...

2008年度部誌 - 灘校数学研究部

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

2008年度部誌 - 灘校数学研究部
正 17 角形の作図
中学 3 年 2 組 19 番 城下 慎也
1
はじめに
本日は数学研究部にお越しいただき、ありがとうございます。
今回は定規とコンパスのみを用いた正多角形の作図について解説します。
べき
一般に定規とコンパスのみで作図可能な正 n 角形は、「nが 2 の冪であるか、
べき
異なるフェルマー素数の積と 2 の冪の積であるとき」1 となっています。
つまり、
n = 2m (m は 2 以上の整数) もしくは、
n = 2m P1 P2 …Pk (m は負でない整数) (P1 , P2 , …, Pk はフェルマー数の素数)
となります。これは、数学者ガウス (1777∼1855) が証明しました。
フェルマー数は
l
n = 22 + 1 (l は負でない整数)
の式で与えられる数です (もちろん数学者フェルマー (1601∼1665) が提示し
ました)。
従って作図できる n の値は
n = 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 15, 17, …
となります。この中で素数であるものは 3, 5, 17, … と続きますが、 ここで
は正 5 角形と正 17 角形について取り上げていきます。
1
即ち φ(n) が 2 の冪になるとき
2
証明の前に
証明の前にまず二つの補題を示したいと思います。
p
補題 2.1. ∀n ∈ N, n の長さの線分は作図可能。
証明. 帰納法により示す。
・n=1 のときは自明。
・n=k のときに描けるとすると、n=k+1 のときには
q
√ 2
√
√
n= k+1=
k + 12
√
三平方の定理より、AB=1, BC= k, ∠ABC= 90 °の直角三角形AB
√
CのAC= n となる。この条件の直角三角形ABCが描けることは明らか。
(図1)
√
従って全ての n に対し n の長さの線分は作図可能。分数も整数と平方根
に分解できるので同じ事が言える。
また、二重以上の根号に関しても、ある直角三角形の斜辺ではない一辺を
斜辺とする別の直角三角形が作図できるので、上と同様に成り立つ。
p
つまり、整数に対して四則演算、および のみを行って得られる数の長さ
の線分はすべて定規とコンパスで作図できるということになります。
µ ¶
2π
補題 2.2. cos
が上のような条件を満たす数であれば正 n 角形は作図
n
可能である。
2π
証明. ∠ A =
, AB = AC が成り立つ二等辺三角形 ABC において AB = 1
n
p
としたときに BC = 2 − 2 cos ∠ A となる。(図2) したがって cos ∠ A の
長さの線分が作図可能であれば BC の長さの線分も作図可能。ゆえに三角形
ABC を作図することができ、これに合同な n 個の三角形を適当に並べるこ
とで正 n 角形の作図ができる。
図1 図2
正 5 角形、正 17 角形の作図は後に行うことにして、まずは作図が可能で
あることを証明します。
3
正 5 角形の作図の証明
ここでは、正 5 角形の作図の証明として、cos
ます。
cos
2π
の値を求めたいと思い
5
2π
= cos 72°= cos(90°− 18°) = sin 18°
5
θ = 18°とすると、
sin 3θ = sin(90°− 2θ) = sin 90°cos 2θ − cos 90°sin 2θ(加法定理)
= cos 2θ
まず、cos 2θ の値を求めます。
cos 2θ = cos(θ + θ) = cos2 θ − sin2 θ = 2 cos2 θ − 1 = 1 − 2 sin2 θ
同様に、sin 3θ の値を求めます。
sin 2θ = sin(θ + θ) = 2 sin θ cos θより
sin 3θ = sin(2θ + θ) = sin 2θ cos θ + cos 2θ sin θ
= (2 sin θ cos θ) cos θ + (1 − 2 sin2 θ) sin θ
= 2 sin θ(1 − sin2 θ) + (1 − 2 sin2 θ) sin θ (∵ cos2 θ = 1 − sin2 θ)
= 3 sin θ − 4 sin3 θ
3 sin θ − 4 sin3 θ = 1 − 2 sin2 θ
4 sin3 θ − 2 sin2 θ − 3 sin θ + 1 = 0
(sin θ − 1)(4 sin2 θ + 2 sin θ − 1) = 0
0 < sin θ < 1 より
sin θ =
−2 +
√
8
4 + 16
√
√
−2 + 2 5
−1 + 5
=
=
8
4
つまり、
2π
−1 +
cos
=
5
4
√
5
となるので、補題 2.2 より、正 5 角形の作図が可能と証明されました。
4
正 17 角形の作図の証明
次に本題の正 17 角形の作図ができることを証明します。
ここで、
φ=
2π
17
のときの cos φ の値を求めていきます。
最初に、
cos φ + cos 4φ = a
cos 2φ + cos 8φ = b
cos 3φ + cos 5φ = c
cos 6φ + cos 7φ = d
として、
a+b=e
c+d=f
とします。まず e + f の値を求めます。
e + f = a + b + c + d = cos φ + cos 2φ + cos 3φ + … + cos 8φ
両辺に sin
sin
φ
をかけて、
2
φ
φ
φ
φ
φ
(e+f ) = cos φ sin +cos 2φ sin +cos 3φ sin + … +cos 8φ sin
(1)
2
2
2
2
2
ここで一旦、積→和の公式について説明します。積→和の公式にはいろい
ろなパターンがありますが、今回の証明に必要な2つの公式を紹介します。
・cos α sin β =
1
(sin(α + β) − sin(α − β))
2
証明としては次の2式 (加法定理) を引くと求められます。
sin(α + β) = sin α cos β + cos α sin β
sin(α − β) = sin α cos β − cos α sin β
・cos α cos β =
1
(cos(α + β) + cos(α − β))
2
証明としては次の2式 (加法定理) を足すと求められます。
cos(α + β) = cos α cos β − sin α sin β
cos(α − β) = cos α cos β + sin α sin β
(1) について、積→和の公式より
µ µ
¶
µ
¶¶
µ µ
¶
µ
¶¶
1
φ
φ
1
φ
φ
φ
sin (e + f ) =
sin φ +
− sin φ −
+
sin 2φ +
− sin 2φ −
2
2
2
2
2
2
2
µ µ
¶
µ
¶¶
µ µ
¶
µ
¶¶
1
φ
φ
1
φ
φ
+
sin 3φ +
− sin 3φ −
+…+
sin 8φ +
− sin 8φ −
2
2
2
2
2
2
µµ
¶ µ
¶
1
3
1
5
3
=
sin φ − sin φ + sin φ − sin φ
2
2
2
2
2
µ
¶
µ
¶¶
7
5
17
15
+ sin φ − sin φ + … + sin φ − sin φ
2
2
2
2
µ
¶
1
17
1
=
sin φ − sin φ
2
2
2
µ
¶
17
1 sin 2 φ
1
∴e + f =
−
1
=− (2)
2 sin 12 φ
2
µ
µ
¶
¶
17
17 2π
∵ sin φ = sin
・
= sin π = 0
2
2 17
次に 2ab, 2ac, 2ad, 2bc, 2bd, 2cd の値を求めます。(以降すべてにおいて
積→和の公式を使います。また、cos(2π + θ) = cos θ, cos(2π − θ) = cos θ
であることを利用します。)
2ab = 2(cos φ + cos 4φ)(cos 2φ + cos 8φ)
= 2 cos φ cos 2φ + 2 cos φ cos 8φ + 2 cos 4φ cos 2φ + 2 cos 4φ cos 8φ
= (cos 3φ + cos φ) + (cos 9φ + cos 7φ) + (cos 6φ + cos 2φ) + (cos 12φ + cos 4φ)
1
= cos φ + cos 2φ + cos 3φ + … + cos 8φ = − (∵ (2))
2
2ac = 2(cos φ + cos 4φ)(cos 3φ + cos 5φ)
= 2 cos φ cos 3φ + 2 cos φ cos 5φ + 2 cos 4φ cos 3φ + 2 cos 4φ cos 5φ
= (cos 4φ + cos 2φ) + (cos 6φ + cos 4φ) + (cos 7φ + cos φ) + (cos 9φ + cos φ)
= 2(cos φ + cos 4φ) + (cos 2φ + cos 8φ) + (cos 6φ + cos 7φ)
= 2a + b + d
2ad = 2(cos φ + cos 4φ)(cos 6φ + cos 7φ)
= 2 cos φ cos 6φ + 2 cos φ cos 7φ + 2 cos 4φ cos 6φ + 2 cos 4φ cos 7φ
= (cos 7φ + cos 5φ) + (cos 8φ + cos 6φ) + (cos 10φ + cos 2φ) + (cos 11φ + cos 3φ)
= (cos 2φ + cos 8φ) + (cos 3φ + cos 5φ) + 2(cos 6φ + cos 7φ)
= b + c + 2d
2bc = 2(cos 2φ + cos 8φ)(cos 3φ + cos 5φ)
= 2 cos 2φ cos 3φ + 2 cos 2φ cos 5φ + 2 cos 8φ cos 3φ + 2 cos 8φ cos 5φ
= (cos 5φ + cos φ) + (cos 7φ + cos 3φ) + (cos 11φ + cos 5φ) + (cos 13φ + cos 3φ)
= (cos φ + cos 4φ) + 2(cos 3φ + cos 5φ) + (cos 6φ + cos 7φ)
= a + 2c + d
2bd = 2(cos 2φ + cos 8φ)(cos 6φ + cos 7φ)
= 2 cos 2φ cos 6φ + 2 cos 2φ cos 7φ + 2 cos 8φ cos 6φ + 2 cos 8φ cos 7φ
= (cos 8φ + cos 4φ) + (cos 9φ + cos 5φ) + (cos 14φ + cos 2φ) + (cos 15φ + cos φ)
= (cos φ + cos 4φ) + 2(cos 2φ + cos 8φ) + (cos 3φ + cos 5φ)
= a + 2b + c
2cd = 2(cos 3φ + cos 5φ)(cos 6φ + cos 7φ)
= 2 cos 3φ cos 6φ + 2 cos 3φ cos 7φ + 2 cos 5φ cos 6φ + 2 cos 5φ cos 7φ
= (cos 9φ + cos 3φ) + (cos 10φ + cos 4φ) + (cos 11φ + cos φ) + (cos 12φ + cos 2φ)
1
= cos φ + cos 2φ + cos 3φ + … + cos 8φ = − (∵ (2))
2
ゆえに
2ef = 2(a+b)(c+d) = 2ac+2ad+2bc+2bd = 4(a+b+c+d) = 4(e+f ) = −2 (∵ (2))
∴ ef = −1
(3)
(2)(3) と解と係数の関係より、e,f は二次方程式
1
x2 + x − 1 = 0
2
の2つの解。従って解の公式より
q
r
− 12 ± 14 + 4
1
17
x=
=− ±
2
4
16
ところで、
e = cos φ + cos 2φ + cos 4φ + cos 8φとなり
cos φ > cos 2φ > cos
π
1
=
6
2
cos 8φ > −1 より
cos φ + cos 2φ + cos 8φ > 0
π
cos 4φ > cos = 0 より
4
e > 0 が成り立つので、
r
r
1
17
1
17
e=− +
, f = − −
4
16
4
16
となる。
1
a + b = e, ab = − より、a と b は二次方程式
4
x2 − ex −
1
=0
4
の2つの解なので、解の公式より
s
√
√
e2 + 1
17 1 9
17
1
x=
=− +
±
−
+1
2
8
8
2 8
8
√
q
√
17 1
1
±
34 − 2 17
=− +
8
8
8
e±
√
a と b では数値を見ると明らかに a > b なので、
√
√
q
q
√
√
1
17 1
1
17 1
a=− +
+
34 − 2 17, b = − +
−
34 − 2 17
8
8
8
8
8
8
同様に c + d = f , cd = −
x2 − f x −
1
=0
4
1
より、c と d は二次方程式
4
の2つの解なので、解の公式より
s
√
√
f2 + 1
1
17 1 9
17
x=
=− −
±
+
+1
2
8
8
2 8
8
√
q
√
1
17 1
=− −
±
34 + 2 17
8
8
8
f±
p
c と d では数値を見ると明らかに c > d なので、
√
√
q
q
√
√
1
17 1
1
17 1
c=− −
+
34 + 2 17, d = − −
−
34 + 2 17
8
8
8
8
8
8
ところで、cos φ , cos 4φ は
cos φ・cos 4φ =
1
1
(cos 5φ + cos 3φ) = c より
2
2
cos φ , cos 4φ は二次方程式
1
x2 − ax + c = 0
2
の2つの解となるので、解の公式より
r
√
a ± a2 − 2c
a2
a
c
x=
= ±
−
2
2
4
2
cos φ > cos 4φ より
r
a
a2
c
cos φ = +
−
2
4
2
2a2 = 2(cos φ + cos 4φ)2
= 2 cos φ cos φ + 4 cos φ cos 4φ + 2 cos 4φ cos 4φ
= cos 2φ + 1 + 2(cos 5φ + cos 3φ) + cos 8φ + 1
= (cos 2φ + cos 8φ) + 2(cos 3φ + cos 5φ) + 2
= b + 2c + 2
∴ a2 =
b
+c+1
2
(4) に
a2 =
b
+c+1
2
(4)
を代入すると、
r
a
b
c 1
cos φ = +
− +
2
8 4 4
√
q
√
17
1
1
=− +
+
34 − 2 17
16
16
16
s
√
√
q
q
√
√
1
17
1
1
17
1
1
+ − +
34 − 2 17 +
34 + 2 17 +
−
+
−
64
64
64
32
32
32
4
r
√
q
q
q
√
√
√
√
1
17 1
1
+
=− +
34 − 2 17+
17 + 3 17 − 34 − 2 17 − 2 34 + 2 17
16 16 16
8
従って補題 2.2 より、正 17 角形の作図が可能と証明されました。
5
正 5 角形の作図
いよいよ作図に入ります。まずは正 5 角形から始めます。
1. 半径1の円Oと直径ABを引く。
2. 線分BOの中点をCとし、線分ABの垂直二等分線と円Oとの交点のう
ち一方をDとする。
3. 線分AB上にCD=CEとなるように点Eをとる。
4. DEは円Oに内接する正 5 角形の一辺の長さに等しい。
6
正 17 角形の作図
次に本題の正 17 角形の作図をします。
1. 半径1の円OとAB⊥CDとなるように直径ABと直径CDを描く。
2. 線分COの中点をE、線分EOの中点をFとし、線分BFを取る。
3. ∠BFOの二等分線とABとの交点をG、∠GFOの二等分線とABと
の交点をHとして、∠HFI= 45 °(90 °の角の二等分) となる点Iを線分A
O上に取る。
4. 直径がBIの円を描き、線分COとの交点をJとする。
5. 点Hを中心とした半径HJの円を描き、ABとの交点をそれぞれBに近
いほうからK、Lとして、K、Lのそれぞれを通る、直線ABに垂直な直線
と円Oとの交点のうち点Bに近い方をそれぞれM、Nとする。
6. MN間の長さと同じ長さを、円周上に点Bからコンパスで取り続けると
円周を 17 等分して点Bに戻るので隣り合う点同士を結べば正 17 角形になる。
7
おわりに
ここで紹介した作図はあくまでも一例なので、他にもいくつか描く方法が
あります。興味がある方は調べてください。部誌初参加、初 TEX でうまく書
けたかどうかわかりませんが、ここまで読んでいただいてありがとうござい
ました。
8
