Comments
Transcript
農業水利施設におけるストックマネジメントの取組について(PDF : 1746KB)
農業水利施設における ストックマネジメントの取組について 1.農業水利施設を巡る状況 1-1 農業水利施設の老朽化 ○ 基幹的水利施設の相当数は、戦後から高度成長期にかけて整備されてきたことから、老朽化が進行 しており、近年、標準的な耐用年数を経過している基幹的な水利施設は、再建設費ベースで約4兆円 で全体の約2割 ○耐用年数を迎える基幹的水利施設数(H26.3) 基幹的水利施設の老朽化状況(H26) 国営 0.9兆円 県営等 3.1兆円 全体 18.0兆円※ 既に耐用年数 を超過した施設 4.0兆円(全体の 22%) さらに今後10年の うちに標準耐用年 数を超過する施設 を加えると 6.6兆円(全体の 37%) 国営 0.9兆円 県営等 1.7兆円 注)基幹的農業水利施設(受益面積100ha以上の農業水利施設) の資産価値(再建設費ベース) ○基幹的水利施設の老朽化の状況(H26.3) 1-2 農業水利施設の突発事故の増加 ○ 農業水利施設の突発事故(災害以外の原因による施設機能の損失)の件数は増加傾向で、施設の経 年的な劣化及び局部的な劣化が事故原因の大半 ○ 施設全体の現状が把握できない状況では、施設に不具合が発生する度に、対症療法的な事後対策を 取るのが精一杯 ○突発事故発生状況 造成後60年を経過した固定堰が決壊した例 (約4,000haの農地で取水が一時不可能に) (決壊前) パイプラインの破損 (決壊後) 堤体が決壊したため池 崩落したトンネル 出典:農村振興局整備部水利整備課施設保全管理室調べ 施設の管理者(国、都道府県、市町村、土地改良区等)に対する 聞き取り調査 1-3 耐震対策 ○ 大規模地震が発生する確率の高い地域では農業水利ストックが多数形成。特に東海・東南海・南海 地震の被害想定範囲内には、全国の農業水利ストックの約3割が存在し、耐震対策の推進が必要。 全国地震動予測地図 基幹的農業水利施設の確率論的地震動予測地区 (今後30年以内に震度6弱以 上の揺れに見舞われる確率) (算定基準日2009年1月1日) (文部科学省地震調査研究推進本 部) 東海・東南海・南海地震の被害想定範囲内の農業水利ストック(H26.3) 2,416箇所 点施設 33% 13,747km 線施設 27% 全国7,425箇所 55,359億円 再建設費ベース 31% 全国50,160km 東海・東南海・南海地震被害想定範囲内の 農業水利ストック 全国180,054億円 これら以外のエリアの農業水利ストック 2.ストックマネジメントの概要と 施設の長寿命化・ライフサイクル コストの低減について 2-1 ストックマネジメントとは ○ 施設の機能がどのように低下していくのか、どのタイミングで、どのような対策を取れば効率的に 長寿命化できるのかを検討し、施設の機能保全を効率的に実施することを通じて、施設の有効活用や 長寿命化を図り、ライフサイクルコストを低減する取組み ● 具体的には、 ① 施設の性能評価を行い、劣化の見通しを立てる。 ② 老朽化のリスクを評価する。 ③ 農業水利施設は複合施設であり、延長も長いため、箇所毎に劣化程度が違う。 このため、箇所ごとの劣化状態に応じた適時の対応を考える。 ④ いろいろな機能保全対策(予防保全も含む)を想定し、コスト比較によって適切な 対策を選択的に実施する。 ⑤ 平均的な管理マニュアル対応から、個別施設毎の対応に変える。 ● 効率的・経済的な施設の機能維持対策を検討するのみではなく、施設を利用して、よ り良い地域づくりに活かすこと、ストックの更新の際に、新たなプラスの価値を生み出 すこともストックマネジメントの取組の範疇。 