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CIO 2013 - Deloitte

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CIO 2013 - Deloitte
Inside
最高イノベーション責任者
注:本資料は Deloitte Luxembourg が作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。
この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、オリジナルである英語版の補助的な
ものです。
モバイルのその先へ
としての CIO
ロードマップ構築 ― ビジネス部門への
ルクスイノベーション:
的確なエンタープライズ・アーキテクチャ
イノベーションの実現に向けて
提供に向けて
ルクセンブルクの CIO の国際比較
アナリティクスにおけるデータマーケット
デロイトの「2013 年グローバル CIO
プレイスの活用
調査」にみるルクセンブルク情勢
SaaS/クラウド型アプリケーションに
移行する場合、コントロールと
セキュリティをどう確保すべきか
保険とソーシャルメディア
保険業界の「ソーシャル」ビジネスモデル再構築
CIO
特集号
2013
本号目次
6
10
16
26
本誌では、各号で特定のファンクションに
焦点を当てます。
今後、本誌でスポットライトを当てる
ファンクションは以下の通りです。
COO
CHRO
CIO
2013
10 月
1月
CCO
CRO
CIA
CISO
2
4月
7月
CEO
CFO
2014
32
36
40
4
はじめに
6
最高イノベーション責任者としての CIO
5
読者の皆様へ
10
ルクスイノベーション:イノベーションの実現に向けて
16
ルクセンブルクの CIO の国際比較
46
デロイトの「2013 年グローバル CIO 調査」にみるルクセンブルク情勢
26
32
36
40
46
52
SaaS/クラウド型アプリケーションに移行する場合、コントロールとセキュリティをど
う確保すべきか
モバイルのその先へ
ロードマップ構築 ― ビジネス部門への的確なエンタープライズ・アーキテクチャ提供
に向けて
アナリティクスにおけるデータマーケットプレイスの活用
保険とソーシャルメディア
保険業界の「ソーシャル」ビジネスモデル再構築
連絡先
3
はじめに
『Inside』第2号にようこそ! 本誌は、ベスト・プラクティス、トレンド、およびチャンスに関して特別な知見を
提供するだけでなく、お客様が今日直面している課題と脅威についても論じていきます。
デロイトは、独自の市場ポジショニングに基づいてお客様にサービスを提供しています。つまり、戦略の
策定から組織やオペレーション上での実践、技術の導入へと、リスク、コンプライアンスおよび内部監査
の視点から効果的な内部統制の枠組みを設置し、見直すに至るまでのサービスをご提供しているので
す。本誌を新たに季刊で発行することにより、トピックに関して今まで以上に分野横断的な考え方を提供
するとともに、企業のファンクションや業界を超える形でベスト・プラクティス、イノベーション、トレンド、お
よび課題を紹介していきます。
『Inside』はあらゆる業種にわたり、以下を中心としてデロイトにおける主だった意見について論じるほか、
各種白書や研究結果について紹介します。
 ビジネス上および規制上の戦略、コーポレート・ファイナンス
 オペレーションおよび人的資源
 情報技術(IT)
 内部監査、コンプライアンス、リスク・マネジメント、取締役会および取締役会委員会メンバーの課題
『Inside』第 2 号となる本号は、最高情報責任者(CIO)と情報技術部門の特集号となっています。私たち
は公的セクターおよび民間セクターの様々な業種の CIO が直面している固有の課題を把握しています。
本号では、業種にかかわらず、CIO が技術的進化と顧客の期待に対応するための革新的なソリューショ
ンを見出せるようにお手伝いしたいと考えております。
皆様に、この『Inside』最新号を楽しんで頂けますよう願っております。お気軽にご意見、ご要望をお寄せく
ださい。
ジョエル・ファノーフェルシェルデ
4
パスカル・マルティーノ
ジュリー・シェドロン
(Joël Vanoverschelde)
(Pascal Martino)
(Julie Chaidron)
パートナー
ディレクター
マネジャー
アドバイザリー・
戦略&コーポレート・
戦略&コーポレート・
コンサルティング・リーダー
ファイナンス
ファイナンス
デロイト
デロイト
デロイト
読者の
皆様へ
この『Inside』第 2 号で、最高情報責任者(CIO)が対処しなければならない最新トピックや課題、ある
いは他の C レベル(CEO、CFO、COO など)の経営幹部が CIO に対応を求める最新トピックや課題
に特化したレポートをご提供できることを喜ばしく感じております。
CIO の職務と意思決定には、様々な要素が影響を与えています。変化を見通したいと考える CIO は
先手を打って行動し、ビジネス上、テクノロジー上のトレンドを一貫して追っていますが、同時に規制
上の課題や進化し続ける消費者の行動といった地域内および国内の動向にも目を光らせています。
今日において CIO は形勢を一変させるような技術を今まで以上に駆使してビジネスを変容させると
ともに、イノベーションの促進剤として自らの体制を整えなければなりません。すなわち、今日の CIO
は、自社において最高イノベーション責任者の任を担わなければならないのです。この役割と、移り
変わりの激しい現代におけるイノベーションの重要性が、本号に共通して流れるテーマです。CIO が
このチャレンジに立ち向かわなければ、他の誰かが取り組むことになるでしょう。この意味において
は、主としてコスト削減を通じて長年にわたってオペレーショナル・エクセレンスを追求してきた企業
が成長を支えるために IT とテクノロジーを見直し始めていることがデロイトの 2013 年 CIO 調査の初
期結果で示されています。残念ながら同調査では、企業がまだ IT をイノベーションのインキュベータ
ーとしては必ずしも考えていないことも示されています。しかしながら、イノベーションが未だテクノロ
ジー中心であり、情報システム中心である今日において、組織や新規市場の開拓、オペレーション、
プロセスにイノベーションが与える影響がどれほどのものかを理解するうえで CIO 以上にふさわしい
立場の人材がいるでしょうか?
人間の知見と直感をマシンベースの演算処理と視覚化と組み合わせれば、企業はいわゆる「ビッグ
データ」技術を活用して、これまでは答えを見いだせなかった問いも答えられるようになります。情報
システムに可動性を付加する手立てを把握していれば、情報システムのポテンシャルはスマートフォ
ンやタブレット PC をはるかに超え、音声、ジェスチャー、位置情報をベースとしたやりとりやデバイス
の統合、デジタル・アイデンティティだけでなくモバイル決済や広範囲なモバイル・コンピューティング
にまで及ぶでしょう。また、プライベート・クラウド・コンピューティングを活用すれば設備投資の低減
やオペレーション・コストの管理、新規開発の促進のチャンスもあると、CIO は認識しています。その
一方で CIO は不明確な境界線やサイバー脅威の増大といった、クラウド・コンピューティングの課題
連絡先:
について懸念しています。
本号では、エシアスの CIO、ステファン・ラサートが複雑な変革をマネジメントした体験談を紹介する
ほか、イノベーションを社内で推し進めるために必要となる変容に向けての道筋をどう定義し、どうプ
ランニングすべきかについて論じます。エシアス・エンタープライズ・アーキテクチャの変革ロードマッ
プが革新的かつ適切な技術力をいかに統合したかを説明していくなかで、この分野におけるベスト・
プラクティスとアドバイスが浮き彫りになります。
皆様に『Inside』本号で取り上げたトピックを楽しんで頂けることを願うとともに、皆様の関心と支援に
感謝申し上げます。
パトリック・ローラン
チボー・ショレ
(Patrick Laurent)
(Thibault Chollet)
パートナー
シニアマネジャー
テクノロジー&エンタープライズ・
テクノロジー&エンタープライズ・
アプリケーション
アプリケーション
デロイト
デロイト
パトリック・ローラン(Patrick Laurent)
パートナー
テクノロジー&エンタープライズ・
アプリケーション
Tel: +352 451 454 170
Mobile: +352 621 198 584
[email protected]
チボー・ショレ(Thibault Chollet)
シニアマネジャー
テクノロジー&エンタープライズ・
アプリケーション
+352 451 452 656
Mobile: +352 621 173 293
[email protected]
Deloitte Luxembourg
560, rue de Neudorf, L-2220 Luxembourg
Grand Duchy of Luxembourg
www.deloitte.lu
5
最高イノベーション責任者
としての CIO
パトリック・ローラン
チボー・ショレ
(Patrick Laurent)
(Thibault Chollet)
パートナー
シニアマネジャー
テクノロジー&エンタープライズ・
テクノロジー&エンタープライズ・
アプリケーション
アプリケーション
デロイト
デロイト
ポストデジタル時代の勢いが、ビジネス情勢を劇的に変えつつ
あります。CIO は今日、テクノロジーの変化からメリットを得られるよう
自社を手助けするのに適した立場に身を置いています
2.2 ガートナー - デジタル世界におけるハンティングとハーベスティング:2013 年の CIO アジェンダ
6
ビジネスの世界は今日、ただ変化
しているのではありません。
根底から変わりつつあるのです
新興のテクノロジーの数々がビジネスを一変させ、根底か
これに対して調査に回答した CIO のほとんどは、成長と
ら覆すという実り多い効果を裏付けるなか、企業は次第に
効率性の両面において、IT がイノベーションを通じて多大
差別化と競争優位のための最大かつ重要な牽引役として
な価値をビジネス部門にもたらすことができると考えてい
テクノロジーのポテンシャルを評価するようになっていま
ます。これによって、2つの重要なポイントが浮き彫りにな
す。技術の進化、そして変革を追跡するとともに、その影
ります。第一に、企業がイノベーターとして IT をどう認識し
響を把握している最高情報責任者(CIO)は、変革に向け
ているか、CIO が自らの役割をどう認識しているかにおい
てビジネスの舵を切り、自社が技術の変化からメリットを得
てギャップがあることです。第二に、CIO は依然として効
られるよう支援するのにふさわしい立場に身を置いていま
率を向上させ、成長を後押しする要因に限定してイノベー
す。
ションを考える傾向があり、差別化と競争上の優位性を促
す促進剤としてはあまり認識していないという事実です。
しかし、CIO は従来、企業が保有する情報の番人であり、
往々にしてオペレーション・システムの効率的かつエラーフ
ガートナーの「2013 年の CIO アジェンダ」に関する報告書
リーの運用を担当する管理者と認識されていました。この
が、これを裏付けています。この調査に回答した CIO は、
点において CIO は、事業戦略や顧客ニーズに向かって外
組織が引き出せているテクノロジーのポテンシャルは平
向きというより、IT に向かって内向きになる傾向がありまし
均してわずか 43%にとどまっており、組織が価値創出に
た。
おいて見過ごせない機能不全をきたしていることを指摘し
ています。
必然的に CIO は、IT オペレーションと IT 部門の最適化や
コスト削減、IT 担当者の育成、システム整備に力を入れて
したがって CIO は、コアデリバリーとオペレーションを確
おり、何らかの手段を活用して少ない労力でより多くの成
実に実現すると同時に、IT のポジションをイノベーション
果を上げようと(現実的には、少ない労力で同じ成果を得
の計画を推し進める推進役へと引き上げるという2つの
ようと)してきました。
課題に直面しています。CIO が単に歯車の一つであり、
管理部門としかみなされていない段階で、イノベーション
しかしながら CIO の役割は、単なる効率性向上の追求者
を通じて事業戦略に貢献するよう求められることが CIO
と過小評価すべきではありません。実際のところ IT は営
に果たしてあるでしょうか?
業収支率の改善を支援できますが、それは費用削減のみ
によってではなく、テクノロジーを駆使して IT 自体以外に
おいて価値を創出し、収益拡大を実現することによってで
きるのです。この10年間、CIO は徐々に IT 予算を削減、
あるいは少なくとも前年並みにとどめるよう迫られていまし
た。同時に、社内において新しいテクノロジーに絡む幅広
テクノロジーからより多くのメリットを引き出し、IT という枠
を超えていくには、IT 部門の自己認識および他者認識を
拡大しなければなりません。このような意識転換がなけれ
ば、企業はテクノロジーを駆使して価値を創出することが
できません。なぜなら:
い費用が IT 部門以外で大きく膨らみ、マーケティングをは
じめとする事業部門やファンクションへと移っています。言
い換えるならば、テクノロジーが発展しているにもかかわら
ず、IT 部門の管轄範囲と影響力が低下する傾向にあるわ
けです。そしてその代わりに台頭している他の支援部門や
事業部門は全社のために最新テクノロジーをマスターする
意思もなければ、十分な能力も体制もない状態です。
 IT がなおオペレーション上のものであり、変革を促す
ものではないと認識されてしまう
 IT が得られるリソースと資金は IT としての機能を果た
すために必要となるもののみで、それ以上は得られな
い
 IT は、最新テクノロジーの活用法を考案するために必
デロイトの 2013 年グローバル CIO 調査の初期結果では、
経営幹部が IT をイノベーションの「基幹」とみなしていない
ことすら示されています。
要なイノベーターを引きつけられない
 事業部門は、最新テクノロジーの導入がどのような影
響を及ぼすかについて――あるいは、そのポテンシャ
ルがどの程度であるかすら――、包括的に理解する
意思もなければ、理解する力量を完全に有しているわ
けでもない
7
今や CIO にとって、この見方を覆す絶好のタイミング
CIO がこの意識改革を実現するには、以下が必要と
です。ポストデジタルの流れが姿を現したことによっ
なります:
て、CIO の役割の方向性を戦略的な影響力の拡大に
合理的、強固かつ質の高いオペレーション状態を実現
しっかり向けていくまたとない機会が生じています。
し、維持するとともに、高性能かつ顧客志向の IT サー
CIO はポストデジタルのツールを自在に使いこなして
ビスを実現し、維持すること。これは、CIO が変化を推
その価値を生み出し、戦略的革命を率いるとともに、
進する牽引者として信認を得るには、なくてはならな
組織の CIO に関する認識を劇的かつ明確に変えてい
い絶対条件です。
けるのです。
他の C スイートの幹部と根底から新しい関係を築き、
ビジネスに深く関わること。
CIO は、C スイート(CEO、CFO、COO 等)を啓蒙する
IT 部門は、ビジネスと IT とを結びつける役割を果た
とともに変革に対する意欲を喚起することができま
し、ビジネス部門と持続可能なコミュニケーションと関
す。また、既存のビジネスプロセス全体にわたって単
係性を実現しなければなりません。
に薄いベニヤ板に描写するにとどまらず、奥深い部分
にまで至る変化を取り仕切ることもできます。テクノロ
デロイトの「2013 年グローバル CIO 調査」では、ビジ
ジーのパワーを把握できる人材が、テクノロジーの最
ネスとの連携を図る専門部署を設置することが、ビジ
前線に位置する CIO をおいて他にいるでしょうか?