おまけ ∼フェルマー数について∼
フェルマー数は 3,5,17,257,65537,4294967297… と続いています。当初は
すべてが素数だと考えられていましたが数学者オイラー (1707∼1783) が
4294967297 に関して
4294967297 = 641・6700417
であることを示しました。現在では 65537 を超えるフェルマー数が素数かど
うかは明らかになっていません。
9
参考文献
西山 豊 著 「数学を楽しむ」
数遊び―四則&七則について―
高校 2 年 1 組藤田知未
2008 年 5 月 3 日
1
あいさつ
本日は灘校数学研究部にきて頂き、ありがとうございます。本稿はいわゆ
る数学の研究の発表とかではなく、『四則』『七則』といったちょっとパズル
的なゲームの紹介をしてみるコラム記事です。高度な数学知識なんて全く必
要ありません。肩の力を抜いてお気軽にお読みください。
2
四則・七則の遊び方
ここでは『競技四則』と呼ばれる文化祭で黒板に書いてある『懸賞四則』
とは別のタイプの対人型の四則の遊び方を紹介します。
2.1
準備するもの
1 組 54 枚のトランプ。ジョーカーは 0 として扱われます。
2.2
ゲームの進め方
先に親をじゃんけんなどで適当に決めておきます。まずは親が目標数を宣
言します。そして親から順に時計回りに、一人一枚ずつ自分の好きなタイミ
ングでカードをめくって場に置いていきます。
参加者は場に出たカードの数から後に述べる演算規則により、目標数を作る
事ができないかどうか考えます。目標数の作り方(式ですね)を思いついた
ら、机等を叩いてはっきり音を出します。
2.2.1
机を叩いたのが一人だった時
その人は目標数の作り方を、参加者全員に分かるように説明します。正し
く説明出来れば、場に並んでいる目標を作るために使ったカードをもらって
自分のポイントとし、次のゲームの親になれます。30秒程たってもその作
り方を説明出来なかった時はお手つきとなって、その時は今場に並んでいる
カードと同じ枚数だけ自分がもらったカードの中から山札に戻して、山札を
よく切ってゲームを続けます。
2.2.2
3 人以上が区別出来ないくらい同時に机を叩いた時
基本的に早く叩いた人から順に作り方を説明することができますが、あま
りにも叩くのが同時だった時は、
『自明』という状態として、場に並んでいる
カードを全て山札に戻して同じ親からゲームを始めます。
2.2.3
最後にカードがめくられてから一秒以内に 3 人以上が机を叩いた時
この場合も上記の『自明』と同じように処理します。
2.2.4
2 人が区別出来ないくらいの時間差で机を叩いた時
場に並んでいるカードの 2 人で半分ずつに分けてもらいます。
(3 枚なら1
枚ずつ、4 枚なら 2 枚ずつ、5 枚なら 2 枚ずつという具合で)1 枚カードが
余った時は山札に戻します。その後、再度親を決めなおしてゲームを続けま
す。
これを山札が無くなるまで繰り返します。山札がなくなり、誰も机を叩か
なかった時終了となって、その時点で一番たくさんカードを持っている人が
勝ちになります。
2.3
演算法則について
演算法則については二つのパターンがあります。それが『四則』と『七則』
です。
2.3.1
『四則』の演算法則
皆さんご存知の四則計算、つまり+,-,×,÷ が使えます。
例えば 2 と 3 が与えられている場合
2 + 3 = 5, 2 − 3 = −1, 3 − 2 = 1, 2 × 3 = 6, 2 ÷ 3 =
3
2
,3 ÷ 2 =
3
2
といった感じに使えるということです。また、括弧の使用に関しては何の制
限もないので 1,2,3 が与えられているときに
1 + (2 × 3) = 7
といった使い方も OK です。非常になじみやすいので初心者や小学生にはお
勧めです。
2.3.2
『七則』の演算法則
四則に log と累乗とルートを追加したものとなります。例えば a と b があ
√
れば loga b, b a, ab とかも使用することが出来るわけです。log の演算のルー
ルとかをちゃんと認識していないといけないので『四則』に比べて注意が必
要です。しかし、それがちゃんと分かっていれば四則よりもずっと応用性が
広がるのでとても面白いです。当然計算はややこしいですが。
2.4
もう一つの四則
ここで紹介した競技四則のほかに、もう一つ詰四則と呼ばれるものがあり
ます。文化祭でやっている懸賞四則とはこれのことです。あらかじめ誰かが
問題を考えてそれを解が一つかどうかを判定した上で出題するという結構面
倒なものです。言わば、将棋という対人ゲームに対して、一人で考える詰め
将棋があるような感じです。思考力を鍛えるのにはばっちりなので是非見つ
けたらやってみてください。
3
やってみよう
四則・七則は何よりもやってみるのが上達への近道です。以下に四則・七
則の問題を載せておくのでやってみてください。難易度的にはそこそこ難し
めです。
3.1
四則
? 3, 3, 8, 8 → 24
? 3, 5, 7, 10 → 3.14
? 1, 1, 3, 7, 7 → 3.14
? 7, 7, 7, 7, 7 → − 14
13
3.2
七則
? 4, 8, 9 → 0
? 1, 2, 3 → 0.25
? 8, 8, 8, 8, 8 → 5.25
? 2, 5, 8, 11 → 2008
? 3, 4, 7, 10, 12 → 2008
? 3, 3, 3, 7, 13 → 2008
? 1, 2, 5, 9, 10 → 3.14
? 3, 4, 6, 8, 9, 11 → 5.03
4
最後に
ここに載っている問題が解けなくても数学のセンスがないだとかそういっ
たことはありません。これはあくまでゲームであってのんびりとやるものな
ので灘を目指している皆さんには「灘に入るにはこれを思いつくくらいの発
想力が・
・」なんてことを考えてほしくはないです。好きこそものの上手なれ、
という言葉の通りに四則・七則を楽しんでやっていると自然に上達します。そ
して難しい問題が解けたときの達成感は何物にも勝るものがあります。是非
是非、皆さんも四則・七則を楽しんでください。
逆数の和
中学 3 年 4 組 21 番 清水元喜
1
はじめに
本日は、数学研究部にお越しいただき、ありがとうございます。この記事
では、「1 から p − 1 までの逆数の和の分子は (mod p2 ) でどのような値をと
るか」、ということとその類題について考えていきたいと思います。
2
準備
必要な定義、定理を準備してゆきます。
定義 2.1 (合同式). a, b ∈ Z に対し、m | a − b の時、a ≡ b (mod m) とい
う。a ≡ b (mod m), c ≡ d (mod m) ならば、a + c ≡ b + d (mod m) が成り
立つ(引き算、掛け算1 についても同様)。但し割り算については成り立たな
い(次の定理 2.2 参照)。
定理 2.2 (一次合同式). 合同式
ax ≡ b
(mod m)
(2.1)
は、a と b の最大公約数(以下 (a, b))を d とすると、d | m の時、そしてそ
の時に限り解を持ち、その個数は d 個である。特に、a と m が互いに素であ
るとき、2.1 はただ一つの解を持つ。
この定理により、法 m と互いに素な数の集合のなかでは、割り算というも
のが問題なく扱うことが出来る。
定義 2.3 (合同式の拡張). u, v ∈ Q に対し、u − v の分子が分母の値によら
ず m で割り切れる2 とき、u ≡ v (mod m) とあらわす。
1
a ≡ b (mod m) ⇒ ac ≡ bc (mod mc) が成り立つことを後半の方で自明なこととして使っ
ています。)
2
すなわち既約分数のときに分子が m で割り切れれば良い。
定理 2.4 (拡張された合同式における加減乗). 合同式を 2.3 で定めたものと
すると、一般の合同式と同様に、
u ≡ v, u0 ≡ v 0 ⇒ u + v ≡ u0 + v 0
(mod m)
引き算、掛け算についても同様。
定理 2.5 (フェルマーの定理). p を素数とすると、任意の a ∈ Z に対して、
ap ≡ a (mod p)
(2.2)
特に、a が p と互いに素であるとき、
ap−1 ≡ 1
(mod p)
(2.3)
定理 2.6 (原始根の存在). フェルマーの定理より、p を素数とすると任意の
a(6≡ 0 (mod p)) に対して ap−1 ≡ 0 (mod p) が成り立つ。このうち p − 1 乗
して始めて p を法として 1 に合同になるような a が存在し、そのような a を
p を法としての原始根という。
例. mod7 で 31 ≡ 3, 32 ≡ 2, 33 ≡ 6, 34 ≡ 4, 35 ≡ 5, 36 ≡ 1 なので、3 は 7 を
法としたときの原始根である。
例. mod13 で 103 ≡ 1 なので、10 は 13 を法としたときの原始根ではない。
定理 2.7. p を素数とし、 mod p における原始根を r とすると r, r2 , r3 . . . rp−1
の p − 1 個の数からなる集合は 1, 2, . . . p − 1 の集合に等しい。
定理 2.8 (オイラーの定理). φ(m) を 1 ≤ i ≤ m かつ (i, m) = 1 を満たす整
数 i の集合 t(m) の要素の個数とすると、∀a ∈ t(m) に対して
aφ(m) ≡ 1
(mod m)
この定理は、定理 2.5 の拡張である。
定理 2.9 (原始根の拡張). 定理 2.6 での考え方をもとにすると、pa (p は素数
) を法とした時の原始根とは、φ(pa ) = pa−1 (p − 1) 乗して始めて 1 に合同に
なるような数のことであると定義するのが妥当である。そして実際このよう
な数が pa (p は奇素数) に対して存在する。
定理 2.10. p を奇素数とし、r を mod pa を法としたときの原始根とする。こ
のとき r, 2r, . . . r × pa−1 (p − 1) の pa−1 (p − 1) = φ(pa ) 個の数からなる集合
は、t(m) に等しい。
1 1 1
1
+ + + ··· +
≡ 0 (mod p2 )
1 2 3
p−1
3
実験してみると p ≥ 5 についてこのことが予想される。
証明.
1 1 1
1
p
p
p
p
+ + + ··· +
=
+
+
+ ...
p−1 p+1
1 2 3
p−1
p − 1 2(p − 2) 3(p − 3)
(
)(
)
2
2
p−1
pX
1
=
2
k(p − k)
k=1
p−1
X
p−1
X 1
1
≡
≡ 0 (mod p) を示せばよい。
したがって
k(p − k)
k2
k=1
k=1
modp における原始根の一つを r とすると、
p−1
p−1
X
X
1
1 . .
≡
( . 2.7)
k2
r2k
k=1
k=1
1
r2(p−1)
r2 − 1
1−
≡
(mod p)
フェルマーの定理より rp−1 ≡ 1 (mod p), また原始根の定義より p−1 6= 2(す
1
1 − 2(p−1)
r
≡0
なわちこの場合は p ≥ 5)ならば r2 −1 6≡ 0 (mod p) なので、
r2 − 1
(mod p)。
まとめると、
定理 3.1. p > 3 を奇素数とすると
1 1 1
1
+ + ...
≡ 0 (mod p2 )
1 2 3
p−1
である。
定理 3.2. p > 3 を奇素数とすると
1
1
1
+ 2 + ...
≡ 0 (mod p)
2
1
2
(p − 1)2
µ
4
¶
2p − 1
≡ 1 (mod p3 )
p−1
定理 4.1. p > 3 を奇素数とする。
µ
¶
2p − 1
≡ 1 (mod p3 ) ⇔ 定理 3.1
p−1
証明.
定義 4.2. 奇素数 p と 1 ≤ l ≤ p − 1 に対し、Al を集合 1, 2, . . . p − 1 の l 個
の異なる要素の積全ての和と定義する。
例. 定理 3.1 は Ap−2 ≡ 0 (mod p2 ) と表すことが出来る。
µ
¶
2p − 1
まず
≡ 1 (mod p3 ) ⇐ 定理 3.1 を示す。
p−1
f (x) = xp−1 − 1 (mod p)
の因数分解3 を考える。
定理 2.5 より、x = 1, 2, . . . p − 1 に対して f (x) = 0。したがって因数定理
より
(x − i) | f (x)
(1 ≤ i ≤ p − 1)
ゆえに
(x − 1)(x − 2) . . . (x − p + 1) | f (x)
両方の式の次数及び xp−1 の係数を比べると
xp−1 − 1 ≡ (x − 1)(x − 2) . . . (x − p + 1)
p−1
=x
− A1 x
p−2
p−2
+ A2 x
(mod p)
− · · · − Ap−2 x + Ap−1
両辺の係数をみると、
(
0 (0 < l < p − 1) (mod p)
Al ≡
−1 (l = p − 1) (mod p)
を得る。二項係数の定義より、
µ
¶
2p − 1
≡ 1 (mod p3 ) ⇔ (2p−1)(2p−2) . . . (p+1) ≡ (p−1)!
p−1
3
(4.1)
(4.2)
(mod p3 )
本当はここで「多項式の合同」というものの性質をきちんと考えなければなりません。しか
しここでは普通の多項式の性質や合同式の性質から自然に導かれるものとして扱います。
4.1 で x = 2p とすることで、
(2p − 1)(2p − 2) . . . (p + 1) = (2p)p−1 − A1 (2p)p−2 · · · + Ap−3 4p2 − Ap−2 2p + Ap−1
≡ Ap−1
(mod p3 )(
∵定理 3.1 より p2 | Ap − 2、
)
定理 4.2 より p | Ap−3
(4.3)
Al の定義より Ap−1 = (p − 1)! なので、
µ
¶
2p − 1
≡ 1 (mod p3 ) ⇐ 定理 3.1
p−1
が示された。
次に逆を示す。上の議論より、
µ
¶
2p − 1
≡ 1 (mod p3 )
p−1
⇒ (2p)p−1 − A1 (2p)p−2 · · · + Ap−3 4p2 − Ap−2 2p + Ap−1 − Ap−1 ≡ 0 (mod p3 )
.
. .p2 | Ap−2
よって逆も示された。
定理 4.3.
µ ¶ µ ¶
ap
a
≡
bp
b
(mod p3 )
証明.
µ ¶
ap
ap (ap − 1) . . . ((a − 1)p + 1) (a − 1)p
((a − b + 1)p − 1) . . . ((a − b)p + 1)
=
·
·
...
bp
bp (bp − 1) . . . ((b − 1)p + 1) (b − 1)p
(p − 1)!
µ ¶ Y
b
a
((a − b + k)p − 1)((a − b + k)p − 2) . . . ((a − b + k − 1)p + 1)
=
·
b
(kp − 1)(kp − 2) . . . ((k − 1)p + 1)
k=1
(4.4)
4.3 で x = 2p を x = kp に置き換えることで、
∀1 ≤ k ≤ a,
(kp − 1)(kp − 2) . . . ((k − 1)p + 1) ≡ Ap−1
を得る。したがって、4.4 と 4.5 より、
µ ¶ µ ¶
ap
a
≡
(mod p3 )
bp
b
(mod p3 )
(4.5)
5
3.1 の一般化
5.1
その一
定理 5.1. p を奇素数、i を 1 ≤ i ≤ p − 2 を満たす整数とする。
p−1
X
k i ≡ 0 (mod p)
k=1
また、i が奇数のとき4 には、
p−1
X
k i ≡ 0 (mod p2 )
k=1
証明. modp における原始根を r とする。3 章と同様の方法で、
p−1
X
i
k ≡
k=1
p−1
X
(rl )i
l=1
≡ 0 (mod p)
がわかる。
次に、i が奇数のときを考える。
p−1
X
k=1
p−1
1 X k i + (p − k)i
k =
2
k i (p − k)i
i
k=1
p−1
≡
1 X ipk i−1
2
k i (p − k)i
(二項定理による展開)
k=1
p−1
=
ip X k i−1
2
k i (p − k)i
k=1
p−1
≡
ip X k i−1
2
−k 2i
k=1
p−1
≡−
ip X 1
2
k i+1
(mod p2 )
k=1
p−1
X
1
が p で割り切れることは先ほど示してあるから、i が奇数のとき
i+1
k
k=1
p−1
X
k i ≡ 0 (mod p2 ) がわかる。よって示された。
k=1
4
i が偶数のときの、 modp2 での振舞いは、未解決です。多分余り意味のある結果は得られ
ない気がします。
5.2
その二
さて、ここからは法 m を合成数としてみます。小さな数で試してみると
1 1
1
わかりますが、 + . . .
