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長寿命ガラス固化溶融炉に関する技術開発

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長寿命ガラス固化溶融炉に関する技術開発
成果評価用
2009/02/20
革新的実用原子力技術開発費補助事業
平成20年度成果報告書概要版
Innovative and Viable Nuclear Energy Technology (IVNET)
Development Project
長寿命ガラス固化溶融炉に関する技術開発
平成21年3月
独立行政法人日本原子力研究開発機構
株式会社IHI
国立大学法人埼玉大学
本報告書は,独立行政法人日本原子力研究開発機構,株式会社IHI,国立大学法人埼玉大学が
連携して経済産業省からの補助金を受けて実施した技術開発の成果報告書であり,限られた関係者
にのみ配布するものです。
この資料の供覧,複製,転写,引用等については,独立行政法人日本原子力研究開発機構,株式
会社IHI,国立大学法人埼玉大学にお問合せください。
長寿命ガラス固化溶融炉に関する技術開発(事業成果概要)
Development on a long-life vitrification melter
独)日本原子力研究開発機構 :青嶋
厚,塩月 正雄,山下 照雄,正木 敏夫,
捧
賢一,中島 正義,守川
洋,三浦 昭彦,
加藤 淳也,宮内 厚志,豊嶋 幹拓,児島 慶造
株式会社IHI
:大野
勇,福井 寿樹,伊藤 俊行,鍋本 豊伸,
山崎 晶登,宮坂
国立大学法人埼玉大学
郁
:松本 史朗
長寿命ガラス固化溶融炉の技術開発を平成 17 年度より平成 20 年度まで実施した。事業全体の
成果は以下のとおりである。
キーワード:
高レベル放射性廃液,ガラス固化,溶融炉,長寿命,スカル層,可換電極,炉底構造
1. 目 的
本技術開発は,高レベル放射性廃液の処理処分コスト低減などに資するため,現行ガラス固化
溶融炉の設計寿命を 5 年から再処理施設内装機器のそれに匹敵する 20 年へと長寿命化させて高度
化を図ることを目的としている。
このため,溶融炉の寿命を決定している耐火物侵食及び電極消耗への対策を講じるとともに,
長期間の運転に伴う粒子状物質の抜き出し性能の向上を図った新たな溶融炉概念を検討し,長寿
命化への実現の見通しを明らかにする。技術開発においては,個別の課題に関する基礎試験や解
析評価に加え,溶融炉内の複合的な物理現象を解析するためのシミュレーション技術の開発を行
うとともに,小型炉試験装置の設計及び製作,コールド試験を行い,次世代ガラス固化溶融炉と
しての技術的成立性を評価する。
2. 技術開発成果(平成 17 年度∼平成 20 年度)
2.1
長寿命ガラス固化溶融炉の構造概念と設計目標値
平成 18 年度までに具体化した「円柱円筒型電極,円錐型炉底,勾配 60°」の基本炉形式
について,各対策技術に対する各設計目標値を整理した。
(本項目は平成19年度で完了)
2.2
高レベル固化ガラスの特性把握
長寿命炉の設計及び運転条件設定において,特に重要となる処理対象ガラスの「粘性」,
「比
抵抗」について,平成 18 年度までに整理した「組成変動と基礎物性との関係」に加えて,固
化ガラス組成(廃棄物含有率,ナトリウム含有率)が「粘性」,「比抵抗」に与える影響と溶
融ガラス中に懸濁粒子として存在する白金族元素などの粒子状物質が粘性に及ぼす影響を調
査し,粘性を温度,ガラス組成,ずり速度との関係式として整理した。
(本項目は平成19年
度で完了)
2.3 長寿命炉壁に関する技術開発
i
候補材料に K-3,CS-5,Z(CZ)を選定し,これらの何れもが 1000℃以下の静的侵食条件で
は,腐食代:50mm 及び設計寿命:20 年から算出される侵食速度の上限:8μm/day に対して
十分に小さい侵食速度であるとの結果を得た。しかし,1000℃を超える条件においては,CS-5
及び CZ は侵食速度上限以下に抑制することは難しく,これらの材料を採用する場合は,炉壁
冷却機能を適用して 1000℃以下に保つことが必要であるとの結論を得た。
また,炉内流動が侵食速度に与える影響を把握するために,試料を連続的に回転させなが
ら溶融ガラス中に浸漬させる動的侵食試験を行った結果,侵食速度に対してガラスの自然対
流による流動の影響は極めて小さいことが確認できた。
侵食速度評価に加えて,溶融炉内で想定される熱サイクルに対する耐火物の耐久性を把握
するため,K-3,CS-5,CZ について,熱サイクルを与えてスポーリングテスト,破壊靱性測定
を行った結果,ガラス固化溶融炉において考えられる緩慢な熱サイクルでは,何れの材料も
耐スポーリング性は有しているものの,CZ は熱サイクル後の強度低下が顕著であり,特に
1000℃を超える熱サイクルが及ぶ部位での使用は困難であると評価した。
平成 20 年度は,溶融ガラス温度,評価対象材料,浸漬時間などのパラメータを前年度まで
の試験よりも幅広く設定した侵食試験及び熱サイクル試験を行い,データの拡充を図るとと
もに,侵食速度の推定式を導出した。これらの結果から,長寿命炉の耐火物は,K-3 を第一
候補材料とし,温度条件や熱サイクル条件を考慮する前提で,CS-5 または CZ も適用の可能
性がある材料であるとの見通しを得た。
2.4 電極に関する技術開発
候補材料として NCF690 及び RS311 を選定し,静的通電侵食試験を行った結果,円柱電極表
温度:1000℃での侵食速度はそれぞれ 0.007mm/day,
面での侵食環境である電流密度:0.5A/m2,
0.006mm/day 程度であった。また,1100℃における侵食速度は,それぞれ 0.016,0.007mm/day
であり,NCF690 を使用する場合には,電極冷却機能により,1000℃以下に保つことが必要で
あるとの結論を得た。なお,電極の侵食についても耐火物の場合と同様に,溶融ガラス流動
の影響を考慮した動的侵食試験を行ったが,侵食速度に対する影響はほとんど無いことを確
認した。
平成 20 年度は,溶融ガラス温度,評価対象材料,浸漬時間などのパラメータを前年度まで
の試験よりも幅広く設定した侵食試験を行い,データの拡充を図るとともに,長寿命炉の共
用期間(20 年間)の侵食量を推定した。これらの結果から,長寿命炉の電極材料は,NCF690
を第一候補として適用できる見通しを得た。
2.5
炉底構造・流下機構に関する技術開発
溶融ガラス中で沈降堆積する傾向を有する粒子状物質について,それらの形態と粒度分布
を把握するとともに,粒子状物質の炉内での形態変遷の有無を評価した。また,粒子抜き出
し性能に関するるつぼ規模の試験から,粒子状物質濃度や炉底形状と粒子抜き出し率の関係,
粘性逆転流下モード(炉底壁面近傍のガラスを加熱して粘度を低下させ,粒子の抜き出しを
促進させる方法)の効果を評価した。
平成 20 年度は,粘性逆転流下モードを採用した場合の炉内流動を予測し,るつぼ規模の流
ii
下試験にてその妥当性を流下ガラス中の粒子状物質濃度の変化で把握するとともに,粘性逆
転流下モードの粒子抜き出し性能の向上に対する効果を確認した。
2.6 シミュレーション技術の開発
過去に原子力機構で開発したガラス固化溶融炉シミュレーションコードの計算モデルを参
考にしながら,新たなガラス固化溶融炉シミュレーションコードを開発した。その中では,
ガラス固化溶融炉固有の現象を取り入れるために,溶融ガラス中の粒子状物質の挙動計算と
それによるガラス物性の変化の反映,溶融ガラス表面に形成される仮焼層のモデル化などを
行った。
平成 20 年度は,シミュレーションコードの計算速度向上に係わる改良を行った。また,小
型炉試験装置の炉内流動状況及び実用炉規模での炉底構造の改良及び粘性逆転流下モードに
よる粒子抜き出し性能の向上効果を評価した。
2.7
小型炉試験装置による対策技術成立性評価試験
小型炉試験装置を設計,製作し,平成 20 年度は同装置を用いてガラス溶融試験を行い,電
極の侵食抑制とガラス溶融処理を両立する温度分布形成及び粘性逆転流下モードが成立し,
後者については粒子状物質の抜き出し性能を向上させる寄与があることを確認した。
2.8
実用炉の基本仕様設定と適用性評価
長寿命化及び粒子状物質の抜き出し性能向上策を実現する実用炉の概念検討を行い,その
基本仕様や構造を具体化するとともに,実用プラントへの適用性を評価した。
平成 20 年度は,
基本仕様の具体化並びに温度分布及び粒子抜き出し性能に関する解析計算
を行った。
3. まとめ
[1]長寿命化対策については,耐火物は K-3,電極材料は NCF690 を第一候補材料とし,運転時間
の大部分において炉壁温度を 1000℃以下に制御することで 20 年を超える寿命を達成する侵
食速度に抑えられる。さらに,円柱円筒型電極構造の採用により,消耗の進んだ電極部品の
みを交換することが可能となり,炉本体の長寿命化が達成できた。
[2]長期安定運転に必要な粒子状物質の抜き出し性能の向上対策については,炉底壁面近傍のガ
ラスを加熱して粘度を低下させ,粒子の抜き出しを促進させる手法(粘性逆転流下モード)
が有効であることを確認した。また,炉底形状を「円錐型 60°勾配」にすることで,粒子の
堆積防止及び抜き出し性能向上の効果があることが分かった。
[3]上記の対策技術のポイントとなる「目標温度分布」について,小型炉試験装置により必要な
温度分布形成が実現できることを確認した。
[4]これらの結果を基に,実用炉の基本仕様と構造を具体化し,実プラントへ適用できる見通し
を得た。
iii
4. 本技術の将来展開
本開発成果である実用炉の基本仕様を基盤として,平成 21 年度以降,TVF 溶融炉規模のモック
アップ設備の設計・製作・試験並びに改良などを図り,平成 30 年頃を目途に,本開発に基づく新
たなガラス固化溶融炉を TVF の次期溶融炉として設置する計画である。また,これら TVF 次期溶
融炉の開発と併せて,基礎データの拡充,関連技術の改良・開発を進めていく。
iv
Development on a long-life vitrification melter (The outline of the project result)
JAEA
Atsushi Aoshima, Masao Shiotsuki, Teruo Yamashita, Toshio Masaki,
Kenichi Sasage, Masayoshi Nakajima, Yo Morikawa, Akihiko Miura,
Junya Kato, Atsushi Miyauchi, Mikihiro Toyoshima, Keizo Kojima
IHI
Toyonobu Nabemoto, Iku Miyasaka, Toshiyuki Ito, Isamu Ohno
Saitama Univ.
Shiro Matsumoto
The development of a long-life vitrification melter was executed in period from the FY 2005
to the FY 2008. This report describes the outline of the project result.
Keywords: high level radioactive waste, vitrification melter, long-life, Scull layer,
commutative electrode, melter bottom and drain structure
1. Objectives
The objective of this development is to extend vitrification melter life-time from 5 years of
the current design base to 20 years for reducing economical burden of the high level
radioactive waste management by applying advanced technologies. For this purpose,
development of the new long-life vitrification melter is focused on establishing measures on
prevention against corrosions of its refractory and electrode, and discharge of noble metal
particles. In order to evaluate stable conditions in the long operation of the melter, an
advanced simulation tool is also developed and applied. Finally, the development is planned
to demonstrate the proposed technologies by conducting design, manufacture and test of the
small scale test melter.
2. Technical results
2.1 Evaluation of fundamental performances of the melter
Each design value for establishing development objectives of candidate concept
"Column-cylindrical electrode, 60° cone shape bottom" was organized.
2.2 Characteristic of high level vitrification glasses
The basic physical properties such as the viscosity and the resistivity of the glass for
application of design and operational conditions of the melter were evaluated. Detail
evaluation of the viscosity of the glass was progressed with arrangement of temperature,
composition and share stress.
2.3 Development on the long-life melter wall
One of the candidate refractory “K-3” indicated higher performance against corrosion by
stable corrosion test. Even another candidate “CS-5”, which expressed the biggest
corrosion shows 20 years life-time by cooling below 1000 degree centigrade.
v
A corrosion under the glass flow was hardly confirmed.
“K-3” and “CS-5” indicated performance against spalling at the mild heat cycle. On the
other hand, “CZ” indicated the decrease of strength after the heat cycle.
Fiscal year 2008, corrosion tests and heat cycle tests were continued, as a result, the
expression for corrosion rate was derived. And “K-3” was made the first candidate
material of the long-life melter wall.
2.4 Development on the electrode
The corrosion rate of one of the candidate materials “NCF690” was 0.007mm/day. The
other candidate material “RS311” was 0.006mm/day. (current density; 0.5A/cm2, molten
glass; 1000 degrees C).
A corrosion under the glass flow was hardly confirmed.
Fiscal year 2008, corrosion tests were continued, as a result, a quantity of the corrosion
for 20 years was estimated. And “NCF690” was made the first candidate material of the
electrode.
2.5 Development on the melter bottom and drain structure
Forms and size distribution of the noble metal particles and their transitions in the
melter were examined. Performance of the drain structure that controls viscosity was also
evaluated.
Fiscal year 2008, the effect of the drain structure that controls viscosity was confirmed by
a basic examination that used the crucible.
2.6 Development on the simulation technology
A new simulation code of the melter including the calculation model that had developed
in the past was developed.
Fiscal year 2008, to shorten the computation time, the code has been improved. Moreover,
a predictive calculation of the glass flow of the small scale test melter was performed. The
effectiveness of the bottom configuration and the drain structure that controls viscosity to
improve the drain performance were evaluated.
2.7 Confirmation test by the small scale test melter
A design and manufacture of the small scale test melter were performed.
Fiscal year 2008, as a result of the cold test, the small scale test melter confirmed the
design objective was able to be accomplished.
2.8 Establishing basic specification and applicability evaluation for commercial melter
A basic specification of the commercial melter was established, and the applicability to
the practical plant was evaluated.
Fiscal year 2008, it was fleshed out the basic specification of the commercial melter, and
analytical computations about the temperature distribution or the performance of the
particle drain were performed.
vi
3. Conclusions
[1] “K-3” was made the first candidate material of the long-life melter wall. And “NCF690”
was made the first candidate material of the electrode.
[2] The drain technique that controls viscosity was effective for the performance of particle
drain. 60° cone shape bottom was also effective for the performance of the particle drain.
[3] As a result of the cold test, the small scale test melter confirmed the necessary
temperature distribution was able to be accomplished.
