。
7 このことは、機械的性質の非等方性が強い物質に対しては、当てはまらない。例えば,グラ
ファイトのような層状構造をもつ物質は、積層に垂直な方向の変形に対しては強く抗するが、こ
れらの層平面のせん断に対しては弱くしか抗しない。グラファイトによる機械部品の潤滑には、
まさにこの性質が利用されている。
2.2. 2つの粒子の相互作用
39
図 16.摩擦が生じているときの接触点での塑性変形。
で特徴づけられる。このモデルは多くの表面で µs が狭い範囲の値しか取らな
いことを説明する。実験的観察によると、2つの固体間の接触領域は上に乗っ
ている物体の重さによってゆっくりと変形するが、これはまさに塑性 (plastic)
領域で期待される振る舞いであるから、やはりこのモデルで説明できる。な
お、6.4 節では、数値シュミレーションの観点からこれらの摩擦の法則をより
正確に説明する。
滑りと回転:フラストレートした回転
これまでに導いてきた単純化された安定性条件は理想的状況にしか当ては
まらない。何の注意もせずにこれらの条件を実際の粒子堆積物に用いることは
危険であろう。より注意深く吟味すると、粉粒体中の2粒子の接触点で起こっ
ていることをモデル化しようとする時の、いくつかの問題が明らかになる。
多くの古典力学の教科書で接触している固体を扱っているが、ここではそ
の詳細な解析を繰り返すことはしない。かわりに、今後の議論を理解するの
に必要となるいくつかの概念を強調するにとどめる。図 17 には、2つの堅い
固体 S と S の接触点 I を中心とした運動を記述するのに必要で重要な量が
明記されている。
平面 P の垂直方向と接方向の力をそれぞれ N 、T とする。ただし、この
平面 P は点 I において2つの固体 S と S に接しているものとする8 。曲線 L
8 堅い固体というのは純粋に理論的な概念である。この概念は、我々が描いてきた固体摩擦の
描像と明らかに矛盾している。我々の描像では、塑性変形をする多くの点の接触が基礎となって
いたのである。この矛盾は、古典力学を本物の固体、特に粒子の形をした固体の力学に拡張しよ
第2章
40
相互作用する粉粒体
図 17.接触した2粒子の空間配置。
と L は、2つの固体がお互いに回転するときに、接触点がそれぞれの表面に
描く軌跡である。固体 S に属する任意の点 M の動きは、運動学的な関係式
から、その速度ベクトル
v R (M ) = v R (Is ) + M I × ω n + M I × ω t ,
で与えられる(M I は M から I に向かうベクトルを表す)。ただし、R と
R はそれぞれ固体 S と S に固定された座標系である。このように、この方
程式は点 M の運動を固体 S の座標系から記述したものである。簡単化のた
めに、固体 S は固定して動かないと仮定しよう。任意の時刻において、スピ
ン (pivoting) と転がり (rolling) を含む一般化された回転 (rotation) は次の2
つの成分の和で与えられる。
ω = ω n + ωt .
ここで、ωn は図中の平面に垂直な軸回りの回転を表し、ベクトル ωt は図中
の平面内の軸の周りの回転を表す。上の速度の関係式は、固体間の運動を以
下のように3つのタイプに分けている。
• v g = v R (Is ) は固体 S に対する固体 S の滑り速度を表す。
• v p = M I × ωn は固体 S がスピン (spinning) によって固体 S に対し
て持つ速度である。
うとするときに生じる多くの難しい問題の一つにすぎない。
2.2. 2つの粒子の相互作用
41
図 18.接触する粒子の可能な振る舞い。
• v r = M I × ωt は固体 S が転がり (rolling) によって固体 S に対して
持つ速度である。
滑らずに回転する
滑らずに回転するときは定義により v g = v R (Is ) = 0 である。瞬間的な回
転軸は点 I を通り ω の向きを向いた直線である。これによって記述される運
動において、粒子は、お互いに滑ることなく、お互いに回転しあいながら接
触を保つ。典型的には,表面の粗い粒子が連なり、多少なりとも噛み合った
歯車のようにして一つの粒子の回転が直ちに隣へと伝達される場合がある。
そのような粒子の3次元的な配置は明らかにより複雑な情況を呈する。
図 18 に書いたように、(接した)2粒子が互いに逆向きに回転していると
き、3つ目の粒子はどう回転しているか不定 である。ぎゅっと詰まった堆積中
では、全ての粒子が隙間なく接していて,事実上全く回転できないだろうこと
は容易に察しがつく。この現象は(スピングラス (spin glasses) などの)物理の
いくつかの分野ではしばしばフラストレーション (frustration) と呼ばれてい
る。粉粒体が対流している場合に、このような状況が広範に現れる(第3章参
照)。これらの基礎的概念については、3.2.4 節で堆積の分裂 (fragmentation)
を扱うときにより深く議論する。
42
第2章
相互作用する粉粒体
回転せずに滑る
この状況は、完璧になめらか、あるいはほとんど摩擦のない粒子同志の場
合に見られる。しかし、密に詰まった堆積においても回転せずに滑りが生じ
ることもある。それは幾何学的理由から回転ができない場合で、このとき
ω n = ω t = 0 である。この状況においては、粒子の連なりのつりあいは
θ = tan−1 (µs ) で与えられる Coulomb の最大角が関係してくる。図 18 に描
かれているように、接した2つの粒子が互いに滑ることができるのは、2粒
子の共通接線が水平線に対しなす角度が θ を越えるときのみである。完全な
解析を行うには、粒子が互いに押し合っている力を知らなくてはならない。
既に述べたように,これらの力は全体の静的つりあいに寄与して、接線方向
の摩擦力を作り出す。このような計算は、アーチ構造の安定性の研究のため
になされていて、3.1.3 節で取り扱うトピックである。この点の実際の応用に
ついては、繰り返し触れることになる。
滑り領域から回転領域への転移
一つあるいはいくつかの他の粒子と接した一つの粒子の転がり、スピン、あ
るいは滑りは、接触固体の力学に関する一般的方程式を書き下すことによっ
て解析できる。既にまとめた乾燥摩擦の法則によると、滑りが生じるか否か
は、固体間接触点での作用力 R の垂直成分 N の水平成分 T に対する比が、
粒子の軌跡に沿ってとる値によって決まる。Coulomb の最大角 θ = tan−1 (µs )
によって接触点での接平面に垂直な軸を持つ円錐が定義される。この円錐は
「摩擦円錐」(friction cone) として知られ,R がこの円錐の中にある限り運動
は滑らずに進み、そうでなければ滑りを生じる。
スティック・スリップ運動
乾燥摩擦を伴う状況でしばしば見られるタイプの運動を、これから何度も
扱う(特に 3.1.1 節と 4.2.2 節参照)。この運動はスティック・スリップ運動と
して知られる。この種の運動は、典型的には、摩擦の Coulomb-Euler 則に従
う物体間の相互作用と弾性的振る舞いによって生じる。我々が特に興味を持っ
2.2. 2つの粒子の相互作用
43
図 19.スティック・スリップ運動の説明図。
ている粉粒体は、この両方の性質を併せ持つから、このスティック・スリップ
運動が粉粒体でよく観測されることは驚くにはあたらない。もっと後で、こ
の現象のより一般的な取り扱いを示す機会があるが(4.2.2 節参照)、ここで
は、ひどく単純化されてはいるが教育的な理論を導入しておく [35] 。それは
図 19 に説明されているモデルに基づく。
質量 m の物体が速度 v で動くベルトコンベヤーの上に置かれている。この
物体は、同時に、硬さ k のバネによって固定された支柱に結び付けられてい
る。物体とベルトの間の摩擦は、静摩擦係数 µs と動摩擦係数 µd によって特
徴づけられる。ただし、Coulomb-Euler の法則に従い µd ≤ µs が成立すると
する。簡単のため、µd が無視できるほど小さいと仮定しよう。
自然長 x = x0 で静止状態にある時刻 t = 0 より始めよう。摩擦により、物
体は一定速度 v で動き始める。摩擦に関連した作用力の水平成分は、バネの
張力
T = k(x − x0 ) = kvt
に抵抗する。水平方向の一様運動は Coulomb 条件が満たされる限り、つまり
T kvt
=
N mg ≤ µs
が満たされる限り続く。この条件は、t1 = mgµs /kv とすると、t ≤ t1 の間満
たされる。t > t1 となるやいなや、摩擦力は屈服して(直ちにゼロとなり)、
質量 m の運動は通常の微分方程式
m
d2 x
= −k(x − x0 )
dt2
第2章
44
相互作用する粉粒体
に従う。この式は解はよく知られていて、パラメタ ω0 =
k/m を用いて
x = x0 + A sin [ω0 (t − t1 ) + α]
と書ける。ただし、A や α は積分定数であり、時刻 t = t1 での境界条件によっ
て決まる。これらの条件は、x − x0 = vt1 と ẋ = v であるから、vt1 = A sin α,
と v = Aω0 cos α から
tan α = ω0 t1 ,
A=v
t21 +
1
,
ω02
を得る。この運動は時刻 t2 に物体のベルトに対する相対速度がゼロとなるま
で正弦曲線である。その時刻になると、再び静摩擦がはたらき始める。この
時刻 t2 は次式の解の一方(t2 = t1 という解とは異なる解)で与えられる。
cos [ω0 (t2 − t1 ) + α] = cos α
これより、
t2 − t1 = 2
π−α
ω0
を得る。このときのバネの長さは
x − x0 = A sin [ω0 (t2 − t1 ) + α] = −A sin α
である。再び、物体は時刻 t3 まで一定速度 v でベルトに引きずられる。時間
間隔 t3 − t2 の間に移動する距離は 2A sin α であるから、
t3 − t2 =
2A
sin α
v
となる。x(t) の完全に周期的な運動を図 20 に示す。
この運動は直線が正弦曲線の一部によって結ばれている。その周期 t0 は
t0 = 2
π − α 2A
+
sin α
ω0
v
で与えられる。この運動の振幅は正弦曲線部分のものと同じである。低速度で
は、図は直線の連なった鋸歯状になる。このとき周期 t0 は 2t1 = 2mgµs /kv
2.2. 2つの粒子の相互作用
45
図 20. 周期的スティック・スリップ運動のダイナミクス。線分が(スティッ
ク相)が、正弦曲線部分(スリップ相)によって連結されている。
に近づく。ここで、静摩擦係数 µs の値が、この運動の最大振幅を計ることで
決められることも指摘しておこう。より進んだ演習として、µd がゼロでない
時に、ベルト速度の関数としての動摩擦力 F (v) の形がどうなるか、また、こ
の関数が傾き負の領域を持つ(2.3 節と 4.2.2 節参照)ことを示すことを読者
にお勧めしておく。この大変単純化したモデルはバイオリンの弦の強制振動
も説明できる。なぜなら、通常、弓は松脂でコートされた(馬などの)毛で
あり、弓と弦との相互作用は摩擦の古典的な例であるからである。もう身近
な例では、ドアがキーキー音を立てたり、工作機械がガタガタ音を立てたり、
潤滑剤が足りずに起こる似たような現象は、スティック・スリップ運動のし
わざである。
2.2.2
弾性球の衝突と変形
弾性正面衝突
2つの球形粒子が弾性的に正面衝突する様子が図 21 に描いてある。この
解析は大変に簡単である9 。この特別な場合には、衝突は各球の中心を通る軸
に沿って起こる。つまり、各球の速度は同一直線上にある。もちろん、この
ような衝突は実際の粉粒体では大変に起こりにくい。粉粒体は、ほとんどの
9 固体球間の衝突の物理は文献
[36] で詳しく扱われている。
第2章
46
相互作用する粉粒体
図 21.正面衝突によって運動量を交換する2つの弾性球。
場合、非弾性的に振る舞い、摩擦の影響を受け、様々な角度で衝突している
からである。にもかかわらず、この理想的な場合を吟味しておくことは有用
である。この問題は、古典力学の2つの基本的則である運動量と運動エネル
ギーの保存を含んでいるからである。
図 21 に示唆されている表記法を使うと、衝突後の速さは
u1 =
m1 − m2
2m2
v1 +
v2
m1 + m2
m1 + m2
で与えられる。現実の粒子間衝突では、いつも運動エネルギーの損失を伴う。
そのいくらかは、衝突粒子内部を伝播する音波を励起するのに費やされる。
この過程において、弾性エネルギーの一部は双方の粒子に蓄えられ、音響波
あるいはフォノンの形で散逸し、フォノンは2粒子を暖めることによって緩
和する。運動エネルギーの散逸は、衝突中に粒子に恒久的な変形を引き起こ
すことによっても生じる。いずれにせよ、無限の質量をもつ垂直壁に速度 v
で衝突した球が、より小さい速度 −εp v (ただし、εp ≤ 1)で跳ね返ること
を、我々は実験的に知っている。第一近似として、2つの同一の球が正面衝
突する場合には、この速度の減少を、系の重心座標で行列方程式で書くのが
便利である [37] 。
u1
v1
(1 − ε)/2
= C1,2
=
u2
v2
(1 + ε)/2
(1 + ε)/2
(1 − ε)/2
v1
v2
(2 – 2)
ただし、ε は「弾性反発係数」 (coefficient of elastic restitution) である。も
ちろん、全エネルギーが衝突で失われる完全非弾性衝突では ε = 0 で、完全
弾性衝突では ε = 1 である。
2.2. 2つの粒子の相互作用
47
無限の質量をもつ平面と 1 つの球との衝突は、同様に行列方程式
u0
v0
1
0
v0
= C0,1
=
(2 – 3)
u1
v1
v1
1 + εp −εp
で記述できる。このような現象論的記述においては、衝突の力学の詳細、特
にエネルギー散逸の方法が無視されている。したがって、それなりの注意を
払って適用するべきであるが、実験的事実を記述するのには、しばしば十分
である。このことは、第6章で数値シュミレーションについて議論するとき
に実感できるであろう。このようなアプローチを採用することにすると、ε が
衝突粒子の重心座標系での運動量の損失の尺度とみなせることを強調してお
く。衝突直前と直後の粒子 1 の重心座標から見た相対運動量を P と P で表
すと、
P
=
m12 (v1 − v2 )
P
=
m12 (u1 − u2 )
と書ける。ただし、m12 = m1 m2 /(m1 + m2 ) は、衝突2体系の換算質量であ
る。実際に、式 (2-2) と (2-3) が次式で定義される ε と一致していることを確
かめることは容易である。
ε=−
P
u1 − u2
=−
P
v1 − v2
ここで、分数の前にあるマイナス符号は衝突後、速さが逆向きになることに
対応している。衝突後の運動エネルギーの変化 ∆Ekin が、次式で与えられる
ことも簡単に示せる。
1
∆Ekin = − m12 (1 − ε2 )(v1 − v2 )2
2
弾性的な非正面衝突と衝突時の粒子の回転
すでに述べたことではあるが、弾性的な正面衝突、つまり回転していない
粒子同志がそれらの中心を結ぶ線に沿って衝突することは極めて起こりにく
い現象であり、第一近似では摩擦も考慮されていない。粉粒体中での現実は
第2章
48
相互作用する粉粒体
図 22.壁に衝突するボール。
はるかに複雑である。実際には、非正面衝突や摩擦の効果の介在により、滑
りや回転が起こり、周囲の粒子に角運動量を与えることもある。これから、
この問題を多少単純化して扱っていく [38,39] 。 より正確な記述をしようとす
ると極めて複雑になってしまうことがわかる。
次節では、数値シュミレーションで回転を扱うのに有用な技術を概説する
が、その導入として、これから、接触する2つの固体が滑ったり、回転した
りするのを記述する古典力学的な記述法を発展させてみよう [40] 。
壁に向かって投げられたボール
球形のボールと垂直な壁の衝突という簡単な問題を考えてみよう。図 22 に
示したように、衝突時刻 t0 におけるボールの質量中心の速度成分を vx と vy 、
衝突直前のボールの角速度を ω0 とする。ただし、ボールの回転ベクトルは
図の平面に垂直であるとする。このような条件のもとでは、運動が考えてい
る平面内に限られることが直感的に明らかであろう。我々の目標は、衝突後
の速度の成分 ux と uy 、及び角速度 ω1 を求めることである。 衝突時の力積
(=運動量の増分)の成分を X と Y で表す。図 22 に示唆されているように、
常に vx < 0、 ux ≥ 0、そして X ≥ 0 でなくてはならない。この単純な実験
で、摩擦を無視すると、解は明らかに前節と同じになり、ux = −εvx と書け
2.2. 2つの粒子の相互作用
49
る。力積 (X, Y ) の接成分 Y はゼロで、古典力学の基本定理から次式を得る。
m(ux − vx )
= X
uy
= vy
ω1
= ω0
これに反して、ボールと壁の摩擦を一つの摩擦係数 µ によって取り入れるこ
とにすると、2つの場合に分けて考える必要がある(後で示されるが、
「滑り
速度」uy − a ω1 が、衝突の間に符号を変えることはなく、もし一度ゼロにな
ると衝突が終わるまでゼロのままであることを了解しておくとよい)。
1. 滑り速度が、衝突中、常に正である場合
この場合には、線形運動量と角運動量の交換を記述する方程式は以下のと
おりとなる。
m(ux − vx )
m(uy − vy )
2
ma2 (ω1 − ω0 )
5
ux
= X
= −µX
= aµX
= −εvx
ただし、m は(中身の詰まった)ボールの質量で、a はその半径である。直
ちに分かることは、この4元連立方程式は、4つの未知数 (X 、ux、uy 、そ
して ω1 ) に関するものであるから、衝突前の適切な変数の値、摩擦係数 µ 、
それに弾性反発係数 ε が与えられれば解けるということである。この問題は
読者の練習問題としておき、ここでは衝突の現象論、即ち、衝突中のボール
の滑りと回転に注意を集中する。
まず、vx が負なので、当然、力積の法線成分 X = −mvx (1 + ε) が正であ
ることに注意しよう。最終滑り速度(uy − a ω1 )も次式が成り立つ限りにお
いては正である。
7
vy − a ω0
µ(1 + ε) <
2
−vx
第2章
50
相互作用する粉粒体
2. 滑り速度が、衝突中のある時刻 t1 にゼロとなる場合
この場合には、一般的な関係式は次式のとおりである。
m(ux − vx )
=
X
m(uy − vy )
2 2
ma (ω1 − ω0 )
5
ux
=
Y
=
−aY
=
−εvx
u y − a ω1
=
0
この場合も、5 つの未知数に対して 5 つの式があるので、容易に解ける。ま
た、力積(ベクトル)が(壁の)法線となす角が tan−1 µ 以下であることこ
とが分かり、さらに次式も確かめられる(後で示されるように、 t1 < t < t2
では、uy − a ω1 = 0 で、滑りなく転がる。ただし、t2 は衝突終了時刻であ
t
t
る。このとき、X = t02 fx dt、Y = t02 fy dt と書くと、t0 < t < t1 なる時刻
t では、|fy | = µ|fx | だが、t1 < t < t2 なる時刻 t では、fy = 0 となるため、
|Y | < µ|X| を得る。これは、力積ベクトルと壁の法線がなす角が tan−1 µ 以
下であることを意味し、次式が得られる)。
7
vy − a ω0
µ(1 + ε) >
2
−vx
こうして、上に考察した2つの場合は互いに排他的であることが分かる(1.,
2. でそれぞれ導出された2つの µ に対する条件式は不等号の向きが違うだけ
であることに注意)。従って、このどちらのタイプになるかは摩擦係数 µ の
値による10 。
ここで、これらの互いに排他的な2つの状況だけが許されるのか吟味して
みよう。例えば、衝突している時間 [t0 , t1 ] の間に、滑り速度が符号を変える
ことはあり得るのだろうか?もしあり得るのなら、uy − a ω1 の最終的な値は
知らなくても、関係式 |Y | < µX が依然として成立していることを確かめら
れるはずである。この答えは以下の議論からわかる。
10 ここで、この力学モデルでは、摩擦力が衝突している間のある瞬間に働き出すことを仮定し
ていることに注意しよう。物理学者の観点からすれば、この条件は必ずしも全ての場合に実現し
ているとは思えない。実際に、摩擦という現象(2.2.1 節)と固体間の衝突(2.2.2 節)は塑性変
形を伴い、その変形は全く瞬間的と見なせない。
2.2. 2つの粒子の相互作用
51
時間間隔 [t0 , t1 ] の間のある時刻 t に接触点に作用している力の成分を η と
ζ とする。この特定の瞬間 t での運動方程式は
dvx
dt
dvy
m
dt
2
2 dω
ma
5
dt
m
=
η
=
ζ
=
−ζ a
となる。これらは、滑り速度に関する次式を与える。
m
d
7
(vy − a ω) = ζ
dt
2
ところが、ζ は、接触中の滑り速度 vy − a ω に対する抗力の接方向成分であ
り、その符号は vy − a ω とは逆向きのはずである。従って、滑り速度 vy − a ω
の絶対値は減少するしかない。もし衝突中のある時刻にゼロになれば、最後
までゼロのままになる。別の言い方をすれば、衝突の時間中のいかなる時刻
においてか、滑り速度がゼロになれば、それ以降、ボールは滑らずに転がり
つづけるということである。この簡単な議論から、先に考えた2つの状況は
本当に互いに排他的で、ただ2つの可能な選択肢であることが分かる。どち
らが実現するかは、摩擦係数の µ と、入射速度の成分の値による。同様の2
つの領域は、2個の球形粒子の非正面衝突を扱うときに再び現れる。
2つの弾性球の摩擦を伴う非正面衝突
乾燥摩擦における相互作用を特徴づけるための2つの基本パラメタ µs と
µd (Coulomb の法則)と、運動量損失の尺度である係数 ε を既に導入した
が11 、ここで、もう一つのパラメタを導入しよう。β で表される、接反発係
数 (coefficient of tangential restituition) である。これは、粒子が衝突後に跳
ね返る時の接触点での接速度を減衰させる効果を表す。このような係数の必
要性とその正確な定義は、これから非正面衝突の仮定を議論していくうちに
明らかになるであろう。ここでは、単に半径が d1 と d2 で、質量が m1 と m2
11 2.2.1 節で、回転せずに滑る、あるいは滑らずに回転するというという問題の基礎力学的導
入を行った。
第2章
52
相互作用する粉粒体
図 23.衝突前 (a) と衝突後 (b) の 2 球。パラメタは文中に定義されている。
の2つの粒子を考えよう。これらの球の位置はベクトル r1 と r 2 で表される。
空間配置は図 23 に示してある。接平面に垂直な単位ベクトルを n と表すと、
これは次式で与えられる。
n=
r 1 − r2
|r 1 − r2 |
2粒子の接触点での相対速度 vc は
vc = v1 − v 2 −
d1
d2
ω1 + ω2 × n
2
2
となる。ただし、v i と ωi は、衝突前の粒子 i の並進と回転の速度である(ベ
クトル ωi は、紙面に垂直で読者の方を向いている)。相対速度の大きさ |v c |
は、個々の(並進)速度が反対向きで、回転ベクトルが同じ向きのときに大き
(n)
くなることに注意しよう。速度 v c の法線方向は v c = n (v c · n) で、接線方
(t)
vc
(n)
vc − vc
(t)
で与えられる。このベクトル
v c によって、接線方向の
(t) (t) 単位ベクトルが t = vc / v c と与えられる。衝突角度 γ は、法線ベクトル
向は
=
n と相対速度ベクトル v c のなす角として定義される。ただし、γ ∈ [π/2, π]
であるとする。図 23(a) は、2つの衝突粒子が ω1 = ω 2 = 0 である特別な場
合が示してある。
次に、衝突の際に運動量がどのように変化するか考えてみよう。前と同じ
様に ui を衝突後の速度とする。すると、
∆P = m1 (u1 − v 1 ) = −m2 (u2 − v 2 )
(2 – 4)
2.2. 2つの粒子の相互作用
53
∆P の法線成分は角速度に何の影響も及ぼさないが、接線成分 ∆P (t) はそう
ではない。運動量変化 ∆P は、ベクトル −(di /2)n で定義される腕によるト
ルクを生じて、それはどちらの粒子の場合にも(同一の ∆P を使って)
−n × ∆P =
2I (ω − ω)
d
(2 – 5)
と書ける。ただし I は、粒子の中心周りの慣性モーメントで、ω は衝突後の
未知角速度である。式 (2-5) は、2つの粒子の角運動量変化が同じであるこ
とを示していることに注意しよう。図 25(b) には、衝突後の状況が描かれて
いる。
∆P が分かっていれば、式 (2-4) と (2-5) を使って、衝突後の興味あるいろ
いろな速度を計算できる。その結果は
u1
=
u2
=
ω1
=
ω2
=
∆P
m1
∆P
v2 −
m2
d1
ω1 −
n × ∆P
2I1
d2
ω2 −
n × ∆P
2I2
v1 +
となる。ここで ε の定義が
u(n)
= −ε v (n)
c
c
(2 – 6)
で与えられることを思い起こしておこう。これによって、衝突前後の並進速
度が関係づけられている。和ベクトル ∆P /m1 + ∆P /m2 の法線成分を、式
(2-6) を使って変形すると、線形運動量変化の法線成分を計算できる。その結
果は
∆P (n) = −m12 (1 + ε)v (n)
c
(2 – 7)
となる。ただし、前と同様に m12 は系の換算質量である (m12 = m1 m2 /(m1 +
m2 ))。
Coulomb
の法則によって
∆P の法線成分と接線成分が関係づけられる。つ
(t) (n) まり、∆P = µ ∆P である。衝突は常に散逸を伴うので、ベクトル
第2章
54
相互作用する粉粒体
∆P (t) は −t の向きを向いていなくてはならない。従って、
∆P (t) = µm12 (1 + ε)vc cos(γ)t
(n)
と書ける12 。ただし、cos γ は、常に負であるので vc
(2 – 8)
= −vc cos γ である。
(t)
また、t = v c /(vc sin γ) という関係式もある。式 (2-7) と (2-8) を併せると、
運動量変化 ∆P に対する次式が求められる。
(n)
∆P = m12 (1 + ε) µv (t)
c cot γ − v c
(2 – 9)
接反発係数についての議論
ここで、γ → π に相当する衝突 (central collision) 時に何が起こるか考える
ことは興味深い。この時、cot γ → −∞ となるから、運動量変化 ∆P が発散
してしまうことになるが、これは物理的には不可能なことである。一方、導
いてきた式は、Coulomb の法則と反発係数だけに基づいて、接方向の衝突も
含むあらゆる衝突を記述するものである。しかし、よく考えてみると、この
記述法ではもう一つの重要な物理的メカニズムが無視されていることがわか
る。つまり、衝突の瞬間に、互いに相互作用している2つの粒子は滑らずに
回転することもあれば、その逆(回転せずに滑る)こともある。特に、他方
に対してピボット運動するという可能性(2.2.1 節参照)が、上に示してきた
単純なモデルには含まれていなかったのである。このような運動には、相互
作用する粒子間の中心(あるいは回転の軸) のまわりの慣性モーメントが関
わる。
滑りなしの回転(あるいはその逆)を説明する一層複雑なモデルを構築す
るより巧い方法は、今のモデルに天下り的にもう一つのパラメタを導入して、
モデルを拡張することである。このパラメタを接反発係数 と呼び、記号 β で
表すことにする。この係数は、衝突の最中に系が微視的な接触領域を壊して、
12 著者は µ が静止摩擦力であるとして、次節の議論を展開している。しかし、等式が成り立
つのはむしろ µ を動摩擦力と解したときであり、この場合、次節の記述中の言葉遣いには注意
する必要がある。つまり、式 (2-9) までの理論は 2.1.1 節の言葉の定義によるところの「滑り」
を取り入れた理論で、これに(2.1.2 節では「回転」含まれていた)「スピン」の効果を取り入れ
たのが式 (2-10) の理論である。
2.2. 2つの粒子の相互作用
55
滑り出す可能性を反映するものである13 。このような条件下で、(2-8) 式が次
の新しい形に修正されなければならないことを示せる [41] 。即ち、
2
(t)
∆P = −m12 (1 + ε)v(n)
c − m12 (1 + β)v c
7
(2 – 10)
を得る。(2-10) 式の第2項は、係数 2/7 を除いては第1項と同じ形をしてい
るが、この係数は中身の詰まった球の慣性モーメントからでてくる14 。先ほ
ど、触れたことに照らすと、接反発係数 β は、2つの異なった領域に相当し
て β0 と β1 のうちの小さいほうの値をとる。
• 角度 γ が大きい時 (γ ≥ γ0 ) は、接触点が滑る場合に相当し、接触は途
中で壊される。この場合、β としては β0 をとるのが適当である。ただ
し、β0 ∈ [−1, +1] である。
• 角度 γ が小さい時 (γ ≤ γ0 ) は、相互作用を乾燥摩擦と反発係数によっ
て記述できる衝突に相当する。この場合、β としては β1 をとるのが適
当で、β1 = −1 − 72 µ(1 + ε) cot γ である。
この2つの領域を分ける角度 γ0 は β0 = β1 で決まり、次式で与えられる。
− tan γ0 =
7 1+ε
µ
2 1 + β0
文献 [41] には、衝突速度の法線成分と接線成分の比を考えることにより、こ
の2つの衝突モードの詳細と現実的側面が説明されている。
このような、二つにひとつ (all or nothing) の単純化は、非正面衝突と回転
を含む状況の数値計算の遂行を可能にする。3.2.4 節と、6.1.2 節では、多重
衝突のシュミレーションのために、剛体球を使ったこのようなモデルについ
て議論する。
しかしながら、その前にまず、衝突の力学に関連したいくつかの問題をよ
り深く検討してみることは有益である。このために、現実の世界ではほとん
どの場合にそうであるように、2つの球の正面衝突の際にお互いに侵入しあ
13 訳注:2.1.1 節では、
「スピン」と「転がり」を総称して「回転」と区分し「滑り」と対比し
て議論したが、ここでは「転がり」と「スピン」を対比させ後者を「滑り」と考えて議論してい
ることに注意。
14 この係数は、他の形状の粒子同士の衝突では明らかに値が異なってくる。例えば、円板では
3/2 、薄いリングでは 2 である。
第2章
56
相互作用する粉粒体
図 24.正面衝突の間に相互に侵入しあう2つの球。
うことができるとしたときに起こるいくつかの現象の大体のオーダーを計算
してみよう。
Hertz の問題:正面衝突の際の侵入
図 24 のように、ともに質量 M 、半径 R の2つの球が相対速度 v で近づい
ている場合を考えよう。Hertz は、2つの球が深さ h だけ変形したときに蓄
えられる弾性エネルギーを計算し、
Ee =
1 5/2
kh
2
を得た(Hertz 則)。ここで、k は
√
4 2 E √
k=
R
15 1 − σ 2
(2 – 11a)
(2 – 11b)
で与えられる。この (2-11b) 式に表れる量 E と σ は、それぞれヤング率とポ
アソン比である。衝突の際、初期運動エネルギーの一部は運動エネルギーに
還元される。また、弾性エネルギーにも一部蓄えられる。したがって、
2
dh
M v2 = kh5/2 + M
(2 – 12)
dt
と書ける。2つの球の距離が h0 になったとき、2つの球が互いに侵入 (pene-
tration) しあって、相対速度がゼロになるとする。この瞬間には、dh/dt = 0
となるから、
h0 =
M
k
2/5
v4/5
(2 – 13)
2.2. 2つの粒子の相互作用
57
を得る。衝突に要する全時間 τ(h0 まで侵入しあって、跳ね返るまで) は (2-12)
式を積分すれば得られる。
τ =2
0
h0
√ 2 1/5
4 πΓ 25
M
9
=
2
5/2
k2 v
5Γ 10
v − kh /M
dh
(2 – 14)
ガンマ関数を数値的に評価すると次の結果を得る(スケーリング則だけなら
ば、τ ∼ h0 /v から直ちに得られる)。
τ = 2.94
M2
k2 v
1/5
τ の v に対する依存性の指数はたったの 1/5 である。したがって、2つの球
の衝突時間は初期の相対速度の弱い関数に過ぎない。この時間のオーダーを
評価するのに、互いに 5 cm/s で近づきあう直径 1.5 mm のアルミのビーズの
場合を考えよう。アルミに相応しい定数は以下のとおりである。
k
=
7 × 1010(CGS unit),
E
=
6 × 1011 dynes/cm2 ,
σ
≈
0.3.
これらの数字を使うと、結果は τ = 5 × 10−6 秒となる。
ここで賢明な読者からは、この導出は静的な解析に基づいており、次の2
つの潜在的に重要な現象を無視しているという反論が予想される。
• 弾性限界を超えているのではないか?
もしそうであれば、変形は本当は塑性的 (plastic) である。(2-13) 式の
助けを借りて、上で考えたアルミビーズの場合に h0 を計算してみよう。
結果は、h0 ≈ 2µm であるから相対的変形あるいは歪 (strain) は 10−3
であることを示唆している。アルミニウムは応力 20 kg/mm 2 に対し
て塑性変形することが知られているが、これは歪でいえば 3 × 10−3 で
あるから、上で計算して出てきた値よりそれほど大きいとはいえない。
ビーズが2、3倍速い速度を持っていれば、この塑性領域に達する。さ
らに重要なのは、この変形の大きさが、表面の粗さの高さと同程度であ
るということだ。2.2.1 節で述べたことからすれば、衝突の際、表面の
第2章
58
相互作用する粉粒体
凸凹は必然的に塑性的に変形する。これから示唆されることは、実験で
確かめられているのだが、相互作用している物体の表面をどの程度磨
くかということが、衝突時の跳ね返りの過程において本質的な役割を
果たすということだ [34] 。すぐあとで、表面の層が中心部よりも柔らか
い不均一な球の侵入を取り扱う一つの方法を紹介する。
• エネルギーの一部は固体ビーズ内の音波の励起のために散逸している
のではないか?
一例として、音波の伝播速度がわかっているとして、音波が球内部を
ちょうど一往復するのに必要な時間 τph を計算してみよう。その結果
は、τph = 2R/vph = 0.15[cm]/6 × 105 [cm/s] = 2.5 × 10−7 秒である。
つまり、典型的な衝突時間は、何往復もするのに十分な時間である。こ
の効果は、潜在的には大変に重要な摂動の一因となる可能性があり、こ
れが原因で (2-12) 式で表現されるモデルが役に立たなくなる例もいく
らかある。
不均質な球:やわらかい表皮モデル
今述べてきたように、2つの固体の接触面の性質は Hertz の衝突モデルに
重大な疑問を投げかける [42] 。球形粒子の表面が傷ついていたりあるいは酸
化などで化学的に変化していたりする場合に、de Gennes が提唱したのが、
「柔らかい表皮」(soft crust) のモデルである [43] 。このアイデアは、球が厚
さが e の柔らかい物質でできた薄い層で包まれていると考えることにある。
この外皮のヤング率 Ee は、球内部での値 E よりも小さいと仮定する。侵入
長が小さければ (h e)、衝突による変形は、厚さ e の外皮の中だけで起こ
り、球の内部には影響を及ぼさないであろう。この状況が 25 図 (b) に示して
ある。
この薄い表皮の仮定によると、均質な球の場合にに成立する外力と侵入長
の関係式、Hertz のべき乗則 F ∝ h3/2 が修正される。ここで、この理由を理
解するために有効であるので、de Gennes によって考えられた、通常のべき
指数 3/2 を説明するための議論を紹介しよう。
図 25 に示したとおり、h は衝突の際の侵入長であり、R は各球の半径であ
2.2. 2つの粒子の相互作用
59
図 25. 2つの球が侵入しあう際に影響が及ぶ範囲を説明する図。(a) 均質な
球の場合。(b) 不均質な球の場合。
る。初等幾何により、接触円の半径 a の表現を簡単に求めることができる。
h が R よりずっと小さいとすれば、系は弾性領域にあるとしてよく、また
a2 ≈ Rh が成立する。
衝突の際の球の変形は、大体接触円の半径 a くらいの深さに及ぶと仮定す
るのは自然である(訳注:歪場がラプラス方程式を満たすことから正当化で
きる)。このような条件においては、応力 P に対して、ヤング率の古典的な
定義の式から次のような関係が導かれる。
P ≈E
h
.
a
少し整理して、今までの式を組み合わせれば、
√
F ≈ P a2 ≈ Eha ≈ E R h3/2
という関係が出る。このようにして、指数 3/2 のべき乗則 (h ∝ F 3/2) が正
当化できる。
今度は、球が厚さ e の薄い皮で覆われているとしてみよう。ただし、この
皮は球の半径 R より十分小さく、しかし侵入長 h よりは十分大きいとする。
このようなときには、変形はヤング率が Ee ( E) の外皮の部分に局在して
いると考えられる。したがって、影響を受ける深さは、この場合、先ほどの
場合の a ではなく、むしろ e の程度であろう。つまり、球にかかる圧力 P に
第2章
60
相互作用する粉粒体
よって生じる侵入長は今度は次式で与えられる。
h
P ≈ Ee .
e
前と同様の式変形によって、今度は
F ≈ P a2 ≈ E e a2
h
R
≈ E e h2 .
e
e
を得る。侵入長と力の関係は、Hertz の均質球の場合の h ∝ F 2/3 から、h ∝
F 1/2 に変化したわけである。つまり、変形の度合いはかかっている力に対し
てよりゆっくりと増える。柔らかい表皮のあるときには、変形領域が接触点
近傍により局在化されて球の中心深くに広がらないことを念頭におけば、出
てきた結果はよく理解されるだろう。
Hertz モデルから期待される結果とは大きくはずれた実験も報告されてい
るが [44] 、ここで示した依存性は、少なくとも部分的には、そのような報告
を説明できる。しかし、ここでの説明だけが唯一の可能性ではない。圧力の
影響により、接触点が増えたり、その空間分布が不規則に変化するという考
えを導入して、実験を説明しようとする試みもある [45] 。3.1.2 節では、1 つ
の例について議論する。
2.3
粉粒体の上を流れる一つの粒子
これまでに考えてきたのは、2粒子だけの間の相互作用という基本的な問
題であったが、それでもすでに見てきたように十分に難しかった。最終的に
は、多くの区別できない粒子からなるより一般的な粉粒体に取り組む必要が
ある。このために、いくつかの法則を導入する。これらの多くは連続体の力
学から導かれ、液体の(分子あるいは原子の)運動論がナビエ・ストークス
則の足掛かりであることと似ている。粉粒体を剛体とみなし、それと相互作
用する一つの運動粒子を考えることにより議論を論理的に進めていこう。
図 26 に概略的に示されているようなでこぼこの坂道を転がり落ちる粒子
は、面に接触を保ったまま進んだり、面から飛び上がったりしながら、不規
則で複雑な経路をたどると想像できる。でこぼこの突起は大体粒子の大きさ
と同程度である。このような経路は、
(弾道軌道の)放物線の部分と、でこぼ
2.3. 粉粒体の上を流れる一つの粒子
61
図 26. 粗い表面を転がる球は摩擦と継続的衝突によって運動エネルギーを
失う。その運動の軌跡は、弾道的(放物)アーチと粗い面に沿った曲線の断
片からなる。
この面の輪郭に沿った曲線の部分からなり、接触している物質の力学的性質
(はねかえり係数や摩擦係数)に強く依存していると予測することもできる。
さらに、このような経路は何らかの複雑な仕方で粒子の速度にも依存してい
ると予想される。これらの予想される振る舞い全てをたとえ近似的にでも記
述したいのであるが、それを可能にする大局的な方程式を書き下すことはで
きるだろうか [20]?
出発点として、ニュートンの法則を振り返ってみることは有益である。水
平面と角度 θ をなす傾斜したスロープを転がり落ちる質量 m、直径 D の粒子
を考える。この粒子は、摩擦力にいくらか似た抵抗力 F を通してその周囲と
相互作用する。ここで、規格化された加速 Γ を導入しよう。Γ は、A/g に等
しい無次元の数であるが、この記法は後で繰り返し使う。ただし、A は、粒子
が実際に持つ加速度であり、g は重力による加速度である。こうして、ニュー
トンの法則は次のように書ける。
Γ = sin θ −
F
.
