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Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity 神経堤細胞と軸索

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Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity 神経堤細胞と軸索
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
本間 しのぶ
Chapter13 Neural crest cells and axonal
specificity 神経堤細胞と軸索の特異性
頭部神経堤
1
・ 背外側に遊走し、軟骨、骨、脳のニューロン、グリア、顔
面の結合組織に分化する脳顔面頭蓋の間葉を生ずる。
神経堤細胞と軸索の成長円錐は、発生部位から胚子の特定場
所へと広範囲に渡って遊走するという共通の特性を持っている。
・ 鰓弓や咽頭嚢に入り、胸腺の細胞、歯胚の象牙芽細胞、
中耳や顎の骨を生ずる。
それらはともに、遊走を始めるという合図を認識し、特定の経路を
体幹部神経堤
通って、最終的な目的地へと導いてもらうシグナルに応答しなけ
・ 2つの主要な経路のうちのどちらかを通る。
① 背外側へ遊走→外胚葉→腹部の中軸を通る細胞は、
色素を合成するメラノサイトになる。
ればならない。この章では、神経堤細胞と軸索誘導に焦点を当
て、解説する。
② それぞれの椎板の前半部を通り、腹外側へ移動
The Neural Crest 神経堤
z
※椎板−中胚葉細胞の塊で体節由来
椎骨の軟骨原基に分化
神経堤とは
・ 神経管の背側に発生する細胞集団である。
・ 椎板中に残った体幹部神経堤細胞は、知覚ニューロンを
含む脊髄神経節を形成し、さらに腹側に移動した体幹部
神経堤細胞は、交感神経節、副腎髄質、大動脈を囲む神
経の集団を形成する。
・ 外胚葉に由来するが、その重要性から“第4の胚葉”とも
呼ばれる。
・ 神経堤細胞は、広範囲に渡って、遊走し、驚くほど多種
類の細胞へと分化する。(Fig.1)
迷走・坐骨神経堤
・ 神経堤細胞の分化は、どこに遊走し、どこにたどりつくか
で決まる。
・腸の副交感神経節を生ずる。
迷走神経の神経堤 : 第1∼7体節に向かい合って並ぶ
Fig. 1 神経堤から由来するもの
組 織
細胞種または構造
神経細胞(脊髄神経節、交感
性および副交感性神経節、
末梢神経系(PNS)
神経叢)、グリア細胞、シュワ
ン細胞
副腎髄質、カルシトニン分泌
内分泌および傍内分泌系
細胞、頸動脈小体Ⅰ型細胞
色素細胞
表皮色素細胞
顔面と前方腹側の頭蓋の骨と
顔面の軟骨と骨
軟骨
角膜内皮細胞、間質細胞、歯
乳頭、頭頸部皮膚の真皮、平
滑筋、脂肪組織、唾液腺、涙
結合組織
腺、胸腺、甲状腺、下垂体の
結合組織、大動脈弓から分岐
している動脈の結合組織と平
滑筋
z
神経堤は、部分的に重複するが、4つの機能的な領域に
分けることができる。
坐骨神経の神経堤 : 第28体節の後方に並ぶ。
・ これらの場所の神経堤細胞の遊走が生じない場合→腸
の神経節が欠如し、腸の蠕動運動が生じない。
心臓神経堤
・ 頭部神経堤と体幹部神経堤の間に位置
(ヒヨコの胚子の場合)
・ 第1∼3体節に広がり、部分的に迷走神経の神経堤前方
と重なっている。
・ メラノサイト、ニューロン、軟骨や結合組織 (第3,4,6鰓
弓) に発達
・ 大動脈から肺動脈を分ける隔壁の形成
・ 心臓から生ずる大動脈の壁の筋結合組織の全体を形成
The Trunk Neural Crest 体幹部神経堤
Migration pathways of trunk neural crest cells
体幹部神経堤細胞の遊走経路
z
体幹部神経堤は、神経管が閉鎖した後すぐに消失する
一過性の構造である。
z
体幹部神経堤細胞が遊走する際には、主として二つの
経路を取る。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
本間 しのぶ
2
胞において、Slug タンパクと RhoB タンパクの発現を誘
導する。
Fig. 2 ヒヨコ胚子の体幹部神経堤細胞の遊走
もし、これらのタンパクのいずれかが不活性化されたり、
形成が抑制されたなら…→神経堤細胞は神経管から
遊走できなくなってしまう。
背外側の経路
z
神経堤から離れる細胞は、引っぱられると同様に押され
なければならない。
z
RhoB タンパクの機能は、遊走を可能にする細胞骨格の
状態を作ることである。
z
Slug タンパクの機能は、細胞間の tight junction を引き離
す因子を活性化することである。
z
神経堤細胞の遊走開始のもう一つの因子は、N-カドヘリ
ンの消失である。この細胞接着タンパクは、神経堤細胞
の表面にあるが、細胞が遊走するときに減少する。
z
遊走している体幹部神経堤細胞は、表面に N-カドヘリン
を持っていないが、脊髄神経節や交感神経節を形成す
るために集まるにつれて、再び N-カドヘリンを発現し始
める。
・ メラニンを形成するメラノサイトになる。
・ 真皮を通って遊走し、基底膜の小さな孔を通って外胚葉に
進入→皮膚や毛胞に定着する。
腹側への経路
・ 知覚神経(後根)や交感神経ニューロン、副腎髄質細胞や
シュワン細胞になる
初期に体節の後部に向かい合って位置していた神経堤細胞
・ 神経管に沿って前方や後方に遊走し、その後、自身の体
節や隣接した体節の前方部へ移動し、もともと体節の前
方部と向かい合って存在していた神経堤細胞と一緒にな
る。
前
前
A1
後
P1
後
前
A2
前
後
P2
後
RECOGNITION OF SURROUNDING EXTRACELLULAR
MATRICES. 周囲を取り囲んでいる細胞外マトリック
スの認識
z
遊走する体幹部神経堤細胞が通る道筋は、神経管を取
り囲む細胞外マトリックスによって制御される。
新たな疑問
遊走を可能にする、あるいは遊走を妨げている細胞外マトリ
ックス分子は何なのだろうか。
z
フィブロネクチン、ラミニン、テネイシンやさまざまなコラ
ーゲン分子、プロテオグリカンなどは、遊走を促進す
る。
z
椎板の後方部に発現するエフリンタンパクは、遊走を妨
げ、細胞運動に対する特異性を生じさせる。
The mechanisms of trunk neural crest
migration 体幹部神経堤の遊走機構
z
神経堤細胞は、細胞表面にあるEph受容体を介してエフ
リンタンパクを認識する。
EMIGRATION FROM THE NEURAL TUBE.
