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浸出水貯留池におけるマイクロバブル硝化 のエンクロージャー実験と水質

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浸出水貯留池におけるマイクロバブル硝化 のエンクロージャー実験と水質
神戸大学都市安全研究センター
研究報告,第19号,平成27年 3 月
浸出水貯留池におけるマイクロバブル硝化
のエンクロージャー実験と水質解析
An In-situ Experiment on Nitrification of Municipal Landfill
Leachate and Water Quality Modeling of Leachate Nitrification
田中健治 1) ,道奥康治 2) ,井上晃介 3) ,田中大也 4) ,中道民広 5),八木正博 6) ,和田有朗 7)
Kenji TANAKA, Kohji MICHIOKU, Kohsuke INOUE, Hiroya TANAKA,
Tamihiro NAKAMICHI, Masahiro YAGI and Nariaki WADA
概要:1970-80年代に都市ゴミを埋め立てた処分場から,現在もなお,高濃度のアンモニア態窒素を含む汚染
水が浸出している.浸出水は嫌気的であり生物化学的な窒素除去工程の第一段階は硝化である.浸出水負荷
の突発的変動に追随可能で,かつ効率的な窒素除去を目指し,マイクロバブル技術を用いた浸出水貯留池の
曝気・硝化を実施した.曝気量,浸出水負荷流量,担体量,反応槽容量などの条件が硝化効率に及ぼす影響
を明らかにするために,貯留池内にエンクロージャー(隔離水塊)を設置し,曝気にともなう水質挙動を計
測した.また,硝化菌の消長,溶存酸素・窒素・有機物収支などを考慮した水質モデルによって浸出水の硝
化特性を再現し,硝化効率に及ぼす制御諸因子の影響を定量的に評価した.
キーワード:leachate, nitrification, micro-bubble, enclosure, carrier
1.はじめに
社会の発展・繁栄の代償として,1960年代半ばから廃棄物の海域・陸上への埋め立て処分が開始し,今日
では全国に2,000箇所近くの処分場が管理されている.特に,山間内陸部の埋立地が多く,降雨後には廃棄物
堆積層が洗い出しを受けて高い汚濁負荷をもたらし,受水域への環境負荷が懸念される.1977年の「廃棄物の
処理及び清掃に関する法律(廃掃法)」改正により浸出水処理施設が整備されたが,すでに数十年を経て老朽
化した施設が多い.一方,埋立地盤の安定化により浸出水の汚濁負荷は経年的に減少しており,現行の集中
的処理から省力的な簡易処理による持続的水質管理へと戦略を転換することが必要である.
本研究で対象とする廃棄物処分地は,未処理の都市ゴミや生屎尿が埋め立てられた山間埋立地であり,今
もなお30-100mg/l程度のアンモニア態窒素NH4-Nを含有する汚染水が浸出している.貯留池に集水された浸出
水は,排水処理施設において500~1,000m3/day程度で硝化・脱窒処理され河川へ放流されている.施設が老
朽化しているため,早期に閉鎖し省力的工程の窒素処理へと転換しなければならない.
埋立地浸出水に対しては,硝化・脱窒の生物学的処理法が用いられることが多い.著者らは,マイクロバ
ブル(MB)曝気を用いた浸出水貯留池の硝化と,水素徐放剤を炭素源とする脱窒を組み合わせた簡易処理
技術の開発を目指している.本研究では硝化工程を実証的に検討する.
浸出水の硝化には,硝化菌を馴致した微生物フィルター 1) や浸透媒質 2), 3) を用いて浸出水を無曝気で硝化す
る方法,曝気によって好気的環境を維持しながら硝化菌を活性化させる方法 4), 5) などがある.前者は省力的
技術であるが,浸出水負荷の変動には順応しにくい.後者は曝気装置を要するが,MB5)のような酸素溶解効
率の高い技術を用いれば省力化が可能である.曝気・無曝気のいずれにおいても,酸素環境に加えて硝化菌
の活動が律速因子であるため,酸素環境に加えて担体・活性汚泥投与 6), 7) がもう一つの技術的課題である.
このように,硝化と脱窒を個別の処理系で進める方式の他に,硝化・脱窒を単一反応系で進行させる回分式
― 192 ―
活性汚泥法 8) や回転円板法 9) がある.
