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カーボン・プライシングの意義 とグリーン税制改革への期待 なぜ炭素税か

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カーボン・プライシングの意義 とグリーン税制改革への期待 なぜ炭素税か
カーボン・プライシングの意義
とグリーン税制改革への期待
環境経済政策研究公開シンポジウム
脱炭素社会に向けたグリーン税制改革への期待と課題
2016年9月29日(木) 13:30-17:00 東京国際フォーラム
京都大学大学院経済学研究科 諸富 徹
なぜ炭素税か
• 経済学的正当化
1)経済厚生の最大化(外部不経済の内部化)
2)費用最小化(直接規制に対する優位性)
3)イノベーションの誘発
4)炭素価格の変動性と投資誘因(排出量取引制度に対する
優位性)
➤carbon price uncertainty↑ ⇒ value of investment option↑
⇒ delayed investment↑
5)意思決定過程における価格シグナルの明確化
6)税収の還流効果
進展するカーボン・プライシングの
活用
炭素(環境)税導入の歴史
• 欧州では、経済学者ピグーの導入提案(1920年)から
約半世紀後の1960年代末より、水質保全の領域で導
入開始
• その後、大気汚染、農薬・肥料、地球温暖化問題にま
で適用領域が広がる
• 【第1波】1990年代初頭にまず北欧諸国が炭素・エネ
ルギー税を導入
• 【第2波】2000年前後にはイギリス、ドイツ、イタリアも
炭素・エネルギー税を導入
• 【第3波】アイルランド/アイスランド(2010)、フランス
/メキシコ(2014)が導入。さらに南ア(2016)、チリ
(2018)が導入を計画。
Kennedy, Obeiter and Kaufman (2015), p.12
Kennedy, Obeiter and Kaufman (2015), p.13
Kennedy, Obeiter and Kaufman (2015), p.17
イギリスおよびドイツにおける環境税制
改革の概要
第2波の環境税導入の特徴
• 環境税導入をめぐる対立構図をどう解くか
➤環境税が経済に負の影響を与える可能性
➤税収中立により、負の影響を相殺
1)法人税ではなく、社会保険料の引き下げ
2)赤字企業への恩恵
3)環境保全と雇用の両立
• 税収中立でもエネルギー集約企業には重い
負担
➤協定制度と引き換えに税率軽減を導入
イギリス[環境税+排出量取引+協定]
➤イギリスにおける気候変動税[Climate
Change Levy: CCL]の導入(2001年 4月 1日
~)
[税率]
*LPG
0.07ペンス/kwh
*ガスおよび石炭 0.15ペンス/kwh
*電力
0.43ペンス/kwh
イギリス[環境税+排出量取引+協定]
➤税収中立的な環境税制改革
税収は、社会保険料(National Insurance Contributions:
NICs)の雇用者負担分の12.2%を 0.3%分引き下げること、
そして、エネルギー効率性改善投資に対する補助金として産
業に還付される。
➤エネルギー集約型産業の国際競争力に対する配慮
いわゆるエネルギー集約型産業に属し、政府の基準を満た
すようなエネルギー効率性改善に関する協定を政府と結ぶ
企業は、気候変動税の税率が80%割り引かれる。
➤「気候変動税」、「気候変動協定(CCA)」、「排出量取引制度
(UK ETS)」という3つの政策手段のポリシー・ミックスとなって
いる。
ドイツにおける環境税制改革
(Ökologische Steuerreform)
1.1999年の「環境税制改革の導入に関する法律」
(Gesetz zum Einstieg in die ökologische
Steuerreform)の成立
➤鉱油税の引き上げ(ガソリンは 6ペニヒ[3.07セント]
/㍑、暖房用油は4ペニヒ[2.05セント]/㍑、天然ガ
スは0.32ペニヒ[0.164セント]/kWhの引き上げ)。
➤電力税の導入(2ペニヒ[2.05セント]/kWh)
➤ただし、石炭と暖房用重油は非課税
➤減免税規定
ドイツにおける環境税制改革
(Ökologische Steuerreform)
2.2000年の「環境税制改革の継続」に関する法律
(Gesetz zur Fortführung der Ӧkologischen
Steuerreform)の成立
➤2000年から2003年にかけて4段階に分けて環境
課税を段階的に強化
3.2003年の「環境税制改革の更なる発展」に関する
法律(Gesetz zur Fortentwicklung der
Ӧkologischen Steuerreform)の成立
➤環境政策上望ましくない租税特別措置の整理縮
小と、鉱油税の税率引き上げを目的として成立
表 環境税制改革による税率引き上げの推移(単位:ユーロセント[ct])
1999
2000
2001
2002
2003
石炭(ct/kg)
-
-
-
-
-
ガソリン(ct/㍑)
3.07
3.07
3.07
3.07
3.07
暖房用軽油(ct/
㍑)
2.05
-
-
-
-
暖房用重油
(ct/kg)
-
0.26
-
-
0.71
0.164
-
-
-