神経管からの移動
z
(遊走についての4つの問い)
1.どのようにして遊走が起こるのか。
エフリンに結合すると神経堤細胞中の Eph 受容体のチロ
シンキナーゼが活性化し、細胞移動に重要な細胞骨格
であるアクチンの阻害タンパクをリン酸化する。
z
それぞれの椎板の後方部には、エフリンに加えて、これ
らの領域への進入を阻止する他のタンパクが存在する。
z
神経堤細胞の遊走パターンは、脊髄神経節や他の神経
堤由来の構造の位置を反映している末梢神経系の分節
全体の特性を作り出す。
z
走化性因子と維持因子も神経堤細胞の遊走において重
要である。
z
幹細胞増殖因子は、皮膚に入り込む神経堤細胞が増殖
し続けるために重要であり、抗アポトーシス因子や走化
性因子として働く可能性がある。
z
神経堤細胞の遊走は、細胞外マトリックスと目的地で分
泌される液性因子の双方によって調節されている。
2.どのようにして進むべき道筋を知るのか。
3.目的地に到達した時、遊走を終えても良いということを指
示するのはどんなシグナルか。
4.これらのシグナルに反応するようになるのはいつなの
か。
z
神経堤細胞は将来の表皮と神経板の相互作用を通して
神経の落ち込んだヒダから生じる。
z
BMP4,7(骨形成因子4,7)は、将来の表皮になる細胞に
よって分泌される。
z
BMP4 と BMP7 は、神経堤になるように予定されている細
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
Trunk neural crest cell differentiation 体幹部
神経堤細胞の分化
本間 しのぶ
z
THE PLURIPOTENCY OF TRUNK NEURAL CREST
CELLS. 体幹部神経堤細胞の多能性
3
Wnt タンパクは、神経への分化を抑制し、メラノサイトの
分化を促進する。また、副腎髄質になることが予定されて
いる領域を遊走する体幹部神経堤細胞を2方向に分化
する。
・FGF2 によって、交感神経になるよう誘導される。
z
神経堤細胞の特色の1つは、多能性をもつという点であ
る。
・ 単一の神経堤細胞は、胚子内の場所に応じて、いく
つかの異なる細胞型に分化することが可能である。
z
胸部の神経堤細胞は、アドレナリン作用性の交感神経ニ
ューロンに分化するが、頸部に移植されると、コリン作用
性の副交感神経ニューロンに分化する。
z
迷走神経の神経堤細胞は、コリン作用性の副交感神経
ニューロンになるが、体幹に移植されると、アドレナリン
作用性のニューロンになることが可能である。
・グルココルチコイドによって副腎髄質の細胞へと分化
する。
(多能性とは…)
正常な胚子において神経を決して作らない神経堤の領域
でさえ、ある状況では、神経を作るようになることである。
z
中脳域の頭部神経堤は目に遊走し、網膜の色素細胞と
相互作用し、強膜軟骨細胞になる。
z
1個の神経堤細胞の子孫は、知覚神経ニューロン、色素
細胞、副腎髄質細胞やグリアになり得る。
z
哺乳類の神経堤細胞は、さらに多能性の神経堤細胞を
作り得る幹細胞として認められている。
z
神経堤の交感神経と副交感神経ニューロンは、転写因
子 Mash-1 に関連して特殊化される。
z
神経堤の知覚神経ニューロンは、転写因子 neurogenin
によって特殊化される。(→神経堤細胞が知覚神経ニュ
ーロン以外のものになるのを妨げる。)
z
neurogenin は、神経堤細胞が神経管から離れると、すぐ
に発現する。
z
神経堤細胞の中には、非常に多くのタイプの細胞へと
分化する能力を保持しているものもあるが、発生の初期
に特殊化してしまうものもある。
神経堤細胞の運命は、その細胞が定着する組織環境によ
って誘導される。
The Cranial Neural Crest 頭部神経堤
z
頭部神経提細胞は、体幹部神経堤細胞とは異なった運
命のレパートリーを持っている。
z
頭部神経堤の細胞だけが軟骨と骨を形成する。
z
体幹領域に移植されると、通常は神経堤から生じない体
幹の軟骨を形成するのに関与する。
z
“顔面”の、大部分は頭部神経堤の産物である。
z
顎、歯、顔面の軟骨の発生は、これらの細胞の配置の変
化を通して生じる。
ヒヨコの頭部神経提細胞
z
FINAL DIFFRENTIATION OF THE TRUNK NEURAL
CREST CELLS 体幹部神経堤細胞の最終的な分化
z
z
神経堤細胞の最終分化は、遊走していく環境によって決
定される。
心臓、肺、背側の大動脈によって分泌される骨形成因子
2(BMP2)は、神経堤細胞がコリン作用性のニューロンに
分化するのに影響する。
・BMP2−神経堤細胞がニューロンになるのを促進
・グリア成長因子(GGF;neuregulin)−神経分化を抑制・グリ
アへの分化を誘導
・エンドセリン-3−皮膚においてはメラノサイトに、腸におい
てはアドレナリン作用性のニューロンにな
るように神経堤細胞を刺激
z
第1−6菱脳分節(後脳の分節区分)から遊走し3つの主
な経路を通る。
①
第1,2菱脳分節の細胞は、第1鰓弓へと遊走し、耳
のキヌタ骨やツチ骨、顎の骨を形成する。表皮を広
げ前頭鼻突起(顔面の骨を発生)を形成する。
②
第4菱脳分節の細胞は、第2鰓弓へ遊走し、頸部の
舌骨の軟骨を形成する。
③
第6の菱脳分節の細胞は、第3,4鰓弓・咽頭嚢へと
