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付加価値税の導入と物価・貿易 (一)

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付加価値税の導入と物価・貿易 (一)
研究 ノ Ⅰ卜
付加価値税の導入と物価・貿易︵一︶
二
企業者価格
移行措置
中
ー87−
1一九六八年の西ドイツの例1
三
消費者価格
一前段階税額 控 除 の メ カ ニ ズ ム
四
︵以下次号︶
雄
付加価値税の導入と物価・貿易H
ろの影響を及ぼしたであろう。この小稿ではその売上税体系の変更が物価と対外貿易にどのような効果をもたら
額控除方式にょる付加価値税への移行がおこなわれた。この移行は西ドイツ経済の多くの分野にわたっていろい
西ドイツでは一九六八年一月一日に、それまで半世紀以上にわたって存続してきた累積的売上税から前段階税
英
付加価値税の導入と物価・貿易O
Nr.
102.
und
Bonn。
116。
Februar
1968。(以下ではinstitut
im
1969。︵以下ではInstitut
"Fina回りn¢口dSteuern。"
November
Institut
Fbt.
Brief
1968。
102と略記
FSt.
Nr.66'りonn5
Brief
Wirkungeコderdeutschen{に「白StSteuerreform。 Institut
im
Bonn。
AuBeohpndere哨Qktdardeutschen︹︺日回{Steuerretorm
Nr.
undAuBenhande1。
1964 -^入手したが、この小稿ではそれは利用しなかった。
Mehrwertsteuer
undbteuern。"
DerPreis-
Mesenびehg-{}{epμにenWlrtschaftliche
したかを、つぎにあげるメゼンベルク博士の二論文を中心に瞥見したい。
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”Fmanze口¢I4汐euern。"
する︶。
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1
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と
略
記
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印 上記の二論文のほか、
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一 前段階税額控除のメカニズム
売上税体系の変更の前後における税収額、物価、貿易額等を取扱うのに必要と思われるいくつかの点をまず説
明しておく。
はじめに前段階税額控除のメカニズム︵付加価値税法第十五条︶について。これは西ドイッの付加価値税制度の
カナメともいうべき点である。八九ページの図によって、そのメカュズムを説明する。いま税率を一○%と仮定
する。生産者甲が一つの商品を価格一〇〇、〇〇〇DMで加工・卸売業者乙に売ったとする。この取引につい
―88―
― 89 ―
て、甲は税務当局に対して一〇〇、〇〇〇DMの一〇%、すなわち、一〇、〇〇ODMの付加価値税を支払わな
ければならない。このばあい、甲は乙に対して、商品価格一〇〇、〇〇〇DMと付加価値税一〇、〇〇〇DMと
を別々に記載した仕送状を示して、総額一一〇、〇〇〇DMを請求することになる。このようにして甲は税務当
局に一〇、〇〇〇DMの付加価値税を支払うけれども、この一〇、〇〇〇DMは乙から徴収したものであるから、
甲自身は全くこの租税を負担していない。つぎに乙は甲から購入した商品に五〇、〇〇〇DMの新しい価値をつ
け加え、価格一五〇、〇〇〇DMで小売業者丙に売ったとする。この取引について、乙は税務当局に対して一五
〇、〇〇〇DMの一〇%、すなわち一五、〇〇〇DMの付加価値税を支払わなければならない。乙は丙に対して
一六五、〇〇〇DMを請求するが、このうち一五〇、〇〇〇DMが商品価格、残りの一五、〇〇〇DMが付加価
値税で、それらが仕送状に別記されることは上のばあいと同様である。このばあい、乙は丙から受取った付加価
値税相当分一五、〇〇〇DMのうち一〇、〇〇〇DMを、すでに甲を通じて前段階で納付ずみの付加価値税相当
分として、丙との取引について支払うべき右の税額一五、〇〇〇DMから控除することができ、結局、その差額
の五、〇〇〇DMだけを税務当局に支払えばよい。このようにして乙は甲を通じて納付した付加価値税相当額を
丙から回収したのであるから、乙自身は全くこの租税を負担していない。最後に丙は乙から購入した商品に四〇、
〇〇〇DMの新しい価値をつけ加え、価格一九〇、〇〇〇DMで最終消費者丁に売ったとする。丙は丁に対して
