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Ⅵ 植物群落編

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Ⅵ 植物群落編
Ⅵ 植物群落編
1.植物群落
植
物
群
落
(1) 調査概要
1)調査方法
現地調査に加えて既存の文献資料を参考にして、優占種がはっきりしている群落を単一群
落、群落がまとまって残されている地域を複合群落として、調査対象植生の選定を行った。
それらの植生について、可能な限り現地調査を実施した。植物社会学的手法で群落調査を行
い、生育状況(各階層の高さと植被率、海抜高度、傾斜度、傾斜方位、日当たり、風当たり、
土質等)の把握を行った。現地調査ができなかった群落については、これまでの文献、確認
情報をもとにおおよその状況を推察した。また、単一群落で調査を実施した群落について
も、複合群落の地域に含まれる場合は、単一群落のリストアップ対象から除外して記載した。
2)調査結果の概要
単一群落 35カ所及び複合群落 24カ所のリストアップを行った。
本県では、環境庁の委託による第 2回自然環境保全基礎調査(1978)で 37カ所の特定植
物群落調査が実施された。以来、第 5回自然環境基礎調査(1998)に至るまで、第 2回自然
環境保全基礎調査特定群落調査報告書(1978)、第 2回自然環境保全基礎調査植生調査報告書
(1979)、第 3回自然環境保全基礎調査特定群落調査報告書(1988)、第 5回自然環境保全基
礎調査特定群落調査報告書(1998)が報告されている。また、植物群落レッドデータ・ブッ
ク(1996)には本県の保護を必要とする植物群落が記載されている。
上記の報告書・文献に記載のある群落を対象として、リストアップを検討したが、検討に
際しては、1)調査対象群落が多数であること、2)調査能力に限界があり、短期間に定量的
な植生調査を行うことは困難であったことから、現地調査に加えて既存の文献資料を参考に
して、優占種がはっきりしている群落を単一群落、群落がまとまって残されている地域を複
合群落として、表 6.
1植物群落の選定基準に基づいて選定した。植生については、本県独自の
レッドリストとして今回初めてリストアップが行われた。今回の調査を通して、本県の植生
状況の気づきとしては、概ね以下のことが挙げられる。
a
.群落の消失
リストアップを予定された群落が、自然災害要因または周辺における伐採や開発行為な
どの人為的要因によって消失した場合が見られた。
b.造林や自然災害による自然林の減少や群落構成の変化
自然林の減少は全県的な傾向であるが、阿蘇狼ヶ宇土での自然林の減少や、国見岳や雁
俣山のブナ林で台風などによる倒木による群落構造の変化が認められた。
c
.草原の減少
阿蘇波野草原では、戦後の拡大造林によって人工林となったところが多い。残された草
原も畜産業の低迷、過疎化、高齢化などによって利用されなくなり、藪になっているとこ
ろが多く、最近 10年の間にも草原の減少は続いていて、およそ 300haの草原が消滅してい
る。
d.動物の食害による群落構成の変化
五家荘、内大臣、市房山、白髪岳などの自然林では、近年、シカによる草本層を中心と
499
した食害が顕在化し、対策が必要な状況になっている。特に、五家荘の自然林では、有毒
植
物
群
落
植物のヤマシャクヤク、タンナトリカブト、バイケイソウ以外の植物は摂食され、特に、
キレンゲショウマ、オオマルバノテンニンソウの群落は消滅状態である。また、白髪岳の
自然林では、スズタケの立ち枯れが著しく、林床の乾燥化が進んでいる。
e
.湿地植生の荒廃
阿蘇端辺原野の湿原では、牧草地や野菜畑への改変をはじめ湿地の埋没による環境変化
などによって湿地の減少が著しい。また、一ツ目湿原では、埋め立てや地下水および滲出
水の遮断などによる人為的攪乱が起き、小国流湿原では、周辺部から次第にセイタカアワ
ダチソウが生育域を広げてきて、全体的に湿生植物群落の劣化が進行している。また、無
田湿原では乾燥化が進んでいる。湿地の消滅、埋め立てや乾燥化が県内各地で進行してい
る。
f
.海岸植生の減少
不知火の塩生植物群落は堤防下のわずかな場所に帯状に分布するが、一帯では高潮災害
復旧工事などで群落の攪乱が進んでいる。シバナ群落は複数の生育地があったが、環境の
変化で消滅が激し く、曲崎のシバナ群落は人家や畑と隣接し ていて消滅する危険性があ
る。また、高浜のコウボウムギ群落は海水浴場内にあり、海水浴シーズン前に工事用機械
による砂の移動が実施され、群落の攪乱が激しい。塩性湿地の減少が、危惧される状況に
ある。
3)今後の課題
これまでの知見や報告書をもとにして、調査対象候補に挙げられた植生群落は多数に上っ
た。しかし、調査担当者の数が少なく、調査能力の限界があり、植生群落調査の実施状況は
十分とは言えない状況であった。このため、今回リストアップされなかった植生箇所は多数
に上る。調査の継続に当たっては、調査担当者の増加が必要である。また、カテゴリー定義
に関しては評価項目のより効果的な定量化を図り、広範囲な植生箇所の資料収集にも努める
必要がある。
(2)植物群落の解説
単一群落 35カ所および複合群落 24カ所について、以下で解説する。
500
単一群落
恋路島のタブノキ林
(水俣市)
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
恋路島は水俣湾の沖合約 500mにあり、面積約 26haで中央部に約 8haにわたってタブノ
キ林が形成されている。胸高直径 20c
m程度の木が多いが、海岸近くでは直径 30c
m程度
の木が生育している。高木層は高さ 12~ 15mでタブノキが優占し、スダジイ、ハゼノキ
などが植被率 80~ 90%を占める。亜高木層と低木層には、上層の種のほかにヒサカキ、
シロダモ、ハクサンボクなどの常緑樹が多く、イヌビワ、オオムラサキシキブなどの落葉
樹が混生する。低木層の植被率は 10~ 80%と上層の発達度合いによって差が大きいもの
の、テイカカズラの出現が顕著である。ここでは、ムサシアブ ミ-タブ ノキ群集の標徴
種・識別種であるノシラン、フウトウカズラ、ムサシアブミなどが生育する。
現
状
幹周が比較的小さくて二次林の特徴を残しているが、恋路島が独立した島で人の立ち入り
が制限され、20年以上に渡って人為的影響が及ばなかったことが幸いして、群落の生育状
況は良好である。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
小岱山筒ヶ岳のスダジイ林
(荒尾市)
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
小岱山の筒ヶ岳(501m)から観音岳(473m)に至る尾根沿いの遊歩道の西側斜面にはス
ダジイ林が発達している。植被率 80%の高木層には高さ 15mほどのスダジイが優占し、
クロキ、クロバイも多く出現する。亜高木層はヤブツバキ、イスノキ、スダジイなどが植
被率 50%で生育している。植被率 60%の低木層には多数の常緑樹が出現する。優占種を
もたない草本層の発達は植被率 10%と悪いが、出現種数は 40を超える。
現
状
小岱山県立公園内にあり、保存の状態は悪くはない。本山は花崗岩からなるために地表は
きわめて不安定であるので、治山対策上からも自然林の厳正な保存が必要である。
501
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
住吉神社のスダジイ林
(宇土市)
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
宇土半島から有明海に島状に突出した全域に、住吉神社の社叢林として、スダジイ、タブ
ノキなどからなる照葉樹林(ミミズバイースダジイ群集)が発達している。高木第一層に
は樹高 15~ 20mに達するスダジイ、タブノキ、アラカシ、ヒメユズリハなどの常緑広葉
樹が生育する。高木第二層には上記の樹種の他にヤブツバキ、カクレ ミノ、ボロボロノ
キ、ハクサンボクなどが生育するが、植被率は 30%と低い。低木層にはヤブツバキ、カク
レ ミノなど、草本層にはテイカカズラ、ツルコウジなどの常緑のつる性植物が優占する。
現
状
一部に灯台、歩道が設置されているものの、保存の状況はおおむね良好である。
単一群落
古麓稲荷神社のスダジイ林
502
(八代市)
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
八代市稲荷神社の裏山(140m)の山頂部から北西に発達している。高木層にはスダジイ、
アラカシが優占し、クスノキ、イチイガシ、コバンモチ、シリブカガシなどが混じる。亜
高木層・低木層の発達は中程度で、アラカシ、カンザブロウノキ、ミミズバイ、ヤマビワ
などの常緑樹が主である。草本層にはオオカグマやテイカカズラが目立ち、構成種数は豊
富である。
現
状
台風の影響で倒木が見られ、高速道路と新幹線のトンネルなどで乾燥化が認められる。し
かし、八代市の歴史景観風致地区に指定され、稲荷神社の鎮守の森として維持されてい
る。
単一群落
冷水のスダジイ林
(水俣市)
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
水俣市袋の冷水水源地の水源涵養林である。丘陵の南西斜面に発達する照葉樹林で、よく
発達した林は高さ 25mにもなる。高木層はスダジイが優占し、コジイ、ヤマモモが混じ
り、植被率は 95%にもなる。亜高木層は未発達で、タイミンタチバナ、ヤブツバキなどが
生育する。低木層にはモッコク、ミミズバイ、ルリミノキ、クロキなどが目立ち、シリブ
カガシ、アラカシ、ヒサカキなどの常緑樹が多く生育する。草本層にはヒトツバ、オオカ
グマ、コシダ、ウラジロ、マルバベニシダなどのシダ植物が多く、フユイチゴ、テイカカ
ズラ、キダチニンドウ、サルトリイバラなどのつる植物が見られる。
現
状
国道 3号線沿いに残された数少ない自然林である。水源涵養林に指定されているのでよく
保存されている。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
鬼岳のスダジイ・イスノキ林
(水俣市)
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
水俣市の東南部頭石地区にある鬼岳(標高 735m)の山頂に近い部分(約 700m)は、ス
ダジイ、イスノキの林に被われている。高木層は約 18mでスダジイが優占し、イスノキが
多く生え、アカガシ、タブノキなどが混じる。亜高木層はヒサカキ、サカキ、ヤブツバキ、
ネズミモチ、ヤブニッケイ、シキミなどの常緑樹で被われている。低木層にはヒサカキ、
アオキ、ミヤマシキミなどが目立ち、ウラジロガシも生育する。草本層は貧弱だが、生育
する種数は比較的多い場所である。
現
状
鬼岳の山頂部には鬼岳神社の祠堂があり、そのためにこの林は残されていると思われる。
芦北海岸県立自然公園の外であるが、まとまって残されており、生育状況も良好である。
503
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
立田山のコジイ林
(熊本市)
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
立田山の南側中腹には自然度の高いコジイ林が散在するが、泰勝寺跡の裏山に当たる部分
は約 1.
