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3 末梢神経系

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3 末梢神経系
3
末梢神経系
107
3.末梢神経系
末梢神経系の概略
末梢神経系の分類
末梢神経系とは
末梢神経系とは
神経系は中枢神経系と末梢神経系からなる.中枢神経系は脳と脊
髄からなり,
これをのぞくすべての神経組織は末梢神経系に属する.
末梢神経系の分類
末梢神経系の分類
末梢神経系は,以下のようにさまざまな方法により分類される.
1. 神経線維が出入りする部位による分類
・ 脳神経 --------- 脳に出入りする末梢神経である.
・ 脊髄神経 ------- 脊髄に出入りする末梢神経である.
2. ニューロンがつながる組織による分類
・ 体性神経 ------- 体性組織(骨格筋 ,
皮膚,体表粘膜,筋膜,骨
膜,関節を取りまく軟部組織など)
につながる末梢神経である.
これ
は動物神経系ともよばれ,
環境の変化に応じて個体を意識的にコン
トロールすることにかかわる末梢神経系である.
・ 自律神経 ------- 内 臓 組 織(平滑筋,
心筋,
腺,
およびこれらの
表 面 粘 膜)
につながる末梢神経である.
これは植物神経系ともよば
れ,
生命の維持にかかわる基本的なはたらき,
すなわち消化,吸収,
循環,呼吸,分泌,栄養,生殖などを無意識的にコントロールするこ
108
3.末梢神経系
とにかかわる末梢神経系 である.
3. 神経線維をつたわるインパルスの向きによる分類
・ 求心性神経 ----- 末梢から中枢神経系にむけてインパルスをお
くる末梢神経である.
これはさまざまな 刺激によって生じたインパル
スを中枢にもたらし,感覚などを生じさせるとともに ,
個体を意識的・
無意識的にコントロールするための基本情報となる.
・ 遠心性神経 ----- 中枢神経系から末梢の効果器にむけてインパ
ルスをおくる末梢神経系である.
これは筋細胞
(骨格筋,
心筋,
平滑
筋)や腺細胞にさまざまな応答を生じさせる.
体性神経系と自律神経系
末梢神経系は上記2.および3.を組みあわせることにより,
以下のよう
に分類することができる.
1. 体性神経系
・ 求心性神経 ----- 体性感覚神経(感覚神経)
とよばれる.
これは
体性組織に分 布する感 覚 受 容 器からのインパルスをつたえる
ニューロンで構成され,
これらを感覚ニューロンとよぶ.感覚ニュー
ロンは末梢感覚受容器 から中枢神経にはいるまで一個で構成さ
れ,
その細胞体は末梢神経系にある.
なお体性感覚神経がつたえ
*
る感覚の種類としては痛覚,
触圧覚,
温度感覚,
固有受容感覚 な
どがある.
・ 遠心性神経 ----- 体性運動神経(運動神経)
とよばれる.
これは
骨格筋にシナプス結合して,
その運動を支配するニューロンで構
成され,
これらを運動ニューロンとよぶ.運動ニューロンの細胞体は
脳幹または脊髄内にあり,
ここからでた神経線維は末梢の骨格筋
線維にいたるまで一個のニューロンで構成される.
109
3.末梢神経系
2. 自律神経系
・ 求心性神経 ----- 内臓求心性神経とよばれる.
これは内臓組織
(平 滑 筋,
心筋,
腺,
およびこれらの表 面 粘 膜 )
に分 布 する感 覚
ニューロンで構成される.
これは末梢感覚受容器 から中枢神経に
はいるまで一個のニューロンで構成され,その細胞体は末梢神経
系にある.
・ 遠心性神経 ----- 交感神経まおよび副交感神経とよばれる.
これ
らは平滑筋,
心筋,
腺を支配するニューロンで構成される.
これに属
するニューロンの細胞体は脳幹または脊髄内にあり,
ここからでた
神経線維は末梢の平滑筋,
心筋,
腺にいたるまで二個のニューロ
ンで構成される.
注)
固有受容感覚: 固有受容感覚とは,身体各部分の位 置
( 位置覚)や運 動の 状態(運動覚 )
,身
体に 加わる抵 抗
( 抵抗感覚 )
や 重量(重量感覚)
を感 ずるものの総 称である.
□ 末梢神経系の分類
□ 末梢神経系の分類と構成ニューロン数
110
3.末梢神経系
末梢神経を構成するもの
神経節
神経節
脳,
脊髄以外の部位にあるニューロンの細胞体は,
ごくかぎられた部
位に限局して存在する.
この末梢神経系にある神経細胞 の集合部位
*
を神 経 節 といい,
ここは形態的に膨大している.
神経節には以下のようなものがある.
1. 求心性神経に属する神経節
求心性神経に属する神経節を感覚神経節と総称し,
これには以下の
ようなものがある.
ここにはそれぞれ体性神経の求心性 ニューロンと自
律神経の求心性 ニューロンの細胞体がある.
・ 脳神経節 ---------- 脳神経に属する末梢神経の求心性 ニュー
ロンの細胞体がある部位である.
たとえば三叉神経節
(ガッセル神
経節,半月神経節 )
などがこれにあたる.
・ 脊髄神経節 -------- 脊 髄 神 経に 属 する末 梢 神 経 の 求 心 性
ニューロンの細胞体がある部位である.
これは脊髄後根にあること
から後 根 神 経 節ともよばれる.なお 体幹・四肢におこる 求心性
ニューロンの細胞体はすべてここにある.
2. 遠心性神経に属する神経節
体性神経の遠心性ニューロンの細胞体は脳幹または脊髄の内部に
あり,
その神経線維のみが末梢組織に分布するため,
体性運動神経に
属するニューロンが神経節をつくることはない.
しかし ,
自律神経 の遠
心性ニューロンは二個構成であるため,末梢神経系には自律神経遠
心性ニューロンがシナプスを形成する場,すなわち自律神経節があ
る.
自律神経遠心性ニューロンのうち,
脳幹または脊髄の内部にニュー
111
3.末梢神経系
ロンの細胞体があり,自律神経節に軸索をのばすニューロンを節前
ニューロンという.
また自律神経節にニューロンの細胞体があり節前
ニューロンのシナプスをうけ,
その軸索を効果器細胞にのばすニュー
ロンを節後ニューロンという.
このように遠心性神経に属する神経節は,
自律神経節 のみであり,
こ
れには交感神経節→と副交感神経節→とがある.
注)
神経節: 末梢神経系にある神経細胞の 集合部位を神経節というのに 対し,中枢神経系におけ
る神経細胞の 集団を神経核という.
□ 神経節
末梢神経の構造
末梢神経系にふくまれる神経線維
末梢神経系の神経線維束には,求心性神経線維と遠心性神経線維
とがふくまれ,
また体性神経と自律神経の神経線維も混在している.
こ
のような末梢神経を混合神経といい,
個々の末梢神経は一部の脳神経
をのぞき→混合神経である.
112
3.末梢神経系
末梢神経の組織構築
末梢神経は神経節以外の部位では,個々の神経線維が分布域ごと
に集まり束を形成し,その周りは以下のような膜にかこまれている.
中枢
神経系をでた末梢神経は,
まず太い神経幹をつくって末梢組織内を走
行し,
次第に枝分かれしながら末梢に分布してゆく.
・ 神経内膜 ----- 軸索の周りをつつむ細い膠原線維からなる結合
組織である.
・ 神経周膜 ----- 数本から数千本の神経軸索をまとめる緻密な膠
原線維の被膜である.
・ 神経外膜 ----- 神経周膜でまとめられた神経線維束はさらに数
本から数十本集まって一本の神経となるが,
神経外膜はこの全体
をゆるくたばねる役目をする結合組織である.
□ 神経幹の構成
113
3.末梢神経系
脳神経
脳神経の概略
脳神経とは
脳神経は脳に出入りする末梢神経であり,
左右12対ある.脳神経は
出入りする脳の高位にしたがって,以下のように番号がふられている.
脳神経のうち,
嗅神経のみが大脳に出入りし,
他はすべて 脳幹に出入
りする.
1. 大脳(古皮質)
に出入りするもの
きゅう
しん
けい
・ 第I 脳神経 ------ 嗅神経
2. 間脳(視床)
に出入りするもの
・ 第II脳神経 ----- 視神経
3. 中脳に出入りするもの
・ 第III脳神経 ---- 動眼神経
・ 第IV脳神経 ----- 滑車神経
4. 橋に出入りするもの
さ んさし ん
けい
・ 第V 脳神経 ------ 三叉神経
・ 第VI脳神経 ----- 外転神経
・ 第VII脳神経 ---- 顔面神経
5. 延髄に出入りするもの
・ 第VIII脳神経 --- 内耳神経
ぜつ
いん
しん
けい
・ 第IX脳神経 ----- 舌咽神経
めい
そう
しん
けい
・ 第X 脳神経 ------ 迷走神経
・ 第XI脳神経 ----- 副神経
114
3.末梢神経系
・ 第XII脳神経 ---- 舌下神経
純運動性・純感覚性の脳神経
脳神経のうち,
以下のものは混合神経でない.
・ 遠心性神経線維のみで構成されるもの
(純運動性) --- 動 眼 神
経(第III脳神経)
,
滑車神経
(第IV脳神経)
,
外転神経
(第VI脳神
経)
,
副神経(第XI脳神経)
,
舌下神経(第XII脳神経)
きゅうしん
・ 求心性神経線維のみで構成されるもの
(純感覚性) --- 嗅 神
けい
経(第I脳神経)
,
視神経
(第II脳神経)
,
内耳神経
(第VIII脳神経)
自律神経線維をふくむ脳神経
脳神経のうち,以下のものは自律神経系遠心性神経である副交感
神経線維と,
その求心性神経 である内臓求心性神経線維をふくむ.
な
お交感神経線維は,おもに胸髄と腰髄からでるため,
脳神経に交感神
経線維はふくまれない.
・ 副交感神経線維をふくむもの ------------- 動眼神経(第III
ぜ つい んし んけ い
め いそ う
脳神経)
,
顔面神経
(第VII脳神経)
,
舌 咽 神 経(第IX脳神経)
,
迷走
し んけ い
神 経(第X脳神経)
□ 脳神経の分類
115
3.末梢神経系
脳神経の構造と機能
嗅神経
(第I脳神経)
き ゅ うし んけ い
《構成》
き ゅ うか く
第I脳神経である 嗅 神 経は 嗅 覚→のみをつかさどる純感覚神経で
ある.
《機能》
嗅神経は嗅覚をつかさどり,
嗅覚の感覚受容器である嗅細胞→にお
こったインパルスを中枢につたえる .
嗅細胞は空気中 の化学物質によ
び くう
*
*
じ ょ う び こ うか い
び ち ゅ うか く
る刺激を受容する化学受容器 →であり,
鼻腔 の 上 鼻 甲 介と鼻 中 隔
き ゅ うじ ょ う ひ
の間のせまいすき間をおおう鼻粘膜
(鼻粘膜嗅部)
の 嗅 上 皮にある.
《走行》
*
*
嗅神経は嗅細胞 の軸索 がつくる束 である.
これは 鼻腔の天井を形成
し こつ
し ばん
*
き ゅ うさ く
する篩骨の篩板 にある小孔をとおって頭蓋腔内に入り,嗅 索→の前
き ゅ うき ゅ う
端部にある 嗅 球 にいたる.
《備考》
嗅神経がはいる嗅球は大脳古皮質→に属し,嗅神経は唯一大脳に出
入りする脳神経 である.
嗅覚情報は嗅球から嗅索をへて,側頭葉の前
り じ ょ うよ う
端にある梨 状 葉におくられる.
□ 嗅神経
注)
空気中 の化学物質による刺 激を受 容する化学受容器: 鼻粘膜に 達し た空気中の 化学物質は
嗅神経を介して 嗅覚をおこすが,
鼻粘膜に対 する機械的刺激などによって 生ずる触圧覚 ,
116
3.末梢神経系
痛覚,温度感覚などの 情報は 三叉神経から脳にもたらされる.
鼻粘膜に 対する体性感覚刺
激は ,
くしゃみ反射をおこす刺 激となることがある.
鼻腔: 鼻 腔は 鼻中隔によって左 右にわけられる.外鼻孔およびその周辺は鼻 毛を有する皮 膚
注)
でおおわれ,
そ の後方は粘膜となり,
前方 の一部 が扁平上皮で ,
残りの大部分は呼吸上皮 ,
天蓋付近は 嗅上皮でおおわれる.鼻腔 の内側壁は鼻中隔よりなり,
外側壁には 上下になら
ぶ粘膜 のヒダ 状の 高まりがある.
このヒダ状の 高まりを下 方から,
下鼻甲介 ,
中鼻甲介 ,
上鼻
甲介とよぶ .
各鼻甲介の 下方を,それぞれ 下鼻道 ,
中鼻道 ,
上鼻道とよぶ.
また 鼻腔上壁は
篩骨篩板で 前頭窩底に連 絡する.鼻腔には 呼吸器(加 温,加湿 ,
除 塵),
嗅 覚の 感覚器,音
声の共鳴装置としての機 能がある.
嗅細胞 の軸 索: 嗅覚受容器 である嗅細胞は ,
そ の軸 索が ニューロンをかえずに直 接,中枢神
注)
経系
( 嗅球)のニューロンにシナプス結 合をつくる.嗅細胞は,
そ の突起 が直接脳にはいる唯
一の感覚受容器細胞 である.