mg
(2 – 15)
Γ = 0 であればいつでも一様運動する。すなわち摩擦力が重力の効果を相殺
する。 このように考えてみると、問題は明らかに摩擦力 F のもっともらし
い表現を見出すことに帰着する。この本では、後に(例えば、4.2.2 節)この
ような例をいくつか取り上げる。上の Γ = 0 の場合を考えてみれば、摩擦力
が、坂を転がっていく粒子のエネルギー損失に相当していることが理解され
よう。このことから、x を粒子の進んだ距離として F = ∂E/∂x と書くこと
が許される。この質量 m の粒子のエネルギーは2つの成分からなる。
(1) 運動エネルギー Ek : この成分は、斜面との継続的衝突や摩擦によって
第2章
62
相互作用する粉粒体
特徴的長さ λ の軌跡にわたって散逸する。
(2) ポテンシャルエネルギー Ep : この成分も、粒子が典型的深さ D の井戸
の連なりに落ち込むことによって減少する。
したがって、粒子の高さを h として、
Ek =
1 2
mv
2
Ep = mgh
と書ける。
もし、運動エネルギーの損失が(D の数倍程度の)特徴的長さ λ にわたっ
て生じるとすれば、第一成分による摩擦力は Fk = mv2 /(2λ) と書ける。ポテ
ンシャルエネルギーの損失に相当する第二成分 Fp の相応しい表現を導出す
るために、次のように考えてみよう。
• 高速で運動しているときには、粒子は弾道的飛行を繰り返す。その飛行
距離は、D の程度で無視できない。この距離は、弾道飛行の高さ ∆h ≈
(1/2)gT 2 を考えることによって独立に評価できる。ただし、T は、速
度 v で運動する粒子が自由飛行する典型的時間である。このような考
えの極限においては、vT という量が、D 程度の大きさの典型的距離に
相当する。したがって、T ≈ v−1 D となる。このようにして、ポテン
シャルエネルギーの損失に相当する摩擦力は
Fp =
D
mg∆h
1
≈ mg2 2
D
2
v
と書ける。この式は、粒子の速度が速くなればなるほど、相当する散逸
力が小さくなることを示唆しており、確かに直感とも一致する。
• 低速で運動しているときは、粒子は粉粒体で形成される面の表面に沿っ
た経路を取る。したがって、ポテンシャルエネルギーの損失はもはや速
度に依存すべきではない。この場合には、損失は面を動いていくときに
粒子に働く乾燥摩擦に相当するので、
Fp ≈ mg
となる。
2.3. 粉粒体の上を流れる一つの粒子
63
図 27. 粒子速度 v の関数としての有効摩擦力 F 。この曲線は原点を通らず、
1つの極小を持つ。
• 中程度の速度で運動しているときには、単純に、上の2つの極限での式
を以下のような表現で内挿する。
Fp ≈ mg
1
1 + βv2 /(gD)
ここで、β は調整のためのパラメタとして扱う。この実践的な表現は、
v → 0 という v → ∞ 極限において、それぞれ適切な極限値に収束する。
最後に、これら2つの成分を集めて次の1つの表式を得る。
2 a
v
F = Fp + Fk = mg
+c
1 + b (v2 /(gD))
gD
(2 – 16)
ただし、a, b, c は無次元の定数である。
この大変単純なモデルの意味することを考えてみることは教育的である。
図 27 には、パラメタを a = b = 1 及び c = 0.25 としたときの式 (2-16) で記
述される抵抗力の振る舞いを図示してある。この初等的モデルの一つの興味
深い特徴は、v = 0 のときに摩擦がゼロにならないことである。グラフはこ
の点で上に凸であるから、たとえ系が静止していても系は依然として外的摂
動に敏感である。粒子は不安定な平衡状態にあり、この状態は後に扱う雪崩
の問題に現れる始動角 θm と対応する。この角度では摩擦力は mg sin(θm ) に
等しく、この角度を越えると斜面の粒子が動き始める。その後(v = 0 から)、
64
第2章
相互作用する粉粒体
速度が増加するにつれ、摩擦は極小値に達する。この点では、グラフは下に
凸なので、この状態は安定なつりあいに相当する。この極小値を mg sin(θr )
と表すと、角度 θr は、雪崩の問題の安息角 (angle of repose) を思い起こさ
√
せる。対応する速度は gD である。この点より右側では、有効摩擦力は急
激に増加するのでこの極小値に戻ろうとする傾向がある。第一近似としては、
系の発展は θr と θm の間に拘束される。
これらのすべての概念は、第4章で雪崩を考えるときにまた現れる。しか
し、よい機会なので、摩擦によって失われる運動エネルギーとポテンシャル
エネルギーの交換という簡単な考えから、2つの平衡状態が現れ、その1つ
が安定で、他方が不安定になっていることを強調しておく。これは粉粒体の
流れの一般的な特徴の一つであることが判明する。
また、2.1.1 節で議論したスティック・スリップ現象との関係についても指
摘しておこう。これまで見てきたように、速度がゼロのときには、系は不安
定ながらも(係数が µs の)乾燥摩擦によって決定づけられる定常状態に保た
れている。適当な条件下では、系は摩擦を極小化するため(µd < µs に注意)
に、有限の速度の状態に移ろうとする。このようなアナロジーを推し進めて
いくと、現実の系は外的刺激にさらされるとこれらの2つの状態の間を振動
する傾向があると予想される。このことは、雪崩の解析をする際に実際に確
かめる。同様にして、初期条件によって粒子が異なった仕方で発展するとい
う事実に関連して、興味深いヒステリシスが存在するということも予言でき
る。 もし、有限の速度ではじめれば、図 27 に示された極小値に相当する状
態に落ち着くであろうが、反対に最初に静止していると、摩擦力はその状態
を保とうとする傾向がある。
最近、いくつかのグループによって、1つの球が、似たような固定された
球で縁取られた斜面を落ちていく問題の詳しい研究がなされた。彼らは実験
や数値シミュレーションによってこの問題に取り組んだ [46,47] 。より詳細に
ついては、これらの文献を参照されたい。
2.4. いくつかの粒子の相互作用
65
図 28.粉粒体の静止摩擦係数 µs を測定するために使用される典型的な実験装置。
いくつかの粒子の相互作用
2.4
2.4.1
粉粒体の摩擦の法則
この章の前の方で固体間の摩擦の法則を習得したので、Leonardo da Vinci
の実験にからんで、一種のせん断力に対して現実の粉粒体がどのように反応
するかについて考察する準備が整った。図 28 に図示された実験装置は Dawes
によってはじめて考案され使用されたものである [5]。
この装置は櫛のような形をした小部屋を持つ、2つの蓋のない箱からなっ
ている15 。2つの箱を(粉末や川底の砂などの)粉粒体で満たし、片方を逆
さにして互いに重ね合わせる。垂直荷重 P が加えられた上の箱に、横向きの
せん断力 F をかける。
実験の詳細に立ち入らずに、以下に観察結果を述べる。
• 上半分を横向きに始動するのに必要なせん断力は、正確に荷重 P に比
例し、せん断を受けている表面積にはよらない。
F = µs P
この法則は 2.2.1 節で見た固体摩擦の第一法則と完全につじつまが合
う16 。
15 土質力学の科学者たちは大体 1 メートルくらいの長さのこのような箱を使って、野外で粉
粒体の摩擦を日常的に測定している。
16 Dawes は力 F が使用した箱の表面積によらないことを確かめようとはしなかったらしい
[5]。また、Coulomb は、粉粒体は d’Amontons-La Hire の摩擦の法則に従うと書いている [11]
ので、両者(力と面積)の独立性を暗に受け入れていたと思われる。これは実際に、最近の実験
で確かめられている。
第2章
66
相互作用する粉粒体
• 係数 µs は大体 0.7 位で、固体摩擦の場合によく現れる値と同程度であ
る。公式 θ = tan−1 (µs ) で定義される角度 θ は大体 35◦ くらいである。
この値は第4章でも必要になるので記憶にとどめておくとよい。
先へ進む前に、これらの結果が凝集的、非凝集的粉粒体(凝集的物質とは凝集
力によって保持された粒子からなる)のどちらに対してもよく当てはまると
いうことを注意しておく。唯一の違いは、凝集的な場合には上記の表現に定数
項 C を加えなければならないことである。したがって、表式は F = µs P + C
の形をとる。
これらの結果は、日常的に応力の概念を使用している土質力学分野の研究
者に、実際に長い間受け入れられてきた17 。とはいえ、これらの性質はかな
り驚くべき発見である。粉粒体堆積物の複雑さや、そのつりあいに関する多
くの未知量(3.3.1 節を参照)を考えれば、これらの結果を予言できた人は誰
もいなかった。特に、固体間摩擦の法則の議論の際に利用したような、塑性
変形に基づいたモデルが、これらの結果に外挿できるとはとても考えにくい。
しかし、ここでは、粉粒体のように複雑で不均質な媒体から途方もなく単純
な巨視的法則がでてくることがあり得ることを認めざるを得ない。同様の驚
くべきことは、接触した 2 枚のダンボールについてもいえる [48] 。
2.4.2
Bagnold 数
次に、高々数粒子分くらいの深さの粉粒体の層が流れるときの動力学を考
えてみよう。粒子で満たされた容器をある一定の角度を越えて傾けると、通
常はたとえば 6 から 10 といった限られた数の上部層だけが流れる。以下で
概説していくのとかなり似た、こうした状況の解析は Bagnold によって行わ
れている。この解析から、粉粒体の流れを特徴づけるパラメタが導かれるが、
これは流体力学のレイノルズ数を思い起こさせる。
粉粒体の懸濁液、つまり粘性流体中の粒子の集合体で満たされた円筒容器
17 土質力学の専門家はせん断応力 τ が垂直応力 σ と τ = µ σ という関係式で結ばれてい
n
s n
ると仮定して Coulomb の法則を使用する。この際、彼らは粉粒体においても応力テンソルが定
義できる(これは決して自明なことではない)と暗に認め、結果的に、物体を始動するのに必要
な力が表面積に依存しないことも暗に認めている。この仮定は多くの状況において正当化される
ことが判明している。
2.4. いくつかの粒子の相互作用
67
図 29. 粉粒体の流れには、通常、自由な表面の近くの数層のみが関与する。
粒子の平均速度は(表面からの)深さにつれ急激に減少する。
を考えよう。突起が点在するもう一つの小さめの円筒容器が1番目の容器と
同心に置かれ、1番目の内側を回転している。このとき生じる粒子の流れの
パターンに着目してみよう。以下の議論は、たとえば図 29 に示されているよ
うに厚い粒子の層で覆われた台を傾けたときに生じる「雪崩」の流れにも適
用できる。
実験では、どんな流れも層状に生じることが示されている。粉粒体の動き
は、階層状になった互いに平行な層として現れる。それぞれの層は特徴的速
さをもち、この速度は隣の層とは異なっている。この状況は、各々の層表面
での摩擦によって減速されている層の連なりとみなすことができる。このよ
うな異なる速度で運動する別の層と接して運動している粉粒体の層に対して、
せん断率と呼ばれるパラメタを導入できる。このパラメタは平均速度勾配の
目安で、深さを z として、γ = ∂v/∂z で定義される。このモデル構築の際
に、特に摩擦による運動エネルギーの損失を説明するために、このせん断率
が目立って重要になることは明らかである。粒子の直径を D、質量を m とし
よう。量 Dγ は、この粒子の、下の層に対する相対速度の目安となる。運動
エネルギーの過剰損失は、摩擦力 Fk によって起こり、典型的には直径 D の
数倍程度の特徴的長さ λe にわたって生じる。これは
∂Ek
mD2 2
Fk =
γ
≈
∂x
2λe
とかける。また、隙間にある流体の粘性を η とすると、量 ηγ は、D2 程度の
運動固体の断面積あたりの、流体との粘性相互作用による摩擦力 Fv を表す。
第2章
68
相互作用する粉粒体
つまり、
Fv = ηγD2
Bagnold は、固体間の摩擦や衝突による力の粘性流体による力に対する比と
して数 B を定義した18 。つまり、
B=
Fk
mγ
≈
Fv
2λe η
Fk と Fv の相対的重要度に応じて、はっきり区別できる2つの領域を定義で
きる。つまり、
• B < 40 は、巨視的粘性域として知られる領域で、エネルギーの散逸は
主として流体環境との粘性相互作用を通して起こる。粒子同士が接触
することはめったにない。実際の巨視的粘性系の例としては、泥水、湿
り気のあるペースト、懸濁液中の固体などがある。
• B > 450 は、本質的に粉粒体的な領域であり、エネルギー散逸のほと
んどは、固体粒子同士の衝突や摩擦によって起こる。
B がこの間の値をとる場合は、いくらかの注意が必要である。
18 実際には、Bagnold はまず δ = D/λ で定義される、粉粒混合物の膨張 δ を導入した。そ
e
うすると、Bagnold 数は δ 1/2 ρs D 2 γ/η と等しくなる。この量は、(Dλe )1/2 が実際に D の程
度となる、溶液の高濃度極限において、本文で定義された B と同一となる。
69
第3章
流動化、圧密緩和、分裂
外から摂動が加わらなければ粉粒体の山が静止していることは、誰もが知っ
ている。また、多少であれば、傾けたり、ゆすったり、その他様々な刺激を
加えても、その山には大したことは何も起こらないことも知っている。即ち、
流れ出したり、崩壊したり、あるいは個々の粒子の相対的な位置が変化した
りはしない。一方、十分に大きな角度に傾けると、雪崩や、連続的あるいは
間欠的な流れすら生じることもよく知られている。また、振動を加えると粉
粒体物質はいくらか液体のように振る舞い、砂山は押つぶすと簡単に変形す
ることも、周知の事実である。これらのすべての性質は、我々が慣れ親しん
でいる通常の固体や液体、気体の性質とは大分異なっている。これらの通常
の状態との主な違いは、粉粒体が変化するには「十分な」摂動を加える必要
があるということだ。これらから示唆されるのは、しきい値や非線形、履歴
効果などが問題になるということだろう。
この章の目的は、粉粒体の山が何故あるいは如何にして変形してゆくか
を理解しようとした時に遭遇する、いくつかの原理と困難をはっきりさせ
ることにある。特に圧密緩和 (decompaction)、流動化 (fluidization)、分裂
(fragmentation) といった現象に注目する。この章が進むにしたがって、これ
らの現象は、互いに重なり合ったり、時には協調的に作用することもあり、よ
り複雑な現実の異なる側面を反映しているものであることに気づくであろう。
例えば、累進的な圧密緩和や対流現象が長時間の観察で見られるが、それは
実際には、不連続なプロセスや分裂といった、短時間に起こる現象の微妙な
重ね合わせによって生じることが示される。このために、物理の他の分野(特
に流体力学)でもしばしば見られるように、同一の現象であっても、観測時
間の長さによって異なる見え方をする。
粉粒体の堆積がどのように変形するかという問題に取り組む前に、まずは
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
70
「より簡単な」静止した砂山の性質を手短に解析する。逆説的ではあるが、後
で調べる動力学よりも、むしろ静力学の方がより微妙な問題を含んでいるこ
とが分かる。
3.1
粉粒体の山の静的な性質
3.1.1
第1原理:摩擦の役割
固体同士の接触の性質そのもの、特に、固体の摩擦のメカニズム(2.2.1 節
を参照)が、粉粒体の静力学および動力学を複雑に支配している。多粒子系
を扱おうとするとすぐに明らかになるのは、非常に多くの解が存在し、その
妥当性は系の過去の履歴に大きく依存するため、問題はほとんど解けないと
いうことである。粒子間の接触点に働く力にある種の不規則性が必然的に介
在するため、自然が選ぶ解を予測することはほとんど不可能である。この点
をまず最初に十分理解することは極めて重要である。次のいくつかの節の目
標は、扱っている問題が本質的に複雑なものであるということを読者に確信
させるとともに、後々非常に役立ついくつかの鍵になる概念を導き出すこと
にある。
山積みにされた砲丸
幾何学的には、一見極めて単純で高度に規則的に見える系が、実際にはと
んでもなく複雑で実際には解くことができないことを示すために、図 30 に描
かれている砲丸の山を考えよう。この構造は砲丸の山 (cannon ball stack) と
して知られている。仮に砲丸が互いに完全に滑らかで同一であるとする。囲
いの壁がなければ、一番下の列は地面にピン止めされているか、さもなけれ
ば貼り付けられていなければならない。この条件のもとであれば、例え空孔
(図中 V )があったとしても、この構造の静力学、つまり作用しているすべて
の力の決定には何の困難もない。それは簡単な格子構造の計算であり、解は
構造力学的によく知られている。
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
71
図 30. 砲丸の山の古典的問題。この構造は極めて規則的に見えるが、実際
には多くのパラメタが不定になる。
しかし、現実の堆積物の問題1 はそれとは全く別物である [49] 。なぜなら、
以下に述べる2つの理由により、接触点と力のネットワークの双方がなす幾
何学的パターンにいくばくかの不規則性が引き起こされるためである。
接触点の不規則性:
現実の粉体粒子は決してミクロンの精度で同じではな
い。ところが既に見てきたように、2つの固体の間に働く接触力はミクロン
の程度しか及ばない(2.2.1 節)。その結果、理想化された砲丸の山は、超静
力学的釣り合い (hyperstatic equilibrium) と呼ばれているものになってしま
う。即ち、初等静力学から知られているように、釣り合いのためにはそれぞ
れの球の重心の下に2つの接触点が必要なだけなのに、この場合には全体で
6 つもある。そのため、それぞれの球から数個の接触点を(その形や直径の
ばらつかせることにより)ランダムに除いても、構造物全体の安定性を維持
できるだけではなく、山の外見を(数ミクロンの精度で)規則的に保ことも
できる。このような状況のため、摩擦のない球の場合でも、直径にバラツキ
のある場合には、接触点の空間分布はほとんどランダムになり、接触点の浸
透(パーコレーション、percolation)問題 として知られている問題に帰着す
る [50] 。摩擦のある場合には、更に安定条件はゆるめられ、接触点の分布は
いっそうランダムになる。つまり、一見規則的に見えても、実際には、砲丸
の山の接触点 の空間パターンは必然的に不規則な構造をしている。このよう
1 興味深いことに、この構造の静力学は現代においてもなお理論の論文の対象であり続けてお
り、しかもそれらの結果は可能な測定(それとて簡単ではないが)の結果と必ずしも一致してい
ない。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
72
図 31. 3粒子衝突。後の粒子の軌跡と速度を予想するには、粒子表面の性
質に加えて衝突順序の正確な知識が必要である。
に、安定性に対し本質的でない接触点を取り除く方法が非常に多くあるとい
うことから、現実の粉粒体の山の釣り合いの問題は、そもそも解が不定にな
る(解が多価になる)問題であることが分かる。
また同様に、衝突、特に多粒子衝突の動力学でも、表面がきっちりと定義
されていない粒子間の場合などには、同じ不定性の問題が予想される。 実際、
第6章でこの問題を解析する(6.3.2 節参照)。図 31 を見ると、3つの粒子が
衝突した結果どうなるかを予想するためには、それらがどういう順番に衝突
したかを知っていることが是非とも必要であることが分かる。特に粒子の幾
何学的な詳細が幾分ランダムな場合には、これは難しい問題になり得る。表
面の性質がよく分からない時には更に深刻である。
しかしながら以下に見るように、摩擦力に起因する不定性はここで見たこ
と以上により根本的問題をはらんでいる。
摩擦力の不規則性:
2.2.1 節で説明した微視的モデルの精神に従って、摩
擦力の基本的役割について考えてみることは教訓的である。乾燥面の摩擦の
3法則より、2つの接触している固体は、相対運動を抑制する2つの反作用
を必然的に受けることが、直ちにわかる。第一のものは、接触点での接平面
に垂直に働く力で、全く馴染み深いものである。これは、例えば水平な台の
上に置かれたものの重さを支える反作用として現れる。接触点での微視的な
塑性変形に関連した点は議論の余地があるが、それを除けば、この反作用の
力の性質や大きさは完全に分かっている。一方、接線方向の反作用となると、
事情は一変する。この力は横方向の運動に抗するので「摩擦抵抗力」と呼ば
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
73
図 32. 接触固体間に働いている摩擦力のために、釣り合い状態におけるす
べての力の大きさを曖昧さなしに決めることが不可能になっている。
れているが、これは本質的に不定であり、そのため摩擦の影響下にある物体
の静的な性質を正確かつ厳密に記述しようという望みは断たれてしまう。滑
りに対する抵抗力 R は、その2つの物体を接触させている力を F とすると、
ある値 F µs を越えられないということは周知であるが、系が静止している限
り R は 0 と F µs のどんな値でもとることができ、どの値になるのかは分か
らない。微視的な突起部分が変形しそれ以降の変位を妨げているというふう
に考えることはできるが、そのような変形の詳細を知ることはできない。問
題を更に複雑にするのは、この変形は塑性領域で起こっている可能性が高く、
その場合にはゆっくりとした変化を引き起こすことだ。言葉を変えると、厳
密には、滑りに対する抵抗力は時間依存する問題として取り扱わなければな
らない。また明らかなことは、2つの接触固体に関わるすべての力の完全な
記述には、その接触のそれまでの履歴、特にどのようにして接触したかとい
うことを知る必要がある。
この状況は図 32 に示されている。この図の (b) は、2つの直交する傾いた
面に支えられているレンガに働く力は、そのレンガがどのように置かれたか
に依存することを示している。レンガはまず左の斜面上に置かれた後、それ
に垂直な右の面に押しあてられたのかも知れないし、その逆かも知れない。
同様な不定性は、図 32(c) に示されるような互いに支えあっている球の釣り
合いにも存在する。これらの場合すべてにおいて、問題の解は系の以前の履
歴に依存する。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
74
固体の摩擦力の不定性:履歴効果
さて、図 32(a) に示された状況を考えよう。直方体のレンガが水平から角
度 θ だけ傾いた面に置かれている。レンガに働いているいろいろな力は完全
にわかっている。つまり、重力 P 、面からの垂直応力 S 、バネからの反作用
R = −kx(ここで、x は平衡位置からの変位で、k はバネの硬さ、即ち、バネ
定数)、そして面との摩擦力、即ち接線応力 F である。角度 θ は 0 から π/2
まで変えられる。静止摩擦係数 µs は分かっており、簡単のために、動摩擦係
数 µd はゼロとしよう。我々の目標は、バネの縮み x を角度 θ の関数として
決めることである。
この問題に対する厳密な解答を求めるには、若干の注意が必要である。2つ
の極端な場合から始めよう。まず、θ = π/2 の時は答えは簡単になる。この場合
はレンガが面を押す力がなくなるので、摩擦力 F もゼロとなり、x(π/2) = P/k
を得る。面が水平の場合 (θ = 0) には、既にそれよりずっと複雑だ。実際こ
の場合、解は不定になる。というのは、バネは最初から x だけ縮められた状
態に置いてあったかも知れない。x の値としては、バネからの反作用 R が接
線方向の最大摩擦力より小さければ、即ち、x < P µs /k であれば、どんな値
でもとり得る。この場合には、系の現在の配置にどのようにして至ったかに
ついての知識が余分になければ、レンガの位置 x0 は決められない。
さて今度は、バネが自然長の状態 (x0 = 0) から出発し、面を角度 0 から π/2
まで徐々に傾けたとしよう。傾きを増加させていった時の角度を θ+ と表し、
逆の場合を θ− と表示することとする。重力の接線方向の成分は P sin(θ+ ) の
ように増加する。バネは最初自然長であったので、しばらくはこの重力が反対
向きの摩擦力と釣り合う唯一の力である。角度が tan(θ2+ ) = µs (theta+
1 = 0
とした) になったとき、レンガは動き始める。レンガは斜面に沿って摩擦なしに
滑り(動摩擦係数 µd = 0 と仮定した)、変位 xθ+ が kxθ2 + = P sin(θ2+ ) で与え
2
られるところまでいったところで止まる。レンガは再び静止状態になったので、
摩擦力は働き始め、次に滑り始めるまでにはより大きな角度 θ3+ まで面を傾け
なければならない。角度 θ3+ は kxθ+ = P sin(θ2+ ) = P sin(θ3+ ) − µs P cos(θ3+ )
2
で与えられる。このようにして、レンガは(2.2.1 節のスティック・スリップ
運動と同様に)特徴的で、断続的に停止をくり返しながら降下する。そのよ
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
75
図 33. 力学的履歴効果。図 32(a) に示されているバネの断続的な伸長を、
傾斜角の関数としてプロットした。計算は静止摩擦係数 µs を 0.3 として行
なった。
うな停止角度は次式で決まっている。
k
+
+
) − µs cos(θi+1
)
x + = sin(θi+ ) = sin(θi+1
P θi
(3 – 1)
角度 θ+ が π/2 に近付くにつれて、摩擦項の cos 依存性のために角度の差
+
(θi+1
− θi+ ) は漸近的にゼロとなる。
もし、逆に鉛直から水平へ傾きを変えていったら、摩擦力は、今度は下向
きの変位ではなく、レンガの上向きの変位の反対方向に働くので、前の式は
k
−
−
) + µs cos(θi+1
)
x − = sin(θi− ) = sin(θi+1
P θi
(3 – 2)
となる。言いかえると、出発点と終点は同じであっても、復路にレンガが一
時停止する角度は異なる。この振る舞は図 33 に示されている。
今説明したモデルの全般的な有効性は、いくつかの簡単な実験によって確
認されている。しかし、θ = π/2 近傍ではしばしば特殊な振る舞いが観察さ
れている。通常の摩擦が働くためには、表面の微視的に凸凹した領域が塑性
(特別な処理をした場合
変形していなければならない(2.2.1 節参照)。一方、
を除いて)通常の物質表面はいつも油性残留物の非常に薄い皮膜で覆われて
いるが、摩擦力が働くためには接触点での力が十分大きく、その皮膜をつき
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
76
破ってしまう程でなければならない。ところが、レンガがほとんど鉛直の場
合には、この条件は満たされていない。その結果、角度が π/2 から減少させ
ていった場合には、少なくともしばらくは、図 33 の矢印は滑らかな sin(θ) 曲
線に沿って移動する。別のいい方をすると、摩擦力が働くためには、あるし
きい値以上の力で押しつけられていなければならないように見える。
これを別にすれば、上で考察した単純化されたモデルでの履歴効果 (hys-
teresis effect) は、系の断続的な一時停止状態の間の漸化式
F (θi ) · T = F (θi+1 ) · T + ε µs F (θi+1 ) · N
の形に一般化できる。ここで、N と T はそれぞれ水平および鉛直方向の単位
ベクトル、F (θi ) は角度 θi の斜面に垂直な単位ベクトルで、ε = ±1 は変位の
方向によってどちらかの値をとる。静止摩擦 µs は、クーロン角 (Coulomb’s
angle)
な傾斜角
板を水平から傾けていった時にレンガが最初に滑り出すのに必要
と、µs = tan(θs ) の関係がある。
釣り合い状態にある系に働いている力の微妙で多義的な性格は、以下のよう
な状況を考えることによって、簡単に認識することができる。板を tan−1 (µs )
よりも大きなある角度 θi に傾けて、バネが静止した状態から始めたとしよう。
レンガをこのような板に置いた時、その最終的な位置はどうなるだろうか?
これまでの議論にてらすと、その結果が、この実験が如何にして行なわれた
かに依存することは明らかだろう。つまり、まずレンガを板の上に置いてか
らバネにゆだねたのか、あるいは、バネの釣り合いの位置をまず探してそれ
からレンガを板の上に置いたのか、といったことに依存する。両方の場合を
考えてみよう。
• レンガをまずバネにつないだ後、板に接触させた場合。この時、まずバ
ネはその力 kx1 が P sin(θ) より少し大きめに縮められて、その後、レ
ンガは板に接したものとする。摩擦力は下向きに働いているので、レン
ガを板に接した後にバネは伸びることはない。平衡位置は最大 kx1 =
P sin(θ) + µs P cos(θ) までなりうる。
• レンガがまず板の上に置かれて、それからレンガが板を滑り落ちなが
らバネを縮めた場合。この場合には摩擦力がまず働き、それは運動と
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
77
反対方向なので上を向いており、重力と逆向きである。バネは、最小
kx2 = P sin(θ) − µs P cos(θ) まで縮む。
この二つの平衡位置は明らかに同じではない。手順の詳細を知らずに最終的
な位置と働いている力を予想することは不可能である。
この系の振る舞いと、磁性体で観測される振る舞いにはアナロジーがある
磁性体の履歴効果も、少なくとも一部は、非可逆的な磁区の生成と消滅
に起因する。このように、静止状態であっても粉粒体内で働いている力の収
支勘定にはいくつもの不定要素が入り込んでおり、そのような構造の平衡状
態をモデル化する際には非常な困難が伴うことが予想できる。
粉粒体中の応力分布
実際の粉粒体の堆積物にはいつも、接触力と摩擦力に固有の不規則性があ
るため、粉粒体は通常の弾性体とはかなり異なった振る舞いをすることが予
想される。特に、粉粒体に外から応力をかけると、粒子の接触点の分布にし
たがって、応力は気まぐれな径路に沿って伝わってゆく。更に、応力を増し
てゆくと、粒子の変形に伴い新たな接触点が生成され、従って新たに力が伝
わる径路も生成されるため、粉粒体の構造物は応力とともに剛性を増す。即
ち、その弾性は Hooke の法則 から予想される線形則からかなりはずれる。こ
の特質のため粉粒体はいくつものかなり変わった性質をもち、そのいくつか
は日常的な応用に利用されている2 。負荷を増してゆくと応力の伝わるの道筋
が激増する様子は、図 34 に示すように、Dantu のあざやかな実験によって明
らかにされている [51] 。
Dantu は、理想化された粉粒体物質として、ガラスの円柱の束を用いた。彼
は、円柱を平らな底と鉛直な壁のついた透明な容器に入れ、図 34 の面に直角
な方向に軸をそろえて積み重ねた。円柱の山にピストンを押しつけた時の応力
パターンは、容器をはさんで前後に2枚の偏光板を直交させて置き、背後から
この装置全体に照明をあてることにより観察できる。光弾性効果 (photoelastic
effect) を利用したこの方法は工業的には広く使われているが、様々な負荷を
2 例えば、鉄道線路に敷かれた砂利は極めて非線形な弾性を示す。砂利は圧縮されるほど硬く
なるため、広範囲の負荷に対して順応する強度をもたらす。
78
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
図 34. 圧力をかけた時に2次元粉粒体内部で観察される応力パターン(Dantu
の文献 [51] より)。
かけた時の物質内部の応力パターンの地図のようなものを見ることができる。
図 34 からも分かるように、得られた画像には多くの情報が含まれている。
負荷を増すと、複雑に入り組んだ応力の網の目が詰まってゆくとともに、そ
の構造が幾分ランダムに変化してゆくということがこれにより証明される。
そればかりではなく、応力は横方向に向きを変え壁の方に向く傾向があると
いうことも鮮明に示している。この振る舞いは、鉛直方向に圧縮された均質
な固体の場合と著しく異なる。実際、応力がもともとの負荷の方向に直角な
方向に向けられてゆく傾向があるという事実は、粉粒体の本質的な特徴であ
る。まさにこの性質のために、重力だけが作用しているような場合でさえ、
アーチ効果 (arch effect) として知られている重要で目を見張るような現象が
引き起こされる。この現象については既に幾度か触れてきた。
図 35 のような特に簡単な例をとって、摩擦のある粉体粒子でできたアー
チの安定条件を導くことから始めよう。ここでは粒子は、積み上げられた粒
子の一番下のものは2つの水平な板の上に固定されているものとする。我々
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
79
図 35.アーチ構造をなしている接触点のつながり。
の目標は、どのように粒子を並べたら構造が最も安定になるかを決定するこ
とである。2つの場合に分けて考えよう。まず第一は粒子が自重のみで釣り
合っている場合、第二には構造物全体に負荷がかかっている場合である。
自重で釣り合っているアーチ
図 35 に示すように、今考えているアーチの線密度を ρ とし、F A と F B を
線要素 dl の両端に働いている2つの力とする。図からわかるように、アーチ
が安定となるのは力のモーメント(トルク)やせん断力が隣接する球のどの
接触点にも働いていない場合である。実際には、乾燥摩擦力の範囲内であれ
ばある程度のせん断力は許されるが、その場合には別の条件を考えなければ
ならないので、それは読者の演習問題に残しておこう。簡単のため、ここで
は力のモーメントとともにせん断力もゼロとなる条件を求める。A 点と B 点
での力 FA と F B は各点における接線方向に向いているので、線要素 dl は剛
体的だとして、釣り合いの式は
F A + F B + ρg dl = 0
で与えられる。θ を線要素 dl が水平線となす角度とすると、デカルト座標系
では関係式、dx/dl = cos θ、dy/dl = sin θ、及び dx2 + dy2 = dl2 が成り立
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
80
つ。釣り合いの式の水平成分から、
F
dx
= Fh
dl
(3 – 3)
を得る。ここで、Fh はアーチにかかっている張力の水平成分で、この値は外
部条件によって決められている。また、鉛直方向の釣り合い条件は、
dy
dy
F
− F
− ρg dl = 0
dl A
dl B
であるが、これは両辺を dl で割って微分で表すことにより、
d
dy
F
+ ρg = 0
dl
dl
となる。この最後の式と (3-3) 式より、
d dy
ρg
=0
+
dl dx
Fh
(3 – 4)
を得る。このようにしてアーチ曲線を記述する微分方程式を得た。これは、
2
d2 y
ρg dl
dy
ρg
=−
1+
=−
2
dx
Fh dx
Fh
dx
と書き直され、この方程式のよく知られた解は
Fh
ρg
y=−
cosh − x − 1
ρg
Fh
(3 – 5)
で与えられる。気づいたかも知れないが、この最後の結果は、両端を支えて
垂らしたしなやかなロープを記述する方程式に似ている。
「しなやか」である
という条件は、今の場合にはアーチを作っている粒子は互いに転がってもよ
いが滑らないという条件に対応する。言い替えると、アーチをなしている粒
子が滑ることなく転がる場合に限って、(3-5) 式は正しく粉粒体のアーチを記
述する。このため、2.2.2 節で述べたいくつかの条件を満たしていなければな
らない。図 36 に示されている壮大な建築物も、今議論したような原理によっ
てその安定性が保証されている。本質的に同じような方法に沿って、アーチ
が支える荷重が与えられた分布をもつ時の方程式も導くことができる。以下
では、最も簡単な一様な荷重の場合について取り扱うことにする。
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
図 36. ルイ 14 世時代に建てられたマンテュノ (Maintenon) の水道橋。数
世紀を経て未だ安定性を保っている壮大なアーチの例である。
81
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
82
一様荷重を支えるアーチ
さて、アーチ自身の質量は無視できるが、アーチが一様に分布した線密度
m0 の荷重を支えているとしよう。この場合、前の表式で m0 gdx = ρg dl と
置き換えればよいので、(3-4) 式は
d dy
m0 g dx
+
=0
dl dx
Fh dl
と修正される。これは、2階の微分方程式
d2 y
m0 g
+
=0
dx2
Fh
に書き換えられるが、この解はもちろん放物線をひっくり返したものとなる。
放物線の頂点は水平線に接っし、これより
y=−
1 m0 g 2
x
2 Fh
を得る。横座標が x の点での張力はすぐに計算できて、結果は、
2 dy
F (x) = Fh 1 +
= Fh2 + m20 g2 x2
dx
となる。3次元の場合の同様の計算により、ドーム構造が z ∝ x2 + y2 とな
ることも導かれる。若干異なる議論に基づく最近のシミュレーションからも、
類似の結果が得られている [52] 。
3.1.2
応力・歪関係式
同形の球状粒子
2次元上にきっちりと詰まった3角格子、あるいは、3次元の「砲丸山」の
ような、完全に規則的な接触点と摩擦力をもつ理論上の格子に対する結果を、
ここで思い出しておくことは有用である。このような場合には、Hertz 則が
成り立つことを既に見た(2.2.2 節参照)。それによると、接触している2つ
の球の相対的な変形 d と及ぼしあっている力 f とは、f ∝ d3/2 の関係がある。
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
83
この結果と一般化すると、球状粒子の完全な格子が垂直方向の荷重 F を受
けたとき、相対変形 D とは F ∝ D3/2 の関係がある。これは、弾性体で成り
立つ Hooke の法則、F ∝ D、と比較されるべきだ。接触点の乱れたパターン
や摩擦力の分布に関連した複雑な事情がなくても、球状粒子の堆積物の応力・
歪関係は既に非線形となる。
既に触れたように、応力に伴った接触点の激増は応答の非線形性を更に悪
化させるばかりである。この話題に関する古典的な論文は文献 [42] にある。
これに加えて、乱れや、更に重大なことに、摩擦のある場合の応力パタンの
不定性 が、乗り越えがたい障害となっている。このため、以下の議論では摩
擦を全く無視することとする。摩擦のない粒子の直径の変動に関連した乱れ
のみを取り扱う。
異なる大きさの粒子:巾乗則と電気回路との類比
粉粒体の堆積物を考えよう。現実の粉粒体がそうであるように、その半径
は r − dr から r + dr の間に分布しているとし、平均値 r は比較的小さいとす
る3 。そのような堆積物は外見上「完全結晶」に見えても、既に指摘したよう
に、接触点のつながり径路と応力のネットワークの乱雑さが重要である。
さて、互いに近くにあるが物理的には接触していない2つの粒子(あるい
は、砲丸)に注目しよう。全体にかける荷重を増やしてゆくと、その2つの
粒子は徐々に近付いてゆき、遂に接触する。この瞬間に、新しい応力の径路
がつながる。一方、荷重を減らしていっても新しい接触点ができることはな
い。このような事情から、図 37 に示すような電流・電圧特性を持つダイオー
ドの電気回路との類比が示唆される。
この類比には教育的観点からも否定し難い長所がある。これにより、この
問題を研究する方法論が示唆され、また、理論的および実際的な解が既に昔
から知られている別の問題との関係をつけることもできる。しかし、この類
比を過度に押し進めることはできない。というのは、関係する物理量の性質
が違うからである。電流と電場はベクトルであるのに対して、歪 D と応力 F
は通常 2 階のテンソルである。しかしこの違いは、今の場合、それほどの制限
3 この問題のより詳しい議論は
S.Roux の論文 [24] にある。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
84
図 37. ダイオードの電流・電圧特性。粒径の異なる粉粒体での、応力・歪特
性と類似性がある。
とはならない。そこで、この系の振る舞いを I − V 特性の言葉で記述しよう。
I
I
=
=
c(V − Vt ),
0,
(V > Vt の時)
(V ≤ Vt の時)
ここで、定数 c は接触が生じた後の「伝導度」、Vt はしきい電圧である。
応力を増していった時に接触点が増えてゆくことは、電気回路との類比を
用いて以下のように見ることができる。ダイオードの2次元ネットワークを
考え、ダイオードのしきい電圧がある平均値のまわりにランダムに分布して
いるとしよう。ネットワークの両端にかける電圧を増やしてゆくに従って電流
が流れるダイオードの数が増え、あるダイオードから次のダイオードへ新し
い電流の道筋がつながる。この問題の理論的解析はかなり難しい。というの
も、2つの確率変数
分布を持つしきい電圧とダイオードの空間分布
が絡んでいるかである。それでも、計算機シミュレーションが行なわれ [53] 、
その結果は実験結果 [54] とかなりよい一致が得られている。観測された振る
舞いは、
F ∝ (D − D0 )3.5
であり、これは疑いもなく非線形である。しきい値の存在に加えて、指数は
7/2 である
これは Hertz 則の指数 3/2 より相当大きい。実験は、全ての
粒子が接触するほど応力が高い場合に理論的に予想されていた(指数が 3/2
の)Hertz 領域の存在を確認することができなかったと、付け加えてもよい
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
85
図 38. Reynolds の膨張の原理の簡単な演示実験。ゴム風船を粗い砂と色を
つけた水で満たす。細いガラス管を風船の中の砂に突き刺し、ガラス管の中
ほどまで色水で満たす。風船をにぎり絞ると、直観に反して、ガラス管の液
面は下がる。これは、あらかじめ稠密に充填された砂は押えつけられると膨
張するからである。
だろう。いずれにせよ、粉粒体は圧縮されるに従ってより硬くなり、このモ
デルによると、これは接触点の増加と関係している。
3.1.3
第2原理:Reynolds の膨張
1885 年に出版された論文で、Reynolds は、「稠密に充填されしなやかな袋
に入れられた粉粒体は、袋が変形する際に必ず体積が増える。袋が変形でき
るものであっても伸縮性がない場合には、加えた力によって袋が破れてしま
うか粉粒体の粒子が壊れてしまうまで、どんな変形も不可能である」、と観察
結果を報告している [17] 。この観察結果は、今なお、粉粒体の物理の最も重
要な原理の一つであり続け、Reynolds の膨張の原理 (dilatancy principle) と
して知られるようになった。それは、次に述べるような簡単な実験にも見ら
れる現象である。
濡れた砂浜を歩くと、足跡のまわりが乾いて見えるのに気づいている人も
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
86
図 39.一様な2次元粉粒体の単位胞をモデル化するために用いた平行四辺形。
多いだろう。この現象は膨張の原理で説明できる。即ち、足が地面を押えつ
けると砂は局所的に体積を増やして変形し、それが表面の水を吸い込むため、
まわりが乾いたかのような錯覚を与える。砂と色水で満たされた風船で簡単
にできる簡単な実験をもう一つ、図 38 に示しておく。それは、砂は押えつけ
られると膨張するということに気づかなければ、この結果は直観に反する。
強調すべきことは、Reynolds の原理の前提を忘れてはならないということ
だ。特に、粉粒体が「稠密に充填されている」という条件は、絶対に欠かせ
ない。以下の議論の目的は、若干簡単過ぎる例を用いて、もともと Reynolds
によって述べられた膨張原理の限界を示すことにある。
単純な平行四辺形の変形
極端に理想化された粒子、即ち図 39 のように並べられた 4 つの円板の変形
を考えよう。このモデルに課された条件は、変形の間いつも 4 つの円板が接
触しているということだけだ。そのような配置は、実際の例としては、大き
さに若干分布のある小さなビーズの2次元充填に見られる。
4 つの円板の中心を結ぶ線分は平行四辺形を成し、それは力を加えられた
時に図 39 に示すように変形する。4つの(剛体)円板とその間の空隙からな
る閉じた幾何構造に注目しよう。より具体的には、この幾何構造の表面積 St
が変形によってどう変化するかに関心がある。hv と hl を平行四辺形の2つ
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
87
図 40. 本文で定義された幾何学的構造の全表面積(4R2 で規格化)を水平
方向の2つの球の距離(2R で規格化)の関数としてプロットしたもの。傾
いた直線は、通常の一様な2次元固体の振る舞いを表し、その表面積は圧縮
されるといつも減少する。
の対角線の長さとする。4 つの円板の平行四辺形の中に含まれる部分の面積
は一定で πR2 となることは簡単に示せる。故に、St は
St = 3πR2 +
hl hv
2
(3 – 6)
という簡単な式で与えられる。対角線の長さ hl と hv は h2l + h2v = 16R2 を
満たす。そこで、今関心のある表面積の変化 ∆St は2つの対角線のうちの一
つ、例えば hl を用いて
hl
∆St ≈
2
16R2 − h2l = 2hl R
1−
h2l
(4R)2
と書ける。ここで、hl は 2R(左右の円板が接触している時)と 4R cos(π/6)
(上下の円板が接触している時)の間の値のみをとる。
図 40 に示されているのは、(4R2 で規格化された)∆St を(2R で規格化
した)水平方向の対角線の長さ hl の関数としてプロットしたものである。こ
のグラフは、一様で等方的な固体の力学的性質から予想されるものからはか
なりかけ離れている。鉛直方向の応力に応じて水平方向の変形が始まると、
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
88
図 41. 2次元に置ける2つの可能な格子配置。配置 (a) は最小の充填率を
示し、その体積はあらゆる外からの応力に対して減少する。それとは対照的
に、配置 (b) は最大の充填率を示し、Reynolds の膨張原理に従う。
∆St (hl ) の曲線は最初は増加して最大値に達する。この領域では粉粒体の体
積は増加する。この振る舞いは、Reynolds の原理に符合しており、通常の一
様な固体で観測されるものとは矛盾する。しかしながらこの物質は、隣り合っ
た粒子が既に接触しているということ以外には「稠密に充填されている」と
いう条件に必ずしも従っている訳ではないことを指摘しておく。一方、最大
値の右側では体積は減少し、これは古典的な弾性体の法則に合致する。ここ
での結論は、Reynolds の原理は粒子の詰め込まれ方に微妙に依存し得る、あ
るいはむしろ、依存しなければならない、ということである。
「稠密に充填さ
れている」という条件が実に曖昧なものであるということが、分かってきた
であろう。少なくとも、
「緩く詰まった」粉粒体は押えつけられると最初は体
積が減少する。図 41 に、ある配置は Reynolds の原理に従うが、別の配置は
従わないことを、例示しておく。
標準的な固体力学の方法論に従って実効的な変形パラメタの計算を試みる
こともできるかも知れない。けれども、今考えている対象物の弾性的な剛性
が何なのかということに関して、それが非等方的であるということ以外全く
見当もつかないので、実効的な弾性定数を定義しようということは問題外で
ある。しかし、Poisson 比 σ に対応するものを定義することはできる。鉛直
方向の荷重のかかった一様等方物質の場合には、Poisson 比は、水平方向の
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
89
膨張歪 ul = dhl /hl と鉛直方向の収縮歪 uv = dhv /hv の比として、
σ=−
ul
dhl hv
=−
uv
dhv hl
のように定義される。ここで考えた平行四辺形の場合には、条件 h2l +h2v = 16R2
のために hl dhl + hv dhv = 0 となるので、実効 Poisson 比は
σ=
hv
hl
2
となる。水平軸方向の2つの円板が接触している場合には、2次元の稠密な
三角格子上の配置を扱うことになる(これは、3次元の六方最密格子に対応
する)。この場合、実効 Poisson 比は3になる。通常の固体の場合には熱力学
的安定性から σ ≤ 0.5 に制限されていることを考えると、この値は異常に大
きい4 。Poisson 比 σ は、鉛直方向にならんでいる2つの円板が近づくにつれ
て減少する。平行四辺形が正方形になった時、図 40 の曲線の頂点に対応し、
σ = 1 になる。これは、(3-6) 式を微分することによって示すことができる。
即ち、
1
dSt = (hl dhv + hv dhl )
2
と σ の定義式とを組み合わせることにより
dSt =
1
hl dhv (1 − σ)
2
を得る。この式より、全表面積の変化 dSt が σ = 1 で符号を変えることは明
らかである。言葉を変えると、Reynolds の膨張原理は Poisson 比が1より小
さくなると成り立たなくなる。
2つの壁の間に置かれた平行四辺形の列の変形
粉粒体の物理において容器は決定的な役割を果たす。このことは、この章
でこれから何度も見るであろう。これまで明示はしなかったが、上で議論し
たモデルでも、粒子が横へこぼれ出ることを防ぐ垂直の壁の存在が、暗黙の
4 これは、熱力学的安定性の原理がここでは当てはまらないことを意味する訳ではない。この
大きな Poisson 比 σ は、単に、考えられている物質が局所的に非等方であることから来る。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
90
仮定としてあったことを指摘しておこう。それから、全体の構造の安定性を
保証するためには乾燥摩擦も必要である5 。壁はもちろん変形可能でなければ
ならない。壁の変形は、実効的には水平方向の運動に抗する Young 率を与え
る。簡単のため、そして議論を損なうことなく、垂直の壁は水平方向に一様
な変位 ul = σl E を受けると仮定する。ここで、σl は円板が壁に及ぼしてい
る応力で、E は壁ができている物質の Young 率である。
構造の安定性は保証されており乾燥摩擦も無視する(円板は完全な剛体で
滑らかであるとする)として、解くべき問題に集中しよう。即ち、系に鉛直
な応力 σv がかかった時、容器の側壁にかかる応力はいくらか?6 しばらくの
間、図 41(b) にあるような最密な三角格子に並んだ、3層だけからなる系を
考える。そのような系を考える理由は、この配置は前の例で取り扱った平行
四辺形の列からなっているからである。後で、多くの層からなる場合にどう
すればよいか見る(3.1.4 節参照)。
個々の平行四辺形そのものは、鉛直に並んだ円板に加えられた応力に何の
抵抗も示さない7 。それは単に、変位(あるいは、連続体力学の用語では歪)
の向きを側壁の方に変えるだけである。系には散逸がないので、仕事の保存
則が成り立ち、側壁への応力は直ちに、
σl dhl = σv dhv
(3 – 7)
となることが分かる。これと、以前に与えたこの系の Poisson 比 σ の式より、
1
σl = − √ σv = Kσv
σ
(3 – 8)
を得る。ここで、係数 K を導入した。これを、この物質にかけられた鉛直応
力の壁への再配向係数 (coefficient of redirection toward the wall) と呼ぶこ
とにする8 。K は、実効 Poisson 比の平方根に反比例することに注意せよ。最
5 読者の演習問題として、隣接する円板の間の静止摩擦係数を導入して、構造の安定条件を出
して見るとよい。頂上の円板にかかっている力が、摩擦の Coulomb 角で決まっている臨界値を
超えると、構造が崩壊することが分かる。
6 スカラー量の Poisson 比と、テンソル量の応力とを混同するべきではない。
7 厳密には、応力ではなく力という語を用いるべきである。しかし、連続体の力学の用語を、
意識的に拡大解釈して用いることにする。
8 この本ではしばしば “redirection”(再配向)という語を用いる。これは、粉粒体にかけられた
鉛直方向の応力の一部が鉛直の壁を押す水平方向の成分になることを意味する。“reorientation”
(再配向)という用語を用いることもある。(訳注:日本語版では両者を区別しない。)
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
91
密な三角格子配列の場合には、その値は約 0.58 となる。すぐに見るように、
係数 K は堆積物の網の目構造 を反映し、粉粒体の物理において基礎的な役
割を果たす。
3.1.4
円筒容器:Janssen のモデル
一般的モデル:サイロ問題
Janssen は、既に 1895 年に、
「連続体力学」に基づく発見的モデルを提案し
ている [15] 。彼の出発点は、さきほど簡単なモデルで見たように、粉粒体に
は鉛直に加えられた応力を横にそらす傾向があるという、観察結果である9 。
このモデルは、少し後に Rayleigh 卿によって詳しく記述されている [16] 。こ
のモデルは次の2つの考え方に依拠しており、それらを明確に理解すること
は重要である。
• 力学的な見地からは、媒質は連続体であるかのように扱われている。こ
の近似は、粉粒体に対しては大いに議論の余地がある。それにも関わら
ず、この近似を使うと微分方程式を書き下すことができ、その解は粉粒
体の振る舞いを驚くべき正確さで記述する。
• 媒質に加えられた鉛直の力 pv (あるいは応力)は、それに比例する水
平の力 ph (あるいは、応力)ph = Kpv を自動的に生成する。
これは、平行四辺形の繋がりについての先ほどの我々の解析と、全く符合す
る。Janssen と Rayleigh は、既に見たこの振る舞いが我々が考えてきたもの
よりもずっと複雑な構造に対しても成り立つと仮定した。粉粒体媒質を連続
体として取り扱うことは、あまりに粗い近似だと思う人もいるだろう。ここ
で二三のコメントをしておこう。
• 物質は有限の大きさの不連続な構成要素からなっているので、その定義
からして問題の空間変数はゼロに近づき得ず、微分方程式を書き下すこ
9 この性質は粉粒体に限ったものではない。ゴムのような軟らかい媒質にもその傾向はある。
しかし、今扱っている粉体にはゴムとは違い、凝集力がない。このことのいくつかの帰結を、こ
の章のもう少し後で見る。
92
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
とには深刻な疑問がある。しかし、このような近似はこれまでも物理の
他のいくつかの分野で用いられてきて成功しており、大半の場合実験と
よく合う解を得ている。よい例としては、原子構造の力学から連続体力
学への移行がある。しかし、この方法がうまくゆくのは多数の粒子を
扱っている時に限ると言うことは、心にとめておかなければならない。
関わっている粒子の数が少ない場合のような、局所的な性質を調べよう
とする時には、この近似は破綻する。後で粉粒体の動力学を調べる時
に、この限界の実例に出会うことになる。振動をかけられたり、強制的
に流されたりした粉粒体媒質に見られる分裂現象は、連続体に基づく
モデルでは説明できない。ここでの教訓は、多数の粒子からなる構造に
のみこの方法は適用できると言うことだ10 。
• 乾燥粉粒体には凝集力がないことに関連する問題は、より基本的だ。定
義から、粉粒体は非一様で空隙を含んでいる。この本の始めの方で述べ
た制限、即ち、粒子はその気体環境とは相互作用しないという制限の下
では、粒子間間隙は必然的に媒質の変形と応力の伝播の仕方にある制
限を課する。圧力の変化などの微分量は、粒子が接触しなくなる瞬間に
意味がなくなる。同様に、個々の粒子の回転という概念も困難を引き起
こす。古典力学では、連続一様固体に適用されているように、せん断力
を日常的に扱っている。しかし、局所的な回転を扱うには非力である。
連続体理論による記述のためには、力のネットワークが媒質の中を途切
れずに伝達されていなければならないだろう。粉粒体の中の圧力のよう
な変数は、接触点の連鎖が途切れておらず、個々の粒子の回転が起こっ
ていない時にかぎって定義できる。以下で、とりわけ強制流中の粉体分
裂の解析において、これらの注意が必要になる。(3.2.4 節参照。)
• 後で分かるように、粉粒体のサイズが有限であることと不連続性に関
する問題は、特に厄介なものになりうる。この系の緩和時間が幅広い
分布を持つことを考えると、十分に長時間の観察には連続体理論は有
効かも知れないが、短時間の観察には全く不十分であろう。実際、物理
10 数値シミュレーションにおける実際的な方法を、6.1.3 節で示す。それによると、離散変数
(個々の粒子の位置、速度、質量)から連続変数(濃度、平均速度、温度など)への無理のない
移行が可能である。
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
93
図 42.Janssen のモデルの説明図。いくつかのパラメタの定義を図示する。
の世界では、現象及びその記述が観察時間によって全く異なることは、
そんなに稀なことではない。この章で、例をいくつか見る。
図 42 のように、断面積 A、周囲の長さ P のシリンダーの高さ h のところの
厚さ dh の薄い面を考える。この面は、いくつかの力が釣り合って平衡状態に
なっている。
• 圧力は深さ(シリンダーの最上端 h = 0 とし、下に向かって h > 0 と
する慣習を採用する)とともに増加するので、この薄い断面が受けてい
る圧力は上向きで大きさは Adpv となる。
• 厚さ dh の断面にかかる重力は下向きの力となり、その大きさは ρgAdh
である。ただし、ρ は媒質の体積密度でこの断面の中で一定とした。
• この断面が下向きに無限小の変位をしたとすると、摩擦力は上を向く。
これは恣意的な設定ではない。粉粒体が摩擦の抵抗を受けながら、重力
の作用の下に徐々に沈んでゆくと仮定することに対応する11 。後で見る
ように、摩擦力の方向が反対向きになっていると考えられる実験状況も
11 Janssen
と Rayleigh は、摩擦力がいつも、壁との接触点でも粉粒体の内部でも、まさに滑
り出そうとするぎりぎりの値をとっていると、暗黙に仮定している。このことを認識することは
非常に大事だ。この描像では、3.1.1 節で議論した摩擦力の不定性は、全く無視されている。言
いかえると、どちらの著者も不等式 T ≤ µs N を等式 T = µs N で置き換えてしまった。これは
かなり乱暴な仮定だ。別の見方をすると、この計算は完全に緩和した堆積物に対するものになっ
ている。つまり、このモデルは長時間観察に当てはまるものといえる。後で見るように、特に短