5haで、極相に近い森林状態を示している。高木層は植被率 80~ 90%、高さ 20~
23mに達して、コジイが優占するほか、アラカシ、ナナメノキ、クスノキ、カゴノキなど
が混生している。亜高木層は植被率 40%、高さ 12m程で、コジイやアラカシが優占し、
他にカクレ ミノ、イヌビワ、ボロボロノキなどが混生する。低木層は植被率 30%、高さ
4m程でコジイが優占するほか、クロキ、アラカシ、イヌビワ、カクレ ミノなどが生育し
ている。草本層はよく発達して植被率 90%に達する部分もある。多くの部分でオオカグ
マが植被率 50%以上で優占し、コバノジュズネノキ、コジイなども多い。
現
状
立田山の森林の多くは昭和中期にほとんど伐採されたが、この林分は伐採されずに残って
きたものである。金峰山県立自然公園、保安林に指定され、良好な状態で保全されてい
る。しかし、南側からモウソウチクが次第に侵入しつつあり、今後その繁茂が懸念され
る。
単一群落
大野渓谷のコジイ林
504
(人吉市)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
大野渓谷は火成岩の浸食により形成されたもので、地表は露岩が多くやや乾燥した立地環
境にある。この急峻な斜面に沿って帯状にコジ イ林が残存し ている。高木層は植被率
90%、高さ 15mに達し、コジイが 75%以上の植被率で優占している。他にツクバネガシ、
シラカシ、イチイガシ、タブノキなどの常緑広葉樹、エゴノキ、ヤマハゼ、カラスザンショ
ウなどの夏緑広葉樹が混生する。亜高木層は高さ 7m、植被率 30%程度で、アラカシが優
占するほか、シロバイ、ヤブツバキ、シイモチなどの常緑広葉樹が多く出現する。低木層
は植被率 10%程度で、アラカシ、コガクウツギ、ウラジロガシ、イスノキ、ルリミノキな
ど、構成種は 25種に達する。草本層は植被率 5%とやや貧弱だが、ミヤマノコギリシダ、
ナツフジ、ミヤマウズラ、カギカズラなど、構成種は約 40種に及ぶ。高木層から低木層
にかけても構成種が多く、全体の構成種は 70種近くに達し、植物相は大変豊富である。
現
状
熊本県自然環境保全地域に指定され、良好な状態に保たれている。
単一群落
大川のコジイ林
(水俣市)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
H その他、学術上重要な植物群落
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
鹿児島県大口市との県境となる標高 600m前後の尾根北西斜面に発達するコジイを優占種
とする照葉樹林。元 I
BP特別研究地域で、県南部に残された良く発達した自然林として貴
重。高木層は樹高 20m前後で、コジイの他にイチイガシ、ウラジロガシ、ツクバネガシ、
イスノキ、クマノミズキ、ヤマザクラ等で構成される。亜高木層と低木層にはイスノキ、
ヒサカキ、サカキが多く、草本層はコバノカナワラビ、オオキジノオ、ベニシダが多い。
低木層と草本層の植被率は低くて発達が良くないが、水流辺にはオトコシダ、ホオノカワ
シダ、ヌカイタチシダ、ムラサキベニシダ、ホソバヤブソテツ、シマシロヤマシダなど、多
くの貴重な種が生育し、種の多様性が高い。
現
状
熊本県自然環境保全地域、材木遺伝資源保存林に指定されている。台風による倒木がみら
れるものの、保存状態は良い。多くの希少な種の生育がみられるので、特に厳正な保護が
必要である。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
染岳のコジイ林
(天草市)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
旧本渡市中心街の西方にある染岳(380.
3m)は、熊本県自然環境保全地域に指定されてい
ることと相俟って、天草地域においては福連木の角山自然林などとともに自然状態がよく
保存されている場所である。山頂部はコジイ、イスノキ、ウラジロガシ、タブノキ等を高
木層とし、亜高木層にはコジイ、イスノキ、ヤマビワ、カクレ ミノ等、低木層にはサツマ
ルリミノキ、ミサオノキ、イズセンリョウ、シロダモ等が見られる。また、本地域にはシ
ダ植物も多く、シロヤマシダ、コクモウクジャク、ミヤマノコギリシダ、ナチクジャク等
60種ほどのシダ植物が確認されている。
現
状
染岳自然環境保全地域に指定されているとともに登山道沿いには石仏が点在しており、さ
ながら霊場の感があるので保全状況は良好である。
505
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
端海野のウラジロガシ林
(球磨郡五木村)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
五木村北部に位置し、平岩山、子別峠、端海野と東西に続く一帯は、標高 1,
000m前後の
尾根状の高原地帯である。ここより北側は八代市泉町、南側が球磨郡五木村であり、両市
郡の分水嶺にもあたる。この東西に長い高原地帯から数本の谷が南に深く落ちていくが、
この高原状の尾根に沿うような格好で標高 800~ 1,
000mの幅でウラジロガシ林が帯状に
発達している。この一帯は県立公園特別地域に指定されており、また一部は保健保養林に
もなっている。
高木層は 15~ 20mで、胸高直径 30~ 60c
mのウラジロガシのほかに、ヨグソミネバリ、
アカガシ、アカシデ、イヌシデ、コシアブラが見られ、植被率 60~ 90%である。亜高木
層は 5~ 12mでウラジロガシ、シキミ、ヤブツバキ、モミ、コハウチワカエデ、ソヨゴ
などが見られる。低木層にはスズタケ、ヒサカキ、ハイノキ、エゴ ノキ、シラキなどが見
られる。草本層にはシシガシラ、コガクウツギ、フユイチゴ、トウゲシバ、クマワラビな
どが生育する。ここのウラジロガシ林は谷の侵食の度合いにより多少の差はあるが、全体
としては南向きの斜面であるので日当たりは良好である。また、樹高や樹種、樹木の大き
さから、遷移の途中であると思われる。
現
状
周辺一帯は五木五家荘県立自然公園にあり、またここは特別地域にも指定されており、面
積の著しい変化はなく保存状態は良好である。
単一群落
平沢津谷のツガ林
506
(球磨郡五木村)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
川辺川支流の平沢津川左岸、標高 650~ 750m付近の急斜面岩角地に成立する。高木層に
は樹高 25mを越えるツガが多く、少数のウラジロガシも混生する。亜高木層、低木層には
サカキ、ソヨゴ、ヒサカキ、ハイノキ、ウラジロガシ、アカガシ、ツクシシャクナゲなど
がみられる。草本層はコウヤコケシノブが多く、シシガシラ、キジノオシダ、ツルリンド
ウなどがみられる。周囲はスギ植林地とウラジロガシ林に囲まれるが、隣接するウラジロ
ガシ林の一部が伐採され、ツガ林の南西縁が開放状態となっている。このツガ林は県内で
も最も標高の低い場所に成立しており、貴重なものである。
現
状
周囲のウラジロガシ林とともに県立公園特別地域に指定されている。急斜面で土壌が薄
く、植林に適さない場所にあるので、今後もそのまま残される可能性が大きいが、さらに
強い保護措置を考慮する必要がある。
単一群落
八方ヶ岳のモミ林
(山鹿市菊鹿町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
八方ヶ岳の尾根の上部一帯にモミ林が分布している。ここは、ヤブツバキクラス域自然植
生のモミーシキミ群集に属し、いわゆる暖帯性の針葉樹林として貴重なものである。高木
層ではモミが優占し、幹囲が 2mを越える大木も見られる。亜高木層ではアカガシが優占
し、ツガ、モミや広葉樹が混生する。低木層にはハイノキが多く、アセビ、シキミ、シロ
モジなどが混生する。草本層にはツルシキミ、ハリガネワラビ、ヤブコウジ、ベニドウダ
ンなどが生育する。
現
状
現地は保護の状況も良く、樹木の生育状況も良い。県内には、モミ林はご くまれに残って
いる程度に過ぎないので、貴重な群落である。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
白岩山のモミ林
(球磨郡山江村)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
球磨村との境にある白岩山の南尾根一帯、標高 800m付近にモミ林が分布している。高木
層は、高さ 25m、胸高直径 1mに達するモミが優先し、亜高木層には、シキミ、ヤブツバ
キ、シラキ、アカガシなど、低木層はアオキ、ハイノキ、ヤブニッケイなどが混生する。草
本層はツルシキミ、コガクウツギ、シシガシラなど 40種以上が生育していて豊かである。
現
状
保護の状況はほぼ良好であるが、周辺に林道が延びている。
507
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
国見岳のブナ林
(上益城郡山都町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
国見岳(1,
739m)の突出した山頂と尾根を除く標高 1,
200m以上の斜面には、スズタケを
ともなうブナ林(シラキ-ブナ群集)がまとまった規模で見られる。高木層には、高さ約
30mのブナが高い被度で出現し、他にヒメシャラ、ツガ、シナノキなどが生育する。亜高
木層にもブナが優占するが、植被率は 20%程度である。低木層には、高さ約 3mのスズタ
ケが密生し、雨が降っても腐葉土は流されにくく、安定した状態が維持されている。この
ようなスズタケをともなうブナ林は、九州のブナ林の中核をなすものであり、貴重な自然
遺産である。国見岳のなだらかな斜面や広い尾根状地には、スズタケの生えていないブナ
林が見られる。高木・亜高木層には、ブナの他に、ヒコサンヒメシャラ、シナノキ、ハリ
ギリ、コハウチワカエデ、ヒナウチワカエデなどが占め、低木層には、シロモジ、タンナ
サワフタギ、ミヤマガマズミ、サイコクイボタなど多様な植物が生育している。草本に
は、スズタケが生育していないので林床まで光が届き、オオマルバノテンニンソウ、バイ
ケイソウ、キレンゲショウマ、オオバヨメナ、アキチョウジなどの植物が一面に生え、賑
やかなブナ林となる。
現
状
九州中央山地国定公園の特別地域内にあり、森林生物遺伝資源保存林にも指定されている
ので、面積の著しい変化はなく保存の状況は良好である。しかし、台風などによる激しい
風雨のため、登山道沿いの数箇所でブナの倒木が見られる。また、シカの食害による森林
被害や草本類の減少は深刻な状況にある。
単一群落
仰烏帽子山のブナ林
508
(球磨郡五木村)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
仰烏帽子山(標高 1,
301.
