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方向性気孔を有するポーラスニッケルの 気孔形成に

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方向性気孔を有するポーラスニッケルの 気孔形成に
日本金属学会誌 第 73 巻 第 8 号(2009)618621
方向性気孔を有するポーラスニッケルの
気孔形成に及ぼす NiO 粉末の添加効果1
大 西 洋 史2
上 野 俊 吉3
中嶋英雄
大阪大学,産業科学研究所
J. Japan Inst. Metals, Vol. 73, No. 8 (2009), pp. 618
621
 2009 The Japan Institute of Metals
An Effect of Addition of NiO Powder on Pore Formation in Porous Nickel
with Directional Pores
2, S. Ueno
3 and H. Nakajima
H. Onishi
The Institute of Scientific and Industrial Research, Osaka University, Ibaraki 5670047
Porous nickel with cylindrical pores was fabricated by unidirectional solidification in a mixture gas of hydrogen and argon.
The pore size is significantly affected by the addition of NiO powder. The diameter and length of the pores decrease by the addition of NiO. The number of pores increases with increasing amount of NiO powder. The pore diameter decreases with decreasing
NiO particle size. It is concluded that NiO powder can serve as nucleation sites for the pore formation in the process of the solidification.
(Received March 9, 2009; Accepted May 11, 2009)
Keywords: porous nickel, unidirectional solidification, nucleation site, NiO powder
の気孔率と気孔径の雰囲気圧力依存性および水素分圧依存性
1.
は じ
め に
は過去の論文にまとめられている3).また,山村らは,ロー
タス銅について,気孔率および気孔径の雰囲気ガス圧力およ
ロータス型ポーラス金属(以下,ロータス金属)と呼ばれる
び水素ガス分圧の依存性から気孔形成のメカニズムを考察し
方向性気孔を有するポーラス金属は,融点における固相と液
ている9).彼らの報告では,凝固の際に,固相に固溶しきれ
相間のガス溶解度差を利用して一方向凝固法により作製され
ない過剰の水素が固液界面付近の固相を拡散して気孔へ流入
る13).荷重が気孔方向と平行に負荷された場合,ロータス
し,凝固が一方向に進行するため方向性の気孔が形成すると
金属の比強度は気孔率によらず一定であることから,ロータ
考察している9).山村らが提案した気孔形成メカニズムは,
ス金属は軽量構造材料としての応用が期待されている4).こ
凝固速度が気孔径を制御し得ることを示唆している.実際,
のロータス金属の気孔は,一方向凝固中に,固液界面で形成
ロータス金属の気孔径は凝固速度の増加とともに減少す
されることが知られている.一方向凝固の過程で,気孔内部
る68).
の圧力 P は雰囲気圧力 P0 と式( 1
P=
2g
+P 0
R
)で釣り合っている5).
(1)
ここで,g は液相の表面張力,R は気孔の曲率半径を表す.
一方,末松らは,アルゴン雰囲気下で水分の解離を利用し
たロータスニッケルの作製法を提案している10) .この方法
で作製された試料の気孔径は同じ圧力の水素雰囲気で作製さ
れた試料のそれよりも小さくなることが見出された10) .式
第一項は第二項に比べ無視できるほど小さいため,気孔内部
( 2 )に従って水分は水素原子と金属酸化物に分解する.前
の圧力 P は雰囲気圧力 P0 にほぼ等しいと考えられる.得ら
者は気孔を形成させ,後者は気孔の生成核になり得ると考え
れる試料の気孔率は,ボイルの法則に基づく雰囲気圧力や
られる.
ジーベルト則に基づく溶融金属および固相金属のガス溶解度
nH2Q(g)+mM(l)=MmQn+2nH
(2)
によって決められる.一方,ロータス金属の気孔径は凝固速
この方法で作製される試料の気孔が小さくなる原因は,水分
度に大きく依存することも知られている68).ロータス金属
が解離して溶湯のニッケルと反応して形成されるニッケル酸
化物が気孔核生成サイトになるためであると考えられてい
1 Mater. Trans. 49(2008) 26702672 に掲載
2 大阪大学大学院生,現在住友金属株式会社( Graduate Student, Osaka University, Present address: Sumitomo Metal Industries, Ltd.)
3 Corresponding author, Email: ueno23@sanken.osakau.ac.jp
る10).式( 2 )において水素と酸化物が反応して水分(H2O)が
生成される逆反応も起こるが水分はニッケル溶湯へ溶解しな
いので,気孔の形成には寄与しないと考えられる.末松らの
実験結果は,ロータスニッケルの気孔径がニッケル酸化物
第
8
号
方向性気孔を有するポーラスニッケルの気孔形成に及ぼす NiO 粉末の添加効果
619
(NiO)粉末の量と粒径により制御できることを示唆している.
