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プロピレングリコール (57-55
NTP-CERHR: Propylene Glycol 部分翻訳 Center For The Evaluation Of Risks To Human Reproduction NTP-CERHR Monograph on the Potential Human Reproductive and Developmental Effects of Propylene Glycol March 2004 NIH Publication No. 04-4482 NTPヒト生殖リスク評価センター(NTP-CERHR) プロピレングリコールのヒト生殖発生影響に関するNTP-CERHRモノグラフ March 2004 NIH Publication No. 04-4482 プロピレングリコール (CAS No: 57-55-6) 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部 2009 年 3 月 ‐1/7‐ NTP-CERHR: Propylene Glycol 本部分翻訳文書は,Propylene Glycol (CAS No: 5)に関する NTP-CERHR Monograph (NIH Publication No. 04-4482, March 2004)の NTP 概要 (NTP Brief on Propylene Glycol)および付属書 II の Propylene Glycol に関する専門委員会報告 (Appendix II. Propylene Glycol Expert Panel Report)の 第 5 章「要約、結論および必要とされる重要データ」を翻訳したものである。原文(モノグラ フ全文)は, http://cerhr.niehs.nih.gov/chemicals/egpg/propylene/PG_Monograph.pdf を参照のこと。 プロピレングリコールに関する NTP の要約 プロピレングリコールとは? プロピレングリコール(PG)は、化学式 C3H8O2 および Fig. 1 に示す化学構造を有する小分子 量のヒドロキシ置換炭化水素である。 PG は、不飽和ポリエステル樹脂製造における化学中間製品として使用され、液体洗剤、除氷 剤、不凍液/エンジン冷却液、塗料およびコーティング剤にも使われる。PG は米国食品医薬品 局(FDA)により「一般に安全と認められる(generally recognized as safe=GRAS)」化学物質の 一つであり、食品、化粧品、医薬品およびタバコ製品に使用される。 市販の PG は、水による酸化プロピレンの直接加水分解により製造される。1999 年、米国では 1,083 百万ポンドの PG が生産され、消費量は 854 百万ポンドであった。 PG は、産業廃棄物および PG 含有消費者製品から環境に放出される可能性がある。PG は水溶 性で地下水に到達する可能性があるが、急速に分解される。PG の水中半減期は、好気条件下 で 1~4 日、嫌気条件下で 3~5 日と推定される。 ヒトは PG に暴露されているのか?1 回答:はい。 一般市民は、PG 含有製品との皮膚接触または経口摂取により PG に暴露されている。そのよう な製品からの PG 蒸気を吸入する可能性もある。経皮暴露は、化粧品、不凍液、冷却剤、フロ ントガラスの除氷剤、または医薬クリーム等の PG 含有製品との接触により生じる可能性があ る。PG の経口暴露は、食品およびタバコ製品を口にしたり、処方薬および一般用医薬品を服 用して起こる可能性がある。PG は水中では急速に分解される。飲水中 PG 濃度に関する情報は 認められなかった。 この質問と以降の質問に対する回答:はい、おそらく、多分、おそらくいいえ、いいえ、あ るいは不明 1 ‐2/7‐ NTP-CERHR: Propylene Glycol 米国における平均暴露濃度の情報は限られており、皮膚接触による暴露濃度の情報は記載され ていなかった。米国における食品からの PG 一日摂取量の平均は、体重 70 kg の人で 34 mg/kg 体重/日と推計される[注:mg/kg 体重/日=1 日当たりの体重 1 キログラム当たりのミリグラム] 。 PG は GRAS と認定されており、特定成分として挙げられていない食品もあるため、製品表示 に基づく食事による摂取では摂取量が低く推定されている可能性がある。