これに対し高 度な感 覚である聴覚 や前庭感覚は ,
受容器細
胞と末梢神経線維を構成 するニューロンは 別個 である.
このことは嗅 覚が 原始的な 感覚 で
あることをよくあらわしている.
軸索 がつくる 束: 嗅神経は,篩骨篩板をぬける部位 で約20本の 束を形成 する.
これを嗅糸とい
注)
う.
嗅 糸は 嗅神経そのものであり,
この 意味で 嗅神経は 一本 の末梢神経 ではない.
篩板: 頭蓋骨の 外傷 で篩骨骨折がおこると,篩骨篩板を通 過 する嗅神経が 障害をうけて,嗅
注)
覚消失や 嗅覚低下 がおこる .
視神経
(第II脳神経)
《構成》
第II脳神経である視神経は,
視覚→のみをつかさどる純感覚神経で
ある.
《機能》
視 神 経は,
視覚をつかさどり,視覚受容器である視細胞→におこった
か んた い
インパルスを中枢につたえる.
視覚受容器である視細胞(杆 体 細 胞と
す いた い
も うま く
*
*
錐体細胞 )
は眼球壁の最内層をなす網 膜 にあり,
これは眼球にはいっ
た光刺激によって興奮する光受容器 である.
《走行》
*
視神経は視細胞におこったインパルスをうける網膜神経節細胞 には
*
*
じまる.神経節細胞の軸索 は視 神 経 乳 頭
(視 神 経 円 板)にあつまり,
ち ょ うけ いこ つ
*
ここから眼球をでて眼窩で 蝶 形 骨 がつくるの視神経管 を経て頭蓋腔
にはいり,
視神経交叉
(視交叉)
で半交叉した後に視床の外側膝状体
→にいたる.
視神経交叉
(視交叉)
において,
網膜の耳側半部にある神経節細胞
の軸索は交叉せずに同側の外側膝状体に,
鼻側半部にある神経節細
*
胞の軸索は交叉して反対側の外側膝状体にいたる.
これを半交叉 と
いう.
なお視神経の走行のうち,視神経交叉(視交叉)
から外側膝状体に
117
3.末梢神経系
し さく
*
いたるまでの区間を視索 とよぶ.
視索には半交差した神経線維がとお
るため,右視索には左視野からの,
左視索には右視野からの情報が伝
わる.
《備考》
外側膝状体で視神経から情報をうけたニューロンの軸索は,
大脳皮質
後頭葉にある視覚野に終わる.
この外側膝状体から視覚野までの視覚
の中枢内伝導路を視 放 線とよぶ.
□ 視神経
注)
網膜: 網 膜は 眼球壁 の最内層をなす膜状組織 であり,
発生学的に 脳の 一部であり,
前 脳の 一
部が外 方につきでたものである.
網膜 のうち眼 球の 後方部分には視細胞がならび,その 中
心部に視 力のもっともよい黄斑 がある.
注)
118
杆体細胞と錐体細胞: 網 膜にある視細胞には,杆体細胞と錐体細胞の 二種類のものがある.
3.末梢神経系
このうち 杆体細胞は 薄暗 い 所で 明暗を感じ ,
錐体細胞は明るい 所で 色 彩を感じる.
注)
神経節細胞: 神経節細胞は 網膜の 最内層にある.
光情報は網膜 の視細胞により受 容され,そ
のインパルスは双極細胞をへて ,
神経節細胞にもたらされる.
注)
神経節細胞の軸 索: 視神経を構成している神経線維は 末梢神経系にあるシュワン鞘をもたず,
中枢神経系にあるグリア細 胞にかこまれている.
また視神経をつつむ膜は,外側より硬膜鞘 ,
クモ膜 鞘,軟膜鞘からなり,
これらはそれぞれ脳硬膜 ,
クモ膜,軟膜に連 続したものである.
したがって視神経は本 来,中枢神経系に 属し 末梢神経系ではないが ,
便宜的に脳神経に
分類される.実際 ,
以 前は 視神経を脳神経にふくめない時 代があった .
注)
視神経乳頭
( 視神経円板): 網 膜の神経節細胞の軸 索があつまって眼球外にでる部位を視 神
経乳頭(視神経円板 )
とよぶ .
これは網 膜の 黄斑 の鼻側約4mm,
上方0.8mmにあり,その 直径
は約1.5mmであり,
ほぼ円形 でやや盛りあがっているためその名 がある..
この部は網膜が 欠
損しているため 生理的盲点となる.
また視神経乳頭 の非炎症性 の浮 腫を乳頭浮腫
(うっ血
乳頭)
といい,
この場 合,
乳頭 の異常隆起と,
乳頭境界の不鮮明化 ,
乳頭周囲の同心性の 網
膜ひだをみる.乳頭浮腫 の原 因は ,
頭蓋内 の占拠性病変による脳圧亢進
( 頭蓋内圧亢進 )
であることが 多い .
注)
視神経管: 視床下部 の前下方にある視交叉部から,
蝶形骨小翼内をとおって眼窩に通じる長
さ8∼9mmの骨性 の管 である.
そ の開口部は 上眼窩裂のやや 内側にあり,
視神経・眼動脈な
どがとおる.
注)
半交叉: 視神経は 視神経交叉
( 視交叉)
において 半交叉するため,視神経の 障害 では ,
障害
部位によってことなる視野異常 があらわれる.
すなわち視神経乳頭 から視神経交叉
(視交
叉)
までの間 で一側 の視神経が 完全に 離断されれば,
患 側の眼 球の 視野が 完全に 失わ れ
る
(患 眼の 全盲 )
.
また 下垂体は視神経交叉 のすぐ後方正中部に 位置 するため,
下垂体腫
瘍などにより視神経交叉が圧 迫されると ,
視神経 の交叉性線維のみが変 性し,視交叉の 外
側部をとおる非交叉性の神経線維は障 害をまぬがれる.
この場 合,
両 眼の耳側半分 の視 野
がうしなわれる
( 両耳側半盲 )
.
さらに 一側 の視索 が障 害を受けた 場合は ,
障害側の 眼の 網
膜の耳側半分に 由来する非交叉性線維と,
反対側の眼の 鼻側半分に由来 する交叉性線維
が障害されるので,
両眼 の視野上の 障害反対側半分の 視野 が欠損 する
( 同名半盲).
なお
片眼あるいは両 眼の 視野 の右 あるいは 左半分が 見えないことを半 盲という.
注)
視索: 視 索をとおる神経線維の 多くは外側膝状体に至るが ,
一 部は視交叉上核や 中脳上丘に
入る.
このうち視交叉上核 への 情 報は 概日リズム
( サーカディアンリズム)の形 成に 関与し ,
また上 丘への ルートは視覚情報にもとづく眼球運動反射や 遠近調節,瞳孔調節の求心性情
報となる.
動眼神経
(第III脳神経)
《構成》
*
第III脳神経である動眼神経は,
一部の眼筋 →を支配する体性運動
神経と副交感神経をふくむ脳神経である.
《走行》
動眼神経は中脳におこり,
蝶形骨がつくる上 眼 窩 裂をとおって眼窩に
入り,眼筋に分布する.
《機能》
動眼神経には以下のような神経線維がふくまれる.
1. 体性運動神経
眼筋のうち,眼球の外にある筋を外眼筋とよび,そのほとんどは骨格
*
筋である.
外眼筋 →には,
眼球に直接付着し眼球運動にあずかる筋
119
3.末梢神経系
がんけん
*
と,眼 瞼の開閉にあずかる筋とがある.
動眼神経には,
以下の外眼筋
*
を支配する体 性 運 動 神 経 がふくまれる.
・ 眼球運動にあずかる筋 ---------- 内 側 直 筋(内 直 筋 ),上 直
筋,
下 直 筋,
下 斜 筋→.
(なおこれ以外の筋,
すなわち外側直筋は
外転神経に,
上斜筋は滑車神経に支配される)
・ 眼瞼の開閉にあずかる筋 -------- 上 眼 瞼 挙 筋→
(なおこれ以
けんばん
外の筋,すなわち眼輪筋は顔面神経に,瞼 板 筋は頸部交感神経に
支配される)
2. 副交感神経
*
眼筋のうち眼球内にあるものを内眼筋とよび,
これらはすべて平滑
*
筋である.
動眼神経には,
以下の内眼筋を支配する副交感神経 がふ
くまれる.
この副交感神経線維は眼窩内 で毛様体神経節をつくる.
・ 毛様体筋 --------------------- 副交感神経の興奮により,
水
晶体が厚くなり,
屈折力を増大することにより,
近くの物に眼の焦 点
があう→.
(なお毛様体筋は自律神経系の二重支配をうけるが,
交
感神経線維は頸部からでたものが分布している)
・ 瞳孔括約筋 ------------------- 副交感神経の興奮により,
瞳
孔が 縮小(縮瞳)
し,
眼球内に入る光量が減少する.
(なお瞳孔括
約筋は副交感神経 の支配のみをうける筋であり,
瞳孔の散大にあ
ずかる瞳孔散大筋→は別個のものである.
瞳孔散大筋は交感神経
の単独支配をうけ,
その神経線維は頸部からでる)
注)
眼筋: 眼球に関 係する筋を眼 筋と総 称する.
これは眼球内にある内眼筋と眼球 の外にある外
眼筋とに分 類される.
注)
眼球運動にあずかる筋: これには内側直筋(内直筋 )
,外側直筋
( 外直筋),上直筋,下直筋,
上斜筋,下斜筋がある.
注)
眼瞼 の開 閉にあずかる筋: これには 上眼瞼挙筋(上瞼挙筋 )
,眼輪筋 ,
瞼板筋
(ミューラー筋 )
がある.
注)
外眼筋を支配 する体性運動神経: 動眼神経 の障害(動眼神経麻痺)
による症状のうち,外眼筋
を支配 する体性運動神経障害の 結果あらわれるものとしては,
1.上眼瞼挙筋麻痺による眼
瞼下垂 ,
2.動眼神経支配の 外眼筋麻痺と麻痺しない外側直筋と上斜筋の 作用による外 斜
視
( 眼球 が外下方に転 位する),
3.外斜視により左 右の 眼球 で同一部位に結 像しないため
におこる 複視(物 が二 重に見える)
など,がある.
注)
120
内眼筋: 内眼筋には,毛様体筋 ,瞳孔散大筋,瞳孔括約筋 がある.
3.末梢神経系
注)
内眼筋を支 配する副交感神経: 動眼神経 の障 害による症 状のうち ,
内眼筋を支配 する副交感
神経障害 の結果 あらわれるものとしては,
1.交感神経優位となり瞳孔散大筋の作 用によって
おこる瞳孔散大,
2.毛様体筋の 障害により近くのものに眼 の焦 点があわなくなる調節障害,
3.対光反射(一側 の眼球に光をあてると両側 の眼球 の瞳孔 が小さくなる)
消失など,がある.
□ 動眼神経
滑車神経
(第IV脳神経)
《構成》
*
第IV脳神経である滑車神経 は,
上斜筋を支配する体性運動神経のみ
をふくむ純運動性神経である.
《機能》
滑車神経は,外眼筋のうち上斜筋のみを支配する体性運動神経から
なる.
《走行》
滑車神経は中脳下丘の下方から脳をでて ,
蝶形骨がつくるの上眼窩
裂をとおり眼窩に入り,上斜筋に分布する.
なお脳幹背方より出る脳神
経は滑車神経のみである.
注)
滑車神経: 滑車神経は ,
嗅神経についで小さな 脳神経であり,頭蓋内における走 行が 非常に
長いために圧 迫などによる障害をうけやすい.
滑車神経の 障害
( 滑車神経麻痺 )
では ,
上斜
筋が麻 痺し ,
眼 球を外下方に 向けることができなくなる.
このため水平面より下方を見るとき
に複 視が 生じ ,
患 者は 独特 の頭 位をたもつ.すなわち額を突き出し,顎を引き,
上 目づ か い
をする.
また 階段を下るのが困難となるため,後ろ向きになって階 段を降りていく.
三叉神経
(第V脳神経)
《構成》
第V脳神経である三叉神経は,
全咀嚼筋を支配する体性運動神経と,
顔面・前頭部の体性感覚
(痛覚,
触圧覚,
温度感覚,
固有感覚)
をつた
える体 性 感 覚 神 経をふくむ混合神経である.
121
3.末梢神経系
《機能と走行》 三叉神経は脳神経の中で最大で,
橋から出て三叉神経節をつくった
後,
3枝に分かれて頭蓋骨をでる.
なお三叉神経節は,
半月神経節また
はガッセル神経節ともよばれ,
側頭骨の内側に位置する.
ここは三叉神
経にふくまれる求心性ニューロンの細胞体 がある部位である.
三叉神経の3枝は第1枝(眼神経),
第2枝(上顎神経),
第3枝(下顎
*
神経)から構成される .
このうち第1枝と第2枝は求心性神経線維のみ
からなり,
第3枝のみが求心性神経線維と遠心性神経線維をふくむ 混
*
合神経である .
1. 第1枝(眼神経)
がん か れつ
三叉神経第1枝は眼神経ともよばれ,
蝶形骨がつくる上 眼 窩 裂をと
おって眼窩にでる.
これは以下のような神経線維をふくむ .