時間観察に関しては、現実はこれよりはるかに複雑であり得る。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
94
いくつかある。いずれにせよ、いま考えている力は壁の周囲全体、面積
P dh にわたって働いている。その値は µs ph P dh である。水平方向と鉛
直方向の応力の成分を関係づけている (3-8) 式を考慮に入れると、摩擦
力は Kµs pv P dh となる。
さてここで、我々は注目している断面の釣り合い条件を書き下すことができ
る。それは、
A dpv + Kµs P pv dh = ρgA dh
となる。全体を dh で割って、微分方程式
dpv
P
+ Kµs
pv = ρg
dh
A
(3 – 9)
を得る。これは書き換えて、
d
P
P
exp Kµs h pv = ρg exp Kµs h
dh
A
A
とできるが、これは直ちに積分でき
P
P
A
pv exp Kµs h =
ρg exp Kµs h + C
A
P Kµs
A
(3 – 10)
を得る。ここで、C は定数で初期条件より決まる。例えば、質量 M の重り
を円柱の上に置くことにより圧力 pv0 をかけたとする。断面 A に一様に荷
重がかかっていれば pv0 = M g/A である。この条件の下では、定数 C は
(pv0 − ρgA/P Kµs ) で、(3-10) 式は、
P
P
A
1 − exp −Kµs h + pv0 exp −Kµs h
pv = ρg
P Kµs
A
A
(3 – 11)
となる。(3-11) 式は若干一般化された形での Janssen の表式 である。
pv0 = 0 の場合の (3-11) 式の帰結を調べることは教訓的である。全体の
傾向を図 43 に示す。h の小さなところ、即ち円柱の上端付近では、圧力は
pv ≈ ρgh と変化する。これは、通常の静水圧に対応し、深さ h の水柱に働く
ものと似ている。
h がおおよそ A/P Kµs より大きくなると、鉛直圧力 pv は飽和し、漸近的
に極限に近付く:pv → ρg(A/P Kµs )。
3.1. 粉粒体の山の静的な性質
95
図 43.サイロ中の鉛直方向の圧力の高さ依存性。
(3-11) 式の減少する指数関数に現れる引数を χ で示すと、χ = (P h/A)Kµs
となる。ここで、P h は容器の鉛直な側壁の表面積を表し、A は断面積であ
る。後でまた出てくるので、この2つの面積の比をパラメタ S と定義し、ア
スペクト比 (aspect ratio, S = P h/A) と呼ぶ。この新しいパラメタ S を用い
ると、指数関数の引数 χ は単に χ = SKµs となる。後で明らかになる理由
により、この引数 χ を圧密緩和パラメタ (decompaction parameter) と呼ぶ。
これは無次元数で、円柱状の堆積物中の力の分布を完全に特徴づける。この
ことを示すため、上端から深さ h までに含まれる質量 m の粉粒体を考えよ
う。m = ρAh の関係があるので、深さ h のところの層に働いている鉛直の力
Fv は、
mg F v = pv A =
1 − e−χ
(3 – 12)
χ
となる。つまり、粉粒体が容器にしっかりと収まっていることと、側壁との
摩擦の効果の組合せによるのだが、円柱の見かけ上の重さは無次元の圧密緩
和パラメタ χ のみに依存する因子だけ減少することが分かる。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
96
図 44.2次元および3次元的な容器。
個別の応用
図 44 に示す形の容器について、手短に考察する。
直径 D の円筒容器
この場合、(3-11) 式は、
pv (h) = ρg
4Kµs
D
1 − exp −
h
4Kµs
D
となる。
2次元容器
1層の粉粒体が2枚の大きなガラス板にはさまれている場合を考える。両
端の狭い側壁と粉粒体との間には摩擦があるが、このガラス板との間に摩擦
はないものとしよう。このような2次元堆積物をこれから何度も扱う。ε を
堆積物の厚さ、L をセルの長さ、h をその高さとする(図 44 参照)。この堆
積物のアスペクト比 S は
S=
Ph
2hε
2h
=
=
A
Lε
L
(3 – 13)
で与えられる。摩擦に寄与しない部分は無視して、上式の分子に現れる周の長
さには側壁の摩擦のある部分のみ含めた。圧密緩和パラメタは χ = SKµs =
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
97
2Kµs h/L なので、(3-11) 式は
2Kµs
L
1 − exp −
pv (h) = ρg
h
2Kµs
L
となる。この結果は、3.2.3 節で用いる。
3.2
粉粒体の堆積物の動力学
これまでの簡単な解析から明瞭になったように、砂山のように一見何の変
哲もないものの静的な性質が、極めて複雑であり得る。接触点の乱れと摩擦
力の乱雑さ及び不定性があいまって、粉粒体媒質に特有の非線形性を生じる。
さてここで、話題を粉粒体の動的性質に転じよう。二三挙げるだけでも、アー
チ形成、非線形弾性、履歴効果などのいくつもの普通でない現象が起こって
いるのだから、これらが粉粒体に普通ではない動的な性質も与えそうだと予
測するのに、深い洞察力は必要ない。まず、振動の下での粉粒体の流動化 や
圧密緩和 といった基礎的な問題を調べることから始めよう12 。この外部刺激
は、理論的にモデル化するのも、実験的に研究するのも、特に簡単なもので
ある。自発的な雪崩による流れについては第4章に残しておく。
静的性質から動的性質へ移行すると、2.2.2 節で簡単に考察した新しい相互
作用が問題になってくる。それは粒子間衝突のことであるが、これが支配的
な役割を果たす。特に粒子が高い反発係数を持っている時には、摩擦よりも
重要になる。というわけで、まず最初に最も簡単は場合、即ち、図 45 のよう
に球状粒子がお互いに縦に積み上げられているような状況を調べることから、
始めよう。粒子と壁との摩擦はなく、鉛直方向に正弦振動を加えられている
と仮定する。以下の解析では、衝突のみを考え摩擦を除外しているが、それ
でも、2次元や3次元の場合にも役に立つ、いくつかの一般的な原理を引き
出すことができる。
12 この2つの用語を区別することの重要性は議論を進めるに従って明らかになる。乾燥粉粒体
は、流動化することにより非粘性の液体や気体に似た動的性質を持つ。圧密緩和は、対流など、
粉粒体内部の再配置の動きを可能にするような変化である。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
98
図 45. 振動板によって励起されている球。図 (a) は古典的な「はずんでいる
ボール」の問題。図 (b) はいくつかの球が鉛直に積み上げられている場合。
3.2.1
鉛直振動の下での球状粒子の列
球状粒子の列の振る舞いを解析するのには2つの理由がある [37, 55, 56]。
まず第一に、この練習問題によって、いくつかの粒子が合体してクラスター
になる場合には、衝突をモデル化するのに深刻な困難があることが分かる。
第二に、これによって2つ別の状況が存在することが示される。1つは、粒
子が互いにくっつきあい固体の塊のように一体となって動く状況であり、も
う1つは、粒子が短い衝突時間の間だけときおり衝突し、ほとんどの時間は
なればなれになっている状況である。
方程式を導きその解を求める前に、いくつかの量の大きさの程度(オーダー)
を心にとめておくことは有用である。
いくつかの量の大きさの程度
2.1 節で見たように、問題となる相互作用を衝突と摩擦に限るためには、粒
子のサイズは少なくとも 100µm 程度なければならない。商業的に入手可能
な、直径3 mm 程度の典型的なビーズを考えて見よう。このサイズは、問題
の特徴的な長さ z̄ を与える。便宜的な理由により、ビーズの軌跡も同程度の
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
99
大きさであることが望ましいのは明らかだろう。この問題は重力の加速度 g
によって支配されているので、空間的スケールを決めると放物運動をする時
間的スケールも tv = 2 2z̄/g と決まってしまい、それは今の場合 10 分の1
秒に満たない。このような状況が実現するためには、振動板もその程度の時
間スケールで振動していなければならず、振動数は数十 Hz の程度でなければ
ならないことになる。振動は A sin(ωt) で記述されるとしよう。振幅 A はビー
ズを空中に放りあげるのに十分でなければならない。つまり、振動板がビー
ズに与える加速度が、重力の加速度を超えなければならない。既に以前に指
摘したように、実際の加速度 γ に対して規格化された加速度 Γ を Γ = γ/g に
よって導入するのが便利だ。今の場合、実際の加速度の最大値は Aω2 で、規
格化された加速度は Γ = Aω2 /g である。結局、いくつかの実際的なパラメタ
を選ぶことに帰着してしまう。我々は、典型的には振動数 f = ω/2π は 20Hz
程度を用い、その場合、A = 0.64mm で振動板の最大速度は Aω = 8cm/s で
ある。
問題の数学的解析
最も単純な方法は、ニュートン方程式を衝突事象毎にひとつひとつといて
ゆくことである [55, 56]。放物運動と粒子の衝突を支配する式を交互に用い、
反復的に解いてゆくことができる[ビーズ同士の衝突には (2-2) 式を用い、1
番目の粒子と振動板との衝突には (2-3) 式を用いる]。放物運動は
1
zi (τ ) = zi0 + vi0 τ − gτ 2
2
(i = 1, 2, 3, ..., N )
(3 − 14)
で記述される。ここで、zi0 と vi0 は前の衝突の直後の位置と速度である。衝
突は、
ui−1
ui
= Ci−1,i
vi−1
vi
(3 − 15)
の形の線形方程式で記述される。ここで、vi と ui は衝突直前と直後のビー
ズ i の速度で、衝突する2つの粒子の質量中心系で測ったものである。便宜
的に、v0 と u0 は振動板の速度とし、ビーズは下から上へ番号づけされてい
るものとする。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
100
このような計算を如何に実行するかという問題自身、重要な物理の問題とな
る。それには、一連の事象
振動板との衝突
今の場合は N 粒子の放物運動と粒子間および
についてのある種の判断を行なう必要がある。計算機シ
ミュレーションの詳細は第6章に委ねるとして、ここでは最も簡単で自然なア
ルゴリズムに触れるだけにとどめる。それは、
「事象推進」 (event-driven) ア
ルゴリズムと呼ばれる種類のもので、起こる順に衝突事象を計算してゆく13 。
例えば、ある時刻 t から出発して、将来に起こる一連の衝突事象の時刻 ti を
含む行列 T を、構成することができる。特に、この行列に含まれる最も小さ
い時刻 tim は、次の事象の起こる時刻である。その事象が起こりその帰結が
計算されると、新しい行列 T が構成され、この一連の手順がまた繰り返され
る。この手順には全く何の悪いところもないが、2つあるいはそれ以上の事
象が(物理的な意味、あるいは、計算機が区別できる能力上の意味で)同時
に起こると、たちまち破綻する。その場合には、本質的に恣意的な選択を迫
られる。誤った選択は、もちろん、それに引き続く事象の連なりを台無しに
してしまうこともある。更により現実的側面を見ると、2.2.2 節でした計算の
示すように、衝突には有限の時間(扱った例ではマイクロ秒の程度)がかか
り、おまけにこの時間は衝突する粒子の速度に依存することを思い出す読者
もいるだろう。このような効果を考慮しようとすると、また一つ不確定性が
加わる。
要約すると、放物運動 (3-14) と事象推進の衝突行列 (3-15) を用いたニュー
トン方程式に基づくこの計算技法は、一連の衝突事象を追跡することが困難
になった時、破綻する。このことは、10 個のビーズの例で図 46 に示されて
いる。図は、励起振動の一周期にわたる粒子の軌跡 zi (t) を、引き続く事象
そしてこれは非常に
10 個のビーズが実際上接触するほどにぎっしりと
集まった時、引き続く衝突の時間間隔がとても短く(今の場合 10−7 以下に)
なる。数学的観点からは、事象の時間間隔がゼロにとなった時粒子が接触す
の時間間隔とともに示している。すぐ気づくように
一般的な結果であるが
ると主張できるかも知れないが、これはあまり現実的ではない。というのも、
最も単純化されたモデルでも、この極限領域では、衝突時間間隔の数十倍以
13 「事象推進」(event driven) アルゴリズムは、
「時間推進」(time driven) アルゴリズムや
他の連続技法と区別されるべきである。前者は、しばしば「衝突法」 (collision method) とい
う名前で呼ばれることもある。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
101
図 46. 10 個の粒子の系の運動。εp = 0.6 及び ε = 1 として (3-14) 式と
(3-15) 式で計算した。上のグラフは時間の関数として粒子の位置を示し、下
のグラフは引き続く衝突の時間間隔を与える(文献 [59] より)。
上の間2つの衝突する粒子は接触しているはずで、これは深刻な問題となる。
明らかに、この困難は、系に2つの別の特徴的な時間、即ち衝突の継続時間
∆τc と2つの引き続く事象の時間間隔 ∆tm,m−1 が存在することから来る。モ
デルの有効性は ∆τc ∆tm,m−1 でしか保証されていない。更に、このビー
ズがぎっしり詰まった厄介な領域では、粒子間の距離が表面の変形あるいは
微視的な凸凹と同程度になり、その結果 (3-15) 式が無効になっていると、異
義を唱えることもできる。この困難は数値シミュレーションの際の絶えざる
頭痛の種になっており、文献では非弾性崩壊 (inelastic collapse) あるいは非
弾性破綻 (inelastic catastrophe) として知られている [59] 14。
塊 (block) という概念を導入することで、この困難を避けることができる15 。
そのためは、しきい速度 vc を導入し(6.2.2 節参照)、実質的にくっつきあっ
ているビーズの塊からあるビーズが分離しているかどうかを判定しなければ
ならない。つまり、衝突した直後の2つの粒子の相対速度が vc より小さい時、
14 言うまでもなく、これはモデルをつくるという観点からの破綻でしかない。容易に想像でき
るように、この語は計算機シミュレーションをしている人達によって造られた。
15 これは、数値シミュレーションにおいて粒子が吹きだまっていった時の困難を避けるために
よく使われる手法である。これには第6章でも触れる。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
102
図 47. 最初、3つと2つの粒子の塊に分かれていた5つの粒子の系の振る
舞い。水平軸は時間を表す。衝突の後、粒子は組変わっている。シミュレー
ションは LRV 法を用いて行なわれた(本文参照)(文献 [59] より)。
それらは1つの塊に合体したとみなされる。実際上、速度 vc は、計算機の精
度から許されるかぎりの最も小な値にとられる(例えば、10−7 m/s)。また、
vc の値を変えても、得られるシステムの動的振る舞いがたいして影響を受け
ないことを、示せなければならない。肝心なことは、vc の変化に対して安定
な解を見つけることだ。引き続く運動において、その塊の質量中心を一定に
保つことは、もちろん必須である。このタイプの計算には質量は陽には入っ
てこないが、質量は粒子の位置 z(t) の時間依存性の中に入っている。塊の形
成に対する判定基準を決めた後は、一旦形成されたいくつかの粒子からなる
塊が部分的あるいは全体的な崩壊の可能性について、考えることも重要だろ
う。しかし、このことのより詳しい議論は 6.2.2 節に残しておき、今は、異な
る方法も実質的には同じ結果を与えることを述べるにとどめる。図 47 に、い
わゆる最大相対速度法 (Largest-Relative-Velocity criterion, LRV 法)を用い
て計算した、2つの塊の衝突の例を示しておく16 。この例では、2つの塊は
衝突によって粒子を組変えている。
結果:流動相と凝集相
上で議論したような注意を払ってニュートン方程式を数値的に解いた結果、
特徴的でかつ一般的ないくつかの振る舞いが明らかになる。その振る舞いは
16 LRV
法については 6.2.2 節で詳しく述べる。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
103
図 48. 10 粒子系の軌跡。εp = 1 及び ε = 0.9 を用いた。系は 10 Hz で、2
つの異なる加速度 Γ で振動させられている。(a) では Γ = 8.0 で系は「流動
化」している。(b) では Γ = 1.7 で系は「凝集」している。
2次元や3次元系にも拡張可能なように思われる。以下に、それらの振る舞
いを説明し、その違いを強調する。もっとも、それらの境界線はいつもはっ
きりしているという訳ではないのだが。
加速度の関数としての流動化と凝集
弾性反発係数が高い時(例えば ε = 0.9
のスチール球の場合のように)、重要なパラメタは規格化された加速度 Γ であ
る。図 48 に示されるように、強い加速度で駆動されている 10 個のボールの
列はほぼ流動状態にある。対照的に、加速度が下げられると、粒子の列は一
つの塊になり振動板に同期して一体になって動く。この時、系は励起に「ロッ
ク (lock) されている」という。この振る舞いは、広い励起パラメタ(加速度
Γ 及び周波数 f )にわたってかなり安定である。これは、次のような簡単な
議論によって、少なくとも直観的には理解できる。一体となって運動する粒
子の塊の放物運動を考えてみよう。粒子は密集しているので、振動板から得
たほとんどのエネルギーは、繰り返し起こる多重衝突によって散逸してしま
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
104
図 49. 板の振動にロックされた粒子の列の軌跡。ロックは様々な振動数で
起こる。(a) 基本振動、(b) 2倍周期。
う。このような状況では粒子列全体の弾性反発係数 εp は極めて小さい17 。と
いう訳で問題は、図 45(a) に示したような一つの非弾性的なボールの場合と
同じになった。このずっと簡単な系の利点は、問題が完全に解けているとい
うことだ。よく知られた性質の一つは、カオスに遷移するということである
(Feigenbaum 分岐)。詳細に議論しないが、図 49 を見るとその仕組みを理解
することはできる。
この図は、振幅 A 振動数 f で正弦振動している振動板の上におかれた非弾
性の物体(扱っている粒子列を表す)の軌跡を示している。物体は、板の加
速度が Aω2 > g となった時に放りあげられる。そして、放物線を描いて再び
板の上に落ちるが、板はその間も正弦振動している。衝突はほとんど完全非
弾性的なので、物体は跳ね返らないということが重要だ。物体は、再び放り
あげられるまで、振動板に「くっついて」いる。非弾性はまた、多数のビー
ズからなる列を凝集させる傾向があり、系の安定性を保証していることにも
注意しよう。
以下のような簡単な計算は有益だ。t∗ を加速度が g になる時間とすると、
t∗ =
g 1
sin−1
ω
Aω2
17 粒子の集団は、一つ一つの粒子がほとんど完全に弾性的であっても、全体としては小さな弾
性反発係数を示す。これが、一つひとつのビー玉は硬い床の上に落すとびっくりするほど弾むの
に、たくさんのビー玉をつめた袋は全然跳ね返らないことの理由だ。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
105
で与えられる。この瞬間物体は、振動板の速度と同じ初速度 v∗ で放りあげら
れる。その他の運動のパラメタも計算は簡単だ。弾性反発係数が厳密にゼロ
でない場合でも、2倍周期へのロック(図 49(b) を見よ)は特に安定なこと
に気づくだろう。これは、物体と振動板の運動が同じ方向で、速度差が小さ
くなり、その結果跳ね返りも小さくなるからである18 。もちろん同じ状況は、
基本周期など、2倍周期以外の他の周波数でも起こり得る。
ビーズの列の問題に話を戻すと、これまで議論してきたことから、図 48(a)
のように大振幅の励起がなぜ流動化を引き起こすかということについての、
もっともらしい描像を持つことができる。たとえ、全てのビーズが塊になっ
て実質的に一体であるような状況から始めても、十分なエネルギーが次々と
伝わってゆけば、一番上のビーズでさえ塊からはなれて独自の放物運動を始
めることができる19 。頂上のビーズにそのようなことが可能であれば、その
他のビーズにも引き続き同様なことが起こるのは当然だ。
まとめると、垂直に振動されているビーズあるいは他の粉粒体の列は、底
の板から受ける加速度によって二つの異なる振る舞いを示す。加速度が小さ
い時には、系は「凝集」(condensed) 状態にあり、ビーズは実際上互いに接触
していて一斉に運動する。大きな加速度に対しては、系は「流動」(fluidized)
状態になり、ガスあるいは流体中のように、ビーズはそれぞれ独立に動きま
わる。この後者の状態では、加速度 Aω2 はもはや適切な変数ではない。代り
に、A2 ω2 あるいは同じことだが平均速度の2乗に比例する運動エネルギー
にとって代られる。二つの状態の間の遷移に際しては、系の一部が流動化し
残りが凝集したままとなる。この様子は全て十分に数値的にシミュレートさ
れ、実験的にも確かめられている [56, 60]。
二つの状態の存在と一方から他方への遷移は、系に含まれる粒子の数とと
もに、弾性反発係数の値に依存している。この点は、次にもう少し詳しく調
べる。
18 テニスの愛好家は、
「ドロップショット」を思い出すかも知れない。その秘訣は、この原理
を用いてボールの跳ね返りを殺し、相手の意表をつくところにある。
19 これは、
「ニュートンの揺りかご」(Newton’s Cradle) という名前で専門店などで売られて
いる玩具の背景にある原理だ。この玩具は、糸で別々に吊された金属のボールが数個まっすぐに
並んだもので、静止している時、全てのボールは接触していて本文の意味で「塊」をなしてい
る。右端のボールを持ち上げて塊から引き離し静かに放すと、それは残りのボールの列にぶつか
る。その瞬間左端のボールが逆方向からたたき出されるが、その間、内側のボールは動かない。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
106
高さの関数としての流動化と凝集
上で議論したように、十分多くのビーズ
を含む列の場合には、相互作用が完全弾性でなければ、粒子の列中を上に伝
わるに従って衝突のエネルギーは弱くなってゆくだろう。もしそうなら、系
の上部を流動化することが不可能なことがあり、その場合系はいつも一つの
密集した塊のように振る舞う。
計算機シミュレーションと理論計算はともに、この効果を支配するパラメ
タは X = N (1 − ε) で定義される縮約された変数であるという点で、一致し
ている。理論は、X に臨界値 Xc が存在しその値は Xc = π である、として
いる [37] 。一方シミュレーションは、それより幾分あいまいな臨界値 Xc ≈ 3
を示唆している [56] 。
以下の計算により、縮約変数 X に関わる量の大きさの程度が明らかにな
る。反発係数 ε は、アルミニウムでは 0.6、硬化スチールでは 0.92 である。す
ると、ボールの数の臨界値は、アルミニウムに対しては 8、スチールに対し
ては 39 となる。食品や製薬業界で扱われている典型的な粉粒体は、ごく少数
の例外を除いて、ずっと小さな ε を持っている。つまり実際的な状況では大
概、変数 X は X 3 であり、粉粒体はほとんどいつも凝集状態にある。
• X ≤ 3 の場合:上で述べたように、加速度を増してゆくと、弱い加速
度の時の凝集状態から流動状態への遷移が起こり得る。
• X ≥ 3 の場合:この時、粒子の列が十分高く衝突によるエネルギー散
逸がかなり大きい。粒子列は一つの塊のように振る舞い、粒子同士の接
触時間はかなり長くなる
少なくとも、振動の周期よりもずっと長く
なる。厳密には以前に定義した凝集状態と全く同じものを指している
訳ではない、ということを認識することは大切だ。今の場合、粒子間の
衝突回数はゼロに近付くのである。つまり、ここでは本当に密集した粒
子列が実現し、その動的な振る舞いは、一つの非弾性ボールでよく近
似できる。実際にこれはシミュレーションでも実験でも確かめられた。
図 50 は、加速度を増していった時の 10 個のアルミのボールの系の分
岐図である。実験と、弾性反発係数 0.6 の場合の数値計算との、結果の
一致に注意せよ。
図 50 の分岐図 (bifurcation diagram) はカオスへの典型的な兆候を示して
いる。特に、いくらかの加速度で系は二つの可能な状態の間で「躊躇」して
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
107
図 50. 衝突時間の分岐図。積 f Tcoll が規格化された加速度 Γ に対してプ
ロットされている。今の場合、N = 10、f = 30 Hz、及び εp = ε = 0.6 で
ある。丸印は実験値で、三角は数値シミュレーションの結果である。このグ
ラフは、基本周期、2倍、及び3倍周期へのロックを明確に示している(文
献 [56] より)。
いる。実験的には、そのような二つの状態の間を行ったり来たり揺れ動くこ
とが、しばしば観察される。これはカオスの始まりの紛れもない兆候である。
ここまでに分かったことをまとめると、鉛直振動により駆動されている粒
子の列は三つの異なる理由により凝集状態にとどまりうる。その全ては、十
分なエネルギーが粒子列に与えられないということに帰着する。これまでに
見出された三つの原因は:
• 実効的な弾性反発係数が低過ぎること。これは、粒子が密集していてほ
とんどの衝突エネルギーが多数の衝突で散逸してしまう時に起こる。
• 衝突過程が非常に散逸的であるか、あるいは粒子列の背が高いために、
衝突エネルギーが粒子列を伝わるうちに散逸してしまうこと。どちら
の場合でも、励起エネルギーが粒子列の頂上まで到達しない。
• 粒子列の放物運動が励起振動の倍周期にロックされてしまい、粒子列と
振動板の速度がほとんど同期してしまうこと。この場合、衝突が事実上
なくなって弾性エネルギーが全く伝達されない。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
108
粒子の凝集という現象は、1次元あるいは2次元系に特有のものではない。
それは、粒子の集合体が多数の衝突をしている時には極めて一般的に観察さ
れる [57] 。この凝集の傾向は、次のような事象の簡単な連なりとして理解で
きる。2つの粒子が合体すると、その塊は、個別のいずれの粒子よりも小さ
な弾性反発係数を持つ。その結果その塊は、衝突により第三の粒子をより捉
え易くなり、更に小さな反発係数を持ったより大きな塊となり・
・
・と繰り返
してゆく。あらかじめ存在する塊によって粒子が捉えられる確率は、大雑把
には塊の表面積に比例する。それ故、大きな塊は小さなものよりも早く成長
しがちだ。この現象は、表面での液滴の核生成の過程で起こっていることと
よく似ている20 。
3.2.2
摩擦のない球の2次元堆積物
さて今度は2次元粉粒体の振る舞いに注目して、更にいくつかの振動媒体
の性質を調べよう。この話題には既に 3.1.4 節で簡単に触れている。実際にそ
のような系を簡単に実現するには、例えば、2枚のガラス板に粉粒体層を1
層はさみ、鉛直に立てればよい。粒子は2枚の板の間で自由に動ける。この
ようにして、面積がわずか数平方センチの枠に約1ミリのスチール球を何千
個も詰めた堆積物を、簡単に用意できる。
実験から分かることは、系の全体としての振る舞いは弾性反発係数 ε とと
もに、小球同士 µpp や小球と壁 µpw との摩擦係数にも大いに依存する。そう
いう訳で、関わっている微小な物質の力学的パラメタを詳しく分析すること
が、非常に大切だ。計算機シミュレーション(第6章参照)でも徐々にこれ
らのパラメタ全てを取り入れるようになり、実験で観察されている振る舞い
を再現できるようになった。色々な配置について調べるよう。まず、最も単
純な配置
前節で取り扱った1次元の場合の単純な拡張
から始める。
直観的に、互いにあるいは壁との間に摩擦のない小球のからなる堆積物は、
1次元堆積物と本質的に同じように振る舞うだろうと予想される。すでに注
意したように、1次元堆積物での唯一の散逸的相互作用は、粒子間および粒
20 これが、冷たいフロントガラスに水蒸気が凝結する時に、一様な水の層とならずに小滴に分
かれる理由である。現れるパタンは英語で breath figures(ガラスに息を吹きかけた時に現れる
パタン)と呼ばれている。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
109
図 51. 摩擦のないビーズの2次元堆積の、速度統計および表面付近での典
型的な軌道写真。写真から堆積の下の方は稠密になっていることが分かる。
ヒストグラムは2つの軸方向の速度分布を示している(文献 [61] より)。
子と振動板との衝突である。摩擦のない粒子からなる2次元堆積物の場合に
も、同じことが言える。図 51 に示すように、実際この予想は、ほぼ実験的に
確かめられる。
穏やかな加速度では、十分背の高い堆積物は稠密状態に留まる [61] 。これ
は、1次元粒子列についての前の解析と全く符合している。堆積物の振る舞
いを支配する縮約変数は、今の場合 Xz = Nz (1 − ε) となる。ここで、Nz は
堆積構造の鉛直方向の高さである。大きな加速度の場合も1次元の場合と同
様で、実験は堆積物がバラバラになることを示している。また、Xz の値が3
よりかなり大きい時には、粒子衝突の波は堆積物の中を上がってゆくうちに
ほぼ完全に減衰してしまうことも、前と同じである。励起振動の様々な倍周
期へのロックの実験的証拠も、見出されている。
しかし、1次元に対応するものがない、新たな現象も一つある。水平方向に
十分な広がりがある粉粒体系を振動励起した時、特殊なタイプの波が励起さ
れ、それ自身分岐してカオスを示す。これらは、液体における有名な Faraday
不安定性 に似ており、現在活発に研究されている。この現象はこの章の最後
に議論する(3.2.5 節参照)。
110
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
上で説明した実験装置により、流動化した上部の小球の数層の様子を調べ
ることができ、図 51 に示されているように、稠密な粒子浴の上で複雑に放
物軌道を描いていることが分かる。この様子は、CCD カメラで、励起振動の
周期の何千倍もの間映像を記録することによって、観察できる。特に有用な
のは、ストロボを用いて励起振動の周期の何倍かに同期して、等間隔に光を
あてて観察する技法である。この技法により、流動化した粒子のある瞬間の
速度を直接測定できる。また、後でデータを処理して、一周期の内のいくつ
かの時間での速度の統計をとり、その結果をヒストグラムにプロットできる。
図 51 に示したのはそのようなヒストグラムで、速度の水平成分と鉛直成分の
平均値 < vx > と < vy > のまわりの確率分布関数を与える。この2つのヒス
トグラムはほぼ同じ幅を持ち、粉粒体が等方的に振る舞っていることを示し
ている。系のこのような等方性は、粉粒体の表層部が熱平衡にある流体や気
体の特徴を持っていることを意味する。
スケーリングについての注釈
しばしばスケール則と呼ばれているものについて、ここで注釈を加えるの
が適切であろう。論点は以下のようにまとめられる。実験室での実験はふつ
う比較的小さなサイズのモデル系を扱うが、一方、工業的スケールは通常こ
れに比べてずっと大きい。そこで問題はこうだ。特徴的な長さ L の実験装置
で得られた結果を、どのように、それよりずっと大きくなり得る特徴的長さ
αL の状況に外挿すべきか?これまでの我々の知識に基づくと、粉粒体の世界
で本当に重要なのは、装置の大きさと言うよりも含まれる粒子の総数である。
言い換えると、もし粒子衝突によるエネルギー散逸が本当に粉粒体の物理を
支配しているのであれば、肝心な現象は、装置の大きさに関わらず、個々の
粒子のレベルで起こっている。D を相互作用している粒子の典型的な直径と
すれば、衝突が支配的な因子であるかぎり、問題は無次元の比 L/D でスケー
ルされるはずだ。
一方、Janssen のモデルから学んだことを考えると、摩擦による相互作用
に対しても同じことが成り立つかは明白でない。それどころか Janssen のモ
デルは、系の粒子数に関わらず長さ L でスケールするように見える。議論を
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
111
更に押し進め、粒子回転が関わると、スケール則は更に込み入ってくるよう
だ。このことを初等的に理解するためには、滑ることなく回転する N 個の
ボールの列における強い摩擦相互作用を考えてみればよい。これにより、粒
子の角運動量にある種の自己組織化が生じるが、このような現象の実際の例
の一つを 3.2.4 節で取り上げる。今の例では、列の最初のボールが角度 α1 だ
け左回転すると、列の下の粒子に右回転と左回転を交互に引き起こすことに
なる。n 番目のボールは角度 αn = (−1)n+1 α1 回転する。この系のスケール
には、いくつかのことに加えて、特に、考えている系が偶数個の粒子を含む
か奇数個の粒子を含むか知っている必要があるように思われる。これは奇妙
な複雑化を引き起こす。同じような推論が成り立つ場合に、超音波による粉
粒体の励起がある。超音波は、粒子のあらゆる接触点で分散したり回折した
りする。一見、問題は粒子数、即ち、無次元比 L/D でスケールするように思
われる。残念ながらこの結論は、音波の吸収は単に粒子数ではなく全伝播距
離に依存するという事実に矛盾している。この事情は大きさ L によるスケー
リングを支持しうる。これらの注意から、粉粒体の物理におけるスケーリン
グにはかなりの注意が必要であることがわかる。それには、関係する相互作
用の最も基本的なレベルでの理解を必要とする。
3.2.3
摩擦のある球の2次元堆積物
摩擦を、粒子間(摩擦係数 µpp )および粒子と壁の間(摩擦係数 µpw )に
導入すると、これまで見たのと全く異なる振る舞いが生じる。例えば、摩擦
が原因で局所的あるいは協調的な対流が起こるが、これは後で扱う。摩擦は
また、漸進的な圧密緩和 (gradual decompaction) 現象を引き起こす。これに
ついては、単純化された2次元の場合について定量的に解析するが、実際の
3次元系でも観測されている [62] 。更に、対流 (convection) 現象とそれに引
き続く圧密緩和 (decompaction) を調べるが、これら二つの現象は実際密接
に関連している。両方とも粉粒体媒質と容器の壁との摩擦に依存している。
この節では、我々が扱う粉粒体媒質は、あまり弾性的ではないが摩擦のあ
る小球(例えば、直径 1.5mm の酸化アルミの小球)の2次元堆積物からな
り、以前に述べたように(3.1.4 節参照)2枚のガラス板の間に閉じ込められ
112
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
図 52.粉粒体の円柱堆積物の漸進的圧密緩和。
ている。この系は、a sin(ωt) の正弦的励起を与える振動板にしっかりと固定
されている。以下の議論でしばしば、先に定義した規格化された加速度 Γ を
用いる。
2次元媒質に集中して詳しい記述を与え実験と比較する前に、後で有用と
なる一般的な式をいくつか導くことから始めよう [63] 。それらは、3.1.4 節で
調べたのと同じような3次元円筒構造にも同様に適用できる。
一般的モデル
Janssen のモデルの議論をした時に用いた記号をもう一度用いることにす
る。特に (3-9) 式を導いた時、A を円筒の底面積、P を周長とした。しかし
便宜上、高さ h に対しては別の慣習を採用する。以下では、底を原点 (h = 0)
にして、上に向かって正とする。幾何学的配置は図 52 に示しておく。
前に指摘したように、(3-9) 式は、通常の流体静力学の方程式とは、壁との
摩擦の補正項を加えたところが異なる。先に見たように、この方程式は、粉
粒体を側壁から摩擦を受けている一様な層を積み上げたものとみなし、壁と
の摩擦はどこでもまさに滑り出す限界にあるとして導出されたものだった。
全系が鉛直下向きの加速を受けているとしよう。高さ h にある質量 dm の
層は、重力とは逆の上向きの慣性力 Γgdm を感じる。2.2.1 節で導入された固
体間の摩擦の概念を用いると、周囲の壁との摩擦力が支配的かどうかによっ
て、以下の二つの現象のどちらかが起こると期待される。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
113
• もし、層に加えられた規格化された加速度 Γ が摩擦力に打ち勝つのに
十分でなければ、層 dm は稠密なままである。
• 逆の場合、もしそれより上の層全てが上に動けるとすればその層も動
くことができる。この時、粉粒体は圧密緩和すると言われる。
簡単に言うと、十分大きな加速度
に相当する
言うまでもなく Γ が1より大きい場合
の場合には、摩擦力が Γgdm − gdm を超える区域と、そうで
ない区域が出てくることが予想される。この二つの区域の境界をきめる圧密
緩和限界 (decompaction threshold) を導くために、規格化された加速度の最
大値を用いる。正弦振動 a sin(ωt) の場合には、これはもちろん Γ = aω 2 /g と
なる。
これらの仮定から、層が壁に対して自由に動くための条件は、単に
Γgdm − gdm ≥ dFfrict
(3 – 16)
となる。ここで、gdm は考えている層の重さである。A が層の表面積で ρ が
体積密度とすると、層の質量は dm = ρAdh で与えられる。この微小部分に
働く摩擦力 dFfrict は、(3-11) 式と同じ記号を用いて P を層の周長、pv を鉛
直方向の圧力とすると、dFfrict = Kµs P pv dh と書ける。力 Ffrict は上方向の
運動に抗し下を向いている。
(3-16) 式により、限界高さ ht を定義することができる。ht より下では粉粒
体は壁から離れられず、それゆえ稠密なままであるが、ht より上では圧密緩
和する。ht を定義する式は
Kµs P
pv (ht ) = Γ − 1
ρg A
と変形できる。圧力 pv は (3-11) で与えられ、ここでは
P
A
1 − exp Kµs (ht − h0 )
pv (ht ) = ρg
P Kµs
A
と書き換えられる。ここで、h0 は堆積物全体の高さである。この2つの式を
合わせると、ht の表式
P
Γ = 2 − exp Kµs (ht − h0 )
A
(3 – 17)
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
114
をえる。ここで圧密緩和率 (rate of decompaction)α と呼ばれるものを α =
ht /h0 と定義する。3.1.4 節でしたようにパラメタ S0 = P h0 /A を導入し、規
格化された加速度 Γ を用いると、それは、
α=
ht
ln(2 − Γ)
ln(2 − Γ)
=1+
=1+
h0
S0 Kµs
χ
(3 – 18)
と与えられる。圧密緩和率 α は、
(規格化加速度 Γ を除いて)無次元パラメタ
χ のみに依存することが分かった。これが、以前に χ に圧密緩和パラメタと
いう名前をつけた理由である。
円筒堆積物の浮揚
さて我々は、堆積物全体が浮揚 (levitation) する(圧密緩和と同義に用い
る)加速度を計算できる。それを、浮揚加速度 (lift-off acceleration)Γlo と呼
び、前の式で ht = 0 として得られる。
Γlo = 2 − e−χ
(3 – 19)
この方程式は、無限に高い堆積物を浮揚させるのに必要な規格化加速度が正
確に2となると予想している。
2次元堆積物の浮揚
前に示したように、2次元堆積の圧密緩和因子は χ は、L を堆積構造の前
面の幅、h をその高さとすると、χ = 2hKµs /L で与えられる(3.1.4 節参照)。
上で展開した一般的モデルの理論より、圧密緩和率の3次元相図を規格化加
速度と圧密緩和パラメタの関数として描くことができる。その例が、図 53 に
示してある。この図はモデルの実験的検証の方法を示唆しており、これを次
に議論する。
2次元粉粒体堆積での圧密緩和と対流の実験的観察
2次元の一様な構造物によって粉粒体の堆積物の動的性質を模擬実験しよ
うというのは、現実は3次元の異なる粒子からなる山であることを考えると、
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
115
図 53. 粉粒体堆積物の圧密緩和の3次元相図。パラメタ α が規格化加速度
Γ と圧密緩和因子 χ の関数としてプロットされている。
ちょっと単純に過ぎる。それにも関わらず、物理の核心を理解するためには、
そのような簡単な系を調べるのに労力を払うことにも意味がある。これには
いくつかの理由がある:
• すぐに示すように、2次元堆積は直接観察できる。一方、実際の3次元
堆積は視覚的化するのが容易でない。確かに、核磁気共鳴により興味深
い結果が得られており、少し後で説明する結果とかなりよい一致を与え
てはいる21 。しかしこの技術は、ちょっと扱いにくいし費用もかかり、
空間分解能も限られている。
• 計算機の限界のために、実は2次元系が、容易に数値シミュレーション
できる唯一のものである(第6章参照)。
• 2次元堆積物で行なわれた実験は、例えば乾いた砂でできた、3次元
堆積で実際に見られる現象の、ほとんど全てを示す。例をあげると、対
流、山の形成、偏析(第5章参照)、そして様々なタイプの流れ(第4
章参照)の現象などである。このことは勿論、2次元堆積物の物理が
21 これは医療用画像技術を用いており、近年比較的よく使われるようになってきた。欠点の一
つは、共鳴基(典型的には水)を多く含んだ粒子を用いる必要があることだ。そのため、カラシ
やケシの種が最もよく使われるが、残念なことに、これらの粒子の力学的性質はあまりはっきり
していない。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
116
あらゆる点で3次元の対応物と同等であることを保証する訳ではない。
1つの次元を小さな値に縮めていった時に、何かの現象に影響を与える
ようなスケール則があってもおかしくはない。特に、(並進対称性を示
す)2次元格子の構造は、長距離相互作用により好都合であろう。
実験技術:画像処理
2次元構造を調べるのに通常用いられる観察方法には、様々な現代的な画
像処理技術が用いられている。どれだけ手の込んだことをするかは、その目
的と各人の想像力による22 。それらは二つの大きなカテゴリーに分けられる。
動いている粒子の速度測定
この技術を用い、3.2.2 節で示したようなスナッ
プショットをとることができる [61] 。それには、系に特徴的な時間、例えば振
動板の励起振動の周期に同期させることのできるストロボフラッシュを用い
る。フラッシュの持続時間 ∆T は、照射している間に粒子がその速度に比例
した長さの軌跡を残していることが目に見える程度に調節される。一方 ∆T
は、その間のランダムな粒子衝突による軌跡の解釈の複雑化を避けるために、
十分短くとらなければならない。像は別々に保存され、関連する物理量の平
均値を計算するための統計処理パッケージによって処理される。数千枚の像
を扱うことは普通で、そのためにはデータ処理を自動化する必要がある。こ
こで、この技法は短時間の現象(励起振動の周期に比べて短い)に用いられ
ることを注意しておく。後でいくつかの応用を記す。
粒子の相対運動の測定
この方法の目的は、多くの粒子が相対的に動きまわっ
ている粉粒体のスナップショットをとることだ。この技法は、例えば、鉛直振
動で励起された堆積の圧密緩和や対流現象を可視化するのに有用である。こ
れは以下のようになされる:
• CCD カメラで時刻 t1 での像を記録する。光は、(後方からの)透過光
でも、(前方あるいは側方からの)反射光でもよい。
22 一つの手法は Hough の判定基準に基づいている。それは、数値処理を用いて非常にノイズ
の多いシグナルから粒子の位置を引き出す [64] 。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
117
• 像はデジタル化される。つまり、データは処理されてゼロ(暗い部分)
と1(明るい点)に変換される。適切な光量と明るさのしきい値を用い
ることで、粒子の中心だけを強調することが可能である23 。
• 二つの像
t1 に記録されたものと t1 − ∆t に記録されたもの
に対
して、ブール代数操作を施す。
「OR」演算に対する真偽表は
像 I1
像
I2
0
1
0
1
0
1
1
1
である。この表によると、結果としてできる像には、二つのフラッシュの間
に動かなかったものばかりではなく、動いた粒子の軌跡も現れることが分か
る。このようにして、以下に示される対流の像が作られた。
「排他 OR」(OR)
演算を用いると動いた粒子の軌跡だけを表示させることができ、これもまた
興味深い。
何かおもしろい像を得るためには、今述べたような操作を十分長い時間に
わたって繰り返さなければならない。言い換えると、この技法は長時間現象
(励起周期に比べて)に適したものである。この技法は「計算機構成写真」
(Computer Posed Photograph) 、略して CPP として知られており、図 54 の
像を作るのに用いられた。
次に図 54 を生成するのに用いた実験について述べる。およそ 50 × 50 個の
アルミのビーズを、アスペクト比 S0 = 2h0 /L の2次元セルに規則的な三角
格子状につめる。ビーズの表面は適当な表面処理によってざらざらにしてお
く。これは、空気中で多数のビーズをゆすることによって達成できる。そう
すると、多くの衝突によって加工硬化 (work hardening) が起こり、摩擦係数
が初期値 0.2 から 0.6 ぐらいまで大きくなる。また、アルミの弾性反発係数 ε
も 0.6 ぐらいである。3.2.2 節に示したように、このような系の衝突によるエ
23 これには見かけよりも工夫が必要だ。例えば、系に横から光を当てる必要があるとしよう。
その場合には、粒子の実際の中心を推定するための補正の手続きが必要になる。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
118
図 54. 2次元振動堆積の計算機構成写真。右の写真は左の円の部分を拡大
したもの。壁面でのせん断により生じたロール状対流が明らかに示されてい
る(文献 [67] による)。
ネルギー散逸を記述する縮約変数は Xz = Nz (1 − ε) で与えられる。即ち今
の場合粒子が6個の列で既に Xz = 3 になってしまうから、実験条件は明ら
かに凝集領域 (condensed regime) にある。
最初平らな表面の配置から始めても、実験の結果、図 54 から明らかなよう
に対流が起こり、堆積上面が山の形になる。先ほど凝集領域にあるとしたに
も関わらず、図 54 に示されている現象は堆積物の異なる部分が互いに相対運
動していることを示唆している点を、指摘しておかなければならない。我々が
ここで観察しているのは、圧密緩和 (decompaction) と対流 (convection) の
過程で、このことは側壁近傍に見えている。ここで、対流ロールと体積内部
での水平移動による圧密緩和の共存について、いくつかコメントしておくの
がよいだろう。
ここで扱っている粉粒体は多くの結晶格子の特徴を備えていることを、認
識するのは重要である。例えば、2次元の一様な堆積物は、構造の対称性か
ら都合のよいある方向に沿って圧密緩和する傾向がある。変位は、水平方向
かその 60◦ 方向に平行に起こり易い。側壁と堆積物自身との相対運動
れにより鉛直方向のせん断力を生じる
そ
を考慮に入れると、60◦ 傾いた滑
り線から対流が起こることを理解するのは容易だ。さらに、全体の構造の鉛
直線まわりの対称性から、対流ロールが左右交互に現れるのは驚くにあたら
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
119
ない。という訳で図 54 に見られるように、60◦ 方向の協調運動は必然的に水
平変位を伴う。言葉を換えると、少なくともこの理想化された実験では圧密
緩和と対流は相伴う。ここで強調しておかなければならないが、いま議論し
ている現象は長い時間スケールにわたって起こり、堆積物が(力学的)平衡
状態に戻った後の状態を問題にしている。すでに指摘したように、鉛直方向
の摂動がかかるたびに、堆積物はエネルギー的に有利な整然とした配置に緩
和する。すぐ後で見るように、短い時間スケールで堆積物の動力学を調べる
と系の緩和していない状態が観察され、これとは全く異なる描像が現れる。
次に、二つの現象を詳しく見よう。最初のものは対流の動力学で、これは
粉粒体における山形成 (pile formation) といわれている現象の源である。二
番目のものは圧密緩和の機構で、3.2.3 節でしたように、連続体モデルを用い
て取り扱う。
対流と山形成
粉粒体堆積の動的および静的な性質は、容器の壁の性質に特に敏感である。
これは、壁への応力再配向の原理 (principle of redirection of stress) の直接
の結果の一つである。振動粉粒体の山形成の現象は特に興味深いが、長い間
誤って理解されていた。もともと Faraday によって報告されていたが [12] 、
最近になって再発見された [65, 66]。つまり、粉粒体に鉛直方向に振動を加え
ると、上表面が水平ではなく安息角 (angle of repose) として知られている角
度(第4章参照)に近い角に傾くというものだ。励起振動が完全に鉛直で一
様な場合には、粉粒体はいくぶん中国帽に似た形になる。実際にこの現象を
調べるための実験を実施するのは、見かけよりも難しい。というのは、主な
効果をぼやけさせるいくつかの潜在的な摂動があるからである。その中でも
最も厄介なのは励起の不均一性に起因するもので、2.1 節で議論した Chladni
パターンを生成したような機構で、振動エネルギーの勾配によるパターンの
山を作る。Faraday のもともとの実験はこのような効果の影響を受けていた
可能性が大きい。これらの現象は、注意深く一様な励起、即ち、容器のどの
場所でも同様の振幅と方向の変位をしている場合と、全く異なる。
このような、理想的条件のもとで系は、容器と励起の共通の対称性を保っ
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
120
図 55. (a) 「中国帽」が成長する過程の写真。(b) 山形成において側壁がは
たしている決定的な役割を示す簡単な実験。
た円錐(3次元)または三角形(2次元)の形をとる。現象は図 55(a) に2
次元系の CPP 写真(3.2.3 節参照)によって示されている。この写真は以下
のような実験から得られた [67]:
• 最初、粉粒体堆積の上表面を平らにしておき、加速度 Γ > 1 の振動を
かける。
• ロール状対流が堆積の上部の隅に自発的に起こり、上部にある粒子を輸
送し、図 55(a) に明白に見えるような二つの土手を作る。
• この過程は、最初はかなり速いが(後で調べるダイナミクスにしたがっ
て)次第にゆっくりになり、休みなく粒子が積み上げられてゆくに従っ
て、二つの山は段々と中心によってゆく。この効果は、一般に2次元で
はかなり著しいが3次元ではそれほどでもない。しかし、最終的な形は
どちらでも同じで、中国帽の形をした山ができる。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
121
簡単な実験によって、山形成の機構における側壁の決定的な役割
正確には粒子と壁の摩擦の役割
もっと
を示すことができる。その実験は図 55(b)
に示されており、以下のようになされる:
1. 実験で用いるのは、中心軸を共有する二つのガラスの円筒からなる特
殊な容器で、二つの円筒半径の差は粉粒体の小球の直径よりも少し大
きい。二つの円筒の間に小球を満たすことによって、側壁なしに自由に
動ける2次元堆積物を作ることができる。
2. このようなものを Γ > 1 の鉛直振動にかけても、自由な上表面は水平
にとどまり、山形成の兆候は全然見られない。
3. 振動をかけたまま、粒子の直径と同程度の太さの円柱棒を共軸円筒容
器の間隙にはさむと、それはこの堆積に対して側壁の役割を果たす。す
ると直ちに山形成が生じ、図 55(a) のような状態になる。更に、棒を取
り除くと直ちに表面は水平に戻る。
4. もしこの実験を、例えばつるつるに磨かれた粒子のように、摩擦のな
いもので行なわれたら、棒が入れてあろうがなかろうが山は形成され
ない。
この簡単な2次元実験により、側壁近傍の対流過程が山形成に直接関わって
いることが、はっきりとに示される。
3次元の同様の実験によっても容器の壁の重要な役割が確認される。図 56
に示されている一組の実験では、二つのタイプの粒子
塗られた粒子
透明な粒子と黒く
が用いられている [20] 。堆積が厚過ぎない限り、円筒容器
に一連の鉛直方向の衝撃が与えられている間の黒い粒子の道筋を、視覚的に
追跡することができる。図 56 に示されているように、ざらざらした壁の付近
の粒子は壁に沿って徐々に下降してゆく。上の議論に符合して、もし壁が滑
らかであれば対流は観測されない。
これらの観察は全て、山形成の機構において壁が決定的な役割をしている
ことを支持している。Janssen の模型もまた、圧密緩和の開始
すると、対流による山形成の開始
さらに拡張
を支配するパラメタが加速度 Γ である
ことを示唆している。このことは、2次元および3次元で多くの実験によっ
て確認されている。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
122
図 56. 3次元対流実験。(a) では、左の壁は滑らかに磨かれている。右の壁
は摩擦を増すようにざらざらにされており、そちらの方だけが対流運動を引
き起こしている。(b) では、対流は円筒容器の場合の反対方向に起こってい
る(文献 [20] による)。
山形成のしきい値と圧密緩和
ここで、3次元配置での最近の結果をいくつか報告する [66] 。実験は、様々
な直径のガラスビーズの堆積物がある振動数の振動を受けた時に、山形成を
するのに必要な最小の振幅 A を決定するものである24 。図 57 のプロットは、
先のモデルで仮定したように、加速度 Γ が圧密緩和と対流の開始を実際に支
配しているということを、明確に示している。ここで指摘しておかなければ
ならないことは、実験では比較的非弾性なビーズの十分に高さの高い堆積を
用いたので、制御パラメタについての以前の議論(Aω2 か A2 ω2 )には曖昧
さがない(3.2.1 節参照)。
24 本当の対流が始まる前に表面の粒子が若干動くのが観察されるので、しきい値の定義には不
明確なところがある。恐らく、この定義の曖昧さと他の要素(無秩序さの程度、堆積物が最初に
十分緩和していたかどうか、など)のために、これらの実験ではしきい値での加速度の値をおよ
そ Γ = 1.2 と与えたのに、それに引き続く2次元での実験では、測定誤差 ±0.05 で1という、
食い違った値を得たのであろう。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
123
図 57. いくつかの大きさのビーズの3次元山形成についての、振動数に対
する振幅のしきい値の両対数プロット。このグラフの直線が傾き −2 である
から、加速度が実際に決定因子であることが分かる(文献 [66] より)。
2次元での山形成の動力学
しきい値より少し上の加速度での山形成の機構について、視覚による追跡
あるいは画像処理を用いた詳しい解析の結果、いくつかの興味深い動的な性
質が明らかになった。既に指摘したように、しきい値付近の山形成は、間欠
的なロール対流により(図6 (a) のアルキメデス・スクリューのように)物
質が運ばれる結果である。即ち、いくつかのビーズが両端に生じた2つの土
手の頂上に向けて運ばれてゆく。これらの土手は最終的には融合して中国帽
のような形をなす。この現象を数時間から時には数日にもわたって注意深く
解析すると、このプロセスのダイナミクスについてのかなり明確な描像が得
られる。緻密な理論は存在しないが、何が起こっているかについての個別の
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
124
図 58. 土手とそれに近い方の壁との距離の時間変化を2つの加速度で測っ
たもの。実験は 30 時間に及んでいる。距離は粒子の数で示されている(文
献 [67] より)。
説明は、少なくとも可能である。図 58 に示されている結果の解釈から始め
よう。
実験によると、山形成のプロセスは徐々に減速し、少なくとも4桁にわたっ
て時間の対数として近似的にあらわされる25 。この理由は、時間が進むにつ
れて壁近傍でのロール対流の発生がどんどん稀になってゆくためのようだ。
ついでながら、この効果は 3.2.3 節で示したモデルに整合しており、また、次
節で示す、振動下の堆積物のゆっくりとした圧密緩和に関する観察ともあっ
ている。対流ロールは圧密緩和された領域のみで存在し得るので、中国帽の
端が堆積物の圧密化された (compacted) 領域深く達するにつれて稀になって
ゆくというのは、理にかなっている。自明でないのは、何故その結果 log t 依
存性が現れるのか、ということである。
重要なパラメタを同定するために、プロセスを支配している微分方程式を
導くことは教訓的である。経験的法則 x = C log t + B を微分することによ
25 後にもう一つ log t 依存性を示す現象に出会うが、それについてはもう少し詳しい説明を示
す(4.2.1 節参照)。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
125
り、山形成の速さ
dx
= C exp
dt
B−x
C
x
= α exp −
C
を得る。変数 x は2つの小山の頂上の壁からの距離を与える。系の幾何学的
形状から、これはまた、中国帽の深さに比例している。上式において係数 α
は山形成過程の効率を表すが、これは、加速度 Γ に Γ − 1 の形で依存し、ビー
ズ間および壁との摩擦による結合にも依ることが分かっている26 。指数関数
の中の係数 C は実験における特徴的な長さを定義する。これは、ビーズ間の
結合に依存するが、対流ロールの典型的な大きさに対応づけられる。しっか
りとした理論的裏付けが無いので、これらの全く現象論的パラメタにすぎな
いものに、これ以上の解釈を与えようとするのは、ちょっと危険だ。ここで
は、パラメタ α と C の実験的な値を、2つの加速度 Γ に対してビーズの直
径を単位で与えるのみにとどめる。
Γ
1.15