以上の硝化技術では,いずれも下水処理場など集中管理がなされ
た施設での排水処理を想定している.しかし,埋立まもない段階で
の数百~数千mg/lにも及ぶ高いNH4-N負荷ではなく,年月を経て負
荷が低減しつつある処分地においては,より簡易で経済的なシステ
ムを開発し,老朽処理施設を速やかに閉鎖することが求められる.
本研究では,嫌気的な浸出水貯留池に MB 曝気を施工し,少ない
エネルギーで高い硝化効率を実現することを目指している.すでに
貯留池では 50 基の MB エアレータが稼働してお
り 10) ,浸出直後の水より好気的環境が形成されて
いる.しかし,硝化菌の活動は低調で,貯留池に
供給された溶存酸素の硝化への活用が不十分であ
る.そこで,貯留池へ担体を投入し,硝化菌の活
性化を図る.担体量,浸出水負荷量,貯留容量な
どの条件が硝化効率に及ぼす影響を明らかにする
ために,貯留池内にエンクロージャー(隔離水塊)
を設置して曝気にともなう水質挙動を計測した.
また,硝化菌の消長,溶存酸素・窒素収支などを
考慮した水質モデルによって貯留池における浸出
水の硝化特性を再現し,硝化効率と関連因子との
関係を明らかにした.浸出水貯留池の硝化促進方
策を講ずる上で有用な知見が得られた.
2.実験方法
(a) エンクロージャー
(c) エアレータ・ユニット
(b) 硝化担体 (d) 水中ポンプとエアレータ
表-1 実験条件の推移
(実験Ⅰ:2011 年 1 月 6 日~5 月 30 日)
いて2011年1~11月の期間に実施された.貯留池内
に,縦1.6×横1.6×深さ1.5m,内表面積が約12.0m2
のエンクロージャーを二重のビニールシートで形
成した(写真-1(a)).1個あたりの表面積が0.02m2
のPE製担体(写真-1(b))をロープで数珠繋ぎにし
て480個(全表面積:9.6m2)あるいは960個(全表
面積:19.2m2 )投入した.写真-1(c), (d)のエアレ
5)
ータを用いて約0.5l/minの送気量でMB曝気 を施
した.2010年7月8日より予備実験を開始し,担体
日 付
日数
Run No.
1月6日
↓㻌
1 月 25 日
↓㻌
2 月 14 日
↓㻌
3月1日
↓㻌
4 月 12 日
↓㻌
4 月 28 日
↓㻌
5 月 18 日
↓㻌
0
1
19
2
5 月 26 日
への微生物の馴致,溶存酸素の回復状況,エンク
↓㻌
5 月 29 日
↓㻌
5 月 30 日
ロージャーの水密性,曝気装置の性能などを確認
に実験システムを示す.
写真-1 エンクロージャーの硝化実験に用いた装置
実験は,最大容量20,000m3 の浸出水貯留池にお
した後,2011年1月から本実験を開始した.図-1
図-1 実験の概念図
曝気時間
3
54
4
5
112
6
132
7
140
0個
内水交換(100%)
内水交換(40%)
0hr/day
96
作 業
480 個
16hr/day
39
担体
480 個
内水交換(40%)
内水交換(100%)
0個
20hr/day
480 個
内水交換(100%)
内水交換(100%)
内水交換(100%)
DO 計交換
8
0個
143
曝気停止
0hr/day
144
実験終了
本実験は以下の二種類を実施した.
《実験Ⅰ》(2011 年 1 月 6 日~5 月 30 日)
エンクロージャーに流入負荷を与えず,完全閉鎖系とした.表-1 のように曝気時間・担体投入量を変更す
るとともに,エンクロージャー内の NH4-N が酸化され枯渇すると,貯留池水と交換して硝化を再開するなど,
実験環境を更新した.
《実験Ⅱ》(2011年6月13日~12月1日)
浸出水負荷を連続的に与えるために,エンクロージャーへ貯留水(少し曝気された浸出水)を流量1,340ℓ/day
で給水し,同量を排水した.表-2に実験条件・作業内容を要約する.担体が硝化速度に及ぼす影響を確認す
るため,同表のように担体量を480個→0個→480個→960個→0個→960個→0個と変化させた.また,担体と浸
出水の接触を促進するために,水中ポンプを用いてエンクロージャーの内水を1日あたり2hrあるいは23hrな
― 193 ―
表-2 実験条件の推移
ど循環させて,硝化への影響を調べた.
