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予察調査報告書
資料編-2 竹田城跡石垣現状予察調査報告書 目 次 1.概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・資 2- 1 2.予察報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・資 2- 2 3.総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・資 2-17 4.要望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・資 2-22 平成 27 年3月 竹田城跡石垣修復検討委員会 1.概要 ①目的 本調査は朝来市教育委員会が平成 25 年度に実施した「石垣カルテ調査票作 成業務」でまとめた調査票を補う情報を得るために予察を行った。 ②調査日と調査箇所 調査日 調査箇所 平成 26 年 8 月 11 日 ・北千畳の一部、三の丸西側、二の丸、本丸、天守台、本丸裏平殿に 通じる石垣、花屋敷に至る通路、南二の丸、南千畳の一部) 平成 26 年 11 月 13 日 ・花屋敷に至る通路、花屋敷、南二の丸西側、南千畳西側 平成 26 年 11 月 14 日 ・南千畳東側、南二の丸東側 平成 27 年 3 月 10 日 ・三の西側、北千畳の一部、大手虎口 ※二の丸及び三の丸の東側、天守台石垣など、一部未調査箇所がある。 ③調査者 ■竹田城跡石垣修復検討委員会 北垣委員長、西尾副委員長、西形委員、森岡委員、青田委員、安福委員 ■竹田城跡石垣修復検討委員会事務局 ④調査方法 踏査・目視 資 2-1 2.予察報告 (1)北千畳及び大手虎口 ・大手虎口及びその周辺は、見学者動線沿いであるので、定点観測による石垣管理、石垣 危険箇所の早急な対策が必要である。 番号 3 予察結果 ・竹田城跡の特徴的な大型縦石が角石に使用されている。 ・巨石の内側に矢を入れて調整。(慶長初期) ・天端から3段目の石材が劣化。 ・角石に矢穴あり ・天端石一部突出。劣化が進行している。 4 ・天端が一部陥没。 5 ・垂直勾配あり。築石どうしの合端の劣化。 6 ・出隅が垂直勾配。角石の割れ。至急積直しの検討が必要。 7 ・三の丸隅角部下段角石の割れ。 8 ・昭和 54,55 年度修理範囲。周辺石垣の定点観測が必要。 9 ・築石の面下がりが見られる。大手道沿いのため早急な対策が必要である。 1 2 4 1 3 2 7 5 6 8 9 K-2~4 資 2-2 (北千畳・大手虎口) 番号2 番号3 【大手】石材そのものの劣化(大手正面石垣隅角部) 番号5 【K-20】天端石の一部突出(近景) 番号6 【K-3】築石どうしの合端の劣化 【K-3】大手虎口石垣隅角部の石のズレ 番号7 番号9 【大手】三の丸の石垣隅角部の角石の割れ 【大手】石垣の孕み(大手道沿い) 資2-3 (2)三の丸・二の丸 ・崩壊している石垣と石段の西側には井戸曲輪も存在することから、井戸曲輪の公開には この崩壊部の修復が必要である。 ・基礎地盤の劣化も見られることから、基礎地盤の確認調査が必要である。 ※東面石垣は未調査。 番号 1 予察結果 ・桝形石垣と石段の一部が崩壊している。崩壊の進行防止対策と修復工事が筆 王である。 2 ・岩盤を利用した石垣で、見事な「輪取り」を持って構築されている。 3 ・中央部で石垣の孕み、上段の石材の抜け、大型築石の突出あり。 ・三の丸郭平坦部から流れる雨水がまわりこみ、天端石が落ち込んでいる。 ※「石垣カルテ調査票」では、最も危険度が高いと示されている。 4 ・上段の出角の角石には、巨石を縦積みとしている。 5 ・隅角部は特徴的な「ヤセ角」である。 6 ・竪堀の直上に位置し、根石の基礎地盤が劣化し、根石列がむき出し状態であ る。 7 ・部分的な石材の抜け。 8 ・大規模に崩落していた部分で、昭和 49、51 年度に修理工事が実施された。 (石材は篠山から調達) 2 Ⅲ-33 Ⅲ-31 6 5 7 4 7 3 8 8 資 2-4 1 (三の丸及び本丸裏平殿に通じる石垣) 三の丸不織布の状況 三の丸北西部櫓台の状況 番号3 【Ⅲ-31】天端石の落ち込み 番号3 【Ⅲ-31】天端石の落ち込みと孕みの状況(中央部) 番号1 番号6 【Ⅲ-26】石段の一部の崩壊状況 【Ⅲ-33】石垣基礎地盤の劣化(竪堀) 資2-5 (二の丸) 二の丸不織布の状況 二の丸全景(右側:昭和49・51年度修理箇所) 本丸スロープから二の丸に流れ込む土砂 【Ⅱ-10】隅角部石垣のワレ 番号7 【Ⅱ-4・5】石材のヌケ 【Ⅱ-3】石材のヌケ(人為的影響) 資2-6 (3)本丸・天守台・平殿 ・天守台は、全体が防水シートで覆われている。盛土がやせてしまっており、天端石のあ る箇所は突出している。 ・登頂禁止以降、本丸にある2本のサクラから、「ひこばえ」が根の周辺に発生している。 ・櫓台部の石垣の危険度から、当委員会からの落石防止ネット設置の提言を受け、平成 26 年度に設置が完了した。今後の抜本的な対策の検討が必要である。 ※天守台石垣、南面石垣は未調査。 番号 予察結果 1 ・角石の割れ。石垣背面が本丸への斜路にあたるので対策必要。 2 ・見事なシノギ角である。 3 ・隅角部の角石の割れ。 ・築石の表面剥離、圧壊。今後の抜本的な対策の検討が必要である。 4 ・定点観測が必要。 5 ・角石の圧壊、下段角石のせり出し。通路沿いであり危険度が高い。 6 ・敷石列の一部が露出、瓦片が多数散在。遺構保護が急がれる。 7 ・テラス付の石段は全国的にも貴重である。(他に類例があるか?) 8 ・本丸、天守台の遺構の保全対策が必要。 I-12 5 M-31~39 I-11 3 2 4 6 8 7 1 8 資 2-7 (本丸) 本丸の状況 ひこばえの発生状況 番号1 番号3 【斜路】角石のワレ 【Ⅰ-13~15】角石のワレ(櫓台出角) 番号3 番号3 【Ⅰ-14】石材の落下(通路の直近) 【Ⅰ-14】角石のワレ 資2-8 (天守台) 天守台上面 天守台上面(礎石) 天守台上面(防水シート敷設) 天守台上面(天端石付近突出) 【Ⅰ-3・9】石垣のワレ 【Ⅰ-3・9】石垣のワレ 資2-9 (4)花屋敷 ・肥前名護屋城の遊撃丸に酷似する、独立した軍事色の強い郭である。 ・規格的な狹間口を多数持つ、全国的にも注目される郭である。 ・通路を構築する石垣は見事であり、シノギ角は城内でも屈指である。 ・平殿から花屋敷郭への通路は複雑であり、縄張りに特徴がある。 ・本丸方向を望むと緻密な縄張りを認識することができる。 ・上記のことから、竹田城跡の本質的価値を知るうえで、本来は公開すべき郭であるが、 平殿から花屋敷へ至る唯一の通路においての石垣や、花屋敷の石垣危険箇所があるため、 立ち入り禁止としている。早急に対策を検討し、公開に努める必要がある。 ・全体的には局所的な劣化(割れ、剥離、圧壊、亀裂、抜け、欠落)が見られるが、特に 西面石垣の崩壊が著しい。 番号 予察結果 1 ・石垣は見事であり、シノギ角は城内でも屈指である。 2 ・通路の複雑な縄張りに特徴あり。 3 ・出角の孕み出し。 4 ・桝形虎口の保存状態が良好。(現在は仮設モノレールを設置) 5 ・狹間石垣の劣化が進行している。 ・西面石垣は上面が一部崩落しており、各所に孕み、陥没があり、下層にも及 んでいる。石垣全体の劣化が進行しており、早急な保存対策が必要である。 6 7・8 ・天端石の抜け、天端面の陥没。 8 ・天端石の抜け、天端面の陥没。 9 ・登り石垣の崩壊が進行している。早急な保存対策が必要である。 10 ・平殿隅角部の下段角石の圧壊 11 ・平殿天端石のズレ 7 8 5 H-10~15 6 4 5 H-1~7 1 9 3 10 11 2 資 2-10 (花屋敷及び花屋敷にいたる通路) 番号1 番号6 【M-11】しのぎ積み 【H-13】石垣の崩れ 番号5 番号7 【H-13】狭間の崩れ 【H-7~8】陥没 番号10 【M-46】隅角部角石の圧壊 番号11 【H-7~8】天端石のズレ 資2-11 (5)南二の丸 ・全体的な特徴として、曲線状に折れ曲がるという特異な平面プランを持つ。 ・西側(安井側)石垣の状況については、全体的に局所的な劣化側(割れ・剥離・圧壊・ 亀裂・抜け・欠落)が顕著であり、極めて危険性が高い。 ・東側(竹田側)石垣については、部分的に局所的な劣化が見られる。石垣下段での角石 の割れ、抜け、圧壊が多く、危険度は高い。また基礎地盤の保全も必要である。 番号 予察結果 1 ・角石を受けるハサミ石や飼石が劣化し、危険性が高い。 2 ・石垣下段での角石の割れ、抜け、圧壊が多い。 3 ・全体的に局所的な劣化(割れ・剥離・圧壊・亀裂・抜け・欠落)が顕著。 3 3 1 2 2 資 2-12 (南二の丸) 番号1 鏡石左下の詰め石補充 ハサミ石、築石の圧壊 番号2 番号2 【M-1~7】ワレ 【M-1~7】圧壊 番号3 番号3 【MⅡ-7~9】ワレ・圧壊等 【MⅡ-7~9】ワレ・圧壊等 資2-13 (6)南千畳 ・南千畳先端部は、見学者が集中するところでもあり、草の枯渇が酷く、石垣天端付近で の土砂の流入が激しい。 ・西側(安井側)石垣の状況については、全体的に局所的な劣化側(割れ・剥離・圧壊・ 亀裂・抜け・欠落)が顕著であり、極めて危険性が高い。 ・南側及び東側の(竹田側)石垣については、部分的に局所的な劣化が見られる。石垣下 段での角石の割れ、抜け、圧壊が多く、危険度は高い。また基礎地盤の保全も必要であ る。 番号 予察結果 1 ・昭和 46 年に上半部が修理されている。 ・全体的に局所的な劣化(割れ・剥離・圧壊・亀裂・抜け・欠落)が顕著。 2 ・全体的に局所的な劣化(割れ・剥離・圧壊・亀裂・抜け・欠落)が顕著。 ・1 と2の隅角部の角石の割れ。 2 2 M-26~30 1 1 M-8~11 資 2-14 (南千畳) 番号1,2 築石のワレ、剥離 番号1,2 築石の突出等 番号1,2 築石の圧壊 番号1,2 築石のワレ 番号1,2 築石のワレ 番号1,2 隅角部角石のワレ 資2-15 (7)予察まとめ ①【石材(山陰系花崗岩)の持つ性質】 ・(石垣では)石の割れ、局所的な不具合が見られた。原因としては、石材がもとも と節理のある花崗岩なので致し方ない所がある。 ②【劣化の種類とその範囲】 ・石垣の劣化には構造としての不安定化、局所的な劣化(不安定化)の2種類がある。 ・劣化が進んでいる範囲については、花屋敷曲輪をはじめとして西側(安井集落方向) に多いと思われる。特に三の丸の西側石垣には構造的な不安定状態にあると考えら れるところもある。 ③【竹田城跡における石垣劣化の特徴】 ・竹田城跡の石垣の局所的な劣化(石そのもののワレ、剥離、圧壊、亀裂、抜け、欠 落など)については、来訪者の多さと合わせて、緊急の対策が必要である。 ・母岩の節理が基本的に小さいので、小割れ、中割れが多く、1m以上の大きい石材 が角石になった時の傷みがひどい状況。節理を超えて捉えている石材もあり、亀裂 にもつながっている。 ④【対処の方法(案)】 ・局所的な劣化の見られる石垣は、危険であるという判断を行い、至急に手を打つ必 要がある。具体的には石の補強、補充、詰石等、また全体的にネットをかけるとい ったように、その方法を整理して、個々の箇所で対処する必要がある。 ・構造的な劣化(不安定化)については孕み出し・前倒れ・地盤の脆弱性等が考えら れる。対処としては、定点観測・3次元データ計測・地盤調査などが考えられる。 ・中長期的な取り組みとして構造的な不安定要素をより明確に把握するために、全体 的な地盤調査を実施する必要がある。予防的な意味合いも含め、計画に盛り込むべ きである。 ⑤【調査課題】 ・矢穴技法の施工率の低さと古Aタイプ小型の慶長初期の矢穴痕が存在する可能性が あるが、近世・近代の補修工事部分との正確な照合が必要である。 ・石垣の施工状況の低い箇所は、節理間隔の狭い山陰系花崗岩の割石材を使用してい ることと同時に、石垣自体の構築年代が古いということも考えられ、今後の調査課 題である。 ・本調査では、二の丸及び三の丸の東面、天守台石垣など未調査箇所もある。