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複動成形技術の動向
解説 2 複動成形技術の動向 ㈱ニチダイ アジアを中心としたモノづくりのグローバル競 争の中で生き残るためには、製品の付加価値を高 村井映介* 補助張力を利用した中空シャフトの成形について 紹介する。 めることが必要となってくる。複動成形は複数の 金型が独立して駆動することによって成形を行う 閉塞鍛造 加工法であり、鍛造品の高精度化、複雑形状品の 成形が可能である。このことから切削加工の省略 によるコスト削減などの鍛造品の付加価値を高め る加工法として有効である。 1.閉塞鍛造の概要 閉塞鍛造は上型と下型を締め付けてつくった空 間にパンチで材料を押出す鍛造法である。この方 複動成形に関する報告は従来から多く、閉塞鍛 法により図 1 に示すスパイダー、トリポート、 造によってスパイダーやトリポートの歩留りが向 ボールスパイダーの成形が可能である。この方法 1) 2) 3) 上した事例 、背圧成形によってスクロール の はそれ以前のバリだし鍛造8)に比べ切削工数の削 歩留まりが向上した事例が報告されている。最近 減と歩留まり向上に効果があり、飛躍的なコスト 4) では、中空シャフトを成形した事例 、板鍛造の 成形事例5)6)7)が報告されている。 低減を実現した。 図 2 はスパイダーを例に金型の動きを示した 特に板鍛造で複動成形を用いることは工程削減 ものである。上型と下型を締め付けながら上パン に効果があり、生産設備のコンパクト化、省スペ チと下パンチを同じ速度で駆動するため、複動プ ース化につながる。特に設備のコンパクト化は海 レス(図 3)が必要である。 外に設備を移設する際にメリットになる。 2.閉塞鍛造ダイセット9) 本稿では、閉塞鍛造によるスパイダーの成形と 複動プレスを使わずに汎用の機械プレスでも閉 塞鍛造を可能としたダイセット(図 4)が 1990 * (むらい えいすけ):技術・開発部開発課主任 〒610−0201 京都府綴喜郡宇治田原町禅定時塩谷 14 TEL : 0774−88−6317 FAX : 0744−88−6320 年代に開発された。このダイセットは図 5 に示 すようにパンタグラフ機構によってパンチの半分 の速度で上下型を動作させることができ るため、相対的に図 2 に示した金型の動 きを実現することができる。このダイセ ットの開発により生産性も向上し、国内 外に普及していった。 (a)スパイダー (b)トリポート (c)ボールスパイダー 図 1 閉塞鍛造により成形された鍛造品 2 3.閉塞鍛造スパイダーの精度向上10) 量産されている多くのスパイダーは金 プ レ ス 技 術 ■ 特集 ■ 高精度化を実現する冷間鍛造技術 上パンチ 上ダイ 素材 スパイダー 1 0 下ダイ 下パンチ −1 (各金型の速度比) (a)成形前 (b)成形後 図 2 閉塞鍛造における金型の動き パンタグラフ 図 3 複動油圧プレス(HED 800) 素材 a 上パンチ 上ダイ パンタグラフ 2 2 a/2 1 下パンチ 下ダイ (各金 型の速 度比) (a)成 形前 (b)成 形 後 図 5 閉塞鍛造ダイセット 図 4 閉塞鍛造ダイセット 型分割面へのバリの発生が避けられない(図 6) 。 また、成形時に金型軸部のひずみの不均一により 真円度が低下し、鍛造後に機械加工が必要となる。 この機械加工の省略によるコスト削減を目的に縦 バリ発生 分割型閉塞鍛造が開発された。 (1)縦 4 分割金型の概要 軸部のバリおよび真円度を向上されるために金 (a)鍛造品 閉塞力 上ダイ スパイダー 素材 バリ・ズレ発生 型の分割方法を従来の上下対称 2 分割から図 7 に示すように縦 4 分割に変更された。この縦 4 分 下ダイ 割したダイによって金型を閉塞し、円柱素材を上 下パンチで側方へ軸を押出す。その際、ダイの穴 は内圧によって X 方向に扁平した形状に弾性変 形する(図 8) 。