に関しては、規則性が全く見つかりません。
1 2
m−1
(少なくとも自分には無理でした。)そこで、定理 2.8 などからも自然に予想
X 1
されるように、
について考えてみると、法則を見出すことが出来ま
k
k∈t(m)
す。まずは手始めに m = pa (p は奇素数) について考えて見ましょう。
定理 5.2. p を奇素数、i を 1 ≤ i < p − 2 を満たす整数とする。
X
k∈t(pa )
1
≡ 0 (mod pa )
ki
特に、i が奇数5 のとき、
X 1
≡ 0 (mod p2 a)
i
k
a
k∈t(p )
証明. 定理 2.9 にあるように、 modpa における原始根を r とする。すると、
X
k∈t(pa )
1
≡ 0 (mod pa )
ki
は最早明らか。次に i が奇数のときを考える。
X
k∈t(pa )
1
1 X k i + (pa − k)i
=
ki
2
k i (pa − k)i
1 X ipa k i−1
2
k i (pa − k)i
ipa X k i−1
≡−
2
k2 i
ipa X 1
≡−
(mod p2a )
2
k i+1
X 1
≡ 0 (mod pa ) は示したから、題意は示された。
ここで先ほど
k i+1
≡
5.3
その三
定義 5.3.
S(m, k) =
X 1
ik
i∈t(m)
5
その一に同じ。
例. 定理 3.1 は、S(p, 1) ≡ 0 (mod p) と表すことが出来る。
補題 5.4. a ∈ N が m と互いに素であるとする。このとき (ak −1)S(m, k) ≡ 0
(mod m) が成り立つ。
証明. {ai | i ∈ t(m)} の集合を m を法として考えると、これは(順序を無視
すれば)t(m) に等しい。(∵ (a, m) = 1)
従って、
X
S(m, k) ≡
i∈t(m)
1
1
= k S(m, k) (mod m)
k
(ai)
a
.
. .(ak − 1)S(m, k) ≡ 0
(mod m)
補題 5.5. k を奇数とすると、2S(m, k) ≡ −mkS(m, k + 1) (mod m2 )
証明. ここまでの流れから言って、
2S(m, k) =
X ik + (m − i)k
ik (m − i)k
i∈t(m)
≡ −km
X
i∈t(m)
1
ik+1
(mod m2 )
= −kmS(m, k + 1)
この二つの補題を用いて、次を示そう。
定理 5.6. p を m の任意の素因数とし、k が p − 1 の倍数ではないならば、
S(m, k) ≡ 0 (mod m)
証明. 仮定より、各 p に対して、akp − 1 6≡ 0 (mod p) となるような ap が存在
する。(少なくとも modp における原始根はこの条件を満たす。)ここで、a
を各 p を法としてそれぞれ ap に合同な整数として6 、補題 5.4 に代入すると、
上を得ます。7
定理 5.7. k を奇数とし、m の任意の素因数 p について k + 1 が p − 1 の倍数
ではないならば、S(m, k) ≡ 0 (mod m2 )
証明. 補題 5.5 と定理 5.6 より自明。
Y
6
このような整数は
7
より厳密にはまず各 p の m を割り切る最大冪を法としてみるべきでしょう。
p を法としてただ一つ存在します。(中国剰余定理)
5.4
その四
さて、定理 5.6 と定理 5.7 がカバーする範囲は定理 3.1 に比べてはるかに広
くなったわけだが、それでもこれらの定理の守備範囲?から漏れてしまう数
が少なからず存在する。即ち、定理 5.6 に関しては m が偶数であるとき、定
理 5.7 については m が偶数又は 3 の倍数のときである。8 まずは 2 の累乗を
法としたときについて考えてみる。
定理 5.8. 2S(2j , k) ≡ 0 (mod 2j−1 ), k が奇数のとき ≡ 0 (mod 22(j−1) )
証明. まず k が奇数のときを考えると、補題 5.5 はこの問題においても使え
るから、
2S(2j , k) ≡ −2j kS(2j , k + 1)
(mod 22j )
S(2j , k) ≡ −2j−1 kS(2j , k + 1)
(mod 22j−1 )
従って S(2j , k) ≡ 0 (mod 2j−1 ) が示されれば十分。
1
1
1
+ k + ... j
1k
3
(2 − 1)k
1
1
1
= ( )k + ( )k . . . ( j
)k
1
3
(2 − 1)
S(2j , k) =
1
(i ∈ t(2j )) は mod2j を法として全て異なるので l ∈ t(2j ) の並び替
i
えとなっていることになり、9
ここで
(与式) ≡ 1k + 3k + . . . (2j − 1)k
(mod 2j )
≡ 2(1k + 3k + . . . (2j−1 − 1)k )
(mod 2j−1 )
ゆえに 1k + 3k + . . . (2j−1 − 1)k ≡ 0 (mod 2j−2 ) を示せば十分となり、従っ
てある j について S(2j , k) ≡ 0 (mod 2j−1 ) を示せば十分とわかる。ここで、
j = 3 について、S(8, k) は k が偶数のとき 4 に合同になり、k が奇数のとき
0 に合同になるため、S(2j , k) ≡ 0 (mod 2j−1 ) が成り立った。よって題意は
示された。
5.5
その五
全ての k について S(m, k) の値に関する結果がわかっていないものは、
• m が偶数
8
9
この二つの素数は定理 3.1 でも除外されていました。
定理 2.7 もこの考え方から示されます。
• m が 3 の倍数で、k が奇数10
のときの二つです。上については、m = 2j m0 (m は奇数) とすると、S(m, k) ≡
0 (mod m0 ) となる11 ところまでは示せましたが、それ以上は無理でした。12
6
あとがき
残念ながら S(m, k) に関して完全な結果を得ることは出来ませんでした。
また機会があれば考えてみようと思います。さて、定理 3.1 には「ウルステ
ンホルムの定理」という名前がついているそうです。今回の記事では定理 3.1
の法を拡張しましたが、定理 4.1 について法を拡張していくのも面白い結果
を得られるんでしょうか。
(まだ全く考えてません)それから、どうやら定理
m−1
X 1
3.1 の系として「
の分子が m で割り切れるのは m が素数のときだけで
k
k=1
ある」ということも成り立ちそうです。これについては結構考えてみたので
すが、わかりませんでした。もしこれらのうちのどれかについて結果を得ら
れた方がいらっしゃいましたら、是非 [email protected] までメールし
てください。なお、この記事を書くにあたって次の本を参考にしました。
参考文献
• はじめての数論- 発見と証明の大航海(ジョセフ・H. シルヴァーマン)
• 数論入門 I,II(ハーディ、ライト)
• LATEX 2ε 美文書作成入門(奥村晴彦)
最後までお読みいただきありがとうございました。
10
当然ですが「k が奇数のときのみ成り立つより強い結果」のことです。
この証明は筆者が疲れたので略します。t(m) を m を法として考えてみると t(m0 ) を 2j−1
回繰り返していることがわかります。
12
世の中には締切というものが存在するということが痛感されました。来年はもっと早くから
準備しようと思います。
11
rn +1
n2
∈ Z に関する研究
高校 2 年 1 組 藤田知未
2008 年 5 月 3 日
1
はじめに
本日は灘校数学研究部の文化祭に来ていただいてありがとうございます。
r n +1
n2
∈ Z の条件を満たす 1 より大きい自然数 n に
ついての研究を書きます。内容はほとんど r=5 の場合のことです。
ここではタイトルの通り
2
きっかけ
この問題について考えるきっかけとなったのは IMO(International Mathematical Olympiad) の次の問題を数学オリンピック事典で読んだことです。
2n +1
n2 ∈ Z を満たす 1 より大きい整数 n をすべて決定せよ。(1990IMO 問 3)
オリンピック事典のこの問題には一風変わった誘導がついています。それは
この問題をボスキャラに見立てて一連の問題を解いてレベルアップすること
によってボスキャラを倒すというもので、そこでこの問題は龍1 に例えられて
いて龍の城の左右に東の塔のマスターデーモンと西の塔のマスターデーモン
がいるのでその二つを倒してポケモン化2 してしまえば龍は自明な問題に成り
下がるとのことです。そこに隠れキャラとして紹介されてたのが今回の問題
です。
3
下準備
まず色々と基本的なものの準備をします。
1 北京大会の問題なので
2 原書からの引用.
意味は察してください
3.1
用語・表記など
N 自然数 (正整数) の集合
Z 整数の集合
p≡r
(mod q) p を q で割った余りが r.(p,r は整数.q は自然数)
p|q q は p で割り切れる.(p,q は整数)
ordp q = r q は p で r 回割り切れる.(p,q,r は自然数)
3.2
定理など
定理 3.1 (フェルマーの小定理) p を素数とし a を p の倍数でない整数とす
ると ap ≡ a
(mod p) となる。
個人的に好きな証明を一つ。
証明 3.1 p Ck , (k 6= 0, p) の形の数は必ず p で割り切れます。何故ならば、
p Ck
=
p!
(p−k)!k!
ですが p は素数なので分子に 1 つ存在する p の素因数は分母
には存在しません。更に p Ck の形で表される数は必ず整数となるのでよって
p の倍数であると分かります。故に m,n を自然数とすると
(m + n)p
=
mp +p C1 mp−1 n + .... + np
=
mp + np + pN (N ∈ N)
≡
mp + np
(mod p)
といった具合に書き換えることが出来ます。これを使えば
ap
≡
(a − 1)p + 1p
≡
(a − 2)p + 1p + 1p
≡
....
≡
a (mod p)
と上の式を得ます。
一般には ap−1 ≡ 1
(mod p) と書くことのほうが多いです。
定理 3.2 p を奇素数、a,L は正整数で aL ≡ −1
(mod p) を満たすとする。
d,e をそれぞれ
ad ≡ −1
(mod p), ae ≡ 1 (mod p)
を満たす最小の正整数とするとき、e = 2d, d|L, e|(p − 1) が成り立つ。
証明 3.2 mod p で数列 aj を考えると、これは
ae ≡ 1, ae+1 ≡ a, ae+2 ≡ a2 , ...
と周期 e の繰り返しになるので、d < e でなければならない。また、a2d ≡ 1
(mod p) となるので、2d は e の倍数であり、d<e だから 2d=e となる。
更に、aL ≡ −1 (mod p) だから、L-d は e の倍数であり、L は d の倍数3 で
ある。また、フェルマーの小定理から p-1 は e の倍数であることが分かる。
定理 3.3 r は正整数、p は奇素数、L は正整数で p より小さな素因数を持た
ないとする。(p|L であってもよい)n=pL に対して rn + 1 ≡ 0
成り立つならば r + 1 ≡ 0
(mod p) が
(mod p) である。
証明 3.3 rn + 1 ≡ 0
(mod p) だから r 6= 0 (mod p)4 である。a = rL と
おくと、仮定より ap ≡ −1 (mod p) が成り立つ。よってフェルマーの小定
理 ap ≡ a (mod p) により、a ≡ −1 (mod p) が得られ、これより rL ≡ −1
(mod p) が得られる。d を rd ≡ −1 (mod p) を満たす最小の正整数とする
と、定理 3.2 より d|L, 2d|p − 1 となる。後者より d < p となるのが分かる
が L は p より小さい素因数を持たないので d=1 ということになる。よって
r+1≡0
(mod p).
定理 3.4 r は正整数、p,q は奇素数で p < q を満たすものとし、L は正整数で
q よりも小さな素因数を持たないものとする。5 n=pqL に対して rn + 1 ≡ 0
(mod q) が成り立つとき、r + 1 ≡ 0
ば rp + 1 ≡ 0 (mod q) となる。
(mod q) が成り立つか、そうでなけれ
証明 3.4 基本的な所は定理 3.3 を拝借する。d を rd ≡ −1
(mod q) を満た
す最小の正整数とすると、定理 3.2 より d|n, 2d|q − 1 となる。ここで n=pqL
であるが、L の条件より d|n は即ち d|pq となり、d < q なので d となりうる
数は 1 と p のみである。d=1 のとき前者が、d=p の時に後者が成り立つ。
この考え方と本質的に同じものを後で使います。
定理 3.5 p は素数、Q,r はそれぞれ Q 6= 0
(mod p), r + 1 ≡ 0 (mod p) を
満たす正整数で、更に Q は奇数であるとき ordp (rQ + 1) = ordp (r + 1) が成
り立つ。
3 しかも奇数倍
4 合同式なのにノットイコールを使っているのは専用 TeX 環境のインストールが面倒だった
からです。以下同様にノット合同として扱います。
5 別に q の倍数であってもよい
証明 3.5 Q は奇数なので
rQ + 1
=
(r + 1)(rQ−1 − rQ−2 + rQ−3 − .... − r + 1)
=
(r + 1)
Q−1
X
(−r)j
j=0
となる。ここで、−r ≡ 1
Q−1
X
(mod p) なので
(−r)j
≡
j=0
Q−1
X
1
j=0
≡
Q 6= 0
(mod p)
となり上の式を得る。
定理 3.6 p は奇素数で、a は a ≡ −1
(pm )
a
(mod p) を満たす正整数として、am =
(m=1,2,...) とする。この時 ordp (am + 1) = m + ordp (a + 1) となる。6
証明 3.6 a0 = a とおく。(am の定義からこう置いても問題ない)
am = a(p
m
)
m−1
= a(p
)p
= apm−1
であり、p は奇数だから
am + 1 = (am−1 + 1)
p−1
X
(−am−1 )j
j=0
と書ける。ここで f (x) =
p−1
P
j=0
(−am−1 )j とおくと
am + 1 = (am−1 + 1)f (am−1 ) = .... = (a0 + 1)f (a0 )f (a1 )....f (am−1 )
となる。
a0 = a ≡ −1 (mod p) であり、更に上の等式により am ≡ −1 (mod p)
である。ここで、x ≡ −1 (mod p) の時の ordp f (x) の値を調べるために
x = cpk − 1 を代入し mod p2 で f(x) の値を計算すると
f (x) =
p−1
X
(−cpk + 1)j
j=0
6 要は
ordp (r + 1) ≥ 1 ⇒ ordp (rn + 1) = ordp (r + 1) + ordp n.
実は ordp (r − 1) ≥ 1 ⇒ ordp (r n − 1) = ordp (r − 1) + ordp n も成立する.
