...

トヨタ方式における情報システム高度化 - 持続可能なモノづくり・人づくり

by user

on
Category: Documents
39

views

Report

Comments

Transcript

トヨタ方式における情報システム高度化 - 持続可能なモノづくり・人づくり
トヨタ方式における情報システム高度化
Approach to Advanced Information Systems based on Toyota System
黒岩 惠
Satoshi KUROIWA
名古屋工業大学、九州工業大学(客員教授)
([email protected])
Visiting Professor, Nagoya & Kyusyu Institute of Technology
要旨:
本論はトヨタの情報システムの歴史と現状について、トヨタ生産方式(TPS)の視点でまとめている。ト
ヨタの情報システム化は、
「ジャストインタイム」と「自働化(自律化)
」で知られるトヨタ生産方式(TPS)
がトヨタの行動規範となっている点に特徴がある。TPS は「現地現物」、
「見える化」、
「全員参加の人間力」
を重視し、トップダウンの情報システムとは対極にある。生産現場の TPS がトヨタの経営理念として発展す
る過程で、トヨタ方式として情報システム化との融合が計られてきた。90 年代までの特定の業務プロセス改
善活動から開発された情報システムは特定業務での生産性向上への貢献は大きい。しかし、グローバル展開
に向けて、現場のノウハウが組込まれた個別システムを統合化し、全体最適なシステム構築が期待される。
Abstract:
This paper is described the short history and current status of Toyota’s informat ion system. At Toyota it is difficu lt to
discuss the informat ion system independently fro m the Toyota Production System (TPS). TPS consists of Just-In-Time
and Jidouka (Autonomy), wh ich is people centered information processing system. Toyota system has been evolved by
synergy of TPS with IT system. But in this g lobalization, it wou ld be expected the advanced information system based
on Toyota System with pursuing optimization of the whole business process.
1. はじめに
IT化と言えば、40年以上前からIBMなど大型電算機に関わっていた人達にとっては大型機による
情報システムを連想される。筆者にとってIT化は70年代初のDECのPDP11(ミニコン)で溶接機群
制御、東芝TLCSマイコンでコンプレッサ群制御、インテル80系のロボット開発などに始まる。数
百台の分散マイコンとミニコンで新工場建設に伴うプラントオートメーション、大型機をホストと
し、分散型マイコンで制御するエンジンやミッションのLAなど大規模制御情報システム。バッチ
処理中心の大型機の情報システム屋とは異なる。80年代初からの自動車業界の生産環境の変化に対
応し、トヨタ生産方式(以下TPS)をITで支援するために、車両工場の生産指示システム開発から
FA/CIMを推進。その後、生産・物流分野におけるTPSとIT化の融合に注力してきた。
トヨタの強みは人の改善力、人間性尊重を基本にしたTPSが、トヨタの経営哲学、DNAとして長
年受け継がれてきたこと。生産分野だけでなく、車の開発、生産準備、販売やマーケティング分野、
さらにグローバル規模でTPSの思想や実践が広がってきたためであろう。ビジネス活動は「人間・
機械系(IT化含む)」
で成立つ。
機械系は工場では、ロボット、自動機械、オフィスではCAD/CAM/CAE、
ERP/SCM/CRMなどのITシステムである。ここでは、トヨタのIT化の歴史と現状、特に TPSがIT化推進
に大きな影響を与えてきたが、トヨタ方式における情報システム高度化を中心に記す。
2. トヨタ生産方式とトヨタウェイ
TPS は、そのゴールとして「あるべき姿を目指し、改善し続ける人間集団を創ること」とする人
的能力を向上する活動である。あるべき姿とは徹底的にムダを省き「お客様の引き(PULL)に応
