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3 諸外国における取組

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3 諸外国における取組
3
諸外国における取組
(1)
米国の重要通信確保及び緊急通報確保に関する取組
①
重要通信確保の体制
米国においては、キューバ危機を背景として、1963年に国家安全保
障 会 議 に 直 結 し た 常 設 機 関 で あ る N C S ( National Communications
System;国家通信システム)が、また、その後、AT&T分割を背景とし
て、1984年に国家安全保障電気通信諮問委員会の提言を受け、関係事
業者の協力の下で重要通信を管理、調整するためのNCC(National
Coordinating Center for telecommunications;国家調整センター)が設
立され、100人を超える常設スタッフが配置されるとともに相当規模の
国家予算が投入されているものと推測される。
また、情報通信ネットワークの安全・信頼性の確保の観点から、FCC
(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)に報告された
障 害 の 情 報 を 整 理 ・ 分 析 す る た め 、 F C C 内 に N R I C ( Network
Reliability and Interoperability Council: ネットワーク信頼性・相互
接続委員会)が、ATIS(Alliance for Telecommunications Industry
Solutions: 電 気 通 信 産 業 連 盟 ) 内 に N R S C ( Network Reliability
Steering Committee: ネットワーク信頼性対策実行委員会)が設置され、
安全・信頼性向上策を検討している。
このような体制下において、NCC主導のもと、非常事態に重要通信を
確保するため、TSP(Telecommunications Service Priority)
、GET
S(The Government Emergency Telecommunications Service)、WPS
(Wireless Priority Service)、SHARES(Shared Resources HF Radio
System)等のシステム等を官民が一体となって開発する等の活動を積極的
に展開しているところである。
TSPは、重要通信を提供する電気通信設備の復旧や新しいサービスの
提供に対する優先権を与えるスキームである。このTSPでは、緊急事態
を含め非常事態の内容に応じて6段階の優先順位が設定されており、NC
Sは緊急事態の内容に応じて、利用者からの申請を受けて優先順位を与え
ることになっている。
15
米国における重要通信の確保体制の概要
‹関連法規
„通信法第706条において、有事の通信に係る大統領権限について規定
„連邦規定において、緊急時における重要通信確保のための方針と手続等について規定
‹重要通信確保に係る体制
大統領
諮問
大統領府(EOP)
行政管理予算局
(OMB)
国家安全保障会議
(NSC)
科学技術政策局
(OSTP)
National Security Telecommunications Advisory Committee
国家通信システム[NCS]
National Communications System
助言
COP
22の連邦省庁により構成
Committee of Principals
国務省(DOS)、財務省(TREAS)、国防総省(DOD)、司法省(DOJ)、内務省
(DOI)、農務省(USDA)、商務省(DOC)、厚生省(DHHS)、運輸省(DOT)、
エネルギー省(DOE)、復員軍人省(VA)、中央情報局(CIA)、連邦危機管理庁
(FEMA)、統合幕僚会議(JS)、総合サービス庁(GSA)、航空宇宙局(NASA)、
原子力委員会(NRC)、電気通信情報局(NTIA)、国家安全局(NSA)、
郵便公社(USPS)、連邦準備制度委員会(FRB)、連邦通信委員会(FCC)
subcommittee
COR