がん か
せ っこ ん
・ 前頭部皮膚に分布する枝
(眼窩上神経)
は,眼窩上孔や前頭切痕
が んけ ん
み けん
をとおる.
これらは前頭部,
上 眼 瞼,
内眼角,
眉 間,
鼻根,
鼻尖の皮
膚に分布し,
これらの部位の体性感覚をつかさどる.
・ 眼および鼻に分布する枝は,
角膜・結膜および眼窩,
鼻腔粘膜前半
*
の粘膜に分布し,
これらの部位の体性感覚 をつかさどる.
2. 第2枝
(上顎神経)
じ ょ うが く
せ いえ んこ う
三叉神経第2枝は 上 顎神経ともよばれ,
蝶形骨がつくる正 円 孔をと
*
おって頭蓋骨をでる .
これは以下のような神経線維をふくむ .
・ 顔面部皮膚に分布する枝
(眼窩下神経 )
は,
眼窩下孔をとおる.
こ
きょう
び よ く じ ょ うし ん
れは下眼瞼,頬 部,
鼻翼,上 唇の皮膚に分布し,
これらの部位の
体性感覚をつかさどる.
・ 鼻および口腔に分布する枝は,
上顎の 歯・口腔粘膜,
鼻腔粘膜後
半に分布し,
これらの部位の体性感覚をつかさどる.
3. 第3枝
(下顎神経)
か がく
ら んえ んこ う
三叉神経第3枝は下顎神経ともよばれ,
蝶形骨がつくる卵 円 孔をと
*
おって頭蓋骨をでる .
これは以下のような神経線維をふくむ .
・ 下唇,
オトガイ部皮膚に分布する枝
(オトガイ神経)
は,
オトガイ孔を
122
3.末梢神経系
とおる.
これは側頭部,
耳介前部,
下唇,
オトガイ部の皮膚に分布し,
これらの部位の体性感覚をつかさどる.
・ 口腔に分布する枝は,
下顎の歯・口腔粘膜,
舌前2/3に分布し,
これ
らの部位の体性感覚をつかさどる.
なお舌前2/3の感覚のうち味覚
のみは顔 面 神 経によって中枢に伝えられる.
こ うき ん
よ くと つき ん
・ 咀嚼筋
(咬 筋,
側頭筋,
外 側 翼 突 筋,
内側翼突筋)
に分布する枝は,
これらの固有感覚をつかさどる体性感覚神経とともに,運動を支配
*
する体性運動神経 をふくむ.
□ 三叉神経の分布域
□ 三叉神経の皮膚支配領域
注)
第1枝
( 眼神経),
第2枝
( 上顎神経),
第3枝
(下顎神経)から構成される: 三叉神経におこる 代
表的疾患としては三叉神経痛がある.三叉神経痛は三叉神経各枝の 感覚支配領域に激し
い疼痛発作をきたすもので,第2枝および 第3枝領域に好発 する.本態性 のものは,
1∼2秒の
激痛発作 が一側 の三叉神経の 分枝領域に生じ,
不快感が数秒続いたのち,
突然症状が 消
失することを特徴とする.
中年以上に 発症し ,
女 性に 多い .
近 年,そ の病 態として小血管が
三叉神経根部を圧 迫して疼痛発作をきたすという考えがあるが ,
このような 異常な血管が 見
出されないものもある.
また症候性のものは 帯状疱疹ヘルペス後神経痛としてあらわれるも
のが 多く,
これは第1枝に 好発 する.
123
3.末梢神経系
注)
混合神経 である: 三叉神経には,涙腺 ,
鼻 腺,唾液腺に 分布 する副交感神経線維もわずかに
ふくまれる.
注)
体性感覚: 三叉神経第1枝には ,
このほかにも 篩骨洞 や蝶形骨洞の粘 膜に 分布する体性感覚
神経もふくむ .
このため 副鼻腔炎では ,
前頭部
( 三叉神経第1枝支配領域)
に頭 痛や不快感
を訴えることがある.
注)
正円孔をとおって頭蓋骨をでる: 三叉神経第2枝が正円孔 からでる部位は ,
翼口蓋窩である.
翼口蓋窩は上顎骨と蝶形骨の 翼状突起との間にある狭い洞 窟で ,
頬骨弓の 下面に 当たる
部位にある.
注)
卵円孔をとおって頭蓋骨をでる: 三叉神経第3枝が卵円孔 からでる部位は ,
側頭下窩である.
側頭下窩は頬骨弓 の下 面にある陥凹部で ,
上 方は 蝶形骨の 大翼 ,
前 方は 上顎体,内側は
翼状突起によって 境され,外側は 下顎枝でおおわれている .
注)
三叉神経第3枝にふくまれる体性運動神経は ,
咀嚼筋以外にも口蓋帆張筋と鼓膜張筋 の運 動を
支配 する線 維をふくむ .
外転神経
(第VI脳神経)
《構成》
*
第VI脳神経である外転神経 は,
外側直筋(外直筋)
を支配する体性
運動神経のみをふくむ純運動性神経である.
《機能》
外転神経は,外眼筋のうち外側直筋(外直筋)
のみを支配する体性運
動神経からなる.
《走行》
外転神経は橋から脳をでて,
蝶形骨がつくるの上眼窩裂をとおり眼窩
に入り,外側直筋に分布する.
注)
外転神経: 外転神経 の障 害
( 外転神経麻痺)では ,
外側直筋 の麻 痺により眼 球の 外転 が不 能
となり,眼 球は 内転位をとる
( 内斜視 )
.
また内斜視により複視 が 生じる.
顔面神経
(第VII脳神経)
《構成》
*
第VII脳神経である顔面神経 は,
全表情筋とアブミ骨筋を支配する体
性運動神経と,
涙腺,鼻腺,
唾液腺の分泌をつかさどる副交感神経と,
舌前2/3の味覚をつたえる感覚神経をふくむ混合神経である.
なお顔
面神経のうち副交感神経線維と味覚をつたえる感覚神経線維をあわ
*
せたものを中間神経とよぶ.
《走行》
顔面神経は,
橋からでて内耳神経とともに側頭骨の内耳道に入る.
内
*
しつ
耳道の底で内耳神経とわかれ顔 面 神 経 管 に入り,
ここで 膝神経節を
つくる.膝神経節は,味覚をつたえる求心性ニューロンの細胞体がある
124
3.末梢神経系
部位である.
その後,
顔面神経管はほぼ直角に折れまがって 下降し,
途中で大錐
*
*
こ さく
*
体神経 ,
アブミ骨筋神経 ,
鼓索神経 の三本の神経を分岐し,最終的
け いに ゅ うと つこ う
*
*
に側頭骨の茎 乳 突 孔 から 頭蓋骨をでる .
□ 顔面神経
《機能》
顔面神経にふくまれる神経線維を機能別に分類すると以下のようにな
る.
I.
体性運動神経
1. 表情筋を支配する体性運動神経
茎乳突孔をでた顔面神経は顔面全体に放射状に分枝し,
以下の全
表 情 筋の運動を支配する.
*
・ 頭蓋表筋 ---------- 前 頭 筋 ,
後頭筋,
側頭頭頂筋,鼻根筋
・ 耳介の筋 ---------- 上耳介筋,
前耳介筋
すう び
*
・ 眼裂周囲の筋 ------ 眼 輪 筋 →,
眉毛下制筋,皺眉筋
・ 鼻部の筋 ---------- 鼻筋,鼻中隔下制筋
*
・ 口裂周囲の筋 ------ 上唇鼻翼拳筋,上唇拳筋,小頬骨筋 ,大
*
*
頬骨筋,笑筋 ,
口角拳筋,
口輪筋 ,
下唇下制筋 ,
口角下制筋 ,
オト
125
3.末梢神経系
ガイ筋,
オトガイ横筋,
頬筋
*
・ 前頸部の筋 -------- 広頸筋
2. アブミ骨筋を支配する体性運動神経
顔面神経管が鼓室の後壁を走るところでわかれる枝をアブミ骨筋神
こし つ
*
経という.
この枝は中耳の鼓室→にあるアブミ骨筋 の運動を支配する.
II.
副交感神経
1. 涙腺を支配する副交感神経
副交感神経線維の一部は,顔面神経管の膝神経節のところで大錐
体神経として分枝し頭蓋外にでる.
これにふくまれる副交感神経線維
は翼口蓋神経節でニュ−ロンをかえ,
涙腺,
鼻腺などに分布し,
その分
泌促進→にはたらく.
2. 唾液腺を支配する副交感神経
顔面神経が茎乳突孔で頭蓋骨をでる直前のところでわかれる枝を
鼓索神経という.鼓索神経にふくまれる副交感神経線維は顎下神経節
でニュ−ロンをかえ,
唾液腺(顎下腺,
舌下腺)
に分布し,
そこからの漿
液性唾液の分泌促進→にはたらく.
III. 味覚をつたえる感覚神経
み らい
み さ いぼ う
味覚をつたえる求心性神経は,
舌前2/3に分布する味蕾の味 細 胞→
こ さく
しつ
におこり,
鼓 索 神 経を経由したのち 膝神経節で細胞体をつくり,
延髄の
こ そ くか く
孤 束 核→にいたる.
こ そくかく
なお味覚をつたえる求心性情報は孤 束 核から,
視床を経て大脳皮
質頭頂葉の中心後回の基部にある味覚野→にいたる.
注)
顔面神経: 顔面 の痛 みのことを一般に
『 顔面神経痛 』
ということがあるが,顔面神経は体 性 感
覚神経線維をふくまないため,
この表現は正しくない.
顔面皮膚の痛 み
(体性感覚)
をつたえ
るのは三叉神経であるので ,
正しくは三叉神経痛という.
注)
中間神経: 中間神経は肉眼的に内耳神経の 前庭神経と,
表情筋 の運 動をつかさどる顔 面 神
経体性運動神経線維との 中間にあることからこのように 呼ばれる.
注)
顔面神経管: 顔面神経管は側頭骨内 の管である.
内耳道底の 顔面神経管孔に始まり,茎乳突
孔に終 わる.その途 中で75∼90°
の角 度で折 れ曲がり,
この角に膝神経節がある.
顔面神経
管は細いので,顔面神経がウイルスにおかされて浮腫 が生じたり,外傷により顔面神経管 が
損傷をうけると,容易に 顔面神経麻痺が生じる.ベル 麻痺
( 特発性 の末梢性顔面神経麻痺 )
は,
顔面神経 が顔面神経管内で何らかの原因で 炎症をおこし ,
骨性 の管の 中で圧 迫をうけ
126
3.末梢神経系
ることによっておこると考えられている.
注)
大錐体神経: 大錐体神経は,膝神経節 のところで顔面神経管 からわかれ,おもに涙 腺を支 配
する副交感神経線維をふくむ .
注)
アブミ骨筋神経: アブミ骨筋神経は,
顔面神経管が 鼓室の 後壁を走るところでわかれ鼓 室に 入
り,
アブミ骨筋を支配 する体性運動神経線維をふくむ .
注)
鼓索神経: 鼓索神経は,顔面神経が 茎乳突孔より頭蓋外に 出る直 前でわかれる .
唾液腺( 顎
下腺と舌下腺 )
を支 配する副交感神経線維と,
舌 前2/3の味 覚をつたえる感覚神経線維を
ふくむ .
注)
茎乳突孔から: 茎乳突孔からでた顔面神経は,耳垂の 前下方にある耳下腺をつらぬいた後 ,
顔面全体に放射状に分 枝する.すべての 顔面表情筋を支配 する体性運動神経をふくむ .
注)
最終的に茎乳突孔から頭蓋骨をでる: 顔面神経はその走行中に顔面神経管内で 分枝をくりか
えす.
また末梢性の 顔面神経障害(顔面神経麻痺)
は 顔面神経管内におこる障害に起因 す
ることが多い .
このため末梢性顔面神経麻痺では,
障害部位 が近位 であると顔面神経機能
の多くが障 害されるが,遠位 であると限定的な障 害にとどまる.
このことを利 用し て,患者 の
症状 から障害部位を同定 することができる.
すなわち,
1.茎乳突孔 の出 口における顔 面 神
経障害 では全表情筋の麻 痺のみを呈し,
2.茎乳突孔の直上部における障害 では ,
これにア
ブミ骨筋麻痺による聴覚過敏がくわわり,
3.膝神経節からアブミ骨神経を分 枝するまでの区
間の障 害では,
さらに 舌前2/3の味覚脱出と顎下腺と舌下腺の 分泌低下 が,
4.膝神経節に
おける障 害では,涙 腺・鼻腺 の分泌低下 がくわわる.
注)
表情筋: 表情筋は顔 面,頭蓋 ,
頸 部にある皮 筋の 総称 である.皮筋とは ,
骨と皮 膚または 皮 膚
と皮膚に付 着する骨格筋
( 横紋筋)
である.
表情筋 の運動は顔 貌を変化させて 喜怒哀楽な
どの表 情をあらわすほか,
眼・鼻 孔・口 の開 閉にあずかる.
片側性 の顔面神経麻痺では,片
側の表情筋 が麻 痺し ,
筋 の張力 が失 われて弛 緩するため,
顔 が健 側にひっぱられる.
注)
前頭筋: 前頭筋の 作用は眉をあげ,帽状腱膜を前方に 引くことにあり,その 収縮により額に横 皺
ができる.
なお 一側の 中枢性顔面神経麻痺 では ,
頬と下顎 の表情筋に麻痺をきたすが,額
にしわを寄せることはできる.