PG は、一般用およ び処方箋医薬品の成分としても使用される。成人における、PG の平均血清中半減期は約 2~4 時間である。 PG の職業暴露は、皮膚接触または吸入により生じる。暴露試験から、暴露濃度は着用する保 護装備、暴露経路および暴露期間によりさまざまである。PG には許容濃度が規定されていな い。しかし、米国産業衛生協会作業環境暴露濃度推奨指針は「蒸気とエアロゾル合計の 8 時間 の時間加重平均(TWA8)として 50 ppm、エアロゾル単独の TWA8 として 10 mg/m3」である。 PG はヒトの生殖発生に影響を及ぼすか? 回答:おそらくいいえ。 PG のヒト生殖発生に及ぼす影響について得られた試験データはない。専門家委員会により評 価された動物試験では、最高用量でも、発生や生殖への影響はみられなかった(Fig. 2)。 健康リスクに関する科学的判断は、通常、「証拠の重み付け」手法に基づく。NTP は、この場 合ヒトのデータがなく、実験動物では高用量暴露後に有害影響がみられないことを認識した上 で(Fig. 2)、PG はヒトの発生または生殖に有害な影響を及ぼさない可能性が高いと結論する 十分な科学的根拠があると判断している。 支持所見 専門家委員会の PG に関する報告にあるように(詳細および引用文献は報告書参照)、委員会 は、最高用量(ウサギ 1,230 mg/kg 体重/日;マウス 10,400 mg/kg 体重/日;ラット 1,600 mg/kg 体重/日;ハムスター1,550 mg/kg 体重/日)を経口投与した実験動物の出生児に対し、PG は発生 毒性を示さないと結論した。 ‐3/7‐ NTP-CERHR: Propylene Glycol NTPの連続繁殖試験では、 PGを最大10,100 mg/kg体重/日の用量で飲水投与した雌雄マウスに、 生殖能への影響はみられなかった。投与されたマウスの第一または第二世代のいずれにおいて も、生殖能への影響はみられなかった。 専門家委員会は、ヒトおよび動物における PG の薬物動態は比較的十分に解明されていると認 識している。PG の吸収、分布、代謝および排泄に関する情報から、実験動物において有害影 響がみられないことがヒトに重要な意味を持つ可能性が高いことが示されている。PG 代謝に おける律速段階は、アルコール脱水素酵素によるラクトアルデヒドへの変換である。ヒトでは この反応が、実験動物の同じ段階で飽和に必要とされる用量の 8~10 倍低用量で飽和すること が試験で示されている。PG は、その代謝産物よりも一般毒性が低いため、この代謝段階の飽 和は保護的であると考えられる。 現在の PG 暴露は懸念を生じさせるほど高いか? 回答:おそらくいいえ。 複数の代謝試験により、ヒトにおいては PG の半減期が短いことが示されている。このデータ にヒトの代謝飽和は実験動物の 8~10 倍低用量で認められるとする証拠を合わせると、ヒト暴 露濃度は懸念を生じさせるほど高くないことが示唆される。米国一般住民の PG 暴露に関する データはないが、成人は、食品を介して約 34 mg/kg 体重/日暴露されると推定されている。限 られたデータから、職業暴露は過剰ではないことが示唆される。限られた暴露データ、薬物動 態試験および動物試験に基づき、NTP は以下の通り結論する(Fig. 3): NTP は、PG 暴露によるヒトにおける有害な生殖発生毒性に対する懸念は無視できるとする CERHR EG/PG 専門家委員会の見解に同意する。 専門家委員会により評価された試験では、PG の高用量経口暴露により、複数の実験動物種に 有害な発生または生殖影響が生じなかったことが明らかにされている。 以上の結論は、本要約作成時に入手可能な情報に基づいている。新たな毒性および暴露の情報 が蓄積するにつれ、結論で述べた懸念のレベルを上下させる必要がある。 ‐4/7‐ NTP-CERHR: Propylene Glycol Appendix II. NTP-CERHR EXPERT PANEL REPORT ON THE REPRODUCTIVE AND DEVELOPMENTAL TOXICITY OF PROPYLENE GLYCOL, “5.0 SUMMARIES, CONCLUSIONS AND CRITICAL DATA NEEDS” 5.0 要約、結論および必要とされる重要データ 5.1 生殖発生ハザードの要約および結論 5.1.1 発生毒性 CD-1 マウス(妊娠 6~15 日)、Wistar ラット(妊娠 6~15 日)、ゴールデンハムスター(妊娠 6~10 日)および Dutch-belted ウサギ(妊娠 6~18 日)を用いて、毎日強制経口投与し、出生前 の発生毒性を評価した。