Council of Representatives
DOS、TREAS、DOD、
DOJ、DOI、USDA、
DOC、DHHS、DOT、
DOE、VA、CIA、FEMA、
JS、GSA、NASA、NRC、
NTIA、NSA、USPS、
FRB、FCC
国家通信調整センター[NCC]
National Coordinating Center for Telecommunications
8の通信関係企業と7の連邦省庁により構成
企業 : AT&T、COMSAT、GTE、ITT、MCIWorldCom、
National Telecommunications Alliance、Sprint、USTA
連邦 : DOS、 DOD、 DOJ、DOC、 FEMA、GSA、FCC
国家安全保障電気通信
諮問委員会[NSTAC]
主要な通信事業者や情報技術
企業等をはじめとする30社の
CEO等により構成
AT&T、Bank of America、
Bellsouth、Boeing、Cisco
Systems、Computer Sciences
Corporation、EDS、ESET、
Hughes Electronics、ITT
Industries、Lockheed Martin、
Lucent Technologies、
Microsoft、Motorola、National
Communications Alliance、
Nortel Networks、
Northrop Grumman、
Qwest Communications、 Rockwell International、
Science Applications
International Corporation、
Sprint、Teledesic、TRW、
Unisys、USTA、
Verizon Communications、
WorldCom
なお、NCSは2003年のDHS (Department of Homeland Security:ホー
ムランドセキュリティ省)の新たな設置に伴い、DHSに移管された。
16
国家通信システム(NCS)の概要
1 沿革
1963年 前年のキューバ危機において、電気通信の役割の重要性が強く認識されたことを受け、ジョン・F・ケネディ大統領は、
国家通信システム(NCS)の設立とその任務に関する大統領覚書を発出。
当初のNCSは、各連邦省庁の電気通信資産の相互運用性の確保やその維持存続を主たる任務とした。
1984年 レーガン大統領は、NS/EP電気通信機能に関する大統領令を発出し、NCSの任務を拡大。
これにより、NCSは、当初の6の連邦省庁から22の連邦省庁の横断的組織となるとともに、危機や災害時における
連邦政府のNS/EP電気通信を実現するための調整や計画の策定等を行うこととなった。
※NS/EP(National Security/Emergency Preparedness)とは、
① 戦争等の国家レベル危機における国家体制の維持及び国民の安全確保(=NS)と
② 自然災害等の規模に係わらず全ての非常災害に対する備え(=EP)
に係わる全ての活動を包括的に表現した概念。
NS/EP電気通信とは、地域・国家・国際レベルの全ての事態又は危機に対応するための体制を維持し、
また、これらに対応した危機管理を行うために利用されるサービスと解されている。 2 組織
COP
COP
Executive Agent
◆Executive Agentには、国防大臣が指名されている。
◆COP(長官会議)は、NCSを構成する22の連邦省庁
の長により構成される委員会。
NCSの政策方針を決定するに当たっての討論の場の
役割を有し、NCSの活動に関し、国家安全保障会議、
科学技術政策局長、行政管理予算局長、右図のNCS
Executive Director、Managerに意見や提案を提出する
ことができる。四半期に1回開催。
NSTAC
NSTAC
Office of the Manager
Manager
Deputy Manager
Technology
& Program Div.
◆下部組織の国家通信調整センター(NCC)を通じて、
産官共同によってNS/EP電気通信の実現をサポート。
Operating Div.
Plans &
Resource Div.
Customer
Service Div.
