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第 1章 不動産鑑定評価制度の歴史

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第 1章 不動産鑑定評価制度の歴史
第
1 章 不動産鑑定評価制度の歴史
1 不動産の鑑定評価に関する法律
わが国においては昭和 30 年代に高度経済成長による都市への急速な産業・人口の集中を背景として
著しく地価が高騰し、土地・住宅の入手難、投機的な土地取引の増大といった国民経済にとって重大
な問題が生じました。
この地価高騰の重要な要因の一つとして、合理的な地価形成を図るための制度の欠如が指摘され、
問題に対処するため昭和 37 年に建設省に宅地制度審議会が設置されました。
同審議会は建設大臣による宅地価格の安定、宅地の流通の円滑化、宅地の確保及び宅地の利用の合
理化を図るための制度上の措置についての諮問を受け、昭和 38 年 1 月 30 日に第 1 次答申として「住宅
地開発事業に必要な用地の確保を図るための制度上の措置に関する答申について」、同年3月6日に第
2次答申として「不動産の鑑定評価に関する制度の確立に関する答申について」を提出しました。
建設省は同答申を受け「不動産の鑑定評価に関する法律案」を国会に提出、同法案は昭和 38 年7月
6 日成立、同年7月 16 日に「不動産の鑑定評価に関する法律」として公布され、翌昭和 39 年4月1日
に施行されました。
不動産は、不動性、非代替性、不変性といった他の一般の財と異なる特性を有し、その一つ一つが
極めて個別性に富んだものであるため、いわゆる妥当な相場というものが形成されがたいものです。
このため個々の取引等において、その価格の決定に当たっては、対象不動産について、鑑定評価とい
う行為が必要であり、この鑑定評価の行為は、極めて専門的な知識、経験、判断力を必要とし、この
ような資質を備えた専門家によってはじめてなされうるものです。
そこで、不動産の価格が合理的に決定されることを可能とするために、このような資質を備えた専
門家を確保し、その規制と育成を図ること、すなわち専門家制度としての不動産鑑定評価制度が必要
とされました。
このように、不動産鑑定評価制度は、専門職業家による合理的な価格情報を不動産市場に提供する
ことを通じて、市場における適正な地価形成に資する役割を担うべく整備されたものです。
不動産鑑定評価制度は、制度創設時とは逆の地価下落が続く昨今の経済情勢下においても、不動産
市場を支える基盤として依然として重要な社会的役割を有しています。
むしろ、後述するように、不動産鑑定評価をめぐる状況が大きく変化している中で、市場では鑑定
評価を含む不動産の評価に係る幅広いニーズが存在しており、専門的な技術水準や公正・中立性が制
度的に担保される不動産鑑定士・不動産鑑定業者がこれに的確に対応していくことで、不動産市場に
おいて期待される役割を担っていかなければならないと考えられています。
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2011 士業最前線レポート 不動産鑑定士編
第 1 章 不動産鑑定評価制度の歴史
【参考】不動産の鑑定評価に関する法律
第1章
総則
第2章
不動産鑑定士
第1節
総則
第2節
不動産鑑定士試験
第3節
実務修習
第4節
登録
第3章
不動産鑑定業
第1節
登録
第2節
業務 第4章
監督
第5章
雑則
第6章
罰則
2 不動産鑑定評価基準
不動産の鑑定評価に関する法律は、不動産鑑定士試験制度や、不動産鑑定業者の登録制度などを定め、
不動産鑑定評価制度の確立を図ったものですが、不動産鑑定評価の信頼性、統一性を担保するために
は不動産鑑定士等が不動産の鑑定評価を行うに当たって、その拠り所となる実質的な行為規範が必要
となります。そこで建設大臣の諮問を受け、昭和 39 年3月 25 日に「不動産の鑑定評価基準の設定に
関する答申」が提出され、次いで昭和 40 年3月 30 日「宅地見込地の鑑定評価基準の設定に関する答申」、
昭和 41 年4月 21 日「賃料の鑑定評価基準設定に関する答申」が提出されました。この後、三本の「基準」
は昭和 44 年9月 29 日付け住宅宅地審議会答申に係る不動産鑑定評価基準として一本化されました。
その後、昭和 44 年基準は約 20 年ほぼ一貫して右肩上がりの地価を背景に、公共用地取得及び土地
収用の適正化・円滑化並びに住宅問題を解決すべく、統一的基準として不動産の適正な価格の形成に
貢献してきましたが、バブルによる地価高騰など、不動産鑑定評価制度に対する社会的要請の高まり、
鑑定評価理論・技術の進歩・改善を背景に不動産鑑定評価基準の見直しが行われ、平成2年 10 月 26 日、
不動産鑑定評価基準が公表されました。
当時の社会経済状況においては不動産市場の中心は土地であり、鑑定評価も土地の評価を中心とし
ていました。
この後、不良債権処理や不動産証券化の進展を経て、平成 14 年に土地・建物一体としての複合不動
産の収益力を鑑定評価額に的確に反映させる市場分析の重視といった社会的ニーズを受け、「不動産鑑
定評価基準」及び「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」を全面改正、平成 19 年に不動産証券化取