これは 表情筋 のうち前頭筋など 眼瞼裂よりも上部にある筋だけ
が両側 の大脳皮質からの支 配をうけており,一側の 中枢性麻痺 がおこっても他側からの 神
経支配 が残っているためである.
注)
眼輪筋: 眼輪筋は 眼窩を円状に取りまく括約筋 であり,
瞬目
( 目を閉じること )
に 作用 する.
眼輪
筋の拮抗筋は動眼神経 の支配をうける上眼瞼挙筋であり,おもにこのふたつの筋 で眼瞼 の
開閉がおこなわれる.
注)
上唇鼻翼拳筋,上唇拳筋 ,
小頬骨筋: 口裂周囲の 筋のうち 上唇鼻翼拳筋 ,
上唇拳筋,小頬骨
筋は ,
鼻 唇 溝を形 成する作 用 がある.
注)
笑筋: 笑 筋は 口角を外方に引き,
えくぼをつくる作 用 がある.
注)
口輪筋: 口輪筋中心部の 筋束は口を軽く閉じ ,
周辺部の 筋束は強く閉じたり,
口唇を前 方へ 突
きだすときにはたらく.
注)
頬筋: 頬 筋は頬を圧 縮して 上顎と下 顎の歯 の間に食べ 物をいれ ,
咀嚼に重 要な役 割をしてい
る.
またラッパを吹くときなどに頬をふくらませて空気を圧 縮し ,
口 から空 気を押し 出すときに
はたらく筋 でもある.
注)
アブミ骨 筋: アブミ骨は3つの 耳小骨のひとつで,
もっとも内耳に近 い位 置にあり,
アブミ骨 頭は
キヌタ骨と関節 する.
耳小骨は中耳 の鼓 室にあり,
鼓 膜に 伝わった空 気の 振動を骨 の振 動
に変 換し て内 耳につたえる役 割をもつ.
アブミ骨筋はアブミ骨 頭に 付着し,
アブミ骨底 の 前
端を外に引 いてアブミ骨の 動きを制限 する.
したがってアブミ骨 筋の 収縮は,
耳小骨をつた
わる音 波を小さくする機能 がある.
このため 顔面神経麻痺によりアブミ骨筋 が麻 痺すると 音
が大きく聞こえる
(聴覚過敏)
ようになる.
127
3.末梢神経系
□ 眼筋の支配神経
内耳神経
(第VIII脳神経)
《構成》
*
*
第VIII脳神経である内耳神経 は,
前庭感覚
(平衡感覚)→と聴覚→
をつかさどる純感覚神経である.
《走行》
内耳神経は,
内耳からの平衡感覚をつたえる前庭神経と,
聴覚をつた
える蝸牛神経が,
内耳道において合流したものである.内耳神経は側
頭骨の内耳道をとおり延髄に入る.
《機能》
内耳神経の機能は以下のとおりである.
1. 前庭神経
*
き ゅ うけ いの う ら ん
前庭感覚
(平衡感覚)
の受容器は,
内耳 →の前庭器官
( 球 形 嚢,
卵
け いの う
*
はんき かん
*
形嚢 ,
半規管 )
→にある有毛細胞である.
これら有毛細胞におこった
128
3.末梢神経系
インパルスをつたえる求心性神経線維群を前庭神経という.前庭神経
は内耳で前庭神経節をつくり,
延髄の前庭神経核→に至る.
2. 蝸牛神経
か ぎゅう
*
聴覚の受容器は,
内耳の蝸 牛 →にあるコルチ器
(ラセン器)
であり,
感覚受容器はコルチ器内の有毛細胞である.
これら有毛細胞におこっ
か ぎゅう
たインパルスをつたえる求心性神経線維群を蝸 牛 神経という.蝸牛
神経は内耳でラセン神経節(蝸牛神経節)
をつくり,
延髄の蝸牛神経核
→に至る.
《備考》
前庭神経核で内耳神経
(前庭神経)からの情報をうけたニューロンの
軸索は,
おもに小脳→におくられ身体の姿勢・運動の制御
(身体の平衡
や姿勢の保持)
に重要な役割をなす.
いっぽう蝸牛神経核で内耳神経
ち ゅ うの うが い
(蝸牛神経)
からの情報をうけたニューロンの軸索は,
おもに 中 脳 蓋 に
か きゅう
な いそ くし つじ ょ うた い
ある下 丘 →や視床の内 側 膝 状 体→を経て,
大脳皮質の側頭葉にあ
る聴覚野におくられる.
注)
内耳神経: 内耳神経が損 傷されると,蝸牛神経障害として耳鳴り,聴覚の 低下を,前庭神経障
害としてめまいや平衡感覚の 障害 がおこる .
注)
前庭感覚
( 平衡感覚 )
: 平衡感覚は,身体 が重力に対してかたむき ,
または運 動している感 覚
をいう.
このうち,頭部の静的な位置や 頭部の運動 の変化によって内耳 の前庭器 が興奮し て
生じる感 覚を,
とくに 前庭感覚という.平衡感覚には,前庭感覚 のほかにも固有受容感覚や
触圧覚,視覚などが関 与する.
注)
内耳: 平衡聴覚器である耳は側頭骨にあいた 洞であり,外耳 ,
中耳 ,
内 耳からなる.
このうち 内
耳はもっとも奥にあり,
ここに 聴覚と平衡感覚(前庭感覚 )
の 感覚受容器がある.内耳は聴 覚
器である蝸牛と,平衡感覚器である前庭器官とからなる.
注)
球形嚢 ,
卵形嚢: 前庭器官である球形嚢,
卵形嚢は ,
内耳 の前庭にある袋状の 構造物 である.
これらの内部をみたすリンパが直線加速度によって流 れると,
感覚受容器である有毛細胞
にインパルスが 生じ平衡感覚を生じる.
注)
半規管: 前庭器官である半規管はC字状の ループをなす三本 の管状構造物 である.
これらの
内部をみたすリンパが 角加速度(回転運動)
によって流れると,
感覚受容器 である有毛細胞
にインパルスが 生じ平衡感覚を生じる.
注)
蝸牛: 蝸牛はカタツムリ状に2回と3/4回転まいた 管状構造をなし ,
その 断面は前庭階,中央階,
鼓室階にわけられる.中央階は 蝸牛管を形成し,
ここはリンパでみたされている.
外 耳には
いる音の 振動は 前庭窓膜から内耳につたえられ,
蝸牛管のリンパを振動させる.
これにより,
蝸牛管 の底面にあるコルチ器
(ラセン器)
にならぶ有毛細胞 が興奮し,そのインパルスを蝸
牛神経につたえる.
129
3.末梢神経系
□ 内耳神経
舌咽神経
(第IX脳神経)
ぜ つい ん
《構成》
第IX脳神経である舌 咽 神 経は咽頭上部の骨格筋を支配する体性運
動神経と,
唾液腺(耳下腺)
の分泌をつかさどる副交感神経と,
咽頭粘
膜などの感覚および舌後方1/3の味覚などをつたえる感 覚 神 経をふく
む混合神経である.
《走行》
舌咽神経は延髄よりおこり,
迷走,副神経とともに後 頭 骨と側 頭 骨がつ
くる頸静脈孔より頭蓋外にでて,内頸動脈とともに下行し神経線維を各
器官におくる.
《機能》
舌咽神経には以下のような神経線維がふくまれる.
1. 体性運動神経
咽頭に分布する枝には茎突咽頭筋や上部咽頭筋などの骨格筋を支
配する体性運動神経がふくまれる.
2. 副交感神経
副交感神経線維は耳神経節でニューロンをかえ耳下腺の分泌をつ
かさどる.
130
3.末梢神経系
3. 味覚をつたえる感覚神経
み らい
み さ いぼ う
味覚をつたえる求心性神経は,
舌後1/3に分布する味蕾の味 細 胞→
こ そ くか く
におこり,
下神経節で細胞体をつくり,
延髄の孤 束 核 →にいたる.
味覚
こ そ くか く
をつたえる求心性情報は孤 束 核から,
視床を経て大脳皮質頭頂葉の
中心後回の基部にある味覚野→にいたる.
4. その他の感覚神経
舌咽神経はその他に以下のような神経線維をふくむ .
*
*
*
・ 舌後方1/3と咽頭粘膜 の体性感覚 をつかさどる体性感覚神経 .
・ 耳介,
外耳道の皮膚の体性感覚をつかさどる体性感覚神経.
*
*
・ 頸動脈洞にある圧受容器 からの内臓求心性神経 .
注)
舌後方1/3と咽頭粘膜: 舌咽神経は舌後部 ,
軟口蓋,口蓋扁桃,上咽頭後壁 ,
鼓 室,
耳 管,鼓膜
*
の内 面の 粘膜面などにおける体性感覚をつかさどる.
注)
舌後方1/3と咽頭粘膜 の体性感覚: 舌咽神経は 咽頭 の体性感覚をつかさどるため,舌咽神経
痛となると ,
咽 頭を中心とした激痛発作とともに,耳,上顎 ,
頸 部などへの放散痛 や嚥下痛を
呈する.
疼痛発作は ,
嚥下 や舌 の運動によって誘発されやすい .
疼痛 の性質は三叉神経痛
と類似 するが ,
その 発作領域がことなる.
これは 女性にくらべて男 性に多く,
30∼40歳代に 好
発する.
注)
咽頭粘膜の 体性感覚をつかさどる体性感覚神経: 咽頭粘膜へ の触圧刺激によって嘔 吐が お
こることを咽頭反射という.
咽頭粘膜 からの体性感覚神経線維は ,
この反 射の求心路となっ
ている.
注)
頸動脈洞にある圧受容器: 圧受容器とは,
感覚受容器のうち血管壁 でその 伸張度を感 受する
ものをいう.
血管壁の 伸張度は,
血 圧によって変 化するため,圧受容器は血 圧の変 化を感 受
する受容器としてはたらく.
注)
圧受容器 からの 内臓求心性神経: 頸動脈洞にある圧受容器 からの 内臓求心性神経は頸動脈
洞反射の 求心路となる.頸動脈洞反射は,頸動脈洞にある圧受容器を受容器とする反射
(圧
受容器反射)のひとつであり,血圧 の変動による循環調節に 重要な 役割をなす.
すなわち頸
動脈洞における血圧の 上昇により,頸動脈洞の圧受容器にインパルスがおこる.
これは舌 咽
神経を求心路として延 髄に 伝えられる.
反射中枢 である延 髄
(循環中枢)
は,
迷走神経など
を介して 心拍数の 減 少,血管平滑筋の弛 緩などにはたらき,結果的に 血 圧を低下させる.
いっぽう血圧低下によっても逆のメカニズムがはたらいて,
血 圧の 調節をおこなっている.
迷走神経
(第X脳神経)
め いそ う
《構成》
第X脳神経である迷走神経は,
喉頭と咽頭の骨格筋を支配する体性運
動神経と,
胸腹部内臓器を支配する副交感神経とその内臓求心性神
経,
耳介後方などの体性感覚や喉頭蓋の味覚をつたえる感覚神経を
ふくむ混合神経である.
131
3.末梢神経系
《走行》
迷走神経は以下のように走行する.
・ 延髄よりおこり,
舌咽,副神経とともに後頭骨と側頭骨がつくる頸静
脈孔をとおって頭蓋外にでる.
・ 頸部では内 頸 動 脈,
総 頸 動 脈とともに下行し,咽頭,
喉頭,声帯筋
などに分布する枝をだした後,
胸郭上口から胸郭に入る.
・ 胸郭上口において,
右の迷走神経は鎖骨下動脈の前を,
左の迷走
神経は大動脈弓 の前をとおる.
・ 胸腔内では縦隔内で食道の 外壁に沿って下行し,気管・気管支・
心臓・食道などに分布する枝をだした後,
横 隔 膜の食道裂孔をと
おって腹腔内に入る.
・ 腹腔内では肝臓,
胃,小腸,膵臓,
上行結腸 ,横行結腸などに分布
する枝をだす.
《機能》
I.
*
迷走神経 には以下のような神経線維 がふくまれる.
体性運動神経
迷走神経にふくまれる体性運動神経は,
迷走神経が頸部から胸部
*
へ向かう途中でその 本幹からわかれる.
この枝を反回神経という.反
回神経は,
左側では大動脈弓,
右側では鎖骨下動脈をめぐり,
ふたた
*
*
び頸部を上行して喉頭に達する.
反 回 神 経は声 帯 筋(内喉頭筋 )
な
ど喉頭の骨格筋運動を支配して,
声帯の運 動つかさどる.
II.
体性感覚神経
耳介後方と外耳道後壁の皮膚における体性感覚をつかさどる.
III. 副交感神経
迷走神経にふくまれる神経線維の多くをしめ,
喉頭以下の胸腔内臓
器および腹腔内臓器に分布する.
ただし消化管のうち,
横行結腸中央
*
部より肛門側と,
骨盤腔にある諸臓器には,
仙髄からでる骨盤内臓神
経にふくまれる副交感神経線維→が分布している.
また副交感神経の
支配をうける器官には交感神経線維も分布して,
これらが拮抗的に作
用をおよぼしている
(自律神経の二重支配,
拮抗支配 →).
132
3.末梢神経系
迷走神経にふくまれる副交感神経が興奮したときに 各臓器におこる
応答は以下のとおりである.
