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07/06/2004 『メディアと芸術』
07/06/2004 『メディアと芸術』 著者:三井秀樹 紹介者:山田祐嗣 ■ 書誌情報 三井秀樹『メディアと芸術──デジタル化社会はアートをどう捉えるか』 ,集英社,2002. (集英社新書 0152) ■ 紹介の前に 「メディア」と「芸術」というキーワードに深く関わりのある我々にとって、まさにピンポイントであ るこの本Û。メディアと芸術の歴史的な流れからはじまり、メディアを利用した芸術作品の紹介だけでな く、技術と芸術、さらには我々の美意識や感性、教育といった本質的な話題まで触れられている。 今回は、この本で書かれている各章のトピックについて簡単に紹介したい。 ■ 目次 ・ ・ ・ ・ ・ 序 Û 芸術とメディアの新しい波 第一章 Û IT 革命は産業革命を超えた 第二章 Û デジタル・メディア・アート 第三章 Û 二十一世紀のメディアと芸術文化の行方 第四章 Û デジタル・メディアと感性 第一章は、メディアとは何か?という疑問から始まり、活字やポスター、印刷術の登場による文化の変 容や、複製による芸術作品の一回性の問題が取り上げられている。また、メディア論で有名なマクルーハ ンの話題と絡めてかかれているので一例を紹介する。 ■ メディア メディア ̶ 社会生活の中で、人間が情報を得て、これを活用しながら豊かな生活を送るための、コ ミュニケーション(情報伝達)の核となる機構や伝達システムを言う。 ̶マーシャル・マクルーハンを例に̶ マクルーハンは、映像メディアをはじめとするテレビやラジオ、つまり「電気メディア」が、 これまでの活字文化を凌駕し、やがて情報文化の中心になると予言Û ▼ だが、見事にはずれたÛ。 テレビジョン映像 ̶ 大衆は、あくまで情報の受け手として受動的で非行動的な立場にあるので、主体 的な参加はなく、一過性の映像に対して心理的な代償を求め、共感することで情 緒的欲求を満たしている。 活字メディア ̶ 「読む」という主体的な行動を起こさない限り、活字の情報は脳にインプット されない。また、一過性でないので繰り返しや自由な環境で読むことができる。 第二章は、写真術や映像メディアの登場から始まり、コンピュータや VR、また我々になじみの深いイ ンタラクティブ・アートまでのテクノロジーと芸術の関わりについて書かれており、これまで登場したさ まざまテクノロジー・アートが紹介されている。ここでは、それらのいくつかを紹介する。 ■ テクノロジー・アート 1920 年にテクノロジーそれ自体が表現の対象となる最初のテクノロジー・アートが出現した。テク ノロジーといっても電気モータを使った動く彫刻作品であったが、これ以降、さまざまなテクノロジー・ アートと呼ばれる技術応用の芸術表現が登場した。 ・ キネティック・アート キネティックとは動く、あるいは運動によって起きるという意味で、 動く芸術表現を指す。 例:ナウム・ガボ「立てる波」 マルセル・デュシャン「回転ガラス 板」 アレキサンダー・カルダー「モビール」 現代のコンピュータ・コントロールのインタラクティブ・アートもキ ネティック・アートに含む。 カルダー「モビール」 ・ ライト・アート 文字通り光る芸術で、主として人工光を利用した芸術表現。80 年代以降はセンサーを付加して、 観客に光や動きで反応するインタラクティブなライト・キネティック・アートに進化していく。 ・ ビデオ・アート ポータブルなカメラやデッキを用いて、個人レベルで撮影・編集、ま た電子制御による種々のイフェクトを付加して表現したものを指す。写 真・映画と異なり、フィルムの焼きつけによるタイム・ラグがないこと などから、独自の表現性を獲得した。 例:ナム・ジュン・パイク「ニーシェ イン T」 ナム・ジュン・パイク「ニーシェ イン T」 ・ コンピュータ・アート コンピュータの持つ図形処理の機能を芸術表現に用いた領域を指す。 現在では、バーチャル・リアリティやアーティフィシャル・リアリテ ィの概念や、実写映像との合成・融合などが技術開発され、映像生成 の技術革新が続いている。 フラクタル・アート ・ オプチカル・アート 錯視という人間の視覚生理を逆用した表現を利用した芸術。 例:ヴィクトル・ヴァザルリ「カペーラⅡ」 「Delocta」 ヴィクトル・ヴァザルリ「Delocta」 ・ レーザーとホログラフィック・アート ・ プラズマ・アート このようにテクノロジー・アートは半導体チップの価格低下や、アーティスト自身が使いやすくなった ことからもハイテク化に拍車がかかった。 ■ インタラクティブ・アート 伝統的な絵画においても、インタラクティブな心的交流が、美学では感情移入が行われている。これに 対して現代のインタラクティブ・アートは、物理的に反応し、視覚的に変化することによって自身の五感 に 訴えてくる生理的刺激を楽しむものである。 この価値観は美学的な視点と同一のレベルで評価するのは無理である。 しかし、双方向性の明快さは、見るものにとって、視覚だけでなく聴覚や触覚への刺激を通してこの上 ない快感が得られる。現代のテクノロジー・アート、特にインタラクティブ・アートは。五感全体で体感 する左脳・右脳全てを動員した全能的な芸術表現であると述べている。 第三章は、現代のデジタル・メディアの将来の変容やアーカイブの問題点、またマルチ・メディアと教 育について著者の考えが書かれている。ここでは、デジタル・アーカイブについて紹介したい。 ■ デジタル・アーカイブ デジタル・アーカイブとは、古文書や記録、古文者の保管所という意味の英語のアーカイブスとデジタ ルを組み合わせた造語であり、一般に文化財や芸術作品をデジタル画像にして保存することを指す。 メリット ̶ 一旦デジタル化して保存すると、たとえオリジナルの現物が朽ちたり焼失しても、往 時の状態をいつまでも劣化させることなく再現できるだけでなく、データを活用する ことによって、より効果的に資料を活かすことができる。 デメリット ̶ 複製が簡単なので、資料や作品の著作権という知的所有権の保護に対して、法的な対 処法を充分確立しなければならない。また、本物だけが持つ特有の色合いやテクスチ ャ、アトモスフィア、古い画布に描かれた色の褪色ぐあいやヒビ割れ、特有の匂いな どはデジタル映像では表現できないという価値観の問題がある。 第四章では、人間の持つ感性や美意識、また現代のデジタル・メディアの落とし穴について書かれてい る。比較的、現代の低俗なメディア社会を批判し、人々の完成や美意識の低下を訴えており、特にバイハ ンド等によって得られるアナログ的感性の必要性を主張している。 ■ アナログ的感性 人間の創造力を育む感性が芸術的な発想を生むのであり、この感性は人間の手技の訓練によってのみ培 われる、精神と身体の同化作用なのである。人間の弛まぬ手の訓練によって涵養されたアナログ的感性の 土台の上に、デジタル感性を育むべきだと最後に主張した。