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東南アジア圏におけるごみ収集と感染症リスクに関する

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東南アジア圏におけるごみ収集と感染症リスクに関する
東南アジア圏におけるごみ収集と感染症リスクに関する研究
~フィリピン共和国ネグロス・オクシデンタル州バコロド市を事例として~
BR11008
指導教員
1. 序論
1) 研究の背景
発展途上にあり人口過密なアジア地域では、都市化が急激に
進むなかで、洪水リスクが高まるとともに、衛生害虫が媒介す
る感染症リスクも増大するとされる。土木的な観点から見れば、
都市環境の過度な人工化による都市の保水機能及び遊水機能
の喪失が原因とされ、都市基盤的なハード面での解決が謳われ
る。しかし、フィリピンでの生活体験を通じ、洪水リスクと感
染症リスクの増大の問題には毎日の生活から発生するごみの
収集・処理に関するシステムも大きな影響を及ぼしているので
はないかと感じた。
2) 研究の目的と対象範囲
「ごみの取り扱い」という観点から調査・考察を行い、洪水
リスク及び感染症リスクを軽減することができる実現性が高
く、持続可能な取り組み案を提案することを目的とする。した
がって、感染症への医療的アプローチ、洪水への土木的アプロ
ーチは研究対象外とする。
3) 対象地の選定
対象地は地元調査に協力の得られたフィリピン共和国ネグ
ロス・オクシデンタル州バコロド市とした。同市は発展途上に
あり、レプトスピラ症やデング熱などの感染症が発生している。
4) 研究の方法
①現地でごみの散乱状況、市のごみ収集・感染症対策を調べる。
②研究は現地での調査結果をもとに、現地事情を反映した実現
可能性が高く、かつ、持続可能な改善案を検討・提案する。
2. 対象地の概要
1) 社会経済的特性
バコロド市の人口構成は典型的な発展途上国型である。すな
わち高齢者が少なく、子供が多いピラミッド型である。バコロ
ド市では第一次産業のサトウキビのプランテーションが盛ん
で、砂糖の生産地として知られている。
2) 自然的特性
同市では5月~1月が雨季、2月~4月が乾季とされており、調
査を行った10月は雨期である。バコロド市はセブ市、マニラな
どの都心部と比べると都市化が進んでいない
(写真1・2参照)
。
写真 1.バコロド市の衛星写真
後田泰斗
松村 隆
ごみは散乱していないが(1-1)参照)
、植木の中、溝の中、道
路の淵、排水溝の中、有料ビーチの中、ごみ箱周辺、茂みの中
など特定の箇所にごみが溜まっている傾向にある(1-2)参照)
。
1-1) 街中・住宅街
写真 3.バランガイ 9
写真 4.バーゴス市場
写真 5.バナーゴの住宅
1-2) 特定の箇所
写真 6.有料ビーチパライソ 写真 7.バーゴス通り 1 写真 8.橋下の小川
写真 9.市役所近く排水溝 写真 10.SMの植木鉢 写真 11.バーゴス通り 2
2) 感染症の発生状況
表1.各疾患の感染者数と死亡者
西暦
2014
2015
感染症名称
デング熱
レプトスピラ症
デング熱
レプトスピラ症
生存者
444
9
328
3
死亡者
4
1
1
0
感染者
448
10
329
3
2-1) レプトスピラ症
2009年にフィリピンを襲った台風16号・17号による死者858
名のうち89名がレプトスピラ症により死亡しているが、本研究
の対象地であるバコロド市ではデング熱と比べレプトスピラ
症の疾患数は少なく、保健当局からは重要視されていない。
2-2) デング熱
バコロドにおけるデング熱の発生件数はレプトスピラ症に
比して圧倒的に高い。このため、バコロド保健当局はデング熱
への対応に力を入れている(表1参照)
。そこで、10月21日にデ
ング熱が短期間に頻発したカントリーホームズという住宅街
での調査を行った。住宅街では容器ごみに水が溜まり蚊の幼虫
が発生しており、殺虫作業が行われていた(写真12~14参照)
。
写真 2.セブ市の衛星写真
3. 現地調査の結果
1) ごみの散乱状況
10月8日~30日に市内調査を複数回行った。それほど街中に
写真 12.ボトル 写真 13.ボトル中の蚊の幼虫 写真 14.蚊の殺虫作業
3) 排水の状況
10月27日、
28日にレストランの排水、
市役所のDisaster Risk
Reduction & Management Officeによる排水溝のメンテナン
ス、排水溝から逆流している下水などの状況を調査した。近隣
住民から苦情が寄せられる程の悪臭があった。
4. 現地関係機関へのヒアリング調査の結果
バコロド市では、市役所、バランガイ(市の下の自治組織)
及びごみ収集業者の3者がごみの収集・処理を行っているので、
それぞれを訪問し、ヒアリング調査を行った。
1) 市役所
1-1) Department of Health(DOH)
DOHでは、デング熱とレプトスピラ症の発生状況、保健教
育活動について情報収集を行うとともに、デング熱が頻発して
いた住宅地(カントリーホームズ)を同職員と訪れた(前項参
照)
。保健当局に委託された約500名が61の各バランガイでデ