約一週間毎にエンクロージャー内外から試料水
を採取し,同時に DO, pH, 水温を計測した.採水
試料から各窒素成分(NH4-N, NO2-N, NO3-N, T-N),
全有機炭素 TOC,リン酸態リン PO4-P の濃度を分
析・計量した.なお,予備実験においてエンクロ
ージャー内および貯留池の水質分布が盛夏期にお
いても水深方向に一様であることを確認しており,
エンクロージャー内外の採水・計測は1点とした.
(実験Ⅱ:2011 年 6 月 13 日~12 月 1 日)
日付
6月13
日
↓
7月4日
は,1日あたりの曝気時間を16hrから20hrに増加さ
↓
7月28
日
↓
8月4日
↓
8月11
日
↓
8月23
日
↓
8月31
日
↓
せている.それ以外の期間では担体が投入されて
9月5日
いない.
↓
9月15
日
↓
9月26
日
↓
3.実験Ⅰ(閉鎖系)
図-2は各窒素成分の濃度,図-3は溶存酸素DO濃
度の経時変化をそれぞれ示す.網がけ部は担体を
480個投入した期間であり,RUN5の4月12日以降
夏期の予備実験によってエンクロージャー内の
微生 物 が馴 致 さ れて い たた め, 実 験当 初 か ら各
RUNにおけるアンモニア態窒素NH4-Nの減少,硝
酸態窒素NO3-Nの増加が進んでいる.硝化の中間
生成物である亜硝酸態窒素NO2-Nはほとんど検出
されず,好気的環境の下で硝化が順調に進んだと
考えられる.全窒素T-Nも減少傾向を示しており,
脱窒が同時に生じていることが確認される.図-3
のように曝気によってエンクロージャー内が好気
的であるが,担体表面やエンクロージャー内壁表
面に嫌気的な脱窒菌層が局所的に形成され,予備
実験期間に投与されたリン酸で活性化した脱窒菌
が残留していたことが脱窒を緩やかに進めた原因
日数
曝気
時間
0
担体
内水
循環
負荷
流量
0個
1
MB点検
一時中断
0hr/da
y
45
52
59
71
実験再開
2
480個
3
112
↓
11月1
日
141
150
23hr/d
ay
2hr/da
y
1,340
l
/day
5
22hr/d
ay
94
105
2hr/da
y
4
79
84
作 業
480個
21
10月3
日
11月10
日
↓
11月15
日
↓
11月24
日
↓
12月1
日
Run
No.
960個
台風
一時中断
0hr/da
y
実験再開
担体集中
23hr/d
ay
6
台風の影
響
担体を均
等
に再配置
7
8
0個
9
960個
2hr/da
y
装置閉塞
一時中断
155
164
0個
171
0
l
/day
閉鎖系実
験開始㻌
実験終了㻌
と推察される.
担体投入・曝気時間が硝化速度に及ぼす影響を
確認するために,水質濃度の時間変化から算出さ
れる各窒素成分の増減速度を図-4に示す.担体投
入期 間 (網 が け 部) に おい て非 投 入期 間 よ りも
NH4-Nの減少あるいはNO3-Nの増加が大きく,担
体の硝化促進効果が確認される.しかし,季節進
行にともなう水温増加や曝気時間が硝化速度に及
ぼす影響は必ずしも明確に見えない.硝化速度と
水温との関係については,後述の実験Ⅱの結果と
併せて総括的に評価する.
図-2 窒素各成分の経時変化(実験Ⅰ:閉鎖系)
4.実験Ⅱ(流水系)
同様に 1,340ℓ/day の浸出水負荷を伴う実験Ⅱにおいて,流入水(貯留池の浸出水)とエンクロージャーか
ら流出水を採水・分析した.T-N ならびに(NH4-N, NO3-N)の濃度推移を図-5 と図-6 にそれぞれ示す(NO2-N
については 1.0~3.0mg/l の低濃度で推移しており省略).各図の網がけ部(疎)は担体 480 個,網がけ部(密)
は 960 個を投入した期間である.また,各 RUN における内水循環の時間(0, 2, 23hr/day)を図の上段に記載
している.全期間を通して曝気時間は 22hr/day である(表-2).