1.39
α
3.9
16.8
C
1.0
2.7
圧密緩和モデルの実験的検証
既に説明した画像処理技術を用いることにより、3.2.3. 節の Janssen の一
般的モデルの妥当性を検証することができる。実験は、このモデルに完全に
一致する結果を出している [63] 。問題の実験結果は図 59 に示されているが、
それについて以下に議論する。実験に用いられた2次元セルは、この節の始
めに述べたものと全く同じである。
• 図 59 の (c) および (d) は、既に議論した (α, Γ, χ) による相図の有用性を
テストする目的で行なわれた実験の結果である。実験は、酸化アルミニ
ウムの小球で満たされた2次元セルで行なわれ、系は加速度 Γ = aω 2 /g
を調節できる振動板の上におかれている。モデルで予想されるように、
26 摩擦のないビーズや壁では山形成は生じない。まして、以前の2次元実験の場合のように、
壁が無い場合はなおさらである。この場合、後に議論する漸進的圧密緩和も同様に生じないこと
も分かっている。
126
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
図 59.漸進的圧密緩和モデルを確認する実験結果(文献 [67] より)。本文参照。
実験データは、Kf (f は摩擦係数)の値が 0.29 の時の理論曲線上に並
んでいる。少なくとも、調べられた2つの堆積高の場合はこのように
なっている。3.1.3 節の三角格子モデルの場合には K = 0.58 であった。
小球と壁との摩擦係数 fpw はセルごとに 0.2 から 0.5 程度にばらつくの
で、壁とアルミ球の表面の質によって Kf の値は 0.1 から 0.3 ぐらいで
あると予想すべきだろう。従って、実験結果と全く矛盾していない。た
だ、実験中にも小球と壁が摩耗するので、摩擦係数は実際には時間とと
もに変化しているかも知れないことも、心にとめるべきだ。このため、
結果の解釈に若干の注意が必要である。
• 図 59(a) に、あるセルにおける浮揚加速度 Γlo (2 − e−χ に等しい)を
堆積の高さの関数として示した。この実験は比較的簡単にできる。堆
積の下部の列が浮揚するのに必要な加速度を測定すればよく、それは少
し高拡大率の CCD ビデオカメラがあれば観察できる。モデルで仮定し
たように下部の粒子列全体が一斉に浮揚する。これは、堆積層が重な
り合ったものとして扱ったことを、正当化する結果である。公正を期す
ために付け加えるが、この振る舞いが現れるのはセルの水平方向の大
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
127
図 60. 漸進的圧密緩和モデルに矛盾しない結果の概要。これらの状況は異
なるパラメタ K と µ の組合せに対応している(文献 [97] より)。
きさが比較的小さい場合にのみである。3.2.5 節で、より大きなセルの
場合に何が起こるかを示す。今の結果は、モデルが予言するように、協
調的な堆積の浮揚に必要な加速度は、その高さの単調増加関数となる。
データは、唯一の調節パラメタ Kf = 0.11 の理論曲線上に乗る。これ
らの結果は、前の実験とは別のセルから得たものである。
• 図 56(b) に示すデータは、上と同じセルで行なわれたが、全く異なる実
験のものだ。振動励起によって小球はセルに対して相対的に動く。セル
の前後の窓の上に粒子がその運動の記録を残せば、変位の振幅 ∆h(h)
を高さ h の関数として計算できる。ここでもまた、理論と実験の見事
な一致が見られる。
図 60 に並べて示したのは、いくつかの2次元セルの透明な窓から見た粉粒
体堆積の像で、コントラストは強調されている。この図はこれまで得られた
結果を総括しており、モデルの実験的な検証をしてきたこの節を終えるのに
ふさわしい。
モデルによって χ = S0 Kµ という量が鍵になるパラメタと認められている
ので、まず、K も µ もゼロでない時にはアスペクト比 S0 の効果を検証でき
る(図 60(a))。また、2次元の円筒容器により、K > 0 で µ = 0 の場合を調
べることができる(図 60(b))。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
128
図 61. 三角格子の堆積とそれを 90◦ 回転した双対格子の堆積。左の配置だ
けが応力を壁に再配向する。
最後の、図 60(c) に示されている K = 0 で µ > 0 の場合には、3.1.3 節の議
論をもとにしたちょっとした仕掛けがある。その節では、水平に並んだ平行
四辺形の列からなる表面が、鉛直に加えられた応力の関数としてどのように
変化するかを解析した。そこで指摘したように、円板が鉛直にならんで接触
している時には、膨張の特質は失われてしまう。そこで、同じ配置が縦に並
んだ2次元堆積を考えると、そのような鉛直格子
と呼ぶ
双対格子 (dual lattice)
に対する係数 K は K = 0 となるのは明らかだ。この配置は図 61
に示されている。このような堆積は、Γ の値が 1 から 1.5 という通常の三角
格子堆積の実験でよく使われる程度の加速度に対して、持ち堪えるに十分な
安定性を示すことが分かった。通常の場合と異なり、またモデルとは完全に
一致して、この場合には漸進的圧密緩和も対流も山形成も生じない。言葉を
変えると、このような網の目構造は、その膨張の特性ばかりではなく、振動
による圧密緩和に対する耐性も説明する基本的性質を備えている。
短時間圧密緩和:分裂
これまでの節で述べたモデルは連続体力学に基づくものであったが、振動
下の粉粒体堆積の漸進的圧密緩和をかなりよく説明する。次に進む前に、こ
の理論の意味するところをよく理解しておくことは重要である。このモデル
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
129
は基本的に、Janssen の仮定と経験的に得られた運動則 (3-16) 式に基づいて
いる。ここでは Janssen の式の導出を再検討することはしないが(3.2.3 節参
照)、(3-16) 式の背後にある近似の性質について時間をかけて考える。この式
をここでは便宜上
Γgdm − gdm ≥ dFfrict
と書き直しておく。以下の2つの重要な点に焦点をしぼる:(1) 一様な水平の
層に系を分解できるとした仮定、および (2) 乾燥摩擦の単純な記述
• まず最初に確認するが、このモデルは粉粒体系が質量 dm の水平の層か
らなっており、それが壁と擦れ合って摩擦力 dFfrict を生じているとし
ている。この摩擦力は Janssen の仮定によって計算できる。更に (3-16)
式は、振動板からの加速度 Γg が粉粒体の水平層に全体にわたって一様
であるとしている。加速度、質量、そして摩擦の全てが層内で一様と仮
定することは、以前の、粉粒体の中での接触点のネットワークについて
の記述とは、あまりにも明白な矛盾である(1.2.2 節参照)。読者は、粉
粒体内部での力の釣り合いを記述するのに、側壁に至るアーチ構造を
持ち出したことを思い出すだろう。アーチの概念は、粉粒体の静的およ
び動的な性質の本質的かつ不可欠な部分である。これだけからも、理論
と現実の重大な乖離が想像される。
• 壁との摩擦力の極度に単純化された取り扱いのために、更に深刻な帰結
を生じるかも知れない。6.4 節でより詳しく議論するのでここでは詳し
くは述べないが、(3-16) 式は粉体内のある層が一定の力を受けた時に、
境界面との接触力が単純に断絶するということを、単に表しているに
すぎないことを指摘しておく。これでは、3.1.1 節で議論した力の不定
性は全く無視されており、釣り合いでの Janssen の仮定に従って力線が
上に向かっていることを仮定している。しかし、一つには接触点のつな
がりのランダムな性質と、もう一つにはアーチを形成している粒子間
の幾分弾性的な相互作用のために、壁との接触力はかなり大きな幅で
分布しているであろう。一様で水平な層という初等的な考えを用いて、
本質的に不均質で部分的に不定な媒質をモデル化するというのは、危
険をはらんでいるように思える。それに加えて、(3-16) 式は動摩擦、恐
らくより重大なことに、動摩擦の速度依存性を無視している。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
130
このような考察を行なうと、理論と実験の一致は全くの偶然ではないかとの
疑念を抱かせるかも知れない。しかし、これは正しくない。少なくとも、一定
の制限のもとで適切な注意を払って使われる限り、モデルは有用である。例
えば、次のようなことを指摘しておくのがよいだろう。この漸進的圧密緩和
のモデルでは、堆積物が圧密緩和する平均の高さを表す相図を確立している
に過ぎず、圧密緩和された相で何が起こっているかは一切何も述べない。即
ち、このようなモデル化では圧密層の高さは計算できるが、それ以上の詳細
を知るには、粒子の軌道計算が必要で、そのためには以下の節で述べるよう
な余分の仮定が必要である。6.4 節でより詳しく議論するように、軌道を計
算するための手順ではクーロン摩擦の不規則な性質も、通常取り入れられて
いる。
これまで述べてきた実験は、本質的に長時間観察に関するものだ。実際に、
実験的に観察される圧密緩和過程は、次々と一連の緩和状態をとることによっ
て進行する。系は、CPP 写真のような通常の実験技術によって記録される状
態に、かなり長く(典型的には数秒程度)留まっている。しかしこのような
方法では、持続時間が短く可逆変形を伴う速い事象(励起振動の周期数分の
一以下しか継続しない)の詳細は、見逃している。実験的観点からはこれら
のことが明らかになっているが、これから、これまで展開してきた単純なモ
デルによってどんな結論が導かれるだろうか?そのモデルが
さにも関わらず、あるいは不完全さゆえに
その不完全
長時間の現象を説明するのに
より適しているとは、基本的にはどういうことだろうか?この疑問に対する
はっきりとした答はない。今の時点でできることは、このモデルは、系が釣
り合い状態に緩和した後の、再編成された状態にある系をかなり正確に記述
しているようだと、認めることだけだ。このモデルでは、不定性が大きくラ
ンダムな揺らぎを持ったような状態は取り扱えない。そのような状態は、問
題のより完全な解析によって初めて扱えるだろう。
関連する現象の本来的な2重性
短時間および長時間
を考えると、
ストロボと励起振動の位相を少しずつずらして粉粒体堆積の時間発展を観察
してみたくなるのは自然な成行きだ。図 62 にそのような実験の結果を示す27 。
27 実のところ、これは実際にこの実験をするに至った経緯とは異なる。本当は、漸進的圧密緩
和が幾分不可逆な分裂が次々と起こることによって生じることに、研究者達が気づいたのは、粉
粒体堆積中の粒子の運動をビデオカメラで直接観察しようとしていた時だった。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
131
図 62. 振動周期と同期したストロボを用いた短時間観察をすると、振動励
起された2次元堆積の圧密緩和は、実際には弾道運動中に生じた上方から下
方へ伝播してゆく一連の分裂の結果であることが分かる。このような分裂は
励起サイクルのたびに発生する(文献 [69] より)。
この像は粉粒体の構造の短時間の振る舞いについて、多くの情報を含んで
おり、様々な検討に値する28 。まず第一に、静止したスナップショットではう
まく伝えられないが、図に示されているような亀裂が現れ、それは固有の動
的性質を持っている。ビデオで見ると、これらの亀裂は表面近くで始まり底
の方に向かって伝播するのが分かる。この連続的分裂のメカニズムは励起サ
イクルごと、堆積が弾道運動をしている間に起こる。その持続時間は励起振
動の周期に比べて非常に短い(典型的には 10 ms から 0.2 s 程度)。この亀裂
は特徴的な V 字形(今の場合は底を向いた)をしており、構造の中を進むに
つれて若干位置がずれる。この現象は、誘導容器中の粉体堆積が弾道運動を
する時の圧密緩和の極めて一般的なモードのようである。次節では、それに
28 CPP
像や前面の窓に残った軌跡は多周期にわたる平均の情報しか与えないことに注意。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
132
ついてより詳細な情報をどうやって引き出すかについて見てゆく。
3.2.4
誘導容器内の落下における粉粒体堆積の分裂
漸進的圧密緩和は、実際には、最初の粉粒体の山をより小さな塊に分割し
てゆく分裂が連続して起こる結果であることを見てきた。そこで、この現象
をより簡単に研究し定量化するにはどうしたらよいか、実験的配置を考える
のが筋であろう。しかし、振動下では分裂過程だけを取り出すことは極めて
困難であることが分かってきた。それは、何度も示してきたように、圧密緩
和を引き起こしているのが粒子と壁との摩擦であることが理由である。この
せん断相互作用は、先ほどの実験では、正弦的な運動をしている容器の壁に
対し、粉粒体の運動はおおよそ放物的な弾道運動をしており、両者が異なる
ことから来ている。一方、直接観察は、亀裂が振動周期ごとにかなりランダ
ムに発生していることを示している。この揺らぎは、それ自身かなり興味深
いことではあるが、残念なことに調べようとしている素過程の分析をひどく
難しくしている。次に述べる実験は、この現象の観察条件をできる限り単純
化しようとして、工夫されたものである29 。
2次元の実験
以前に説明したようなタイプの鉛直セルを使うので、粒子は規則的な3角
格子をなして積み重なっている。セルの底面はバネで引っ張られた金属板で
押えられており、この金属板を(初期加速度 3g で)急速に落下させる。堆
積の落下は 10 分の1秒程度しかかからないが、CCD カメラで記録できる。
図 63 に、この実験で得られた時間経過を示す。前の段落で示した結果から
予想されるように、堆積はいくつかの V 字型のブロックに分裂する。その頂
点は、今は上を向いているが、いつも加速度と反対方向に向く30 。また前に
注意したように、一連の亀裂は落下中、上方に向かって伝播する。これら全
29 Drake は、分裂過程に関してここで導き出したような結論こそ引き出さなかったが、直接観
察によって構造変形を調べる中で、傾斜面での落下の実験を報告している [68] 。
30 3次元堆積の場合も同様な結果が観察されている。直径 1cm 程度の小さな管に圧密された
砂を半分ほど詰め、底を急に開くと、図 5 に示したようなアーチによって分離されたいくつか
のブロックに分裂しながら、上に向けられた管の底から砂は離脱してゆく。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
133
図 63. 誘導容器内の2次元堆積の落下における分裂の実験的観察。写真は
1/50 秒毎にとられている。堆積が管の中を落ちてゆくに従い、分裂の波が
上方に向かって伝播してゆくのが見られる。底面の一個の粒子が逸脱して重
力の加速度で落ちている。一方、堆積上部はより遅い加速度で落ちる(本文
参照)。堆積は分裂によって圧密緩和する(文献 [69] より)。
ての観察結果は、弾道運動中に堆積に加えられた加速度 Γ の符号を逆にすれ
ば、振動下の堆積で見たものと符合している。振動セルの場合は加速度は上
向き(再圧密化の前の上向き弾道運動)に対して、今は下向きである。アー
チ形成に関する以前の議論を考えると(3.1 節参照)、今の実験で観察される
V 字構造は、その上の粉粒体の質量を支えている大きな力のかかった接触点
のつながりと解釈できる。
理論的モデル化
これまでの我々の理論的モデルは Janssen のモデルの動力学的拡張であっ
た31 。興味ある問題は、これで分裂の過程を説明できるかどうかということ
だ。適切に調整された数値シミュレーションは実際、粉粒体堆積中の亀裂の
31 Savege は、凝集性のない粉粒体系の斜面上や鉛直降下流を調べた [70] 。Savege のモデル
は、連続体力学を記述する方程式に基づいており、本質的に流体力学的記述である。一方、我々
のモデルは、亀裂の概念を用い、地球物理学者により好まれるモデルに類似している。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
134
様相や伝播をいかに再現するかについても後で触れる [69] 。
分裂を伴わない落下
まず最初、亀裂が入らないと仮定して一つの塊のまま落ちる問題を考えよ
う。この問題は、実は 3.2.3 節で既に解かれている。高さを底から上に測ると
いう便宜を含めて、以前と同じ記号を用いる。すると、鉛直応力の高さ依存
性は、
pv (h) = ρg
P
A
1 − exp Kµs (h − h0 )
P Kµs
A
で与えられる。2次元ではこの式は
2Kµs
L
h − h0
1 − exp
pv (h) = ρg
= ρgζ 1 − exp
(h − h0 )
2Kµs
L
ζ
となる。便宜上、特徴的な係数を一つのパラメタ ζ = L/(2Kµs ) にまとめた。
まずバネで引っ張られた金属板を落す前には圧力が平衡に達しているとす
る。次に、粉粒体の特に不連続な性質のために、媒質の薄い板を考えてもよ
いとし、それと壁との間には以前に働いていた摩擦力が落下中も働いており、
そのために、その媒質の板の部分の下向きの加速が減少しているとする。あ
る高さにある粉粒体の板と壁との摩擦力は、
dFfrict
pv
h − h0
=
= g 1 − exp
dm
ρζ
ζ
で与えられることは、既に知っている。故に、高さ h にある質量 dm の粉粒
体の薄い板が受けている実効的な加速度 γ(h) は、重力の加速度より小さく
γ(h) = gΓ(h) = g −
dFfrict
dm
となる。つまり、高さ h のところの規格化された加速度は
h − h0
Γ(h) = exp
;
h ∈ [0, h0]
ζ
(3 – 20)
である。厳密にいうと、以前に議論された仮定の文脈から、この式は落下が
始まった瞬間にしか成り立たない。簡単化のためと半定量的な解析のために、
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
135
図 64. 落下時間の関数としての堆積の上端の高さ。点は実験データ。実線は
Kµs = 0.12 を用いて計算された放物線。矢印は、堆積に少なくとも一つ亀
裂が現れたところを示す(文献 [69] より)。
これが落下の継続している間中に成り立っていると仮定する。この近似は実
験によって正当化されることを、後で見る。
まず、Γ(h) が h の増加関数であることに注意する。このことは、堆積は自
分自身の重力と摩擦力を受けているが、落下中圧密化されたままでいようと
することを意味する。言い換えると、外的な原因がない限り、堆積が分解し
ようとする自発的な傾向は無いということだ。粉粒体が非圧縮性とすると、
堆積の加速度は下の層の値で制限されるので (3-20) 式で h = 0 とおいて、
Γ = e−h0 /ζ = e−χ
を得る。ここで、χ は以前に定義した圧密緩和パラメタである。
進展し分裂に至るような亀裂を引き起こすような外的な原因を同定するた
めには、側壁の表面の性質を変えてみる必要がある。その結果、以下のよう
なことが観察される。
• 鏡のように磨かれた表面、つまり粗さが1ミクロンの数分の1程度の表
面は、通常の摩耗した表面とほぼ同程度の摩擦係数 µs を持っている。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
136
そのような磨かれた側壁の場合は、重力だけの場合よりも小さな加速
度ではあるが、堆積は加速度 Γ = e−χ で分裂無しに落下する。この結
論は、図 64 に示されている実験結果から導き出される。これらのデー
タは、均質な酸化アルミの小球を、同じセルにいくつかの異なる高さに
詰めた堆積から得られたものだ。データの示すところは、実験誤差の範
囲内で、亀裂が生じない限り、堆積はその初期の高さで決まる加速度で
落下し、その加速度は我々の得た Γ = e−χ の表式でまずまず記述され
る。図 64 の実線はただ一つの調節できるパラメタ Kµs = 0.12 を用い
て計算され、その値は以前に求められた値よりは幾分小さい。この食い
違いはおそらく、今の場合は静摩擦ではなく動摩擦係数が問題であると
いうことから来るのであろう。
• 数ミクロンより大きな粗さの表面を持った側壁は、以前に指摘したよう
に、見かけ上はランダムで上に向かって伸びてゆく亀裂を次々と引き起
こす。
亀裂は初めに何処に生じるか?
堆積と側壁表面との相互作用を正確にモデル化するのは極めて難しい。そ
こで、ここでは側壁の一つから生じた亀裂の安定性の問題に話を限ることに
する。その亀裂は、ランダムな表面の構造から生じるのかも知れないし、
(そ
れが格子の規則性を乱す)微視的力学パラメタのランダムな揺らぎによるこ
ともあるだろうし、更に、側壁からの剥離や亀裂を促進する他のどんな不安
定性によるものでもよい。さて、亀裂が高さ hf のところに生じたとしよう。
高さはいつものように堆積の底から測る。亀裂が生じると、粒子の接触点の
つながりを断ち切り、2つの派生した堆積層
とする
上の堆積を A 下の堆積を B
の中の力の釣り合いの再編を引き起こす(それは瞬時に起こると
する)。それぞれの派生堆積は、今度はそれぞれ次のような自分自身の加速度
ΓA と ΓB
ΓA = e−(h0 −hf )/ζ ,
を受ける。
ΓB = e−hf /ζ
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
137
ΓB ≥ ΓA である限り亀裂は安定に留まり拡大さえするのは、直ちに明らか
である。Γ は高さの単調関数なので、これは hf ≤ h0 /2 を意味する。言葉で
述べると、亀裂は、落下にしたがって閉じてしまわないためには、堆積の下
半分に生じなければならない。
次に、数値実験によって、今議論した結果の多くがどのように再現される
かを見てゆこう。
粉体堆積の誘導管中の落下の数値シミュレーション
2.2.2 節で粉体のダイナミクスを数値的にシミュレーションするために有用
な方程式をどのように書き下すかを学んだ。第6章では更に多くの技法を示
す。その前に、ここでは誘導管中の粉体堆積の落下の分裂の物理を理解する
という目的のために、上で議論した多くの実験観察についての洞察を深める
ような、特殊な数値的技法を調べよう。
用いられる方法は、(第6章で議論する意味での)剛体球の概念に由来し、
3.2.1 節で1次元柱の問題を取り扱うために導入したものと全く同じ精神に基
づく「事象推進」(event-driven) の方法だ。そこでも強調したように、この技
法は基本的に動的なもので、堆積の初期状態のような静的な状況を説明する
のには、実際には不適切なものだ。そのためその実行にあたっては、現実の
粒子が静的な状況においても直近の周囲を感じとれるのを模倣するために、
人工的な「熱揺動」(thermal agitation) を仮定する32 。この描像では、釣り
合い状態そのものは、撃力や並進および回転の運動量などによって記述され
る。しかしそれら全ては並進運動や回転運動と関係している。実際の釣り合
い、あるいは疑似的釣り合いは、固有の不定性を含んでおり、それが現実の
実験と数値シミュレーションの関係を曖昧にしている。実験に関する限り、側
壁の表面にあるランダムな不規則性が、しばしば亀裂を生じさせている。同
じように、この数値モデルにおいては、そもそも人工的に導入された熱揺動
32 動的な数値技法を用いて堆積の静的な性質をシミュレートするために、人工的な熱揺動を導
入することは、現実との深刻な乖離をもたらす。6.4 節で見るように、堆積の動的な性質は、そ
の釣り合い状態の特性に比べて(3.3.1 節の意味で)より不定性が少ない。多重衝突の間におい
てもいつも力は働いておりうまく定義されるが、静止状態では未定のままだ。さらにこの熱揺動
は、現実との対応のない偽の揺らぎの原因となる。このことは、粉粒体物質の振る舞いのシミュ
レーションとその理解における根本的な問題にかかわっている。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
138
図 65. 実験と同様な条件の下での、誘導管中の粉体堆積の落下での亀裂発
生のシミュレーション。シミュレーションのために導入された熱揺動により、
堆積上端付近に人工的な沸騰効果が生じている。時間 t は秒で測られている。
アスペクト比や微視的力学係数は実験値に合わせてある(文献 [69] より)。
が亀裂を生じさせるランダムな現象となるが、しかしこれは壁の特性に依存
しない。 このことを理解して結果を見るべきだが、図 65 に示すように、こ
のような数値シミュレーションは実験結果の多くの側面を十分よく再現する
ことが分かっている。シミュレーションの詳細は文献 [71] に譲り、いくつか
の顕著な結果を強調しよう。
• 数値実験が十分な結果を示すのは、粒子の角運動量を含めた場合に限ら
れる。そうでない場合には、堆積は徐々に広がってゆくように見え、実
際の実験では必ず現れる逆V字構造は、全く見られない。このことは、
この現象において粒子回転が重要な役割を果たしていることを示唆し
ている。この点は、以下で更に詳しく調べる。
• 亀裂は堆積の底部に生じ成長する。これは、実験観察に一致するばかり
でなく、上で議論した簡単なモデルとも合致する。予想されたように、
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
139
堆積上部に時おり現れる亀裂は、落下に従って堆積が再び重なり合い、
すぐに押しつぶされてしまう。
• 概して、亀裂は系の対称性を破り、堆積の一方の側から生じる。典型的
には、固体中のカンチレバー亀裂で観察されるように、境界から生じ
る33 。この傾向は、実際の実験でも数多くの写真で観察されている。
シミュレーションが現実と一致する結果を出すためには、粒子の回転を取
り入れなければならないということが分かったが、ではなぜそうなのか理解
しなければならない。このための最善の方法は実験に帰ることである。まず、
誘導落下中の堆積内の応力分布を考えよう。それから、亀裂近傍での粒子集
団の回転の自己組織化のモードを、幾分詳しく調べる。
堆積内部の圧力分布:アーチ効果
数値シミュレーションにより、粒子の速度や粒子間および壁との衝突を、
任意の時空間の点において追跡できる。既に強調したように、我々は動的な
モデルを扱っている。つまり、静的な圧力を計算することはできない。より
正確には、粒子による圧力は、側壁への繰り返し起こる衝突による運動量の
移動から来るもので、運動量移動は、例えば (2-10) 式のような式で記述され
る。この方法は、伝統的な気体運動論と全く同じである。運動量の時間積分
P dt を、100 分の1程度の適当な時間にわたって行なう。一連の異なる時
∆t
刻に対するこのような計算の結果が、図 66 に示されている。
堆積中の亀裂の出現(時刻 0.04 及び 0.06 s における)は壁での圧力の大
きな増大(一桁程度)に対応している。これは、我々のアーチに対する直観
的な概念と合致している。つまり、アーチの主な機能は、3.1.1 節で見たよう
に、まさに堆積の上部から来る圧力を横方向の壁に伝えることであった。こ
のように、数値シミュレーションによって、ある程度客観的で定量化できる
分裂の機構についての情報を得た。それは、予想したように、上方を向いた
三角型のアーチが次々と形成されたり消滅したりすることから来ている。
33 カンチレバー亀裂は、例えば、ナイフで固形物を切ろうとした時に現れる。亀裂はしばしば
ナイフの接触点から開き、地球物理でよく知られた動力学に従って、伝播する。
140
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
図 66. 数値シミュレーションによる壁を押す圧力の高さ依存性。積分時間
は 10 ms で、それぞれの点は6列に相当する高さにわたって平均して求めた
(文献 [69] より)。
同様にして、何が堆積中に亀裂を生じさせるのか詳しく調べることも可能
だ。シミュレーションが示唆するのは、一つの粒子がその並進および回転速
度(2.2.2 節参照)が突然壁の相対速度に整合しなければならなくなることに
より、亀裂が開く。別のいい方をすると、堆積の内部の亀裂とは異なり、壁
と相互作用しているある粒子が、2.2.2 節で定義した意味で、滑り無しの転が
りの領域に入り、それが亀裂が生じるきっかけになる。更に、シミュレーショ
ンはまた、亀裂が格子転位の容易線に沿って内部に向かって進行することを
支持している34 。この亀裂進行によって、接触点のつながりとその周辺に沿っ
た粒子の間の衝突数が劇的に増大する。
このようにして、亀裂の発生に関わるメカニズムは、壁と関連した粒子回
転のある種の組織化にあるようだ。亀裂生成のすぐ近傍でそれに付随して粒
子衝突が増加することから、そのような局所的な組織化が実際に接触点の連
鎖に沿って進行できるのかを問うのが論理的である。これが次の問題である。
34 ここでは、結晶学の標準的用語を用いた。2次元の稠密堆積の三角格子の対称性から、転位
は壁に対して水平か 60◦ の方向に走る。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
141
図 67. 図 (a) は誘導落下している堆積中の粒子回転のシミュレーションを
示している。粒子回転は、矢印で示されている亀裂の近くで組織化されてい
る。図 (b) に、実験的に観察されるV字型接触点連鎖と矛盾しない組織を示
す。図 (c) に示されている組織はアーチモデルと矛盾し、シミュレーション
でも決して観察されない。
回転の自己組織化
図 67 は、矢印で示した2つの亀裂が壁付近で開いた直後の、堆積中の粒子
の「スピン」(spin) の分布図である35 。白丸は図の面に垂直な軸のまわりの
反時計回りの回転を示し、黒丸はその逆方向の回転に対応する。
数値シミュレーションから得られた図 67(a) は、亀裂のすぐ近傍と直上で
スピンが縞模様状に組織化されることを、明らかに示している。図 67(b) と
(c) を見ると、このパタンの角度が以前議論されたアーチの概念と矛盾がない
ことが分かるだろう。水平線から 60◦ の角度で傾いた接触点の連鎖は、それ
35 この文脈では、
「スピン」という語は2次元堆積の面に垂直な角運動量を持った粒子の回転
を表す。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
142
に強く束縛された粒子の回転が交互になることを示唆する。直観的に明らか
なように、そのような接触点連鎖を成している粒子は、互いに密接な接触を
保っているので、そのすぐ上や下の連鎖に対しては相対的にフラストレート
(矛盾)した回転になっているだろう(2.2.1 節図 18 参照)。これから分かる
のは、構造のもっとも弱い部分は重なった接触点連鎖の間を(アーチの方向
と平行に)走っており、亀裂はこれらの線に沿ってのみ進展できる。ここで、
粒子回転の自己組織化もまた、以前に議論した接触点の連鎖としてのアーチ
の概念に合致していることを見た36 。
3.2.5
拡がった粉粒体の表面不安定性
これまで議論してきた、対流や分裂などの多くの現象は、粉粒体媒質と容
器の壁との相互作用にその起源をたどることができる。話を第4章の自由な
斜面流に移す前に、これまでとは異なり、堆積の幅が高さよりもずっと広い場
合の議論をしてこの章を終えよう。ここで、静的な Janssen のモデル(3.1.4
節)とその動的な拡張(3.2.3 節)のところで用いたいくつかの考察を復習し
ておくことが有益だ。そこで指摘したことは、モデルの適用範囲内で、高さ h
で周囲の長さ P の堆積の振る舞いは、圧密緩和パラメタ χ = SKµs を用いて
指数因子 exp(−χ) で支配されているということだ。アスペクト比 S = P h/A
は断面積 A で規格化された側面積の尺度を与えることを思いだそう。2次元
的な配置では、アスペクト比は、L を側面の長さとして、S = 2h/L で与え
られる。堆積中の応力の減衰は
2h
2h
exp(−χ) = exp −
= exp −
L/Kµ
λ
と書ける。ここで、λ ≡ L/Kµ はここでの減衰の特徴的長さである。堆積柱
の重さによる鉛直圧力の及ぶ範囲がこの長さに限られるということなので、
これは応力を壁の方に再配向するアーチの平均の高さと解釈できる。典型的
36 この描像では、アーチと亀裂の形成は粒子回転の自己組織化の過程の結果である。回転の自
己組織化が、一方で亀裂が容易に生じる線(回転が矛盾する粒子の間)を、他方で強く接触した
線(回転が交代している粒子間)を生じる。その描像を更に敷衍して、最初は無定形な粉粒体媒
質が「結晶化」して、容易に剥がれるけれどもそれ自身の面内ではかなり強い薄板状になると、
予想さえできるかも知れない。しかし、我々の現在の知識からは、この可能性は単なる憶測の域
を出ない。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
143
図 68. 振動下での浅い粉粒体層の不安定性を観察するための実験の概念図。
パタンは、3次元では上から、2次元では横から観察される。
な場合 Kµ ≈ 0.3 なので、アーチの高さはおよそサイロの幅の3倍となる。
即ち、高さが幅の2∼3倍程度の2あるいは3次元のサイロにおける圧力は
静水圧とは異なることが期待される。逆にいえば、高さが横幅よりもずっと
小さい堆積で、h L(あるいは3次元では h A/P )の時には、これまで
の節で議論したような現象とは非常に異なった様相を示すはずである。この
点を更に詳しく調べよう。
図 68 に、最近行なわれた2つの実験が示されている。図には、拡がった粉
粒体層が加振された時に自発的に生じる表面パタンが、描写されている [72,
73]。図 68 (a) には、内径が d = 127mm の容器に直径が 0.15 から 0.18 mm
の青銅のボールが7層詰められている、3次元的配置を示す。2.1 節でも議論
したように、これらのものは十分小さいので、大気との相互作用を避けるた
めに 0.1 torr 程度の真空中に容器を置くことができる。また、どんな揺動で
あっても金属球の表面電荷を生じる危険性があることにも触れた。このよう
な電荷を地面に逃がすために、容器の底はアルミでできている。用いられた
系のアスペクト比は、
Ph
4h
=
≈ 0.01
A
πd
である。特記すべきことに、この3次元配置では、反発係数の大きな変化 (0.5
∼0.95) や、密度 (2.3∼11.4)、アスペクト比、及び積み重ねられた層の数の
S≡
144
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
大きな変化が、これから述べる現象にほとんど影響を与えないように見える。
一方、このことは2次元配置では当てはまらない。この場合、層の数は非常
に大きな効果を持つことを示す。
図 68(b) に、典型的な2次元の実験を示す。セルは、以前と同様、粒子の
直径よりも少し大きな距離だけ離した2枚のガラス板からなっており、今の
実験では 1.5 mm のアルミのビーズを用いている。セルの横幅は 300 mm、
層の数 Nh は 4 から 27 で、これはアスペクト比が 2∼3 %に相当する。ビー
ズの大きさはずっと大きいので、真空中で実験するかどうかはあまり重要で
はなく、静電相互作用もほとんど無視できる。酸化アルミのボールを用いて
も結果はそんなに変わらない37 。言うまでもないが、どちらの実験でも、現
れるパタンが何らかの側壁との相互作用の結果でないことが保証されるよう
に、注意する必要がある。以前の状況と全く対照的に、容器の正弦的振動に
よって媒質内部に引き起こされる不安定性を扱っているのである。2次元と
3次元で起こる現象はおおよそ同じではあるが、2つの場合を別に議論しよ
う。まず、拡がった3次元堆積から始める。これは多くの点において、加振
された液体表面についての 1831 年の Faraday の観察 を思い出させる [12] 38。
拡がった3次元堆積
規格化された加速度 Γ が変化した時、実験によると、加振粉粒体の表面に
一連のパタンが現れる [72] 。セルに加えられた加速度 Γ = 4π 2 f 2 A/g (A は
正弦振動の振幅、f は振動数)が特定の値で、縞模様や、正方形、6角形、お
よびそれらの組合せパタンが、媒質に自発的に生じる。図 69 にそれらのパタ
ンを上から見たいくつかの例を示す。
これらの幾何学模様の形成は2つの現象の合わさった結果であり、そのう
ち少なくとも一つは粉粒体に特有のものである。
37 この観察結果には深い意味がある。以前の圧密緩和モデルによって、大きなアスペクト比の
振動粉粒体においては、堆積の振る舞いは粒子と壁の摩擦によって決まっているということが
はっきりしている。今度の実験はそれとは根本的に異なるのではあるが、それでも、加振された
薄い堆積の場合には、全体的振る舞いが粒子間の摩擦に影響されないということを、ここで確認
したことになる。ただし、なぜそうなのかはまだ理解されていない。
38 Faraday は、鉛直方向に周期振動させた容器に入った粘性流体の振る舞いを調べていた。彼
は、ここで述べるものとかなり似た表面波が現れるのを観察した。勿論、分岐現象は観察できな
かった。これは非弾性堆積に特徴的なものである(3.2.1 節参照)。
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
145
図 69. 3次元加振粉粒体表面に現れる典型的なパタン。堆積の厚さは 1.2 mm
振動数は 67 Hz である。図 (a) は f /2 で振動する縞模様を示す (Γ = 4.0)。
図 (b) は縞と f /4 の正方形の競合の例である (Γ = 6.0)。図 (c) は f /4 の6
角形を示す (Γ = 7.4)(文献 [74] より)。
• 第一は、3.2.1 節で扱ったものと類似の、完全非弾性物質として振る舞
う粉粒体への振動とともに起こる、一連の分岐現象である。
• 第二のものは、(Faraday が観察した)液体で見られるような表面波の
パラメトリック励起の機構である。この現象は、励起振動の高調波や倍
周期振動の(非線形結合を通した)複雑なフィルター効果が関係して
いる。
図 50 に示された分岐図とは若干異なる形にまとめられているが、図 70 は、
縞や正方形、6角形、およびそれらの様々な組合せなどの自己組織化された
パタンに関連する実験観察結果を合わせると、より多くの知見をもたらす。
この分岐図は、規格化された加速度 Γ の関数として積 f · tf をプロットし
たものである。但し、tf は粉粒体層の自由飛行時間である。分岐図は、異な
るパタンに対応した領域を分けているいくつかの臨界点の存在を示している。
加速度 Γ を増やしてゆくに従って、振動数 f/2 で振動する縞構造、f の6角
形、f/4 の縞と正方形、再び f/4 の6角形、そして最後に Γ が8に達した時
にはほとんど完全なカオス状態が、順に観察される。10 から 100Hz の振動数
の実験から、自己組織化されたパタンの明暗と外形を支配しているのはパラ
146
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
図 70.拡がった3次元粉粒体の表面構造のパタンの分岐図(文献 [74] より)。
メタ Γ であることが確認でき、それは非弾性ボールのモデルの妥当性を示し
ている。
波長の振動周期依存性
今見たように、自己組織化された表面パタンの外形とその発展は、非弾性
ボールに特徴的な分岐図と直接関係している。説明されずに残っていること
は、Faraday 不安定性で観測されたものと色々な点で類似した、個々の幾何
学模様を生じさせているのは何なのかということだ。この目的のために、こ
れらの模様の波長 λ が励起振動の振動数 f にどう依存しているのか調べるこ
とが役に立つ。図 71 に、この点に焦点を絞った実験結果を示す [72, 74]。
実験的結果は、
λ = λmin (d) +
geff
f2
の形に表される。ここで、λmin は粒子の直径 d のみに依存し、おおよそ 11d
に等しい。よく似た式は、ランダウ・リフシッツの「流体力学」の本の重力
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
147
図 71. 模様の波長を、励起振動数の逆数の 2 乗の関数としてプロットしたも
の。球の直径 0.4 mm(四角)と 0.2 mm(三角)のどちらに対しても、デー
ターは同じ傾きの直線に乗っており、線形依存性を示す。横軸の原点での縦
座標のみが、球のサイズ依存性を持っている。Γ = 3.5 としている(文献 [74]
より)。
表面波を扱っている節にも出てくる39 。これを見ると、パラメタ geff は有効
加速度と解釈でき、それは重力の加速度の何分の一かになるはずである。実
際にここでもそうなっており、geff ≈ 3.1m/s 2 である。
拡がった2次元堆積
2次元構造の実験も、本質的には同様の現象を示す。鉛直振動をかけられ
た浅い2次元堆積はひとりでに周期パタンを示す。典型的なものを図 72 に示
す。ここでも、実験は色々な振動数で行なわれている [73] 。結果は以下のよ
うにまとめられる:
• 低周波数 (f < 10 Hz) では、周期パタンの波長 λ は
λ
Geff
√
= λmin (d) + 2
f
Nh
39 ランダウ・リフシッツ、
「流体力学1」
(東京図書、1970 年)の、§12 参照。
第 3 章 流動化、圧密緩和、分裂
148
図 72. 通常の加速度 (Γ = 3.4) における9粒子層の堆積のパタン。図 (a) は
7.8 Hz の周波数で得られ、図 (b) は 12 Hz の周波数のものである。水平方
向の尺度は2つの場合で異なる。実際には、2つの波長は λ1 = 2λ2 となっ
ている。
のように表される。この式は、おおむね3次元の場合と同じだが、異な
√
るところは、表式が堆積の高さに依存しなくなるように、波長を Nh
で規格化している点だ。3次元の場合にはこのような規格化因子は示
されていない。その理由はおそらく、2次元の測定の方がより正確であ
るためだろう。もう一点、λmin (d) は2次元と3次元でおおよそ同じ値
をとるということを指摘しておくべきであろう。
• 高周波数 (f > 10 Hz) では、波長 λ は一定値になり振動数に依存しな
くなる。これはちょっと予想外の結果だ。
今のところ、この2つの領域が存在する理由は分かっていない。また、低周
√
波での Nh 依存性も理解されていない。
まとめ
拡がった2次元あるいは3次元の粉粒体の表面パタンの自己組織化は、二
つのよく知られた現象が合わさった結果である。一つは非弾性ボールの分岐
3.2. 粉粒体の堆積物の動力学
149
図に関連しており、もう一つは液体の Faraday 不安定性である。後者との関
係は好奇心をそそられ、液体の粘性と粉体層の詰まり具合のゆるさとの対応
を示唆している。実験によると、緩い粉粒体は実際、緻密なものに比べて、
(液体に対して定義された意味で)見かけ上低い粘性を持っている。これは興
味深い点ではあるが、このような類比については未だ憶測の域は出ていない。
151
第4章
流れる粉粒体
第3章では、粉粒体の構造が、例えば鉛直振動のような外的摂動に対し、対
流運動や分裂の過程によって、流動化したり圧密緩和したりすることをみた。
こうした解析から、容器の壁が大変重要な役割を果たしており、これによっ
て粉粒体内部の衝突が伝達されたり、容器と粉粒体の摩擦が作動することが
わかった。この章で扱うのは、十分に大きな角度で傾けられた粉粒体の自由
表面の動的性質である。2.4.2 節で触れたように、粉粒体はあるしきい値越え
て傾けられると層状に流れ始めるが、本章ではこれを詳しく調べる。ただし、
ここでは砂時計のような円錐状の流れやより複雑な形状の流れは扱わない。
こういった流れは、壁にひっかかったアーチや、粒子と境界の摩擦の影響を
受けている。さて、どのようにして粉粒体が流れ始めるかという話題にとり
かかる前に、しきい角度以下の傾斜のついた山の釣合いについて詳しく考え
てみよう。
4.1
釣合い状態にある砂山と傾斜角
よく知られているように、乾いた砂を、側面が鉛直な山に積み上げること
はできないし、側面が水平線に対し強い傾斜の山に積み上げることすらでき
ない。斜度がある値を越えるとすぐに山は崩壊して(緩和して)、ある角度
へと回復する。不思議なことに、この角度 θ は、いつも 35◦ 近くにみえる。
この角度は、傾斜角 (embankment angle) と呼ばれる。すぐに触れるように、
この値は1つには決まっていない。この現象は図 73 に図示してある。
この傾斜角についてはじめて定量的に調べたのは Charles de Coulomb(クー
ロン)である。彼は、18 世紀に当時の要塞建築の責任者をつとめた軍事エン
ジニアである [11] 。2.2.1 節で触れたように、彼は固体間の摩擦についてよく
第4章
152
流れる粉粒体
図 73. 左側には、2次元の堆積の傾斜角が示してある。円錐状の砂山を作
るには多くの方法があるが、右側にその一つを示す。つまり、粗い水平面に
一粒ずつ粒子を落としていく。
知っていたので、この問題についても簡単な説明を提案した。この説は現在
でも一つの説として広く受け入れられている。彼のモデルは、傾斜角 θ が少
なくとも θ = tan−1 (µs ) に等しくならない限りは、となりあう粉粒体の 2 層
が互いにすべりあうことはないという考えに基づいている。固体間の摩擦と
の類似から、µs は粉粒体層間の摩擦を特徴づける係数と解釈される。
この類似性は、Coulomb の摩擦則が粉粒体でも成立することを示唆するが、
このことは 2.4.1 節で述べたように実際に実験的観測からも支持されている。
この単純さにもかかわらず、よく検討してみると、このような考え方に対し
多くの疑問が生じる。固体摩擦のモデルの精神で考えるとすると、粉粒体の
1つの層の「重さ」をどう定義すればよいのだろうか?くり返し強調してき
たように、粉粒体の層表面にかかる力の分布は、均一や単純というには程遠
く、台の上に置かれた大きな固体の理論が適用できそうにはみえない。以前
に、固体摩擦の微視的な機構について利用した議論に基づけば、粉粒体層間
の接触を理解することは、固体間の接触のそれに比べ決して簡単ではない。
また、多くの不定性と履歴効果についても言及したが、これらのために、傾
斜角というものをあいましさなしに定義することは大変難しくなる。実際、
実験的にも理論的にも、傾斜角は1つには決まらず、特にどのようにして山
を作ったかによって、いろいろな傾斜角がある。
4.1. 釣合い状態にある砂山と傾斜角
153
図 74. 凸型の堆積は、一般的に、砂時計の口近くにあるような凹型の堆積
よりも傾斜角が小さい。
この問題に関する技術的な詳細は Brown と Richard の本 [5] にある。その
内容を、次のように、傾斜角が不定性 を持つ2つの要因としてまとめておく。
• 最初の要因は、幾何学的な形、あるいはもっと正確には図 74 に示されて
いるような堆積の曲率半径1 に関係する。直感的には、クレータのよう
な凹型の堆積は、小山のような凸型のものより傾斜角が大きく (α > β)、
凹型の堆積の方が、凸型の堆積よりも、表面近くの粉粒体密度が高いと
予想される。この差異は、曲率半径が粒子の平均半径よりもはるかに大
きいときには、消滅すると思われる。α > β の関係は、下表にまとめた
ように、実験的によく確かめられている。
物質
形状
小山の場合
クレーターの場合
の角度
の角度
動傾斜角
タピオカ
球形
30
37.5
32
砂
角張った形
37
39
36.5
石炭
角張った形
37.5
41
34
表中の「動傾斜角」とは、次の節で詳しく扱う回転ドラムを使った実験
で測定した角度である。
• 2つめの要因は、粉粒体堆積の物理に本質的なものであるが、これを簡
単な実験によって説明しよう。両端に透明な窓のある円筒容器に半分細
かい砂を詰める。この実験がうまくいくには、多くの粒子が必要なので
1 例えば、左側の上部と右側の下部に描いてある円の半径のこと。但し、この半径は高さに
よって違い、例えば凹型なら下の方ほど小さくなる。
第4章
154
流れる粉粒体
図 75. 始動角 θm と安息角 θr の定義。両者の差 δ = θm − θr は緩和角と呼
ばれ、その値はおよそ 2◦ である。
細かい砂を使うことは重要である。次に、図 75 のように、この円筒容
器を水平にして対称軸のまわりに回転させる。とてもゆっくり回転さ
せると(1 秒間に 0.01 回転くらいが適当である)、砂の表面は水平線に
対して θ の角度を保つ。これを傾斜角と呼んできた。しかし、よく調
べてみると、この角度は一意ではない。この角度は、始動角 (angle of
movement) θm と呼ばれる特徴的角度まで増加し、その角度で小さな雪
崩がおこり、θ は、θm から、安息角 (angle of repose) と呼ばれるより小
さな値 θr へと戻っていく。両者の差 δ = θm − θr は緩和角 (relaxation
angle) と呼ばれ、その値は乾いた粉粒体ではおよそ 2◦ である。(始動
角は滑り出す限界の角度で、安息角は雪崩が緩和し切った直後の角度で
あり、傾斜角はこれらを含む不定性を持った広い意味で砂山が静止状態
で取る角度と定義している)。
この際に生じる一連の雪崩は、系が傾斜角の最大と最小の間を(往々にして
周期的に)緩和するようすを表しているが、これは砂山の物理の基本的な性
質の一つである。あとで見るように、このように引き続いておこる雪崩の規
模や時間的頻度の分布はそれ自身とても面白い問題であるが、この本で扱う
初歩的な粉粒体の物理の範囲を越える問題である。
これらの実験から結論されることは、堆積の履歴を詳細に知らない限り傾
4.1. 釣合い状態にある砂山と傾斜角
155
斜角をあいまいさなく定義するのは先験的に不可能であるということである。
特に、堆積がちょうど雪崩を起こしたばかりかどうかを知ることは大変重要
で、この場合には傾斜角は安息角 θr に一致する。もし反対に、堆積が、可能
な限り弱い刺激を加えただけで雪崩が引き起こされるという意味での臨界準
安定状態にあるのならば、傾斜角は始動角 θm に等しい。厳密にいえば、始
動角は砂山の「臨界状態」を特徴づけるただ1つの角度である。これらの問
題は多くの意味で、以前にみてきた、摩擦力の不定性や粉粒体の流れにおけ
る履歴効果(2.3 節参照) に関連したことを思い起こさせる。
緩和角は、傾斜角を決定するのに大変重要な役割を果たしているので、そ
の性質についてよりよく理解しておくことが望ましい。特定の堆積がどのよ
うにして組み上げられていったかについてどんな情報もない場合、傾斜角は
明らかに δ の幅の不定性を持つ。
興味深いことに、Reynolds は 1885 年という早い段階に緩和角についての
一つの説明を提唱している [17] 。準安定状態(θ = θr のとき) にある粒子が
動くためには自由空間(隙間)を作る必要があるから、彼の膨張原理に基づ
くと堆積は膨張せざるを得ない。これは傾きが値 θm まで傾きが増加するこ
とを示唆する。実際、Reynolds は、緩和角 δ が堆積の上部層を膨張させるの
に必要となる余分な傾きに相当するとして計算をしている。
この問題に関して立ち入ったいくつかの議論がある。まずは、少数の粒子
からなる堆積の振る舞いに関するもの。そして、間欠的流れから連続的流れ
への転移に関するものである。これら2つの問題を検討してみよう。
少数の粒子からなる堆積の傾斜角
少数の球から構成されている堆積では、安息角と始動角の差を人工的に減
らしたり、更にはなくしたりできることは想像に難くないであろう。図 76 に
あるように、D を個々の球の直径、L を雪崩の経路の長さとする。安息角 θr
からはじめると、球を1つ加えると、もう始動角 θm を越えてしまうかもし
れない。このような状況下では、これら2つの角度は両方とも雪崩の起きる
角度に相当するので、もはや区別できなくなる。
臨界角 (critical angle) にある円錐形の3次元堆積を考え、その山に N 個
第4章
156
流れる粉粒体
図 76.少数粒子からなる山では、緩和角 δ はゼロに近づく。
の球が含まれているとすると、L ≈ N 1/3 D が成立する。緩和角 δ が観測され
るためには、それが N −1/3 より大きくなくてはならない2 。以前に触れたよ
うに多粒子からなる現実の堆積では角度 δ が 2◦ くらいであったことを考える
と、粒子数の最小値は N = (L/D) = δ −3 ≈ 10, 000 となる3 。これより少な
3
い粒子でできた堆積では、これまでに議論してきた緩和角の効果が、純粋に
幾何学的要請から、疑問視される。従って、少なくとも傾斜角という特定の
問題を考えるにあたっては、多くの粒子からなる山と、小さな粒子からなる
山を区別しなくてはならない。
間欠領域から連続領域への転移
べき乗則
以前に説明した円筒ドラムを一定の速度 Ω で回転させると、次のようない
くつかの面白い現象が観測される [75] 。
• ゆっくしとした回転(典型的には毎分 0.1 回転以下) の場合、間欠的な
流れが生じ、表面層は前に定義した2つの角度 θm と θr の間を行き来
して定常的に振動する。雪崩が起こるたびに、v 堆積表面を下方へ流れ
る粒子の量は、ある統計に従うが、これについてはこの章の後の方でも
う少し詳しく扱う。図 77 にあるように、この速度領域では自由表面は
実質的に直線で、つねにかなり高い精度で角度 θ を定義できる。
2 訳注:1つ球を加えたときの角度変化分 N −1/3 が、堆積の傾斜角の分解限界となる角度と
考えられるから。
3 もう少し詳しく計算すると数千になる。
4.1. 釣合い状態にある砂山と傾斜角
157
図 77. (a) ゆっくり回転するドラム中の堆積の自由表面の側面図。連続的な
流れが生じるようになるしきい速度より少し速い速度でも表面は実質的に直
線である。(b) より早い速度では、表面にうねりが生じる。これは流動層の
上部と下部の境界での影響が顕著になるからである。
• 回転速度が速く(典型的には毎分5回転)なると、流れは連続的ににな
る。さらに、自由表面は図 77(b) にあるように S 型のカーブのように
なる。この現象は、流体力学で知られているうねり (surge wave) にい
くらか似ている。簡単な計算によると、流動層の表面近くにある粒子は
遠心力により堆積から離れて投げ出される。さらに、放物線を描くが、
これは更に速い速度の時とても顕著になる。円筒の直径が粉粒体粒子
の直径よりも十分に大きければ、この動傾斜角 θ は、なおかなり正確
に定義できる。
今度は、流れが間欠的である低速領域からはじめて、回転速度をゆっくり
増加させていくとき何が起こるか考えてみよう。はっきりとした連続領域へ
の転移が回転速度 Ω+ で起こる。次に、ドラムの回転を落として元へ戻して
いってみると再び間欠領域に戻るのは速度 Ω+ よりも小さな速度 Ω− におい
てである。この2つの速度はかなり違うこともあり、乾いた砂の場合にはそ
れぞれ毎分 0.25 回転と 0.50 回転である。
この履歴効果は図 78 に描かれている。この起源については、間欠流領域と
連続流領域で、1つの粒子が落下するのに必要な時間が異なっている(それ
ぞれ t1 と t2 とすると t1 < t2 4 )ことに気づけば理解できよう。間欠流から連
続流への転移はこの粒子の落下時間が、2つの連続した雪崩の起こる時間間
隔 T と等しくなったときに起こる。すぐにみるように、T は実際にはランダ
4 訳注:t は、斜面上のランダムな点から(少し)動いて、下端まで行き着かずに止まるま
1
での時間、t2 は、斜面上端から下端まで途切れることなく転がり落ちる時間を意味している。
第4章
158
流れる粉粒体
図 78. 間欠流と連続流の間の履歴効果。矢印はドラムの回転速度が上昇し
ているのか減少しているのかを示唆している。
ム変数である。しかし、その揺らぎはここでの議論が意味をなす程度に十分
小さい。特に、これらの領域は Ω+ = δ/t1 と Ω− = δ/t2 において入れ替わ
る。(T は揺らぎを無視すれば大体 δ/Ω と見積もれる。間欠域から連続域へ
の転移、およびその逆は、それぞれ大体 T = t1 と T = t2 で起こる。)
始動角 θm は、砂のはっきりとした基本的性質であり、臨界現象を明確に
反映しているが、系が緩和した後の角度である安息角 θr については話はそれ
程明確でない。大きな堆積についてさえ、安息角は、流動層がドラムの下部
で停止しなければならないために影響を受ける(平面に積み上げた砂山とは
異なってくる)。このような有限サイズ効果は、小さな堆積よりは(大きな堆
積では)やっかいでないが、それでも現実に存在する。現象を正確に記述す
るためには、このような壁の影響をも考慮しなくてはならず、問題を見た目
よりもはるかに難しくする。
臨界現象を扱っているからには、物質の流束 (flux) が傾斜角 θ に応じてど
のように変化するかも興味深い5 。特に、他の臨界現象と同じように、次のよ
うな形の法則に従うかは興味深い。
m
J ∝ (θ − θc )
(4 – 1)
ここで J は、粉粒体の流束であり、θc は臨界角である。
5 この角度 θ は、動傾斜角 (dynamic angle) とも呼ばれるが、雪崩の特徴の一つを定義づけ
るものである。ある条件下では、この角度が粒子の大きさによることもある。5.4 節では、この
よくわかっていない性質の例を扱う。
4.1. 釣合い状態にある砂山と傾斜角
159
図 79. 連続流領域での雪崩に対し、角度の臨界角からのずれと輸送流束の
関係を両対数グラフ(文献 [75] より)。
物質の流束 J は、単純に、定常状態で輸送される物質の保存則によって与
えられ、半分満たされたドラムの場合には
J=
1
LΩR2
2
(4 – 2)
となる。ここで、L はドラムの長さで、R はその半径である。J が、単位時
間あたりの体積として表されていることに注意されたい。
図 79 に示されているのは、長さ 19 cm のドラムに、直径が 0.3 mm の粒
子を半分満たした場合の結果である。現実的に考えると、回転速度 Ω は、毎
分 0.5 回転から 12 回転の領域に制限される。下限は連続流の始まる速度に相
当し、上限は流動層の大部分が遠心力によって投げ出される速度に相当する。
この実験では、単に、流動層の傾斜角をドラムの回転速度の関数として測っ
ている。べき乗則に興味があるので、結果は両対数グラフで示す。このグラ
m
フによれば、ここで調べた変数域において、現実に、J ∼ (θ − θc )
という
形で m = 0.5 ± 0.1 のべき乗則が示されている。この指数 m の物理的意味を
考えてみるのは興味深い。流体力学でよく知られた、通常の流動液体(ブラ
ウン流)の場合を復習してみると有用な洞察が得られる。
ニュートン流体に対するべき乗則
厚さ h で、粘性率が η のニュートン流体が、水平に対して角度 θ 傾いた平
面を流れているとしよう。この場合の流束は
J=
ρgh3
sin θ
3η
第4章
160
流れる粉粒体
で与えられる。ここで、ρ は、液体の密度である。
別の言い方をすれば、普通の液体に対しては、臨界角 θc はたまたまゼロで、
指数は m = 1 である。現象論的に、流体を構成しているブラウン粒子は流れ
の正味平均速度よりもはるかに高い瞬間的速度を持つと見なすと、粘性率 η
は、多重衝突によるエネルギー損失を反映している。この文脈で、粉粒体に
ついてはどんなことが言えるだろうか?
