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1 平成17年(判)第2号 審 決 東京都港区南青山三

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1 平成17年(判)第2号 審 決 東京都港区南青山三
平成17年(判)第2号
審
決
東京都港区南青山三丁目18番9号
被審人
株式会社トゥモローランド
同代表者
代表取締役
佐々木
啓
之
同代理人
弁
田
中
克
郎
同
千
葉
尚
路
同
山
田
健
男
同
尾
形
和
哉
護
士
公正取引委員会は,前記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関
する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)(以下「独占禁止法改
正法」という。)附則第22条の規定によりなお従前の例によることとされる同法
による改正前の不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)に
基づく平成17年(判)第2号景品表示法違反審判事件について,独占禁止法改正
法による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁
止法」という。)第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17
年公正取引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関
する規則(以下「規則」という。)第82条の規定により審判官原啓一郎から提出
された事件記録並びに規則第84条の規定により被審人から提出された異議の申立
書及び規則第86条の規定により被審人から聴取した陳述に基づいて,同審判官か
ら提出された別紙審決案を調査し,次のとおり審決する。
主
1
文
被審人は,自社の小売店舗において販売したジー・ティー・アー
モーダ社製
のズボンの取引に関し,一般消費者の誤認を排除するために,平成12年2月こ
ろから平成16年7月ころまでの間に被審人が行った,当該ズボンの原産国が
ルーマニアであるにもかかわらず,あたかも,原産国がイタリア共和国であるか
のように示した表示は,事実と異なるものであり,かかる表示は,当該商品の原
産国について一般消費者に誤認される表示である旨を速やかに公示しなければな
らない。この公示の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなけれ
1
ばならない。
2
被審人は,今後,輸入されたズボンを販売するに当たり,原産国がイタリア共
和国でないのにイタリア共和国であるかのように示す表示を行うことにより,当
該商品の原産国について一般消費者に誤認される表示をしてはならない。
3
被審人は,第1項に基づいて行った公示について,速やかに文書をもって当委
員会に報告しなければならない。
理
1
由
当委員会の認定した事実,証拠,判断及び法令の適用は別紙審決案の27ペー
ジ15行目から同28ページ10行目までを次のように改めるほかは,別紙審決
案の理由第1ないし第4と同一であるから,これを引用する。
「イ
本件後の被審人の対応について
(ア) 被審人は,本件が問題となった後,再発防止のために十分な措置を採っ
たから,更なる再発防止措置を命ずる必要性はないと主張する。
(イ) 審第12号証,第14号証及び第20号証の1ないし3に照らせば,本
件が問題となった後,被審人は,被審人における商品の仕入れに携わる担
当者全員に対し,「原産国表示について」と題する平成16年8月4日付
け書面を配布するなど再発防止に向けての社員に対する周知等の措置を講
じていること,仕入先である輸入代理店等に対しては,「表示内容証明書」
と題する書面への原産国等の記入及び押印を要求するなどの再発防止のた
めの措置を講じていることを認めることができる。これによれば,被審人
においては,再発防止のため当面具体的に講ずべき措置を講じていると評
価することができる。
ウ
したがって,被審人に対し,今後再び同様の違反行為が行われることのな
いようにするため,主文掲記のとおり,今後の不作為を命ずることは必要で
あるが,再発防止のための社内的措置を改めて命ずる必要はないというべき
である。」
2
よって,被審人に対し,独占禁止法第54条第2項,景品表示法第7条第1項
及び第2項並びに規則第87条の規定により,主文のとおり審決する。
平成19年12月4日
2
公
正
取
引
委
員
会
委員長
竹
島
一
彦
委
員
山
田
昭
雄
委
員
濱
崎
恭
生
委
員
後
藤
委
員
神
垣
3
晃
清
水
別
紙
平成17年(判)第2号
審
決
案
東京都港区南青山三丁目18番9号
被審人
株式会社トゥモローランド
同代表者
代表取締役
佐々木
啓
之
同代理人
弁
田
中
克
郎
同
千
葉
尚
路
同
山
田
健
男
同
尾
形
和
哉
護
士
上記被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部
を改正する法律(平成17年法律第35号。以下「改正法」という。)附則第2
2条の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の不当景
品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)に基づく平成17年(判)
第2号景品表示法違反審判事件について,公正取引委員会から改正法による改正
前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」とい
う。)第51条の2及び公正取引委員会の審判に関する規則(平成17年公正取
引委員会規則第8号)による改正前の公正取引委員会の審査及び審判に関する規
則(以下「規則」という。)第31条第1項の規定により担当審判官に指定され
た本職らは,審判の結果,次のとおり審決することが適当であると考え,規則第
82条及び第83条の規定により本審決案を作成する。
主
1
文
被審人は,自社の小売店舗において販売したジー・ティー・アー
モーダ
社製のズボンの取引に関し,一般消費者の誤認を排除するために,平成12
年2月ころから平成16年7月ころまでの間に被審人が行った,当該ズボン
の原産国がルーマニアであるにもかかわらず,あたかも,原産国がイタリア
共和国であるかのように示した表示は,事実と異なるものであり,かかる表
示は,当該商品の原産国について一般消費者に誤認される表示である旨を速
やかに公示しなければならない。この公示の 方法については,あらかじめ,
公正取引委員会の承認を受けなければならない。
1
2
被審人は,今後,輸入されたズボンを販売するに当たり,原産国がイタリ
ア共和国でないのにイタリア共和国であるかのように示す表示が行われる
ことを防止するために必要な措置を講じ,これを自社の役員及び従業員に周
知徹底させなければならない。
3
被審人は,今後,輸入されたズボンを販売するに当たり,原産国がイタリ
ア共和国でないのにイタリア共和国であるかのように示す表示を行うこと
により,当該商品の原産国について一般消費者に誤認される表示をしてはな
らない。
4
被審人は,第1項に基づいて行った公示及び第2項に基づいて採った措置
について,速やかに文書をもって公正取引委員会に報告しなければならない。
理
第1
1
由
事実及び証拠
被審人等の概要
(1)
被審人は,肩書地に本店を置き,衣料品の小売業等を営む事業者である。
(争いがない。)
(2)
八木通商株式会社(以下「八木通商」という。)は,大阪市中央区今橋
三丁目2番1号に本店を置き,衣料品の輸入卸売業等を営む事業者である。
(査第2号証)
(3)
ジー・ティー・アー
モーダ社(以下「GTA社」という。)はイタリ
ア共和国(以下「イタリア」という。)に所在する衣料品の製造業者であ
る。(査第4号証,第9号証)
2
違反行為
(1)
被審人は,八木通商が輸入したGTA社製のズボンを購入して,平成1
2年2月ころから平成16年7月ころまでの間,「TOMORROWLA
ND」,「DES
RROWLAND
PRÉS」,「GALERIE
VIE」,「TOMO
STOCK」と称する被審人の小売店舗において一般
消費者向けに販売を行った(被審人 が購入・販売した これらのズボンを,
以下「本件商品」という。)。(争いがない。)
被審人が前記期間に販売した本件商品の数は,約7,700着であった。
(査第10号証)
(2)
被審人の委託により,被審人の社名とともに「MADE
2
IN
ITA
LY」と原産国がイタリアである旨記載された品質表示タッグ(以下「本