National Coordination Center
for Telecommunications
3 任務
(1) 国家緊急時法に基づく大統領戦時権限の行使時、及び非軍事緊急事態における電気通信機能の遂行
(2) 危機・緊急事態・攻撃・復旧・再建といったあらゆる状況において連邦政府にNS/EP電気通信を提供するための調整
NCSは、以下の要件を満たす国家電気通信インフラストラクチャーの確保に努めなければならない。
①国家安全保障の先導と政府の存続を支援する電気通信を含めた、大統領や連邦省庁のNS/EP要件に対応できること。
②商用・政府所有・私有の電気通信資源の利用を通じて、あらゆる状況の下で、優先的な電気通信要件を充たすこと。
③危機や緊急事態を含むあらゆる状況の下で、NS/EP通信を存続させるために実行可能な範囲で最大限の堅固さ、多重性、
接続性、内部運用性、復旧性などを有すること。
④実行可能な範囲で最大限に、他の国家電気通信政策一貫性がとれていること。
4 活動
NCSは、各連邦省庁や通信事業者間の調整を目的とした機関であり、監視・支援活動は直接実施しない。
○ NCSは、特別なネットワーク監視方法や制御手段をもたず、電気通信事業者等からの報告等により被害状況等を把握。
⇒ 24時間の監視センターとして、民間との協力を通じ、重要な電気通信施設の状況を監視し、必要な情報を収集。
○ NCSは、直接的な物的・人的復旧支援は行わない。
⇒ 米国において、復旧支援は通信事業者間の協力によって行われており、NCSはその調整を担う。
○ NCSは、基本的に通信設備を所有しておらず、NCCと協力して、民間事業者や連邦政府の通信資源を調整。
(非常用の通信機材は基本的にFEMAが備蓄。ただし、NCSが孤立した場合のバックアップとしてHF無線を所有。)
その他、非常事態において重要通信を確保するため、政府非常通信サービス(GETS)や共有リソース短波無線システム
(SHARES)等のシステム開発・研究や、連邦電気通信標準化プログラム(FTSP)の策定に向けた取り組み等を実施。
17
国家通信調整センター(NCC)の概要
1 沿革
1982年
国家安全保障電気通信諮問委員会(NSTAC)において、NS/EP電気通信サービスの開始と復旧を調整するため
の共同スキームの必要性が提言された。
1984年
通信業界及び連邦政府の両者から構成される国家通信調整センター(NCC)を設立
2 任務
通信業界と連邦政府との産官共同によるNS/EP電気通信サービス提供の実現
3 活動
○ 非常事態における電気通信サービスの中断に関する技術的分析・損害評価の迅速な実施、及び必要な復旧措置の検討
○ NS/EP電気通信サービスの迅速な復旧に向けた調整・監督
○ 包括的なサービス復旧計画の開発・実行
○ 民間のオペレーションセンターとの協力を通じた重要な通信設備の効果的な監視スキームの確立・実施
○ 復旧活動に利用できる最低限必要な基本通信設備、人員、その他の資源に関する情報の把握
○ 各事業者の連絡ポイントの明確化
○ 通常業務から緊急体制への迅速な移行の確保
○ NS/EP電気通信サービスの開始に関する調整・監督
○ 技術基準及び国家通信網計画の開発への貢献
○ 平常時を通じた公衆回線網を含む全ての基本的な通信設備の現状の把握
②
重要通信確保のための通信システム
GETSは、固定電話、公衆電話、携帯電話等の端末から利用できる総
合的な優先取扱いシステムであり、重要通信に関わるユーザに12桁の個
人識別番号を記したカードを交付し、非常時等にネットワークの障害や、
輻そう発生時に、個人識別番号を入力することにより、主要なキャリアの
長距離通信網及び政府専用線の中から正常に機能しているものを選択し
て、優先的なアクセスを保証するものである。
WPSは、携帯電話における優先取扱いシステムであり、携帯電話と基
地局の間の無線チャネルが全て使用されているときに、あらかじめ登録さ
れた携帯電話端末から決められた番号を入力することにより、次に空いた
チャネルを優先的に割り当てるシステムである(待ち行列方式)。このシ
ステムでは、優先取扱い対象者をTSPプログラムに基づき5段階にクラ
ス分けし、待ち行列内での優先度を設定することが可能である。
WPSについては、2002年から試験サービスを開始し、2003年
末には全国サービスを提供する予定となっている。
18
SHARESは緊急時の無線通信確保のためのプログラムであり、緊急
