...

全文pdf(233KB)

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

全文pdf(233KB)
5182 硬質板の曲げ加工性に及ぼす製造因子の影響
Effect of Manufacturing Factors on Bendability of
Cold Rolled 5182 Alloy Sheets
概 要
鈴木 覚 *
松浦浩之 *
東海林 了 *
Satoshi Suzuki
Hiroyuki Matsuura
Ryo Shoji
5182硬質板は飲料用缶のエンド材,タブ材等に広く用いられている。この飲料用缶エンド
において形状の工夫により耐圧強度を向上させたフルフォームエンドが近年の主流になりつつあり,こ
れにより材料を従来に比べ薄肉化できる利点がある。しかしこのフルフォームエンドに成型する場合は
非常に厳しい曲げ加工性が要求され,これを満たさないとエンドが内圧により反転したときに亀裂が入
り内容物が漏洩する場合がある。
本研究ではこのフルフォームエンドに適した 5182硬質板の製造因子について検討した。その結果,
不純物量及び最終冷間圧延率が大きく曲げ加工性に影響を及ぼすことを見出し,これを考えたうえでの
対策材の製造方法についてまとめたので報告する。
1.07%,Si 量を 0.06 ∼ 0.21% の範囲でふったアルミニウム合
金の小型鋳塊
(厚さ 60mm)
を面削,均質化処理後,熱間圧延に
1. はじめに
5182硬質板は飲料缶のエンド材,タブ材等に広く用いられて
いる。この飲料缶エンドにおいては形状の工夫により耐圧強度
を向上させたフルフォームエンドが近年の主流になりつつある。
これを図 1 に示す。フルフォームエンドは従来型エンドに比べ
カウンターシンク部の R がきつくパネルハイトが高い形状で,
従来よりも薄肉化された材料で同等の耐圧強度が得られる特徴
がある 1)∼ 2)。しかしこの場合材料はカウンターシンクの R 部に
おいて厳しい曲げ加工を受けるため従来よりも高い曲げ加工性
が要求される。また,仮に成形ができたとしても,曲げ加工性が
低い材料では表面に発生した微細な割れが塗膜にも伝播し,エ
ンドの耐食性が低下する。また,エンドが内圧により反転した場
合,カウンターシンクのR部より亀裂が発生し内容物が漏洩す
る場合がある3)。これを写真1に示す。これは亀裂発生部の名称
をとってチャックウォール割れ又は割れた後の形状をとってワ
図1
ニ口割れと呼ばれる。
筆者らは5182硬質板の製造因子と曲げ加工性の関係を詳しく
エンド形状
End shapes
調べ,これを改善するための適正製造条件について検討した。そ
の結果不純物としてのFe,Si含有量,最終冷間圧延率,ベーク
温度等が曲げ加工性に影響を及ぼすことを見出したので,その
結果について報告する。また,これに基づいた対策材の製造も
行った。これらの結果について報告する。
2. 実験方法
2.1 Fe,Si 量の影響
5182 合金(Al-4.5Mg-0.35Mn)をベースに Fe 量を 0.06 ∼
*
写真 1 フルフォームエンドにおけるチャックウォール割
れの実例
An example of chuckwall cracking of full-form
end
メタル総合研究所 第 2 研究部 材料研究グループ
− 94 −
5182 硬質板の曲げ加工性に及ぼす製造因子の影響
一般論文
鋳造
60t×90×180
より厚さ5mmとし,更に冷間圧延により厚さ0.8mmとした。更
面削
→50t
せ,その後冷間圧延にて厚さ 0.26mm の板材とした。これを缶
に中間焼鈍として硝石炉にて 500℃× 30sec 加熱して再結晶さ
ソーキング
エンド材の塗装焼き付け加熱をシミュレートするために250℃
520℃×12hr 空気炉
× 30sec のベークを施して試料とした。実験材の製造工程のフ
ローチャートを図 2 に示す。また,実験材の合金組成表を表 1,
熱間圧延
→5t
冷間圧延
→1.2∼0.52t
2 に示す。
曲げ加工性は曲伸強度を測定することにより評価した。図 3
に示すように圧延方向と平行に折り目がつくように 180 °の
中間焼鈍
500℃×30sec 硝石炉
0.26mmR曲げを行った後,これを元に戻して引張試験を行うも
冷間圧延
→0.26t(50∼76%リダクション)
最終焼鈍
250℃×30sec 硝石炉
のであり,加工性の劣る材料ほど曲げ加工でダメージを受け,曲
伸後の引張強度が低下することを利用したものである。また,こ
図2
の試験方法は図 3 左に示したようにフルフォームエンドの実際