切り出した縦断面および横断面試料は光学顕微鏡
そこで本論文では,ロータスニッケルの気孔径を制御する
( KEYENCE 社製, VHX )および走査型電子顕微鏡( JEOL
ことを目的として,水素雰囲気下で予め NiO 粉末を添加
社製,JSM6360T)で観察した.試料の気孔率は,試料底部
し,ロータスニッケル中に形成された気孔サイズを調べ気孔
から 5 mm 離れた位置で凝固方向に垂直に切断した横断面試
形成に及ぼす NiO 粉末の量および粒径の影響を明らかにし
料の顕微鏡写真を用い,画像解析ソフト(Mitani 社製,Win-
たので,その結果を報告する.
Roof)により計算した.
2.
実 験
方 法
3.
結 果 と 考 察
ロータスニッケルは,アルゴンと水素の加圧混合ガス雰囲
粒 径 が 7 mm の NiO 粉 末 0.5 g を 用 い , ア ル ゴ ン 0.65
気下でロータス型ポーラス金属作製装置を用いて溶融ニッケ
MPa 水素 0.15 MPa の加圧混合ガス雰囲気下で作製した
ルを鋳型で凝固する方法で作製された.純度 99.9 のニッ
ロータスニッケルの凝固方向に平行の断面および垂直の断面
ケルインゴット(電解ニッケル,住友金属鉱山社製)120 g を
写真を,それぞれ Fig. 1(a)および(b)に示した.これらの写
アルミナるつぼの中で高周波加熱して溶融させ,底部が銅製
真はともに試料底部から 5 mm 離れた箇所での断面である.
の水冷チラーで側面がモリブデンシートで形成される鋳型に
一方,Fig. 1(c)および(d)には,NiO 粉末を用いずに同じ加
注湯した.鋳込み時の溶湯温度は放射温度計(CHINO 社製,
圧ガス雰囲気下で作製したロータスニッケルの凝固方向に平
で一定とした11,12).生成される気
行の断面および垂直の断面写真を示した.( b )および( d )か
孔のサイズを制御するために,粒径が異なる以下の 3 種類
ら得られた気孔率および気孔径は,それぞれ,29,31 mm
IRAP)で測定し,1873 K
の NiO 粉末を用いた. 7 mm (純度 99 ,高純度化学研究所
および 62 , 427 mm であった.明らかに( d )の気孔径は
製), 0.8 mm (純度 98 ,キシダ化学社製)および 0.01 mm
(b)よりも大きい.一方,(a)および(c)の断面写真から計算
(純度 99.8 , Aldrich 社製).所定量の NiO 粉末は,注湯
される気孔のアスペクト比はそれぞれ 2.2 および 4.7 であ
する前に水冷チラーの上に置いた.今回の実験では,水分に
り,前者の方が小さい.すなわち, NiO 粉末を添加すると
よる気孔形成を抑制する目的で,モリブデン製の鋳型側面へ
気孔の成長が抑制された.一方向凝固の際,固相に溶解しき
は離型剤を塗布しなかった.得られた凝固材は,ワイヤーカ
れない過剰の水素は固相から拡散によって気孔に流入すると
ット放電加工機(Sodick 社製,EX21)により凝固方向に平行
考えられる.気孔の数密度が増加すると,個々の気孔へ拡散
方向(縦方向)および垂直方向(横方向)に切断した.
流入する水素量が減少することから,気孔は凝固方向へ長く
Fig. 1 The longitudinal cross section (a) and transversal cross section (b) views of Lotustype porous nickel fabricated in mixture
gas of 0.65 MPa Ar and 0.15 MPa H2 using NiO powder whose weight is 0.5 g and particle size is 7 mm. (c) and (d) shows the longitudinal cross section and transversal cross section views of Lotustype porous nickel fabricated in the same atmosphere without
NiO powder, respectively. The longitudinal and transversal cross sections mean the sections of the samples parallel and perpendicular to the solidification direction.
620
第
日 本 金 属 学 会 誌(2009)
73
巻
成長することが困難となる.したがって, NiO 粉末を添加
によって, Fig. 3 に示すように気孔率が NiO 粉末の添加量
することにより気孔の生成核が増加すると,気孔のアスペク
とともに増加する結果を説明できる.気孔率は添加する
ト比が小さくなると考えられる.気孔径は NiO の添加によ
NiO 粉末の粒径に依存しない.
り減少し,気孔の数密度は NiO の添加により増加するの
Fig. 4 には,ロータスニッケルの平均気孔径の添加 NiO
で,添加した NiO 粉末は気孔の生成核になっていると考え
粉末粒サイズ依存性を示した.気孔径は添加する NiO 粉末
られる.