時に政府関係機関や民間企業の短波無線局を活用し、単一の統合した緊急
通信手段として提供するものである。
また、米国においては、政府専用の通信ネットワークとして、政府専用
網FTS(Federal Telecommunications System)
、国防通信用のDISN
( Defense Information System Network )、 外 交 機 密 通 信 用 の D T S
(Diplomatic Telecommunications Service)を整備しており、GETS
と相互接続を行っている。
さらに、政府専用の情報通信ネットワークとしてGovNet
(Government Network Designed to Serve Critical Government Functions)
の構想が、2001年にGSA(General Services Administration:米連
邦調達庁)より公表されている。
この構想のなかでは、GovNetはIPネットワーク上で構築し、外
部の公衆網やインターネットとは接続せず政府関係者のみが接続する独立
でセキュアなネットワークとしているが、GovNet構想に関する具体
的な取組に関する公開された情報はない。
米国におけるシステム/プログラム
1.The Telecommunications Service Priority (TSP)
„ 非常時等に、NS/EPに関する通信サービスに、優先的に既存のサービスの復旧や 新しいサービスの提供を認めるスキーム
2.The Government Emergency Telecommunication Service (GETS)
„ 一般公衆回線からでも常に通信網の被災等の影響を受けず優先的に通信を確保
するシステム
3. Wireless Priority Services(WPS)
„ 携帯電話網等の無線通信における優先取扱いシステム
4. Shard Resources High Frequency Radio Program (SHARES)
„ 政府、民間企業の短波無線局を活用した緊急時の無線通信確保プログラム
5. FTS2000/2001
„ 連邦共通役務庁が管理する行政機関専用の長距離通信網 等
19
③
緊急通報確保に関する取組
1999 年の法律(Wireless Communications and Public Safety Act of 1999)
によって、1934 年通信法(Communications Act of 1934)が改正され、
「911」
が既存の全ての緊急番号に代えて、米国における緊急通報のための番号と
して定められた。また、FCCは電気通信事業者に対し、全ての「911」
番による緊急通報をPSAPに接続することを定めている。
米国において、「911」をダイヤルしたときには、全て各地域にあるPS
AP(Public Safety Answering Point)に接続され、PSAPから警察、
救急、消防などの緊急通報受理機関に接続することとなっている。
また、携帯電話からの緊急通報について、FCCは、警察・消防・救急
への緊急通報を携帯電話から発信した際に、発信者の位置を特定する機能
を備えたE911(Enhanced 911)を段階的に導入することを定めており、
現在、PSAPの受理体制の準備や電気通信事業者におけるシステム導入
に向けた取組が行われているところである。
(2)
英国の重要通信確保及び緊急通報確保に関する取組
① 重要通信確保のための体制とシステム
英国においては、内閣官房緊急事態対応部門のもと、重要通信確保のため
の シ ス テ ム と し て 、 固 定 電 話 に つ い て は G T P S ( Government
Telecommunications Priority Scheme)が、携帯電話についてはACCO
LC(Access Overload Control Class)がそれぞれ導入されており、また、
システムの詳細は公表されていないが、これらと政府の専用ネットワーク
を連結し、非常時に政府関係機関が相互に連絡を取り合うことを可能とす
る連絡網であるECN(Emergency Communications Network)が整備され
ている。
GTPSは、米国のGETSに対応する英国の重要通信確保システムで
あり、非常時に政府関係機関の通話を確保するため、交換局において政府
関係機関の通信を優先的に扱う。また、ACCOLCは、輻そうが発生し
