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海の物流システム革新事例 - 商船の変遷史 自動車

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海の物流システム革新事例 - 商船の変遷史 自動車
海の物流システム革新事例
- 商船の変遷史 自動車専用船 -
掲 載 誌 ・ 掲 載 年 月 : 日 本 海 事 新 聞 1302
日本海事センター企画研究部
次長
臼井
潔人
自動車専用船の誕生と大型化の歴史
製 品 の 輸 送 に お け る も う 一 つ の 大 き な 問 題 は 、自 動 車( 完 成 車 )の 海 上 輸
送 で あ っ た 。 日 本 の 自 動 車 輸 出 は 昭 和 30 年 代 か ら 本 格 化 し 、 当 初 は 東 南 ア
ジ ア 向 け の バ ス と ト ラ ッ ク が 主 で あ っ た 。後 に 主 要 市 場 と な る 米 国 向 け の 自
動 車 輸 出 は 、 日 産 自 動 車 が 昭 和 33( 1958) 年 に ダ ッ ト サ ン 乗 用 車 466 台 の
対 米 輸 出 契 約 を 締 結 し た 。 ト ヨ タ は 昭 和 32( 1957) 年 8 月 に ク ラ ウ ン 2 台
を サ ン プ ル 輸 出 し た が 、 同 社 の 社 史 に よ れ ば 、 昭 和 33( 1958) 年 6 月 20
日 に ロ ス ア ン ゼ ル ス に 到 着 し た ク ラ ウ ン 30 台 を も っ て 、 米 国 向 け 輸 出 の 第
一 陣 と し て い る 。 ト ヨ タ は ク ラ ウ ン の ト ラ ブ ル が 多 発 し た た め 、 昭 和 35
( 1960) 年 に 乗 用 車 の 対 米 輸 出 を い っ た ん 中 断 す る な ど 苦 戦 し た 。 一 方 、
日 産 自 動 車 の 米 国 に お け る 販 売 実 績 は 、昭 和 34( 1959)年 か ら 昭 和 36( 1961)
年 に か け て は 各 年 1,100~ 1,200 台 だ っ た も の が 、昭 和 37( 1962)年 に 1,800
台 、昭 和 38( 1963)年 に 2,700 台 、昭 和 39( 1964)年 に は 6,800 台 と 順 調
に 輸 出 ・ 販 売 台 数 を 伸 ば し て い っ た 。 ち な み に 、 ト ヨ タ の 昭 和 39( 1964)
年 に お け る 北 米 向 け 輸 出 は 3,800 台 で あ り 、米 国 市 場 に お い て は 日 産 が ト ヨ
タをリードしていた。
世 界 的 に 見 る と 、 日 本 か ら の 乗 用 車 輸 出 は 昭 和 36( 1961) 年 に よ う や く
1 万 台 を 超 え 、 昭 和 39( 1964) 年 に は 5 万 台 に 達 し て い る 。 そ れ 以 降 は 加
速 度 的 に 増 加 し 、翌 年 の 昭 和 40
( 1965)年 に は 10 万 台 を 超 え 、昭 和 44
( 1969)
年 に は 50 万 台 、 昭 和 46( 1971) 年 に は 130 万 台 に 急 拡 大 し て い る ( 輸 出
台 数 は 橋 本 寿 朗 著 『 現 代 日 本 経 済 史 』 岩 波 書 店 を 参 照 )。 日 系 メ ー カ ー の 自
動 車 生 産 が 拡 大 し て 輸 出 が 急 増 し た 理 由 と し て は 、第 一 に 日 系 メ ー カ ー の 優
れ た 製 品 開 発 力 と 生 産 シ ス テ ム の 絶 え ざ る 開 発 力 が 挙 げ ら れ る が 、輸 出 に お
ける自動車専用船を使った海上輸送システムの革新も大きく貢献している
といえる。
自 動 車 輸 出 の 初 期 に は 、自 動 車 は 在 来 貨 物 船 に 1 台 1 台 ク レ ー ン で 積 み 揚
げ さ れ て い た が 、ク レ ー ン に よ る 荷 役 は 手 間 と 時 間 が か か り 、荷 役 中 や 航 海
中 の 揺 れ に よ る 貨 物 の 損 傷 が 多 い 、積 み 付 け 用 の 資 材 費 も 高 い 、重 ね 積 み が
で き な い た め 船 倉 内 の ス ペ ー ス を 余 計 に 占 有 す る な ど 、海 運 会 社 に と っ て は