件品質表示タッグ」という。)及び被審人の社名(英文)とともに「MA
DE
IN
ITALY」と原産国がイタリアである旨記載された下げ札
(以下「本件下げ札」という。)が作成され,かつ,被審人の委託により
本件商品に取り付けられていた(本件品質表示タッグ及び本件下げ札の例
は,別紙のとおりである。これらによる原産国の表示を,以下「本件表示」
という。)。(査第3号証,第10号証。後記「第3
審判官の判断」2
項において認定する。)
(3)
しかし,本件商品は,実際にはルーマニアで縫製されたものであり(査
第4号証,第7号証,第9号証),「商品の原産国に関する不当な表示」
(昭和48年公正取引委員会告示第34号。以下「原産国告示」という。)
において,原産国とは,その商品の内容について実質的な変更をもたらす
行為(以下「実質的変更行為」とい う。)が行われた国をいう旨規定され
ているところ,外衣についての実質的変更行為は縫製をいうと解されるこ
とから,本件商品の原産国はルーマニアと認められるものであった。(後
記「第3
第2
審判官の判断」1項において認定する。)
本件の争点及び双方の主張
1
本件の争点
①
本件商品の原産国はどこか(争点①)
②
被審人は本件表示の主体か否か(争点②)
③
景品表示法違反成立における過失の要否(争点③)
④
本件表示における顧客誘引性の有無(争点④)
⑤
措置の要否(争点⑤)
⑥
裁量権の逸脱・濫用の有無(争点⑥)
なお,被審人は,裁量権逸脱の事実を立証するために,公正取引委員会事
務総局保管の資料が開示されることが不可欠であることから,文書提出命令
を求める申立てを行ったが,審判官により却下されたこと及びこれについて
の公正取引委員会に対する異議申立ても却下されたことについて,憲法第3
1条が保障する適正手続に反するものであると主張するが,当該文書提出命
令の申立てに係る手続は,独占禁止法及び規則の規定に基づきなされたもの
であるところ,それが憲法に違反するか否かについては,公正取引委員会に
おいて判断の限りではない。
3
2
争点①(本件商品の原産国はどこか)について
(1)
ア
審査官の主張
原産国告示は,原産国とは,商品について実質的変更行為が行われた
国をいう旨規定し,また,「『商品の原産国に関する不当な表示』の原
産国の定義に関する運用細則」(昭和48年事務局長通達第14号。以
下「原産国細則」という。)は,外衣については,縫製が実質的変更行
為に当たる旨規定するから,外衣については,縫製が行われた国が原産
国である。そして,査第4号証(本件商品と同種のズボンのインボイス
及びその翻訳についての報告書),査第7号証(八木通商東京本店ブラ
ンド事業部長である中本修(以下「八木通商の中本」という。)の供述
調書),査第9号証(八木通商東京本店ブランド事業部マネージャーで
ある中尾浩規(以下「八木通商の中尾」という。)の供述調書),査第
10号証(被審人商品四部部長の栗原克彦(以下「被審人の栗原」とい
う。)の供述調書)によれば,本件商品がルーマニア製であることは明
白であり,この場合のルーマニア製という語の意味するところは,ルー
マニアにおいて縫製が行われたというものであると解すべきである。
また,被審人は,GTA社製のズボンについて原産国がルーマニアで
あることを認め,平成16年秋冬シーズン物以降,これをルーマニア製
と表示している。
したがって,本件商品の原産国はルーマニアである。
イ
被審人は,インボイス(送り状)は八木通商が被審人以外の業者に納
入した本件商品と同種の他のズボンに係るもので,本件商品の原産国が
ルーマニアであることを証明するものではなく,また本件商品の全部が
ルーマニア製であることを立証するものではないと主張する。しかし,
八木通商の中本及び中尾は,前記供述調書において,例示的に,他社に
納入したGTA社製ズボンに係るインボイスを基に説明しつつ,被審人
に納入した本件商品を含む八木通商取扱いのすべてのGTA社製ズボ
ンの原産国はルーマニアであった旨供述しており,被審人の栗原も,前
記供述調書において,被審人が取り扱った本件商品がルーマニア製で
あった旨供述していることにかんがみれば,本件商品が前記インボイス
に係るズボンと原産国を異にしていたと考えるべき事情はなく,被審人
の主張には理由がない。
4
ウ
また,本件商品がルーマニア製であることは明らかであるので,審査
官において,ルーマニアにおけるGTA社製ズボンの縫製の詳細につい
て主張・立証する必要はない。
(2)
ア
被審人の主張
原産国細則は,行政運用上の解釈指針にすぎず,衣料品についての実
質的変更行為はその実態に応じて様々である。審査官は,個別事案であ
る本件において,縫製が外衣についての実質的変更行為といえるか否か
について,判断可能な程度に具体的に主張・立証する必要がある。また,
審査官は,本件商品の工程及び本件商品の縫合わせ部分を具体的に特定
した上で,ルーマニア又はイタリア以外で縫製されたのがそのうちどの
部分であるのかという点について主張・立証する必要がある。
しかし,審査官は,供述調書,証拠物等の極めてあいまいな記載のみ
を根拠に,原産国をルーマニアであると主張するにとどまっている。
イ
査第4号証中のインボイスの「原産国」の記載が,外衣について実質
的変更行為が行われた場所の意味で用いられていることを示す証拠は
ない。
また,インボイスの前記記載は,作成者たるGTA社の自己申告に基
づくものであるところ,その表記が何を根拠としているかについて全く
立証されていないので,インボイスの記載により本件商品の原産国を立
証することはできない。
さらに,前記インボイスは,八木通商が被審人以外の業者に納品した
商品に係るものであって,その記載は,本件商品がルーマニア製である
ことの根拠にはなり得ず,また,本件商品の全部の原産国がルーマニア
であることは立証されていない。審査官は,八木通商の中本及び中尾が,
本件商品のインボイスについても供述していると主張するが,両名とも
本件商品を取り扱った時点において他社用インボイスの内容を確認し
ておらず,本件商品についてのインボイスについても同様に確認してい
ないことは明らかである。したがって,両名が被審人に納品した商品に
ついてのインボイスの内容について説明できるはずがなく,両名のイン
ボイスに関する供述の信用性は全くない。
ウ
八木通商の中本(査第7号証)及び中尾(査第9号証)は,公正取引
委員会による調査を契機として,八木通商において本件商品の原産国に
5
関し調査を行った旨供述しているが,その方法や,調査によって何を確
認したのかについては一切明らかにしていない。八木通商の中本は,中
本がGTA社の社長に電話で確認したことを,また,八木通商の中尾は,
八木通商にGTA社の商品を紹介した卸売業者であるピーエムジー社
からの連絡によってルーマニア製であることを確認したことをそれぞ
れ前記供述調書において述べているが,前記の電話や連絡の具体的やり
取りについて立証されているわけではなく,また,縫製を行った場所に
ついても確認されていない。本件商品の原産国を確認するには,実際に
縫製している場所やその具体的方法を確認する必要があるにもかかわ
らず,八木通商では,だれも原産国を確かめるためにルーマニアに行っ
ておらず,前記の調査によって原産国がルーマニアであることが判明し
たなどとは到底いえない。したがって,前記各供述も,本件における原
産国の認定の根拠となるものではない。
エ
審査官は,被審人がGTA社製のズボンについて平成16年秋冬シー
ズン物以降ルーマニア製と表示している点を指摘するが,違反行為後の
表示は本件違反行為の立証とは関係がない。
オ
以上のとおり,本件商品の原産国がルーマニアであること又はイタリ
ア以外であることの証明はない。
3
争点②(被審人は本件表示の主体か否か)について
(1)
ア
審査官の主張
景品表示法の目的は,商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及
び表示による顧客の誘引を防止することにより,公正な競争を確保し,
もって一般消費者の利益を保護すること(同法第1条)であり,事業者
が不当な表示等により顧客を誘引することを防止することにある。すな
わち,事業者は,自己の商品又は役務を供給するに際し,一般消費者を
誘引するために,自己の供給する商品若しくは役務の内容又は取引条件
その他これらの取引に関する事項について,一般消費者に示す様々な表
示を作成するところ,景品表示法は,これらの表示が不当に顧客を誘引
し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる場合に,規制の対
象としている。このような観点からすれば,景品表示法第4条における
表示をした者とは,「表示の作成に関与し,当該表示を自ら又は第三者
を通じて一般消費者に示した事業者」と解するのが相当である。