遊走し、胸腺、副甲状腺、甲状腺を形成する。
これらの遊走路は、エフリンタンパクによって分け隔てら
れている。
哺乳類胚子の頭部神経提細胞
・ 神経管が閉鎖される前に遊走し、顔面の間葉を生じる。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
本間 しのぶ
・ 前脳と中脳に発生する神経堤細胞は、前頭鼻突起、口蓋、
第1鰓弓の間葉を形成する。
z
・ 後脳の前部に発生する神経堤細胞は、第2鰓弓の間葉を
生じ、多くの顔面の軟骨とアブミ骨を形成する。
z
頭部神経提細胞は、初期段階に、どの組織を形成するか
について指示を受ける。
Hox 遺伝子の組み合わせが運命を決めているようであ
る。
・Hoxa-3遺伝子−頸部の軟骨や鰓弓派生物を生じる
頭部神経堤細胞を特異的に決め
る。
・ 頭部神経堤細胞は、第3,4,6鰓弓の間葉も生じ、頸部
の骨と筋肉を形成する。
z
4
人間においては、第5鰓弓は退化している。
・Hoxa-1と Hoxb-1−第4菱脳分節の神経堤細胞の第
2咽頭嚢への遊走にとって必要
である。
z
Table 13.2 鰓弓由来のもの
骨格(神経
鰓弓
鰓弓
堤プラス
動脈
中胚葉)
(中胚葉)
1
2
3
4
5
キヌタ骨、
ツチ骨
下顎骨、
上顎骨、
側頭骨(神
経堤由来
の間葉)
外頸動脈
の枝の顎
動脈(耳、
鼻、顎へ)
アブミ骨
(中耳)
側頭骨茎
状突起
舌骨の 一
部(すべて
神経堤軟
骨から)
耳領域へ
の動脈
頸動脈鼓
室枝(成
人)
アブミ骨枝
(胚子)
舌骨の 下
端部と大
角(神経堤
から)
総頸動脈
からの内
頚動脈起
始部
大動脈弓
喉頭軟骨 右 鎖 骨 下
(側板中胚 動脈
葉から)
肺動脈起
始部
筋
(中胚葉)
咀嚼筋(側頭
筋、咬筋、
内・外側翼突
筋)顎舌骨
筋、顎二腹筋
前腹、口蓋帆
張筋と鼓膜張
筋
表情筋(頬
筋、耳介筋、
前頭筋、広頸
筋、口輪筋、
眼輪筋)
顎二腹筋後
腹、茎突舌骨
筋、アブミ骨
筋
茎突咽頭筋
レチノイン酸は、通常は後方部に発現している Hox 遺伝
子を、前方部で発現させる誘因として作用する。
頭神経
堤(神経
管)
三叉神経
(Ⅴ)の上
顎神経
下顎神
経
顔面神経
(Ⅶ)
舌咽神経
(Ⅸ)
迷走神経
咽頭収縮筋
声帯を張る筋 (Ⅹ)
(輪状甲状筋) 上喉頭枝
喉頭の 固有
筋(後輪状披
迷走神経
喉頭軟骨 動脈管
裂筋、外側輪
(側板中胚 肺 動 脈 の
(Ⅹ)
状披裂筋、披
葉から)
起始部
反回枝
裂筋、甲状披
裂筋など)
Sidelight&Speculations
Tooth Development 歯の発生
z
器官の形態形成において、相互作用しあう上皮と間葉の
間では非常に多くの情報交換が行われている。
z
歯の発生は、口腔の上皮が神経提由来の間葉を特定の
領域に凝集させた時から始まる。
z
神経堤由来の間葉細胞は、象牙質を形成する象牙芽細
胞になる。
z
口腔の上皮は、エナメル質を形成するエナメル芽細胞に
分化する。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
z
本間 しのぶ
5
口腔上皮の極性は、遠心に位置する BMP4 と近心の
FGF8 の間の相互作用によって決定する。
・FGF8 領域に形成される歯は臼歯になる。
・BMP4 領域で発生した歯は切歯になる。
z
上皮の極性が決まった後、BMP4 と FGF8 の発現型はす
ぐに変化し、歯の位置は、上皮中の BMP4 と FGF8 の作
用によって決定する。
・FGF8 は、すぐ下にある神経提由来の間葉中での
PAX9 の発現を誘発する。
・BMP4 は逆に、PAX9 の発現を抑制する。
z
神経提由来の間葉が凝縮し、歯が発生する場所は、
FGF8 が存在し、BMPs が欠落している所なので、歯胚形
成部位に間隔が生じる。
z
BMPを分泌する能力が上皮から間葉へと移動すると共に、
“歯牙形成を誘導する能力”は、上皮から間葉へと移動
する。
z
間葉細胞は、凝縮するにつれて膜タンパクであるシンデ
カンや細胞外マトリックスタンパクであるテネイシンを合
成するようになる。
z
神経提由来の間葉は、凝集した後、FGF3,BMP3,HGF,ア
クチビン,BMP4 を分泌し始め、エナメル結節が生じる。
z
エナメル結節は、成長している歯牙の咬頭の中心で細
胞分裂しない細胞群として存在し、歯の成長シグナル
の中枢として機能する。
z
エナメル結節は、ソニックヘッジホッグ, FGF4, BMP7,
BMP4, BMP2 を分泌し、歯の咬頭の形態形成を指示す
る。
z
間葉細胞が象牙芽細胞に分化し始めると、アルカリ性ホ
スファターゼの発現する場所でテネイシンがかなり高い
レベルで発現する。
z
象牙芽細胞の表現型が現れ、オステオネクチンとⅠ型コ
ラーゲンが細胞外基質として分泌される。
z
エナメル結節は、自身の分泌するBMP4に反応し、アポト
ーシスを介して消失する。
このような段階的な過程によって、顎の頭部神経堤細胞は、
象牙質を形成する象牙芽細胞へと分化する。
The Cardiac Neural Crest 心臓神経堤
z
頭部神経堤の尾部は、大動脈の内皮と大動脈と肺動脈
間の隔壁を生じることから、心臓神経堤と呼ばれている。
z
心臓神経提細胞は第3体節から第7菱脳分節にかけての
神経管の上に位置しており、それらは第3,4,6鰓弓に