のバックリング時のカウンターシンク部の曲げ加工部の挙動を
実験材の製造工程
シミュレートしているものである。試験は n=10 で行った。
Schematic diagram for preparation
process of samples
表1
供試材の化学成分 (mass%)
Chemical composition of the specimens
2.2 最終冷間圧延率の影響
5182 合金(Al-4.5Mg-0.35Mn-0.23Fe-0.13Si)を用い,中間
焼鈍板厚をふって最終冷間圧延率を 50% から 76% の範囲で変
化させた材料(ベーク条件は(1)と同様)について同様に評価を
No.1
No.2
Si
0.10
0.09
Fe
0.03
0.06
Mn
0.35
0.36
Mg
4.6
4.5
Al
bal.
bal.
No.3
No.4
0.11
0.10
0.11
0.23
0.35
0.35
4.5
4.5
bal.
bal.
No.5
No.6
No.7
0.12
0.10
0.09
0.39
0.52
0.84
0.33
0.36
0.34
4.6
4.5
4.4
bal.
bal.
bal.
3.1 Fe,Si 量の影響
図 4 に Fe 量と曲伸強度の関係を示す。明らかに Fe 量が増加
するにつれ曲伸強度が低下していくことがわかる。また,写真2
にはこのときの最終板のミクロ組織の変化について示した。Fe
No.8
0.11
1.07
0.36
4.6
bal.
量と共に結晶粒径が小さくなっていくことがわかる。また,機械
表2
行った。
3. 結果及び考察
供試材の化学成分 (mass%)
800
No.1
No.2
No.3
No.4
Si
0.06
0.10
0.13
0.21
Fe
0.23
0.24
0.23
0.23
Mn
0.35
0.35
0.36
0.34
Mg
4.6
4.5
4.5
4.6
曲伸強度 (N/15mm)
Chemical composition of the specimens
Al
bal.
bal.
bal.
bal.
4.5Mg-0.35Mn-0.10Si-XFe
600
400
200
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Fe量 (mass%)
図4
Fe 量と曲伸強度との関係
Relationship between Fe content and bend-stretch
strength
420
4.5Mg-0.35Mn-0.10Si-XFe
400
引張強さ
耐力
強度 (MPa)
380
360
340
320
300
280
260
0.0
図3
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Fe量 (mass%)
フルフォームエンドの実際のバックリング形態と曲
伸試験方法の比較
図5
Comparison between actual buckling of full-form
end and bend-stretch test
− 95 −
Fe 量と強度の関係
Relationship between Fe content and tensile/yield
strength
古
平成 11 年 7 月
河
電 工
時 報
第 104 号
25000
(a)Fe:0.03mass%
(b)Fe:0.06mass%
(c)Fe:0.11mass%
晶出物個数 (個/mm2 )
4.5Mg-0.35Mn-0.10Si-XFe
(d)Fe:0.23mass%
20000
15000
10000
5000
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
Fe量 (mass%)
(e)Fe:0.39mass%
(f)Fe:0.52mass%
(g)Fe:0.84mass%
(h)Fe:1.07mass%
図6
50μm
Fe 量と晶出物個数の関係
Relationship between Fe content and the number
density of dispersoid
写真 2 最終板の結晶粒径に及ぼす Fe 量の影響
Optical micrographs showing effects of
Si content on the grain size of final stock
4.5Mg-0.35Mn-0.10Si-XFe
曲伸強度 (N/15mm)
(a) 破面SEM像
800
(b) 破面COMPO像
600
400
200