の粒径の減少とともに減少することが見出された.同量の
アルゴン 0.65 MPa水素 0.15 MPa の雰囲気下で,粒径が
NiO 粉末添加を考えた場合, NiO 粉末の粒径が減少すると
0.01 mm の NiO 粉末を 0.1 および 0.3 g 添加して作製した
NiO 粒 子の数が増加するため 気孔の数が増加し,そ の結
ロータスニッケルの凝固方向に平行の断面を,それぞれ,
果,気孔径が減少すると考えられる. NiO 粉末添加により
Fig. 2 (a )および( b)に示した. NiO 粉末を 0.1 g 添加した試
気孔形成に寄与する水素原子量が増加するので,平均気孔径
料の気孔長は, 0.3 g 添加した試料に比べ長くなることが判
は NiO 添加により単調に増加すると考えられる.
る.図( b )の試料中の気孔核生成サイトの数は,添加した
NiO 粉末量に依存し,図( a )の試料中のそれよりも多くな
4.
ま
と
め
る.過飽和の水素原子は,固液界面付近の固相を拡散して気
孔へ流入することから,気孔の数密度が高くなると,気孔を
アルゴンと水素の加圧混合ガス中で,一方向凝固により
凝固方向へ成長させるに必要な水素原子が不足し,気孔長が
ロータスニッケルを作製した. NiO 粉末を添加することに
短くなると考えられる.
よって,ロータスニッケルの気孔径を小さくすることができ
Fig. 3 には,NiO 粉末の量に対する気孔率の変化を示した.
た.添加する NiO 粉末の量と粒径は,得られるロータスニ
Fig. 3 に 示 す 試 料 は す べ て ア ル ゴ ン 0.85 MPa 水 素 0.15
ッケルの気孔率,気孔径および気孔形態(アスペクト比)に影
MPa の雰囲気下で作製された.気孔率は NiO 粉末の添加量
響することを見出した.気孔径は NiO 粉末の粒径に強く依
とともに増加する.以前の報告では,融点におけるガス溶解
度差に相当するガスのおよそ半分は雰囲気へ逃散し,気孔の
形成には寄与しないことが示唆されている9).しかし, NiO
粉末を添加して気孔の生成核の数を増加させることにより,
より多くの過剰の水素原子が気孔に捕捉されると考えること
Fig. 3 Dependence of porosity on the mass of NiO powder
with different size of the particles. Lotus nickel was fabricated
in mixture gas of 0.85 MPa Ar and 0.15 MPa H2.
Fig. 2 The longitudinal cross section views of the sample
fabricated in mixture gas of 0.65 MPa Ar and 0.15 MPa H2. 0.1
g (a) and 0.3 g (b) of NiO powders of 0.01 mm in size were added.
Fig. 4 The average pore diameter of lotus nickel as a function
of mass of NiO powder with different size of the particles. Lotus
nickel was fabricated in mixture gas of 0.85 MPa Ar and 0.15
MPa H2.
第
8
号
方向性気孔を有するポーラスニッケルの気孔形成に及ぼす NiO 粉末の添加効果
存する.これらの結果から,添加する NiO 粉末が気孔形成
のための核生成サイトとして作用していると考えられる.
本研究は大阪大学大学院工学研究科
グローバル COE プ
ログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」の研
究助成および大阪大学産業科学研究所附属新産業創造物質基
盤技術研究センター・材料基盤研究プロジェクトにより行わ
れた.
文
献
1) O. Knacke, H. Probst and J. Wernekinck: Z. Metallkde.
70(1978) 18.
2) V. I. Shapovalov: MRS Bull. 19(1994) 2428.
621
3) H. Nakajima: Prog. Mater. Sci. 52(2007) 10911173.
4) S. K. Hyun, K. Murakami and H. Nakajima: Mater. Sci. Eng. A
299(2001) 241248.
5) H. Fredriksson and U. Akerlind: Materials Processing during
Casting, (John Wiley & Sons, Ltd., Chichester, England, 2006)
p. 262.
6) J. S. Park, S. K. Hyun, S. Suzuki and H. Nakajima: Acta Mater.
55(2007) 56465654.
7) S. K. Hyun and H. Nakajima: Mater. Lett. 57(2003) 31493154.
8) T. Ikeda, T. Aoki and H. Nakajima: Metall. Mater. Trans. A
36(2005) 7786.
9) S. Yamamura, H. Shiota, K. Murakami and H. Nakajima:
Mater. Sci. Eng. A 318(2001) 137143.
10) Y. Suematsu, S. K. Hyun and H. Nakajima: J. Japan Inst. Metals
68(2004) 257261.
11) H. Onishi, S. K. Hyun and H. Nakajima: Mater. Trans.
47(2006) 21202124.
12) H. Onishi, S. K. Hyun, H. Nakajima, S. Mitani, K. Takanashi
and K. Yakushiji: J. Appl. Phys. 103(2008) 093539.
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