― 194 ―
図-5を見ると,流入水に比べて流出水ではT-N
が減少し,実験Ⅰと同様に,エンクロージャー内
で脱窒がわずかに進行していることがわかる.一
方,図-6に見られるように,全期間を通しNH4-N
が流入水よりも流出水で10mg/l程度減少している.
NH4-Nの削減と同程度にNO3-Nの増加が流出水で
検出され,MB曝気による硝化が認められる.な
図-3 溶存酸素 DO の濃度(実験Ⅰ:閉鎖系)
お,9月上旬において,「流入水-流出水」間での
T-NとNH4-Nの大小関係が逆転している.これは,
表-2に注記したように,台風による多量の雨水が
残流域から貯留池へと直接流入し,浸出水を希釈
したためである.
図-7 の DO 濃度に着目すると,エンクロージャ
ー内で MB 曝気を行っているにも関わらず,流出
水は流入水より 4.0mg/l 程度低い濃度を示す.こ
れは,DO が NH4-N から NO3-N への硝化に消費さ
れ,実験Ⅰの閉鎖系とは異なり DO が余剰とはな
らなかったことによる.
前述のように,窒素濃度の時間変化率から算出
された硝化・脱窒速度を図-8 に示す.T-N の減少
(脱窒)は実験Ⅰにおいてわずかであったのに対
図-4 窒素成分の増減速度と水温の経時変化
(実験Ⅰ:閉鎖系)
し(図-4),実験Ⅱでは硝化・脱窒ともに大きな値
図-6 アンモニア態窒素 NH4-N,硝酸態窒素 NO3-N
図-5 全窒素 T-N の経時変化(実験Ⅱ:流水系)
の経時変化(実験Ⅱ:流水系)
図-7 溶存酸素 DO の濃度(実験Ⅱ:流水系)
― 195 ―
図-8 窒素成分の増減速度と水温の経時変化
(実験Ⅱ:流水系)
を示している.その第一の原因としては,実験Ⅰよりも暖
かい季節から実験を開始し,微生物活動が活発であったこ
とが考えられる.第二の原因としては,閉鎖系で実施され
た実験Ⅰでは硝化素材としての NH4-N が硝化とともに欠
乏していったのに対し,実験Ⅱでは,高濃度の NH4-N が連
続的に供給され,硝化を高い水準に保ち続けたことが考え
られる.このような水温や NH4-N 濃度が硝化速度に及ぼす
影響は,水質モデルに基づいて次節で検証される.
5.硝化速度に及ぼす水温・アンモニア態窒素濃度の影響
本実験を通し,硝化が水温や NH4-N 濃度によって制御さ
れる状況が示された.別途,著者らは浸出水の窒素収支を
再現・予測するための水質モデル 11), 12)の開発に取り組んで
いる.そこで,水質モデルに含まれる制御関数を用いて硝
化に及ぼす水温と NH4-N 濃度の影響を検証する.
図-9 (水温,NH4-N 濃度)と
硝化速度との関係
ある水質項目の濃度C jに着目すると,エンクロージャー
内の水質収支は次のように表わされる.
dC j
(1)
 Q IC jI  Q OC j  V  S (C j )
dt
ここで,V: エンクロージャーの容積,CjI : 成分 j の流入濃度,QI: 浸出水の流入量,QO: 流出量(実験Ⅱで
は QO = QI ≡Q,実験Ⅰでは Q=0),SC jエンクロージャー内における C j の生産・消費フラックスである.
V, C jI , QI )は既知であり,水質モデルの性能は SC jの精度に依存する.
今,水温と NH4-N 濃度の制御に着目して NH4-N の消費速度 SNH4,すなわち硝化速度を次式のようにモ
V
デル化する.