極 め て 扱 い に く い 貨 物 で あ っ た 。ま た 、北 米 市 場 に お い て は 、後 発 の 日 本 車
はドイツのフォルクスワーゲン社の
小 型 車「 ビ ー ト ル 」と 競 合 す る こ と と な っ た が 、こ の ビ ー ト ル は 後 述 す る デ
ィ ヴ ィ ・ シ ッ ピ ン グ ( 本 社 :ノ ル ウ ェ ー ) が 運 航 す る 自 動 車 専 用 船 に よ り 低
1
運 賃 で 効 率 よ く 輸 送 さ れ て お り 、最 盛 期 は 毎 月 3 万 台 が 米 国 に 輸 入 さ れ て い
た と 言 わ れ て い る 。こ の た め 、対 米 輸 出 に 力 を 入 れ て い た 日 産 自 動 車 は 、商
船 三 井 と の 共 同 研 究 の 結 果 、 自 動 車 を 自 走 さ せ て 荷 役 す る ロ ー ル オ ン /ロ ー
ル オ フ( RORO)方 式 と い う 全 く 新 し い 発 想 で 、昭 和 40( 1965)年 10 月 に
商 船 三 井 が 日 本 初 と な る 自 動 車 専 用 の 荷 役 設 備 を 備 え た 「 追 浜 丸 」( 16,155
重 量 ト ン ) を 建 造 し た 。「 追 浜 丸 」 は カ ー デ ッ キ を 5 層 設 け 自 動 車 を 6 段 積
み で き 、 搭 載 台 数 は 1,200 台 で あ っ た 。 船 倉 へ は 1 時 間 に 100 台 の ペ ー ス
で 積 み 込 む こ と が で き ( 従 来 は 1 時 間 に 15 台 程 度 )、 荷 役 時 間 を 飛 躍 的 に
短 縮 す る と 同 時 に 、貨 物 ダ メ ー ジ も 大 幅 に 軽 減 し た 。昭 和 海 運 も 日 産 自 動 車
用 に 「 追 浜 丸 」 と 同 型 船 の 「 座 間 丸 」 を 昭 和 41( 1966) 年 3 月 に 建 造 し て
いる。
「 追 浜 丸 」は 、復 航 で 小 麦 な ど の ば ら 積 み 貨 物 を 積 載 す る た め の 船 上 ク レ
ー ン を 備 え て い た が 、 自 動 車 の 輸 出 増 加 に 対 応 す る た め 、 昭 和 45( 1970)
年 に 川 崎 汽 船 が 日 本 で 初 の 2,070 台 積 の 自 動 車 専 用 船( Pure Car Carrier =
PCC)
「 第 10 と よ た 丸 」を 建 造 し た 。翌 年 商 船 三 井 が 建 造 し た 同 社 初 の PCC
「 か な だ 丸 」は 積 載 台 数 2,000 台 で 、1 時 間 に 250 台 を 積 み 込 む こ と が で き
た 。 ち な み に 、 Pure Car Carrier は 川 崎 汽 船 が 使 い 始 め た 用 語 で 、 い ま で
は 海 運 用 語 と し て 世 界 的 に 定 着 し て い る 。ば ら 積 み 貨 物 も 積 載 で き る 追 浜 丸
な ど は Car Bulker と 呼 ば れ て い た が 、 そ れ ら と の 違 い を 強 調 す る た め に 、
敢 え て “Pure”を 使 っ た と の こ と で あ る 。
< 図 表 -1> 「 追 浜 丸 」
(出典)商船三井提供
世 界 初 の 自 動 車 専 用 船( PCC)は 、デ ィ ヴ ィ・シ ッ ピ ン グ( 現 在 の ノ ル ウ
2
ェ イ ジ ャ ン ・ カ ー キ ャ リ ア ー ズ ) が 、 昭 和 39( 1964) 年 建 造 し た 450 台 積
み の “Dyvi Anglia”と 考 え ら れ る 。 同 船 は 英 国 か ら 北 欧 州 向 け の フ ォ ー ド 車
の 海 上 輸 送 に 投 入 さ れ た 。続 い て 翌 年 の 昭 和 40( 1965)年 に 建 造 さ れ た “Dyvi
Atlantic”( 全 長 148.6m、幅 19.0m)の 最 初 の 航 海 は 、同 年 2 月 に フ ォ ル ク
ス ワ ー ゲ ン ( VW) 社 の ビ ー ト ル を 1,300 台 積 み 込 ん で 、 ブ レ ー メ ン 港 ( ド
イ ツ )か ら ボ ル チ モ ア( 米 国 )に 航 行 し た も の で あ っ た 。デ ィ ヴ ィ ・シ ッ ピ