≡
p−1
X
(j C1 (−cpk ) + 1)
j=0
≡
p−1
X
(j(−cpk ) + 1)
j=0
≡
p
となる。したがって、ordp f (x) = 1 であり
ordp (am + 1)
=
ordp (a0 + 1) +
m−1
X
ordp f (aj )
j=0
=
ordp (a0 + 1) + m
が得られる。
定理 3.7 p は奇素数で m は正の整数、Q と r はそれぞれ Q 6= 0
(mod p), r +
1 ≡ 0 (mod p) を満たす正整数で Q は奇数であるとする。また、n = pm Q
とする。このとき ordp (rn + 1) ≥ 2m ならば m ≤ ordp (r + 1) となる。
証明 3.7 a = rQ とおくと、r ≡ −1
(mod p)Q は奇数だから
a ≡ (−1)Q ≡ −1 (mod p)
となる。ここで定理 3.6 より
ordp (rn + 1)
=
ordp (a(p
m
)
+ 1)
= ordp (a + 1) + m
= ordp (rQ + 1) + m
となる。さらに定理 3.5 より ordp (rQ + 1) = ordp (r + 1) だから
2m
≤ ordp (rm + 1)
= ordp (r + 1) + m
よってこれより m ≤ ordp (r + 1) が得られる。
3.3
r=2 の場合の証明
この証明は二手に分かれて行います。つまり
1. 1 より大きな整数 n が 2n + 1 ≡ 0 (mod n) ならば n=3 もしくは n =
3m Q(ただし m ≥ 2 で Q は奇整数) の形となる。
2. 2n + 1 ≡ 0
(mod n2 ) ならば n は 32 で割り切れない。
という二つの事実を示してしまえばこの条件を満たす n は 3 しかないという
ことが示されます。(非常に結果論的で納得がいかないかもしれませんが) 前
述した西の塔、東の塔のマスターデーモンというのはこれのことです。
3.3.1
西の塔のマスターデーモンの証明
これはつまり n=3 か 32 |n のいずれかが成り立つということです。よって
n が 9 の倍数でなく 3 でもないと仮定してその存在を否定すればよいという
ことです。
p を n の最も小さな素因数だとする。(ここで p が奇数なのは自明7 )
定理 3.3 より 2n + 1 ≡ 0 (mod p) なので 2 + 1 ≡ 0 (mod p) となる。よっ
て p=3 であるのが分かる。ここで仮定より n は 9 の倍数ではないので 3 の次
に小さい素因数を q とすると、n = 3qM と書くことが出来る。当然 q 6= 3 で
ある。ここで定理 3.4 を使うことにより、2n + 1 ≡ 0 (mod q) が成り立つの
で 2 + 1 ≡ 0 (mod q) か 23 + 1 ≡ 0 (mod q) が成り立つがどの場合でもそ
れが成立する q は 3 しかないので矛盾。よって n は 3 か 9 の倍数である8 と
いうことが分かる。
3.3.2
東の塔のマスターデーモンの証明
n=3 は 9 で割り切れないので、n = 3m Q(m ≥ 2) の場合のみを考えればよい。
また、n は奇数なので当然ながら Q は奇数となります。ここで、ord3 (2+1) = 1
であり、条件より n2 |2n + 1 ⇔ 32m Q2 |2n + 1 なので ord3 (2n + 1) ≥ 2m が
成立するので定理 3.7 より m ≤ ord3 (2 + 1) = 1 なので m=1 となる。よって
n は 32 で割り切れない。
3.3.3
龍退治
東西のマスターデーモンを組み合わせれば自明。一応 n=3 となることは必
要条件なので代入して充分性を示せば終了。
7 mod
8 n=3
2
もしくは 9|n の意
4
r=5 の場合
さて、ここからが今回の本題とした r=5 の場合の証明です。r=2 の場合は
前述したとおり
1. 1 より大きな整数 n が 2n + 1 ≡ 0 (mod n) ならば n=3 もしくは n =
3m Q(ただし m ≥ 2 で Q は奇整数) の形となる。
2. 2n + 1 ≡ 0
(mod n2 ) ならば n は 32 で割り切れない。
という事実を二つ示して n を決定しました。今回は問題の誘導ではないので
本当にこうやって解けるかは分かりませんがそれを参考に
1. mod を使って大体の形を絞る
2. order で指数を制限して絞る
とやってみることにします。
4.1
その前に
普通こういった問題というものは一般に解が有限か無限かというのが結構
重要です。解を実際に求めることは解が有限であり、しかもそれなりに小さい
値なら意味がありますが、解が表示できないほど大きかったらあまりうれし
くありません。今は一応解が少なくて小さい範囲までを実際に求めてみます。
4.2
前提条件
mod 4 で考えると明らかに n は奇数です。一般に成り立つので後述します。
4.3
定理 3.3 からのアプローチ
n を素因数分解したとき、素因数の中で最も小さいものを p とする。n は
p の倍数なので 5n + 1 ≡ 0 (mod p) は必要条件となる。ここで定理 3.3 を
使うと、5 + 1 ≡ 0 (mod p) が必要条件である。6 ≡ 0 (mod p) となる奇
素数は 3 しかないので、p=3 であると分かる。よってひとまず 3 の倍数であ
ることが必要です。この後、n が 9 で割れないと仮定してその条件を満たす
n が存在しないことを示すことが出来れば r=2 の時と同じ形に絞れます。し
かし残念ながらそれは成立しません。9 よって一旦 order からのアプローチ
9 53
≡ −1
(mod 7)
へ進みます。
この地点での n の必要条件は n = 3m Q, (m, Q ∈ N) です。
4.4
定理 3.7 からのアプローチ
ここで n が 9 で割り切れないことを order を使って示します。定理 3.7 より
ord3 (5n + 1)
=
ord3 (5(3
=
Q
m
Q)
+ 1)
ord3 (5 + 1) + m ≥ 2m
なので m ≤ ord3 (5 + 1) = 1. よって n は 9 では割り切れない。こうして
n = 3q l M の形に書けることが分かったので定理 3.4 が使えようになりまし
た。そこで定理 3.4 へと戻ります。
4.5
定理 3.4 からのアプローチ
n 6= 3 とし、q を 3 の次に小さい n の素因数であるとする。ここで n=3qM
(mod q) か 53 ≡ 0 (mod q) が成
り立つ。r=2 の場合ここで両方を満たす q がなかったため矛盾が生じたので
すが、この場合後者で 126 = 2 × 32 × 7 なので q=7 が成立します。よって
n = 3 × 7l L と書けることが分かりました。ここで 7 のべきである l の制約を
再び定理 3.7 から考えてみます。
とする。この時定理 3.4 より、5 + 1 ≡ 0
4.6
定理 3.7 からのアプローチ 2
l
a=125 とすると a7 L + 1 について調べることになる。ここで、L は 7 で
は割り切れないもので、また n の条件より奇数である。a+1 は 7 で割り切
れるので定理 3.7 の使用条件は満たされている。ここで 5n + 1 は n2 で割
l
れるので ord7 (5n + 1) = ord7 (1257 L ) ≥ 2l となる。よって定理 3.7 より
l ≤ ord7 (125 + 1) = 1 となるので l=1. よって n=21L と書けるのが分かりま
す。ここで定理 3.4 を少し応用して考えてみます。
4.7
定理 3.4 の応用からのアプローチ
n 6= 3, 21 として 3,7 の次に小さい素因数を s とする。n=21sR とする。ま
た R は正の整数で s より小さい素因数を持たないとする。ここで、5d + 1 ≡ 0
(mod s) となる最小の d を取ると、定理 3.2 より d|21sR となる。フェルマー
の定理から d は s より小さく、条件より R は s より小さい素因数を持たない
ので、d|21 となる。よって d=1,3,7,21 となる。ここで場合分けをします。
4.7.1
d=1
51 + 1 ≡ 0
4.7.2
d=3
53 + 1 ≡ 0
4.7.3
(mod s) を満たす s は 3 と 7 だが 7 より大きくない。
d=7
57 + 1 ≡ 0
4.7.4
(mod s) を満たす s は 3 のみだが 7 より小さい。
(mod s) を満たす s は素因数分解で調べれば 5167.
d=21
521 +1 ≡ 0 (mod s) を満たす s は素因数分解で調べれば 43,127,5167,7603.
4.8
検証
さて、そろそろ解が大きいといえる部類に入ってきたのではないでしょう
か。ここでこの地点で成り立ってるのか一応検証してみる価値はあるでしょ
う。成り立ってないならば明らかに有限。成り立つならば実際の値を求める
のはやめて理論的に有限か無限かを考える方が良さそうです。
4.8.1
検証方法について
一応 n=3,21 の場合は
53 + 1
521 + 1
=
14,
= 1081263397286
32
212
と、解が事典に与えられているので割愛します。それ以上の数の場合につい
てはとてもとても計算をさせることなんて出来ないので order を使って検証
します。例えば n = 3 × 7 × 43 だとすれば ord3 (5n + 1) ≥ 2, ord7 (5n + 1) ≥
2, ord4 3(5n + 1) ≥ 2 であるかどうかを検証すれば大きな計算をしなくても割
り切れるかどうかが分かるわけです。基本的に定理 3.610 の使いまわしです。
10 注釈に書いた方を見れば一目瞭然です
4.8.2
n = 3 × 7 × 43 の場合
ord3 (5n + 1) = ord3 (5 + 1) + ord3 n = 1 + 1 = 2
ord7 (5n + 1) = ord7 ((53 )7×43 + 1) = ord7 (53 + 1) + ord7 (7 × 43) = 2
ord43 (5n + 1) = ord43 ((521 )43 + 1) = ord43 (521 + 1) + ord43 43 = 2
よって割り切れます。
4.8.3
n = 3 × 7 × 127 の場合
ord3 (5n + 1) = ord3 (5 + 1) + ord3 n = 1 + 1 = 2
ord7 (5n + 1) = ord7 ((53 )7×127 + 1) = ord7 (53 + 1) + ord7 (7 × 127) = 2
ord127 (5n + 1) = ord127 ((521 )127 + 1) = ord127 (521 + 1) + ord127 127 = 2
よって割り切れます。
4.8.4
n = 3 × 7 × 5167 の場合
ord3 (5n + 1) = ord3 (5 + 1) + ord3 n = 1 + 1 = 2
ord7 (5n + 1) = ord7 ((53 )7×5167 + 1) = ord7 (53 + 1) + ord7 (7 × 5167) = 2
ord5167 (5n +1) = ord5167 ((57 )3×5167 +1) = ord5167 (57 +1)+ord5167 3 × 5167 = 2
(= ord5167 (5n +1) = ord5167 ((521 )5167 +1) = ord5167 (521 +1)+ord5167 5167 = 2)
よって割り切れます。
4.8.5
n = 3 × 7 × 7603 の場合
ord3 (5n + 1) = ord3 (5 + 1) + ord3 n = 1 + 1 = 2
ord7 (5n + 1) = ord7 ((53 )7×7603 + 1) = ord7 (53 + 1) + ord7 (7 × 7603) = 2
ord7603 (5n +1) = ord7603 ((521 )7603 +1) = ord7603 (521 +1)+ord7603 7603 = 2
よって割り切れます。
4.8.6
総じて
これらの結果は式を眺めてみれば分かるように「当たり前」です。何故な
ら 5d + 1 ≡ 0
21
当然 5
(mod P ), d|21 となる P を探してきた訳なのですがそれらは
+ 1 ≡ 0 (mod P ) も満たすため
ordP (5n + 1)
=
ordP (521P + 1)
= ordP ((521 )P + 1)
= ordP (521 + 1) + ordP P ≥ 2
となるのは当たり前なのです。実際にやったら色々わかりますね。雑談はさ
ておきもう解の値を求めることは困難だし意味は薄そうです。よって命題を
変更します。
5
r=5 で解は有限か、無限か
難しくて結局分かりませんでした。とりあえず色々と考えてみたことを書
いておきます。
予想 5.1 ここで αi , (1 ≤ i ≤ k) は全て奇素数であるとして、α1 < α2 <
α3 < ... < αk であるとする。nk = α1β1 α2β2 ...αkβk の時条件を満たすとし、
ordαk+1 (5n + 1) ≥ βk+1 ≥ 1, αk < αk+1 となる αk+1 , βk+1 が存在するなら
βk+1
β
β
も条件を満たす。
ば nk+1 = α1 1 α2 2 ...αk+1
検証 5.1 nk の時に条件を満たすので、ordαi (5nk + 1) ≥ 2, (1 ≤ i ≤ k) であ
β
k+1
が奇数なので 5nk |5nk+1 となる。よって ordαi (5nk+1 + 1) ≥
る。ここで αk+1
2, (1 ≤ i ≤ k) となるのは明らかなので ordαk+1 (5nk+1 + 1) ≥ 2 となることを
示せば必要十分。それは
ordαk+1 (5nk+1 + 1)
=
βk+1
ordαk+1 ((5nk )(αk+1
nk
)
+ 1)
β
k+1
+ 1) + ordαk+1 (αk+1
)
=
ordαk+1 (5
=
ordαk+1 (5nk + 1) + βk+1
≥
2
より得られる。よって上の命題は真であると示された。
難しそうに書いてますけど当たり前です。こうなる奇素数 αk+1 と自然数 βk+1
が存在する限り条件を満たす n は存在する、というわけです。よっていつか
条件を満たす αk+1 が無くなれば解は有限、どんなに大きくなっても存在す
るのならば解は無限、というわけです。
予想 5.2 n の素因数となる素数は全て mod 4 において 3 と合同である。
ここまでで求めてみた素因数を見ているとどうもこれが成り立ちそうな気が
してきます。少し考えてみて帰納的に示せそうな気もしたんですが結局分か
らずじまいです。
β1
予想 5.3 ある k において 5α1
β
β
α2 2 ...αkk
+ 1 は αk 以下の素数の積で表される。
これは解と直結します。いつかこれが出来てしまえば有限個しか解が存在し
ないということです。しかし残念ながら解けませんでした。
(がっかりさせて
ごめんなさい)非常に難しい問題だと思います。
6
r が一般の正整数であるとき
r=5 にも精一杯なのでほぼ全くこれについては分かりませんでした。一応
今までの応用が利く範囲の紹介をしておきます。
6.1
n は奇数
n が偶数であるとき、n2 ≡ 0
となりますが n は偶数なので
6.2
(mod 4) となる。よって rn +1 ≡ 0 (mod 4)
(mod 4) でこれを満たす数は存在しない。
定理 3.2∼3.7 の有用性
r は正整数で冪も奇数だと分かっているためこれらの定理は存分に利用で
きます。
7
あとがき
うーん、非常に出来が悪いものになってしまった。必死で計算して数値を
求めるというのは結構得意なのですが一般論的になるとやはり難しいですね。
どなたかこの問題が分かった方がいたら [email protected] にメー
ルしていただきたいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献