そこで、縦 4 分割したダイの 4 ダイ分割面 (b)金型構造 図 6 上下分割型閉塞鍛造 方向から閉塞力を加え金型分割面に互いに押合う することが可能となる。また、成形時に発生する 力を発生させ、穴の内面を Y 方向に扁平した形 金型の弾性変形をコントロールすることで真円度 状に変形させることで真円度を制御できる。 縦 4 分割に変更することで、軸部のバリを防止 第 54 巻 第 8 号 (2016 年 7 月号) 向上も可能となる。 (2)閉塞荷重と軸の真円度 3 ダイ 成形力 分割面 型締め (閉塞) 図7 縦割り閉塞 鍛造の概要 バリなし (鍛造品) 成形力 スパイダー (金型構造) 0.05 真円度 /mm 0.04 0.03 0.02 0.01 閉塞 E DC B A A B C D E 分割ダイ Y 0 X −0.01 −0.02 +(プラス) −(マイナス) (真円度測定位置) −0.03 2,000 2,500 3,000 3,500 閉塞力による変形 成形力による変形 閉塞荷重 /kN 図 9 閉塞荷重と真円度の関係 X 閉塞荷重 2,000kN 2,500kN 閉塞 Y 表 1 各部の真円度 3,000kN 3,500kN 図 8 金型の変形状態 A 0.009mm −0.005mm −0.004mm −0.004mm 図 9 に閉塞荷重と 軸 部 の 真 円度の関係を示す。2750 kN 付 近 で±0. 01 mm と 最 も 良 い 結 B 真 円 度 形 状 C プ ロ ッ ト 0.018mm 0.012mm 0.002mm −0.008mm 果 と な る。表 1 は 各 部 の 真 円 度を示したものである。閉塞荷 重 2, 000 kN では X 方向に扁平 した形状、閉塞荷重 2500∼3000 0.034mm 0.002mm −0.013mm −0.024mm kN では真円に近い形状、閉塞 荷 重 3500 kN で は Y 方 向 に 扁 平した形状とな る。A 部 で は D 閉塞力による変化が小さいが、 0.021mm −0.004mm −0.014mm −0.016mm ダイ入口に近い C、D、E 部で は大きな変化を示している。ま た、閉 塞 力 2000 kN で は 金 型 E 0.044mm 0.012mm 0.007mm −0.006mm 分割面に バ リ が 発 生 し、2500 kN 以上で発生しない。 鍛 造 品 概 観 4 (3)型構造と金型モーション 4 分割ダイは側方軸方向に可 バリ発生 動できる状態で上型に、閉塞用 プ レ ス 技 術 ■ 特集 ■ 高精度化を実現する冷間鍛造技術 穴入れパンチ 上パンチ 閉塞用 カム 張力 4 分割ダイ 引き戻し用 カム ダイ 下パンチ 図 10 型構造と金型モーション 下パンチ 背圧 カムと引き戻し用カムは下型に配置する。スライ 図 11 補助張力押出し ドの下降により 4 分割したダイを閉塞カムで内側 によせて閉塞した後、上下パンチによって側方に 工藤と篠崎12)は図 11 のように捕助張力を与え 押出す。成形後はスライド上昇に伴い 4 分割ダイ ることによって押出し圧力を低減する方法を提案 を引き戻しカムにより強制的に引き戻すことで製 している。この方法はフランジ付きのビレットを 品の取り出しが可能となる(図 10) 。 ダイの端に引っ掛けることによって押出された部 (4)工法の特徴 分に張力を発生させ、パンチ圧力を後方押出しよ 鍛造では金型の弾性変形により金型と同じ形状 り低くする。成形の際は張力の上昇で側壁に割れ 精度を得ることは困難である。成形時の形状変化 が発生しないように下パンチで背圧を負荷しなが は経験的に予測するか、実際に金型を製作して確 ら成形を行う。 認する。開発した工法では閉塞力で弾性変形を調 2.成形事例 整することができるため、金型を補正する必要が なくなる。 図 12 は補助張力によって成形した中空部品で ある。試験片は焼鈍した SCM 415、潤滑剤には 二硫化モリブデンを使用している。