粉粒体表面に対するべき乗則
Bagnold は、非ブラウン粒子の場合には、普通の液体と違って、エネルギー
は次の2つの異なった機構で散逸することを示唆している [76] 。
(1) 粒子間の衝突頻度は速度勾配 ∇v に比例する。この意味するところは、
隣接した 2 層間の速度差が大きければ大きいほど、粒子間の衝突がよ
り高い頻度で起こるということである。
(2) 各衝突のたびに損失する運動量もまた ∇v に比例する。言い換えれば、
2粒子間の相対速度が大きければ大きいほど衝突に際してより多くの
散逸が起こる。ここでは斜面を転がり落ちる粒子の 2 層が異なる速度
を持ち、その層の間の接平面方向の衝突を問題にしている6 。
2
このモデル [75] によれば、速度勾配 ∇v からくる摩擦力は (∇v) に比例す
る。従って、摩擦力と駆動力の釣合いは、
−α
∂v
∂z
2
+ ρgz (sin θ − µ cos θ) = 0
(4 – 3)
となる。ここで、µ = tan θc は、Coulomb の定義のように、隣接層の上を滑
る粉粒体層の摩擦係数を表す。自由表面からの深さを z 軸を取にとり、ρ も
6 訳注: 隣り合った2つの層を同じ向きに運動する質量 m の2つの球でモデル化してみよう。両
球の衝突前の速さを v1 、v2 、衝突後のそれを u1 、u2 とし、v1 < v2 だったとすれば、双方の運動量
変化は運動量保存則より、大きさが同じで向きが逆である。この大きさ m(u1 −v1 ) = m(v2 −u2 )
は、衝突の際の反発係数 e を u2 − u1 = e(v2 − v1 ) で導入すれば、(1 − e)(v2 − v1 )/2 となる
から、確かに運動量変化は速度勾配 ∇v(∝ v2 − v1 ) に比例する。これに衝突頻度を乗じれば2
層(球)間に働く摩擦力が求まる。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
161
µ も、速度 v の穏やかな関数だと仮定し、三角関数を θc の周りで (θ − θc ) の
一次まで展開する。積分をすると
z 3/2 ρgh3
2
1/2
1−
(θ − θc )
v(z) =
3 α cos θc
h
を得る。これによって、
1/2
J ∼ (θ − θc )
を示せる。この依存性は de Gennes によって示唆され、実験でも観測された。
2
この基本的な計算によれば、Bagnold の (∇v) 則と単純な乾燥摩擦の法則だ
けで臨界点近傍の粉粒体流の流れを特徴づける指数 1/2 が説明できてしまう。
4.2
雪崩のいろいろなモデル
雪崩は、砂山の物理において恐らく最もよく研究されている現象である。
前に触れたように、雪崩が起きる寸前の系は、多くの興味深い問題を提示し
ていて、粉粒体の研究領域に留まることなく、物理の他の分野とも関連して
いる7 。この現象が(相変化の場合に見られる法則で記述される)臨界状態に
絡んでいるか、あるいは力学における単純な不安定性に絡んでいるかにかか
わらず、雪崩を起こす粉粒体自由表面の振る舞いは、多くの研究や活発な議
論の対象であり続けている。
まだとても決着がついているとはいえない論争の詳細に立ち入ることなく、
ここでは基本的に異なる3種類のアプローチを紹介する。ここでの目的は、
どれか一つに味方することではなく、同じ現象を探求するのにいろいろ違っ
た戦略が可能であるかを説明することである。まずはじめに、セル・オート
マトンモデルを紹介するが、これによると雪崩の統計的性質が予言できる。
その次に、単純な巨視的モデルを紹介し、堆積の斜面と運動粒子の流束の関
係を確立する。最後に、結合した変数に基づくモデルを検討するが、このモ
デルでは雪崩の特徴の多くを満足に説明できる。
7 「雪崩が起きる寸前の系」という表現は、粉粒体の自由表面が水平に対してなす角 θ が θ
m
と θr の間にある状況を指す。
第4章
162
4.2.1
流れる粉粒体
セル・オートマトン・モデル
このモデルはもともと Bak、Tang、Wiesenfeld (BTW) らが、特に自己組
織化された臨界状態にある系を研究するために提唱したものである [77] 。こ
のセル・オートマトン・モデル (Celluar Automaton Model, CAM) は、雪崩
の過程に直接関係しているが、この関連づけに際してはいささかの注意も必
要である8 。
原理
次のような極めて単純な規則に従って四角いセルを置いていき、隣り合っ
た柱を積み上げていく。
(1) 2つの隣接した柱の高さの差は2単位を越えてはならない。これは、実
質的に傾斜角を真似ている。傾斜角とは、それを超えると崩壊してしま
う角である。
(2) 近隣との高さの差が限界を超えたために柱が崩れるときには、2つの単
位セルが一度に落下する。これは雪崩におけるドミノ効果に似ている。
どんな初期配置も、ここに書かれた規則に従って釣合い状態に緩和してい
ける。最後の結果は安定な状態で、例えば図 80 の右端に描かれているような
もので、こういった状態がその後の実験のための出発点である。この後、こ
の系にランダムに一度に1つずつセルを加えていく。その度に、同じ規則に
従って、緩和過程が始まる。底表面積は有限と仮定するので、セルはそこに
積み上がる余地がなければ、台より落下する。この思考実験の目的は、新し
いセルがランダムに1つ加えられた毎に台より落下したセルの数を数えるこ
とである。1つセルを加えるごとに、セルが台から落ちて、0、2、4 などの
8 この章では、
「自己組織臨界現象」(self-organized criticality, SOC) という言葉は、初期条
件の記憶に依らずに、自発的に臨界状態へ発展する現象を指す。言い換えれば、動的性質に関する
限りは、臨界状態がアトラクターになっている系について用いる。興味を持った読者は BTW の
論文の後に発表された数多くの文献を参照されたい(訳注:特に、”Self-Organized Criticality”,
H.J. Jensen, Cambridge University Press (1998) を挙げておく)。このモデルが、雪崩に対し
て果たして相応しいものであるかについては多くの議論がある。ここでは、このモデルにはかな
り注意が必要であることを1つの例を挙げて指摘するにとどめておく。即ち、このモデルには特
徴的角度が1つしかないのに、現実には2つの異なる角度 θm と θr がある。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
163
図 80. 1次元セル・オートマトンモデル (CAM) の原理(文献 [77] より)。
左端の状態から、規則に従って右端の状態まで変化する。
個数の小さな「雪崩」が起こる。大きな雪崩よりも小さな雪崩の方がはるか
に起こりやすいことが判明している。
この基本的な CAM 過程は、ここでは1次元で記述されているが、うまく
計算機アルゴリズムをつくることによって、2、3、あるいはもっと高次元に
一般化することができる。現実の雪崩と比較するとこのような一般化は人工
的に見えるかもしれないが、理論的にはしばしば3次元よりも高いあらゆる
次元のべき乗則の指数の値さえも予言できるので大変に興味深い。このよう
なアルゴリズムを実行するには、並列計算を使って計算時間を減らし、また
丸め誤差を最小化する必要がある。これは、従来の逐次計算機では難しかっ
たことである。
一例として、先に触れた1次元の場合にステップの進行を記述するアルゴ
リズムを見てみよう。隣り合った柱の高さの差を Zn = h(n) − h(n + 1) で定
義しよう。n 番目の柱に1つセルが加えられたときには次の変化が生じる。
Zn
Zn−1
→ Zn + 1
→ Zn−1 − 1
この変化によって高さの差が、臨界値 Zc を越えたなら、系は次のように緩
和する。即ち、Zn > Zc のとき、
Zn
Zn±1
→ Zn − 2
→ Zn±1 + 1
第4章
164
流れる粉粒体
となる。堆積は左側で閉じていて、右側では開いている。従って、境界では
次のようになる。即ち、ZN > Zc のとき、左端では
Z0 = 0
となり、右端では、
ZN
ZN−1
→ ZN − 1
→ ZN−1 + 1
となる。N 個の柱からなる堆積の安定状態を数え上げるのは容易である。
n = 1, 2, 3, . . ., N に対して安定条件
Zn ≤ Zc
(n = 1, 2, ...., N )
を書けばよい。これから、安定配置の総数は ZcN と分かる。しかし、これらは
すべて同程度に安定なわけではない。最小安定状態 (least stable state) は全
てのサイト n で Zn = Zc となっている状態である。この状態にどんな摂動を
加えてもそれは系全体に伝播する。一方、臨界状態 (critical state) と呼ばれ
る別の安定性をもった状態がある。この状態に摂動を加えるとあらゆる大き
さの雪崩が生じ、その分布はべき乗則に従う。臨界状態を得るための簡単な
方法は、全ての柱を非常に不安定にした(つまり全ての n に対して Zn Zc
とした)状態を人工的に用意して、それを安定状態になるまで自発的に緩和
させればよい。1次元系では状況は簡単になっており、この臨界状態と最小
安定状態は一致している。従って、この状況はよく知られた1次元での浸透
(percolation) の問題に似ている。1次元より高い次元では上の2つの状態は
別で、安定性の問題は複雑となる。この問題はこの本の範囲を越えるが、興
味を持った読者には、最初の BTW の論文の後の SOC に関する多くの文献
を参照することをお勧めする。一方、アルゴリズムを1次元以上の高次元に
拡張していくこと自体は簡単である。ここでは2次元の場合を見てみよう。
Z(x, y) で記述されるセルの堆積に対して、前に考えたものと同等の事象の連
鎖は
Z(x − 1, y)
→ Z(x − 1, y) − 1
Z(x, y − 1)
→ Z(x, y − 1) − 1
Z(x, y)
→ Z(x, y) + 2
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
165
で表される。もし高さの差が臨界値 Zc を越え Z(x, y) > Zc となったならば、
Z(x, y)
→ Z(x, y) − 4
Z(x, y ± 1) → Z(x, y ± 1) + 1
Z(x ± 1, y) → Z(x ± 1, y) + 1
となる。1次元の場合から離れると、粉粒体の雪崩との関係は見えにくくな
る。しかし、前にも述べたように、アルゴリズムを高い次元に拡張して、関
心のあるべき乗則を検討することによって、自己組織臨界現象を記述するモ
デルの妥当性を検証することができるのである。
セル・オートマトン・モデル (CAM) によるモデル化
十分に強力な計算機を使うと、雪崩の大きさ s の何桁にもわたって出現確
率 D(s) を計算することができる(雪崩よりも広い意味の「滑り」(slide) とい
う言葉も代わりにしばしば使われる)。 従って、log10 D(s) を log10 s に対し
てプロットすることが可能になり、直ちに背景にあるべき乗則が分かる。こ
の「実験」による結果、
D(s) ≈ s−τ
が見出された。ここで指数 τ はおよそ2次元では 1、3次元では 1.37 であ
る9 。
また、これらの雪崩の継続時間(あるいは寿命)の確率分布関数を調べて
みるのも興味深い。いいかえれば、臨界状態にある系に余計にセルを1つラ
ンダムに落としたら、どのくらい長く滑りつづけるだろうか?直感的には、
滑りの大きさと寿命にはある程度の相関があるように思われる。多くのセル
がこぼれ落ちる事象は、少しがこぼれ落ちる事象よりも長い時間がかかるべ
きであろう。「実験」によると寿命 T も実際に似たようなべき乗則に従い、
D(T ) ≈ T −α
(4 – 4)
9 訳注:初期の数値計算による指数は、大きな誤差を含んでいることが分かっている。本文に
示されている指数は文献 [77] によるが、現在では、2次元では τ ∼ 1.23 − 1.30 、3次元では
τ ∼ 1.3 − 1.4 程度と思われている。
第4章
166
流れる粉粒体
と書ける。ただし、α は2次元と3次元の場合、順に 1.5 と 1.6 程度である10 。
寿命と 1/f ノイズ
ここでは、小さな摂動を受けている系のゆらぎと、いま見てきたべき乗則
のいくつかの簡単な関係について、BTW の論文の計算を示さずに結果だけ
をまとめてみよう。
まずはじめに、臨界状態にあり、かつそれを不安定化するような摂動(例
えば、温度揺らぎなど)を受けている系においては、系のノイズスペクトル
が、この臨界状態の動的性質に関する重要な情報を含んでいることを理解し
ておこう。これは直感的にも明らかで、大きな慣性を持った系は低周波数の
揺らぎを持つであろうし、軽い系は高周波数の摂動に対しても反応できるで
あろう。従って、系のノイズの特徴はその動的応答の情報を含んでいる。
先に見たように、雪崩の継続時間は、指数 α のべき乗則に従って分布する。
従って、逆空間である周波数空間でもべき乗則が期待される。電子工学の分
野では、揺らぎのパワースペクトル、すなわちこれらの揺らぎの強度の2乗
の分布関数が通常用いられる。このパワースペクトルは
S(f) = |I(f)| ∝ f −β
2
(4 – 5)
と言う形に書ける。
解析を進める前に、物理でよく現れるいろいろなノイズの種類に関する二
三の基本的事柄を思い出してみよう [78] 。これらは図 81 に説明してある。白
色ノイズは周波数に依存しないパワースペクトルを持つ(f 0 のタイプのべき
乗則)。理論的には、ゼロから無限大周波数領域に広がり、どの2つの周波数
を取ってきても相関がない。実際には、もちろん、観測されるスペクトルは
検出システムの有限バンド幅によってかならず頭打ちにされる。典型的には、
系の応答が平坦なのは、このバンドの上限と下限の間においてのみである11 。
10 BTW の原論文では、単なる寿命の分布ではなく、寿命に平均応答 s/T で重みをつけた分
布が計算されており、指数として、2次元および3次元で 0.43 および 0.92 を与えている。し
かし、その後のほとんどの論文では、本文で示したような、重みをつけない単純な寿命の分布を
扱っている。
11 例えば、良質のハイファイアンプは 20Hz から 20kHz にわたってひずみなく音を伝える。
このようなアンプの出力ノイズの周波数スペクトルはどんなものであろうか?理想的な条件下で
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
167
図 81. よくあらわれる3つのノイズとそのパワースペクトル密度 (f 0 , f −1 ,
f −2)(文献 [78] より)。
これに反して、ブラウンノイズは低周波数が支配的で強く相関を持つ。
1/f のパワースペクトルを持つノイズはとても多様な現象に共通して現れ
る。地震の発生、星のまたたき、高速道路上の交通など多くの現象に見られる。
1/f ノイズは、その見かけの普遍性のために、大きな関心を集めてきた。この
タイプのノイズは自己相似性、あるいはフラクタル (fractal) として知られる
性質をもつ系の一つの特徴である。この理由は次のように考えられる。小さな
周波数域 df でのノイズパワーは S(f)df で与えられる。従って、S(f) = 1/f
であるなら、このノイズのパワーは df/f となる。別の言い方をすれば、バ
ンド幅 df が平均周波数 f にマッチするようにスケールされるならノイズパ
ワーが不変である [79] 。これは、いわゆる自己相似な系にに基本的な、あら
ゆるスケールで同じ性質を示すという性質に他ならない。
元々の BTW モデル自体は 1/f 2 のパワースペクトルを持つことが後の論
文で示されたが、その変種のいくつかは 1/f 則に近いスペクトルを示すこと
は(他のあらゆるノイズ源を排除してある)、ノイズは 1/f スペクトルを持つことが分かってい
る。この驚くべき性質は、アンプの入力インピーダンスに関連するショットノイズによるもので
ある。
168
第4章
流れる粉粒体
が分かっている12 。このことは直ちに、このようなオートマトンの振る舞い
は自己相似系をモデル化しているという可能性を示唆する。しかしながら以
下で見るように、これは大変複雑な問題であることが分かっており、いまの
ところ黒か白かはっきりした答えはない。
雪崩の統計
4.1 節で述べたように、現実の粉粒体堆積は、構成粒子の数が大きい限り
は、少なくとも θm と θr という2つの臨界角で特徴づけられる。もし粒子数
が少なければ、これらの2つの角度は見分けがつかず、1つにみえる。従っ
て、構成粒子の数によって異なった振る舞いが期待できる。実際の実験でも
まさにこのことが観測されている。
これまで紹介してきたことに刺激された研究者たちは、現実の雪崩がセル・
オートマトン・モデルで示唆されているべき乗則に従うかを検証しようとし
てきた。この目的のため、図 82 にあるように、いろいろな原理に基づいた実
験が考えられた。図 82(a) では、コンピュータに接続された平衡はかりの台の
上に、円錐形をした堆積をつくり、その上に一度に1つの粒子を落下させて
いる。この堆積からこぼれ落ちた粒子の重さはかなり正確に測れるので、連
続しておこる雪崩の大きさを見積ることができる。図 82(b) では、規則的に
粒子を供給していき、こぼれ落ちる粒子をほとんど1つずつ測るためにコン
デンサーを用いている。コンデンサーは、図 82(c) でも使われていて、これ
によって、部分的に蓋のついた半円筒容器をゆっくり軸まわりに回転させて、
こぼれ落ちる粒子数を数えている。最後に、図 82(d) では、ほぼ半分を粉粒
体で満たしたドラムを軸まわりにゆっくり回転させ、周期的にいろいろな大
きさの雪崩を引き起こしている。小さなマイクを装置の近くにおいて、これ
らの雪崩による雑音を記録する。これらの全ての方法によって、構成粒子の
数にはっきりと依存した結果が得られている。
12 BTW の原論文では、彼らのモデルが 1/f スペクトルを示すとしているがこれは間違いで
あることが判明している。H.J. Jensen, K. Christensen, and H.C. Fogedby, Phys. Rev. B
40 (1989) 7425; J. Kertész and L.B. Kiss, J. Phys. A 23 (1990) L433; K. Christensen,
H.C. Fogedby, and H.J. Jensen, J. Stat. Phys. 63 (1991) 653. 一方、その変種が 1/f に近
いスペクトラムを示すことが示された。K. Christensen, A. Olami, and P. Bak, Phys. Rev.
Lett. 68 (1992) 2417.
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
169
図 82.雪崩の統計を研究するために用いられた 4 つの技術(文献 [20] より)。
多数の粒子からなる堆積
図 83(a) に示されている実験結果は、構成粒子が多い場合には、雪崩がほ
とんど周期的パターンに従って起こることを示している。これらのデータは
図 82(c) に描かれているタイプの器具を使って集められた [21,80] 。さらに、
マイクを使った実験は、次々と起こる雪崩の統計は、SOC モデルの予想に反
し、有用な量ではないことを示している [66] 。SOC モデルでは大きな雪崩よ
りも小さな雪崩の方が起こりやすいことを予言していることを思い起こして
いただきたい。ところが、実験で実際に観測された統計は、このモデルの予
言から大きくはずれている。
このことは図 83(b) にはっきりと示されている。すなわち、実験結果は、ガ
ウス統計を思い起こさせるような釣鐘型の分布関数であり、理論から期待さ
れる点線の直線とは全く異なっている。実験で観測されている雪崩の大きさ
と継続時間の分布関数は(訳注:臨界点で特徴的スケールが存在していること
からも)むしろ1次相転移と矛盾がなく、自己組織臨界系のモデルが暗示し
ている2次相転移とは思えない。
しかし、よく検討してみると、現実の実験で観測されている次の2つの現
象は、少なくともある程度、これらの矛盾を説明しているように思われる。
(1) 多くの雪崩、特に小さな雪崩は、決して斜面の下まで辿り着かないので
第4章
170
流れる粉粒体
図 83. 回転ドラムで見られる雪崩の統計の図。図 (a) は、ドラムを一定速
度、毎分 1.3◦ で回転したとき、輸送された粒子数を時間の関数として示し
たもの。図 (b) は、パワースペクトル密度。点線は 1/f 依存性を示す。粉粒
体は直径 0.4mm の粒子からなる(文献 [80] より)。
記録されることもない。この理由は、物質が斜面の下部に堆積するた
め、自由表面が水平線となす角度が減少し、結果として角度が臨界角以
下になり、この過程の物理に決定的な影響を与えるからである。これは
有限サイズ効果の古典的例である(この効果は、装置を無限に大きくす
るとなくなる)。それはハイパスフィルターのように働き、大きな雪崩
に有利に働く。
(2) 前にも書いたように、臨界角が、始動角と安息角の2つの値に分離す
るということは、雪崩を起こした直後の系はもはや臨界状態にないこ
とを示唆している。再び新しい臨界状態にするためにはさらに θm − θr
という角度だけ傾ける必要がある。こう考えると、多くの粒子を含む現
実の雪崩は、たとえ自己組織化していると考えられるとしても、本当に
臨界系になっているのか明らかではなくなる。しかし、今まで見てきた
ことからすると、小さな雪崩はこのような制限を受けないように思わ
れる。この見方は、これから紹介する実験によってある程度は支持され
ている。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
171
少数の粒子からなる堆積
4.1 節で学んだように、少数の粒子(典型的には 10000 個以下)からなる
堆積は、純粋に幾何学的理由から、2つの傾斜角 θm と θr を区別すること
ができない。このような場合、系の振る舞いは 4.2.1 節で論じた古典的セル・
オートマトン・モデルにより近づくと考えてもよい気がする。このことは、
図 82(a) のようなタイプの実験を数百個の粒子で行ったところ、実質的に確
かめられている [78] 。これらの結果は、図 84 に示されている。この実験は、
可能な限りセル・オートマトンモデルの条件を忠実に再現する意図をもって
行われた。粒子を、ランダムに一度に1つづつ、平衡はかりの台にのった円
錐堆積に落としていく。このはかりは、各雪崩ごとにその間に台からこぼれ
落ちる物質の重さを追跡する。堆積の形はかなり重要な役割を果たすと期待
されるが、(この実験のような)円錐形の凸状堆積は 4.2.1 節で説明したモデ
ルの2次元版に相当している。
このタイプの配置では、引き続いて起こる雪崩の大きさはかなりの分散を
示す [78,81] 。小規模の雪崩が多い一方、大きなものは比較的まれである。図
84 はまた別のこともはっきりと示している。それは、物質(鉄、ガラス、あ
るいはポリスチレン)の性質によらず、雪崩の規模の統計が本当にべき乗則
に従い、セル・オートマトンの予言に合うということである。しかし、この
実験では、規模を 10 倍変化させた領域でしか確かめられていない。従って、
この法則が妥当か本当にテストするにはあまりに狭い領域であると思う研究
者もいる。
異なった条件でいくつもの実験が行われてきたが、いずれも粉粒体粒子堆
積の振る舞いが構成粒子が多いか少ないかによって変化することを確認して
いる。しかし、この2つの領域間の移り変わりについては、まだ十分に明ら
かにされていない。より洗練されたセル・オートマトン・モデルを作ることに
よって、このような有限サイズ効果を説明できるかもしれない。しかし、2
つの角度 θm と θr が存在することと、この2つの極限状態を行き来する振動
緩和が存在するために、乾燥粉粒体のモデル化は著しく難しいものになって
いる。以前に説明した自然な緩和よりも速い頻度で傾斜角の緩和を人工的に
引き起こそうとした研究者もいた。このアプローチを次に紹介する。これに
よって、粉粒体温度 (granular temperature) といういささか物議をかもして
第4章
172
流れる粉粒体
図 84. 有限系での、様々な粒子でできた堆積の実験結果。雪崩発生の部分
比(規模が s の雪崩の数を総数で規格化したもの)を垂直軸にとり、雪崩事
象に関わった粒子の数に対してプロットしたもの。(a) では、三角印が鉄の
球、丸印がガラス球に相当する。(b) では、四角印はポリスチレン球、丸は
ガラ球に相当する。
いる概念を導入することが可能になる。
臨界角度の緩和
粉粒体温度
これから説明する実験の基礎となっているのは、角度 θm に傾けられた堆
積が本質的に不安定であるという事実である [21,80] 。既に強調してきたよう
に、θm は真の臨界状態を特徴づけている。これに対し、θr は、緩和した状
態にある堆積に相当している。この実験の背景にあるアイデアは、雪崩を起
こす寸前にある堆積に十分に強い鉛直振動を与えることによって、人工的な
緩和を引き起こすことにある。その意図は、系をただ1つの状態に安定化さ
せることであり、この状態は超臨界状態ともみなせる。少し違った見方をす
れば、振動を与えることによって角度差 δ = θm − θr を人工的に減らすこと
を意図するとも言える。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
173
図 85. 鉛直振動を受ける回転ドラムを用いた実験の結果。角度 θss は、ここ
では回転速度が毎分 1.3◦ に対する定常状態の角度に相当するが、これは励
起強度の目安となる。(b) の点線は、理論的に予言されている 1/f の振る舞
いを示す。(c) は、Ω = 0 で行ったもので、構造が log t のように緩和する。
一方、CAM モデルの予言では緩和は t に比例する(文献 [80] より)。
図 85 にあるような、円筒ドラム中にある多数の粒子からなる堆積を考えよ
う。このドラムは、正弦波型の電流によって励起される拡声器によって振動
する台の上に置かれている。図 85(a) に概念的に示してある。最初の実験で
は、間欠流領域が実現するように十分ゆっくりと回転ドラムを回転速度 Ω で
回転させる。この場合、堆積は平均として水平線と θss の角度をなす(添え
字 ss は、
「定常状態」(steady state) を表す)。θss の値は、期待通りに、振動
強度が大きくなるにつれ小さくなる。角度 θss は、実効的に正弦波型励起の
強度の目安となり、この実験のパラメタとなる。
回転速度を低く保ちながら(毎分 1.3◦ という間欠流領域が確実に起こる速
度)、先程の振動なしの場合と同様に、雪崩の規模の分布を監視できる。ここ
での問題は、鉛直振動によって、堆積を唯一の緩和角度で特徴づけられる超
臨界状態に保ち、セル・オートマトンモデルで予言されるべき乗則が観測さ
れるかどうか見極めることである。図 85(b) に示された曲線に基づけば、こ
の答えは決定的にノーである。雪崩の角度を 39◦ から 2◦ 以上減らせば、角度
差 δ を相殺するのに十分であるはずなのに、雪崩のパワースペクトルは極大
174
第4章
流れる粉粒体
を持ち、SOC と矛盾する。さらに臨界角を低くするとパワースペクトルはべ
き乗則により近づいていくが、その指数は理論的に予測される 1/f とはかな
り異なっていて、f −0.8 に近い。しかし、これだけではまだ、単に「現実の雪
崩は2つの角度 θm と θr があるから、CAM モデルは現実の系と一致しない」
と結論するには十分でない13 。
同じ実験装置で行われた他の実験も豊富な情報をもたらしている。図 85(c)
に 1 つの結果が示してある。この実験では、もはやドラムは回転させずに、
粉粒体の自由表面が値 θr よりわずかに低い角度 θ になる位置で止められてい
る。鉛直振動を与え始めると、傾斜角は時間につれ減少(あるいは緩和)し
始める。さらに、緩和の割合は拡声器に流した電流強度に依存する。図 85(c)
に示した結果は、かなりはっきりと傾斜角 θ が log t のように発展することを
示している。一方、CAM-SOC モデルは t に比例して変化すべきことを示唆
している。このかなり注目に値する結果は、揺動(拡声器によって生じる)に
よる緩和過程を考慮した簡単なモデルで解釈された。この揺動は「熱的」揺
らぎに等しいと考えることもできるだろう。
このモデルでは、振動強度が「実効的」温度 Teff の役割を果たす。大胆に
考えると、電気伝導現象との類似がある。伝導度 σ の半導体に電場 E のバイ
アスをかけたときに生じる電流密度 j を考える。伝導度の大きさは、電子が
ランダムに配置されたトラップ(trap、わな)から抜け出す度合いによって
決まっている。ここで、電場 E は駆動力で角度 θ にたとえられ、電流密度 j
は変化率 dθ/dt にたとえられる。電流の場合との類似から、粉粒体は、伝導
体中の電子同様に、周囲の粒子にトラップされると考えることができる。こ
の問題に含まれる多くの過程を検討するのはやめにして、単に実効的障壁 U
の高さの平均を角度 θ の関数として計算してみよう。U を実験の開始点の周
りで1次まで展開すると、U ≈ U0 + U1 (θr − θ) と書けるだろう。 θ = θm
となったときに流れが開始されることを既知とすると、条件 U (θm ) = 0 を
課すことができ、これから δ ≡ θm − θr = U0 /U1 が導かれる。さらに電流
との類似を使って、変化率 dθ/dt が電流密度の場合のようにエネルギー障壁
13 4.2.2
節で触れるように、回転円板の引きずり効果は、この場合のようにゆっくりの場合で
も、雪崩の続発に人工的周期を導入する可能性がある。この点はいまだに盛んに議論されてい
る。それにもかかわらず、ごく最近の実験によると、このパラグラフで示した結論は大方確認さ
れた。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
175
U に U/kTeff の指数関数に依存するとしよう(訳注:伝導度 σ が熱的活性化
(thermal activation) によって eβ(θ−θr ) に比例すると考える)。つまり、
dθ
= −Aθ exp [β (θ − θr )]
dt
とする。ただし、A ≡ A0 exp [−U0 /(kTeff )] も β = U1 /(kTeff ) もともに θ に
依存しないとする。
この微分方程式の解は積分指数関数を使って E1 (βθ) と書ける。引数 βθ 1
のときに有効な近似によれば
θ ≈ θr −
1
log10 (βAθr t + 1)
β
が導かれ、t0 = 1/(βAθr ) の領域では、図 85(c) で観測された log10 t の振る
舞いを再現する。この一致はより短時間の領域でさえ、かなりよい。こうし
て振動粉粒体堆積の傾斜角の log10 t の振る舞いが説明される。
熱的にトラップから逃れるという考えを使って雪崩を理解することは、BTW
によって提唱された臨界角モデルとは根本的に異なる。上に説明した実験は、
極度に単純化して安息角 θr を1つの臨界角として捉えることは、緩和のメカ
ニズムを詳しく解析すると検証に耐えないものであることをはっきりと示し
ている。
4.2.2
雪崩のスティック・スリップモデル
歴史的には、これから紹介するモデルはいままで説明してきたモデルより
後に現れた([27] 中の Fauve の論文参照)。当時、SOC モデルに関する深刻
な欠点が山積していた。このモデルは全く違った観点から出発する。背景に
あるアイデアは驚くほど単純である。即ち、問題に相応しい2つの観測量を
記述する現象論的連立方程式系に基礎をおいている。これらの観測量とは、
動いている層の角度 θ と雪崩の最中に傾斜を滑り落ちる粒子の流束 D であ
る14 。その基本的原理は、2.3 節で説明した摩擦力と速度の間の特定の関係、
14 流れている粒子のことをしばしば「運動種」(moving species) と呼ぶ。このように2つの
変数に着目して問題を記述するという考えは、最近になって違った角度から研究されている。そ
の試みはいくつかの興味深い発展へとつながっており、この後に議論する。
第4章
176
流れる粉粒体
図 86. 雪崩過程 (a) とスティック・スリップ機構 (b) の対応図。これらの現
象はともに同じ微分方程式の組で記述できる(文献 [27] より)。
および 3.1.1 節で概説したようなバネと摩擦の結びついたモデルによって具
体化される。従って、すでに第3章で示唆したように、固体摩擦に関係する
交互のスティック・スリップ運動と雪崩の間欠的発生のはっきりとした類似
点を利用することにする。
図 86(b) にこのアプローチが説明されている。パッドが表面と静摩擦係数
µs と動摩擦係数 µd (ẋ) でこすれあっている。いつものように、µd は µs より
小さく、2.3 節に解説したように陽に速度に依存する可能性がある。このパッ
ドはまたバネ定数 K のバネにつながれていて、バネのもう一方の端は速度 V
で運動している。このモデルは 2.2.1 節のものとよく似ていて、その後 3.1.1
節で履歴効果の現象を解析するのに使われたものである。ζ をバネの変位、ω
を図 86(a) に書いた円筒の回転速度とすれば、これらの2つの系は、次のよ
うな対応を考えると、同じ方程式で記述されることが判明する。
θ
←→
D
←→
ω
←→
ζ
dx
dt
V
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
177
図 87.中断される振動子の振る舞いを相空間で視覚化した図(文献 [27] より)。
特に、パッドが動いているときには、バネの伸びは単に
dζ
d2 ζ
m 2 + Kζ = mgµd V −
dt
dt
K/m で Kζ = mgµd で与えられ
。しかし、あいにくこの解析は、乾燥摩擦の
という調和振動の式で与えられ、角速度
る平衡位置の周りを振動する15
ような相互作用の場合には、いささか単純化しすぎている。3.1.1 節で学んだ
ように、バネを通した牽引力はときどき静摩擦により正確に相殺され、その
時パッドは突然停止する。そして台の上に「スティック」し続け、力が増加し
て再び始動するのに十分な強さになってはじめて動きだす。これはまさに前
に説明したスティック・スリップ現象の背景にある原理である。スティックす
る条件は次のように書ける。
d2 ζ
dx
= 0 ただし、 = 0 かつ Kζ < mgµs のとき。
2
dt
dt
図 87 はあらゆるスティック・スリップ機構の振る舞いを図で説明している。
一定の速度でバネを引っ張っているとき、
(全体としては、パッドは)左から
右へ向かうが、このときパッドは(雪崩のモデルで言えば、くり返し緩和角
15 訳注:パッドの座標を x と表しており、 ẋ = V − ζ̇ が成立する。ここでは、µ が速度 ẋ の
d
穏やかな関数であると暗に仮定しているので、この式を「平衡点の周りの振動」と解することが
できる。
第4章
178
流れる粉粒体
の緩和が起こることに対応して)周期的振動運動を行う。この際、系は時定
数 τi = 2π m/K で釣合いの位置へ帰っていくが、この時間は系内部で決
まるすべり運動の特徴的時間である。これに反し、系が始動するまでの時定
数 τe = 2mg(µs − µd )/(KV ) は(スティックの特徴的時間)外的条件に依存
する。ここで立ち戻って、雪崩の側面からこのモデルを見てみよう。つまり、
このスティック・スリップ・パッドとの類似を利用して、角度 θ と円筒の中
央断面を循環する粒子の流束 D を結びつける式を求めてみよう。粒子の流れ
が止まっているときには、明らかに
dθ
=ω
dt
ただし、
dD
=0
dt
D = 0 かつ
(4 – 6)
(4 – 7)
tan θ < µs のとき
(4 – 8)
である。流れが生じるときには、先程の類似性を使えば、2.2.1 節と 3.1.1 節
で確立した式を用いることができる。
dθ
dt
dD
dt
ただし、 D
=
ω − γD
=
P [sin θ − µd (D) cos θ]
=
0 または
tan θ > µs のとき。
ここで、h を流動層の厚さとして、P = gh である。γ は流れの幾何に依存す
る量であるが、第一近似では定数とみなせる。最初の式は、円筒の下部に運
ばれる物質と、円筒の回転によって円筒上部に補充される物質の質量保存を
表す。第2式は 3.1.1 節の結果との類似性によって得たものである。
記法を単純化するために角度 Φd を定義して導入する。
tan(Φd ) ≡ µd
以下では、µd (従って Φd )が、流束 D、つまり
D=
ω − dθ/dt
γ
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
179
に依存することに注意されたい。さきほどのはじめの2つの式から D を消去
すると、次の θ に関する2階微分方程式を得る。
d2 θ
P
= −γ
sin(θ − Φd )
dt2
cos(Φd )
Φd からのずれが小さければ、単に
d2 θ
≈ −γp(θ − Φd )
dt2
を得る(訳注:これらの式で、Φd が (ω − θ̇)/γ の関数であること、及び最後
の式が前に示したパッド・モデルのスリップ時の ζ の運動方程式に対応して
いることに注意)。ただし、p = P/ cos Φd である。この最後の式は、周期が
√
2π/ γp の角度 θ の振動を記述する。流動種の定常流に相当する定常解は
D0
=
θ0
=
ω
γ
Φd (D0 )
で与えられる。この解の安定性とより一般的なこの系の振る舞い全体は、期
待通りに、動的摩擦係数 µd (D)(あるいは Φd )が流束 D にどのように依存
するかに敏感に依存している。
Φd (D) を定常値 D0 のまわりで1次まで展開すると
1 dθ
∂Φd
∂Φd
0
0
0
Φd ≈ Φ +
(D − D ) = Φ −
∂D 0
∂D 0 γ dt
となるが、これを先程の2階微分方程式に代入すると
d2 θ
dθ
∂Φd
+p
+ γp θ = γp Φ0d
2
dt
∂D 0 dt
(4 – 9)
を得る。お見通しの読者もあろうが、雪崩の振る舞いは定常値 D0 の近傍での
Φd (D) の傾きに依存する。パラメタ a を −(1/2)(∂Φd /∂D)0 と定義すると、
次の3つの場合のどれか一つが起こりうる。
• a = 0 の場合
微分方程式中の減衰項が消滅する。従って、安定領域にあり、振る舞い
は本質的には初期条件に依存する(スティック・スリップ、連続流、あ
るいは振動)。
第4章
180
流れる粉粒体
• a < 0 の場合
振動は減衰させられるので何回かの振動が収まった後で安定状態が実現
する。
• a > 0 の場合
振動子はこの場合負の抵抗を受けるので増幅器のように働く。解は不安
定でスティック・スリップの状況に相当する。
動摩擦係数 µd が流動種の流束 D にどのように関数依存しているかによって
異なる振る舞いが観測されることを更に詳しく調べよう。ここでもう一度 µd
は角度 Φd の値を決定するものであることに注意しよう。
µd が(つまり Φd が)D に依存していないときには、(4-9) は単純な調和振動
子を記述し、その角運動は Φd のまわりに対称である。雪崩は Φs = tan−1 µs
で決まる角度 Φs ではじまり、最終角度 Φf で停止するが、この角度は回転
速度 ω には依存しないで、
∆Φ = Φs − Φf = 2(Φs − Φd )
で与えられる。ここで、∆Φ と ∆θ を混同しないことが重要である。前者は、
雪崩の「静止相」(static phase) (D = 0 のスティック相に相当)での角度
変化であり、後者は雪崩で実際に観測される角度変化の最大値である。もし
Φd = Φs で、静摩擦と動摩擦の係数が等しいときには、回転速度 ω がゼロ
に近づくにつれ雪崩の振幅がゼロに近づくことに注意しよう。これに反して、
Φd < Φs のときには、ω → 0 のときでも雪崩は有限の振幅を持ち、その振
幅は
∆θ ≈ ∆Φ = 2(Φs − Φd )
で与えられる。分かりやすくいえば、とてもゆっくりとした回転速度では、円
筒によって分け与えられた相対速度が無視できるようになり、角度幅 ∆θ と
∆Φ がともに角度差 θm − θr に収束する。この角度差は 4.1 節で緩和角と呼
んだものであり回転速度が低いときにのみあいまいさなく定義できるもので
あった。
次に円筒の回転が雪崩の流束の持続時間 τ (D がノンゼロでスリップして
いる時間)に与える影響を調べよう。この時間は式 (4-9) から求めることが
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
181
図 88. とてもゆっくりとした回転速度 (ω = 10−3 rad/s) の場合の軌跡 D(θ)
の数値計算結果。この動摩擦係数は速度に対して減少するため、曲線は非対
称になる。一方、軌跡間の角度差は次第に増加する(文献 [27] より)。
できて、
2
τ =√
γp
√
γp
π − tan−1
(Φs − Φd )
ω
で与えられる。ここでもまた、雪崩の継続時間の測定値 δT と τ は円筒の回
転のため異なるものであることを認識しておくべきだろう16 。実際に、δT は
正確に振動周期の半分である。従って、それは系の緩和周期に相当し、回転
√
速度に関わらず π/ γp で与えられる。従って、無限にゆっくりの回転では
δT と τ の区別がつかなくなることは驚くにあたらない。
次に、動摩擦係数が流束 D に依存する場合を考えよう。式 (4-9) によると、
図 87 に描かれている D と θ の閉軌道は Φd に関して非対称になることが示唆
される。雪崩が停止する角度がより小さくなるかあるいはより大きくなるか
は摩擦係数が流束 D の減少関数であるかあるいは増加関数であるかに依存し
ている。例えば、微係数 a = −(1/2)(∂Φd /∂D)0 が定数で小さいならば、式
16 訳注:通常、雪崩の持続時間は傾斜角の最大値と最小角の間(∆θ に相当)の時間を光学的
に測ることで決める。しかし、もし雪崩のたてる音で持続時間を測ることができれば、τ を測っ
ていることになり、これは ∆Φ に対応する。
第4章
182
流れる粉粒体
図 89. 継続して起こる雪崩に対して、堆積の傾斜とその時間微分を光学的
に測定した図。雪崩の振幅と雪崩の始まる角度の関係がはっきりとわかる。
軌跡は理論計算によって予言されるように非対称になっている。ここでは回
転速度はかなり低く 0.023rpm である(文献 [27] より)。
(4-9) を閉じた形で解くことができ、その結果は
π
∆Φ ≈ 1 + exp ap √
(Φs − Φd )
γp
となる。より一般的な場合は数値的にしか解けない。図 88 はそのような計
算の例を示している。このモデルは大変単純であるにもかかわらず、非干渉
的に観測を行った実験の結果は驚くほどこのモデルに一致する17 。理論と実
験の比較に関する更なる詳細についてはこのトピックについての原論文を参
照されたい [27] 。例として、図 89 と図 90 に同じ回転ドラムを使って異なる
回転速度で行った2つの実験結果を示す。これらの実験結果と図 87、88 に示
した理論結果との類似は驚くほどである。
17 「非干渉的」(noninvasive) 技術とは測られている対象を乱すことなく測定をすることを意
味する。これらの技術は、ほとんどは光学的な性質のものである。これらは第3章で述べた画像
法も含む。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
183
図 90. 図 89 と同じようにしてより速い回転速度 0.52rpm で得た図。軌跡
はより対称になりほとんど周期的である(文献 [27] より)。
一般的なコメントとして指摘しておきたいのは、雪崩は、とてもゆっくり
した回転に対してはカオス的であり、回転速度が上昇するにつれてより規則
的周期的になる傾向があるということである。これはモデルによって示唆さ
れ、実験によっても確かに確認されている。この事実の重要な帰結は、回転
円筒での測定を、信頼のできる制御可能な測定にすることは一般的には難し
いということである。実は、他のどんな配置に対しても同じコメントがあて
はまる。系を釣合い状態からはずそうとして傾斜角をだんだん増加させてい
くときはいつでも、可能な限りゆっくりと行わなくてはならない。
上に述べたように、この雪崩に対する特別なスティック・スリップ・モデル
は2階の微分方程式に帰着する。そしてこの式では θ̇ による散逸項はは動摩
擦係数 µd の流束 D に対する非線形依存性を含む。 この依存性はいろいろな
関数形をとりうるが、これが流れの振る舞いを決定的づける。
別な言い方をすると、スティック・スリップ機構の解析の鍵となるのは F (v)
の関数形についてよく調べることである。ここで、F は摩擦力であり v は速
度である。実際に、F (v) の関数形は多くの研究のテーマとなってきており、
第4章
184
流れる粉粒体
とりわけ地震に主な興味を持つ地球物理学者や地質学者の間で研究されてき
ている。これらの非常に実践的なモデルに基づく研究を総合的に取り上げる
ことは本書の目的を超える。しかし、いくつかの一般的原理をまとめておく
ことは有益であるので以下に触れることにする。
いろいろな摩擦のモデル
Burridge-Knopoff(BK) パッド
Burridge-Knopoff のパッドモデルは、F (v) の関数形を求める多くの方法
の中でいろいろな意味で新しい視点を与えるものである。このモデルにはい
くつかの欠点もある。これらを克服するために、多くの修正がなされてきて
いる。これらをごく簡単に説明しよう。
BK モデルの概要は図 91 に説明されている [82] 。質量が m のパッドがつな
がったものが水平な台の上に静止している。パッドはいずれも同じバネ定数
k のバネでロープに接続されている。また、パッド間はバネ定数 K のバネで
互いにつながれている。ロープがこのパッド全てを引っ張って台の上を滑ら
せることによって、この系が水平方向に速さ v で移動していく(常に摩擦力
が働いているように運動中にパッドが跳ねて台から離れないことが重要であ
る)。 このような系には大変複雑な振動が生じることが直感的に感じられる
だろう。ここでの目標は応用性のある摩擦力の形を見つけることである。既
に示唆したように、これらは k と K の両方に依存しなければならない。 両
図 91.一般的な1次元 Burridge-Knopoff パッドモデル。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
185
図 92.BK モデルにおける動摩擦力の速度依存性。
脇を j − 1 と j + 1 のパッドではさまれた j 番目のパッドの運動を支配する微
分方程式は
d2 Xj
m 2 = K(Xj+1 − 2Xj + Xj+1 ) − k(Xj − vt) − F
dt
dXj
dt
となり、この式から
1
F (v)
k
というタイプの基本解が導かれる。図 92 に示してあるような関数 F (v) に対
する詳しい解析がなされている。この F (v) の曲線は、原点に非常に近いと
Xj = vt −
ころを除いては、負の傾きを持っている。これは、前に 2.3 節で説明したの
と同様に、恐らく増幅を引き起こし、カオス的な振動を引き起こす可能性が
ある。特にこの関数形およびこれと似た形のものは、地球物理学で速度によ
る摩擦減少則 (velocity weakening friction law) としてとてもよく知られた現
象に対応している。分かりやすくいえば、単に、相対運動の速度の上昇につ
れ摩擦力が減少することを意味する18 。
18 この傾向の極めて有害な例は、濡れた路面上での車のタイヤが起こすハイドロプレーニング
減少である。
第4章
186
流れる粉粒体
図 93.いままでに提唱されてきたいろいろな摩擦力の速度依存性。
その他の摩擦則 F (v)
図 93 に示してあるのは、異なる議論を基礎にして多くの研究者たちが提唱
してきた F (v) の関数依存性のいくつかである [48,83] 。接触点での磨耗や疲
労、摩擦による加熱などのいろいろな減少が加わって様々な F (v) 曲線が導
かれる。このトピックに関してはかなり豊富な文献があるので、参考にされ
るとよいであろう。
雪崩のスティック・スリップモデルに関するいくつかの注意
まずはじめに、このスティック・スリップモデルは、連続体物理に基礎をお
いているので、構成粒子数が少なすぎるときには破綻する。この問題は、こ
のモデルによると安息角 θr と始動角 θm は明確に区別されることからもいっ
そう厄介になる。既に見たように、数千よりも少ない粒子からなる系ではこ
の2つの角度が区別されなくなることを思い出されたい。
このかなり初等的なモデルは、次のような特色を通して現実の雪崩のいく
つかの性質を考慮に入れている。
• 粒子流束がゼロのときの摩擦力の不連続性。この点は Coulomb の乾燥