[4] It was fleshed out the basic specification of the commercial melter, and the applicability
to the practical plant was suggested.
4. Future view of this technology
In the future, a design, manufacture, cold-test and improvement of the full-scale test
melter is planned. And the commercial melter adopted for TVF is scheduled to set it up by
about 2018. At the same time, basic examinations and engineering developments are
scheduled to continue.
vii
目
次
1. はじめに........................................................................... 1
1.1 事業実施の背景.................................................................. 1
1.2 事業実施の目的.................................................................. 1
1.3 研究開発目標.................................................................... 1
2. 技術開発計画と成果の概要........................................................... 2
2.1 全体技術開発計画................................................................ 2
2.2 技術開発実施体制................................................................ 3
2.3 平成20年度実施計画............................................................ 3
2.3.1 長寿命炉壁に関する技術開発.................................................. 4
2.3.2 電極に関する技術開発........................................................ 4
2.3.3 炉底構造・流下機構に関する技術開発 .......................................... 5
2.3.4 シミュレーション技術の開発整備 .............................................. 5
2.3.5 小型炉試験装置による対策技術成立性評価試験 .................................. 6
2.3.6 実用炉の基本仕様設定と適用性評価 ............................................ 7
3. 成果の概要.......................................................................... 8
3.1 長寿命ガラス固化溶融炉の構造概念と設計目標値 ..................................... 8
3.2 長寿命炉壁に関する技術開発...................................................... 12
3.2.1 侵食試験結果の整理.......................................................... 12
3.2.2 侵食速度の推定式及び侵食量の推定 ............................................ 14
3.2.3 耐火物の熱サイクル時の耐久性と物性評価 ...................................... 15
3.3 電極に関する技術開発............................................................ 19
3.3.1 電極材料の侵食評価試験結果の整理 ............................................ 19
3.4 炉底構造・流下機構に関する技術開発 .............................................. 21
3.4.1 粒子状物質の抜き出し性評価試験 .............................................. 21
3.4.2 堆積ガラスの粘性に対する粒子抜き出し性能評価試験 ............................ 22
3.5 シミュレーション技術の開発...................................................... 24
3.5.1 シミュレーションコードの改良................................................ 24
3.5.2 シミュレーションコードの検証................................................ 25
3.5.3 小型溶融試験装置の運転解析.................................................. 26
3.5.4 実用炉性能評価解析.......................................................... 26
3.6 小型炉試験装置による対策技術成立性評価試験 ...................................... 27
3.6.1 小型溶融炉試験装置の基本性能確認 ............................................ 28
3.6.2 連続処理運転特性確認........................................................ 30
3.6.3 まとめ...................................................................... 31
3.7 実用炉の基本仕様設定と適用性評価................................................ 32
3.7.1 実用炉の概念設計と基本仕様設定 .............................................. 32
3.7.2 実用炉の適用性評価.......................................................... 35
3.8 事業成果全体.................................................................... 37
3.8.1 事業成果.................................................................... 37
3.8.2 外部発表.................................................................... 41
4. まとめ.............................................................................. 42
4.1 全体のまとめと今後の実用化に向けた事業計画 ...................................... 42
4.2 自己評価........................................................................ 42
4.2.1 研究テーマの妥当性・意義に関して ............................................ 42
4.2.2 研究開発目標及び実施計画に関して ............................................ 43
4.2.3 研究開発実施者の事業体制,運用に関して ...................................... 43
4.2.4 計画と比較した達成度,成果の意義に関して .................................... 43
5. 参考文献............................................................................ 44
1. はじめに
1.1 事業実施の背景
再処理施設から発生する高レベル放射性廃液(以下,
「HLW」という)の効率的かつ合理的なガラ
ス固化技術は,核燃料サイクルの確立にあたっての枢要技術と位置づけられる。わが国においては,
独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下,
「原子力機構」という)核燃料サイクル工学研究所ガ
ラス固化技術開発施設(以下,
「TVF」という)において,2006 年 12 月末までに 1 号及び 2 号溶融炉
を用いた開発運転にて,各々実ガラス固化体 130 本及び 100 本の製造実績を有している。わが国の
HLW の固化プロセスに採用されている液体供給式直接通電ジュール加熱型セラミックス溶融炉(以下,
「LFCM」という)は,フランスやイギリスで採用されている金属製炉材を用いた誘導加熱ガラス溶融
炉(以下,
「AVM」という)に比べ,仮焼などの前処理が不要であること及び大型化への適用性を有す
ることに加え,耐火物の高い耐食性により長い設計寿命が設定できるなどの利点が挙げられる。しか
しながら,現在のわが国の LFCM 法による溶融炉の設計寿命は 5 年であることから,定期的な溶融炉
の更新に伴う溶融炉製作,設置に係るコスト負担,大量に発生することが予測される解体廃棄物(TVF
では約 20 トン)の処理処分への負担はもとより,更新時の設備の稼働停止が重要な課題であった。
わが国の核燃料サイクルの確立における枢要技術であるガラス固化技術については,安易に海外
から技術導入を図ることは技術セキュリティ確保の観点から適切ではなく,
これまでに開発してきた
技術開発の成果を基盤として,改善・高度化を図り,国産技術を蓄積することが極めて重要である。
1.2 事業実施の目的
本技術開発は,HLW の処理処分コストの低減などに資するため,ガラス固化溶融炉の設計寿命を現
行溶融炉の 5 年から再処理施設内装機器のそれに匹敵する 20 年に長寿命化することを目的としてい
る。このため,溶融炉の寿命を決定している耐火物及び電極の侵食への対策を講じるとともに,長期
間の運転に伴う粒子状物質の炉底への堆積抑制を図った新たな溶融炉概念を検討し,
長寿命化の実現
の見通しを明らかにする。耐火物の侵食対策としては,溶融炉壁の冷却により耐火物表面に低温高粘
性流体層(以下,
「スカル層」という)を形成させ,侵食抑制を図る「長寿命炉壁構造」の開発を行
う。電極の侵食対策については,電極を容易に交換できるようにする「可換式電極構造」の開発を行
う。粒子状物質の炉底への堆積抑制については,ガラス内の粒子状物質を含有するガラス粘性などの
変化を考慮し,抜き出し性能向上のための「炉底構造・流下機構」について検討を行う。技術開発に
おいては,個別の課題に関する基礎試験や解析評価に加え,溶融炉内の複合的な物理現象を解析する
ためのシミュレーション技術を開発するとともに,
各技術に係る検証のための小型炉試験装置の設計
及び製作,コールド試験を行い,次世代ガラス固化溶融炉としての技術的成立性を検証する。
1.3 研究開発目標
長寿命ガラス固化溶融炉の寿命は,軽水炉再処理プラントの内装設備機器のそれに匹敵する 20 年
を目標とする。
1
2. 技術開発計画と成果の概要
2.1 全体技術開発計画
技術開発目標を達成するための技術開発課題を図 2.1-1 に,技術開発全体フローを図 2.1-2 に,
技術開発全体工程表を表 2.1-1 に示す。
交換可能な電極構
廃
円柱電極
造などの開発
設計条件・運転特性
などのシミュレーシ
ガラスカートリッジ原料
ョン技術開発
間接ヒータ
HLW の組成調査,高
レベル固化ガラスの
円筒外部電極
特性把握
冷却ジャケット
スカル層形成な
炉底・流下機構
底部加熱装置
の技術開発
どによる長寿命
流下ノズル
炉壁の開発
図 2.1-1 長寿命炉の概念(一例)と技術開発課題
・長寿命炉への要件整理と
・長寿命炉壁構造技術開発
炉形式検討
・溶融炉構造の検討及び試験設
・HLWの組成調査
・電極に関する技術開発
備の設計・製作
・高レベル固化ガラスの特性把握
(粘度,電気的特性など)
・炉底流下機構技術開発
・長寿命炉の適用性評価と実用
・シミュレーション
技術開発
炉仕様設定
・検証試験と効果の評価
図 2.1-2 技術開発全体フロー
提案した長寿命炉の概念を具体化するにあたり,求められる機能要件と炉形式を整理し,これら
を実現するために解決すべき技術課題に対して体系的に取り組む。各技術課題については,将来の
MOX や FBR サイクルから発生する HLW やそれらの高減容化(固化ガラス中の廃棄物含有率の増加)に
ついても考慮した。高レベル固化ガラスの特性把握,長寿命炉の主たる技術要素である長寿命炉壁
及び電極に関する技術開発,炉底構造及び流下機構に関する技術開発に係る基礎試験と設計検討,
加えて長寿命炉の設計条件や運転条件を解析的に評価するためのシミュレーションコードの開発整
備を進め,溶融炉構造を検討するとともに技術的成立性を評価していく。
本開発の実用炉への適用については,平成 19 年度に小型炉試験装置を製作した後,平成 20 年度
2
に運転試験を行い,そこで得られた結果と各基礎試験結果並びにシミュレーション解析結果を統合
することにより,長寿命炉の適用性評価を行うとともに,実用炉の仕様を設定する。
表 2.1-1 技術開発全体工程表(予定と実績)
項
目
開発ステップ