ン グ は 8 年 間 に 6 隻 の 自 動 車 専 用 船 を 建 造 し 、主 と し て 大 西 洋 航 路 に 投 入 し 、
VW 社 の 米 国 市 場 開 拓 に 大 い に 貢 献 し た 。
VW 社 の 米 国 に お け る 事 業 展 開 は 、 昭 和 24( 1949) 年 に 米 国 向 け に 輸 出
を 開 始 し て 以 来 、VW 車 は 代 表 的 な 大 衆 車 と し て 人 気 を 博 し た 。し か し 、昭
和 50 年 代 に 現 地 生 産 車 の ブ ラ ン ド 戦 略 に 失 敗 、 そ の 間 、 日 本 車 の 販 売 が 大
い に 増 加 し た こ と か ら 、 米 国 に お け る VW 社 の シ ェ ア は 、 平 成 23( 2011)
年 5 月 に 20 年 ぶ り に 現 地 生 産 を 再 開 す る ま で 大 き く 落 ち 込 ん で い た 。
当 初 、 自 動 車 専 用 船 の 積 載 能 力 は 2,000~ 3,000 台 で あ っ た が 、 そ の 後
4,000 台 、 5,000 台 、 6,000 台 と 徐 々 に 大 型 化 が 進 み 、 同 時 に 年 間 航 海 数 を
増 や す た め に 高 速 化 さ れ 、効 率 輸 送 が 追 求 さ れ た 。昭 和 50 年 代 な か ば に は 、
ミ ニ バ ン 、 SUV( ス ポ ー ツ 多 目 的 車 )、 ト ラ ッ ク 、 バ ス 、 建 設 機 械 や 農 業 機
械 と い っ た 背 高 ・ 重 量 貨 物 に も 対 応 で き る Pure Car & Truck Carrier
( PCTC) が 登 場 し 、 主 流 と な っ た 。 現 地 生 産 の 増 加 に よ り 、 特 に 小 型 乗 用
車 の 輸 出 が 減 少 す る 一 方 、背 高・重 量 貨 物 の 輸 送 需 要 が 増 加 し た か ら で あ る 。
従 来 の PCC は 小 型 乗 用 車 を 最 大 限 積 載 す る た め 、 大 半 の カ ー デ ッ キ の 高 さ
は 1.65m と 非 常 に 低 く 設 計 さ れ て い た が 、 PCTC は 天 井 の 高 さ を 調 整 で き
る リ フ タ ブ ル・デ ッ キ を 標 準 装 備 し 、建 機 な ど の 重 量 物 に 対 応 す る た め 、デ
ッキやランプウェイ(船と岸壁をつなぐ昇降通路)の強度を高めている。
自 動 車 専 用 船 に お い て も 、 平 成 26( 2014) 年 の パ ナ マ 運 河 拡 張 を に ら ん
だポスト・パナマックス型自動車専用船が、ユーコー・カーキャリアーズ
( 本 社 : 韓 国 ) に よ っ て 発 注 さ れ 、 日 本 郵 船 も 平 成 24( 2012) 年 11 月 に
7,000 台 積 の ポ ス ト ・ パ ナ マ ッ ク ス 4 隻 を 、三 菱 重 工 業 ・ 今 治 造 船 連 合 と 新
来 島 ド ッ ク に 2 隻 ず つ 発 注 す る と 発 表 し て い る 。ユ ー コ ー が 発 注 し た 船 型 は
全 長 200m 以 内 で 、 幅 を 32.2m か ら 35.4m に 広 げ 、 7,200 台 の 完 成 車 を 輸
送 で き る と い う も の で あ る 。 さ ら に 、 平 成 25( 2013) 年 1 月 に は 、 ホ ー グ
オ ー ト ラ イ ナ ー ズ( 本 社:ノ ル ウ ェ ー )が 8,500 台 積 み ポ ス ト・パ ナ マ ッ ク
ス 3 隻 を 中 国 の 厦 門 船 舶 重 工 に 発 注 し た と 発 表 し て い る 。自 動 車 専 用 船 の 場
合 、接 岸 岸 壁 の 制 限 等 か ら 全 長 200m 以 内 が 世 界 的 な 標 準 と な っ て い る た め 、
パ ナ マ ッ ク ス で は 6,500 台 が 上 限 で あ っ た が 、幅 広 に す る こ と に よ っ て 積 載
台数を増やすことが可能となった。
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< 図 表 -2> 自 動 車 専 用 船
(出典)川崎汽船提供
以上
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