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
187
摩擦の法則に一致している。この法則は、動いているか止まっているか
によって2つの異なる摩擦係数が存在することを述べたものであった。
• 関数 F (v) を通して「負性抵抗」を取り入れられる。
• 空間的結合。これは始動後の運動種の伝播と、雪崩の継続時間を説明
する。
このモデルには明らかに制約がある。一つには、粉粒体流束の様子を計算す
ることができない点である。これが可能なより洗練されたモデルが存在する。
これらのモデルもまた連立微分方程式から出発するが、異なる変数の組(こ
の場合には、運動種の流束と堆積の高さ)を使い、かなり異なった原理に基
づいている。これらのモデルの大まかな枠組みを手短に議論することにしよ
う。これらのモデルはまだ発展途上にあり、敢えて現象論的記述に限った説
明をする。
4.2.3
雪崩の2変数モデル
このようなモデルの背景にある基本的考えは、流体力学の基礎方程式を導
くときのように、注意深く選んだ2つの変数で研究を進めるというものであ
る [84-86] 。次元が 1+1(空間1次元、時間1次元)の最も簡単な場合を考え
よう。粒子の流れの方向の次元を記述するのに空間変数 x は1つあれば十分
である。堆積の高さ h(x, t) は位置 x と時間 t 双方に依存する。横座標のある
点 x における堆積の傾斜は(高さの)x に関する微分として測れる。記法を簡
素化するため、これを −∂x h と表そう。負号は自由表面の傾斜が x が増加す
る方向に減少すること示唆する。傾斜 −∂x h があるしきい値 Sc を越えるとき
臨界状態に達するが、この値は議論してきた安息角 θr と同一のものである。
つぎに、R(x, t) という流動層密度 (density of rolling species) を導入しよ
う。この変数は坂を滑り落ちていく粒子群の流束を特徴づける。これもまた
位置と時間に依存する。この密度 R(x, t) は次のような拡散移流方程式で支配
されると提唱されている [84,85] 。
∂t R(x, t) = −∂x (vR) + ∂x (D∂x R) + Γ(R, h)
(4 – 10)
第4章
188
流れる粉粒体
ここで v は堆積の下部へ向かう流動層の速さであり、D は拡散係数で、こ
れにより粒子は双方の方向へ駆動される。式 (4-10) の右辺の最初の 2 項は大
変馴染み深い。これらは普通の移流と拡散の方程式に相当する。これに反し、
最後の項 Γ(R, h) は問題の最重要点であり、これが雪崩の性質を説明できな
ければならない。従って、これをどのような形に取るかは議論の余地がある。
この関数 Γ(R, h) は、数学的演算子として動いている粒子を止めたり、反対
に、止まっている粒子を始動させたりできなければならない。この章で議論
してきた現象論を手がかりにすると、次のようないくつかの条件を課すこと
によって、この関数がどんな形であるかについての感覚をつかむことができ
るだろう。
• 静止している粒子が始動するのは、既に動いている粒子にはじき出さ
れる場合のみである。
• このはじき出し過程は局所勾配 −∂x h が Sc (前の議論の流れからすれ
ば、これは θr < θ < θm を意味する) を越えたときにのみ有効になる。
さらに記法を簡素化するため以下では勾配から Sc を引いて考えよう。
この場合、h(x, t) の勾配は x 軸上のあらゆる点で微小量とみなせる。た
だし、我々の符号の取り方では ∂x h > 0 は、傾斜が臨界値より小さい
ことを示す。
• もし ∂x h > 0 であれば、臨界値 Sc 以下の状況となるので、粒子集団は
もはや不安定な釣合い状態にない。はじき出された粒子はこの場合お互
いに独立に転がり落ちるだけで、大きな規模の雪崩を引き起こさない。
定常状態が実現するには、転がっている粒子量 R に比例した数の粒子
が運動を止め表面にくっつかなくてはならない。
• もし ∂x h = 0、つまり傾斜が臨界角に正確に一致すれば、一次微分は消
えるので ∂x2 h を考えて2次まで取り入れて解析を行う必要がある。こ
の場合、演算子 Γ のバイアスを受けて、自由表面にできるどんな凹凸も
なくしていくように系が発展すると期待できる。別の言い方をすれば、
局所曲率が減少する傾向があり、それはまた R に比例して減少する。
これらの条件と、いままでに雪崩について調べてきたことに基づくともっ
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
189
ともらしい Γ の形を見つけられる。上の 4 つの要請に従う最も簡単な Γ の形
は次のとおりである。
Γ (h, R) = −R γ∂x h + κ∂x2 h
(4 – 11)
ここで、κ と γ はともに正の定数である。ここで指摘しておきたいのは、こ
の式が h と R の両方に対し1次に依存しているということであり、これはす
ぐに明らかになるように、解析的計算の観点からは大変な利点といえる。ま
た、演算子 Γ が今の場合 R に比例していることにも触れておこう。この点
は、今まで考えてきた方程式との大きな違いといえる。以前には、流動粒子
の流束は、この場合のようにドミノ効果によって増幅するのではなく、関数
∂Φ/∂D がその平衡値近傍で負の曲率を持つことによって増幅するとした(式
(4-9) 参照)。以前のスティック・スリップモデルでは、流束を決めている駆動
力は角度のずれだった。ここでは、流束は角度の臨界角からのずれと既に動
いている物質の量の両方によって決まる。
静止している粒子集団を説明するために、前の式で ∂t h = −Γ とする必要
がある。このようにして、堆積の高さは
∂t h = −Γ = R(x, t) γ ∂x h + κ ∂x2 h
(4 – 12)
という式に従い、物質の総量 h + R は局所的に保存される。さらに、(4-11)
式が雪崩が起きる寸前の堆積の準安定性を再現することにも触れておこう。
既に見てきたように、この性質は粉粒体堆積を決定づける性質である。実際
に、流れが全くないときには、(R = 0 の時、∂t h = 0 だから)この式は自発
的にはどんな雪崩も引き起こせないことも確かめられる。従って、静的平衡
状態では、表面は凍っているかのように見える。これと反対に、こうした状
態からはじめて、堆積表面に摂動を引き起こせば、少なくとも数個の粒子は
斜面を転がりだす。このすべりは有限の時間続いた後、安定状態へと戻って
いく。この性質もまた、雪崩の基本的な性質の一つである。
ここで、この理論形式の詳細についてさらに検討することは重要ではない。
ただ、この理論は(至極簡単な場合には) 解析的に取り扱え、(より難しい場
合には)数値的に取り扱えるということに触れておくだけで十分であろう。
興味を持った読者には、この理論の基礎的文献 [84-87] にあたることをお勧め
する。ここではこのモデルの2つの応用について議論するにどどめよう。
第4章
190
流れる粉粒体
図 94. このモデルによると、斜面上に作った摂動はたとえどこにあったと
しても斜面の上方へ遡っていく。その過程で、摂動は拡散効果によって減衰
し広がっていく。
摂動の上方伝播
自由表面が直線で臨界角 Sc に傾いており、一定で連続な流束 R0 がある
場合を考えよう。このモデルによると、斜面の下部に生じた小山は一定速度
vh = γR0 で坂を登っていくことが示唆される。頂上へ伝番していく際、小山
は図 94 のように広がって減衰する(式中の拡散項の存在による)。
堆積の下部にできたのがくぼみである場合には、このような現象が起こる
のはそれ程不思議ではない。すなわち、くぼみの上半分の部分が小さな雪崩
の源となって、実質的な物質輸送を下方に生じさせて、上昇していくように
見えるくぼみが維持される。この過程の効率は ∂h/∂t で測れるので、伝播速
度は式 (4-12) から明らかなように、γ と R0 に比例する。
これに反して、小山の場合には大変不思議である。小山の下部が崩壊して
いくとつい考えたくなってしまうであろう。そのかわりに、この連立方程式
によれば、小山の上側にある物質は何らかの方法で自分より下側にある摂動
を「察知」して局所的な小規模の雪崩を起こし、物質を再配置しすることに
よって新しい小山を作っていくことにより、小山が上へ向かって伝播してい
くようにみえる。おそらく、この予想外の性質はこのタイプのモデルの一般
的な性質であろう。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
191
雪崩の過程のモデル化
このモデルの最終的なテストは、もちろん、雪崩を正確に模倣できるかに
ある。この問題を解決するために、∂x h(x, 0) = −S0 (< 0) の準安定状態にあ
る堆積を考えよう。この状況は、少なくとも思考的には簡単に実現できる。
すなわち、はじめ安息角にある堆積を始動角に向けて傾けていけばよい(但
し、始動角以下の範囲で)。他に摂動がなければ、この新しい状態は準安定で
あり、何も起こらない(始動角を越えない限りにおいては)。この状況で、堆
積の表面は安息角よりも大きな角度で傾斜している。
ここで堆積の下部に2、3個の粒子を付け加えたらどうなるだろうか?結
果は選んだ値 S0 に決定的に依存している。このことは、この連立方程式から
帰結する相関の本質を正しく把握すれば、容易に想像できる。
この点を明らかにするため、この過程の発展の様子を詳しく考えてみよう。
時刻 t = 0 に、位置 x に局所的な摂動を、2、3個の運動粒子という形で与え
たとする。これは R(x , 0) = ∆δ(x − x) であらわせる。最終的な結果は2つ
の相反する効果が組み合わさって形成される。まず、先程触れたように、この
小さな摂動は堆積の頂上へ向けて坂を登って伝播する。これは、式 (4-10) に
おいて結合項 Γ を無視した式から直接に示唆される19 。上昇していく摂動は、
あらゆる拡散過程と同様に、R(x, t) ∝ exp(−v2 t/4D) のように減少していく。
これに反して、もう一つの競合している現象は、横軸 x 方向に転がり落ちて
いる粒子が最初静止していた別の粒子をはじき出すことである。式 (4-10) に
よれば、 v = D = 0(速度と拡散がともにゼロ) のときには、(κ の項を無視
すると) 流動種の密度は R ∝ exp(γS0 t) のように指数関数的に増加する。別
の言い方をすれば、最初の摂動はともに指数関数的に成長する互いに競合す
る現象を引き起こすのである。状況はどちらかが他方に打ち勝ってしまうと
いう意味で臨界的である。もし S0 > Sd ≈ v2 /γD であるならば、はじき出さ
れた粒子の数が、坂を登っていく粒子の数よりも速く増加する。従って、カ
タストロフィー的な現象(指数関数的に発展するので)が起こる。つまり雪
崩を生じる20 。これと別の場合は(S0 < Sd に相当)、拡散項が支配的にな
19 訳
注:(4-10) 式 に お い√
て Γ(R, h) を 無 視 し た 方 程 式 は v, D が 定 数 の 時
exp [−(x − x0 − vt)2 /(4Dt)]/ 4Dt という解を持つ。
20 ここでは、このモデルの提唱者たちの使った記法をそのまま使っている。これは原著論文を
読む際に助けとなるであろう。この章のはじめで使ってきた θm や θr に関しては、δ = θm − θr
第4章
192
流れる粉粒体
り、摂動の効果を減衰させて、系は静止状態にとどまる。
このモデルからは、安息角 Sc についての簡単な考察により、大変自然に臨
界角 Sd の定義が出てきた。これは、前に出てきた θm に一致し、雪崩を引き
起こすのに必要な角度である21 。これらの解釈はこの方程式の数値解によっ
ても確かめられていることを付け加えておこう。
もちろん、このモデルは、サイロの充填やもっとはるかに複雑な現象など
のさまざまな状況に適用できる。しかし、この理論形式ではこれまで我々が
拡散過程と呼んできたものが大変に重要であることを心に留めておこう。こ
の過程は結局のところ、現実には、減衰の機構と上方伝播に帰着し、これが
粒子が動いている粒子の衝突によって粒子がはじき出される割合と競合して
いる。De Gennes は、このような拡散項は少なくとも次のような2つの理由
から満足なものではないことを指摘している [86] 。
• 第一の点は拡散の到達距離に関するものである。L 程度の長さにわた
る流動層密度 R の変化に対して、拡散項は移流項に比べると D/Lv の
程度の摂動とみなせる。これは、d/L の程度なので(d は粒子の平均直
径)、現実には、小規模の流れに対しては拡散項はかなり小さいはずで
ある(訳注:平均自由行程と平均衝突時間を、それぞれ d、d/v とみな
すと、D ≈ vd となる)。
• 第二の点は、拡散項の物理的解釈に関するものである。一種のブラウ
ン運動を考えると、粒子が傾斜を上っていくことも可能になるが、この
ような解釈は非常に小さい空間尺度でみたときのみにもっともらしい。
その尺度とは D/v ∼ d と見積もれるが、この尺度では連続体としての
近似が意味をなさなくなる。
これらの視点によると、はじめの方程式の精神を維持したままモデルを改
良することが可能になる。
と同様に、その対応が明らかであろう。Sc (≡ θr ) は 0 であり、Sd (≡ θm ) は始動角と呼んで
きたものと等価である。
21 このモデルは1次相転移に似た過程に通ずることも付記しておこう。これは 4.2.1 節で到達
した結論に一致しているが、もちろん、SOC モデルの予言には矛盾する。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
193
De Gennes の改良モデル:回転ドラムの実験
先程のモデルが示唆しているのは、傾斜が安息角よりも大きい限りは、転
がっている粒子は小さな摂動に対して対流、増幅、そして拡散によって応答
することを示唆している。この場合、ある与えられた位置 x での流れの大き
さ R は t だけ時間が経過したとき
v2
R ∼ exp γ (θ − θr ) t −
t
4D
という形の式で与えられる。改良型アプローチの基本的考えは、一般的形 (4-
10) と (4-12) を保ちながら、拡散項を捨てるというものである。ここでの目
的は、この関数形を、同一の目的を果たすより現実的なものに置き換えるこ
とである。ヒントになるのは、系はほとんど常に外的なノイズ源にさらされ
ていて、それは温度というよりは周囲の雑音 (ambient noise) とも呼ぶべき
ものに依存しているという点である。これを基礎に、もとのアプローチの精
神と矛盾しないで、
「熱的に」トラップから逃れるモデルを発展させることが
できる。角度 θ (> θr ) において雪崩が起こるとき、流動種の流束は前のモデ
ルでは次の形で与えられる。
R(x, t) = Ri (x + vt, 0) exp [γ (θ − θe ) t]
ここでは同じ関数形を取ることにしよう。だたし、Ri (x, t) はここでは系
の力学的揺動による周囲の雑音源をあらわすことにして、θe は平衡に相当す
る角度とする点は異なっている。これは次のようにして正当化できる。粒子
がポテンシャル井戸 U にトラップされていることを想像し、このポテンシャ
ルが U = mgdf(θ) というタイプの関係式を通して角度 θ に依存していると
しよう。ここで、f(θ) は、θ の減少関数で、明らかに θ = π/2 のときに消え
なくてはならない。力学的雑音は実効温度 Teff によって記述できる。流動種
の源はこの場合 d exp(−U/kTeff ) と書け、これは d exp [α (θ − θm )] と変化す
る。ただし、θm は、周囲のノイズに関連した実効的な「熱的」エネルギーと
トラップから抜け出すためのポテンシャルが等しくなるときの角度として定
義される。このような条件下では、U ≈ kTeff と α = mgd/kTeff を得ること
ができ、核生成は θ < θm である限り抑制される。核生成は θ = θm のときに
第4章
194
流れる粉粒体
現れる。このモデルでは角度 θm が雑音に決定的に依存していることを指摘
しておく必要があろう。
つまり、このモデルの本質は周囲の雑音に最も重要な役割を持たせること
である。この雑音が粒子をトラップから逃れさせる原因となり、始動角を決
定する。
De Gennes は、(上の始動角の議論とは独立に)同様に拡散項を捨てた R
と h の方程式を使うと、4.1 節で説明した運動のタイプの両方を説明できる
ことを示した。一つは高速度での連続な流れ(場合 A)であり他方は低速度
での間欠的な流れ(場合 B)である。別の言い方をすれば、場合 A の運動で
は常に粒子のいくらかは動いており、特に、h(x, t) が定数となる定常解が存
在する。これは実験的観測ととてもよく一致する。
回転ドラム中の間欠的あるいは連続的雪崩は次の方程式系で記述できる。
∂h
∂h
= −γR
+ ωx
∂t
∂x
∂R
∂h
∂R
= v
+ γR
∂t
∂x
∂x
ここで、流れは左から右へ生じているとする。ωx という項があることに注
目しよう。これが回転の効果を記述している。これらの方程式をいろいろな
条件でどう解くかは、原著論文 [86] を参照し、読者に考えてもらいたい。こ
の章を締めくくるのに、直径が 2L の回転ドラムで起こる場合 A の流れに相
応しい定常解を探してみよう。幾何的な状況は図 95 に説明されている。
相応しい境界条件は x = ±L で R = 0 である。さらに時間微分が全体を通
じて消えると要請すると、次の定常解が見つかる。
R(x)
=
θ − θr
=
ω 2
L − x2
2v
∂h
2v
x
=
∂x
γ L2 − x2
これらの解は図 95 に示されているように放物線的な補正をともなったス
ロープを予言するが、直線からのずれは大変小さい。
粉粒体の流れの問題においては、場合 A(連続流)と場合 B(断続的なス
リップ)の解が系統的に組み合わさることを思い起こそう。これは、傾斜が
角度 θm と θr の間を変化していく堆積の準安定性を反映している。
4.2. 雪崩のいろいろなモデル
195
図 95. ある連立微分方程式系に基づいた de Gennes の改良モデルに関連し
た図(本文参照)。
さらにもう一つの例として、直径 2L のサイロが上端から漏斗を通して流
束 Q の粒子の落下によって充填されていくときの定常解を決定してみよう。
ただし、流れは連続でアーチ効果はないとする。漏斗の口は x = 0 にあると
し、サイロの横壁は x = ±L にあるとする。前の例と同じ条件下で、定常状
態の解を見つけると
R(x)
=
θ − θr
=
Q
|x|
1−
2v
L
∂h
v
1
=−
∂x
γ (L − |x|)
を得る。ここでも定常状態の角度の安息角からのずれは小さく、僅か d/L の
程度である。
この改良モデルはいろいろな状況の解析を可能にするが、現在のところ、
粉粒体を連続体として扱っていることに関連した制限がある。この理論で不
可能なことの一つは、例えば、亀裂の出現や分裂(3.2.4 節参照)の現象を説
明することである。既に知ってのとおり、これらの現象は、満たされたサイ
ロのドアを突然開けたときなどの、突然の堆積の変化に対してはいつも生ず
ると見られる。
197
第5章
5.1
混合と偏析
はじめに
液体はよく知られているように混和する性質を持つ1 。これに反して、乾燥
粉粒体は、均一に混ぜることが難しいことが知られている2 。密度、形状、大
きさ、さらに(反発係数や摩擦係数などの)微視的な力学的性質が違ってい
れば、粉粒体ははっきりと偏析 (segregation) の傾向を示す。この現象は、粉
粒状態の基本的性質であり、工業において解決できないでいる難題である。
混合物が流れたり、振動したり、せん断されたりするときにはいつでも、成
分が分離しようとする傾向があるが、部分的に分離しようとするか、完全に
分離しようとするかは状況による。化学反応との類似でいえば、さまざまな
摂動の影響下で、粉粒体混合物は必ずと言っていいほど自己組織化 する傾向
があり、局所的に同一粒子のクラスター(cluster, 集合体)を再構成する。
この本のはじめの章で触れたように、乾燥粉粒体の偏析は、机の脇ででも
できる極めて原始的な実験でも容易く観察できる。異なる種類の粉粒体(麦、
コーン、米、塩などはすべて適している)の混合物を試験管に入れて振りさ
えすればよい3 。土木工事では、ブルドーザーで(土地を掘り起こし、混ぜ合
1 液体はブラウン運動をする粒子からなるので、熱運動だけでも混合 (mixing) がおこる。粉
粒体では、第1章で述べたように、この運動は完全に無視できる。そのため、混ぜ合わせるため
には別のエネルギー源が必要である。そこで、振動を加えればよいように思えるが、しばしば意
図したこととは正反対のこと(分離)がおこる。
2 粉粒体においては、
「均質混合物」という概念をはっきりさせる必要がある。粉粒体 A と B
が α と β の割合 (α + β = 1) で混ざっているとき、その混合物 λ3 の体積中に2種類の粉粒体
が正しい割合で含まれていれば、その混合物は λ の尺度で均質であるという。最大限に均質化
された状態は、今定義した意味での λ の最小値が、A と B の2種類のうちの大きいほうの粒子
の大きさ程度となっているときである。
3 「乾いた」物質を使うことは強調し過ぎることはできない位に重要である。周囲の流体との
あらゆる相互作用を無視できることが不可欠である。そうでないと、全く別種の問題となる。例
えば、うまく設計されたセメントミキサー車は、いろいろな大きさの砂利をセメントと水にちょ
うどよく混ぜ合わせることができる。
第5章
198
混合と偏析
図 96. 大山の水平ドラムはその軸のまわりに回転する。はじめに均質だっ
た粉粒混合物は空間的周期が λ の垂直な帯に分離する。
わせることで)大きな石を(表面に浮き上がらせて)偏析させることを日常
的に行っている。同様に、土地を耕すと、大きな石が表面に浮き上がってくる
ことも知られている。インドの農夫も、乾燥粉粒体の偏析の性質を利用して
いて、他の穀粒と混ざってしまっている収穫したてのエジプト豆を、適当な
形の小さな籠に入れて振ることで分離している。他の小さな木の実と混ざっ
ているブラジルナッツは、ごく普通のトラックに積んで南米の険しい田舎道
で運んでいるうちに必ず積荷の上部に上がってくる4 。つまり、この乾燥粉粒
体の偏析現象はいたるところで認識されているのだが、まだよく理解されて
いない現象である。
3次元媒体中での偏析の観察を最も古くに記録に残しているのは大山であ
り 1939 年にさかのぼる5 。
5.1.1
大山の円筒ドラム
大山の実験は図 96 に図解してある [89] 。この実験では、同種ではあるが大
きさと色が異なる2種の粉粒体を混合する。例えば、直径が 500 ミクロンの
4 このブラジルナッツの例は、
「なぜブラジルナッツは上にあるのか?」という題名の論文が
Physical Review Letters という論文誌に掲載されて以来、粉粒体の偏析の問題の典型例となっ
ている。「ブラジルナッツ」現象という言葉は、この大きさによる偏析の代名詞となっている。
5 訳注:原論文は、旧字体の日本語でかかれている
5.1. はじめに
199
透明なガラス球と、直径が 100 ミクロンの濃い色のガラス球を使う。これら
を同じ体積で混ぜ、横長の円筒容器に入れ、その水平軸のまわりに回転する。
すると大山が報告したように、大小のビーズは自然に別れて図 96 に示した
ような鉛直な地層状になる。この過程は、ドラムをゆっくりと数回転させる
だけではじまる。この偏析の過程は進行を続け、まず3つの層ができ、そし
て大抵 1 時間くらいで 5 つの層になる。この現象は、回転速度がかなりゆっ
くりのときにのみ起こるが、この理由を知っている人はいない。驚くべき実
験ではあるが、まだよく理解はされていないのである。いまだに多くの研究
が研究していて、核磁気共鳴のような大掛りな手法(3.2.3 節参照)を使った
例もある [90] 。
いずれにせよ、この実験をしてみて驚くのは、回転、もっと正確にはせん
断による偏析 の効率のよさである。前にも述べたように、偏析は、相対的に
動いている粒子の混合物における大変一般的な性質である。潜在的な機構を
注意深く観察した研究者たちは、粉粒体の偏析は少なくとも2つの形態に区
別されることを見出した。
• 振動による偏析。粒子の相対運動は、(通常は垂直な方向に)容器を振
ることによって引き起こされる。大きな粒子の中に小さな粒子が混ざり
こんでいるときには、さらに、対流、アーチ効果、パーコレーションに
よる偏析を区別できる。
• せん断による偏析。この場合、2.4.2 節で説明したような重なり合った
層の流れの差異によって分離が生じる。これは、土木現場においてブル
ドーザーによる作業で大きな石が地表に偏析されることを想像すると
よい。
この現象について分かっていることはこのように限られており、詳しい機
構についてはほとんどなぞに包まれているということを認識することが重要
である。物体の密度、質量、あるいは力学的係数の違いによって偏析現象が
どのように変わるのかを予測する基本的法則はまだ知られていない。振動に
よる偏析、せん断による偏析のどちらでもこの事情は同じである。これと同
様に、大きさの異なる物体の偏析についても、第6章で述べるような二三の
数値計算による他は、ほとんど何もわかっていない。このようなわけで、少
第5章
200
混合と偏析
なくとも現在までは、この種の研究は大きさによる偏析 (segregation by size)
に限って行われてきた。実際、この章で扱う主要なトピックも大きさによる
偏析である。これから見ていくように、この問題さえ決して簡単ではない。
まずはじめに、同じ大きさの粒子集団の中に一つだけ大きさの違う粒子があ
るときに、この粒子の粒子の偏析について考えてみる。この過程の物理を支
配する基本法則の発見を期待して、このような段階的な方法を取る。どうや
ら、粉粒体には、一番大きなものを表面に追いやるという一般的な性質があ
るようである。例えば、粉粒体を振ってやると、大きな粒子が山の一番上に
移動してくる。
5.1.2
不均一な堆積の位置エネルギー
振動やせん断を受ける粉粒体が偏析していく仕組みをもっと詳しく扱う前
に、まず不均一な堆積のエネルギーの初等的考察を与えよう。大きさによる
偏析はこのような不均質物質に特徴的な現象であることを認識するのに重要
だからだ。この性質は、3.1.3 節で考えたような、Reynolds の膨張則の結果
として理解できることが分かるであろう。
まずはじめに、球(3次元の場合)や円筒(2次元の場合)の堆積につい
ての一般的事柄を考えてみよう。質量が m で半径が r の球の上に、それより
重くて大きい(質量 M 、半径 R)球が上に載っているとする。このとき、球
が載っている水平台を基準とした位置エネルギーは
Ep = mgr + M g(R + 2r)
で与えられる。双方の球は同じ材質でできているとし、そのため、体積密度
も同じであるとする。この条件から、位置エネルギーを大きさのみで表すこ
とができる。
Ep ∝ r 4 + R4 + 2rR3
面白いことに、この表現は R と r に関して対称でなく、エネルギーは大きい
のと小さいののどちらが上にあるかによっている。驚にはあたらないが、小
さな球が上に載っているほうがエネルギー的に得である。この結果は、直感
が通用するという希望を与えるかもしれないが、実は、我々の直感は大きさ
5.1. はじめに
201
図 97. A と B という2種類の大きさの異なる粒子の層が重ね合わされてい
る。構造的欠陥がなければ、A/B と B/A という配置はエネルギー的には同
等である。
による偏析現象に関しては役に立たない。すでに示唆したように、一番大き
いもの、したがって、一番重いものが、一番上にはじき出されるのである。
堆積の重ね合わせ
ぎっしり詰まった2つの堆積層
次に、図 97 にあるような堆積層の積み重ねを考えよう。ここでは、2次元
に描かれているが、この構造は同じ材質でできた2種類の粒子で組まれてい
る。これらの粒子は直径だけが違っていて、2つの層状に配置されて、3 角
格子上に詰め込まれている(この詰め方は、3.1.3 節で見たように最大限密に
詰めた状態である)。これらの粒子は、断面積が S の円筒容器に入れられて
いる。半径 R と r の粒子で占められる層の体積を、順に V と v で表すこと
にする。大きいほうの粒子が容器の上部を占めているとき、堆積全体の位置
エネルギーは(例えば、高さを h = v/S 、密度を ρ とすると下層の位置エネ
ルギーは ρvgh/2 となるから)
Ep ∝
v2
V
+ v+
V ∝ (v + V )2
2
2
第5章
202
混合と偏析
図 98. 2次元構造に対する2つの積み上げ方。(b) の 3 角配置は、可能な
限り密にした状態なので、(b) の配置よりも位置エネルギーが低く、エネル
ギー的に好ましく、より安定である。
で与えられる。今度は、どちらのタイプの粒子が上にあるかはエネルギーに
関しては無関係であり、したがって、境界や壁の効果がない限りは、どんな
偏析をも期待する理由はない。この結果は、同一密度の2つの層が常に平衡
にあるのだから、明白である。
大きな粒子が上に上がっていく傾向は、より詳細に調べなくても、異なる
大きさの粒子からなる格子の構造欠陥と関係がありそうに見える。この可能
性を探求するために、すでに 3.1.3 節で議論した2つの配置に戻って考えて
みよう。その構造を図 98 に再掲する。
この2つの体積の基本的な解析から、簡単なエネルギー的議論によって、三
角格子が、正方格子に比べより起こりやすく、安定であることが分かる。す
でに見てきたように、密な三角格子は Reynolds 膨張則とつじつまの合う唯
一の構造である。密な堆積は、どんな変形に対しても膨張するしかなく、し
たがって、位置エネルギーが上昇するしかないことを思い出されたい。密な
三角格子を変形させると、必ず堆積中に欠陥を生じることを考えれば、この
ような欠陥が堆積の上側と下側のどちらに集中しやすいかを吟味してみるの
が自然であろう。とくに、この問題に対しエネルギー的議論からどんなこと
がいえるであろうか?
5.1. はじめに
203
欠陥はどこに集中するのか?
まず、同一の粒子を最大限に密に詰めた構造を考えよう。次に、何らかの
理由でいくつかの欠陥が上側の層あるいは下側の層にできたとする。ただし、
これらの層はともに等しい体積 v を持つとする。直感では、欠陥が上のほう
にあったほうがエネルギー的に有利と思われる。このことは両方の場合の位
置エネルギーを計算することにより確かめられる。欠陥が上側にあるときの
位置エネルギーを Epu 下側にあるときのそれを Epl としよう。欠陥ができた
ことによる体積の増加を dv とすると
Epl − Epu ∝ v dv
(> 0)
を得る。つまり、表面近くにできた欠陥のほうがエネルギー的に有利である。
この結果を別の言葉で表現すると、円筒容器において密度の低いほうの物質
が上に乗っている時、エネルギー最小になる。
第3章で触れたような2次元の実験でもうまく振動させてやれば6 、同等の
ことがわかる。容器の中に1つだけ(残りの堆積を作っている円板と同じ体
積密度を持つ)より大きな円板を入れてやれば、今述べた現象をすぐに観察
できる。図 99 に示したように、この異物7 は格子に局所的な歪を引き起こし、
欠陥が生じ、その欠陥は上部へと移動していく傾向がある。
このように見てくると、大きさによる偏析は膨張原理の結果の一つと考え
られる。異物を導入することによって必然的に局所的な格子の歪が生じて、
局所的膨張となって現れる。その膨張した、従って、より密度の低くなった
堆積部分が上のほうへ上がっていこうとして、その際異物を引きずっていく。
このことから、異物の形状がまわりの格子にどれだけよくフィットするかが、
偏析過程において極めて重要な役割を果たしていることが示唆される。
6 「うまく振動させる」という意味は注意深く考える必要がある。複雑な粉粒体を振る(ある
いは振動させる)ことにより、堆積は多くの配置(多分、全てではないにせよ)を変化していく
ことができる。さまざまなシミュレーションの方法(とりわけ、第6章で触れるモンテカルロ法)
はこの事実を利用して、さまざまな緩和過程を通して、各摂動的事象後のエネルギーを最小にし
ている。
7 これからしばしば「異物」(intruder) という言葉を使うが、これは、
「普通」の粒子の海を
簡単のため一様と考え、これらとは大きさあるいは他の性質が一つだけ違う粒子のことをさす。
第5章
204
混合と偏析
図 99. 大きな円板が2次元堆積に挿入されると欠陥が生じる。この写真は
現実の堆積を後方から光をあてて撮影した。堆積の下部は密に詰まっている
が、上部では大きな円板の挿入によって三角形の対称性が大きく崩れている
(文献 [93] より)。
5.2
振動による偏析
これまでくり返し述べてきたように、偏析の過程を研究するためには、粒
子混合物を振ったりあるいは振動させたりするのが最も効果的で信頼のでき
る方法であり、産業でも基礎研究においてもよく使われている。実際、粒子
の集合体を振動させることは、系統的に多くの可能な配置を実現させる一番
よい方法である。また、この励起方法は、数値的コンピュータ・シミュレー
ションにもすぐに適用できるが、シュミレーションには大きな利点がある。振
動周期や強度は簡単にコントロールすることができる。典型的な実験は、周
囲の環境の中で、1つだけ大きくてはっきりと印のつけられた球に何が起こ
るかを追いかけるものである。さらにいくつかのトレーサー(tracer, 追跡用
のもの)を加えることにより、周囲の粒子がどのように動くのかさえかなり
はっきりと観察することができる。
5.2. 振動による偏析
205
図 100. 2次元不均質堆積のさまざまな配置。(a) と (b) はコンピュータで
作り出した構造であり、(c) と (d) は、実際に見られる堆積の写真である。こ
こで注意したいのは、大きな異物は、直下の粒子と接触をしていなくても安
定な位置にとどまれる(アーチ効果)ということである(文献 [93] より)。
5.2.1
大きさによる偏析のアーチ効果モデル
2次元の均質な堆積に一つだけ異物を入れた系を振動させたときの振る舞
いを説明するモデルを説明する前に、図 100 についてもう少し考えてみるこ
とは価値がある。この図はこの様な状況で観察される構造の、多くの驚くべ
き特徴を際立たせているからである。
まず、コンピュータで作り出された堆積、現実の堆積いずれの場合にも、構
造の上部に、欠陥が歪や転移の形で特徴的に現れることに注意しよう。この
ことは先ほど触れた基本的なエネルギー的な考えに完全に一致している。さ
らに、基質(matrix, 異物以外の粒子集合体)を構成している粒子とは大きさ
の異なる異物が引き起こす乱れは、本質的に三角形パターンで発展すること
にも気づく。このパターンは、単に、ここで考えている2次元格子のタイプの
第5章
206
混合と偏析
図 101. アーチ効果による異物の釣合い状態のモデル化。左側は、異物を含
んだ、実際の金属粒子の堆積の写真(文献 [93] より)。
対称性に関する特徴の結果であると考えられるかもしれない。しかし、すぐ
後でわかるように、この性質は2次元格子に限られていない。コンピュータ
により、ありとあらゆる人工の3次元堆積の幾何構造を容易に調べることが
できる [91] 。この結果、3次元の場合にも同様に、欠陥は堆積の上部に生じ、
その幾何的特徴は2次元で観測されるものにかなり似ていることが分かって
いる。このことから、これから紹介する3次元堆積の議論を自信を持って展
開させていくことができる。
最後に、これから議論するモデルに本質的なことを述べておく。図 100 の
(a) や (c) のように、大きな異物は、必ずしも基質の格子がつくる線上に乗っ
ているわけではない。それどころか、横にある粒子によって格子線よりも上
に突き上げられていることもあり、この様子は、教会のアーチが自身の重さ
を脇の支柱へ伝達するために石の上に乗っていることに少し似ている。この
比喩から、この現象をアーチ効果 (arch effect、または vault effect) と呼ぶこ
とにする。
このような系の動力学をモデル化するために、異物のとりうる安定状態を
すべて列挙する必要がある。系は、次の2つの条件のいずれかのもとに安定
となる。
5.2. 振動による偏析
207
図 102. いくつもの可能な配置を調べ上げることによって釣合い位置を探し
出す方法。
• 異物が、環境を構成している球の秩序だった配列で規定される格子線の
上に乗っている場合。
• 図 101 に矢印で示されている 2 点で異物で挟まれているために、異物
が格子線より上に保持されている場合。ただし、これら 2 点を結ぶ直
線が異物の重心より下を通っている。もしそうでなければ、異物は、次
に低い格子線まで落ちてしまう。
この状況をモデル化するには位相幾何学的な問題を解く必要があり、大体
以下のようになる。図 102 のように、一度にほんの少しだけ異物を持ち上げ、
異物のまわりが緩和によって自発的に再配向するまで待つ。新しい配置が安
定であるか不安定であるかを調べる。もし不安定であれば、またほんの少し
異物を上昇させて、安定性をまた調べる。このような過程によって、最終的
には全ての安定配置を見出すことができる。
第5章
208
混合と偏析
図 103. アーチ効果による偏析のモデルを展開するための2次元および3次
元堆積の図。
2次元モデル
2次元体積の局所的幾何が図 103(a) に示されている。粒子の半径比を Φ =
R/r(> 1) で定義しよう。前に示唆したように、堆積の有効範囲は2つの壁
B1 (T ) と B2 (T ) によって仕切られている。今の場合、この壁は角度 60◦ をな
している。我々の目的は、堆積の中で異物を段階的に上昇させていったとき
に、異物が取りうる安定位置を全て見出すことである。はじめに気づくのは、
この構造の幾何から構造の1周期よりも高い高さについては調べる必要がな
√
いということである。ただし、この周期は、Θ = 2r 3、つまり、沢山あるほ
うの粒子の半径の 3.46 倍である。図 103 のように、異物の高度8 を h としよ
う。各粒子をその行(指標 i)と列(指標 j )で区別する。簡単な幾何的考察
から、異物が格子線に乗っているときの安定位置は
√ 1/2
3
2
hsij = (R + r) − r(2j − k)2
+ 2r 1 + i
2
8 訳注:ここで、高度は、三角形の下の頂点と大きさ
R の円の中心の距離と定義する。
5.2. 振動による偏析
209
で与えられる9 。ここで、上添え字 s は位置が安定 (stable) であることを示す。
ただし、k = (−1)i+1 + 1 /2 で、j は (−1)i+1 + 1 /2 から Int[(i + 1)/2]
の間の値をとる。ただし、演算子 Int[m] は、引数 m の小数部を切り捨てて
得られる整数を表す10 。
次に、アーチ効果による安定位置を探そう。これは、異物が重心位置より下
にある2つの粒子に乗っている場合である。まず、異物が2つの横壁 B1 (T )
と B2 (T ) に接しているとき、つまり hv1 = 2R = 2rΦ の場合からはじめよ
う。異物を次第に引き上げていくと、次の新しい平衡位置が見つかる。これ
は、2つの小さな粒子が異物の重心の下にちょうどはさみこまれた状態であ
√
√
る。このとき、hv2 = (R + δ) 3 r 3(Φ + 2) である。ただし、δ は異物と
横の壁の間の隙間を表す11 。周期 Θ に対するアーチ効果による安定状態の割
合 S は、
S =1−
√
hv2 − hv1
2− 3
√ Φ ≈ 0.077 Φ
=
Θ
2 3
12
となる。したがって、もし S = 1 つまり Φ2D
、アーチによ
c ≈ 12.9 であれば
る配置が連続して、異物はスムーズに上昇する。この値 Φ2D
c 自体は、2つの
異なった振る舞いを分ける境界を示す臨界直径比 (critical ratio of diameters)
とみなせる [92,93] 。 この値の片側では、異物は連続的に上昇する一方、反対
側では、小さいほうの粒子種の大きさによって決まる有限のステップをしな
がら上昇していく。このような考え方で、解析的に、あるいは第6章で触れ
るシミュレーションによって、異物の安定位置をその変位に対してプロット
したグラフを計算して描くことができる。図 104 はその一例である。
9 訳注:図 103 の一番下の小さい球の指標を (i, j) = (0, 0)、それに接した左上の球を (i, j) =
(1, 1) などとする。任意の (i, j) にある小球と、それと中心線に関し対称な位置にある(同じ行
i にある)もう1つの小球の2つで大きな球が支えられている時に、大きな球の高さの取り得る
値が hsij で与えられている。
10 訳注:i が偶数の時には j が 0, 1, . . . , i/2、i が奇数の時には 1, 2, . . . , (i + 1)/2 という値を
取り得ることに対応している。
11 この近似では δ 2r を仮定している。正確な解を得るには、境界を小さな粒子にそって縁
取る必要がある。この場合、壁はもはや直線で表すことはできず、半球を連ねた線で描かれる。
ここでの仮定は、数値シミュレーションによって後から確かめられる。
12 訳注:1/12.9≈ 0.077 。この時、hv1 と hv2 が等しくなる。大きな球が2つの壁に接してい
る時にできる隙間にちょうど小さな球がはまり込む状況である。
第5章
210
混合と偏析
図 104. 半径 r の粒子で構成される基質中にある半径 Φr の異物の上昇図
(図 102 のように異物を少しずつ引き上げていったときの安定位置を示す)。
太い実線は、異物がアーチ効果を経由しながら上昇していくときの安定位置
を示す。水平な平坦域(細い実線)は、異物が基質の格子線にのっている位
置の不連続な連なりを示している。量 δh は、異物と周りの格子の微小な相
対的変位を示す。
3次元モデル
前節のモデルを3次元の場合に拡張するのは比較的簡単である。先程の三
角形 (T ) が四面体に置き換わるが、両者は同じ対称性を持つ。図 103(b) に示
されている記号を使えば、
h − h =
R−r
R+r
=
sin Ψ
tan Ψ
√
を得る。ただし、h = 3R 、h = 3r 、Ψ = sin−1 (1/3) 、Ψ = tan−1 ( 2/2)
である13 。これより、アーチ効果によって連続上昇がおこるようになる臨界
半径比は3次元では、
Φ3D
c
√
3+ 2
√ 2.78
=
3− 2
13 訳注:図 103(b) において、大きな球は4面体の3つの壁に接していると同時に、小さいほ
うの球の中心が大きい球の中心を通る水平面に位置して、ぴったり4面体にはまり込むように
描かれている。この状況は臨界直径比のときのみに実現するので、このときの Φ を求めれば臨
界直径比が得られる。なぜならこのとき、壁で異物が直接支えられている場合(2次元の場合の
hv1 に相当)と、4つの小さな球ははいりこんで支える場合(hv2 に相当)が一致しているから
である。
5.2. 振動による偏析
211
図 105. 2次元の場合 (a) あるいは3次元の場合 (b) に、揺らすことによっ
て偏析していく大きな球の様子を研究するために使われる実験手法の図。(a)
においては、数個のトレーサー(黒い粒子)を含む粒子集団に印をつけた異
物が沈み込ませてあり、これらを画像処理技術によって追跡する。 (b) にお
いては、トレーサーがまわりの環境の中で動く様子を直接観察によって監視
する。
となる。この値は、第6章で扱うように数値シミュレーションで確かめられ
ている値と驚くほど一致する [91] 。
5.2.2
振動による偏析に関する実験
大きさによる偏析現象を定量的に実験した最初の例はやっと 1970 年代も
後半になってからである。よい技術がなかったので、その実験は単に粉粒体
で満たした容器の底に異物を入れて容器を振動させたときに異物が表面にで
てくるまでの時間を測っただけだった [94] 。この方法は、あまりに原始的で、
これから議論しようとしている粉粒体の偏析の微妙な点を明らかにすること
はできない。
現代的な技術は画像処理(3.2.3 節参照)と同様に核磁気共鳴も利用してい
る。これらによって、3次元の不透明な系の内部で起こっていることを監視
することが可能になった。より直接的な方法では、トレーサーとなる粒子を
含んだ系をうまく用意してやる。この方法は図 105 に示してある。このよう
212
第5章
混合と偏析
図 106.2次元配置において異物が上昇する様子を追跡するための実験装置の写真。
な方法は2次元と3次元の双方の場合の研究に使われている [93,95] 。
この手法の典型的な装置が図 106 に写真で示してある。この装置では2つ
の小さなカメラを使う。一つは、振動台の横に設置して、振動の強度を正確に
測る。もう一つは、移動台に設置して、画像処理電子装置へ接続する。3.2.3
節で説明した画像加算技術に加えて、しきい値法14 によって、1つまたはそ
れ以上の粒子の粒子の動きを実験の間、絶えず追跡することが可能になる。
また、カメラを水平に一定速度で動かすことによって異物の垂直位置 h(t) を
時間の関数として直接モニターの画面に表示することもできる。以下でこの
技術の例をいくつか扱う。
連続的及び間欠的上昇に関する実験
今説明した装置は、均質な粉粒体に入れたさまざまな大きさの円筒円板が
上昇するいろいろな様子を研究するのに使われている。実験によると小さな
異物は、粉粒体中を不連続性を「感じながら」上昇する。一方、大きな円板
14 「しきい値法」では、特定の明るさのレベルを定義して、このレベルより明るければすべて
白(あるいは1)、暗ければすべて黒(あるいは0)とする。
5.2. 振動による偏析
213
図 107. 異物の動きの実験的観察。図 (a) は、連続上昇に相当し(Φ = 16, Γ =
1.2)、図 (b) は、連続的に平坦な部分がある(Φ = 2, Γ = 1.4)。(a) の白い
点線は画像処理技術による結果である。これに反して、(b) の白点線は動い
ていく物体の高さを時間の関数として直接表示することによって描かれてい
る。この水平方向の長さは約 1 時間に相当する(文献 [93] より)。
は休むことなくスムーズに上昇していくが、これは全く直感では理解できな
い。中くらいの円板は時々平坦に進みながらも連続的に上昇していくが、こ
れは先程の上昇の図(図 104)の予言に一致している。
先程のモデルは、異物が連続的に上昇する(図 107(a))か、間欠的に上昇
する(図 107(b))かをかなりよく予言できるように見える。一方、このモデ
ルはそもそもなぜ上昇が起こるのかという理由については何も教えてくれな
い。しかし、この振動容器を注意深く観察すると、何故異物が上にはじき出
されるのかについてのヒントが得られる。
うまくストロボ光を使ってやると、図 108 に示したように、異物のすぐ脇
にいろいろな寿命の亀裂が現れているのを観測できる。図 104 の上昇の図を
参考にすると次のことがわかる。
• 小さな異物の場合は(Φ < 12.9 で特徴づけられる)、上昇図の各ステッ
プを越える必要があるため、まわりの環境と異物間の相対変位 δ 15 が大
きくないと上昇が起こらない。従って、この種の運動がはじまるために
はかなり大きなしきい値があると期待されるが、これは実際に実験で
15 訳注:図
104 の説明にある δh と同じもの。
第5章
214
混合と偏析
図 108. 異物のまわりにかなり不規則にあらわれる亀裂を示した写真(文献
[93] より)。
確かめることができる。
• 大きな異物の場合は(Φ > 12.9 で特徴づけられる)、アーチ配置を連
続的に保持できるので、はるかにたやすく上昇できる。実験でも確か
められることだが、この場合のしきい値ははるかに小さいことを予言
できる。つまり、大きな異物は小さな異物に比べてずっと容易に上昇で
きる。
これからわかるように、少なくとも対流領域 (convection regime) を避けて
いれば、上の事実は上昇速度を半径比 Φ = R/r の関数として描くことによっ
てさらに確かめることができる。この点に関しては、上へのドリフト速度と、
異物と周りの粒子との相対的動きの双方を同時に測定できる実験は大変多く
のことを教えてくれる。
最後に指摘しておきたいのは、3次元において、このような連続的・不連
続的上昇の現象は、やはりシミュレーションでは予言されているのに、実験
ではまだ観測されていない。これは必ずしもこうした現象が存在しないこと
を意味しない。
5.2. 振動による偏析
215
図 109. 1つの異物の偏析に関する3次元的実験の図。図 (a) は、初期分布
を示す。図 (b) では、異物が上昇を開始する一方でいくつかの小さな黒いト
レーサーが側面の壁に沿って降下し始めている。図 (c) は、少し時間が経過し
たときの様子で、壁面に沿って底へ引きずり込まれた黒い粒子が対流によっ
て循環している。一方、中心部の対流的な流れは異物を最上部へと押し出し
ている(文献 [95] より)。
実験:対流による上昇か、それともアーチ効果による上昇か?