これらの試験では、それぞれの最高用量(マウス 1.6 g/kg 体重/日また は 10.4 g/kg 体重/日;ラット 1.6 g/kg 体重/日;ハムスター1.55 g/kg 体重/日;ウサギ 1.23 g/kg 体 重/日)を投与しても、発生または母体毒性は認められなかった。これらのデータは、プロピレ ングリコールが本投与条件下ではこれらの動物種にとって、発生毒性物質ではないと結論する のに十分である。これらのデータはヒトのハザード評価に妥当であると考えられる。ヒトの発 生毒性データは確認されなかった。 5.1.2 動態 プロピレングリコールの薬物動態は、ヒト、動物ともに比較的十分に解明されている。データ により、速やかで広範な吸収が起こり、その後急速に体内総水分へ分布されることが示されて いる。その代謝の律速段階はアルコール脱水素反応であり、飽和時には一次速度過程からゼロ 次速度過程に切り替わる。ラットおよびウサギでは、約 1.6~2 g/kg 体重で代謝の飽和が生じる とみられる一方、ヒトでは約 0.2 g/kg 体重で起こると考えられる。幼児では、アルコール脱水 素酵素活性が完全に発達していないため、低用量で代謝の飽和が認められる。ヒトおよびラッ トのプロピレングリコール半減期は、代謝飽和以上の用量への増加に伴い、ゼロ次速度過程に 基づき約 1.5 時間から 5 時間以上に延長する。NAD 依存性の反応により、アルコール脱水素酵 素がプロピレングリコールをラクトアルデヒドに変換し、さらに代謝されて乳酸になる。プロ ピレングリコールにはキラル中心があるため、プロピレングリコール原体から 50/50 の DL-乳 酸が生成される。L-乳酸は、糖新生の優れた基質である内在性乳酸と識別することができない。 D-乳酸は、L-乳酸ほど容易にグルコースに変換されないため、半減期が長く、長期暴露(静脈 内注入等)条件下では D-乳酸アシドーシスにつながる。非常に高用量のプロピレングリコール であっても、L-乳酸は糖新生により効率的に解毒されるため、アシドーシスが発生しにくい。 L-乳酸アシドーシスの発症がみられない 2 つ目の理由として、一定速度で乳酸を産生するアル コール脱水素酵素の飽和が挙げられる。糖新生により L-乳酸が除去されるため、代謝飽和後に 乳酸濃度をさらに上昇させることは不可能である。 プロピレングリコールの排泄は、動物種依存性である。ヒトでは約 45%のプロピレングリコー ルが腎臓を介して除去され、イヌでは最大 88%が除去された。ラットおよびウサギでは、代謝 の飽和が起こるまで、腎臓による親化合物の排泄がほとんどみられない。想定される通り、ピ ‐5/7‐ NTP-CERHR: Propylene Glycol ラゾールによるアルコール脱水素酵素阻害により、プロピレングリコールの尿中排泄は 75%に 増加する。 プロピレングリコールの内因性毒性は非常に低いため、代謝の飽和はその毒性に対し保護的役 割を果たし、プロピレングリコールの、より高毒性の乳酸(特に D-乳酸)への変換が遅くなる。 幼児および小児ではアルコール脱水素酵素活性が低いため、この保護作用は幼児および 5 歳児 までにおいてより顕著である。 プロピレングリコールの動態には不確定要素もある。それらはすべて、各種動物種および組織 における様々なアルコール脱水素酵素のアイソフォームの発現に関連する。上記の疑問の検討 が、ヒトにおける代謝の飽和に必要な用量がラットおよびウサギの 8~10 倍低いことに対する 答えをほぼ確実にもたらすであろう。 5.1.3 生殖毒性 NTP の連続繁殖試験において、マウスにプロピレングリコールを 5%(w/v)[10.1 g/kg 体重/日] までの用量で飲水投与した。第一または第二世代の雌雄いずれにおいても、この用量による受 胎能への影響はみられなかった。これらのデータは、本試験条件下において、雌雄またはその 児動物に対しプロピレングリコールは生殖毒性物質ではないと結論するのに十分である。これ らのデータはヒトのハザード評価に妥当と考えられる。ヒトの生殖毒性に関するデータは得ら れていない。 5.2 ヒトでの暴露の要約 1999 年、米国では 1,083 百万ポンドのプロピレングリコールが生産され、消費量は 854 百万ポ ンドであった。