向けて遊走する。
心臓神経提から心臓の細胞が発生する事は既に決定されて
おり、他の部位の神経堤ではそれを置換することは出来な
い。
z
心臓神経提細胞は Pax3 を発現するという点で特異的で
ある。
z
心臓神経堤からの遊走に問題が生じると、先天的な心
臓の欠陥に加え、上皮小体,甲状腺,胸腺にも欠陥が
生じる。
Neuronal Specification and Axonal Specificity
ニューロンの特殊化と軸索の特異性
z
神経堤細胞と同様にニューロンの前駆細胞は、機能する
場所に向かって遊走する。
z
ニューロンはまた、軸索を機能する場所に向かって伸ば
すことができ、伸びてゆくその先端は成長円錐とよばれ
る。
神経発生の8つの段階
1.ニューロンを形成する部位の誘導とパターニング
2.ニューロンとグリアの出現と遊走
3.細胞の運命の特異性
4.軸索成長円錐の特定の標的に対する誘導
5.シナプス接合の形成
6.生存し分化する為の栄養因子との結合
7.機能的なシナプスとしての競合的な再配列
8.生涯にわたるシナプス可塑性の保持
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
The Generation of Neuronal Diversity 神経
の多様性の発生
z
ニューロンは、段階的な決定によって特殊化が決められ
る。
本間 しのぶ
6
z
運動神経ニューロンの標的は、軸索が末梢に伸びる前
に決められている。
z
軸索は、各々独自の標的に向かって伸長する。
z
特異性を決定する分子は、LIM タンパクファミリーであ
る。
第1の決定
・ まず細胞がニューロンになるか表皮になるかどうか
が決められ、その後に、どのタイプのニューロンにな
るかを決める。
・ ニューロンの型の決定は、神経管内におけるニュー
ロン前駆細胞の位置(底板との位置関係)と発生時期
による。
・ 神経管の腹外側から生じたニューロンは、運動神経
ニューロンになり、神経管の背部から生じたニューロ
ンは、介在ニューロンになる。
・ 運動神経ニューロンを特定化するにはソニックヘッ
ジホッグシグナルの生ずる時期が2回必要である。
最初の時期には、脊索からのソニックヘッジホッグの分
泌によって調節され、腹外側縁の細胞は腹側のニュー
ロンになるように指示される。
z
後半の時期には、底板細胞から分泌されるソニックヘッ
ジホッグによって調節され、腹側のニューロンが運動神
経ニューロンになるよう指示される。
MMC(内側運動神経柱)の中央部におけるニューロンは
Lim-3 を発現し、他の運動神経ニューロンと区別される。
z
LMC(外側運動神経柱)の細胞集団は、Lim-1 の短期間
の発現によって区別される。
第2の決定
・ 標的の特異性を決定することである。
ニューロンのそれぞれの配列は、LIM 転写因子発現パターン
の特異性によって決められている。
・ ニューロンが発生した時期によって、ニューロンが皮
質のどの層に入るかが決まり、その特異性も決まる。
・ 運動神経ニューロンは、既存のニューロンから分泌
されたレチノイン酸によって Lim 遺伝子によってコー
ドされた新しい転写因子(構造的には Hox 遺伝子に
よってコードされた転写因子)を発現する。
z
Pattern Generation in the Nervous System
神経系の発生パターン
z
転写因子の異なる発現時期と遊走形態の違いにより、運
動神経ニューロンは神経管内に縦に連なる3つの柱とし
て集合する
脳の機能は、ニューロンの分化と位置のみで決まってい
るわけではなく、ニューロンと末梢の標的間で作る特定
の接合にも起因する。
z
① Terni(交感神経節前神経柱(CT)の運動神経ニューロン
交感神経節に向かって腹側へ軸索を伸ばす。
軸索成長の特異性は、先行して伸びている神経線維に
影響される。
z
② 外側運動神経柱(LMC)の運動神経ニューロン
体肢の筋肉組織に向かって軸索を伸ばす。
標的との最終的な結合は、標的の細胞表面との相互作
用によって生ずる。
z
③ 内側運動神経柱(MMC)の運動神経ニューロン
体軸の筋に向かって軸索を伸ばす。
神経と標的の結合は、神経活動が生じていなくとも行わ
れる。
z
運動神経ニューロンと視神経ニューロンにおける軸索伸
長と標的との結合過程は3段階で説明されている。
・経路の選択=軸索は胚子の特定部位へ導いてくれる経
路に沿って伸びていく。
・標的の選択=適切な部位に到達すると、軸索は安定な結
合をする細胞群を認識し、結びつく。
・定着場所の選択=最初の定着パターンは、それぞれの軸
索が、標的としてさらに小さな細胞集団
(時には特定の細胞)に結合するように
再調整される。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
本間 しのぶ
7
Cell adhesion and contact guidance:Attractive and
permissive molecules 細胞接着と接触誘導: 引きつ
ける分子と許容する分子
Guidance by axon-specific migratory cues:
The labeled pathways hypothesis 軸索特有の遊走性
の合図による誘導: 標識経路仮説
z
成長円錐がたどる初期の経路は、環境によって決定され