これら 箇所の継続調査と、今後本格的な現状把握が必要である。 資 2-16 3.総括 1.国史跡竹田城跡整備とその本質的価値 昭和 52 年度策定の竹田城保存管理計画書では、『竹田城遺構のいわゆる見せ場は、その 石垣にある』とあり、それは歴史の証拠として、安定した構造体をあらわしたもので、そ の具体的諸要素として、「石垣整備のてびき」(文化庁文化財部記念物課監修)から、以下 の5要素が本質的価値を表している。 ○形態、意匠 ○時代性 ○地域性 ○技術 ○精神性 これらの5要素を兼ね備え、欠けることなく残されているのが竹田城跡である。 これまで竹田城跡は、先の保存管理計画書に基づき、竹田城保存会を始めとする地元住 民の方々により、保全が図られてきた経緯がある。 その後、平成 25 年度に設置された「竹田城跡石垣修復検討委員会」で、平成 16 年の土 砂災害により半壊状態にある山麓部居館跡石垣についての修復のあり方について審議する と共に、近年の見学者急増による遺構の劣化進行を危惧して、主郭部石垣の現状把握に取 り組んだ。その予察の結果、以下のような問題点があげられる。 2.竹田城石垣の劣化状況 (1) 竹田城跡の総合的な地形と地盤調査 平成 16 年に竹田城山麓部において土石流が発生し、居館跡等の貴重な遺跡が被害を受け たことは記憶に新しい。しかし、竹田城跡を含む古城山の総合的な地盤調査はほとんど手 付かずの状況にある。今後の竹田城跡の保存と修復計画の策定を行う上でも、ボーリング 調査等による竹田城跡全体の地質構造と地盤特性を把握しておく必要があることは言うま でもない。本来、中長期的な計画に基づいた総合的な地盤調査が望まれるところであるが、 現時点において、早急に地盤関連調査が必要であると思われる点を列挙すると以下のよう にある。 ①南千畳東面石垣(M-8~11,M-26~30) この部分では昭和 46 年から 52 年にかけて修理が数多くなされている。このよう 資 2-17 な石垣構造の劣化や不安定性が集中的に発生したことを考えると、この領域の地盤 構造そのものに何らかの原因があるものと考えられる。 ②二の丸東面石垣 昭和期の修理では一部修理がなされているが、この石垣部は急峻な谷地形部にあ り、その上部には本丸天守台の高石垣が存在している。さらに、この斜面下部は平 成 16 年の土石流発生箇所につながるため、地下水の状況を含めた地盤調査が必要で ある。 ③表面流出水の処理 近年の竹田城跡における樹木伐採や観光者の急増によって、石垣基盤面の露出や 地盤面の洗掘による石垣の不安定化が進行している。このため平成 25 年度には、天 守台下の二の丸(平御殿)石垣において一部突出した石垣の修復と、通路部の浸食劣 化に対する応急対策(土嚢による見学路設置)がとられた。このような、竹田城跡に おける地表面に近い部分の劣化には、雨水の影響が大きいことは明らかである。した がって、城跡内の雨水の流路ならびにその排水に関する早急な調査と対策が望まれる。 (2) 石垣の構造的不安定化とその対策 石垣の劣化や不安定化は、その構造的劣化と局所的劣化に大別される。石垣の構造的劣 化の兆候には石垣面の広範囲にわたる孕み出し現象や前倒れ現象などがあり、これらの変 状は下部地盤の脆弱性あるいは石垣背後の地盤構造に起因することが多い。また,石垣の 局所的劣化に分類される個々の築石の変位、割れ、抜け等が進行した結果、石垣全体の構 造的不安定化を招くこともある。このような構造的な変状は比較的高さの高い石垣におい て発生することが多いため、安全管理の面から問題となる。しかし、孕み出しや前倒れ現 象などの石垣の構造的変状に対する安定性評価手法については未解明な部分が多いこと、 また高さの高い石垣は城郭遺構の中でも象徴的な位置を占めるものが多いため、安易な修 復は避けなければならない。そこで竹田城跡においては、当面の間、石垣の継続的な変形 計測を実施し、その安定性を確認することで安全を担保することが良策であると考える。 