消費量の使用の内訳は以下の通りである(単位:百万ポンド、%):不飽和ポ リエステル樹脂(228、26.7%);化粧品およびパーソナルケア製品;医薬品およびヒトの食品 (170、19.9%);液体洗剤(135、15.8%);除氷剤(85、10%);不凍剤/エンジン冷却液(55、 6.4%);塗料およびコーティング剤(40、4.7%);タバコ湿潤剤(25、2.9%);その他の液体 (32、3.8%);およびその他の利用(84、9.8%)。 一般住民は、経口摂取、経皮接触および吸入によりプロピレングリコールに暴露される。 米国における食品からのプロピレングリコール一日摂取量の平均は、2,400 mg/日[体重 70 kg の 人で 34 mg/kg 体重/日]と推計されている。プロピレングリコールはいくつかの医薬品製剤の不 活性成分である。プロピレングリコールは、多くの静脈内投与医薬品に含まれる。これは特定 の亜集団に特有の暴露経路である。 プロピレングリコールの職業暴露は、加熱および噴霧過程における皮膚接触または空気中プロ ピレングリコールの吸入により生じる可能性がある。AIHA WEEL 指針は、8 時間 TWA として 50 ppm(総暴露量)および 10 mg/m3(エアロゾル吸入暴露量)が推奨されてきた。プロピレン グリコール職業暴露データは、いくつかの小規模試験に限定される。Laitinen らは、自動車整 備士のプロピレングリコール暴露量を測定した。プロピレングリコールは空気中から検出され ず、暴露された労働者および暴露されていない対照群で、尿中プロピレングリコール濃度の差 異はみられなかった。Norbäck らは、室内で水性塗料使用中のスウェーデンの塗装工の空気中 ‐6/7‐ NTP-CERHR: Propylene Glycol プロピレングリコール暴露量を測定した(幾何平均 350 μg/m3、最大 12,700 μg/m3)。航空機の 除氷作業員および比較群において、勤務前後に採取した尿検体のプロピレングリコール濃度を 測定した(除氷作業員範囲:0.72~13.44 mg/L;0.41~10.58 mg/g クレアチニン、比較群範囲: 0.29~10.7 mg/L;1.18 mg/g クレアチニン)。航空機の除氷作業員の NIOSH HHE では、6 時間 にわたる個人呼吸域空気サンプルにおけるプロピレングリコールの濃度範囲は 10~21 mg/m3 であり、平均は 15 mg/m3 であった。 5.3 全般的結論 ヒトの生殖発生毒性に関するデータは入手されていない。プロピレングリコールの血清中半減 期は成人よりも幼児および小児で長いものの、幼児および 5 歳未満の小児における出生後発生 毒性に対する懸念は、アルコール脱水素酵素が低濃度であることにより低下」する。さらに、 臨床における 15 カ月齢以下の小児集中治療患者への持続注入により高い血中プロピレングリ コール濃度が認められることを証明した公表データは、急性毒性に関連するものではない。ヒ トにおけるプロピレングリコール代謝は、ラットまたはウサギの 8~10 倍低用量で飽和するこ とから、ヒトにおける発生または生殖リスクに対する懸念は無視できることがさらに確信され る。 入手可能なデータは、この化合物がマウス、ラット、ハムスターまたはウサギにおいて生殖発 生毒性物質ではないと結論するのに十分である。動物試験から特定された NOAEL の経口用量 は以下の通りである: z マウスにおける NOAEL≧10 g/kg 体重/日(最高用量) z ラットにおける NOAEL≧1.6 g/kg 体重/日(最高用量) z ハムスターにおける NOAEL≧1.55 g/kg 体重/日(最高用量) z ウサギにおける NOAEL≧1.23 g/kg 体重/日(最高用量) 一般毒性に関してヒトおよび動物(ネコを除く)で大きな差異はなく、毒性は非常に高用量で のみ認められる(LD50 値はラットで 8~46 g/kg であり、ヒトでは>15 g/kg 体重と推定)。 これらの所見に基づき、委員会は、現在のプロピレングリコール推定暴露量によるヒトの生殖 発生毒性に対する懸念は無視できると結論する。 5.4 必要とされる重要データ 委員会は発生および生殖への影響に対する懸念を無視できるとしているものの、重要データと して連続静脈内注入により高用量のプロピレングリコールを暴露された小児および妊娠女性の 長期間の追跡調査が必要であることが示唆される。 ‐7/7‐