8m)は、球磨郡山江村、相良村、五木村の 3村が接する所に位置
し、以前より植物相の豊かなところとして知られている。山頂近くの斜面には、高木層と
して、高さ 16mほどのブナが高い被度で出現する。他にミズナラ、アオハダ、コハウチ
ワカエデなどが生育している。高さ 2~ 7mの亜高木層には、コハウチワカエデ、タンナ
サワフタギ、ヤマハゼ、アオハダ、カマツカ、コハクウンボク、コミネカエデ、クマシデ、
シロモジなど見られ、0.
5~ 2mの低木層には、コツクバネウツギ、ドウダンツツジ、ス
ズタケ、コガクウツギ、オトコヨウゾ メ、ウリハダカエデ、ナナカマド、リョウブ、ツリ
バナ、ヤマシグレ、ハリギリなどが見られる。
現
状
五木五家荘県立自然公園の特別地域にあるため、面積には変化はなく、保存の状態は良好
である。しかしながら近年、林床の植物はシカによる食害がひどく、スズタケなどが姿を
消している。このため、林床の乾燥化が進み、それがブナ林にどのような影響を及ぼすの
か、注意深く見守っていかねばならない。
単一群落
国見岳のマンサク林
(上益城郡山都町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
突出した山頂や尾根では、雨が降っても雨水はすぐに流れてしまうので、土壌は水分を保
つことも、肥沃な土壌を蓄積することも困難である。さらに、どちらの方向からも風が当
たるので、強風や寒風の影響を強く受け、乾燥や強風に耐えることのできる低木と草本だ
けの植物群落(風衝低木林)が見られる。国見岳(1,
739m)の標高 1,
700m付近より上の
尾根筋にはマンサクの低木林が見られる。この風衝低木林の亜高木層には、高さ約 6mの
ナナカマド、ノリウツギ、ツクシドウダンなどがわずかに見られ、植被率は 10%程度であ
る。低木層には、高さ約 4mのオオヤマレンゲ、ツクシドウダン、アオダモ、マンサク、
オオカメノキ、ツクシシャクナゲなどが植被率 70%程度で見られる。これらの樹木は、強
風の影響を強く受けて枝の分岐が多く、樹形は小さくまとまっている。林床には、ヤマカ
モジグサ、アキノキリンソウ、ホソバトウゲシバ、シラネワラビなどの草本が見られ、こ
の植物群落の構成種は 20種程度である。尾根筋から離れるにつれて高木が増え、より多
くの植物が一面に生えた賑やかなブナ林へと移行する。
現
状
九州中央山地国定公園の特別地域内にあり、森林生物遺伝資源保存林にも指定されている
ので、面積の著しい変化はなく保存の状況は良好である。しかし、台風などによる激しい
風雨のため、登山道沿いの数箇所でブナの倒木が見られる。また、シカの食害による森林
被害や草本類の減少が憂慮される。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
中岳山頂のミヤマキリシマ群落(阿蘇市(旧阿蘇町、旧一の宮町)、南阿蘇村(旧白水村)、高森町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
阿蘇中央火口丘の中岳火口周辺は、噴石や噴気にさらされて火山灰が堆積するなど、植物
の生育にはきわめて不利な環境である。しかし、火口から遠ざかるにつれて火山活動の影
響は少しずつ弱くなり、その弱まりの度合いを示すように次第に植物の緑が目につくよう
になる。このような厳しい環境では他の木本植物はほとんど生育できず、その厳しい環境
に耐えられるミヤマキリシマが純群落を形成している。この群落の低木層には、樹高 0.
3
~ 2.
0mのミヤマキリシマが高い被度で出現し、火山活動と寒冷や強風などの影響によっ
て生育が抑えられ、よく刈り込まれた庭園木のようになり、開花期の 5月下旬から 6月上
旬には山肌一面がピンク色に染まって見事である。草本層には、ススキ、イタドリ、マイ
ズルソウ、ヤマアジサイ、イワカガミ、アキノキリンソウなどが生育し、この植物群落の
構成種は 15種程度である。ミヤマキリシマ群落は、次第に表土が多くなるにつれてヤ
シャブシ、ノリウツギなどが多くなり、より森林化した植物社会になる。ミヤマキリシマ
群落の発達は外輪山上の高所にも見られるが、中央火口丘の阿蘇山上ターミナル付近や仙
酔峡、高岳の天狗の舞台、烏帽子岳、根子岳などに群生地が見られる。
現
状
阿蘇国立公園の特別地域内にあるため、面積の著しい変化はなく保存の状況は良好であ
る。しかし、ミヤマキリシマの花の時期には多くの登山者や植物愛好家が訪れるので、踏
み付けや採取による被害が憂慮される。また、病害虫の発生や野焼きの飛び火にも注意す
る必要がある。
509
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
三角岳のイワガサ群落
(宇城市)
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
イワガサ群落は三角岳の南尾根を主体に分布しているが、東尾根や周辺の岩場にも点在し
ている。南尾根では中腹の雲竜台と名付けられた馬の背状の部分に安山岩の露頭が点在
し、その上にイワガサとイワヒバの群落がある。イワガサ群落は標高 150~ 250mの岩石
地に点在し、その範囲は南尾根一帯では合計約 0.
1haぐらいと推定される。この群落は低
木の疎林で低木層の植被率 30%、樹高 0.
7~ 1.
5mで、その間に海岸性の樹木のシャリン
バイ、コクテンギなどが混生する。草本の上層はメガルカヤなどのイネ科植物、海岸性の
カワラヨモギ、ヤマラッキョウなどが混生する。草本の下層はイワヒバが優占する。な
お、三角岳南方に位置する維和島東斜面にも良好なイワガサ群落がみられる。
現
状
三角岳登山道の整備が中腹まで進んでいるが、中腹より上部は自然状態で植生状況は良好
に保たれている。一時イワヒバの盗掘が行われたが、地域の働きかけで防止され、前々回
調査(1985年)以降現在まで盗掘が行われた形跡はない。
単一群落
緑仙峡のオニグルミ林
510
(上益城郡山都町)
選 定 基 準
C 比較的普通に見られるものであっても、南限、北限、隔離分布など、分布境界域の産
地に見られる植物群落または個体群
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
高木層は 20mを超し、被度 80%とよく発達している。オニグルミが優占し、ヨグソミネバ
リなどが混じる。亜高木層は 8m程度でアブラチャンが優占し、クマシデ、チドリノキ、
ツリバナ、エゴノキなどの落葉樹が目立ち、低木層にはアオキが目立つ。草本層は未発達
であるが、ミズヒキをはじめテイカカズラ、ジュウモンジシダ、モミジガサ、ミゾソバな
ど種類は多い。
現
状
緑川上流の川沿いに発達している。オニグルミ生育地の対岸はスギ植林地で、この一帯の
林の上部には大官山国有林の林道が通っており、自然林の伐採も進んでいるので、今後の
伐採が心配される。
単一群落
妙見浦のハマビワ林
(天草市)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
天草下島の東シナ海に面した強い風の影響を受ける急峻な断崖の斜面には、海岸低木林と
してハマビワ林が発達し、砂浜につらなる海岸斜面の下方に帯状に形成されている。高木
層にはハマビワが優占し、トベラ、マサキ、ヤブニッケイなどが混じって樹冠を形成する。
上層の発達により林内は比較的暗く、低木層や草本層はあまり発達しないが、ハマヒサカ
キ、シャリンバイ、モクタチバナなどの低木やオニヤブソテツ、ノシラン、ツルソバなど、
沿海性の植物を多く含む。
現
状
マリンスポーツ関係の施設などが作られ、伐採などの人為的影響が進んでいるので、周辺
に残された林分の存続のためにも早急な保護対策が必要である。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
巴湾のハマジンチョウ群落
(天草郡苓北町)
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
I 熊本県版 RDBにおいて絶滅危惧又は準絶滅危惧とされる種を主要な構成要素として
含むもの
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
天草郡苓北町巴崎の砂嘴に沿ってハマジンチョウが優占する群落が見られる。ハマジン
チョウは高さ 4mほどで、構成種にはマサキ、トベラ、モクタチバナ、ハマボウ、シャリ
ンバイなどが含まれる。砂嘴に沿うように低木林が続き、マサキやハマボウが優占する場
所もある。渚沿いの礫地には、ハママツナ、ナガミノオニシバ、ホソバノハマアカザなど
が群落を作り、ハマゴウやハマサジの群落も見られる。
現
状
雲仙天草国立公園の地域で、ハマジンチョウは熊本県指定天然記念物であり、群落はよく
維持されている。
511
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
曲崎のシバナ群落
(天草郡苓北町)
選 定 基 準
I 熊本県版 RDBにおいて絶滅危惧又は準絶滅危惧とされる種を主要な構成要素として
含むもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
苓北町富岡の曲崎にある 5m×8m位の遊水池の周囲の泥土に、シバナ群落が見られる。シ
バナだけの純群落で、シオクグ等は見られない。生育状況は良好であるが、四角い遊水池
の周りにすき間なく生育しているので、これ以上増えていくことができない状況である。
現
状
苓北町では他の生育地もあったが、環境の変化で消滅してしまったと思われる。本生育地
は人家や畑と隣接しているために人為的な手が入りやすく、開発や埋め立てがあればたち
まち消滅してしまう危険性がある。
単一群落
高浜のコウボウムギ群落
512
(天草市)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
G 乱獲その他人為の影響によって、県内で極端に少なくなる恐れのある植物群落または
個体群
I 熊本県版 RDBにおいて絶滅危惧又は準絶滅危惧とされる種を主要な構成要素として
含むもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
南北に伸びている砂浜の最も南側、高浜川の河口付近の砂浜に、つい数年前までコウボウ
ムギ、コウボウシバ、ハマボウフウ、ハマニガナ、ハマヒルガオ等が良好に生育していた。
しかし、現在これらの植物はほとんど見られなくなってしまった。しかし、地中に根茎が
残っているので、小株が点々と生育しているのが見られる状況である。
現
状
本群落は熊本県有数の海水浴場内にあった。夏季、海水浴シーズン前に工事用機械が入っ
て砂浜の砂の移動が行われるため、生育している植物の撹乱が行われる。さらに売店がつ
くられたり、テントサイトになったり、あるいは海水浴客による踏圧などによって悲惨な
状況下にある。この状況はここ 3~ 4年特にひどくなり、ハマボウフウやその他の種も壊
滅的打撃を受けている。コウボウムギ、ハマボウフウ、ハマニガナ(高浜のみ)は熊本県
では、おそらく高浜と牛深の茂串だけにしか生育していないと思われるため、何らかの対
策が必要である。
単一群落
御所浦のツメレンゲ群落
(上天草市御所浦町)
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
I 熊本県版 RDBにおいて絶滅危惧又は準絶滅危惧とされる種を主要な構成要素として
含むもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
御所浦町牧島の海岸崖地に、高さ約 10m、幅約 50mほどの範囲にツメレンゲが生育する植
生が見られる。上部にはアラカシ、トベラ、シャリンバイ、クスド イゲなどの高さ 1.