ネスの真のパートナーとして秀でる可能性を最大限に
高める方法とみられるという重要な結果が示されてい
ます。
8
「概念実証」を利用して最新技術の具体的な活用法を説明
活用できる手段には、特定技術に特化したソフトウェア・エー
したり、競合企業の手法を提示したりすることによって、取
ジェンシーを起用する、ソフトウェアに修正を加えて採用する
締役などの経営上層部にイノベーションを訴えるといいでし
のではなく、丸ごと取り込む、新規事業を支援するインキュベ
ょう。CIO は自ら率先して、自社や特定セクターの境界を越
ータを設ける、最新技術を容易に統合できるエンタープライ
えて最新技術のイノベーションや活用法を模索すべきで
ズ・アーキテクチャを実現するために新しいモデルを活用す
す。また、そうした具体的な活用法がビジネス部門にもたら
る、などがあります。
し得る価値を評価する場合には成長や利益率、生産性の
側面からだけでなく、新しい製品やサービスの提供によって
要するに、多くの企業が本質的にデジタルである今日におい
得られる顧客満足や差別化の側面からも評価しなければ
ては特に、ポストデジタルの環境がイノベーションのチャンス
なりません。
をもたらすと同時に存在を脅かす破壊の脅威をも生んでいる
のです。従来型の IT 部門は廃れつつあり、かつて定義されて
イノベーションの育成:小さく始めて、規模を素早く拡大する
いた CIO の役割は次第に時代遅れのものになりつつありま
こと。イノベーションが混乱を招き、失望に終わる場合があ
す。将来を牽引する CIO はポストデジタルの促進役として新し
ることも事実です。企業には、テクノロジーの役に立たない
いアイデンティティを築き、ポストデジタル時代への移行を促し
活用法に多額の投資を行う余裕はありません。情報システ
て、加速させていきます。形勢を一変させるテクノロジーを駆
ムから切り離して小規模で始動すれば、変革導入に伴う複
使して、あらゆるビジネスプロセスを変え、画期的な新製品や
雑性がどの程度か、対象となるコミュニティにとってそのイノ
新サービスの誕生と提供を支えていかなくてはなりません。
ベーションはどの程度魅力があるかを把握するために必要
な知見が得られます。好結果が出た場合、次の段階への
そうした促進剤になるためには、自らがどう認識されているか
移行を指示できるのは CIO だけです。活用範囲を拡大した
を大きく変え、イノベーションを探索し、促し、顧客ニーズを把
り、中核的な情報システムとより密接に統合させたりするこ
握しなくてはなりません。あるいは、もっと推し進めるならば需
とができます。しかし、満足のいく結果が出なかった場合は
要を活性化し、ビジネス部門との新しい関わり方を育成し、テ
どうでしょうか? その場合には、その活用法を廃棄してアイ
クノロジーの導入を促し、円滑化させていかなければなりませ
デアに見切りをつけるか、あるいは違う方法で試してみるわ
ん。この意味において CIO の役割は明らかに、現状を守ると
けです。
いうところから一歩踏み出し、新しい画期的なケイパビリティを
身につけるという方向に向かって行かなければなりません。
開発プロセスに拍車をかける。イノベーターであるということ
は、いち早く新しいテクノロジーを活用するということです。
ビジネスの世界は今日、ただ変化しているのではありません。
企業が非常に優れたアイデアを考えついたとしても、導入
根底から変わりつつあるのです。
が他社より遅れれば単なる追随者になってしまいます。した
がって CIO は持てうる限りの手段を駆使して、開発プロセ
スに拍車をかけ、イノベーションという競争に打ち勝たなくて
はなりません。
将来を牽引する CIO はポストデジタルの促進役として新しい
アイデンティティを築き、ポストデジタル時代への移行を促して、
加速させていきます
9
ルクスイノベーション
イノベーションの実現に向けて
ジルケ・ブリュッゲボルス
(Silke Brüggebors)
コミュニケーション&プロモーション統括
ルクスイノベーション
ルクセンブルクのイノベーション促進制度の中核で機能する
ルクスイノベーションはイノベーションおよび研究を促進する
国立機関であり、研究やイノベーション、創造性、デザインを
通じて同国経済の競争力向上に尽力しています
欧州の首都、国際的な金融の中枢として知られるルクセ
ルクセンブルク・クラスター・イニシアチブ
ンブルクは、研究、開発、イノベーションにおいても魅力
科学的、技術的な環境が優れているかどうかは通常、
的かつダイナミックなロケーションです。ルクセンブルク政
2 つの主な尺度に基づいて評価されます。研究の質
府の確固たる、幅広い支援と官民セクターの長期的な発
と、研究結果を活用してそれを国内外の市場で成功す
展を背景に、研究開発とイノベーションが同国の経済活
る製品やサービスに転換する力量です。ルクセンブル
動において果たす貢献度が年々高まってきました。
ク政府はこの知見に基づき、ルクセンブルク・クラスタ
ー・イニシアチブを立ち上げました。このイニシアチブで
ルクスイノベーションは革新的な新興企業から公的な研
はルクスイノベーションが中心的役割を演じ、様々な活
究機関に至るまで、あらゆる規模の企業に容易に入手で
動のコーディネーションと促進を担当しています。ルク
きる情報、助言および指針提供サービスを提供すること
センブルク・クラスター・イニシアチブは、ルクセンブル
によって、このような発展を支えています。
ク経済の発展に不可欠と目されているセクターやテク
ルクスイノベーションが最重要とする業務には、研究やイ
ノロジーを中心として、以下のテーマ別のクラスターを
ノベーション創出プロジェクトのアイデアを見つけ出し、発
網羅し、官民セクターのネットワーキングと連携を積極
展させることがあります。この点においてルクスイノベー
的に奨励しています。重点が置かれているのは、ルク
ションは、国内または欧州における資金調達や革新的ビ
センブルク経済の持続的発展にとって重要と特定され
ジネスの立ち上げ、技術的専門ノウハウの探索、イノベ
た主要テクノロジーです。
ーションをマネジメントするスキルや業務の向上を目指す
顧客のファシリテーターとして機能しています。
10
©Luxinnovation
ルクセンブルク・バイオヘルス・クラスターは、個別化医療の
ルクセンブルク・エコイノベーション・クラスターは「環境
要である分子診断において科学的に卓越するために政府が
事業」の発展を支え、共同プロジェクトやパイロット・プロ
策定した国家戦略を強化・活用することを目指しています。
ジェクトを促進するとともに、公的セクターのプレーヤー
同時にバイオ医療の研究、開発、イノベーション、ビジネスに
や企業に国内外での交流を奨励しています。このクラス
とって定評ある、優れた環境としてのルクセンブルクの評価
ターには、ルクセンブルクのエネルギーや環境、持続可
を高めることを目標としています。このクラスターには研究開
能な発展という分野において積極的に活動している事
発企業や公的な研究機関、研究所、医療機関のほか、保健
業や研究機関が結集しています。このクラスターが重点
科学や技術に関連する活動の主要プレーヤーが参画してい
的に活動している分野には製品やプロセス、サービス
ます。分子診断を主に中心としているものの、このクラスター
の環境デザインのほか、製品寿命が終わった後に原材
では患者主体の総合的な個別化医療アプローチにおいてカ
料をどのようにリサイクルできるかを考慮して生産サイ
ギを握る要素であるその他の R&D や事業領域も網羅してい
クル全体を再検討する「ゆりかごからゆりかごへ」という
ます。たとえば新しい治療法、バイオインフォマティクス、医
考え方などがあります。
療機器、遠隔医療などです。
www.ecoinnovationcluster.lu
www.biohealthcluster.lu
11
ルクセンブルク・ICT・クラスターには、共同で行う研究や
ルクセンブルク・マテリアルクラスターは、共同で行う
開発、イノベーション創出プロジェクトを通じて新しくかつ
R&D やイノベーション創出プロジェクトを通じて新しく、持
持続可能な事業機会を促進するという目標のもと、ルクセ
続可能な事業機会を生み出し、促進すべく、ルクセンブ
ンブルクの ICT 分野で活躍する様々なプレーヤーが集結
ルクの材料工学の分野の様々なプレーヤーを積極的に
しています。様々なセクターにおいて実現技術としての
支援しています。このクラスターが重点的に取り上げて
ICT の採用を高めるとともに、官民セクター間のネットワ
いるのは複合素材や接着剤、高性能コンピューティング
ーキングと連携を促進することによってルクセンブルクの
といったテーマです。ネットワーキングを目的とした通常
既存の ICT セクターの発展をさらに推進することを目指し
行事のほか、テーマ別の会議やワークショップの企画・
ています。このクラスターが重点的に取り組んでいるテー
運営なども手がけています。このクラスターは現在、グラ
マには、国民の健康や高齢化における ICT の活用や環
ンド・レジョンの他のクラスターや大学と協働し、素材に
境に優しい電子決済や電子請求のための ICT、位置情報
関連する国際的なクラスター「INTERMAT」を形成してい
サービスを提供するスペース・クラスターとの連携などが
ます。
あります。
www.materialscluster.lu
www.ictcluster.lu
ルクセンブルク・スペース・クラスターには著名企業や専
門性の非常に高い企業、公的な研究機関が集結し、特
定の技術的テーマの開発や協調的な R&D プロジェクト
に取り組んでいます。重点的に取り組んでいるテーマに
は宇宙通信や全地球航法衛星システム、位置情報連動
アプリケーションなどの分野があり、その中には地球観
測や海上安全保障、宇宙関連技術などが含まれます。
ルクセンブルクは 2005 年以降、欧州宇宙機関(ESA)に
正式に加盟しており、国内に基盤を置く企業や研究機関
が宇宙セクターにおけるイノベーションにアクセスできる
よう、財政上、オペレーション上、知的財産上で優れたサ
ポートとインフラを提供しています。
www.spacecluster.lu
www.clusters.lu
©Luxinnovation
ルクスイノベーションは、物流クラスターとルクセンブルク海
EEN の独自ネットワークは今日、45 カ国における 600 以
事クラスターも支援しています。いずれのクラスターも革新
上の事業支援機関を網羅しています。
的なセクターを代表するものであり、ルクセンブルクは特に
最近では、ルクスイノベーションがイノベーション推進機
複合的で高付加価値のサプライチェーン・サービスを対象と
関の欧州ネットワーク(TAFTIE)にも加わり、欧州全域の
する新しいソリューションを重視することによって、重要度を
同様の機関とノウハウやベスト・プラクティスを交換でき
高めたいと考えています。
るようになりました。
ルクセンブルク・クラスターでは国内、国外双方のレベルに
イノベーションを促進
おいて官民セクター間のネットワーキングを積極的に推進
イノベーションは大企業や独創性に富む個人のみの領
し、イノベーション創出プロジェクトでの連携促進や加盟メン
分ではなく、偶然生まれることはまずありません。イノベ
バーの認知度向上、新規事業機会の模索を目指していま
ーションはあくまで、体系立ったプロセスの結果生まれる
す。最近では、共有手法の開発とコミュニティの構築に向け
ものです。新しいアイデアを商業的成功に変えるには、
て強力なコーポレートアイデンティティに関する新しいガバ
様々なイノベーション管理技法に対する詳細な理解が必
ナンス方針を定めました。各クラスターは具体的な作業プロ
要です。このノウハウを発展させるため、ルクスイノベー
グラムを設定し、その中でテーマ別に活動している作業グ
ション、CRP アンリ・チュードル、職工会議所(Chamber
ループの組織化と具体的なイノベーション創出プロジェクト
of Crafts)、ルクセンブルク商業学校(LSC)は共同で、イ
の策定を盛り込んでいます。作業プログラムの実施はルク
ノベーション管理技法に関する研修プログラムを開発し
スイノベーションの高い技能を有するクラスター・マネジャー
ました。このコースは 2 つの異なるレベル(初心者向けと
がコーディネーションを手がけ、ルクスイノベーション内部の
エキスパート向け)があり、新しいアイデアをどう生み出
コンピテンシーと国内および欧州域内の優れたネットワーク
すべきか、市場で成功する画期的な製品やサービスに
を生かすことができる形になっています。いずれのクラスタ
体系的に発展させるためにはどうすればよいかを学ぶ
ーも、セクターをまたぐ交流を促進しています。その例として
ための複数のモジュールで構成されています。イノベー
は、「位置情報サービス」(スペース・クラスターと ICT クラス
ションを目指して継続的に取り組む必要性があるという
ターが運営)といった共同作業グループの設置や、R&D、イ
意識を高めるため、ルクスイノベーションはルクセンブル
ノベーション創出プロジェクトにおける連携に向けた協働、
ク・イノベーション・マスタークラスを設けています。これ
技術移転、意見交換の促進を専門に行うイベント「ビジネス
はルクセンブルクの実業界のニーズに対応するために
と研究のマッチング」フォーラムなどがあります。
設けられた年次行事であり、このためにルクスイノベー
ションは国際的に著名な講演者と取り上げるトピックの
国際的な連携の強化
選定など、この行事の準備段階からパートナー企業に関
研究やイノベーションは当然ながら、国境の中だけにとどま
与してもらっています。2011 年にはジョン・ベサント教授
りません。特に、市場規模の関係上、国際的レベルで持続
(エクセター大学ビジネススクール)、2012 年にはキー
可能な連携体制を築くことが必要なルクセンブルクのような
ス・ゴッフィン教授(クランフィールド大学)が登壇してお
小国にとって当てはまります。官民のプレーヤーが欧州レ
り、晩秋に開催が予定されている 2013 年ルクセンブル
ベルで共同研究に関われるよう、ルクセンブルク政府は欧
ク・イノベーション・マスタークラスで誰が講演するかに期
州の研究開発プログラム(第 7 次研究枠組み計画(FP7)や
待が高まっています。
ユーレカ、ユーロスターズ、生活支援周辺環境共同プログラ
ム(AAL)」など)や欧州宇宙機関(ESA)のプログラムについ
て、国を代表する連絡窓口としてルクスイノベーションを指
定しています。ルクスイノベーションは、エンタープライズ・ヨ
ーロッパ・ネットワーク(EEN)にも加盟しています。EEN は、
中小企業(SME)と海外の提携パートナーや市場とを結びつ
けることによって、研究活動とイノベーション創出業務を強
化するために欧州委員会が設立したものです。
最新情報は、www.luxinnovation.lu をご覧ください。
13
ケース・スタディ
新しいアイデアを商業的成功に
変えるには、様々なイノベーション
管理技法に対する詳細な理解が
必要です
ネオ・メディカル・システムズ
ネオ・メディカル・システムズは、ルクセンブルクとベルギー
の医療機関で手術室の設置とメンテナンスを専門に手が
けています。2009 年創業の新興企業である同社は、2012
年に医療セクターでスタートした研究、開発、イノベーショ
ン創出プロジェクトの成功を基盤として、急速に業績を伸
ばしています。民間投資家の支援を確保した後、ネオ・メ
ディカル・システムズは同社プロジェクトを完成させる最後
の決め手を欠いていました。このとき、ルクスイノベーショ
ンの専門知識が役立ちました。ルクスイノベーションのアド
バイザリー・チームが同社ビジネスプランの練り上げとルク
センブルク経済通商省への質の高い申請書の作成を支援
しました。この結果、「新興の革新的企業」制度のもと、同
省から財務上の支援が得られました。この支援をもとに同
社は、視線追跡装置を装備し、眼鏡装着が不要となる初
の 3 次元外科手術用スクリーンを開発し、2013 年 1 月に
特許を取得しました。
www.neoms.com
©Luxinnovation
ロタレックス
ソイル・コンセプト
実り多い官民パートナーシップのナノプロテック
ディーキルヒに拠点を置くソイル・コンセプト社は、下水汚泥
幅広い業界(自動車、医療、半導体)向けや各種ガス器
の問題に対する画期的な対処法を幅広く開発しました。
具用のバルブや圧力調整器、付属品大手のロタレックス・
2008 年から 2011 年にかけてソイル・コンセプトはドイツや
グループは経済通商省から一部資金調達を受けていた
オーストリア、リトアニア、ベルギーのパートナー企業ととも
ナノプロテック・プロジェクトのもと、2010 年から表面塗装
に EU のプロジェクトに参画しました。第 7 次研究枠組み計
用の製剤と技術の開発を進めていました。これはナノ構
画 ( FP7 ) か ら 資 金 支 援 を 得 た 520 万 ユ ー ロ 規 模 の
造を有する多機能塗料であり、耐食性と自己潤滑性を兼
ENERCOM プロジェクトであり、これは下水汚泥と植物性廃
ね備えているため、使用するガスに反応してしまう多くの
棄物から複数のエネルギー製品を生み出すプロセスの開
有機化合物の使用を簡素化し、低減することができます。
発を目指していました。これはポリジェネレーションと呼ば
このイノベーションは、ガブリエル・リップマン国立研究セ
れるプロセスで、電力や熱、固形燃料(バイオマスペレット
ンターとの強力なパートナーシップのもとに生まれたもの
やコンポスト、肥料)が生成できます。最終的には安全かつ
で、同センターは物理蒸着法に関する技術的ノウハウを
環境性向とコスト効率の高い新しい方法で下水汚泥を処理
提供してくれました。同様の特性を有し、ゾルゲル法を用
できるばかりか、エネルギー生産を高め、温室効果ガスの
いて蒸着した塗料素材の開発においては、アンリ・チュー
排出も削減できるのです。ソイル・コンセプトの ENERCOM
ドル国立研究センターの力も借りています。このような 2
プロジェクトへの参加は、ルクスイノベーションの後押しで
つの機関との連携は、ルクスイノベーションがクラスター・
実現しました。ルクスイノベーションはプロジェクト提案につ
イニシアチブのもとに実現させました。ロタレックスは経済
いて的確な根拠の特定や FP7 に関する必要情報の提供、
通商省から経済的支援を得るため、ルクスイノベーション
成功する提案書の書き方に関する助言を提供しました。ま
から資金調達に関する助言も受けています。
た、プロジェクトの適切なパートナー選びを支援したほか、
www.rotarex.com
欧州委員会との交渉段階でも手助けしています。
www.soil-concept.lu
イノベーションと研究を推進する国立機関であるルクスイ
多国籍スタッフが、以下をはじめとする幅広いサービスを
ノベーションは 1984 年に設立され、1998 年にはイノベー
提供しています:
ションと研究活動を推進する国内イニシアチブを結集す
る目的のため、経済利益団体(EIG)に指定されました。
 国内外の資金提供プログラムへのアクセス
EIG としてルクスイノベーションは、加盟メンバーと強固な
 革新的な新興企業への支援
パートナーシップを築いています:
 イノベーション管理技法、独創性、デザイン

経済通商省
 技術移転および提携先の開拓

高等教育・研究省
 研究結果の知的所有権および商業的利用

中小企業・観光省
 ルクセンブルク・クラスター・イニシアチブ

ルクセンブルク商工会議所
 研究およびイノベーションの促進「メイド・

ルクセンブルク職工会議所

ルクセンブルク経団連(Fedil)
イン・ルクセンブルク」
ルクスイノベーションの多彩なスキルを備える
15
ルクセンブルクの CIO の
国際比較
パトリック・ローラン
チボー・ショレ
ホアオ・ドス・サントス
クリサ・マタランガ
(Patrick Laurent)
(Thibault Chollet)
(Joao Dos Santos)
(Chrysa Mataragka)
パートナー
シニアマネジャー
シニアマネジャー
シニアコンサルタント
テクノロジー&
テクノロジー&
テクノロジー&
テクノロジー&
エンタープライズ・
エンタープライズ・
エンタープライズ・
エンタープライズ・
アプリケーション
アプリケーション
アプリケーション
アプリケーション
デロイト
デロイト
デロイト
デロイト
デロイトの「2013 年グローバル
CIO 調査」にみる
ルクセンブルク情勢
はじめに
デロイトは今年、CIO および同等の IT リーダーに関する
初のグローバル調査を実施しました。世界 36 カ国のテク
ノロジーリーダー720 人以上から貴重な意見を集めたも
ので、その中には、ルクセンブルクの有力企業および有
力機関の 38 名も含まれています。このようにルクセンブ
ルクのテクノロジーリーダーが調査に参加したことによ
り、ルクセンブルクの IT 組織が他国の IT 組織と比較して
どうか、また今日の CIO にとってどのようなトレンドや課
題、最新トピックが重要かを理解するうえでまたとない機
会がもたらされました。
本稿では、デロイトの「2013 年グローバル CIO 調査」の
初期結果の中からルクセンブルクを中心とした重要なデ
ータと洞察を、筆者の現地市場情報に基づいてご紹介し
ます。グローバル調査の結果全容に関しては、別途デロ
イト CIO 調査レポートを近く発表する予定です。
デロイトのグローバル CIO 調査
世界的に高回答率を得られたため、興味深い地域的な比
デロイトのグローバル CIO 調査の狙いは、最新の技術トレ
較が可能となったほか、地域内ならびに国内の特有のトレ
ンドの洗い出しにとどまりません。テクノロジー情勢の変化
ンドに関して有力な結論を導き出すことができました。
が IT 部門にどのような影響を与えているのか、今日の IT
リーダーの役割や懸念事項にはどのようなものがあるのか
調査回答者
に焦点を当てることにあります。この調査は、社内における
グローバルレベルでは、金融サービスやコンシューマ事
IT の役割や IT とビジネスとの現在の関わり方に影響を及
業、製造業、医療サービスといった幅広い業種の CIO と IT
ぼす重要なポイントを取り上げるよう設計しています。ま
リーダーが調査に参加しました。一方で、公的セクターから
た、CIO が以下の 6 つの重要な点をどう認識しているかを
の参加者比率は低い水準にとどまりました。ルクセンブルク
把握することも目指しました:
の回答企業は、予想通りその大多数が金融サービス業で
 IT 予算と優先事項 - IT 予算における現在のトレンド
はどのようなもので、予算配分においては何が優先さ
れているか?