[1] (数学オリンピック事典 演習編/数学オリンピック財団)
ヨーロピアンコールオプション最適価格
高校3年3組45番 平野 正浩
1
はじめに
数学研究部にお越しいただきありがとうございます。
これが、私の数学研究部員として出す最後の部誌になるので、何か面白いこ
とを言えたらと思い、5次のモーメントが確率分布の何を表すのかという事
を考えてみましたが、これがやはりなかなか難しくて、演算性に優れた E(X)
でも求めるのは大変です。
この記事では、経済学で扱われる内容を通して、解析的に扱われる伊藤積分
のアプローチからというよりも確率論からのアプローチを中心にコールオプ
ション価格を考察してみる事をします。
この分野(確率論)の特性として、何かと仮定する知識が多いのですが、そ
れぞれの概念の理解をできるだけ丁寧に説明しましたので、是非読んでみて
ください。以下の記事では、数学でありながら、経済に密着した確率論をファ
イナンスの面で見ていくことに焦点を当てているつもりです。
2
準備
まず、ここで必要な考え方などを整理することにします。
高校数学の知識がある方は、§3「準備
供廚
ら読み始めていただいてもかま
いません。まず、確率を定義しないことには始まりません。
定義 1 確率 (ラプラスの定義)
施行の回数を N , さらにその事象が起こった回数を n とし、すべての施行が
n
平等に確からしいとすると、A の確率 P (A) は P (A) =
で与えられる。
N
議論を始めるにあたってまず、確率というものを定義しなければなりません。
まず、このラプラスの定義に従って議論を進めることにします。
定義 2 確率変数, 確率分布
数学的な変数 X の各値に、その値の確率が組み合わさっている場合、X を確
率変数をいい、確率の集まりを確率分布という。
確率分布を図示するには、確率変数と確率を座標軸にとってやればよい。
たとえば、サイコロを振るときに、X は離散的になるので、その確率分布は
離散確率分布であるという。
X が連続的に値をとる場合はその確率分布を連続確率分布(絶対確率分布)
という。
定義 3 確率密度関数
この連続確率分布のとき、確率変数 X が値 x をとる確率 P (X = x) は x の
関数であり、それを f (x) とする。
また、連続確率分布になるとき、でやすさの関数 f (x) を確率変数 X で積分
したものでその範囲の確率を求めることができる。
このとき f (x) を確率密度関数という。
確率分布には多種多様なものがあるが、それは期待値 E(X) や分散 E{(X −
µ)2 } などで特徴付けることができそうである。
実際 E{(X − µ)n }(n 次のモーメントと呼ばれる) をすべて知る事によって、
確率分布を決定できることが知られている。
そしてそのモーメントを生成するモーメント母関数を定義する。
定義 4 モーメント母関数
モーメント母関数を、MX (t) = E(etX ) のように定義する。
具体的には
MX (t) =
X
etx f (x)
x
Z
∞
MX (t) =
etx f (x)dx
−∞
なぜ、このように定義するかは、マクローリン展開し、もとめるモーメント
より低次の項は消え、t=0 を代入することにより、高次の項は消えるので求
めるモーメントのみ取り出すことができるからである。
参考 1 上のように定義したモーメント母関数は t=0 に対して存在しない確
率分布も存在する。なので、t=0 の近傍でモーメント母関数が存在しなけれ
ばならない。これは実は、ϕX (t) = E(eitX ) と定義しなおすことで解決でき
るのだが、ここでは正規分布 (モーメント母関数が t=0 において存在する) だ
けで考えるので上記のモーメント母関数を用いることにする。
ここで、後々用いる重要な確率分布を紹介します。
1. 二項分布(ベルヌーイ分布)
これはランダムウォーク (後述) を考えるときに、考えやすいモデルとして重
宝します。
定義 5 二項分布
1 回の施行に対して、二つの結果 S, F があって、それぞれの確率
P (S) = p, P (F ) = q とする (ただし、p + q = 1)
このとき、n 回の施行に対して S が起こった回数を X とすると、
P (X = x) = n Cx px q n−x (x = 0, 1, · · · , n)
となり、これをパラメータ (n, p) の二項分布といい、Bi(n, p) とあらわす。
また、E(X) = np, V (X) = np(1 − p) となる。
(冗長かもしれませんが、これは定義ではなくきちんと導けるものですがス
ペースの都合上省略します。以降も同様に結果を仮定することがありますの
で了承しておいてください。)
2. 正規分布
もっとも多くの現象が従う確率分布として知られ、また、ウィーナー過程で
も正規分布に従うことが知られています。
定義 6 正規分布
正規分布の密度関数は、
f (x) = C · e−
(x−µ)2
2σ 2
(−∞ < x < ∞)
(ここで、C = √
1
)
2πσ
となる。また,E(X) = µ, V (X) = σ 2 である。期待値 µ、分散 σ 2 の正規分
布という意味で、N (µ, σ 2 ) と書くことにする。
この正規分布を、変数変換 Z =
うことがわかる。
s−µ
によって正規化すると、N (0, 1) に従
σ
あらゆる確率分布の”標準”を考えるという意味で、N (0, 1) を考えることが多
い。
次のグラフが、標準正規分布を Excel で書いたものである。
確率分布に関しては、この二つが圧倒的に出てきます。ランダムウォーク
は二項分布に、ウィーナー過程は正規分布に従うことがその性質からわかり
ます。
定義 7 (確率論的) 期待値
期待値を確率分布によって次のように定義する。離散型の場合,
X
E(X) =
xf (x)
x
連続型の場合,
Z
∞
E(X) =
xf (x)dx
−∞
ここで、期待値に関する有用な演算ルールを紹介する。
c:定数とすると、
E(X + c) = E(X) + c
E(cX) = cE(X)
E(aX + b) = aE(X) + b
E(c) = c
E(X + Y ) = E(X) + E(Y )
E(aX + bY ) = aE(X) + bE(Y )
期待値は独立を仮定せずとも加法性がいえるので演算性に優れているとい
える。
定義 8 分散、標準偏差
分散、標準偏差を次のように定義する。
µ = E(X) として、離散型の場合
X
V (X) =
(x − µ)2 f (x)
x
連続型の場合,
Z
∞
V (X) =
−∞
(x − µ)2 f (x)dx
これは、期待値からのばらつき度合いを表すことが容易に確認できる。また、
このように分散を定めたとき、V (X) = E(X 2 ) − (E(X))2 とかける。
証明
証明終
念のため簡単な証明を与えておく。
分散に関する有用な演算ルールは多少厄介なので、少しずつ紹介することに
する。
まず、分散の考えから容易に言えることは,
V (X + c) = V (X)
V (cX) = c2 V (X)
V (c) = 0
ここで、加法性はいえないことに注意する。
分散の加法に関しては無相関 (後述) でなければ V (X + Y ) = V (X) + V (Y )
は成り立たない。
確率変数の数を増やすことは実際のファイナンシャルリスクを分散させる
時に考えるので、この辺りで導入しておきます。
3
準備
定義の羅列が続きます。
定義 9 共分散
共分散 (Covariance) を以下のように定義する。
Cov(X, Y ) = E{(X − E(X))(Y − E(Y ))}
また、このとき V (X + Y ) = V (X) + V (Y ) + 2Cov(X, Y ) である。
つまり、離散型の場合、
XX
Cov(X, Y ) =
(x − µx )(y − µy ) · f (x, y)
x
連続型の場合、
(離散型)
y
ZZ
Cov(X, Y ) =
(x − µx )(y − µy ) · f (x, y)dxdy
Ω
(連続型)
共分散を定義する事により、n 個の確率変数の和の分散が以下の式で得るこ
とができる。
n
X
X
XX
V(
Xi ) =
V (Xi ) +
i
i=1
i6=j
Cov(Xi , Xj )
定義 10 相関係数
共分散の強さの程度として相関係数を定義する。
Cov(X, Y )
p
V (X) · V (Y )
ρXY = p
また、ρ = 0 なら無相関であるという。このように定義すると、−1 ≤ ρXY ≤ 1
の範囲に入ることが示せる。
次は、確率論を扱うにおいて非常に重要になる独立という概念を考えま
しょう。
定義 11 独立
確率変数が独立であるとは、f (x, y) = g(x) · h(y) が成り立つことをいう。
ここで独立というのは同時確率分布が周辺確率分布から決定されるという状
況なので、無相関よりは強い条件であることが推測でき、実際にそうなりま
す。
4
準備
準備
までで、基礎的な知識は一通り抑えましたので、ここから核心に迫っ
ていこうと思います。
4.1
2 変量の正規分布
2 変量正規分布とはその名のとおり、2 変量を考えた正規分布のことであ
る。単純にこれらが独立なら話は早いのだが相関関係があるとして話を進め
なければならない。
そこで、まず、2 つの独立確率変数 Z1 ,Z2 が、それぞれ、N (1, 1),N (−1, 1) に
従うとする。
これらは独立なので Cov(Z1 , Z2 ) = 0 となる。
ここで、X = aZ1 + bZ2 , Y = cZ1 + dZ2 として、X, Y について確率分布を
調べることにする。
確率変数 X,Y の期待値は、
E(X) = aE(Z1 ) + bE(Z2 ) = a − b
E(Y ) = c − d
V (X) = V (aZ1 + bZ2 ) = a2 V (Z1 ) + b2 V (Z2 ) = a2 + b2
V (Y ) = c2 + d2
Cov(X, Y ) =
Cov(aZ1 + bZ2 , cZ1 + dZ2 )
=
Cov(aZ1 , cZ1 ) + Cov(aZ1 , dZ2 ) + Cov(bZ2 , cZ1 ) + Cov(bZ2 , cZ2 )
=
acV (Z1 ) + (ad + bc)Cov(Z1 , Z2 ) + bdV (Z2 )
=
ac + bd
=
p
以上より、
ρXY
=
Cov(X, Y )
p
V (X) V (Y )
ac + bd
√
√
2
a + b2 c2 + d2
ここで、(X, Y ) の確率密度関数を求めることを考える。
まず、(Z1 , Z2 ) の密度関数を求めるには、単純に積を出せばよいので、
f (z1 , z2 ) =
=
(z1 −1)2
(z2 +1)2
1
1
√ e− 2 · √ e− 2
2π
2π
1 − 1 {(z1 −1)2 +(z2 +1)2 }
e 2
2π
これより、(X.Y ) の確率密度関数を出せばよい。
dx − by
ay − cx
x = az1 + bz2 , y = cz1 + dz2 より、z1 =
, z2 =
z1 − 1 =
ad − bc
ad − bc
0
0
0
0
z1 , z2 + 1 = z2 , x − E(X) = x , y − E(Y ) = y とすると、すべての 0 につい
て変換式が成り立つので、上の確率密度関数の (z1 − 1)2 + (z2 + 1)2 だけを
取り出して、上記の変換で x, y に落とし込む。
z102 + z202
=
=
=
=
=
1
(ad − bc)2
1
(ad − bc)2
1
(ad − bc)2
1
(ad − bc)2
1
(ad − bc)2
©
©
©
©
©
(dx0 − by 0 )2 + (ay 0 − cx0 )2
ª
d2 x02 − bdx0 y 0 + b2 y 02 + a2 y 02 − 2acx0 y 0 + c2 x02
(c2 + d2 )x02 + (a2 + b2 )y 02 − 2(ac + bd)x0 y 0
V (Y )x02 + V (X)y 02 − 2σX σY ρx0 y 0
x02 σX 2 + y 02 σY 2 − 2σX σY ρx0 y 0
ª
ª
ª
ª
以上より、2 次元正規分布の確率密度関数がわかる。
½
¾
(x − µX )(y − µY ) y − µY
1
(x − µ)2
Q=
−
sρ
+
1 − ρ2
V (X)
σX σY
V (Y )
1
として、確率密度関数は C · e− 2 Q

つまり、C · e
− 21
1
1−ρ2
(x−µ)2
V (X)
−sρ
(C =
1
p
2πσX σffY
(x−µX )(y−µY )
y−µ
+ V (YY)
σX σY
1 − ρ2
) とかける。
とかけるわけだが、見て
のとおり覚える気なんてさらさらしない(笑)
実は、実際に値を代入して解いてみようとしてもえげつない式が出てきて解
析的に解けない。(有効な近似公式はあるのだが)
なので、これをいかして多変量確率変数の正規分布一般の性質を 2 次の場合
から推測してみる。(この推測は正しいことは証明されている。)
定理 1 2 次正規分布において無相関であれば独立である。
Q
証明 1 確率密度関数の一般形から無相関 (ρ = 0) なら e− 2 = e
(x−µX )
2ρX 2
·e
(y−µY )
2ρY 2
となり、独立であることがわかる。
証明終
4.2
多変数の正規分布
証明はスペースの都合上記載できないが、以下のような事実がわかってい
る。n 個の確率変数の組 (X1 , X2 , · · · Xn ) に対し、
1. 各 Xi は正規分布 N (µi , ρi 2 ) に従う。
2. ρij = 0 なら Xi , Xj は独立。
3. 確率変数
p
X
bi Xi の期待値は
i=0
p
X
bi µi であり、分散は
i=1
p
X
で、その確率分布は正規分布 N (
bi bj σij
i=1 j=1
bi µi ,
i=1
5
p X
p
X
p X
p
X
bi bj σij ) に従う。
i=1 j=1
ランダムウォーク
ランダムウォークとは、もっとも単純な確率過程のモデルであるので、こ
れを最初に考えて確率過程におけるマルチンゲール性などの重要な概念を説
明する。
5.1
ランダムウォークとは
ランダムウォークとは、確率変数 X = 1(確率 p) と X = −1(確率 q) があ
n
X
り、それらが全く独立として、その和 Sn =
Xi (n ∈ N) として定義され
i=1
るものである。以下が、ランダムウォークの図である。
これは、p = q = 0.5 のときのランダムウォークです。
以外に偏っているなぁと思った方がいるかも知れません。
実はこれで正しいのです。
これが、いわゆる”ツキ”というやつです。
株価がウィーナー過程 (ランダムウォークの進化版) で記述できるということ
からこの株価が頻繁に Sn = 0 となるように動くのではなくある程度傾いて
運動するということがわかります。
(実は、これは期待値がゼロの運動なんで
すけどね。(笑))
さて、この確率過程の Sn についていろいろ考えて見ましょう。
定理 2 各確率変数 Xi が独立で、かつ同一分布に従い、(これはベルヌーイ
分布ではなくてもよい)
E(Xi ) = µ, V (Xi ) = σ 2 とする。このとき、
1 E(Sn ) = nµ, V (Sn ) = nσ 2
2 m > n のとき、Sm − Sn と Sn は独立
3 m > n のとき、Cov(Sn , Sm ) = nσ 2
r
n
4 m > n のとき、ρSm Sn =
m
証明 2 証明というにはおこがましいものも入っていますが、共分散をいじる
ときに定理 2.2 をよく使うので定理扱いしておきます (笑)
1. 期待値は加法性があるので各確率変数に対しての期待値をそのまま足すだ
けでよい。また、分散は確率変数が独立なので、Cov(Xi , Xj ) = 0 より加法
性がいえる。
2. 自明
3.
Cov(Sm , Sn )
= Cov(Sm − Sn + Sn , Sn )
= Cov(Sm − Sn , Sn ) + Cov(Sn , Sn )
= nσ 2
4.