引の増加、エンジニアリング・レポートの活用の必要性、DCF 法の収益費用項目の統一等に対応して
「不動産鑑定評価基準」及び「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」の改正(各論第3章の追加)が
行われました。
さらに、平成 21 年に不動産証券化商品の信頼性・透明性の向上、国際財務報告基準導入に関連して
鑑定評価の信頼性・透明性確保の要請が高まり、8月に国土交通省から「不動産鑑定士が不動産に関
2011 士業最前線レポート 不動産鑑定士編
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不動産鑑定士
する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドラ
イン」が公表されました。このガイドラインを踏まえ平成 21 年、「不動産鑑定評価基準」及び「不動
産鑑定評価基準運用上の留意事項」の一部改正が行われました。
【参考】不動産鑑定評価基準
総論
第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察
第1節 不動産とその価格
第2節 不動産とその価格の特徴
第3節 不動産の鑑定評価
第4節 不動産鑑定士の責務
第2章 不動産の種別及び類型
第1節 不動産の種別
第2節 不動産の類型
第3章 不動産の価格を形成する要因
第1節 一般的要因
第2節 地域要因
第3節 個別的要因
第4章 不動産の価格に関する諸原則
第5章 鑑定評価の基本的事項
第1節 対象不動産の確定
第2節 価格時点の確定
第3節 鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類の確定
第6章 地域分析及び個別分析
第1節 地域分析
第2節 個別分析
第7章 鑑定評価の方式
第1節 価格を求める鑑定評価の手法
第2節 賃料を求める鑑定評価の手法
第8章 鑑定評価の手順
第1節 鑑定評価の基本的事項の確定
第2節 依頼者、提出先及び利害関係等の確認
第3節 処理計画の策定
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2011 士業最前線レポート 不動産鑑定士編
第第
1 章 不動産鑑定士の業務の広がり
1 章 不動産鑑定評価制度の歴史
第4節 対象不動産の確認
第5節 資料の収集及び整理
第6節 資料の検討及び価格形成要因の分析
第7節 鑑定評価方式の適用
第8節 試算価格又は試算賃料の調整
第9節 鑑定評価額の決定
第 10 節 鑑定評価報告書の作成
第9章 鑑定評価報告書
第1節 鑑定評価報告書の作成指針
第2節 記載事項
第3節 付属資料
各論
第1章 価格に関する鑑定評価
第1節 土地
第2節 建物及びその敷地
第3節 建物
第2章 賃料に関する鑑定評価
第1節 宅地
第2節 建物及びその敷地
第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価
第1節 証券化対象不動産の鑑定評価の基本的姿勢
第2節 処理計画の策定
第3節 証券化対象不動産の個別的要因の調査等
第4節 DCF法の適用等
別添 「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」
2011 士業最前線レポート 不動産鑑定士編
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不動産鑑定士
3 不動産鑑定士試験
前述のように不動産の鑑定評価に関する法律、不動産鑑定評価基準も時代の要請に応え改正されて
きました。そして鑑定評価制度の具体的な担い手である不動産鑑定士になるための試験制度も近年大
きく変わったのです。
国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会意見「今後の不動産鑑定評価のあり方」を受けて、
平成 16 年6月2日の通常国会において、
「不動産の鑑定評価に関する法律」が改正され、平成 18 年か
ら現行制度による不動産鑑定士試験が実施されています。
これは多様化する不動産取引の実態に即応し、社会的な需要に応ずるため、長期にわたり多様で優
秀な人材を確保することを目的としたものです。
現行試験制度は学歴等の受験制限を撤廃するとともに、従来の第一次試験及び第三次試験に当たる
ものは廃止し、短答式試験及び論文式試験の2段階により実施されます。(短答式試験の合格者のみが
論文式試験を受験することができます。
)また、不動産鑑定士補の登録条件として必要であった 2 年間
の実務経験を不要とし、不動産鑑定士試験合格後、実務修習を経て不動産鑑定士登録ができるように
なりました。これにより、受験開始から資格取得までの期間を短縮して、社会人をはじめとする様々
なキャリアをもつ人材を鑑定業界に参入させることが可能となったのです。
不動産鑑士試験概要
試験
短答式
論文式
実務修習
不動産鑑定士登録
実施時期
⑴短答式 5月中旬の日曜日の1日間(平成 23 年の場合、5月 15 日)
⑵論文式 8月の第一日曜日を含む土・日・月曜日の連続する3日間
(平成 23 年の場合、7月 30 日~8月1日)
実施場所
⑴短答式 全国 10 会場(北海道、宮城県、東京都、新潟県、愛知県、大阪府、広島県、香川県、