0.202
液化ガス(ct/kg)
-
-
-
-
2.23
電力(ct/kWh)
1.02
0.26
0.26
0.26
0.26
天然ガス
(ct/kWh)
ドイツにおける環境税制改革
(Ökologische Steuerreform)
4.税収の取り扱い~社会保険料の段階的引下げ~
税収はほとんど全て、社会保険料の雇用者および被雇用
者負担分の引下げに用いられる。
年
1999
2000
2001
2002
2003
税収規模
43億ユーロ
88億ユーロ
118億ユーロ
146億ユーロ
188億ユーロ
社会保険料引下げ率
0.6 %
1.0 %
1.3 %
1.5 %
1.7 %
英独における環境税制改革の定量評価
英国環境税制改革の評価
(Cambridge Econometrics 2005)
1)気候変動税のアナウンスメント効果
2)気候変動協定の効果
3)気候変動税は、再生可能エネルギーとCHP
の拡大に寄与した。
4)税収中立的な環境税制改革の効果
5)CO2排出量は、2010年までに2.3%削減され
る。温室効果ガス6ガスでは2.0%減。
英国環境税制改革の評価
(Cambridge Econometrics 2005)
ドイツ環境税制改革の評価
(Bach, S. et al. 2001)
➤分析の方法
産業連関分析(PANTA RHEIモデル)と応用一般均
衡分析(LEANモデル)の両アプローチの併用によっ
て環境税制改革の効果を評価しようとしている。
➤環境税制改革のマクロ的な効果
(1)表2は、環境税制改革のGDP、雇用水準、CO2
排出量に対する効果を評価
(2)環境税制改革はGDPにほとんど負の影響を与え
ず、両モデルとも狙い通り、雇用拡大および、CO2
排出削減効果を発揮。
表 主要指標に対する環境税制改革の効果(参照シナリオからの乖離:%)
1999 2000 2001 2002 2003 2005 2010
PANTA
RHEI
モデル
GDP
-0.13 -0.24 -0.33 -0.48 -0.56 -0.61 -0.54
雇用
0.10
CO2排出
LEAN
モデル
0.23
0.31
0.34
0.42
0.47
0.51
-0.42 -1.10 -1.52 -1.94 -2.30 -2.35 -2.21
GDP
0.24
0.12
0.03
0.09
0.10
0.02
-0.10
雇用
0.58
0.43
0.34
0.55
0.64
0.56
0.49
CO2排出
-0.78 -1.80 -2.25 -2.49 -2.81 -2.85 -3.00
ドイツ環境税制改革の評価
(Bach, S. et al. 2001)
➤環境税制改革が各産業に及ぼす影響
(1) 環境税制改革は、エネルギー産業に大きな影響
(2)これに対して、投資財産業はむしろ製品価格の下
落を享受。ドイツ産業の国際競争力の観点からは
好ましい
(3)雇用効果は建設業で最大。労働集約的なサービ
ス業でも雇用効果は大きい。
(4)減免規定の効果によって、エネルギー産業、素材
産業、そして化学産業の価格上昇は最小。他方、こ
れらの産業は労働集約的ではないため、社会保険
料引き下げの効果が小さい。
表 環境税制改革が各産業セクターに対して与える影響(2003年におけ
る参照シナリオからの乖離:%)
PANTA RHEIモデル
LEANモデル
製品価格
雇用
特殊エネル
ギー価格
製品価格
雇用
農業
1.98
0.80
7.67
0.30
0.10
エネルギー
産業
10.16
-0.53
1.91
-0.37
-1.72
素材産業/
化学
0.18
0.49
1.27
0.29
-0.21
投資財生産
-0.12
0.33
2.38
0.31
-0.03
消費財生産
0.50
0.38
2.47
0.35
0.21
建設業
0.30
1.19
9.93
0.41
0.66
運輸業
0.81
-0.21
10.84
0.61
0.63
サービス業
0.39
0.46
9.87
1.04
1.29
公共部門
0.71
0.67
8.36
0.53
0.78
総生産部門
0.77
0.50
英独環境税制改革の意義
➤税収中立的な環境税制改革であれば、経済成長や
雇用に負の影響を与えることなく温室効果ガス排出
削減が可能に。
➤エネルギー集約産業には、国際競争力維持の観点
から負担軽減措置も必要。政府との協定締結により、
軽減税率適用の途を切り開くことができる。
➤先行して福祉国家化した英独の企業にとって、増大
する社会保険料負担の軽減は、環境税導入容認の
大きな要素だった。
⇒同じ課題に直面する日本にとっても、大きな教訓
日本の地球温暖化対策税(温対税)
温対税
• 2010年12月16日に税制改正大綱で閣議決
定、2012年10月1日施行
• 温室効果ガスの排出に比例し、化石燃料に
課税。税収はすべて、地球温暖化対策に充
てられる
• 温室効果ガス排出削減のための政策手段で
あると同時に、その対策財源の調達を目的と
した、二重の目的をもった税
石油石炭税を活用して導入
• 温対税は、現行の石油石炭税に、CO2排出
比例課税を上乗せする形で導入
• 石油石炭税とは、化石燃料の輸入段階で石
炭、石油、天然ガスなどあらゆる化石燃料に
課税
• その税収はすべて、「石油及びエネルギー需
給構造高度化対策特別会計」を通じて温暖
化対策に特定化
【参考】石油石炭税とは?