ρSm Sn
=
=
=
Cov(Sm , Sn )
√
√
mσ 2 nσ 2
nσ 2
√
nmσ 2
r
n
m
証明終
5.2
マルチンゲール
先ほどの定理 2.1 から E(Xi ) = 0 なら E(Sn ) = 0 である。さらに定理 2.2
を用いると独立な確率過程が存在するので、E(Sn |Sn , Sn−1 , · · · S1 ) = Sn で
あることが想像できる。
これはどういうことだろうか。非常に興味深いことがわかるので、確率過程
がマルチンゲールであるということを定義してから経済学的に検証してみよ
う。
定理 3 Xi が独立で E(Xi ) = 0 とする。Sn =
n
X
Xi とする。このとき
i=1
m > n なら、E(Sn |Sn , Sn−1 , · · · S1 ) = Sn が成り立つ。また、この確率過程
をマルチンゲールという。
証明 3
E(Sm |Sn , Sn−1 , · · · , S1 )
= E(Sm − Sn |Sn , Sn−1 , · · · S1 ) + E(Sn |Sn , Sn−1 , · · · , S1 )
= E(Sm − Sn ) + E(Sn |Sn , Sn−1 , · · · , S1 )
= Sn
証明終
この、マルチンゲール性は確率過程がドリフト項が 0 のウィーナー過程なら
株価の予測ができないことを示している。
つまり、いくら計算しようとしても、期待値は 0 なのである。
6
ブラウン運動
いよいよ、核心です。準備が長いですね(笑)
6.1
ウィーナー過程とは
ブラウン運動ともいいます。先ほどからこのウィーナー過程をたびたび引
き合いに出してきましたが、ここできっちりと定義しておきます。まず、ど
のような確率過程なのかを考えましょう。
基本となるのはランダムウォークです。
ランダムウォークにおいて E(X = p) = ∆x, 施行を連続と考えてその施行幅
を ∆t としたものをウィーナー過程という。
左の図はウィーナー過程、右の図は一般化したウィーナー過程である。
大事なことは、これが連続であるということである。さて、ここで気になる
ことはこの確率過程はどのような確率分布に従うかである。
t
時間 t 経過後の t の位置は、D(t) = S[ ∆t
] · ∆r
ここで、p = q = 0.5 とすると、
E(D(t)) = 0,
V (D(t)) =
µ
2
(∆r) ·
t
∆t
¶
2
=t·
(∆r)
∆t
いま、∆t → 0, ∆r → 0 として、連続化する。
(実はこれは簡単に連続化といえなくて、確率における収束論を多用していえ
ることであるが、ここでは連続化、微分不能であるという事実を踏まえて議
論を進める。また、一次変分をとると有界ではないが、2次変分というもの
をとると定数に2次の収束をして、有界であるという興味深い事実もある。
これは後に使用するのでここで言及しておく。)
√
簡単のため ∆r = ∆t とする。
さて、この辺りで中心極限定理という強い法則収束を紹介しましょう。はっ
きりいってやぼいです。法則収束というのは、簡単にいえば確率分布が収束
するような収束則のひとつです。
定理 4 中心極限定理
Xi が独立で同一分布を持つならば、Xi の確率分布によらず次のことが言え
る。
n
n
X
1X
σ2
) にそれぞれ従う。
は N (nµ, nσ 2 ),
は N (µ,
n i=1
n
i=1
証明はモーメント母関数を用いればできるがここでは省略する。この中心極
限定理を用いて、D(t) の確率分布を調べてみる。ここで、単純対象ランダム
ウォークを構成する独立確率変数 Zi を考える。このとき、
µ
¶
√ Z1 + Z2 + · · · + Z[N t]
Z1 + Z2 + · · · + Z[N t]
√
√
= t
D(t) =
N
Nt
と同じ確率分布になるので、これの期待値と分散を調べてやれば中心極限定
理より,、この確率過程がどのような確率分布に収束するかがわかる。
Z1 + Z2 + · · · + Z[N t]
√
まず、
を考えると、E(Zi ) = 0, V (Zi ) = 1 より
Nt
µ
¶
Z1 + Z2 + · · · + Z[N t]
√
E
= 0(Zi は独立確率変数で E は加法性を持つ)
Nt
µ
¶
Z1 + Z2 + · · · + Z[N t]
√
V
= 1(Zi は独立確率変数なので V も加法性を
Nt
持つ)
つまり E(D(t)) = 0, V (D(t)) = t となり、中心極限定理より、この確率過程
は N (0, t) に従う。
7
伊藤の補題
ふー。いよいよです。いよいよやってきました。地球に生まれてよかったー
このブラックショールズ方程式というのは’97 にノーベル経済学賞を受賞した
Prof. Myron S. Scholes と Prof. Fischer Black によって完成されたもので、
デリバティブの価格づけに現れる偏微分方程式(及びその境界値問題)のこ
とです。
Prof. Scholes
ようするに、コールオプションの最適価格を決定することができる偏微分方
程式のことと思っていただいてかまいません。
又これは、普通株、社債、ワラントのような企業責務にも適用できます。
また、この理論にはある日本人の業績抜きには話をできません。その人物と
は伊藤清です。
この伊藤清という方は、京都大学数理解析研究所名誉教授で、’06 に第1回
ガウス賞を受賞された方であり、上のブラックショールズの方程式もこの伊
藤清の業績の上に成り立っているのです。
以下、標準ウィーナー過程 W (t) に対して話を進めます。
7.1
確率積分
W (t) を t0 < t1 < · · · < tn のように n 個の区間に分割する。このとき、そ
れぞれの増分を
W (t1 ) − W (t0 ), W (t2 ) − W (t1 ), W (t3 ) − W (t2 ), · · · , W (tn ) − W (tn−1 )
として、
∆W (t0 ), ∆W (t1 ), ∆W (t2 ), · · · , ∆W (tn−1 ) としてあらわす。
さらに、各区間ごとに数列 bi (i = 0, 1, · · · , n − 1) を対応させて、それぞれの
区間で積をとって足し合わせると、
b0 ∆W (t0 ) + b1 ∆W (t1 ) + · · · + bn−1 ∆W (tn−1 ) =
n−1
X
bi ∆W (ti )
i=0
となる。
これは、投資高 (bi ) と株価変動 (W (t)) を掛けた値で投資戦略のパフォーマ
ンス評価と見るとごく自然な発想である。
ここで各 ∆W (t) の期待値は 0 であり、マルチンゲール性より ∆W (t) は独立
なのでこの分散は、
σb 2 =
n−1
X
i=0
bi 2 (ti+1 − ti )
とかける。また、この確率分布は多変量正規分布 N (0, σb 2 ) に従う。(§4.2 を
参照のこと)
ここで、これは離散的であることは準備で培った勘で、これを連続化すれば
確率積分が得られるのではないかということが考えられ、実際そうなる。
n−1
X
max(∆ti )→0
∆W (ti ) −−−−−−−−→ Ib (2 次収束)
i=0
この極限は、かっちり収束します。
これを、確率積分として定義して次のように書きます。
Z tn
Ib =
b(t)dW (t)
t0
これが確率積分(ウィーナー積分)の定義でこれを一般化した考えが次に説
明する伊藤積分です。
7.2
伊藤積分
先ほどの数列 bi を b(t) としたことで、その時の W (t) の値には依存しない
のかと思って b(t) を b(t, W (t)) として一般化し、可測性に留意して、伊藤積
分というものを定義する。
Z tn
b(t, W (t))dW (t)
t0
実際にこれを計算するにはまず、離散的に考えて分点系を細かくしていけば
良い。
このように、確率積分は多くの確率過程 (ex. 幾何ブラウン運動) を導出する。
実はこの、幾何ブラウン運動、株価の説明によく用いられるので聞いたこと
がある方がいるのではないでしょうか。それにも関らず、ウィーナー過程で
はないんですね (笑)
しかし、これほどメジャーになっているからには何かしたらウィーナー過程
になるんではないかと想像できますね。
はい、できます。実は、マルチンゲールにすることができます。たとえば 1
今の幾何ブラウン運動では、eW (t)− 2 t というようにして期待値、分散を求め
ればマルチンゲールであることがわかります。
このように分解することを、ドゥーブ・メイエ分解といって、各種確率過程
を解析する際に、とてもよく使われます。
7.3
伊藤過程
先ほども述べたように、伊藤積分は多くの確率過程を導出する。実際に導
出してみた方はわかると思いますが、これは同時にドリフト項を算出してし
まうので、ここで最初からドリフト項を入れて考えたものが伊藤過程と呼ば
れ、以下の式で定義される。
Z s
Z
X(s) =
A(t)dt +
0
s
B(t)dW (t) + X(0)
0
dX(s) = A(s)ds + B(s)dW (s)
以降、いちいち積分の形で書くのは面倒なので、下の微分形で書いて話を進
めることにします。
さて、確率過程の確率積分を考えるにおいて、公式が与えられると楽です。
それが次に紹介する伊藤の補題 (伊藤の微分公式) といわれるものです。
7.4
伊藤の補題
上記の dX(s) = A(s)ds + B(s)dW (s) で動いている確率過程のとき、それ
を関数 g(t, x) で変換した f (t) = g(t, X(t)) の微分形を与えるのがあの有名な
伊藤の補題です。補題ですが定理扱いしておきます。
定理 5 伊藤の補題
X が伊藤過程 dX = A(X, t)dt + B(X, t)dW (t) に従っているとき、f の動
きは、
df =
∂f
∂f
1 ∂2f
∂f
· A(X, t)dt +
dt +
· (B(X, t))2 dt +
· B(X, t) · dW (s)
2
∂X
∂t
2 ∂X
∂X
ただし、f は 2 階偏微分可能であり、連続とする。
証明 4 詳しい証明は厄介なのでここではやりませんが(というか、私に若干
の不勉強点がありまして (汗))、あらましだけ説明します。
まず、∆f をテイラー展開して、それぞれのブツが何に収束するかを考えた
ら証明できます。
とりあえず、証明終
7.5
多次元化
さて、今まで見てきたものは全て、いわば 1 次元でのブラウン運動でした。
実際に、伊藤過程を考える上において、一次元で物事を考えられるほど甘く
はありません。
証券市場を例にとって説明してみましょう。
たとえば、確率変数(たとえば、いつ、誰が、どの株式をどのくらい取得す
るかなど)が n 個あるとすると当然、n 次元ブラウン運動を考えなければな
りません。
ポートフォリオを考える際には必須の知識ですね。
8
Black-Scholes 方程式
8.1
ギルザノフの定理
経済を語るにおいて確率論は書かせないということは何度も説明したとお
りです。
でもマルチンゲール性により予測はできないということも説明しました。
しかし、世の中にはドリフト項というものがあります。
やはり好材料が見つかれば株価は高騰します。
しかし、それらも含めてウィーナー過程であるというためにドリフト項とい
うものの存在を考えましたね。
今度はドリフト項を足すという形ではなく、確率測度を変えてみます。
いま、確率変数 X が正規分布 N (0, 1) に従うということと、N (u, 1) に従う
ということの違いを確率密度関数で考えて見る。
この二つの確率密度関数の比(尤度比) をとると、
1
e− 2√(x−u)
2π
1
2
x
e−
√2
2π
2
1
= e−ux− 2 u
2
となり、見事に指数マルチンゲールになっていることが確認できる。
確率測度からドリフト項を変化させることもできるのだが、それがいわゆる
ギルザノフの定理である。
また、このように二つの確率変数で考えるだけでは面白くない。
n 個の場合でも同じようにマルチンゲールになっている事を述べる。
N (0, 1) に従う n 個の独立確率変数 Xi として、Yi = Xi + ui とし、E(Yi ) = 0
となるように、N (0, 1) に対してそれぞれ、−ui を”ズレ”として与える。(こ
こで見事にドリフト項を消滅させている)
さらにこのように正規分布を平行移動させるとき測度変換をしたという言い
方をする。
このときそれぞれに対して、
1 2
f−ui (xi )
= e−ui xi − 2 ui
f0 (xi )
となるので、測度変換は
1
e−(u1 x1 +u2 x2 +···un xn )− 2 (u1
2
+u2 2 +···+un 2 )
となる。ここで、Y1 ,Y1 + Y2 ,Y1 + Y2 + Y3 ,· · · ,Y1 + Y2 + · · · + Yn はマルチ
ンゲールになっていることに注意する。
つまり、見事思惑通りドリフト項が消えたのである。
ここでこのように確率変数をいじることによって新しい確率測度を導き、そ
の確率過程をウィーナー過程に落とし込むようにできるというのが次の定理
である。
定理 6 ギルサノフの定理
0 ≤ t ≤ T とし、W (0) = 0 とする。伊藤過程 dY (s) = u(s)ds + W (s) に対
して、確率変数
M (s) = e−
Rs
0
u(t)dW (t)− 21
Rs
0
(u(t))2 dt
,0 ≤ s ≤ T
T によって、W (t) がウィーナー過程であるような測度 P から新しい測度 Q
を導入するとこの測度 Q において Y (t) はウィーナー過程となる。
証明は先ほどから見てきた例から直感的に成り立ちそうなので省略する。
ふむ。確率変数をいじる事はおいといて、測度を変化させてもいいのかとい
う素朴な疑問が生じる。
正規分布で考えれば自明に成り立ちそうなものだが、一応特別な場合で証明
しておく。
証明 5 Y = X + u の場合を考える。
可測集合において十分に小さい幅 A = [x, x + ∆x] において、
P (A) ≒ f0 (x)∆x, Q(A) ≒ f−u (x)∆x より、
f−u (x)
とすると、Q(A) ≒ m(x)P(A) となる。
尤度比を
f0 (x)
つまり、P (A) → 0 のとき Q(A) → 0 となり、これを絶対連続といい P À Q
とあわわす。
また、逆 Q(A) → 0 としても P (A) → 0 なのでこのときこの確率測度は同値
であるといい、P ∼ Q とあらわす。
このようなときに、確率変数を変化させてもよい。
正規分布同士のとき同値になることは先ほどから見てきたような計算をすれ
ば言える。
また、ギルサノフの定理で出てきた Q を P と同値なマルチンゲール測度とい
う。
経済的に言うと、投資戦略評価をする上において、実質 Q だけで考えてもい
いわけである。
実際に、請求権を求めるところでこのマルチンゲール測度を重宝する。
8.2
ギルサノフの定理 (一般化)
やはり、多次元化を考えなければポートフォリオの構成数が複数になった
ときに対処できません。
ので、ギルサノフの定理の一般化されたものを事実として提示しておきます。
定理 7 伊藤過程 Y(t) が n 次元, それをあらわすもとのウィーナー過程 W(t)
が m 次元 (n 6= m) である場合を考える。W から Y を作り出す nm 個の数
を bij (t)、また Y の n 個のドリフト項を B(t), β(t) とおいた伊藤過程を、
dY(s) = β(s)ds + B(s)dW (s), 0 6= t 6= T, Y = 0
とあらわす。今、u,α において、B(t)u(t) = β(t) − α(t) とあらわせたとき、
確率変数
M (s) = e−
Rs
u(t)dW(t)− 21
Rs
|u(t)|2 dt
,0 ≤ s ≤ T
Z s
によって P から Q を考える。Ŵ(s) =
u(t)dt + W(s) は n 次元ウィー
0
0
0
ナー過程となり、かつ Y(t) はこの Ŵ(t) と、余り α(t) をドリフト項として、
dY(s) = α(s)ds + B(s)dŴ(s) のように表すことができる。
これは市場を適切にモデリングする際に必要不可欠なもので、他にもいろい
ろな応用があります。
このようにして市場を再現することによって、たとえば保険の金額などが決
定されているんですね。
以上ドリフト項が確率変数に変換できるということが個人的には一番大きな
収穫でした。
本当はここからもっと面白いことがわかったりするのですがスペースの関係
上省略してやや形式的な内容にはいって、この記事を終えたいと思います。
8.3
Black-Scholes の方程式
さて、いよいよ市場におけるコールオプションの価格を決定する。
ここまでの話とはガラッと変わって、偏微分方程式をいじっていきましょう。
とはいっても、細かい計算を追ってくと時間が足らないので、結果を記して
おきます。
定義 12 ポートフォリオ
ポートフォリオとはいくつかの資産のリストのことで資産 W1 ,W2 ,· · · ,Wp に
おいてポートフォリオの価値を次のように定義する。
W (t) =
p
X
ni (t)Wi (t)
i=0
また、収益率 R(t) を
R(t) =
p
X
ni (t)Wi (t)
i=0
W (t)
Ri (t)
∂f
単
∂S
位買い、価格 f (S, t) の派生証券を 1 単位売るようにしてポートフォリオを構
成してみるとうまい具合にいく。
∂f
このときの、ポートフォリオの価値の変化量は
· ∆S − ∆f となっている。
∂S
これに伊藤の補題を代入する。
さらに式変形を繰り返すと、
∂f
1 ∂2f 2 2
∂f
rf (S, t) =
+
σ S +r
S となり、Black-Scholes の偏微分方程式
∂t
2 ∂S 2
∂S
が導出できる。
つまりこれは、株価オプションの価格評価公式に他ならないのです。
ここで、Black-Scholes の偏微分方程式を導く際に、株価 S の株式を
これが解ければ、最適価格も求められるというわけです。
本当は、これを解いて Black-Scholes の公式を導出するのですが、至らずで
結果だけ書くという形をとらせていただきます。
(実は、しばらくがんばって、解いてみようとしたのですが、うまくいきませ
んでした (涙))
一度 Black-Scholes の論文の原文を読んでみて、どのようにこの公式が導出
されるのか研究しておきます。
で、以下が Black-Scholes の公式です。
µ
¶

2
 u = log S + r − σ
(T − t)
X
2
株価ボラティリティーを σ とおき、
によっ

x=T −t
て、(S, t) を (u, x) に変数変換すると
µ
¶
µ
¶
√
u
u
−rx
√ + σ x − Xe
f (S, t) = S · N
· N √
σ x
σ x
となる。
実際に実在する株価でシミュレートしてみると、意外と高いことがわかり
ます。
やっぱり権利はただでは変えないということなんですかね (笑)
さて、若干スペースが余ってしまいましたので、確率論には必要不可欠な
収束に関して少しだけお話をします。
確率論には先ほど出てきた収束も含めて 4 つの収束があります。
1. 概収束 確率変数の値が収束する確率が 1 である。
2. 確率収束 確率変数の近傍の確率が 1 に収束する。
3. 平均収束 関数論でもよく使われる収束で、差の絶対値の p 乗の期待値が 0
に収束するというものです。
4. 法則収束 中心極限定理もこれのひとつなのですが、これは確率分布が収束
するというものです。
そして、これらには強弱がありまして、それを考えていくこともまた確率論
の魅力かもしれません。
ちなみに、何かと 2 次平均収束を使ってきましたが、これはこのことから確
率収束が言え、また、強すぎもせず弱すぎもせずちょうどよい感じの強さだ
からです。
9
おわりに
ここまで、私の記事にお付き合いくださりありがとうございました。
最終的に、最初にしたかったこととは、結構離れた内容になってしまい、最
後のほうは脈絡のない感じになってしまいました。
原因としては、時間が無いこととパワーが足りないことにあるように思えま
す。
パワーのほうは、カフェインというモノに頼りながら何とかできたのですが、
時間のほうは時間を増やしてくれる薬は残念ながらまだ開発されていないよ
うでどうしようもありませんで、これでも連日徹夜して書き上げたものです。
今となっては、若干後悔することもありますが、全体としてみれば結構いい
内容になったんじゃないかと思っています。
これを期に、この分野に興味を持っていただけたら、私としては至高の喜び
です。
これで、私が数学研究部の部誌を書くのは最後になりますが、このように記
事を書くことを通じていろいろなことが勉強になりました。
この記事を作成するのに用いた TEX というものが使えるようになったのもこ
のように記事を書く経験を通じてのことだと思います。
議論におかしな点がある場合は、私のメールアドレス [email protected]
までメールをください。最後に、この記事を校正してくれた浅野氏に感謝の
意を表しておきます。
以上。
参考文献
[1] 「確率論」伊藤清著 岩波出版
[2] 「入門確率過程」 松原望著 東京図書株式会社
[3] ”The Pricing of Options and Corporate Liabilities,”Journal of Political Economy, Vol. 81, No. 3, May/June 1973 (with Fischer Black).