5m
ほどの低木が生え、その下方部の岩質の斜面にはツメレンゲが目立って生育している。周
辺にはタマシダ、ヒトツバ、フジナデシコ、ハママンネングサ、テリハノイバラ、ハマナ
タマメ、ボタンボウフウ、カワラヨモギ、アレ ノノギクなどが疎らに生育する。ツメレン
ゲの株数は以前より減少しているが、それでも 50株ほどが見られる。また、近くの海岸道
路沿いの崖地にも数十株のツメレンゲが生育している。
現
状
付近に人家はなく、道路からも離れているが、干潮時には容易に行ける場所である。盗掘
など人的攪乱をうける可能性があり、今後保護に留意すべき場所である。また、道路沿い
の群落は、盗掘によって消滅する生育地の状況であり、対策が求められる。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
牧島のウバメガシ林
(上天草市御所浦町)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
海岸の急斜面にほぼ純群落を形成し、タイミンタチバナ、コクテンギ、シャリンバイ、ア
カメガシワなどがわずかに混生する。低木層には、トベラ、コクテンギ、タイミンタチバ
ナ、シャリンバイなどが生育する。林床はやや暗く、岩石が露出し乾燥している。そのた
め、草本層は未発達であるが、上層種の幼木の他、ツワブキ、シュンランなどが生育する。
現
状
雲仙天草国立公園の第 1種特別地域にあるが、周辺の開発が進んでいる。まとまった規模
のウバメガシ林は熊本県では珍しいので、留意する必要がある。
513
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
志岐のハマサジ群落
(天草郡苓北町)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
苓北町志岐の堤防と消波ブロックに囲まれた幅約 10m、長さ 100mほどの広範囲の砂泥質
のくぼ地にハマサジを優占種とする塩湿地植生が見られる。最も低潮線よりにはハマサ
ジとホソバノハマアカザのみの群落が見られ、少し高くなった陸側にはハマゴウ、ハマナ
デシコ、ハマエノコロ等が生育し、最も堤防よりにはススキ、セイタカアワダチソウ等が
群落をつくっている。
現
状
消波ブロックとその後ろの盛り土によって高潮や波浪から群落が保護された状態になっ
ている。しかし、海岸の埋め立てや消波ブロックの設置等があれば、すぐに消滅する生育
地の状況である。
単一群落
佐敷随道入口のアラカシ林
514
(葦北郡芦北町)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
国道 3号線佐敷隧道南側入口の東側の斜面に分布している。高木層は高さ 10m程で、アラ
カシが優占する。亜高木層には他には、アラカシの他にイヌビワ、エノキなどが目立ち、
ネズミモチ、シロダモ、マサキなどの常緑樹が生育する。低木層にはマサキが優占し、ク
スド イゲ、シュロ、バクチノキなどの常緑樹が目立つ。一帯が石灰岩地帯であるので、ナ
ンテンなどが目立ち、アラカシ二次林とは多少異なった種構成が見られる。林床にはフウ
トウカズラが多く、林内にはヤマノイモ、アオツヅラフジ、アケビ、ツルウメモドキ、ツ
ヅラフジなどのつる植物もよく生育している。
現
状
保護のための特別な対策はとられておらず、付近には採石した場所もある。本群落周辺
は、現在のところ伐採される可能性は低いと思われる。
単一群落
権現山のツゲ群落・ユズ群落
(球磨郡球磨村)
選 定 基 準
H その他、学術上重要な植物群落
I 熊本県版 RDBにおいて絶滅危惧又は準絶滅危惧とされる種を主要な構成要素として
含むもの
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
権現山(693m)は石灰岩の山である。山頂から西側の球磨川に向かって突出する尾根の
先端部に露出した急峻な南斜面に好石灰岩性植物のツゲ群落がある。高木層を欠き、亜高
木層には、樹高 5~ 6mのイスノキ、ツゲ、アラカシが優占する。低木層及び草本層には、
ツゲ、ヤブラン、イワカンスゲ、イワガネ、シロバナハンショウヅル、キリンソウなどが
見られる。各層とも植被率 40~ 60%である。また、石灰岩の断崖の基底部に沿って、帯
状に野生化したユズの群落が見られる。高木層には高さ 10m前後のユズが優占し、ムク
ロジ、エノキ、ムクノキ、ヤブニッケイ、アラカシなどが出現する。亜高木層には、ユズ
の他に野生化したと思われるモモも生育する。低木層にも多くの好石灰岩性植物が見ら
れる。草本層の優占種はヤブランで、イワガネ、ヤマブキも多く出現する。
現
状
民有林であり、非常に急峻な地形のため、地元の猟師が時折訪れる程度で、群落は一部(道
路沿い)を除けばよく保存されている。熊本県では、ツゲの群落地はこの地域のみで、野
生化したユズの群落地とともに保護対策が望まれる場所である。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
肥後峠のアカガシ林
(八代市坂本町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
肥後峠一帯は自然林の多くが伐採され、スギ・ヒノキの植林地である。アカガシ林が残さ
れている場所も林道工事で上下に二分されている。高木層は高さ 10~ 18mほどのアカガ
シ、ウラジロガシ、イスノキなどが植被率 80%を占め、亜高木層にはサカキ、ヒサカキが
優占し、植被率 60%を占める。低木層は高さ 1~ 2.
5mでアセビ、ハイノキ、ヒサカキの
他に 16種ほどが生育しているが、植被率は 10%程度である。草本層には 20種近くが見ら
れるが、そのほとんどは幼樹で、植被率は 5%ほどである。
現
状
林道工事の際にはアカガシの大木の伐採もなされたが、その後は、群落の保存状況は良好
である。県内では、アカガシ林の多くが伐採されて植林化されており、群落としてまとま
りのある林が失われてきているのが現状である。県内のアカガシ林の分布を早急に調査
し、群落として保存する場所の選定が望まれる。
515
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
日奈久のカザグルマ群落
(八代市)
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
I 熊本県版 RDBにおいて絶滅危惧又は準絶滅危惧とされる種を主要な構成要素として
含むもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
生育地は、蛇紋岩という特殊な岩石が広く露頭する地域である。スギ・ヒノキの植林とア
ラカシ、コジイを主とする二次林がある。土壌の貧弱さから生育する樹木の成長も遅い。
カザグルマはこのような樹木の幼木や低木に絡んでいる。特に小さな沢沿いに個体数が
多く見られる。低木層には、アラカシ、サカキ、コバノガマズミ、カマツカ、マルバアオ
ダモ、モリイバラなどの他、つる性のサルトリイバラ、カザグルマ、アオツヅラフジが生
育している。草本層にはヤマアジサイ、アラカシ、カマツカが優占し、他に 27種ほどの
植物が生育する。伐採や植林が行われたが、本種が条例により指定希少野生植物として指
定されたことにより、年によって開花数の増減はあるが、比較的安定した状態で維持され
ている。
現
状
カザグルマは、平成 7年 2月、「特定希少野生動植物」に指定。その後、条例の改定によ
り平成 17年に「指定希少野生動植物」に指定されている。その保護を図るため、自生地
一帯は平成 11年に県有林となり、実験調査区を設けるなど安定した保護対策が進められ
ている。
単一群落
上宮越のクスノキ林
516
(八代市)
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
八代市八峰山の通称上宮越えと呼ばれる峠(495m)の北西斜面の標高 336m付近に発達
する。高木層には高さ 20mほどのクスノキが植被率 80~ 90%を占めている。また、成長
したケヤキが高木層まで達している林分も見られる。亜高木層は 10~ 12m、植被率 40%
で、ケヤキが優占し、タブノキが目立ち、アラカシ、シリブカガシ、イチイガシなどのカ
シ類が成長している。低木層は高さ 4~ 5m、植被率 20~ 40%で、ヒサカキ、シロダモ、
ネズミモチ、イヌガシなどの常緑樹が比較的発達している。上層の発達にもかかわらず、
周辺部の伐採で林内は比較的明るく、草本層の植被率は林分によっては 80%に達すると
ころも見られる。ウラジロが優占し、シモバシラが多少目立つものの、他にはまとまって
生育する種は認められない。
現
状
上宮国有林の一部にあり、県内でも希なクスノキ林として、環境省による自然環境基礎調
査の対象地になっている場所である。周辺部の植林伐採が行われ、明るくなったが、その
後の生育状況は良好である。学術参考林などの保存策がとられるよう望まれていたが、平
成 20年 3月に関係者の努力で「上宮クスノキ天狗の森」として、伐採などを制限しなが
ら立ち入り可能な「保安林」として保存されていくことになった。
単一群落
松田のイスノキ・アラカシ林
(葦北郡芦北町(旧田浦町))
選 定 基 準
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
おれんじ鉄道田浦駅北部トンネル上の金山神社社叢林としてイスノキ・アラカシ林が成立
している。西側は八代海に隣接する。高さ 18mの高木層はアラカシが優占し、イスノキ、
クロガネモチ、コバンモチ、ヤマモモなどの常緑樹が茂り、高さ 8mの亜高木層にはヤブ
ツバキが優占し、タイミンタチバナ、タブノキ、モッコク、ヒメユズリハ、シャリンバイ
などの暖地性で海岸性の種が多数見られる。低木層にはクチナシ、ミミズバイ、ナナメノ
キ、イヌビワなどがある。草本層にはテイカカズラ、ツワブキ、ベニシダなどが生える。
八代海に面するよく残された自然林である。
現
状
県立芦北海岸自然公園の一部であり、金山神社の社叢林のためもあって八代海に隣接する