る。
キイロショウジョウバエ、バッタ、線虫などにおける軸索の遊走
z
遊走の開始は、基質の解剖学的な構造や細胞外マトリッ
クスあるいは近接した細胞表面から生じる合図で始まる。
z
成長円錐は、周囲よりもさらに接着性の良い表面を遊
走することを好み、接着性のある分子の濃度勾配によ
って標的に向かう。
※この接着因子の濃度勾配による標的への遊走現象
は、haptotaxis と呼ばれている。
z
網膜の軸索の伸長とラミニンの存在の間には、かなりよい
相互関係が存在し、軸索はラミニンコートされた神経上皮
の表面を経路として厳密に伸びてゆく。
・ 遊走パターンは驚くほどに正確である。
・ バッタのそれぞれの体節においては、61 の神経芽
細胞が出現するが、近接した軸索には異なる移動性
の指示が与えられる。
・ 成長円錐は、他のニューロンによって先に形成され
た経路をたどることによって標的に到達する。
z
昆虫に見られるこの軸索の先導パターンは、ニューロン
が先に発生したニューロンの表面を特異的に認識すると
いうことを意味しており、標識経路仮説と言われている。
Contact guidance by specific growth cone repulsion
特異的な成長円錐の排斥力による接触誘導
z
網膜の神経節細胞から脳の視蓋へと続く経路に沿ってい
るグリア細胞の表面には斑点状のラミニンの沈着物が認
められる。
z
網膜の軸索が視蓋に到達した後でグリア細胞は表面のラ
ミニンを失う。同時に、視神経を形成している網膜の神経
節細胞は、ラミニンに対するインテグリン受容体を失う。
z
z
特異的な接着に加えて、細胞外基質による特異的な排
斥力が存在する。
z
脊髄神経節と運動神経ニューロンの軸索は椎板の前部
だけを通り、椎板の後部を通るのを避ける。
z
成長円錐は、椎板後部のエフリンタンパクに反応する
Eph 受容体を有しており、神経堤細胞の遊走パターンを
決めるシグナルと同じシグナルがニューロンの伸長のパ
ターンをも決めている。
z
セマフォリンタンパクは、伸長方向を変えなければならな
い時に向きを変えるのに非常に重要で、選択的な排斥力
によって成長円錐を標的へと誘導する。
z
脊髄神経節にはさまざまなタイプのニューロンが存在す
るが、遠くに移動することや腹側の脊髄に入ることを抑制
されている。
N-CAM, L1, NrCAM のような細胞接着分子によっても
細胞誘導が行われる。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
Guidance by diffusible molecules 拡散性の分子によ
る誘導 NETRINS AND THEIR RECEPTORS
Netrin
とその受容体
z
8
本間 しのぶ
SLIT PROTEINS
SLIT タンパク
z
Slitタンパクは、拡散性のタンパクであり、排斥力によるニ
ューロンの成長円錐の誘導を行う。
z
Slit タンパクは、中軸の神経細胞によって分泌され、普通
の神経が中軸を通り越して反対側に軸索を伸ばさないよ
うにコントロールしている。
z
ニューロンの成長円錐は、Roundabout(Robo)タンパクを
有しているが、これは Slit タンパクに対する受容体であ
る。
z
交連ニューロンは、中軸に近づくにつれて、Robo タンパ
クを発現しなくなることで、中軸を越えた反対側への軸索
の伸長を成し遂げる。
脊髄の交連ニューロンは拡散性の因子によって、軸索を
神経管の腹外側の運動性神経ニューロン部位を通って、
底板細胞の方へ伸ばすように誘導されている。
・Netrin-1 と Netrin-2は、細胞外マトリックスにおいて引
力や排斥力を兼ね備えたシグナルとして重要である。
・Netrin-1 は底板細胞によって作られ、そこから分泌す
るのに対し、Netrin-2 は、脊髄の底部で合成される。
・交連ニューロンは、最初にnetrin-2の濃度勾配に遭遇
し、その後 netrin-1 の濃度勾配へと導かれる。
・Netrin は、UNC-6 と非常に多くの相同性の領域を持っ
ている。
※UNC-6 は、ある中心に局在した軸索部分から腹側
に移動するよう促したり、腹側に位置した軸索を背側に
伸ばすよう促す。
排斥力因子は、ニューロンの誘導にとって非常に大切であ
る。
Netrin と UNC-6 はいくつかのニューロンに対しては走化性を
示し、他のニューロンに対しては排斥する。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
Target selection 標的の選択
z
本間 しのぶ
9
Differential survival after innervation; Neurotrophic
factors 神経が分布した後の差別的な生き残り:
神経栄養因子
z
標的細胞は、ニューロトロフィンの供給を制限することで、
やってくる軸索の数を調節する。
z
NGF は、交感神経ニューロンと知覚神経ニューロンの生
存に必要であり、分泌される NGF の量とこれらの組織に
やってくるニューロンの生存との間にはかなりの相関が
ある。
z
ニューロンの標的細胞の除去は、そこに到達していたニ
ューロンの死を引き起こす。
z
BDNF は、運動神経ニューロンに生じる自然死や標的細
胞の除去により生じる細胞死から救う。