[4] LATEX 2ε 文典 生田誠三著 朝倉書店
[5] LATEX 2ε 美文書作成入門 奥村晴彦著 技術評論社
多変数 2 次方程式の有理数解
高校 3 年 4 組 21 番 関 典史
1
はじめに
数学研究部にお越しくださりありがとうございます。
この記事では、整数係数 2 次形式 f (x1 , · · · , xn ) に対し1 、f (x1 , · · · , xn ) = a が有理
数解を持つような有理数 a の条件を決定する、ということを考えます。
2
準備
必要な定義・定理を挙げておきます。ここで出てくる定理については、証明を省略
しています。知りたい方は後に挙げる参考文献を参照してください。
定義 2.1 (p 進数体)
各素数 p に対し、p 進数体を Qp と書く。
p 進数体の細かい定義は省略しますが、p 進数体 Qp とは、有理数体 Q を p 進距離に
ついて距離空間とみて完備化したものです。また、
( ∞
)
X
n
Qp =
cn p ; m ∈ Z, cn ∈ {0, 1, · · · , p − 1}
n=m
と見ることもできます。こちらの方がイメージしやすいかもしれません。
定理 2.2 (Hasse の原理)
f (x1 , · · · , xn ) を有理数係数の 2 次以下の多項式とする。f (x1 , · · · , xn ) = 0 が有理数
解を持つための必要十分条件は、f (x1 , · · · , xn ) = 0 が実数解を持ち、かつ任意の素
数 p に対して Qp に解を持つことである。
1
整数係数 2 次形式とは
f (x1 , · · · , xn ) =
X
1≤i≤j≤n
の形の多項式のことである。
aij xi xj
この定理はこの記事において大活躍 (?) します。
定義 2.3 (Legendre 記号)
p : 奇素数, a ∈ Z (p /| a) に対して、x2 ≡ a (mod p) なる x ∈ Z が存在するかしない
かによって
µ ¶
a
= 1, −1
p
µ ¶
a
とする。
を Legendre 記号という。
p
定理 2.4
p, q を相異なる奇素数とする。このとき、以下が成り立つ。
(1) (平方剰余の相互法則)
µ ¶µ ¶
p−1 q−1
q
p
= (−1) 2 · 2
p
q
(2) (第一補充則)
µ
(3) (第二補充則)
−1
p
¶
= (−1)
p−1
2
µ ¶
p2 −1
2
= (−1) 8
p
定義 2.5
p を素数とする。a ∈ Q (a 6= 0) は a = pi u (i ∈ Z, u ∈ Q で、u を既約分数表示した
とき、分母分子ともに p で割り切れない) の形で一意に表せるが、この形で表したと
きに i > 0 となるような a ∈ Q すべての集合を A+
p , i = 0 となるような a の集合を
A0p , i < 0 となるような a の集合を A−
と書く。
p
−
0
この A+
p , Ap , Ap という記法は筆者が作ったものであり、一般的に通用するものでは
ありません。
定義 2.6 (Hilbert 記号)
p を素数とし、a, b ∈ Q, a, b 6= 0 とする。
¡
¢
a = pi u, b = pj v i, j ∈ Z, u, v ∈ A0p
と表し
r = (−1)ij aj b−i = (−1)ij uj v −i ∈ A0p
とおく。p 6= 2 のとき
(a, b)p =
µ ¶
r
(右辺は Legendre 記号, r は mod p でみる)
p
とおき、p = 2 のとき
(a, b)2 = (−1)
r 2 −1
8
(−1)
u−1 v−1
2 · 2
(−1 の指数は mod 2 でみる)
とおく。(a, b)p を Hilbert 記号という。
なんでこんなものを定義するのか、と思われるかもしれませんが、次の定理を見れば
有用性が分かると思います。
定理 2.7
p を素数とし、a, b ∈ Q, a, b 6= 0 とするとき
ax2 + by 2 = 1 となる x, y ∈ Qp が存在する ⇔ (a, b)p = 1
命題 2.8
(1) p : 奇素数, a, b ∈ A0p に対し、(a, b)p = 1
(2) a, b ∈ A02 について
• a ≡ 1 (mod 4) または b ≡ 1 (mod 4) であるとき、(a, b)2 = 1
• a ≡ b ≡ 3 (mod 4) であるとき、(a, b)2 = −1
この命題は Hilbert 記号の定義から容易に証明できます。
これで準備は終わりです。
3
2 変数
2 変数のときを考えましょう。ここでは f (x, y) = x2 + y 2 , f (x, y) = x2 + xy + y 2
について考えます。
定理 3.1
a ∈ Q (a 6= 0) について x2 + y 2 = a が有理数解を持つための必要十分条件は、a > 0
かつ、a = pe11 · · · pekk (pi : 素数, ei ∈ Z, ei 6= 0) と表したときに、p ≡ 3 (mod 4) なる
素因数 p を偶数冪含むことである。
証明
Hasse の原理を用いて示す。
x2 + y 2 = a が実数解を持つ条件は、明らかに a > 0
a に有理数の平方をかけても x2 + y 2 = a の有理数解の有無は変わらないので、a の
分解において e1 = · · · = ek = 1 のときを考えれば十分。
µ
¶
1 2 1 2
1 1
2
2
定理 2.7 より、x + y = a ⇔ x + y = 1 が Qp 解を持つ条件は、
,
=1
a
a
a a p
µ
¶
1 1
p 6= p1 , · · · , pk なる奇素数 p に対して、命題 2.8(1) より
,
=1
a a p
µ
¶
1 1
pi (1 ≤ i ≤ k) が pi ≡ 1 (mod 4) を満たすとき、
,
を考えると
a a pi
¡
¢
1
= p−1
u ∈ A0pi
i u
a
より
r = (−1)1 u−1 u1 = −1
¶
−1
1 1
となるので、
,
=
a a pi
pi
µ
¶
−1
pi ≡ 1 (mod 4) なので定理 2.4(2) より
=1
pi
¶
µ
1 1
,
=1
よって
a a pi
ここで、a > 0 の分解が p ≡ 3 (mod 4) なる素因数 p を含まないとき、x2 + y 2 = a
が有理数解を持つことを示す。
µ
¶
1 1
1
,
を考える。 = 2l u (l = 0, −1, u ∈ A02 ) とすると
a a 2
a
µ
¶
µ
2
r = (−1)l ul u−l = (−1)l
2
より
µ
1 1
,
a a
¶
=
(−1)
=
(−1)
r 2 −1
8
(−1)
u−1 u−1
2 · 2
2
u−1 u−1
2 · 2
a
µ が p ¶≡ 3 (mod 4) なる素因数 p を含まないことから、u ≡ 1 (mod 4) なので、
1 1
,
=1
a a 2
以上より、x2 + y 2 = a は任意の素数 p について Qp 解を持つので、Hasse の原理より
有理数解を持つ。
次に、a の分解において、ある i (1 ≤ i ≤ k) について pi ≡ 3 (mod 4) となっている
とき、
x2 + y 2 = a が有理数解を持たないことを示す。
µ
¶
µ
¶
µ
¶
1 1
1 1
−1
,
を考えると、r = −1 より
,
=
a a pi
a a pi
pi
¶
µ
−1
pi ≡ 3 (mod 4) なので定理 2.4(2) より
= −1
pi
µ
¶
1 1
よって
,
= −1
a a pi
したがって x2 + y 2 = a は Qpi 解を持たないので有理数解を持たない。
証明終
定理 3.2
a ∈ Q (a 6= 0) について x2 + xy + y 2 = a が有理数解を持つための必要十分条件は、
a > 0 かつ、a = pe11 · · · pekk (pi : 素数, ei ∈ Z, ei 6= 0) と表したときに、p ≡ 2 (mod 3)
なる素因数 p を偶数冪含むことである。
証明
³
y ´2 3 2
x2 + xy + y 2 = x +
+ y より、x2 + xy + y 2 = a が有理数解を持つことは、
2
4
x2 + 3y 2 = a が有理数解を持つことと同値。
以下 x2 + 3y 2 = a について考える。
実数解を持つ条件は a > 0
a > 0 の分解において e1 = · · · = ek = 1 であるとしてよい。
µ
¶
1 3
p 6= p1 , · · · , pk , 3 なる素数 p について、命題 2.8 より
,
=1
a a p
µ
¶
1 3
pi (1 ≤ i ≤ k) が pi ≡ 1 (mod 3) を満たすとき、
,
を考えると
a a pi
¡
¢
1
3
= p−1
= p−1
u ∈ A0pi
i u,
i 3u
a
a
より
µ
¶
µ
¶
r = (−1)1 u−1 (3u)1 = −3
−3
1 3
,
=
a a pi
p
µ ¶ µ ¶i
µ ¶
pi −1
3
pi
pi
2
相互法則より
= (−1)
で、pi ≡ 1 (mod 3) より
= 1 なので、
p
3
3
i
µ ¶
pi −1
3
= (−1) 2
pi µ
¶
µ
¶µ ¶
pi −1
pi −1
1 3
−1
3
よって
,
=
= (−1) 2 (−1) 2 = 1
a a pi
pi
pi
ここで、a > 0 の分解が p ≡ 2 (mod 3) なる素因数 p を含まないとき、x2 + 3y 2 = a
が有理数解を持つことを示す。
µ
¶
1 3
,
を考える。
a a 3
なので、
¡
¢
1
3
= 3l u,
= 3l+1 u l = 0, −1, u ∈ A03
a
a
とおくと
r = (−1)l(l+1) ul+1 u−l = u
であり、
(mod 3) なる素因数 p を含まないことから u ≡ 1 (mod 3) なの
µ aが
¶ p ≡µ2 ¶
1 1
u
で、
,
=
=1
a a 3
3
以上より、x2 + 3y 2 = a は任意の素数 p について Qp 解を持つので、Hasse の原理よ
り有理数解を持つ。
次に、a の分解において、ある i (1 ≤ i ≤ k) について pi ≡ 2 (mod 3) となっている
とき、x2 + 3y 2 = a が有理数解を持たないことを示す。
µ
¶
1 3
pi 6= 2 のとき、先ほどと同様にして
,
= −1 が示せる。
a a pi
¢
¡
1
3
pi = 2 のとき、 = 2−1 u,
= 2−1 3u u ∈ A03 であり r = −3 なので
a
a
µ
¶
r 2 −1
u−1 3u−1
1 3
,
= (−1) 8 (−1) 2 · 2 = −1
a a 2
よって、いずれの場合も x2 + 3y 2 = a は Qpi 解を持たないので有理数解を持たない。
証明終
ここでは x2 + y 2 = a, x2 + xy + y 2 = a(x2 + 3y 2 = a) を考えましたが、一般
に ax2 + by 2 = 1 について考えると、a, b の分解に含まれない奇素数 p については
(a, b)p = 1 なので、ax2 + by 2 = 1 の有理数解の有無は有限の計算により判定できる
ことが Hasse の原理と定理 2.7 から分かります。
4
3 変数
3 変数のときを考えましょう。まずは f (x, y, z) = x2 + y 2 + z 2 について考えます。
定理 4.1
a ∈ Q (a > 0) について x2 + y 2 + z 2 = a が有理数解を持つための必要十分条件は、
¡
¢
a = 2l u l ∈ Z, u ∈ A02 と書いたときに l : 奇数であるか、または、l : 偶数,u 6≡ 7
(mod 8) となることである。
証明
実数解を持つことは明らか。
奇素数 p について、(−1, −1)p = 1 より、ある u, v ∈ Qp が存在して −u2 − v 2 = 1 と
a+1
a−1
a−1
なる。このとき x =
,y =
u, z =
v は x2 + y 2 + z 2 = a の Qp 解であ
2
2
2
る。
よって、x2 + y 2 + z 2 = a が Q2 解を持てば、Hasse の原理よりこれは有理数解を持
つ。
必要なら a に有理数の平方をかけることにより、a ∈ A02 または a = 2u
¡
¢
u ∈ A02 で
あるとしてよい。
(I) a ∈ A02 の場合
a ≡ 1, 3, 5, 7 (mod 8)
(1)
≡ 1, 5 (mod 8) のとき
µ a¶
1 1
,
= 1 より y 2 + z 2 = a は Q2 解を持つので、x = 0 とすれば x2 + y 2 + z 2 = a
a a 2
の Q2 解が得られる。
(2) a ≡ 3 (mod 8) のとき
a − 1 = 2a0 とおくと a0 ≡ 1 (mod 4)
y2 + z2 = ¶
2a0 が Q2 解を持つことを示す。
µ
¶
µ
1
1
1 1
−1 1
0
を考えると、 0 = 2
,
∈ A2 であり r = −1 なので
2a0 2a0 2
2a
a0
a0
µ
¶
1 −1
1 −1
1 −1
1 −1
0
0
r 2 −1
1 1
a0
a0
·a2
·a2
8
2
2
=
(−1)
,
(−1)
=
(−1)
0
0
2a 2a 2
µ
¶
1
1 1
≡ 1 (mod 4) より、
,
=1
a0
2a0 2a0 2
よって y 2 + z 2 = 2a0 は Q2 解を持つ。
したがって x2 + y 2 + z 2 = a は Q2 解を持つ。
(3) a ≡ 7 (mod 8) のとき
x2 + y 2 + z 2 = a が有理数解を持つと仮定する。
x ∈ A02 とすると、x2 ≡ 1 (mod 8) より y 2 + z 2 ≡ 6 (mod 8) となるが、これは定理
3.1 より矛盾。
2
2
2
x ∈ A+
2 とすると、x ≡ 0 (mod 4) より y + z ≡ 3 (mod 4) となるが、これは定理
3.1 より矛盾。
¡
¢
−l
0
2
2
−l 2
x ∈ A−
2 とすると、x = 2 u l ∈ N, u ∈ A2 とおけて、y + z = a − 4 u となる。
このとき (2l y)2 + (2l z)2 = 4l a − u2 ≡ 3 (mod 4) となるが、これは定理 3.1 より矛
盾。
よって x2 + y 2 + z 2 = a は有理数解を持たない。
¡
¢
(II) a = 2u u ∈ A02 の場合
a ≡ 2 (mod
4) ¶
なので、a − 1 = a0 とおくと a0 ≡ 1 (mod 4)
µ
1 1
よって
,
= 1 なので、y 2 + z 2 = a0 は Q2 解を持つ。
a0 a0 2
したがって x2 + y 2 + z 2 = a は Q2 解を持つ。
以上より定理は示された。
証明終
次に f (x, y, z) = x2 + y 2 + pz 2 (p : 素数) について考えます。
p = 2 のときは次が成り立ちます。
定理 4.2
a ∈ Q (a > 0) について x2 + y 2 + 2z 2 = a が有理数解を持つための必要十分条件は、