S ( NH 4 )  R0  θ T 20 
M
NH 4
f j ( j )

C N1  NH 4 j 1
(2)
ここで,NH4 :アンモニア態窒素濃度,R0: 20℃で他の制御因子の律速を受けない基準状態での硝化速度,θ:
温度補正係数,CN1: NH4 のミハエリス-メンテン型制御関数における半飽和定数,f j(j)水温・NH4-N 濃度
以外の律速因子j に関する制御関数(j=1,・・・M),M: 律速因子の総数である.
式(2)では,T=20℃を基準とする指数型温度制御関数を用いている.本実験ならびに浸出水の硝化・脱窒実
験における窒素収支が再現されるように水質モデル全体のパラメータを同定し,最適合値として
R0=20.0g/m3/day, θ=1.12, CN1=5.0g/m3 を得た.
本実験においては,水温と NH4-N 濃度が硝化速度を最も強く律する因子と考えられる.一方,曝気により
好気的環境に保たれているため,DO 濃度の律速をほとんど受けていない.担体数などの微生物条件が硝化
を律速している可能性はあるが,ここでは簡単のために水温と NH4-N 濃度の影響だけを検証することとする.
式(2)において f j(j)=1 と仮定し,式(2)と実験結果(図-4,図-8)を比較する.
図-9 の曲線群が式(2)であり,記号は NH4-N の濃度範囲別に分類した実験データである.硝化速度と NH4-N
濃度との関係はデータのばらつきの中に埋没して,その関係だけを抽出・評価することは難しい.しかし,
様々な不規則条件の下で実施された現地観測であることを勘案すれば,水温と硝化速度との関係はモデル式
により良好に記述されていると言える.特に,実験Ⅰの結果だけから水温への依存性を見出すことは難しい
が,実験Ⅱを含めより広汎な 1 年間の水温範囲のデータと比較すると温度制御の関数形が明確にあらわれて
いる.
6.水質モデルによる硝化過程の再現
4.では,議論を簡素化するために微生物や DO 濃度の影響を近似的に除外した.本節では,担体・内壁面
に形成された微生物膜や水中での微生物収支,MB 曝気や水面での自然曝気,さらに生物化学反応に関わる
DO 収支など,硝化に関わる全過程を考慮することにより,本実験で観測された水質挙動を再現する.
著者らの水質モデル 11), 12) に本実験の諸条件を代入して,水質シミュレーションを実施した.モデルには,
各窒素成分,有機物,リン酸,DO などの物質収支の他,アンモニア酸化菌,亜硝酸酸化菌,脱窒菌など微
生物の消長が考慮されている.本実験に加えて,硝化・脱窒に関する室内実験との適合性も確認済みである.
― 196 ―
図-10には,各窒素成分ならびにDO濃度の時系
列を示す.曲線群は水質モデルで再現した解析結
果で,記号は実験値である.流入水の濃度は水質
解析の流入条件として使われており,解析との比
較対象は流出水の水質濃度である.
不確定要素の多い現地実験であることを勘案す
れば,実験Ⅰ(閉鎖系)ならびに実験Ⅱ(流水系)
のいずれに関しても,水質の時系列が本モデルに
より良好に再現されている.エンクロージャー実
(a) アンモニア態窒素 NH4-N
験の処理対象容量は室内実験のそれよりも相当大
きく,水質解析で仮定しているようにエンクロー
ジャー内が完全に均質とは限らない.そのため実
験では,各水質成分の変化の影響がエンクロージ
ャー全体に広がって硝化に及ぶまでに時間を要し
ているはずである.特に,系外の異なる水質が絶
えず流入する実験Ⅱでは,エンクロージャー全域
に流入水が行き渡るのに時間を要するのに対し,
水質モデルでは瞬時に一様化すると考えている.
(b) 亜硝酸態窒素 NO2-N
そのため,水質モデルにおけう硝化は実験よりも
速やかに進み,NO3-Nがやや過大に評価される傾
向にある.NO2-Nは不安定な中間生成物質である
ため,NO2-Nの基準硝化速度を大きく設定したが,
それでも,硝化実験Ⅰの初期段階におけるNO2- N
の解析値は残留気味に評価されている.NO3-N,
DOに関する「解析-実験」間のずれは, NH4-N→
NO2-Nのアンモニア酸化を過大に評価しているこ
とによる.詳細を見るとこのように,モデルパラ
メータ再調整の余地はあるが,硝化過程が概ね再
(c) 硝酸態窒素 NO3-N
現されている.