• 石油石炭税は、石油ショックを受け、その対策財源として1978年に
「石油税」として創設
➤石油利用の便益に着目した応益課税として導入
➤税収は1980年以降、石油代替エネルギー対策に、そして1993年
度以降は省エネルギー対策などに拡充
• 1984年度税制改正で、石油及び石油代替エネルギー対策財源の確
保を図る等のため、ガス状炭化水素(LPG、LNG等)を課税対象に追
加
➤1988年度税制改正で、課税方式を従量税化
• 2003年度税制改正では、支出面で温暖化対策の観点が付け加わり、
燃料間での負担の公平を図る観点から、石炭を課税対象に追加。
名称も「石油石炭税法」に改称
• 2012年10月から全化石燃料に対して、CO2排出量に応じた税率を
上乗せした「地球温暖化対策のための税」が実施
石油石炭税と、その他の化石燃料課税
課税対象
課税標準
上流
天然
ガス
税目
課税標準
下流
税目
石油・石油製品
石炭
電力
ジェ
ガソ
軽油 LPG 灯油 重油 ット 石炭
リン
燃料
電力
石油石炭税
天然
ガス
ガソ 軽油 石油
リン 引取 ガス
税
税
税*
航空
機燃
料税
電源開発
促進税
は現行税制の下で課税されている課税対象を示す。
*「ガソリン税」とは、揮発油(=ガソリン)に課税ベースを置く「揮発油税」と「地方道路税」を総称する名称である。
温対税の評価と今後のさらなる
炭素税活用に向けて
パリ協定の特徴と、求められる
一層の排出削減
• 目標
1)「2度未満」目標
パリ協定全体の目的として、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2度未満に抑えることが掲げら
れ、とくに1.5度以内に抑える必要性に言及がなされた。
2)長期目標
今世紀後半に、世界全体の温室効果ガス排出量を、生態系が吸収できる範囲に収めるという目標が掲げ
られた。これは、人間活動による温室効果ガスの排出量を、実質的にゼロにしなければならないことを意
味する。
• パリ協定の仕組み
1)5年ごとの目標の見直し
各国は、2020年以降、5年ごとに目標を見直し・提出しなければならない。
2)より高い目標の設定
5年ごとの目標の提出の際には、各国は、それまでの目標よりも高い目標を掲げなければならない。
3)検証の仕組み
各国の削減目標に向けた取り組みは、定期的に計測・報告し、かつ国際的な検証を受けることになった。
石炭火力発電所新設ラッシュによ
る温室効果ガス排出急増の恐れ
• なぜ、このようなことになるのか?
1)電力自由化で発電事業への新規参入が容易に
2)燃料としての石炭の価格優位性
3)だが、温室効果ガス排出の外部費用は内部化さ
れていない
• 環境アセスで石炭火力発電所の新設をコント
ロールできないなら、価格付けにより外部費
用を負担させ、事業者の(誤った)経済計算を
是正すべき
電源構成への炭素価格の影響
Kennedy, Obeiter and Krause, (2015), p.8
天然ガスと石炭火力の発電価格の相関関係
Kennedy, Obeiter and Krause, (2015), p.9
温対税率のさらなる引き上げは
不可避
• 日本が国連に提出した排出削減目標の達成(2030
年度に2013年度比-26.0%[2005年度比-25.4%])
• 政府は2016年5月13日に、2050年までに温室効果
ガス排出の80%削減を長期目標とする地球温暖化
対策の計画を閣議決定
• 以上の内外情勢を踏まえると、現行のきわめて税
率の低い温対税が不十分であることは明らか
• 上記目標達成のために、温対税率を引き上げ、価
格インセンティブ効果を高めていくべき
電力需要の価格弾力性
Kennedy, Obeiter and Krause, (2015), p.10
ガソリン価格と燃費の関係
Kennedy, Obeiter and Krause, (2015), p.19
環境税制改革の実施を
• 温対税の税率を、まずは、インセンティブ効果が十
分に発揮される水準に引き上げるべき
• だが、その経済的影響は大きくなる
• 影響を相殺すべく、別途減税を行い、税収中立的な
環境税制改革の枠組みとすることが望ましい
• 税収は、温暖化対策の補助金に特定化するのでは
なく、日本の経済社会の喫緊の将来課題の解決に
資する減税に用いる
• 今後の社会保険料負担の著増を抑えるべく、その
水準の引き下げ/上昇抑制に用いるべきでは?