6
そして,前記の「作成に関与」とは,自ら積極的に表示を作成する形
で関与することのみならず,他の者の表示内容に関する説明を受容して
その内容どおりの表示を作成することや,表示の作成を白紙委任的に他
の事業者に任せることを含むと解される。
イ
本件において,被審人は,本件商品がイタリア製である旨の八木通商
の中尾の説明をそのまま受容し,品質表示タッグや下げ札に原産国表示
を記載する業界の慣行にのっとって,八木通商に対し,本件品質表示
タッグや本件下げ札にイタリア製と表示することを含めその記載内容
を指示して発注して,本件表示の作成に関与し,かかる被審人の指示の
とおり「イタリア製」との表示のある本件品質表示タッグ及び本件下げ
札が取り付けられた本件商品の納品を八木通商から受けて,これを自ら
一般消費者に示して販売していた。したがって,被審人が本件不当表示
の表示主体であることは明らかである。
なお,前記の事実を裏付ける査第10号証(被審人の栗原の供述調書)
の信用性を被審人は否定するが,被審人の栗原は,同供述調書を読み聞
かせられ,かつ,閲読することによって内容に間違いがないことを十分
に確認した上で,何ら訂正の申立ても行うことなく署名押印したもので
あるから,この供述調書は信用性の高いものである。
(2)
被審人の主張
ア (ア)
審査官は,景品表示法の表示の主体について「表示の作成に関与し,
当該表示を自ら又は第三者を通じて一般消費者に示した者」と主張す
るが,かかる解釈は,抽象的な景品表示法の目的から何の論証もなし
に短絡的に自らに都合のよい結論を導くものであり,正当な法解釈と
は評価できないものである。
また,表示主体の定義について,「表示の内容の決定に関与した者」
というように関与を要件とした場合,その限界が極めてあいまいであ
り,どのような関与であれば表示主体として規制されるのか全く不明
であり,事業者の予測可能性に欠け,そのような解釈は,憲法第31
条の定める手続保障の観点から許されない。
さらに,審査官は,本件の審査段階において被審人らに対して説明
してきた解釈を,審判段階において突如変更し,前記のような定義を
主張したものであるが,表示の主体のような基本的な概念について,
7
長年,公正取引委員会の実務で説明してきた概念を覆すことは到底許
されない。
(イ)
景品表示法は,表示の内容を規制するものであるから,規制される
主体についても,表示の内容を決定した主体を規制すると解するのが
景品表示法の体系に合致しており,従来,公正取引委員会もほぼ同様
の説明をしてきている。
したがって,表示をした者とは,「表示の内容を決定した者」とい
う意味に解すべきである。
イ
表示の内容の決定について複数の事業者が関与する場合,これらの各
事業者を措置の対象とするためには,表示の内容の決定を複数の事業者
が共同して行ったことについて主張・立証を要すると解すべきであり,
「関与」という要件を使うことによって,すべての者に対する処分を単
純に正当化するような解釈は正しくない。仮に,審査官の主張するとお
り,被審人が八木通商からイタリア製であるという情報を提供され,表
示物の作成を委託したというのであれば,八木通商が被審人に対してイ
タリア製であると伝えた行為は単なる情報提供行為であり,八木通商は,
既に決まった表示内容を被審人に伝達したにすぎないことになる。また,
審査官の主張するとおり,被審人が本件商品の原産国について指示して
八木通商に表示させたのであれば,八木通商は当該指示に基づき,物理
的に下げ札,品質表示タッグを作成したにすぎず,被審人のみが表示の
主体となるはずである。それにもかかわらず,公正取引委員会は,本件
商品の表示について八木通商に対し表示の主体として排除命令を行っ
ているのであり,その論理は矛盾している。
本件において,八木通商及び被審人の両者に対して排除命令を命じる
ことができるのは,両者が共同して表示の内容を決定した場合だけであ
ると考えられるところ,この点について審査官は何の主張・立証もして
いない。
ウ (ア)
仮に,表示主体について「表示の作成に関与したこと」を要件とす
るとしても,関与の事実を認定するためには,表示の内容の決定につ
いて委託をした事実についての主張・立証が必要と解すべきである。
しかるに,本件商品について,原産国を調査する能力のない被審人に
おいて原産国表示の内容を決定することは不可能であり,八木通商と
8
被審人との間で既にイタリア製であることが取引条件となっている
本件商品について,被審人が八木通商に対して原産国表示をあえて指
示することなどあり得ない。本件商品については,八木通商が,自己
の収集した情報に基づいて原産国表示の内容を決定して,八木通商が
有限会社シローズに本件品質表示タッグ及び本件下げ札の製作を発
注し,かつ,丸二倉庫株式会社にその取付けを発注したのであって,
被審人は,本件品質表示タッグ及び本件下げ札の製作及び取付けにつ
いて,実行も委託もしていない。審査官は,被審人が八木通商に対し
てイタリア製と表示することを指示したとする根拠として,被審人の
栗原の供述調書(査第10号証)に「当社が八木通商に指示しており」
などと記載されていることを挙げ,その信用性は高いと主張する。し
かし,供述調書は伝聞証拠にすぎず,この記載は審査官の作文であっ
て,審判廷における被審人の栗原の参考人供述の方が信用性が高いこ
とは明らかである。
(イ)
また,本件のように,既に八木通商と被審人間で売買の取引条件と
して原産国があらかじめ決まっているような場合には,仮に,被審人
が八木通商に対して品質表示タッグや下げ札の作成を委託した事実
があったとしても,このことは,内容を指示したものでも,内容の決
定をゆだねたものでもなく,単に八木通商が表示したものを購入した
にすぎず,この委託の事実をもって,表示の作成に関与したというこ
とはできないというべきである。
4
争点③(景品表示法違反成立における過失の要否)について
(1)
審査官の主張
景品表示法違反の成立について,故意・過失が不要であることは法文上
明らかである。
(2)
被審人の主張
一般に,景品表示法違反の成立には,故意・過失は必要としないとされ
ているが,審査官の主張する見解においても,また,株式会社ユナイテッ
ドアローズに対する公正取引委員会平成18年5月15日審決(以下「ユ
ナイテッドアローズ審決」という。)で示された見解によっても,「関与」
という要件を設定することにより,表示の主体の成立範囲を非常に広範に
解しようとしている。仮に,このような乱暴な解釈を採るのであれば,法
9
的な責任を認めるにはせめて過失という主観的要件を解釈上取り入れ,当
該要件で成立範囲を限定することは不可欠である。しかし,本件において
は,審査官は,被審人の注意義務違反を何ら主張・立証していない。
5
争点④(本件表示における顧客誘引性の有無)について(被審人の主張)
本件商品のような商品については,一般消費者は製品のデザインや品質,
被審人のブランドなどに着目して購入するのであり,原産国がどこかを考慮
して購入することはない。また,審査官は,本件商品について,客観的に顧
客誘引の効果が発生していることについて,何ら立証していない。したがっ
て,本件表示については顧客誘引性はない。
6
争点⑤(措置の要否)について
(1)
ア
審査官の主張
誤認排除措置について
排除措置において命じる公示は,一般消費者に対し,事実と異なる表
示の存在及び当該事業者が誤認される表示を行っていたことを広く知
らせ,一般消費者の誤認を排除することを目的としたものである。かか
る目的を達するためには,少なくとも,当該不当表示によって誘引され
た顧客の少なくとも大部分が不当表示の事実を知ることができるよう
な適切な方法・内容の告知が行われる必要がある。
しかるに,被審人がウェブサイトや店頭POPで行った広告の文面は,
自らが誤認される表示を行ったということが明確にされていないなど,
前記の目的に照らし不十分な内容である。
また,被審人がウェブサイトで行った広告の掲載は,閲覧者の意思に
よりアクセスされるという性質上,告知方法として不十分であり,店頭
POPについても,繰り返し被審人の店頭に足を運んだ者の目にしか触
れないものであり,日刊新聞紙のように広く一般消費者に閲覧されるも
のではなく,告知方法として不十分である。
この点に関連して,被審人は,会社法上及び証券取引法上も電子公告
が認められていることを引き合いに出し,これらの制度はウェブサイト
による公示が効果的であることを示すものである旨主張する。しかし,
本件とは異なり,法律上明示された公告方法は,それを受ける側として
は,かかる公告方法が用いられることをあらかじめ承知しているので,
これが利用されるのは当然の帰結である。したがって,被審人の指摘は,
10
本件のような場合に,ウェブサイトへ掲示しておけば自動的に十分な情
