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数学の楽しさを感じさせる授業づくり Designing a

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数学の楽しさを感じさせる授業づくり Designing a
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 2(2014)
数学の楽しさを感じさせる授業づくり
Designing a Class to Feel the Pleasure of Mathematics
小関恭平
KOSEKI,Kyohei
山形大学大学院教育実践研究科
Graduate School of Teacher Training,Yamagata University
>要約@ 小関では,発見する楽しさを感じる際には,教師の手立てや生徒とのかかわり方
も影響することを明らかにした。しかし,偶然ではないかという課題がある。そこで,本研究で
は,教師が意図的に課題を設定することで生徒に数学の楽しさを感じさせる授業ができないか考
え,授業を構想し,実践授業の分析・考察した。その結果,教師が意図的に「問い」を設定した
授業によって,生徒の考えを多様化させることができ,生徒の疑問を生むことで,生徒に数学の
楽しさを感じさせることができるのではないかという知見が得られた。
[キーワード] 数学の楽しさ,数学的活動,問い,授業づくり
1.問題の所在と方法
実際,中学校における数学の授業は,受験のため
問題の所在及び研究の背景
の数学になってしまっていることが多いと考える。
中 学 校 学 習指 導 要領 解 説数 学 編 文 部科 学
省では,数学科の目標として「数学的活動を
公式や定理を覚え,その公式の使い方を暗記するだ
けの学習になっているのではないだろうか。
通して,数量や図形などに関する基礎的な概念や原
小関は中学校数学において三角形の合同条
理・法則についての理解を深め,数学的な表現や処
件を見出す実践授業を通して,生徒自身が自分と違
理の仕方を習得し,事象を数理的に考察し表現する
う考えに出会ったときにその違いを考えたり,本質
能力を高めるとともに,数学的活動の楽しさや数学
的に同じところを見つけようとしたときに,発見す
のよさを実感し,それらを活用して考えたり判断し
る楽しさを感じたりするという示唆を得た。また,
たりしようとする態度を育てる」
と記述されている。
発見する楽しさを感じる際には,教師の手立てや生
その目標の中で
「数学的活動の楽しさ」
については,
徒とのかかわり方も影響することを明らかにした。
単に楽しく活動するという側面だけでなく,それに
しかし,生徒の考えは偶然出ただけではないか,予
よって生徒にどのような知的成長がもたらされるか
習している生徒が多いときには発見とはならないの
という質的側面にも目を向けるように解 説 されて
ではないかという課題がある。そこで,教師が意図
いる。
的に課題を設定することで生徒に数学の楽しさを感
中学校2年生を対象に行われた国際教育到達度評
じさせる授業ができないか考えた。
価学会,($の「国際数学・理科教育動向調査」
研究の目的
7,066では,
「数学が楽しいか」という質問に
本研究の目的は,中学校数学の授業において,小
対して,
「強くそう思う」
,
「そう思う」と回答した生
関の課題を踏まえ,教師が意図して課題を設
徒の割合は,%(国際平均 %)
,
「わたしは,
定した授業を行うことで,数学の楽しさを生徒が感
数学が好きか」という質問に対して,%(国際
じることができることを明らかにする。
平均 %)という結果だった。この結果からも分
研究の方法
かるように,日本の中学生の半数以上が数学を楽し
①先行研究の検討
いと感じておらず,国際平均を大きく下まわってい
②授業の構想,実践
る。
③実践授業記録975分析・考察
― 69 ―
日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 2(2014)
2.先行研究の検討
を提示する授業を構想した。具体的には次のように
数学的活動の楽しさの捉え
考える。
中学校学習指導要領解説数学編文部科学省,
では,数学的活動とは,生徒が目的意識をもっ
て主体的に取り組む数学にかかわりのある様々な営
みであるとしている。数学的活動の楽しさについて
は,数学のよさとともに実感することとしている。
また,数学を学ぶ過程を大切にすると記述されてい
る。これは,単にでき上がった数学を知るだけでな
合同な三角形を作図しよう。
A
B
C
図1.教師が提示した課題
く,活動を通して数学を学ぶことを体験する機会を
設け,その過程で様々な工夫,驚き,感動を味わい,
(課題)できるだけ少ない条件で
数学を学ぶことの面白さ,考えることの楽しさを味