じた流れの構築」に帰着する。車の生産は、素材から部品、ユニット(エンジンなど)から車両組
立、完成車をお客様に届ける、という長くて深い多段工程で成立っている。それぞれの加工・組立・
物流プロセスの流れの中で新たな価値を付加することでビジネス活動が行われる。TPS では、人や
機械が、お客様視点で価値を付けてない作業を「ムダ」とみなし7つのムダに分類。生産現場では、
作業者の全作業時間の中で付加価値をつけた時間の割合は通常 20%以下。仕事の「見える化」の困
難なオフィス業務では生産現場以上にムダは多い。生産現場での伝統的 TPS では「モノの流れ」
に着目するが、オフィス業務では、情報の流れ、書類の流れ、設計データの流れに置き換えられる。
TPS は、業種業態を超えたビジネスに共通する改善・改革手法として展開され、今や国内だけでな
く、リーン方式の名で世界中に知られている。トヨタ方式(トヨタウェイ)と TPS の全体像を図
1、図2にまとめる。人を最大の資源とする TPS を基本に、2001 年に「トヨタウェイ 2001」が提
唱され、グローバル事業体で情報共有が図られてきた。「トヨタウェイ 2001」は二本の柱と五つの
キーワードでなる。二本の柱は「Kaizen(知恵と改善)」
、「Respect for People(人間性尊重)
」であ
り、前者は Challenge、Kaizen、Genchi-Genbutu(現地現物)
、後者は Respect、Teamwork、という
TPS の強調する5つのキーワードで説明されている。IT などの技術より人間系を強調している点
に特徴があり、トヨタウェイとして暗黙知を形式知化してオープン化する意欲が感ぜられる。
TPSのゴ ール
顧客満足CS 、顧客感動CD
あるべき姿を目指し「改善し続ける」人間集団を 創り上げること
・ 改善(Kaizen)無ければ革新(Innovation)なし
QCD ( Quality, Cos t, Deli very) の追求
TPSのあるべき姿とは
Just-In-Time
必要な物を
必要な量を
必要な時に
・工程の流れ化
・タクトタイム
・後工程引取り
・小ロット 化
お客様の引き( Pull)に応じた、 モノ(工程)の流れの構築
・ 売れるスピードでモノを造り、 運ぶ
お客様第一、お客様の注文によ る情報と仕事の流れの構築は
全ての企業活動、ビジネスプロセス(設計、生産、販売)の共通課題
<トヨ タのDNA>
1.お客様第一主義
・後工程はお客様
2.現地現物
3.技術・生産の現場と本社が隣接
4.人材育成に注力
5.変革のエネルギー
6.危機意識の強さ
<TPS視点の業務改善 と改革>
1.お客様は誰か
2.仕事の棚卸
・ 仕事に人を
3.ジャスト・イン・タイム
4.自働化 (=自律化)
5.「見える化」「見せる化」の徹底
(図1)トヨタ方式(トヨタウェイ)
人とチームワーク
P eople & Teamwork
改善活動
無駄の排除
・現地現物
・7つの 無駄
・真因の追究 ・問題解決
平準化、標準作業
目で見る管理、情報共有
従業員満足
労使信頼、企業風土、トヨタ の DNA
自働化
( Autonomy)
工程内 での
品質の造り込み
(問題の顕在化)
・省人化
・自立化/自律化
(図2)トヨタ生産方式の全体像
3. トヨタの IT 化小史
トヨタの IT 化概要の小史を表1にまとめる。業界の IT 環境、トヨタの IT インフラ(教育や組
織も含め)、業務系の SCM 分野、CAD/CAM/CAE 中心の技術分野、TPS と IT 化の関わりに分類。
トヨタでは前述の人間系重視の TPS のため、IT 化組織(各部門に分散化された組織含む)よりも
現業部門が IT 化推進の主役であり、IT 化組織は「縁の下の力持ち」悪く言えば道具作りの便利屋
である。生産分野では、ロボットなどの機械化は比較的容認されたが、人間系に関わる生産プロセ
スでは IT 化は拒否されてきた。車の生産指示も本社電算センターでは IT による情報処理、工場は
TPS(かんばんシステム)という人間情報処理で分断され運営されてきた。しかし、顧客の嗜好の
変化による生産台数の増加と多種多様化、生産システムのフレキシブル化、若者の製造業離れなど
の要請から、TPS と IT 化の融合が始った。その端緒は 80 年代の車両工場の自律分散化型 ALC で
あり、TPS の代名詞として喧伝されるかんばん方式が IT で進化した「e-かんばん」である。
一方は、車や部品の仮想組付け・加工を可能にする、生産準備部門で開発されたデジタルエンジ
ニアリングシステム(V-Comm や CASE)は、新車開発の CAD/CAM/CAE に関わる技術部門へイ