あり、この特性はルクセンブルクの調査結果全体を分析す
る際に勘案すべきポイントとなりました。回答者の所属する
IT 組織の規模は IT 担当者が 50 人未満から 1,000 人を超
えるまでに至り、ルクセンブルクの回答者はこの尺度にお
 ビジネスとの連携 - IT 部門が期待されていることは
いてはほとんどが下限近くに該当しました。回答者の所属
何か、それはビジネス上の優先事項と合致している
する企業の年間売上高合計はルクセンブルクで 120 億ユ
か、増え続ける要求に対応する上で障害になっている
ーロ超に対し、グローバルでは 3,200 億ユーロに達してい
ことは何か?
ます。
 人材およびケイパビリティ - IT リーダーがこうした期
待に対応するため、あらゆる組織レベルにおいて適切
なチームと適切なケイパビリティを所有しているか?
 イノベーション - 今日のビジネスにおいてイノベーシ
本稿の構成と内容
本稿では、先ごろ実施されたデロイトの「グローバル CIO 調
査」の結果からルクセンブルクの状況概要をまとめていま
す。
ョンの意味するものは何か、イノベーションはどの程
度テクノロジーに牽引されているか?
 テクノロジーのトレンド - 新興のテクノロジーと破壊
的テクノロジーのうち、主だったものは現時点でどの
程度採用されているか?
 キャリアおよび能力開発 - IT リーダーの役割はどの
方向に向かっているのか、キャリア開発における重要
本稿ではルクセンブルク市場に関する結果を丹念に選定し
ており、国内の結果であれ、グローバルな結果であれ、読
者の皆さんにとって興味深いと思われるものを選び出して
います。
本稿は本調査の 6 つの重要テーマを中心に構成しており、
テーマごとにセクションを設けました。
な傾向にはどのようなものがあるか?
調査手段と調査法
デロイトの「グローバル CIO 調査」は 2013 年 5 月から 7 月
にかけて、2 カ月にわたって実施されました。合計 30 項目
の質問を回答者に投げかけ、回答者はデロイトのオンライ
ン調査プラットフォームを通じて電子的に回答しました。調
査全体を通じて、完全匿名性を維持していますが、不完
全、重複、矛盾した回答は最終データセットから排除した結
果、最終的な母集団としての有効回答者数は 700 人超と
なりました。
本稿ではルクセンブルク市場に
関する結果を丹念に選定しており、
国内の結果であれ、グローバルな
結果であれ、読者の皆さんにとって
興味深いと思われるものを
選び出しています
17
ルクセンブルクの IT 予算のうち 47%は、
変革支援に配分されています
IT 予算と優先事項
ルクセンブルクの IT リーダーが予算で優先すること
IT 予算削減の最悪期は、ルクセンブルクの CIO にとって
IT 予算の増加が通常業務ではなく、変革と成長を支える
過去のものとなっているようです。
ために活用されているとの前向きな兆しがあります。
2008 年の金融危機後のここ数年間は、ほとんどの CIO が
ルクセンブルクの調査結果において、IT 予算がどの程
IT 予算の削減に合わせて IT 支出の帳尻合わせを余儀な
度、通常業務(BAU)に配分された(53%)か、変革支援に
くされました。しかしこの調査では、ルクセンブルクの大半
どの程度向けられたか(47%)を見ると、ほぼ拮抗してい
の CIO にとって、ほとんどの地域と業種において、IT 予算
ます。これは、ルクセンブルクにとって明るい材料であると
削減の最悪期を脱していることが明らかになりました。ルク
考えられます。これに対しグローバルでは、IT 予算の
センブルクの回答企業のうち、「予算が増加した」または
58%が BAU に振り向けられており、ルクセンブルクの
「前年並み」と答えた企業は 71%に達しています。
CIO がサービス変革に向けてより多くの資金を投じている
ことがうかがえます。
全業種で予算が拡大しているという明るい傾向にもかかわ
らず、ルクセンブルクの回答者のうち 29%は予算が縮小し
これ以上に有望な結果が、ルクセンブルクの金融サービ
たと答えています。これに対し世界においてこの割合は
ス企業の回答者から得られています。このような回答者
22%となり、他国と比べてルクセンブルクでは予算の増加
はより多額の予算を「変革」に当てていると回答しており、
が緩慢であることが示されました。残念ながらこの傾向は、
おそらくは金融業界が経験している構造改革やビジネス
先ごろ銀行業界を中心として発表された重要なコスト削減
モデルの変更の必要性が反映されていると思われます。
プログラムでも裏付けられています。
また、情報交換や外国口座税務コンプライアンス法
(FATCA)、欧州市場インフラ規制(EMIR)、UCITS 指令と
前年に比べて最大の IT 予算削減に直面したのは南欧諸
いった近年の規制変更に合わせて、国内の金融サービス
国であり(回答者の 30%)、その理由の一端はスペインや
モデルを変革するために投資が必要という事情も背景に
ポルトガル、キプロスといった国々のマクロ経済情勢にある
はあります。彼らの「変革」予算は欧州の同業の水準を大
と思われます。逆に、アジアやアフリカ、南米諸国の回答者
きく上回っており、ビジネス変革支援と成長支援で均等に
は予算増加が最大になりました。
分割されています。
ルクセンブルクの民間セクターが通常業務に向けた予算
の割合は 66%と他国を大きく上回り、調査回答者の 45%
が回答している予算の増加は成長や事業開拓の支援と
いうより、むしろ日常業務の改善や最適化を軸に割り当て
今年は、北米、中南米、欧州、中東、
アフリカ、アジア、オーストラリアの
36 カ国の最高情報責任者やその他の
IT リーダー700 人以上から
回答が得られました
られたと考えられます。興味深いことに、予算が縮小され
た民間セクターの回答者はわずか 18%にとどまり、民間
セクターの景気回復を示すサインとも解釈できますし、あ
るいは同セクターの予算が最低水準に達していたという
事実を反映している可能性もあります。
公的セクターは全般的に最も著しく予算が縮小した
(36%)一方、IT 予算の 67%は主として通常業務に配分
されています。公的セクターのサービス提供方法に変革
をもたらすべく世界的に尽力されているのはほぼ間違い
ありませんが、同調査ではこのスピードが緩慢であること
が示されています。
18
ルクセンブルクの IT リーダーの優先事項
IT 予算
前年からの変動
新たなビジネスニーズへの対応が、ルクセンブルクの
CIO にとっても、世界の CIO にとっても最優先事項である
と特定されました。
世界のあらゆる地域、あらゆる業種における圧倒的多数
71%
のテクノロジーリーダーと同様、ルクセンブルクのCIOにと
前年並み
または
増加した
っても、新しいビジネスニーズへの対応が重要な優先事
項(約 90%)であることは間違いありません。これは、前
29%
述した変革への予算配分へのシフトと合致しています。ま
前年から
減少した
た、CIOが近い将来、組織の変革ならびにイノベーション
の課題に対して今まで以上に重要な役割を果たす機会が
生じることも示唆されています。
この調査結果では、調達に関してもルクセンブルクとグロ
ーバルの双方において興味深いトレンドが示されました。I
T調達戦略の策定ならびにオフショアリングの拡大は、大
半のCIOの課題において優先順位が非常に低いとみなさ
予算配分
れていたのです。
通常業務と変革&成長への配分比率
ルクセンブルクの民間企業におけるITの優先事項を分析
おり、BAUへの予算配分が他国よりなぜ 5%低かったか
53%
がこれで説明できます。また、ITコストの削減の後には、ア
通常業務
すると、IT コストの削減が依然として課題の上位に入って
プリケーションとインフラの統合に向けた投資が続いている
一方、金融サービス企業はプログラムとプロジェクトの実現
を挙げています。
47%
変革&成長
IT の優先事項
向こう 12~18 カ月
89%
68%
60%
52%
44%
44%
29%
新しい
ビジネス
ニーズへの
対応
IT コストの
削減
インフラの
統合
リスク管理
&セキュリ
ティの強化
デジタル
戦略の
推進
IT 運用
モデルの
再編
IT
スキルの
育成
29%
IT オペレー
ションの
維持
13%
10%
調達戦略
の策定
オフショアリング
の拡大
19
CIO は、(その組織から)戦略的なビジネスパートナー
であるとはまだ認識されていません
ビジネスとの連携
IT とビジネスとの連携
有効性
IT リーダーがビジネスパートナーとしての有効性を高めなけれ
ばならないことは明らかです。ITが今まで以上に大きな価値をビ
ジネスに付加するチャンスはあります。
74%
当然ながら、ルクセンブルクのITリーダーは「ビジネス部門が IT
部門に対して、事業戦略の実践によって価値をもたらしてほしい
と考えている」と一般的に認識しています。金融サービス業界で
は、プログラム/プロジェクトの実現がビジネスリーダーにとって
2番目に重要な優先事項となったのに対し、民間セクターは利益
率改善と価値実現のための重要な目標として、ビジネスプロセ
スの最適化を重要視しています。ルクセンブルクの CIO の回答
ビジネスパートナーとしての
評価が「妥当」または「不十分」
によると、戦略的価値をもたらすわけではない日常的な IT サー
ビスを除き、調査対象となった IT サービスのすべてにおいて、
質の高いデータの提供またはビジネスプロセスの最適化で改善
IT のバリュードライバー
IT がどのように価値を付加すべきとビジネスリーダーが考えているかのトップ3
が必要と示されています。調査回答者によれば、民間セクター
において IT の有効性の実現はより難しく、期待を上回った項目
は2つのみにとどまりました。
78%
ルクセンブルクの IT リーダーの回答によると、改善の余地がまだ
大いにあることが判明しました。自分自身が優れたビジネスパー
トナーであるとの自己評価は 26%となり、71%はビジネスパート
ナーとして妥当と自らを評価しています。我々の調査結果で重要
47%
47%
ビジネス
プロセスの
最適化によって
プログラムの
実現によって
かつ明るい材料となるのは、ビジネスとの連携を専門とするファン
クションを設けることが、戦略的に優れたパートナーになるための
最高のチャンスを CIO にもたらすということです。つまり、この分
野により力をいれることによって、よりよい結果が得られる可能性
事業戦略の
実現によって
が示されています。戦略的に優れたパートナーであると自己評価
した回答者のうち、60%がビジネスとの連携を専門とするファンク
ションを設けていました。
強みと弱み
事業価値の推進
では、ルクセンブルクの CIO が優れたビジネスパートナーになる
のを妨げているものは何でしょうか? CIO によると、ビジネス部
門の IT に対する認識/理解ならびに IT の優先事項およびリソ
53%
89%
50%
ースが主な障害となっています。ビジネスとの連携の非有効性と
いう点で最もよく見受けられる理由には、ビジネスとの連携を専門
とするファンクションの欠如に加え、ビジネス部門の IT に対する
理解不足、IT の優先事項とリソースの移り変わり、ならびに IT 部
日常的なIT
サービスの提供
ビジネス
プロセスの最適化
質の高い
データと知見の提供
期待通りまたは
期待以上
改善が必要
改善が必要
門内のビジネスに対する理解不足があります。
アフリカやアジアなどの地域とはある程度差があるものの、ルク
ビジネスとの連携を妨げる障害
IT リーダーが直面している障害
センブルクで見られた主なポイントはグローバルの結果とほぼ合
致しています。これによって、ビジネスと IT との間の亀裂が世界
的になお存在していること、さらには IT とビジネスとの関係にこ
れまで以上に注力するとともに優先させて取り組む必要性がある
ことが浮き彫りとなりました。
20
43%
ビジネス部門の
IT 部門に対する認識
38%
IT の優先事項&
リソース
CIO にとって、イノベーションが事業拡大の
重要な鍵を握っています
イノベーション
イノベーションの支援
CIO にとって、イノベーションが事業拡大の重要な鍵であり、IT はそ
の実現に重要な役割を果たします。
イノベーションにおいて、IT は今以上にビジネスに貢献できるという
一般的な考え方が CIO の間にはあります。グローバルの調査結果
77%
と同様、ルクセンブルクのテクノロジーリーダーはほとんどの組織に
おいてイノベーションが今日、戦略的なビジネスツールであると認識
32%
しており、その実現において IT が重要な役割を果たすと確信してい
ます。ルクセンブルクの回答者の大多数(77%)は、IT 部門が自社
のイノベーション戦略をどのように支援できるかを明確に把握して
いると回答しています。
IT が組織内で最大の事業価値を付加できる分野はどこだと思うか
という質問に対して、回答者は以下の3つが最重要ポイントである
事業変革をどのよう
に支援できるかを
把握していると
回答した IT リーダー
組織内で IT 部門が