1. 呼吸器
・ 気管支平滑筋は収縮し,
気道は狭くなる.
(いっぽう交感神経活動
により弛緩し,
気道は 広くなる)
・ 気管支腺からの粘液分泌は亢進する.
(いっぽう交感神経活動によ
り粘液分泌は 減少する)
2. 心臓
・ 心拍数,
心収縮力は減少し,
刺激伝導速度は低下する.
(いっぽう
交感神経活動により心拍数は増加し,
心収縮力も増大し,
刺激伝導
速度が高まる)
3. 消化器
・ 胃腸管の平 滑 筋は収縮し,
消化管運動(蠕動運動)
は亢進する.
(いっぽう交感神経活動により弛緩し,
消化管運動は低下する)
・ 肝臓におけるグリコーゲン合成が促進される.
(いっぽう交感神経
活動によりグリコーゲン分解が促進される)
・ 胆嚢・胆管は収縮し,
胆汁分泌を促進する.
(いっぽう交 感 神 経 活
動により弛緩する)
・ 膵臓からの膵液分泌
(外分泌)
は促進される.
(いっぽう交感神経活
動により分泌が抑制される)
・ 膵臓からのインスリン 分泌(内分泌)
は促進され,
血糖値は低下す
る.
(いっぽう交感神経活動により分泌が抑制される)
IV.
内臓求心性神経
迷走神経には,
喉頭以下の胸腔内臓器および腹腔内臓器からの内
臓 求 心 性 線 維がふくまれる.
内臓求心性線維は,
これらの器官でおこ
る求心性情報を中枢につたえ,
これにもとづいて内臓の自律性調節が
おこなわれるほか,
その一部は大脳皮質に送られさまざまな内臓感覚
133
3.末梢神経系
→を引きおこす.
V.
味覚をつたえる感覚神経
み らい
味覚をつたえる求心性神経は,
舌根および喉 頭 蓋に分布する味 蕾
み さ いぼ う
こ そ くか く
の味 細 胞 →におこり,
延髄の孤 束 核→にいたる.味覚をつたえる求心
こ そ くか く
性情報は孤 束 核から,視床を経て大脳皮質頭頂葉の中心後回の基部
にある味覚野→にいたる.
□ 迷走神経
134
3.末梢神経系
注)
迷走神経: 迷走神経 の一側性の単麻痺はまれで,通常他 の下位脳神経障害をともなう.
また 迷
走神経は解剖学的にも機能的にも舌咽神経と不可分な関 係にあり,
これらの麻 痺において
その臨床症状を明確に区 別することはできない.
なお 一側 の迷走神経(反回神経)が麻 痺
するとその側の声帯麻痺をきたし ,
嗄声を生じ,
また両側性完全麻痺は 胸腹部 の内臓機能
障害をきたす.
注)
反回神経: 反回神経は 長い距 離を複雑に 走行 するため,
損 傷をうけやすく麻 痺を生じやすい .
反回神経麻痺は特発性のものが多い が,
頸 部・胸部の 悪性腫瘍や ,
外科的損傷などによっ
てもおこる.症状としては ,
声門閉鎖不全による嗄声と誤 嚥などである.
な お反回神経麻痺
は左側 のほうが 右側よりもおこる頻度 が高 い.その 理由は,左反回神経が1.右よりも走行距
離が 長いこと ,
2.縦隔内を走るため悪性腫瘍やその 転移におかされる頻 度が 高いこと ,
3.
大動脈弓を反 回するため大動脈瘤に 圧迫されること,
などである.
注)
声帯筋: 声帯筋は 声帯内にあって,声門閉鎖にはたらく内甲状披裂筋 のことをさす.
これは 甲
状軟骨内面からおこり,
披裂軟骨声帯突起につく.
注)
内喉頭筋: 喉頭筋は,
外喉頭筋群と内喉頭筋群からなる.外喉頭筋は喉 頭の周 囲にあって,喉
頭全体 の位置 や喉頭内の形 態に関 与する骨格筋群をいう.
外喉頭筋には,胸骨舌骨筋,甲
状舌骨筋 ,
胸骨甲状筋 のほか,顎舌骨筋 ,
顎二腹筋,
オトガイ舌骨筋,肩甲舌骨筋,中咽頭
収縮筋 ,
下咽頭収縮筋,口蓋咽頭筋 ,
茎状咽頭筋 ,
茎突舌骨筋をふくむ .
いっぽう内喉頭筋
は喉頭固有の 筋で ,
喉 頭の 開閉 ,
声 帯の 緊張を調 節する骨格筋群をいう.
内喉頭筋には ,
輪状甲状筋 ,
甲状披裂筋,外側輪状披裂筋 ,
披裂筋 ,
後輪状披裂筋 があり,
輪状甲状筋 が
上喉頭神経外枝 の支配 である以 外はすべて 反回神経支配である.
注)
横行結腸中央: 横行結腸中央より肛門までの消化管に分 布する副交感神経節前ニューロン の
起始核は第2∼4仙髄にある.
横行結腸 の中 央は神経支配ばかりではなく,
血管支配の 境界
ともなっている
(上腸間膜動脈と下腸間膜動脈 ).
副神経
(第XI脳神経)
《構成》
第XI脳神経である副神経は僧帽筋と胸鎖乳突筋を支配する体性運
動神経からなる純運動性神経である.
《走行》
*
副神経は延髄よりおこり,
舌咽,
迷走神経とともに後頭骨と側頭骨がつ
くる頸 静 脈 孔より頭蓋外にでて,胸鎖乳突筋の深部より後 頸 三 角の上
部にでて 筋膜の中を走り,
鎖骨のすぐ上で僧帽筋の深部にもぐり込む.
《機能》
副神経は,
僧帽筋と胸 鎖 乳 突 筋の運動を支配する.
注)
副神経: 副神経麻痺では ,
僧帽筋と胸鎖乳突筋に 麻痺をみる.僧帽筋の麻 痺により,
上 肢を水
平以上に側方挙上ができなくなり,
また 胸鎖乳突筋の 麻痺により,頭部を患側に 倒し,健側を
向くことが障害される.
しかし 一側性の 単麻痺はきわめてまれで,
多くは隣 接する下位脳神
経とともに 障 害される.
注)
副神経は 延髄よりおこり
: 副神経には 延髄根と脊髄根がある.
延髄根 の起始核は延 髄の 疑 核
にあり,
脊髄根は第1∼5頸髄の 前角にある.
脊髄根は ,
頸神経の 前根と後根 の間から出 て,
両者 の間を上 行し ,
大後頭孔より頭蓋内に入る.
ここで延髄根と脊髄根 が合して 副神経が
形成されている.
注)
後頸三角: 後頸三角とは ,
頸 部 の胸鎖乳突筋と僧帽筋を斜 辺とし 鎖骨を底 辺とする三角形に
囲まれた 領域をいう.
そ の 頂点は耳 の4cmほどうしろで,底は 鎖骨 の中1/3にあたる.
135
3.末梢神経系
舌下神経
(第XII脳神経)
《構成》
第XII脳神経である舌下神経は舌筋群を支配する体性運動神経から
なる純運動性神経である.
《走行》
舌下神経は延髄よりおこり,
後頭骨がつくる舌下神経管より頭蓋外にで
て,舌筋群に分布する.
《機能》
*
*
舌下神経 は,
舌筋(縦舌筋,
横舌筋 ,
垂直舌筋,
茎突舌筋,
小角舌筋,
舌骨舌筋,
オトガイ舌筋)の運動を支配する.
□ 口腔に分布する脳神経
注)
舌下神経: 一側性の 舌下神経麻痺 が生 ずると,同側 の舌 が麻 痺,萎縮し,口外 へ舌を出させ
ると患側 へ曲 がる.
自覚症状は 乏しく,舌性構音障害をきたすこともない.
両側性 の障 害 で
は,
タ行 ,
ダ 行が 発音困難となる.
な お一側性 の 単麻痺はまれである.
注)
舌筋: 舌筋には 内舌筋と外舌筋とがある.
内舌筋は舌内におこり,舌内におわる筋 群であり,舌
の形を変えるはたらきをする.
これには 縦舌筋 ,
横舌筋,垂直舌筋がある.いっぽう外舌筋は
舌の外 部におこり,
舌におわる筋 群であり,舌の 位置を変えるはたらきをする.
これには茎 突
舌筋 ,小角舌筋,舌骨舌筋,
オトガイ舌 筋がある.
136
3.末梢神経系
□ 脳神経
137
3.末梢神経系
脊髄神経
脊髄神経の構成と特徴
脊髄から出入りする神経線維の構成
前根と後根
末梢神経線維は,
脊髄前角と後角からそれぞれ前根および後根とし
てでる.前根と後根は,
脊柱管内で各髄節ごとに 左右一本ずつの束と
なり脊髄神経を構成する.脊髄神経は椎間孔をとおって脊柱管 からで
る.
ベルマジャンディーの法則
脊髄前角は遠心性ニューロンの細胞体 があつまる 部位であり,
後角
は求心性ニューロンの細胞体があつまる部位である.
このため脊髄前
根にはおもに遠心性ニューロンの神経線維がとおり,
後根にはおもに求
心性ニューロンの神経線維がとおる.
これをベルマジャンディー の法則
*
という.
□ ベルマジャンディー の法則
注)
ベルマジャンディー の法 則(Bell‐Magendie law )
: 近年 ,前根に 求心性線維が ,
また 後 根に
も遠心性線維 がふくまれているという例外 が 報 告されている .
Sir Charles Bell
( 1774‐
1842)
はイギリスの 生理学者であり,
Francois Magendie(1783‐1855)
はフランスの 生理学
者である.
138
3.末梢神経系
脊髄神経節
脊髄後根はおもに求心性ニューロンの神経線維がとおる部位である
が,
脊髄に入るすべての求心性ニューロンの細胞体は,
脊髄後根にあ
る.
この部位は形態的に膨隆しており,
脊髄神経節または後根神経節
とよばれる.
神経根
脊髄前根,後根およびこれらが合わさる脊髄神経の起始部を神経根
*
という.
この部位は脊柱管と椎間孔にかこまれているため,
骨および 軟
部組織の異常により障害をうけやすい.
脊柱管からでた脊髄神経は,
前枝と後枝に分かれて 末梢組織に分
布する.
注)
神経根: 神経根 が圧 迫をうけることによってあらわれる一 連の 症状を根症状という.根症状は ,
脊柱を構成 する骨や 軟部組織により圧 迫されて 神経根部に炎 症がおこることに 起因 する.
その原因疾患としては 椎間板ヘルニア ,
変形性脊椎症などがある.
これによる症状は単 神
経障害によるものとことなり,分布 が髄節性である点 が特徴 である.
後 根の障 害は感覚性 の
神経根症状
( 放散痛 やしびれ)
を呈し,
これはせき・くしゃみ・怒 責などによって神経根 が 伸
展されると 増悪することが多い.
また 前根 の障害により,その支配域 の筋 の運動障害 ,
筋萎
縮がみられる.
□ 神経根
139
3.末梢神経系
脊髄神経の構成
脊髄の各髄節に出入りする神経根は,左右の椎間孔と後仙骨孔と同
じ31対62本の線維束にまとまって脊髄神経となる.
なお脊髄神経はす
*
べて混合神経 →である.
脊髄神経は出入りする椎骨の高位により,以下のようにわけることが
できる→.
・ 頸神経 --------- 頸椎のつくる椎間孔からでるもの.
第1∼8頸神
経の8対からなる.
なお頸神経の対数は,頸椎の数よりもひとつ多
い.すなわち頭蓋と第1頸椎との 間からでるものを第1頸 神 経とい
い,
第8頸神経は第7頸椎と第1胸椎の間からでる.
・ 胸神経 --------- 胸椎のつくる 椎間孔 からでるもの.第1∼12胸
神経の12対からなる.
各胸神経の番号は,
椎間孔の上方にある胸
椎の番号に一致する.
・ 腰神経 --------- 腰椎のつくる椎間孔からでるもの.
第1∼5腰神
経の5対からなる.
各腰神経の番号は,
椎間孔の上方にある腰椎の
番号に一致する.
・ 仙骨神経 ------- 仙椎にある後仙骨孔からでるもの .第1∼5仙
骨神経の5対からなる.
・ 尾骨神経 ------- 尾骨
(第1尾椎と第2尾椎の間)からでるもの .
1
対の尾骨神経からなる.
注)
混合神経: 脊髄前根は 運動性で,後根は感覚性であるが ,
これらが 合流し た脊髄神経は混 合
神経である.
なお 脊髄神経 の前枝と後 枝は ,
ふくまれる神経線維 の種 類に 違いはなく,
単に
分布領域 が異なるだけである.
したがって 前枝と後 枝は ,
ともに 混合神経 である.
140
3.末梢神経系
□ 脊髄神経
前枝と後枝
ぜんし
こうし
脊髄神経は,
脊柱管をでてすぐのところで前枝および 後枝に分かれ
る.
なお前枝と後枝は分布域の違いによって 分枝しているものであり,
両方とも混合神経である.
また前枝は後枝にくらべ,
はるかに広い領域
*
に神経線維をおくるため,
前枝は後枝よりも太い .
・ 前枝 --------- 胸神経以外は上下の髄節からでる脊髄神経とと
141
3.末梢神経系
もに神経叢をつくる.神経叢からでる神経線維束は頸部,
体幹の腹
側部,
外側部 および 四肢を支配する.