二〇九、〇〇〇DMを請求するが、このうち一九〇、〇〇〇DMは商品価格で、残りの一九、〇〇〇DMは付加
価値税であるoこのばあい丙は丁から受取った付加価値税一九、〇〇〇DMのうち一五、〇〇〇DMを、すでに
乙を通じて前段階で納付ずみの付加価値税額当分として控除することができ、結局、その差額の四、〇〇〇DM
― 90 ―
だけを税務当局に支払えばよい。このようにして丙は乙を通じて納付した付加価値税相当分を丁から回収したこ
とになるから、丙自身は全くこの租税を負担していない。つまり企業者甲、乙および丙はいずれも、前段階税額
控除のメカェズムによって、付加価値税を全然負担していないのである。これに反して、最終消費者丁は前段階
税額控除を行なうことを許されないから、自分が購入する商品の価格一九〇、〇〇〇DMのほか、その一〇%に
あたる付加価値税一九、〇〇〇DMを負担しなければならない。このようにしてこの租税の負担、したがってそ
の費用効果および価格効果は、商品引渡しあるいは給付をうけたもの‘が前段階税額控除を許されない段階で初め
て発生するのである。通常こういった作用を受けるのは個人消費者、連邦、州、市町村およびその他の公共団体
で、それらが企業者として活動しない範囲内でのことである。
企業者に対してはこういった付加価値税の前段階税額控除が許されるのが原則であるが、現在の西ドイツには
例外的にそれを許されない企業者が存在している。すなわち前年度の総売上とそれに対する付加価値税の合計額
が六〇、〇〇〇DMを超えない小企業者は、旧売上税の適用を選択することができ、そのばあいには当然に前段
階税額控除の資格を失うことになるのである。
このようにして、付加価値税制度のもとでは、企業者はいかなる取引段階においても原則として付加価値税を
負担せず、したがって企業者価格は付加価値税を全く含んでいないことになる。その意味でこれは純価格︵税ぬ
き価格︶N.ettopreis(
ePreiso
ehneateoer︶と呼ばれるのである。旧売上税制度のもとでの企業者価格がつねに売
上税そのものを含むいわば粗価格︵税こみ価格︶BruttopMe‘S︵PrereeySh回臣・h汐aer︶であったことと対比
して、これは著しい相違点である。この点から推論すれば、付加価値税への移行に伴って、企業者価格は従来そ
―91―
れに含まれていた売上税に相当する額だけ低下するはずである。これに反して、消費者価格は、付加価値税への
移行後も依然として税こみ価格である。売上税改革による消費者価格の変化は、付加価値税を最終消費者に負担
せしめようとする立法者の意図がどの程度まで実現されたかを示すものであると見ることができる。
二 移行措置
つぎに、上述の前段階税額控除のメカュズムに対する過渡期の例外規定に触れなければならない。付加価値税
Anlagegiiterが数多く存在するはずであったことである。すな
への移行にあたって特に考慮しなければならなかった問題の一つは、一九六八年一月一日以降も旧売上税をその
価格に含んだ在庫品や固定資産Vorr匹teund
わち付加価値税発効後もしばらくの間は、一九六七年までに購入され、それまで行なわれていた旧売上税を含ん
だ価格︵粗価格︶をつけられた多数の商品が取引されるはずであった。こういった商品が、新しい付加価値税の
もとで形成された価格︵純価格︶をもつ商品と市場で遭遇することになるのであった。そのさい、もし何か特別
の移行措置が講じられなければ、これらの﹁旧商品﹂が競争上不利をこうむることは明白であった。一九六三年
七月十日付の西ドイッ政府の﹁売上税法案﹂は、この点について、企業者たちが付加価値税発効直前の数カ月に
彼等の在庫品をできるだけ抑制し、やかをえない場合にだけ投資をするょうに努力する原因となるであろうと述
―92―
べている。
しかしこの政府案では、在庫品についてなんらの移行措置も用意されなかった。在庫品の種類と規模は一般に
短期的見地によって決定され、景気による変動のほか季節的変動に関する考慮もまたその決定に対して重要な役
割を演じるのであって、こういった見地から、付加価値税の発効直前の数カ月に在庫品勝人に対する抑制が実際
にどれだけ強くあらわれるかを見た上でなければ、在庫品に対する移行措置が必要か否か、必要とすればその程
度はどれほどかということを決定できないというのがその理由であった。
ところが一九六六年には在庫品増加が著しく鈍化し、一九六七年には在庫品の減少が見られるにいたった。こ
のような急速な在庫品の減少傾向を阻止するために、一九六七年未に存在していた在庫品にかんして、企業者に
対して一定の補償を与えることが規定された︵付加価値税法第二十八条︶。この補償は、一九六九年一月十日まで
に行なわれるべき付加価値税の予納額に対する前段階税額控除の形式で行なわれた。こういった控除の許される