イノベーションの中核
として認識されていると
回答した IT リーダー
と回答しました:
1. 市場開拓/差別化
イノベーションの障害
2. コスト削減/オペレーションの効率化
IT リーダーが直面している障害
3. 製品/サービスの開発
€
IT リーダーは事業変革を推進するうえで IT が重要な役割を演じら
れると確信しているにもかかわらず、「組織内で IT 部門がイノベー
29%
26%
ション創出の中核であると認識されていると思う」との回答は、興味
18%
深いことにわずか3分の1(32%)にとどまっています。
イノベーションの中核となるために何が障害となっているかとの質
問に対して、ルクセンブルクの CIO は主な障害として、予算上の制
約(29%)、IT の優先事項とリソース(26%)ならびにビジネス部門
IT の
優先事項&
リソース
予算上の制約
の理解/IT に対する認識(18%)を挙げています。この結果は、非
ビジネス
部門の IT に
対する理解
常に有効なビジネスパートナーとなるうえでの障害となっていると
CIO が考えるものと合致しています。また、「IT がビジネスに価値を
もたらすべき方法のトップ3にイノベーションが入っているとビジネス
部門は考えている」という回答者がルクセンブルクで 30%に達した
ビジネスに対する価値
テクノロジーを通じて
ことを考え合わせると、重要な意味を持つ可能性があります。
イノベーションにおいてより大きな成果を上げ、より有効なビジネス
パートナーとして自らの体制を整えるために CIO が今まで以上に注
力することを検討すべき分野はどこかについて、調査結果で多数の
点が挙げられました。たとえば、組織のイノベーション戦略と、その
戦略における IT サービスの役割に対する理解向上などがありま
34%
す。実際、この戦略支援における IT の役割について明確ではない
市場の開拓
との回答は少数派とはいえかなりの数(25%)に達し、組織のイノベ
18%
オペレーション上の
コスト効率
18%
製品/
サービスの差別化
ーション戦略について十分理解できているとは言えないとの回答は
実に 35%に上りました。
21
プライベートクラウド・コンピューティングが、
ルクセンブルクで最も導入が進んでいるテクノロジーです
テクノロジーのトレンド
これに次いで多いのはビッグデータとアナリティクスであり、これ
優先させているテクノロジーについて、ルクセンブルクの IT リー
がルクセンブルクにおいて採用が進む次なる課題と思われま
ダーとグローバルの IT リーダーは意見が一致しています。
す。世界的な傾向とは対照的に、ルクセンブルクの導入率は世
この調査の目的の一つは、CIO が新しい技術をどれくらい活用で
きると感じているかを把握し、導入のライフサイクルが短縮された
かどうかを理解することにありました。世界的には、新しいテクノ
ロジーの採用を促す大きな勢いがあり、業種と地域によって導入
度合いに大きな開きがみられます。ルクセンブルクは全体的な動
きに追随しており、クラウドの採用が筆頭に挙がり、次いでモバイ
ルアプリケーションとなっています。しかし、調査では世界的に 3
番目に導入が進んでいるソーシャルメディアに対する関心が明ら
界の水準を明らかに下回っています。にもかかわらず、回答者
の 47%がモニターしており、そのうち 5 人に 1 人がリサーチ段階
にあります。実際に導入する前に、熱狂的な評判と約束されたポ
テンシャルが現実のものになるかどうかを見極めようとしている
のは明らかです。ゲーミフィケーションと拡張現実(AR)はルクセ
ンブルクでは全く関心を集めておらず、パブリッククラウドがこれ
に近い数値となっています。また、ソーシャルメディアと ERP プロ
ジェクトの再構築に対する関心も低い水準にとどまりました。
かに低く、この点では世界的な流れと差が生じました。ルクセンブ
ルクの IT リーダーは国内市場においてイノベーションが重要なド
ライバーであると幅広く認識しており、その後にコスト削減/オペ
テクノロジー&トレンド
導入度合い
レーションの効率改善、新しい製品やサービスの開発支援が続
いています。
プライベートクラウド・コンピューティングは全世界のほぼ全業種
42%
34%
プライベートクラウド
において関心と導入が非常に高い水準に達し、突出しています。
21%
ルクセンブルクの IT リーダーは、どのテクノロジーに優先して投
資するかという点でグローバルと同様の結果となりました。プライ
42%
携帯アプリ
ベートクラウドの導入を優先事項に挙げる CIO は、ルクセンブル
クの金融サービスを中心として 42%を超えました。金融サービス
機関はコンプライアンスと規制上の制約から、必然的にパブリック
クラウドの利用に消極的で、プライベートクラウドを導入する主な
18%
45%
BYOD
目的はコスト削減のほか、この新しい技術の柔軟性をテコに新規
10%
開発を促すことにあります。公的セクターはこの技術に関して調
査活動を始めたばかりですが、その市場を考慮すると可能性は
68%
アナリティクス/
ビッグデータ
有望とみられます。
ルクセンブルクで 2 番目に採用されているテクノロジーは世界の
8%
50%
ソーシャルメディア
全業種と同様、モバイルアプリケーションです。導入度合いは対
8%
象者によって大きな差がありますが、市場において差別化のカギ
を握ると目されていることは間違いなく、金融サービスを中心とし
37%
ERP の再構築
て、顧客の若年層への対応に利用されています。世界中のあら
3%
ゆる業種のサービス提供において、必要不可欠となっている模様
です。世界的に明らかなトレンドとなっていることを背景に、回答
0%
ています。これに対しルクセンブルクでは 2 番目の優先技術であ
り、IT リーダーの約 21%(民間企業が大多数を占める)が導入し
37%
パブリッククラウド
者の 42%が導入中あるいは生産において利用していると回答し
34%
拡張現実
ていると回答しています。興味深いことに、モバイル通信インフラ
0%
に頼る傾向が強いアフリカやアジアといった地域で導入率が最も
高くなっています。個人所有のデバイスの業務利用(BYOD)はル
クセンブルクの金融サービス業界において台頭しつつあり、CIO
の 5 分の 1 以上がすでに導入済み、あるいは導入している段階
にあると答えています。
22
ゲーミフィケーション
29%
導入中/導入済み
モニター中/調査中
ルクセンブルクでは、適切なスキルを持つ経験豊かな
スタッフの採用が難しいとの回答が 34%に達しています
人材およびケイパビリティ
我々のグローバル調査は、新規採用と人材のつなぎとめが
ビジネス指向の専門的スキルと経験豊富なスタッフが求め
CIO にとって重要な課題であるという各国の調査結果を裏
られています
付ける形となっています。新規採用の面では、ルクセンブル
ルクセンブルクと世界のテクノロジーリーダーの最大の課題
クの CIO が直面している最大の問題は適切なスキルを有
は、現在の IT 部門内でビジネススキルの不足を埋めること
する経験豊かな人材の採用(回答者の 34%)であり、これ
と、適切なスキルセットを有する経験豊富なスタッフを採用
に加えて 18%が中途採用と新卒採用のいずれも難しいと
することです。調査結果によると、ルクセンブルクの回答者
回答しました。スキルのある新卒者の採用が難しいとの回
の大半は「今日の IT 部門はビジネススキルが大いに不足
答は、ルクセンブルクではわずか 3%にとどまりました。
している」と強く感じています。問題は総体的な IT 人材不足
そのものではなく、むしろ個々のビジネスにフォーカスしたス
キル、ビジネスに対応できるスキルの不足であるという点で
す。調査ではビジネススキルにおいて最も必要とされるニー
ズとして挙がったのは IT スタッフの効果的なコミュニケーシ
ョン能力(63%)、ビジネス的な考え方(42%)、サプライヤ
ー、顧客との関係の育成・維持(32%)でした。このようなル
クセンブルクの結果は世界的な調査結果と概ね同様であ
り、これによって全く同じ問題が浮かび上がります。すなわ
より明るい材料としては、ルクセンブルクの CIO が現在採
用しているトップ人材の定着戦略に関する結果があります。
この戦略は正しい方向に向かっており、採用上の問題が積
み増しされるのを未然に防いでいるように思われます。この
ようなスキルギャップを埋め、人材をつなぎとめるためにど
のような対策を講じているかについて IT リーダーに聞いた
ところ、以下が上位 3 つの戦略として挙がりました:
A. IT の役割と組織構造を見直す - 回答者のほぼ半数
ち、現在の IT 部門内におけるビジネススキルの深刻な不足
(45%)がこれを戦略トップ 3 の 1 つとして回答
です。
B. 個々の状況に合わせたトレーニングと能力開発プログ
最も不足している専門的スキルをルクセンブルクの CIO に
C. 最先端の IT プロジェクトや IT 部門外のプロジェクトへ
ラムを提供する(39%)
質 問 する と 、最 大 の 頭 痛 の 種 とし て ビ ジ ネ ス 分 析 能 力
の参加機会を設ける(32%)
(53%)が挙がりました。ここでもビジネス的なスキルの需要
が大きくなり、上記の結果を裏付ける格好となりました。この
このような結果は、市場平均を上回る給与の支給や通常の
同じ質問からは、アナリティクス/ビッグデータとモバイルア
昇進、ワークライフバランスにおける柔軟性の向上といった
プリケーションに関するスキルが現在の IT 部門において不
従来型のインセンティブを予想している人にとっては、意外
足していると認識されていることがわかり、ルクセンブルク
かもしれません。ここでみられた調査結果を分析したところ、
市場においてこうしたテクノロジーに対する関心の高さが裏
従来型のインセンティブより、トップの人材、特に経験豊富
付けられるという興味深い結果となっています。現在の IT
なトップの人材には、彼らのキャリア目標に合致した、やり
部門内において明らかなビジネススキルの不足を埋めよう
がいのある業務や能力開発の研修プログラムを CIO が現
にも、経験豊かなスタッフがいないという現状は世界のほぼ
行の IT 組織体制内において提供しなければならないという
全地域でみられました。
ことです。
人材の採用
不足しているビジネススキル
課題
IT 部門内のトップ 3
55%
不足している専門的スキル
IT 部門内のトップ 3
63%
53%
42%
31%
34%
32%
IT スタッフの
採用が難しい
ビジネス
的な考え方
効果的な
コミュニケーション
能力
顧客、
サプライヤー
との関係構築
モバイル
アプリケーション
ビジネス
分析能力
アナリティクス&
ビッグデータ
23
IT リーダーの最大の動機付けは、事業戦略の
策定に貢献することにあります
キャリアおよび能力開発
この結果は、ビジネスリーダーとテクノロジーリーダーとの
CIO は組織内のより戦略的なポジションを希望してお
間でよく知られているミスコミュニケーションとすれ違いの
り、事業戦略に対する影響力を拡大するために他の C
問題も裏付けています。
スイート職を目指している。
CIO が組織において戦略的な影響力を高めたいと考え
ていることは、調査結果の分析から明らかです。ルクセ
ンブルクの IT リーダーに異動や転職において動機とな
る点を聞いたところ、事業戦略への貢献度向上(34%)
や新しいチャレンジ(21%)が新しい職務に魅力を感じる
主な要因として挙がりました。当初の予想に反して、権
限の拡大(5%)や昇給(3%)、昇進(3%)は異動や転職
の重要な動機付けにはなっていません。
たらされていない」との回答がルクセンブルクの回答者の
多数(24%)に上ったことです。グローバルでは、この心情
を訴える人はあまり多くありません(わずか 8%)。回答者
の 55%が COO のポジションに移りたいと希望し、残りの
回答者は CIO(50%)、コンサルティング(32%)、CEO
(29%)の魅力が特に大きいと答えている事実からもこれ
が立証されています。ルクセンブルクでみられたもう一つ
CIO が事業戦略の策定において貢献したいと考えては
の驚くべき結果は、「国内市場の IT リーダーには、キャリ
いるものの、実際にはそれが果たせていないという現状
ア目標を実現するにふさわしいトレーニングや能力を開発
の認識は、ルクセンブルクの組織が IT リーダーを活かし
する機会がない」という CIO の認識です。ルクセンブルク
きれていないということを示しているのでしょうか? ビジ
の調査対象者の 32%がこれに同意しましたが、世界的に
ネスとの連携に関する調査結果がこの仮説を裏付けて
はわずか 10%にとどまっています。同様に、ルクセンブル
おり、ルクセンブルクの IT リーダーの 74%が戦略的な
クの回答者の 24%は「国内市場では、多彩かつやりがい
ビジネスパートナーとして IT 部門は辛うじて及第または
のあるキャリアを約束する幅広い雇用機会が提供できな
不十分であると評価しています。
い」と答えています。
次に希望する職務は?