報伝ぱ力を有することまで示しているとはいえない。また,インター
ネット利用者の範囲や対象地域が無限定である以上,アクセス数自体は,
当該情報が的確に対象者に伝達されたかどうかを実証するものではな
い。
なお,被審人は,誤認排除の措置として,300人以上に電話をして,
告知・回収という方法を採ったとも主張するが,このような本件商品を
購入した消費者のごく一部に対して採られた方策は,一般消費者に対す
る誤認排除の措置としては不十分であるといわざるを得ない。
したがって,被審人が行った措置のみでは,本件の不当表示によって
誘引された顧客の大部分が不当表示の事実を知ることができるような
適切な方法,内容の告知が行われたとはいえず,本件では,誤認排除措
置を命ずる必要性がある。
イ
再発防止措置について
被審人は,公正取引委員会による調査開始前ないし本件排除命令以前
から再発防止策を採っているので,更なる再発防止措置は不要である旨
主張する。しかしながら,調査開始前ないし排除命令以前から実施され
ていた防止策では本件違反行為が未然に防止できなかったのであるから,
これが不十分であったことは明白である。また,調査開始後において新
たに採られた措置についても,かかる不十分であった防止策を十全なも
のとしているとはいえない。すなわち,本件の調査開始後,社員研修の
ために配布されたという書面も,被審人が新たに取引先から提出を受け
ることとした「表示内容証明書」も,被審人が取引先に対して商品の原
産国等に係る情報の責任を追及する姿勢を強く示すものであるとはいえ
ても,その前提として,被審人の役員や従業員が,本件違反行為の表示
主体としての責任を明確に認めた状況はうかがわれず,一般消費者の利
益に直接関わる立場からの再発防止策の構築がなされたとはいえない。
よって,一般消費者の利益保護という景品表示法の目的に照らせば,
前記の被審人の採った措置は,再発防止策としては不十分なものであり,
本件では,再発防止措置を命ずる必要性がある。
(2)
ア
被審人の主張
誤認排除措置について
11
(ア) 被審人は,平成16年9月10日以降現在まで自社ウェブサイトに
誤認排除に関する社告を掲載したところ,平成18年6月22日まで
に12万4172件ものアクセスがあった。また,被審人は,平成1
6年9月10日から同年12月31日まで(一部店舗では同年11月
30日まで)の間,店頭POPにより,十分な誤認排除の措置を講じ
たが,被審人の顧客は,リピーターが非常に多く,この店頭POPに
よる消費者に対する誤認排除の効果は極めて大きいというべきであ
る。さらに,被審人は,電話番号が判明した購入者300人以上に対
して,誤認排除・商品の回収を伝える電話連絡を行っている。これら
の措置により,被審人は,372着の本件商品を回収した。
前記のほか,八木通商も,被審人が販売した本件商品を独自に18
6着回収している。
このように,既に自主的に誤認排除の措置を採り,全国向けテレビ
ニュースや日刊新聞紙にも大きく取り上げられ,かつ,公正取引委員
会のウェブサイトにおいても被審人に対する排除命令を容易に確認
することができる本件においては,あえて重ねて日刊新聞において告
知文を掲載するなどの措置を講じる必要性は全くない。
(イ)
審査官は,被審人の採った措置では,自らが表示を行ったというこ
とが明確にされていないと主張するが,景品表示法上の誤認排除措置
の目的は,不当表示による一般消費者の誤認を排除することにあり,
不当表示を行った表示責任を追及することにあるわけではないから,
被審人が,自ら誤認される表示を行ったということを明らかにするこ
とを要するとはいえない。審査官の主張は,表示主体の謝罪を要求し,
一種の社会的な制裁を加えて損害を与えることを意図するものであ
り,そのような考え方は根本的に誤っている。
なお,被審人がウェブサイトや店頭POPにより行った公示は,
「弊
社店舗『TOMORROWLAND
トゥモローランド』(中略)に
おいて販売いたしました(中略)イタリア国『GTA MODA社製』
の『パンツ』は,実際の生産国がルーマニア国生産であるにもかかわ
らず,当該輸入代理店の事実誤認によりイタリア国生産との報告のも
とにイタリア国の原産国表示し,販売していたことが判明致しまし
た。」と,自ら表示した旨明らかにしているものであるから,仮に審
12
査官の立場を前提としても,必要かつ十分な内容である。
(ウ)
会社法第939条第1項第3号,証券取引法施行令第4条の2第1
項等においては,インターネットの普及により,公告方法として十分
であるとの評価を前提として,ウェブサイトによる公告を認めている
のであるから,景品表示法においても,ウェブサイトによる公告方法
を否定する理由はない。
実態からみても,新聞による告知とウェブサイトによる告知に差異
を設けることに根拠はない。インターネット上のウェブサイトは,世
界中から24時間いつでもアクセスできるものであり,かつ,検索サ
イトなどの利用により,いつでもだれでも必要な情報を瞬時に取得で
きるものであるから,その公示効果は絶大なものであり,販売地域に
限界があり,原則として購入しなければ読むことができず,閲覧しよ
うとしても該当記事を探し出すことが困難な日刊新聞紙での公示に
比して,明らかに強力な公示効果がある。公正取引委員会が従来認め
てきた新聞による告知により,本件の不当表示によって誘引された顧
客の大部分が不当表示の事実を知ることができたと断ずることはで
きず,日刊新聞紙による告知であれば一般消費者の誤認が排除できる
というのは一種の擬制にすぎない。そもそも,排除措置の必要性の主
張・立証責任は審査官が負っていると解されるところ,どの日刊新聞
紙においてどのような社告が必要とされるかという誤認排除のため
の措置を具体的に示し,被審人から本件商品を購入した顧客のうち何
人が当該日刊新聞紙を購読しているのかということを審査官におい
て証拠に基づき立証すべきであるが,本件審判においてこのような立
証は一切行われていない。
(エ) ユ ナ イ テ ッ ド ア ロ ー ズ 審 決 は ,不 当 表 示 成 立 の 判 断 に 当 た っ て は 故
意過失は必要としないが,再発防止措置の必要性の判断においては被
審人の過失の有無を勘案する見解を採っている。その根拠は,行為時
に過失がない場合にまで再発防止策を命じることは,余りに責任の範
囲を広げ,酷な結果を招くことになるためであると理解されるところ,
再発防止措置も誤認排除措置も違反行為に対して公正取引委員会が
命じる措置であることには変わりがなく,両者の間で取扱いに差を設
ける理由はない。
13
したがって,仮に,再発防止措置の必要性の判断に当たって過失の
有無を考慮するのであれば,誤認排除措置の必要性の判断に当たって
も被審人に過失があったことを要すると解すべきであるが,審査官は,
この点について全く主張・立証を行っておらず,この点からも誤認排
除措置の必要性はない。
なお,被審人においては,後記イ(ア)aのとおり,衣服の輸入の発
注に当たっては,担当者から輸入業者に対し,どの国で縫製されたも
のかを必ず確認しており,十分に注意義務を履行している。
イ
再発防止措置について
(ア) a
被審人においては,本件以前から,衣服の輸入の発注に当たり,
担当者から輸入業者に対し,どの国で縫製されたものかを必ず確認
している。そして,当該商品を縫製した国が二つ以上にまたがる場
合や,縫製以外のデザイン,企画等の過程が異なる国で行われてい
る場合には,それらの行われた国を確認している。さらに,輸入業
者から,縫製が行われた国についてあいまいな説明しかなかった場
合や,説明内容に疑わしい部分がある場合には,当該製造工場の場
所を質問するなどして,縫製が行われた国を確認している。
また,被審人は,本件以前から,商品の原産国がどのような基準
によって定められるかについて記載した,日本織物中央卸商業組合
連合会発行の「衣料品の見分け方
縫製と正しい表示のガイドブッ
ク」という冊子を,新人研修の際に全新入社員に配布し,原産国と
して表示する国の判断基準についての研修を行っている。
そして,被審人は,本件が問題となったことを契機に,被審人に
おける商品の仕入れに携わる担当者全員を対象として,再発防止の
ための研修を実施している。この研修においては,「原産国表示に
ついて」と題する書面を配布した上で,原産国として表示する国の
選定基準を再度確認するとともに,仕入先やメーカーに対し,アイ
テムごとに「実質的な変更工程」の開示を求めたり,原産国に関す
る報告書の提出を求めたりする等の具体的な対応について指示・徹
底を行っている。
さらに,被審人は,仕入先やメーカーからの情報取得に際しては,
実質的な変更工程の確認を明示的に行うのみならず,原産国を特定
14
する事項が記載された売買契約書,インボイス等の書面の取り交わ