在庫品としては、販売が予想されている完成品、半製品ならびに原料、補助原料および自動車燃料がある。この
点にかんしてドイツ連邦財務省は﹁一九六八年度財政報告﹂において、一九六七年末に企業がもっている在庫品
の大きさを一、〇〇〇億DM強、それに含まれている売上税負担の割合を五l六%、したがって売上税負担額を
およそ五五億DM前後と推定し、前段階税額控除手続によって、その負担額の八五%、すなわち約四七億DMだ
け、企業に対する付加価値税額を軽減しようとする企てに言及してい句これに対して、一九六八年度に現実に
行なわれた税額控除はほぼ四四億DMであった︵第一表︶。それゆえ、在庫品の価格に含まれていた旧売上税額の
うちおよそ一一億DMほどは控除されないまま残されて、一九六八年にはこの側面から費用および価格に対して
―93―
影響を及ぼしたものと考えられる。
固定資産については、在庫品のばあいとは事情が異っていた。上述の一九六三年の西ドイッ政府の﹁売上税法
案﹂では、付加価値税が発効する直前の二年間に調達された固定資産について、発効目現在の帳簿価格の九%だ
け、償却年限に応じて企業が納付すべき付加価値税額から控除することが提案された。これは、その帳簿価格が
旧売上税を含んでいることを考慮した上での提案であった。そして税こみ価格に対する九%というこの率は、税
ぬき価格に適用されるはずの一〇%という付加価値税率にほぼ相応するものであった。政府案は、この方法によ
って、付加価値税への移行直前の時期に企業者がこの税制改革にそなえて投資を抑制しようとする動機を、除去
で き る も の と 見 て い㈲
た。
ところが、上に引用した﹁一九六八年度財政報告﹂によれば、一九六七年末に企業がもっている固定資産は
二、五〇〇億DMで、それに含まれている旧売上税の累積負担の平均率は八%と見積られ、したがってこの旧売
上税負担に対して完全な前段階税額控除を許すとすれば、政府にとって二〇〇億DMの負担を要することにな
る。付加価値税の体系に忠実であるためには、上記の政府案が述べているようにこの二〇〇億DMを企業の納付
する付加価値税額から控除すべきである。しかしこの二〇〇億DMという金額は実に当時の売上税収入のおよそ
一ヵ年分にも比較すべき大きさであって、このような巨額の税額控除は国庫上の理由から到底実現できるもので
なかった。結局、固定資産の価格に含まれている旧売上税負担の控除は許されなかった。ボン財政租税研究所の
一研究によれば、固定資産の平均年間償却率は一五%首、、それゆえ一九六八年にはおよそ三〇億DM︵=二〇〇
億DMx一五%︶がこの側面から費用および価格に対して影響を及ぼしたものと考えられる。
― 94 ―
一九六七年末に存在していた固定資産にかんして税額控除が許されなかったことと関連して、付加価値税への
移行後に固定資産を形成する投資財に対していわゆる﹁投資税﹂InvestitionSteueaなる移行措置がとられた
︵付加価値税法第三〇条︶。この措置は新規に購入される投資財を前段階税額控除のメカニズムから部分的に排除
するという形をとっている。すなわち投資財にかんして発生した付加価値税については完全な税額控除が許され
るが、他方この投資財が固定資産として使用されると、つまり投資されると特殊の投資税がそれに課されるので
ある。この投資税は税額控除の許されない一種の売上税であり、それゆえ投資にとって実質的費用となるもので
ある。その税率は一九六八年には八%で、以後年々軽減されて一九七二年には二%となり、一九七三年にはこの
租
税
そ
の
も
の
が
消
減
す
る
予
定
で
あ
る
㈲。一九六八年上半期には付加価値税の標準税率は一〇%であったから、投資
財の買い手は一〇%の税額控除を受けながら、それを投資するさいに八%の投資税を負担し、同年下半斯には標
準税率が一一%であったから、同じように買い手は一一%の税額控除を受けながら八%の投資税を加担したので
ある。この八%という投資税の税率は、一九六七年末に旧固定資産に含まれているとされた旧売上税負担率八%
に相応するものである。この投資税を他の面から見ると、投資財にかんする税額控除が一九六八年には二%︵上
半期︶から三%︵下半期︶、一九六九年には四%、一九七〇年には五%、一九七一年には七%、そして一九七二年
には九%へと年々増大することになる。一九七三年にはこの投資税の消減によって、付加価値税の前段階税額控
除のメカュズムが初めて完全に作用するはずである。このようにして一九六八年には投資税がこの側面から費用
および価格に対してかなりの影響を及ぼしたものと考えられる。一九六八年における投資税収入は五〇億DMな
いし六〇億DMと予想され、固定資産の平均年間償却率は一五%であるから、七億五、〇〇〇万DMないし九億
―95―
DMが費用おょび価格に影響を及ぼすものと推定され
?