振動がかなり激しいときには、第3章で見たような対流に似た現象が、2
次元あるいは3次元の実験で観察できる。これらの2つの現象についてさら
に詳しく扱うが、まずは3次元の場合からはじめる。
3次元の対流と偏析
円筒形容器を使った一連の実験によると、異物を入れた場合と入れない場
合の双方について(図 54 参照)、粉粒体の柱にははっきりとした対流の動き
が観察される。このような動きは、粉粒体に秒のオーダーの周期で(瞬間的
に) 強い衝撃を与えて、継続的な励起の間に系が緩和できるようにしてやる
と観察できる [95] 。図 109 は、異物がある場合のこのような実験で、典型的
に観察される種類の現象を説明している。
図 110 に示された結果は、異物は、そのサイズによらず、基質の対流流束
第5章
216
混合と偏析
図 110. 色々な大きさの異物について、その位置を、容器に与えた衝撃の回
数に対してプロットした図。×、丸、四角印は順に半径比 Φ が 9.5、6、そ
して 1 の場合である。大きな異物は表面まで上昇し終わるとそのままそこに
とどまるのに対して、小さな異物は(四角のデータ点)対流によって底に引
きずり戻されていることがわかる(文献 [95] より)。
と同じ速度で上昇することを示している。純粋に幾何学的な理由により、大
きな異物は、他の多数ある粒子とは違い、壁に沿って下方へ戻っていくこと
ができない。結論として、ここで扱っているのは純粋な対流による偏析であ
ると考えられる。対流による偏析は2次元でも3次元でも起こる。ここで重
要なことは、対流で駆動される過程では、上昇速度が異物のサイズに依存し
ないことである16 。これはアーチ効果の機構とは対照的である。
2次元の対流と偏析
今度は、前に触れた種類の2次元セルで行われた実験の結果を報告しよう
[97] 。図 111 は、2次元堆積を、2つの異なる加速度で鉛直に振動させたと
きの CCP 写真である。図 111(a) は、直前に議論した3次元の対流と同等の
過程を明らかにしている。これに反して、図 111(b) は、アーチ効果が異物を
16 この言明にはいささか注意が必要である。異物が何らかの形で対流を引き起こしていないと
いうことは証明されているわけではない。運動の様子が示されている図 111 によると、どうや
らそうでなく、少なくとも異物自身よりも下では、異物が対流を引き起こしていないらしいこと
が推測される。この点は、いまなお議論が分かれている [96] 。
5.2. 振動による偏析
217
図 111. 図 (a) は、比較的強い励起 (Γ = 1.6) のもとで観測される対流による
典型的な偏析メカニズムを示している。図 (b) は、より弱い加速度 (Γ = 1.2)
で得られたものである。異物の下方では目印が横に移動しており、アーチ効
果のメカニズムをあらわにしている。この効果による偏析は、異物のサイズ
が異なると違ってくる(文献 [93] より)。
締めつけている様子が暗示されている。前に強調したように、この現象は異
物のサイズに依存する。上方運動の速度は口径比 Φ の関数であるらしい。こ
のことは一連の実験で完全に確かめられている。これらの実験は、いろいろ
なサイズの異物の高さ h(t) を、与えられた加速度と容器配置のもとに、時間
の関数として記録するものである。その結果は図 112 に再録しておく。
ここで、加速度は Γ = 1.25 に固定してある。いろいろな h(t) 曲線が重な
らないように、各々適当に水平軸方向に移動させてある。この結果は、この
サイズによる偏析過程が、先に議論したアーチ効果モデルと整合することを
はっきりと示している。小さな異物 (Φ < 12.9) は、一連の段差や平坦部で分
かるように不連続に上昇する。モデルのように、異物のサイズが大きくなれ
ばなるほど、上方運動の不連続性は小さくなる。比 Φ が 12.9 より大きくなる
と、異物は環境の中を連続的に上昇する。これらは、全て図 104 の上昇図と
一致する振る舞いである。さらに、十分小さな異物 (Φ < 3) では、全く上昇
が起こらない。これは少なくともこの特定の加速度でこの実験の時間内(約
1時間) では確かであることが分かっている。これらの結果が図 113 にまと
第5章
218
混合と偏析
図 112. 直径 1.5mm の粒子集団に沈み込ませたいろいろな大きさの異物の
位置 h(t) の図。異物のサイズが大きければ大きい程、上昇は速い(文献 [93]
より)。
めてあるが、これによると、直径のしきい値が存在し、それ以下ではどんな
上昇も抑制されることがはっきりと証明されている。直径しきい値が存在す
ることは、図 104 の上昇図をもとにすると不思議なことではない。以前に述
べたように、小さな加速度の時には、異物の位置ゆらぎ δh は、引き続く段差
間の離散的ジャンプを越えるのに必要なゆらぎより小さくなってしまうこと
がある。これは図 113 で観測される非線形な振る舞いと一致している。
最後になるが、異物の上昇速度がサイズによるということは工業的応用に
便利であろう。これは、粉粒体に沈んだ粒子を偏析する手段を提供するから
である。セルに適当な加速度を与えることによりサイズの異なる成分を「フィ
ルターにかけ」て取り出す可能性を想像できる。
5.3
せん断による偏析
すでに述べたように、粉粒体の2枚のシートが異なる速度で互いにすべる
ときに生じるせん断による偏析は驚くほど効果的である。この現象は大変に
5.3. せん断による偏析
219
図 113.図 112 から求めた、直径比 Φ の関数としての上昇速度。(文献 [93] より)。
普遍的で、地球物理学現象である地滑り、混合ドラム、滑り台を利用した輸
送にいたるまで、実に多様な状況に表れる。このことが、最近の2次元での
多くの研究を進める原動力となってきた [98,99] 。ここでもまた、大きさの違
いによる物体の偏析に限定する。それもまだようやく手がつき始めたばかり
で、多くの単純に見える現象が説明されずにいる。形、密度、あるいは微視
的な力学的性質による偏析については、まだこの章で議論ができるほどには
研究が進んでいない。まずはじめに、一様な環境に沈められた1つの異物の
振る舞いからはじめる。その次に、大きさの異なる2種類の粒子からなる混
合物の偏析の解析について触れる。
5.3.1
均一な媒体にある1つの粒子
第4章で指摘したように、回転ドラムは粉粒体の層の流れの様子を研究す
るのに便利な道具であるので、図 114 に示した装置をまた利用する [98,99] 17 。
17 図 114 は、実際の実験中に撮影した写真ではなく絵である。この区別は重要で、ここに描か
れている配置が現実の回転ドラム中で本当に見られるかは明らかではない。この特別な構造は、
積み上げる過程で、すべての円板の局所平衡が成立するように配置したものである。この局所平
220
第5章
混合と偏析
図 114. せん断による偏析を研究するのに使用する典型的な実験装置。一様
な基質中のトレーサーの経路を追跡する。
この回転ドラムは水平な回転軸を持ち第4章で雪崩の研究をしたときに大変
役立ったものに似ている。3.2.3 節で説明した画像処理技術を利用して、高レ
ベルの視覚コントラストで物体を選別しよう。例えば、白い球からなる基質
を用いて、その中に追跡したいと思う黒い追跡用粒子を1つ入れる。第4章
で見たように、ドラムが軸のまわりにゆっくり回転するときには、多少なり
とも周期的に規模の異なる雪崩が引き続いて起こる。雪崩は、物質の自由表
面近くの限られた層に制限されるが、この層は液相と呼んでもかまわないで
あろう。残りの部分はぎっしり詰まった状態で固相と考えてよいだろう。こ
の堆積の固相部分は、実質的には円筒に固着したままである。追跡用の粒子
は、雪崩によって堆積の底に引きずられていき、再び固相に入り込み埋め込
まれる。そして、ドラムの回転がトレーサーを再び自由表面へ押し上げる。
事象がどういう順序で起こるかはっきりとした描像を持つことは重要であ
る。異物の動きが図 115 に示してある。これは実際の実験の結果である。実
験から明らかなことは、ドラムの中心部あるいは端への偏析過程は堆積表面
衡と、構造物全体の大局的安定性には本質的な違いがある。雪崩は、つまるところ、局所安定性
の崩壊であり、これが粉粒堆積の大局的安定性に影響する。
5.3. せん断による偏析
221
図 115. 液相に引きずられた後、固相に再び入り込む追跡用粒子の速度図。
この場合、R < r である。異物は中心に引き寄せられているように見える
(文献 [90] より)。
の流れている領域で起こるということである。雪崩について知っていること、
特に第4章で議論した雪崩の統計的性質に基づけば、再び入り込んでいく場
所は表面上にランダムに分布すると予想するかもしれない。もしそうなら、
ドラムは極めて効果的な混合装置でなければならない。しかし、この仮定が
まったく見当違いであることが分かっている。以下にこの理由について実験
から分かっていることについて述べる18 。
現実的観点からは、せん断による偏析に対する問題は以下のようにまとめ
られる。半径 r の同種粒子の集合の中に半径 R のトレーサーを沈めたとしよ
う。これらの半径 R や r を変えていくとき、トレーサーが可能な空間をくま
なくさまよい歩くか、あるいはおそらく現実に見られているように、空間の
限られた部分を移動したりする理由を見出すのに一番よい実験はどんなもの
であろうか。
この問題もやはり画像処理技術によって解決できる [99] 。印のついた異物
を追いかけることで、ドラム内の粉粒体で満たされた半円の部分を占有する
18 これは重要な事実であり、せん断による偏析が、単に継続的な雪崩の最中に異物が再混入す
ることから起こるのではないことを意味している。よりもっともらしい描像は、異物は雪崩の最
中に大きさによる偏析を起こして相対的大きさによって決まる距離だけ運ばれるというものであ
る。
第5章
222
混合と偏析
割合を決めることができる。この測定では、同一の画面に、トレーサーのい
ろいろな位置 pi を記録するだけでなく、各位置 pi がどのくらいの頻度で占
有されたかを示す指標も記録する必要がある。これは、より高頻度で占有さ
れた場所程より暗い画素があらわれるように、グレーのレベルを与えること
によって行う。この技術は、次のような一連の手順からなる。
(1) 時刻 t1 に画像を一枚記録する。うまくしきい値法を使い、異物を選び
出し、他の粒子を無視する。この過程で、1つだけ黒い画素のある地図
が得られる。
(2) 画像の明るさを 256 で割り、結果をバッファー(電子工学用語で一連の
記憶装置の意味)に蓄える。
(3) 時刻 t2 に新しい画像をもう一枚記録する。その明るさもまた 256 で割
る。この 2 番目の画像はバッファーの中で一番目の画像と加えられる。
この時点で、もし異物が移動していなければ、バッファーには 2/256 の
明るさの画素が1つあり、もし異物が移動していれば、1/256 の明るさ
の2つの異なる画素があることになる。ただし、これら以外のすべての
画素は、まだ一度も異物が通っていないことに相当して明るさがゼロで
ある。
(4) このサイクルを全部で 256 回繰り返す。
図 116 の下段はこの種の実験結果である。ここでは、時間を離散的に分割
し指標 i をつけてデータを解析してある。この各時間枠 i の間には、1つある
いはそれ以上の雪崩がおこることがある。もし、異物が時刻 ti に動径座標 ri
に位置していたら、すぐ隣の時間 ti+1 での異物の動径座標 ri+1 はどうなるだ
ろうか?これに相当する相関写像 ri+1 = f(ri ) を第一反復写像 (map of first
iteration) と呼ぶが、図 116 の上段にはこれが示してある。この図は、ドー
ナッツを角度 40◦ で切り出した形の断面 S についてかかれている。この断面
は、半径方向に仕切られていて、粒子の流れている層を除外するため短い側
では半径 R1 、長い側では回転円筒の内半径 R2 に制限されている。
この結果によると、多数粒子に対する異物の相対的大きさに依存して、異物
5.3. せん断による偏析
223
図 116. 図の下段は 5 秒毎に撮影したスナップショット(瞬間写真)を 12,000
枚重ねたもの。これらは、直径 1.5mm の粒子の集合体中に置かれた、直径
(a)1mm、(b)1.5mm、および (c)2mm の粒子が通過した場所の空間的分布
を表している。図の上段については本文に議論されている。この円筒容器は
直径が 160mm で、回転速度はおよそ毎秒 2◦ である(文献 [99] より)。
は中心に集まる傾向を見せたり、あらゆる利用可能な空間を渡り歩いたり19 、
あるいは周辺近くにとどまろうとする。均一な灰色領域は完全混合を示唆し
ている。
相関図 ri+1 = f(ri ) が主対角線に関して対称であることにまず気づくと思
うが、このことは大変重要である。これは、第一回目の反復という早い段階
から、真の定常状態が実現していることを意味する20 。もしそうでなかった
ならば、観測中ずっと、異物は半径の大きい方か小さい方のどちらかへ飛ん
でいくはずである。したがって、データ点を蓄積していけば、相関図の対角
線の上側もしくは下側のみに点が現れたはずである。この定常状態は、次の
ような種類の関係式で記述できる。
Π (ri+1 /ri )
P (ri+1 )
=
Π (ri /ri+1)
P (ri )
19 訳注:図 116(b) の下段の図は、注意してみると、中心部と周辺部の濃淡が濃いことが分か
る。一見、一様に粒子が渡り歩いているようではあるが、実は、異物が周りの粒子と同じ大きさ
であっても、2つのアトラクターがある。
20 訳注:但し、この事実は、t
i+1 − ti を短くした時にも成立しているかどうかは、実験的に
確かめられていない。
第5章
224
混合と偏析
図 117. 領域 S 内の存在確率 P (r) の図(本文参照)。三角、四角、およびひ
し形はそれぞれ順に直径 1、1.5、および 2mm の粒子に対応する。これらの
粒子が直径 1.5mm の粒子集合に入れられている。挿入図はパラメタ α(局
在長の逆数)の直径比 Φ への依存性を示す(文献 [99] より)。
ここで、P (r) は領域 S 内(の動径座標 r )に異物が存在する確率、Π (ri+1 /ri )
は異物が1つ前のステップに ri に存在するという条件で、次のステップに
ri+1 にある条件付確率である。この結果は、次のように規格化できる。
R2
P (r) =
Π (r/r ) P (r ) dr R1
R2
P (r) dr = 1
R1
実験の結果は粒子直径の 3 倍に等しい ∆r にわたって平均されている。
図 116 は、異物が訪れる空間領域は、その直径が多数粒子に比べて大きい
か小さいかに依存していることをはっきりと示している。これと同じ情報は、
図 117 に示したように、確率 P (r) を示したグラフからも読み取ることがで
きる。第一近似では、確率 P (r) は P (r) ∝ exp (αr) というタイプの関数で表
せる。ここで、α は偏析過程の特徴的長さの逆数である。明らかに、α は Φ
5.3. せん断による偏析
225
が 1 を通過すると符号を変える。正符号は異物が周辺へ逃げることを、負符
号は中心へ集合する傾向を示す。
これ以上実験結果の解析を続けなくても、第4章で述べた雪崩の SOC モ
デルが完全には正しくないことに気づいたと思う。特に、雪崩がランダムな
規模なら、粒子は雪崩によって流動層のどこにでも再び入り込めると主張し
たが、実際には、第一反復写像や、周りと同じ大きさの印のついた粒子の追
跡によっても、円筒の中心部と周辺部はともに系のダイナミクスのアトラク
ター (attractor) になっている。もし粒子が円筒の周辺部に入り込んだとする
と、その粒子はその場にとどまる傾向があり、同様に中心部に入り込んだ場
合もあまり遠くへは行こうとしない傾向がある。このことは、雪崩の間に起
こるトラップ過程がある程度相関を持つことを示唆するから、いくらか 4.2.2
節で発展させたモデルとも似ている。したがって、サイズ偏析の動力学は、
円筒の中心と周辺部という2つのアトラクターによって支配されていると結
論してよいだろう。この仮説によれば、回転ドラムによる偏析 は、一方のア
トラクターを他方よりも好むという仕組みとして成り立っているのかもしれ
ない。このような状況は、しばしば、双安定性 (bistability) に絡んでいる21 。
5.3.2
大きさの異なる2種類の粒子からなる系の偏析
さて今度は、2つの異なる粒子集団からなる混合物について考えよう。ま
ずはじめに湧きあがってくる疑問は、いままで異物が同種粒子の集合体中に
あるときについて調べてきた結果を利用して、2つの集合体の混合物につい
て予言ができるかということである。言い換えれば、2種混合系における偏
析の過程も、前節で扱ってきたような、独立な1粒子的行程の連続として見
ることができるのだろうか?これからすぐ分かるように、この答えは全くはっ
きりしていない。こうした偏析の運動学と幾何は、既に形成されているクラ
スターの形状に依存し、このクラスターはフラクタル構造を持ちながら成長
する。
ここで問題をより厳密に定義してみよう。半径が dA の粒子の数を NA と
して、この粒子が NB 個の半径 dB の粒子と、混ざったり、分離したりする
21 双安定な系は、2つの平衡状態を持つ。外からの摂動によって、片方から他方へと入れ代わ
ることができる。
第5章
226
混合と偏析
図 118. 2次元粉粒体の偏析過程の図。黒い粒子は白い粒子より小さい。黒
い粒子は、わずか 1 回転後にはドラムの中心部に集まり始める。
としよう。ここでも、比 Φ = dA /dB と定義しておく。この系全体が、前に
使ったのと同じ種類の2次元回転円筒に入れられているとする。つまり、大
山のドラムを単純化た2次元版を考える。この実験は、粒子群 A と粒子群 B
を、可能な限り完全にランダムに混ぜるてから開始する。例えば、図 118 の
ように、黒い円板集団が少し大きな白い円板の集団と混ざる。
この実験が明らかにしたのは、わずか数回転後には、小さい方の粒子がド
ラムの中心に集まるということである。このようにしてできるつながった粒
子の集団を参照クラスター (reference mass) と呼ぶことにしよう22 。その表
面積が無限時間の後に原理的に達する面積を S∞ と書くことにする。実は、
後で分かるように、かなり短い時間でこの値に達する。
次に、この状況に関連したいくつかの一般的概念について取り上げる。な
お、より詳細については [90] を参照していただきたい。混合物の状態を特徴
づけるために、その程度を表すパラメタを導入しよう。時刻 t にタイプ A の
円板でできた参照クラスターの表面積を S(t) とする。明らかに、S(t) は、S∞
より小さい。偏析の程度を定量化するパラメタ a(t) は次式で定義される。
a(t) =
S(t)
S∞
ここで、完全にランダムで均質なときに 0 で、参照クラスターが完全に発達
22 集団が「つながっている」とは、集団内の粒子がお互いに実際に触れ合っていることをさす。
5.3. せん断による偏析
227
図 119. 直径 6mm と 10mm の円板の混合物の秩序変数 Po (t) を時間に対し
てプロットした図。混合物の 30 パーセントが小さい方の円板である。内挿
図は (1 − Po (t)) の時間依存性を示す(文献 [90] より)。
したときに 1 となるような、0 と 1 の間で変化する秩序パラメタ Po (t) を導
入すると便利である。このパラメタは a(t) を使って
Po (t) =
a(t) − a(0)
1 − a(0)
と定義される。Po (t) は、3.2.3 節で触れたような画像処理技術を使って簡単
に決めることができる。図 119 に示した結果は、偏析過程の運動学について
示唆的である。
このグラフから2つの重要なことが分かる。
• 秩序変数の成長は驚くほど速い。毎分 1.3 回転という低速回転でも、たっ
た 100 秒後には参照クラスターがほとんど完全に発達するが、これは
大体 2 回転後に相当する。図 119 では時定数は 0.7 回転程度である。こ
の結果は、せん断による偏析が驚くほど効率的であることを物語って
いる。
• 秩序変数は指数関数的に成長する。図 119 の挿入図は成長のダイナミ
クスが1階の運動方程式である dN/dt = N/τ というタイプの法則に従
第5章
228
混合と偏析
うこと、すなわち Po ∝ 1 − exp(−t/τ ) と書けることを示す。この驚く
ほど単純な振る舞いは全く説明されていない。
A と B の構成比を変えた研究もあるが、その結果、時定数 τ は構成に事実
上拠らないことがわかっている。現在までのところ、これについても全くわ
かっていない。
偏析速度と粒子の大きさ
2種類の粒子の直径比は、中心集団(訳注:参照クラスターと同義で用い
られている)の形成速度に重要なファクターであろう。実際、次の2つの極
端な例についての結果がある。
• 比率 Φ がかなり小さくて(典型的には 0.2 以下)、片方が他方に比べて
とても小さいときには、浸透 (sifting) と呼ばれる現象が起こる。つま
り、小さい粒子が大きい粒子の隙間をすり抜けて行ける。この状況は、
指向性パーコレーション (directed percolation) の概念を使ってモデル
化できる。小さな粒子はすり抜けた後、流動層を定義する固相と液相の
境界にとどまって動けなくなる。小さな粒子が動き回る媒質は大きな粒
子間の隙間で定義されるので、小さな粒子自身の大きさにはよらない。
したがって、比率 Φ は、偏析速度には関係ないはずである。つまりこ
うした状況では、時定数 τ は Φ によらない。
• もし比率が Φ = 1、つまり 1 種類の粒子の集団を見ているときには、
5.3.1 節での議論が適用できる。特に、全ての粒子は、可能な空間をあ
まねく動きまわることができることを示した。また、いくつかの粒子に
印をつけることによって、粒子は入り込んだ場所の近くにあるアトラク
ターの近傍にとどまる傾向があることも示した。もしそうなら、当然、
時定数 τ の定義に固執することはできない。なぜなら、巨視的な観点
から見れば、この場合には Po は定数であるべきで、時定数は無限大の
はずだからである。
数値実験によると、この両極端の間では、時定数 τ は近似的に比率 Φ に線
形に変化することが分かっている。もし τ を回転の回数で表現すると次のよ
5.3. せん断による偏析
229
うな簡単な線形関係がある。
τ 1.2 Φ
ただし
Φ ∈ [0, 2, 0, 8]
この表式は実際に Φ 0.6 のときには τ 0.7 を与える。
せん断による偏析について扱ってきたこの章の最後に、まだ説明のついて
いない驚くべき別の例を取り上げよう。これは時定数のドラム回転速度に対
する依存性についての議論である。なお、いままでは回転速度は毎分 1.3 回
転で一定の場合を扱ってきた。
偏析速度と回転速度
まずはじめに、いままでの実験で使われた毎分 1.3 回転という回転速度は
ドラム中の傾斜表面に沿って連続な流れが生じる速度であることを確認して
おこう。これは、4.1 節で、流れは毎分 0.3 回転を境に不連続から連続へと変
化すると述べたことに矛盾しない。次に、毎分 1.3 回転は、慣性効果が現れ
る速度に相当する毎分 12 回転よりもはるかに遅いことも指摘しておく。
前節の実験もそしてこの節での実験も共に、600 個の直径 6 ミリの小さな
円板と 720 個の直径 10 ミリの大きな円板を混ぜて行われた。面積比でいう
と、順に 25%と 75%である。2つの驚くべき結果が出てきている。まずは、
回転速度を毎分 1.3 回転から 8 回転に変化させても時定数は変化せず 25 秒に
とどまる。つぎに、毎分 8 回転より速い速度では偏析は全く生じないで、混
合物は実質的には均質のままである。これは数時間続けても同じである。
これらの結果は完全に予想外で、いまのところ説明できない。普通に考え
ると、小さな円板が傾斜を流れ落ちることによってより頻繁に通過すれば、
偏析の過程はより効果的になると期待される。現実には、このようなことは
全く起こらない。それどころか、液相を通じて通過する数が6倍になっても
偏析過程は同じペースで起こるのである。さらに、偏析は1階の運動方程式
であらわされることが示されているので、偏析は回転速度に単調に依存する
と期待されるのに、実際には毎分8回転になると突然偏析が起こらなくなる。
おそらくは、振動による偏析現象でのアーチ効果の説明で取り上げた原理
に立ち戻れば、もっともな解釈も可能であろう。以前に、粉粒体を振動させる
230
第5章
混合と偏析
とき、異物が幾何的に適応するためには、励起の間に緩和する十分な時間が
必要であると述べた。そのようなときにのみ、異物は効果的に移動できるの
である。いいかえると、偏析は物体の大きさや幾何に敏感であり、偏析が起
こるためにはかなり長い動作時間が必要だということである。このような見
方をすれば、結局はこれらの結果もそれ程難題でもないかもしれない。回転
速度が大きくなると、粉粒体の表面流は速すぎてカオス的になり粒子の幾何
的条件を調整する時間がなくなる。この議論をもっと推し進めれば、低速で
は液体のような流動層が、速度の上昇により粒子間の衝突数が増えるにつれ
て、次第に気体へと変化すると見ることもできる。この仮説的な液体と気体
の間の「相変化」はかなり突然起こると期待できるので、ある回転速度(今
の場合では毎分8回転)を越えると偏析が突然起こらなくなる理由をよく説
明する。偏析が効果的に起こる領域の毎分 1.3 回転から 8 回転では、τ は、回
転の回数で表現すると、回転速度に線形に上昇する。
中心クラスターのフラクタル成長
既に述べたように小さい方の粒子からなる中心部の集合は、円筒が2回転
するのに相当する大変短い時間、あるいは時定数 τ の 3 倍の時間で、ほとん
ど形成し終わる。多くの他の成長過程と同様に、集合体の形成が実用的には
1階の微分方程式で支配されることが分かっているので、幾何学的な考えを
もとに現象を理解できないか試みてみよう。
薄膜の蒸着、拡散律速型凝集 (Diffusion-Limited Agregation, DLA)、指向
性パーコレーションなどを含むいろいろな成長過程による物質合成に関して
は多くの文献がある [100] 。こうしたさまざまな成長機構は、自己相似幾何形、
つまりフラクタルの性質を持った構造に通じていることがほとんどである。
連なった点の数が最大になるような連結点の組によって縁取られる集合体
を偏析クラスターと定義し、その境界を形作るギザギザの線の長さを M (r)
としよう。ここでの目的は、この長さを、図 120 のような線上のある特定の
点を中心とする円の半径 r の関数として計算することである。 この円の半
径 r が、偏析したクラスターを構成する小さな円板の半径 rs に等しいときに
得られる長さを M (rs ) としよう。 つぎに、log[M (r)/M (rs)] を log[r/r s ] に
5.3. せん断による偏析
231
図 120. 図 (a) は本文に示唆したように満たしたドラムを 300 秒回転させ
たあとの粒子集合の様子を示している。図 (b) は、こうして集まったクラス
ターの境界の一部を示している。
対してプロットしてみる。この結果は図 121 に示されている。このグラフが
はっきりと示しているのは、偏析クラスターの境界はフラクタル構造をもち
その次元が d = 1.62 ± 0.2 であり、つまり M (r) ∝ r d という関数形に書ける
ということである。
少し違う文脈ではあるが、たまたま、数値シミュレーションも行われてい
る。2次元構造の指向的で相関のない成長のモデルに基づいて、指数 1.76 が
与えられており、上の結果とそれほど違わない。この指数は有限サイズ効果
のあるときには小さくならなくてはならないことも示されているが、この偏
析クラスターの場合にはおそらくこの効果があるはずである。確かに、これ
らの結果は準定量的なものである。大変教育的な値を与えてはいるが、ここ
に書かれた結果はより注意深い実験と、さらなる理論的解析23 によってこれ
23 最近 De Gennes は雪崩による偏析のモデルを展開した [43] 。このモデルは 4.2.3 節で議論
した、2変数の連立方程式に基づいている。回転ドラムとは少し違う状況を扱ってはいるが、分
数指数のべき乗則が出てきており、おそらくここに書かれた実験にも関係があるであろう。
第5章
232
混合と偏析
図 121.測定円の半径 r に対して規格化された長さ M をプロットした図。
から確かめる必要がある。
5.4
大山の3次元ドラムにおける偏析
この章の始めに述べたように、1939 年に大山によって報告された実験 [89]
はいまだに説明のつかない現象を含んでいる。図 122 にこの実験をもう一度
図示しておく。はじめは均質に混ざっている大きさの異なる2種類の粒子の
混合物が、ドラムの回転に伴い垂直に仕切られた領域に分離していくことを
思い起こして欲しい。この現象の物理はいまだに解析ができていない。
まずはじめに文献 [90,101] に報告されている、いくつかの実験的観測事実
について説明しよう。その後、最近 S. Savage によって提唱されたモデル [102]
の概略について触れる。
5.4. 大山の3次元ドラムにおける偏析
233
図 122. 大山のドラムにおける3次元の偏析。はじめは均質に混ざっている
2つの異なる種類の粒子からなる混合物が、回転軸に垂直な数本のバンドに
分離していく。
5.4.1
実験的観測事実
ここに記述されている実験では、長さ 70cm で直径 10cm のガラス円筒を
用い、その体積の 3 分の一を粒子で満たした。このガラス管の壁はざらざら
した球で覆い尽くしてある。この円筒は、その水平軸まわりに毎分 15 回転か
ら 65 回転の速さで回転する。10 分か 20 分経つと、混合物は図 122 に示され
ているように波長 λ で特徴づけられる帯に分かれる。この実験結果の最も特
徴的な点は次のようにまとめられる。
• 毎分 15 から 65 回転の間では、波長は角速度にほとんどもしくは全く
依存しない。これに反し、毎分 15 回転以下になると偏析は全く起こら
なくなる。系が発展していくとき、一番小さなバンドが一番はやく消え
ていく傾向がある。
• 長時間経った後の定常状態は3つのバンドからなる状態であることを多
くの研究者が報告している。
第5章
234
5.4.2
混合と偏析
Savage のモデル
S. Savage は現象論的モデルを提唱しているが、これは 4.1 節でごく簡単に
触れたある観測事実に基づいている。この効果はかなりよく観測されるもの
であるが [103,104] 、いまだよく理解されていない。詳しく言うと、定常的な
流れが生じるのに十分な速さでドラムを回したときには、表面層が水平線と
なす傾き角は粒子の大きさによる。これは運動に対する抗力によるものか、
あるいはもっと可能性があるのは、この種の実験によくある有限サイズ効果
によるものかもしれない。いずれにせよ、この動的な角度が粒子の種類によっ
て違うということは横向きの(つまり、図 122 の x 軸に平行な)流束が誘起
されることを意味する。この流束は粒子直径の比と回転速度にも依存する24 。
このことを念頭において、2種類の球 A と B からなる混合物について考え
よう。それぞれが与えられた回転速度で示す動的な角度を順に θA と θB とし
よう。横軸 x のある点で球 A が持つ局所密度を CA (x) と定義しよう。ここ
で、混合系の動的角度 θ(x) が各々の種類の動的角度の重み平均であたえられ
ると仮定しよう。これを、
θ(x) = θB + CA (x)∆θ
と書く。ただし、
∆θ = θA − θB
である。タイプ B の粒子に着目すれば、その流束は2つの拮抗する効果から
生じる。片方は動的角度の差異から生じる流束 ΦB (∆θ) であり、これは粒子
を x 軸に沿った向きに移動させる傾向がある。もう一つはこれに抗する流束
ΦBD であり Fick の法則によって記述される拡散によるもので、拡散係数 D
で特徴づけられる。このようにしてタイプ B の粒子の x 方向の全流束 ΦBx
は
∂CB
∂CB
ΦBx = −∆θ
−D
∂x
∂x
24 興味深いことに、この動的な角度の粒子サイズ依存性は2次元的実験では観測されたことは
ない。多分、これは粒子の総数が制限されすぎているためであろう。4.1 節でいろいろな規模の
雪崩に関連して発展させた考えをさらに拡張すると、次元数によらずに粒子数が十分大きいとき
に限り物理量が明確に区別して定義できるようになるらしいことが分かる。
5.4. 大山の3次元ドラムにおける偏析
235
で与えられる。要約すると、動的角度の差によって水平方向の流束が生じる
が、この流れは密度を均一化しようとする拡散成分によって抑制される。バ
ンドの形成はこの2つの効果の競合によって生じる。
237
第6章
6.1
数値シミュレーション
はじめに
粉粒体の物理の様々な面をモデル化するために数値シミュレーションを用
いてきたが、それらには2つの目的がある1 。1つは、産業界においては粉粒
体を取り扱う際に生じる多くの実際的な問題を解決するという、差し迫った
動機がある。その問題が、厄介な偏析か、アーチ効果のための流れの閉塞か、
あるいは、迷惑な対流効果(第1章参照)によるものかに関わらず、産業界
の要求は数多くあり、言うまでもないことであるが、ほとんどいつもそれら
は差し迫っている。産業界の要請の緊急性のためと創造的な数値シミュレー
ションの技法がますます急速に発展した結果、粉粒体の振る舞いを記述する
のに適切なアルゴリズムの研究に、多くの研究者が駆り立てられてきた2 。
他方、数値シミュレーションはより基礎的な観点からもかなり興味深い。
シミュレーションでは、とても実験ではできないような多くのパラメタの効
果を調べられる3 。この意味で、基礎研究において数値シミュレーションは真
に不可欠な部分となっている。試験的なモデルの有効性を確認するか、ある
いは場合によっては、棄却してしまうかは、実験結果と数値シミュレーショ
ンを比較することによって、最終的にテストされている。
計算機によるモデル化の最終目標は、明瞭でかつ野心的だ。問題にしてい
る物質の構成要素の粒子の性質から出発して、知られている粒子間の相互作
用を全て取り入れた上で、様々な状況における現実の粉粒体の振る舞いを予
言できるほど、柔軟で一般的な計算方法を開発することが、その目標である。
1 文献
[59] は、粉粒体の数値シミュレーションの優れた入門となるだろう。
2 現時点で物理のこの分野においては、数値シミュレーションに携わっている研究者の数が実
験家の数をかなり上回っている。
3 特に、弾性反発係数 ε や摩擦係数 µ などは、計算機の上では自由に変えられるが、実験家
には非常に限られた自由度しか与えられていない。
第6章
238
6.1.1
数値シミュレーション
数値シミュレーションの課題
今述べたようなことは、物理科学の他のどんな分野にも当てはまるかも知
れない。しかし、粉粒体系の場合はかなり特殊だ。第2章で既に示唆したよ
うに、固体間の衝突や摩擦をモデル化しようとした時、物理学者は困難に直
面する。現代の数値技術をもってすれば、極めて大きな n に対しても、いわ
ゆる n-体問題を扱うことができる。これは既に障害ではない。主な課題は、
これらの問題を定式化する際に、関係する相互作用を記述する基礎的な微視
的力学特性をどのように取り入れるか、またそれを可能な限り正確にするに
はどうしたらよいのかということだ。モデルを構成する際に多くの判断をし
なければならない。2つの粒子が衝突する際の継続時間 tc はいくらか?侵入
距離(2.2.2 節参照)はいくらか?引き続く2つの衝突間の時間と衝突時間 tc
の両方を考慮した上で、適切な時間刻みをどう選べばよいか(2.2.2 節及び
3.2.1 節)
?乾燥摩擦の Coulomb の法則をモデル化するのにもっともよい方法
?おそらく最も難しいのは、2.2.1 節で触れたように、微
は何か(6.4 節参照)
視的接触とその時間経過に伴う摩耗を正しく取り入れるにはどうしたらよい
かということだろう。モデルに摩耗や歪み硬化の現象を取り入れる方法はあ
るのか?現実的なシミュレーションを開発するためには,これらの問題全て
に答えなければならない。
6.1.2
種々のシミュレーション法
粉粒体系には特有のこのように多くの問題があることを考えると、ここ二
三年の間にも非常に多くの様々な戦略が提案されてきたとしても、驚くには
あたらない。結局のところ、それぞれの方法には長所と短所がある。計算時
間の観点からにしてもあるいは結果の精度の観点からかにしても、全ての要
請を満足する方法は、現在のところない。それぞれの方法はいくばくかの限
界があるので、何らかの妥協が必要だ。このような状況の下では、数ある方
法の中から一つの方法を選ぶには特別の注意が必要だ。
このように多様なシミュレーション技法を論理的に分類することは、簡単
ではない。粉体系のシミュレーションに関して現在知られていること全てに
ついて、包括的な論評を試みることは、我々にとって少しばかり分をわきま
6.1. はじめに
239
えないことかも知れない。しかし、この本の範囲を超えずに、単純な観点か
らいくつかの一般的原則を引き出すことは可能であり、この章の残りではそ
のような議論を展開する。それにより、シミュレーションをしている人が普
段用いているような多くの概念を明確にすることができる。
剛体球と軟体球
固体間の衝突を簡単化するために最初に思いつくことは、物体を剛体球と
して扱うことだ。数値計算上は、
「硬い」と語が必ずしも完全弾性衝突を意味
する必要はない。それは単に、衝突の間に重なりあったり変形したりしない
という意味で、衝突時間も無限に短いと見なされる。回転を無視する時には、
衝突前後の相対速度の減少は、跳ね返り係数をのみを用いて特徴づけられる。
実際、この方法は 3.2.1 節で球の列をモデル化する時に用いたものだ。
この剛体球 (hard-sphere) 近似は、後で見るように、いわゆる「衝突」ある
いは「事象推進」(event-driven, ED) モデルと呼ばれるものの基礎になって
いる。これはまた、接触点ダイナミクス (dynamics of contacts)(6.4 節参照)
やモンテカルロ (Monte Carlo) 法、最急降下法 (method of steepest descent)
などの、様々な堆積生成法の背景にある原理でもある。
このモデルでは弾性反発と摩擦のメカニズムが全く別物として扱われてい
る。乾燥摩擦は一般に、2.2.1 節で示したように、Coulomb の法則によって
与えられる。
軟体球 (soft-sphere) 近似は、これとは全く異なる原理に基づいている。そ
れでは、摩擦と弾性反発は2つの球が重なり合った時のみに働き、相互作用
の大きさは重なり合いの深さに依存している。このカテゴリーのアルゴリズ
ムの原型は分子動力学 (molecular dynamics, MD) である。この方法におい
て球の変形が本質的で、衝突時にどのくらい互いに接触しているかが、極め
てに重要な点である。
第6章
240
数値シミュレーション
衝突継続時間と時間順序問題
予想されるように、計算を実行する順序には注意を払わなければならない。
2つの可能性があり、それぞれには長所と欠点がある。
• 最初の方法は、規則的な時間間隔で系を調べて発展させてゆくものだ。
時間ステップは十分小さくとり、事象を「見逃す」ことのないようにし
なければならない。さもなければ、それ以降の系の発展を全く違ったも
のにしてしまうだろう。しかし、既に 3.2.1 節で指摘したように、剛体
球の間の衝突時間は無限に短い。そのため、短時間のうちに何回も衝突
が起こり、時間ステップよりも短い間隔で粒子が行ったり来たりする可
能性がある(図 123 参照)。それ故、逐次アルゴリズムは剛体球近似で
はうまいやりかたではない。これは、衝突の継続時間が有限の分子動力
学モデルにより適している。
• 系を調べる時刻が外から固定されたタイミングではなく事象そのものに
よって決まっているようなアルゴリズムが工夫されている。このような
事象推進アルゴリズムではどんな事象も見逃さないことが保証される。
一方厄介な点として、特定の粒子の衝突が引き起こす振動が延々と続く
といった状況に落ちいる危険性がある。そこで、何らかの判定基準を持
ち込んで、このような事態を避ける必要がある。3.2.1 節で既に、LRV
(最大相対速度法, Largest Relative Velocity)として知られている、こ
のような判定基準に触れた。
以上をまとめると、ED 型のアルゴリズムは剛体球系を記述するのに特に
向いており、一方、軟体球モデルを基礎とする MD アルゴリズムは規則的な
時間ステップと相性がよい。この章の残りでは、広く使われるようになった
これら2つの方法についてより詳しく説明する。それから、固体間の接触の
力学的性質と特別な収束条件に基づくいくつかの方法について、簡単に述べ
る。この方法は最近、様々な状況で粉粒体構造物の動的性質をモデル化する
のに、目覚しい成功を収めた。いわゆるブラジルナッツ問題に関連して、最
急降下法として知られている方法とともに、モンテカルロ法について述べる。
これらは、ある種の流体力学の問題を解くのに用いられて成功した方法に、
6.1. はじめに
241
図 123. 逐次アルゴリズム(上)や事象推進アルゴリズム(下)を用いて数
値シミュレーションを行なった場合に遭遇する困難をしめす概念図。
関係が深い。この分野は現在急速に発展しており、詳しく議論するのはまだ
時期尚早であろう。
これらの技法について分析を始める前に、これまでの章で提起してきたあ
る問題について、ここで部分的な答を述べておくのがよいだろう。つまり、ど
のようにして、粉粒体の離散的な記述
そのようなものだが
6.1.3
数値シミュレーションは本質的に
から「熱力学的」記述に移行するのか?
離散的記述から連続的記述への移行
第3章で既に強調したように、粉粒体は本質的に不連続なもので、連続体
的な記述を用いると困難に直面する。予想されるように、関わっている粒子
の数が減ってくると微分方程式による記述がますます不十分なものになって
くる。このような問題は、第4章での粉粒体の雪崩現象の解析でにおいて特
に明白であった。
衝突や摩擦などの事象の時系列をモデル化する数値シミュレーションでは、
ある与えられた時刻で全ての粒子の位置 xi と速度 ui を決定する。一方、古
第6章
242
数値シミュレーション
典的な熱力学は、密度 ρ や、平均流速 v、巨視的温度 T などの連続かつ微分
可能な変数に基づいていることを知っている。問題は、この2つの記述に何
らかの関連があるのかということだ。
(数値シミュレーションにより)全ての
粒子の位置と速度の完全な知識が与えられた時、熱力学的量 ρ、v、および T
を定義する方法があるか4 ?この問題を象徴的に、



ρ 


xi
?