ライフサイクルコスト:施設の建設に要する経費、供用期間中の維持保全コストや、 廃棄にかかる経費に至るまでのすべての経費の総額 2-2 ストックマネジメントの実施サイクル ○ ストックマネジメントは、①管理者による適切な日常管理、②定期的な機能診断、③施設の劣化予測 や工法等の比較検討による対策計画の作成、④同計画に基づく対策の実施、⑤これらの過程を通じて得 られる施設状態や対策履歴等のデータの蓄積と利用、などのサイクルを繰り返すことにより実施 日常管理 日常管理 劣化予測 点検情報 機能診断評価 (状態、劣化要因等) ・巡回点検 ・異常、変状の把握 ・軽微な補修 対策工事 補修 補強 更新 補修等情報 データの蓄積 支援 対策工法シナリオの策定 機能保全コストの比較 予防保全、更新、継続監視 データ蓄積しつつ継続実施 連携 機能診断調査 施設の立地条件 や重要度に応じ、 ・現地踏査 ・近接目視を中心 とした現地調査 診断情報 機能診断評価 ・劣化要因の推定 ・劣化度の判定 計画の作成 機能診断を踏まえ、劣化要因や劣化度により 施設をグルーピング グルーピングされた施設に応じた対策パターン を複数作成(シナリオの設定) シナリオ毎のライフサイクルコストを比較検討 し、地区全体として最適な計画を作成 2-3 ストックマネジメントへの転換 ○ 施設全体の現状を把握・評価し、中長期的な施設の状態を予測しながら、施設の劣化とリスクに応じた 対策(時期・工法)を選定し、計画的に対策を実施。 ○ ストックマネジメントを活用して更新時期を延伸するとともに、維持管理費や将来の更新費用を考慮し たライフサイクルコストを低減。 これまで・・・地区全体を一体的に更新整備 頭首工 (凡例) 用水路 費用 (施設の建設完了) ダム 更 新 標準耐用年数を念頭において、損傷した部分が増加した 時点で地区全体を更新 事業工期 全面更新 維持管理 維持管理 維持管理 維持管理 維持管理 時間 :更新 費用 長寿命化 維持管理 ストックマネジメントによる長寿命化 現在・・・ストックマネジメントへ転換 ダム 頭首工 用水路 :簡易な工事で施設機能 を回復し継続使用 :継続使用 水路A 水路A 水路F 水路F 頭首工 維持管理 時間 水路 費用 更 新 :補強工事により更新 までの期間を延長 事業工期 ~ :補修する部分 事業工期 (補修・補強) 費用 ~ :機能診断の実施範囲 事業工期 (補修・補強) (施設の建設完了) 施設の機能診断に基づき機能保全計画を策定し、既存 ストックの有効活用を図りつつ劣化の状況に応じた適切 な対策を実施 (凡例) 機能保全対策(補修・補強等) 水路 水路 水路 頭首工 2-4 機能保全対策による施設の長寿命化とライフサイクルコストの低減 ○ 農業水利施設の機能を安定的に発揮させるため、施設の健全度評価に基づく機能保全対策を推進。 ○ 新技術の開発と現場への円滑な導入を推進しつつ、適切な時期に適切な機能保全対策を実施することで 施設の長寿命化とライフサイクルコストの低減を図る。 ○施設の長寿命化とライフサイクルコ ストの低減(健全度評価に基づく施設 の機能保全) ○新技術の開発・導入 ○従来の対応 調査・診断の新技術 【点検ロボットの開発(無人調査)】 通水中に人が入ることができない水路トンネルの ひび割れや漏水調査が可能。水を止めることができ ない水路トンネルの調査で高い評価を受けており、 地震後の緊急点検にも活用が期待。 施設の長寿命化 S-5 更新 深刻な機能低下 S-4 再建設 補修 S-3(補修) S-2(更新) 対策工事の新技術 深刻な機能低下 S-1 ○予防保全的な対応 経過年数 【パイプインパイプ工法】 老朽化したパイプラインの中に新たなパイプを挿入 し、パイプを改修する工法。老朽管の撤去を必要とし ないため、工事コストの低減と産業廃棄物の発生抑制 が可能。 従来の対応 コスト 予防保全的な対応 経過年数 摩耗による骨材の 露出 ポリマーセメントモルタルによる 補修 更生後のパイプ内面