一九六七年と一九六八年の売上税=付加価値税収入
を四半期別に示せば第1表のようになる。一九六七年
の数字は売上税、売上調整税および運送税を含み、一
九六八年の数字は付加価値税、輸入売上税および投資
税を含んでいる。一九六八年に税務当局が実際に入手
した付加価値税収入は二五六億七、〇〇〇万DMであ
ったが、これは一九六八年にかぎって、﹁旧在庫品﹂
に対する旧売上税の負担軽減のために許された税額控
除四三億九、四〇〇万DMを差し引いた金額であるか
ら、一九六七年の税収と比較するばあいの一九六八年
の税収は、これを加えた三〇〇億六、四〇〇万DM
で、対前年比一七・九%ののびを示したと考えるべき
である。国民総生産に対するこの税収の割合は一九六七年には五・二%、一九六八には五・六%であるから、一
九六八年には前年よりも若干増大しているが、これはほぼ期待どおりの推移であったと見ることができよう。
一九六八年の税収は、上半期では前年同期より少なく、下半期においては増大を示しているが、景気の影響を
―96―
一応別にして考えれば、これは同年七月一目から発効した税率のひきあげl標準税率が一〇%から一一%へ、
軽減税率が五%から五・五%ヘーによるものであ毎
―97―
三 企業者価格
付加価値税への移行に伴って企業者価格はどのように変化したであろうか。第2表に見られる通り、工業生産
物生産者物価指数は一九六七年の一〇四・九から一九六八年の九九・三まで、五・六の低下を示しており、卸売
物価指数は同じく一〇三・五から九七・六まで、五・九の低下を示している。一九六七年の指数に対してはそれ
ぞれ五・三%および五・七%の低下ということになる。生産者物価指数について、一九六七、六八両年にわたる
月別の変化を示したものが第3表である。一九六七年四月以降きわめて安定していた指数が付加価値税への移行
を境に、一九六七年十二月の一〇四・八から一九六八年の九九・七へと一挙に五・一の低下を示し、それ以後一
年間非常に安定した推移をたどった点が注目される。
この工業生産物生産者物価指数を、一九六七年と一九六八年とについて商品別に比較したのが第4表A欄およ
― 98 ―
第2表 工業生産物企業者価格指数
第3表 生産者物価指数
びB欄である。C欄に見られる通り、価格低下の巾の最も大きか
ったのは道路車輛で七・四の低下、価格低下の最も小巾であった
のは繊維製品で三・五の低下であったが、どの部門でも例外なく
価格の低下が認められ、平均の価格低下は五・六であった。C欄
に示された各部門の価格低下の巾を、一九六七年の価格を基準に
して計算しなおしたものがD欄の数字である。すなわちD欄は、
一九六七年の価格を基準にして見たばあい、何%の価格低下が一
九六八年に現実に起こったかを示している。これで見ると、価格
低下の巾は鉄鋼の七・七%から、繊維製品の三・四%まで区々で
あるが、一五の部門のすべてについて著しい価格低下が認められ、
その平均は五・三%であったことがわかる。
ところで一九六七年までは生産者価格に旧売上税
が含まれていたことはすでに述べたが、一九六七年
における価格に対するその租税負担の割合を商品別
に示したものが第4表E欄である。すなわち紙と板
紙の価格が八・四%の旧売上税を含んでいたのを最
高とし、石炭鉱業生産物の価格が五・六%の旧売上
―99―
― 100 ―
税を含んでいたのを最低として、一五の部門を平均して価格は七・〇%の旧売上税を含んでいたのである。その
当時の売上税の標準税率は四%であったから、ここに挙げられた数字は、この租税の負担がいかに累積的な性格
をもつものであったかを如実に示しているということができる。因にこういった税こみ価格に対する旧売上税の
累積的負担の平均率は一九五〇年には八%、一九六一年には七・八%、そして一九六四年には七・四%であった