平成18年度
平成17年度
平成19年度
基本機能評価
対策技術具体化
平成20年度
対策技術性能評価
実用炉仕様設定
①処理対象固化ガラス組成の設定
(1)高レベル固化ガラスの特性把握
(2)長寿命炉壁に関する技術開発
(3)電極に関する技術開発
②処理対象固化ガラス特性評価(粘性,比抵抗,熱伝導率,比熱など)
①候補材料の選定(静的侵食試験等)
・構造強度評価 ・設計寿命評価(動的侵食試験等)
②スカル層形成制御システムの検討
・炉壁構造の最適化及び運転条件評価
①候補材料の選定(静的通電侵食試験等)
・構造強度評価 ・設計寿命及び廃棄物量評価(動的侵食試験等)
②電極構造及び配置の検討
・電極構造の最適化及び運転条件評価
(4)炉底構造・流下機構に関する
技術開発
(5)シミュレーション技術開発
(6)小型炉試験
①粒子状物質挙動評価試験
・連続処理時抜出し性評価試験
②炉底構造・流下機構の検討
・炉底構造の最適化及び運転条件評価
①3次元解析コードの構築
溶融炉設計仕様の解析評価
①炉形式検討
②小型炉設計
(7)概念設計及び適用性評価
溶融炉の運転特性解析評価
小型炉製作・据付け
小型炉試験
設計目標値検討・実機適用性評価
実用炉仕様設定
2.2 技術開発実施体制
本開発は,原子力機構,株式会社 IHI(以下,
「IHI」という)
,国立大学法人埼玉大学(以下,「埼
玉大」という)の実施体制で行う。
原子力機構と IHI は,わが国における HLW の固化プロセスである LFCM 法の開発を共同で進めた実
績があり,本開発に必要な知見,人材,経験を十分に有するとともに,長寿命構造,耐火物の侵食対
策,電極の侵食対策などに係る特許を共同で出願している。
さらに,
原子力機構では,LFCM 法によるガラス溶融炉を採用した TVF において,
東海再処理工場(以
下,
「TRP」という)から発生する HLW を処理し,ガラス固化体を製造した実績を有しており,本開発
において必要な技術開発能力を有している。IHI は,原子力機構の TVF と日本原燃株式会社のガラス
固化処理施設(以下,「K 施設」という)の設計・製作並びにこれらの溶融炉に関するモックアップ試
験などの実績を有している。
埼玉大はガラス固化関連技術に精通しており,本技術開発の技術的レビューを担当する。
2.3 平成20年度実施計画
平成20年度は本研究開発の最終年度であり,
「長寿命ガラス固化溶融炉」の実現の見通しを示す
ため,各対策技術の成立性を確認するとともに,それらを踏まえた実用炉の概念設計及び適用性評
価を行う。個別実施項目は以下のとおりである。
3
2.3.1 長寿命炉壁に関する技術開発
① 耐火物の設計寿命の評価
1)耐火物の静的及び動的侵食速度の評価
これまでに絞り込んだ候補耐火物について,耐火物の設計寿命評価に反映させるため,静的侵食速
度評価データの整理を行うとともに,溶融炉内のガラスの流動(対流,流下)を考慮した動的侵食試
験により,温度,流速,試験時間などをパラメータとし,ガラスの流動に依存した侵食速度,エロ
ージョンの発生状況などを把握する。
2) 耐火物の長期侵食試験による侵食速度の評価
耐火物の設計寿命評価に反映させるため,温度及びその変化をパラメータとした長期(∼6 ヶ月)
の侵食試験を継続する。
3)耐火物の侵食メカニズムの評価
耐火物の設計寿命評価における予測評価ロジックを整理するため,文献調査などの結果やこれま
での運転実績から発生しうる侵食状態を検討し,上記の静的侵食試験,動的侵食試験の結果を加味
した侵食メカニズムの検討を行う。
4)熱サイクル試験時の耐火物の耐久性と物性評価
耐火物の設計寿命評価に反映させるため,長期にわたり溶融ガラスに接し熱サイクルを受けた材
料は侵食・高温酸化などによる脆化,疲労などの影響を受け,物性・組成が変化しているか評価す
る。
5)耐火物の設計寿命の評価
長寿命ガラス固化溶融炉の想定運転条件を整理するとともに,静的侵食試験の温度及び時間依存
性データに基づく 20 年間の侵食量を外挿評価する。さらに動的侵食試験データによる侵食量の増加
割合の評価と耐熱衝撃性試験の結果から耐用バッチ回数(耐用時間)を評価し耐火物の設計寿命とそ
の変動範囲を整理する。
② スカル層形成制御技術の確立
1) スカル層形成制御条件の評価
スカル層の形成に係る温度条件,材料内温度分布を把握することを目的とした試験を実施し,冷
却空気量などの設計に必要なデータを取得する。
2.3.2 電極に関する技術開発
① 電極材料の設計寿命の評価
4
1)電極材料の静的及び動的侵食速度の評価
これまでに絞り込んだ候補電極材料について,電極材料の設計寿命評価に反映させるため,静的
侵食速度評価データの整理を行うとともに,溶融炉内のガラスの流動(対流,流下)を考慮した動的
侵食試験により,温度,流速,試験時間などをパラメータとし,ガラスの流動に依存した侵食速度,
エロージョンの発生状況などを把握する。
2) 電極材料の長期侵食試験による侵食速度の評価
電極材料の設計寿命評価に反映させるため,温度及びその変化をパラメータとした長期(∼6 ヶ月)
の侵食試験を継続する。
3)電極材料の侵食メカニズムの評価
電極材料の設計寿命評価における予測評価ロジックを整理するため,文献調査などの結果やこれ
までの運転実績から発生しうる侵食状態を検討し,上記の静的侵食試験,動的侵食試験の結果を加
味した侵食メカニズムの検討を行う。
4)電極材料の設計寿命の評価
長寿命炉の想定運転条件を整理するとともに,静的侵食試験の温度及び時間依存性データに基づ
く 20 年間の侵食量を外挿評価する。さらに動的侵食試験データによる侵食量の増加割合の評価結果
から電極材料の設計寿命とその変動範囲を整理する。
2.3.3 炉底構造・流下機構に関する技術開発
① 炉底構造・流下機構の検討
1)抜き出し性能評価試験
実用炉の炉底形状と勾配,ガラス流下モードなどの基本仕様設定に反映させるため,引き続き,
炉壁部及び中央部で温度差を生じさせ,粒子状物質の抜き出し性能を向上させる粘性逆転流下モー
ドの成立性条件の確認を行う。
2)ドレンアウト性能評価試験
実用炉のドレンアウト流下モードの基本仕様設定に反映させるため,粒子状物質の抜き出し性を
向上させる粘性逆流下モードの成立性条件の確認を行うとともに,流下可能な粒状物質濃度や量な
どの範囲と流下条件の関係を評価する。
2.3.4 シミュレーション技術の開発整備
① シミュレーションコードの改良
1)計算の高速化
5
計算時間の短縮を図るため,並列計算手法に対応させるとともに,鏡面境界条件の設定ができる
ように改良を行う。
2)シミュレーションコードのユーザビリティ向上
計算途中での異常停止などが発生した場合に,早期に計算再開のための対応ができるよう,計算
状態を監視し,異常発生を知らせる機能を設ける。
② シミュレーションコードの検証
1)アクリルモデル試験による検証
グリセリンを模擬流体とする透明アクリルモデル試験装置を用いて熱流動状況及び電位分布の観
察を行い,同装置を対象とした計算機シミュレーション結果と比較することで,ニュートン性流体
の熱流動解析機能及び電場解析機能の検証・調整を行う。
2)小型炉試験装置を用いた検証
小型炉試験装置を対象とする計算機シミュレーション結果と,同装置を用いた試験で得られる炉
内温度分布及び粒子状物質堆積状況を比較し,非ニュートン性流体の熱流動解析機能及び粒子挙動
解析機能の検証・調整を行う。
③ 小型炉試験装置の運転解析
1)運転条件の目安設定
計算機シミュレーションにより小型炉試験装置の運転条件をサーベイし,同装置に関する各運転
条件設定値の目安を得る。
2)炉内現象の把握
小型炉試験装置を用いた試験を計算機シミュレーションして炉内状態を把握し,試験での取得デ
ータと組み合わせて現象の理解ができるようにする。
④ 実用炉の運転解析
1)実規模溶融炉の計算機シミュレーションにより,目標とする温度分布形成及び粒子状物質の抜き出
しに関する特性を把握し,実用炉の設計に役立てる。
2.3.5 小型炉試験装置による対策技術成立性評価試験
① 基本機能確認試験
1)溶融基本機能の成立性評価
ガラスカレットを用いた溶融試験を行い,加熱条件や冷却条件などの小型炉試験装置の設計目標
値及び設計根拠の妥当性を確認する。
6
2)粒子状物質対策技術の実現性評価に必要なデータ取得
ガラスカレットを用いた溶融試験を行い,
「炉底低温運転モード」
「粘性逆転流下モード」におけ
る温度コントロール範囲と運転条件との関係を把握する。
3)長寿命化対策技術の実現性評価に必要なデータ取得
ガラスカレットを用いた溶融試験を行い,炉壁及び電極の冷却温度コントロール範囲と運転条件
との関係を把握する。
② 連続処理運転特性確認試験
1)連続溶融処理機能の成立性評価
模擬廃液及びガラス原料を供給する連続処理試験を行い,
「熱上げ」
「原料供給」
「ガラス溶融」
「ガ
ラス流下」
「ドレンアウト」などの一連の運転モードの成立性を評価する。
2)粒子状物質対策技術の実現性評価に必要なデータ取得
模擬廃液及びガラス原料を供給する連続処理試験を行い,粒子状物質の抜き出し特性を評価する。
3)長寿命化対策技術の実現性評価に必要なデータ取得
模擬廃液及びガラス原料を供給する連続処理試験を行い,設計目標値に対する炉壁及び電極の温
度履歴と温度コントロール安定性の評価を行う。
4) 処理能力評価に必要なデータ取得
模擬廃液及びガラス原料を供給する連続処理試験を行い,設計目標値に対する溶融ガラス温度,
レナム部温度及びガラス製造速度との関係を評価する。
2.3.6 実用炉の基本仕様設定と適用性評価
① 実用炉の概念設計と基本仕様設定
長寿命炉の基本炉形式「円柱円筒型電極,円錐型炉底,勾配 60°」に対して,各対策技術の評価
結果を基に実用炉の概念設計を行い基本仕様を設定する。
② 実用炉の適用性評価
実用炉の概念設計結果を基に,設計寿命評価による長寿命対策の実現性,粒子状物質の抜き出し
性能評価による粒子状物質対策の実現性,実プラント適用性,コスト削減効果などを評価する。
7
3.
3.1
成果の概要
長寿命ガラス固化溶融炉の構造概念と設計目標値
平成 18 年度の基本機能比較評価で設定した基本炉形式である
「円柱円筒型電極,円錐型炉底,
勾配 60°」について,長寿命炉の構造概念を具体化するとともに,基礎試験で得られた知見や
シミュレーションコードによる検討結果を参考に,各対策技術に対する設計目標値を整理した。
設計目標値を図 3.1-1 に示す。
8
長寿命化(電極及び金属炉壁)
開発目標
耐火物炉壁の長寿命化 対策技術
対策技術: 炉壁の温度を低温に維持し「スカル層」を形成すること
により侵食を抑制する。また耐侵食性、構造強度、コ
スト面で優れた材料を選定する
①炉壁構造案
炉壁冷却スカル層
冷却なし
●長寿命化
:現行炉の設計寿命 5年→20年(再処理機器相当)
(解体廃棄物量低減,処理処分コスト低減)
○粒子状物質対策
:沈降堆積抑制、抜き出し向上による連続安定運転
○処理能力向上
:現行炉のガラス製造速度約6.5kg/h→8.8kg/h以上
○運転シミュレーション
:運転条件変更による炉内挙動変動の予測
電極及び金属炉壁の長寿命化 対策技術
対策技術: 電極等の消耗部のみを容易に交換できる構造とする。
また耐侵食性、構造強度、コスト面で優れた材料を選
定する
①電極構造:
K-3,CZ
溶融ガラス温度
1200 ℃
40
(850 ℃ ∼ 1000 ℃ )
炉底中央温度
850 ℃以下
炉底炉壁温度
850 ℃以下
NCF690,RS311
円柱内部電極
K-3
CS-5
35
変色層進展速度[μm/d]
電極表面温度
(850 ℃ ∼ 1000 ℃ )
炉壁冷却スカル層
電流密度分布改良
NCF690
廃液
耐火物表面温度
冷却あり
③電極/炉壁材料:
廃液
処理運転時温度分布(目標)
可換型円柱円筒電極
②炉壁構造案
②耐火物材料案
K-3レンガ
炉一体型
対抗平板電極
ガラスカートリッジ原料
ガラスカートリッジ原料
30
円柱内部電極
円筒外部電極
600
侵食速度(μm/日)
長寿命化(耐火物)
間接加熱ヒータ
円筒外部電極
25
20
15
870
10
8
5
1000
0
7.50
900
780
800
耐火物
700
ホットトップ面を維持し、プレ
ナム部の温度を維持
8.00
8.50
9.00 9.50
1/T X 1E4
冷却ジャケット
10.00 10.50
∼H18成果
・炉壁温度低下(スカル層)により侵食速度低減が可能
底部加熱装置
電極消耗部のみ交換
0
0
1
2
3
4
電流密度(A/cm2 )
設計目標値
耐火物
【設計目標値】
冷却ジャケット
【設計目標値】
流下ノズル
内部円柱電極
交換可否:非交換
設計寿命:20年以上
長寿命炉(概念一例)
表面温度:1000℃以下
料:K-3,CZ
200
100
∼H18成果
・円柱円筒電極で1200℃での溶融可能
・炉壁温度低下及び電流密度低減により侵食速度低減が可能
底部加熱装置
材
400
300
高度化炉
流下ノズル
設計目標値
【考え方・根拠】
○侵食速度低減
①炉壁温度を極力低温化さ
せ浸食速度を低下させる
↓
②温度と材料に応じて「浸
食速度+浸食代」を適切に
設定する ↓
NCF690
INCONEL693
RS311
500
基本炉形式 : 円柱円筒型電極,円錐型炉底,勾配60°
交換可否:消耗時交換
設計寿命:5年以上
表面温度:1000℃以下
電流密度:1.0A/cm2以下
材
料:NCF690,RS311
【考え方・根拠】
①電極温度と電流密度を
極力低化させ浸食速度を
低下させる
↓
②NCF690より耐食性に
優れる材料があれば採用
↓
③侵食量のモニタリングを行い
耐火物が健全であれば運転延長
外部円筒電極
金属炉底及びノズル
○割れ防止
①熱衝撃性に強い耐火物
採用
↓
②温度分布とに昇降温速
度を管理し表層剥離を生じ
させる方向の亀裂を発生さ
せない
図 3.1-1
交換可否:非交換
(但し交換可能な構造)
交換可否:非交換
(但し交換可能な構造)
設計寿命:20年以上
設計寿命:20年以上
表面温度:800⇔1000℃
表面温度:1000℃以下
電流密度:通電なし
電流密度:0.3A/cm2以下
材
材
料:NCF690,RS311
長寿命炉の開発目標・対策技術・設計目標値(1/3)
9
料:NCF690,RS311
③温度と電流密度と材料
に応じて「浸食速度+浸食
代」を適切に設定する
↓
④侵食量のモニタリングを行い
電極が健全であれば運転延長
5
粒子状物質対策
粒子状物質対策
開発目標
粒子状物質の抜出し性向上 対策技術
対策技術: 炉壁近傍に堆積している高濃度粒子状物質ガラスの粘性を
相対的に低下させ抜き出しを促進する
①流下モード案
粘性逆転流下モード
直接通電
中央流下モード
高度化炉
粘性逆転流下モード