ンパクトを与えた。後工程はお客様(生産準備部門のお客様は工場、技術部門では生産準備部門)
という TPS の思想が、新車開発の QCD(Quality Cost Delivery)向上のためのコンカレント環境(大
部屋とデジタルエンジニアリングなど)を生んだ。ALC、e-かんばん、V-Comm など、現業組織が
TPS 視点の IT 化推進の主体となって点は、トヨタの IT 化推進に特筆される点である。
2000 年代はグローバル化と統合化の時代である。GM を抜いて世界 NO.1 が射程に入った現在、
暗黙知、人間系重視の TPS による部分最適では今後の成長は期待できない。大規模な IT 環境の整
備、再構築が推進されているが、その第一歩が 30 年ぶりに再構築された部品表を中核とする「新
SMS」である。さらに自社開発の統合 CAD/CAM から CATIA、Pro/E など市販パッケージへの切替
へ、SMS と三次元 CAD データを統合するトヨタ版 PDM(Product Data Management)などである。
2
今後、グローバル統合化 PDM(SMS の部品表と CAD データからなる)を中心にビジネスプロセ
スと情報システムの改善・改革が進められるであろう。
60年代
業界の情報・通信環境
黎明期
70年代
発展期
80年代
90年代
開花期
高度化
2000年代
グローバル、統合化
・ミニ コン やEWS、パソコン 、
マイ コン 、オフコン が普及
・ネットワークとして企業内
でLAN、公衆網では商用
VAN普及
・エン ドユーザコンピュータ、
専門家ではない個人のパソ
コン が加速
・企業では分散組織で個別
システムが開発促進
・「ネオダマ」がキーワード
・大型機の垂直階層型
アーキテクチ ャからN/W主
体の水平型N/Wへ
・ クライ アン トサーバ方式
による 分散処理
・イン ターネットの普及加速
・国の高度情報化施策で電
子商取引(CALS/EC)事業
・自工会のIGES,ST EP標準
化活動
・個別最適から全体最適へ
・分散から統合化へ
・国家プロ ジェ クト「e-Japan
戦略」によ り情報イン フラ が
急速に向上(ブロ ードバンド
環境など )
・自工会EDI標準,EDIFACT
・ネットセキュリティ、ネット犯
罪が益々増加
・N/Wの高速化で三層構造
で大型機で集中処理の復活
(ASPやシン クライ アン ト)
・70年、UNIVAC 1108 に
よるTSS サービ ス開始
・トヨタの大型機は、事務系、
CAD系はIBM,CAM系はユ
ニ シス、CAE系は富士通の
色分けができる
・電算部(事務系)と技術電
算部門が統合
・オールトヨタ情報ネットワー
ク委員会発足
・グロ ーバルネットワーク
TNS開発、ボデーメーカ 、海
外、販売店、部品メーカ 間
がオンライン化
・85年にスーパーコン
ピュータ、富士通VP100、後
に米CRAY導入
・EWS、パ ソコン による 分散
処理普及、LAN回線普及
・全社的エレクトロ ニ クス・コ
ンピュータ技術者教育
・社内イン トラ ネット環境充
・
実、メール、グループ ウェ ア、
「T-Wave」の情報共有環境
・一人に一台パソコン 普及
・グロ ーバル化、アプ リケー
ショ ン共通のN/W再構築
・91年情報システム部門に
通信系組織が異動編入
・95年「情報システム高度
化推進会議開始
・「グロ ーバルITサミット」や
「i-Toyot aビ ジョ ン」など でIT
将来像の情報共有
・「大部屋」とデジタルエン ジ
ニ アリン グ環境による 新車
のリードタイ ム短縮、
CCC21など の原価低減活
動本格化。近年は、品質管
理体制強化
・コンピュータシステムは論
理的には分散、統合も大型
機(サーバ)で集中処理へ
・機械化のための事務処の
合理化、標準化
・63年、I BM機導入、工数、
給与、材料の原価計算など
・購入部品納入指示、部品
資材の必要計算など 管理部
門業務の電算化(電算部の
SEにて)・66年に高岡工場
でオンライン生産指示、
ALC稼動
・部品表の電算化、SMSと
してトヨタの基幹業務の中
核 となる
・部品調達必要数計算 、総
合調達情報管理、原価積上
管理、 輸出車部品表情報
管理、パーツカ タログ自動
作成編集など SMS関連業
務アプ リ導入
・74年デイ リー変更オーダ
システムの導入
・販売店支援システムを
C80からC 90の開発
・自律分散型ALC開発、ブ
ロードバン ドMAP。RFID適
用、 エン ジン 工場など 量産
工場でもIT化・ALCと完成
車配車計画、完成車物流管
理 システム(車両のトラ ッキ
ング)とリン ク
・ネット部品調達システム
WARP、新人事情報シ ステ
ム、経理システム、連結決
算システム開発