z
グリア細胞由来ニューロトロフィン因子(GDNF)は、他の
集団のニューロンの生存を高める。
z
ニューロンの生存は、作用因子、脱分極、基質との相互
作用と結合によって決定される。
軸索が標的と接触すると、シナプスと呼ばれる特殊化し
た結合様式を形成し、軸索の末端で神経伝達物質を放
出する。
z
ニューロトロフィン因子と他の環境因子は、“プログラムさ
れた自殺”を制御することによって機能する。
シナプスの作られる過程
z
網膜神経細胞は脱分極している時のみニューロトロフィ
ンに反応できる。
z
シグナルを受けているニューロンは、より多くのニューロト
ロフィンを分泌することができる。
ニューロンが、その標的が存在する細胞集団に到達する
と 、 神 経 成 長 因 子 ( NGF ) 、 脳 由 来 神 経 線 維 因 子
(BDNF1)、ニューロトロフィン 3(NT-3)、NT-4/5 など、ニ
ューロトロフィンと総称される走化性の因子が非常に重
要である。
z
ニューロトロフィンは、ニューロトロフィンを分泌している
源への軸索の伸長を促進する一方で、ほかの軸索の伸
長を抑制する。
z
成長円錐は、引力と排斥力の合図を統合してインプットし、
標的の選択を行う。
Address selection: Activity-dependent development
定着場所の選択: 活性依存性の発生
z
脊髄の運動神経ニューロンが筋に軸索を伸ばす。
↓
新たに形成された筋細胞に接触する成長円錐は、そ
れらの表面を遊走する。
↓
すぐに軸索末端は神経伝達物質を含んでいるシナプ
ス小胞の蓄積を開始する。細胞間のシナプス間隙はラ
ミニンを含む細胞外マトリックスで満ちており、ラミニン
は成長円錐同士を結びつけ、軸索の伸長に対して“制
止シグナル”として振る舞う。
↓
シナプスが活性化することで成長円錐中の貯蔵小胞か
ら N-カドヘリンが放出され、ニューロン間のシナプス
は安定化する。
z
最初の接触が行われた後、他の軸索からきた成長円錐
は定着場所に集まり、付加的なシナプスを形成する。
z
運動神経ニューロンの1つが活動的になると、不活性の
シナプスは除去され、残っている活動的な軸索末端は拡
がり、シュワン細胞によって被われる。
活動的なシナプスの近くではニューロトロフィン効果が高いの
で、不活性のシナプスは排除され、一連の活動的シナプスの
結合が安定化する。
Paths to glory : Migration of the retinal ganglion axons:
栄光への道 網膜視神経細胞の軸索の遊走
z
神経の特異性と選択の機構は、網膜視神経細胞が軸索
を脳の適切な部位に伸ばす方法の中に見ることができ
る。
z
軸索を神経細胞体からその目的地へ誘導することは複
雑な過程であり、適切な結合が確立することを確実にす
るために、さまざまに異なる合図が使われている。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
GROWTH OF THE RETINAL GANGLION AXON TO
THE OPTIC NERVE 視神経への網膜視神経細胞
の軸索の成長
z
網膜視神経細胞の軸索が視蓋の特定部位に向かう最初
の歩みは網膜の内で起こる。(A)
z
網膜視神経細胞の軸索は、網膜の内表面に沿って視神
経の頭部である視神経円板の方へ成長する。(B)
z
網膜視神経細胞の軸索の接着と伸長は、網膜の内表面
の基底膜によって制御されており、単なるラミニンへの接
着は、この伸長の指向性を説明することはできない。
z
網膜視神経細胞の成長円錐の指向的な遊走は、網膜の
内表面において N-CAM を発現しているグリアの終足に
誘導されている。
z
本間 しのぶ
10
TARGET SELECTION 標的の選択
z
軸索は、ラミニンが一列に並んだ視神経束の末端に来る
と、軸索は拡散し、視蓋中の特定の標的細胞を見つけ
る。
カエルにおける研究
・ 網膜視神経細胞の軸索は脳の反対側へ投射され
る。
網膜視神経細胞に対して排斥力因子であるコンドロイチ
ン硫酸プロテオグリカンは、視神経円板に向かって成長
円錐を押し出している可能性がある。
・ それぞれの網膜視神経節細胞の軸索はその刺激を
中脳蓋のある特定部位に送る。
・ カエルの脳には2つの視蓋がある。
GROWTH OF THE RETINAL GANGLION AXON
THROUGH THE OPTIC CHIASM 視神経交叉を通る
網膜視神経細胞の軸索の成長
・ 右目の軸索→左の視蓋へ
・ 左目の軸索→右の視蓋へ
z
軸索は視神経に入り、中脳に向かってグリア細胞の上を
伸長する。
z
視神経束の軸索の成長は、線維芽細胞成長因子によっ
て調整されている。
z
哺乳類以外の脊椎動物の場合は、軸索は視蓋へ向かい、
哺乳類の場合は、外側膝状体核へ向かう。
z
z
N-CAM, カドヘリン,インテグリンは軸索の向きを視蓋の
方へ変える役割を果たす。N-CAM は神経束を作ること
に対しても働く。(C)
網膜視神経細胞の軸索は成長円錐に FGF 受容体を発
現しているが、中脳蓋に到達すると、局所の FGF の量は
すみやかに減少する。
z
網膜視神経細胞と中脳蓋細胞の間には一対一対応の一
致が見られる。
z
網膜視神経細胞の軸索は、脳に入ったあと、視交叉に到
達する。ここでまっすぐに進み続けるか、90度半転して