直接通電中央流下モード
○長寿命化
:現行炉の設計寿命 5年→20年(再処理機器相当)
(解体廃棄物量低減,処理処分コスト低減)
●粒子状物質対策
:沈降堆積抑制、抜き出し向上による連続安定運転
○処理能力向上
:現行炉のガラス製造速度約6.5kg/h→8.8kg/h以上
○運転シミュレーション
:運転条件変更による炉内挙動変動の予測
粒子状物質の沈降堆積防止 対策技術
対策技術: 炉底部の溶融ガラス温度を低温に保持し粘性を上げると
ともに,澱みや低温スポットが生じないよう炉底形状の変
更ならびに温度分布を均一にする。
①粒子状物質元素沈降堆積抑制方策案
②炉底形状案
四角錘型
廃液
中央部:●
1000℃
粒子状物質1.7wt%
粒子状物質元素濃度高→粘性高
・中央部ガラスのみ流下
・炉壁部ガラス残留
粒子状物質元素の
炉底堆積
粘度(Pa・s)
・中央部ガラスの粘性低
・炉壁部ガラスの粘性高
60°(仮定)
処理運転時温度分布(目標)
RuO2:12wt%
・炉底部の炉壁を流下時
8wt% に高周波等で加熱
5wt% ・中央部ガラスは冷却
1E+03
円錘型
45°/53.5°
ガラスカートリッジ原料
1E+04
・炉底ガラス中央部を
流下時に直接通電で加熱
(・炉壁部は加熱できない)
炉底低温運転
流速分布,粘性分布均一化
③炉底勾配案
中央部:●
850℃
粒子状物質1.7wt%
炉壁部:■
1000℃
粒子状物質5wt%
炉壁部:■
850℃
粒子状物質5wt%
(変更なし)
炉底低温運転
0.7wt% ・中央部ガラスの粘性高
・炉壁部ガラスの粘性低
(粘性逆転)
流下時温度分布(目標)
溶融ガラス温度
1200 ℃
溶融ガラス温度
1200 ℃
電極表面温度
(850 ℃ ∼ 1000 ℃ )
電極表面温度
(850 ℃ ∼ 1000 ℃ )
耐火物表面温度
(850 ℃ ∼ 1000 ℃ )
耐火物表面温度
(850 ℃ ∼ 1000 ℃ )
炉底中央温度
炉底中央温度
850 ℃ 以下
850 ℃ 以下
炉底炉壁温度
850 ℃ 以下
炉底炉壁温度
1000 ℃
1E+02
・炉壁部ガラス流下促進
1100 ℃
1000℃
900℃
850℃
1E+01
0.0008
0.0009
0.0010
0.0011
0.0012
1200
粒子状物質元素堆積部の
クリーンアップ
1100
0.0013
温度(1/T)
底部加熱装置
∼H18成果
・粒子状物質8wt%でも1000℃に加熱し粘性を下げれば抜き出し可
温度℃
1000
TVF設計条件
・ガラス製造量 :300kg/バッチ
・ガラス製造速度:8.8kg/h
・ガラス製造時間:34h/バッチ
高粘性を維持し白金族元素の
沈降堆積を抑制
900
冷却ジャケット
流下ノズル
流下
800
設計目標値
炉壁・炉底低温運転
【考え方・根拠】
①直接通電中央流下モードで 粒子状物質抜き出し促進(定常)
は溶融炉中央部ガラスが優先
粒子状物質5wt%濃度程度は100%
的に抜き出され,炉底壁部に高 抜き出し可能。連続処理でも堆積傾
濃度の粒子状物質は残留
向なし。
↓
②単独であれば高濃度粒子状
【流下時の条件】
物質ガラスの流下は可能
↓
炉壁粘性:(<200Pa・s)
③温度分布をコントロールする
中央粘性: +50Pa・s
粘性逆転流下モードを適用する
ことにより相対的に炉壁近傍の
炉壁温度:1000℃以上
ガラスの粘性を低くする
↓
中央温度:850℃以下
④炉壁粘性を低下させることによ
流下モード:粘性逆転流下モード
り炉壁近傍の高濃度ガラスを流
下させ残留を防止できる
図 3.1-1
炉壁加熱
28h
1バッチ処理時間
0h
3h
3h
設計目標値
長寿命炉(概念一例)
基本炉形式 : 円柱円筒型電極,円錐型炉底,勾配60°
堆積は連続処理でも粒子状物
質濃度5wt%以下に抑制
堆積偏在対応(非定常)
濃度∼10wt%、堆積物50kgでもドレンアウト可能
【通常処理時の条件】
炉底粘性分布:±100Pa・s
炉壁粘性:(<500Pa・s)
炉底流速分布:顕著な差なし
炉壁温度:1000℃以上
炉底温度分布:850±50℃
流下モード:炉壁加熱ドレンアウトモード
炉底形状
長寿命炉の開発目標・対策技術・設計目標値(2/3)
10
:円錐型
【考え方・根拠】
①粒子状物質の堆積の主
要因は「沈降」のみならず
「高粘性部(低温スポット)」
と対流における「澱み」
↓
②谷部等のない炉底形状
を採用し温度分布をコント
ロールすることにより低温
スポットや澱みを生じさせ
ず堆積を防止する
○長寿命化
:現行炉の設計寿命 5年→20年(再処理機器相当)
(解体廃棄物量低減,処理処分コスト低減)
○粒子状物質対策
:沈降堆積抑制、抜き出し向上による連続安定運転
●処理能力向上
:現行炉のガラス製造速度約6.5kg/h→8.8kg/h以上
●運転シミュレーション
:運転条件変更による炉内挙動変動の予測
処理能力向上 対策技術
対策技術: 電極の熱伝導によりプレナム部の
温度を維持し処理能力を向上させる。
仮焼層伝熱のみ
電極等によるプレナム部
伝熱量増大
電極上部挿入
温度分布
処理能力
リファレンス
(現行TVF2号)
円柱円筒
★2
★2
対策技術: 各機能について実験データ等によりモデル構築・検証
を行った3次元解析コード(熱解析,流動解析,電場解
析,粒子流動解析機能の連成)を開発する。
3次元
連性解析コード
特になし
仮焼層におけ
る化学挙動
廃液
高度化炉
(過去の円柱円筒電極型炉データ)
(JCEM-Eデータ)
自然対流解析
(JCEM-E)
★1
0.35
0.66
温度分布解析
ガラスカートリッジ原料
2
プレナム部温
度★2
約670℃
(平均660℃)
耐火物表面
(傾斜面)★3
約940℃
約860℃
炉底部ガラス
温度★1
約960℃
約790℃
―
炉底部ガラスが最も冷え易い
プレナム温度が最も高い
全体的に耐火物温度が低い
徴
現行炉
(TVF2号炉)
●
規格化
★1 ★3
シミュレーション 対策技術
●
6.5
5.6
(kg/h)
★3
約480℃
(平均470℃)
特
溶融炉シミュレーション技術の開発
開発目標
処理能力向上
発熱分布評価
溶融表面積(m)
ガラス対流解析
高度化炉
現行炉
(TVF2号炉)
粒子状物質粒子
挙動解析
9.8
電流密度評価
粒子状物質分布を
考慮した電位
分布解析
2
単位処理能力(kg/h-m )
∼H18成果
・プレナム温度480℃→670℃。処理能力向上の見通し。
粒子分布解析
電位分布解析
設計目標値
底部加熱装置
設計目標値
冷却ジャケット
流下ノズル
【考え方・根拠】
①外部電極による熱伝導と
間接加熱ヒータによりプレナ
ム部への熱伝導量を増大さ
せる
↓
②原料供給速度に影響さ
れず任意のプレナム温度
で管理
流下・液位変動
16.0
プレナム部電熱量:
Q>主電極電力×20%以上
プレナム部温度 : 450℃以上
長寿命炉(概念一例)
基本炉形式 : 円柱円筒型電極,円錐型炉底,勾配60°
溶融ガラス温度:1200℃
粒子状物質元素挙動の予測評価
:堆積傾向
:抜き出し率
:主電極間抵抗
:抜き出しプロファイル
運転シミュレーター(予測評価)
:温度分布,流速分布,
電流密度分布,粘性分布,
粒子状物質粒子分布
溶融表面積 :0.6∼1.0m2
図 3.1-1
長寿命炉の開発目標・対策技術・設計目標値(3/3)
11
3.2
長寿命炉壁に関する技術開発
耐火物炉壁に使用する材料について,これまでに得られた侵食試験データに加えてさらに
長期間の侵食試験を行い,これらの結果及び文献に基づいて侵食速度の推定式を立てるとと
もに,ガラス固化溶融炉の供用期間にわたる侵食量を推定した。
また,熱サイクルによる材料への影響についても,昨年度に引き続いて候補材料に関する
試験行い,それらの結果に基づいて耐火物材料選定について考察した。
侵食速度の把握
材料の選定
寿命の推定
侵食試験
・材料の比較
<浸漬(静的侵食)試験>
・温度依存性の把握
・時間推移の把握
<動的侵食試験>
・ガラス流動による影響の把握
・白金族元素含有・非含有
・高含有ガラス
・HB燃料組成 等
・温度、温度サイクル
・液位変動 等
使用条件の変化
溶融ガラスの種類
材料の選定
寿命推定
物性値
耐熱衝撃性の比較
耐熱性に関する試験・測定
<スポーリングテスト>
・材料の比較
<弾性率測定、破壊靱性測定(IF法)>
・熱サイクルによる劣化
図 3.2-1
3.2.1
ガラスの物性
材料の物性
粘性
電気伝導率
化学組成
気孔率
(焼成条件)
耐火物炉壁に関する技術開発フロー
侵食試験結果の整理
(1) 侵食速度の温度依存性について
溶融ガラス温度 700℃∼1300℃,2 週間の浸漬試験で
得られた,1200℃における K-3,CS-5,Z(CZ),NZ180
の試験後の試料断面を図 3.2-2 に示す。
K-3,CS-5,
NZ180
の表面には溶融ガラスの侵入による変色を呈する層が
見られた。この層は一般に反応層(相)と呼ばれ,溶融
ガラスと耐火物の物質交換が行われ,侵食が進行する
部位である。したがって,この部位の大きさ(深さ)は
(a) K-3, x 50
(b) CS-5, x20
反応の進行に影響があると考えられる。
K-3 および CS-5
についてこの反応層の厚さの対数と温度の逆数(×104
で示した)の関係を図 3.2-3 に示す。K-3 では 700℃に
おいて減肉及び反応層が見られず,800∼1200℃の間で
反応層の厚さの対数( ln d )が,温度の逆数( 1 T )にほ
ぼ比例していることがわかる。この結果より,溶融ガ
ラスに対し耐火物表面に現れる反応層厚さの温度依存
性は次式で表現されるアレニウス型であると考えられ
る。
d (T )
A exp
Ea
RTk
(3.2-1)
12
(c) CZ, x50
(d) NZ180, x50
図 3.2-2 耐火物表面の様子
(浸漬試験:1200℃,14 日後)
ここで,d (T ) は侵食量(あるいは侵食速度),A は比例係数,E a は活性化エネルギー,R は
気体定数, Tk は絶対温度を示す。
また,これから求められる K-3 の 800∼1000℃,CS-5 の 700∼1000℃の結果から得られる活
性化エネルギーは,それぞれ 26 及び 16 kcal/mol であり,Na2O-SiO2 系のガラスにおけるアル
カリ元素の移動に伴う活性化エネルギー(15∼20 kcal/mol)[1]と同程度であった。
また,1000∼1300℃における侵食速度を図 3.2-4 に示す。この結果,アルミナ−クロミア
系の耐火物の K-3 が最も耐食性に優れ,1200℃まで有意な侵食は見られなかった。高ジルコ
ニア質の Z はこれに次いで良好な耐食性を示しており,アルミナ−ジルコニア耐火物の CS-5
がその次であった。
1000
100
0.25
0.20
K-3
CS-5
Z
NZ
0.15
0.10
0.05
温 度[℃]
1200
1100
10
0.30
侵食速度 [mm/day]
反応層の厚さ [mm]
K-3
CS-5
1000
7.0
900
8.0
800
9.0
700
0
1000
10.0
1100
温 度 [10 x(1/T)]
図 3.2-3
1200
温 度 [℃]
-4
反応層厚さの温度依存性
(K-3,CS-5)
図 3.2-4
侵食速度の温度依存性
(2) 侵食速度の時間推移について
700∼1000℃で K-3,
CS-5 を対象にした 2 週間から最長 6 ヶ月にわたる浸漬試験では,1000℃,
3 ヶ月での CS-5 を除き顕著な減肉は見られなかった。そのため,上記と同様に反応層厚さに
より侵食速度を評価した。K-3 及び CS-5 の各々の変色層厚さと時間の平方根( t )の関係を
図 3.2-5 に示す。K-3 ではいずれの温度においても直線で近似できるが,CS-5 では時間とと
もに変色層厚さの進展速度が低下するため,直線的な近似により保守的な評価となる。
上記の結果,耐火物の変色層の厚さは,時間の平方根( t )に比例することから,拡散現象
での拡散距離を示す次式のように記述できる。
x
Dt
(3.2-2)
( x : 拡散距離, D : 拡散係数, t : 時間)
(3) ガラス流動の侵食への影響
溶融炉内のガラスの流動を考慮し,耐火物試料片を回転させながら溶融ガラスに2週間浸
漬した侵食試験での侵食量を表 3.2-1 に示す。この結果,侵食後の表面の状態や K-3 表面に
生成する変色層の状態などについて,静的な侵食試験の状態と比べ大きな差異は見られなか
った。また,1200℃における侵食速度は静的な侵食試験の侵食速度と大きな差異は見られな
かった。一方,CZ は 1200℃で,CS-5 は 1000℃及び 1200℃で回転数に応じて侵食量が増加す
13
1300
る傾向が見られた。但し,溶融炉内の自然対流の速度は数 mm/s で,本試験での数 rpm に相当
することから流動の影響は無視できる。
表 3.2-1
機械的侵食試験における侵食量
温度[℃]
耐火物種類
K-3
1000
CZ
CS-5
K-3
1200
CZ
CS-5
回転数[rpm]
3.2.2
105
240
375
157
265
569
10
侵食量[μm]
72
340
851
162
274
679
30
66
278
941
113
324
731
40
侵食速度の推定式及び侵食量の推定
(1) 文献に基づく侵食速度推定式
文献[3],[4]によれば,溶解・拡散が支配する場での耐火物の侵食速度の推定には,下式
(3.2-3)が合致する。
dx D S (C 0
=
dt
C)
(3.2-3)
ここで, x は侵食量, t は時間, C 0 はガラス中での耐火物成分の飽和量, C はガラス中で
の耐火物成分の濃度, S は反応面積,
は反応層厚さ, D は拡散係数を示しており,拡散係
数 D は,温度依存性を含めて次のように表すことができる。
D = D0 exp
E
RT
(3.2-4)
ここで,D0 はある温度における拡散係数に相当する化学反応の頻度因子を表し,E は活性
化エネルギー, R は気体定数, T は反応系の温度を示す。したがって,拡散が支配する系で
は ln D ( log x などでもよい)が 1 T の一次関数で表すことができ,その傾きが E に相当し,
切片より D0 が得られる。上記の式を元に溶融ガラス中の組成(Na,Ca などの濃度によって決
まる塩基度),炉の特性によって決まる各種パラメータを物理量 x1 , x 2 ,・・・・・・の関数 y1 ,
y 2 ,・・・・・・として加えると次のようになる[5]。
dx
= D0 exp
dt
= exp
E S (C 0
RT
C)
(3.2-5)
E
+ Ay1 ( x1 ) + By 2 ( x 2 ) +
RT
(3.2-6)