とされているから、一九五〇年から一九六七年までの十八年間に八・〇%から七・〇%までちょうど一%ほど低
下したことになる。この事実は、この期間中に企業の集中がおしすすめられたことや、第二次世界大戦後禁止さ
れていたいわゆる﹁組織関係﹂Organ∽chaftが一九五七年に復活されたことなどによって説明できることが指
摘されている。
さて、第4表E欄に示されている旧売上税負担が一九六八年に完全に価格から排除されると仮定すれば、一九
六八年の生産者価格は一九六七年のそれに比べてこの旧売上税額の分だけ低下するはずであるが、実際には旧売
上税負担の排除が完全でなく、その側面から一九六八年以降も価格に影響を及ぼすであろうことはすでに述べた
通りである。ここでもう一度それをまとめてみると、第一に旧在庫品の価格に含まれていた旧売上税負担の控除
が完全でなかったこと、第二に旧固定資産の価格に含まれていた旧売上税負担の控除が許されなかったこと、そし
て第三に新固定資産に対しては投資税が課されていることがあげられる。メゼンベルクはこれらを一括して﹁租
税費用﹂∽tauarkgteロとよんでハに。各商品グループごとに一九六七年の価格に対してこういった租税費用が
どんな割合を占めていたかを示すのが第4表F欄である。その割合は鉄・亜鉛および金属製品の○・八%から紙
器および印刷製品の一・五%まで広がっており、一五の商品グループの平均では一・二%であった。したがって
― 101 ―
平均値について言えば、一九六七年の生産者価格に含まれていた旧売上税七%のうち一・二%は一九六八年にも
なお租税費用としてその価格の中に残留すると考えられるから、一九六八年には生産者価格は計算上一九六七年
に比べて五・八%︵七・〇マイナス一・二︶だけ低下するものと予想される。G欄は各商品グループごとに予想され
る価格低下の割合−︱これはまた排除されることが期待される売上税負担の大きさでもあるーを示している。
ここで、D欄l現実に生じた価格低下lとG欄︱期待された価格低下lとを比較し、前者が後者を上回
ったばあいにはプラスの、逆のばあいにはマイナスの符号をつけて示したのがH欄である。一五グループの平均
では期待された価格低下五・八%に対して現実の価格低下は五・三%であって、現実は期待をわずか〇・五%だ
け下回った。しかし、イ、繊維製品、ロ、石材・セメント・砂利など、およびハ、鉄鋼の三グループ以外のもの
については、生産者価格はほぼ期待された程度の変化を示したということができよう。
生産者価格の低下が予め計算された値より〇・五%小さかったことを、メゼンベルクは﹁国民経済的転換損
失﹂volkswirtschaftlicher Iにimstellungsvez回tとして説明している。これは、税こみ価格計算から税ぬき価格
計算に移行することによって生じるいろいろの困難を一括して数量的に把握したものである。付加価値税に移行
して税ぬき価格計算を行なうためには、個々の企業者がそのときの自分の税こみ価格から控除すべき旧売上税の
負担の大きさを知っていなければならない。しかし、自分に引渡される商品の価格に含まれていた旧売上税負担
は企業者によって知られていないのが普通であった。そこで多くの企業者は付加価値税への移行にさいして控除
すべき旧売上税を少な目に見積ることになった。その結果、付加価値税の発効後も旧売上税の一部分が生産者価
格のなかに残留したのである。メゼンベルクぱ、生産者価格のばあい、このようにして歪油された税ぬき価格計
―102ー
算から生じた費用効果および価格効果、すなわち国民経済的転換損失を、付加価値税の課税標準のほぼ〇・五%
とみている。
四 消費者価格
privaten}{呂訃a}{e}の推移をみると、一九
消費者価格は旧売上税の時期にも、また付加価値税に移行してからも同じようにこれらの租税を含んでいる。
生計費指数︵生計価格の指数Prei∽一ndeXfぽdierernFltungaller