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
晶出物個数 (個/mm2 )
(c) 破面SEM像
図7
(d) (a)のFe像
晶出物個数と曲伸強度との関係
Relationship between the number density of dispersoid and bend-stretch strength
800
(e) (a)のSi像
曲伸強度(N/15mm)
4.5Mg-0.35Mn-0.10Si-XFe
(f) (a)のMn像
600
400
200
0
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
Si量 (mass%)
図8
写真 3 曲伸試験後の破面
Si 量と曲伸強度との関係
Relationship between Si content and bend-stretch
strength
Fracture surface of samples after bendstretching
つぎに Si 量と曲伸強度の関係について図 8 に示す。やはり Si
的性質については図5に示すようにFe量と共に強度が上昇して
量と共に曲伸強度が低下していくことがわかる。また,写真4に
いくことがわかる。また,当然ながらFe添加に伴い晶出物量は
はSi添加に伴う最終板の結晶粒径の変化を示すが,Siの添加に
増加しているが,曲伸強度の減少が結晶粒微細化,強度の上昇,
関しては結晶粒径にはほとんど変化が見られなかった。また,機
晶出物の増加のどれに対応した現象なのかは明確ではない。し
械的性質への影響については図 9 に示す。強度も Fe の場合と
かしながら一般に結晶粒が微細化すれば曲げ加工性は向上する
違って大きな変化は見受けられない。よってSi添加の場合は強
ものと考えられるので,強度又は晶出物の影響であると考えら
度や結晶粒の影響なく晶出物が曲伸強度に与える影響が取り出
れる。ここで写真 3 に曲伸試験後の破面を観察したものを示す
せているものと考えられる。そこでこの場合もFeの場合と同様
が,破面には晶出物が大量に観察された。よって曲伸強度測定時
に晶出物の個数で整理したものを図10に示す。やはり曲伸強度
の引張試験により試験片が破壊される際には晶出物が大きく関
との相関が高いことがわかる。
与しているように思われる。図6にはFe量と晶出物個数の関係
この晶出物の影響について詳しく調べるため曲伸試験片の引
を図 7 には晶出物個数と曲伸強度の関係を示す。晶出物個数と
張試験直前の曲げ戻し部の晶出物観察を行った。これを写真 5
曲伸強度の相関が非常に高いことがわかる。
に示す。これを見ると晶出物の周りに空隙が存在し,また,晶出
− 96 −
5182 硬質板の曲げ加工性に及ぼす製造因子の影響
一般論文
圧延方向
観察面
(a) 曲戻し後の晶出物
(a) Si:0.06mass%
(b) 曲戻し後の晶出物
(b) Si:0.10mass%
25μm
10μm
曲戻し後の試験片の晶出物観察結果(光顕)
(c) Si:0.13mass%
(a) 曲戻し後の晶出物
(d) Si:0.21mass%
(b) 曲戻し後の晶出物
写真 4 最終板の結晶粒径に及ぼす Fe 量の影響
Optical micrographs showing effects of
Fe content on the grain size of final stock
400
4.5Mg-0.35Mn-0.10Si-XFe
引張強さ
耐力
380
写真 5 曲戻し後の試験片の昌出物観測結果 (SEM)
SEM images of dispersoids after bendstretch test
強度 (MPa)
360
340
320
300
280
260
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
Si量 (mass%)
図9
Si 量と強度の関係
Relationship between Si content and tensile/yield
strength
曲伸強度 (N/15mm)
600
4.5Mg-0.35Mn-0.10Si-XFe
500
400
300
200
100
0
4000
図 11 晶出物の個数による亀裂の伝搬の容易さの違い
5000
6000
7000
8000
9000
Schematic diagram of crack propagation depending on the number of dispersoids
10000
晶出物個数 (個/mm2)