また,実験室においては,耐火物試料に回転を与えた場合,回転速度と損傷(侵食)量は
(3.2-7)式の関係があり,ガラス溶融炉内の対流,流下の速度の平方根に比例することが知ら
れている[6],[7]。
d( , T )
B D2 3
16
12
(3.2-7)
C
14
ここで, B は比例係数, D は拡散係数, は動粘度,
は回転速度, C は耐火物材料を
構成する物質の材料内濃度と溶融ガラス中の濃度の差を示している。
(2) 侵食試験に基づく侵食速度推定式の検討及び侵食量の推定
既に示した侵食試験に基づく侵食速度の温度依存性は(3.2-5)式と同様であり,耐火物の侵
食は同式が適用される拡散現象が支配的であると判断できる。また,動的侵食試験により溶
融炉内の流動速度は侵食速度に殆ど寄与しないことがわかったことから,(3.2-7)式について
は無視できる。
一般に拡散方程式(3.2-5)を解くと,時間 t と侵食量 x は式(3.2-2)のように記述できる。し
たがって,
ある温度における侵食量は,
(3.2-4)式に図 3.2-3 より求めた活性化エネルギー(K-3
で 26,CS-5 で 16 kcal/mol),頻度因子,温度を代入して拡散係数を求め,それを(3.2-2)式
に用いることで求めることができる。あるいは,図 3.2-5 より直接的に拡散係数を算出する
ことができる。
後者の方法で侵食量を評価すると,900℃における外挿線より K-3,CS-5 の拡散係数は各々
DK-3=2.43×10-10,DCS-5=4.81×10-10 [cm2/s]であり,この拡散係数を用いて年間 300 日,20 年
間使用した場合の変色層の厚さを求めると,K-3 では約 3.5mm,CS-5 では約 5.0mm であった。
このことから,静的な環境では 5mm 程度の腐食代でも 20 年間の使用に耐えられえる可能性が
示された。なお,個々で得られた拡散係数は,Na2O-SiO2 系のガラスにおけるアルカリ元素の
拡散係数に近い値であった[2]。
侵食試験では,いずれも反応層の厚さを侵食量に見立てた模擬的な数値であるため,安全
側の評価となっている。
3.2.3
耐火物の熱サイクル時の耐久性と物性評価
(1) スポーリングテスト
耐火物内部の温度
が電気炉温度に近
くなるまでの時間
電気炉温度 耐火物温度
K-3,CS-5,CZ について,
「JIS 2657 耐火
耐火物を
炉外へ取り出し
(強制空冷)
れんが及び耐火断熱れんがのスポーリング試
験方法」を参考に,次の2種の加熱・冷却条
件でスポーリングテストを行った。これらの
電気炉
昇温
保持
15分
耐火物を
電気炉へ挿入
保持
15分
冷却
15分
耐火物を
電気炉へ挿入
このサイクルの繰り返し
温度条件を図 3.2-7 に示す。
(a) 温度条件 1
[条件1]
:所定の温度に保持されている電気
自然放冷
耐火物温度
電気炉温度
炉に耐火物試料を挿入。冷却の際には電気炉
から取り出して送風機による強制空冷。
[条件2]
:予め電気炉に耐火物試料を挿入し
電気炉+耐火物
昇温
保持
15分
冷却
15分
電気炉+耐火物
昇温
保持
15分
このサイクルの繰り返し
ておき,電気炉を昇温。冷却は自然放冷。
表 3.2-2 に割れ・欠けの発生状況を示す。
図 3.2-7
(b) 温度条件 2
スポーリングテストの温度条件
条件 1 では,CZ>CS-5>K-3 の順に耐熱衝撃
性が高い傾向が示された。一方,条件 2 では,10 回の熱サイクル後において,全ての材料に
ついて,破断はもとより,亀裂も生じなかった。長寿命炉で想定される温度,熱サイクル条
件は本試験での条件2に近いものであり,いずれの耐火物でも適用できる見通しを得た。
15
表 3.2-2 耐火物の耐熱衝撃試験結果
温度条件
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
耐火物
K-3
△
△
×
条件 1
1100℃×15
分
CS-5
△
△
△
△
△
△
×
炉外冷却×15 分
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
CZ
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
K-3
条件 2
1100℃×15 分
CS-5
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
800℃×15
分
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
CZ
評価: ○:亀裂などの外観上変化なし,△:亀裂が見られる,×:脱落などにより試験終了
(2) 破壊靭性測定試験
K-3 及び CZ 試料に対して,熱サイクルの繰り返しによる破壊靱性の変化を測定した。熱サ
イクルの温度条件は,2 時間で温度を 1200℃まで上昇させ,1 時間保持した後,3 時間の放冷
を1サイクルとした。
本試験で得られた破壊靱性及び破壊靱性算出のために測定したかさ密度を図 3.2-8 に示す。
CZ は膨張のため,熱サイクルに伴ってかさ密度が低下する傾向が見られ,30 サイクルでは強
度測定ができなくなるほど脆化した。また,1200℃に保持した場合,かさ密度の低下は見ら
れなかったが,破壊靱性は約 25%低下した。一方,K-3 は 80 回の熱サイクルを与えても,か
さ密度,破壊靱性ともに変化が見られなかった。
CZ, 1200℃, 168時間保持
K-3 かさ密度[g/cm3]
K-3 破壊靭性[MPa]
CZ かさ密度[g/cm3]
CZ 破壊靭性[MPa]
6.0
4.0
5.00
4.00
3.0
3.00
測定不能
(試料破損のため)
2.0
K-3, 1200℃,
168時間保持
1.0
2.00
かさ密度[g/cm3]
破壊靭性[MPa]
5.0
6.00
1.00
0.0
0
20
40
60
0.00
80
熱サイクル数[回]
図 3.2-8
熱サイクル試験後の破壊靱性及びかさ密度
(3) 熱間・冷間曲げ試験
K-3,CZ,CS-5 試料に対して,熱サイクルの繰り返しによる冷間曲げ強さを測定するととも
に材料温度に対する熱間曲げ強さを測定した。
本測定は,JIS R 2213(1995)及び JIS R 2656(1995)に準拠し,曲げ試験を行う際に室温か
ら 600∼1200℃まで温度を上昇し,保持した。また,曲げ強さに関する熱サイクルの繰り返し
の回数,熱間温度などとの相関を確認するため,K-3,CZ,CS-5 について電気炉内で 0∼150
16
回の熱サイクルを与えた。
図 3.2-9 に CZ,K-3 及び CS-5 の熱サイクル後の曲げ強さを示す。CZ は熱サイクル 30 回で
試料に割れが生じたため測定ができなくなった。K-3 は熱サイクル 50 回と 80 回の間に低下傾
向が見られ,CS-5 は一旦上昇した後に徐々に低下したが,80 回時点でも熱サイクルを与えな
い状態よりも大きな値であった。
図 3.2-10 に CZ,K-3 及び CS-5 の熱間曲げ強さを示す。CZ 及び CS-5 は室温から 1200℃へ
温度が上昇するにつれて低下する傾向が見られた。一方,K-3 では 800,1000℃で若干の上昇,
1200℃での下降が見られたが,変動の幅は大きな値ではなかった。また,室温での曲げ強さ
に比べ,1200℃で 168 時間保持した場合,CZ では約 60%,K-3 では約 30%低下することが確認
された。
100
100
K-3
CZ
CS-5
80
曲げ強さ[MPa]
曲げ強さ[MPa]
80
60
40
20
K-3
CZ
CS-5
60
40
20
試料破損
0
0
0
20
40
60
80
100
0
200
熱サイクル数[回]
図 3.2-9
400
600
800
1000
1200
温 度[℃]
熱サイクル後の曲げ強さ
図 3.2-10
耐火物材料の熱間曲げ強さ
(4) 検討・考察
一般にジルコニア質耐火物を含む耐火物の多くは,温度の上昇に伴い熱膨張し,温度の下
降に伴い可逆的に収縮する[9],[10]。ジルコニア質耐火物は図 3.2-11 のように[11],約 1000℃ま
で温度の上昇に伴い直線上に膨張が見られるが,1000℃から 1200℃にかけて膨張率が低下し,
1200℃からさらに膨張する。これは,1000℃以下では結晶構造が単斜型であり,1000℃から
1200℃にかけて徐々に正方型に変化し,1200℃以上では組織全体が正方型になるため,転移
点付近で膨張率が低下するためである。また,約 1500℃から温度を下降すると,上昇時の曲
線とは異なる傾向が見られ,温度上昇時,下降時の膨張率が合致しない場合,耐火物内部に
膨張が残留する。図 3.2-12 に 10℃/分で 1500℃まで温度を上昇させた際の温度上昇回数と
残留膨張率の関係を示す[12]。
ジルコニア質耐火物の CZ は 5 回の熱サイクルで約 2.0%の残留膨張率が見られ,徐々に上昇
する傾向が確認される。これらの傾向より,1000℃以上の結晶の転移が行われる領域でジル
コニア質の耐火物を使用する場合,強度が低下する可能性が考えられ,使用上十分に注意す
る必要がある。
K-3 のようなクロミア−アルミナ質耐火物の場合,高温でアルミナ(Al2O3)が軟化すること
や,侵食試験においては溶融ガラスと接する部位で Al2O3 が溶融ガラスへ流出する現象が見ら
れるが,
K-3 は Al2O3 粒子より粒子径の大きな Cr2O3 粒子により結晶の骨格を構成しているため,
熱サイクルによる強度の低下は比較的少ないと考えられる。
17
以上より,侵食試験に基づく寿命推定式を確立するとともに,温度・熱サイクルを与えた
耐火物材料の耐久性に関するデータが得られた。侵食速度は反応層における評価であり,安
全側の評価となったが,想定される温度域で十分な寿命が得られる可能性が示された。スポ
ーリングテストの結果では,急激な温度変化に対し,材料間の差異は見られたが,緩慢な温
度変化については十分な耐性を持っていることが示された。現行の TVF 溶融炉では K-3 が採
用されており,実用上の運転においても,十分な耐性があることが示されている。ただし,
ジルコニア質の場合,熱サイクルによる残留膨張があることから,熱サイクルを受ける部位
線膨張率[%]
では使用を避ける必要がある。
温 度 [℃]
図 3.2-11 ジルコニア質,AZS 系耐火物の
線膨張率変化(サンゴバン TM 社カタログより)
18
図 3.2-12
ジルコニア質耐火物の残留膨張率
3.3
電極に関する技術開発
電極に使用する材料について,これまでに得られた侵食試験データに加えてさらに長期間
の侵食試験を行い,ガラス固化溶融炉の供用期間にわたる侵食量を推定した。
3.3.1
①
電極材料の侵食評価試験結果の整理
通電環境における侵食速度
電流密度を長寿命炉基本設計にて設定した 0.5A/cm2 として 1 週間の通電侵食試験を行った。
NCF690 及び RS311 の溶融ガラス温度に対する侵食速度を図 3.3-1 に示す。溶融ガラス温度の
上昇に伴い侵食速度も上昇し,溶融ガラス温度 1000℃で両者は 0.006∼0.007mm/day であった。
一方,1100℃では NCF690 の侵食速度が急激に増加するのに対して,RS311 ではわずかな増加
であったが,
さらに 1200℃になると NCF690 よりも RS311 の侵食速度が増加する結果となった。
最大侵食速度(mm/day)
0.025
0.020
NCF690
RS311
0.015
0.010
0.005
0.000
900
1000
1100
1200
溶融ガラス温度(℃)
1300
図 3.4-9 溶融ガラス温度に対する侵食速度
(電流密度:0.5A/cm2,通電時間:1 週間)
②
非通電環境における侵食速度
浸漬させた溶融ガラス温度に対する NCF690 及び RS311 の侵食速度を図 3.3-2 に示す。通電
状態の場合と同様に溶融ガラス温度の上昇に伴い侵食速度も上昇する傾向を示した。また,
侵食速度は 0.002∼0.011mm/day であり,
通電時における侵食速度より遅い傾向が確認された。
図 3.3-2 溶融ガラス温度に対する侵食速度
(電流密度:0A/cm2,浸漬時間:1 ヶ月)
③ ガラス流動による侵食への影響
現行炉における溶融ガラスの自然対流の速度は,速いところで 10-3m/s 程度である。平成
20 年度は,動的侵食試験装置を使用して,この対流速度の 10∼40 倍の速さに相当する回転速
19
度にて,溶融ガラス温度 1200℃,試験期間 1 ヶ月の試験を実施した。その結果,この速度域
では,耐火物の場合と同様にガラス流動の影響は確認されず,浸漬試験における侵食量と同
程度となった。したがって,電極侵食に対する自然対流の影響は無視できる。
④
寿命評価
図 3.3-1 より,電極の温度を 1000℃に制御できれば,NCF690 及び RS311 の侵食速度は
0.007mm/dsy 未満となり,年間稼働日数を 300 日として 20 年の供用期間中の侵食量は 42mm
未満と推定できる。また,電極の制御温度を 1100℃とした場合には,RS311 では 1000℃の場
合と同等であり,NCF690 では 0.015mm/day の侵食速度で 90mm となる。
炉底材料として金属の NCF690 又は RS311 を適用した場合には,図 3.3-2 より炉底温度が
1000℃未満であれば,
侵食速度は 0.002mm/day 未満となり,
20 年の供用期間中の侵食量は 12mm
未満と推定できる。
20
3.4
炉底構造・流下機構に関する技術開発
長寿命溶融炉における粘性逆転流下モードなどの粒子状物質の抜き出し性能向上対策につ
いて,円錐 60°勾配るつぼを用いた実験室規模の試験を実施し,対策技術の成立条件を確認
した。
3.4.1
粒子状物質の抜き出し性評価試験
これまでの基礎試験より,5∼8wt%の白金族元素を含有するガラスは,1000℃程度まで加熱
すれば流下ができることを確認している。これを受けて,炉底及び壁面部に粒子が堆積し,
粒子を高濃度に含み粘度が高い領域(以下,
「堆積ガラス」という)が形成された場合に,そ
の抜き出しを促進する方法として粘性逆転流下モードの適用を検討してきた。
炉内に保持した溶融ガラスを流下する際の,炉底及び壁面部の堆積ガラスに関わる炉内流
動は,流下前の炉底部の加熱方法に応じて次のような流動が形成されることを期待している。
炉底領域全体を一様に
空冷
空冷
加熱する均一加熱流下モ
ードでは,図 3.4-1 に示
すように堆積ガラスは粒
濃度高
子の影響で粘性が高く,
中央部のガラスに比べて
壁
面
加
熱