竹田城跡ではこのような計測を必要とする箇所が散見するようであるが、中でも調査が優 先されるべきであると思われる点を示すと以下のようである。 ①三の丸西面石垣(Ⅲ-31~33) とくに、Ⅲ-31 の石垣の変状には著しいものがあり(孕み出し,天端石の崩落欠損, 築石の大変位と抜け)、見学者の通路にも近接していることから早急な修復作業を必 要とする箇所と考えられる。また、Ⅲ-33 石垣の基礎地盤は脆弱ですべり破壊状況を も呈しており、これが石垣根石の変状の原因とも見られるため、確認のための地盤調 資 2-18 査を実施すべきである。また、この石垣部から直角方向に竪堀が開削されており、こ れが石垣の不安定化を誘引したのではないかとの視察意見もあった。以上のことから、 Ⅲ-31~33 部においては,根本的な修復作業が必要になるものと思われるが、このた めには事前の入念な調査が不可避である。 ②大手虎口周辺石垣(K-2~4) この部分については昭和 52 年度策定の「竹田城保存管理計画書」にどこよりも優 先して修理すべきと指摘され、一部は昭和 54、55 年度に修理工事が実施されたが、 今回の視察から、それ以外の箇所においても継続的な変状が発生していることが指摘 された。竹田城跡の重要箇所でもあり、見学者の動線にもあたることから、継続的な 変状観測を実施すべき個所である。 ③本丸東南面石垣(I-11~12) この石垣は見学者の通路に近いことから安全の確保が優先されなければならない。 ただ,石垣には変状が見られるものの、その変状が継続しているのか、それともひと つの安定な状態を維持しているのかが明らかではない。したがって、この石垣につい ても定点観測による安全管理を行うことが肝要であると考える。できれば、複数の変 位計による連続的な計測の実施が望まれる。 ③花屋敷石垣(H-1~7,H-10~15) 花屋敷は、肥前名護屋城の遊撃丸に類似した狹間石垣を有した軍事的要素の強い独 立した郭で、竹田城跡内だけでなく全国的な文化財として観点からも重要な位置にあ り、できれば将来、見学者に公開すべき場所であることが指摘された。しかし、そこ に至る動線部および花屋敷周辺の石垣には著しい構造劣化(積み石の抜け、過大な変 形など)が見受けられる。したがって、この周辺では城郭遺構としての十分な調査を 実施したうえで、今後の修復方法に関する対応策を考えなければならない。このよう な対応が優先されるべき場所であると考える。 (3) 局所的な不安定部とその対策 局所的な石垣の不安定化とは以下に示すような多くの不安定要因がある. ・局所的な孕み出し ・天端石および築石の欠落 ・積み石の亀裂 ・圧壊(粉砕による複数亀裂の発生) ・積み石の剥離劣化 ・間詰石の欠損 ・通路部の浸食と劣化 ・栗石の欠損,乱れ 資 2-19 ・角石部の不安定化 これらの劣化要因については、一般には石垣カルテと呼ばれる調査記録によって現状調 査と管理がなされ、竹田城跡においても石垣カルテの原案が作成されて調査が開始されて いる。ただ、カルテの調査項目と評価結果は、将来の城郭石垣遺構の管理手法と修復計画 に対して明確な情報を与えるものでなければならない。言い換えれば、評価の客観的な根 拠が明確にされている必要がある。すなわち、石垣カルテでは単に劣化の有無だけを記録 するのではなく、定量的な劣化の度合いを示す必要がある。例えば隅角部から隅角部に至 るまでの石垣築石の中で破壊した石の数(あるいは全石数に占める割合)などのような数 量化された調査結果が必要である。さらに、孕み出し指数(= 孕み出し量/石垣高さ方向 の孕み出しが生じている長さ)は、孕み出し変形の度合いを表す指標として一般に用いら れつつあるので、この指数も記録の項目に加えるべきであろう。このような数量的な表現 によって、合理的な危険度評価や修復順序の決定を行うための資料とすることができる。 また、石垣カルテは継続的な調査によって,常に更新されるべきものであることを忘れて はならない。 竹田城跡の築石は近辺の基盤岩の露頭に見られる僅かに風化を受けた花崗岩であると思 われるが、城郭石垣の築石としては決して質の良いものとは言えず、各所で築石の割れ劣 化が見られる。