神経叢 からでた神経線維束
には末梢神経として固有の名称がつけられている.
*
・ 後枝
------- 神経叢をつくらず単独で走行し,
頸部および 体幹
の背面において固有背筋などを支配するとともに,
その部位の体性
*
感覚をつかさどる.
後枝は一部のもの をのぞき,固有の名称をもた
ない.
注)
前枝は 一般に 後枝よりも太い: 後 枝には 脊椎より後 方の領 域に 分布する神経線維しかふくまれ
ないが ,
前 枝には脊柱より前方 のはるかに 広い 領域に分布 する神経線維がふくまれている
からである.
注)
後枝: 脊髄神経 の後枝は内側枝と外側枝にわかれ,両枝ともに 固有背筋に筋 枝をだす.
さらに
皮下にでて内側皮神経と外側皮神経になり,脊柱傍側 の皮膚感覚を支配 する.
注)
一部のもの: 脊髄神経後枝のうち,固有 の名 称をもつものとしては,
後頭下神経(第1頸神経後
枝),
大後頭神経(第2頸神経後枝),
第3後頭神経
( 第3頸神経後枝),
上殿皮神経(第1∼3
腰神経後枝)
,中殿皮神経
( 第1∼3仙骨神経後枝 )
のみである.
な お小後頭神経,
大耳介神
経,下殿皮神経は 脊髄神経前枝 である.
□ 前根後根から神経叢まで
142
3.末梢神経系
脊髄神経叢から末梢まで
脊髄神経叢の構成
胸神経
(肋間神経)
以外の脊髄神経前枝は,
脊柱の両側で神経叢を
形成する.神経叢とは多数の神経線維が網目状にいきかう部位であ
り,脊柱両側にある神経叢では上下数分節 からの脊髄神経の神経線
ふ んご う
維が 吻 合し,
これが再編成されて各末梢神経として末梢組織に分布
*
していく .
脊髄神経が形成する神経叢には以下のようなものがある.
・ 頸神経叢 ------- 第1∼4頸神経の前枝が吻合したもの→.
・ 腕神経叢 ------- 第5∼8頸神経および第1胸神経の前枝が吻合
したもの →.
・ 腰神経叢 ------- 第12胸神経と第1∼4腰神経の前枝が吻合し
たもの→.
・ 仙骨神経叢 -------- 第4∼5腰神経と第1∼4仙骨神経の前枝が
吻合したもの →.
注)
再編成されて各末梢神経として末梢組織に分布していく: たとえば末梢 の感覚と運動は,
複数
の髄節 が少しずつオーバーラップして支 配している.
これは 一個の 脊髄分節が 障害された
とき,
失 われる機 能を少なくすることに役 立っている.
末梢神経の走行
神経叢からでた各末梢神経は太い神経線維束(神経幹)
をつくる.
末梢神経は走行途中 で多くの分枝をだして細くなりながら,
各組織に
分布していく.
なお末梢神経の本幹から分枝するもののうち,
とくに骨格
筋に分布するものを筋枝といい,
皮膚に分布するものを皮枝という.
こ
のうち皮枝は,感覚神経線維からなり,体性運動神経線維をふくまな
い.
143
3.末梢神経系
□ 腰仙骨神経叢
脊髄神経の分節性
デルマトーム
皮膚の感覚(表在性痛覚,
触圧覚,
温度感覚など)
を支配する末梢
神経は,
脊髄分節のならびに従って規則的に分布している.
これを皮
*
膚 分 節(皮節)
またはデルマトームという.
皮膚のうち顔面部は脳神経である三叉神経に支配されているが,
こ
*
れ以外のほとんどの部位は脊髄神経に支配される .
すなわち後頭部 ,
頸部,
体幹,四肢には各脊髄神経 が帯状に分布する.
その分布域は,
人体を四足動物の姿勢にしてみると,脊髄神経の高さに順次したがっ
144
3.末梢神経系
*
てならんでいる .
しかし 四肢の部分では若干の変化が生じ,
たとえば
*
第5∼8頸神経は体幹に分布せず,上肢に分布する .
なおデルマトーム
には大きな個人差がある.
注)
皮膚分節
( 皮節 )
または デルマトーム(dermatome)
: 発生期の 真皮は体節 の一 部をなす皮膚分
節
( 皮板 )
に 由来 する.
この分節状 の構 成は ,
成長後にも残るためにデルマトームが 生じる.
注)
脊髄神経に 支配される: 末梢神経障害のうち ,
脊 髄からでる神経根 から神経叢にはいる手 前
までの障 害では ,
その 症状はデルマトームにしたがってあらわれる.
腰椎椎間板ヘルニア の
高位診断にデルマトームがもちいられるのはこのことによる.
これに対し,神経叢からでる末
梢神経 の障害(たとえば顔面神経麻痺,
正中神経麻痺 ,
腓骨神経麻痺などの 単神経障害 )
の場合,
そ の神経の 支配領域に限局性の 運動麻痺と知覚障害をおこし ,
症状の 分布域は デ
ルマトームにしたがわない.
注)
脊髄神経 の高さに 順次したがってならんでいる: 脊髄神経が 神経叢を構 成しない 頸神経で
は,
デルマトームの境界線が 比較的明確 であるが ,
神経叢からでる神経束が分 布するその
他の 部分における境界線は 不明瞭 であり,各髄節による支 配がオーバーラップしている領
域が広い .
注)
第5∼8頸神経は体幹に分 布せず ,
上 肢に分 布する: 第5∼8頸神経は体幹に分 布しないため,
第4頸神経の デルマトームと,
第1胸神経の 分 節とが鎖骨下部 で直 接 接する.
□ デルマトーム
145
3.末梢神経系
ミオトーム
骨格筋の感覚(固有感覚,深部痛覚など)
と運動を支配する末梢神
経も,各脊髄分節からほぼ規則的な配列をもって分布している.
これを
筋分節またはミオトームという.
ただしミオトームの分布は皮膚ほど明確
でない.
□ 脊髄分節と神経叢
146
3.末梢神経系
脊髄神経の走行と分布
頸神経の後枝
大後頭神経
《構成》
大後頭神経は第2頸神経の後枝である.
《走行》
大後頭神経は上項線上で外後頭隆起 の約2.5cm側方を上方にむかっ
て走行する.
《機能》
*
大後頭神経 は後頭部の 皮 膚 感 覚を支配する.
注)
大後頭神経: 大後頭神経および小後頭神経 の支配領域に生 ずる発作性の疼 痛を後頭神経痛
という.
これは,
後頭部を中 心に項 部や 側頭部にも鋭い 痛みを主訴とする.
頸神経叢
頸神経叢
《構成》
頸神経叢は,
第1∼4頸神経の前枝が吻合したものである.
《走行》
頸神経叢は頸椎横突起の外側から,
後頸三角(外側頸三角)
の中斜
*
角筋と肩甲挙筋の起始部の前にかけて 存在する.
その神経束のうち,
皮枝は胸鎖乳突筋の後縁にそって 皮下にでて ,
小後頭神経,
大耳介
神経,
頸横神経,
鎖骨上神経となる.いっぽう筋枝は,吻合して頸神経
ワナを形成する.
また頸神経叢の下部からは横 隔 神 経がでる.
注)
後頸三角: 側頸部において ,
胸鎖乳突筋後縁と僧帽筋前縁 ,
鎖骨上縁 でかこまれる部 位をい
う.外側頸三角ともよばれる.
147
3.末梢神経系
□ 頸神経叢
頸神経叢から出る皮枝
《機能》
頸 神 経 叢からでる皮枝が支配するものは以下のとおりである.
・ 小後頭神経 ----- 耳介後方の側頭部 から側頸部にかけての皮
膚感覚を支配する.
・ 大耳介神経 ----- 耳介およびその下方の側頸部の皮膚感覚を
支配する.
・ 頸横神経 ------- 前頸部の皮膚感覚を支配する.
・ 鎖骨上神経 ----- 肩上部の皮膚感覚を支配する.
頸神経ワナ
《機能》
148
頸神経ワナは一部で舌下神経と吻合し,舌骨下筋群
(甲状舌骨筋,胸
3.末梢神経系
骨舌骨筋,胸骨甲状筋,
肩甲舌骨筋)
を支配する筋枝をだす.
横隔神経
*
《構成》
横 隔 神 経は,
第3∼5頸神経 からの神経線維をふくむ .
《走行》
横 隔 神 経は内頸静脈の後方で,
前斜角筋の前面を下行し,鎖骨下動
じ ゅ うか く
静脈の間をとおり,
胸郭上口から胸腔にいたり,縦 隔をとおり横隔膜に
いたる.
《機能》
横 隔 神 経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 横 隔 膜を支配する.
・ 皮枝 ------ 心外膜,
縦隔胸膜などの感覚を支配する.
注)
第3∼5頸神経: 安静時呼吸は横隔膜と外肋間筋によっておこなわれ,その 役割 の70%横隔膜
がになっている.
このうち外肋間神経は胸 髄からでる肋間神経の支 配をうけるため,下位 の
頸髄損傷では外肋間筋による呼吸運動ができなくなり,換気能力 の低下をきたす.
また第2
頸髄以上の 脊髄損傷では,横隔膜 の麻 痺もきたすため,
自発呼吸 ができなくなる.
腕神経叢
腕神経叢
《構成》
*
腕神経叢 は,
おもに第5∼8頸神経および第1胸神経の前枝が吻合し
たものである.
このうち 第5∼6頸神経は上神経幹を,第7頸神経は中神
経幹を,第8頸神経および 第1胸神経は下神経幹を形成する.
さらにそ
の枝が吻合して外側,
内側,
後神経束をつくる.
《走行》
腕神経叢の神経束は後頸三角(外側頸三角)の前・中斜角筋 の間を
*
きんぴ
と うこ つ
ぬけ,
鎖骨下動脈とともに胸郭出口 をとおり,
筋皮神経,
橈 骨 神 経,
尺
えき か
骨神経,
正中神経,腋窩神経などに分枝して,
肩甲部と上肢に分布す
る.
149
3.末梢神経系
□ 腕神経叢
□ 胸郭出口と腕神経叢
注)
腕神経叢: 腕神経叢が損 傷または圧 迫されると,腕神経叢麻痺があらわれる.
そ の原因として
は,
オートバイ事 故などの 外傷 ,
分娩時 の損 傷 ,
神経鞘腫や パンコースト 腫瘍などの腫 瘍 性
疾患 がある.
注)
胸郭出口: 胸郭出口は,前斜角筋部(前斜角筋・中斜角筋および第1肋骨で 形成される斜角筋
ろく さ かんげき
三角部 )
,肋 鎖 間 隙(第1肋骨と鎖骨の 間),
小胸筋などで構 成される.
この部 位を通 過する
腕神経叢からの 神経線維束と鎖骨下動静脈 が,
胸郭出口の 構成要素によって 圧迫・牽 引
をうけると胸郭出口症候群をきたす.胸郭出口症候群は10∼30歳代で ,
やせているなで 肩
150
3.末梢神経系
体型の 女性に多 い.
また美容師・教 員・レジ係・コンピューター使用者など,上肢に負 担が か
かる職業についている 者に 好発 する.
筋皮神経
きん ぴ
《構成》
筋皮神経は,
腕神経叢の外側神経束からおこり,第5∼6頸神経からの
神経線維をふくむ .
《走行》
筋皮神経は,
腋窩から烏口腕筋をつらぬき上腕前面にでて,
上腕二頭
*
筋と上 腕 筋との間をとおり,
筋枝をだした後 ,
外側前腕皮神経
(皮枝)
となり前腕外側部に分布する.
《機能》
筋皮神経が支配するものは以下のとおりである.
う こ うわ んき ん
・ 筋枝 ------ 烏 口 腕 筋,
上腕二頭筋,
上腕筋を支配する.
・ 皮枝 ------ 前 腕 外 側の皮膚感覚を支配する.
注)
筋枝をだした後: この部 位は ,
肘関節 の2∼3cm上方 で上腕二頭筋 の外 側である.
正中神経
《構成》
正中神経は,腕神経叢の内側神経束と外側神経束からおこり,第5∼
8頸神経と第1胸神経からの神経線維をふくむ .
《走行》
*
正中神経 は,以下のように 走行する.
・ 上腕部 ------- 腋窩から肘窩までは,
上腕前内側
(上腕二頭筋の
内側)
をほぼ上腕動脈にそって 下行する.
・ 肘関節 ------- 肘窩において 上腕動脈の内側をとおる.
*
・ 前腕 --------- 肘関節のやや下方で円回内筋の深部 をとおり,
*
前骨間神経 を分枝し,その本幹は掌側中央を下行する.
*
・ 手 ----------- 手関節から手根管 をとおり,
枝分かれをくりかえし
ながら手掌にいたる.
《機能》
正中神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 前腕では円回内筋,
長掌筋,
橈側手根屈筋,
示指か
ら小指の浅指屈筋,
示指と中指の深指屈筋,
長母指屈筋,
方形回
151
3.末梢神経系
*
内筋を支配する.
また手部では母指球筋(短母指外転筋・母指対
立筋・短母指屈筋)
と第1∼2虫様筋を支配する.
・ 皮枝 ------ 母指から薬指橈側半までの手掌側の皮膚感覚を支
配する.
□ 正中神経
注)
正中神経: 正中神経は ,
骨 折などの 外傷 ,
絞扼性神経障害および 神経炎により麻痺を生じる.