実験Ⅰでは,実験条件の変更時に試料水を入れ
替えている.一方,実験Ⅱでは流出入を中断せず
に継続している.硝化は微生物反応であるため,
試料水の入れ替えや流出入による水中の微生物濃
度の一時的減退や再馴致などを水質モデルに反映
すれば,硝化の鈍化傾向をより的確に再現し得る
と考えられる.
7.むすび
都市ゴミ埋立地からの浸出水は嫌気的で高濃度
のアンモニア態窒素を主成分とすることから,硝
(d) 溶存酸素 DO
図-10 水質時系列の実験値と数値解析の比較
化が生物化学的処理における窒素除去工程の第一段階である.本研究では,浸出水の効率的硝化を目指して,
浸出水貯留池のMB曝気に関する現地実験と水質解析を実施した.硝化促進に必要な微生物条件を検討する
ために,貯留池内にエンクロージャー(隔離水塊)を設置して微生物担体を投入し,曝気量,浸出水負荷量,
担体量,処理容量,水温などが硝化効率に及ぼす影響を明らかにした.また,窒素収支を再現するために,
微生物の消長,溶存酸素・窒素・有機物収支などを考慮した水質モデルを適用し,本実験で観測された浸出
水の硝化特性が良好に再現された.今後,硝化に加えて脱窒を同時に進行させるために,エンクロージャー
に脱窒用担体や水素徐放剤を投入し,窒素除去の実証実験を実施する予定である.さらに浸出水の簡易処理
― 197 ―
システムの諸元を検討するために,現場実験の再現性を確認した水質モデルを適用する予定である.
謝辞:実験データの整理にあたり,神戸大学工学部学生,池田俊一,黒田將嵩の両氏のご協力を頂いた.記
して謝意を表する.
参考文献
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11) 田中健治・道奥康治・井上晃介・中道民広・八木正博・和田有朗:浸出水の硝化処理効率に及ぼす流入
負荷の影響に関する実験的・解析的検討,平成 24 年度土木学会関西支部年次学術講演会,2012.
12) 田中健治・道奥康治・八木正博・中道民広・和田有朗:浸出水の脱窒効率に及ぼす炭素・リン・微生物
環境の影響解析,第 67 回土木学会年次学術講演会,2012.
筆者:
1)
2)
3)
4)
田中健治:日本旅客鉄道㈱(元神戸大学大学院)
道奥康治:法政大学デザイン工学部,教授
井上晃介:神戸大学大学院工学研究科,前期課程
田中大也:神戸市役所(元神戸大学大学院)
5) 中道民広・八木正博:神戸市環境保健研究所
6) 和田有朗:神戸山手大学現代社会学部
― 198 ―
An In-situ Experiment on Nitrification of Municipal
Landfill Leachate and Water Quality Modeling of
Leachate Nitrification
Kenji TANAKA, Kohji MICHIOKU, Kohsuke INOUE, Hiroya TANAKA,
Tamihiro NAKAMICHI, Masahiro YAGI and Nariaki WADA
Abstract
Significant ammonia load is yielded from municipal landfill leachate in developed countries. Since the water
becomes badly anaerobic after underground infiltration, the first step for nitrogen removal process is to oxidize or
nitrify the leachate. Although various nitrification techniques have been proposed so far, most of them could be
economically feasible only in concentrated treatment of young municipal landfill where extremely high concentration
of ammonia around one thousand mg/l is released. Most of landfills, however, are already aging and ammonia
concentration decreased less than one hundred mg/l. In those cases, a more low-cost nitrification system is required
for sustainable water quality management. In this study, micro-bubble aeration was carried out in a leachate
impoundment and its performance was examined in an in-situ experiment of an enclosed water system. Monitoring
water quality, it was investigated how aeration discharge, leachate loading rate, amount of carriers affect nitrification
rate. A water quality model was developed in order to reproduce the experiment by considering biochemical
processes in the leachate nitrification system. An excellent agreement between the analysis and the experiment was
found in respect to water quality behaviors. The model is applicable in planning a prototype treatment system of
leachate nitrification.
― 199 ―
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