ている基地局エリアにいる一般ユーザからの発信を全て規制し、あらかじ
め専用のSIMカードを配布された政府認証ユーザからの発信を優先的
に接続する。
20
英国における重要通信確保のための体制
1. 関連法規
„ 1984年電気通信法第94条において、主要な免許事業者に、安全保障等の国益を配慮した事業
運営を指示
2. 体制
„内閣官房緊急事態対応部門(CCS)
–内閣官房の一部として、GTPSやECNを管轄
„情報及び電気通信作業部会
–GTPSやECNの現状評価や変更を検討
„緊急危機連絡に関する作業部会
–重要通信に関する中央政府と地方政府の情報交換
英国におけるシステム/プログラム
1. 政府通信優先スキーム(GTPS)
„ 有線通信における重要通信システム
2. 携帯電話アクセス輻そうコントロール(ACCOLC)
„ 輻そうが発生したセルにおいて発動され、あらかじめ専用SIMカードを交付された政府認証
ユーザーのみの発信を可能とするスキーム。
3. 国家緊急事態コミュニケーションネットワーク(ECN)
„ GTPSとACCOLCをつなぐ重要通信システム
② 緊急通報確保に関する取組
イギリスの公共電話事業者(Public Telecommunications Operators :
PTOs)ライセンス規約のなかで、通信事業者に対し緊急通報に関する対応
を義務として定めており、特に、BT、CWC、Kingston Communications の3
社に関しては、国家安全保障等の国益を考慮した一定の通信サービスを提
供することが定められている。
(3)
カナダの重要通信確保及び緊急通報確保に関する取組
カナダにおける重要通信確保のためのシステムとしては、産業省と通信事業
者の協力により、固定電話や一部の携帯電話等から加入者交換機までの間の優
先取扱いシステムであるPAD(Priority Access Dialing)が導入されている。
固定電話については、優先対象となるユーザ(閣僚、政府関係省庁等)に対し
回線を優先的に割り当てる方法により、加入者交換機までの優先取扱いを実現
している。
21
PADは中継系ネットワークにおける優先取扱いに対応していないため、
1999 年に産業省が、
中継系において、GETS同様のシステムを実現するため、
HPC(High Probability of Completion)プログラムの開発の検討を開始し
ている。
カナダは米国と同様に「911」が緊急通報の番号としているが、緊急通報につ
いては州レベルで必要な制度が定められている。また、米国で導入が進められ
ているE911については、オンタリオ州、アルバータ州、ブリティッシュ・
コロンビア州で、試験的に携帯電話の発信者位置特定システムの導入を開始し
た。
カナダにおける重要通信確保のための体制
1. 関連法規
„緊急準備法第7条において、所轄大臣の緊急事態における責務について規定
„緊急時のための連邦政策において、産業大臣に対し、通信に係る責務を規定
„通信のための国家緊急計画の策定を規定
2. 体制
„産業省緊急通信部
–関係機関・事業者と協力し、不測に事態に関するリソース、諮問、専門的見解を提供
„国家緊急通信委員会、地域緊急通信委員会、緊急時の無線通信使用に関する国家ワーキンググループ
–それぞれ、国家、地方政府、政府と産業界の協力の観点から、緊急時通信に関する情報交換、
緊急通信政策に係る提言等を実施
カナダにおけるシステム/プログラム
1. 発信時優先通信プログラム(PAD)
„ 産業省と通信事業者の協力による輻そう時の加入者系における優先取扱いプログラム
2. High Priority of Completion (HPC) プログラム
„ 長距離の優先通信を可能にするプログラム。 1999年に産業省が開発の検討を開始。
(4)
韓国の重要通信確保及び緊急通報確保に関する取組
① 重要通信確保に関する取組
韓国においては、政府専用の通信ネットワークが整備されているほか、
公衆通信網について、基幹通信事業者は非常時用の予備施設の確保や運営
管理を実施している。
② 緊急通報確保に関する取組
韓国においては、「電気通信事業法施行令」(大統領令第 1723
7 号)に
おいて、電気通信事業者が行う普遍的な役務として「112」番(警察)又
22
は「119」番(消防)の「緊急通報用サービス」を提供することを定めて
いる。
(5)
EUにおける重要通信確保及び緊急通報確保に関する取組