図 10 晶出物個数と曲伸強度の関係
800
物そのものや晶出物間に亀裂が発生し,その亀裂同士が連結し,
巨大な亀裂へ成長しているのが観察された。これを模式的に示
したのが図 11 である。Fe,Si といった晶出物形成元素が増加
すると晶出物個数が増加し,晶出物間の亀裂伝播が容易になる
ために曲伸時のダメージが大きくなり,曲伸強度が低下するも
曲伸強度 (N/15mm)
4.5Mg-0.35Mn-0.10Si-XFe
Relationship between the number density of
dipersoid and bend-stretch strength
600
400
200
0
40
50
60
70
80
最終冷間圧延率 (%)
のと考えられる。
図 12 最終冷間圧延率と曲伸強度との関係
Relationship between final cold reduction
and bend-stretch strength
− 97 −
古
平成 11 年 7 月
1T曲伸後
2T曲伸後
河
電 工
時 報
第 104 号
3.3 対策材の製造方法
3T曲伸後
最終冷延率60% 最終冷延率76%
以上のことから曲伸強度の改善には不純物の規制,及び最終
冷間圧延率の低減化が効果があるものと考えられる。
しかしながら最終冷間圧延率の低減化はそのまま強度の低下
につながる。この場合キャンエンドとして重要な特性である耐
圧強度が低下してしまうことになる。よって最終冷間圧延率の
低減化による強度の低下を別の方法で補う必要がある。
この場合は晶出物を増加させないような元素で強度を補えば
よいことになり,MgやCuといった固溶強化成分が望ましいと
考えられる。実際にこの考え方に基づいて対策材を工場規模で
100μm
製造した。対策材としては最終冷間圧延率対策のみをした対策
写真 6 最終冷延率の異なる材料の曲伸後のミクロ組織
材 Aと最終冷間圧延率対策及び不純物対策を行った対策材 Bを
Microstructure of samples with different cold
reduction ratios after bend-stretching
図13に示す。明らかに最終冷間圧延率の対策により曲伸強度が
向上しており,不純物対策を行うと更に改善されることがわ
0.26t
600
曲伸強度(N/15mm)
製造した。この結果を通常の製造条件で製造した比較材と共に
かった。
500
4. まとめ
400
300
(1) 不純物元素としてのFe,Si量が増加すると晶出物個数
200
が増加するために,曲げ加工を受けた際に晶出物及びその
近傍に亀裂が入り,曲げ加工部を脆弱化させ,結果として
100
曲伸強度を低下させる。
0
(2) 最終冷間圧延率を増加させると,曲伸の際に不均一に変
通常5182
改善材1
改善材2
通常製造法 最終冷延率対策 最終冷延率+不純物対策
形し,曲伸強度が低下する。
(3) 不純物を規制し,最終冷間圧延率を低減化するとともに
図 13 工業規模での対策材の曲伸強度
Comparison of bend-stretch strength of manufactured samples
Mg,Cu といった固溶強化成分を増量することで従来材
と同等の強度で曲げ加工性を改善することができる。
5. おわりに
3.2 最終冷間圧延率の影響
図12に最終冷間圧延率と曲伸強度の関係を示す。明らかに最
以上は現在フルフォームエンド材
(FE482)
として製造してい
終冷間圧延率が高くなるにつれ曲伸強度が低下することがわか
る材料の開発経過を含んだものであるが,今後更にフルフォー
る。これについては曲伸試験片を本来の切り出し方向に対し90°
ムエンドの比率は高まる傾向にあると思われる。また,更にこの
変えたサンプルで曲伸後のメタルフローを観察した。結果を写
フルフォームエンドは小径化,薄肉化が進みつつあり,こういっ
真 6 に示す。最終冷間圧延率が高いサンプルは曲伸後にメタル
た製品にも対処できるように検討を続けていく。
フローの乱れが観察された。一方最終冷間圧延率が低いサンプ
参考文献
ルはメタルフローの乱れが少ないことがわかる。これは最終冷
間圧延率が高くなると曲げ加工時に不均一に変形していること
が原因であると考えられる。そのために曲伸部分のメタルフ
ローの乱れがダメージとして残留しこの部分を脆弱化させるも
1 ) 大西健介: アルミニウム, vol.1 , 1 ( 1994 ), 9.
2 ) 日本国特許 第 2739807 号
3 ) 日本国公開特許公報,平 5-302139 号
のと考えられる。
− 98 −
Fly UP