ング熱予防対策等の保健教育を行っているとのことであった。
1-2) Department of People Service(DPS)
DPSでは、
ごみ収集事業者の選定方法、
不法投棄への対応策、
ごみの取扱いに関する市民への広報活動についての情報収集
を行った。主な取組みとしては、市民へごみの分別を促すキャ
ンペーンなどが挙げられた。
1-3) Disaster Risk Reduction & Management Office(DRRMO)
DRRMOでは、洪水リスク、災害対策、詰まった排水溝への
対応などの情報を得た。レストランから流れ出た油類が原因で
起こった排水溝トラブルへの同課の対応を見学した。
2) バランガイ(自治体)
バランガイでは、バランガイを治めるバランガイキャプテン
からバランガイで雇っている清掃員に関しての情報を得た。同
清掃員は、毎朝通りのごみを掃くなどの活動を行っている。
3) ごみ収集事業者(Dynamic builders)
バコロドでは、ごみ処理業者が毎日のごみ収集などの活動を
行っている。そこで、ごみ収集事業者を訪問し、ごみの具体的
な収集方法、収集時間、収集員、事業に関する情報を得た。
5. 調査結果のまとめと考察
1) ごみの散乱状況
現地調査の結果では、全体としては事前の予想とは異なり、
街中でのごみの散乱は見当たらなかった。しかし、局所的にご
みが散乱・放置されている箇所があり、きめ細かな収集活動が
求められるように感じた。
2) ごみ収集のシステムと運営
ごみ収集のシステム自体は市役所・バランガイ・ごみ収集業
者の3者により大まかには整備されている。しかし、上記の特
定箇所のように、処理がなされていない場所が存在しており、
この点への対応が必要である。また、適切なシステム運営の基
礎となる予算管理に問題があるように感じた。
3) ごみ問題と洪水・感染症リスク
今回の現地調査で把握できた範囲に限っても、デング熱を媒
介する蚊が繁殖しやすい環境がごみの不適切な取り扱い
によってできており、デング熱の発生リスクをより高くして
いる可能性がある。また、排水溝周辺の散乱ごみは洪水リスク
を増大させる。レストランのずさんな排水管理等など感染症リ
スク増大にはごみ処理以外の要素も含む多様な原因がある。
6. 改善案の提案
現地で実現可能な個別対策及び同対策を持続的なものとす
るための取組みとして、以下を提案する。
1) 収集方法の改善
① 局所的清掃の徹底
② 市・事業者・自治体それぞれの清掃業務範囲の明確化も
しくは3者の業務範囲外とされる箇所の第4の清掃
機間への委託
③ 教育機関で行われているごみ拾いイベントの場所指定
④ ストリートクリーナー及びごみ収集員による業務の抜き
打ち的検査の実施
2) 感染症対策の強化
① デング熱が頻発している住宅街において住宅街単
位での適切なごみ処理と感染症対策(保健教育など)
を行う組合の充実
② 市からの告知を市民が認知できるような仕組みの整備
③ 蚊の幼虫の発生を抑止する清掃・ごみ収集取組みの導入
3) 予算管理及び事業運営の改善
① 予算の不正利用を防止するための仕組みの整備
② 市の清掃へ必要な資金が使われるような仕組みの整備
③ ストリートクリーナーへの給与関連予算の抜き打ち的検
査の実施
④ 自治体の適正な予算管理とそれを客観的に評価・監
査する第3者機関の設置
4) 多角的な取組みの構築
① ごみ問題と他の社会問題を関連させて検討し、より幅広
い視野での取組みと連携させた対策の構築
5) クラウドファウンディングの活用可能性
① 実現性の高い改善案の承認をバコロド市役所から得た場
合にインターネット上で寄付型の資金調達が可能なクラ
ウドファウンディングの利用可能性を議論する。
7. 結論と今後の予定
10 月 8 日から 30 日まで現地に滞在し、現地調査、現
地関係機関等へのヒアリング調査を行った。これらの結
果をもとに、ごみ収集の改善、感染症対策の強化などの
改善案を検討・作成するとともに、これらの個別対策を
持続的なものとするため、ごみ処理以外の問題との連携
やクラウドファウンディングの活用などの措置について
も検討を加えた。今後、今回の提案内容を英語化し、バ
コロド市役所 DPS に提案する予定である。
8.参考文献
1)BACOLOD CITY PLANNING&DEVELOPMENT OFFICE より、DATA BANK 1 DEMOGRAPHY (2015)
2)BACOLOD CITY DEPARTMENT OF HEALTH より、BACOLOD CITY
2)EPIDEMIOLOGY&SURVEILLANCEUNIT MORBIDITY WEEK REPORT (2014, 2015)
3)SPM WILSON C.GAMBOA JR より、BACOLOD SOLID WASTE MANAGEMENT SUMMITの資料
9. 謝辞
バコロド市役所、バコロド市保健当局、バコロド市災害対策課、Dynamic Builders
の方々には大変お世話になりました。ここに感謝の意を示します。
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