流れ難い。一方,粘性逆
転流下モードでは,加熱
図 3.4-1
均一加熱流下モード
図 3.4-2
により壁面部の堆積ガラ
粘性逆転流下モード
6
粘性逆転流下モード
スの粘性を低下させると同時に中央部のガラスを冷却して
性が向上し,堆積ガラスがよく排出される。
これらの炉内流動予測に基づくと,それぞれの流下モー
ドにおける流下ガラス中の粒子状物質の濃度プロファイル
は,図 3.4-3 のようになることが推定される。均一加熱流
粒子 状物質 濃度(wt% )
粘性を高めることで,図 3.4-2 に示すように壁面部の流動
5
4
3
2
下モードでは,ノズル直上部にあった堆積ガラスが流出し
1
た後に粒子濃度が低い中央部のガラスが優先的に流れ出て
0
急激な濃度低下を示すのに対し,粘性逆転流下モードでは,
均一加熱流下モード
0
250
流下重量(g)
500
粘度を低下させた壁面部の高濃度ガラスが流下するため濃
図 3.4-3 流下時濃度プロファイル
度低下が緩やかになることが予想され,炉内の流動状況の
(推定)
違いがこのように濃度プロファイルに反映されると考えら
φ120mm
れる。
そこで本試験では,通常の連続処理における均一加熱流
105mm
下モードと粘性逆転流下モードによる粒子状物質の抜き出
し性能を上記予測に基づいて比較することとし,るつぼ内
φ10mm
に溶融ガラスを保持した状態でガラスの抜き出し及び追加
溶融を 3∼4 回繰り返す試験を行った。ガラス中の白金族元
21
図 3.4-4 流下試験用るつぼ
素粒子(RuO2)濃度は 2wt%とし,図 3.4-4 に示すφ120mm の円錐 60°勾配るつぼを使用した。
試験で得られた各加熱モードでの流下ガラス中の RuO2 濃度プロファイルをそれぞれ図
3.4-5,6 に示す。両モードを比較すると,粘性逆転流下モードでは流下中期で比較的高い RuO2
濃度となっており,推定した濃度プロファイルと同様の傾向になることを確認できた。また,
ドレンアウト後の RuO2 の抜き出し率は,均一加熱流下モードで約 97wt%,粘性逆転流下モー
ドで 100wt%であった。これらの結果から,円錐 60°勾配炉において粘性逆転流下モードを適
用することが,粒子状物質の抜き出し性能を高めるのに有効であることを確認できた。
6
6
RuO2 濃度(wt%)
RuO2 濃度(wt%)
1バッチ目
2バッチ目
3バッチ目
4
2
1バッチ目
2バッチ目
3バッチ目
4バッチ目
4
2
0
0
0
250
流下重量(g)
500
図 3.4-5 均一加熱流下モード
流下時濃度プロファイル
0
250
流下重量(g)
図 3.4-6 粘性逆転流下モード
流下時濃度プロファイル
3.4.2 堆積ガラスの粘性に対する粒子抜き出し性能評価試験
前項で粒子抜き出し性能の向上に対する有効性を確認した粘性逆転流下モードについて,
炉壁温度の目安を得るために,堆積ガラスの粘度と粒子抜き出し性能との関係を,以下の試
験により把握した。
前項と同様にφ120mm の円錐 60°勾配るつぼを使用し,炉底のノズル上部に堆積ガラスを
模擬して,2000Pa・s(条件 1), 500Pa・s(条件 2)
,または 100Pa・s(条件 3)となるよう粒
子状物質濃度を調節したガラスを配置し,
その上部に 200Pa・s のガラスを配置した状態から,
粘性逆転流下モードにてるつぼ内の全てのガラスを自然流下させた。
これによる粒子状物質の抜き出し率は,
条件 1 で 90%,
条件 2 では 98%,
条件 3 では 100%,
であった。このことから,堆積ガラスの粘度を小さくすることが抜き出し性能向上に有効で
あるといえる。ここで,白金族元素(NM)濃度が 7wt%のガラス粘度が条件 1∼3 のガラス粘度と
同じになる温度は,図 3.4-7 に示すようにそれぞれ 800℃,900℃,1000℃である。
以上の結果から,白金族元素濃度が 7wt%程度のガラスが炉底及び炉壁部に堆積した場合で
も,壁面部を 1000℃に加熱し,堆積ガラスの粘度を中央部のガラスの粘度に対して同等以下
にすることで,堆積したガラスを効果的に抜き出すことが可能となる見通しを得た。
22
500
10000
粘 度 (Pa・s )
条件1
中央部:★
1000
条件2
条件3
100
NM:7wt%
NM:1wt%
中央部ガラス
炉壁部:▲
10
800
900
1000
温度(℃)
図 3.4-7 温度と粘度の関係
23
1100
3.5
シミュレーション技術の開発
平成 19 年度のコード開発段階において,ガラス固化溶融炉のシミュレーション計算には実
体系の十倍程度の計算時間を要していたが,シミュレーションコードの計算速度を向上させ
る方策として,並列計算技術を導入するとともに,対称境界条件での計算ができるように改
良した。この計算速度向上により,複数条件の比較計算や長期にわたる運転のシミュレーシ
ョンに要する時間短縮を図ることができた。
一方,本コードを用いた計算の信頼性を確認するため,流体にグリセリンを用いた透明ア
クリル製のスモールスケールモデル物理状態データの取得並びに小型炉試験装置の試験運転
シミュレーションと実際の運転データの比較を行った。
また,本コードを利用して小型炉試験装置内の流動状況推定及び実用炉の寸法での粒子抜
き出し特性に関するシミュレーション計算を行った。
3.5.1 シミュレーションコードの改良
(1)並列計算技術の導入
本シミュレーションコードでは,計算対象の体系を無数の要素に分割し,各要素又は各要
素間の物理現象を計算している。並列計算は,これらの要素を複数のグループに分け,それ
ぞれのグループに関する計算を別々の CPU に割り当てて同時に計算することで全体の計算時
間を短縮する技術である。図 3.5-1 に並列計算の概要図を示す。ここで導入した並列計算手
法では,各 CPU の計算負荷のばらつきによる CPU の待機時間を少なくするために,相対的に
計算負荷が大きい流動領域(溶融ガラス及びプレナム雰囲気)と,計算負荷が小さい固体領
域(耐火物,電極など)の配分が均等になるようにした。
この並列化技術の導入による効果は,計算体系要素数と並列 CPU 数によって異なるが,例
えば約 30 万要素の体系を 4CPU で計算した場合,1CPU の場合に比べて計算時間を 1/2.8 に短
縮できた。
なお,ここで利用できる CPU は,単一又は複数の CPU を搭載する PC の何れも連携させるこ
とができる。また,マルチコア CPU の各コアに計算を割り当てることも出来るが,この場合
は高速化の効果は殆ど無かった。
(2)対称境界条件での計算対応
計算対象の形状及び境界条件が対称性をもっている場合,対称面を設定してその片側のみ
を計算対象とすれば,計算要素数を大幅に減らすことができ,計算時間を短縮することがで
きる。対称境界条件の概要を図 3.5-2 に示す。
この計算手法において,熱流動及び粒子挙動計算は対称境界面を鏡面として扱う。電場計
算は対称境界面を挟んで電極が配置される場合には対称境界面で電位が反転することから,
これに対応した計算ができるようにした。ただし,この場合には対称境界面の電位は 0 に固
定される。
なお,この手法は対称性を持つ単純な体系のみが対象となるため,実際の溶融炉設計に直
接用いることはできないが,基本的な形状の比較や,加熱・冷却などに関する運転手法の特
性把握に役立てることができる。また,高い空間分解能が求められ,計算要素の寸法が小さ
24
くその数が多い計算や長期の運転シミュレーションなどの多くの計算時間を要する計算にお
いて,対称性を持つよう体系を単純化することで計算時間を短縮する利用が考えられる。一
例として,図 3.5-2 のような条件において計算時間は 1/4 に短縮できる。
CPU1
CPU2
プロセス間通信
2CPU搭載PC
計算範囲
(着色部)
CPU3
1CPU搭載PC
CPU4
対称境界面
1CPU搭載PC
図 3.5-1 並列計算の概要図
図 3.5-2 対称境界条件の概要
3.5.2 シミュレーションコードの検証
(1)透明アクリルモデルを用いた熱流動・電場解析機能検証
本コードの熱流動解析機能を検証するための参照データとして,透明アクリルで製作した
円筒円柱型電極-円錐型炉底溶融炉のスモールスケールモデルを用い,グリセリン(導電性を
調節するために塩化リチウム 7.5%含有)を溶融ガラスの模擬流体として,流動速度分布,温
度分布及び電位分布を取得した。
(a) 流動速度分布
(b) 温度分布
(c) 電位分布
図 3.5-3 アクリルモデルの熱流動状況など
(2)小型炉試験装置の運転データに基づく検証
小型炉試験装置の運転シミュレーション計算を行い,同装置の運転試験で得られた炉内溶
融ガラス各部の温度データと比較した。結果の一例を表 3.5-1 に示す。
25
電極表面に温度境界を設定した計算は実測値と概ね一致しており,このことは間接的では
あるが非ニュートン性流体の溶融ガラスの流動も再現できていることを示唆している。一方,
温度境界を設定せずに,炉体を通じた外部への熱の移動を考慮した計算では,溶融ガラス温
度が実際より高い結果となった。後者については,計算では考慮されていない各種ノズル,
炉体の支持構造,ボルト・フランジなどの凹凸による伝熱・放熱効果の影響や,炉体を構成
する材料の熱伝導率がカタログなどの記載値からばらつきがあったことによると考えられる。
小型炉試験装置を含む実際の溶融炉の運転においては,運転パラメータとして電極表面温
度を調節することから,溶融ガラスの流動を把握する目的においては,十分に把握しきれな
い影響要因を抑えるために温度境界を設定したシミュレーション計算が適している。
表 3.5-1 小型炉試験装置の温度分布実測値及び計算値(温度境界設定)
測定
位置
k
j
c
b
a
g
h
d
e
f
i
3.5.3
実測値
[℃]
計算値
[℃]
測定
位置
実測値
[℃]
計算値
[℃]
a
1110.7
1057.52
g
893.4
885.04
b
1085.7
1068.51
h
843.8
817.83
c
987.7
1000.16
i
778.3
735.44
d
950.2
930.81
j
1148
1088.33
e
886.9
873.45
k
1099
1057.09
f
850.8
809.4
小型溶融試験装置の運転解析
上項に示した小型炉試験装置のシミュレーション計算はコードの検証に用いると同時に,
期待する溶融ガラスの温度分布を形成できることの見通しを立てることにも利用した。
また,流下時の炉内流動を推定・把握するためのツールとして本コードを用いて,底部の
傾斜炉壁を加熱する粘性逆転流下モードを採用した場合での運転シミュレーション計算を行
った。小型炉試験装置のドレンアウト後の炉内観察では,粒子が良好に抜き出されたことを
確認しているのに対して,シミュレーション計算では傾斜炉壁表面に沿って流下ノズルに向
かう流れが形成されており,この流れが粒子の抜き出し性に寄与していると考えられる。
3.5.4 実用炉性能評価解析
粒子状物質の抜き出し性能を向上させる方策として,炉底形状を 60°勾配の円錐形状にす
るとともに,傾斜炉壁を加熱する粘性逆転流下モード運転が考案され,これらの効果を 3.4
章のるつぼ規模試験及び 3.6 章の小型炉試験装置運転にて確認している。さらに大きな実用
規模の寸法においても,これらが有効であることを確認するために,3.7 章で仕様を設定した
実用炉寸法での流下運転シミュレーション計算を行い,上述の方策が有効であることを確認
した。
26
3.6
小型炉試験装置による対策技術成立性評価試験
平成 19 年度に設計及び製作した小型炉試験装置を用いて,ガラスの溶融試験を実施した。
小型炉試験装置の構造図を図 3.6-1 に,基本仕様を表 3.6-1 に示す。
図 3.6-1
小型炉試験装置の構造図
表 3.6-1
基本仕様
主要寸法
外形寸法 :φ1000mm×H1776mm
溶融表面積:0.0467m2
炉底傾斜角:60°
ガラス容量
約 27kg(液位高:Hレベル)
主要材料
円筒・円柱電極:NCF601 相当材
炉本体
:耐火レンガ・断熱材
加熱方式
主加熱
:直接通電
補助加熱(上部・下部)
:ヒーター加熱
ガラス原料供給方式
ビーズ供給またはファイバー供給
ガラス抜出し方式
高周波加熱によるフリーズバルブ方式
27
試験は,ガラス原料などを供給せずガラス温度を保持する運転(保持運転)
,固化ガラスを
模擬したガラスカレットを供給して溶融する運転,高レベル廃液を模擬した模擬廃液とガラ
ス原料を供給して溶融する運転の 3 つのステージに分けて行った。各運転ステージでの確認
項目,試験バッチ数,製造した固化ガラスの合計量を表 3.6-2 に示す。
表 3.6-2
運転ステージ
各運転ステージでの確認項目,試験バッチ数,固化ガラス製造量
温度保持
カレット供給
模擬廃液+ガラス原料供給
低模擬度廃液
・流下前後の加熱
確認項目
・目標温度成立性
及び冷却特性
・流下制御性
・安定運転実現性
・安定運転実現性 ・白金族元素の抜
き出し性能
・運転成立性
試験バッチ数
固化ガラス
製造量(合計)
3.6.1
高模擬度廃液
―
10
5
16
―
約 70kg
約 33kg
約 112kg
小型溶融炉試験装置の基本性能確認
長寿命炉では,炉壁冷却による耐火物及び電極材料の侵食速度の低減が大きな目標の1つ
となっている。そのため,実機の設計では,目標耐用年数などより,円筒電極炉内側表面温
度を 1000℃以下にコントロールすることを目標としている。
その他,ガラスの溶融性,円柱電極の保護,炉底低温運転の目標温度から,小型炉試験装
置の運転目標として以下の温度を設定した。
また,流下時の運転モードとして,粘性逆転流下モード及び流下後の炉底冷却条件を考慮
し,運転目標を設定した。
①
溶融ガラス温度
② 円柱電極表面温度
③
: 1150℃程度(最大 1250℃)
: 1100℃以下
円筒電極炉内側表面温度 : 1000℃以下
④ 炉底ガラス温度
: 850℃以下
⑤
炉底傾斜部表面温度
: 炉底加熱開始から 3 時間以内に 1000℃以上到達
⑥
炉底ガラス温度
: 流下終了後,炉底冷却開始から 3 時間以内に 850℃以
下到達
以上の基本性能の確認を目的に実施した保持運転ステージでは,各部の冷却空気量および
投入電力を調整した結果,図 3.6-2 に示すように,小型炉試験装置としては,①の溶融ガラ
ス温度を 1150℃に保った状態で,②∼④の温度を達成できることを確認した。また,円筒電
極炉内側表面温度については,さらに約 930℃まで下げられることがわかった。
28
a. 1151.0℃
d
b. 1121.9℃
b
a
c
e
図 3.6-2
c.
999.3℃
d.
930.1℃
e.