異動/転職
CIO のキャリア目標
異動/転職する最大の理由
COO のポジション
CIO に残留希望
コンサルティング
CEO のポジション
55%
32%
29%
トレーニング&キャリア機会
58%
34%
ビジネスへの
貢献度拡大
50%
職務満足度
24
上記の結果と確実に関係しているのは、「IT 業界では、多
彩かつやりがいのあるキャリアを約束する雇用機会がも
50%
の IT リーダーは、
の IT リーダーは、
「しかるべき
「IT でやりがいのある
トレーニングや能力開発
が提供されている」に
キャリアへの機会が
同意していない
同意していない
提供されている」に
21%
新しいチャレンジ
結論
IT 部門内でビジネス的、戦略的なコンピテンシーを身につ
調査によって、金融危機がまだ終わっておらず、少ない労
け、社内外を問わず顧客と IT との関係を育成し、維持する
力でより多くをこなそうという考え方が依然としてルクセン
ことが、IT リーダーの大半にとって間違いなく新たな課題と
ブルクの IT リーダーにとって主要テーマであることが明ら
なります。同時に IT リーダーは、自分の代わりにオペレー
かになりました。場合によってはイノベーションがコスト抑
ションサイドの大半を管理することができる優れた IT ディレ
制の一助となりますが、イノベーションの主な目的はビジ
クターや IT マネジャーに仕事を委譲していくべきでしょう。
ネスニーズへの対応であり続けるべきでしょう。CIO の役
こうすれば IT リーダーに託された日々の問題解決という業
割の中心は近年、技術的専門性とオペレーション管理か
務から時間的に解放されるため、オペレーションや財務か
ら明らかにビジネスサポート機能に移り、さらにビジネス
ら製品開発、マーケティングに至るまで、社内の他の分野
パートナーの役割へと発展している場合もあります。
で経験を積み、同僚と接しながら新しいアイデアに息を吹き
事業戦略を適切なタイミングで始動、構築、採用、導入し
込み、イノベーションを育むことが可能となります。
て競合他社との差別化を図るには、ビジネスリーダーと
IT リーダーとの間で緊密な連携と理解が必要不可欠で
このようなビジネス的な視点とビジネス上の経験を蓄積す
す。組織は IT リーダーを活かしきっていないのですが、
れば、CIO はより大所の立場に立った対話に加わり、事業
CIO に対する期待は変わりつつあります。
戦略により大きな貢献を果たすことができるはずです。
ビジネスリーダーと IT リーダー
との間の緊密な連携と理解が
必要不可欠になっています
25
SaaS/クラウド型アプリケーションに
移行する場合、コントロールとセキュ
リティをどう確保すべきか
ステファン・ユールト
ローラン・デ・ラ・ヴェシエール
(Stéphane Hurtaud)
(Laurent de la Vaissière)
パートナー
ディレクター
エンタープライズリスクサービス-
エンタープライズリスクサービス-
情報&テクノロジーリスク
情報&テクノロジーリスク
デロイト
デロイト
クラウド・コンピューティングの大規模な普及拡大を妨げ
る最大の障害の一つは、依然としてセキュリティへの懸
念である
最近の別の調査では、IT マネジャーの 78%が「クラウド技
術の採用を妨げる最大の障害はセキュリティへの信頼不
足である」と認識していることが明らかになりました。
クラウド・コンピューティングは、今日の IT 業界において
最も話題を集めているトレンドの一つです。アナリストの
セキュリティへの懸念を駆り立てているのは、サードパー
書いた記事の中で「情勢を一変させる技術」と称されるク
ティーのデータセンターにデータを預けるとセキュリティ、コ
ラウド技術はコラボレーションや敏捷性、スケーリング、
ントロール、およびアクセスが損なわれるという考え方で
可用性を高める機会を企業にもたらすと同時に、最適化
す。実際、多くの企業がデータの喪失や盗難、評判失墜を
された効率の高いコンピューティングによってコスト削減
招きかねないセキュリティ侵害や、セキュリティ侵害によっ
の際立った手段を提供してくれます。
て競合他社が非常に機密性の高い情報にアクセスしてし
まうというさらに深刻なケースに対して危機感を募らせてい
もうすでにほとんどの企業がクラウド・コンピューティング
ます。大量のデータを大規模なパブリッククラウドに集約す
を採用したり、クラウド・ソリューションに移行している最
ることも、通信機能の障害時(データ可用性が損なわれ
中だったりしますが、その一方で実行に移すことに消極
る)や最近のプリズム・プログラム(米国家安全保障局
的な企業もまだあります。
(NSA)が構築した、大規模な電子データの監視とデータマ
1
デロイトが欧州におけるクラウドの導入状況を調査 した
イニングを極秘に行うプログラム)の発覚をはじめとする諜
ところ、クラウド・コンピューティングをまだ採用していな
報活動においては広範囲な障害点となると認識されてい
い調査対象者の CIO にとって、主な障害は以下であるこ
ます。
とが明らかになりました:
 データセキュリティが不十分であり、データ可用性にリ
スクが伴う
 コンプライアンスと法的問題が未解決
 データのガバナンスまたはコントロールを失うリスクが
この文脈において企業は、クラウド・コンピューティングに
は実質的にセキュアかつコントロールされた環境を提供で
きる能力があり、したがってアプリケーションと情報をクラ
ウド・コンピューティング・サービスに移行することは安全で
あるという保証を求めています。
ある
1
デロイト - クラウド導入調査 - 勢いを増すクラウド・コンピューティング - 2011 年 10 月
https://www.deloitte.com/assets/Dcom-Global/Local%20Assets/Documents/TMT/dttl_tmt_CloudAdoption%20SurveyDeloitte_CIONet.pdf
26
あらゆる形態のクラウド・コンピューティングに万能のセキュリティア
プローチはない
デリバリーモデル
クラウド・コンピューティングには実際に、複数の形態があります。そ
れぞれに異なる特徴があり、柔軟度もコラボレーション機会も違いま
す。そして当然ながら、リスクも異なります。このため、それぞれの形
態を理解し、各配置モデルにそれぞれどのような特徴があるかを把
握して、クラウド・コンピューティング・サービスを取り巻くリスクとセキ
ュリティ情勢を正確に評価することが必要不可欠です。クラウド・コン
SaaS
ピューティングの 3 つの基本的な分類は、しばしば「SPI モデル」と呼
ばれます。SPI とは、ソフトウェア(・アズ・ア・サービス)、プラットフォ
ーム(・アズ・ア・サービス)およびインフラストラクチャ(アズ・ア・サー
ビス)の頭文字をそれぞれ指しています。
どのサービスモデルを活用するかにかかわらず(SaaS、PaaS、IaaS)、
ソフトウェア・
PaaS
アズ・ア・サービス
IaaS
プラットフォーム・
インフラストラクチャー・
アズ・ア・サービス
アズ・ア・サービス
クラウド・サービスには 4 つの配置モデルがあります:
 パブリッククラウド:クラウドのインフラストラクチャは一般市民ある
いは大規模な産業グループに提供されており、クラウド・サービス
配置モデル
を提供している企業がインフラを所有している
 プライベートクラウド:クラウドのインフラストラクチャは、ただ一つ
の組織のためだけに運用される。その組織自体あるいはサードパ
ーティーが管理し、設置はオンプレミスあるいはオフプレミスとなる
 コミュニティクラウド:クラウドのインフラストラクチャを複数の組織
ハイブリッド
で共有するものであり、共通の利害関係を持つ特定のコミュニティ
を支援する
コミュニティ
プライベート
 ハイブリッドクラウド:クラウドのインフラは 2 つ以上のクラウド(プラ
イベート、コミュニティあるいはパブリック)を組み合わせたものであ
る
パブリック
27
クラウドを導入するにあたって選べる選択肢があまりに多い
(パブリッククラウドか、それともプライベートクラウドか、自
リスクベースドアプローチを活用して、リスク許容度に適
した配置モデルを特定する
社ホスティングとするか、あるいは他社ホスティングにする
クラウド・コンピューティング技術と SaaS に移行する際、
かに加えて、多種多様なハイブリッド形式が考えられる)た
企業はリスクベースドアプローチを活用してクラウドに伴
め、たった一つのセキュリティアプローチでも、一連のセキ
う初期リスクを評価するとともに、自社に最適なクラウド
ュリティコントロールでも、あらゆる状況を網羅できません。
配置モデルを特定しなければなりません:
配置とホスティングの選択肢の組み合わせそれぞれについ
て、脅威や対応能力、地域的な要件など、それぞれに固有
の検討すべきリスクがあります。たとえば、「プライベートク
ラウド/オフプレミス」を組み合わせる場合、プラットフォー
ムの共有は避けられますが、外部のプロバイダーが機密デ
ータにアクセスするリスクを伴います。
このため、企業がクラウド・コンピューティング技術とソフトウ
ェア・アズ・ア・サービス(SaaS)への移行を検討する際に
は、リスクベースドアプローチを活用して、(i) 自社のリスク
許容度に最適の配置モデルとホスティングの選択肢を決定
したうえで、(ii) 選択した配置モデルにおいて導入が必要と
 クラウドを配置する資産を特定する:クラウドに伴うリ
スク評価の第一歩は、クラウド活用を検討するデータ
やアプリケーションを具体的に特定することです。
 資産を評価する:この段階では、特定したデータとア
プリケーションが自社にとってどの程度重要かを把
握します。基本的には、特定した資産の機密性や完
全性、可用性に関する要件ならびに、当該資産の全
部または一部をクラウドで取扱う場合にリスクがどう
変わるかを評価するわけです。少なくとも、以下の質
問に回答して大枠で評価を行うことが必要です:
–
(現時点で)クラウドで保管すべきではない機密
なるセキュリティコントロール要件を詳細に洗い出すことが
データがあるか?
必要になります。
たとえば、顧客の氏名、個人資産に関する情
報、健康状況に関する情報、個人情報等は、ク
ラウドで保管すべきか? 規制上で、どのような
制約があるか?(たとえばルクセンブルクでは、
金融セクター監督委員会(CSSF)が IT アウトソ
ーシングに関して金融機関に義務づけている要
件がある)。以上のいずれのアイテムも、クラウド
のリソース活用を阻む阻害要因になり得る。
–
「ジェネリック」型のアプリケーションがクラウドで
提供される場合、競争優位性をもたらしているア
プリケーションで、(その優位性が失われかねな
い)ものはあるか? クラウド型アプリケーション
を活用する利点は多くのタスク(顧客関係管理な
ど)で確かに存在するものの、そうしたクラウド型
アプリケーションが競争優位の源泉となっている
自社運用のアプリケーションとどうインターフェー
スするかについても検討しなければならない。
 クラウド配置モデル案に資産をマッピングする:企業が
資産の重要性を把握したら、次は自社にとって快適な
選択したクラウド配置モデルに応じたセキュリティコントロー
ル要件を決定する
配置モデルを決定する段階です。
この 10 年間で、数多くの情報セキュリティ基準やコンプライ
核となるアプリケーションが非常に重要であるため、あ
アンスの枠組みが定着し、発展してきました。数例挙げると
るいは必要不可欠であるためにパブリッククラウドのプ
すれば、ISO/IEC 27002 や NIST SP 800-53、PCI DSS など
ロバイダーに移行できない場合があるのと同様、むや
です。クラウド・コンピューティングに特化したセキュリティコ
みにプライベートクラウドとインプレミスの配置モデルを
ントロールの標準フレームワークも策定されており、最も定
選ぶ必要がない場合もあります。たとえば価値の低い
評があるのはクラウドセキュリティアライアンスのクラウドコ
データや重要ではないアプリケーションのホスティング
ントロールマトリックス です。
2
に対して包括的なセキュリティコントロールを施す場合
こうしたコントロール・フレームワークでは、クラウド・コンピュ
などです。プロバイダー候補を検討する前に、企業は各
ーティングに適用可能なあらゆるセキュリティ要件を余すと
モデル(プライベート、パブリック、コミュニティ、ハイブリ
ころなくそろえる利点が規定されていますが、その一方で、
ッドのほか、ホスティングを自社にするか、他社に任せ
クラウドモデルのすべて、配置モデルのすべてにおいて可
るか、自社と他社を組み合わせるか)に内在するリスク
能な限りのあらゆるセキュリティコントロールが必要というわ
を許容できるかどうかを把握しておかなくてはなりませ
けではありません。
ん。
ここでもクラウドの利用者はリスクベースドアプローチを用い
 配置モデル候補とクラウドプロバイダー候補を評価す
て、適切なセキュリティ要件を「選び出す」ことが必要です。
る:この段階では、リスク緩和などの特定の要件を導入
その際の判断基準となるのは、(i) 選択したクラウドモデルと
する際に各レイヤーfにおいて企業側がどの程度コント
配置モデルに内在する具体的なリスク、および (ii) 選択した
ロールできるかに焦点を当てます。
ケースに特有のリスクにどの程度さらされる可能性があるか、
です。
以上の段階を一通り踏めば、企業はクラウドへの移行を検
討する資産がどのくらい重要なのか、どの程度のリスクを
企業が (i) 自社で選択したクラウド配置モデルに内在する固
許容できるか、どの配置モデルの組み合わせが採用でき
有のリスクを特定し、かつ (ii) クラウド利用者とクラウドプロ
るかを把握できるようになります。これによって十分な判断
バイダーの間の役割と責任範囲を決める際には、当然なが
基準が形成されることになり、導入すべきコントロールの枠
ら複雑さと課題に直面します。幸いなことに、クラウド・コンピ
組みを決定し、クラウドプロバイダーと交渉する段階で役に
ューティングのリスク評価フレームワークがいくつかありま
立つはずです。
す。公的および政府の取り組みである欧州ネットワーク情報
セキュリティ庁(ENISA)の「クラウド・コンピューティング:情
3
報セキュリティに関わる利点、リスクおよび推奨事項」 や、
デロイトの「クラウド・コンピューティング・リスクインテリジェン
ス・ツールボックス」などの民間の取り組みがあります。
クラウド・コンピューティングは、今日の IT 業界に
おいて最も話題を集めているトレンドの 1 つです
2
クラウドセキュリティアライアンス(CSA)は非営利団体であり、「クラウド・コンピューティングのセキュリティ確保に関するベストプラクティス
の活用を促進するとともに、クラウド・コンピューティングの活用啓蒙を通じてあらゆる形態のコンピューティングにおいてセキュリティを確
保する手助けをすること」を使命としています。デロイトは、CSA の法人メンバーです。
3
欧州ネットワーク情報セキュリティ庁(ENISA)は欧州連合の機関であり、EU 規則第 460/2004 号によって 2004 年に設立されました。
ENISA の目的は、欧州連合内のネットワークおよび情報のセキュリティを改善することにあります。
29
以下は、SaaS に移行する企業のために特定されたコントロール要件の一例(クラウド利用者とクラウドプロバイダー間の責任範囲など)です:
セキュリティ要件
セキュリティの要素
(すべてを網羅したものではなく、例示を目的とする)
クラウド利用者
 現行および将来的に予想されるアクセス制御要件に基
づき、IAM ソリューションを選定する
アイデンティティ/
アクセス管理(IAM)
 ライフサイクルにおいて、認証ベースおよび熟慮した役
割ベースのアクセス制御を実現する
 修正プログラムと脆弱性の評価に関するポリシーと基準
をリスクに基づいて修正する
サイバー脅威
 しっかりしたセキュリティ評価およびベンダー管理基準を
策定する
クラウドプロバイダー
 顧客との契約条項に合致し、顧客が対応しなければ
ならない複数の規制要件を支援するアクセス制御ソリ
ューションを運用する
 最小限のアクセス権を実現し、遵守する
 脆弱性管理プログラムと合わせて、セキュリティ監視
プロセスを構築する
 暗号化を導入する
 アプリケーション・レベルのコードレビュー、ソフトウェ
ア開発の厳密なライフサイクル・プロセスを構築し、変
更について通知する
 プライバシーステートメントとプログラムを修正し、クラ
プライバシー
ウド・コンピューティングの地理的課題に対応する
 プライバシー慣行およびプロセスを規定する
 機密/プライバシーに関するデータの取扱いプロセス
を策定し、適切な使用法やデータ保護プロセス、基準
を定義する
 不正アクセスに関する報告プロセスを確立する
 クラウド・コンピューティングの明確なセキュリティ運用
ポリシーおよび基準を策定する
セキュリティ運用
 クラウド・サービスを一貫して活用するために、ポリシ
ーベースのアプローチを検討する
 規制要件をサポートできるクラウドプロバイダー/ベン
ダーを選定する
規制
 ベンダー監督プログラムを策定し、契約条項の遵守状
 セキュリティ運用センター(SOC)を設置する
 評価、報告、対応能力を明確にする
 クラウドシステムを一貫して管理するために、ポリシー
ベースのアプローチを検討する
 複数の規制要件に基づいて合理的なセキュリティ・フ
レームワークを活用し、コントロールとプロセスを構築
する
況をモニター/評価する
 データの複製ならびにバックアップについて、自社の運
用継続ポリシーと基準を再定義する
復元性と可用性
 可用性の指標ならびに基準を再策定する
 障害に関するサービスのレプリケーション、フェイルオ
ーバー、再構築のためのプロセスを策定する
 可用性に関する義務を再評価し、SLAを遵守してい
るかどうかをテスト結果で確認する
 リリース管理ポリシーならびに変更管理ポリシーを活
用する
開発
 セルフサービスの変更受け入れプロセスを提供する
 ERP管理とデータの許容可能な使用方法についてセ
キュリティポリシーと基準を策定する
30
LCプロセスを構築し、変更ならびにリリース管理につ
いて通知する
アプリケーション
エンタープライズ・
リソース・プランニング
(ERP)
 アプリケーション・レベルのコードレビュー、厳格なSD
 モジュールとデータベースの許容可能な活用法を定義
する
 セキュリティゾーン、データ保護、アクセスプロビジョニ
ングに関するプロセスを構築する
 シングルサインオン機能とともに、顧客の役割に基づ
いて強力な認証を提供する
クラウドプロバイダーとセキュリティ要件について交渉し、自
社のコンプライアンス保証アプローチについて定義する
クラウド・コンピューティング:セキュリティへの脅威ではある
ものの、チャンスでもある
クラウドプロバイダーのサービス提供範囲が狭いほど、クラ
本稿ですでに説明したように、クラウド・コンピューティングの
ウド利用者が導入および管理に責任を負い、対応すべきセ
導入における最大の障害はデータセキュリティとデータ可用
キュリティはそれだけ増えます。言い換えると、SaaS モデル
性へのリスクに関するものです。しかし、自社のデータセンタ
ではクラウドプロバイダーが必要となるコントロールの大半
ーと比較した場合、クラウド・コンピューティングのセキュリテ
の導入および管理を担当します。この意味においては、セキ
ィが必ずしも劣っているというわけではありません。場合によ
ュリティコントロールだけでなくプライバシーとコンプライアン
っては、セキュリティが向上するということもあります。クラウ
スもすべて法的に契約で対処すべき事項です。他の調達と
ド利用者の多くが独自に運用しなければならない場合、自
同様、クラウドプロバイダーの選定でも、ビジネスニーズとセ
社では投入できないほどの多くのリソースを、クラウドプロバ
キュリティ要件が契約上の取り決めで十分に対応できるか
イダーがセキュリティに投入できるためです。ハードウェアや
を検証することが含まれます。
ソフトウェア、人的資源、管理コストといったあらゆる種類の
セキュリティ対策は、大規模に導入すればコストが低減でき
合意したセキュリティ要件をクラウドプロバイダーが遵守して
ます。
いるかどうかに関する保証を許容水準にまで引き上げるた
めに、クラウド利用者が自由に使えるリスク緩和戦略は増え
データ可用性に関しては、クラウドプロバイダーの多くはユ
続けています:
ーザーデータを複数のロケーションで複製しています。これ
 契約上の保護:ベンダーが許容可能な慣行を守るとと
によってデータ冗長性が高まり、システム障害時の保護が
もに計画終了処理および計画外の終了処理を管理で
強化できるとともに、ある程度の災害復旧も可能となりま
きるよう、企業は契約上の保護を検討することが必要
す。さらに、クラウドプロバイダーは分散型 DoS 攻撃対策な
です。
どの防御策に対するサポートを強化するため、常にフィルタ
 セキュリティ監査:クラウドプロバイダーのセキュリティ
監査が次第に実施できるようになっており、クラウド利
用者のセキュリティポリシーとプロバイダーのポリシー
が確実に合致させられるようになっています。このよう
な監査では現場視察や遠隔テストを行う場合もあり、
独立したサードパーティーを活用するケースもありま
す。
リングやトラフィックシェーピング、暗号化のためにセキュリ
ティリソースを動的に再配分することができます。
結論としては、SaaS/クラウド型アプリケーションに移行す
る場合、企業はしかるべき配慮を払って固有のリスクを適切
に低減するとともに、クラウドのメリットを享受してセキュリテ
ィコントロールの改善やコスト低減を図っていかなければな
りません。
 セキュリティ認定:プロバイダーは徐々に、サービス受
託会社の統制に関する報告(ISAE 3402 レポート)や独
立したサードパーティーが発行するセキュリティ管理規
格 ISO/IEC 27001 を使って、自社のコントロール環境
の認定を受けるようになっています。
 基準の活用:クラウド業界はクラウドセキュリティアライ
アンスといったイニシアチブなど、業界基準を奨励して
います。しかし、依然として主要プロバイダーの間でコ
ンセンサスが形成されていません。
あらゆる形態のクラウド・コンピューティング
に万能のセキュリティアプローチは
ありません
31
モバイルのその先へ
バジル・ゾンマーフェルト
マクシム・ヘッケル
(Basil Sommerfeld)
(Maxime Heckel)
パートナー
シニアマネジャー
オペレーションズ&ヒューマンキャピタルリーダー
オペレーションズ&ヒューマンキャピタル
デロイト
デロイト
モバイルアプリケーションとデバイス:近い将来における
その重要性
モバイル・エコシステムは、電光石火のスピードで動いて
います。多数のユーザーがソーシャルメディアに絶え間
なくアクセスし、ナチュラルユーザーインターフェース(音
声やジェスチャーなど)の普及が世界的に進んでいるこ
とを受け、ユーザーエンゲージメントにおいて数々の新し
い可能性が生まれています。その可能性は、モバイルア
プリケーションを使ってこれまでの通常のやり方を変える
という域をはるかに超えています。本質的に違うことがで
きるようになるのです。
ここでの大きな課題は、インターネットに十分接続でき
ない状況にはもはや耐えられないという「ジェネレーシ
ョン Y」に特に焦点を当てながら、ユーザーの期待(ユ
ーザー自身がまだ意識していないものまで含めて)に
応えるということです。ユーザーのニーズや希望、日
課を理解していくことが、モバイルとアプリケーション
のイノベーション戦略を牽引します。ウェブサイトの閲
覧から顧客サービスへの連絡まで、ユーザーは様々
な接点を通じて周辺の市場と接しています。ですか
ら、ユーザーの視点(および指先)を通して、それぞれ
の接点を検討していくことが重要です。
テクノロジーにおいては、モバイルウェブの台頭によ
り、増え続ける一方の各プラットフォーム(iOS やアンド
ロイド、ウィンドウズ フォン等)に合わせてネイティブな
ユーザーの視点と指先を通して、
高額「アプリ」(モバイルアプリケーション等)に資金を
投入せずとも、一度に多数のスクリーンにリーチでき
それぞれの接点を検討していく
る手段がサイト運営者に提供されるようになりました。
モバイルウェブがネイティブアプリケーションを本当に
ことが重要です
脅かす脅威の存在となるかどうかが判明するには時
間を要しますが、その戦いの火ぶたは間違いなく切ら
れています。
32
拡張現実とウェアラブル技術が、モバイルの新時代
を築くか?