① 重要通信確保のための体制とシステム
フランス、ドイツ等においては、重要通信確保のためのシステムやプロ
グラムが定められていないが、政府専用の緊急通信ネットワークを整備し
ているほか、電気通信事業者が重要通信確保のためのサービスを提供して
いる場合がある。
具体的にフランスにおいては、国防等に関連する機関が自ら緊急通信シ
ステムを整備しており、フランス・テレコムは、衛星通信を利用した緊急
通信サービスを提供している。また、ドイツでは、ドイツ・テレコムが、
ベルリン-ボン間等の重要拠点間での緊急通信サービスを提供している。
② 緊急通報確保に関する法制度と取組
EUでは、1991 年の「単一欧州緊急通報番号の導入に関する欧州理事会
決定(91/396/EEC/)
」によって、「112」番を EU 全域における緊急通報番号
として定め、EU 加盟国のどこの国からでも、
「112」番を回すことで緊急通
報サービス(Emergency Call Services: ECS)に接続するよう、欧州各国
で取り組むことになった。
しかしながら、112 番を唯一の緊急通報番号としているのは、デンマーク
とオランダの2国に過ぎず、その他の国々においては、112 番はそれぞれの
国の既存緊急通報番号と並存しており、112 番に関する認識の普及率は低
いのが現状である。
また、
「音声電話に係るオープン・ネットワーク規定の適用および競争的
な環境下での通信に関するユニバーサル・サービスについての EU 指令」
(Directive 98/10/EC of the European Parliament and of the Council of
26 February 1998, OJL 101, 01/04/1998)では、
「112」番が、公衆電話を
含むすべての電話から無料で利用できることを規定しており、
「電子通信網
およびサービスに関するユニバーサル・サービス及び使用者の権利に係る
指令」
(2002/22/EC of 7 March 2002)第 36 条では、通話者の位置情報を
緊急担当当局が利用できるようにすることを、固定および携帯の双方の通
信事業者に求めている。
23
表3−1 主要国の緊急通報確保に関する法制度
日本
電気通信事業法
(第 8 条)事業者は災害時等に重要通信を優先的に取扱い
電気通信事業法施行規則
(第 55 条) 火災、集団的疾病、交通機関の重大な事故その他人命の安全に係る事態が発生し、
又は発生する恐れがある場合において、その予防、救援、復旧等に関し、緊急を要する通信、お
よび治安の維持のため緊急を要する通信
米国
1999 年無線通信及び公共安全法
(Wireless Communications and Public Safety Act of 1999)
1934 年米国通信法の改正法。
FCC が緊急通報番号を 9-1-1 と規定する。また、電気通信事業者に対し、緊急時の位置情報の
情報開示を義務付け。
*上記連邦法の改正を受け、各州が州法レベルで 911 に関する取り組みを導入
カナダ
1993 年カナダ通信法
通信の社会的要請に応えるためのカナダラジオテレビ通信委員会の権限を規定。但し、緊急
通報に関する直接の規定はない。
州法レベルで 911 に係る法律を規定。
(例:ノバスコシア州緊急「911」法(Emergency “911” Act)
、緊急「911」システム法(The
Emergency 911 System Act)等)
EU
統一欧州緊急通報番号の導入に関する欧州理事会決定
(第 1 条)加盟国は、112 番を緊急通報番号として確保する
電子通信網およびサービスに関するユニバーサル・サービス及び使用者の権利に係る指令
(第 26 条)加盟国は、通話者の位置情報を使用可能とすることを確保する
イギリス
公共電話事業者(Public Telecommunications Operators : PTOs)ライセンス規約
(第 20.3 条)
「免許所有権者は、ネットワークが損傷した際に復旧の責務」
(第 20.4 条)
「免許所有権者は、自らの運用するシステムとサービスの統合に責任」
ドイツ
電気通信法
(第 13 条)免許取得事業者は、無償で緊急通報を提供。また、すべての公衆電話に緊急通報設備
の設置を規定。
電気通信サービス等の保証ならびに利用に際する優先権の容認に関する規制
(第 4 条(2))公衆電話からの緊急通報は無条件に優先して接続される。
フランス