しを行うものとしている。また,輸入代理店を経由する取引の場合
には,原産国の選定に関する報告書を輸入代理店に提出してもらう
ようにしているほか,従前の輸入代理店等に対する付属発注書の書
式を変更し,「表示内容証明書」との表題で,商品の原産国や素材,
ブランド名など,被審人が輸入業者を通じてのみ知り得る情報の記
載欄について太枠で囲い,「下記の各商品の太枠部の記載内容に間
違いがないことを証明します。」との記載の下,輸入業者の社名及
び担当者名の記入並びに押印を要求している。これらの方法により,
被審人は,輸入代理店等に対しても,表示の内容について責任を
もって確認することを明確に要求することを徹底しており,再発防
止策として十分なチェック機能を果たしている。
b
前記のような被審人の実施している方策にかんがみると,被審人
に対し,更なる再発防止措置を命ずる必要性はないというべきであ
る。
(イ)
ユナイテッドアローズ審決で示された考え方に照らせば,再発防止
のための措置を命じるには,不当表示につき被審人の過失が必要であ
ることとなり,その主張・立証責任は審査官側にあると解されるが,
審査官はこの点について何の主張・立証もしていないのであるから,
本件において,再発防止措置を命じることはできない。
本件違反行為が未然に防止できなかったのであるから,従前の防止
策では不十分であることは明らかなどという審査官の主張は,結果の
発生から防止策の不十分性を短絡的に結びつけるものであって,近代
法の立場からはこのような結果責任を非難することはできない。
(ウ)
また,審査官は,被審人が採った防止策について,「被審人の役員
や従業員が,本件違反行為の表示主体としての責任を明確に認めた状
況はうかがえず,一般消費者の利益に直接関わる立場からの再発防止
策の構築がなされたとはいえない」と主張するが,ユナイテッドア
ローズ審決でも示されたとおり,衣料品を輸入販売する場合,販売業
者としては,その取引先である売主に確認し,その根拠を求めれば,
景品表示法の義務は尽くされたと評価されるものである。審査官は,
被審人の採った措置に再発防止の効果がないことを主張・立証するの
15
であれば,措置を採った前後を比較して,原産国の誤表示を防止する
観点から状況が変わらないということを証拠により厳格に立証すべ
きであるが,これを全く行っていない。
7
争点⑥(裁量権の逸脱・濫用の有無)について
(1)
ア
審査官の主張
景品表示法は,同法の目的を効果的に達成するために,同法第4条の
違反行為に対する排除命令及び審決に関し,公正取引委員会に対して広
範な裁量権を付与しているところ,当該行政処分が平等原則に違背する
違法なものとなるのは,公正取引委員会が,処分の相手方である事業者
以外の違反行為をした事業者に対しては行政処分をする意思はなく,処
分の相手方である事業者に対してのみ,差別的意図をもって当該行政処
分をしたような場合に限られるものと解すべきである(東京高等裁判所
平成8年3月29日判決・公正取引委員会審決集42巻457頁。以下
「東京もち判決」という。)。
本件において,被審人は,平成16年2月期の年間売上高で270億
円もの売上げを上げており,「セレクトショップ」と呼ばれる高級衣料
品専門店の中でも,消費者や市場に与える影響の大きい有数な事業者で
あることは明らかである。そして,被審人は,八木通商にとって,株式
会社ビームス,株式会社ベイクルーズとともに,GTA社製ズボンの有
力な販売先であり,既に述べたとおり,平成12年春夏シーズン物から
平成16年春夏シーズン物までの長期にわたり,合計約7,700着も
の本件商品を販売していた。このように,長期間にわたり,多数の一般
消費者に対して,本件商品の原産国がルーマニアであることを一般消費
者が判別することが困難な表示を行っていた被審人に対して,景品表示
法の趣旨,目的を効果的に達成する観点から措置を命ずることには十分
な合理性がある。
したがって,被審人に対して措置を命ずることは,裁量権の逸脱・濫
用に当たらない。
イ
これに対して,被審人の主張は,要するに多くの違反事業者が存在す
ると思われる場合に,一部の事業者が処分を受けることそれ自体が平等
原則違反であるというのに等しく,被審人に対する処分の不当性を基礎
付ける具体的な事実は何ら主張・立証されていない。
16
ウ
なお,本件審判における審判対象は,排除命令に係る行為の存否等で
あって,排除命令自体の適否ではないが,公正取引委員会は,本件排除
命令を行うに当たっても,違反事業者の規模,違反行為の地域,違反内
容の程度等から,一般消費者の誤認の程度や市場に与える影響等を総合
的に考慮して合理的な判断を行っている。
(2)
ア
被審人の主張
本件においては,被審人と同じようなイタリア製との表示がされたG
TA社製のズボンを販売した業者は合計で40社ほど存在するようで
あり,公正取引委員会は,八木通商に対する調査により,このことを十
分に把握していたにもかかわらず,他の会社に何らの調査も行うことな
く,小売業者としては被審人を含めた5社に対してのみ,差別的意図を
もって排除命令を行った。また,被審人は,前記のとおり,一般消費者
の誤認を排除するために十分な措置を採ったところ,過去の事例におい
て,排除命令前に社告等の措置が採られた場合には,公正取引委員会は
再度の公告等を命じていない。これらからすれば,被審人に措置を命ず
ることは,平等原則に違反する。
また,一般消費者の誤認を排除するのに十分な措置を採った被審人に
対して,必要性が全くないにもかかわらず措置を命ずることは,比例原
則に反する。
以上から,被審人に対して措置を命ずることは,裁量権の逸脱・濫用
に当たるというべきである。
イ
平等原則は,常に他者との関連で問題になるのであり,審査官が被審
人自体に対する排除命令の正当性を主張したとしても,それが他社と異
なる取扱いをすることの合理的な理由になるものではない。
ウ
審査官は,措置を命ずることの合理性について根拠を挙げているが,
単に要素を列挙したものにすぎず,この主張から,当該処分の合理性を
基礎付けることはできない。
エ
東京もち判決は,無条件の選別的執行を認めているものではなく,処
分権者が,違反行為をした事業者に対して一般的に規制権限を行使して
行政処分をする意思を有していることを前提としている。その上で,同
判決は,具体的な事案としては,公正取引委員会が,排除命令を受けた
事業者以外の事業者に対しても調査を開始した上,排除命令をしたこと
17
がうかがわれる事実を認定し,このことから,原告に対してのみ差別的
意図をもって排除命令をしたものでないと判示したものであって,被審
人を含む5社を除く会社に対して調査すら行っていない本件とは事案
を異にする。本件のように余りに任意に対象会社を根拠なく選択してい
る事実を指摘できるものについては,審査官側にこのような異なる取扱
いをする合理性について主張・立証する責任が生じると解すべきである
が,審査官は,単に処分の合理性と称して論証不可能な考慮事項を挙げ
るだけであり,他社と異なる取扱いをする理由は一切説明していない。
このような審査官の立証態度からすれば,本件において被審人らに対し
て選別的に措置を命じることについて,合理的な理由はないというべき
である。
第3
1
審判官の判断
争点①(本件商品の原産国はどこか)について
(1) ア
査第4号証(インボイスの翻訳に係る審査官の報告書),第7号証(八
木通商の中本の供述調書)及び第9号証(八木通商の中尾の供述調書)
によれば,本件商品と同種のズボンに係る査第4号証中のインボイスに
は,当該商品の原産国がルーマニアである旨記載されていること,平成
16年6月21日に公正取引委員会の調査があった後に,八木通商は,
従前取引関係にあった本件商品の販売元であるピー・エム・ジー社から
GTA社製のズボンはすべてルーマニアで製造されている旨の連絡を
受けたこと,八木通商は,同年8月23日に八木通商の中本においてG
TA社の社長に直接国際電話で確認する等して調査したところ,GTA
社は,イタリアのパドバの本社近くに工房を有しているが,そこでは見
本品を製造しているだけで,本件商品の製造は全く行っておらず,本件
商品を含む同種のズボンは,八木通商が取扱いを開始した平成12年の
春夏物以降のすべての商品について,その全工程にわたってルーマニア
国内で製造されていることが判明したことが認められる。
前記事実に照らせば,本件商品はルーマニアで縫製されたと認定する
ことができる。
イ
これに対して,被審人は,査第4号証中のインボイスの「原産国」と
の記載が,外衣について実質的変更行為が行われた場所の意味で用いら
れていることを示す証拠はないと主張する。しかし,通常,「原産国」
18
あるいは「○○製」との用語は,形態に最終的に大きな変更をもたらす
行為を行った場所を意味するものである(なお,査第11号証及び第1