・補給部品システムA-TOP、
海外生産用部品物流システ
ム、構内物流システムなど リ
アルタイ ムシステム開発
・型工場、試作工場の分散
型生産管理システム開発
・トヨタのEC/CRMサイ ト
Gazoo構築
・販売店支援システム
「ai21」開発
・新SMSの開発。①新車開
発の初期段階から情報共
有環境、②構想、試作、号
口(量産)段階、海外生産部
品、補給部品など 、グロ ー
バルで統合一元化、③生産
実態に対応できる 車両部品
構成
・新SMSの開発プロ ジェ クト
は若手の教育(ITプロ マネと
業務)を 兼ねて推進。
・「ai21」適用で販売店 とトヨ
タ協働 Gaz ooなど )で
CRM強化
・富士通FACOM202による
カム部品設計、クラン クシャ
フトのベアリン グ荷重など 設
計計算と実験データ処理
・ 70年代初の車のデザイン
線図をデータ化する TDF
・プ レス金型のNC切削シス
テム、TINCA開発
・ボデーCADのCADETT開
発、グラ フィックスによる 対
話型設計
・有限要素法構造解析シス
テムNASTRAN導入
・70年代末、2次元データか
ら解析結果を 可視化できる
解析システムVESTA開発
・熱実験LA,エン ジン 実験LA
・81年意匠設計のためのス
タイ ルCAD開発
・CADETTは、型加工のダ
イ フェ ースCAD、エン ジン 部
品CADなど に適用拡大
・トヨタのCAD/CAMとして廉
価版のケーラム開発 提供
・CADデータを 3次元でメッ
シュ分割する SDG開発、車
の衝突解析システムに適用
・構造解析、数学モデルに
よる 空力特性や運動特性の
シミュレーショ ン技術進展
・設計と生産準備のコラ ボ
レーショ ンを可能とする デジ
タルエン ジニ アリングシステ
ムにV-CommとCASE (エ
ン ジン 部品用)開発
・3次元統合CAD/CAM開発
・ 車や部品のFEM解析、空
力や運動特性のシュミレー
ショ ンがCAEとして拡充。新
車開発のリードタイ ム短縮
に大きく寄与する
(試作回数の削減)
・統合CAD/CAMからグロー
バル対応のため市販パッ
ケージ適用。車両系は
CATIA、ユニ ット系はPro/E
・新SMSの部品表とCAD
データを 紐つける PDMを 開
発。
・関連アプ リ(情報サービ ス
機能など )開発中。
・63年、トヨタの全工場にか
んばん方式導入
・69年、車両生産指示 ALC
稼動
・77年、かんばん方式に
バーコードシステムが導入
82年、工場の部品手配 、
かんばん管理支援の「工
務SMS」82年に完成。
SMSに切替えタイ ミング
を 指定する タイ ム管理機
能付加。外注部品の発注、
検収、打切り、かんばん
回転枚数の管理 スタート
・自律分散型ALC開発後、
80年代後半FA/CIMとし
てTPSとIT化の融合
・九州、北海道の遠隔地工
場用にeかんばん開発適用
・生産物流関連のオンライ
ン リアルタイ ムシステム(ATOPなど は全てSMSとバー
コードかんばんにリン ク
・販売店のTPS活動から
Gazooサイ トへ業務拡大
・生産ライン のIT化はTPS
の原則、「PULL」方式遵守
・かんばん方式がALCと工
務SMS(かんばん発行、枚
数管理)とリン クし、ITと完
全に融合。 eかんばんとし
て物流情報システムとリン ク
トヨタの情報インフラ
・IBMでマルチ タスク、リア
ルタイ ムOS、DBMS、3G言
語、半導体メモリ,SNA提供
・高機能グラ フィックス、プ
ロ ッタ、磁気ディスクなど 周
辺機器。
・ミニ コン の普及。71年にマ
イ クロ CPU、4004
・75年、「超 LSI技術研究組
合」の設立、米半導体業界
に挑戦、国産コンピュータ
メーカ 提携、IBMへの挑戦
事務・サプライチェーン系
技術・エンジニアリング系
トヨタ方式の情報化
(表1)トヨタの IT 化概要と小史
4. トヨタの IT 化推進の特長
90 年代初に日本経済はバブル崩壊を経験し、その後は失われた 10 年として景気が低迷した。
トヨタでは、バブル絶頂期での過度な設備投資を反省し「トヨタ生産方式の原点に戻れ」というト
ップの強力なメッセージが出された。ビジネス改革のため、全社的 TQM 活動、BR 活動という部門
横断的活動が推進。組織設計と業務プロセスの改善・改革が推進されて、95 年以降の高度情報化
プログラムに繋がる。
「ビジネスプロセスの改善・改革が最初、機械化(IT 化)は最後」とする TPS
3
の教えそのものである。ビジネス改革のアプローチは以下の三項目である。
①全社的 TQM(Total Quality Management)活動。(TPS を技術開発、マーケティングへ展開)