電気通信法
(第 L35-1 条)電気通信に関わるユニバーサル・サービスの一として、事業者に対し無料での緊
急通報確保を規定。
(第 L35-2 条)フランス・テレコムが、ユニバーサル・サービスを提供する公共事業者として、
無料の緊急通報の確保を規定。
首相通達によって各県に整備計画立案を指示。
韓国
電気通信事業法施行令(大統領令第 1723 7 号 一部改正 2001.6.12)
(第 2 条の 2)緊急通報用サービスを普遍的役務として規定。
情報通信部令「電気通信事業法施行規則」
(部令第 111 号
112 申告センター運営規則
24
一部改正 2001.04.23)
(6)
諸外国における緊急時通信計画
米国、英国等においては、表3−2のように災害時や国家安全保障に関
わる事態等の緊急事態における電気通信事業者、政府及び関係機関の役割
等を定めた緊急時における通信計画を法令に基づいて定めている。
表3−2
諸外国における緊急時通信計画の例
法的根拠
計画策定に係る体制
計画の概要
米国
大統領令に基づき、NC
S及びNCCが、他省庁、
産業界との連携のもと
策定。
省庁横断的な機関であるNCS
が、国と地方政府、国と産業界
の連携に関する緊急通信計画
を策定。
民間事業者の協力のもと、重要通信確保に関する事
業者間の調整・監督、サービス復旧計画の策定、ネッ
トワーク監視スキームの確立、通信訓練の実施、GE
TS等のシステム開発等を実施。
英国
電気通信法等に基づき、
内閣官房が中心となり
策定。
政府と主要事業者により構成さ
れる、内閣官房情報及び電気
通信作業部会において、 重要
通信確保に向けた作業計画を
検討。
輻そう時の重要通信確保のため、GTPS、ACCOLC、
ECN等の計画の策定を指示。
カナダ
緊急準備法に基づき、
産業大臣が計画に関す
る責務を負い、個別の
作業部会、プロジェクト
において計画の内容を
策定。
国家緊急通信委員会、地域緊
急通信委員会、無線通信使用
に関するWGにおいて、それぞ
れ、国家、地方政府、国と産業
界との連携に係る緊急通信計
画の内容を検討。
輻そう時の重要通信の確保のため、緊急災害時の計
画、優先通話者の特定を指示。また、これに基づき、
カナダ産業省と産業界の協力のもと、PAD、HPC等
のシステムの検討や、事業者訓練、情報交換、調整
窓口の整備、重要通信確保に係る政策の評価等を
実施。
※
(7)
フランス、ドイツ、韓国等においても、同様の緊急時通信計画を策定。
標準化機関における重要通信確保に関する取組
①
ITU(International Telecommunication Union: 国際電気通信連
合)
ITUにおいては、非常事態等の機器故障や輻そう発生時に、一定
のユーザに対し、公衆電気通信網への優先アクセスを認める「緊急優
先通信サービス」の必要性から、複数のスタディーグループにおいて
関連勧告の作成作業を行っている。
2000 年3月には、優先アクセスの対象を国際音声電話とする基本勧
告である「IEPS(International Emergency Preference Scheme:
25
国際緊急優先スキーム)」を定め、さらに、その対象をIP網を含む
マルチメディアサービス全般に拡大した「IEMS(International
Emergency Multimedia Service: 国際緊急マルチメディアサービス)」
の勧告化を予定している。
また、これらの勧告に加えて、優先アクセスの対象の広帯域ケーブ
ルテレビ電話への拡張や、優先アクセスを保証するために必要な技術
等に関する勧告の検討が行われている。
② ETSI(European Telecommunications Standards Institute: 欧
州電気通信標準化機構)
欧州における通信に関する標準化機関であるETSIでは、EMT
EL(Emergency Telecommunication: 非常時電気通信)の重要性か
ら、災害等の緊急時における重要通信確保や公共機関の専用線と公衆
回線との相互運用性等の標準化活動について検討を行っており、20
02年にはEMTELに関するワークショップを開催するなどの取
組を行っている。
③
IETF(Internet Engineering Task Force: インターネット技術
特別調査委員会)
インターネット上で使われる技術仕様の標準化を促進する任意団
体 で あ る I E T F で は 、 i e p r e p (Internet Emergency