反対側に入るのか“決定”される。(D)
z
網膜の腹側部を照らす光は中脳蓋の側方表面の細胞を
刺激し、網膜の後部に焦点が当てられた光は、中脳蓋の
尾部の細胞を刺激する。
z
2つの分子誘導である L1 接着分子(交叉を促進)と CD44
タンパク(交叉を抑制)が視交叉の部位で発現する。
z
視蓋への筋道において軸索は、表面がラミニンで被われ
たグリア細胞の上(視束上)を進む。(E)
最新の理論
・ 接着因子の濃度勾配(排斥力を含む)は、軸索が入り込む
場所を明確にするのに役割を果たす。
z
ラミニンは、視神経線維が伸長するときにだけ存在し、か
つ、脳の限定された部分にだけにしか見られない。
z
網膜視神経細胞の軸索は視覚領域に達し、標的の選択
が始まる。(F)
・ ニューロン間の活性依存性の競合は、それぞれの軸索の
最終的な結合を決定し安定化する。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
本間 しのぶ
11
ADHESIVE SPECIFICITIES IN DIFFERENT REGIONS
OF THE TECTUM 中脳蓋の異なる領域における接
着特異性
The Development of behaviors: Constancy
and Plasticity 行動の発達: 恒常性と可塑性
z
網膜視神経細胞は、転写因子の背腹軸に沿った濃度勾
配によって特殊化される。
z
z
中脳蓋後部は高濃度の排斥力因子の濃度勾配を持ち、
中脳蓋前部は、低濃度の排斥力因子の濃度勾配を有す
る。
z
特異性は、エフリンタンパクとその受容体の濃度勾配で
生じる。
z
Eph 受容体は、網膜視神経細胞の軸索に沿って外側部
から前部までの濃度勾配をもって発現する。
z
中脳蓋と網膜にはいくつかの Eph 受容体とリガンドがあり、
外側部の網膜視神経細胞の軸索を中脳蓋の前部へ誘導
したり、後部へ投射するようにし向ける。
z
活性依存性のシナプスの形成は、脳への網膜の投射の
最終段階である。
z
シナプスの最終的な特異化の際には網膜と中脳蓋との
間の一対一対応の投射のため神経活動が必要である。
Sidelights&Speculations
Fetal Neurons in Adult Hosts 大人の宿主における胎
児のニューロン
z
胎児のニューロンの移植は脳の損傷を受けた部分を修
復させることができる。
z
パーキンソン病は、神経の変性疾患のうちの最も多い疾
患の一つである。
・ 黒質のドーパミン産生ニューロンが消失する。
・ 尾状核と被殻(2つの大脳基底核)における軸索末
端は変性し、筋肉のふるえ、自発的な移動障害、認
識錯誤を引き起こす。
z
L-dopa(体内でドーパミンへと代謝される)の注射は、一
時的に症状を和らげるが、長い間使用すると効果は消え、
副作用を生じる。
z
脳は血液脳関門によって免疫系から隔離されている為、
胎児の黒質の神経細胞を移植する際、提供者と受取人
は親族関係を持っている必要はない。
※脳の血液脳関門は、脳に移植された組織を免疫系
による拒絶から保護してくれる。
z
最適な提供組織は、最後の細胞分裂をしている最中であ
るが、まだシナプスの結合を形成していないドーパミン分
泌ニューロンを含んでいる組織である。
z
胎児の移植片と新しいニューロンは、壊れたニューロン
が有していたシナプス結合を回復することができる。
成人の中枢神経系でさえも、多能性の神経幹細胞を含んでい
ることが明らかになっている。損傷を受けた脳の領域に患者
自身の神経幹細胞を移植できるようにこれらの細胞を培養す
るという研究が進行中である。
発生神経生物学において最も興味深い観点は、神経結
合と行動との相互関係である。
この現象の2つの驚くべき観点
① 生まれたときには、脳の“回路構成”には本質的な行動
パターンが既に存在するということ。
・19週のヒヨコ胚子の鼓動は、警戒音を聞くと鼓動が
速くなり、他の音ではこの反応を示さない。
さらに、新たに孵ったヒヨコは鷹の影があれば、すぐ
に巣を探す。実際の鷹は必要ない。紙のシルエット
による影を見せるだけで十分だろうし、ほかの鳥の
影でもこの反応を引き起こす。
ここには、脊椎動物における本来の行動を導くある種
の神経の結合がある。
② 新しい経験が、新しいニューロンを作ったり、存在する
ニューロン間に新しいシナプスの構造を形成しながら、
神経結合のセットを変更できるという神経の可塑性を有
していること。
z
目の網膜ニューロンには皮質の標的に対しての競合が
存在し、それらの結合は経験によって強められる。また、
新たな経験は、新たなニューロンの発生を導く。
・このように、神経系は、成熟した後の生活においても発達し
続け、神経の結合パターンは、受け継がれたパターンと経験
によって作り出されたパターンの両方の産物である。
・脳の構造の大部分は、種の進化の間に起きた出来事から作
られたに違いないが、神経の活動は、我々が個々の経験と
練習を通じて習得した各個人の情報を豊富に蓄積しながら、
この過程を調節し、導くことができる。
Chapter13 Neural crest cells and axonal specificity
Snapshot Summary
Neural Crest Cells and Axonal Specificity
要約文:神経堤細胞と軸索の特異性
1.