このうち正中神経 の絞扼性神経障害は,肘関節近傍 で上腕二頭筋腱膜 の背 側,
円回内筋
の二頭間(回内筋症候群,
前骨間神経麻痺),
浅指屈筋アーチの深 層
(手根管症候群)
で生
じることがある.正中神経 の障 害は ,
鋭 敏な 知覚と高 度の 巧緻性が 要求される手にとって,
致命的なダメージをあたえる.
注)
円回内筋の 深部: 円回内筋の 上腕頭
( 大きい)
は 上腕骨内側上顆に 起始し ,
尺骨頭(小さい )
は尺 骨の 鉤状突起に起 始し ,
両 頭とも橈 骨の 中央1/3の外側面と後 面に 停 止する.正中神
経は,肘関節 のやや 下方において 円回内筋と交 叉する部位で 絞扼をうけやすい.
この部 位
での絞扼性神経障害を回内筋症候群という.
これは前 腕の 回内・回 外をくりかえす動 作
(ネ
152
3.末梢神経系
ジ締 め,投球 ,
ゴルフなど)が誘 因となって発症 することが多 い .
前骨間神経: 前骨間神経は ,
皮膚感覚をつたえる求心性神経線維をふくまず,
遠心性神経線
注)
維は,示指と中 指の 深指屈筋 ,
長母指屈筋および 方形回内筋を支 配する.
このためこの 部
位でおこる絞扼性神経障害 ,
すなわち前骨間神経麻痺では ,
拇指指節間関節(IP関節)
,示
指遠位指節間関節(DIP関節 )
の 屈曲不能 ,
および 中指遠位指節間関節
(DIP関節)の屈 曲
力低下 がみられる.
このため,母指対立運動は可能 であるが ,
つまみ動 作がうまくおこなえ
なくなる.
これにより涙のしずくサイン
(拇 指と示指 の先端をつけて,
まるを作らせると,拇指指
節間関節と示指遠位指節間関節が 過伸展となり,
そ の形 が涙 のしずくのかたちを呈 するも
の)
を呈 する.
なおこの場 合には ,
知覚障害はみられない.
手根管: 手根管とは 手関節より少し 遠位 の手根部 で,底面と両側面は 手根骨で ,
上 面は 横 走
注)
手根靱帯 でおおわれている管 腔で,
そ の中を浅指屈筋,
深指屈筋,長母指屈筋,橈側手根
屈筋などの9本の指屈筋腱と正中神経 が走っている.手根管 が何らかの原因 で狭小化また
は内圧上昇をおこすと 手根管症候群を呈する.手根管症候群は ,
中年女性に 多く,
一側性
の場合は利き手 側に 多い が,両側に発 症することも 多い .
また手関節を反 復し て動 かす 職
業,たとえばマッサージ,研磨 ,
床 磨きなどの従事者におこりやすい.
母指球筋: 正中神経は 母指球筋などを支 配するため,麻痺 がおこると母 指と示指 の屈 曲と母
注)
指対立運動が 不能になる.母指球筋 の萎 縮により母指球 が扁 平となり猿手となる.
尺骨神経
《構成》
尺骨神経は,腕神経叢 の内側神経束からおこり,第7∼8頸神経と第1
胸神経からの神経線維をふくむ .
《走行》
*
尺骨神経 は,以下のように 走行する.
・ 上腕部 ------- 腋窩から上腕内側をとおり,
上腕中部でやや後側
にむかう.
・ 肘関節 ------- 上腕骨内側上顆と肘頭との間にある尺骨神経溝
ちゅう ぶ かん
*
( 肘 部 管)
をとおる.
・ 前腕 ------ 前腕尺側を尺骨動・静脈にそって下行する.
・ 手 -------- 手根部から尺骨動脈とともに屈筋支帯 がつくる尺骨
*
管(ギヨン管)をとおり手掌に達する.
また一部の神経線維は,手背
に分布する.
《機能》
尺骨神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 前腕では尺側手根屈筋,
中指から小指の深指屈筋を
*
支配する.
また手では小指球筋(小指外転筋,短小指屈筋 ,
小指
*
*
対立筋),
骨間筋 ,
第3∼4虫様筋,
母指内転筋 を支配する.
・ 皮枝 ------ 手掌と手背の尺側と,
小指全体と薬指尺側半の皮膚
153
3.末梢神経系
感覚を支配する.
□ 尺骨神経
注)
尺骨神経: 尺骨神経の 障害 の原因 の多くは絞扼性神経障害である.
これには肘部管症候群 ,
ギオン 管
(尺骨神経管)
症候群があるが ,
このほかに,
そ の走行途上で の外傷により尺骨神
経麻痺をきたすことがある.
注)
尺骨神経溝(肘部管): 肘部管は,
上腕骨内側上顆と尺骨神経溝を底とし,尺側手根屈筋両頭
をむすぶ筋膜性のアーケイド である.
この部 分での尺骨神経の 絞扼性神経障害を肘部管症
候群という.
肘部管症候群の 原因となるのは,
外反肘 ,
骨棘形成,筋膜による絞 扼などであ
るが ,
最 近では,変形性肘関節症による骨 棘に 起因 するものが多 い .
注)
尺骨管
( ギヨン管 )
: 尺骨管( ギヨン管 )
は,
手掌側 では 掌側手根靱帯に ,
尺 側では豆状骨・尺
側手根屈筋腱様線維に ,
手背側 では 屈筋腱膜・豆鉤靱帯に,橈側 では 有鉤骨鉤に囲まれ
る部位をいう.
そ の内 部を尺骨神経と尺骨動脈がとおる.
ここで尺骨神経 が圧 迫をうけて生
じる絞扼性神経障害をギヨン管症候群という.その 原因としては ,
豆状骨・有鉤骨 の骨 折 ,
ガングリオン,反復性の 外傷 ,
筋 の破 格などがある.
注)
小指球筋: 尺骨神経麻痺では,
これらの筋 が麻痺 することにより,
把持動作など手 の巧緻運動
が障 害され,鷲手(鷲状指変形 )
を呈する.
また 小指球の 萎縮をきたす.
154
3.末梢神経系
注)
骨間筋: 尺骨神経麻痺では 骨間筋萎縮をきたし,手 背の 骨間溝が 明瞭となる.
注)
母指内転筋: 尺骨神経麻痺では ,
母指内転筋麻痺のため,拇指を屈曲させずに 示指との間 で
紙片をはさむことができず ,
拇指末節を屈 曲させてはさもうとする.
これをフロマン 徴候とい
う.
橈骨神経
《構成》
橈骨神経は腕神経叢の後神経束からおこり,
第5∼8頸神経と第1胸神
経からの神経線維をふくむ.
上肢の末梢神経のうち最大のものである.
《走行》
橈骨神経は,以下のように 走行する.
・ 上腕部 ------- 腋窩から上腕内側にでて,上腕骨後側の橈骨神
経溝を骨に接して走行し,
中下1/3付近で後外側から前方へらせ
*
ん状にまわりこむ .
なお上腕部では,皮枝として後上腕皮神経,下
外側上腕皮神経,後前腕皮神経 が分枝する.
・ 肘関節 ------- 外側上顆の上方で前方にでて 肘窩外側に達す
る.
*
・ 前腕 ------ 肘窩の橈側で浅枝と深枝(後骨間神経)に分かれ
る.
浅枝はおもに 感覚神経線維からなり,
腕橈骨筋の深部を橈骨動
脈にそって下行し,手背に達する.
いっぽう深枝
(後骨間神経)
は運
動神経線維 からなり,前腕後側の深部を下行する.
・ 手 -------- 手背に達した浅枝は手背に分布する.
《機能》
橈骨神経が支配するものは以下のとおりである.
*
・ 筋枝 ------ 上腕と前腕のすべての伸筋群(上 腕 三 頭 筋,
肘筋,
腕橈骨筋,
長・短橈側手根伸筋,
尺側手根伸筋,
回外筋,
長母指外
転筋,
総 指 伸 筋,
長・短 母 指 伸 筋,
小指伸筋,
示指伸筋)
を支配す
る.
・ 皮枝 ------ 上腕下部の外側,
前腕の背側,
母指から中指の背側
をふくむ 手背の皮膚感覚を支配する.
155
3.末梢神経系
□ 橈骨神経
注)
後外側 から前方 へらせん状にまわりこむ: 橈骨神経は,
この 部位で 外傷 や圧 迫による麻 痺
(橈
骨神経麻痺 )
をきたしやすい.
そ の原因としては,上腕骨骨幹部骨折,
上腕骨顆上骨折,上
腕部への 注射や,上腕外側を圧迫したまま熟睡したり,
酒酔 い,
意識不明のあとなどがある.
注)
深枝
( 後骨間神経): 橈骨神経 の深 枝である後骨間神経は ,
橈骨頭 の前 方で 回外筋に 入りこ
む部 分で 圧迫をうけると回外筋症候群
( 後骨間神経麻痺)
をきたす.
そ の原 因としては,回
内外運動 の反復 ,
ガングリオンなどの腫 瘤である.
またこれは 絞扼性神経障害としてでなく,
肘関節 の脱臼骨折などの 外傷 ,
神経炎によって 生じることもある.
注)
前腕のすべての 伸筋群: 橈骨神経麻痺では,前腕伸筋群 の麻 痺により,
手関節背屈,母指伸
展,その 他 の指 の中手指節関節(MP関節 )
伸 展が 不能となる.
これを下垂手という.
腋窩神経
《構成》
156
腋窩神経は,腕神経叢の後神経束からおこり,
第4∼6頸神経からの神
3.末梢神経系
経線維をふくむ .
げ か けい
《走行》
腋窩神経は,
腋窩から上腕骨外科頸を取りかこむように 後方にむかう.
その皮枝は外側上腕皮神経として上腕上部の外側の皮膚に分布す
る.
《機能》
腋 窩 神 経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 小円筋,
三角筋を支配する.
・ 皮枝 ------ 上腕の上部外側の皮膚感覚を支配する.
腕神経叢からでるその他の末梢神経
《構成》
腕神経叢には,
上記の末梢神経以外にも以下のような神経がふくまれ
る.
・ 肩甲背神経
(第5頸神経) ------------- 菱 形 筋,肩甲挙筋を
支配する.
・ 肩 甲 上 神 経(第4∼6頸神経) ---------- 棘 上 筋 ,
棘 下 筋を支
配する.
・ 肩 甲 下 神 経(第5∼7頸神経) ---------- 肩 甲 下 筋,大 円 筋を
支配する.
・ 長胸神経(第5∼7頸神経) ------------ 前 鋸 筋を支配する.
・ 胸背神経(第5∼7頸神経) ------------ 広 背 筋を支配する.
・ 鎖骨下筋神経(第5頸神経) ----------- 鎖 骨 下 筋を支 配 す
る.
・ 内側・外 側 胸 筋 神 経(第5∼8頸神経)---- 大 胸 筋 ,
小 胸 筋を支
配する.
・ 内側上腕皮神経 -------------------- 上腕内側の皮膚感覚
を支配する.
・ 内側前腕皮神経 -------------------- 前腕尺側の皮膚感覚
を支配する.
157
3.末梢神経系
□ 頸神経の支配領域
158
3.末梢神経系
肋間神経
肋間神経
《構成》
肋間神経は第1∼12胸髄神経の前枝であり,
神経叢を形成せずにその
まま末梢に分布する.第1∼12肋間神経の12対からなる.
《走行》
肋間神経は内肋間筋と外肋間筋の間を,
肋間動静脈とともに肋骨の下
*
を走行する.
《機能》
肋間神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 第1∼12肋間神経は内・外 肋 間 筋,
最 内 肋 間 筋を支
配する.
また第1∼6肋間神経は上下後鋸筋を支配し,
第7∼12肋間
神経は内外腹斜筋,腹直筋 ,腹横筋を支配する.
*
・ 皮枝 ------ 胸部・腹部の皮膚感覚を支配する .
たとえば乳頭部
の皮膚は第4肋間神経に支配され,
臍部の皮膚は第10肋間神経に
支配される.
□ 肋間神経
注)
肋骨 の下: 各肋間で 上から静 脈,動脈 ,
神 経の 順にならんで走行 する.
注)
胸部・腹 部の 皮膚感覚を支 配する: 胸 部・腹部 の皮 膚で ,
肋間神経の 走向にそって 生ずる疼
痛発作を肋間神経痛とよぶ.
これは 他の神経痛と同様,単なる症状名にすぎず,
疾患名では
ない.
そ の基礎疾患としては,椎間板ヘルニア ,
変形性脊椎症 ,
脊椎分離症,脊椎すべり症 ,
圧迫骨折,脊椎腫瘍 ,
脊 椎カリエス,
肋骨骨折,肋骨腫瘍 ,
肋骨カリエス,
脊髄腫瘍,脊髄ク
モ膜下出血,
帯状疱疹などがある.
これによる疼 痛は激しく,せき,怒責,
くしゃみなどにより増
悪または 誘発される.通 常は 一側性におこる.
159
3.末梢神経系
□ 胸神経の支配領域
腰神経叢
腰神経叢
《構成》
腰神経叢は,
第12胸髄神経根と第1∼4腰髄神経根の前枝が吻合した
ものである.
なお腰神経叢は,
腰仙骨神経幹により仙骨神経叢と交通
する.