799.4℃
保持運転時の温度測定結果
また,保持運転ステージとあわせて,ガラスカレットを用いた運転ステージにおいては,
図 3.6-3 及び図 3.6-4 に示すように,⑤,⑥の流下時の運転モードの条件が達成可能である
とともに,安定したガラス流下制御が実現できることを確認した。
1300
炉底傾斜部温度
1000℃到達
炉底加熱開始
2時間35分
温度 [℃]
1200
溶融ガラス温度
1100
1000
炉底傾斜部温度
900
800
700
0:00
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
経過時間
図 3.6-3
1300
炉底加熱開始後の温度測定結果
ガラス流下停止
炉底冷却開始
炉底傾斜部温度
850℃到達
2時間23分
温度 [℃]
1200
1100
溶融ガラス温度
1000
900
炉底傾斜部温度
800
700
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
時刻
図 3.6-4
流下停止後の温度測定結果
29
13:00
3.6.2
連続処理運転特性確認
小型炉試験装置の基本性能確認で得られた運転データに基づき,模擬廃液とガラス原料を
用いた運転を行った。なお,連続処理運転での安定運転に大きく影響を与えるガラス製造速
度(あるいは,模擬廃液およびガラス原料の供給速度)については,運転状況を見ながら調
整を行った。その結果,高模擬度廃液での運転では,ガラス製造速度で 0.52∼0.61kg/h 程度
において,安定したガラスの連続処理が可能であることがわかった。また,その際,小型炉
試験装置の基本運転条件(3.6.1 項の①∼⑥)にコントロール可能なことが確認できた。さら
に,白金族元素が含まれる高模擬度廃液供給で 16 バッチ,合計約 112kg の固化ガラスを製造
し,炉内の全ガラスを抜き出し,抜き出し後の炉内の状況を確認した結果,ガラスは全て抜
き出され,高濃度の白金族元素を含むガラスが,炉内に残留することは無かった(写真 3.6-1)
。
以上の結果から,炉内において沈降・堆積することで流下異常を引き起こす粒子状物質は,
ほぼ全量が抜き出されていることを確認した。さらに,流下時の小型溶融炉試験装置内の流
動状態を推定するために計算機シミュレーションを行った結果,図 3.6-5 に示すように,炉
壁に沿う下向きの流れが存在することが確認でき,粘性逆転流下モードが期待通りの効果を
もたらしていることがわかった。
ノズル穴
写真 3.6-1
図 3.6-5
炉内ガラス抜出し状況(ドレンアウト後)
流下時の炉内流動状況(計算機シミュレーション)
30
3.6.3
まとめ
・ 小型炉試験装置の目標である,炉壁冷却,粘性逆転流下モードによる流下,炉底低温運
転について,設計目標が達成できることを確認するとともに,運転データの蓄積ができ
た。
・ 本試験装置において,粘性逆転流下モードによる流下,炉底低温運転による一連の運転
を実施した結果,粒子状物質の抜き出し性能は良好であった。
31
3.7
実用炉の基本仕様設定と適用性評価
長寿命炉の基本炉形式などを基に,TVF に設置することを想定して長寿命炉の構造と仕様を
設定するとともに同仕様の適用性を評価した。
3.7.1 実用炉の概念設計と基本仕様設定
長寿命炉への TVF における要求性能を満足する可能性のある実機概念構造および基本仕様
を整理した。
①
溶融表面積の設定およびガラス製造速度
TRP の再処理能力は 0.7MTU/d であり,これに応じたガラス製造速度は 8.75kg/h である。直
接通電加熱方式のガラス固化溶融炉に関する国内外の知見から,同方式のガラス固化溶融炉
の処理能力は溶融表面積に比例することが分かっている。そこで,過去に原子力機構にて試
験炉開発を手掛け,長寿命炉と同様の円柱円筒型電極構造を採用した JCEM(Joule-heated
Cylindrical Electrode Melter)の溶融表面積とガラス固化処理能力の関係を参考に,長寿
命炉の溶融表面積を 0.7m2 と設定した。
② 材料選定および腐食代
3.3 章に示した電極に関する技術開発より,溶融ガラス接液電極材料として耐食性の高い材
料は NCF690 または RS311 が挙げられているが,ここでは TVF 溶融炉などで実績のある NCF690
を選定し,以下のように腐食代を設定した。
【円柱電極】
円柱電極は空気冷却により接液部表面温度を 1100℃以下に維持し,電極表面電流密度を
この使用環境での侵食速度は図 3.3-1 より 0.015mm/d である。
0.5A/cm2 となるよう設計する。
設計寿命 20 年での侵食量は,年間稼動日数を 300 日とすれば 90mm と算出されるが,円柱電
極は交換可能であり,溶融炉本体の寿命中に 2 回の交換を許容するとして腐食代を 30mm に設
定した。
【円筒電極】
円筒電極も円柱電極と同様に接液部表面温度を 1000℃以下に維持し,電極表面電流密度は,
その寸法から円柱電極の 1/5 以下であり,侵食速度は無通電での値と同等であると考えられ
る[18]。この使用環境での侵食速度は図 3.3-2 より 0.002mm/d である。設計寿命 20 年で年間稼
動日数を 300 日とすれば,12mm となることから,腐食代を 20mm と設定した。
③ 炉底形状及び炉底加熱
溶融ガラスに含まれる粒子状物質の抜き出し性能について,3.4 章に示したるつぼ規模での
試験及び 3.6 章に示した小型炉試験装置でのドレンアウト後の炉内観察から,炉底形状を
60°勾配の円錐形状にするとともに,炉底面を加熱することが有効であると判断し,この形
状及び炉底部を間接加熱する機構を採用することとした。
32
④
基本仕様と基本構造
長寿命炉のそれぞれの対策技術の評価結果を基に,以下のように基本仕様を定めた。図
3.7-1 に長寿命炉の基本構造図を示す。
電極形式
:円柱円筒型電極
ガラス製造速度:目標 8.75kg/h
ガラス原料供給:ファイバーガラス原料
溶融温度
:1100∼1250℃(溶融ガラス最高温度部)
溶融表面積
:0.70m2
炉底構造
:炉底勾配 60°円錐型炉底
炉寸法
:φ1944mm×H2122mm
炉重量
:約 18t(液位高の溶融ガラスを含む)
接液部材料
:NCF690(耐火物炉底を採用する場合は K-3)
側壁耐火物材料:内側より MRT-70KTM,JIS C-1,LP-135TM,イビウール 30B
天井耐火物材料:内側より AZ-GSTM,LP-135TM,イビウール 30BTM
ケーシング材料:SUS304
流下方式
:誘導加熱によるフリーズバルブ方式
流下ノズル材料:NCF690
間接加熱
:上部,底部とも KANTHALTM ヒーターなど
33
TM
図
3.7-1
長寿命ガラス固化溶融炉基本構造図(精査中)
34
3.7.2
実用炉の適用性評価
長寿命炉の実用炉の概念検討を行い,構造および基本仕様を具体化し,ガラス溶融炉とし
ての成立性および TVF への適用性を評価した。
①
長寿命炉の温度分布解析
図 3.7-1 に示した実用炉規模について,連続的なガラス溶融処理を行いながら各対策技術
の実現に必要な温度分布が形成できるかを確認するために,温度分布計算を実施した。計算
条件を表 3.7-2,計算結果を図 3.7-2 に示す。
計算結果から,通常運転時および炉底加熱時それぞれについて,設計目標値を満足する温
度分布が形成できる見通しが得られ,長寿命炉のガラス溶融炉としての成立性が確認できた。
表 3.7−2
解析条件
ガラス液位
通常運転時
炉底加熱時
主電極投入電力量
[kW]
52.0
20.0
円柱電極除熱量
[kW]
1.5
20.0
円筒電極除熱量
[kW]
0
0
炉底傾斜部除熱量
[kW]
10.2
―
炉底傾斜部上限温度
[℃]
―
1000
廃液供給速度
[kg/h]
13.0
13.0
ガラス原料供給速度
[kg/h]
4.87
4.87
円柱電極先端
最高:1128℃
円柱電極先端
最高:977℃
円筒電極炉壁
最高:1023℃
円筒電極炉壁
最高:993℃
(最高:915℃)
(最高:962℃)
炉底傾斜上部壁
最高:889℃
炉底傾斜上部壁
最高:1000℃
炉底傾斜下部壁
最高:788℃
炉底傾斜下部壁
最高:970℃
炉底加熱時
通常運転時
図 3.7-2
温度分布解析結果
材料温度については,円筒電極の一部で表面温度が目標上限の 1000℃を超えているが,こ
れよりも小さな体系の小型炉試験装置による試験では,目標とする電極表面温度及び溶融ガ
ラス温度を実現している。よって,小型炉試験装置よりも温度勾配を緩やかにできる実用規
35
模の溶融炉では,目標温度の達成は可能であると見込める。今後,小型炉試験装置で得られ
た運転データを基に計算精度の向上を図るとともに,実用炉の今後の設計に反映させる。
② 長寿命炉の粒子抜き出し性能解析
本溶融炉で採用した炉底形状及び粘性逆転流下モードの有効性は,3.4 章に示したるつぼ規
模での試験及び 3.6 章に示した小型炉試験装置の運転試験で確認されたが,さらに実用規模
においての有効性を確認するための流下運転シミュレーション計算を行った。
本計算では,1回の流下ガラスに含まれる量(即ちキャニスタ1本分)の粒子を 7wt%の濃
度で炉底部に配置し,炉壁加熱による炉底部加熱後にキャニスタ一本分の流下を行った。ま
た,比較のために,炉底形状が 45°勾配の四角錘形状で炉底部に設けた補助電極間通電で炉
底領域を加熱する流下運転についても同様の計算を行った。
炉底部に配置した粒子の抜き出し率は,前者の粘性逆転流下モード条件の方が高く,実用
炉規模においても粒子の抜き出し性能に関する対策技術が有効であることを確認できた。
③ 重量および搬送
重量は図 3.7-1 に示した基本構造で,保守側に炉重量約 18t(ガラス液位高の固化ガラスを
含む)+吊具約 2t=約 20t との見通しを得ており,現状の TVF 固化セルクレーン(荷重容量:
20t)を用いた搬送が可能である。また,今後の設計の進捗により更なる軽量化を図る。
36
3.8 事業成果全体
3.8.1 事業成果
表 3.8-1 事業成果一覧(1/4)
H17 年度
H18 年度
H19 年度
長寿命ガラス固化溶融炉の基本性能の検討
長寿命ガラス固化溶融炉の構造概念と設計目標値
長寿命ガラス固化溶融炉の要件整理
処理対象廃棄物の検討,現行炉の課題の整理,機能
要件と達成目標の検討,コスト低減効果の検討を行い,
長寿命ガラス固化溶融炉の要件を整理した。
長寿命ガラス固化溶融炉の炉形式検討
長寿命ガラス固化溶融炉開発における技術課題の整
現行の TVF2 号炉と候補炉形式の 3 次元熱流動解析を
理,設計寿命 20 年を達成する電極及び耐火物の侵食速
行い,処理能力,炉壁及び電極侵食,析出物対策,粒
度の検討,候補技術の適用性概略評価を行い,長寿命
子状物質対策,解体廃棄物量低減,実機適用性,コス
具体化した基本炉形式について実機規模の解析モデ
ガラス固化溶融炉の炉形式を検討した。
ト評価の 7 つの評価項目についての比較・評価結果か
ルを仮設定し,温度分布,電流密度分布,粘性分布,
ら,基本炉形式として「円柱円筒電極,円錐型炉底,
流速分布を計算した結果,各設計目標値を概ね実現で
勾配 60°」を選定した。
きる見通しを得た。
HLW 組成調査
基本炉形式の各対策技術について,設計目標値を具
体化した。
HLW 組成調査
TRP 及び TVF の実績に基づく HLW 組成と変動幅の整
処理対象廃棄物として想定される高燃焼度使用済燃
理,将来を想定した固化ガラス中の各元素含有量の試
料などの廃液について,発熱量による制限を考慮した
算と評価を行い,長寿命ガラス固化溶融炉の処理対象
場合の想定固化ガラス組成と変動範囲を廃棄物含有
廃液の組成について検討した。
率,核分裂生成物含有率,白金族元素含有率の観点か
ら整理した。
高レベル固化ガラスの特性把握
ガラス温度と白金族元素濃度をパラメータとした溶
高レベル固化ガラスの物性評価
高レベル固化ガラスの特性把握
溶融ガラスの組成をパラメータとして,粘度,比抵
廃棄物含有率やナトリウム含有率と粘性及び比抵抗
融ガラスの粘度測定及び比抵抗測定を行い,これらの
抗,密度,熱膨張,比熱,熱伝導率の物性値を取得し,
との関係について試験データを取得し,関係式として
物性データを取得した。
温度もしくは組成との関係式として整理した。また,
整理した。
低温領域での結晶化度を評価した。
白金族元素などの粒子状物質と粘性との関係につい
て試験データを取得し,非ニュートン性を含む粘性を
温度,ガラス組成,ずり速度との関係式として整理し
た。
結晶化と粘性及び比抵抗との関係について試験し,
結晶化の影響を確認した。
37
H20 年度
表 3.8-1 事業成果一覧(2/4)
H17 年度
H18 年度
H19 年度
H20 年度
スカル層による侵食抑制機能評価
スカル層による侵食抑制機能評価
スカル層による侵食抑制機能評価
長寿命炉壁に関する技術開発
K-3 レンガ及び CS-5 レンガについて溶融ガラス温度
候補耐火物として選定した K-3,CS-5,Z,CZ につい
静的及び動的侵食試験の結果,K-3 は 1300℃の条件
フィンガー法による静的な浸漬試験,ガラスの流動
をパラメータとした侵食試験を行った結果,炉壁寿命
て浸漬試験を行った結果,溶融ガラスに対する耐食性
下でも 20 年間の使用に耐え得る見込みが得られたが,
を模擬した動的な侵食試験を実施し,侵食量の推定式
を延長できる見通しを得た。
は K-3 が最も優れており,静的な条件では 1000℃程度
CS-5,Z,CZ は 1000℃以下に保つ必要があることを確
をたてるとともに,長寿命炉の供用期間にわたる侵食
に抑えることで何れの耐火物も使用できる見通しを得
認した。
量を推定した。
た。また,耐熱衝撃試験結果から,耐熱衝撃性は CZ が
熱サイクルを与えた K-3 及び CZ についてそれぞれ曲
最も優れており,想定される温度,熱サイクル条件下
げ強さ及び破壊靱性測定を行った結果,熱サイクルに
では何れの耐火物でも適用可能の見通しを得た。
対して,
K-3 は残留膨張率が小さく曲げ強さや破壊靱性
の低下が小さいこと,CZ は残留膨張率が大きく曲げ強
さが破壊靱性の低下が著しいことを確認した。
スカル層形成制御技術の検討
スカル層形成制御技術の検討
耐火物の熱伝導率や耐火物厚さをパラメータとした
候補炉形式に対して電位・熱流動解析計算を行い,目
解析評価を行った結果,水冷または空冷の何れの方式
標とする炉壁表面温度を達成する炉壁冷却条件及び炉
でも,耐火物表面温度の目標値を達成できる条件範囲
壁冷却システムについて確認した。
が存在することを確認した。
電極材料の侵食緩和方策の評価
現行炉の電極材料であるNCF690 について電流密度を
電極材料の侵食緩和方策の評価
電極材料の侵食緩和方策の評価
候補材料として選定した NCF690,
INCONEL693,
RS311,
電極に関する技術開発
通電侵食試験での浸食速度の結果から,腐食代を
侵食試験の結果及び文献に基づいて侵食速度の推定
パラメータとした通電侵食試験を行い,電流密度と侵
MA754 について通電侵食試験及び浸漬試験を行い,
候補
50mm とした場合の内部円柱電極及び外部円筒電極の寿
式を立てるとともに,ガラス固化溶融炉の供用期間に
食速度の関係を把握した。
材料を NCF690 及び RS311 に絞り込んだ。また,可換構
命は,それぞれ約 8∼16 年及び約 13∼20 年となる見通
わたる侵食量を推定した。
造は不可欠である見通しを得た。
しを得た。
電極構造と配置の検討及び評価
電極構造と配置の検討
可換式電極構造について加熱能力及び交換機能の観
候補炉形式である「円柱円筒型電極」に対して電位・
点から構造及び基本仕様を検討し,何れの仕様でも必
熱流動解析計算を行い,溶融ガラス温度や表面電流密
要な加熱能力を達成できること,交換機能については
度の成立条件を達成できる見通しを得た。
上部挿入方式が適していると判断した。
38
表 3.8-1 事業成果一覧(3/4)
H17 年度
H18 年度
H19 年度
H20 年度
炉底構造・流下機構に関する技術開発
炉底構造・流下機構に関する技術開発
炉底構造・流下機構に関する技術開発
溶融ガラス中の粒子状物質の形態及び粒度分布を把
白金族元素の粒子状物質からなる凝集体の粒度分布
握した。
を把握した。
円錐型勾配 60°炉底のるつぼを用いて,3∼4 バッチ
のガラス溶融と流下を繰り返し行った試験の結果,均
円錐型勾配 60°炉底,円錐型勾配 45°炉底,四角錐
円錐型勾配 60°炉底を用いて白金族元素を含有する
一加熱流下モード及び粘性逆転流下モードでの白金族
型勾配 45°炉底について白金族元素濃度及び溶融ガラ