2号証によれば,イタリアも加盟する世界貿易機関(WTO)の「原産
地規則に関する協定」においても,原産国とは,物品が完全に生産され
た国又は,当該物品の生産に二以上の国が関与している場合には最後の
実質的な変更が行われた国のいずれかとする旨規定することを原則と
して,原産地規則の調和のための作業計画を実施することとされてい
る。)ところ,ズボン等の外衣は,通常,縫製によって形態が最終的に
大きく変更されて,その外形をほぼ完成させるものである。このことに
照らすと,前記インボイスの記載は,縫製がルーマニアで行われたこと
の根拠となり得るものというべきである。
ウ
被審人は,前記インボイスは,作成者たるGTA社の自己申告に基づ
くものであり,その表記が何を根拠としているのかについて立証されて
いないと主張する。しかし,前記インボイスについて,作成者において
あえて虚偽の記載をする事情がうかがわれない本件においては,被審人
の前記主張は,前記インボイスの記載が縫製地の根拠となることを否定
するものとはいえない。
エ
被審人は,前記インボイスは,八木通商が被審人以外の業者に納品し
た商品に係るものであり,また,被審人が販売した本件商品の全部の原
産国がルーマニアであることは立証されていないとも主張する。しかし,
GTA社製の本件商品と同種のズボンについて,これを縫製した国が製
品によって区々であることは考えにくく,前記アの証拠に照らし,本件
商品は,その全部がルーマニアで縫製されたと認めることができる。
なお,被審人は,八木通商が被審人に納品した商品のインボイスにつ
いて,八木通商の中本及び中尾は当時見ておらず,同人らが説明できる
はずがないとも主張するが,中尾らの供述は,他の小売業者向けの商品
のインボイスを参照しながら,八木通商が輸入したGTA社製のズボン
の全体についてその原産国はルーマニアである旨を説明したものであ
るから,被審人へ納品する商品のインボイスを見ていないとしても,前
記認定は左右されない。
(2)
そして,原産国細則は,外衣については,縫製が原産国告示に規定する
実質的変更行為に当たると定めているところ,前記(1)イのとおり,外衣
19
は,通常,縫製によって形態が最終的に大きく変更されて,その外形をほ
ぼ完成させるものであり,本件商品もこれと何ら異なるところはない。そ
うすると,外衣については,原産国 細則において定め られているとおり,
縫製が原産国告示にいう実質的変更行為に当たると解すべきである。
なお,縫製及び実質的変更行為についての判断は以上のとおりであって,
審査官において,縫製が外衣についての実質的変更行為といえるか否かに
ついて判断可能な程度に具体的に主張・立証する必要があるとか,審査官
は,本件商品の工程及び本件商品の縫合わせ部分を具体的に特定した上で,
ルーマニア又はイタリア以外で縫製されたのがそのうちどの部分である
のかという点について主張・立証する必要があるとする被審人の主張は,
当たらない。
(3)
2
よって,本件商品の原産国はルーマニアであると認められる。
争点②(被審人は本件表示の主体か否か)について
(1) ア
景品表示法は,不当な表示による顧客の誘引を防止するため,事業者
に自己の供給する商品等の取引について一定の不当な表示をすること
を禁止し(同法第4条第1項),公正取引委員会は,これに違反する行
為を行った事業者に対し,その行為の差止め又はその行為が再び行われ
ることを防止するために必要な事項等を命ずることができることとし
ている(同法第6条第1項)。このような規制の趣旨に照らせば,当該
不当な表示についてその内容の決定に関与した事業者は,その規制の対
象となる事業者に当たるものと解すべきである。そして,この場合の「決
定に関与」とは,自ら又は他の者と共同して積極的に当該表示の内容を
決定した場合のみならず,他の者の表示内容に関する説明に基づきその
内容を定めた場合や,他の者にその決定をゆだねた場合も含まれるもの
と解すべきである。この場合において,当該表示が同法第4条第1項に
規定する不当な表示であることについて,当該決定関与者に故意又は過
失があることを要しない。
イ
被審人は,前記のとおり,表示主体の定義について「関与」という要
件を用いると,その限界が極めてあいまいであり,事業者の予測可能性
に欠け,憲法第31条の定める手続保障の観点から許されないと主張す
る。しかし,「関与」の具体的意義は前記のとおりであるので,表示主
体の定義について前記アのように解することが,事業者の予測可能性に
20
欠けるとか,憲法第31条の定める手続保障の観点から許されないとい
うことにはならず,被審人の前記主張は失当である。
ウ
被審人は,表示の内容の決定について,複数の事業者が関与する場合
には,表示の内容の決定を複数の事業者が共同して行ったことを審査官
において主張・立証することが必要と解すべきであると主張するが,特
定の表示の作成過程に複数の事業者が関係している場合にこれらの事
業者が表示主体に該当するかどうかは,それぞれの事業者ごとに前記ア
の要件の存否を判断すれば足りるというべきであり,複数の事業者がと
もに表示内容の決定に関与したということができるのは,それらの事業
者が表示の内容の決定を共同して行った場合に限られるものではない。
被審人の主張は,前記アで述べたところと異なる前提に立つものであり,
採用できない。
(2)
本件についてみると,査第10号証(被審人の栗原の供述調書)並びに
審第8号証(被審人から八木通商へあてた情報提供のためのファクス文
書)及び第11号証(八木通商従業員の清宮隆行の陳述書)によれば,被
審人は,被審人独自の視点から選択した商品群を消費者に提示するいわゆ
るセレクトショップという業態で衣料品の小売業を営んでいるところ,平
成11年に本件商品の購入を始めるに当たり,八木通商の説明に基づき本
件商品がイタリア製であると認識し ,その認識の下に ,八木通商に対し,
「ITALY」と記載したファクス文書を送信(平成15年以降は「付属
発注書」と題する書面をファクス送信)することにより,本件品質表示タッ
グ及び本件下げ札の作成及び取付けを八木通商に委託したこと,八木通商
はこれに応じ,「MADE
IN
ITALY」と記載された本件品質表
示タッグ及び本件下げ札を作成し,本件商品に取り付けて,被審人に納品
したことが認められる。
以上によれば,被審人は,本件品質表示タッグ及び本件下げ札に被審人
の社名とともにイタリア製である旨の表示がされることを認識した上で,
その作成を八木通商に委託し,本件品質表示タッグ及び本件下げ札が付さ
れた本件商品を被審人の小売店舗において継続的に販売していたので
あって,本件表示の内容の決定に関与した者に該当することは明らかとい
うべきである。
(3)
これに対し,被審人は,本件商品がイタリア製であることは,八木通商
21
との間で既に取引条件となっており,八木通商に対して,本件品質表示
タッグ及び本件下げ札の作成を委託したことはないと主張し,審第5号証
(被審人の栗原の陳述書),第10号証(被審人代理人弁護士の公正取引
委員会あて弁明書)及び第11号証並びに参考人栗原克彦中にもこれに沿
う部分がある。しかし,査第10号証中の前記作成の委託に関する供述部
分には,特段信用性を疑わせる事情はみられない上,前記(2)で認定した
とおり,被審人の業態が,原産国を既存の取引条件として販売するような
通常の小売ではなく,自らの視点と感性によって選択した商品群を消費者
に提示するいわゆるセレクトショップであることからすると,本件表示の
内容が,八木通商のみによって決定され,被審人が関与していないとは考
えにくい。したがって,被審人の前記主張は採用できない。
3
争点③(景品表示法違反成立における過失の要否)について
被審人は,決定に関与した者というように,「関与」という概念を用いて
表示主体の外延をあいまいにするのであれば,せめて,行為者の注意義務違
反を要件とすることにより,違反行為の成立要件を限定することが必要であ
る旨主張する。しかし,表示主体についての考え方は前記2(1)に述べたと
おりであって,違反行為の成立について故意・過失を要件としてこれを限定
する必要はないというべきである。
4
争点④(本件表示における顧客誘引性の有無)について
被審人は,本件表示については顧客誘引性がない旨主張する。
しかし,景品表示法第4条第1項第3号及び不当景品類及び不当表示防止
法の一部を改正する法律(平成15年法律第45号)による改正前の景品表
示法第4条第3号は,「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費
者に誤認されるおそれがある表示であって,不当に顧客を誘引し,公正な競
争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの」を禁止