《走行》
腰神経叢の神経束は,腰方形筋や大腰筋 の間をとおり,
腸骨下腹神
そ けい
経,
腸骨鼠径神経,
陰部大腿神経,
外側大腿皮神経,
大腿神経,
閉鎖
神経などに分枝して,腰下肢に分布する.
□ 腰神経叢
160
3.末梢神経系
腸骨下腹神経
《構成》
腸骨下腹神経は腰神経叢からおこり,
第12胸髄∼第1腰髄神経根から
の神経線維をふくむ .
《機能》
腸骨下腹神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 側腹筋(内・外腹斜筋,
腹横筋)
を支配する.
・ 皮枝 ------ 骨盤部の外側面および下腹部 の皮膚感覚を支配す
る.
腸骨鼠径神経
そ けい
《構成》
腸骨鼠径神経は腰神経叢からおこり,
第1腰髄神経根からの神経線維
をふくむ .
《機能》
腸骨鼠径神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 側腹筋(内腹斜筋,
腹横筋)
を支配する.
・ 皮枝 ------ 外陰部の皮膚感覚を支配する.
陰部大腿神経
《構成》
陰部大腿神経は腰神経叢 からおこり,
第1∼2腰髄神経根 からの神経
線維をふくむ .
《機能》
陰部大腿神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 精巣挙筋を支配する.
・ 皮枝 ------ 大腿上部内側,外陰部 の皮膚感覚を支配する.
外側大腿皮神経
《構成》
外側大腿皮神経は腰神経叢 からおこり,
第2∼3腰髄神経根 からの神
経線維をふくむ .
《走行》
外側大腿皮神経は,
上 前 腸 骨 棘の内側,
腸腰筋の外側で,
鼠径靱帯
161
3.末梢神経系
の下をくぐり,
大腿外側面に分布する.
《機能》
外側大腿皮神経が支配するものは以下のとおりである.
なおこれは体
性運動神経線維をふくまない.
・ 皮枝 ------ 大腿外側面の皮膚感覚を支配する.
大腿神経
《構成》
大腿神経は腰神経叢からおこり,
第2∼4腰 髄 神 経 根からの神経線維
をふくむ.
これは 腰神経叢の中でもっとも大きい神経である.
《走行》
*
大腿神経は,
腸腰筋の前で鼠径靱帯の下をとおり,
筋裂孔 からでて大
*
腿三角 を大腿動脈にそって 下行する.
その皮枝は前皮枝と伏在神経
に分かれる.そのうち前皮枝は大腿前面に分布する.
いっぽう伏在神
経は大腿動脈とともに下行し,膝関節内側にある内転筋管(ハンター
*
管)から皮下にでて ,下腿と足背の内側面に分布する.
《機能》
大 腿 神 経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 腸腰筋,
大腿四頭筋,
縫工筋,
恥骨筋を支配する.
・ 皮枝 ------ 前皮枝は大腿前内側面の皮膚感覚を,
伏在神経は
下腿前内側と足背内側面の皮膚感覚を支配する.
注)
筋裂孔: 筋裂孔は,鼠径靱帯と腸骨と恥骨 の間の 間隙 の外側部にあり,
ここを腸腰筋と大腿神
経がとおる.
このすぐ内 側にある血管裂孔には,大腿動静脈とリンパ管がとおる.
注)
大腿三角: 大腿三角は ,
縫工筋,長内転筋,鼡径靱帯にかこまれた大腿上部の 三角形 の部 位
である.
注)
内転筋管(ハンター 管): 内転筋管
( ハンター管 )
は ,大腿下部 で 内側部から後 部にあり,大 腿
動・静 脈と伏在神経がとおる.
これは内側広筋の 下部と大内転筋の 内側上顆に 停止 する部
の内側縁との間 のくぼみが,
上 から縫工筋によりおおわれて管 状をなしている.
162
3.末梢神経系
□ 大腿神経
閉鎖神経
《構成》
閉鎖神経は腰神経叢 からおこり,
第2∼4腰髄神経根 からの神経線維
163
3.末梢神経系
をふくむ .
《走行》
*
閉鎖神経は閉鎖動脈とともに閉鎖管(閉鎖孔)をとおって,
大腿前内側
にでる.
《機能》
閉鎖神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 大腿内転筋群(薄筋,
長・短内転筋,
大内転筋,
外閉
鎖筋)
を支配する.
・ 皮枝 ------ 大腿内側の下2/3の皮膚感覚を支配する.
注)
□ 閉鎖神経
164
閉鎖管
( 閉鎖孔)
: 閉鎖管( 閉鎖孔)
は骨 盤 の恥 骨と坐骨 がつくる孔 である.
3.末梢神経系
□ 腰神経叢の支配領域
仙骨神経叢
仙骨神経叢
《構成》
仙骨神経叢は,
第4∼5腰髄神経根と第1∼4仙髄神経根の前枝が吻合
したものである.
なお仙骨神経叢は,
腰仙骨神経幹により腰神経叢と交
通する.
《走行》
仙骨神経叢は梨状筋の前面に位置し,
上殿神経,
下 殿 神 経,
後大腿
皮神経,
陰部神経,
坐骨神経などに分枝して,骨盤部および下肢に分
布する.
上殿神経
《構成》
上殿神経は仙骨神経叢からおこり,第4腰髄∼第1仙髄神経根 からの
神経線維をふくむ .
《走行》
*
り じ ょ うき ん
上殿神経は上殿動脈とともに大坐骨孔 をとおって,
梨 状 筋の上
(梨状
*
筋上孔 )
から骨盤腔をでる.
《機能》
上 殿 神 経が支配するものは以下のとおりである.
165
3.末梢神経系
・ 筋枝 ------ 中・小殿筋,
大腿筋膜張筋を支配する.
注)
大坐骨孔: 仙 骨と寛骨にかこまれた仙坐切痕は,
仙結節靭帯により閉じた 孔を形成 する.
これ
は仙棘靭帯より上 方の 大坐骨孔と下 方の 小坐骨孔に分けられる.
注)
梨状筋上孔: 大坐骨孔は梨状筋により,
梨状筋上孔と下孔に二 分される.梨状筋上孔には 上
殿神経,上殿動静脈がとおり,
梨状筋下孔には下殿神経,
下殿動静脈 ,坐骨神経 ,
陰部神
経,内陰部動静脈がとおる.
□ 仙骨神経叢
下殿神経
《構成》
下殿神経は仙骨神経叢からおこり,第5腰髄∼第2仙髄神経根 からの
神経線維をふくむ .
り じ ょ うき ん
《走行》
下殿神経は下殿動脈とともに大坐骨孔をとおって,
梨 状 筋の下
(梨状
筋 下 孔)
から骨盤腔をでる.
《機能》
166
下 殿 神 経が支配するものは以下のとおりである.
3.末梢神経系
・ 筋枝 ------ 大 殿 筋を支配する.
後大腿皮神経
《構成》
後大腿皮神経は仙骨神経叢 からおこり,
第1∼2仙髄神経根 からの神
経線維をふくむ .
《走行》
後大腿皮神経は下殿動脈とともに大坐骨孔をとおって,梨状筋の下
(梨状筋下孔)
から骨盤腔をでる.
《機能》
後大腿皮神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 皮枝 ------ 大腿後面の皮膚感覚を支配する.
陰部神経
《構成》
陰部神経は仙骨神経叢からおこり,第2∼4仙髄神経根 からの神経線
維をふくむ .
《走行》
陰部神経は大坐骨孔から梨 状 筋 下 孔をとおって骨盤外にでて ,
坐骨
*
棘をまわって小坐骨孔 から会陰部にいたる.
《機能》
陰部神経が支配するものは以下のとおりである.
・ 筋枝 ------ 外肛門括約筋,
尿道括約筋,
肛門挙筋などを支配す
る.
・ 皮枝 ------ 会陰,外陰部の皮膚感覚を支配する.
注)
小坐骨孔: 小坐骨孔は,仙骨と寛骨にかこまれた仙坐切痕のうち,仙結節靭帯の 上方で ,
仙棘
靭帯より下方 の部 位をいう.
ここは陰部神経,内陰部動静脈がとおる.
坐骨神経
《構成》
*
坐骨神経 は仙骨神経叢 からおこり,
第4腰髄∼第3仙髄神経根からの
神経線維をふくむ.
坐骨神経は人体でもっとも大きな末梢神経である.
また坐骨神経は,
膝窩のやや上方で脛骨神経と総腓骨神経の終枝に
わかれる.
167
3.末梢神経系
《走行》
坐骨神経は以下のように走行する.
1. 臀部から膝窩までの坐骨神経の走行
*
・ 坐骨神経は梨状筋下孔 から骨盤腔をでて,
大殿筋の深部で坐骨
結節と大転子との間を下行する.
・ ついで大腿後面をほぼ垂直に下行し,
大腿屈筋群に枝をだしたの
ち,
膝窩の上部で脛骨神経と総腓骨神経とに分かれる.
2. 膝窩からの脛骨神経の走行
・ 脛骨神経は坐骨神経に直接つづくもので,
膝窩では膝窩動静脈の
外側にそって 下行し,
下腿後側ではヒラメ筋の深部を後脛骨動脈
にそって 下行する.
・ さらに内果のうしろで内側足底神経と外側足底神経とに分かれて
足底にいたる.
3. 膝窩からの総腓骨神経の走行
・ 総 腓 骨 神 経は,細く外側にあり,膝窩では大腿二頭筋 の内側縁に
そって下行し,
腓骨頭のすぐ 下で腓骨の外側を前下方にまわり,
浅
腓骨神経と深腓骨神経に分かれる.
《機能》
*
*
坐骨神経,
すなわち脛骨神経 と総腓骨神経 が支配するものは以下の
とおりである.
1. 脛骨神経
・ 筋枝 ------ 大腿部では大腿二頭筋長頭,
半腱様筋,
半膜様筋を
支配し,
下腿では下腿三頭筋
(ヒラメ筋,
腓腹筋)
,
足底筋,
膝窩筋,
後脛骨筋,
長趾屈筋,
長母趾屈筋を支配する.
・ 皮枝 ------ 下腿後面,
足底の皮膚感覚を支配する.
2. 総腓骨神経
・ 筋枝 ------ 大腿二頭筋短頭を支配する.
・ 皮枝 ------ 下腿外側の皮膚感覚を支配する.
168
3.末梢神経系
3. 浅腓骨神経*
・ 筋枝 ------ 長・短 腓 骨 筋を支配する.
・ 皮枝 ------ 足背の皮膚感覚を支配する.
4. 深腓骨神経*
・ 筋枝 ------ 前脛骨筋,
長・短母趾伸筋,
長・短趾伸筋,
第三腓骨
筋を支配する.
・ 皮枝 ------ 足背の皮膚感覚を支配する.
くるぶし
注)
坐骨神経: 坐骨神経支配領域 ,
すなわち腰背部から殿部・大腿後面・膝窩・ 踝 から足先に か
けてあらわれる痛みを坐骨神経痛という.坐骨神経痛を呈するものは ,
そ の大部分 が腰 椎
椎間板ヘルニアや 腰椎変形性脊椎症 ,
脊柱管狭窄症,脊椎分離症,
脊椎 すべり症など腰 椎
の疾 患である.
注)
梨状筋下孔: 坐骨神経 がとおる部位は,大転子と坐骨結節の 間の 殿部後下面中央に 位置 す
る.
注)
脛骨神経: 脛骨神経麻痺となると,足関節および足 趾の 底屈 が不能となる.
このためつま先 立
ちができなくなる.
麻 痺が 進行 すると足関節 の背屈位拘縮を呈し,鷲爪趾
( 鉤爪趾)や踵 足
(鉤足 )
が出 現する.
脛骨神経単独の麻 痺は,足根管症候群によるものがもっとも多く,
これ 以
外では 膝窩より遠位 での 外傷・骨 折・脱臼などによっておこる .
しかし 脛骨神経は下 腿の 深
部を走 行するため,その 麻痺 の頻 度は腓骨神経麻痺にくらべ少ない .
注)
総腓骨神経: 総腓骨神経麻痺となると,足関節および 足趾 の 背屈力が 低下または消 失する.
麻痺 が高 度となると下垂足(尖 足)
となり,
アヒル歩 行
( 鶏歩 )
を呈する.総腓骨神経麻痺は ,
骨折後 のギプス固定 や安静時の 不良肢位の 持続などによるこの 部位 での圧 迫でおこるこ
とが 多く,
下 肢の 神経麻痺 のなかではもっとも 頻度 が高 い .
注)
浅腓骨神経: 浅腓骨神経は,
下 腿の 外側コンパートメントを下 行したあと ,
筋 膜を貫 通し て皮 下
に出る.
浅腓骨神経麻痺は,腓骨骨折や下腿挫傷による急性区画症候群にともない発生 す
ることが多 い .
注)
深腓骨神経: 深腓骨神経は ,
下腿前方コンパートメントを下 行したあと,
足関節 の伸筋支帯の
深層をとおり第1中足骨基部の高さで皮 下に 出る.深腓骨神経麻痺は,下腿区画症候群,腓
骨神経鞘腫にともない発 生するほか,足根骨の 背側において ハイヒールなどの 靴による反
復性の 圧迫によっておこることもある.
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3.末梢神経系
□ 坐骨神経
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3.末梢神経系
□ 仙骨神経叢の支配領域
171
3.末梢神経系
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