プレスは複動 中空化工法 11) 油圧プレスを使用し、パンチ速度 20 mm/sec で 成形している。直径φ10×70 の素材からフラン 長尺シャフト部品などの中空部品の深穴 φ7.1(=D) はガンドリルによる切削が一般的であるが、 加工時間が長く、また材料歩留りも悪い。 そのため、歩留り向上と生産性向上のため 110(=L) にも冷間鍛造による深穴成形は必要である。 深穴の冷間押出しではパンチ面圧が高く なり、成形の初期で簡単に座屈してしまう。 座屈を防止するための対策はあるが大きな 効果は期待できないのが現状であり、冷間 鍛造で中空部品の深穴を成形することは非 常に困難である。 1.補助張力押出し スリーブによるガイドや多段ベアのパン φ10.1 チも用いても押出し中のパンチの座屈を完 全に防止することはできない。そのため、 (背圧:499MPa) (背圧:624MPa) パンチの面圧を低減させることが必要であ (a)破断 (b)内面割れ る。 第 54 巻 第 8 号 (2016 年 7 月号) (背圧:749MPa) (c)破断なし 図 12 成形事例 5 0 穴細長比 8 4 12 16 0.2 0.18 0.16 同軸度 /mm 0.14 0.12 0.1 0.08 0.06 0.04 素材 0.02 0 穴入れと打ち抜き スプライン 図 14 補助張力押出しの実用サンプル 0 20 40 60 80 穴深さ /mm 100 120 図 13 補助張力押出しの同軸度 ジを成形した後、深穴成形をしている。 図 12 は異なる背圧で成形した結果を示してい る。背圧が低い場合(449 MPa) 、長さ/直径比 12 で側壁が破断し、624 MPa では長さ/直径比 14 で側壁に割れが発生する。749 MPa では長さ /直径比 15 でも内面の割れは発生しない。 高い背圧では側壁の割れの防止ができるが、張 力が低くなるため、加工圧力の低減効果は低くな る。この加工では、破断が防止できる程度になる べく低く背圧を設定する必要がある。 図 13 は図 11(c) の穴の同軸度を示したもので ある。穴深さ 80 mm(長さ/直径比約 11)で 0. 01 ∼0. 02 の同軸度である。長さ/直径比 11 を超え ると同軸度が急激に低下する。 図 14 はより実用的なアイテムに適用した事例 ができる。 参考文献 1)篠崎吉太郎:塑性と加工,33−82(1992),1250−1255. 2)吉村豹治・篠崎吉太郎:塑性と加工,41−477(2000) , 986−989. 3)吉村豹治,島崎定:素形材,40−2(1999) ,12−16. 4)久保田鐵工所:素形材,51−1,(2010)21. 5)石原貞男,峯功一,鈴村敬:塑性と加工 44−507(2003) , 409−413. 6)井村隆昭:素形材 55−4,(2014)14−21. 7)堀智之,横山尚来:素形材 55−4,(2014)22−26. 8)吉村豹治・島崎定:塑性と加工,24−271(1983),781 −785. 9)村井映介:第 42 回鍛造実務講座テキスト, (2015) , 45−52. 10)石原義弘:型技術,26−5(2011) ,34−37. ,46−49. 11)村井映介:型技術,30−2(2015) 12)篠崎・工藤:塑性と加工,14−151(1973) ,629−636. である。円柱素材からフランジを成形した後、深 穴成形と抜きを 1 工程で行い、最終工程でスプラ インを成形している。 ☆ ☆ 複動成形の動向として閉塞鍛造によるクロスス パイダーの成形と補助張力を利用した中空シャフ トの成形について紹介した。閉塞鍛造ではパンタ グラフ式のダイセットと縦分割型の閉塞鍛造につ いて紹介した。中空成形では補助張力押出しにシ ャフト成形事例を紹介した。これらの技術は製品 の付加価値を高める鍛造法として有効ではある。 本稿では板鍛造についてふれてないが、板鍛造 の複動成形では多軸プレスで各ラムの動きをうま く制御すれば少ない工程で複雑形状品を得ること 6 プ レ ス 技 術