魚付保安林としてよく保存されている。上部は畑地で、柑橘類栽培等のために林の面積が
減少することが懸念される。
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
土金国有林のバリバリノキ林
(葦北郡芦北町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
矢城山の北斜面に成立しているよく発達した照葉樹林で、高木層は高さ 20m程になり、ス
ダジイ、バリバリノキ、タブノキなどが生育する。亜高木層にはサザンカ、ホソバタブな
どが目立ち、ヤブツバキ、ヤブニッケイ、シロダモなどの常緑樹が多い。低木層にはアオ
キが優占する。その他、林内には暖地性の種が多く、ルリミノキ、センリョウ、カラタチ
バナ、フウトウカズラ、カツモウイノデなどが見られる。暖地性のバリバリノキが多く、
大木も見られる林は県内では希で、貴重な林である。
現
状
国有林で、津奈木町の水源涵養林としての役割もにない、比較的良好に保存されている。
広域林道が近くを通っているため、周辺からの伐採が進み、影響が懸念される。
517
(
単植
一物
群群
落落
)
単一群落
大滝のカツラ・ケヤキ林
(水俣市)
選 定 基 準
C 比較的普通に見られるものであっても、南限、北限、隔離分布など、分布境界域の産
地に見られる植物群落または個体群
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
水俣市湯出川上流の標高 360m付近の湯出大滝沿いにカツラ・ケヤキ林が生育している。
カツラは県内では 700~ 800m以上の渓谷に生えるが、本地のような標高の低い所の自生
は県内ではご く稀な分布である。高木層にはケヤキ、カツラ、ムクノキが多く、亜高木層
にはバリバリノキ、ヤブツバキ、ウラジロガシ、ホソバタブなどの常緑樹が混じる。低木
層にはイスノキ、ネズミモチ、タラヨウ、アオキ、シロダモなどの常緑樹が生え、草本層
にはフユイチゴ、キミズ、チヂミザサ、ヌカボシクリハランなどが見られ、シダ植物も多
い。標高からはケヤキは植林の可能性があるが、本県に分布するケヤキ林の南限とも思わ
れる。
現
状
芦北海岸県立公園の境界付近に位置し、現在は開発や観光施設の設置などの計画はない。
複合群落
角山の自然林
518
(天草市福連木)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
H その他、学術上重要な植物群落
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
天草下島のほぼ中央部に位置する角山(標高 526m)には天草地方最大の面積を有する照
葉樹林が生育する。海抜 400m以上の北西斜面にはウラジロガシ林(イスノキ-ウラジロ
ガシ群集)が見られ、高木層にはアカガシとウラジロガシが多い。亜高木層にはイスノキ
が多く、タブノキ、シャシャンボが生育する。低木層にはスダジイ、バリバリノキ、サツ
マルリミノキが目立ち、ホソバタブ、ヤブニッケイ、カクレ ミノ、クロバイ、シロバイな
どの常緑樹が多い。400m以下の斜面は福連木角山自然環境保全地域に指定され、スダジ
イ林(ミミズバイ-スダジイ群集)が生育し、ヤマビワ、ミミズバイが生育する。一帯に
は高さ 20mほどのチャンチンモドキが優占し、コジイ、ウラジロガシ、イチイガシ、バ
リバリノキが混じる林も見られ、ハナガガシなども生育している。
現
状
過去には全伐計画があったが、計画が変更され、福連木角山自然環境保全地域に指定し、
保全されている。
複合群落
菊池渓谷の自然林
(菊池市・阿蘇市)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
菊池渓谷は阿蘇外輪の北西部外側に源流を持つ菊池川の水源帯で、深葉国有林の海抜 500
~ 1,
000mを流れ、優れた景勝地としても知られている。渓流に沿って、日射量がやや少
なくて水分条件に恵まれた平坦な立地には、植物相がきわめて豊富なケヤキ林(ヒメウワ
バミソウ―ケヤキ群集)が発達する。特に、広河原付近のケヤキ林は樹高も 30mに達す
る見事なものである。このケヤキ林の上部の急峻な斜面や尾根筋には海抜 700~ 900mに
モミ林(シキミ―モミ群集)が発達する。さらに、このモミ林上部の林床にスズタケが密
生するブナ林(スズタケ―ブナ群集)が成立する。本地域のケヤキ林、モミ林、ブナ林は
いずれも県北部に残存する唯一のものである。下流域にはウラジロガシ林も見られ、様々
な形態の林がよく保存されている貴重な場所である。
現
状
本地域は、阿蘇国立公園(一部特別地域)に含まれており、現時点での保存状態はきわめ
て良好である。全国屈指の植物相の豊富なところであるので、特に厳正な保存が望まれ
る。
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
阿蘇波野原の山地草原
(阿蘇市)
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
C 比較的普通に見られるものであっても、南限、北限、隔離分布など、分布境界域の産
地に見られる植物群落または個体群
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
G 乱獲その他人為の影響によって、県内で極端に少なくなる恐れのある植物群落または
個体群
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
阿蘇外輪山の東部に広がる波野原は、野焼きや採草、放牧などによって人為的に維持され
ている草原で、ススキ、トダシバ、ワラビなどを主とする。人為の影響の多少によって植
生は様々に変化しているが、キスミレやハルリンドウ、アソノコギリソウ、シオンなどの
草原性植物が生育し、ヒゴタイやヤツシロソウ、ハナシノブ、マツモトセンノウ、ツクシ
トラノオ、ツクシクガ イソウ、ケルリソウなどの希少植物も数多く自生している。さら
に、国内での南限となるスズランも点在し、熊本県自然環境保全地域に指定されている。
現
状
昭和 30年代までは広大な草原が広がっていたが、戦後の拡大造林によって一面の人工林
となっている。また、残された草原も農業の機械化や化学肥料の利用、畜産業の低迷、過
疎化、高齢化などによって利用されなくなり、放置されて藪になっているところが多い。
最近 10年の間にも草原の減少は続いていて、阿蘇市波野地域(旧波野村)
ではおよそ 300ha
の草原が消滅している。なお、「熊本県野生動植物の多様性の保全に関する条例」で、マ
ツモトセンノウの保護区として中江生育地保護区(約 0.
3ha
)が指定されている。
519
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
阿蘇端辺原野の山地湿原
(阿蘇市(旧阿蘇町))
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
C 比較的普通に見られるものであっても、南限、北限、隔離分布など、分布境界域の産
地に見られる植物群落または個体群
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
G 乱獲その他人為の影響によって、県内で極端に少なくなる恐れのある植物群落または
個体群
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
阿蘇北外輪山上に広がる端辺原野の起伏に富んだ草原の凹状地に発達する山地湿原であ
る。ヨシ、ヤマアゼスゲが優占し、マアザミ、チダケサシ、ノテンツキ、チゴザサ、コウ
ガイゼキショウなどが常在的に出現する。また、ツクシフウロ、ヤツシロソウ、シラヒゲ
ソウ、オグラセンノウなどの希少種の生育を支えている群落である。
現
状
国営草地開発事業、広域農業開発事業などの草地開発整備事業等にともない牧草地や野菜
畑への改変をはじめ、湿地の埋没による減少、環境変化などによって湿地の減少が著し
い。また、急傾斜の斜面に残された貴重な植物等も周囲の改良草地や畑からの土砂や肥料
の流入、放牧牛の進入、盗採などで減少している。
複合群落
阿蘇山東原野の山地草原
520
(阿蘇市高森町)
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
C 比較的普通に見られるものであっても、南限、北限、隔離分布など、分布境界域の産
地に見られる植物群落または個体群
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
G 乱獲その他人為の影響によって、県内で極端に少なくなる恐れのある植物群落または
個体群
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
阿蘇・波野原の南、高森町の草部、野尻方面に広がる原野を山東原野という。ここは風向
きの関係で中岳の噴煙の影響をもっとも強く受け、火山灰の降下も多いところである。こ
この草原は、野焼きや採草、放牧などによって人為的に維持されているもので、ススキ、
トダシバ、ワラビなどを主とする。人為の影響の多少によって、植生は様々に変化してい
るが、キスミレやアソノコギリソウ、シオン、ヒメユリなどの草原性植物が豊富に見られ、
ハナシノブ、マツモトセンノウ、ヤツシロソウ、ツクシトラノオ、ツクシクガイソウ、ケ
ルリソウなどの希少な植物も数多く自生している。
現
状
昭和 30年代までは広大な草原が広がっていたが、戦後の拡大造林によって一面の人工林
となっている。また、残された草原も農業の機械化や化学肥料の利用、畜産業の低迷、過
疎化、高齢化などによって利用されなくなり、放置されて藪になっているところが多い。
最近 10年の間にも草原の減少は続いていて、高森町全体ではおよそ 500haの草原が消滅
している。なお、「熊本県野生動植物の多様性の保全に関する条例」で、マツモトセンノ
ウなどの保護区として河原生育地保護区(約 4.