溶融ガラスの流下性に関する基礎試験を行った結果,5
元素の抜き出し率は,それぞれ約 97%及び 100%となっ
ス温度をパラメータとしたガラスの流下性に関する基
∼8wt%の RuO2 を含有するガラスは 1000℃まで加熱する
た。
礎試験を行い,円錐型勾配 60°炉底が有効であり,粘
ことで流下が可能となることを確認した。さらに,粘
7wt%程度の白金族元素を含有するガラスが炉底及び
性逆転流下モードも有効である見通しを得た。また,
性逆転流下モードの適用により,炉底部に堆積する高
炉壁部に残留した場合でも,壁面部を 1000℃に加熱し
炉底形状の違い,炉底勾配の違い,炉底温度分布の違
粘性ガラスの流下が可能となることを確認した。
て粘性逆転流下モードを適用することで,残留したガ
いによる粒子状物質の沈降・堆積・抜き出し性能を計算
ラスを効果的に抜き出すことが可能となる見通しを得
し比較した結果,基礎試験と同様に円錐型勾配 60°炉
た。
底が有効である見通しを得た。
シミュレーション技術の開発整備
シミュレーション技術の開発整備
シミュレーションコード開発においてずり速度を考
粒子状物質の挙動及び粒子状物質を含む溶融ガラス
慮した粘性係数導出式を取り入れた結果,補正係数を
流動の解析精度向上のために,抗力係数分布に基づく
乗じることなく実測値と同様の値が得られるようにな
粒径分布の設定手法を取り入れた。また,粒子を含ん
った。
だ状態での溶融ガラスの巨視的密度を考慮する改良を
粒子挙動解析の粒子移動処理ついて,流速分布の詳
行った。
細化と計算時間刻みの調節を行った。
処理能力評価のために,仮焼層の熱・物質収支モデル
粒子濃度分布設定機能を追加した。
の構築,プレナム部雰囲気の熱流動計算機能の付加,
ドレンアウト時の液面位置及び形状の変化に対応す
プレナム部及びガラス表面のふく射伝熱解析機能の付
るために,VOF 法を導入すると共に,熱的計算に関する
加を行った。
境界の取扱いを VOF 法に適応するよう溶融ガラス表面
改良後のシミュレーションコードを用いて粒子状物
付近での熱的境界条件を改良した。
質の抜出し性について比較したところ,円錐型勾配
小型炉試験装置の解析モデルを構築した。
60°炉底が有効である結果となった。
シミュレーション技術の開発整備
全体の計算時間短縮のために並列計算手法を導入
し,計算時間を 1/2.8 に短縮することができた。
簡易な体系において対称境界条件での計算ができる
ように改良した。
意図しない計算停止に対して円滑な対応が出来るよ
うに,異常計算の検知や対策を講じるための情報を出
力する監視機能を付加した。
熱流動解析機能を検証するために,透明なアクリル
で製作したモデル内の流動速度分布,温度分布,電位
分布データを取得した。
小型炉試験装置による試験で得た温度データと同装
置のシミュレーション計算結果を比較し,流動を把握
する目的においては,電極表面に温度境界を設定する
計算が有効である結果を得た。
実用規模の溶融炉の運転シュミレーション計算を行
い,同炉の設計に供した。
39
表 3.8-1 事業成果一覧(4/4)
H17 年度
H18 年度
H19 年度
H20 年度
小型試験炉の設計検討
小型炉試験装置の設計・製作
小型炉試験装置による対策技術成立性評価試験
試験評価項目と方法の整理,基本仕様設定を行い,
小型炉試験装置の設計及び製作を行い,装置を稼動
小型炉試験装置の基本設計を行った。
させて要求される基本機能の確認を行った。
小型炉試験装置でガラス溶融試験を行い,目標炉内
温度の成立性,ガラス流下モードの運転成立性,連続
処理運転での安定運転の実現性及び白金族元素の抜出
し性能について,何れも良好な結果を得た。
長寿命ガラス固化溶融炉の概念検討
実用炉の基本仕様設定と適用性評価
要求機能及び設計検討結果を基に,全体基本構造を
TVF の要求性能を満足する可能性がある実機の概念
具体化すると共に,既存プラントとの取り合いについ
構造及び基本仕様を整理し,
TVF の制約条件を満足する
て整理した。
ための適用性評価を行った。
40
3.8.2 外部発表
表 3.8-2 外部発表一覧
学会名・会議名
標題
日本原子力学会北関東支部若手研究者発表会
長寿命ガラス固化溶融炉の設計研究
日本原子力学会再処理リサイクル部会発表会
長寿命ガラス固化溶融炉の設計研究
日本原子力学会 2006 年秋の大会
長寿命ガラス固化溶融炉の成立性に関する予備
的評価
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(2)
日本原子力学会 2007 年春の年会
耐火物材料における侵食速度の温度依存性評価
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(3)
日本原子力学会 2007 年春の年会
ガラス溶融炉内における粒子挙動解析
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(4)
日本原子力学会 2007 年秋の年会
候補炉形式の基本機能の比較評価
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(5)
日本原子力学会 2007 年秋の年会
処理対象固化ガラスの特性評価
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(6)
日本原子力学会 2007 年秋の年会
電極材料の静的侵食試験結果
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(7)
日本原子力学会 2007 年秋の年会
粒子状物質挙動に関する基礎試験結果
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(8)
日本原子力学会 2007 年秋の年会
解析コードのドレンアウト運転対応
European Nuclear Conference 2007
Vitrification
experience
new
technology
development in TVF
2007 International Symposium on Radiation Current R&D on HLW vitrification technology
Safety Management
in JAEA
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(9)
日本原子力学会 2008 年春の大会
耐火物材料の寿命評価
長寿命ガラス固化溶融炉の開発(10)
日本原子力学会 2008 年春の大会
炉壁及び電極構造の最適化検討
41
4. まとめ
4.1 全体のまとめと今後の実用化に向けた事業計画
平成 20 年度は,主要対策技術であるスカル層形成機能,可換式電極構造,炉底・流下機能につい
て,基礎試験及び設計検討により成立性の評価を行い,開発目標である炉寿命 20 年を達成できる見
通しが得られた。
原子力機構においては,長寿命炉に関する技術開発により得られた成果をさらに継続,発展させ,
図 4.1-1 に示すように TVF の次期溶融炉(3 号炉:約 10 年後に更新予定)に反映することを計画し
ている。
図 4.1-1 長寿命炉の全体開発計画(案)
年
TVF
度
2号炉運転
2005
H17
2006
H18
2007
H19
2008
H20
2009
H21
▼
レニューアル
2010
H22
2011
H23
2012
H24
▼
2013
H25
2014
H26
▼
2015
H27
2016
H28
2017∼2021
29 30 31 32 32
3号炉
炉更新 運転
▼
フィージビリティスタディ(Basic)
フィージビリティスタディ(Engineering)
【開発フェーズ】
設計検討
公募研究テーマ
技
術 高度化炉
要件整理・
開発
開
適用性評価
発 (TVF3号炉) 【対策技術検討】 技術検討
計
要素技術特性評価試験
【要素技術開発】
画
【解析コード開発】
【小型炉試験】
【モックアップ試験】
解析コード製作
製作
モックアップ
実炉設計・製作
コード検証/設計条件・運転特性解析
運転シミュレータ整備/TVF3号炉運転条件検討
小型炉試験
METI公募研究にて実施
設計
製作
試験(必要に応じ改造)
基本設計
【TVF3号炉】
実機設計
実機製作・作動試験
許認可・設工認
平成 19 年 8 月 31 日,文部科学省独立行政法人評価委員長より示された「平成 18 年度に係る業務
の実績に関する評価結果について」においても,
「民間事業者の原子力事業を支援するための研究開
発」として,HLW のガラス固化技術の研究開発とその成果の民間への移転が円滑に進められることへ
の期待,並びに本技術の維持・継承の方策についての検討が重要であることが示されており,本高
度化(長寿命化)技術開発の継続と着実な進展及び民間への反映を今後進めていくことが重要であ
る。
原子力機構としては,長寿命炉に関する技術開発及び今後の TVF 次期溶融炉に向けた技術開発に
ついて,商用ガラス固化施設を含めた将来の溶融炉への反映も考慮し,柔軟かつ幅広い観点から各
要素技術開発,基礎データの取得及び整備,設計情報の整備などを図る。
4.2 自己評価
以下,今年度の実施成果に関して各評価項目に沿った自己評価を以下に示す。
4.2.1 研究テーマの妥当性・意義に関して
本研究により,わが国の HLW のガラス固化処理プロセスに採用されているガラス固化溶融炉の設
42
計寿命 5 年を 20 年に長寿命化する見通しが得られつつあり,本研究の成果を将来のガラス固化溶融
炉に反映することにより,高レベル廃棄物処理コストの大幅な低減が期待できる。TVF をベースにし
た平成 20 年度のコスト試算からは,20 年の運転期間にて百億円以上の処理コスト低減が見込まれる
結果が得られており,商用規模のガラス固化施設へ適用した場合は,さらなる大幅なコスト低減効
果が期待できる。
本研究では,長寿命炉の処理対象として,高燃焼度使用済燃料など,将来の核燃料サイクルから
の HLW の幅広い組成も考慮しており,将来の核燃料サイクルの確立に向けて枢要技術として位置づ
けられる高レベル廃棄物処理技術開発に対して本研究成果が反映できると考えられる。
4.2.2 研究開発目標及び実施計画に関して
設計寿命 20 年とする開発目標は,仏国,英国,米国などのガラス溶融炉も実現していない高いレ
ベルの技術開発である。その目標へのアプローチとして,スカル層形成や可換式電極構造などの炉
構造も含めた高度化技術の組み合わせを検討し,さらに将来の燃料サイクルからの HLW 中の白金族
元素含有率の増加を考慮し,その対応も強化した炉底構造を検討することにより,長寿命溶融炉の
実現の見通しが得られた成果は大きい。
また,実施項目を「高レベル固化ガラスの特性把握」
,
「長寿命炉壁に関する技術開発」
,
「電極に
関する技術開発」
,
「炉底構造・流下機構に関する技術開発」
,
「シミュレーション技術開発」
,
「小型
炉試験」
「概念設計及び適用性評価」に整理し,短期間で成立性や実現性の見通しを得るため,相互
を体系的に連携させた合理的な研究が展開できたと評価できる。
4.2.3 研究開発実施者の事業体制,運用に関して
本研究では,わが国の高レベルガラス固化技術の開発及び実用化を進めてきた原子力機構及び IHI
と,関連する基盤的な学術的研究を実施している埼玉大との連携体制で進めており,最適な事業体
制といえる。また,多くの若手研究者が各テーマを担当しており,将来の実用化を目指した本技術
開発に係る人材育成,技術継承の点でも有意義であった。
4.2.4 計画と比較した達成度,成果の意義に関して
要求機能の整理と技術調査に基づき,長寿命化を実現する炉構造の概念が具体化できた。また,
スカル層を想定した低温領域での耐火物侵食試験データ,スカル層形成条件の解析評価,複数の候
補電極材料に対する電流密度と電極侵食速度の関係の詳細な試験と可換型電極構造とその基本性能
の解析評価などにより長寿命炉の成立性が確認でき,当初の計画に基づき提案した技術開発が実用
化へ向けて着実に進展したと評価できる。
43
5. 参考文献
[1] 新谷宏隆著,「鉄鋼用耐火物の侵食機構」, 内田老鶴圃, 1989 年
[2] 山根正之ほか編,「ガラス工学ハンドブック」, 朝倉書店株式会社, 1999 年
[3] 齋藤勝裕著,「反応速度論」, 三共出版株式会社, 1998 年
[4] 宝沢光紀ほか,「拡散と移動現象」, 培風館株式会社, 1996 年
[5] 野間彰ほか,「プラズマ灰溶融炉の耐火物侵食予測手法の開発」, 日本機械学会誌 B, 72, 714
号, pp.218-222, (2006)
[6] Ronald A. McCauley et. al., “Corrosion – A Review of Some Fundamentals”, Corrosion of
Materials by Molten Glass, Ceramic Transactions Vol. 78, American Ceramic Society, (1996),
pp. 81-89, 1996
[7] George A. Pecoraro et al., “How the Properties of Glass Melts Influences the Dissolution
of Refractory Materials”, Advances in Fusion and Processing of Ceramic Transactions
vol.141, American Ceramic Society, (2006), pp.179-191
[8] 裵哲薫, 河本邦仁著,「セラミックス―基礎と応用」, 大日本図書, 1996 年
[9] 日本規格協会編,「JIS ハンドブック 34 耐火物 2006 JIS R 2657 耐火れんが及び耐火断熱れ
んがのスポーリング試験方法」, 日本規格協会, 2006 年
[10] 八島正知ほか,「耐火物の基礎科学:構成成分の結晶化学と物性 ジルコニア(ZrO2) その 1」,
耐火物, vol.46, No.2, pp.91-98, 199 年
[11] 八島正知ほか,「耐火物の基礎科学:構成成分の結晶化学と物性 ジルコニア(ZrO2) その 2」,
耐火物, vol.46, No.3, pp.150-156, 1994 年
[12] 瀬尾省三, 「ガラス工業炉用電鋳耐火物の動向及び開発について」, (社)ニューガラスフォー
ラム第 90 回若手懇談会資料, 2008 年 1 月
[13] D. Zhu et al., “Corrosion behavior of Inconel 690 and 693 in an iron phosphate melt”,
J. of Nuclear Materials, 336, 47-53 (2005)
[14] C. W. Kim et al., “Iron Phosphate Glass as an Alternative Waste-Form for Hanford LAW”,
Pacific North West Lab. Report, PNNL14251 (2003)
[15] Pranesh Sengupta et al., “Interaction between borosilicate melt and Inconel”, J. of
Nuclear Materials, 350, 66-73 (2006)
[16] Pranesh Sengupta et al., “Microstructural Characterization and Role of Glassy Layer
Developed on Inconel 690 During a Nuclear High-level Waste Vitrification”, J. of the
American Ceramic Society, vol.90, No.10, 3057-3062 (2007)
[17] Pranesh Sengupta et al., “Corrosion of Alloy 690 process pot by sulfate containing high
level radioactive waste at feed stage”, J. of Nuclear Materials, 374, 185-191 (2008)
[18] 正木,“ガラス溶融炉材料の耐食性評価”, 日本原子力学会 1991 年年会要旨集, K44 (1991)
44
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