しているところ,原産国告示は,その規定に基づき,禁止される表示を指定
しているのであるから,本件表示が原産国告示の指定する表示に該当する以
上,個別具体的に顧客誘引性があるかどうかを判断する必要はない。
したがって,被審人の前記主張は失当である。
5
争点⑤(措置の要否)について
(1)
はじめに
不当表示が認められる場合の措置としては,景品表示法第6条第1項に
22
基づき,一般に,当該行為を取りやめること(差止め),当該行為によっ
て生じた一般消費者の誤認を排除すること(誤認排除)及び同様の行為の
再発を防止すること(再発防止)が考えられるところ,本件においては不
当表示行為はなくなっているので,誤認排除及び再発防止について,それ
ぞれ,措置を命じることの要否を検討する。
(2)
ア
誤認排除について
本件後の被審人の対応等
各項末尾に掲記した証拠によれば,本件が問題となった後の誤認排除
のための被審人の対応等については,以下の事実が認められる。
(ア) 被審人は,平成16年9月10日以降現在まで,自社ウェブサイト
に「GTA
MODA社製パンツ
自主回収のお知らせ」と題し,
「(前略)弊社が日本総輸入代理店である八木通商株式会社より仕入
れ,(中略)にて販売いたしました,イタリア国『GTA
MODA
社製』の商品『パンツ』の原産国の表示につきまして,お買い上げ頂
きましたお客様に誤解を与える表示がありました。(中略)このイタ
リア国『GTA
MODA社製』の『パンツ』は,実際の生産国がルー
マニア国生産であるにもかかわらず,当該輸入代理店の事実誤認によ
りイタリア国生産との報告のもとにイタリア国の原産国表示し販売
していたことが判明致しました。(後略)」と記載した上,対象商品
の商品名,ブランド名,販売期間,ブランドネームの写真等を掲載し
た。このウェブサイトには,平成18年6月22日までに12万41
72件のアクセスがあった。(査第5号証,審第9号証,第19号証
の2)
(イ)
被審人は,平成16年9月10日から同年12月31日まで(一部
店舗では同年11月30日まで)の間,本件商品取扱店舗のレジカウ
ンター上に,「お詫びとお知らせ」と題し,「(前略)下記の商品に
付記しておりました原産国の表示に誤りがありました。(正
ニア国生産
誤
ルーマ
イタリア国生産)(後略)」と記載し,対象商品の
品目,ブランド名,販売期間,ブランドネームの写真等を掲載したB
5判の大きさの店頭POPを設置した。(審第5号証,第15号証な
いし第17号証,参考人栗原克彦)
(ウ)
被審人は,修理伝票から電話番号が判明した購入者300人以上に
23
対して,誤認排除・商品の回収を伝える電話連絡を行った。(参考人
栗原克彦)
(エ) 前記各措置により,被審人は,372着の本件商品を回収した。(審
第5号証)
(オ) 公正取引委員会が被審人,八木通商を含む合計6社に対して本件に
係る排除命令を行った事実が,平成16年11月25日から同月26
日にかけて,日本経済新聞,読売新聞,朝日新聞,毎日新聞,日経産
業新聞,東京新聞,中日新聞,北海道新聞,日経流通新聞により報道
された。(審第23号証ないし第31号証)
イ
被審人は,日刊新聞紙上の公告によって大部分の誤認が排除されるこ
とが立証されているわけではなく,新聞による告知とウェブサイトによ
る告知に差異を設ける根拠はない旨主張する。しかしながら,ウェブサ
イトは,意識してこれにアクセスしなければ目に触れないのに対し,新
聞紙上の公告は,意識しなくとも一般消費者の目に入ることができるの
であって,この点において,両者間には決定的な差異がある。
また,被審人は,会社法,証券取引法施行令等において,ウェブサイ
ト上の公示が制度上認められていることとの均衡を主張するが,この公
示方法は,自分が投資し,あるいは利害関係を有している特定の会社に
ついて,ウェブサイト上の公示があり得ることをあらかじめ知っている
と考えられる者(例えば,株式会社が電子公告をもって公告の方法とす
る場合には,会社法第939条第1項第3号によりその旨が定款で定め
られ,同法第911条第3項第29号イ,会社法施行規則第220条第
1項第2号により,その公告に係るホームページアドレスが登記され
る。)に対する方法として制度上認められているのである。これに対し,
一般消費者が,自分が過去に購入した多数の商品の購入先や製造元業者
について,そのような公示があり得ると認識して,そのウェブサイトの
すべてにアクセスすることは到底期待できず,ウェブサイトによる公示
が,一般に日刊新聞紙における公告の代替になるということはできない。
店頭POPについても,被審人は,被審人の販売する商品はリピー
ターが非常に多いことから誤認排除の効果が極めて大きいと主張する
が,リピーターがどの程度存在するのかについての立証がなく,店頭告
知の効果の程度については不明といわざるを得ない。
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また,修理伝票を利用した電話連絡についても,その対象は300人
程度にとどまるのであり,これにより本件表示による誤認の大部分が排
除されたということはできない。
なお,本件の排除命令が日刊新聞紙により広く報道されたことは前記
ア(オ)のとおりであるが,誤認排除の措置は,表示主体が自ら不当表示
であることを認めて公告することにより十分な効果を生ずるもので
あって,前記のように,単に公正取引委員会が排除命令を行った旨の客
観的事実を新聞社が報道したことをもって誤認排除効果が十分に生じ
たとは認め難い。
ウ (ア)
不当表示によって生じた誤認を排除するためには,当該不当表示に
よって誘引された顧客の少なくとも大部分が不当表示の事実を知る
こと が で きる よ う な適 切 な 方法 ・ 内 容の 告 知 が行 わ れ る 必 要 が あ る 。
誤認排除のために採るべき告知の方法については,当該不当表示に
よって誘引された顧客の範囲及び購買行動によって異なるが,前記イ
に述べたとおり,被審人が講じた前記の各手段は,誤認排除の方法と
して十分なものとはいえず,これらを併せても,どの程度の範囲の者
の誤認が排除されたかは不明であり,本件表示によって誘引された顧
客の大部分に本件表示の事実が告知されたということはできない。
以上から,被審人に対しては,誤認排除のための措置を命ずる必要
性があると認められる。
(イ)
なお,被審人は,仮に,再発防止措置の必要性の判断に当たって過
失の有無を考慮するのであれば,誤認排除措置の必要性の判断に当
たっても被審人に過失があったことを要すると解すべきであると主
張する。しかし,再発防止措置の必要性の判断に当たって過失の有無
を考慮する(ユナイテッドアローズ審決参照)のは,仮に,事業者に
おいて,審決の執行において要求される再発防止措置と同程度の注意
義務を尽くしていたにもかかわらず不当表示がなされたのであるな
らば,審決に基づき改めて再発防止措置を命じる意味がないと考えら
れるからである。これに対し,事業者がいかに注意義務を尽くしてい
たとしても,不当表示により誤認が生じた以上,一般消費者の利益を
保護するため,当該事業者においてこれを排除するための措置を講ず
る必要性があるのであって,誤認排除の必要性の有無の判断に当たっ
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ては,過失の有無を考慮することは要しないというべきである。した
がって,被審人の前記主張は失当である。
(3)
再発防止について
ア (ア)
前記3のとおり,違反行為の成否の認定においては行為者の故意・
過失の有無を問うものではないが,再発防止のための措置が必要か否
かについては,対象商品・役務の取引実態から求められる注意義務を
当該行為者が果たしたか否かも勘案して判断すべきである。
小売業者が,一般消費者に対しイタリア製であると表示して販売す
ることを予定して外衣を輸入業者から購入する場合には,原産国に係
る不当表示を防止するため,小売業者は当該商品が真にイタリア製で
あるか否かを確認する注意義務がある。
この場合において,原産国の確認の方法としては,輸入業者を経由
するという取引の実態からすれば,自ら当該商品の製造場所を現認す
ることまで要するものではなく,輸入業者に対し確認すれば足りると
解されるが,その際,どの国の製品であるかと漫然と尋ねるのでは不
十分であって,当該商品の実質的変更行為として何がどこで行われた
かをただし,疑わしい場合にはその根拠を求める必要があるというべ
きである。
(イ)
査第10号証及び参考人栗原克彦によれば,被審人の栗原は,一般
に,ある商品について○○製とされていても,その縫製が別の国で行
われることがあることを認識していたこと,それにもかかわらず,本
件商品がイタリア製である旨の八木通商の中尾の説明をそのまま信
用し,その根拠等について積極的に確認することなく,本件表示に