福岡県及び沖縄県)
⑵論文式 全国 3会場(東京都、大阪府、福岡県)
試験科目及び出題方法
⑴短答式 不動産に関する行政法規及び不動産鑑定評価理論
行政法規 択一式 40 問(2時間)
鑑定理論 択一式 40 問(2時間)
⑵論文式 民法、経済学、会計学及び不動産鑑定評価理論
民法、経済学及び会計学
大問2問(各2時間)
鑑定理論 大問4問(4時間)、演習1問(2時間)
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2011 士業最前線レポート 不動産鑑定士編
第 1 章 不動産鑑定評価制度の歴史
出題範囲
⑴短答式
行政法規
土地基本法、不動産の鑑定評価に関する法律、地価公示法、国土利用計画法、都市計画法、土
地区画整理法、都市再開発法、建築基準法、マンションの建替えの円滑化等に関する法律(建物
の区分所有等に関する法律の引用条項を含む。)、不動産登記法、土地収用法、土壌汚染対策法、
文化財保護法、農地法、所得税法(第1編から第2編第2章第3節までに限る。)、法人税法(第
1編から第2編第1章第1節までに限る。)、租税特別措置法(第1章、第2章並びに第3章第5
節の2及び第6節に限る。)、地方税法
都市緑地法、住宅の品質確保の促進等に関する法律、宅地造成等規制法、新住宅市街地開発法、
宅地建物取引業法、公有地の拡大の推進に関する法律、自然公園法、自然環境保全法、森林法、
道路法、河川法、海岸法、公有水面埋立法、国有財産法、相続税法、景観法、高齢者、障害者等
の移動等の円滑化の促進に関する法律、不動産特定共同事業法(第1章に限る。)、資産の流動化
に関する法律(第1編及び第2編第1章に限る。)、投資信託及び投資法人に関する法律(第1編、
第2編第1章及び第3編第2章第2節に限る。)、金融商品取引法(第1章に限る。) 鑑定理論
不動産鑑定評価基準及び不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
⑵論文式
民法
民法第1編から第3編までを中心に、同法第4編及び第5編並びに次の特別法を含む。借地借
家法、建物の区分所有等に関する法律
経済学
ミクロ及びマクロの経済理論と政策論
会計学
財務会計論(企業の財務諸表の作成及び理解に必要な会計理論、関係法令及び会計諸規則を含
む。)
鑑定理論
不動産鑑定評価基準及び不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
合格発表
⑴短答式 試験日のおよそ一月後(平成 23 年の場合、6月 24 日)
⑵論文式 試験日のおよそ二月後(平成 23 年の場合、10 月 21 日)
実務修習について
現行制度では、試験合格後、実務修習において、不動産鑑定士となるのに必要な技能及び高等
な専門的応用能力を修得し、その修了について国土交通大臣の確認を受けることによって、不動
産鑑定士となる資格を有することになります。
試験合格後、国土交通大臣の登録を受けた実務修習機関(現在、社団法人日本不動産鑑定協会
2011 士業最前線レポート 不動産鑑定士編
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不動産鑑定士
のみ)において「実務修習」を受けることができます。実務修習期間は、1年、2年、3年の3
種類(コース)があります。実務修習は(1)講義、(2)基本演習、(3)実地演習の3単元で
構成されており、各単元とも修得確認が必要です。修得確認を取得できない場合には再受習とな
ります。
1. 講義
前期、後期、各5日ずつ(平成 23 年 12 月1日から始まる第6回実務修習以降は各3日ずつに
改正)の日程で、一般的基礎知識、種別・類型別鑑定評価、手法適用上の技術的知識等の講義を
受けます。
2. 基本演習
初級、中級、上級、各3日ずつ(平成 23 年 12 月1日から始まる第6回実務修習以降は第一段階、
第二段階、各2日ずつに改正)の日程で、具体的に実査、評価、鑑定評価報告書の作成等を行います。
3. 実地演習
指導鑑定士の指導を受けながら、実地演習必須類型(23 件)の鑑定評価報告書の作成を行います。
(平成 23 年 12 月 1 日から始まる第6回実務修習以降は移行地を除く 22 件に改正)
更地・建付地・移行地・・・6件(住宅地、商業地、工業地、移行地、大規模画地、建付地)
借地権・・・1件
底地・・・1件
宅地見込地・・・1件
自用の建物及びその敷地・・・3件(低層住宅地、店舗、業務用ビル) 貸家及びその敷地・・・4件(居住用賃貸、店舗用賃貸、高度利用賃貸、オフィス用賃貸)
区分所有建物及びその敷地・・・2件(マンション、事務所・店舗)
借地権付建物・・・2件(住宅地、商業地)
地代・・・1件 家賃・・・2件(新規家賃、継続家賃) 上記の3単元全ての修得が確認された場合に、修了考査を受けることができます。内容は「小
論文」と「実地演習の事案に対する口頭試問」です。修了考査で修了確認されれば、国土交通大
臣の修了の確認手続後、不動産鑑定士として登録することができます。
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2011 士業最前線レポート 不動産鑑定士編
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