課題を「できるだけ少ない条件で合同な三角形を
わえるようにすることが大切であるとしている。こ
作図しよう」とすることで,場所の指定がなく,生
のことより,授業をつくる上では,教師主導ではな
徒の考えが広がると考える。また,条件という言葉
く,生徒が主体的に学ぶ活動を取り入れることが重
の説明を詳しくしないことにより,生徒が疑問を生
要であり,活動の過程で数学の楽しさを感じること
むように学習指導案を作成する。
ができないか研究を進めている。
授業の実践
授業づくりの視点
構想をもとに,山形大学大学院教育実践研究科に
山崎は,数学の授業づくりについて次のよ
おける教職専門実習Ⅲで,三角形の合同条件を見出
うに述べている。
すことを目標に授業実践を行った。
「生徒の素朴な疑問と向き合い,その意味と必要性も
①実施年月日:平成 年 月 日~
きちんと指導していかなければならない。日々の授業
②対象生徒:山形市立A中学校第 学年(計 名)
においても,その時間で考えるべき「問い」が設定さ
③授業者:小関恭平
れ,それが明らかになる過程が仕組まれていなければ
④生徒の様子
ならない。
」
数学に対して苦手意識を持つ生徒が少なく,前向
ここでいう「問い」とは,生徒の疑問であり,生
きに授業に取り組む生徒が多い。また,塾ですでに
徒が自分の問題として解きたくなるような疑問や問
合同条件を学習している生徒も数人いる。
そのため,
題のことだと捉える。本研究では,この捉えに従っ
教師の発問に対して,反応を返す生徒が多い。
て「問い」を設定した授業を構想し,実践授業を行
⑤分析の方法
い分析・考察する。
実践授業の 975,発話記録,ワークシート,授業
者のメモをもとに分析した。
⑥本時の概要
3.授業の実践
「平行と合同」の単元で三角形の合同条件の1時
授業の構想
①「問い」について
間目である。本時は三角形の合同条件を見出すこと
2でも述べたように,
「問い」とは生徒が自分
を目標として授業を展開した。授業の流れは,△$%&
の問題として解きたくなるような疑問や問題と考え
を提示して,課題を「できるだけ少ない条件で(△
る。教師が意図的に「問い」を設定することで生徒
$%& と)合同な三角形を作図しよう」とし,4人グ
の疑問を生むことにつながると考える。
ループで活動を行った。教科書を使わず,グループ
②「問い」を設定した授業
内での話し合いを中心にできるだけ少ない条件を見
「問い」を設定した授業として,条件不足の課題
つけるように指示した。自由にグループ内で話をさ
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日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 2(2014)
せ,
教師からヒントを与えることを極力しなかった。
と違うんじゃない?
⑦実践授業の様子
&:そういうことか。2つの辺でかけるんだな。
実践授業において次のような場面が観察された。
&:作図だけなら3ついらないってことなんじゃな
男子2名,女子2名のグループでの話し合いの様子
い?多分今のところ俺らのグループが一番少な
である。次の場面における & は生徒を表す略記であ
い条件でしょ。H
る。
&:じゃ,これの作図方法でまとめていい?
&:これって三角形の合同条件のことでしょ。だか
&:いいよ。2つはすごい考えでしょ。
このグループは最終的に & の作図で考えをまと
ら条件は3つだよ。D
&:そうなの?どうやって作図するの?
め,作図に必要な条件は2つとした。
&:3辺とか,2辺と間の角を使うんだよ。
&:でもできるだけ少ない条件ってあるよ。もっと
4.考察
前述の3⑦での実践授業で観察された場面から,
少ないのあるんじゃない?E
&:でも塾でやった合同条件は全部3つだったよ。
教師が設定した「問い」によって生まれた生徒の活
&:まず条件って何?F
動の様子が見て取れる。
「問い」と生徒の活動につい
&:条件が何かはっきりしないよね。
て考察する。
&:作図するために使った辺と角の数じゃない?
「問い」の設定について
&:だから & の言ったやり方だと3つってことか。
実践授業では,
「問い」を設定した授業として,条
&:じゃ2つだと,2つの辺とか角だけで作図でき
件不足の課題「できるだけ少ない条件で合同な三角
形を作図しよう」を提示した。作図する場所を指定
るってことだよね?難しくない?
&:今考えてるから待って。
しなかったことにより,& のような考えが出てきた
&:3つが少ないと思うんだけどな。G
と考える。合同な三角形を隣にかくように指定した
&:ちょっと考えてみよ。
場合は & の考えはできにくくなると考えられる。
そ
&わかった!このやり方だったら,
2つの辺だけで
のため,かく場所を指定しないことで生徒の考えが
多様化されたのではないだろうか。生徒の考えが多
作図できるよ。
&:ほんと?どうやるの?