六七年下半期に対して一九六八年上半期には一・五%の上昇、両年の年間を通じての比較では一・六%の上昇を
示した。この上昇率はその前後の数カ年のうちで最も小さく、付加価値税への移行が生計費水準に与えた影響が
大きくなかったことを物語っている︵第5表A賜︶。
一九六七年七月三日に付加価値税に移行したデンマークでは、その直後の六ヵ月間に生計費が七・九%も上昇
し、一九六九年一月一日に付加価値税に移行したオランダでは、その直後の三ヵ月間に消費者物価が五%以上も
上昇したが、後者のばあい、その上昇のうち付加価値税の導入に直接の原因を求めることのできるのは一・五%
―103―
にすぎず、残りの部分はすべて企業者の便乗値上げによ
るものであったのにひきかえ、西ドイツでは付加価値税
への移行がほとんど消費者物価上昇の原因とならなかっ
た
と
見
て
い
る
も
の
も
あ
る
㈲。さらに一九七〇年一月一日に
付加価値税を導入したノルウェーでは、その直後六ヵ月
間
に
消
費
者
物
価
が
八
%
上
昇
し
た
匈。こういった諸外国の事
例と比較して、西ドイツでは付加価値税の導入に起因す
―104―
る消費者物価水準あるいは生計費水準の上昇は、もしあ
ったとしても、きわめて軽微なものにすぎなかったと見
てよいであろう。メゼンベルクによれば、一%程度の消
費者物価水準の上昇は付加価値税への移行に伴う﹁国民
下半期に対して一九六八年上半期には二・三%上昇したが、他方、肉類の価格は同じく五・三%低下した。これ
はそれぞれ上記両年の年間を通じての消費財物価指数を示している。D欄の示す通り、石炭の価格は一九六七年
対的変化である。第6表A欄とB欄はそれぞれ一九六七年下半期と一九六八年上半期における、またI欄とJ欄
むしろ、いっそう注目を要すると思われるのは、付加価値税への移行に伴って生じた消費財価格のあいだの相
えよう。
経済的転換損失﹂として甘受せねばならぬものとされてお引、西ドイツの実情はまさにこの範囲内にあったとい
第5表 消 費 者 価 格
らの変化は什無価値税への移行に伴って当然に生じることが予期された方向のものであった。一九六八年上半期
における付加価値税の標準税率と軽減税率は、税ぬき価格に対してそれぞれ一〇%および五%であったから、こ
れを税こみ価格に対して計算しなおせばそれぞれ九・一%および四・八%となる。第6表E欄に示したものがそ
れである。他方、第6表にあげられている消費財の各グループの価格に含まれている旧売上税負担で、付加価他
税への移行によって除去されることが期待されるものは、前述の過渡期の﹁租税費用﹂を考慮にいれると、F欄
に示す通りであった。それゆえ、付加価値税への移行に伴ってE欄とF欄とに示した租税負担の差額だけ、消費
財価格が騰落するものと考えられる。G欄の数字がその方向と大きさを示している。すなわち付加価値税への移
行によって、肉類では二・七%だけ価格が低下し、石炭では一・九%だけ価格が上昇するはずであった。実際に
はこういった予想を上まわって前者では五・三%の価格低下がおこり、後者では二・三%の価格上昇がおこった
ことはすでに見た通りである。計算の上では、第6表にあげれ八グループの消費財のうち肉類と上衣類のニグル
ープの価格だけが低下し、残りの六グルーブの価格は上昇するはずであったが、現実には価格の低下したものが
四グループ、上昇したものが四グループであった。
このように、付加価値税への移行は西ドイツの生計費水準あるいは消費者物価水準に対してはそれほど顕著な
影響を与えなかったが、消費財価格の相対的変化に対しては予想以上に大きな影響を及ぼしたということができ
―105―
−106−
−107−
― 108 ―
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