至ったことが認められる。
(ウ)
被審人は,輸入に当たり,原産国について注意を払っていた旨前記
第2の6(2)イ(ア)aのとおりるる主張し,本件商品の購買を担当し
ていた被審人の栗原は,同人の入社当時から,商品の実質的変更をも
たらす行為を行った国が衣料品の原産国であることを理解し,輸入業
者に商品の発注を行う場合,対象となる商品がどの国で縫製されたも
のかという点について必ず確認しており,本件商品については,八木
通商の中尾から「イタリア製のGTA社製パンツ」として紹介され,
「GTA社はイタリアのブランドであり,本社は北イタリアのパドバ
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にあり,工房が本社の近くにある」という趣旨の説明を受け,本件商
品にはイタリア語で品質表示が付されていたので「イタリアで縫製さ
れた商品」であることを疑う事情はなかったなど,被審人主張に沿う
陳述をする(審第12号証)。
しかし,審第18号証に照らすと,八木通商の中尾は,景品表示法
の原産国とは縫製国であるとの明確な認識を有していなかったと認
められる上,前記(イ)の事実に照らしても,被審人の前記主張及びこ
れに沿う審第12号証の前記供述は,全面的には採用することができ
ない。
(エ) 前記(イ)の認定からすると,被審人の栗原は,本件商品がイタリア
製である旨の八木通商の中尾の説明を漫然と信用したにすぎないと
いうべきであり,被審人は,本件商品の原産国に係る不当表示を防止
するため必要な注意義務を尽くしていたものと認めることはできな
い。
イ
本件後の被審人の対応について
(ア) 被審人は,本件が問題となった後,再発防止のために十分な措置を
採ったから,更なる再発防止措置を命ずる必要性はないとも主張する。
(イ)
審第12号証,第14号証及び第20号証の1ないし3によれば,
本件が問題となった後,被審人は,被審人における商品の仕入れに携
わる担当者全員に対し,「原産国表示について」と題する平成16年
8月4日付け書面を配布したこと,輸入代理店に対しては,「表示内
容証明書」と題する書面への原産国等の記入及び押印を要求すること
としていることが認められる。
(ウ)
前記の「原産国表示について」と題する書面は,原産国の判断に関
する留意点等につき,かなり具体的に記載されているものの,被審人
は,単にこれを配布したのみであって,被審人の主張するように,こ
れに基づいて,例えばセミナー形式の研修を行った等の事実は認める
に足りる証拠がなく,この書面の趣旨が現場でどのように活かされて
いるか,あるいは,担当者に十分に伝わっているかについては,多分
に疑問が残るところである。また,輸入代理店から単に「表示内容証
明書」を徴することのみをもって,必ずしも十分な再発防止効果があ
るとは期待できない。なお,被審人は,仕入先・メーカーからの情報
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取得に際しては,実質的な変更工程の確認を明示的に行うのみならず,
原産国を特定する事項が記載された売買契約書,インボイス等の書面
の取り交わしを行うものとしている,また,輸入代理店を経由する取
引の場合には,原産国の選定に関する報告書を輸入代理店に提出して
もらうようにしているとも主張するが,これらの事実を客観的に裏付
ける証拠はなく,この主張事実も必ずしも全面的には認め難い。
(エ) そうすると,被審人の採った措置としては,再発を防止するために
はいまだ不十分なものといわざるを得ない。
ウ
したがって,被審人に対して,再発防止のための措置を命じる必要性
が認められる。
6
争点⑥(裁量権の逸脱・濫用の有無)について
(1)
景品表示法は,同法の趣旨・目的を効果的に達成するために,公正取引
委員会に対し,当該不当な表示行為の実態に即応して規制権限を行使する
ことができるように,排除措置を命じるについても,また,いかなる内容
の措置を採るか等についても,広範な裁量権を付与している。そして,景
品表示法上の違反行為者に対する行政処分が平等原則に違背する違法な
ものとなるのは,公正取引委員会が,処分の相手方である事業者以外の違
反行為をした事業者に対しては行政処分をする意思がなく,処分の相手方
である事業者に対してのみ,差別的意図をもって当該行政処分をしたよう
な場合に限られるものと解される。(以上,東京もち判決)
(2)
しかるに,景品表示法に違反する特定の表示を行っている事業者が多数
あると考えられる場合に,公正取引委員会が前記の裁量権を行使して,違
反行為の規模,市場に与える影響,措置の実効性等を考慮して,一部の違
反行為者にのみ措置を命じることがあることは当然であり,違反行為者の
一部のみに措置を命じたことが,直ちに,平等原則違反となるものではな
い。
しかも,被審人は平成12年2月ころから平成16年7月ころまでの長
期にわたり,約7,700着の本件商品を販売している。また,被審人は,
若年層に名が知られた有力なセレクトショップである。これらの事実を考
慮すれば,被審人の本件違反行為の及ぼした影響は軽微とはいえず,排除
措置を命じることが不当であるとは到底いえない。
したがって,本件においては,前記のような平等原則違反となる事情は
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認められない。
(3)
被審人は,公正取引委員会は,被審人らと同様のイタリア製との表示を
したGTA社のズボンを販売した業者は合計40社ほど存在することを
把握していながら,これらの会社に何らの調査も行っていないことからす
ると,被審人らに対してのみ差別的意図をもって排除命令を行ったもので
ある旨,本件のように対象事業者を根拠なく選択している事実を指摘でき
るものについては,審査官側にこのような取扱いをする合理性について主
張・立証する責任が生じるにもかかわらず,審査官は一切説明していない
旨,また,被審人は,平等原則は,あくまでも他社との比較において論じ
られるべきであって,被審人に対して措置を命ずることの正当性を主張し
たとしても,他社と異なる取扱いをすることの合理的な理由となることは
ない旨主張する。しかし,平等原則違反に関する考え方は,前記(1)に述
べたとおりであって,被審人の主張は,被審人に措置を命ずることが平等
原則違反となることの根拠となるものではない。
(4)
また,被審人は,一般消費者の誤認を排除するために十分な措置を採っ
たところ,過去の事例において,排除命令前に社告等の措置が採られた場
合には,公正取引委員会は再度の公 告等を命じていな いにもかかわらず,
被審人に措置を命ずることは,平等原則に違反し,かように必要性が全く
ないにもかかわらず措置を命ずるこ とは比例原則にも 反する旨主張する。
しかし,被審人が採った誤認排除のための措置がいまだ不十分なもので
あって,措置の必要性が認められることは,前記5(2)で述べたとおりで
あり,被審人のこの主張も失当である。
(5)
したがって,被審人に措置を命ずることについて,裁量権の逸脱・濫用
があるものということはできない。
第4
法令の適用
以上によれば,被審人は,本件商品の原産国について,原産国告示第2項
第1号に該当する表示をしていたものであって,これは,不当景品類及び不
当表示防止法の一部を改正する法律(平成15年法律第45号)附則第2条
の規定により,同法附則第1条ただし書に規定する施行の日(平成15年1
1月23日)前に係る表示についてなお従前の例によることとされる同法に
よる改正前の景品表示法第4条第3号の規定に,また,同施行の日以後に係
る表示について適用することとされる景品表示法第4条第1項第3号の規
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定に,それぞれ違反するものである。
よって,被審人に対し,独占禁止法第54条第2項並びに景品表示法第7
条第1項及び第2項の規定により,主文のとおり審決することが相当である
と判断する。
平成19年9月14日
公正取引委員会事務総局
審判官
原
啓
一
郎
審判長審判官鵜瀞恵子及び審判官高橋省三は,転任のため署名押印でき
ない。
審判官
30
原
啓
一
郎
別
ズボンの腰周りの内側に縫い付けられた「㈱トゥモローランド」,
「MADE
N ITALY」等と記載のある布製の品質表示タッグ
( 表 面 )
(
裏
面
1
)
紙
I
ズボンの腰周りの外側に紐で取り付けられた「TOMORROWLAND」,
「M
ADE IN ITALY」,「TOMORROWLAND CO., LTD」
等と記載のある紙製の下げ札
( 表 面 )
(
裏
面
2
)
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