様化されることで,単に合同条件を教えるだけの授
&:辺 $& と辺 %& を延長して,コンパスで同じ長さ
業ではなく,生徒が主体的に考えを深める活動につ
ながったと考えられる。また,下線Fのように,条
のところに印つけて,結べばできると思う。
件の説明を詳しくしなかったことにより,条件とは
A
何かという疑問が生徒から生まれた。そのことによ
C
り,グループ内で条件とは何かという疑問を解決す
B’
るための話し合いが起こったと考えられる。生徒間
B
C’
で言葉の意味を考える活動を行うことで,考えを深
めることにつながったと考えられる。
A’
生徒の活動について
①& の活動
図2.& の作図
下線Dからわかるように,& は塾で三角形の合
&:確かに。これだったら2つの辺しかはかってな
同条件を既に学習していたと考えられる。
そのため,
課題の
「合同な三角形を作図しよう」
という文から,
いから,条件2個だ。
&:確かに。でも合同条件に2つの辺はないよ。
今回の授業では合同条件を扱うと予測したと考えら
&:合同な三角形を作図するだけだから,合同条件
れる。合同な三角形を作図するには3つの辺や角が
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必要であると知っていることで,授業へのやる気が
ことで,数学的活動を行うことができたと考える。
少し失われている様子も観察されている。しかし,
グループの生徒の考えを知ることで,自分の考えを
& の作図方法を知ることで,新たな考えに出会うこ
深めることにもつながるのではないかと考えられる。
とになったと考える。下線Gのように,3つが最も
少ない条件であるという知識があることで,それよ
5.到達点と課題
りも少ない条件では作図できないという先入観があ
到達点
ったのでないだろうか。しかし,& の2つの辺で作
実践授業を分析・考察して,教師が意図的に「問
図できるという考えを知ることで,既習知識ではな
い」を設定した授業によって,生徒の考えを多様化
かった考えに触れ,特別な条件下では2つの条件で
させることができ,生徒の疑問を生むことで,生徒
も作図できることに気付き,& の合同な三角形に対
に数学の楽しさを感じさせることができるのではな
する認識を深めることにつながり,数学の楽しさを
いかという知見が得られた。また,条件不足の課題
感じることにつながったと考える。
提示を行うことで,グループ内で生徒同士が疑問を
②& の活動
解決することで考えが深まるのではないかという示
下線Eの & の言葉から,& は「できるだけ少な
唆を得た。
い条件」
という課題にこだわっていることがわかる。
今後の課題
授業では,他のグループのほとんどが3つの条件が
今回の研究では1クラスの1つのグループでの場
最も少ないと考えていた。ほとんどのグループが3
面の考察しか行っていないため,他のクラスでの授
つの条件でまとまっている中で,& は他の考えに依
業や全体として「問い」がどのように影響したのか
存せず,より少ない条件を見つけようとしている。
を分析・考察しく必要がある。また,他の内容や単
自分でこだわり,より少ない条件を見つけようとす
元においても「問い」を設定した授業を行うことが
ることは数学的活動であると考える。そして,自分
できるのか,授業の構想を考えていきたい。
の力で図2の2つの辺だけで合同な三角形を作図で
きたことで,
他の生徒と違う考えを見つけたことで,
引用及び参考文献
数学の楽しさを感じたと考えられる。
下線Hからは,
国立教育政策研究所「,($ 国際数学・理科教育動向
満足感が見て取れる。また,数学的に見ると,& の
調査の 年調査7,066」
,
作図では対頂角を測っていないため条件が2つとな
KWWSZZZQLHUJRMSLQGH[KWPO
るが,辺を延長したことで対頂角を作り出したと考
最終閲覧日 年 月 日
えられるため,三角形の合同条件の1つである,2
小関恭平『発見する楽しさを感じる授業 ―三角形
組の辺とその間の角がそれぞれ等しいという条件に
の合同条件を見出す授業での場面の考察を通して
当てはまる。そのため,& の作図は三角形の合同条
―』
「山形大学大学院教育実践研究科年報第 号」
,
,
件の本質は捉えられているのである。
SS
③&,& の活動
文部科学省『平成 年改訂 中学校学習指導要領
実践授業の場面において,あまり発言をしていな
解説 数学編』
,教育出版,
い & と & についてもグループ内での生徒同士のか
山崎浩二『算数・数学を学習することの意義を考え
かわりによって考えを深めることができたと考えら
る -教師の,数学の学習に向き合う姿が,算数・
れる。4①でも述べたように,下線Fの & の疑問
数学の学習の楽しさ・大切さを伝える-』
,日本数学
をグループ内におろすことで,グループ全体の疑問
教育学会誌,第 巻,第 号,SS,
とし,条件とは何かという考えを深めることにつな
がっていると考えられる。
個人の疑問で終わらずに,
全体の疑問としておろし,自分たちで解決していく
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