⇐⇒
v


ui


T
と書いておこう。これに対する答は明らかにいくつもあり、あるものは他より
も実際的である。以下に述べる技法はかなり直観的であるという長所を持っ
ている。これは「雲」(cloud) という概念に基づいており、各粒子の質量が粒
子の実際の体積よりも大きな領域にわたって雲のように実効的に広がってい
るとする [57] 。この描像では、2つの粒子に対応する雲は互いに重なり合う
ことができ、そのため一方から他方へ連続的に通過できる。雲関数 h(r) は以
下のようないくつかの条件を満たさなければならない:
∞
h(r)2πrdr = 1
0
h(r)
→ 0
h(r)
≥
(r → ∞ の時)
0
(6.1)
(6.2)
(6.3)
(6-1) 式は規格化条件で、2次元の場合について書いてある。(6-2) 式は、雲
は主として対応する粒子の周りに局在していることを述べ、不等式 (6-3) は
密度 ρ 及び温度 T が正の量であることを保証する。計算を簡単化するため、
雲関数 h(r) として Gauss 分布を採用する。
1
r2
h(r) =
exp
−
2πσ 2
2σ 2
ここで、σ は粒子の直径 d よりも大きく(例えば σ = 6d)、雲の広がる範囲
を決めている。これを用いて、一連の式により密度 ρ、巨視的速度 v、温度 T
4 4.2.1 節で既に、粉体温度を振動による熱揺らぎの強さとして定義し、それが雪崩の引金と
なる励起を引き起こすとした。しかしこの定義は、この節でこれから述べようとしているものと
同じものではない。
6.2. 衝突のシミュレーション
243
を以下のように定義できる。
ρ(x)
=
m
N
h(|xi − x|)
i=1
ρ(x)v(x)
=
m
N
ui h(|xi − x|)
i=1
ρ(x)T (x)
=
m
N
u2
i
i=1
2
h(|xi − x|) − ρ(x)
v2 (x)
2
ここで、N はシミュレーションに用いられた粒子数で、m は1粒子の質量で
ある。これらの巨視的量は時間と空間について連続である。これらの勾配を
計算することもでき、通常の熱力学変数として見なすことができる。
6.2
6.2.1
衝突のシミュレーション
はじめに
第3章で見たように、事象推進 (ED) 法は系のダイナミクスを記述する一
般的な方程式の組(例えば、2.2.2 節で書き下したような、Newton 方程式)
を決めることから始める。それにより、ある事象が起こった時の全ての粒子
に対する変数の組 (xi , vi ) から次に起こる事象が予言でき、この手続きを次々
と繰り返してゆく。3.2.1 節では、振動下の1次元剛体球堆積をモデル化する
のに、この技法を用いることを述べた。以下で、同じ技法が 圧密緩和や自己
組織化の問題(3.2.4 節) に応用されることを見よう。しかし、この方法に
ついてそれ以上詳しくは述べない。興味のある読者は、上で引用した節をも
う一度読むことをお勧めする。ここでは、以前に触れた、無限回の衝突が集
積する問題をどうやって避けるかを説明する。
6.2.2
1次元の LRV 法
いわゆる LRV(Largest Relative Velocity) 法は、多粒子系中の粒子が接触
し、以前に述べたような塊 (block) を形成するような時に、有用である。こ
第6章
244
数値シミュレーション
図 124. 最初は2つの塊に分かれていた5粒子の集団の時間発展。反発係数
は ε = 0.8(文献 [59] より)。
の技法の有効性は、剛体球粒子がクラスターを成した時に生じるような、無
限衝突のループを避けることができるところにある。このアルゴリズムでは、
結果の予想をするためにある種の論理的な検査を行い、それにより、非現実
的なほど長い計算をしなければならないような状況を避ける5 。図 124 に、特
別な場合について例示しておく。
5つの球が、最初、それぞれ2つと3つからなる2つの塊に分かれており、
それらがまさに衝突しようとしている状況を考えよう。衝突後の5つの球の
軌道はどうなるだろうか?全ての球が1つに合体して1つの塊になるのだろ
うか?もしそうでないとしたら、球は別の組合せに再配分されるのか?この
問題を解く前に、以前、数値シミュレーションのところで与えた「塊」の定
義を思い出しておくのが有用だ。2つの粒子は、相対速度が、コンピュータ
の特性からあらかじめ決めておいた値 vc より小さければ、1つの塊となる。
実際には、ED アルゴリズムで定義された時間ごとに、塊を成している粒子
の隣り合った対全ての相対速度を計算しなければならない。∆vi = vi−1 − vi
を、塊の内の隣り合った粒子対全ての速度差としよう。∆vi < 0 の粒子対は
衝突しないが、∆vi > 0 の対は多分衝突する。LRV の手続きは以下のようで
5 数値計算をする人達は、しばしばこのような予測技法を用いる。それにより、系が帰着する
状態を前もって決定し、集積点での無限ループを回避する。このような、いわば「こつ」は計算
時間を節約する。勿論、それはその予測が正しい場合にのみうまくゆく。
6.3. 分子動力学 (MD) シミュレーション
245
ある:
(1) 衝突時間での ∆vi の最大値、即ち ∆vj = max(∆vi ) を持つ隣接粒子対
を選びだし、その粒子対 (j, j − 1) を衝突させる。
(2) 3.2.1 節で議論したような衝突行列を用い、新しい速度差 ∆vi を計算
する。
(3) 全ての速度差 ∆vi が vc より小さくなるか(その場合はそれらの粒子は
1つの塊をなす)、負の値になる(その場合はバラバラになる)まで、
上の2つのステップを繰り返す。
このような予測的方法も、通常の ED 法と同じ結果を導くことが示されて
いる。
6.3
分子動力学 (MD) シミュレーション
いわゆる分子動力学 (molecular dynamics, MD) 法には非常に多くのアル
ゴリズムが開発されており、様々な場合に試されている。この手法は既に成熟
しており、時間や空間スケールについていくつか注意が必要ではあるが、粉
粒体系の動力学の多くの側面をシミュレートするための不可欠な手段となっ
ていると言ってよいだろう。この技法は、軟体球の概念と逐次計算に基づい
ている。事象推進法との主な違いは、この技法では衝突の継続時間 tc がゼロ
ではない。MD 法の原理は、規則的な時間間隔で衝突する粒子の並進及び角
運動量の変化を支配する方程式を解くことだ。目標は、以下のベクトル方程
式を解くことにある:
∆p
∆(Iω)
=
=
∆(mv) = mv − mv0 =
tc
(r × F )dt
Iω − Iω0
tc
Fcm dt
0
(6 – 4)
0
ここで、I は回転軸の周りの物体の慣性モーメント、r × F は力 F によるトル
ク、Fcm は質量中心に働いている力の成分である。もう一度強調するが、ED
法では (2-2) 式と (2-3) 式で記述されるような運動量変化の式を出発点とする
第6章
246
数値シミュレーション
が、この MD 法はかなり異なる。今の場合、(6-4) 式を解くには、力 F と Fcm
の時間変化や衝突時間 tc の知識が必要である。全ての分子動力学シミュレー
ションの必要条件として、弾性反発力と粒子衝突の間の摩擦力についてので
きるだけ正確なモデル化が、本質的に重要である。しかし、場合によっては
このことが如何に難しいかを、既に何度も強調した(特に 3.1.1 節参照)。つ
まり、粉粒体堆積内の力の釣り合いは、履歴に依存するため、あるいは固体
間の接触力についての我々の理解が乏しいため、本来的な不定性がある。こ
の問題に取り組んでいる多くの研究者によって、様々な形の方程式が提案さ
れているのはこのためである。4.2.2 節では摩擦力の速度依存性の色々な関数
形について議論したが、ここでの状況もそれ似にている。
次のいくつかの節の目標は、(6-4) 式に直接代入すべき接触力 F と Fcm を
モデル化する時に遭遇する様々な振る舞いについて、議論することだ。
6.3.1
弾性力と摩擦力
線形及び非線形方程式
直径が di の N 個の球状粒子を考えよう。ここで、添字 i は 1 から N ま
での値をとる [59] 。もし粒子が全て同じであれば、当然、全ての i に対して
di = d である。直径 di が値 d のまわりに幅 (∆d) で(例えば Gauss 分布で)
分布していることを想像するのも難しくはない。rij を添字 i と j の2つの粒
子の中心の距離としよう。接触点の力学的性質にふさわしいものとして広く
用いられている Signorini の条件に従って(6.4 節参照)、di + dj < 2rij の場
合に限って接触力が働くとする。この条件が満たされた時には、少なくとも
角運動量が無視できるという仮定の下で、3つの異なる力が関わる。ベクト
ル表記で、これらの力は以下のようになる。
• 弾性反発力:これは、2つの粒子が重なりあっている時に蓄えられた弾
性エネルギーに関係し
1
(i)
f el = −K
(6 – 5)
(di + dj ) − rij nij
2
で与えられる。ここで、nij は粒子 i と j の中心を結ぶ直線に沿った単
位ベクトルである。これは単に、硬さ K のバネの変形に対する通常の
6.3. 分子動力学 (MD) シミュレーション
247
関係式だ。これはいうまでもなく線形で、侵入距離の 3/2 乗の巾乗則
を予言する Hertz の侵入モデル(2.2.2 節)と矛盾する。このような非
線形を許すように、(6-5) 式はもう少し一般的な形
(i)
f el
1
= −K
(di + dj ) − rij
2
1+β
nij
(6 – 6)
に変形される。ここで、β は Hertz モデルでは β = 1/2 で軟らかい表
皮モデル(2.2.2 節)では β = −1/2 となる。
• 摩擦力:これは接触点の滑りに抵抗し、Euler-Coulomb の動摩擦のよ
うに散逸を与える。一般に区別される2つの成分がある。法線成分は、
f (i)
n = −2Dn mij (v ij · nij ) nij
(6 – 7)
となる。ここで、mij は衝突する2つの粒子 i と j の系の換算質量、v ij
はそれらの速度差、Dn は向き nij に沿って接触離脱を特徴づける散逸
係数である。同様に、接線方向の摩擦力は、
(i)
f t = −2Dt mij (v ij · tij ) tij
(6 – 8)
となる。ここで、tij は接触点で接する、即ち nij に垂直な、滑り方向
に沿ったベクトルで、Dt は対応する散逸を記述する。
ここでもまた、(6-7) 式と (6-8) 式での線形近似は時に制限が厳し過ぎる。こ
れらの式はしばしば、 12 (di + dj ) > rij で
f (i)
n
1
= −2Dn mij (v ij · nij ) (di + dj ) − rij
2
ν
nij
といった形に一般化される。
これらの式で導入された摩擦モデルは本質的に動的なものであることを理
解することは大変重要である。実際、これらの式は Coulomb の静摩擦力を説
明しない。このモデルも、前に議論した ED 法と同様に、粉粒体堆積の動力
学の解析にのみ用いることができる。
第6章
248
数値シミュレーション
図 125. バネ-ダッシュポット結合系で接触相互作用を模倣する力学的モデ
ル。ダッシュポットは衝撃吸収装置として働く。
力学的類比
先の式は全く現象論的に導入されたものである。しかし、より具体的なモ
デルを用いて解釈し、式中の様々なパラメタに物理的意味を与えることがで
きる。最も簡単な類比が図 125 に示されている。それは、線形ダンパーがつ
ながれた(弾性反発を模倣する)バネでできている6 。
このような単純な系では勿論、接触相互作用の微妙な点、例えば、2.2.2 節
で指摘したような衝突する粒子が互いに侵入した時に典型的に起こる塑性変
形などを説明できない。より手の込んだモデルが、もっと複雑な効果を取り
入れるためにいくつも提案されている [38] 。その一例を図 126 に示す。想像を
たくましくすれば、更に別のモデルも考え出すことができることだろう。し
かし、このような力学的類比には限界があり、現実に対する荒っぽい描像で
しかないということを、心にとめておくべきである。図 126(b) は、図 126(a)
6 このようなダンパーは、しばしば LSD(linear spring dashpot 、線形バネ・ダッシュポッ
ト)と呼ばれる。すぐ先に、PLS(partially latching spring 、部分的に引っかかったバネ) とい
う別の例も登場する。
6.3. 分子動力学 (MD) シミュレーション
249
図 126. 塑性現象に対する力学モデル。2つの結合したバネからなっており、
そのうちの1つにはラチェット機構がついている。
の系の振る舞いを示す。まず、2つの粒子が衝突して互いに侵入し合うと、
硬さ K1 のバネは押し縮められるが、もう一方のバネ(硬さ K2 − K1 )はラ
チェットの為に力を与えない。その結果、図 126(b) において作用点は傾き K1
の直線に沿って上に動いてゆく。バネの縮みが最大値 α に達し2つの粒子が
互いに離れ始めるやいなや、ラチェットはもう一方のバネをその位置で引っか
け、それを引き伸ばし始める。る。その為、力は2つのバネの合成バネ定数
K2 で減少し始め、より大きな傾きに沿って横軸の位置 α0 に達する。そこで
の力はゼロで、系は以前とは異なる状態に落ち着いてしまう。即ち塑性変形
が起こったことになる。このモデルでは、衝突後エネルギーの一部がラチェッ
ト機構の為にバネの中に蓄えられているので、非弾性衝突が起こる。この装
置はなかなか興味深いが、それでもこれは、実際の衝突現象のひとつの側面
を模倣するにすぎない、あらっぽい模型である。
第6章
250
6.3.2
数値シミュレーション
MD 衝突モデル
この節では、2粒子間の衝突を支配している方程式を扱う。まず、線形弾
性モデルから始め、次に、非線形弾性領域の議論をする7 。
2体衝突の線形モデル
2つの球が正面衝突、即ち中心を結ぶ線に沿って衝突するという、単純な
場合から始めよう。添字 i と j で表される2粒子の表面間の距離を x と書く
と、x を支配する微分方程式は
d2 x
f (i)
f (j)
=
−
dt2
mi
mj
(i)
(i)
となる。ここで、正面衝突では力の法線成分しかきかないので、f (i) = fel +fn
である。簡単のため、ベクトル表記は省略した。上の式は x = 12 (di +dj )−rij >
0 のときしか使えない。この条件の下で、
d2 x
dx
+ 2µ
+ ω02 x = 0
dt2
dt
(6 – 9)
を得る。ここで、µ は (6-7) 式で導入された散逸項を表す係数である。ここ
では、µ = Dn 及び ω0 = K/mij となる。mij はいつものように2粒子系
の換算質量である。直ちにこれは減衰調和振動子の方程式であると気づくが、
そのよく知られた解は、
x(t) =
v0 −µt
sin(ω̃t)
e
ω̃
(6 – 10)
である。ここで、v0 は衝突直前の相対速度で、ω̃ は減衰振動の振動数 ω̃ =
ω02 − µ2 である。距離 x の変化率は、
dx
v0
= e−µt [−µ sin(ω̃t) + ω̃ cos(ω̃t)]
dt
ω̃
(6 – 11)
で与えられる。接触の継続時間 tc は表式
tc =
π
π
=
ω̃
(K/m) − (D/m)2
7 Taguchi は方程式に粘性散逸項を加えたが ([105, 106]) 、弾性領域に話を限るため、それら
のシミュレーションには触れない。
6.3. 分子動力学 (MD) シミュレーション
251
となる。x(t) が負になった時、接触は終る。今のモデルでは、tc が粒子の相
対速度によらないことに注意しよう。2.2.2 節で導入した反発係数 ε と同等な
ものを、
ε=−
[dx/dt] t=tc
[dx/dt] t=0
で定義してもよいだろう。これは、
πµ D
= exp −
ε = exp −
tc
ω̃
2m
で与えられる。この最後の式は、衝突による速度の減少と散逸項 Dn (ある
いは µ)との関連を明確に示している。ここでは、反発係数もまた相対速度
に依存しない。
さて、Hertz モデルで計算したのと同様に(2.2.2 節)、最大侵入深度 (max-
imum penetration depth)xmax を計算しよう。侵入速度 dx/dt がゼロになっ
た時 t = tmax に、侵入深度は最大になる。(6-10) 式と (6-11) 式より、
ω̃
v0 −µtmax
v0
µ
−1
xmax = e
sin(ω̃tmax ) =
exp − sin
ω̃
ω0
ω̃
ω0
を得る。ただし、sin ω̃tmax = ω̃/ω0 を用いた。もし系がほんの少ししか散逸
的でないとすると(例えば、ε ≥ 0.9)、ω0 µ なので、Hertz モデルの場合
と同様に、tmax は tc/2 に近づく。この場合には、xmax は
xmax =
v0
ω0
である。言い換えると、侵入深度は衝突粒子の相対速度に比例する。この結
果は、Hertz 則の結果と若干異なる。Hertz 則の場合には、幾分弱い依存性
4/5
(v0 ) を予想する。というわけで,線形弾性モデルは実際の衝突の物理的な
振る舞いとは若干ずれているという結論に達した8 。接触点の相互作用の非線
形的な性質を取り入れたより現実的なモデルを工夫する必要があるように思
われる。これは、次の節の目的である。
8 実際には、接触時間 t を慎重に選べば、言葉を変えると、材料物理の観点から現実的な値
c
になるようにすれば、MD シミュレーションはかなり満足すべき結果を出す。
第6章
252
数値シミュレーション
2体衝突の非線形モデル。
前と同じ記号を用いて、微分方程式 (6-9) 式を一般化すると、
d2 x
dx
+ 2µxγ
+ ω02 x1+β = 0
2
dt
dt
となるが、これはもう少し標準的な形
m
x γ dx
x β
d2 x
+
ηd
x=0
+
Ed
dt2
d
dt
d
(6 – 12)
に書き直せる [60] 。ここで、E は物質の Young 率と Poisson 比に依存し、η
はせん断に対する圧縮率と粘性に依存する。ついでにいえば、この式の散逸
項は純粋に粘弾性相互作用から来るもので、2.2.2 節で Hertz モデルの議論の
時に触れたような、塑性変形や、永久変形、あるいは音波の励起による散逸
などから来るものではない。
指数 β と γ に関連して、いくつか特別な場合を考えてみるのは有益だ。
(1) β = 0 と γ = 0 は (6-9) 式の線形相互作用に対応する。
(2) β = 1/2 と γ = 0 は Hertz の式で表される場合に対応する。これを示
すのは読者への演習にしておこう。
(3) β = 1/2 と γ = 1/2 は、垂直弾性相互作用に粘弾性的圧縮項が加えられ
た、一般化された場合(Kawabara-Kono モデル)に対応する [107] 。こ
のモデルでは、非線形性は純粋に粒子間侵入の幾何学的性質から来る。
これまでの議論から明らかなように、粒子間衝突をモデル化することは簡単
ではない。接触相互作用の物理はそもそも複雑でよく分かっていない。更に、
よくできた数値計算のアルゴリズムを開発するには、関連する全ての時定数
(例えば、衝突継続時間、相対速度、自由飛行時間など)を考慮せねばならず、
かなりの工夫がいる。十分な注意を払わないと非物理的な結果を出してしま
う。この点を説明するために、軟体球モデルから来る全くの人工的な効果に
ついて議論しよう [60] 。それは「分離効果」(detachment effect) として知ら
れるようになったもので、多重衝突している粒子の非物理的な分離を引き起
こす。それを理解するのには、3.2.1 節で振動励起の下での球の1次元堆積の
振る舞いを記述するのに用いた、簡単なモデルを使うのがよい。
6.3. 分子動力学 (MD) シミュレーション
253
分離効果
この効果は1次元でも高次元系でも起こる。これは、球の間の距離が侵入
深度と同程度という扱うのが難しい場合に、数値シミュレーション上のある
種の限界から来るものだ。LRV の手続き(6.2.2 節)に関する注意を思い出
すと、このような状況で誤った数値的予測を出してしまうことは、想像に難
くない。この困難をあぶり出すために、実効反発係数 εeff を
Ef
εeff =
E0
で定義しよう。これは、2.2.2 節の定義と一致する。ここで、E0 と Ef はそれ
ぞれ初期および最終(衝突前および後の)運動エネルギーである。この問題
を分析するには適切な変数を選ぶことが重要だ。数値シミュレーションから、
比 σ = s0 /(v0 tc ) がそのような変数であることが示唆される。ここで、s0 は
衝突粒子間の初期の距離である。図 127 に、εeff が σ に対してどのように依
存するかを示した。図に示した曲線は「普遍的 (universal)」のように見え、
非常に広い範囲の tc (3桁にわたる)と v0 (係数 400 にわたる)に対して
得られた MD シミュレーションの結果が全て同じ曲線上に並ぶ。
このグラフは、σ = 1 のところで、即ち、粒子間距離が衝突継続時間の間の
移動距離と同程度になった時に、粒子の柱の振る舞いが突然変化することを
明らかにしている。粒子間距離がこの臨界値より小さくなると、実効反発係
数が1に近づく。このような結果は実験結果と一致しないばかりでなく、εeff
は粒子数に対して減少関数であるべきであるという理論的な予測とも、あか
らさまに矛盾する。数値計算で見出したのは、実効反発係数が一つの粒子の
反発係数
今の場合は ε = 0.9
に等しくなり、更に大きくなってしまう
ことだ。別のいい方をすると、粒子柱ははるかに「弾性的」になり過ぎ、現実
的な見地からは、それは衝突する粒子の非現実的な分離を引き起こす。初期
の粒子間距離が大きい時 (σ > 1) にはそのような問題はなく、分子動力学モ
デルの計算は ED 法による結果によく一致する。LRV の手続きを用いた ED
法は、σ に依存しない εeff を正しく予言する。この人工的な圧密緩和が「分
離効果」の名前の由来で、図 128 に更に詳しくその意味するところが示され
ている。
この図には、粒子が最初接触している場合でのこの効果がはっきり示され
254
第6章
数値シミュレーション
図 127. 比 s0 /v0 tc に対する実効反発係数 εeff のプロット(本文参照)。
εeff ≈ 0.34 の水平線は、6.2.2 節の ED-LRV の手続きの結果に対応する。こ
この結果は、固定された壁と 10 個の球の柱に対して得られたもの。計算に
用いられたパラメタは、d = 1 mm、ε =0.9(真の反発係数)、tc =0.0022 s、
及び v0 =0.03 m/s である(文献 [59] より)。
ている。もし、初期の粒子間距離を 0.01 mm 程度にして同じ計算を繰り返し
たとすれば、2つの方法は実質的に同じ結果を与えるだろう。
ついでながら、もう一つ関連する現象として、
「ブレーキ故障効果」(brake
failure effect) として知られているものがあるが、これは粒子が接線方向に衝
突する時に生ずるものだ [108] 。これもほとんど同じ原因で起こる。この場合
もまた、MD シミュレーションでは、他のより現実的な力学モデルと比べて、
粒子の減速がずっと少ない結果を出す。
分子動力学モデルについてのこの短い解説を終えるにあたって、幾分一般
的な注意をする。この注意は、実は、他の全てのシミュレーション技法にもあ
6.3. 分子動力学 (MD) シミュレーション
255
図 128. 10 個の粒子の中心の軌跡。MD モデル計算は β = 1/2 と γ = 0
(Hertz モデル)を用いて行なわれた。その他のパラメタは、2体衝突に対し
て ε = 0.86、tc = 6 × 10−6 s で、v0 = −0.2m/s、s0 = 0 である。ED 法に
も同じ値を用いた(文献 [59] より)。
てはまるものだ。一般に数値計算の結果は、ほとんどの時間、粒子が互いに
十分は離れている限り収束する。その場合、全系の動的振る舞いは2体衝突
の連鎖によって正確にモデル化できる。ところが、2粒子より多くが同時に
接触し始めるといくつかの問題が出てくる。衝突は2体か、3体か、あるい
はそれ以上か?粒子を塊として扱うべきか?単純な物理的観点からでさえ答
えは決して簡単ではない。それぞれの場合の症状は異なるが、全てのシミュ
レーション法はこの基本的不定性に関連する弱点を持っている。この困難の
結果として、ED モデルでは非弾性崩壊が現れ、MD 法では分離効果が現れ
る。3.1.1 節で指摘したように、巨視的スケールでの相互作用の詳しいことが
分からないため、粒子がほとんど接触している時には、3粒子という少数粒
子の単純な堆積物の動的振る舞いを予測することさえ、お手上げの状態だ。
第6章
256
数値シミュレーション
図 129. 左の図は乾燥摩擦の Coulomb の法則に対応する。T と N は接線お
よび法線方向の力である。右の図は Signorini の条件を示す。D は接触点間
の距離。上の図はどちらも不連続である。この不連続性は、下の図では部分
的に和らげられている。和らげられた Coulomb の法則は、接触近傍での粘
性相互作用を示唆し、一方、対応する Signorini 条件は固体が互いに近付い
た時の弾性相互作用を意味する。
6.4
接触の動力学のシミュレーション
多くの発展と目覚しい成功に触発されて、この技法は現在ますます盛んに
なってきている [109, 110]。この方法は、接触の力学的性質についての基礎的
な研究に基づいている。何度も強調してきたように、粉粒体の物理学は接触
の力学的性質に本質的に支配されている。これから説明するこの技法の長所
は、固体間の様々な相互作用の記述を、第2章で述べた描像と合致するよう
に、できる限り正確に取り入れているところにある。ED 法や MD 法は本質
的に動的なもので、接触が長く続く場合を扱うには向いていない。実際、そ
れらは粉粒体の堆積の静的性質をモデル化するのには役に立たない。これは
モデルを改善する必要があることを示している。前の章で注意したように、
固体摩擦は接触力の不定性(3.1.1 節)を示すだけではなく、スティック・ス
リップ現象をも引き起こす。これらはどちらも、接触している2つの固体が
6.4. 接触の動力学のシミュレーション
257
接線方向に動かされた時に力が不連続になることに由来する。あらゆる兆候
から、この不連続性が粉粒体の動的性質に重大な役割を果たしているに違い
ない。
残念なことに、まさにこの力の不連続性のために、接線方向の力を T =
f(vt , γt ) といった形の接触しているものの接線方向の速度 vt や加速度 γt の
関数として表すことが事実上不可能になっている。これは勿論、問題の厳密
な数値的処方を工夫する上での大きな障害となっている。この大問題に対し
て、研究者達は接触の法則をいわば「てなずける」方法をいくつも提案して
きた。背景になっている考え方は図 129 に示されている。
これらの不規則性の性質をもう少し詳しく調べてみることは有用である。
我々は以下の 3 つの可能な状況を区別しよう。
• 周知のように、乾燥摩擦の法則は、接触点の接線方向の速度がゼロの
時、不連続性
より正確には、接触の履歴を知らない場合の不定性
を示す。この時、vt = 0 及び γt = 0 で、接線方向の抵抗力は −µs N
と µs N の間の任意の値をとり得る。静摩擦力は、条件 γt = 0 を保ち
つつ、接触点に働く他の全ての力と釣り合う。
• 十分に大きな接線方向の力が働くと、接触は動く (γt = 0)。運動が実際
に始まる直前(即ち、まだ vt = 0 の時)にも、等式 T = −µs N sign(γt )
が成り立っている。この状況では、接触力はめいっぱいに働いている。
• vt = 0 の時、接触点は滑っているという。その時、T = −µd N sign(vt )
である。
接線成分ではなく法線成分の力についての Signorini 条件に関しても、同様の
解析が可能だ。この条件は、以前に定義したような意味で硬く、互いに侵入
できないものに対して成り立つ:
• vn = γn = 0 の時、侵入に抵抗する法線方向の力は N ≥ 0 の任意の値
をとる。
• 接触は vn = 0 で γn > 0 の瞬間にはずれ、その場合 N はゼロとなる。
この観点からは、Signorini 条件は Coulomb の法則と全く同様の不連続性を
示す。
第6章
258
数値シミュレーション
図 130.摩擦力に関する不定性の概念的な解釈(文献 [111] より)。
図 130 を用いて以前に触れた不定性を導き出すことは、演習として興味深
い9 。換算質量 mred の、接触している2粒子系の運動の基礎方程式は(接触
点での主軸に投影すると)10
N = mred γn + Φn
と
T = mred γt + Φt
とかける。ここで、Φt と Φn は摩擦力の接線および法線成分である。摩擦力
は外力とは慎重に区別して扱わなければならず、摩擦力のこれらの成分は2
粒子の接触の様子に依存するが、外力にはよらない。すると、2粒子の接触
点に固定された座標系で見ていると、基礎方程式はこの図では正の傾きを持
つまっすぐな線で表される。この直線は、図 130 に示すように、不連続線と
1点で交わる場合があり、この時は一意的な解を持つ。乾燥摩擦の場合には、
問題は幾分複雑になる。解が一意的かどうかは、実験条件や Coulomb 摩擦が
どのようにモデル化されているかに依存する。図 130 から以下の点が明らか
になる。
• もし乾燥摩擦が µ = µs = µd の1つの係数でモデル化されているとす
ると、動的な相互作用に対して解はいつも一意的である。
9 この不定性についての見事な分析と数学的な扱いは文献
[111] にある。
10 ここでは粒子の回転の可能性を無視した。これを方程式に加えることは簡単であるし、議論
を実質的に変更しない。
6.4. 接触の動力学のシミュレーション
259
• 静止相互作用については、基礎方程式を表す直線は鉛直になり、解は不
定になる(無限の解を持つ)。
• もし乾燥摩擦が2つの異なる係数 µs と µd でモデル化されており、µs >
µd であれば、直線は Coulomb 摩擦のグラフの異なる2点で交わること
があり、解は明らかに一意的でない。どちらの解を系が選ぶかは以前の
歴史に依存し、2.3 節や 3.1.1 節で議論した履歴効果のような問題を提示
する。これは構造解析で研究されており、広く認識された特徴である。
このような考察から、このような本来的な不定性を持つ粉粒体系を正確にモ
デル化することが一体可能なのか、という疑いが生じるかも知れない。既に
見たとおり、この不定性は全て静的な抵抗力の不連続性から来る。この問題
を回避する一つの方法は、図 129 の下の図で示したような振る舞いのよい関
数を用いることだ。もう一つの方法は、静的な状況を単に動的な問題の極限
(v → 0) として考えることだ。本質的に動的で、この不定性問題を完全に避け
てしまった MD や ED のシミュレーション技法に対し、このような議論が後
づけの正当化を実際に与えているものと見なしてもよいかも知れない。また、
我々が考えてきたのは硬いもの(ED シミュレーションの意味で)だけであ
ることを心に留めておくことは重要だ。微視的接触点の生成と破壊は、標準
的な構成則から示唆されるように、不連続的にはなりそうもない。実際、よ
り滑らかな関数が実際の現象をより現実的に記述しているということは、か
なりもっともらしいことだ。いくらかの確信を持っていえることは、上で示
したような議論に基づく様々なモデルは、一般的に実験とよい一致を与える
ということだ [111] 。それは、ED や MD のシミュレーションばかりでなく、
この章の後半で議論する予定の他の方法にもいえる。ある方法を他の方法に
比べて特によいと奨励する説得力のある理由はない。恐らく、特定の簡単化
の仮定に基づくある方法は、一定の状況では全くうまくゆくが、別の状況で
は完全に破綻し得る。最良の方針は、順応性を持ちいつも心を開いておくこ
とだ。
次に、堆積物を生成するための手順に基づく、更に2つのシミュレーショ
ン技法について議論する。これらの方法は、今まで検討してきたものに比べ
て幾分原始的に見えるかも知れない。それでも、少なくとも堆積の幾何学的
構造が重要な要素の時には、非常に満足すべき結果を与えることが分かって
第6章
260
数値シミュレーション
いる。
6.5
モンテカルロ (MC) シミュレーション
モンテカルロ (MC) シミュレーションについては既に多くの文献がある。
この技法は、統計力学をはじめその他の分野の非常の多くの問題を解くのに
用いられてきているが、それについての包括的な分析をするのは、我々の目
的ではない。むしろ、この技法を用いることよって、粉粒体物質の物理学にお
けるいくつかの重要な問題に対して数値解を求めることができることに、焦
点を当てよう。そのために、有名な「ブラジルナッツ (Brazil nut) 問題」を
例として取り上げる [88, 92, 113]。5.2 節で議論したように、これには大きさ
による偏析現象が関係している。その後に MC とはかなり異なる方法、最急
降下法 (method of steepest descent) を紹介する。この方法も非常に有用で
あることが示されている。
まず最初に、どちらの方法でも粉粒体を堆積してゆくのに逐次的方法を用
いていることを強調しよう。どちらも、時間の経過とともに次々と堆積を積み
上げてゆく段階の合間に、緩和の過程が用意されている。この意味で、SOC
のセルオートマトンモデル(4.2.1 節)に関連して述べたような、全くの逐次
的手続きをとる。この事象の連鎖は記号的に、
準備 ⇒ 緩和 ⇒ 積み上げ ⇒ 緩和 ⇒ etc.
と表される。T を堆積-緩和サイクルの1周期としよう。ここでちょっと立ち
止まって、衝突と粉体堆積の振る舞いについて以前の章で学んだことを念頭
に、この方法の意味するところと限界について考えてみよう。まず、この手
続では衝突の動力学的性質が、明らかに抜け落ちてしまう。また、改良を加
えなければ、静的であろうと動的であろうと、固体摩擦に伴う散逸に関する
全ての問題を無視している。というわけで、この方法で、頻繁に衝突してい
るような粒子の集団の振る舞いを、適切に記述できるとは期待すべきではな
い。より具体的に議論するために、堆積の動力学を定義している事象の時間
間隔 τ1 を導入する。加振された1次元堆積の ED モデル(3.2.1 節)の言葉
では、τ1 は引き続く2つの衝突の時間間隔である。既に見たように、この時
6.5. モンテカルロ (MC) シミュレーション
261
間は無限小になることがあり、
「非弾性崩壊」として知られているものを引き
起こす。同様の状況で MD 法を用いると、系の時間発展を追跡するために時
間間隔 T < τ1 で計算する必要がある。するとたちまちとんでもない計算時
間を要するが、そうしなければ多重衝突を起こしている系の力学の詳細の微
妙な点を見落とす危険がある。つまり、短い空間スケール λ(粒子間距離の
程度)の事象を無視することになり、その結果誤った結果を導くことになり
かねない。一方、MC 法は、具体的には、次々と現れる粉体系の緩和した後
の状態を取り扱う。従って、それは粉粒体の物理をかなり長い時間間隔にわ
たって記述するのに特に向いている。例えば、周期的で十分ゆっくりとに励
起されている場合には、励起と励起の間に十分時間があって堆積が緩和でき
るので MC が適する11 。これらの注意を心に留めておけば、ここで議論する
堆積構成法は非常に価値があり、特に大きさによる偏析現象を解析するのに
有用だ [113] 。次の節では、MC シミュレーションを実際に実行するのに必要
なステップを概説しよう。
堆積と緩和の MC 法
ここで述べる方法は、もともとブラジルナッツ問題の数値シミュレーショ
ンで用いられたものだ [88, 113]。その後、多くの改良が加えられ、その結果
5.2.1 節で議論した幾何学的なモデルと完全に一致する結果を与えるように
なった。教育的な見地から、MC 計算の伝統的な方法に密接に従いながら議
論を始めよう。その後、粉粒体系に応用する際の詳細を議論する。
非一様な粉体の3次元堆積を扱うことはそんなに複雑なことではないが、
直径 d の同一な円板の集合を考えることにする。これらの円板は、互いに重
なり合わないものと仮定し、最初は、鉛直に立った仮想的な壁のない2次元
容器にランダムに配置されているものとする12 。現実的には、これは環状容
器を用いることで近似できる。そのような N 個の円板の初期配置は、全ての
11 3.2.1 節を、励起周期 T を系の緩和時間 τ と関連づけて扱いながら、読み直してみるのは
有用であろう。また、MC 法は低反発係数の物質に対してよく適応できることも理解できる。と
いうのも、その場合、励起の後の緩和がかなり速く起こるからだ。
12 これは重要な制限だ。第3章と第5章で見たように、壁は粉体に対流効果を引き起こす。壁
をなくすることにより、対流を都合よく消し去ってしまう。その結果、残るのは、5.2.1 節で述
べた「アーチ効果」のような幾何学的現象だけになる。
第6章
262
数値シミュレーション
中心の座標を含む一般化ベクトル
r = {r1 , r2, r3 , ..., rN }
で表される。系の位置エネルギー Eg (r) は
Eg (r) =
N
mgzj
(6 – 13)
j=1
で与えられる。ここで、m は個々の円板の質量で、zj はその中心の高さであ
る。MC 法は、エネルギー Eg (r) を持つ配置 r の出現確率 P に基づいている。
統計力学の教えるところによると、
P [Eg (r)] =
1
Eg (r)
exp −
Q
kT
である。ここで、Q は系の分配関数で、T は絶対温度である。温度 T の平衡
状態においては、全ての配置がそのエネルギーのみによって特徴づけられる
ことに注意せよ。個々の円板の実際の配置が異なっても、エネルギーが同じ
なら出現確率も同じである。
この手法では、系の全ての円板を、面積 δ 2 の小さな領域の範囲内に動かす
ことによって得られる、全ての配置の確率を調べる。この過程を、式
xj
zj
=
=
xj + ξx δ
zj + ξz δ
(6 – 14)
の組で表そう。ここで、ξx と ξz は区間 [−1, +1] の間に一様に分布した独立
な乱数で、δ > 0 である。引き続く試行で円板が互いに重なり合わないことを
保証するために、隣り合った粒子の間の相互作用はポテンシャルエネルギー
U (s) を仮定する。
U (s) =
0
∞
(s ≥ d)
(s < d)
(6 – 15)
(6-14) 式で与えられる試行が受け入れられるかどうかは、(6-13) 式と (6-15)
式で与えられるエネルギーを用いて以下の判定基準で判断される。
6.5. モンテカルロ (MC) シミュレーション
263
• もし、エネルギーの変化が
∆E = E(r ) − E(r) ≤ 0
(6 – 16)
即ち、新しい配置が以前の配置よりも低いエネルギーを持つときは、新
しい配置は受け入れられる。
• もし、∆E > 0 としても、そのような配置は熱揺らぎによって生じるか
も知れないので、配置 r が退けられるとは限らない。そこで、それに
受け入れ確率
P (∆E) =
P [E(r )]
∆E
= exp −
P [E(r)]
kT
(6 – 17)
を割り当てる。そして、この確率を、0 から 1 の間で一様に分布する乱
数 ξ と比較し、もし P (∆E) ≥ ξ なら、その配置を受け入れることとす
る。もしそうでなければ、それは捨て去り別の新たな配置を試みる。
この手続きでは、系の粒子を一つずつ順にゆすぶってゆき、全ての粒子を一
順したところで1ステップを完了する。この新しい配置が今度は次のステッ
プの出発点として用いられ、また全ての粒子が順に動かされてそれが受け入
れられるか順に判定されてゆく。この操作が繰り返される。
ここで系の温度についていくつかの注意をする。今述べた方法は、伝統的
に Brown 運動する系の MC シミュレーションに用いられてきたものだ。そ
れを粉体粒子のような巨視的な対象に対して適用した場合、熱エネルギー kT
を含む式の意味についてその正当性が問題になる。
第1章で指摘したように、今問題にしている典型的な系では、通常の温度
で比 mg∆z/kT は 1012 の程度なので、Brown 運動は全く無視できる。その
場合、(6-17) 式とそれに基づく判定基準は事実上いつもゼロの確率を与える。
言い換えると、粉粒体系では意味のある式は (6-16) だけで、反復の各段階で
位置エネルギーの減少だけが許されている。これは、系の温度を絶対零度と
仮定することと同じである。つまり、この系において粒子は位置エネルギー
の井戸に捉えられ、そこからは微視的なレベルでの衝突がないので逃れられ
ないということだ。以前の議論から、このシミュレーション法では多重衝突
それは粉粒体の局所的な温度によって引き起こされる
に関連する短
第6章
264
数値シミュレーション
距離相互作用の詳細を無視していることが明らかだ。この方法では、基本的
に既に緩和した状態の系のみを扱っていることになる。
このような限界にもかかわらず、このタイプのシミュレーション技法は、例
えば異なる粒子の系など、多くの状況をモデル化するのに非常に有用である
ことが示されている。まとめとしてもう一度強調すると、この技法は、粒子
が実際に接触している時間がわずかしかないような、緩和していない配置を
記述するには賢明な選択ではない。そのような例として重要なものに流動層
があり、それには ED か MD シミュレーションがより適している。
6.6
堆積の逐次構成モデル
MC シミュレーションでは、N 粒子系の堆積が見出す様々な幾何学的配置
のエネルギーを追跡してゆく。系はエネルギー E(r) を持つ初期状態からエネ
ルギー E(r ) (E(r ) < E(r)) の終状態へ時間発展してゆくが、その際、緩和
過程の詳細には全く踏み込まない。もう一つの方法は、系の局所的な力学的
性質をできるだけ忠実に模倣しようとするものであろう。これがまさに、い
わゆる最急降下法の背景にある考え方である [91] 。
この方法の原理が図 131 に示されている。目標は、粒子が互いに重なりあっ
て落下した時の運動をモデル化することである。アルゴリズムは以下のよう
にまとめられる:
• 球状粒子を次々と、形成されつつある堆積の上にランダムに落としてゆ
く。粒子が落される位置座標 x は、[114] で説明されているように確率
変数で与える。
• 粒子がランダムな位置に落された後、粒子は「最急降下」となる径路に
沿った「自然な」下り坂を下ってゆき、局所的な釣り合いの位置に達す
るまで下ってゆく。そのような位置は、図 131 に「停止」と記されてい
る。停止状態に陥るのは、粒子の中心点から鉛直に下ろした線が下の2
つの粒子の中心を結ぶ線を横切る時である。ところで、以前にもこの種
の堆積法について注意したように、安定場所に到達した時には粒子は
跳ね返らないと仮定されている。
6.6. 堆積の逐次構成モデル
265
図 131.最急降下法の説明(文献 [116] より)。
• 一旦停止した後には、粒子は堆積中のその位置に永久に留まる。
系をゆすって緩和させる方法としては、例えば、全系を持ち上げた後に落下
させて緩和させる方法がある。これは以下のように行なえる:
(1) 上で述べたアルゴリズムに従い、まず、粒子を一つずつランダムに落し
て緩和させることにより、堆積を形成する。
(2) 積み上げられた粒子に、下から順に番号をつける。
(3) 堆積全体を(仮想的に)持ち上げて、一粒子ずつ下から順番に、再び先
のアルゴリズムにしたがって落してゆく。番号の小さい粒子から行ない
段々に上の粒子に進んでゆく。この過程では、ある程度堆積の以前の配
置の記憶は保たれる13 。
13 第3章を読み直し、鉛直振動下での堆積の様々な圧密緩和の様相(特に1次元および2次元
での)について、記憶を新たにすることを勧める。それにより、ここでのアルゴリズムの現実性
について考えられるだろう。
第6章
266
数値シミュレーション
(4) ステップ (2) および (3) を何度も繰り返し、それにより鉛直振動をシミュ
レーションする。
このタイプのシミュレーションは比較的計算時間がかからない。3次元系で
粒子数の多い場合にも採用できる技法である。しかし、MC 法で議論した限
界はここでも当てはまる。どちらの技法も、短時間の内に何度も繰り返され
る衝突や多重衝突を特に排除しており、次々と現れる緩和状態を扱うのには
よい方法である。最急降下法は、幾何学的構造が非常に重要な問題を扱うの
に特に向いており、その結果は実験との比較的よい一致を見ている。恐らく
そのもっとも大きな名声は、ブラジルナッツ問題において、5.2.1 節で解析的
に見出したのと同じような、臨界直径の存在を予言したことだろう14 。
14 ここで述べたアルゴリズムは、もともと Jullien 等によって開発されたものである [91] 。興
味深いことに、初期のものはノイズを含まなかった。即ち、堆積を積み上げる際の粒子の位置に
ランダムな揺らぎがなく、全く決定論的なものであった。その一つの結果として、Φ < Φc の時
には偏析が起こらない。一方、解析的なモデルでは、単に臨界値 Φc を越えたときに振る舞いが
変化することを予想できるだけである。後でノイズがモデルに加えられ、この改良の結果、より
現実的な振る舞いが得られるようになった。
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272
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273
訳者あとがき
訳者の一人(奥村)が、本書を初めて知ったのは 97 年の秋にドジャン博士か
らもらった電子メールにおいてである。彼は、私を研究室に受け入れるにあ
たり私が読んでくるべき本のリストにこの本を挙げていた。その中で、この
本が唯一フランス語の本であった。その時私は、大学の第二外国語でドイツ
語を専攻したことをいかに悔やんだことか。しかし、気合を入れて1ヶ月ほ
どフランス語を学び、早速この本を読み始めた。電子辞書をフルに使い、時
には著者に直接メールで質問しながらであったが、1ページ進むのに膨大な
時間がかかった。それでも(随分とかかりはしたものの)何とか読み終える
ことができた。こんな力ずくの読み方が継続できたのは、ただただこの本に
描かれている物理が面白かったからである(実は、ドジャン博士には内緒で
あるが、このときに渡されたリストのうち読み終えていないものもある)。そ
れほど「面白い」のである。真剣に接すれば、理工系の大学一年生でも大筋
をつかみながらこの面白さが味わえるであろう。
(少なくとも)この点に関し
ては自信を持ってお勧めする。
本書の前書きも書いているドジャン博士は、最近の「複雑系」という言葉
が巷間に溢れる 30 年以上も前から、液晶や高分子などの複雑な対象に物理学
の立場から取り組んできた開拓者で、その単純明晰な手法は名高く、1991 年
にはノーベル賞を授賞している1 。その彼がここ 10 年来、粉粒体の物理学こ
そこれらかの物理のフロンティアの一つであると見定め、フランスを中心に
活発にいろいろな研究グループを組織してきた。そのような中で生まれたの
がデュラン博士の本書である。本書においても、ドジャン博士によって築か
1 その独特なスタイルは、名著”Scaling Concepts in Polymer Physics”に余すことなく示
されているが、この本もたまたま、訳者の一人(中西)が故久保亮五先生の監修の下に高野宏博
士と日本語に訳し、吉岡書店から出版されている(「高分子の物理学」、吉岡書店 1984 年)。
274
訳者あとがき
れたフランス物理学会の「軟らかい系の物理」の伝統が脈々と波打っている。
しかも、題材は更に身近で目に見える、小さな子供さえ興味を持つような現
象もあり、その中にも第一線の研究者が心引き付けられる奥深い物理がある
ことを生き生きと描写されている。
実際の翻訳にあたっては、著者のデュラン博士の助言もあり、主に英語版
を元にした。しかし、仏語版と比べて英語版では改良されている点が多かっ
たものの、必ずしもそうでない部分もあったので、基本的には英語版に沿っ
て翻訳を進めつつ、論理が理解できない時には仏語版を参照した。それでも
理解できない個所は、著者に直接、説明、改定案を提示していただいた。ま
た、学問の発展により現状に合わなくなっている記述もあったので、訳者の
方から改定案を提示して、変更を了解いただいたところもある。電子メール
での著者とのやりとりは全部で 50 通近くにはなると思う。著者は、その度に
我々の疑問を解いてくださり、日本版に対しての理解と協力を惜しまなかっ
た。この場を借りて深く感謝したい。
この様な事情もあり、日本版だけにある記述もある。また、訳者の判断で、
読者に有益と思われる点については適宜、括弧や訳注の形で補った。こうし
たことは親切のつもりが行き過ぎると本をひどく読みにくくするのでバラン
スが難しかった。今後、皆さんのご批判を賜りたい。また、翻訳には細心の
注意を払ったが、何分にも浅学非才のため思わぬ間違いがあるに違いない。
これについても、読者からのお叱りを賜りたい。
末筆ながら、本書の翻訳を勧めてくれた小田垣孝博士と、出版を担当して
いただいた吉岡書店の前田重穂さんに、感謝の意を表したい。
2001 年 12 月
中西 秀
奥村 剛
275
索引
— 因子, 114
MC, ⇒ モンテカルロ
MD, ⇒ 分子動力学
— 限界, 113
漸進的 —, 111
短時間 —, 128
— パラメタ, 95, 114
Poisson 比, 88
Reynolds の膨張, 85
Signorini 条件, 246, 257
SOC, ⇒ 自己組織臨界現象
圧密緩和, 69, 97, 111, 118
— 率, 114
Burridge-Knopoff のパッド, 184
CAM, ⇒ セル・オートマトン・モ
デル
アーチ
一様荷重を支える —, 82
— 曲線, 80
— 形成, 13, 14
Coulomb の法則, 37
CPP, ⇒ 計算機構成写真
DLA, ⇒ 拡散律速凝集
EV, ⇒ 事象推進
— 効果, 78, 139, 206, 261
— 効果による上昇, 215
— 効果による閉塞, 13
膠着現象による —, 14
Faraday 不安定性, 109, 144
Hertz
— 則, 56, 82
自重で釣り合っている —, 79
— の安定条件, 78
偏析の — 効果モデル, 205
— 衝突モデル, 56
Hooke の法則, 77, 83
Hough の判定基準, 116
Janssen
アスペクト比, 95, 142
— の表式, 94
— のモデル, 91
LRV 法, ⇒ 最大相対速度法
安息角, 64, 119, 154
圧密化, 9, 124
アトラクター, 162, 225
網の目構造, 91, 128
異物, 203
大山のドラム, 198, 232
索引
276
温度, 1
実効的 —, 174, 193
粉粒体 —, 171
回転, 39, 41, 42, 47, 140
— の自己組織化, 141
回転ドラム, 193, 219
大山の —, 198, 232
シミュレーション
傾斜角, 151, 154
動 —, 153, 158
欠陥, 202
剛体球, 55, 239
膠着, 14
混合, 2, 197
カオス, 104
最急降下法, 239, 260, 264
塊, 101, 243
最小安定状態, 164
間欠的
最大相対速度 (LRV) 法, 102, 240,
— 上昇, 212
— 流れ, 13
243
再配向
— 流れから連続流への転移,
156
— ロール対流, 123
乾燥粉粒体, 2
— 係数, 90
サイロ問題, 91
時間推進法, 100
緩和角, 154, 155, 180
自己組織化
規格化された加速度, 61, 99
凝集
拡散律速 —, 230
— 状態, 105
— 相, 102
粒子の —, 108
応力 — の原理, 119
— された臨界状態, ⇒ 自己組
織臨界現象
回転の —, 141
— された表面パタン, 145
粉粒体混合物の —, 197
自己組織臨界現象, 162
— 領域, 118
— 力, 91
亀裂, 136
V 字型 —, 131
事象推進 (EV)
クーロン角, 76
始動角, 63, 154
雲, 242
砂利, 3, 4, 6
計算機構成写真 (CPP), 117
衝突, 97
計算機シミュレーション, ⇒ 数値
— 法, 100
— モデル, 239
湿気, 30
多粒子 —, 72
索引
弾性球の —, 45
— の継続時間, 240
— のシミュレーション, 243
— の線形モデル, 250
— の非線形モデル, 252
非弾性 —, 46
— 法, ⇒ 事象推進法
無限回の —, 243
粒子の塊の —, 102
277
— 領域, 214
超静力学的釣り合い, 71
雪崩, 19, 67, 154, 168
の2変数モデル, 187
— の CA モデル, 162
のスティック・スリップモデル,
175
— のモデル, 161
軟体球, 239
浸透 (sifting), 228
熱揺らぎ, 1
浸透問題, 71
パーコレーション問題, ⇒ 浸透問題
指向性 —, 228
侵入, 56
最大 — 深度, 251
数値シミュレーション, 100, 237
反発係数, ⇒ 弾性 —
実効 —, 253
接 —, 51, 54
弾性 —, 46
スティック・スリップ
光弾性効果, 77
— 運動, 42
雪崩の — モデル, 175
滑り, 39, 41, 42
非弾性
静電相互作用, 30
不安定性
接触点, 71
— ダイナミクス, 239
砲丸の山の —, 71
セル・オートマトン・モデル, 162
— 破綻, ⇒ — 崩壊
— 崩壊, 101, 255, 261
Faraday —, 22, 109, 144
層流の —, 28
表面 —, 109, 142
不規則性
線形バネ・ダッシュポット, 248
接触点の —, 71
双安定, 225
摩擦力の —, 72
双対格子, 128
対流, 111, 118
不定性
応力パタンの —, 83
振動による —, 9
傾斜角の —, 153
— と偏析, 215, 216
— による上昇, 215
接触点の —, 71
多粒子衝突の —, 72
索引
278
フラストレーションによる —,
せん断による —, 7, 199, 218
— 速度, 228, 229
対流による —, 199, 215, 216
パーコレーションによる —,
41
摩擦力の —, 72, 74, 257
部分的に引っかかったバネ, 248
浮揚, 114
199
— 加速度, 114
プラグ, 14
フラクタル, 30, 167, 225, 230
砲丸の山, 70
ブラジルナッツ
膨張
— 現象, 198
— 問題, 240, 260
フラストレーション, 39, 41, 142
Reynolds の —, 85
— の原理, 30, 85
ホッパー, 13
ブレーキ故障効果, 254
摩擦, 70, 72
— の応力歪関係, 82
— の接触点, 71
分岐
— 円錐, 42
乾燥 — の法則, 21
— 係数, 37
Feigenbaum —, 104
— 現象, 145
— 図, 106, 145
分子動力学 (MD), 239
— 法, 245
分離効果, 252, 255
分裂, 69, 128
分裂, 132
閉塞, 3, 13
固体間 —, 36
静止 —, 36, 37
動 —, 36, 37
— の3法則, 36
粉粒体の — の法則, 65
モンテカルロ (MC)
— シミュレーション, 260
アーチ効果による —, 13
偏析, 2, 13, 15, 197
— 法, 239
山形成, 119, 122
2種類の粒子の —, 225
柔らかい表皮モデル, 58, 247
アーチ効果による —, 199
流動
大きさによる —, 200, 205
大山のドラムの —, 232
回転ドラムによる —, 225
振動による —, 199, 204, 211
—
—
—
—
化, 69, 97
状態, 105
層, 34
相, 102
索引
履歴効果, 74, 76, 157, 259
臨界角, 155, 168
臨界状態, 162, 164
臨界直径比, 209
279
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