グリーン・イノベーションと環境税
~望ましいポリシー・ミックスのあり方~
環境税、あるいは環境規制が引き起こす
イノベーション
• イノベーション促進手段としての環境規制
• OECDの研究(⇒最後のスライドの「参考文献」
参照)によれば、環境政策の導入が厳格になれ
ばなるほど、イノベーションの可能性が高まると
の結論
• 最新の研究成果に基づいて、その証拠がいくつ
も提示されている
• ただし、スマートな環境規制を設計することが重
要
• 環境政策手段は、たんなる環境保全のための手
段としてだけでなく、一種の産業政策手段として
の色彩を強めつつある
事例としての「スウェーデンNOX
課徴金」
• 1992年に導入、現在、25KWh以上の有用エネ
ルギー生産を行う約400の固定発生源が対象
• 課徴金収入はすべて、課徴金の課税対象者に、
その有用エネルギー生産量に応じて還付
• 平均的な原単位の排出者は、ちょうど課徴金
負担と還付額が等しくなる
• これは排出者に、有用エネルギー生産あたり
のNOX排出量(NOX排出原単位)を最小化する
強力なインセンティブを付与
事例としてのEU ETS
Kennedy, Obeiter and Krause, (2015),
p.16
炭素価格はどのようにして
イノベーションを引き起こすのか
現時点での低炭
素技術の市場
シェア拡大
企業は、低炭
素技術に関す
る経験を獲得
低炭素技術の
改善
強く予測可能な
炭素価格
低炭素技術の将
来の市場シェア
拡大
低炭素技術の
開発と改善へ
の投資増大
Kennedy, Obeiter
and Krause, (2015),
p.16
ポリシー・ミックス「緑の成長」を
本格的な世界市場の立ち上げによる需
要増大&費用低下⇒自立した産業へ
Carbon pricingで非化石電源が相対的
に有利に
炭素税/排
出量取引
FIT
研究開発投資&金融支援
自立
買取価格を引き下げ
FITで市場を立ち上げ
補助金&金融支援
イノベーションに関する結論
• 炭素税を含めたカーボン・プライシングが、投資原
資を奪い、イノベーションを停滞させたというよく行
われる主張を支える定量的な証拠は見出されない
。
• 逆に、カーボン・プライシングがイノベーションを促進
したという定量的な証拠は、時間が経つとともに積
み上がっている。
• 低炭素社会への移行にイノベーションが不可避だと
すれば、炭素税はそのためにきわめて有効な手法
である。
参考文献
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
Bach, S. et al.(2001), Die ökologishe Steuerreform in Deutschland, Physica-Verlag.
Cambridge Econometrics (2005), Modelling the Initial Effects of the Climate Change Levy:
A Report Submitted to HM Customs and Excise by Cambridge Econometrics, Department
of Applied Economics, University of Cambridge and Policy Studies Institute.OECD (2009),
ECO-Innovation in Industry: Enabling Green Growth.
OECD (2010a), Taxation, Innovation and the Environment.
OECD (2010b), Interim Report of the Green Growth Strategy: Implementing Our
Commitment for a Sustainable Future:Meeting of the OECD Council at Ministerial Level,
27-28 May 2010.
OECD(2011), Invention and Transfer of Environmental Technologies.
Kennedy, K., Obeiter, M. and M. Kaufman (2015), Putting a Price on Carbon: A Handbook
for U.S. Policymakers, World Resources Institute Working Paper.
Kennedy, K., Obeiter, M. and E. Krause, (2015), Putting a Price on Carbon: Reducing
Emissions, World Resources Institute Issue Brief.
諸富徹(2000)『環境税の理論と実際』有斐閣
諸富徹・鮎川ゆりか(2007)『脱炭素社会と排出量取引‐国内排出量取引を中心としたポリシー・
ミックス』日本評論社
諸富徹・浅野耕太・森晶寿(2008)『環境経済学講義』有斐閣
諸富徹・浅岡美恵(2010)『低炭素経済への道』岩波新書
諸富徹編著(2010)『脱炭素社会とポリシーミックス』日本評論社
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