ユーザーがコンピュータのシミュレーションする世界
に浸りきるバーチャルリアリティの環境とは異なり、拡
張現実の環境では、現実世界の経験がコンピュータ
の生成するデータやビジュアルで拡張されます。
これが一般大衆のテクノロジーになるとの考えは、数
年前までは信じがたいものでした。しかし今日では、
スマートフォンで最寄りの地下鉄の駅や ATM を探し
たり、近辺の状況に関するリアルタイムのデータを確
認したりするなど、多数の人々にこの技術が提供さ
現在では、グーグルグラスなどの
インターネット接続可能な眼鏡型デバイスが
普及するかどうかは誰にもわかりません
現在では、グーグルグラスなどのインターネット接続可能な
眼鏡型デバイスが普及するかどうかは誰にもわかりません
が、アップル、グーグル、サムスンなどの大手企業はこぞっ
てウェアラブル・コンピューティングという幅広い、有望な分
野に多額の投資を行っています。
れ、すでに利用されています。グーグルグラスのコン
セプトは拡張現実の分野において生まれるべくして
生まれたハンズフリーデバイスの進化であり、ユーザ
ー体験をかつてないレベルにまで引き上げることを約
束します。
33
モバイルへのアプローチ-政府と民間企業に対する影響
ルクセンブルク市場におけるモバイル決済の課題
拡張現実(AR)アプリケーションは、今後数年のうちに普及
E コマースやモバイルインターネットの順調な発展、消費
していくとみられています。デジタルデータの量が年々激増
者の潜在需要の急拡大を受け、モバイル決済(m ペイメン
するなか、このテクノロジーはよりよい決断を下し、提供さ
トとも呼ばれる)が世界で次第に注目されるようになってい
れているサービスと一層関わるために必要な情報と個々
ます。
のユーザーとを結びつける重要なツールであると次第に認
識されるようになっています。
「モバイルバンキング」と「モバイル決済」という言葉は、し
ばしば同義語として使われていますが、実際にはかなり異
近い将来には、政府(特に治安・防衛機関)ですら、動画分
なります。モバイルバンキングはオンライン上の銀行取引
析や顔認識/ジェスチャー認識ソフトウェアや遠隔地間の
を指し、携帯電話で利用可能なサードパーティへの支払い
視覚的コラボレーションを採り入れるために、プラットフォー
やピアツーピア(P2P)の送金手続きは入りません。モバイ
ムとして AR をどのように活用できるかを検討しなければな
ルバンキングの取引に入るのは、口座残高の確認やアラ
らなくなると思われます。
ートの受信あるいは口座間の送金などです。モバイル決
済は、モバイルデバイスを利用して商品やサービスを購入
通常の非実用的な「戦略プランニング」ではモバイルの動
することを指します。基本的には、近接地点または遠隔で
きが速すぎてついていけないために、モバイル競争から脱
起動する既存の決済ネットワークに決済/取引ポイントを
落してしまっている企業や政府機関は少なくありません。
追加することになります。これはピアツーピア、消費者と企
戦略は重要ですが、8 カ月ではなく 8 週間のうちに実行に
業間、あるいは企業間の取引です。
移さなくてはなりません。また、機会の明確化からスタート
し、モバイルを通じて顧客や従業員、製品およびパートナ
ルクセンブルクはスマートフォン端末が高レベルに達して
ーの体験を再編成するため、意思決定者がアイデアを見
いる小規模市場であり、モバイル決済のテスト市場として
出せるように手助けしなくてはなりません。
うってつけです。このため、ルクセンブルクの消費者には
すでに 2 つのモバイル決済ソリューションが提供されてい
優先順位付けと焦点の絞り込みは依然として重要ですが、
ます。Digicash と FLASHiZ であり、3 番目の Yapital も近く
これと同じくらい重要なのは、現行のビジネスとプロセスの
提供が開始される予定です。FLASHiZ の場合は、専用の
単なる調整にとどまらず、その先にあるビジョンを大胆に見
スマートフォン用アプリケーションと最初から組み込まれて
通すことです。同時に、よりアジャイルなアプローチを採用
いるマネーをインストールします。Digicash の場合は、アプ
し、まずプロトタイプを提供したうえで実用版を提供していく
リケーションと既存の銀行口座を連結させます。そうする
ことも必要になります。
と、いずれの場合でも消費者はレジで QR コードをスキャ
ンするだけで、国内の店舗で商品やサービス(駐車場、レ
ストラン、郵便局など)の支払いができます。
モバイル決済には、データのやりとりにおける機密性と完
全性以外にも、業界が現時点では成熟していないという世
界的に大きな課題があります。消費者が「ユーザーフレン
ドリー」かつモバイル決済の均一な体験を求めているとい
ここでの大きな課題は、
ユーザー自身がまだ意識して
いないものも含めて、ユーザー
の期待に応えるということです
34
う事実に促される形で、技術的基準や規制上の基準によ
ってモバイル決済を定義しようという動きがありますが、総
じてまだ定義が必要な状況です。
IPv6、クラウドおよびゲーミフィケーション:モバイルに与える
影響
ご存じの通り、スマートフォンやタブレット、将来のウェアラブ
ルデバイスなどのモバイルデバイスは、基盤となる技術に大
きく依存しています。たとえば AR は、GPS や加速度センサ
ー、カメラ、高速の常時インターネット接続を複合的に組み
合わせて 1 つのデバイスに搭載し、なおかつユーザー体験
を生み出すために同時に機能しなければ実現しません。
デバイスに搭載するテクノロジーにとどまらず、「どうすれば
デバイスに搭載するテクノロジーにとどまらず、
「どうすれば接続できるのか?」
「何に接続すべきか?」
といった質問に斬新な答えを
提供することも、顧客に対して
価値を創出するうえで不可欠です
接続できるのか?」「何に接続すべきか?」といった質問に
斬新な答えを提供することも、顧客に対して価値を創出する
うえで不可欠です。クラウドが今日、データのペーパーレス
化の分野で力を発揮しているように、IPv6 は将来、世界的な
常時到達可能性とシームレスな可動性が求められる次世代
のコンテンツとサービス(ピアツーピア、プッシュ型配信、
VoIP、放送配信等)を実現させる強力な技術となります。
ゲーミフィケーションは、もっと概念的なものです。ゲームの
本質(楽しさ、遊び、熱心さなど)を活用し、現実世界のシチ
ュエーションに適用するのです。(一連の機能ではなく)プロ
セスとして、受け身の情報受信体制からその場において対
話型のプレイ体制にユーザーを切り替えようとするもので
す。モバイルデバイスでアクセスした場合には特にユーザー
をいっそう鼓舞し、引きつけ、釘付けにするために、具体的
かつリアルタイムの周辺データをゲームの一部に取り込み
ます。
ビジネスの場では、これはつまり、ほぼあらゆるもの(バック
オフィス業務、キャリア・カウンセリング、マーケティング活
動、研修など)にゲームの理念を活用してソリューションを開
発することになります。ゲーミフィケーションの力を借りれば、
利害関係者を熱心にかつ積極的に組織と関わらせることが
できます。ゲーミフィケーションは単なる「流行語」を超え、企
業にとって戦術的な概念から戦略的な緊急課題へと姿を変
える可能性が高くなっています。
35
ロードマップ構築
― ビジネス部門への
的確なエンタープライズ・
アーキテクチャ提供に向けて
ステファン・ラサート
(Stéphane Rassart)
最高情報責任者
エシアス
エシアスの CIO、ステファン・ラサートが迅速な技術革新とコスト効率の高い
オペレーション実現に向けて、自社ビジネス部門に機動的な
エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)を提供する
ロードマップを策定した経験を紹介します。
EA ロードマップの取り組み内容
IT 部門の再編成にあたり、私たちは複数の取り組みを実践
「エシアスはベルギーで 4 番目の規模を誇る保険会社で、
しました。ビジネス部門によりよいサービスを提供し、エシア
全支店を合わせて市場シェアは 8.4%、従業員数は約
スの情報システムに効率的なオペレーション運用能力をもた
1,800 人に上ります。生命保険事業と損害保険事業をバラ
らすとともに、イノベーションと変革を市場に導入するまでの
ンスよく手がけており、ギリシャ危機と金融大手デクシアの
期間を短縮してコストの効率化を図るという取り組みです。
経営破綻に影響は受けたものの、2012 年には純利益 1
億 8,000 万ユーロを計上して好業績を残しました。これは
IT 部門は、エシアスのビジネス部門の社内における戦略的
特に、オペレーショナル・エクセレンスに注力した結果で
パートナーとなるとともに 2015 年までの全社的戦略に大きく
す。
貢献するという目標を掲げて、新たなビジョンと戦略を採用
しました。このビジョンには、4 つの重点的方策があります。
エシアスはこれまでも、テクノロジーを追求する革新者でし
ビジネス部門の要件を満たす、ビジネス部門に合わせて IT
た。90 年代後半にはすでに、いち早くウェブサイトに機能
部門を再編成する、オペレーションを最適化するとともに管
を与えチャネルとして活用していました。また、IT のアウト
理する、効果的かつ結束力の高いチームを構築する、で
ソーシングを始めた先行企業のうちの1社であり、80 年代
す。採用した戦略は、9 つの異なる側面(イノベーションの促
半ばにはエシアスの IT 部門をスピンオフして NRB が発足
進、エンタープライズ・アーキテクチャの変革、社内の開発へ
しました。これ以降、情報システムの変更についてはビジ
の依存脱却、ビジネス上の需要予測など)を軸として策定さ
ネス部門のユーザーが NRB のスタッフに直接依頼するよ
れています」
うになりました。しかし、この体制にはいくつかの制約があ
りました。エシアスのビジネス部門のユーザーと NRB を結
ぶインターフェースとなる IT 部門を構築し、エシアスの情
報システムを卓越した基準にまで高めるという使命を抱い
て、2008 年に私がエシアスに入社しました。
36
EA ロードマップに取り組んだ理由
この結果、アーキテクチャをビジョンと中心理念に合致させ
「戦略を実現するために私たちは 2012 年、エンタープライ
るために必要となる一連の技術的イニシアチブが生まれま
ズ・アーキテクチャ・ロードマップ(EA ロードマップ)というイニ
した。このような技術的イニシアチブには、インテグレーショ
シアチブに着手しました。EA ロードマップによって、エシアス
ン・レイヤの作成、BI スタックの合理化、アイデンティティ・
の情報システムの近代化や将来的なビジネス上の要求事
アクセス管理の最適化、ユニファイドコミュニケーションの
項の予測、ならびにオペレーションの効率向上を目指しまし
提供などがあります。
た。つまり、この取り組みの狙いは、情報システムの構造改
革を通じてサービスに基づくコンポーネント化されたアーキ
機能別イニシアチブと技術的イニシアチブからはアーキテ
テクチャを実現することのほか、アジリティ向上による製品化
クチャに関する 22 の検討事項が生まれ、それぞれにおい
までの時間短縮とコスト効率の改善、組織横断的な能力の
てアーキテクチャに搭載すべき新しい機能が導き出されま
実現、IT サービスの管理と拡充、投資効果(ROI)の最大
した。
化、ならびに IT の運用コスト低減がありました」
予算的、時間的な制約があったため、私たちはそのうち 13
の検討を選んで実施に移し、2012 年の夏の間、それぞれ
EA ロードマップの作成アプローチ
において異なる導入シナリオを分析しました。その異なる
「エシアスの IT 部門は 2012 年 3 月、私の指揮のもと、およ
シナリオとは、開発するか、購入するかあるいはレンタル
びエシアスのエンタープライズ・アーキテクトであるローラン・
するかであり、具体的なパッケージ候補と合わせて類型的
ヴォーシェルの統括のもとでこのイニシアチブを推進するサ
ソリューションのみが提案されていました。この分析では各
ポートをデロイトに依頼しました。そして、ビジネスニーズと
シナリオの影響や導入段階、専門性と数量的面でのリソー
技術面という 2 つの側面に基づくアプローチを採用しまし
ス要件のほか、総保有コスト(TCO)を詳細にみていきまし
た。
た。検討事項それぞれについては、望ましいシナリオを選
定したうえでプロジェクトに分け、ロードマップに組み込み
保険業界に特化した標準的な参照モデルに基づいてビジネ
ました。
スニーズの分析を実施したところ、200 以上のビジネス・イニ
シアチブが生まれました。こうした個々のイニシアチブを検
Software AG の Aris で作成したロードマップには、目標と
討し、データウェアハウジングや商品管理、エンタープライズ
するエンタープライズ・アーキテクチャや向こう 7 年間の導
コラボレーション、外部データ・アナリティクス、クロスチャネ
入プランを詳細に盛り込んだほか、様々なリリース、キャパ
ル・インテグレーションなど、世界規模で機能別のイニシアチ
シティ・プランニング、調達オプション、予算も定めました」
ブに統合しました。技術的側面では、エンタープライズ・アー
キテクチャで必要となる特徴の正式化、ベストプラクティスや
中心理念の採用のほか、現状の検討も取り扱いました。
37
EA ロードマップの結果
現在も多くの人的資源を投入するなど、まだ多額の投
「この作業を行ったことにより、エシアスの IT 部門とプロ
資を行っており、7 年後の目標達成まではまだ長い道
バイダーは、何を実施する必要があるのか、現在のビジ
のりです。この労力がどれほどのものかは、情報シス
ネス要件ならびに将来予想されるニーズとアーキテクチ
テムが全社的視野を欠くビジネス部門に合わせて構築
ャとをいかにすり合わせなければならないのかに対して
され、各ビジネス部門が他部門の希望にかかわらず勝
明確なビジョンが得られました。
手気ままに変更を要請する状況から主として説明する
イノベーションと変革を迅速に統合し、コストを削減しなが
ことができるでしょう。このため複雑なレガシーシステム
ら運用できる近代的な情報システムがエシアスにもたら
ができあがり、コンポーネント化と因数分解によって近
されることになるため、ビジネス部門とエシアスの経営陣
代化し、求められるオペレーショナル・エクセレンスのレ
はこの作業結果を全面的に支援しています。
ベルと変化に対する融合を達成するには時間と資金が
かかるわけです。
EA ロードマップの作成から 1 年間プランを推進し、この
時点ですでに統合していたアーキテクチャの要素の一部
今後はこの作業を少なくとも毎年行い、最新のイノベー
がビジネス・プロジェクトの実行に活用され、効果を発揮
ションやベストプラクティス、ビジネス上の要件に合わ
しています。こうした要素は選定した BI ツールやユニファ
せて EA ロードマップを更新していきます。
イドコミュニケーション・プラットフォーム、ウェブコンテンツ
これによってアーキテクチャの機能やアジリティ、市場
管理ソリューション、エンタープライズサービスバスならび
標準との整合性を確実なものにしていきます。実際に 2
に顧客関係管理システムです。
度目の更新作業を行い、5 つの新しい検討事項(ビッグ
当社の情報システムに標準化されたウェブテクノロジー
データ、BPMS、BAM、ブローカレッジシステム、エンタ
ツールを実装するコンポジットアプリケーション・フレーム
ープライズ・ドキュメント管理および集団扱生命保険を
ワークも近く本稼働に移る予定です。これにより、複数の
支援するアプリケーションの合理化)の結果を統合しま
バックエンド・システムから情報をアップデートしたり取り
した」
出したりといったことが可能になります。
38
「ビジネスニーズと技術面という
2 つの側面に基づく
アプローチを採用しました」
私が得た教訓で、同じ CIO の職に就いている方たちに紹
介したいこと
3. 少なくとも、EA ロードマップ作業の初回については、社
1. ビジネス・イニシアチブの包括的な検討に着手するの
きるため、内部の知識蓄積が迅速に図れ、繰り返し実践
を躊躇しないこと。ビジネス部門が求めていることを
見通し、予め準備することができるようになります。そ
うすればあなたは、CIO にはよくありがちな単なるコス
トセンターではなく、ビジネスを実現に導ける人とみな
されるようになります。
外の支援を得ること。そうすればチームが手法を習得で
できるようになります。
4. 外部のサービス・プロバイダーを作業の上流工程で統合
しておくこと。これは、アプリケーションのメンテナンスを
アウトソースする場合には、特に必要となります。
5. C スイートの期待値を管理すること。このような種類の
2. 市場慣行や競合他社が採用しているソリューション、
作業は、結果的に多額の資金を要する長期的な導入プ
技術的進化に関して専門家から知識を習得し、イノベ
ロジェクトにつながる場合が多いため、C スイートには
ーションに対する意識向上を図るセッションを催して
受け入れる準備が必要です。