5ha
)、野尻生育地保護区(約 2.
6ha
)が指
定されている。また、環境省のハナシノブ自生地保護区も 2カ所指定されている。
複合群落
阿蘇火山山頂の植物群落
(阿蘇市)
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
E 郷土の景観を代表する植物群落で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
中央火口周辺は、酸性度の強い火山灰土壌や硫化水素を含む噴気の影響を強く受け、植物
が生育できない裸地の火山荒原が広がる。火口から遠ざかるにつれて火山活動の影響は
少しずつ弱くなるので、植物が生育してくる。火口からおよそ 1,
000mの範囲にはイタド
リ、コイワカンスゲ、カリヤスモドキ、キリシマノガリヤスの 4種だけが点在している。
砂千里ケ浜と呼ばれる火山灰が堆積した広い平坦地では、東南に向けてご く僅かな傾斜を
有する所にイタドリが密集する小丘状群落が点在し、独特の景観を見せている。大きい小
丘は高さ 2mを越える。コイワカンスゲ群落は、発達初期の段階の小丘状のものから後期
の火口側の枯死した楔状のものまで色々な群落が形成されている。
現
状
阿蘇くじゅう国立公園の特別保護区内にある。火口周辺は多くの観光客が訪れる場所で
あるが、もともと植物にとって生育環境の悪いところであり、帰化植物などの侵入は見ら
れない。そのため、群落はよく保存されている。しかし、近年の火山活動の低下にとも
なって、降灰が減少し、砂千里ケ浜のイタドリ群落の小丘が小さくなってきている。イタ
ドリ群落やコイワカンスゲ群落に関しては、天然記念物に指定することが望ましい。
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
狼ヶ宇土の自然林
(阿蘇郡南阿蘇村)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
狼ケ宇土の自然林は、標高 900~ 1,
000mの南外輪の稜線の内壁面に発達する自然林で、
大部分がスズタケを伴うミズナラ林である。ブナ、アカシデ、ダンコウバイ、コハウチワ
カエデ、ナツツバキ、ヤマボウシ、リョウブ、タンナサワフタギ、オオカメノキ、オトコ
ヨウゾ メなどがある。これより下部の森林には、サワグルミ、ケヤキ、イヌシデ、ミズナ
ラ、イタヤカエデなどの高木、アブラチャン、ヤハズアジサイ、キブシ、ケクロモジ、シ
ラキなどの低木が多い。林床には、ツヤナシイノデ、ハルトラノオ、ジンジソウ、サワル
リソウ、ハシリドコロ、イナモリソウ、オオモミジなどが見られる。また、オシャクジデ
ンダ、オサシダ、ツクシマムシグサ、ケイビラン、ミドリヨウラク、シロバナエンレ イソ
ウなどは、深葉や北向山では見られない植物である。
現
状
阿蘇くじゅう国立公園の特別地域にある。内壁裾野は牧野としての草地が多く、また、か
なりの人工造林が行われ、自然林は急峻な内壁面に取り残された形で存在する。以前に比
べると、かなり自然林が減少している。
521
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
鞍岳の自然林
(菊池市(旧旭志村))
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
2 破壊の危惧
概
要
阿蘇外輪山の鞍岳 (
1,
119m)の山頂近くの尾根沿いの平坦地にはアセビ群落が成立する。
高木層を欠き、高さ 8mの亜高木層にはミズナラが優占し、アズキナシ、アカシデ、ブナ、
リョウブなどの夏緑広葉樹が多く生育する。低木層にはアセビが密生し、林床が極端に暗
くなっている。草本層の発達はきわめて貧弱で、木本植物の稚樹が点在する。さらに、ア
セビ群落の下縁部に接続する格好で八合目付近の急峻な南斜面にブナ林(シラキ―ブナ群
集)
が成立する。植被率 70%の高木層には高さ20mのブナ、ミズナラ、クマシデが優勢で、
アズキナシ、イヌシデ、コハウチワカエデなどの夏緑広葉樹が多く生育する。亜高木層及
び低木層には、シラキ、シキミが優勢である。草本層の発達は良好で、スズタケが優占し、
種類も豊富である。
現
状
阿蘇国立公園内の公有林であるが、車道や林道が近くを通るため人為的干渉をうける可能
性が高い。面積が限られているので、これ以上の人為的攪乱が入らぬよう留意する必要が
ある。
複合群落
北向山の自然林
(菊池郡大津町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
阿蘇西外輪・北向山の北斜面には、標高 200~ 800mのほぼ全域にウラジロガシ、イスノ
キを主な構成種とする自然林(イスノキ-ウラジロガシ群集)が発達している。高木層は
17m程になり、他にスダジイ、タブノキ、ヤブニッケイなどの常緑広葉樹が優占している。
亜高木層にはヤブツバキ、ヒサカキ、低木層にはアオキが多く生育し、植被率は 15~ 40%
に達する。草本層は植被率 30%に達する部分もあるが、多くの地域は急傾斜で土壌の安
定が悪く、植被率は 5%以下である。本自然林は熊本県に残存する照葉樹林としては最大
規模のものである。また、山頂付近の岩れき地には、ケヤキ、イタヤカエデ、イロハモミ
ジ、ミズキなどを主な構成種とする高さ 18m程の落葉広葉樹林(イロハモミジ-ケヤキ
群集)がみられる。下部域の常緑広葉樹林域よりも腐植質を含む土壌層が厚く、草本層に
はオオバヨメナ、キバナアキギリ、モミジガサなどが生育して、植被率はしばしば1
0%を
超える。
現
状 「阿蘇北向谷原始林」として国指定天然記念物であるとともに、阿蘇くじゅう国立公園の特
別保護区に指定されており、保存状況は良好である。現在、ダム建設が進行しており、将
来、下部域で影響を受ける可能性がある。
522
複合群落
根子岳の自然林
(阿蘇市、高森町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
根子岳(1,
433m)は阿蘇中央火口丘の東端に位置し、谷が深く刻まれて急峻な山容の地形
に守られ、特異な自然林が残されている。大部分が人為的に草原状態を維持している阿蘇
地域において、北向山、狼ヶ宇土、鞍岳、深葉(菊池渓谷)の森林とともに、阿蘇本来の
自然の姿を知る上で極めて貴重な存在である。根子岳の 1,
400mをこえる突出した岩峰の
急斜面では、強い風と乾燥の影響を受ける厳しい立地に、高さ 0.
5~ 1.
5mのミヤマキリ
シマが小斑紋状に生育するミヤマキリシマ群落(ミヤマキリシマ-マイズルソウ群集)が
見られる。この群落には、ミヤマキリシマの他に、コツクバネウツギ、ニシキウツギ、ウ
スノキ、ノリウツギ、ヤシャブシなどが混生し、草本には、マイズルソウ、イワカガミ、
ヤマアジサイ、ヤマカモジグサなどが生育している。この群落は、火山性の山頂部の風衝
地に見られる山地風衝草原に相当するものと思われる。根子岳の山頂である天狗岩の北
側から東側のやや傾斜の緩やかな斜面には、ミヤマキリシマ群落よりも土壌条件のよい立
地に低木層と草本層からなる風衝低木林が見られる。低木層には、高さ 4~ 5mのオオカ
メノキ、ナナカマド、ヤシャブシ、ニシキウツギ、オオヤマレンゲなどが植被率 70~ 90%
で生育し、草本層には、ヤマアジサイ、ヒメノガリヤス、バイカツツジ、イワカガミ、ア
キノキリンソウ、オオマルバノテンニンソウなどがみられる。この群落は、ミヤマキリシ
マを欠くが、ミヤマキリシマ群落が森林化した植物社会であり、オオヤマレンゲ、タマガ
ワホトトギス、ホツツジなどの貴重な植物も生育している。
現
状
阿蘇国立公園の特別地域内にあるため、面積の著しい変化はなく保存の状況は良好であ
る。しかし、台風などによる激しい風雨のため、登山道沿いの斜面が数箇所で崩れている
ところもある。
(
複植
合物
群群
落落
)
523
(
複植
合物
群群
落落
)
524
複合群落
内大臣の自然林
(上益城郡山都町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
H その他、学術上重要な植物群落
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
緑川支流の内大臣川は国見岳(1,
739m)の中腹に始まる南北約 9km、高低差 800mを超え
る急河川で、その両側は急峻な谷地形になっている。谷は西の目丸山(1,
341m)から京丈
山(1,
473m)を経て国見岳に至る尾根と、東の矢筈岳(1,
113m)から三方山(1,
578m)
を経て国見岳に至る尾根で囲まれ、この稜線部や急斜面部を中心に自然林が見られる。標
高 420~ 900m付近には、地形が急峻な地域であるが、その中でやや緩傾斜の部分には、イ
スノキ・ウラジロガシ林が発達している。高木層は高さ 20mを超え、ウラジロガシが優
占するほか、アカシデ、ツクバネガシなどが混生し、植被率は 80%以上である。亜高木層
にはイスノキ、ウラジロガシ、サカキなどが多くみられる。草本層の発達は悪い。さらに
急峻な場所では、標高 500mを超える当たりからツガ林が見られる。高木層は高さ 25mに
達するが、構成種はほとんどツガだけで植被率は 50%程度である。亜高木層はウラジロ
ガシ、コハウチワカエデなどの広葉樹が生育し、低木層ではハイノキが優占する。ツガ林
は標高 900m付近までの乾燥した急斜面に広く見られるが、天主山などでは標高 1,
200m
付近まで生育し、ブナ林に連続している。谷底部のやや湿度の高い礫質地などでは、谷に
沿って細いベルト状にサワグルミ林がわずかに発達している。高木層は高さ 20mを超え
るが、高木層、亜高木層ともに植被率は 40%程度であるが、サワグルミの純林に近い状態
である。土壌は礫質で林床は明るく、草本層の植被率は 30%に達する。サワグルミ林は
標高 800~ 1,
200m付近にまで生育している。国見岳では、草本層にキレンゲショウマが
植被率 90%以上で優占する林分も見られる。標高 800m付近からブナ林が見られるように
なり、標高 1,
200mを超える地域では自然林のほとんどはブナ林になる。高木層は高さ