¡
¢
a = 2l u l ∈ Z, u ∈ A02 と書いたときに l : 偶数であるか、または、l : 奇数,u 6≡ 7
(mod 8) となることである。
証明
実数解を持つことは明らか。
奇素数 p について、(−1, −2)p = 1 より、ある u, v ∈ Qp が存在して −u2 − 2v 2 = 1
a+1
a−1
a−1
となる。このとき x =
,y =
u, z =
v は x2 + y 2 + 2z 2 = a の Qp 解
2
2
2
である。
よって、x2 + y 2 + 2z 2 = a が Q2 解を持てば、Hasse の原理よりこれは有理数解を持
つ。
必要なら a に有理数の平方をかけることにより、a ∈ A02 または a = 2u
¡
¢
u ∈ A02 で
あるとしてよい。
(I) a ∈ A02 の場合
a ≡ 1, 3 (mod 4) である。
a ≡ 1 (mod 4) のときは z = 0, a ≡ 3 (mod 4) のときは z = 1 とすれば Q2 解が得
られる。
¡
¢
(II) a = 2u u ∈ A02 の場合
u ≡ 1, 3 (mod 4)
(1) u ≡ 1 (mod 4) のとき
定理 4.1 の証明の (I)(2) と同様に、x2 + y 2 = a は Q2 解を持つ。
したがって x2 + y 2 + 2z 2 = a は Q2 解を持つ。
(2) u ≡ 3 (mod 4) のとき
u ≡ 3, 7 (mod 8) である。
• u ≡ 3 (mod 8) のとき
a − 2 = 2u − 2 = 4a0 とおくと a0 ≡ 1 (mod 4) なので、x2 + y 2 = 4a0 は Q2 解
を持つ。したがって x2 + y 2 + 2z 2 = a は Q2 解を持つ。
• u ≡ 7 (mod 8) のとき
a ≡ 14 (mod 16) である。
x2 + y 2 + 2z 2 = a が有理数解を持つと仮定する。
z ∈ A02 とすると、z 2 ≡ 1, 9 (mod 16) より x2 + y 2 ≡ 12 (mod 16) となるが、
これは定理 3.1 より矛盾。
2
2
2
z ∈ A+
2 とすると、2z ≡ 0 (mod 8) より x + y ≡ 6 (mod 8) となるが、これ
は定理 3.1 より矛盾。
¡
¢
−l
0
2
2
−2l+1 2
z ∈ A−
u
2 とすると、z = 2 u l ∈ N, u ∈ A2 とおけて、x + y = a − 2
l 2
l 2
l
2
となる。このとき (2 x) + (2 y) = 4 a − 2u ≡ 6 (mod 8) となるが、これは
定理 3.1 より矛盾。
よって x2 + y 2 + 2z 2 = a は有理数解を持たない。
以上より定理は示された。
証明終
f (x, y, z) = x2 + y 2 + pz 2 (p : 奇素数) については次が成り立ちます。
定理 4.3
p を奇素数とするとき、a ∈ Q (a > 0) について x2 + y 2 + pz 2 = a が有理数解を持つ
ための必要十分条件は、以下のようになる。
¢
¡
(1) p ≡ 1 (mod 8) のとき、必要十分条件は、a = 2l u l ∈ Z, u ∈ A02 と書いたとき
に l : 奇数であるか、または、l : 偶数,u 6≡ 7 (mod 8) となること。
¢
¡
(2) p ≡ 5 (mod 8) のとき、必要十分条件は、a = 2l u l ∈ Z, u ∈ A02 と書いたとき
に l : 奇数であるか、または、l : 偶数,u 6≡ 3 (mod 8) となること。
¢
¡
(3) p ≡ 3 (mod 4) のとき、必要十分条件は、a = pl u l ∈ Z, u ∈ A0p と書いたとき
µ ¶
u
に l : 偶数であるか、または、l : 奇数,
= 1 となること。
p
証明に用いる補題を用意します。
補題 4.4
µ ¶
u
= 1 を満たすとき、u は Qp において平方元であ
p
る、すなわち、ある α ∈ Qp が存在して α2 = u となる。
p を奇素数とする。u ∈ A0p が
証明略
証明は参考文献参照ということにしておきます。
定理 4.3 の証明
実数解を持つことは明らか。
q 6= p なる奇素数 q について、(−1, −p)q = 1 より、ある u, v ∈ Qq が存在して
a+1
a−1
a−1
−u2 −pv 2 = 1 となる。このとき x =
,y =
u, z =
v は x2 +y 2 +pz 2 =
2
2
2
a の Qq 解である。
µ
¶
p−1
−1
(−1, −p)p を考えると、r = −1 より (−1, −p)p =
= (−1) 2
p
(−1, −p)2 を考えると、−1 = 20 (−1), −p = 20 (−p), r = 1 より
(−1, −p)2 = (−1)
r 2 −1
8
(−1)
−1−1 −p−1
· 2
2
= (−1)
p+1
2
(1) を示す。
p ≡ 1 (mod 8) のとき、(−1, −p)p = 1 より x2 + y 2 + pz 2 = a は Qp 解を持つ。
よって、x2 + y 2 + pz 2 = a が Q2 解を持てば、Hasse の原理よりこれは有理数解を持
つ。
ここからは定理 4.1 の証明と同様である。
¡
¢
a ∈ A02 または a = 2u u ∈ A02 であるとしてよい。
a ∈ A02 のとき
• a ≡ 1, 5 (mod 8) ならば z = 0 とすれば x2 + y 2 + pz 2 = a の Q2 解が得られる。
• a ≡ 3 (mod 8) ならば z = 1 とすれば x2 + y 2 + pz 2 = a の Q2 解が得られる。
• a ≡ 7 (mod 8) ならば x2 + y 2 + pz 2 = a は有理数解を持たない。
¡
¢
a = 2u u ∈ A02 のとき a ≡ 2 (mod 4) なので、z = 1 とすれば x2 + y 2 + pz 2 = a
の Q2 解が得られる。
以上より (1) が示された。
(2) は (1) と同様に示せる。
(3) を示す。p ≡ 3 (mod 4) のとき (−1, −p)2 = 1 なので、x2 + y 2 + pz 2 = a は Q2 解
を持つ。
よって、x2 + y 2 + pz 2 = a が Qp 解を持てば、Hasse の原理よりこれは有理数解を持
つ。
¡
¢
a ∈ A0p または a = pu u ∈ A0p であるとしてよい。
(I) a ∈ A0p のとき
µ
¶
1 1
,
= 1 より x2 + y 2 = a は Qp 解を持つので、z = 0 とすれば x2 + y 2 + pz 2 = a
a a p
の Qp 解が得られる。
¡
¢
(II) a = pu u ∈ A0p のとき
¡
¢
x2 +y 2 +pz 2 = a が有理数解を持つと仮定して x = pi x0 , y = pj y 0 , z = pk z 0 i, j, k ∈ Z, x0 , y 0 , z 0 ∈ A0p
とおき
p2i x02 + p2j y 02 + p2k+1 z 02 = pu · · · (∗)
となっているとする。
m = min{2i, 2j, 2k + 1, 1} とおく。
• m = 2i のとき
2i ≤ 2j, 2i < 2k + 1, 2i < 1 である。
2i < 2j であるとすると、(∗) の両辺に p−2i をかけて
x02 + p2j−2i y 02 + p2k+1−2i z 02 = p1−2i u
となるので不適。
2i = 2j であるとすると、(∗) の両辺に p−2i をかけて
x02 + y 02 + p2k+1−2i z 02 = p1−2i u
¶
µ
−1
となり、したがって x02 + y 02 ≡ 0 (mod p) なので
=1
p
これは p ≡ 3 (mod 4) に不適。
• m = 2j のとき
m = 2i のときと同様に不適。
• m = 2k + 1 のとき
2k + 1 < 2i, 2k + 1 < 2j, 2k + 1 ≤ 1 である。
2k + 1 < 1 であるとすると、(∗) の両辺に p−(2k+1) をかけて
p2i−(2k+1) x02 + p2j−(2k+1) y 02 + z 02 = p1−(2k+1) u
となるので不適。
2k + 1 = 1 であるとすると、(∗) の両辺に p−(2k+1) をかけて
p2i−(2k+1) x02 + p2j−(2k+1) y 02 + z 02 = u
µ ¶
u
となり、したがって
=1
p
• m = 1 のとき
m = 2k + 1 のときと同様。
µ ¶
u
以上より、x2 + y 2 + pz 2 = a が有理数解を持つならば
=1
p
µ ¶
u
逆に
= 1 であるとき、補題 4.4 より、ある α ∈ Qp が存在して α2 = u となるの
p
で、x = y = 0, z = α とするとこれは x2 + y 2 + pz 2 = a の Qp 解となる。
よって (3) が示された。
証明終
次に f (x, y, z) = x2 + py 2 + qz 2 (p, q : 相異なる奇素数) について考えます。
定理 4.5
p, q を相異なる奇素数とするとき、a ∈ Q (a > 0) について x2 + py 2 + qz 2 = a が有
理数解を持つための必要十分条件は以下のようになる。
µ ¶
µ ¶
p
q
= 1,
= −1 のとき
(I) p ≡ q ≡ 3 (mod 4) で
p
q
¡
¢
必要十分条件は、a = pi u i ∈ Z, u ∈ A0p と書いたときに i : 偶数であるか、または、
µ ¶
u
i : 奇数,
= 1 となること(この条件を Sp と書くことにする)である。
p
(II) µp ≡
¶ 3 (mod
µ ¶ 4), q ≡ 1 (mod 4) のとき
q
p
(1)
=
= 1 のとき、必要十分条件は Sp
p
µ ¶ µq ¶
¡
¢
p
q
(2)
=
= −1 のとき、必要十分条件は、a = q j v j ∈ Z, v ∈ A0q と書い
p
q
µ ¶
v
たときに j : 偶数であるか、または、j : 奇数,
= 1 となること(この条件を Sq
q
と書くことにする)である。
(III)µ p ¶
≡q≡
µ 1¶(mod 4) のとき
q
p
(1)
=
= 1 のとき
p
q
¡
¢
q
•
≡ 1 (mod 8) ならば、必要十分条件は、a = 2k w k ∈ Z, w ∈ A02 と書いた
p
ときに k : 奇数であるか、または、k : 偶数,w 6≡ 7 (mod 8) となること(この条
件を T と書くことにする)である。
¢
¡
q
•
≡ 5 (mod 8) ならば、必要十分条件は、a = 2k w k ∈ Z, w ∈ A02 と書いた
p
ときに k : 奇数であるか、または、k : 偶数,w 6≡ 3 (mod 8) となること(この条
件を U と書くことにする)である。
µ ¶ µ ¶
p
q
=
= −1 のとき
(2)
p
q
q
•
≡ 1 (mod 8) ならば、必要十分条件は、Sp かつ Sq かつ T
p
q
≡ 5 (mod 8) ならば、必要十分条件は、Sp かつ Sq かつ U
•
p
証明
ここでは (I) のときについてのみ示す。
実数解を持つことは明らか。
s 6= p, q なる素数 s について、(−p, −q)s = 1
(−p, −q)q を考えると、r = −p より
µ
¶ µ
¶µ ¶
µ ¶
q−1
−p
−1
p
p
2
(−p, −q)q =
=
= (−1)
=1
q
q
q
q
よって、s 6= p なる素数 s について、(−p, −q)s = 1 より、ある u, v ∈ Qs が存在
a−1
a−1
a+1
, y =
u, z =
vは
して −pu2 − qv 2 = 1 となる。このとき x =
2
2
2
2
2
2
x + py + qz = a の Qs 解である。
したがって、x2 + py 2 + qz 2 = a が Qp 解を持てば、Hasse の原理よりこれは有理数
解を持つ。
あとは定理 4.3(3) の証明と同様に示せる。
証明終
(II), (III) のときについても今までと同じ手法で証明できます。
例 x2 + 3y 2 + 5z 2 = a (a ∈ Q, a > 0)
b
(n ∈ Z, b, c : 5 で割り切れ
c
ない正整数) と書いたときに、n : 偶数であるか、または、n : 奇数,b ≡ ±c (mod 5)
これが有理数解を持つための必要十分条件は、a = 5n ·
となることである。
5
4 変数
最後に、f (x, y, z, w) = x2 + y 2 + z 2 + w2 について考えましょう。
定理 5.1
x2 + y 2 + z 2 + w2 = a は、任意の a ∈ Q について有理数解を持つ。
証明
a = 0 のときは解 x = y = z = w = 0 を持つ。
¡
¢
a 6= 0 のとき、a = 2l u l ∈ Z, u ∈ A02 と書ける。
• l が奇数のとき、定理 4.1 より α2 + β 2 + γ 2 = a なる α, β, γ ∈ Q が存在するの
で、x = α, y = β, z = γ, w = 0 とすればよい。
• l が偶数のとき、定理 4.2 より α2 + β 2 + 2γ 2 = a なる α, β, γ ∈ Q が存在する
ので、x = α, y = β, z = w = γ とすればよい。
証明終
定理 4.1 と定理 5.1 より、3 平方和ですべての有理数を表すことはできないが、4 平方
和だとできるということが分かります。
これでこの記事は終わりです。
6
おわりに
ここまでいろいろと考察してきましたが、いかがだったでしょうか ? この記事を
読んで Hasse の原理の威力が分かっていただけたら、筆者としては嬉しい限りです。
今年で部誌を書くのもとうとう最後になってしまいました。部誌の記事を書くのは毎
年かなり大変でしたが、いい経験になったと思います。今年は、書こうと思って考え
ていた問題が未解決問題であるということをだいぶ時間が経ってから知り、それから
書く内容を変えたため、この記事についての研究の時間があまり多くとれませんでし
た。そのため、満足のいく充実したものを書くことはできませんでしたが、この記事
に書いた 2 次形式については、解を持つための a ∈ Q の条件をすべて決定できたの
で、とりあえずはよかったかなと思っています。今年も部誌を書いてみて、またもっ
と数学をやらないといけないな、という気になりました。これからもっと頑張ろうと
思います。
最後に参考文献を書いておきます。この記事で扱った Hasse の原理以外にも、数論の
いろいろなトピックについて書かれています。興味を持たれた方は読んでみてくださ
い。
数論 I(加藤和也, 黒川信重, 斎藤毅 著
岩波書店)
質問・感想がある方は、是非 n [email protected] までメールください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
!
Fly UP