とくに、以下の箇所において劣化が著しいことが現地視察により確認され たことから、上述したような点を加味した石垣カルテによる再調査が望まれる。 ① 三の丸南西面石垣(M-31~39) この箇所では積み石の圧壊(単一の亀裂ではなく,複数の亀裂により石がバラバラに なった状態)が数多く見られ、一日も早い劣化箇所の定量的な調査が必要とされる。と くに、角石が圧壊している箇所も散見され、石垣の構造的な不安定の発生につながるこ とが予想されるため、確実な石垣カルテによる現状調査を急ぐ必要がある。 資 2-20 3.課題 竹田城跡の石垣遺構の本質的価値の継承、すなわちオリジナルを保全するために、以下 の課題をあげる。 ①日常の「石垣維持管理」(石垣を良好な状態の維持を図るため)の仕組みづくりが必要 である。 ・恒常的なパトロール体制のとれる組織づくり。 ・『石垣カルテ』の整備、更新。 ・樹木管理。(雑草、実生木の除去、樹木の根張りと石垣の関係) ・雨水排水管理。(石垣背面や基盤面の排水) ②計画的な地盤調査を実施し、その調査結果を『石垣カルテ』の危険度へ反映させる。 ③事業化に向けた合意形成が必要である。 天守台や本丸の公開、石垣修理の事業化に向けて、史跡の保全と活用のための対策や 修理方針を協議するために、段階を経た合意形成を図るための諮問機関(新しい委員会) が必要である。 ・修復工事箇所の選択 ・基礎資料の収集 →対象石垣の平面図、立面図、横断図、縦断図、地中レーダ―探査、 ボーリング調査 ・事前発掘調査。 ・修復工事方針の決定(応急措置、部分補強、部分補修、解体修理等の判断) ・該当石垣の修復範囲の決定 ・それらの成果の判断から、基本設計及び実施設計へ着手。 なお、この間には十分な協議検討の期間が必要であり、これらの事項を、いつ、どこ で、どのような組織で、判断していくかが重要である。 特に竹田城跡における解体修復工事となれば、はじめての学術調査となることから、 具体的な方法の検討や、伝統技術に基づく修復工事の特記仕様書の作成、文化財石垣の 修復工事に堪能な石積み棟梁(解体のはじめから積み直しが完了するまで)の確保など が必要となる。 資 2-21 ④ 入場者数の制限について ペルーのマチュピチュ遺跡では、原則として 1 日の入場者数を 2,500 人としている。た だし、あくまで原則であり観光者の多い季節ではこれを超える人数が入場していることも あるとのことであった。あくまで原則論であるとしても、このような数字が提示されてい ることには注目しなければならない。マチュピチュ遺跡の面積は、都市部(主として一般 の観光客が立ち入る場所)で約 5km2 あり,竹田城跡(主郭部 18,743 ㎡)の面積に比べると かなり大きい。このことにも考慮しながら今後、城跡保存の立場から入場者の制限について 正式に議論する必要があるものと考える。 4.要望 ①当委員会において、主郭部石垣遺構の予察(現地調査)を実施しましたが、全域には 及ばず未調査範囲もあり、今後継続調査が必要である。 ②近年確認された、主郭支峰の谷あいにのびる「大竪堀」や文禄・慶長期にかかわるも のとする「登り石垣」を始めとする多くの城郭遺構が未指定であり、史跡の追加指定 が必要である。 朝来市自ら「東洋のマチュピチュ」を認めるように、竹田城石垣は我が国の文禄・慶長 初期を代表する山城のひとつとして認知規模は決して大きくないが、要所ごとにコンパク トにまとまり、それでいて石垣の見事な構造は軍事的にもよくその特徴が語られ、他の追 従を許さない。この石垣遺構の多くが劣化に伴い崩壊の危機に瀕している。こうした先人 から託された竹田城跡の活用は、遺構、遺物の保護、保全が先ずあって、初めて朝来市と いう活用(観光事業)に供することが可能となる。こうした本物の遺構が、原型を備えな がら残されている城郭は、非常に少なくなりつつある。「本質的価値」を十分見定めながら、 のちに史家から、とんでもない遺構を破壊した、と言われぬ対策こそ急務である。 資 2-22