25mに達し、ブナが優占するほか、ヒメシャラ、ナツツバキなどが混生し、植被率は 40
~ 80%に達する。亜高木層の植被率は 30%前後で、ホオノキなどが生育する。低木層ま
たは草本層はスズタケが優占し、植被率が 100%に達することも少なくない。また、国見
岳の標高 1,
700mを超える地域の岩れき地にはマンサク林が見られる。群落高は 6m前後
で、ナナカマド、ツクシドウダン、ノリウツギ、オオヤマレンゲ、マンサクなどが混生し
ている。
現
状
九州中央山地国定公園(一部特別地域)
、矢部周辺県立自然公園、森林生物遺伝資源保存
林に指定され、良好に保全されているが、近年、シカによる草本層を中心とした食害が顕
在化し、対策が必要な状況になっている。
複合群落
雁俣山の自然林
(八代市、美里町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
雁俣山(1,
315m)の標高 1,
100mをこえる二本杉峠寄りの南西斜面には、小面積ながらス
ズタケが密生したブナ林が見られる。このブナ林の高木層には、高さ約 30mのブナが高
い被度で出現し、ミズナラ、イヌシデ、ヨグソミネバリなどが混生している。亜高木層に
は、ヒメシャラ、コハウチワカエデ、ツガ、モミなどが植被率 20%で見られ、低木層には、
高さ約 3mのスズタケが密生し、ハイノキ、シキミ、ソヨゴがわずかに見られる。スズタ
ケが密生しているため、草本層の植被率はきわめて低いものの、高木層や亜高木層を構成
する多くの樹木の実生が生育している。雁俣山は、九州中央山地国定公園の北端に位置
し、比較的交通の便にも恵まれていたため、古くから植物採集の対象地とされてきた場所
である。また、スズタケをともなわないブナ林の一部には、九州では稀なカタクリが自生
している。雁俣山の山頂直下の急峻な南西斜面や北斜面には、小面積ながらツガ林(ツガ
-ハイノキ群集)が見られる。高木層には、高さ約 17mのツガが優占し、他にコハウチ
ワカエデ、ナツツバキ、ヒメコマツなどが混生する。低木層には、高さ約 3mのハイノキ
が多く見られ、草本層には、ツルシキミ、ホソバトウゲシバ、ヒナスゲをはじめ多くの植
物が生育している。雁俣山のツガ林は、スズタケが密生したブナ林の上部に位置し、モミ
を欠くことが特色である。
現
状
九州中央山地国定公園の第 2種特別地域内にあるため、面積の著しい変化はなく保存の状
況は良好である。しかし、台風などによる激しい風雨のため、登山道沿いの数箇所でブナ
の倒木が見られる。
(
複植
合物
群群
落落
)
525
(
複植
合物
群群
落落
)
526
複合群落
五家荘の自然林
(八代市泉町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
H その他、学術上重要な植物群落
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
五家荘の自然林が残されているのは、標高 1,
000m以上の山腹から尾根にかけての部分と
深く刻まれた谷沿いである。ブナ林、シオジ林、モミ林、サワグルミ林の他にキレンゲ
ショウマ群落などが見られる。サンドウイッチ状に石灰岩層が走るため、フロラ的にも重
要な地域である。樅木御池のブナ林は、熊本県下で最大の面積を持つ原生林である。植被
率 80%前後の高木層には、樹高 20mに達するブナが優占する。亜高木層の被植率は 30~
50%でコハウチワカエデ、ウリハダカエデ、ヒナウチワカエデなどのカエデ類が多い。低
木層にはスズタケが密生し、その中に、シロモジ、タンナサワフタギ、アオダモなどが散
在する。スズタケを欠くところでは、ヒナスゲ、アキチョウジ、キレンゲショウマ、オオ
マルバノテンニンソウ、ハルトラノオなどの群生が見られる。樅木西の内谷には、渓谷特
有の自然植生であるシオジ林が残されている。植被率 70%前後の高木層にはシオジ、サ
ワグルミ、カツラ、オヒョウが優占し、樹高は 25mに達する。植被率 30~ 40%の亜高木
層には、チドリノキ、シオジ、カエデ類が生育する。低木層は未発達で、植被率 5%程度
である。草本層は植被率 100%で、アキチョウジ、ミヤマタニソバ、ヤマゼリ、オタカラ
コウ、ギン バイソウなど が小群落を作って生育する。五家荘では、モミは標高 600~
1,
600mのやや湿った緩やかな斜面で、肥沃な土壌が堆積する場所に見られ、樅木西の内谷
にはよく発達したモミ林が成立している。高木層は植被率 80%で、モミは樹高 25mに達
し、ブナ、ヒナウチワカエデ、コハウチワカエデを混える。亜高木層は植被率 20%であ
る。低木層にはスズタケが群生し、シロモジ、タンナサワフタギ、アオダモなどが多く見
られる。草本層は植被率 100%で、ツルナシ、オオイトスゲが林床を被っている。樅木御
池にはキレンゲショウマ群落が生育する。県内では他に樅木西の内谷および内大臣、国見
岳に産する。御池、西の内谷では渓流沿いの斜面に発達するサワグルミ林の下生植物とし
て生育する。植被率 80%前後の高木層にはサワグルミ、カツラ、ブナ、カエデ類が多く生
育し、亜高木層、低木層の発達は良好ではない。草本層は植被率 100%で、キレンゲショ
ウマが大群落をつくる。
現
状
五木五家荘県立自然公園及び一部は九州山地国定公園内にある。森林伐採はなされてい
ないが、シカの個体数増加が著しく、それに伴う食害がひどい地域である。低木層及び草
本層で、有毒植物のヤマシャクヤク、タンナトリカブト、バイケイソウ以外の植物は食さ
れ、特に、キレンゲショウマ、オオマルバノテンニンソウの群落は消滅状態である。
複合群落
大官山の自然林
(上益城郡山都町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
九州山地北斜面に位置し、小川岳(1,
542m)、向坂山(1,
684m)、三方山(1,
578m)に囲
まれた大きな谷で、緑川の源流域である。斜面上部はブナ林となる。標高 800~ 1,
200m
の斜面中部はツガ林が発達していたが、広く伐採されて尾根筋などの一部に残存するのみ
となっており、ほとんどは再生したシデ林とスギ植林地になっている。斜面下部の渓流沿
いはサワグルミ、シオジ林で、ケヤキ、カツラ、チドリノキ、フサザクラ、カエデ類の他、
林床にはオオモミジガサ、キツリフネ、ミヤマクマワラビ、リョウメンシダ、ツクシオオ
クジャク、オサシダ、コケシノブ、チチブホラゴケなど、多くの種が生育する。渓谷底に
は石灰岩の露頭もあり、シコクハタザオ、シロバナハンショウヅル、クモノスシダ等の石
灰岩特有の植物もみられ、全体として種多様性の高い貴重な植物群落である。
現
状
大官山国有林の大規模な伐採はほぼ完了し、以前伐採された斜面は植生の回復過程にあ
る。残された自然林も、尾根は森林生物遺伝資源保存林、斜面は国定公園特別地域に指定
されている。今後は人為的な影響をできるだけ与えず、このまま保存し植生の回復を待つ
ことが望ましい。
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
白髪岳の自然林
(球磨郡あさぎり町)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
白髪岳(1,
417m)は九州中央山地のほぼ南端に位置し、主として頁岩からなる台地性の山
塊で ある。白髪岳の山頂を中心にほぼ南北に走る稜線の西側斜面には、海抜 1,
000~
1,
200mの範囲でモミ林が発達する。このモミ林の上部には、山頂一帯に出現するノリウ
ツギ低木林を除いて、林床にスズタケが生育するブナ林が発達する。このブナ林は国内の
南限に近いものである。稜線の東側斜面の 600m以下にはウラジロガシ林が断片的に残存
する。このウラジロガシ林と斜面上部のブナ林との間にモミ林(海抜 700~ 900m)やツ
ガ林(海抜 900~ 1,
250m)が発達している。また海抜 800mを超す渓谷には帯状にシオ
ジ林が見られる。
現
状
登山道沿いのモミ林の一部では、立ち枯れが見られる。ブナ林には台風の影響と思われる
倒木が多数ある。シカの食害もひどく、その部分の低木層および草本層の生育が極めて貧
弱になっている。特に、草木層の構成種であるスズタケの立ち枯れが著しく、林床の乾燥
化が進んでいる。平成 17年に、シカの食害を防ぐために防護ネットが張ってあり、その中
では、回復傾向にある。自然環境保全地域に指定されているが、尾根沿いの狭い地域に限
られているため、台風などの際に強風の影響を強く受ける恐れがある。指定地域を拡大し
たり、シカの食害防止対策を一層進めるなど、自然林の回復に努力する必要がある。
527
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
市房山の自然林
(球磨郡水上村)
選 定 基 準
A 原生林もしくは、それに近い自然林
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
熊本県の球磨と宮崎県米良との境にそびえる市房山(標高 1,
722m)は古くから霊峰とし
て信仰を集めた山である。西斜面の麓から山頂までよく発達した自然林が連続している
状況は、国内に極めて少なくなっている。払川橋から市房神社まで続く照葉樹林帯には、
シラカシの多い林(ツクバネガシ-シラカシ群集)
、ウラジロガシが優占する林(イスノ
キ-ウラジロガシ群集)やコジイの多い林(ルリミノキ-イチイガシ群集)が混在してい
て県内屈指の自然林となっている。照葉樹林帯の上部や西尾根には、アカガシ林(ミヤマ
シキミ-アカガシ群集)が発達し、700m付近の勾配の少ない沢沿いにはケヤキ林(ヒメ
ウワバミソウ-ケヤキ群集)が成立している。標高約 800mの市房神社付近を過ぎると尾
根沿いを中心にツガやモミからなる針葉樹林(シキミ-モミ群集)が発達し、6合目付近
からはツガ林に加えて、ブナが優占する林(シラキ-ブナ群集)が発達する。また、1,
000m
付近の沢沿いにはサワグルミ林も生育している。このように本地域は、カシ類を中心とし
た照葉樹林からモミ・ツガの多い中間移行帯を経てブナを中心とした夏緑樹林へと至る垂
直分布の変化が観察できる数少ない場所で、熊本県随一といっても過言ではない自然林が