技術的な課題とチャンスを明確化するとともに、ビジ
ネス部門のユーザーの期待値を管理すること。
 ビジネス部門が求めている
ことを分析する
 アーキテクチャに影響を
及ぼす可能性のある
ビジネス・イニシアチブの
リストを作成する
 ベストプラクティスを検討する
 中心理念を選定する
 技術的イニシアチブの
 要件を検討
事項に
まとめる
 実施する
検討事項を
選ぶ
 シナリオを分析し、
最適なシナリオを
選び出す
 シナリオを実行
EA ロードマップ
を作成し、
正式なものとする
プロジェクトに
分割し、まとめる
リストを作成する
39
アナリティクスにおける
データマーケットプレイスの活用
ジャン-ピエール・メサン
ローナン・ファンデル・エルスト
(Jean-Pierre Maissin)
(Ronan Vander Elst)
パートナー
ディレクター
テクノロジー&エンタープライズ・
テクノロジー&エンタープライズ・
アプリケーション
アプリケーション
デロイト
デロイト
今日、企業が直面している競争環境は格段に厳しいものです。
また、新しく制定される規制上の要件と監督に対して
遵守と対応も求められています。
市場と経済状勢の絶え間ない変化に対応するため、企業
データの販売は、目新しいものではありません。データ
は新しい方法で情報を活用して利益を維持、拡大し、業績
販売ビジネスは、ポール・ロイターが 19 世紀にロンド
を伸ばし、情報の透明性をもたらして規制当局や顧客、投
ン・パリ間で株価情報の電信を開始したことに始まりま
資家を満足させていかなければなりません。こうした義務を
す。この同じ時期、現在最も長い歴史を誇る通信社の
果たすうえで大きな課題となるのは、正確なだけでなく、有
一つである AP 通信がニューヨークの新聞社 5 社によ
益な仮説や分析が導き出せる、意義のあるデータの提供
って設立されています。
です。
90 年代以降、インターネットとテクノロジーの活用拡大
社内データのポテンシャルをフルに実現するため、企業は
ました。この 20 年間でデータを発見し、やりとりする能
充しなければなりません。後者を実施するには通常、外部
力が急速に向上し、ブルームバーグやトムソン・ロイタ
データ(たいていは大手データプロバイダーのデータ)を活
ーといった著名な情報サービス企業が生まれました。
用します。外部データは地理的または財務的なデータの補
現在では、大規模、小規模プロバイダーを含め、拡充
足という形をとる場合があります。たとえば特定された住所
用データを企業に販売するデータマーケットプレイス運
の住宅価格から、顧客の相対的な資産規模を推し量ると
営企業が数多く存在しています。
いう具合です。
40
に伴い、データと情報のプロバイダーが爆発的に増え
自社データをクリーニングし、完全なものにするとともに拡
データの販売は、
目新しいものでは
ありません
41
なぜ外部データを活用するのか?
このため、チェックしたり、欠落した重要な情報を捕捉した
オペレーションの効率を向上させ、データの品質問題に関
りする価値があります。たとえば、顧客確認(KYC)の領域
わるコストを低減するため
では、一部のソフトウェアプロバイダーがデータマーケット
今日マーケットプレイスから商業的にデータを購入している
プレイス運営企業に接続したオールインワンのソリューシ
のは大半が、既存のデータを拡充することによって障害を
ョンを提供しており、必要情報の補足や情報の正確性の
乗り越えたり市場での優位性を確保したりしたいと考えてい
検証ができるため、規制条件のコンプライアンスが実現で
る企業です。こうした企業はデータの品質問題を抱えてお
きます。
り、規制当局のデータ要請に応じるため、あるいは顧客の
メールが正しい受信箱に送信されるよう正しいマスタデータ
を提供するために問題を解決しなければなりません。
増収を図るため
データマーケットプレイス運営企業が非常に役に立ち、利
益を上げられる別の領域は、データ拡充の分野です。たと
こうした目的を叶えるため、データマーケットプレイス運営
えばあるベルギーの企業が見込み客リストを作成したとこ
企業のデータが活用されます。実際のところ、マスタデータ
ろ、(リスト上のデータで見る限りは)既存顧客のポートフ
に関して全面的に自信を持っている企業はほとんどありま
ォリオと似通っていたにもかかわらず、期待外れの結果に
せん。
陥っていました。
この企業はその後、見込み客から顧客へのコンバージョン
率が非常に低い水準にとどまっている原因を究明するた
め、外部の支援を依頼しました。プロジェクトが実行され、
データマーケットプレイス運営企業の外部データを連携さ
せて自社のリストを拡充したところ、即座に見込み客リスト
有益なデータセットは多いものの、
顧客と見込み客の行動に明確な
の展望に新たな視点と理解がもたらされました。
関連性を提供するという点におい
同社はこうした有意義な分析を踏まえて、これまで見過ごさ
て、位置情報に関するデータほど
れていたパターンを明確化するとともに、ターゲットとする
見込み客を特定することができるようになりました。その結
有効なものはあまりありません
果、コンバージョン率を 20%以上に引き上げることに成功
しました。
顧客体験を改善するため
外部のデータセットを自社のビジネスデータに上乗せする
と、たいてい顧客のニーズに対する造詣を深めることが可
能になります。たとえば IP アドレスデータベースと自社ウェ
ブサイトで生成されたログとを掛け合わせれば、自社サイト
にアクセスした人(顧客か見込み客の場合が多い)がどこ
からアクセスしたかを地理的に把握できるようになります。
これは、単に出発点にすぎません。他のデータ戦略と組み
合わせれば、こうして得られた知識を活用することが可能
です。たとえば、人口動態上のデータをここに合わせると、
自社サイト訪問者の社会経済的階層と経済力に関して一
定の理解が得られます。
とはいえ、このようにして得られた知見が分析に役立つと
言うだけでは、こうしたデータが提供できる大きな可能性を
狭めてしまうことになります。自社データのパターンを見出
したり、自社ビジネスを拡大・強化したりするだけにとどまら
ず、顧客に価値を還元することもできるのです。たとえば、
休暇で旅行中に車のフロントガラスが割れてしまった顧客
に最寄りの修理工場の電話番号を提示するときは、顧客
に暖かい手を差し伸べることによってブランドロイヤリティを
高め、顧客の信認を得るのに最高のタイミングです。
有益なデータセットは多いものの、顧客と見込み客の行動
に明確な関連性を提供するという点において、位置情報に
関するデータほど有効なものはあまりありません。
43
データの統合を活用するには?
外部データと自社オペレーションの統合を図る際には、3 つ
の異なるアプローチが考えられます:
 アドホック型アプローチ:このモデルでは、プロジェクト形
式で外部データを取り込みます。単発のデータ品質改善
プロジェクトなど一時的な目的への取り組みや、高度な
アナリティックスの個別作業の拡充を目指す場合です。
このアプローチでは当然ながら、追加で設けるべきガバ
ナンスや特定のテクノロジーは必要ありません。
 リアルタイム型アプローチ:このモデルでは、外部デ
ータがリアルタイムでオペレーションプロセスに統合
されます。このモデルの最たる例は、株価を資産運
用プロセスに統合するケースです。
リアルタイム性があることから、このモデルではデー
タプロバイダーと万全の SLA を締結しておくことが
必要になります。オペレーション上のリスクを低減す
るため、データ品質や可用性に特に配慮しなけれ
ばなりません。
さらに、サービス指向であり、リアルタイム業務の堅
牢な要件に対処しなければならないため、データア
ーキテクチャも要となります。
 統合バッチ型アプローチ:報告やコントロール、マスタデ
ータ拡充などの繰り返し起きる課題に対処するために、
外部データを毎日あるいはもっと少ない頻度で統合しま
す。データ管理のあらゆる点を確実に網羅するため、こ
のモデルでは所有権を明確にしておくことが必要です。
データの定義と外部データ利用者に対する変更通知は
特に考慮すべきです。
これに加えて、データアーキテクチャは外部データの通
常配信や品質管理、追跡可能性を実現しなくてはなりま
せん。
これらモデルではデータアーキテクチャとガバナンスのレ
ベルがそれぞれ異なりますが、いずれの場合にも、法的
側面に対して特に配慮しなければなりません。法制面
は、データ消費やソーシャルメディアと消費者との接触拡
大、データの活用法に合わせて絶え間なく進化している
のです。
パブリックデータとプライベートデータの境界は非常に薄
いため、定期的にモニタリングしておくことが必要です。こ
のため、外部データを最大限に活用するには経験豊富な
スタッフが当たることが求められます。
実際、統合ならびに期待される成果における影響は多大
なものになる可能性があります。このため、実証済みの
アプローチを活用することが不可欠です。
44
どこから着手すべきか?
ここまで見てきたように、外部データは資産運用やマー
現在では、大規模、小規模
ケティング、顧客サービスといった分野で企業にすでに
多くのメリットをもたらしており、今後ももたらすこと
プロバイダーを含め、
ができます。
外部データを使い始める際には、このような外部データ
が特定の課題に対してどのような価値をもたらすことが
できるか、どのような成果を期待できるかを把握するた
めに、パイロット・プロジェクトを実施するのが賢明で
す。
拡充用データを企業に販売する
データマーケットプレイス
運営企業が数多く存在しています
そのうえでこのパイロット・プロジェクトをコミュニケ
ーションツールとして社内で利用し、同様のアプローチ
を他のデータグループに適用すればよいでしょう。一
方、このようなプロジェクトをすでに実施済みであれ
ば、以前に何を実施したかを再検討するのが賢明です。
実際のところ、データマーケットプレイスは急成長して
いる分野です。新しいデータセットやテクノロジーソリ
ューションが絶え間なく生み出され、オペレーショナ
ル・エクセレンスや売上拡大、顧客体験に多大な影響を
もたらす場合があります。
45
保険とソーシャルメディア
保険業界の「ソーシャル」
ビジネスモデル再構築
ティエリー・フラマン
パスカル・マルティーノ
ジュリー・マリジャン
(Thierry Flamand)
(Pascal Martino)
(Julie Marizien)
パートナー
ディレクター
シニアコンサルタント
保険リーダー
戦略&コーポレート・
戦略&コーポレート・
デロイト
ファイナンス
ファイナンス
デロイト
デロイト
保険業界にとっての「ソーシャル」ビジネスモデル
こうした企業独自の取り組みは、パブリックソーシャルメディ
本稿では、成熟した保険会社がルクセンブルク国外の市
ア(ブログやコミュニティサイト、ソーシャルネットワーキング
場で新しい「ソーシャルビジネス」モデルを取り込むために
サイトなど)を活用して発展する場合があります。たとえば、
ソーシャルメディアをどのように活用しているかについて論
保険会社のソーシャルプラットフォームで始まったやりとり
じていきます。
が、ユーチューブやフェイスブックに再投稿される場合など
です。
保険会社のなかには今日でも、いわゆる「ソーシャル」テク
ノロジー(ブログやウィキ、ソーシャルメディアなど)の可能
こうした現象は、単なるツールとテクノロジーの活用を大きく
性を過小評価している会社があります。このような企業は
超えています。実際、保険のオペレーションモデルや経済モ
ソーシャルテクノロジーをインターネットマーケティングの
デルは比較的少ない投資で大きく変えることができます。プ
領域に追いやるか、あるいは一時的な流行にすぎないと
ロセスや体制を見直せば、より迅速に付加価値を創出でき
切り捨てるかのいずれかです。
るソーシャル的なアプローチを取り込めるのです。
しかし、ベビーブーム世代が次第にデジタルテクノロジー
ソーシャルビジネスモデルへの移行は社外のテーマで始ま
を取り入れ、ジェネレーション Y という若年層が保険会社
る場合があり、変革の第一歩としてすでにこのアプローチを
に社員として加わるようになるにつれ、見方が変わってき
選択した保険会社は少なくありません。顧客のセンチメント
ています。ソーシャルメディアは徐々に日常生活で重要な
と自社製品のポジショニングに対して造詣を深めたいと考え
役割を演じるようになり、「ソーシャルビジネス」と呼ばれる
ているマーケティングマネジャーはこのため、ソーシャルサイ
新しいモデルへの道を開くようになりました。
トで示されている意見に細心の注意を払っています。
非常に成熟した保険会社はたいてい、コラボレーションや
また、一部の保険会社は社内向けのミニブログを開設し、社
コミュニケーション、コンテンツ管理の一環としてソーシャ
員や募集人が意見や専門知識を会社に提示したり、より自
ルテクノロジーをすでに数年活用しています。社内(社員
発的に協働したりできるようにしています。
や募集人向け)および社外(既存顧客と見込み客向け)の
ソーシャルネットワーク双方を活用する場合が多くなって
こうした種類のプロジェクトは出発点としては、いずれも優れ
います。
ていますが、保険会社のバリューチェーン全体(新製品の開
発や新規顧客の開拓、販売促進、サービス提供、顧客関係
や提携関係、人的資源の管理)を変える方法はほかにも数
多くあります。
46
ソーシャルビジネスでは、アイデアや専門知識を見出し、発
そのうえでデータ分析を活用して見込み客の関心を示す
展させ、共有できるプラットフォームを新規開設することに
サインを特定したり、顧客の行動に応じてメッセージをリア
より、企業が独立に基づくモデルから結合に基づくモデル
ルタイムで工夫したりといったことが可能になります。
へと移行するのを手助けできます。
これに加えて、顧客はソーシャルリソース(コメント、メモ、
同時に、オペレーションレベルで即座に影響が出る、もっと
カテゴリー化など)にアクセスできるため、連帯意識や帰
実用的なメリットもまだあります。たとえば、複数の階層の
属意識の形成に役立ちます。こうしたトレンドは、個人が
承認を必要とする保険契約を作成する場合において、募
システムの中心にあるという基本的原則に基づいていま
集人、アクチュアリー、マネジャー間のやりとり回数を例に
す。組織から個人へとパワーがシフトしたのです。
取り挙げてみましょう。ソーシャルネットワーキングモデル
を活用すれば、このプロセスはより「フラット」にかつ円滑に
テクノロジーは、ソーシャルネットワークを活用した発見と
なるため、様々な関係者との間の対話がより迅速に、より
エンゲージメントを容易なものに変えましたが、コンテンツ
効率的になります。これは、コストに多大な影響を及ぼしま
や信憑性、完全性、レピュテーション、エンゲージメントなら
す。このような変革では、保険会社がソーシャルツールや
びに関わり合いの根本的価値は変わっていません。ソー
ソーシャルメディアに対してより積極的なアプローチをとる
シャルビジネスでは、このような価値を共有する企業が市
ことが求められます。
場へのアプローチ法を根底から見直すことができます。
非常に成熟した保険会社はオンライン上でのやりとりをモ
これは保険会社にとって、社員と顧客の双方の関心を集
ニタリングし、耳を傾けるだけでなく、ソーシャルの領域で
約するまたとない機会です。この点で成功する企業が、市
顧客や市場とやりとりする専門のチームを立ち上げていま
場で優勢となるでしょう。
す。こうしたやりとりの中には顧客関係や便益/苦情の管
理など純粋に業務の場合もありますが、一方で顧客ロイヤ
リティの強化や会社のレピュテーションの向上を狙ったもの
もあります。
システムの中心にいるのは個人です。
たとえば、保険会社は損害保険、傷害保険、生命保険に
組織から個人へとパワーが
関する自社商品の情報をソーシャルネットワーク上で提供
し、見込み客を啓蒙するとともに、潜在的な営業機会を創
シフトしたのです
出することができます。
47
保険会社の社員に加わりつつあるジェネレーション Y の
保険会社にとって、社員と
若年層は、ソーシャルモバイルプラットフォームでつながっ
顧客の双方の関心を集約する
そうしたプラットフォームを活用しています。ソーシャルメデ
またとない機会です
スツールを用意していない保険会社では、若手社員が一
ており、友人づくりや社交、問題解決に広範囲にわたって
ィアやデジタルプラットフォームを対象とする社内ガバナン
般のツールを利用することとなり、代替品としては悪意が
ないとはいえ、リスクを伴います。
歴史は繰り返す
規模の大小にかかわらず、複数の保険会社が現在では
ソーシャルメディアやコラボレーション、ナレッジマネジメン
バリューチェーンの特定のビジネスニーズに合わせて、ソ
トが保険業界におけるソーシャルビジネスの出現に寄与す
ーシャルネットワーク上でソーシャルテクノロジーを活用で
るまでには、いくつかの課題を解決しなければなりません
きるよう、的を絞り込んだ投資を行っています。
でした。
コラボレーションとナレッジマネジメントが直面していた障
ソーシャルメディアが直面していた障害とは?