②BR(Business Reform)活動
③高度情報化プログラム
TPS の「まずはやって見よ、やって悪ければ改善」とする企業風土は、現場主義や自律分散系を
意味し、現場の提案を重んじるボトムアップ志向。大規模情報システムに見られるウォータフォー
ル型開発などトップダウン志向で機械系(コンピュータ)を対象とる IT 化は人間主体の TPS と対
極。TPS に最も同化し難い分野が IT 化推進分野であろう。大型機の持つ中央集権、官僚主義、ト
ップダウン思考を受け継いできた情報部門の人や組織が、
近年トヨタウェイとして TPS に同化し、
トヨタ流の IT 化、トヨタ方式の IT 推進組織へと変身しつつある。
70 年代後半から技術革新が急速化する IT 化(車載用マイコン、工場自動化含む)の専門人材の
不足(学生が入社しない)のため、自前の IT 教育が十数年間継続された。また、大規模なオンラ
インリアルタイムの分散型生産指示システム開発では、技術者育成を意識してハード、ソフト全て
を内製化。2000 年の SMS の再構築では、2007 年問題を意識して「大規模な基幹業務の再構築で IT
人材を育成する。」
、
「IT の担当者に部品表や車の設計・試作・生産の基幹業務アプリと情報インフ
ラを実体験させ、PM 能力や IT スキルを上げる。」との IT 担当トップの姿勢。過去の CAD/CAM/CAE
の開発を、自前主義で人材育成する、としたトヨタの姿勢が垣間見える。市販パッケージ利用やア
ウトソーシングは簡単であるが、
「ものづくりは人づくり」との先人の遺訓がトヨタの DNA として
継承されている。トップダウン、マニュアル文化かつ IT によるスピード重視の欧米的経営と人間
系重視の日本的経営、双方のメリットを生かしたアプローチはますます重要になろう。
全社的 TQM やトヨタのリエンジニアリング活動の BR プログラム(3 年で 30%の人員を削減し、全
社テーマ、部門テーマに振当て)によりビジネスプロセスを改善・改革し、インターネットが普及
し始めた 90 年代半に情報システム高度化プログラムが推進。そのテーマは、①構造改革と生産性・
創造性向上、②新車開発のリードタイム短縮③サプライチェーンの再構築、④お客様接点の向上、
⑤グローバルリアルタイム経営、である。図 3 に示すトヨタの情報システム全体像は、グローバル
化、統合化に向けて、更に高度化されていくであろう。
仕入先
海外事業体
ボデ−メーカ
CAD/CAM(
CAD/CAM(CATIA,Pro/E)
CATIA,Pro/E)
DE
DE
CAE(
LA、 FEM
含む)
CAE(LA、F
EM含む
) (
(V-Comm)
V-Comm)
連結決算
連結決算
システム
システム
会計システム
会計システム
原価
企画・
原価企画・
管理
システム
管理システム
連結経営
システム
人事
人事システム
ア フタ ーセ ール ス
車両受注
車両受注
工場管理
システム
部品表
(構想、試作、号口、
工程、工務、補給)
生産指示
生産指示
(
(ALC)
ALC)
商品情報
新車物流システム
新車物流システム
海外生産部品物流システム
海外 生産部品物流システム
受注・ 納車
お客様
図3
部品仕入先
部品手配
部品手配
(eかん
ばん)
)
( eかんばん
商
談
イ
ンターネットサイト(
O)
(GAZO
インターネットサイト
GAZOO)
販売店システム
)
販売店システム (ai21
(ai21)
販売店ホームページ
販売店ホーム ページ
ボデ−メーカ
日本仕 入先
調達情報 ネット調達
SMS
お客様情報
海外代理店
生 産計 画
輸 送
補給部品物流システム
補給部品物流システム
(
A-TOP)
(A-TOP)
地域統括会社
生 産 指示
経理 ・人 事
PDM
PDM
設計情報
国内販売店
販売店システム
調達
開 発・ 試作
企画
連結子会社
海外仕入先
ネット調達(WARP )
海 外仕入先
国内 販売店
海 外代理店
輸送会社
国内販売店
営業スタッフ
トヨタの情報システム全体概要
5. まとめ
トヨタの情報システム高度化をビジネス改革、TPS の視点で IT 化進展の道程をまとめる努力を
した。トヨタの経営改革と TPS 抜きに IT 化の進化を論ずるのはナンセンス、との筆者の思いであ
る。IT と TPS の歴史は共に 4−50 年という短いとは言え、前者は数十万倍進化したが、TPS の基
本となる人間系の進歩はほとんどない。
「人間・機械系」のビジネス活動で両者のギャップが様々
な問題を生んでいる。TPS に代表される人間系(人と組織)を強化しつつ、効果的、効率的な IT
化で人間系と機械系のシナジーによる企業の競争力向上が益々期待されよう。
4
Fly UP