神経堤は一時的な構造である。神経堤細胞は遊走し、多
くのさまざまなタイプの細胞になる。
2.
体幹部神経堤細胞は、外胚葉に向かって背側側面を遊
走し、メラノサイトになる。また、腹側に遊走した細胞は、
交感神経・副交感神経のニューロンや副腎髄質細胞に
なる。
3.
体幹部神経堤の前部は、心臓の一部となり、肺動脈と大
動脈の境界を形成する。
4.
頭部神経堤細胞は、鰓弓に入って、顎や中耳の軟骨や
骨になる。それらもまた、前頭鼻突起の骨、歯乳頭や頭
蓋の神経を形成する。
5.
神経堤の構成は、表皮と神経板になるべき部分間の相
互作用に因っている。これらの部位のパラクリン因子は、
神経堤細胞の移動を可能にする転写因子の形成を促し
ている。
6.
神経堤細胞の通る経路は、経路を満たしている細胞外
マトリックスに因っている。
7.
体幹部神経堤細胞は、体節の前方部を遊走するだろう。
しかし、後方は通らないだろう。Ephrin タンパクはそれぞ
れの体節の後部に発現し、神経堤細胞が遊走するのを
妨げているようだ。
8.
神経堤細胞の中には、多くのタイプの細胞に分化する能
力を有するものがある一方で、遊走以前にすでに運命
が決められているものもあるようだ。神経堤細胞の最終
目的地は、時々、神経堤細胞の特異性を変え得る。
9.
頭部神経堤細胞の運命は、Hox 遺伝子によりかなり広範
囲に渡って統制されている。
10. 歯は、神経堤由来の間葉と口腔上皮との間の複雑なやり
とりを通して発生する。間葉が象牙芽細胞になる一方で、
上皮はエナメル芽細胞を発生させる。
11. 歯の主なシグナル中枢はエナメル結節である。それは、
間葉と上皮に見られる細胞増殖や細胞の分化を制御す
る多くのパラクリン因子を分泌する。
12. 運動性ニューロンの特性は、神経管におけるそれらの位
置に従って特徴付けられる。転写因子の LIM ファミリー
は、この特性において大切な役割を果たす。
13. 運動性ニューロンの標的は、運動性ニューロンが末梢に
拡がる以前に特定されている。
14. 成長円錐は、ニューロンの運動性の細胞小器官であり、
周囲の合図を感じる。(成長円錐と神経堤細胞の双方が、
本間 しのぶ
12
遊走性で、周囲の環境を感じることから、成長円錐は、
“綱につながれた神経堤細胞”と言われている。
15. 軸索は、神経活動なしで標的を見つけることができる。
16. タンパク質の中には、一般にニューロンが接着するのを
促進するものや軸索がその上を遊走できるような基質を
提供してくれるものがある。また、遊走を妨げる物質もあ
る。
17. ある成長円錐は、特定の位置に存在している分子を識
別することができるので、成長円錐はそれらの分子によ
ってそれぞれの標的まで誘導されるであろう。
18. ニューロンの中には、排斥因子によって“一列に配置さ
れる”ものがある。仮に、標的に達するまでの間に経路を
はずれ、さまよってしまったのなら、これらの分子が元に
戻してくれる。Semaphorin のような分子は、特定のニュー
ロン群に対して選択的に反発する。
19. あるニューロンはタンパク質の濃度勾配を感じとり、これ
らの勾配に従って標的まで導かれる。
20. 標的の選択は、ニューロトロフィン(神経栄養)によって促
される。神経栄養とは、標的と結合し得る特定の軸索群
を栄養する、標的組織によって作られるタンパク質であ
る。
21. 定着場所の選択は活性依存性である。活性ニューロン
は、同じ標的に結合した不活性なニューロンによるシナ
プス形成を抑制する。
22. カエルやヒヨコの網膜視神経細胞の軸索は、視蓋の特定
領域と結合するように軸索を伸ばす。この過程は非常に
多くの相互作用によって調節され、標的の選択は ephrin
を介して調節されているようである。
23. 胎児のニューロンを成人の脳に移植すると、損傷したシ
ナプスを再生させることができる。
24. 行動の中には、本質的な(“配線されている”)ものもあれ
ば、学習するものもある。 経験は、ある種の神経の結合
を強め得る。
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