害とは?
ジェネレーション Y より前の世代のソーシャルメディア活用
コラボレ-ティブワーキングソリューションを導入する際、多
ペースが遅かったため、商業的な面での有効性に対して
くの保険会社は業務の発生と共有という点で非効率(固定
意思決定者が懐疑的でした。また、セキュリティ、機密保
的であったり、社員グループの定義が不十分だったり等)
持およびコンプライアンスに関するリスクはすべて共通の
に取り組まなくてはなりません。このようなソリューションは
課題でした。個人の言動によって知的財産が損なわれた
文書共有のみに限られる古いシステムに基づいている場
り、競争優位性が失われたり、ブランドが傷ついたりすると
合が多く、コミュニケーションをディスカッションやコミュニテ
いうこともあったでしょう。
ィに転換するオプションが提供されていません。こうしたシ
ステムは往々にして機能やフィールドあるいは役割がただ
保険会社は、テクノロジーを中心としてパイロット・プロジェ
1 つに限定されており、会社全体の幅と厚みを最大限に活
クトに投資したほか、個人の領域で成功したメカニズムを
用できません。
模倣したシステムにも投資しました。場合によっては、「開
設さえすればいい」という方式を採用したために結果重視
最初のナレッジマネジメントツールはコンテンツの収集と
の戦略(ビジネスニーズの明確化や最適なソーシャルネッ
管理に焦点を当てていましたが、この知的財産が貴重な
トワークの特定、テクノロジーとターゲットメディアの導入、
ものである所以となるコンテキストやビジネスプロセスを捕
結果の評価、目標の調整)を怠った場合もあります。最も
捉することはできませんでした。このため、こうしたツール
見過ごされやすいのは、他者とのやりとりに最適なソーシ
は文書をただ集めただけのライブラリ、あるいは動きのな
ャルネットワークを選ぶ段階です。
いコレクションになってしまい、回覧されることも、キュレー
ションされる(つまり最も関係のあるコンテンツを選別、編
ソーシャルネットワークで姿を現しつつあるトレンドとは?
集し、共有する)こともありませんでした。
ソーシャルツール市場(コラボレーション、コンテンツ管理、
コミュニケーション)は、この 1 年で爆発的に拡大しました。
コラボレーションとナレッジマネジメントで出現しつつあるト
「クラウド」版のソーシャルツールによって、システム開設
レンドとは?
が容易になりました。
保険会社が社内でソーシャルビジネスを展開すれば、社
員間の発見とやりとり、業務と文書上のリアルタイムのコ
一般に公開されているソーシャルメディアのサイトはすで
ラボレーションを促すことができます。このため、社員間の
にそれ自体が保険会社の目的とは認識されてはおらず、
関係や個々の社員のスキル、業務が発生する方法に対
むしろより広義のソーシャルビジネス戦略の一要素として
する体系的な知見が生じます。
とらえられています。それらは顧客の意見を示す源であ
48
り、ブランドマネジメントや社外コミュニケーションの手段な
新しいソーシャルツールはコラボレーションと業務遂行の
らびに顧客サービスと販売のプラットフォームとして主に活
いずれにも活用できるため、社員に対する日常業務での
用されています。
活用の動機づけとなります。
業務の内容は保持され、コンテンツにリンクされるため、新
しい発見と活用の双方を促すことになります。たとえば、保
険契約書を作成するため、セールスアドバイザーが補足資
料をマネジャーに送り、この 2 者間でその後やりとりが生じ
るようになると、このやりとりが追跡され、補足資料と保険契
約書の両方に添付されます。対応関係の特定や情報のドキ
ュメント化、発見にはカテゴリー化、タスク、関係性が利用で
きます。このため、「分類上の」発見によって構造化された情
報源、構造化されていない情報源、ならびに半構造化され
た情報源の間の橋渡しが構築でき、コンテンツ間のつなが
りを新たに見出すとともに「インテリジェンス」の発見と創出
の手段を提供することになります。これは、社員の高齢化に
直面し、意思決定者が知識の継承を大規模に図りたいと考
えている保険会社にとっては、さらに重要性が高いものとな
ります。
技術的な意義
 デジタルコンテンツ管理
商品やブランドに関する情報、社員/募集人のデー
タなどのコンテンツは、保険会社のあらゆるプラット
フォーム(支店、外回りのアドバイザー、ウェブサイ
ト、電話プラットフォーム、モバイルアプリケーショ
ン、ソーシャルネットワーク、テレビ、その他の今後
のイノベーションなど)にわたって一貫していなけれ
ばなりません。このようなマルチプラットフォームの
世界では、デジタル資産とコンテンツの管理が今ま
で以上に重要であり、あらゆるプラットフォーム上に
おいてコンテンツとコミュニティを同時に管理する必
要性が浮き彫りとなります。
 デジタル・アイデンティティ
ソーシャルビジネスは社員であれ、既存顧客、見込
み客であれ、募集人や提携先であれ、個人および
相互関係の潜在的価値を発展させる手助けをしま
ソーシャルビジネスは個人が共有する関心事を使って、共
通の価値観を形成します。テクノロジーは新しい情報を見つ
け、コンテンツを共有し、アイデアや業務でコラボレーション
しやすくするとともに、ソーシャルプラットフォーム上でデータ
と取引処理システムの一部を活用できるようにすることによ
って、こうしたやりとりを効率的なものにします。
 ソーシャルツール
す。異なる機関(官と民)を通じた個々のアイデンテ
ィティとの対応関係では、個人のアイデンティティに
関するステートメントの認証と明白な特徴を確認し、
アクセス許可を承認するサードパーティーの統合デ
ジタルアイデンティティサービスが必要になります。
保険会社内部では、アクセスや認証、認可において
統合アイデンティティアプローチが必要です。
ウィキや投書箱、スキルディレクトリといったコラボレーシ
ョンを目的とするツールを導入することは、大仕事です。
それぞれのソリューションの範囲と有益性を支える主な
指標には、命名規則、構造、権利の管理、アーカイビン
グがあります。E メール(従来型のコミュニケーション)や
インスタントメッセージなどのコミュニケーションツール、
コンテンツ収集を統合すれば、部門外の情報へのアクセ
スが容易になるため、ソーシャルツールの価値はいっそ
う高まります。
 センチメント分析ツール
人工知能の進化はセンチメント分析製品の絶え間ない
改善につながるはずですが、現在利用できるツールはコ
ンフィギュレーションやモニタリング、メンテナンスに特定
の専門知識を必要とします。Radian6 や Mantis、Lithium
といったソーシャルメディアのモニタリングツールではコ
ンフィギュレーションの仕組みがすでに複雑ではなく、デ
ータ分析型へのシフトが反映されています。
49
ケーススタディ
リアルタイムでセンチメント分析も行われており、肯定的な
顧客の関心を利用して、市場シェア拡大
コメントを特定すると同社は募集人のネットワークにその情
米国の大手損害・傷害保険会社が自動車コレクターとの
報を流し、募集人がそれぞれ自分のソーシャルネットワーク
取引拡大とこのニッチ市場での市場シェア拡大を図りた
のページに再投稿することによって、そのコメントを最大限
いと考えました。自動車愛好家は一般的な自動車保険
に活用できるわけです。否定的なコメントが見つかれば、プ
ではなく、特殊な契約を結ぶのが一般的です。この保険
ラットフォームが即座にそのコメントの投稿者に接触し、問
会社はフェイスブックでコミュニティページを開き、これま
題解決に当たります。全体の 15%のケースで対話が成立
でに自動車コレクターを対象とするオークションに参加し
し、インターネットユーザーの 33%がその後ソーシャルネッ
たことのある愛好家を招待しました。そのわずか 30 日後
トワークに肯定的なコメントを投稿しています。同社は募集
にはコミュニティサイトを開設し、開設から 3 カ月もしない
人の参加と募集人が開設しているフェイスブックのページ
うちにユーザー数と投稿数が急増し、愛好家は保有する
2,500 件も活用しています。こうしたページすべてで一貫性
自動車の写真や情報を投稿するようになりました。この
を保つため、同社は承認済みの公開用コンテンツを募集人
結果、このコミュニティにおいて同社の認知度が大きく上
に提供する制度を設けていますが、同時に各募集人がそ
昇し、コミュニティメンバーの契約件数も急増しました。同
れぞれ工夫を凝らせる余地も残しています。
社は、他の高級ニッチ市場で類似の取り組みを開始する
計画です。
ソーシャルネットワークを顧客関係に組み込む
ソーシャルデータの活用により、コストを削減する
米国では、生前保険契約の申込者の加入資格を審査する
コストが保険会社にとって高額となる場合があります。コス
アメリカンファミリーインシュアランスは、ソーシャルプラッ
トは必要となる健康診断の種類によって、250~1,000 米ド
トフォームを顧客関係管理に関する戦略に組み込みた
ルに及びます。ある保険会社は健康上のリスクを評価する
いと考えました。この目標を実現するため、同社は募集
予測モデルに入力するデータとして、オンラインの小売サイ
人と既存顧客、見込み客に特に焦点を当てたソーシャル
トで収集した行動データならびにサードパーティーの他のデ
メディア専門のプラットフォームを 9 つ立ち上げました。
ータベースを活用するパイロット・プロジェクトを実施しまし
現在では、既存顧客や見込み客がどのソーシャルプラッ
た。結果は決定的なもので、行動データを分析するこの技
トフォームを使っても、オンライン上でやりとりができるよ
法により、健康診断を要する従来手法と同様の結果が申込
うになっています。
件数 6 万件について得られました。その結果、申込み 1 件
当たりのコストが 5 米ドル前後に大幅に削減できました。
我々の学んだこと
システムの中心には再び個人が据えられ、ソーシャ
保険業界では、ソーシャルビジネスはなお初期段
ルツールとソーシャルメディアに対する認識向上は今
階にあります。こうした初期の取り組みの狙いは人
やエンゲージメントやエンパワーメント、アカウンタビ
間の行動や関係性に関する先入観を超えるととも
リティにとって代わられています。私たちがこれからソ
に、企業が従来から抱いてきた市場および社員に
ーシャルビジネスの道を迷うことなく歩んでいくために
対する考え方をバランスよいものにすることにあり
は、漸進的アプローチが必要です。まず堅実な範囲
ます。企業がソーシャルエンゲージメントに関わる
でプロジェクトを始め、因果関係を明確に特定できる
自社プロセスと組織を再編成すれば、価値創出は
測定可能な結果に焦点を当てます。根本的なポイン
拡大します。企業は次第に、個人とコミュニティのニ
トが決まれば、イノベーションの範囲を自由に広げて
ーズに応じてメッセージやサービス、そして商品す
いくことができます。同時に、信頼できる対話の重要
らカスタマイズするようになっています。
性に常に目を光らせておくことが必要です。それこそ
が、ソーシャルビジネスを成功に導く鍵です。
50
日本の連絡先
Enterprise Risk Services
Tetsuya Ito (伊藤 哲也)
Partner
Enterprise Risk Services
+81 90 9842 2937
[email protected]
Financial Services Industry
Masayuki Tanabe (田邉 政之)
Partner
Financial Services Industry
+81 90 8349 3699
[email protected]
3
連絡先
Editorial committee
CIO ervices
Joël Vanoverschelde
Partner - Advisory & Consulting Leader EU
Institutions and Supranationals Leader
+352 451 452 850 - [email protected]
Patrick Laurent
Partner - Technology & Enterprise Applications
+352 451 454 170
[email protected]
Pascal Martino
Directeur - Strategy & Corporate Finance
+352 451 452 119
[email protected]
Jean-Pierre Maissin
Partner - Technology & Enterprise Applications
+352 451 452 834
[email protected]
Stéphane Hurtaud
Partner - Information & Technology Risk
+352 451 454 434
[email protected]
CEO & CFO services
Benjamin Collette
Partner - Strategy & Corporate Finance Leader
+352 451 452 809
[email protected]
Petra Hazenberg
Partner - Strategy & Corporate Finance
+352 451 452 689
[email protected]
Pierre Masset
Partner - CFA-Corporate Finance Advisory Services
+352 451 452 756
[email protected]
Bank and Credit Institutions
Martin Flaunet
Partner - Bank & Credit Institutions Leader
+352 451 452 334
[email protected]
Healthcare
Luc Brucher
Partner - Healthcare Leader
+352 451 454 704
[email protected]
COO & CHRO services
Basil Sommerfeld
Partner - Operations & Human Capital Leader
+352 451 452 646
[email protected]
Insurance
Pascal Eber
Partner - Services Operations and
Excellence & Infrastructure Operations
+352 451 452 649 - [email protected]
Filip Gilbert
Partner - Human Capital-Strategic Human Ressources
+352 451 452 743
[email protected]
Investment Funds and Hedge Funds
Johnny Yip
Partner - Investment Funds and Hedge Funds Leader
+352 451 452 489
[email protected]
Technology, media and Telecommunications - Public Sector
Georges Kioes
Partner - Technology, Media &
Telecommunications and Public Sector Leader
+352 451 452 249 - [email protected]
Board committees members/CRO/CCO/CIA/CISO
Laurent Berliner
Partner - EMEA Financial Services Industry
Enterprise Risk Services Leader
+352 451 452 328 - [email protected]
Roland Bastin
Partner - Information & Technology Risk
+352 451 452 213
[email protected]
Marco Lichtfous
Partner - Capital Markets/Financial Risk
+352 451 454 876
[email protected]
Thierry Flamand
Partner - Insurance Leader
+352 451 454 920
[email protected]
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Translation: © 2014. For information, contact Deloitte Touche Tohmatsu LLC.
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