残されている。
現
状
一帯は九州山地国定公園や熊本県立市房山自然公園としてよく保存されている地域であ
るが、近年はシカの食害による林内の荒廃が進んでいる。
複合群落
山鹿一ツ目神社の湿生植物群落
528
(山鹿市)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
首石峠(標高約 300m)の南西緩斜面下部に生じた湧水によって発達した湿性草地で、ツ
ルヨシ群落が優占する。平成 5年まで行われた公園整備事業によって湿地の主要部分が埋
め立てられ、水路もコンクリート化された。そのため、湿地の植生は重大な影響を受け
た。周辺部に残された湿地部分には、ツルヨシ、カサスゲ、ゴウソ、マツバスゲ、ツリフ
ネソウなどが多く、セイタカアワダチソウの侵入もみられる。テツホシダ、ホザキキカシ
グサ、サワオグルマは生育量が大きく減少し、シナミズニラ、ナガボノシロワレモコウ、
ムカゴニンジン、イヌセンブリ、チョウセンスイランなど、生育が確認できなくなった植
物も多い。公園化とともに春から秋にかけての人の立ち入りが多くなり、踏みつけによる
湿生植物への影響がみられる。さらに踏圧による土壌の固化と乾燥化も危惧される。
現
状
すでに、公園整備事業により群落の破壊が行われ、湿生植物群落は危機的状況にある。埋
め立てや地下水および滲出水の遮断など、これ以上の人為的攪乱はさけるべきである。ま
た過去に、後背斜面の崩壊によって湿地への土砂の流入が起きているので、これに対する
対策も考慮していく必要があろう。
複合群落
小国町流湿原
(阿蘇郡小国町)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
本湿地は、三方を丘陵地と山腹斜面に囲まれ、北西側に細長く出口がある谷地形の底部に
発達した湧水湿地である。主要部は南東側奥部でふくらんだとっくり状の形をし、その中
央部を境に、北東側には全域にチゴザサ-マアザミ群落、南西側には 60%の面積にヌマガ
ヤ群落、20%の面積にヨシ群落、残りの 20%にセイタカアワダチソウ群落が生育してい
る。チゴザサ-マアザミ群落は高さ 50c
m程で、チゴザサ、マアザミ、エゾ ミソハギ、コ
バギボウシ、コシロネ、ヌマガヤなどを主な構成種としている。一方、ヌマガヤ群落は高
さ 1mを超え、ヌマガヤが植被率 80~ 100%で優占し、群落の種多様性は低い。ヨシ群落、
セイタカアワダチソウ群落も共に純群落に近い状態になっている。本湿地は、県内で唯一
のヌマガヤ生育地であると共に、県内最大のサギソウ生育地である。
現
状
小国町指定文化財。湿地全域にヨシが生育し、その量が増加しつつある。また、周辺部か
ら次第にセイタカアワダチソウが生育域を広げてきており、全体的に湿生植物群落の劣化
が急激に進行しつつある。湿地の集水域には全域に改良草地があり、ここからの栄養塩類
の流入が植生変化に大きく関わっていることが推察される。 現在、春期の野焼きと夏期
の草刈り管理が継続されているが、ヨシとセイタカアワダチソウの生育量増加は進行して
おり、根本的な対策が必要な状況になっている。
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
江津湖一帯の水湿生植物群落
(熊本市)
選 定 基 準
B 国内の若干地域に分布するが、極めて稀な植物群落または個体群
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
江津湖は熊本市の東南部に位置し、加勢川の一部が拡大した膨張湖で、上江津湖と下江津
湖に分かれる。上江津湖は国の天然記念物であるスイゼンジノリの自生地として知られ
ており、一帯にはヒラモ、ヒメバイカモ、ササバモ、ヤナギモ、エビモなどの沈水植物を
はじめ、岸辺にはヤマトミクリ、サンカクイ、カサスゲ、マコモなどの抽水植物が群落を
作り、県内有数の水生植物の自生地となっている。下江津湖一帯には北方系の植物である
キタミソウが生育し、マコモ、ヨシやオギの群落が見られる。また、江津湖の下流部で合
流する木山川と秋津川に囲まれた水田地帯には、キタミソウやオニバスが生育しており、
川岸にはミズアオイなども生育する。
現
状
水生植物の生育地は河川整備や都市開発、圃場整備、農地整備などで近年急速に減少して
いる。都市部近郊でこれ程の水生植物の生息地が維持されているのは希であり、保護対策
が望まれる。
529
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
緑川河口の水湿生植物群落
(熊本市・宇土市)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
3 対策必要
概
要
平木橋付近から緑川河口にかけて、河川中央部及び左右両岸にヨシを中心とした広大な混
生群落が発達している。また、左岸側からは浜戸川が流れ込み、そこにもヨシ群落が発達
する。群落の高さは 1~ 2m程でヨシが優占するが、場所よってはアイアシが優占し、エ
ゾウキヤガラが群生している。また、イグサの原種とも言われるシチトウイが生育してい
る場所もある。
現
状
河川中央部に発達する群落は安定している。
複合群落
羊角湾の塩生植物群落
530
(天草市河浦町)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
羊角湾に流れ込む早浦川と路木川の河口一帯には、泥質、砂礫質、礫質からなる湿地が形
成され、ナガミノオニシバ、フクド、ハママツナ、ハマサジ、シオクグなどの塩生植物が
優占する群落がマット状に生育している。また、県道 266号線沿いのハマボウ低木林の一
部には泥質の湿地があり、そこにはシバナが優占する群落も形成されている。
現
状
道路に隣接する場所で、現在の生育は良好であるが、河川改修や道路改修などによる工事
の影響が考えられる。
複合群落
不知火町の塩生植物群落
(宇城市不知火町)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
八代海(不知火海)湾奥部の宇土半島不知火町の海岸沿いに国道 266号線が走り、コンク
リートの護岸が続くが、不知火町芭蕉から二本松にかけては海岸沿いに塩生植物群落の一
つであるハママツナ群落が形成されている。この群落は満潮時に海水が冠水する定位の
不安定な砂礫地の渚に発達しており、ホソバノハマアカザが生育し、その群落内にはハマ
サジ群落がパッチ状に見られる。場所によってはナガ ミノオニシバ群落やシオクグ群落
が見られる。
現
状
これらの群落は堤防下のわずかな場所に帯状に分布しており、道路工事や堤防工事などで
人為的影響を受けやすい状況になっている。一帯では高潮災害復旧工事が進行しており、
一部は移植されているが、やや攪乱が進んでいる。
(
複植
合物
群群
落落
)
複合群落
人吉市紅取ヶ丘湿原
(人吉市)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
人吉市西部の標高約 300mに位置し、緩やかな丘陵地上部の馬蹄形の窪地に成立する湿
地。湿地周辺は緩やかなすり鉢状の地形で、スギ・ヒノキが植林されている。湿地面積は
約 0.
2haで、細長いひょうたん形の地形をしており、最奧部が最も広い。湿地内には西側
の数カ所に湧水が見られ、湿地状態が維持されている。この水源は年間を通して枯れるこ
とがなく、冬期も夏期と同じような湿地状態が維持されている。本湿地の植生は、短草型
湿生植物群落、トダシバ-チゴザサ群落、チゴザサ-マアザミ群落、トダシバ-ヌマトラ
ノオ群落、カサスゲ群落に区別できる。この内、短草型湿生植物群落は湿地内の数カ所に
5~ 10m2の面積で散在している。本群落域にはイトイヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ
の他に、ホザキミミカキグサ、コバノトンボソウ、サギソウなどの希少種が生育している。
短草型湿生植物群落域以外はチゴザサ-マアザミ群落が広い面積を占めて本湿地の主た
る植生となっている。チゴザサ、マアザミ、アリノトウグサ、シロイヌノヒゲ、ヌマトラ
ノオなどの他に、ツクシカンガレ イ、ミズチドリ、スイラン、ホタルイなどが生育してい
る。本湿地は、コバノトンボソウ、サギソウなどの希少種が生育すると共に、短草型湿生
植物群落が各所に見られるなど、全体として貧栄養な立地環境にあり、県南地域では最も
自然度の高い湿地である。
現
状
指定希少野生動植物であるサギソウの生息地等保護区に指定され、近年は草刈り管理がさ
れている。しかし、湿地内にはトダシバが散生するなど、緩やかに遷移が進行し、中生地
化がおきている。また、下部域からツルヨシの侵入も見られる。
531
(
複植
合物
群群
落落
)
532
複合群落
水俣市無田湿原
(水俣市)
選 定 基 準
D 砂丘、断崖地、塩沼地、湖沼、河川、湿地、高山、石灰岩地など特殊な立地に特有な
植物群落または個体群で、その群落の特徴が典型的なもの
カテゴ リ ー
4 緊急に対策が必要
概
要
水俣市の東部標高 450m付近に約 4haの山地湿原が形成されている。湿地上部にため池が
あり、周辺は水田と植林に接している。湿原には高さ 1~ 2mに達するヨシが優占し、ア
ブラガヤなどが散生する。その下には草丈の低いハリコウガイゼキショウ、イヌノハナヒ
ゲ、カンガレ イ、チゴザサ、サツママアザミ、サワヒヨドリ、コバギボウシ、カキラン、
エゾ ミソハギ、オオハリイ、ヤマイ、ヌマトラノオ、ヒメオトギリなどの草本植物が生育
する。また、オオミズゴケ、モウセンゴケ、ムラサキミミカキグサなどの生育も見られ、
希
少な湿地生の種が多く生育している。
現
状
水俣市文化保護地区として保護されている。湿原の上部に潅漑用のため池があり、そこか
らの伏流水が群落を維持している。近年、群落の乾燥化が進行し、水俣市でも対策が施工
されて、群落が維持されている。県内の山地湿原はほとんど無く、他の多くが土地改良や
開発で失われ、また環境が著しく変化している場所が多いので、特に本地の保全が求めら
れる。
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