Preparedness)ワーキンググループにおいて、VoIPによる特定の
通話を優先的に取り扱うための技術的課題、インターネット上での緊
急通信の技術要件、これら要件を満たすフレームワーク並びにインタ
ーネット緊急通信におけるプロトコルについて検討を行っている。
④ ATIS(Alliance for Telecommunications Industry Solutions:
米国電気通信産業連盟)
北米地域における重要通信に関する標準化作業については、ANS
I(American National Standards Institute: 米国規格協会)から
米国標準として制定する権限を与えられているATISのT1委員
26
会において行われている。
具体的には、ISDNにおける優先割り込み(MLPP:
Multi-level Precedence and Preemption)や、次世代ネットワーク、
第3世代移動通信システムにおける重要通信に関する機能要件、移動
体通信を利用した緊急時の位置情報確認システム等に関する標準の
検討を行っている。
また、輻そうに対応するためのネットワークマネージメントに関す
るガイドラインや、TSPプログラムの優先度、優先通信の識別につ
いて、検討を行っている。
⑤
TIA (Telecommunications Industry Association:米国電気通信
工業会)
米国の電気通信関連企業が参加する業界団体で、ANSI(米国規
格協会)の下、電気通信機器に関して標準規格の策定を行っており、
IP 電話からの緊急通報に係る位置情報の把握方法について TR41.4 委
員会で検討を行っている。
27
表3−3
主な標準化機関における重要通信確保に関する検討状況
委員会
重要通信確保に関する検討の概略
ITU-T
SG15,
SG16,
SG2,
その他
2000 年 3 月に、緊急通信サービスについての基本勧告である国際緊
急優先スキーム(E.106)を策定し、さらに、対象をIP網を含むマルチメデ
ィアサービスに拡大した勧告である「国際緊急マルチメディアサービス」
を(F.706)として勧告化することが同意(Consent)されている(200
1)。
ETSI(欧州電
気通信標準化
機構)
EP TIPHON
IP 網を利用した緊急通信の標準化に向けたプロジェクト。IP 網と既存の
公衆網や ISDN、GSM 等との相互接続及び相互運用を可能にする仕
様の統一・標準化を実施。
EMTEL
Workshop
災害等の緊急時における重要通信確保や公共機関の専用線と公衆回
線との相互運用性等の標準化活動についての意見交換、標準化機関
の役割の明確化を目的としたワークショップ。 2002 年 2 月に開催。
IETF(インター
ネット技術特
別調査委員
会)
Internet
Emergency
Preparedness
(ieprep)
ATIS(米国電
気通信産業連
盟) T1 委員
会
T1A1
各種電気通信ネットワークにおける多様なメディア間の信号や性能の
標準を作成。
“Network Survivability Performance”WG において、次世代ネットワ
ークや第三世代携帯電話における NS/EP 通信の機能要件を検討中。
T1M1
相互接続におけるネットワークマネージメントやメンテナンスに関する検
討を実施。輻そうに対応するための、通信業者間協力におけるネットワ
ークマネージメントのガイドラインや、 TSP プログラムの優先度等を規
定。
T1P1
携帯電話等無線システムにおける緊急通報関連の要件につき、他の標
準化機関との連携を取りつつ検討を実施している。
T1S1
交換機に関連する信号プロトコルやアーキテクチャ等の標準化を検討
している。ISDN における MLPP に関する規定等を検討。
TR-41.4
企業IP電話網からの緊急通報システムに関して「緊急通報サービスを
支援するIP電話機能」
(IP Telephony Support for Emergency Calling Service)の規格を策
定中。
TIA(米国電
気通信工業
会)
インターネットを用いてGETSのような緊急通信を可能とするための技
術要件、その要件を満たすフレームワーク及びプロトコルについて検
討。
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